公共料金問題についての建議

2012年2月28日
消費者委員会

公共料金問題についての建議

公共料金(注)の決定は、家計消費が少なからず影響を受けることもあって、多くの消費者(利用者)にとって重大な関心事項の一つであり、生活との密着性、独占性、公共性に鑑み、その決定内容と根拠について説明責任が果たされることが求められている。これまでも、決定までの仕組みが分かりにくい、消費者(利用者)不在で決定されているのではないかなどの批判があったことに加え、最近の電気料金に関する一連の報道等と相まって、消費者(利用者)の公共料金に対する問題意識や不信感は高まってきているとみられ、決定過程の透明性及び消費者参画の機会を確保するための取組の推進が強く望まれるところである。

(注)料金や価格の水準の決定や改定に、国会、政府や地方公共団体といった公的機関が直接関わっているものを総称して公共料金という。電気料金、鉄道運賃、都市ガス料金、乗合バス運賃、高速道路料金などが代表的なものである。

他方、かつて政府においては、公共料金問題を物価問題として対応してきた。すなわち、国民経済・国民生活に影響を及ぼすような公共料金の値上げに対しては、国民(消費者・利用者)の家計の圧迫という視点から一定の規制を行おうとするものであった。
しかしながら、物価の下落傾向が続く経済社会状況のもとでは、公共料金を単なる物価問題として扱うべきではなく、消費者(利用者)が「選ぶ権利」を持たない公共料金分野においては、消費者(利用者)参画のもと、現状の公共料金が適正な水準であるか否かを検証し、条件が整えば「値下げ」を求める制度を設けることも必要と考えられ、平成14年度当時の「物価安定政策会議」における議論の中でも、同様の趣旨の問題提起がなされている。
実際、デフレの状況が常態化しつつある現状を踏まえると、公共料金の水準が真に時代に見合ったものとなっているかどうかについて、消費者(利用者)の視点に立った検証等を行う必要性はさらに高まってきていると考えられる。

消費者委員会としては、こうした状況等を踏まえ、消費者の「知る」「選ぶ」「参画する」権利を基調とした、消費者の視点に立った公共料金制度を構築していく必要があるとの基本認識のもと、平成23年11月に「消費者基本計画」の検証・評価・監視の一環として「公共料金に係る関係省庁ヒアリング」を行った。
さらに、平成23年12月以降、公開されている情報の収集・分析を行うとともに、学識経験者、関係省庁等からのヒアリングなどを継続的に行ってきた。
その結果、公共料金の決定過程の透明性・消費者参画の機会を確保するための取組が必ずしも十分とはいえない実態が明らかになった。
消費者委員会は、こうした結果を踏まえ、関係省庁(内閣府特命担当大臣(消費者)、経済産業大臣及び国土交通大臣)に対して、以下のとおり、消費者庁及び消費者委員会設置法に基づき建議を行い、一層の努力を求める。
さらに、消費者委員会は、この建議への対応について、内閣府特命担当大臣(消費者)、経済産業大臣及び国土交通大臣に対して、平成24年8月までにその実施状況の報告を求める。

なお、消費者委員会としては、「消費者基本計画」の検証・評価・監視活動の一環として、この建議に対する関係各大臣の対応状況について、定期的にフォローアップを実施すると共に、今回の建議の直接の対象とはならなかった個別分野における実態についても、随時問題提起を行っていく所存である。

1 公共料金の問題に対する取組の推進

(建議事項1)

消費者庁は、公共料金の決定過程の透明性及び消費者参画の機会を確保する観点から、以下の取組を行う必要がある。
  • (1) 消費者庁は、消費者委員会と連携して所管省庁における公共料金に係る情報提供の実施状況についてのフォローアップを速やかに実施し、その結果を公表すること。
  • (2) 消費者庁は、消費者基本計画のフォローアップの一環として、所管省庁における審議会委員の選任状況について確認を行っているところ、消費者の権利・利益を十分代弁し得る人材が実際に委員として登用されているかという視点からの確認も行うこと。
  • (3) 消費者庁は、消費者の視点に立って、物価担当官会議申合せに基づく所管省庁との協議を的確に行うこと。
  • (4) 消費者庁は、消費者委員会と連携して、従前物価安定政策会議において整理された課題のほか、公共料金に関する最近の議論の状況と技術革新の状況等も踏まえ、消費者、学識経験者、事業者、所管省庁等から幅広に意見を聴取する等の方法により、以下の課題について検討を行うこと。
    ア 情報提供すべき情報の範囲と方法
    イ 消費者(利用者)の意見を反映させるための方策
    ウ 公共料金について消費者の視点からチェックするための第三者機関設置の必要性
    エ デフレ時代に見合った料金水準への「値下げ」を求めることができる仕組みのあり方(例えば、第三者機関からの「値下げ」の要請や消費者団体等からの「値下げ」の求め等の仕組み)
    オ 公共料金の審査等における原価の査定が厳正に行われるような仕組みのあり方
(理由)
  • (1) 消費者庁は、これまで経済企画庁・内閣府が取り組んできた公共料金に関する業務(企画・立案・推進)を引き継いでおり、所管省庁における情報提供の状況についてのフォローアップが行われるものと期待されているところ、平成21年度以降、同庁により十分なフォローアップが行われた状況は確認できなかった。
    実際、次のとおり、情報提供が不十分と考えられる実態もみられた。
    i) 鉄道運賃・料金(以下「鉄道運賃等」という。)については、当委員会の調査により、「(事業横断的)情報公開ガイドライン」(以下「横断的ガイドライン」という。)において示されている改定後の観点からの情報提供が不十分であると認識。
    ii) 電力料金については、「東京電力に関する経営・財務調査委員会報告」(平成23年10月)において、過去10年以上、規制当局が「原価」を把握していなかったことが判明。また、「電気料金情報公開ガイドライン」に基づく東電の情報開示の状況は十分であるとは評価しがたく、事業者としての説明責任を十分果たしているとは言い難いと考えられる」との指摘がなされている。
    上記のような実態を踏まえ、消費者庁は、消費者委員会と連携して(注)、速やかにフォローアップの実施と、その結果について公表する必要があると考える。
  • (注)消費者委員会では、消費者庁から、フォローアップの結果、情報提供が不十分と認められる旨の報告を受けた場合には「調査審議」を行い、必要に応じて、所管省庁に対し個別に建議等を行う所存である。

  • (2) 消費者庁では、消費者基本計画(施策番号108)のフォローアップの一環として、消費者の意見の消費者政策への反映等の観点から、審議会委員の選任状況について確認を行っている。
    しかし、当委員会が、審議会委員の選任状況について確認等を行ったところ、消費者代表を参画させる、あるいは消費者の意見を聴くという視点から、消費者団体の役員、消費者団体から推薦のあったとみられる者を中心に選任している審議会が増えてきている中、運輸審議会のように、未だ上記視点を重視せずに委員を選任しているところもみられた。
    なお、有識者ヒアリングの結果、消費者の意見を反映させるためには、例えば、消費者団体の役員や適格消費者団体から推薦のある者を中心に複数名選任することが有用である旨の意見があった。
    上記を踏まえ、消費者庁は、消費者の権利・利益を十分代弁し得る人材が、実際に審議会の委員として登用されているかという視点からの確認も行い、さらに、必要に応じて、生活者・消費者代表についての一定の考え方を示すなど、真に生活者・消費者を代表する委員の選任が浸透するような取組を行うことが望まれる。

  • (3) 消費者庁は、物価担当官会議申合せに基づき、例えば、鉄道運賃、バスの旅客運賃の変更、高速道路の通行料金については、消費者基本法第16条第2項の趣旨を踏まえ消費者に与える影響を十分に考慮する必要があるとの趣旨から、所管省庁と協議を行うことになっている。
    上記を踏まえ、消費者庁は、所管省庁との協議を的確に行う必要がある。また、協議に関連する手続き規定を整備することが望まれる。

    なお、規制緩和によって各種手続きが簡略化されてきている中、公共料金の分野でも、公聴会の開催等が行われないまま料金が決定されているケースも増えてきていると考えられ、消費者庁が果たす役割の重要性は益々高まるものとみられることから、上記規定の中には、必要に応じて、消費者団体等から意見を聴取する旨の規定を盛り込むことが望まれる。

  • (4) 消費者庁は、消費者委員会と連携して(注)、従前物価安定政策会議が手掛けた公共料金の問題に関する課題「公共料金の構造改革:現状と課題」(平成14年5月)等のほか、当委員会が有識者からヒアリングを行った結果、検討することが有用であるとされた課題について、公共料金に関する最近の議論の状況、物価安定政策会議において整理された課題とその後の技術革新の状況等も踏まえ、速やかに検討に着手することが望まれる。
    また、具体的な方法としては、例えば、消費者庁が、消費者代表、学識経験者等を構成員として平成24年2月に立ち上げた「公共料金に関する研究会」等の場において検討する等が考えられる。
  • (注)消費者委員会では、消費者庁及び消費者委員会設置法第8条第2項第1号ニにおいて、「物価に関する基本的な政策に関する重要事項」について調査審議する旨規定されていることを踏まえ、消費者庁との連携を図りつつ、委員会としても議論を重ね、必要に応じて、建議等を行う所存である。

2 消費者の視点に立った取組の徹底

(1) 鉄道運賃等

(建議事項2)

国土交通省は、鉄道運賃等の決定過程の透明性及び消費者参画の機会を確保する観点から、以下の取組を行う必要がある。
  • ア 国土交通省は、「鉄軌道の情報提供ガイドライン」(以下「鉄軌道ガイドライン」という。)に沿った情報提供を行っているとしているものの、鉄軌道ガイドライン自体が運賃等改定時を主に意識したものであり、前述の横断的ガイドラインにおいて示されている運賃等改定後、及び運賃等認可審査の際の事前の情報提供を念頭に置いたものとはなっていないとみられることから、鉄軌道ガイドラインの見直しを行い、適切に情報提供を行うこと。
  • イ 国土交通省は、一定の条件をみたした路線については、加算運賃として消費者(利用者)に相応の負担(受益者負担)を求めることを認めているところ、加算運賃を導入している路線の運賃回収状況や、長期間、加算運賃を継続する必要性等については、説明責任が十分に果たされているとは言い難いことから、当該情報についての確認を行い、適切に情報提供を行うこと。
    なお、確認の結果、加算運賃の必要性が乏しくなったと判断される場合には、事業者に対して、加算運賃の見直しに係る適切な指導等を行うこと。
  • ウ 国土交通省(運輸審議会)は、審議の経過を消費者(利用者)に伝えるために、提供すべき情報(例えば、議事録、審議資料(配付資料、規制当局からの説明の概要等)、公聴会での意見の反映状況等)を拡大するよう検討すること。
    また、鉄道運賃等の認可については、原則として運輸審議会へ諮問し答申を受けることによって、判断の透明・公正性を確保しているものとみられるが、説明聴取事案(軽微認定事案)として同審議会への諮問を経ない認可案件も存するので、審議会への諮問を必要としないと判断した理由や判断基準についても明らかにすること。
  • エ 国土交通省は、他の審議会の例を参考にして、消費者の権利・利益を十分代弁し得るという観点から、運輸審議会の委員を選任することについて検討するとともに、運輸審議会一般規則に定める「利害関係人」の解釈について、例えば、日常的にその交通機関を利用する消費者(利用者)を含めることについて検討を行うこと。
(理由)
  • ア 平成23年度以降、鉄道運賃等の値上げに関する認可申請自体がないので、当委員会が、過去に認可した案件について、インターネット上での公表状況を確認したところ、前述の横断的ガイドラインにおいて示されている「改定時に前提としたデータと対比できる実績」などの運賃等改定後において情報提供されることが望まれる情報については、確認することができなかった。
    また、ヒアリング結果や過去に公聴会を開催する前に閲覧に供された資料内容等から判断すると、「鉄軌道部門の(査定)収支」などのデータは、少なくとも認可前には情報提供されていなかったことがうかがえる。
    このようなことから、現行の鉄軌道ガイドラインは、運賃等改定時を念頭に置いたものであり、運賃等改定後のチェックや、運賃等認可審査の過程における公聴会等で申請された運賃等の妥当性を判断するための事前の情報提供の必要性を考慮したものとはなっていないものとみられる。そして消費者(利用者)にとって、不利益と考えられる点として、次のことが挙げられる。
    i) 認可申請時点での十分な情報を得ていなければ、公聴会が開催されたとしても、限られた意見しか表明することができない。
    ii) 運賃等改定時のデータと対比できるデータが改定後定期的に示されていなければ、現在の運賃等内容が妥当であるかどうか判断できない。
    上記を踏まえ、国土交通省は、運賃等改定の際の事前の情報提供や運賃等改定後のチェックを意識した鉄軌道ガイドラインを整備する必要があると考えられる。また、見直し後の鉄軌道ガイドラインの内容を踏まえた、適切な情報提供を行うことが望まれる。

    このほか、鉄道特有の問題として、例えば、路線の最終目的地までの他の事業者との競争の必要上、結果として、中間点の利用者(乗客)については、サービスの低下やより高い運賃等が設定されることが懸念される。
    国土交通省は、このような懸念を払しょくするためにも、可能な限り情報の提供を行うとともに、不利益を被るとみられる消費者(利用者)の意見についても反映される機会が損なわれることがないよう、運賃等決定過程への消費者参画の取組を推進することが望まれる。

  • イ 国土交通省は、新規開業した路線など一定の条件をみたした路線については、加算運賃として消費者(利用者)に相応の負担(受益者負担)を求めている。
    しかし、当委員会の調査の結果、加算運賃を導入している路線ごとの運賃回収状況や、長期間、加算運賃を継続する必要性等については、積極的に情報提供が行われていないことが確認できた。
    上記を踏まえ、国土交通省は、加算運賃を導入している路線ごとの運賃回収状況についての確認を行うとともに、確認した情報に、加算運賃を継続する必要性等の説明を加え、情報提供を行うことが必要である。

    なお、上記確認の結果、加算運賃を適用する必要性が乏しくなったと判断される場合(注)には、事業者に対して、加算運賃の見直しに係る適切な指導等を行うことが必要である。
  • (注)過去の国会における答弁等の中で、国土交通省(運輸省)は、加算運賃については、おおむね10年を経過した時点、あるいは資本費の50%を回収した時点から廃止または減額すべきものとの認識を示している。なお、当時の認識と異なった運用が行われているのであれば、当然にその内容について示されるべきであろう。

  • ウ 審議会の多くは、透明性、説明責任という観点から、議事録や配付資料をインターネット上で公表することが進んできている中、当委員会の調査の結果、運輸審議会については、平成23年6月以降、議事概要のみ公表されていることが確認できた。ただし、過去の議事録や公表されている議事概要の内容をみても、審議会の場で委員に対しどのような資料が配付され、規制当局からどのような説明があったのか等、どのような審議が行われたかについては、ほとんどうかがい知ることができなかった。
    上記を踏まえ、国土交通省(運輸審議会)は、審議の経過を消費者(利用者)に伝えるための情報の拡大について検討する必要がある。また、情報提供の方法についても、閲覧や情報公開法に基づく開示請求に対する開示に止まらず、利便性も考慮して可能な限りインターネット等で公開することが望まれる。

    また、鉄道運賃等の認可については、原則として運輸審議会へ諮問し答申を受けることによって、判断の透明・公正性を確保しているものとみられるが、平成21年度以降、鉄道運賃等の認可申請があった4件のうち、説明聴取事案(軽微認定事案)として、同審議会への諮問を経ずに処理した案件は3件である。その中には、必ずしも社会的に「軽微」ととらえられるか明らかでないと思われる案件も含まれているが、これら3件については、結果的に、一連の手続きの過程において消費者(利用者)の意見を聴取した事実は確認できなかった。運賃等に消費者(利用者)の意見を反映させるという観点からは、審議会での公聴会等の手続きは重要な意味を有するため、真に審議会への諮問を必要としない「軽微」な案件であるか否かの判断基準を明確に示すとともに、それぞれの案件ごとに、審議会への諮問を必要としないと判断した理由について明らかにすることが望まれる。

  • エ 審議会の多くは、消費者代表を参画させる、あるいは消費者の意見を聴くという観点から、審議会の委員として、消費者団体の役員等を中心に選任しているところ、当委員会の調査の結果、運輸審議会については、国会同意にはなっているものの、消費者団体の役員等から委員を選任していないことが確認できた。
    また、当委員会の調査の結果、国土交通省は、運輸審議会主宰の公聴会の開催(注)を要請できる「利害関係人」(国土交通省設置法第23条、運輸審議会一般規則第5条)については、利用者を全く想定していないことが分かった。
  • (注)運輸審議会一般規則では、第1条(公聴会主義の原則)において、「運輸審議会は、事案に関し、できる限り公聴会を開き、公平且つ合理的な決定をしなければならない」と規定しているが、平成21年度以降の開催実績は1回に止まっている。

  • 運輸審議会は国民の代表として諮問に応え、答申する性格のものであり、公共料金の認可にあたっては消費者の利益の確保は重要である。このような観点からも、国土交通省は、他の審議会の例を参考にして、消費者の権利・利益を十分代弁し得るという視点から、運輸審議会の委員を選任することについて検討するとともに、運輸審議会一般規則に定める「利害関係人」の解釈について、例えば、日常的にその交通機関を利用する消費者(利用者)を含めることについて検討を行うことが望まれる

(2) 電気料金

(建議事項3)

経済産業省は、電気料金の決定過程の透明性等を確保する観点から、「電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会議」(座長:安念潤司 中央大学大学院教授)における議論の結果等を踏まえ、料金を決定するために必要な情報の提供等に努める必要がある。
なお、電気料金については、今後、厳正な原価評価が行われるものと理解しているところ、当該評価を行った結果、適正な料金水準を上回っていると判断された場合に、電気事業法第23条に基づく変更命令(「値下げ」)が確実に行えるよう、法令等の見直し・整備を含めた検討を行うことが望ましいと考える。

(理由)
  • 電気料金については、「電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会議」において取りまとめ中の「電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会議報告書(案)」において、値上げ認可時においては原価の厳格な査定を行う一方、値下げ届出時や事後評価においては一般電気事業者による説明と行政による事後チェックを的確に行うことを徹底する旨指摘されている。
    また、「東京電力に関する経営・財務調査委員会報告書」(平成23年10月3日)においては 「長期にわたり原価の査定が行われない状況を早急に是正すべき」とされ、過去10年以上、規制当局が「原価」を把握していなかったことが問題視されているほか、「事業者としての説明責任を十分果たしているとは言い難いと考えられる」との指摘がなされている。
    上記に加え、最近の電気料金問題に関する議論・報道等の状況も踏まえ、経済産業省に対しては、電気料金を決定するために必要な情報の提供や評価等が適切に行われることを強く望むものである。
    なお、「電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会議報告書(案)」においては、事後評価の項目の要旨として以下のことを掲げており、それらの取組が適切に行われるのであれば、事業者による消費者に対する説明が十分になされること、及び規制当局による「値下げ」を命じる措置(料金認可申請命令)も期待されることになろう。
    • i) 料金設定時における評価
      料金値下げの届出時においても、料金(値上げ)認可時に原価算入が認められない費用(広告宣伝費、寄付金、団体費)については、事業者による説明責任が重要となることから、これらの費用について算定規則上明確化。

    • ii) 原価算定期間における評価
      毎年度、事業者が決算発表時等に、決算実績や収支見通しを説明するとともに、利益の使途や料金改定時に計画した効率化の進捗状況等を需要家にわかりやすい形で説明。
      併せて、これまで自由化部門が赤字の場合のみに公表していた部門別収支を常に公表。

    • iii) 原価算定期間終了後の事後評価
      原価算定期間終了後、事業者が料金改定を行わない場合、事業者が部門別収支ベースの原価と実績値、算定期間終了後の収支見通し、利益の使途等について説明。
      行政は、これを評価し、必要に応じて報告徴収を実施し、料金認可申請命令の発動の要否を検討。

  • 電気事業法第23条第1項では「経済産業大臣は、電気の料金その他の供給条件が社会的経済的事情の変動により著しく不適当となり、公共の利益の増進に支障があると認めるとき」には、事業者に対し、変更の認可を申請すべき旨命ずることができるとされているところ、これまで発動された実績はなかった。
    経済産業省は、前掲の事後評価等を踏まえ、必要がある場合には、電気料金水準の適正化を適時に確実に行うことが求められるが、社会的経済的事情に応じて、上記料金認可申請命令を発動して「値下げ」を実施させることが、実際に可能となるように、現行の法令等の見直し・整備について早急に検討に着手する必要があると考えられる。また、上記事後評価の方法や報告徴収の実施方法等についてもあらかじめ明確にしておくことが望ましいと考える。

建議の概要

  1. 公共料金の決定過程の透明性及び消費者参画の機会を確保する観点から、ア)所管省庁における情報提供の実施状況についてのフォローアップの実施、イ)審議会の委員が消費者の権利・利益を十分代弁し得る人材が登用されているかという視点からの確認、ウ)物価担当官会議申合せに基づく所管省庁との協議の的確な実施、エ)課題の検討(消費者の視点からチェックするための第三者機関設置の必要性、デフレ時代に見合った料金水準への「値下げ」を求めることができる仕組みのあり方、原価の査定が厳正に行われるような仕組みのあり方等)
  2. 鉄道運賃等の決定過程の透明性及び消費者参画の機会を確保する観点から、ア) 鉄軌道の情報提供ガイドラインの見直し、イ)加算運賃に関する情報についての確認と適切な情報提供の実施、ウ)運輸審議会における審議経過を消費者に伝えるために提供すべき情報(議事録、審議資料、公聴会での意見の反映状況、審議会への諮問を必要としないと判断した理由等)の拡大について検討、エ)消費者の権利・利益を十分代弁し得るという観点から、運輸審議会の委員を選任すること、及び運輸審議会一般規則に定める「利害関係人」について、日常的にその交通機関を利用する消費者(利用者)を含めることについて検討
  3. 電気料金の決定過程の透明性等を確保する観点から、「電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会議」における議論の結果等を踏まえた情報提供の実施と電気事業法第23条に基づく変更命令(値下げ)が確実に行えるよう法令等の見直しについて検討

主な成果

【消費者庁】
  • 「消費者基本計画」の一部改定(2012年7月20日閣議決定)で、公共料金への取組を強化することとされたことを受け、消費者委員会及び所管省庁と連携し、基本計画の実施の一環として、所管省庁における公共料金に係る情報提供の実施状況のフォローアップを行う。
  • 「平成23年度消費者団体名簿」を各省庁に配付。各省庁が消費者団体から委員等を募集する必要がある場合には、消費者庁が運用する消費者団体と消費者庁の情報・意見交換システムを活用して協力することとし、その旨の事務連絡を各省庁に送付。
  • 東京電力による電気料金の値上げ認可申請の対応で、経済産業省に要請し、消費者の参画、公聴会開催、情報提供等の料金決定プロセスの改善が図られた。今後も公共料金に関する研究会の提言を踏まえ、適切に協議を実施。
  • 公共料金等専門調査会の調査審議に協力し、公共料金を効率的かつ効果的に検証する。公共料金に関する研究会の提言を踏まえ、消費者委員会及び所管省庁と連携し、基本計画の実施の一環として各課題の検討に取り組んでいく。
【国土交通省】
  • 運賃改定における透明性の向上や利用者等の監視による効率化の促進をより一層図るため、「鉄軌道事業の情報提供ガイドライン」を見直し、情報提供の時期を一層詳細に区分。同見直しについて、各地方運輸局等の所管部局へ文書を発出し、鉄軌道事業者に対する周知・指導を要請(2012年8月)。
  • 加算運賃を継続する必要性などについて更なる情報提供の充実を図るよう、各地方運輸局等の所管部局へ文書を発出し、鉄軌道事業者に対する周知・指導を要請。(2012年8月)
  • 「加算運賃の終了時期の判断方法と情報提供の方法について」の通達を地方運輸局あて発出(2013年10月)。
  • 運輸審議会の審議過程については、議事概要、情報公開法に規定する不開示情報を除いた配布資料をHPに公表。また、公聴会や参考人意見聴取を行った事案については、答申の際提起された意見の取扱いについてHPで公表(2011年6月)。
  • 説明聴取事案の認定について、プロセスの透明化を図るため、判断理由を含む議事概要をHPで公表(2011年6月)。
  • 運輸審議会の委員に消費者団体の役員を選任(2013年11月)。
【経済産業省】
  • 東京電力による電気料金の値上げ申請に際し、決定過程の透明性等を確保する観点から、次のとおり情報公開を実施。
    • 「電気料金審査専門委員会」を設置し、委員会及び資料は原則公開により開催。
    • 電気事業法に基づく公聴会を2回開催。
    • インターネットを通じた「国民の声」の募集を実施(2,336件の意見が寄せられた)。
    • 公聴会及び「国民の声」で寄せられた意見に対し、経済産業省としての見解をホームページにおいて公表。(※)関西電力、九州電力以降の電気料金の値上げ認可申請においても、東京電力と同様の対応を実施。
  • 従来自由化部門が赤字の場合のみ公表していた自由化部門及び規制部門の部門別収支について、常に公表するよう変更。
  • 東京電力を除く各電力会社について、2012年中に原価算定期間終了後の事後評価を実施。法第23条に基づく変更命令の発動の要否について判断ができるよう、「電気事業法に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等」の一部を改正し、法第23条第1項に規定する変更命令の客観的な基準を規定(2012年12月)。
  • 2012年5月以降、電力会社計6社(東京電力、関西電力、九州電力、東北電力、四国電力及び北海道電力)の料金審査及び査定方針の検討を踏まえ、電気料金審査プロセスの客観性、透明性をさらに高める観点から、審査要領を改正した(2013年12月)。