自動車リコール制度に関する建議

2010年8月27日
消費者委員会

昨年秋以来、自動車リコールに関する報道が国内外でしばしば大きくなされ、自動車のリコールに多くの注目が集まった。これらをきっかけに、消費者委員会は、自動車が消費者に身近な製品であることや、事故時のリスクの大きさ等を踏まえ、消費者の安全確保の観点から、本年5月27日、自動車リコール制度に関する実態調査を開始した。
この調査は、消費者委員会が、消費者庁及び消費者委員会設置法に基づき実施する初めての調査であり、国土交通省及び消費者庁に対して、自動車リコール制度に関する資料提出要求をはじめ、メーカー等へのヒアリングや、消費者へのアンケート調査等を実施した。
消費者委員会は、この調査により判明した事実に基づき、国土交通大臣及び内閣府特命担当大臣(消費者)に対して、次のとおり、同法に基づき建議する。
さらに、消費者委員会は、この建議について、関係省庁に対して、2010年12月までにその実施状況の報告を求める。

1 事故・不具合情報の収集及び公表について

(建議事項1)
国土交通省は、
以下の点に留意して、事故・不具合情報の収集及び公表制度の抜本的な改善を図ること
○ 「自動車不具合情報ホットライン」の存在を消費者に周知し、十分な情報収集を図ること
○ メーカー等に対する事実確認を適時に行うこと
○ 上記の事実確認において得られた情報について、できるだけ詳細に公表すること
○ メーカー等から四半期ごとに報告されている不具合情報を整理のうえ、消費者の注意喚起に資する情報を公表すること

(理由)
○ 自動車の不具合情報は、ユーザーから国土交通省に報告される「自動車不具合情報ホットライン」、メーカー等から国土交通省へ報告される事故・火災情報、メーカー等から国土交通省へ四半期ごとに報告される不具合情報(以下「四半期報告」という。)、そして消費者庁に、消費者安全法等に基づき通知される消費者事故等の情報などによって集約されることになっている。今回の調査結果を踏まえると、これらのうち、「自動車不具合情報ホットライン」と四半期報告について、以下の課題がある。
○ まず、「自動車不具合情報ホットライン」は、発足当時、迅速なリコールの実施やリコール隠し等の不正行為を防止するために行政が消費者から直接情報を収集し、消費者からの書き込み情報等を国土交通省のホームページで公表する制度として期待されていた。
しかし、「自動車不具合情報ホットライン」は、存在そのものの周知が不十分であるため、収集される情報が限られており、この制度を設けた趣旨が十分活かされていない。
また、ユーザーが実際に報告した情報量に比べて国土交通省のホームページで公表されている情報量は限定されている。国土交通省からメーカー等への事実確認後の情報が公表されていない。このため、ユーザーが不具合の詳細を十分に把握できないことがある。
○ 次に、メーカー等からの四半期報告は公表されていないため、リコール事案について、ユーザーは、リコールの前提となった不具合の具体的な発生状況や態様等について知ることができない。また、そもそも、メーカー等からの四半期報告のような不具合情報の報告制度があること自体、ユーザーには知られていない。
○ そこで、「自動車不具合情報ホットライン」については、制度の周知を図るなど、情報収集機能を向上させる必要がある。そして、国土交通省のホームページにおいて詳細情報も公表するよう改善する必要がある。また、四半期報告で国土交通省に寄せられた不具合情報についても、整理のうえ、消費者の注意喚起に資する情報を公表し、広く事故・不具合情報をユーザーと共有すべきである。
(自動車リコール制度に関する実態調査報告書P4からP21参照)

(建議事項2)
消費者庁は、
○ 国土交通省と連携して、同省が保有する情報が、消費者庁とすみやかに共有され、事故情報データバンクに反映されるようにすること
○ 事故情報データバンクにおいては、事故情報の公表が不十分であるため、運用の改善を図ること

(理由)
○ 消費者庁が運用している事故情報データバンクは、9つの機関の参画協力を得て情報収集をしているが、国土交通省のリコール対策室はこれには参画していない。このため、国土交通省のホームページの事故・不具合情報(特に事故・火災情報)が、事故情報データバンクに掲載されていない。
消費者庁と国土交通省は、連携を図り、お互いの情報を共有し、双方の情報提供の充実を図るべきである。
(自動車リコール制度に関する実態調査報告書P22からP24参照)
○ 事故情報データバンクには、「一般消費者向けサイト」と「行政向けサイト」とがあるが、2010年8月23日現在、自動車の事故・不具合情報について、「行政向けサイト」には1,133件掲載されているのに、「一般消費者向けサイト」には704件しか掲載されていない。また、「事故内容の詳細」における記述について、「行政向けサイト」に比べて「一般消費者向けサイト」の方が事故・不具合の態様が分かりにくい。このように、両者の情報件数と各情報内容には違いがあるため、行政機関が保有する事故情報が消費者との間で十分共有されていない。
また、事故情報データバンクには、独立行政法人国民生活センター・消費生活センターが参画しており、PIO-NETから情報が転載されているが、PIO-NETには、消費生活センター等における相談の処理結果が登録されているものの、外部には提供されていないため、事故情報データバンク(一般消費者向けサイト・行政向けサイトともに)においては、その処理結果の内容が公表されていない。
事故の未然防止・拡大防止に資するために、できるだけ多くの情報がユーザーに提供されるように、運用の改善を図る必要がある。
(自動車リコール制度に関する実態調査報告書P24からP28参照)

2 事故・不具合情報やリコールに対する分析・検証について

(建議事項3)
国土交通省は、
再リコール(注)事案につき早急に検討を行い、次のような対策を講じること
○ 既にリコールを実施した車両について、(1)当該リコールと同種の不具合が再発した情報を得た場合や、(2)当該不具合を理由とした2回目以降のリコール届出があった場合、これらの情報及び改善措置に対して、適切かつ効果的な技術検証を実施すること
○ リコール届出における対象車両の範囲を誤らないようにするために、メーカー等からの不具合情報の報告、リコール届出、立入検査等の機会に、部品の組み付けや製造工程の情報等の管理状況(実施体制を含む)について適切に把握できるよう、監査方針を見直すこと
(注)「再リコール」とは、i)同一車両において、同一の又は関連する原因による不具合を理由として届け出られている複数回のリコール、ii)対象車両の範囲を拡大して、同一の又は関連する原因による不具合について届け出られている複数回のリコール等をいう。

(理由)
今回の調査で、同一車両につき複数回リコール届出がなされているケースや、対象車両の範囲の見直しを行っているケースが、平成17年度から21年度までの5年間で、全リコール届出件数1,518件中140事案あることが判明した。
これらの中には、リコール作業の実施に伴い新たな不具合が発生することが判明したものや、対象車両の抽出手順が不適切だったことが要因であったものも含まれている。しかし、国土交通省として再リコールに特化した検討や対策を行った形跡は見受けられない。
このような状況を踏まえると、同一車両について不十分な検証等が要因となって度重なってリコールを行うような事態をなくすために、適切かつ効果的な技術検証を実施すること、及び、対象車両の範囲を誤らないようにするために、監査方針を見直す必要がある。
(自動車リコール制度に関する実態調査報告書P29からP32参照)

3 リコール届出等の実施について

(建議事項4)
国土交通省は、
○ リコールの迅速な届出を促進するために、明確な基準・目標等を示すこと
○ リコール情報がより確実にユーザーに届き、リコールの実施率が向上するよう、その進捗状況を一層注視するとともに、ユーザーに対しても、自動車の登録手続や改善措置の実施の重要性について効果的な周知を行うこと
○ リコールに関連する制度(改善対策・サービスキャンペーン)についてもより一層の周知を行うこと
また、中期的な課題として、市場措置の届出区分(リコール・改善対策・サービスキャンペーン)について、現在のあり方を見直すこと

(理由)
○ ユーザーにできるだけ早く注意喚起情報が提供されるためには、リコール届出が迅速に行われることが必要である。しかし、今回の調査においては、国産車メーカーにおいて、メーカー内でリコール実施を決定してから届出をするまでに2か月以上を要していたり、輸入事業者において、本国のメーカーからリコールの決定についての通知を受けてから届出をするまでに4か月以上を要していたりする事案もみられた。
リコール届出のタイミングについては、すみやかに実施すべき旨が通達で規定されているだけで、適切な対応がなされなくても特段のペナルティもない。届出が遅れている間に不具合が発生している事案もある。ユーザーに対する注意喚起情報のすみやかな提供という観点からも、届出までに長期間を要している事案について、リコール届出や立入検査等の機会において、長期化の要因を確認のうえ是正を促す等、より一層注視することが必要である。さらに、リコール届出のタイミングの考え方について、現行の通達よりも一層明確な基準・目標等を示すことの必要性について検討する等、早急な改善が必要である。
○ リコール届出後、概ね9か月までにはリコール実施率は80%を超えている。しかし、個別事案の中には、実施率がかなり低いものもある。メーカー等からは、実施率が低い主な要因として、ユーザーの所在を把握できないためにリコール等の通知がユーザーに届かないことやユーザーがリコール等の通知を受け取ってもディーラー等に車を入庫しないことが挙げられている。したがって、ユーザーに対して、自動車の登録手続や改善措置の実施の重要性について効果的な周知を行うことが必要である。
○ 「リコール」と異なり、道路運送車両法には定められていないが、通達に基づき、「リコール」以外の市場措置として「改善対策」及び「サービスキャンペーン」の制度が設けられている。消費者委員会が行った自動車リコールに関するユーザーアンケートの結果において、3つの制度の違いを具体的に知っているユーザーは13.3%にとどまっていることからも、ユーザーが「改善対策」及び「サービスキャンペーン」について理解しているとは言い難い。これらは、リコールとは異なるものの、ユーザーの安全を確保するために、リコールと同様に必要な市場措置であることから、当面の課題として、ユーザーの理解を高めるよう効果的な周知を行うことが必要である。
また、届出区分の違いはメーカー等にとっても必ずしも明確ではない。今後、市場措置の届出区分(リコール・改善対策・サービスキャンペーン)について、現在のあり方の見直しを行うことが必要である。
(自動車リコール制度に関する実態調査報告書P33からP47参照)

建議の概要

  1. リコールの端緒となるユーザーからの事故・不具合情報の収集および公表制度の抜本的な改善(「自動車不具合情報ホットライン」の消費者への周知、メーカーへの事故・不具合情報の事実確認の適時の実施および公表など)
  2. 事故情報データバンクの運用の改善(国土交通省の保有する事故・不具合情報等について新たに掲載等)
  3. 事故・不具合情報やリコールに対する分析・検証の改善(再リコール事案については適切かつ効果的な技術検証を実施、メーカーに対する監査方針の見直し)
  4. リコールの迅速な届出の促進、リコール情報の効果的な周知、リコール関連制度の一層の周知・あり方の見直し

主な成果

【国土交通省】
  • 自動車団体13団体等のホームページにリンクを設置したり、自動車検査証の裏面に紹介を掲載したりするなど、「自動車不具合情報ホットライン」の周知を実施。
  • ユーザーからの不具合情報の収集や調査分析体制を強化するため、「不具合情報調査推進室」を新設するとともに、交通安全環境研究所の技術検証体制を強化。
  • 再リコール案件について、必ず技術検証をかけることをルール化。
  • リコールの実施の最終決定から国土交通省に届け出るまでの期間に係る基準日を設定して、関係規定を改正。
  • 再リコール事案については技術検証を積極的に活用するとともに、自動車メーカー等に対して、リコール対象車両特定のための管理体制等についての指導・確認を監査の際に実施。
【消費者庁】
  • 国土交通省が保有する自動車に係る事故・火災情報を、事故情報データバンクに反映。