総会(第48回)・基礎問題小委員会(第57回)後の石会長記者会見の模様
日時:平成18年6月30日(金)16:03~16:27
〇石会長
今日の税調の総会並びに基礎問題小委員会合同会議が終わりました。今日から中期答申の策定に向けて、内容を固めていくという作業を始めたわけであります。今日お出しいたしました資料は、今年に入ってやったことのみならず、過去3年間、個々の税目につきましてやった議論を一応取りまとめて、「ボキボキ」と言っておりますが、その骨子のようなものを出したわけです。従って、我々の守備範囲、各個別税目の検討項目の守備範囲が、ほぼこれで固まってきたのかなという感じがいたしております。次回以降、法人課税とか、あるいは総論の部分も踏まえてこういう形でやって、全体像を税調の委員皆さんで協議をしたい。そういう作業をやりたいと思います。
そこで色々な議論が出ましたが、数年前に比べるとやっぱり社会情勢の変化もあって、若干トーンが変わるかなという点もなかったわけではございません。そういう点を踏まえまして、以下数点の重要な点を整理しておきます。
第1点は、税制全体として今度の税制改革のねらいをしっかりさせて、具体的な改革の中身を絞り込むというのは前からの共通点であります。特に消費税と所得税のバランスの問題について、所得税というものの位置づけを、公平といったものの確保を通じて、質的な意味で、重要な役割を再確認するような形で取り組むべきだという辺りの点が、一番大きかったかなと思っています。
所得税の改革について、所得税全体の中でレベニュー・ニュートラル、税収中立なんて言葉があってもいいのではないかという、やや踏み込んだ議論もあったかなという感じがいたしております。恐らくそれは消費税をにらんでのバランスだと思っています。
それから第2点は、先ほど申し上げた社会情勢が変わってきたということの最大のポイントは、所得税の再分配機能をどうするかということ、これは非常に大きい問題だと思っています。当然のことながら、再分配を強化すると社会全体の活性化が失われるような、あるいはペナルティ的になってはいけないという議論もございました。けれども、今、格差社会の問題もあり、やはり所得税の再分配機能が落ちているという認識をお持ちの方がいて、これについて従来のトーンとはちょっと違った形になるのかならないのか、これは議論いたしますけれども、所得税の累進税機能を強化していいのではないかという議論が、今日は多かったと思っています。
具体的には、最高税率はもう50%になっていますけれども、それを今後どうするかという問題は1つ大きな問題として残る。それから、所得控除を見直して、課税ベースを広げるという形で、結局これは一番最高税率の高い人に響いてくるわけですから、そういう点からの再分配の強化もあるでしょう。所得区分の見直し、これによって言うなれば累進税の機能を強化するという手もあるでしょう。いろいろ幾つかありますので、それを少し詰めていきたいということと、やはり社会に対するメッセージとして、社会心理学的に、公平感をどうやって確保するかというようなメッセージが送れないかというのが、今日の委員の方々の意見の大きな流れであったと、このように考えております。
所得税負担というのがそんなに重くないということは、我々絶えず言っており、数字も出しております。700万円くらいの所得の人は1980年代、20年くらい前には50数万円負担していたのが、今や17万円になっているという事態が、必ずしも正確に伝わっていないという点もあろうかと思いますが、今後これをどうするか。従って、控除見直し、税率見直し、所得区分の見直しなどを通じて、実効税率のカーブがどのようになっていくかという点、この辺りが1つの大きなポイントになると考えております。
第3点は、ストックの段階での再分配、つまり相続税ですね。これについても当然のこと反対意見として、相続税は強化すべきではないと、特に中小企業のご関係の方からございました。しかし、所得税再分配機能との絡みで、資産の再分配もあっていいじゃないかという議論、資産課税の強化ですね。これはやはり1つの争点になると考えております。今、IT革命もあり、金融所得が非常に積み上がって、一種の高額所得者を生んでいるという中で、資産課税、やはり相続税というのが強化されてしかるべきだろうという意見が多い。それと、昔からあります伝統的な中小企業の方々の承継税制、この問題はまた別の問題として扱っていいのではないかというふうに聞いていて感じております。
それから第4番目は、課税の公平とか、再分配といった点で言うならば、利子、配当、キャピタルゲインの言うなれば金融所得課税のところの問題だろうと思います。恐らく社会的に見て、その辺で非常に所得を獲得している人に対して、今10%で終わっております低率分離課税で果たしていいかという議論が当然残っております。土地の証券化等の税制対応を含めまして、この辺の一連の資産所得並びに資産、そういうものの課税につきまして、議論はかなり大きな問題として残るのではないかなと、このように考えております。
それから細かい点ですが、所得控除、これが5点目になります。所得控除をどういうふうにしてこれから議論していくかという中で、給与所得控除のいわゆる実額控除と、それから概算控除、実額控除をやりたいときには、サラリーマンでもITを使って電子納税を使えば出来るじゃないかという話もあります。こういう点の展望もあるし、それから色々な控除を見直したときに統廃合する意味で、基礎控除を増やしていったらいいじゃないかという、そういう議論も1つ有力な発想ではないかと思います。配偶者控除だけ1つばっさり削っただけでは難しいので、給与所得も一緒にしろとか、それから扶養控除については前から言っておりますが、子育てという視点から税額控除をすべきという、この議論は相変わらず有力な形として税調の中に残っていると思いますので、これからその辺の議論を詰めていきたいと、このように考えています。
納番でありますが、これも従来我々として累次の答申で述べております。ある人が言っていましたように、もう単なるお題目では困ると。やるなら本格的にこのアクションをおろせるような形でやらなければいけないのではないかと。特に課税の公平とか、金融所得の捕捉、等々と絡めて納番はこれから恐らく社会的に見て必要なインフラになるのではないかということもあり、また将来的には消費税導入等々の絡みで番号が必要ならば、そういう番号とまたリンクしてくるといった点があるのではないかと思っています。
最後に地方税。これはやはり大きなテーマになってくると思います。というのは、10%にフラット化して、言うなれば従来にないスタイルの住民税が地方に出てきているわけでありますから、この性格を実際の施策に活かすような議論というのは、当然必要とされてきますよね。とりわけ、現年課税の問題というのはこれからフィージビリティを云々するよりは、もう実行すべきだという強い意見がございましたけれども、現年課税の問題はあるでしょう。それから地方税絡みで、税と社会保険料の徴収で、非課税の人が納税者になった途端に税以外のところ、社会保障の様々な負担がどっと来るのは問題であるということ。言うなれば社会保険制度と税制がうまく棲み分けできてない点もあるかもしれません。そういう点も踏まえまして、これから議論を詰めていきたいと、このように考えております。
来週以降は、他の個別の税について議論していきたいと思っていまして、7月4日、7月11日を踏まえて、また7月はかなり密度を濃くやっていきたいと思っていますが、恐らく税調の委員もそれなりの対応をしてくれていると思います。以上です。
〇記者
幹事から。会長は以前、所得税の最高税率については、50%が概ね妥当ではないかとおっしゃっていたんですけれども、いろんな意見が今日出たんですが、やはりそういう考えにお変わりはないと。
〇石会長
いえ、最高税率を上げろという強力なご意見もありましたが、今日は必ずしも全員揃っているわけでもないし、意見が集約されたとは思っていません。50%でいいんじゃないかという従来の基本的な構想を変える方向で行くかどうかは、これからの議論になるという意味で、必ずしも固執はしていません。恐らく所得の再分配効果といったときに、質的な面で一番形式的に理解しやすいのは最高税率のことですから。課税ベースを広げることによって最高税率のところにまで及ぶよということは、なかなかわかりにくいんですよね。その点、これから議論はしたいと思っていますが、そこを聖域化しているわけではありません。
〇記者
あと、格差のことで言うと、会長は以前から資産課税の強化とおっしゃっていましたが、今、株式の譲渡益課税とかもそうだと思いますが、これは今のお考えに関しては。
〇石会長
要するに、相続税の世界で資産の再分配をするということと、それから利子、配当、キャピタルゲインの資産所得の世界で、再分配機能をもっと高めていいのではないかということと、二通りあるのだと思います。これは双方とも恐らく今後重要なテーマになってくると思います。当然これに対して、過度に行き過ぎると問題だという視点、今日も大分出て参りましたけれども、その辺のバランスを考えつつ、どのような形で最終的に中期答申に書き込むかというのは大きな問題だと思っています。
〇記者
繰り返しになるかもしれませんけれども、金融税制で今日、割と課税を今のような低い税率ではなくて、税率をもっと上げた方がいいんではないかという意見が幾つかあったと思うんですけれども、それについて今後、集約という…。
〇石会長
金融所得課税のところですね、おっしゃっているのは。ご存じのように2007年までかな、配当と株の譲渡益については10%の臨時異例的な分離課税、優遇税制になっていますね。それから、利子等々は20%ですね。今日も議論がありましたけど、今、猛烈に配当所得が増えています。株の譲渡益も増えています。そういう世界で、恐らく世の中から見て、所得税に対する不公平感を持っているというのはその辺ではないかという認識は皆さん共有していると思います。そういう意味で金融所得課税、我々は前から一体化と言っておりますが、一体化の方向に向けて議論を少し集約していきたいし、その絡みで恐らく納番というのは導入不可欠と思っていますから、そういう絡みで出てくるという意味で、今回の中期答申の1つの柱にはなるかなとは思っています。
〇記者
今日の議題の論点の中にはありませんが、ちょっとたばこ税についてお伺いしたいんです。
〇石会長
たばこ税。これは来週やりますから、そのときに皆さんの意見を聞きます。ああ、たばこは明日から上がるってことですか。
〇記者
そうです。明日からたばこが上がるということで、色々な背景がありましたけれども、改めて会長、このたばこ税に関して会長のいわゆる、べき論ってどういうようにお考えかなと思ってお伺いしたいんですけれども。
〇石会長
僕は元来、たばこ税というのは安いと思っています。でも、税調で議論しない一種の政治的マターでこの間、終わってしまったわけで、次回以降、たばこ税につきましても今回どのような形で書き込むか等々は議論したいと思っています。
たばこを喫む人は非常に抵抗があるでしょうけど、たばこは、税調では比較的上げる方の支持者が多かったのではないかと思います。現段階においては、上がったばかりですから急にというわけにはいかないでしょうけれども、全体を見て将来的にどういう税体系にしていくかという議論は当然あり得ると思います。この間は、政治的な動向で行われましたけれども、これから議論を引き続きやっていきたいと思います。
〇記者
その上で、上げるに当たって色々な論点があると思うんですけど、例えば健康増進目的にその財源を使うべきだという議論がありますし、あとはもっと健康のことを考えると増税をして、そのインセンティブを下げる効果もあるからもっと上げろという意見もありますけど、健康と絡めてはどうお考えでしょうか。
〇石会長
従来、たばこ税というのは税収確保のためにやっていくのが最大のねらい目であったわけで、最近ですよ、健康等々の一種のシン・タックスという発想から出てきたのは。当然、新しい要素は組み入れて議論すべきだとは思っていますが、それをどのくらい実際に上げるときに使うかどうかは、これからの議論でしょう。ただ、そのうちに議論できるでしょうね、そこはね。
〇記者
2点ほどあるんですけど、まず先程の絡みですけれども、所得税の最高税率のところで以前、妥当として考えるが必ずしも固執はしていないというお話がありましたけども、今日の議論を聞いていても少し税調の流れとして、社会的なメッセージを送らなければいけないという話もありましたが、その流れが少し変わってきたというご認識なのかというのが、まず1点なのですが。
〇石会長
はい、そう思います。今日ご出席になっていたでしょ。それでご自分で考えたところでいいと思いますけど。これから起こるであろう色々な意味の税制改革の中で、やはり社会的な、心理的な意味合いからいって、課税の負担の公平感から言うと、所得の高いに人にもっと負担してもらっても良いという、そういう話があるじゃないかということで随分発言がありましたよね。そういう意味から見て、まだ上げるかどうか決めてませんけれども、議論は若干新しい様相があるかなとは思います。
〇記者
その場合、ご自身の見解として、もし仮に上げるとする場合にどんな程度の、イメージで良いんですけど、幅とか、あわせて…。
〇石会長
全く現段階では分かりません。というのは、所得税というのはフラット化、フラット化で来たわけですよ、過去20年間くらい。要するに社会でがんばる人に対して報われる税にしよう、あるいはインセンティブをそう欠かさないようにしよう等々ね。それに対して本格的にベクトルを逆の方に持っていくかどうかというのは、やっぱり大きな問題ですよ。これちょっと私自身も現段階においては、今判断すべきなのかどうかはちょっと分かりかねます。もうちょっと考えてみたいと思います。
〇記者
もう1点、次週、法人課税、国際課税をやって、その次は総論だというお話でしたけれども、消費税についてはこういう論点の…。
〇石会長
消費税は次回ですよ。次回やります。法人課税、国際課税、消費税、たばことか酒を含めた個別消費税を次回やります。そのときにまた今のような話も含めて、色々な議論が出てくると思いますから、ウォッチしていてください。
〇記者
税調の議論を始めるころから、歳出・歳入改革で歳出カットが出てきて、歳入のロットが出てきたら今度は税の専門家として税の細かい部分については話をしていきたいという話を以前されていて、それで今回、自民党がまとめた関係で、歳入の方は2兆から5兆円というロットが、あくまでも2011年度の話ですけれども、数字として出てきたんですけれども、これをどういうふうに絡めて議論していくのか。あるいは全く関係なしにやっていくのか。その辺をお伺いしたいんですけれども。
〇石会長
総論はこれから7月11日にやりますので、そこで皆さんに議論を伺いたいと思っていますけれども、必ずしも税調に、これこれこれの何兆円かなんて決めて、これで何とか調整しろというご下問が来ているわけでもありませんから。今回の議論というのは大体2011年のプライマリーバランス等の議論の一環ですよね。我々としては中期答申というのはもう少し先を考えていますので、10年とか15年先の税負担のあり方、そして我々としては直に税収確保が何兆円という話ではなくて、やはり増税不可避の中で各々の税の、言うなれば過去の色々なひずみとか歪みとか、あるいは不公平感とか何とか、構造的にどこを直したらいいかということに力点が置かれると思います。結果的には2兆円から5兆円という問題と直に繋げた議論は多分起きない、起き得ないと思っています。もうちょっと税制全体を眺めて、将来のあるべき税制というスタンスが表に出てくると考えています。
〇記者
1点だけ。一番上の紙の一番最初の現状認識のところに、消費税が主役で所得税は脇役というふうに現状認識が出ているんですけども、税調としてこういう現状認識を書いたというのは、これまであるんでしょうか。
〇石会長
いえ、本日の資料は過去の議論をA案、B案、C案という形で、軒並みに書いています。こういう意見を言った人がいるわけですよ。税調がこれを今オーソライズして、これで行こうという話では全然ないですよ。そこは誤解しないでください。両論併記的な部分はいっぱいありますからね。例えば最高税率を上げろという人と上げるなという人の意見が書いてあるように、今のように所得税は従で、消費税が主であるといったような意見をおっしゃった方もいらっしゃいましたよ。それに対して、今日はたまたま消費税の議論を余りやらないで所得税に飛び込んだから、所得税を中心にした議論になりましたから、やっぱり所得税は主でしょうね、今日の議論で言うとね。ただ、消費税が上がるときに所得税というのはどうやって逆進制を調整するとか、まだ議論が残っていますから。だから従とか主とかという話ではなくて、税制全体の中で一体的に考えるときに所得税と消費税は2つ、キー、コア、中核的な税制ですから当然議論します。こういうことを言った人がいて、議論として検討しなきゃいけないものを出したもので、このとおり税調が認めているわけではありません。
〇記者
会長、たばこ税は幾らぐらいがいいというのはありますか。
〇石会長
僕はたばこ喫んだことないから、わからない。僕はたばこの値段さえ知らない。1箱幾らかも。ノーコメントです。ノーコメントというよりノーアビリティかな。コメントする力ない。
〇記者
来週、国際課税をやるということなんですけれども、昨日から今日にかけて移転価格税制で大分企業側が追徴課税を受けていますけれども、昨日、武田薬品で、今日はソニーとマツダが発表になっているんです。その背景を会長はどうご覧になっているのか。それから、今後、国際課税全体ですね、どういうところに税調として議論のポイントがあるというふうにお考えなのか。その2つについて。
〇石会長
国際課税というのは、なかなかわかりにくいと思うんですね。そして税調の中で本格的にディープに、細部にわたって議論したということは余りなくて、事務局のご説明を聞きつつ、大まかに検証するという形で来ていますから、今回の移転価格税制、今日、初めて実は追徴されたというのを聞いているんですけど、あの問題は色々波及効果がありますよね。だから、それはこれからどう仕組むかというのは、ちょっと私は今の段階でどうお答えしていいか分からないけど、やはり国際課税というのはあくまで国際的なスタンダードの視点から見るべき。日本の国際的な側面での税というものが企業活動の足を引っ張ってはいけないし、物とか金とか人の動きに対して制限を受けるようになってもいけないだろうという視点から大まかな筋を立てる。税調ではそのくらいが精一杯だと思います。
いずれにしても、極めて執行面の強い税制のパーツですからね。そこで我々が細かく技術的な問題に立ち入るということは望ましくないし、また一部の専門家を除いて難しいんだと思いますね。税法の学者はがんばるところでありますが、そういう意味で一般的なことしか申し上げられません。やはり税務調査のことにしても相手の国と同等でやれるといったようなこと、同等のものを準備するといったような、イコールフッティングの関係で国際課税のルールを作っていくということしかないんじゃないですかね。日本だけ移転価格税制でひどい目に遭うというのもおかしな話ですからね、そこは。
(以上)