第4回 成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループ 議事録

日時

2016年11月1日(火)10:00から12:30

場所

消費者委員会会議室

出席者

【委員】
樋口座長、池本座長代理、河上委員長、大森委員
【オブザーバー】
後藤専門委員
【説明者】
中央大学大学院法務研究科 宮下教授
京都産業大学大学院法務研究科 坂東教授
龍谷大学法科大学院 中田教授
【消費者庁】
河内消費者政策課長
【事務局】
黒木事務局長、丸山参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 学識者からのヒアリング
  3. 閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

≪1.開会≫

○丸山参事官 それでは、時間になりましたので、会議を始めさせていただきます。

本日は、皆様、お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。

ただいまから「成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループ」第4回会合を開催いたします。

本日は所用によりまして、増田委員が御欠席との御連絡をいただいております。

議事に入ります前に、配付資料の確認をさせていただきます。

お配りしております資料につきましては、議事次第下部に配付資料一覧を記載しております。

不足の資料がありましたら、事務局までお申しつけいただきますようよろしくお願いいたします。

それでは、以降の議事進行につきましては、樋口座長、よろしくお願いします。


≪2.学識者からのヒアリング≫

(1)宮下中央大学大学院法務研究科教授

○樋口座長 それでは、早速本日の議題に入らせていただきます。

本日は、若年者の知識や判断力の不足等につけ込む事業者の行為に対する規制の在り方について検討するため、参考人として、中央大学大学院法務研究科教授の宮下修一様、京都産業大学大学院法務研究科教授の坂東俊矢様、龍谷大学法科大学院教授の中田邦博様、以上の3名の方に御出席いただいております。

宮下教授の御専門分野は民法、消費者法で、契約に関わる諸問題、特に契約成立段階における情報提供義務、説明義務などの理論的・実証的研究をされているほか、金融サービス取引や消費者取引における適合性原則に関する研究も行われており、日本消費者法学会では、適合性原則に関する発表もされております。

本日は「若年者の契約締結における適合性の配慮について」ということでお話しいただきたいと思います。

それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

○宮下中央大学大学院法務研究科教授 本日はお招きをいただきまして、ありがとうございます。中央大学法科大学院の宮下でございます。

今、大変過分な御紹介をいただきましたが、そう大層なものでもございませんので、どのような報告ができるか分かりませんが、お聞きいただければと存じます。

それでは、私の提出させていただきました資料に基づいてお話をさせていただきます。

資料1でございます。レジュメは全部で10ページございますが、実質的なレジュメは6ページまででございまして、7ページ以降は条文と参考文献でございます。適宜、御参照いただければと存じます。

まず、1ページ、既にこちらでも議論になっているかと思いますが、契約当事者のうちの18歳、19歳と言われる若者については、消費生活相談の相談件数が20歳以上に比べて非常に少なくなっています。このことは、このワーキング・グループでも既に報告があったかと思います。この点については次の坂東先生の御報告で大変詳しく御紹介があると思いますので、割愛をさせていただきますが、仮に成年年齢が20歳から18歳に引き下げられますと、18歳、19歳の層の被害が増える可能性があるということでございます。

それでは、この層が契約締結に必要で十分な情報収集力や判断力を備えているのかということが問題となります。例えば、大学生協連で、学年を1年生に絞ったデータということではないのですけれども、大学生に対する意識調査というものをしておりまして、それを拝見しておりましたら、大学生は、ここには紹介されていないのですが、将来のことは考えていると言いながら、「商品を購入する際には、『インターネットからの情報を参考』にしている」、恐らくスマートフォンが中心ではないかと思いますが、こういう学生が8割で、しかも、「欲しいものは我慢しないで買う」学生が5割、「多少高額なものであっても、自分の趣味のためであれば購入」する学生が6割おります。これは生協連のホームページで公表されております。なお今回のヒアリングに当たっては、私からその内容を御紹介させていただくということで、生協連から御了解もいただいております。

そうすると、これだけを見て簡単に言えることではないのですけれども、インターネット上で表面的な知識を得て、それで、実際の必要性や支払い能力は十分に考慮しないまま、自ら、余り自分にとっては本来必要でないとか、本当は使用することはふさわしくないものを購入したり、あるいはサービスの提供を受ける人も18歳、19歳の学生の中には少なからず存在するのではないかということが予測されるわけでございます。そうすると、現在の未成年者取消権が18歳、19歳に適用されなくなると、そういったケースが増えるのではないかという懸念がございます。

そこで、仮に若年者がそういった被害に遭わないように、何かしら、本来は自分にふさわしくない契約、これを適合しない契約であるとか、不適合な契約と申しますけれども、そういった場合の救済法理を考える必要はないだろうかということが私の問題意識でございます。

2ページ、そこで、いわゆる適合性原則というものについて着目をしてみたいと思います。

適合性原則というものは、これは既にいろいろなところで紹介をされておりますが、取引、特に投資取引を勧誘する際に、知識・経験、投資目的、財産状況等に照らして、当該取引をするためにふさわしい能力を有していない者に対して不適当な勧誘をしてはならないというルールであります。これは証券取引の分野で導入をされまして、徐々に投資サービス、そして、金融サービスの分野全般をカバーする法理として現在、法律の世界では定着しつつあるものでございます。

これについては、金融審議会というところで、今からもう15年以上前になりますけれども、この適合性原則というのはどういうものかということで整理したことがございまして、狭い意味の狭義というのと、広い意味での広義というのと2つに分けて説明されます。狭義のほうは「ある特定の利用者に対してはどんなに説明を尽くしても一定の商品の販売・勧誘を行ってはならない」というルールである、いわば、取引に適合しない者を市場から排除するルールであるという位置づけでございます。それに対して、実際には利用者が市場の取引には参加することを前提にしつつ、「事業が利用者の知識・経験、財産力、投資目的に適合した形で勧誘(あるいは販売)を行わなければいけない」ルールが広義の適合性原則であると言われています。それぞれ立法例がそこに書いてありますので、後ろの条文も御参照いただければと思います。

そういう中で、こういった二分論という考え方については、特に民法の学界の中ではいろいろな議論もございますし、また、適合性については、その内容について、その人がその商品を購入するのに適しているのかとか、あるいは取引そのものに適しているのかとか、あるいは取引数量という面でこの人は適しているのかとか、いろいろな見方があるのですが、このあたりについては今回捨象させていただきまして、取引に実際に若年者が適合するかどうかという観点からお話をさせていただきたいと思います。

3ページ、この適合性原則は、投資取引あるいは金融取引の分野で登場してきて広がってきたルールでございますけれども、これは現在消費者取引にも守備範囲を拡大してきております。消費者基本法には、事業者の責務として、適合性原則への配慮というものが5条1項3号で規定されておりますし、また、特定商取引法では、主務大臣による指示の対象となる行為の一つとしてではありますけれども、適合性原則違反の勧誘について、これを指示事項とするということで規定がなされております。そのほか、割賦販売法、貸金業法、信託業法等にも適合性に即した業務を行うように義務づける規定が設けられております。

こういう中で、適合性原則はなぜ必要とされるのか、投資取引や金融取引のような大変リスクの高い取引に限らず、なぜ消費者取引にまで広がりを見せてきているのかというと、これは私の考えということでございますが、そもそも適合性原則が適用される場面は、当事者間に情報力の格差や交渉力の格差がある場面ではないか、そしてそれが非常に大きな場面でこういったものが出てくるのではないかということでございます。そうすると、消費者基本法でこの適合性原則が取り込まれたということを念頭に置くならば、この双方の格差が典型的にあらわれる消費者取引に適合性原則を導入することは十分可能ではないか。これは私がそう感じているところでございます。

もっとも、消費者取引に適合性原則を導入することに対しては、大変抵抗感も大きくございまして、これは事業者サイド、消費者サイドから示されているところです。

一つは、消費者契約法専門調査会でも議論になったところですが、適合性原則は、個別性のある勧誘ルールであって、消費者契約の一般法である消費者契約法に導入することは不適切であるという議論がございました。また、逆に消費者サイドからは、こういった適合性原則というものを適用するためには業者が顧客の状況を知らなければいけない、そうすると業者には顧客の調査確認義務が課される、それについて消費者取引一般に導入すると、悪質業者に個人情報を垂れ流すことになるのではないかという懸念があります。このように、両方のサイドから懸念が示されているところでございます。

4ページ、ただ、そうした抵抗感は、必ずしも適合性原則が適用される場面全てに該当するわけでもなかろうということでございます。例えば、先ほどの事業者サイドからのお話でありましても、顧客の属性等を勘案することを前提にすれば、道は開けるという意味合いも含まれているのではないか、そうすると、若年者あるいは高齢者という顧客の属性に着目した形であればルール化は十分可能ではないかと思われるわけです。

また、消費者サイドからの抵抗感についても、これは顧客の属性ということに着目する、とりわけ若年者や高齢者という属性に着目する形であれば、事業者は調査という大仰なものではなくて、年齢を確認すればいいだけでありまして、資産状況などといったものにまで着目するというところまでいかないのかもしれないのではないか。また、若年者と高齢者を比べると、高齢者の場合はどうしても資産を持っているケースが多いものですから、そこを確認することもあると思いますけれども、そうではなくて、若年者ということであれば、資産を持っていないのが普通でありましょうし、年齢を確認するということで十分ではないかという面もございます。そうすると、そういった抵抗感も和らぐのではないかと思います。

そういう中で、若年者の消費者取引について、例えば適合性に配慮することになると、どういうことが考えられるであろうかということになるわけですが、ここで適合性原則違反の判断について、これは金融取引や投資取引についての裁判例の分析を通してということですので、必ずしも全部に当てはまるわけではないのかもしれませんが、恐らくその他の取引にも通用する要素というと、次のようなものではないかと思います。

一つは、商品や取引の内容の理解力があるかないかということです。これは知識や経験、法律の条文にもそういった言葉が出てまいりますけれども、そういったものに関わる部分です。もう一つは、取引を行う必要性があるかないかということです。これは、法律の条文でいえば、契約目的であるとか財産状況ということに関わる部分です。あるいは、最近は目的だけではなくて、契約をするつもりはあるかという意向まで考慮すべきだという考え方も強いわけですが、そういったことにつながっていくかと思います。

この2つの要素のうち、若年者の場合には、知識・経験には乏しいことは定型的に言えるでありましょうし、また、十分な財産を有していないことも普通であろうと思いますので、そうすると、取引については、適合性があるかないかを判断する際には、その判断は比較的容易ではないかとも思われるわけです。

もっとも、若年者に絞ることになりますと、成年年齢という分かりやすい物差しがあればいいのですが、それがないということになると、若年者という範囲をどう限定するのかはなかなか難しい問題になってまいります。

5ページ、仮に全く規定を設けずに、成年年齢だけを引き下げることになるとどうなるか。そうすると、これは民法の一般法理で対応することになるのですが、そこに書いてありますように、一般論としては、適合性原則違反は例えば不法行為責任を構成するという最高裁判決があるのですけれども、その後の裁判例の展開を見ていると、必ずしも適合性原則違反は容易に認められない状況にあります。そういう中で、ほかの民法法理はどうかというと、それぞれ適用にあたってのハードルが高い状況にあります。そうすると、現状のルールに任せてしまうことになると、未成年者取消権がカバーしてきた範囲をカバーすることは難しいことになるわけです。

そこで、ここからは私から具体的な提案をさせていただきたいと思います。この若年者に配慮して、何かしら新しいルールを設けることができないであろうかということでございます。

4つ提案がございます。

1つ目は、これは適合性原則そのものではありませんが、その一つの表れとも言えるかもしれないものでして、現在、消費者契約法専門調査会でも議論しているところでございますけれども、つけ込み型不当勧誘というものと接続させる形で、若年者も念頭に置いて年齢等の当事者の属性に着目して、その状況を利用して契約を締結させた場合に契約取消権の行使を認める規定を消費者契約法に設けることはできないかということで、そこに立法提案を載せてございます。これは、先日発売されたばかりの『法律時報』の11月号にも掲載させていただいておりますので、御参照いただければと思います。

2つ目の提案が、消費者取引に際して、年齢等の属性を踏まえた適合性に配慮する必要性があることを、例えば消費者契約法の中で明記することはできないであろうかという御提案がありますので、これは一つ検討すべき課題ではないかと思います。これは後の4つ目の提案にもつながっていくところでございます。

3つ目の提案が、若年者の取引をめぐるトラブルは、これは第1回のワーキング・グループでも資料で示されたところでございますけれども、特定商取引法の対象となる取引が非常に多いわけです。そうすると、現在は、適合性原則は指示事項という形で、しかも、それは省令に委ねられているわけですが、これを法令事項にして、法律を見れば適合性に配慮しなければいけないことが分かるようにする。その上で、もし可能であれば、さらにこれが契約取消権やほかのいろいろな顧客救済につながるようなものについて、解釈の中で考慮できるような形で規定ぶりを改めることはできないであろうかということを考えられないかというのが、もう一つの提案です。

最後に、6ページ、4つ目の提案で、私自身二分論に必ずしも賛成するわけではないのですが、一般に受け入れられている二分論を前提にすると、現在までお話ししてきたことは、狭義、狭い意味での適合性原則に対応するものでございましたけれども、そうではなくて、広い意味での適合性原則に対応するものも考えられないだろうか、つまり、市場に参加する場合に、それに対して十分なケアをするという意味での適合性原則の広がりに対応したルールが作れないかということでございます。

まず、立法提案の1つ目としては、年齢等を理由として、合理的な判断ができない状況にある消費者について、取消権のみならず、損害賠償責任を付与できないであろうか、これが最初の提案でございます。

できればそれはしなければいけないと個人的には思っておりますけれども、それがもし無理だとしても、例えば、現行の消費者契約法3条1項の事業者による情報提供努力義務の規定に、若年者も念頭に置いて、年齢等に配慮した情報提供を行うべき旨を明記することはできないであろうかというのが次の提案です。

具体的には、6ページの一番下のところに示してある条文、下線部以外は現行の条文ですけれども、その条文に下線を引いた部分を追加する形で対応するというものです。これ自身、直ちに法的に何か効果を持つわけではありませんが、消費者契約法の適用あるいはその他の場面で、例えば不法行為責任などを追及する場面で、こうしたことが消費者契約法に規定されているということが何らかの解釈指針として影響する可能性も出てくるということですので、これは一つの方法として考えられるものではないかと思います。ただ、努力義務という形ですので、最低限ここはやっておいたほうがいいのではないかということではありますけれども、できればそれ以外の方策が望ましいとは考えております。

以上、大変雑駁な報告でございますが、私からの報告は終わらせていただきます。どうも御清聴ありがとうございました。

○樋口座長 御説明ありがとうございました。

ただいまの御説明を踏まえまして、御質問、御意見等のある方は御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。

池本座長代理、お願いいたします。

○池本座長代理 池本でございます。

全体像を議論しやすく整理いただいたことに感謝申し上げます。

現在、大きな流れとして若年者の社会参加を促進するために成年年齢を引き下げようという議論と、ただし、社会経験が未熟あるいはその判断力が未熟な若年者は保護する必要があるという価値判断との、2つの価値判断の中で、従来の未成年者取消しという画一的なものでは逆に社会参加促進と合致しないから、それを見直して別のルールを、ということが恐らく議論の出発点なのだろうと思います。その意味で、先生から御提案がありました適合性原則の考え方は、社会参加は認めた上で、社会経験の未熟あるいは判断力が不十分な人を保護することで、まさに今、議論している問題意識の中では、新たな取引ルールとして適合的な提案ではないかと、私もそう感じております。

問題は、それをどういう要件のもとで作っていくのかということで、昨年の消費者契約法専門調査会の議論に対する印象を申し上げたうえで、先生の御意見を伺えればと思うのです。昨年の議論で、要件が不明確であるという批判を前面に押し出して、消極意見になびき、本当の意味で社会経験不十分な人は保護する、社会参加は認めるけれどもきちんと保護する、という根本の議論がどうも薄かったのではないか。そこの価値判断をもう少し明確にしていくために何が必要なのかについて、もしお考えがあればお伺いしたい点が1点です。

もう一点は、昨年は消費者契約法専門調査会と特定商取引法専門調査会が同時進行していたことが影響しているのかどうかは分からないのですが、本来民事ルールである消費者契約法の要件立ての中に、予見可能性のことや、行政処分付きの特商法の要件とほとんど変わりのないような、非常に細かく要件を客観化しなければいけないという議論がどうも強過ぎたのではないか、という印象を持っています。これから議論していくものも民法に入れるのか、消費者契約法に入れるのか、どこに入れるのか。いずれにせよ行政規制ではなくて民事ルールとして入れていくということであれば、そこは事後的評価を踏まえるとなれば、ある程度価値規範が入っていてもよいのではないかと考えるのです。その2点について、御意見があればお伺いしたいと思います。

○宮下中央大学大学院法務研究科教授 どうも御質問ありがとうございました。

私自身も、要件という点については、専門調査会の議論に参加していたわけではありませんけれども、議事録は全部拝見させていただきまして、議論の中ではそのあたりに対するこだわりも大変強かったのではないかというイメージは持っております。

適合性原則について言うと、社会参加という観点から、確かに使えるルールだと思うのですが、ただ、2つの側面がありまして、適合性が全くない場合に、例えば18歳、19歳の学生が商品先物取引であるとか危ない投資商品を買うなど、そういった場合には市場にそもそも参加させてはいけないだろうということになります。ただ、一般の消費者取引であれば、参加してもいい場面は確かにあるだろうと思います。ただ、そのときに私が留意しておりますのは、若年者に対して、一つはそういった若年者とか年齢等で判断力が十分ではない状況につけ込むという主観的な部分と、もう一つは、それによって非常に大きな利益を得るという部分の2つを考える必要があるということです。後者は本当はそうではない場合も規制対象にすべきだと私は思うのですけれども、そこら辺は実は専門調査会の議論に少し配慮したところもありまして、客観的な要素も入れられないだろうかということで、この2つの要素から絞り込みをかけることはできないだろうかと考えたわけです。それが取消しというところにつながっていかないかというのが一つの提案でございます。

もう一つのところは、仮に市場参加した場合であっても、そういった市場参加させる以上は年齢等も踏まえて、きちんとした説明とか情報提供をしていかなければいけないということです。その上で、参加するという決断をきちんと自らできる環境にあるのであれば参加することは可能なのだろうと思いますけれども、ただ、それが十分でない場合には、事業者として何らかの責任はとる必要がある。これは特に一般の消費者ということではなくて、若年者ということで、ある種、定型化は難しいにしても、今まで未成年者保護という意味合いがあったのは、18歳、19歳はある程度自分で判断ができたとしても、高校から出てすぐで社会経験が少ない、だんだん年をとって20歳を超えていけばいろいろなことが分かるようになるとしても、やはり18歳、19歳ではなかなか難しいというところだったのではないかと思います。そこの部分をつかまえて、年齢というものを踏まえた適合性判断をすることはできないだろうか。そういったことを考慮するのも、年齢を見れば比較的容易にできるところがあるものですから、年齢を要件にするのであれば、事業者にもさほど大きな負担にはならないのではないだろうかということです。そこのところを少し念頭に置いたのが、損害賠償責任などの提案でございます。

もう一つの御質問、要件の客観化については、私も少し行き過ぎではないかという危惧を持っておりまして、特に消費者契約法で量的な部分での過量取引が入ったのは、それ自体は私は非常に高く評価するところではありますけれども、ただ、要件を客観化しようという余りに、かなり分かりにくくなってしまって、非常に消費者にとってはぱっと見て分かる要件ではない部分も入ってきてしまっているという問題があると思います。

そういう中で、主観的なものももちろんその要件の中に入ってきたから余計に分かりにくい部分も確かにあるのですけれども、いずれにしろ、もう少し要件を幅広くカバーできるような形にできないだろうかというのは、私自身も感じているところです。

ただ、一方で、要件が余りにも広がりを持ち過ぎると、それはそれで適用が難しいのではないかという懸念も分かりますので、そういったところで年齢というものをもう少し強調する形で念頭に置くということで、事実上の客観化も図ることができるのかなというところもございます。

そういった中で、一つは法的な効果が発生するところは、どうしても要件をある程度かちっと決めていかなければいけない部分もありますので、できるだけそういう議論の内容に配慮して、要件の中に主観的なものを取り込みつつ、できるだけ客観化していこうということが第一の提案であります。

もう一つ、どうしてもそれが難しい場合には、6ページの立法提案2にありますけれども、例えば一般条項的なところで年齢にきちんと配慮する。こういうことであれば、法的な効果に直ちに結びつく部分でないところもありますので、若干アバウトと言うと言い方が悪いのですけれども、広がりを持った要件であっても十分入れることができるのではないかとは考えているところでございます。

説明がうまく整理できず、申し訳ございません。お答えになったかどうか分かりませんが、そういうことでございます。

○樋口座長 よろしいでしょうか。

他の委員の方で、いかがでしょうか。

河上委員長、お願いいたします。

○河上委員長 今日はどうもありがとうございました。

具体的な提案も含めて、大変参考になる御提案だと思います。

3点ほど御意見を伺わせていただきたいのですが、まず第1点目、適合、不適合を事業者が判断する際に、顧客の情報を調査確認しないといけないコストということがよく言われます。その調査確認されることについて、消費者側からも抵抗感があるということなのですが、仮に調査確認という要素を不要とすることは可能かどうか。つまり、通常の注意をもってすれば知り得た範囲で、相手の年齢や経験に対して配慮すべきだという形にしてしまって、調査確認義務を切り離すことは考えられますか。

第2点目、最初のつけ込み型勧誘に関する宮下先生の御提案の中に、相手の年齢とか、そういうものの属性につけ込んだということプラス、不当な不利益あるいは当該消費者に不必要な契約を締結して損害をこうむったという、不当な不利益や損害という言葉が出てまいりますけれども、この部分は暴利行為とのアナロジーを考えておられるのかなという感じもしたのですが、実際の取引の場面で、不当な不利益になっているとか損害が出ているというところまで要求する必要があるのかどうかです。

具体的には、不要不急な契約をしてしまった場合、クーリングオフなどはまさにそうですけれども、そういうときには、あえてその部分については問題にしないで、要は、相手の年齢の低さあるいは経験の低さを利用したという事実だけでも取消権に結びつけてもいいのではないかという考えもあろうかと思うのです。この辺についてのお考えはどうかということであります。

第3点目、これは18歳、19歳が主として念頭に置かれていますけれども、宮下先生のようなお考えを前提にしていくと、逆に20歳、21歳、22歳あたりも、いわば問題に対する規制の対象として考えてよいことになるのかどうか、そのあたりをお聞かせいただければと思います。

○宮下中央大学大学院法務研究科教授 どうも御質問ありがとうございました。順にお答えをしたいと思います。

最初のところ、適合性判断について、調査確認義務は必ずしも必要ないのではないかというお話ですが、私自身も実はそう思っておりまして、ただ、そういった考え方もあるということでございます。調査確認という要素を仮に入れたとしても、若年者であれば定型的に判断できるであろうということで、今日お話をさせていただいたのですが、決して調査確認をしなければいけないということではないわけです。逆に、今、言った18歳、19歳、20歳ぐらいの年齢を確認すれば、当然ある程度財産などを持っていない、あるいは知識・経験も乏しいことは想定できますし、事業者がかけるコストは年齢を聞くことだけでありますので、それほどコストという面でも問題なかろうと考えております。ただ、それは調査をすることが必要であるとしてもそのコストはほとんどかからないという意味でありますので、調査確認を必要とするという趣旨ではありませんし、今のようなことを敷衍すれば、河上先生の、今、おっしゃったような知り得た範囲という形でもう少し客観化というか、事業者側の要件だけで済ませることも十分可能ではないかと思います。若年者については私自身もそう考えております。

2つ目、つけ込み型不当勧誘について、不当な不利益であるとか、不必要な損害であるとか、こういったものを要件として入れる必要がないのではないかというお話でございましたが、ある程度段階がありまして、そういったようなものを全く必要としない場面もあり得ると思います。実際にそういった状況を使って、当事者にとって全く想定されていない、また、その人にとって適合しないような契約を結ばせること自体、私は問題だという意識は共有しているつもりでございます。

ただ、この提案をさせていただいたのは、いろいろ要件の客観化というような流れの中で、これは、先ほど池本先生からもお話があったように、行き過ぎではないかということは私自身もそう感じていることでございますが、ただ、現行の制定法になりました量的な部分の過量取引という部分との接合性を考えたときに、こういう提案もあり得るのではないかということでございます。ただ、これは一つの提案であって、決してこれでなければだめだということではなくて、むしろ不当な不利益や不必要な損害など、そういうものが必要ない場面もたくさんあると思いますので、そういったところはまた別のルールがあり得るだろうと思っております。

3番目の御質問ですが、18歳、19歳ということに限らず、もう少し年齢的な広がりを持つのではないかということだったかと思います。今日お話ししたのは、従来は20歳未満ということで定型的に保護されていたものの、その定型的な保護の枠組みを外したときに、その代わりの提案ということなのですが、決して私自身も18歳、19歳に限られる話ではなくて、むしろ20歳から急に被害が多くなるのは、そこにまさにつけ込んでいるような形の悪質な商法も散見される、あるいは、悪質とまでは言えなくても、本人にとって十分な理解のないままに必要のないものが取引として行われている部分もありますので、こういった若年者保護ということを考えて少しルールを広げたときには、当然今の大学生ぐらいは対象として取り込まれていくことになるだろうとは考えております。

また雑駁な説明になりましたが、以上のとおりでございます。

○河上委員長 ありがとうございます。

○樋口座長 後藤専門委員、お願いいたします。

○後藤専門委員 成年年齢が引き下げられると、18歳、19歳の人たちの取消権は奪われることになるのですけれども、宮下先生の御提案の中で、取消権という効果を付与するという提案と、そうでない提案とがありますので、そこについては取消権を付与するというところを目指す必要があるのかどうか。それについてまず伺って、その後もしお考えとの間で私の問題意識と共通する点があれば、また御質問したいと思うのですが。

○宮下中央大学大学院法務研究科教授 御質問ありがとうございました。

私自身は、できれば取消権があったほうが望ましいだろうと思います。例えば、市場参加型の損害賠償請求権というルールがあっても、仮にそれが説明とか情報提供が十分ではないという形で損害賠償が認められたときには、よく民法の世界では原状回復的損害賠償などと言いますけれども、結局は若年者である消費者が投下した資本が、そのまま損害賠償として戻ってくることになります。これは、いわば取消しと同じ効果を持つ部分もありますので、そういう意味では、必ずしも取消しということにこだわるわけではないのですけれども、できればこういった相手の状況につけ込んで契約を結んだ場合には、そもそも契約解消というところまでいけるのだという部分があってもいいのではないかという趣旨での御提案でございます。ただ、そこにこだわるわけではありません。

○樋口座長 後藤専門委員、お願いします。

○後藤専門委員 どうもありがとうございます。

御提案の中で取消権を認めるのは、具体的にはこの提案1のところに書いてある立法提案という、そこの考え方をとるということですか。

○宮下中央大学大学院法務研究科教授 これに限定するわけではなくて、現段階でとりあえずはこういう方法もあり得るのかなという御提案でございます。

○後藤専門委員 この立法提案の、これは河上委員長が先ほどお話ししたことと問題意識は同じなのですけれども、特に損害を生じさせることが必要なのかどうかについては、私は疑問を持っていまして、取消しを認めて結果的に損害が回復されること、支払った代金を全部返してもらうなどということは考えられるわけでして、そうすると、結局回復されて損害が生じていない場合にその制度の適用があるのかどうかという問題が出てくるのではないかと思います。ですから、損害を生じさせたときはというのは、取消しの効果を認めるということであれば、むしろ書かないほうがいいのではないかと思います。

あと一つ、立法提案のところで合理的な判断ができない状況を利用するということなのですけれども、これは今度改正された4条4項で、考え方としては合理的な判断ができない事情を利用するものの典型的なものとして、過量契約の取消しということが規定されているわけでありますけれども、仮に消費者契約法に今、提案1の立法提案のような条文を入れるとすると、4条4項との関係がどうなるのかということが問題となってくる。特に4条4項の場合には、過量の契約をしたということが判断要素に入って、それで取消しを認めることにしているわけですから、宮下先生の提案1の立法提案だと、そことのバランスがどうなのかという気がするのです。根本的には合理的な判断ができない場合にプラスアルファとして考慮しなければならないのは何なのかという問題になってくるのですけれども、4条4項の場合には過量ということで要件立てしているわけですが、その要件立ての是非も含めて判断力低下を利用するということだけでいいのか、それにプラスするものが考えられるのかについて、何か御意見があれば教えていただきたいと思います。

○宮下中央大学大学院法務研究科教授 ありがとうございます。

2点、御質問をいただきました。まず、最初の御質問でございますが、損害を生じさせることは不要ではないかということかと思います。私自身もそこにこだわるつもりがないというのは、実は「又は」ということでつないだところに現れております。損害を生じさせる場合もあるだろうし、そうではなくて、事業者側の一方的な過大な利益を得るというところだけが問題となる場合もあるだろうし、逆に、その場合だけでも実はいいのではないかと考えております。つまり、不当な利益を得るという、前半だけでもいいとは考えたのですけれども、後半の部分も場合によっては必要かなということもあって、念のためという意味合いでつけたところです。それが「又は」という言葉のところの趣旨なのですけれども、伝わりにくかったのではないかと反省しているところます。

もう一つは、合理的な判断の状況を利用するということについて、現在の新しくできた4条4項の過量取消権ということでは、合理的な判断ができない状況を利用することに加えて過量というという要素がある、そのプラスアルファしているところとのバランスをどう考えるのかということなのですが、そことのバランスという意味で、事業者側が不当なという表現にするか、同種の契約を締結した場合に、通常生ずべき利益を大きく超えるというようにするか、そこのところは言葉の問題ではありますけれども、そういったところで、少し過量的なものというか、もっとも過量的といっても過量取引の過量ではなくて、一種のプラスアルファの要件を何かつけられないだろうかということを考えたところでございます。今、いろいろ御意見もいただきましたので、それが十分な要件として機能するのかどうかはまた別のところでまた考えてみなければいけないところではあるのですけれども、取消しということになると、合理的な判断の状況を利用しただけということでも難しい部分もあるだろうということでこういう提案をさせていただきました。先ほど河上先生からも御指摘をいただきましたように、必ずしもそういう場合だけではないよ、ということは私自身も認識しているつもりでございます。もう少し幅広い形でカバーできるものはできないかということは、私自身も問題意識は共有しているつもりなのですが、とりあえずこういうものもあり得るだろうという提案でございます。

○後藤専門委員 どうもありがとうございます。

○樋口座長 大森委員、お願いします。

○大森委員 御説明ありがとうございました。

私自身は成年年齢が18歳に下げられた場合、18歳までが未成年者契約の取消しで、30歳ぐらいまでは世の中の契約に慣れる移行期間として、適用性の原則等で守られるといいなと思っていたので、先生の御提案もじっくり聞かせていただいたところなのです。

未成年者契約の取消しは、無条件で年齢で区切られているので、非常に効果が上がりやすい、分かりやすい、個人情報も出す必要がないというところがあります。適合性の原則を使って、緩やかに何歳までと年齢で決めた場合、それがいいのかどうかというところが一つありまして、年齢は非常に分かりやすいし、個人情報も提供しなくていいわけですけれども、昨今の消費者契約を見ると必ずしも年齢と経験が一致しなくて、例えばインターネット関連だったら、成人した人たちよりも未成年者のほうが結構経験があるという場合もあるわけです。未成年者契約の取消しで子供たちを守ることも大事ですけれども、実際に正しい消費者として育てていく期間というものがあると思うので、ただ、無条件に守るのではなくて、自分たちがやらないといけないことなど、学習する機会にしていかないといけないと思うので、その辺がすごく悩ましくて、どうしたらいいのか、私もすごく心配しているところなのです。

私は法律の専門家ではないのですけれども、高校を出た子供たちがすぐ成人になるわけではないので、その社会に適合する間を適合性原則で守っていただけるとありがたいのですが、一方的に甘やかすのではなくて、自分たちがやらなければならないようなことを学べるようなシステムを作っていただきたいということと、実効性のあるものにどれだけなっていくのかを注目しておりますので、よろしくお願いします。

○宮下中央大学大学院法務研究科教授 どうもありがとうございました。

今、年齢と経験が必ずしも一致しないではないかというところは、確かにございます。経験が、例えばインターネットに詳しくなるというような経験をしていたとしても、まさにおっしゃっていたように、それが本当に正しい使い方なのかという意味で経験なのかといわれれば、そうではないと思います。本来はそこまで見ていかなければいけない部分があると思うのです。ですから、私の提案でも、年齢だけではなくて知識・経験、そういったものを総合的に考慮することを前提にした上で御提案させていただいておりますので、今の御意見については賛同するところが多いところでございます。

すいません。長くなりました。ありがとうございました。

○樋口座長 ほかにございますか。

池本座長代理、お願いします。

○池本座長代理 池本です。

もう一点だけ、5ページから6ページに4種類の提案があるということで、4番目は契約の効力論に結びつくものと努力義務という広いものということで、1、2、3はそれぞれの中の一つの分野を取り出しておられますが、これは議論の状況として、何も提案4にあるような2段階を提案することを排除していずれか一方だけというよりは、いずれも否定していないものではないかと私は理解していたのです。

判断力不足あるいは保護というときに、事業者の中の比較的健全にやろうとする自主規制で改善・向上を目指そうとする層と、弱みにつけ込んで問題を起こす層はどうしても出てくるわけで、つけ込んで不当な行為をしようという事業者には、きちんとした民事ルール、取消しなり、損害賠償なりが不可欠だと思います。社会全体の改善・向上という意味では、もっと相対的な努力規定も必要だと思うので、ほかの1、2、3の意見も必ずしもそれを排除する議論の文脈ではないと私は理解したのです。そのあたりは、先生はどう受けとめておられますか。

○宮下中央大学大学院法務研究科教授 どうもありがとうございます。

私の説明が十分ではありませんでしたので、今、まさに池本先生に補足していただいたと思いますが、私の提案は全て併存し得るかなと個人的には思っております。最後の提案4のところも、両方ともあったほうが望ましいのだけれども、仮に法的な効果を付すことは難しいという議論があったときには、一般的な部分でカバーすることも十分可能だという趣旨のお話でありまして、それがだめだったらこちらという話ではなくて、できれば全部実現していただきたいし、実現できるのでないかという、いわば併存した提案でございます。説明不足で申し訳ありませんでした。

○樋口座長 後藤専門委員、お願いします。

○後藤専門委員 提案1の立法提案のところで、少しこだわって申し訳ないのですけれども、判断力不足と知識・経験がどういう関係になるのか、先ほど御発言を伺っていて少し私は疑問に思ったのですけれども、適合性原則の中で、判断力不足はどういう位置づけになると考えていらっしゃいますでしょうか。

○宮下中央大学大学院法務研究科教授 私の理解では、適合性原則は理解力と交渉力の格差がある場面で登場してくるルールですので、判断力不足というのは、今の条文では知識や経験という言葉になっておりますけれども、そういった理解力、要は十分な理解が伴わずに契約に参加するということを防ぐためのルールとしても機能し得るのかなと思います。そういった理解力に関連する、いわば知識・経験に関連するところの根底に、判断力も入ってくるのかなとは考えております。

○後藤専門委員 9ページに条文を示していただいているわけですが、特定商取引法施行規則の第7条の2号と3号なのですけれども、3号は適合性原則を定めた規定だと思うのですが、2号が「判断力の不足に乗じ」ということで、規定としては別立てになっているのです。宮下先生の先ほどの立法提案で、年齢とともに、特に精神的な障害を挙げておりますので、私の見方なのですけれども、これはどちらかというと判断力不足に重点を置いた規定かという印象を受けて、その中で知識・経験など、適合性原則で通常判断要素として言われているものは、この立法提案の中には取り込まれているのかいないのか、そこについてどうお考えでしょうか。

○宮下中央大学大学院法務研究科教授 ありがとうございます。

もちろん、今、御指摘がありましたように、例えば7条2号、3号のところでは、いわゆるつけ込み型のような判断力不足に乗じた場合と、適合性原則と言われる場面とを分けて規定しているわけでありまして、私自身もその2つが同じだとは全く思っておりません。ただ、一種のつけ込み型は、適合性原則そのものではないのですけれども、それの一つの考え方が現れた場面でもあろうと思っておりまして、そういったところで、現行の消費者契約法の議論の中で、適合性原則を正面から議論するのはどうも難しいという状況を踏まえた上で、最低限つけ込み型というところで、いわば、その思想を少しだけでも実現できないであろうかという趣旨の提案であります。適合性原則そのものを立法化することを否定するのではなくて、むしろそれは望ましいことだと思っているのですけれども、現行の議論状況を考えた上で、こちらのほうでとりあえずは提案してみたということでございまして、先生の御指摘のように、私自身は2つは違うものだという認識がありますので、できればもし両方規定できるのであれば若年者保護にも十分つながっていく部分が多いのではないかとは考えております。ありがとうございます。

○樋口座長 ありがとうございます。

河上委員長、お願いいたします。

○河上委員長 先ほどの客観化の問題をもうちょっと突っ込んでお伺いしたいのですが、消費者契約法の中にルールが入った場合に、例えば適格消費者団体であるとか、特定適格消費者団体が、差止め訴訟であったり、場合によっては取消権を行使できるような無効状態の確認をする第1段階の訴訟をやることになります。そのときに、個々の消費者に対する関係でつけ込んだことを立証することはほぼ不可能であって、何らかの形で定型的な判断ができるような要件立てにしておくことが望ましいのではないかということが考えられます。その点について、どうお考えなのかということであります。

もう一つ、状況を利用するという言葉の意味なのですが、状況を利用するといったときは、利用するという言葉自身が、恐らく相手方の状況を自分の利益のために用いるということになるのだろうと思うのです。ですから、その意味では、状況を利用するということの中に、もう既に一定の違法な要素が含まれているという理解が可能かどうかというあたりです。個人的にはできるだけ要件を客観的にしてしまって、定型的に判断できるようなルール化が望ましいのではないかという気持ちがあったものですから、その辺についてのお考えをお聞かせください。

○宮下中央大学大学院法務研究科教授 どうもありがとうございます。

今の2点は、大変重要な御指摘ではないかと受けとめております。

まず、差止請求権というところまで考えると、もう少し要件は客観的でなければいけないのではないかという点です。確かに不実告知など、ああいうものについては、例えば業者のいろいろな文書など、そういったもので基礎づけられる部分も多いでしょうし、ほかのところでも断定的判断などは、そういうところもあるのだとは思うのです。ただ、例えば、断定的判断の提供であっても文書等では基礎づけられない場合とか、つけ込み型、つまり、今、私の提案しているようなものも、確かに個々の一つ一つを立証するのは難しくても、同じような事例が発生しているのであれば、それをつかまえることは決して不可能でもないのかなとは思っているのです。どういうところまで定型化していくのかは、確かに問題になるところです。次の御質問にあった点で、状況を利用するというのも自分の利益のために利用するということなのですが、状況を利用するというところを、いわば自分の利益のためにというところでできるだけ客観的に捉えられないだろうかということで要件を考えてみました。ただ、通常得られる利益に比べて過大な、と言うと、ちょっとぐらいはもうけることは普通にあるので、著しく過大な利益を得ているという形で提案させていただきました。それが、不当な、という言葉の趣旨です。つまり、不当なという言葉を客観化するつもりで代替案ということにしたわけです。何とか、そうした不当な等位部分を客観的に捉えて差止めにまでつなげられないかという思いはあるのですけれども、なかなかそこのところがうまく言葉にできなかった部分はございます。その点の問題意識は共有しておりまして、そこのところを何とかしようとしたのがこの取消権の提案なのですが、それでは不十分ではないかということはおっしゃるとおりでございます。ただ、実はここはいろいろ言葉を考えてみたのですけれども、なかなかうまくつながらなかったものですから、できるだけ客観化できるように、代替案ということで括弧に入っているところを提案させていただいたということでございます。

○樋口座長 ありがとうございました。よろしいでしょうか。

それでは、宮下教授へのヒアリングはこのあたりにさせていただきたいと思います。ありがとうございました。

○宮下中央大学大学院法務研究科教授 ありがとうございました。

(2)坂東京都産業大学大学院法務研究科教授

○樋口座長 次に、京都産業大学大学院法務研究科の坂東教授に御説明をお願いしたいと思います。

坂東教授は、消費者の視点から見た契約法、21世紀型消費者政策の在り方を研究テーマに挙げておられ、消費者が正当に権利を行使できるための、法的・制度的環境整備について、民事法を基盤に整理する観点から研究をされておられます。

本日は、「未成年者取消権が果たしてきた役割と若年消費者保護の課題」についてお話しいただきます。

それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

○坂東京都産業大学大学院法務研究科教授 御紹介をいただきました、坂東と申します。

久々の面接試験を受けるような気持ちでここに座っています。困ったなと思っていますが、限られた時間ですので、早速お話をさせていただきたいと思います。

今日、私がお話をしたいと思っているのは、主に3つです。

1つ目は、もう既にこのワーキング・グループの1回目でも御議論されていましたが、若者の契約被害の現状と未成年者取消権がそこに果たしてきた役割をまず確認したいと思います。

2つ目に、その未成年者取消権が民法に規定されていながら、いわゆる消費者被害の救済に実際には活用されるに至った、その過程の中で、どういうことが未成年者取消権の中で問われ、変化してきたのかを確認したいと思います。

その上で、それらを前提に成年年齢の引下げに対する私の考え方と、その前提となる法的条件について、宮下先生の御報告につなげる形でまとめをしたいと思っています。

お手元に資料があるかと思いますが、それに従って御報告をします。

まず、若者の契約被害の現状と未成年者取消権の意義ですが、1ページ目の真ん中あたりの(2)消費者法理としての未成年者取消権の意義というところに簡潔にまとめてあります。

もう既に先生方は全て御存じのとおり、未成年者に関わる消費生活センターに寄せられる相談件数は3%程度、件数も非常に低いものになっています。なぜそうかという点を考えれば、恐らく未成年者取消権という権利があることが、その被害を事前に抑止し、また、救済法理としても機能してきていると考えることができるのではないかと思います。

逆に言うと、そのことは裏返しがありまして、3ページに簡潔にまとめておきましたが、国民生活センターのホームページの記載によると、いわゆる20歳代あるいは20歳以上として主に比較的若い成年層がターゲットになっている問題商法として、マルチ商法やサイドビジネス商法が挙げられています。その下には、国民生活センターの投資用DVDのマルチ商法に関する記載をまとめておきましたが、例えば相談のあった815人の契約当事者のうち、20歳から21歳のものが85.3%を占めているということです。これらの取引においては、20歳になった途端に自立した大人として自分で判断しなさいという勧誘文句で、まさしく知識や経験の不足に乗じて契約を直ちに締結させるという被害が、ここからは見てとれるわけです。このことは、逆に言えば未成年者取消権があることがいかに消費者被害の予防や救済にとって大きな意味を持っているのかを示唆している話ではないかと思います。

一方で現在の相談の実態を見ると、1ページ、先ほどの約2万件強の未成年者からの相談のうち、実はその1万5,000件ぐらいが、デジタルコンテンツに関する相談です。端的に言うと、いわゆるオンラインゲームを含めたデジタルコンテンツに関していけば、ひょっとすると、未成年者取消権の行使でもって救済を図ることが十分にはできていないのかもしれないということをここからは見てとることができます。

それらのことを前提に、次に、未成年者取消権がどのような意味を実際のところ持っているのかについて確認をしたいと思います。これも周知のことではありますが、未成年者取消権は、我が国に民法が制定された1896年以来ずっと規定をされて、その内容に大きな変化はありません。民法が制定された当時に、消費者問題という概念はその当時の社会にはなかったわけでありますから、未成年者取消権が当初から消費者被害の救済のために使われる規定として想定されて立法化されたことでないことは明らかです。ただ、市民法として制定されている民法には、いずれの国においても未成年者を保護する規定が共通に設けられております。川角先生の論文の記載を借りれば、「市民法にとってその担い手を絶えず生み出していくために、市民一人ひとりがその身体に刻み込み、尊重すべきところの第1次的な法的価値基準」が未成年者保護であると指摘をされていて、この指摘は正当ではないかと思っています。未成年者取消権をどのように規定し、その年齢を幾つにするのかというのは、なるほど、政策的な問題であろうと思います。しかし、それを下げる場合には、そのための覚悟をどのように私たちが、社会として、していくのかを認識する必要があるのだと思います。

次に、2ページ、(3)に未成年者取消権の実際と書きました。実は、未成年者取消権が消費者保護のために大きな意義を有しているにしても、その未成年者というのは、実は年齢的には非常に幅が広いのです。つまり、意思無能力のところは話がややこしくなるので、今日は置いておいて、出生から20歳までと、未成年者の年齢は幅が広いです。

また、個々の未成年者の状態も恐らくそれぞれ異なっています。未成年者取消権が大きな意義を持つのは、それが画一的な要件でもって適用され、その効果が取消しという非常に強い効果を持っている。しかも、返還義務の範囲が現存利益に限定されているといった性格があるからこそ使いやすいということが現実としてあるわけです。一方で、未成年者の年齢も幅広く、それぞれの状態が違うということは、それを取り込んだ適用ができるような、いわば変化に対応できる物差しを、規範を、民法の中にも用意していく必要があるという意味なのだと思います。

その役割を果たしているのが、民法5条3項の法定代理人が事前に処分を許した財産ということの解釈なのだろうと思います。法定代理人が事前に処分を許した財産というものは、よく講義では、例として小遣いが挙げられます。小遣いあるいは仕送りでも結構ですが、恐らく未成年者の年齢によって、その額もその使用目的も異なっています。つまり、未成年者取消権という画一的な条項の中に、実は伸び縮みする規範が準備されているということなのだろうと思います。先ほど、だんだん未成年者が大人になっていくのだ、蓄積していくのだという話がありましたが、実はまさしくそこがもう民法の枠の中に準備されているのだと私は思います。

そうなのですが、一方でその準備されている柔軟な規範を利用して、取引の現場で契約の締結を迫る実態が実はあるのです。典型的に言うと、そのことが茨木簡易裁判所の昭和60年判決で問われています。これは、18歳の仕事を持っている女性が、いわゆるキャッチセールスによって16万円余りのエステと化粧品の契約を締結してしまった事案です。一つのポイントは、クレジット契約によって、1カ月あたりの支払い金額が1万5,000円になっていた。その1万5,000円という金額と16万円余りという全体の金額が、この仕事をすることを許可されている女性にとって、事前に処分を許された財産に入るのかが問題になったわけです。結果的に裁判所は、クレジット契約の場合には、1回でも支払いが遅れたら期限の利益を喪失するのだから、従って、代金額全額で判断すべきであるとして、結論的には、16万円という金額は8万円程度の手取りの女性にとって、事前に処分を許された財産とするには高額に過ぎるとして、端的に言えば取消権を認めたわけです。

ここでは、もちろん金額的にそれが事前に処分を許された財産に該当するのかどうかが争われていますが、理論的に言うと、働くことについての同意を得た未成年者が、その働いたことによって得た賃金をどういう形で使ってもいいのかというところも実は問題になっています。

2ページの一番上に挙げていますが、この判決を評論されている加賀山先生は、「少額のため、通常では裁判にならないような、しかも市民の日常生活において煩雑に起こりうる事例が、裁判事例となり、正当な判断が下されたのは、この事件が消費者問題の典型例としての側面を持っていたからであろう」と評価されています。言わんとする趣旨は、本件は金額の判断だけで高額に過ぎるといって取消権を認めましたが、一方で、これが若い女性に対するエステと化粧品の16万円もする契約をキャッチセールスによって締結させた事案であるということが、実は影響を与えていたのではないかという指摘だろうと思います。

先ほど、ネット取引において、未成年者取消権が、私の表現で言えば、揺らいでいる状況があるとも御説明を申し上げました。ネット取引に関して最も大きな問題は、そのネット取引をする際に、年齢確認の画面が提供されていて、そこに20以上の数字を未成年者が入力したならば、そのことは、現行民法の21条の詐術に該当するのかどうかが争われているわけです。21条の規定は様々な解釈があって、だまされなければいけない、だまされたことに事業者側に過失があってはならないと、もちろん考えておられるわけですから、過失の評価の中の枠組みとして、そこに様々な要素が入ってくるだろうということは、そのとおりです。

現実に、どういった点が詐術の認定、これも未成年者取消権の成否を決定づける判断でありますが、問題になっているのかをまとめたものとして、2ページの(3)のマル2に、経済産業省が平成28年6月に出した準則の該当部分を記載しておきました。「詐術を用いたものに当たるかは、未成年者の年齢、商品・役務が未成年者が取引に入ることが想定される性質のものか否か及びこれらの事情に対応して事業者が設定する未成年者か否かの確認のための画面上の表示が未成年者に対する警告の意味を認識させるに足りる内容の表示であるか、未成年者が取引に入る可能性の程度等に応じて不実の入力により取引を困難にする年齢確認の仕組みとなっているか等、個別具体的な事情を総合考慮した上で、実質的な視点から判断される」と書いています。この準則はこれまで基本になってきた考え方をまとめたものとして評価することができます。そしてここでも、取引の仕組みやそれに未成年者が誘引される状況への配慮が問題とされています。

以上、簡潔に申し上げてきましたが、民法の条文だけでいえば、未成年者のする契約が有効になるためには、法定代理人の同意が必要なはずです。法定代理人の同意がない契約は、取消しの対象になります。もっとも、これはなかなかよくできた仕組みでして、取消権の意思表示がなければ、未成年者がした契約の効力は維持されるわけですから、現実に法定代理人の同意がない未成年者契約のかなりの部分が、ひょっとすると大部分が、取消権の行使をされることなく、いわば契約として完結しているであろうことも事実だろうと思います。

その未成年者取消権の行使の可否の判断には、親権者の先ほど言った事前に処分を許された財産の解釈の場面においても、あるいは詐術に関する解釈の場面においても、未成年者の年齢、これは18歳、19歳であるか、もっと若い、小学校、中学校であるかといったことも含めたもの、それから、その取引の対応、金額あるいは勧誘の対応などが、総合的に考慮されていることを御理解いただけるのではないかと思います。言わんとするところは、いわば未成年者取消権の実際の行使の成否の場面で、取引内容あるいは未成年者の年齢、それから、勧誘行為の対応といった消費者法理で問題とされるような要素が、未成年者取消権の行使そのものの中に判断が組み込まれているということを、実は御説明したかった次第です。

4ページです。以上のことを前提とすると、まず成年になる年齢が引き下げられるということは、未成年者取消権ができなくなるだけではなくて、そこで評価されていた取引内容あるいは未成年者自身の属性などに関する消費者法的考慮も失うことになります。したがって、その点をいかに維持するのかは、とても重要な課題であると思います。マルチやサイドビジネス商法などによる被害が大きな問題になっている現実を踏まえると、まず一つの視点は、特商法などによってこうした取引に限定した若年層を対象とする取消権の付与ももちろん考えられると思います。しかし、それよりは、既に消費者委員会でも議論がされているように、より幅広く消費者契約に関する法理を考慮することが、私は妥当ではないかと思います。消費者契約法に新たな規定を整備することが最も適切な考え方ではないかと、私は考えております。

主な方法は、2つの考え方があると思います。既に宮下先生からも御報告のあったとおりですが、従来、金融取引に関して立法されて議論されている適合性の原則の範囲を広げて、消費者契約に関する基本原則とするとともに、それに関する民事上の法的効果を明確にするということが一つの方法だと思います。

既に申し上げたとおり、未成年者取消権の行使の可否で、実質的に判断されている内容は、法定代理人の同意を前提としつつも、当該取引の金額であるとか内容、勧誘に際しての事情などが、当該未成年者にとって適切なものであったのかどうかの評価ができるのかにあるわけです。つまり、そういった考え方の中に広い意味での適合性の評価は既に組み込まれているとも言えるわけです。

あるいは、合理的判断ができない状況を利用した、いわゆるつけ込み型勧誘について取消権を付与するといった方法もあるかと思います。これについては、もう既に随分詳しい議論がなされていたと思いますが、今回の消費者契約法改正によって、消費者契約一般に、過量等を理由とする条項の新設がなされたわけです。なるほど、あの条項の新設についての議論は、高齢者への次々販売などを念頭に置いて規定されたものですが、こうしたつけ込み型勧誘を具体化して、それを高齢者等に限定することなく広く適用することは可能だし、現行の条文も決して高齢者に限った形で規定されているわけではありません。したがって、4条4項を広げることによって、いわば、つけ込み型勧誘の規制を若年層にも及ぼすことができるという考え方をとることはできないであろうかということが、2つ目の方法だと思います。

最後に、私の考え方をまとめたいと思います。

まず、第1点として、未成年者に係る民法の規定が果たしている役割を考えれば、成年年齢の見直しという議論は、まずは基本的には慎重に対応されるべきだと思います。慎重に対応されることを前提に成年年齢を引き下げるためには、幾つかの法律的議論の整理が必要です。

1つ目は、民法の未成年者取消権に、従来果たしてきた消費者法としての役割を組み込むことができないかどうかということの検討です。現在は法定代理人の同意が有効のための要件となっていますが、本当にそれだけで足りるのだろうかということです。

2つ目は、消費者契約法に、既に述べたように、年齢や金額、取引の性質、勧誘の実際などを考慮して、合理的な契約を締結することができる法的な基盤、あるいは消費者の状況につけ込んで締結させた契約の効力などを問題とすることができる規定を整備することだと思います。

これによって、未成年者取消権で実現をしている価値を、その後の年齢の消費者契約につなげることができます。その観点を大切にすることが、結果的にはそうした条項を有効に機能させるための前提になるのではないかと私は考えております。

少し時間をオーバーしたかもしれません。以上で私のお話を終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

○樋口座長 どうもありがとうございました。

ただいまの御説明を踏まえまして、御質問、御意見のある方は御発言をお願いしたいと思います。

池本座長代理、お願いします。

○池本座長代理 貴重な御報告ありがとうございました。決して面接試験でなくて、ゼミで教授の貴重な御意見をお伺いしたことにも感謝申し上げます。

冒頭に強調されましたように、未成年者取消権の取引社会の中での意味をきちんと押さえた上で議論をしていかなければいけないということは全くそのとおりだと思います。実は、内閣府が実施している成年年齢引下げに関するアンケート調査でも、平成20年の調査と平成25年の調査で、成年年齢引下げについてむしろ反対する意見は、減るどころか若干増えているぐらいの流れで、その意味では、社会的に未熟な者をきちんと社会の中で保護していくという基本の社会の中での価値判断は変わっていないと思います。それが事業者の中の一部で、まさにそういう弱い者をつけ狙うという風潮と、もう一つ先生から御指摘のあったネット取引の特徴のために揺らいでいるという問題の2つの側面があるのではないかと思います。その意味で、まず弱い者を狙うという悪質商法型の流れに対しては、きちんと弱者につけ込むような取引について、取消権を付与する。その要件立ては先ほども議論がありましたが、そういった未成年者取消権にかわる実質的な救済法理が必要なのだと思います。

こういう考え方を先生の御意見の延長線で位置づけてよいのかどうかということで質問をさせていただきたいのですが、ネット取引の場合に、対面していないから相手の素性が分からないので、形式的に年齢を入力する、あるいは、「親権者の同意はあります」に「はい」とクリックすれば、それでもう確認が終わったかのように言われているのに対して、先ほど御紹介がありました経産省の準則の根本の考え方はまさにそのとおりだと思うのです。そこで、以前にインターネットの取引で、非常に分かりにくい画面構成のために誤認して契約することを防ぐために、確認訂正画面を設定することとし、それがない場合には、錯誤無効の主張に対してただし書を適用しない、という電子消費者契約特例法3条の規定が設けられたいきさつがあります。そうだとすると、例えば未成年者の利用を想定するような情報サービスの取引の場合には、それに見合う画面設定、年齢も、ただ形式的なものでなくて、先ほどの準則にあるような考え方を、特定商取引法になるのかもしれませんが、画面設定の中で確認するに足るものを要求し、そうでない場合は救済の法理、先ほどの適合性なり、そちらにつなげることが制度的に可能なのかどうか、そのあたりについて御意見をお伺いできれば幸いです。

○坂東京都産業大学大学院法務研究科教授 ありがとうございます。

恐らく未成年者取消権を、成年年齢を下げることによって議論をする場合には、ネット取引に対する対応をどうしておくかについての一定の準備をしておかなければいけないということは、今、池本先生御指摘のとおりだと思います。そこの視点は、恐らく画面上で数字を入力させたり、親権者の同意があるかということのイエス、ノーを記載させるだけでは、先ほどの準則からしても全く不十分です。結局のところ、キーワードになるのは、なぜそこで相当大きな額の決済ができるのかというと、親のクレジットカードの番号を入力して、親のカードによっての決済をかませることによって子供たちは相当な金額の取引ができてしまうわけです。ということは、その年齢記載の場面もそうですし、親のクレジットカードを使っている場面でもそうですが、基本的には本人確認の仕組みがどの段階でもきちんと機能していない。それをどういう形で機能させるように整備するか、法的に作っていくのかということの議論をきちんとしておかなければ、そこはエアポケットのように未成年者の保護が十分に図れていないところなのだと思います。

一方で、ネット取引は先ほど大森委員からのお話もあったように、実は大人よりも子供たちのほうが慣れていて、法律的な意味はともかく、どういうことをすれば物が買えるのかは分かっているという現実があるわけです。そこに対する物事の対処は、今、池本先生がおっしゃったとおりで、特商法で議論をするのか、それとも一方で議論されている割賦販売も含めた本人確認の議論をどうやってかませていくのかということも総合的に考えながら、対応せざるを得ない、そういう領域かと思います。

○樋口座長 よろしいでしょうか。

河上委員長、お願いします。

○河上委員長 未成年者取消権に関する民法の考え方にさかのぼって、非常に説得的な御議論を伺うことができたのですが、現行法の問題として考えていただいて、お教えいただければと思うのです。例えば、ネット取引のような非対面取引の場合に、年齢の要素はどの程度問題にできるのか。今後の立法的手当てをすればどうなるかというよりも、現行法で考えていったときにどの程度問題になり得るのか。特に未成年者による年齢詐称の問題を今日も扱っていただきましたけれども、そもそもアクセスが許容されている状態で、未成年者が何らかの取引活動をした場合に、現行法で考えたときに、なお、取消権は行使できると一般的に言ってもよいのかどうか。

もう一点、親の同意権の話が出てまいりましたけれども、よく大学に行く子に対してカードを渡して、子供に月々の生活や学習に関する必要は、このカードから使えということで、カード利用を認めているというときに、親の一般的同意というものが考えられるのかどうか。特に営業許可などは現行法でも認めているわけですが、そういうカード利用に関しての親の同意を現行法で考えたときに、坂東先生自身はどう評価されているのかというあたりから、今日のお話の意味を考えたいのですが、いかがでしょうか。

○坂東京都産業大学大学院法務研究科教授 ありがとうございます。

恐らく、今、先生から御質問をいただいた2つのことは、共通の部分がある。つまり、アクセスの許可をしている親の同意があるわけですね。それを前提としたら、ネットアクセスをしているところから派生してくるような取引についても、ましてやその段階で未成年者が年齢詐称をしている場合には、親の同意といった影響が、その他の個別契約にも及ぶのではないか。あるいは先ほどのクレジットカードを大学生になった途端に生活費として渡す場面からいけば、クレジットカードを持たせるということの同意の中に、少なくともその利用限度額の範囲内では未成年者が自由に取引していいという意思が中に組み込まれているのではないかという、ともに問題状況としては同じような問題が生ずる議論かと思います。

ただ、既に河上先生にヒントをいただいて恐縮ですが、民法の規定にもその性質に違いがある。営業の許可に関する現行民法の条文は、明らかに行為能力を創設する効果を持った条文です。それ以外の5条の規定は、あくまで法定代理人の同意を前提として、その同意の範囲内で権限を行使することができることを例外的に認めているにすぎません。そう考えると、先ほどのお話で言えば、大学生にカードを渡したということで、親が同意している内容は、恐らく生活費や、そういったものの枠組みの範囲としてそのカードの利用限度額までを利用しなさいという趣旨だろうと思います。突然それを使って、変な言い方ですが、毛皮のコートを買うことは親は想定していないだろう。つまり、何が言いたいのかというと、結局のところ、その後の個別契約の評価についても、それぞれに親の同意の枠の範囲内にあると考えられるのかどうか。端的に言えば、同意を擬制することができるのかどうかという観点で評価せざるを得ないのだと思います。

結局のところ、同意を擬制できるのかどうかという評価の観点の枠の中で、金額的な問題や年齢的な問題や取引の対応の問題といったような、先ほど言った一種の適切さの評価。適合性とまではあえて言いませんが、適切さの評価がその中に組み込まれて、したがって、理屈的に言うと、前提となる同意によって行為能力が創設されていない以上、後の契約についても基本的には個別の同意が必要。でも、一方でクレジットカードを渡しているわけですから、その同意の範囲内であれば、契約は自由に締結してもいいということが、きっと帰結なのだと思います。ただ、理屈はそう言えても、現実のところは評価が難しいですねと言われたら、全くそのとおりです。ただ、未成年者取消権に関わる部分は、親の同意の確認も含めて実は評価が難しい要素がたくさん組み込まれています。さらにもっと言うと、親の同意がなくても取消権を行使しないで契約がそのまま有効に流れていっているものも大部分あるような、そういう前提の中での今の議論です。ですから、取消しが問題となるような事案の場合は、その契約の中身を評価した上で、親権者の同意を推定できるのかどうかが、結局のところ争点になるのではないかと私は思っています。

○河上委員長 そうだとすると、法定代理人の同意というかなりファジーな調整弁にかわるものとして、枠組みで、例えばで結構ですけれども、何か坂東先生のアイデアがあったら教えていただければと思います。

○坂東京都産業大学大学院法務研究科教授 私は今、河上先生に乗せられているのだなと認識しながらお話をしますが、今度また『消費者法研究』にも書かせていただいたところですが、法定代理人の同意は、今でも大切だと思います。例えば3ページのところに変な図を描きましたが、未成年者が年齢に応じて契約が恐らく単独でもできるだろうというのは、小学校に入った途端、中学校に入った途端、能力がちょっとまた上がっていって、こういうことで、現実問題で言えば20歳になっても実は行為能力で我々が想定しているような能力はないのです。ところが、そこは擬制的に上げる、そういう価値判断を私たちはしているのだと思うのですが、それ以外の大部分は、法定代理人が同意をするか、または代理して契約するしかないわけですから、法定代理人の同意ということの持っている意味は大切だと私は思います。

ただ、消費者問題が生ずる場合には、親ですらちゃんとした判断ができない様々な取引が出てきているのも事実ですから、そこのところのポイントとしては、未成年者が制限行為能力者の1類型として評価され続けてきていることを思い起こすべきだと思います。簡単に言ったら、日常生活に係る契約については、表現はよくないかもしれませんが、成年被後見人ですら単独でできるとしているわけですから、未成年者についても、先ほどのだんだん練習をしていくことを考えると、恐らく6歳の小学生の未成年者が日常生活に必要とする契約と、18歳の大学生がそれに必要とする契約は相当違うだろうと。そういう中から、いろいろな大人になっていくための契約レッスンをしていくのだと考えると、成年被後見人に関する議論をしたとき、自己決定を促しながら保護を図っていく仕組みを考えたわけですが、本当は未成年者の場面でも考えるべきではないか。そして、成年被後見人の議論をした際の様々な成果がひょっとすると使えるのではないかということが、私の思いです。これはもちろん立法論です。

○樋口座長 後藤専門委員、お願いします。

○後藤専門委員 大変勉強になりました。どうもありがとうございました。

消費者取引に関する問題が、従来、高齢者に着目されがちだったと思うのですけれども、坂東先生は、長い間、むしろ未成年者にも着目してこういう問題を考えていらっしゃったということで、そういう観点から、今日のお話も非常に興味深かったのです。この未成年者に対する今回の成年年齢引下げの機会を契機とした保護、そういうことを考える場合に、議論の流れとしては、宮下先生の御報告は、どちらかというと年齢ということに着目して、高齢者と未成年者を特に、大ざっぱな言い方で、そう言うことができるかどうか分からないのですけれども、余り分けずに両者とも判断力か乏しいという形でくくるということだったのではないかと思います。

一方、今日の坂東先生のお話は割と未成年者に特化した話として伺いまして、今の河上委員長とのやりとりを伺っていても、未成年者としての保護を考えるという方向があったのではないかと思います。そうだとすると、例えば4条4項のところに年齢的なものを入れて、高齢者と未成年者を考慮するような立法よりも、むしろ未成年に特化した立法を、消費者契約法なりで考えるという方向もあり得るのだろうと今日感じたわけであります。そうだとして、御自身のお考え、あるいは外国で特に制限行為能力者だという側面からの保護ということにプラスして、未成年者だからこういう保護があるということが行われているということであれば、そういうことも御紹介していただければありがたいと思います。外国の状況と、立法の方向として未成年者に特化したほうがいいのか、あるいは高齢者と同じ方向の議論でいいのか、この2点についてお願いいたします。

○坂東京都産業大学大学院法務研究科教授 ありがとうございます。

断言をすることはできませんが、宮下先生が御提案なさったようなものが、私はまず土台になるだろうと思います。ですから、決して未成年者に特化した形での条項がなければいけないと主張する気はありません。ただ、一方で適合性の原則であるとか、今、私は未成年者取消権の中身で適切さの評価がなされているという言い方をして、いわば適合性で議論するようなことが実は組み込まれているのだ、消費者保護としての記載が、未成年者取消権の中に組み込まれているのだと申し上げたつもりです。一方で、少し考えなければいけないのは、適合性の原則であるとか、あるいはつけ込み型勧誘は、私は一般条項的に記載するしかないだろうと思っています。とすると、未成年者がそれで問題になったときに、その条項を使って議論をすることができるのかというと、未成年者の議論は、従来も要件が画一的で非常に主張しやすかったからこそ大きな意味を持っていました。そうだとすると、一般的な土台を置いておくだけでは、恐らく未成年者保護の規定としては十分ではなかろう。簡単に言ったら、ネット取引のところで揺らいでいるという現実があるとすれば、そこに関する手当てはしておかなければ、結局のところ成年年齢は下げる、未成年者取消権は新しい取引領域では使いにくくなるのでは、結局のところ踏んだり蹴ったりだという気がします。ですから、未成年者取消権の行使に関わる部分についての充実も図る必要があるのではないか。

イギリスが未成年者の年齢を21歳から18歳に下げる提案をする前の政府提案で、実は16歳に下げるという話が最初にあったのです。16歳に下げる提案の中身をして、パブコメのようなことをやったのですが、16歳に下げるときに、一つの条件として、ただし、16歳以下の未成年者がした契約については、ボイダブルと言いますが、要するに、無効主張がいつでもできるのだという発想であります。片面的効力のような話でありまして、その際には、年齢詐称したとしても無効主張ができる。一言で言えば、16歳以下の者に年齢詐称されたら、それは事業者はもって瞑すべしだと。年齢詐称に関する規定も取消権を排除しないという提案を実はされたことがあります。つまり、徹底的に16歳以下は保護するかわりに、16歳以上になるとイギリスでは就職できるものですから、したがって、その就職をするとの関係で行為能力を付与するという提案をされたことがあります。ただ、最終的にはそれは採用されませんでした。採用されませんでしたが、例えばそういう議論をしたという経緯があるわけでありまして、現に問題となっているところにどういう対処をするのかの評価は、いずれにしてもやらなければいけないのだと思います。

○樋口座長 ありがとうございます。

大森委員、お願いします。

○大森委員 お話を伺って、いろいろなことが分かりまして、未成年者取消権の範囲の中でもいろいろな問題があること、成年年齢を引き下げるといろいろな規定の見直しとか、準備が要ることがよく分かったのですけれども、なかなか法的な準備の規定だけでは効力があるのかなということがとても心配です。今、イギリスのお話を聞いてすごく共感したといいますか、だから、基本的にはお互いが内容を十分理解した上でしか契約は結べない、本人同士の関係だというところをもっと周知徹底して、業界の自主規制などをもうちょっと頑張ってもらって、そういう詐称できるような画面を作ったのは業界側のミスであるから、自分たちは責任を一切負わないといけないとか、そういう方向に持っていけたらいいなと、感想になるのですけれども、思いました。

○坂東京都産業大学大学院法務研究科教授 ありがとうございます。

例えば法律によらず、業界の自主規制などでネット取引に関しての年齢確認に関するルールを設けるということも、なるほど一つの考え方かなと思います。ネット取引の場合は、余り法規制になじまないということも確かに分かります。ただ、どうもそういうネットに関わる業者は、様々な事業者がいるようでありまして、業界というくくりで物事をつかまえることが本当に可能かというと、必ずしもそうではないような気がします。そうすると、ある程度法律的なルールを定めた上で、明確にした上で、その中で、事業者の方々に様々な御努力をいただく。例えば、今回の消費者契約法に入る4条4項ですね。あれなども、私は一番最初にそのボールが投げられているのは事業者だと思っています。普通の事業者が過量な契約になったときに、その取引を買いたい人には売るではないルールとして対処するために、どうビジネスモデルを作っていくのかが問われているわけです。あの条文は使い勝手がいいのかどうかなどという議論はともかくとして、少なくとも事業者としてはそれについてビジネスモデルを考えるきっかけになるのは事実ですから、そういう投げ方をしていかないと、物事は前に進んでいかないのではないかと思います。お答えになっていないと思いますが。

○樋口座長 いかがでしょうか。

それでは、坂東教授へのヒアリングはこのあたりにさせていただきます。ありがとうございました。

○坂東京都産業大学大学院法務研究科教授 ありがとうございました。

(3)中田龍谷大学法科大学院教授

○樋口座長 次に、龍谷大学法科大学院の中田教授に御説明をお願いしたいと思います。

中田教授は、民法、消費者法、EU法などを御専門とされていますが、特にヨーロッパにおける消費者法、消費者契約法の展開と日本法との対比の中で、ヨーロッパや日本の抱える消費者法、消費者契約法、広告規制法に関する具体的な問題点を分析・研究されておられます。

本日は、ドイツ法にも触れながら、「不公正取引方法指令における『攻撃的取引方法(aggressive commercial practices)』の意義について」のお話をいただけるものと伺っております。

それでは、早速でございますが、どうぞよろしくお願いいたします。

○中田龍谷大学法科大学院教授 ただいま御紹介をいただきました、龍谷大学の中田と申します。

本日はこのような場で御報告する機会を与えられて、大変光栄に思っております。

今日の報告の内容は、EU公正取引方法指令における攻撃的取引方法と、それに関係するドイツ法の内容です。

ヨーロッパの状況については、未成年者という区切りはおおむね18歳です。この間、スペインから女性の研究者をこちらに招聘したときに今、日本では成年年齢の引下げをやっているのだとお話ししたところ、何歳になるのかと聞かれて、20歳から18歳にと説明すると、18歳はもう大人だと言われてしまいました。日本はそうではなくて、受験勉強に集中する結果、全く社会的な経験がない大学生がたくさんいるのだという話をいたしました。

ただ、ヨーロッパでの規制は18歳を成年年齢として、それ以下のところもあるかもしれませんけれども、そういう中で、今日も先ほどお話があったような消費者個人をどう保護していくのかという問題とかかわって、未成年者の保護も問題が存在していると考えています。また、消費者の保護がそうした年齢においても十全に図れる体制がとれるのであればそれで足りることにもなります。また、年齢や社会経験を考慮して消費者を保護できる可能性があれば、そういう意味で成年年齢18歳に引き下げても大丈夫だということになるかもしれないとも考えております。それについて、ヨーロッパの法規制が御参考になれば幸いです。

さて、今日のレジュメの参考文献のところを御覧ください。幾つか挙げさせていただいています。マトリックスの8ページのところも参考文献を挙げております。鹿野先生の論文「EUにおける広告規制と消費者の保護」は、鹿野先生と私が編集した『ヨーロッパ消費者法・広告規制法の動向と日本法』に所収されています。また、この本の中には関係の論文が収められています。とくに、今日お話しするドイツやヨーロッパの不正競争防止法については、原田昌和先生の手による翻訳ですが、『消費者法の現代化と集団的権利保護』という書物の中に収録されているアンスガー・オーリー「ヨーロッパ不正競争防止法」という論文も参考にしてもらえればと思います。

なお、今日出席されている先生方は恐らく消費者法学会でドイツ不正競争防止法についての私の話をお聞きになっていることもありますので、それについては簡単にさせていただきます。それでは、レジュメの1ページを御参照ください。

まず、不公正取引方法指令の内容について説明いたします。これは2005年に制定されたもので、事業者の消費者に対する不公正な取引方法について規律したものであります。この指令は、不公正な取引方法を一般的かつ包括的に禁止することを目的にしております。その構造は、ヨーロッパ的な文脈において理解されるところの「不公正」という観念を使って、その後に、誤認惹起的取引方法と攻撃的取引方法という下位概念を作って、これによって不公正な取引方法を包括的に禁止するものです。

この指令は、域内市場の基本ルールとしての内容を持つ指令でありまして、EU法ではかなり多くの指令が出ていますが、そのなかでも重要なものの一つになっています。

そして、目的のところに戻りますが、こうなっています。消費者の経済的な利益を侵害する不公正な取引方法に関する加盟各国の法律、規則及び行政規定を平準化させることを目的としております。

これは域内市場の機能を適正に発揮させるとともに、高水準の消費者保護を実現することを目的としているわけです。このように、目的規定の説明を読めば分かるように、この指令の重要かつ主要な目的は、EUの目的とも関係しますが、域内市場の機能を適正に発揮させることにあります。このような目的の意味は、旧態依然とした各国の取引規制を自由化することにあるわけです。いわゆる規制緩和です。確かに一見すると、消費者保護に手厚い規定が置かれていると思われるかもしれませんが、全体を見ると、本指令は、域内市場での市場ルールを統一することによって事業者の古い取引慣行や自主規制を撤廃する効力を持っていることが分かります。

昔、ドイツ法では、顧客に非常に親切にして、店で買い物しないとばつが悪い状況を作り出すことは、不正な競争行為である、あるいは、割引セールの期間を決めて、それ以外に割引をすると不正な競争であるというようなことをルールとして有していたのですが、ここで、この指令が前提としているような、情報を提供された自立した消費者という消費者像にはそぐわないことになり、そうした消費者が影響を受けない場合には、不要な古びた規制を撤廃していくことで、市場を活性化することを意図したのです。後で少し出てきますが、不公正取引方法指令は、EU法の中で市場の法を統一していく、最大限の平準化というアプローチをとったわけですが、いわば、EUという外圧によって、各国の閉鎖的な取引規制あるいは慣行を廃止するといったことが主たる目的となっていたという見方もできるかもしれません。ただ、あえてこう申し上げたのは、不公正取引方法指令は、消費者保護のためにだけ採択された指令ではないということをここで強調しておきたいからです。

さらに進めて、不公正な取引方法の禁止の内容に入っていきます。

不公正な取引方法の禁止は、指令5条にあります。これは一般規定ですが、この中身は、少し条文を引用しながら説明しますが、「職業上の注意」に反し、かつ、ある製品の提供を受ける「平均的な消費者」、または、取引方法が特定の消費者集団に向けられている場合においては、当該集団の平均的な構成員をして、その製品に対する経済的行動を実質的にゆがめさせ、もしくは相当程度ゆがめさせるおそれがある場合ということになっています。これは、事業者が誠実な取引をすべきであるというルールを表現したものだと理解していいと思います。

そして、ここで使われている「平均的消費者」という概念には少し注意が必要になると思います。一般的に指令で採用されている平均的消費者の基準は、いわゆる情報提供を受けた消費者、ちゃんと判断ができる「賢い消費者像」を前提としています。つまり、情報がちゃんと与えられたら、きちんと判断できるという、ある意味では、強い消費者像を前提としております。これは欧州司法裁判所の判決を踏襲しているものです。ただ、指令は取引方法がある特定の消費者グループに向けられている場合には、そのグループの平均的構成員の目線を基準にいたします。そういう意味では、ある特定のグループや弱い傾向のあるグループに向けられた広告あるいは取引行為であれば、年齢が未成年となれば、そういった人たちに向けられて、その人たちの弱さを利用する場合には、これらの消費者をとくに保護するということを考えたわけであります。そのことによって、いわゆる一般的な集団における平均的な消費者と区別して、身体的・精神的障害、あるいは年齢、軽率さ、経験の欠如といった理由によって特にその保護が必要となる消費者グループを適切に保護することができることになるわけです。

その条文となるのが、指令5条の3項です。年齢その他の理由から、特に保護を要する消費者、vulnerableヴァールナブルというちょっと難しい発音の英語です。またドイツ語訳は明確な訳でSchutzebedrueftigとされていて、保護を必要とするという意味で訳されています。日本では脆弱な消費者、私はこのような訳があまり好きではないので、自分では社会的に弱い消費者とか、そういう言葉を使ったり、あるいは特に保護を要する消費者という形で訳しております。EU法では、このような消費者像の存在が垣間見えるというわけです。つまり、消費者の中にも段階的な層があるのだということで、段階的消費者概念という言葉で表現しておきますが、そういう発想がここで見てとれるわけです。その要件については、レジュメで少し書いておりますので、御覧ください。

まず、指令5条3項は、「取引方法が、明確に特定された消費者集団の経済的行動を実質的に歪めるおそれがあるものであり、かつ、事業者において、この消費者集団を、その精神的・身体的障害、年齢、軽率さを理由に、当該の取引方法または取引方法の対象となる製品に対して特に保護する必要性があること(particularly vulnerable)を予見することが合理的に期待できる場合には、当該取引方法は、この集団の平均的構成員を基準として評価される」というものです。原文の英語は読みにくい構造で書かれているので、ここでは日本語的な形で意訳しておりますが、少し分かりにくいかもしれません。この規定のただし書の趣旨は、同条は、全くあり得ないということを主張したり、バナナをたたき売るようなことの広告については適用されませんということです。

では、次に攻撃的取引方法です。レジュメのIII、3ページの2に入ります。指令8条の内容は、「取引方法は、当該事実状況の下、当該すべての特徴及び事情を考慮して、困惑行為、有形力の行使を含む強制又は不当な影響により、平均的消費者の当該製品に関する選択又は行動の自由を著しく歪め又はそのおそれがあり、それによって平均的消費者に、それがなければしなかったであろう取引上の決定をさせ、またはそれをさせるおそれがある場合には、攻撃的とみなされる」というものです。事業者がこういった行為を通じて消費者の自己決定を侵害するようなことをやった場合には、「攻撃的」取引方法となるのです。

これに関係して、指令9条の内容は、攻撃的取引方法の定義規定であり、それによると、困惑行為、強制行為、不当な影響の行使ということになり、で、その考慮されるべき事情が書かれてあります。

さらにそれを具体化する形で不公正な取引方法のブラックリストがあります。こうしたスタイルは、「完全平準化」とまでいうのは言い過ぎかもしれませんので、最大限の平準化のアプローチということになります。ただ、実際には、ほぼ完全平準化に近いものでありまして、このリストは全て文言そのままに各国法において転換しなければならないということになっております。

資料の中にヨーロッパ各加盟国の法状況についてのマトリックスをつけておりますので、少し御覧ください。攻撃的取引方法の規制状況について丸がついてあるかと思います。資料の7ページです。広告規制法、攻撃的取引方法の禁止という表題の真ん中のあたりにあると思います。これらの領域についてはEU指令によって国内法が平準化されていくことになっているわけです。どこの国でもそういった規制があることを確認できます。なかなか厳しい内容の、このようなリストに各加盟国全てが同意できたのかと私もちょっと疑問に思って文献を見てみると、これは当然のことであってほとんど異論はなかったと書いてありました。当時はそうだったのかもしれません。今となっては、このようなリストが出てきてみんなびっくりしたのかもしれませんが、当時はそう言われていたのです。ヨーロッパでは、こうした規制は「当然のことである」と理解されていたというわけです。

また、4ページの指令付表の28.は、「子供に対する広告」が取り上げられています。ただ、子供に対する広告は、特別法で規律されていますので、この条文自体が使われることは余りないと理解をしていたのですが、先日の消費者法学会で岩本諭先生が御報告になったところによりますと、近時、「Rule of Magic事件」に関するドイツ最高裁の判決で、インターネットゲームのサイト内で、子供向けの呼びかけ表現によってゲーム内で使用する強い武器の購入の働きかけを、ドイツ不正競争防止法で禁止されているものとしました。後で御紹介しますが、これはEUのこのリストをそのままドイツ不正競争防止法に持ち込んだ規定なのですが、それで禁止されている子供に対する直接の購入の働きかけに該当し、違法、つまり、不公正であると判断した事例がございます。

以上が、EU法の説明ということになります。

さて、このEU法は、ドイツというEU加盟国において国内法化されることになります。実は、このドイツという国は、ヨーロッパの中で非常に先進を行く法律を作っていこうという意識の高い、また、比較法的な研究の盛んな国です。2004年に、このドイツ不正競争防止法もできてからもう100年近いということで、ヨーロッパを牽引するような法律にしようではないかと先取り的な改正がありました。ヨーロッパに対して、できるだけ早い段階でモデル法を示して、そして、それをヨーロッパの国で広めていこうという発想に立っていたと聞いておりますが、それに基づいてドイツ不正競争防止法が改正されました。

その改正では、先ほど少し説明をしたEU法の理念を組み込んでいく形をとれるような受け皿を作り上げていきました。ドイツの不正競争防止法は、日本のとは全然違うと言うとしかられるかもしれませんが、ドイツのそれは、競業事業者だけではなくて、消費者その他市場参加者を不公正な取引行為から保護する、また、公益の利益も保護するということを目的としたものです。ここに消費者という概念が入ってきている点で、日本の不正競争防止法とは違いがあります。私は、大分昔になるのですが、ドイツ留学から帰ってきた90年頃に、日本の不正競争防止法が改正されるという話を聞いて、ドイツぼけが入っていた当時ですが、これは消費者のために改正されるのかと思っていました。もちろん、営業秘密の保護のための改正だったという話なのですが、当時においてもそのように大きな違いがあるというわけです。

同法は、事業者の競業行為、それにおける不正を正すという意味を持っています。それは市場のルールということに関係しますが、市場の秩序維持の担い手として、そこに消費者団体が入って大きな変化を遂げたということになります。

取引行為の概念については、重要ですが、省略させていただきます。

この規定が置かれているというのが、4条の1項のところです。これも見ていただければと思います。つまり、ここで確認できるのは、EU法の中身が明確な形で国内法に反映されなければいけないとされることによって、そういう要請を満たした形で国内法化が行われているということであります。実際に、昨年、ドイツでは、EU法に適合的な形で条文を作っていないということで、新たに補完的な改正がなされたのです。そういう意味でのEUの法律を遵守していくという姿勢がここでも貫徹されたと評価できます。

レジュメの5ページを見てください。先ほどからのEU法での議論に関係するものが、4a条の2項の2文というところです。ここでは「上記3によって考慮されるべき事情となるのは、消費者における精神的または身体的障害、年齢、取引上の経験の欠如、軽率さ、不安感または強制状態を利用すること」と、明確に条文の中にこれのような事情が入っています。もし、そういったものを利用したことによって自己決定に影響を与えるような取引行為がなされていると見られるのであれば、消費者団体による「差止め」の対象になります。

さて、最後に、先ほどマトリックスを御覧になっていただいたように、EU法の影響についてですが、攻撃的取引方法の禁止は、ヨーロッパでのスタンダードになっていることが確認できるのではないかと思います。先ほど申しましたように、こういった形でのリストの作成には異論は余りなかったと聞いております。ドイツ法はこういったものを受けて、それをより明確化し、こういったルールを遵守していくことになっています。

以上、先ほどのお二人の報告とは全く違う角度からとなりましたが、私に課せられたタスクということで、このような形で御報告させていただきました。御静聴、ありがとうございました。

○樋口座長 御説明ありがとうございました。

ただいまの御説明を踏まえまして、御質問、御意見のある方は御発言をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。

池本座長代理、お願いします。

○池本座長代理 池本でございます。

非常に貴重な情報を提供していただいてありがとうございます。御紹介いただいたEUの指令もですし、ドイツ法もですが、紹介いただいた条文を見ると、非常に分かりやすい言葉で規定をされている。先ほどのヒアリングの中でも感想を申し上げたのですが、我が国で消費者法を議論するときは、非常に要件を細かく切り刻んで分かりにくく、厳密だと言えばそうなのかもしれませんが、むしろルールとしてある程度評価を込めた言葉で規定し、解釈運用で固めていくということでもよさそうなところまでどんどん細かくしていく傾向がどうもある、という感想を私は持っていたのです。このドイツ法あるいはEU法のこういう条項について、その概念の厳密さなり不明確さということで何か議論、異論が出たりということがあるのかが1点です。

もう一つは、これは非常にすばらしい包括的な形で網をかけているところですけれども、これの法の実現、行政的な面と民事的な面で、その実現の実情というところを、もしお分かりでしたら教えていただけるとありがたいと思います。

○中田龍谷大学法科大学院教授 御質問ありがとうございます。

最初の質問ですけれども、翻訳は分かりやすいということでうれしいのですが、実際にEU法の原文を読みますと、構造が複雑なところもあり、理解が難しいところもありました。ただ、EU法の中で、一般条項的な規定と具体的な個別規定の組み合わせという、この段階的な構造は、この種の法律についてはとられていると思います。これはEU法においても明確に規定していくことの必要性は非常に強調されているのですが、この分野については新しい問題が出てくる、新しい取引形態が出てくるということで、カバーし切れない部分があることに共通の理解があります。したがって、このような受皿規定として、一般条項を置くことは当然の前提とされていたのではないかと思っています。とりわけ、こういった立法をリードしているドイツ法においては、先ほどドイツの不正競争防止法と日本の不正競争防止法の違いということを申し上げましたが、ドイツの発展の基礎にあったのは、一般条項だったのです。つまり、不公正な競争というような概念、不正な競争という概念があり、それに依拠しながら、判例法が具体的なケースを適切に処理し、非常に展開してきたという歴史的な経緯があります。そういったものがないと、おそらくドイツでもUWGの消費者保護的な発展がなかったのではないかと考えております。ですから、そういう意味では、一般条項の存在は、当然のことと考えられているのではないか、ということです。つまり、受け皿として新しい紛争、類型が出てくる分野であるということは意識され、また、それに裁判所が反応していくことが前提になっておりますので、そういった枠組みによる法構造は、こういった立法に不可欠な要素ではないかと思います。

法概念については、ヨーロッパには、様々な法体系がありますので、一定の概念をどのように理解すればよいのかということがあります。例えば、この指令の中でもアンデュー・インフルエンスという英文を「不当な影響」と訳しておりますけれども、英米法でいうアンデュー・インフルエンスという言葉を使いますと、一つの説明ですが、不当威圧という用語があります。それと同じだというと、イギリス法の不当威圧の法理が全部そこに乗っかってくるということになりかねません。それは、このEU法が前提としているものではないということになります。つまり、EUの域内市場の中で、この概念の内実が形成されていくことが予定されていまして、そういう意味では、概念の争いはないかと聞かれると、あるということになります。しかし、EUのマーケットの中で、どのような形でその概念を用いたらよいのかということを今から、EU裁判所もありますし、検討していくということになろうかと思います。したがって、共通の理解が必要とされており、各国法の勝手な理解は許さないということがEUでの前提となります。

エンフォースメントにつきましては、実は、EU指令のところでも書いてありますが、それは共通のものとされていなくて、実現方法は法体系によって違うということになっています。例えばドイツ法では、これは民事的救済、つまり裁判所で、かつ消費者団体が主要な役割を果たして、民事裁判の中で追及をしていく、不正な行為を摘発していくというそういった要素があるということであります。刑事的な規定はありますが、ほとんど使われていないと聞いておりますし、また、その部分を強化すると警察あるいは行政が膨らんでいくことになりますから、ドイツ法の発想にはなじまないと考えられているようです。むしろ非常に汎用性の高い裁判所のシステムがあって、それがエンフォースメントに助力していく、あるいは消費者団体がそういったものを実現ないしは支援していくという枠組みがとられているように思います。ただ、他の国も全くそれと同じかというと、そうではなくて、イギリスあるいはフランスなどは、刑事制裁を中心に動いているように聞いております。

○樋口座長 大森委員、お願いいたします。

○大森委員 子供をターゲットとする広告規制についてお聞きしたいのですけれども、EUではどのあたりまでがスタンダードになっているのかと、日本の現状と、それを踏まえてどういうことが求められるか、先生の御意見をお聞かせください。

○中田龍谷大学法科大学院教授 非常に難しい問題で、私自身はそこの専門家ではないので、余りちゃんと答えられないのですけれども、例えばテレビでアニメをやっている。名前を出すのは余り適切ではないのかもしれないのですけれども、キャラクターの商品が、そのテレビのヒーローが身につけているようなベルトや装置が、その放映の間にテレビのコマーシャルとして流れる形は恐らく許されないということになるのではないかと思います。つまり、子供は十分な判断能力がないのに、それに直接働きかけるような形は許されないことになろうかと思います。直接間接的に働きかける場合は別です。もちろん子供がこれを欲しいと言っても、ちゃんとした親だったらそのようなものは買わない、ゲーム機は買わないというようなことはもちろんあるわけです。ただ、そういう機会に、子供に直接強く働きかけるような広告は適切ではないということが言われていると思います。

また、青少年についてのたばこの広告の規制であったり、ビールを飲むような広告も夜の何時からとか、日本でも導入されていると思いますが、そういったものはかなりきちんと決められていると思います。私自身はまだ詳細について調べておりませんが参考文献に挙げた岩本先生が論文を書かれておりまして、37ページの脚注というところで「子どもに対する広告規制の理念と展開」、また「脆弱な消費者-子どもと法的視座」という論文を書かれておられますので、参照していただければと思います。

○樋口座長 ほかにいかがでしょうか。

河上委員長、お願いいたします。

○河上委員長 どうもありがとうございました。

ヨーロッパはものすごい勢いでこういうルール化が進んでいるというので、うらやましい限りだと思うのですけれども、日本でこうした民事ルールを考えようとすると、どうしても立法事実はあるのですかということがしきりに言われるわけです。立法事実があるのであれば、それを解決するために現行ルールではだめか。そして、現行ルールでだめだとした後も、丁寧な議論をというようにして、次から次へとハードルが上がってくることが多いのですが、ヨーロッパでこうした民事ルールの立法化がなされていく際に、いわゆる立法事実がそれなりにあったのかどうかが1点です。

もう一点、聞くだに、競争法的な発想が非常に強い感じがいたしまして、今日はどちらかというと消費者契約法の中に何かしらという議論が比較的行われていたのですけれども、不正競争防止法という法律が、どちらかというとこれは競業事業者を保護するためのものとして、今、ありますが、これが消費者保護的な役割を演ずる可能性というようなことについて、中田先生はどういうお考えをお持ちなのかというあたりも聞かせていただければと思いますが、いかがでしょうか。

○中田龍谷大学法科大学院教授 いろいろな側面で立法事実を捉えることはできると思うのですが、ともかくEUの指令について限って言いますと、これは域内市場を活性化していくという目的がありますので、様々な、先ほど申し上げたような市場規制的なルールを撤廃していくために統一ルールが必要とさたということが重要となります。EUでは、そういうことが立法事実の一つとしてあったのではないかと思います。

他方で、そういった自由化に伴って、これもドイツの判例法で形成されてきたような、様々な不当な取引類型がありまして、それが参考にされてEU法としてこの中に取り込まれた側面があったのではないかと思います。つまり、判例が十分にそういった問題を一般条項の中で取り上げて展開してきたことが、まさにこのような形での一般条項の必要性を基礎づけるところの立法事実になるのではないか、つまり、立法事実となるのは、将来の紛争の適正な処理であり、それに対応するための規定が必要であるということです。これはドイツ不正競争防止法の展開からみても明らかではないでしょうか。

とにかく日本の判例法は一般条項との関係で、日本の民法学もそうですが、一般条項を使うことについては非常に警戒しているところがあります。他方で、実務を見ると、裁判官が契約に即して具体的な評価をし、判断をしていくという側面が弱いとは言いませんが、まだ十分でないと思われます。私もドイツでそういったことについて裁判官に聞いてみました。ドイツでは、様々な形で約款や条項について不当性を判断していくというような膨大な判例があります。日独で裁判官の数も違いますが、個別の契約について裁判官として評価をするのは難しいのではないか、と申し上げたところ、ドイツの裁判官はそういったことを判断するためにトレーニングされているのだと聞かされて、驚いたことがあります。また、裁判所でも、そういった形の議論が出てくることを歓迎しているところがあります。裁判所での判断が分かれていても、まさにそういった条項をどう今後評価していくのかという素材を与えてくれるものと聞かされまして、文化が違うこともあるかもしれないのですが、少し驚いたことがあります。

ただ、日本でも、そういった方向性をとることが、契約条項などの評価にとっては非常に大事だと考えています。裁判官がきちんと関与し、その価値判断を消費者と共有していくことを可能にする消費者契約法が必要なのではないかと考えています。先ほどから出ているような一般条項の在り方は今後もきちんと議論される必要があるはずです。この議論は、消費者契約法の在り方をどうするかという問題につながるものです。

不正競争防止法の理念においては、消費者保護のためという部分とともに、マーケットの健全性が前提となります。そこには消費者利益がきちんと組み込まれていなければいけないのです。先ほど脆弱な消費者という概念については、今日は説明をする余裕はなかったのですが、そこで一番問題になるのは、貧困あるいは十分なスキルを持たない人たちがどうマーケットにアクセスするのかということです。インターネットの話でも、インターネットを使う道具がなければインターネットにアクセスできないのです。実は、インターネットの中には、今は消費者問題という形で出てきていますが、重要な情報に我々がアクセスし、より安いものを購入するというようなアクセスの可能性マーケットにとっても大事ですし、マーケットの外にいる人たちにとっても生活を行うという面でとても大切なこととなります。そうだとすると、そういったインターネットにアクセスすることを開放しないと、人々の生活を支えるという意味での「市場」が機能しないことになるのではないか。つまり、逆にそういったツールのない人、お金のない人たちをそこから締め出すと、さらにより劣位に置かれてしまう。EU法の考える「市場」の中で、そういった人たちの扱いが重要な問題だと言われているのには、こうした発想がその基礎にあると思います。

最後の質問に対するお答えですが、私は、日本でも不正競争防止法をうまく利用したらよいのではと考えています。不正競争防止法の中で利用するか、あるいは例えば不正競争防止法がドイツで担っているような部分を消費者契約法の中に取り込んでいくことも可能ではないか、と考えています。つまり、消費者契約法は非常に重要な部分として、市場のルールを形成しているのです。事業者と消費者との関係で、まさにそういった市場ルールを作り出していくのが消費者契約法の役割だと理解できるのであれば、不正競争防止法が本来担っている部分、あるいは日本の不正競争防止法が担えていない部分を消費者契約法の中に取り込んで展開することも可能だという考え方です。例えば、消費者契約法での差止請求の実現は、そうした方向のよい例の一つです。

差止めという議論の中で不当な勧誘行為の概念をさらに広げることがありえます。例えば広告も含めてその規制の対象にし、差止請求権を消費者団体に与えることが考えられます。ただ、そういった重要な機能を消費者契約法に与えるときに、今のままのような形で消費者団体を運営するだけでは、多分そういった機能を果たすことを期待できないのではないかと思います。消費者団体の機能の強化をどういう形でやるのかについては議論がありますが、そういうものをセットにして消費者契約法を展開していくということが一つあるのではないかと考えています。

○樋口座長 後藤専門委員、お願いします。

○後藤専門委員 未成年の問題とはちょっと離れるのですけれども、本日は攻撃的取引方法ということで御報告いただいて、非常に参考になりました。どうもありがとうございました。

攻撃的取引方法を、日本の消費者法でどのように参考にしていくのかということなのですけれども、不招請勧誘とか、消費者契約法でいうと困惑の問題に関連してくると思いますが、こういう方向の検討が、私の見方ですけれども、誤認の問題に比べたら従来日本では欠けていたと思うわけです。困惑の拡張あるいは不招請勧誘とか、今、非常に問題となって考えなければいけない問題について、攻撃的取引方法というEUの考え方は非常に参考になると思います。この辺について、中田先生、何か御意見やお考えがあれば教えていただけたらありがたいです。

○中田龍谷大学法科大学院教授 先生と同じように、日本の困惑類型の規定ぶりは非常に狭いのではないかと私自身は思っています。例えば意思表示が、つまり消費者が出ていけと言わなければ取消権がないというよう規定ぶりなのですが、この点について私は少しヨーロッパの方と議論をしたことがあります。たとえば、事業者が1時間居座ったらどう、2時間はどうなりますかと聞いたら、それほど長時間居座ればそれだけでアウトでしょうということでした。つまり、そういった取引形態は公序良俗に反するものとして許されないという感覚です。そうした感覚が大事かと思います。我々もそういった感覚を持っているはずですし、そういったものが判断にきちんと出てくるような形の条文化が必要ではないかと思います。

また、電話勧誘についても、その規制がまだ非常に弱いのではないかと思います。自宅というプライベートの空間に電話をかけることが、営業行為としていかにして正当化されるのか、私には理解ができません。販売目的の電話がプライベートな住居を営業場所にしてしまうことがなぜできるのか、その説明はできないのではないかという思いを持っております。もちろん消費者が自分から電話をかけてくださいという場面は別です。

また、問題となっている不招請勧誘についても、これを防御する手段が消費者に余りにもなさ過ぎるのではないかと思っています。不招請勧誘禁止を正面から明確に規定する法律が作られている国は少ないと思いますが、それ以外の個別の規定で、先ほどのような電話勧誘とかの問題あるいは公序良俗あるいは意思表示の瑕疵の問題とか、そういうようなところで、事業者がそうした取引をしても割が合わない形にきちんとすることが必要ではないかと思っています。

○樋口座長 ありがとうございました。

大分予定の時間を過ぎてしまいましたので、このあたりで、もしほかに御意見、御質問がなければ本日のヒアリングを終了したいと思います。中田先生、ありがとうございました。

宮下教授、坂東教授、中田教授におかれましては、本日は御多忙の中、御出席いただきまして、また、長時間にわたりまして、大変具体的な示唆に富むお話をいただきまして、誠にありがとうございました。当ワーキングとしても、先生方のいろいろな御提言あるいはアドバイスを参考にして、また議論を進めていきたいと思います。本当にありがとうございました。

本日の議事は以上でございます。最後に事務局から事務連絡をお願いいたします。


≪3.閉会≫

○丸山参事官 本日も御熱心な御議論をどうもありがとうございました。

次回は来週11月8日火曜日、16時からの開催を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。

○樋口座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきたいと思います。

お忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございました。

(以上)