「消費者白書」及び「消費者安全法に基づく国会報告」への意見

2013年6月25日
消費者委員会

今般、消費者庁は、平成24年度版の「消費者政策の実施の状況」(以下、「消費者白書」という。)及び平成24年度下半期分の「消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめ結果の報告」(以下、「消費者安全法に基づく国会報告」または「国会報告」という。)を取りまとめ、6月21日の閣議での決定を経て、国会に提出した。

消費者白書は、平成24年8月に改正された消費者基本法の第10条の2の規定に基づき、政府が講じた消費者政策の実施の状況に関する報告書を毎年作成し、国会に報告するものであり、今回は法定白書として刊行される第1回目の白書となる。また、消費者安全法に基づく国会報告は、同法第13条各項の規定に基づき、国が収集した消費者事故等に関する情報について、内閣総理大臣がその集約及び分析の結果を取りまとめ、国会及び当委員会に報告し、公表するものであり、平成22年6月以降、これまでに7回公表されたことになる。

これらの報告は、消費者問題の現状と課題、消費者政策の実施状況、消費者の安全を確保する上で重要かつ有益な情報等を体系的に、分かりやすく発信することを目的に作成されるものであり、その内容については当委員会としても高い関心を持っている。このため、当委員会としては、両報告の内容をさらに充実し、より有効活用を図っていくための課題について、下記の通り意見を述べる。消費者庁におかれては、今後、下記の事項に十分留意した上で、両報告の企画・立案、取りまとめに当たっていただくことを期待する。

1.消費者白書について

  • (1) 消費者白書の役割が現在の消費者政策における重要課題を国民に対して分かりやすく解説することであることに鑑みれば、第1部の分析編において「高齢者の消費者トラブル」を特集したことは、記念すべき第1回目の白書のテーマ設定として時宜を得たものであると評価する。ただし、単に現状やその背景を分析するだけにとどまらず、消費者トラブルの未然防止や被害者救済等のために必要な政策対応のあり方についても十分な記述を行うべきであったと考える。また、次回以降については、読者の関心が高い特集ページを白書の冒頭に掲載するなど、できるだけ多くの国民にアピールするような編集上の工夫を検討していただきたい。
  • (2) 他方、消費者政策における重要課題を体系的に解説するという観点からは、最近の消費者政策において重要性や注目度が特に高まっているにも関わらず、記述が不十分であったり、まったく言及されていない課題も散見される(例えば、家庭用電気料金をはじめとする公共料金問題への対応やビッグデータ・ビジネスの普及に伴う個人情報保護のあり方等)。スペースや時間的な制約上、ある程度優先順位をつけざるを得ない面もあるが、その時々における重要かつ国民の関心が高い課題については、機動的かつ柔軟に検討テーマとして取り上げていただくようご留意いただきたい。
  • (3) 今回の消費者白書は、PIO-NETに登録された消費生活相談情報や消費者庁に寄せられた事故関連情報、「消費者意識基本調査」等を駆使して、消費者問題の現状を概ね的確に捉えているが、消費者を巡る課題を多面的に明らかにし、政策の方向性を提示していくためには、より幅広いデータや事例等を活用しつつ、さらに掘り下げた分析を行うことが必要である。
      特に、消費生活相談情報に基づく調査・分析を行う刊行物としては、国民生活センターによる「消費生活年報」等も存在することから、これらとある程度差別化を図るためにも、消費者白書においてはより幅広い政策立案に役立つ情報収集や消費者政策の重要性をアピールするような分析(例えば、消費者政策に関する国際比較やベスト・プラクティスの収集、消費者被害による経済的損失額の推計等)に重点を置いた内容となるよう努めるべきである。
  • (4) 第1部第4章の「消費者政策の展開」においては、消費者行政を担う各機関の役割や意義、各機関間の関係等について、より丁寧な解説を行うことが望まれる。また、消費者政策の主な進展に関する節については、次回以降、当委員会の建議・提言等における指摘事項やそれを受けてどのような措置を講じたのかについてもあわせて明記していただくことを要望する。
      なお、消費生活センターをはじめとする各種相談窓口の信頼度・認知度に関する調査結果(図表4-1-2)において、約8割の消費者が消費生活センターを認知しているのに対して、その信頼度は約12%にとどまっている(注1)ことについては、次回の白書に向けて、設問のあり方を含めてその要因を分析するとともに、消費者からの信頼度を向上するための方策について検討していただきたい。
    (注1) 「あなたは、以下の機関や相談窓口等を信頼していますか。もしくは、知っていますか。」との問に対する回答。
  • (5) 第2部の政策編は、消費者基本法の規定に基づき、消費者政策の実施の状況について報告することを目的としたものであるが、その趣旨に反しない範囲で、できるだけ読みやすい内容とする工夫(例えば、記述内容にメリハリをつけるとともに図表や写真等を多用すること、商品・役務の分野ごとに安全・取引・表示等に係る施策をまとめて記述すること等)を検討していただきたい。
      また、当該部分は消費者基本計画の検証・評価・監視を実施する際の基礎資料にもなるものであることから、単に政策の実施状況の平板な記述にとどまらず、政策の成果や今後の課題等が明らかになるような内容としていただくことを期待する。
  • (6) なお、今般取りまとめた消費者白書の内容については、できるだけ多くの国民の知るところになるよう、各種の媒体・ルートを通じて積極的な広報を図るとともに、日本の消費者政策について海外への情報発信を強化するため、その概要等について英語版を作成して積極的な周知に努めていただくことを要望する。

2.消費者安全法に基づく国会報告について

  • (1) 消費者安全法に基づく国会報告は、事故関連情報の取りまとめ結果を基に社会全体として消費者安全の確保が図られるよう、収集・分析した情報が、消費者はもとより、事業者・地方公共団体等に幅広くかつ積極的に活用され、消費者事故の未然・拡大防止に向けた取組を促すことを目的としている。また、収集された情報について、消費者庁がどのように対応し、事故防止につなげようとしたのか、あるいはつなげたのか、そのプロセスを分かりやすく説明し、透明性を確保することも目的の一つである。
      このため、当委員会は国会報告の取りまとめに当たって重視されるべき基本的視点として、(i)情報の一元化と社会的共有、(ii)分かりやすく使いやすい分類、(iii)原因究明結果と事故防止のための対応措置についての情報提供、の3項目を提示し、国会報告の公表にあわせて、今後改善を図るべき点や新たな課題等について意見を述べてきた。
      これまでに当委員会が行った指摘等を踏まえ、国会報告の内容に一定の改善が図られたことについては評価しているが、例えば以下のような点については依然として課題を残している(詳細については別紙を参照)。公表される情報の内容をより分かりやすく、有益なものとするため、これらの点について改善を図るための方策を引き続き検討していただきたい。
  • 重大事故の発生日から消費者庁の通知受理日までの期間の短縮化を図ること。
  • 消費者安全法に基づく「重大事故等」や消費生活用製品安全法に基づく「重大製品事故」等、情報入手ルートごとの公表項目の整合化を図り、重複を極力排除すること。
  • 「事故内容」や「商品・サービス」等に係る分類をより分かりやすいものとすること(注2)。
  • 事故発生要因や必要な対応策についての分析・情報提供を強化すること。
  • 事故関連情報に関するデータの蓄積を活用して、事故発生件数等の時系列的な変化に着目した分析や対応策の立案を強化すること。
(注2) 例えば、商品の分類についていえば、他の統計との連携が可能であることから要因分析や国際比較等を行いやすい「日本標準商品分類」を活用することが望ましい。
  • (2) なお、現在、消費者庁は、各種のルートから入手される膨大な量の事故関連情報を処理することに大きな労力を費やしているが、上記のような課題に対処するためには、報告内容や収集・集計手法の合理化・標準化等を通じて、分析目的に合った質の高いデータを迅速に作成していくことが必要となる。このため、消費者庁におかれては、これまでの業務を通じて蓄積した経験・ノウハウや他の先進的な業務統計の事例等も参考にしつつ、当該作業をより効率的かつ効果的に実施するための方策について十分に検討すべきであると考える。

3.消費者白書と消費者安全法に基づく国会報告の関係の整理について

今回、消費者庁より消費者白書が提示されたが、従来より作成されている消費者安全法に基づく国会報告と内容がかなり重複する部分がある。このため、事務の効率化や読みやすさの観点から、合冊化を図ることを含め、両者の関係を整理する必要があると考える。

ただし、消費者政策の実施状況や消費者事故等に関する情報提供は極めて重要であることから、関係の整理に当たっては以下の事項に十分留意されることを要望する。

  • 消費者政策が直面する様々な課題についてさらに掘り下げた分析を行い、消費者等への注意喚起や政策立案等に役立つ有益な情報の発信強化に努めること。
  • 収集・分析した事故関連情報については消費者庁のホームページ上などへ適時適切に更新するとともに、必要に応じて消費者等に対する注意喚起情報の発出を機動的に行うなど、万全の対応を図ること。

以上

(別紙)

消費者安全法に基づく国会報告の記載内容で、改善が必要と考えられる箇所の具体例は以下のとおりである。

1.消費者事故発生の原因究明のための分析が不十分である箇所

  • (1) (P.3) 「火災」が最も多く529件(前年同期597件、11.4%減)、次いで「転倒・転落・不安定」が73件(前年同期45件、62.2%増)。「火災」が全体に対する割合は多いが、前年同期から11.4%減っている要因分析がなされていない。
  • (2) (P.7) 商品別の内訳件数の年齢別分類においては、60歳以上では「商品・サービスその他」が多いと記述しており、80歳以上においては25件(前年同期11件)となっている。この情報をもとに何をどのように気を付けるべきなのかが分かりにくい。
  • (3) (P.12) 前回版同様、「発生施設別分類」「発生地域別分類」の表を記載。記述内容に変化がなく、数字のみ更新とし、1位と2位の内容を紹介するのみに留まっている。
  • (4) (P.14) 平成24年度下半期に消費者庁に通知された「消費者事故等」のうち、「財産事案」は4,680件あり、前年同期の5,614件から16.6%減少したとの記述があるが、なぜ減少したのかを分析した記述はない。
  • (5) (P.23) 商品等別分類件数(危害情報、危険情報)(表3-6)で、商品全体の危害情報・危険情報は前年同期より減少し、役務全体の危害情報・危険情報は増加している。保健・福祉サービスの危害情報が21.4%から26.9%に増加しているが、なぜ増加したのかを分析した記述はない。

2.消費者事故情報の一元化が不足している箇所

  • (1) (P.124) 消費者安全法では行政機関の長などが重大事故を知った場合は「直ちに」内閣総理大臣に通知することになっているが、これを実効性ある制度とするためには、どこの行政機関等が通知したのか、また行政機関等の長が重大事故を「知った日」等を公表することが必要である。報告書では、「事故発生日」から事故の「通知受理日」まで、半年以上も要しているものがあり、重大事故情報の迅速収集に懸念がある。
  • (2) (P.57、P.109) 消費生活用製品安全法に基づく「重大製品事故例」についての事故例が、消費者安全法に基づき通知された「重大事故例」のどれと重複する情報か判断できない。重複情報と思われる事例でも、消費者庁の「通知受理日」(消費者安全法に基づく)と「報告受理日」(消費生活用製品安全法に基づく)が大きく異なっている場合もあり、本当に同じ事故例なのか、消費者には極めて分かりにくいものとなっている。事故例については、できるだけ公表項目の整合化を図り、重複事例もきちんと示して報告することが望ましい。