第44回総会・第53回基礎問題小委員会合同会議 議事録

平成18年5月12日開催

石会長

時間になりましたので、総会と基礎問題小委員会合同の会議を開催したいと思います。

今日から、各個別の税制の中身についての検討、議論を始めたいと思っています。これまでは、どちらかというと歳出・歳入一体改革に備えて全般的な話をしてまいりました。今日から、個人所得課税を皮切りに個別の税を5月、6月にかけてひと通り議論したいと考えております。

今日は、何といっても一番の大物でございます個人所得課税をやりたいと思いますが、実はお手元に、これまでの答申における様々な検討事項を整理してもらった資料がございます。「総44-3」と書いてございますが、これを見ていただきますとおわかりのように、すでに5回ほど、この委員の任期中に所得税を中心として議論した答申等をまとめております。どこに主要な問題があるかということはずっとフォローしていきますとわかるのですが、ただ、現時点において再度、今後の日本の所得課税のあり方につきまして議論する必要があろうと思います。今日は、過去の答申等も踏まえつつデータも整理してもらいまして、新たな気持ちでもう一回素直に現行の所得課税の問題点なり、あり方なり、今後どうしたらいいかという点についてご議論いただきたいと思います。

実はこの過去の答申等の中に、金融小委員会の「金融所得課税の一体化についての基本的考え方」もございます。そこで小委員長でもある奥野さんから、今後重要になると思われます金融所得一体化の課税の問題をご説明いただきたい、このように考えております。

いずれにいたしましても今日は、過去の議論の確認や補強の意味合いで、勉強会ということで始めたいと思います。これまでの議論の方向性を再確認して、改めて色々な項目についてどこに問題があるかということを各々整理しつつ、皆さんのご意見をいただきたい、このように考えております。

それでは最初に事務局から、個人所得課税全般につきまして、国税と地方税に分けてご説明をいただきたいと思っています。佐藤税制第一課長、林市町村税課長、よろしくお願いいたします。

佐藤税制第一課長

税制第一課長でございます。お手元資料でございますが、私のほうから、まず「総44-1」に沿いましてご説明させていただきたいと思います。

今、会長からお話がありましたように、これまで税調におきましては、あるべき税制の構築に向けた基本方針以来、数回にわたりまして所得税などにつきましてはかなりご議論いただいておりまして、それをあらかじめ要約したものをご送付させていただいております。内容を見ますと、そのときどきの指摘に合わせて所得税も改正を繰り返してきておりまして、現時点で見たときにどういう所得税の姿になっているかというのを、そういう意味で新しい目で整理できればということで、若干ベーシックな資料も多々ございますけれども、そういう観点でまとめたものでございますので、お聞き取りを賜りたいと存じます。

それでは、1ページ目でございます。まず、所得税、住民税合わせました個人所得課税という捉え方で全体をご覧いただくということでございます。下のほうに個人所得課税の租税負担率というのが太い線で書いてございます。右下のほうに6.6%という数字がございますけれども、これが現状の住民税と所得税を合わせた負担率でございます。租税負担率全体はその上23.0%、この対比での6.6%ということでございます。

これを過去にさかのぼってみますと、1970年代の段階では5.2%という数字でございます。それが途中、80年代を経まして、10.4%ということでピークになりまして、その後、6.6%という流れになっているということでございます。ピークになった後、例えば経済の状態が非常に悪くなるというようなことで税収が下がってくることもございましたし、景気対策に伴う様々な減税措置もございました。あるいは税制の抜本改革ということで、1990年代に2度ほど大きな改正が所得税については行われる等々、そのようなことが反映いたしまして6.6%という形になってきたわけでございます。全体的にこの30~40年間でみると、一番低いレベルであることはご覧いただけると思います。

ただ、その場合の背景になります財政事情でございます。その上のほう、シャドーを打ちましたところですが、1970年あるいは1990年というあたり、財政の赤字というものはほぼない状態、均衡財政的な状態ということになっているわけでございますけれども、現状の6.6%の背景にある財政事情は、このような赤字が大きく口を開いた状態であるということで、状況が変わっていることをまずつかんでいただければと思います。

2ページ目、国際比較でございます。これも見慣れた表でございますけれども、一番左側、日本の状態でございます。6.6%という数字がございますが、租税負担率23.0%との関係での6.6%ということでございます。世界各国の数字をご覧いただければ、もちろん低いということになります。租税負担率自体の丈が低いこととの関係も当然ありますけれども、下のほうに、租税負担に占める個人所得課税の割合28.8%と書いてございますが、この数字を横にご覧いただきましてもウエートが低いということでございます。個人所得課税が持ちます財源調達機能、あるいは所得再分配機能について、税として他国との比較におきまして相対的に弱い、あまり十分発揮されていない状況があるのかなというふうに思うわけでございます。

3ページでございます。現在、6.6%という数字ではございますけれども、その背景になりました制度改正、何度も行われておりますが、その大きな改正2つ、昭和62~63年頃のいわゆる第一次抜本改革、平成6年あたりに第二次抜本改革が行われました。そのときには消費税の導入、あるいは消費税を3%から5%に引き上げることを背景といたしまして、所得税についてはそれぞれ直間比率の是正という考え方で、いわゆるフラット化を進めてまいったわけでございます。

そのときの状況を全部とりまとめますと、この実効税率のグラフになるわけでございます。一番上の点線が80年代後半のグラフですが、それが2度ほどの大きな制度改正によりまして、右下の方向にシフトする形になってきているわけでございます。この2度の改正のときの社会情勢を考えました場合には、所得分布についての水準が平準化するといったようなことを背景に、さまざまな議論がなされたことを思い起こすわけでございます。

結果的にこのようにまず下のほうに曲線がシフトし、右のほうにシフトするということでございます。下のほうにシフトすることにおきましては、大きな減税が行われたということでございますし、右のほうにシフトされるということは、全体的に平たくしていくという意味において累進構造について緩和するということでございますので、分配機能という面についてそこをむしろ低下させていく結果になっているという姿でございます。

国際比較、そのあと単身者の場合というのをいろいろつけてございますが、お時間の関係もございますので、ここは省略いたします。

赤い紙を1枚めくっていただきまして、ここから以降は所得税に限ってのご議論にさせていただきたいと思います。8ページでございます。所得税について同じように負担率を見ていただくわけでございますが、右下、4.2%という数字が見えます。下にカッコで3.4%と書いてございますが、これは税源移譲を行ったことによって3.4%になるわけでございます。実際の税源移譲そのものは19年に入ってからではございますけれども、それの前取りということで、所得譲与税という形で3兆円ばかり地方に譲与されておりますので、実力ベースで見ますと、すでに3.4%のレベルにあるということでカッコ書きにさせていただいているわけでございます。

この3.4%という数字を過去1970年からご覧いただきますと、このような一番低いレベルにあるということでございます。先ほど申しましたように、90年のときが一番高い率、7.5%でございまして、その後、経済的な要因とか、景気対策とか、制度改正ということにより下がってきたというのは、全体としてご説明申し上げたのと同じ背景でございます。

特にこの所得税についてご説明すべきは、下に書いてございますが、62年・63年の抜本的税制改革、平成6年の税制改革に加えまして、今申し上げました税源移譲というものがあったことが大変大きな改正であったかと思います。62年と平成6年の改正、先ほど申し上げましたように、これにつきましては消費税との見合いで、いわば税収中立ということを頭に置きながら直間比率是正を考えたときでございまして、基本的にはフラット化が進められたわけでございます。

それに対して税源移譲につきましては、住民税と所得税との間の役割分担の見直しという中で、全体として3兆円の所得税の減税、住民税については増税というスイッチをするということであったわけでございます。

9ページでございますけれども、税収の実額ベースのイメージをご覧いただきたいと思います。足元でご覧いただきますと、18年度予算では15.8兆円という数字がございますが、3兆円の分が出ていくことにおきましては12.8兆円という数字でございます。過去の平成元年あたりの26兆円の数字、あるいは平成9年のバブルの状況が大体終わったあとの19兆円といったオーダー、それと比べてこのようなレベルの税収規模になっていることのご確認をいただきたいと思います。

10ページでございます。先ほど、所得税につきましては3回ほど大きな制度改革があると申し上げましたが、これを実効税率でご覧いただくというのがこの表でございます。最初の一番上にある点々が抜本改革前でございます。2度ほどあって3回目、税源移譲も含めまして、現行はこの太い線になっているわけでございます。1つ目、2つ目の下にシフトしてくる線は、冒頭ご覧いただきました個人所得課税全体の姿と同じような姿になっておりますけれども、税源移譲に伴いまして、3本目の線から4本目の線のところ、下のほうから1,000万あたりまでグッとえぐれた状態で形状が示しているあたりをご覧いただきたいと思います。ここは3兆円の税源移譲ということで所得税を減税いたしましたが、あとで詳しく見ますけれども、税率につきまして、最低税率を10%から5%に引き下げるという改正などを通じまして、3兆円、捻出しているわけでございます。その結果、ここが負担が大きく下がるという状態で、こういうえぐれた状態になっているということでございます。

その上で、この3回の改正を通じまして、全体としてどれくらいの負担減になったかということを見ていただくわけでございますが、実数のほうがわかりやすいと思いますので、次の11ページをご覧いただきたいと思います。ちょっと字が小さくて恐縮でございます。例えば年収500万円の給与収入の方につきましては、夫婦子2人の場合ですけれども、左の上のボックスですが、22万5,000円という数字から6万円ということで、74%カットということになってございます。給与収入700万円という方、サラリーマンにつきましては約7~8割がこの700万円以下というところに含まれておりますが、そのあたりについて見ますと、52万円程度のものから16万6,000円ということで、70%くらいの減。1,000万円ということでご覧いただきますと、117万円くらいから59万円ということで、5割減という形で減税をしてまいった形になっております。

先ほどの10ページのグラフをご覧いただきますと、基本的にはえぐれた状態というのが、そういう実額の感じで負担減になるということでございます。それからグラフの形につきましても、非常に平べったい形になってきたということでございますので、所得税についての財源調達、あるいは所得再分配機能をこれ以上劣化させることをどう考えるべきか、ということも一つ論点であろうかと思います。

そのあと、国際比較を示してございますが、13ページをご覧いただきたいと思います。今申し上げた実効税率というものを、もう少し税率構造で細かく見たものがこの13ページでございます。4つほどボックスがございますが、まず、刻みをご覧いただきたいと思います。15段階だったものが、現在、6段階ということで簡素化をしてまいったという流れでございます。

最高税率ですが、当初70%ぐらいあったものが、50%を経由しまして、今、40%でございます。住民税の10%と合わせて限界税率50%で設定しているということでございます。

最低税率ですが、61年のときには10.5%という数字が見られます。現在、10%を経まして、先ほど申し上げましたように5%と、外国に比べても非常に低い水準でございますが、そういう税率が設定されているということでございます。

それから、ブラケットの幅というのは、ちょっと図が見にくいですが、基本的には右下に押しつぶすような形で、全体としてブラケットを広げる方向でフラット化してきております。全体の形状をご覧いただきますと、縦長でやや分厚い矩形から、横長に非常に薄い矩形に変化した形が、先ほどの実効税率の曲線と裏表になっているという印象でございます。

14ページ、あるいは15ページ以下は単身の場合でございますので、適宜ご覧を賜ればと思います。

18ページですけれども、税源移譲について数回前に宿題をいただきました。税源移譲に伴いまして、その前後でどのように実効税率のカーブが変化したかを示してほしいという宿題でございました。これがそのグラフでございます。もともと税源移譲といいますのは、国と地方の間で3兆円をシフトさせるということです。トータルとしての個々人の負担は変わらないという前提で設定してございますので、一番上の太い線、所得税+個人住民税の線は変わらないという中で、その中の割り振りが変わったということでございます。

割り振りの考え方は、所得税と住民税の役割分担を明確にすることを3兆円のシフトをしながらやったということでございます。ご覧いただきますと、細い線が住民税の税源移譲前、ちょっと太めの薄い線が税源移譲後の住民税の姿でございます。10%にフラットにしたということで、所得の比較的低いところに厚く増税が生じまして、あるところから減税になるという形になったということでございます。

それと入れかわるように所得税は設定いたしました。点々が移譲前のグラフです。大きな破線が移譲後の所得税の実効税率のカーブでございます。ご覧いただきましたように、下のほうからグッとえぐれる形で立ち上がってくることにつきましては、先ほど申し上げました5%という税率を設定したこととの表現でございます。ここで3兆数千億円の減税があるわけですが、途中から実はこの実効税率のカーブが現状よりも立ち上がっているという形になってございます。

役割分担の明確化と申しましたが、住民税についてはフラット化を前面に出しながら、所得税については所得再分配機能を充実させるということで整理をした結果、こういうふうになってきたということでございまして、いわばこの実効税率カーブが1,500万円あたりを軸にツイストした状態になったということでございます。これから税制改革を論じていただく場合には、このような流れの上でさらにご議論をいただくことになろうということをご理解賜ればと思うわけでございます。

19~20ページはちょっと飛ばしていただきまして、21ページ、22ページ、今度は納税者の分布をご覧いただきます。先ほどは実効税率カーブでございまして、一種の理論値でございますが、それでは、どの程度の方たちがどの所得階級に分布しているかということを見るのが21~22ページのグラフの役割でございます。

21ページにつきまして、納税者の数が下、上が税額のシェアでございます。所得の低い、中くらい、所得の高いと、3つに分けて見たものでございます。下のほうにつきましては、8割の方が所得税額については34%くらいのウェートを持っている。所得の高い方については2.5%の人が30%くらいのウエートを持っている。

こういうことでございますが、22ページ、税源移譲後でございます。これは一種の推計ですけれども、人数は同じといたしましても、先ほど申しました3兆円強の減税は、比較的所得の低いところを中心に行われているということもございまして、80%の方が所得税額については23%のウェートとなっている。今までこれは34%という数字でございましたが、これが23%になりますし、所得の高いところについては、2.5%の方が、それまで30%のウエートが38%のウエートになるというようなことで、全体としては減税しておりますのでパイが小さくなるのですが、その中で負担するシェアリングが下のほうから上のほうにシフトしている姿が見えるわけでございます。

以上が現状でございます。

次に、23ページをご覧いただきたいと思います。以上の所得税のいわばマクロの姿をご覧いただきながら、今後のご議論に供するということで用意したものでございます。このグラフは実効税率のカーブですが、これは所得税のみならず、社会保険料、消費税のところまで積み上げたものでございます。個人レベルの公的負担の実効カーブを示した一つのシートでございます。

今後の税制改革のご議論のときに、この積み上げた一番上の黒い曲線、このカーブをどういう形、あるいは位置、どうするかということが大きなテーマになってくるのだろうと思います。歳出・歳入一体改革というご議論の中で、租税負担率を一体どうするのかというお話がもともとあるわけでございますが、仮にそれを引き上げるという場合には、所得税と消費税の役割をどう考えるか。仮に消費税にのりながら全体として負担増を考えていくという場合に、それでは全体の負担構造をどう考えたらいいかというあたりが、この一番上の形状をどう決めるかという問題になってくるわけでございます。

仮に消費税を一定割合引き上げるという場合になりますと、俗に言う、所得に対する逆進性ということもございますので、全体的に一番上の黒い線のカーブが、上ヘ上がりながら、やや寝ながら上がるという形になってくるわけでございます。当然、その負担の裏側には給付等ございますので、それでいいという考え方もあろうかと思いますが、それではなくて、負担サイドで何らかの調整が要ると考えるならばどういうふうに考えるか。そのときに、例えば所得税の役割が重要になってくるということになろうかと思います。

先ほど申し上げましたように、税源移譲によりまして、その役割が、明確に再分配機能を担えるのが所得税ということになってきたということもございます。そういう意味では政策変数になっているというふうにお考えいただくべきことだろうと思います。今申し上げたような全体の中で所得税をどのような形にしていくかということが、これからの一つの大きな論点になろうかと思いますので、ご議論賜ればと思います。

以上が前段でございますが、今後の議論をしていく場合には、このような23ページのグラフのイメージを持ちながら、実は所得税につきましては、課税ベース、税率構造、全体を連立方程式のように組み合わせて最終的な負担構造のカーブにしないといけない、ということになるわけでございます。

24ページ以下、個々のアイテムになりますので、簡単にポイントだけ説明させていただきます。

24ページでございます。これは、所得税計算の仕組みということでいつもご覧いただいているものでございます。基本的には日本の場合には総合課税になっておりますけれども、例えば金融関係の所得、あるいは譲渡関係の所得につきましては、その性質が違うということで分離課税という形がとられております。この辺の扱いにつきましては、後ほど奥野委員から若干のプレゼンテーションをいただく用意でございます。

そこで27ページでございますが、所得税を計算するときには課税ベースの大きさが一つのキーでございます。これに税率を掛けることで出てくるわけですが、その基礎になる課税ベース、全体の収入の中でいろいろなものが引き算されていきます。一つは、もともと非課税ということで、例えば遺族年金とか失業給付はもともと非課税でございます。そのあと、例えば給与所得控除、退職所得控除、公的年金等控除のような、一種の調整するための控除というのがございます。それから真ん中あたり、所得控除、担税力の調整ということで、人的控除と称する基礎控除、配偶者控除、扶養控除、その他としてここにございますような各種控除がありまして、最後、課税所得というふうになっているわけでございます。いろいろな社会の情勢変化に伴いましてこのような控除が拡充等々されてきた歴史でございますが、今日的眼で見てその必要性をご議論いただくことも必要かと思います。

ちなみに28ページでございますが、課税ベースの大きさ、現状をご覧いただきますと、例えば給与収入、サラリーマンを念頭に置きますと、500万円の場合にはその24%、700万円では37%といった課税ベースの大きさになっている。逆に言うと、その分だけ課税ベースが落ちているというのが現状でございます。

29ページでございます。少し省きながらで恐縮でございます。人的控除の一覧表を書いてございます。様々な人的控除がございます。日本の場合には、個人単位課税を基本といたしまして本人の所得を計算するわけですが、その際には家族の状況などをいろいろ加味していくということで、きめ細かく設定されているわけでございます。こういうふうな各種の配慮というものが、新しい時代の変化とともに、このままでいいかどうか、あるいは、複雑化しているのではないかというようなことについては、この席でもご議論いただいているところでございます。

30ページ、31ページ、このあたりは、その人的控除の中で基本的な基礎控除、配偶者控除、扶養控除を示したものでございます。ご覧いただきたいということでございます。

33ページですが、この人的控除絡みで最近のトピックといたしまして、子育てと税をどう考えるかということが出てまいっております。昨年の「論点整理」でもこのあたりはかなりご議論を賜ったところでございます。所得控除、税額控除、児童手当という様々な手法があるわけですが、現在におきましては所得控除で設定しておりますけれども、その功罪、留意点にありますように、高所得者ほど負担軽減効果が大きくなるといった問題もあるわけです。

税額控除にいたしますと、基本的には金額が同額という効果を得るという面がございますけれども、税金を払っていない方には効果がないといった問題があるということです。予算においてはその問題はクリアされる面がございますが、規模の問題があるという、このあたりの整理は昨年見ていただいたところでございます。

34ページでございます。子育て絡み等々でしばしばN分N乗方式ということも言われます。これも昨年の「論点整理」の際に見ていただいた資料ですけれども、若干復習させていただきますと、N分N乗方式というのはフランス特有の制度で、フランスでは、民法の制度が夫婦共有財産制という形をとっておりまして、この枠内にございますように、課税単位についても家族を念頭に置いているということでございます。共有財産制でございますから、債務についても夫婦共有の債務ということで計算をするという、いわば自然な姿になっているということでございます。

この計算方法を見ていただきますと、夫と妻の所得がありまして、個別財産制で、個人単位課税の場合はそれぞれ税金を計算するわけですが、フランスの場合にはこれを足し算をして計算します。ただし、単純に限界税率を掛けるのではなくて、いったんここで3という数字で割ってございます。これは除数というものでございまして、夫1・妻1、子供が半人前で0.5ということで、3という数字がございまして、まず3で割りまして、左から2つ目のコラムの状態になります。ここまで税額を計算するベースを圧縮いたしまして、そこから基礎控除のようなものAを引きまして、残りに対して累進税率を掛ける。出てまいりましたものを3倍して戻すということで、3分の3乗、N分N乗というものでございます。

今申し上げましたように、3分の1にするというところで税金の計算となるベースを圧縮するということですので、累進緩和がなされるということが一つのポイントでございます。もちろん、夫婦の所得の働き方に対しては中立的という面はございますが、累進緩和がポイントになっている制度でございます。

35ページは、過去のフランスの例、個人所得税の歴史をご覧いただきたいと思います。1914年にこの所得税はフランスに入りますけれども、その際にはこのようなN分N乗方式ということではなくて、単純に足し合わせるという制度でございまして、足し合わせれば足し合わせるほど高い税率が限界的にかかるということで様々な問題を指摘されまして、N分N乗方式は1945年に導入されたものであり、累進度が緩和するという措置であったということでございます。その後、1981年に、少子化対策ということもございまして、3人目の除数を0.5から1に変更したということです。このような経緯を経てきたものでございます。

ちなみに出生率の関係、しばしば言われますので整理をしておきました。1981年に除数を若干変更して以後、特に見直しは行われておりませんが、出生率についてはこのような変革をたどっているということをご覧を賜ればと思います。

37ページ、いずれにしましてもフランスの場合には特にこのような税率構造、日本と違う構造をとっていることによりまして、今申し上げたN分N乗方式という制度の意味があるのかなということでございます。社会制度そのものの違いと合わせましてご覧を賜ればということでございます。

39ページ以下、お時間がございますので若干省きますが、給与所得控除というものも今後のご議論かと思います。ここにございますように、昭和49年に大きな改正が行われてこのようなグラフになっております。今後のご議論といたしましては、雇用関係が非常に多様化している中でこのような画一的なとらえ方でいいのかどうか、勤務実態というものをどういうふうに考えたらいいかというあたり、「論点整理」のときにご議論がなされたわけでございますが、そういったことも一つ議論があろうかと思います。

それから、41ページでございます。公的年金等控除。これは高齢者に対する課税、年金に対する課税関係でございます。ここにございますように、平成16年度改正でかなり大きな改正をさせていただいたわけでございまして、現状におきましては、ここにあります太い線の状態で公的年金等控除が適用されることになっております。世代間の公平という観点から一つの改正がなされたわけですが、引き続き、現役サラリーマンと年金生活者との間の課税バランスをどう考えていくかというあたり、42ページ、43ページ、44ページと、それぞれ課税最低限の状況等を整理してございますのでご覧を賜ればということでございます。

それから45ページ、今度は金融関係でございます。これは後ほどプレゼンテーションいただきますけれども、平成16年に金融小委で報告をまとめていただきました。金融所得課税の一体化についての話でございます。この枠にございますような「貯蓄から投資へ」の政策的要請を頭に置きながら、2つ目の枠にあります、中立性とか、わかりやすさとか、投資リスクの軽減といった観点から、このような一体化が意義のあることだろうということで、下に2つ書いてございますが、比例税率で分離課税をしていくということももちろんございますし、さらにコアといたしまして、損益通算の範囲を拡大していくといったような内容が盛り込まれているところでございます。このあたりの話につきましては、後ほどプレゼンをいただくということでございます。

46ページ、現状はそのような方向性を頭に置きながら、真ん中にございますような平成15年度改正で、上場株式等の配当課税とか譲渡益課税等につきまして、申告不要といったような制度に整備し直し、当面の優遇税制ということで10%の税率にするといった改正も既に行われているところでございます。

49ページ以下、退職所得、譲渡所得等々、所得分類にかかわる様々なお話がございます。お時間ございませんので、ここでは説明は省略させていただきます。

石会長

ありがとうございました。

では、地方税関係、林さん、お願いします。

林市町村税課長

それでは地方税関係、お手元の資料、「個人所得課税(地方税)」と書いてある、「総44-2」と右上に振ってある資料をご覧いただきたいと思います。ポイントだけかいつまんで申し上げたいと思います。

1ページ目でございますけれども、地方税の税収内訳でございます。左側、個人住民税、道府県税、市町村税、それぞれにおいてご覧のようなウエートである。ここでまた3兆円の税源移譲といった問題が19年度からなされるということになります。

一番下の注に書いてございますけれども、個人道府県民税で約2.2兆円、個人市町村民税へ約0.8兆円といった数字になってございます。

それから2ページ目、これも国税でご説明があったのと傾向的には似ております。最後の税源移譲のところではねるわけでありますけれども、ピーク時から比べると下がってきているという状況です。

次の3ページ目をご覧いただきたいと思います。これも、先ほどのご説明の中で性格論といったようなことがございましたけれども、ご承知のとおり個人住民税につきましては、広く住民が地域社会の費用を分担するといったようなことで考えております。昨年の基礎問題小委における「論点整理」におきましても、こういった負担分任の性格を踏まえて、諸控除についても簡素化、集約化などの見直しを図るべきといったようなことを言っていただいているわけでございます。

4ページは、金融関係でございますけれども、利子割、配当割等、こういった形になってございます。

1ページ飛ばしまして6ページをご覧いただきたいのですけれども、税率につきまして先ほどご紹介のあった所得税のほう、それぞれブラケットが分かれましたが、その前提として、住民税がご承知のとおり10%という一律比例税率化がなされております。内訳としては、道府県民税が4%、市町村民税が6%という姿でございます。

税源移譲に伴いまして、税率構造が、次の7ページのような形で10%一本になったわけでございます。先ほどご紹介ありましたように、700万円を超える13%だった部分を3%、地方から国へ、200万円のところから下、こちらは国のほうの所得税から5%分、3.4兆円といったようなことで、トータルで3兆円という数字になっているわけでございます。

個々に見た場合にどうかということで、8ページをお開きいただきたいのですが、個々人ベースでは先ほどご説明があったとおり、負担の増減は基本的に生じないという形で、ご覧いただいたように一番右側の太い枠の中ですけれども、負担の増減ゼロとなっております。その内訳を見ますと、ちょっと見にくい表でございますけれども、独身の場合、1つの例ですが、税源移譲前につきましては、ここに入っている数字、所得税と個人住民税を比べていただければわかりますけれども、いずれも所得税のほうが個々人、給与収入段階に応じて見ても大きいわけであります。税源移譲後の欄、所得税と個人住民税の真ん中の欄をご覧いただきますと、ここに数字が入っているベースでいきますと、ずっと個人住民税のほうが大きくなります。どこでクロスしているかといいますと、給与収入の700万円と800万円の間で所得税のほうが個人住民税をここで初めて抜くという形で、個々人の眼で見ますと、ここから所得が上の方は所得税が大、そこから下は今度は個人住民税が大きくなるという形になるわけでございます。

今のは独身の場合でございますけれども、次の9ページ、夫婦子2人の場合であります。ご覧いただきますと、900万円と1,000万円の間で同じようにクロスしているということでございます。そして、今ご覧いただいたように、個人住民税のほうが所得税よりも大きくなる。収入が比較的低いほうの方々ですけれども、納税者数で見ますと、実はそちらのほうが推計で8割~9割ということになってまいります。

ということで、しっかりと個人住民税の賦課徴収をしていかなければならないということもございますので、資料10ページ以降、幾つかつけてございます。

10ページをお開きいただきますと、市町村でどの程度しっかり課税をしているかということについてまとめてみましたけれども、実はかなり地道にやっているということでございます。ご承知のとおり住民税は課税方法は賦課課税、市町村のほうで税額計算を行って賦課額を決定し、その税額を通知している。こういう形になってございまして、納税義務者は、次に「所得捕捉の考え方等」という欄がございますけれども、5,509万人、それぞれについて氏名・生年月日等によりまして、各種の所得情報を名寄せ・突合しております。そして税額を決定しているということでございます。

どういったような情報を集めているかということですが、「所得情報等の収集範囲」という欄をご覧いただきたいのですけれども、給与収入につきましては、1月1日現在の全給与所得者の情報、これは給与支払報告書でわかるということですが、その下、途中退職者につきまして、1月1日現在には職に就いていなくても、途中退職者につきましても、給与収入が30万円を超えた場合は同じように事業所で給与支払報告書を送ってこなければならない。フリーター課税などと言われましたけれども、17年改正によりこういった点が追加されております。

年金につきましても、公的年金等の支払報告書によりまして全年金受給者の情報を把握する。申告書につきましても、税務署さんのほうと情報交換、協力をいただいたりしまして、確定申告書・住民税申告書といった情報、あるいはその下、原稿料・講演料等といった情報などにつきましても、資料を収集して所得の捕捉に努めているということでございます。

こういった形で個々人の所得を把握し住民税をかけていくことになりますけれども、一番下の「他の行政への活用」という欄がございますが、国民健康保険料が決まる場合の所得割の額はこういった所得に応じて決まってきたり、あるいは、社会保険料の未納者対策のために所得情報を提供するといったような活用がなされております。

11ページですけれども、今申し上げたようなものにつきまして、横浜市の例ということで図のような形で書いてございます。左側から、給与支払報告書、年金支払報告書、確定申告書、住民税申告書といったようなものが提出される。それから、支払調書等の各種課税資料の調査といったようなことで、税務署さんともご協力いただきながら各種の情報を収集して、その上で名寄せを行って突合して課税をしていくという姿になってございます。こういう形で対応することによって、11ページの右斜め下に四角囲いの欄がございますが、当初課税後のこういった調査・突合によって新規に課税・税額変更を行ったものが、16年の場合で言えば、横浜市で1.3万件以上、6億円以上といったような形になっているとのことでございます。

12ページは、所得捕捉のための調査の例といったようなことで、それぞれ、こういったことを行っているということで参考におつけしてございます。

13ページは、所得捕捉や徴収に資する個人住民税制の見直しということで、2点ほど書かせていただいております。先ほども簡単に申し上げました、フリーター課税の関係といったような17年改正、それから、徴収困難事案などにつきまして、都道府県が市町村から滞納処分を引き継ぐといったものにつきましても、使い勝手のいいような形で改正を行ってきております。

14ページは、「公的年金受給者に係る税・社会保険料の徴収方法の比較」と書いてございます。これも昨年の「論点整理」でご指摘いただいておりますが、公的年金からの徴収につきまして、現状、個人住民税は特別徴収されておりませんけれども、これにつきましても、目下、関係省庁と調整中でございます。これまでは所得税、介護保険料といったもの、それから今、法案が国会に出ておりますけれども、国民健康保険料につきましても、同じように年金から天引きをする制度が20年度から導入予定ということもございまして、個人住民税についても調整を進めてまいりたいと考えております。

以下、住民税に絡む個々のミクロのシステム系の資料をおつけしてございます。16ページをお開きいただきたいのですが、住民税関係の人的控除について各種控除ございます。これも地域の会費といった性格等がございまして、右側に、控除額、所得税、個人住民税といったものがございますが、額につきましてかなり抑えた形で、現状、設定をされているところでございます。

18ページは、人的控除以外のその他の所得控除の一覧でございます。

19ページは、税額控除の関係でございまして、これもかなり限定的にこれまでのみ設定してきているということでございます。

20ページをお開きいただきますと、先ほどの国税のほうで子育て支援について資料がございましたけれども、それの個人住民税版について添付させていただいております。個人住民税の場合は、申し上げましたように10%比例税率になってございますので、所得水準にかかわらず基本的には負担軽減効果が同等ということでございまして、先ほども少しご紹介があったN分N乗方式といった形につきましても、単にNで割ってNで掛けると、比例税率10%ですので、負担軽減効果は変わらないといったことになるわけでございます。

それから21ページ以降、退職所得の関係ですとか、あるいは先ほど国税でもご紹介がありました、年金と課税最低限の関係の個人住民税の資料をおつけしてございますので、適宜ご覧を賜ればと思います。

26ページですけれども、これは個人住民税の均等割でございます。ここにございますように、平成16年に、それまで人口段階別で標準税率が分かれていたものを、3,000円に、上にそろえる形で合わせましたけれども、これによって現在、大体2,200億円といったような均等割に係る税収額になってございます。均等割の平均税率等の推移、27ページにつけてございますけれども、他の各種指標と比べて低いのではないかといったご指摘をいただいているところでございます。

28ページ以降、現年所得課税といった問題もございますので、論点等について資料をつけておりますので、またご覧いただけければと思います。

以上でございます。

石会長

ありがとうございました。

なお、資料の一番後ろに、本日ご欠席の高木さんから、個人所得課税についての意見書が提出されておりますので、お目通しいただき、議論の参考にしていただければと思います。

それでは議論に入る前に、奥野さんから、金融所得課税の一体化につきまして、これまでの経緯を踏まえ簡単にご説明いただきたいと思います。よろしく。

奥野委員

事務局からの説明にもありましたけれども、平成16年6月に金融所得課税の一体化についての答申を出したところで、それから2年たっているわけですが、その後、所得税一般に関しての問題とか、格差の問題とか、いろいろなこともあるでしょうから、金融所得課税についてどういう論点だったのかということをもう一度まとめてくれということでございますので、主に課税論の観点から簡単にお話しさせていただければと思います。

金融所得税というのは所得税の一部であるわけです。まずその所得税ですが、基本的に日本の所得税というのは、考え方の原則としては包括的所得税という考え方に立っております。課税形態としては総合課税、つまり所得を包括的所得としてとらえて、一括してそれに累進課税をするという考え方です。

では、包括的所得というのは何かというと、ある家計なり個人をとったときに、ある1年間をとらえて、その年の最初に持っていたいわば資産とお金みたいなものが、1年後に、使ったお金を含めて幾らに増えたかということを表しています。もう少し別の言い方をすると、人間というのは、資産という資本と、もう一つ、人間の自分自身、これは経済学の言葉では人的資本という言い方をします。その人が持っている人的資本と物的資本が、その1年のうちに何らかの収益を生み出すわけです。その生み出したもの全体、ある種の値上がり益も含めてですが、それがその人の包括的所得であって、それをこの人の稼得能力というふうに呼ぶ。これが多ければ多いほど累進的な課税をして、それによって稼得能力の高い人から低い人に再分配を行おうということが包括的所得税の意味であって、そういう意味では所得税というのは、所得再分配、資産再分配のために望ましい税だと考えられてきているということになります。

ただ、この包括的所得税という概念が常に唯一の望ましい考え方かというと、実は必ずしもそうではありません。つまり、包括的所得税の中にもいろいろな問題があります。それは理念的な問題もありますし、現実的な問題もあります。

簡単に理念的な問題を一つだけお話ししますと、それが[1]の支出税・消費税と言われているもので、人間の一生の中で、ある年の所得が多いということは、必ずしもその人が金持ちだということを意味しないわけです。例えば若い人とか、年を取った方というのは所得は非常に少ないかもしれない。でも、実は一生のうちに中年でものすごい所得を持っているかもしれない。こういう人もいれば、逆にずっと何もない人もいるだろう。そういう意味で言うとその人の稼得能力とか担税力というのは、1年でとらえるのではなくて一生でとらえたほうがいいという考え方が、経済学では最近はむしろそちらのほうが強い考え方です。

そういう形で考えるとすると、一生のうちの所得ないしは稼得能力、あるいは資産と人的資本の収益、そういうものを現在割引ベース、要するに全部割り引いてしまって、例えば子供のときで考えると、生涯に得る所得と生涯に支払う支出が等しくならなくてはいけないということになるはずです。もう少し別の言い方をすれば、現在割引価値ベースで言えば、生涯労働所得と、最初に親からもらった遺産とか贈与の受け取りを、いずれそれを生涯のうちに使ってしまって、最終的には次の子供たちに遺産贈与するということになるはずです。

そういうふうに見たときに、では金融所得とか資本所得、とりわけ金融資産が生み出す所得は所得なのか、というのが一つの問題です。実は、利子とか金融所得を受け取る人は一見お金持ちのように見えますけれども、それは、ひょっとしたらライフサイクルの一生で働いたお金を一生懸命運用しているからもらっているだけかもしれない。あるいは、お金を借りている人はお金がないように見えますけれども、ひょっとしたら非常にヒューマンキャピタルのある人で、今、大学院の教育を受けていて、そこで所得はないので教育ローンを借りている。こういう人たちは逆に言えば、本当は一生の意味では担税力があるのだけれども、お金を借りている、利子を払っている、そういう立場かもしれないということになります。

金融所得に課税するというのは、簡単に言ってしまうと、利子とかそういう資産の収益率を下げるわけです。10%の収益率があがるところに例えば2割の税金をかければ、収益率は8%になってしまう。そうすると何が起こるかというと、資産からお金をもらっている人が損をして、お金を借りている人は、10%の利子で借りたはずが、あとでお話しするような負債の利子控除みたいなものが認められるとすると、それを控除することで8%で借りられることになる。つまり、利子率が下がって安いお金で借りられる。そういう意味でお金を貸している人から借りている人への資産再分配をするわけで、それは必ずしもお金持ちから貧しい人へという形になるとは限らない。例えば、年寄りから若い人へという再分配かもしれないということがあって、資本所得に対してまで包括的所得としてとらえることが本当にいいのかということに関しては、理論的にはちょっと問題があります。

ただ、そうは言いますけれども、現実には所得とか支出とか遺産とか、こういういろいろなことの税制というのは、理念だけで動いているわけではなくて、実際の運営の問題とか、執行の問題、捕捉の問題というものがあって、取りはぐれた、あるいは捕捉しなかった所得みたいなものもあります。そこから貯蓄をして利子でもらっているという人もいるわけですから、そういう意味で資本所得は課税ベースに取り込んだほうがいいのだろうと思いますけれども、しかし、いわゆる労働所得とはちょっと違う形でやったほうがいいかもしれない。もう少し別な言い方をすれば、所得とか資産の再分配をやるときには、労働所得と資産所得、相続税とか他の資産性所得、そういうものを通じて再分配をすることのほうが重要かもしれないというのは、一つの理念的な批判です。

2番目は、包括的所得税の執行とかその辺の問題でございます。実際の所得税というのは、実は我々が頭に考えたとおりに運営されているわけでもないし、執行されているわけでもない。それがあるがために、様々な意図せざる問題が実際には発生してしまいます。それが例えば15年ほど前に北欧で起こったことで、それが二元的所得税ということになりましたし、アメリカでは、様々な租税回避の問題がこういう問題に関しては起こっています。

例えばお金を借りてきた場合に、本当の包括的所得税であれば、それに対する利子支払いというのは、当然、所得から控除しなくてはいけないことになるわけです。他方、お金を借りてきて何ができるかというと、例えば家を建てることができるわけです。家を建てると、本当を言うと帰属家賃というものが発生するはずです。これは理論的に考えてということで、そういう専門の話なのですが、そうすると、自分で家を持っていてその家を自分で借りているので、実際はそこで私が私に家賃を払っているはずです。自分が受け取った家賃というのは本当は帰属家賃で、これは所得になるので税金を取らなくてはいけないということになるのですが、日本ではそういうものは税金として徴収されないわけです。それにもかかわらず負債の利子の部分だけは所得控除できるということになると、家を建てれば建てるほど得をする。要するに税金を減らすことができます。

それは一つの例ですけれども、そういう様々な問題が、とりわけ金融所得とか資産所得の問題に関しては起こるので、その結果、うまくやれば実はかなりたくさんの節税ができるということがしばしば起こります。それはアメリカでは租税裁定というふうに言われている問題であって、それを厳密にやろうとしても、捕捉とか執行の問題でちょっとできない部分がたくさんあるということを、現実問題としては認めざるを得ないというのが2番目の問題です。

では、いっそのことそういう所得を全部一括するのをやめてしまって、日本はややそれに近いのですが、所得がどういうところから生まれてくるかということに分けて分類所得ということをやってみたらどうか。例えば配当所得とか、利子所得とか、労働所得とか、事業所得というふうに分けて、それぞれ税率を変えてみたらどうかという考え方もあります。そういう考え方をするのが最適所得税という、これまた別の考え方でありまして、こういうふうにしたときには弾力性の問題という話がございます。つまり税金をかけるということは、その所得の有用性といいますか、その所得の重要さは、税率を高くすればするほど、重要でないといいますか、一生懸命働いてもお金が入ってこないことになるわけです。税率が高くなれば、そんな所得はあきらめたほうがいいというふうに思い始めるわけです。

それを、今みたいに分類所得で分けてみると、所得の種類によっては、税率を高くすればするほどその所得が減ってしまう。所得の源泉が逃げてしまうというケースがあります。それの一番典型が実は金融所得です。金融所得というのは基本的に国際的な競争をしていますから、金融所得に高い税率をかけると、国際的に日本では運用すればするほど損だ、外国で運用したほうが得だという話になるわけです。

そういう意味で金融所得というのは足の速い部分であって、ここに高税率をかけると、結局、外国に資金が逃げてしまう。その結果、日本全体としては損をしてしまう。だから分類所得にして、そういう考え方を最適所得税という言い方をしますが、最適所得税で考えるならば、むしろ金融所得税というのは低くしたほうがいいということにもなります。

しかもグローバル化の時代ですから、逆に言うと、現状の包括的所得税を理念どおりに動かすことは非常に難しいということを私は申し上げたわけで、別に包括的所得税の考え方が全部いけないとか、金融所得の所得税の税率はゼロにしろということを申し上げているわけではない。しかし、ほかの所得とちょっと別枠にして、ある程度の別の取扱いをすることはやむを得ないのではないかということを申し上げたかったわけです。

あと3つほど、ややテクニカルな問題をお話しします。

4番目は、金融所得のうちのとりわけ譲渡益みたいなものに関することです。単年度の包括的所得という概念は、資産が値上がったときは、値上がりがあった段階で所得が生まれたというふうに考えます。ところが、値上がりがあったからといって課税をしても、例えば株式を持っていて値上がったけれども、キャッシュがないという人はいくらでもいるわけです。こういう人に課税をすると、その人は税金を払えないので、無理やり売りたくもない株券を売らなくてはいけないことになるかもしれない。

そういう意味で発生段階、値上がりしたというのは所得が発生したということですが、それを売る、それが実現したということですが、発生所得と実現所得とは必ずしも違うという問題がありますし、そうだとすると、実現した段階で、発生と実現のタイミングがズレているためにいろいろな問題が起こります。物価調整も困難になりますし、実現しない限り課税をしないということになると、むしろできるだけ売らないで持っていたほうが、テクニカルな理由ですけれども、持ち手にとっては得だという理由が生まれてきて、そういう意味では株式市場などが取引が阻害されて流動性が低下するという問題もあります。

それからもう一つ、これは、金融所得の中でも配当とか、キャピタルゲイン課税にかかわる問題ですけれども、配当、キャピタルゲインというのは基本的には内部留保が事実上、株価に反映されているというのが経済学的な考え方ですので、そうすると配当、これは企業の利潤から支払うものです。内部留保、これも企業の利潤から支払うものです。ところが、その利潤というのはすでに法人税が課されている。その上、個人にそれが支払われた段階で配当とかキャピタルゲインにまた個人の所得税が課されるのは、これは二重課税ではないかという考え方。ここは事実なのですが、そういうことが行われています。そこで、それだと資本蓄積が阻害されるということで、それを調整しましょうというので、個人所得税の段階でインピュテーションという形で調整しようとするやり方はありますけれども、これも様々な理由でうまくいかないということが言われています。

それから、配当やキャピタルゲインに課税をして、利子に課税をしなければ、直接金融でやって、株式は配当とかキャピタルゲインで二重課税されている。その資金を銀行から借りてくるとその部分がないということになると、資金調達が間接金融にシフトしたり、いろいろな意味でバイアスが生まれてくる可能性もあると思います。

そういうようなことがあって、日本では2年前に金融所得の一体化課税というのを提案したわけですが、それは世界的な方向性でもあります。資料の3ページ目に「主要国の金融所得に対する課税制度の概要」というのがあります。アメリカは、この部分に関して伝統的には総合課税という包括課税方式でやってきたのですが、最近、変わりつつあって、2003年のブッシュ減税で、配当・長期キャピタルゲインに対して軽減税率を入れましたし、つい去年の11月に改革提案というものが出たところです。ご関心のある方は、5ページ目に米国の「提案」というのがありますが、2つあって、1つは、受け取る配当は無税にする、キャピタルゲインもかなり軽減するという提案です。もう1つは、金融所得ないしは資本性所得を分離課税にするという提案がなされています。

オランダは、同じようなボックス課税という形でやっていて、ここは、今言ったような分離をしていることに加えて、実現した資本所得だけではなくて、未実現の発生した所得もみなしで税金をかけるという仕組みにしています。

北欧諸国も数年前に二元的所得税というものを入れて、基本的には金融所得をはじめとした資本性所得と労働所得を分けて取り扱って、金融所得に関しては分離して軽減税率で比例税率でやると。それがここら辺の国でやっていることです。

そのほかでもドイツは、キャピタルゲインは伝統的に非課税ですし、フランスも分離課税をしているという状況です。一部の国を除いて、2年前に我々金融小が提言したような資本所得、金融所得の賦課方式に変わりつつあるということになります。

最後に、簡単にわが国における過去の歴史です。日本では戦後、総合課税というのが原則ではありましたけれども、金融課税に関してはずっと伝統的に分離課税、それから分類課税という形で運営されてきています。人口減少社会がこれから起こるわけで、そういう意味でもこれから、今我々が持っている金融資産をうまく効率的に活用することが経済活性化のために必要で、そのために金融税制に関しては、いわゆる包括所得という考え方も大事かもしれませんけれども、それと同時に効率的運用ということを考える必要があるだろうということになります。

そういう意味で今考えるべきことは、1つが優遇税率。今、20%のところが10%になっているわけですが、これはある意味で株価対策として行われるわけで、それを時限化してるわけですが、どうするかという議論が一方であります。それ以上に本質的に金融税制、資本税制に関して重要なのは、ここに書いた[2]ということです。つまり、リスク資産というものが今後も効率的に運用されて、それが経済活性化につながるような税制をとるべきだろう。そのための原則というのはここに書いた2つであって、1つが、家計の資産選択に対して中立的な税制が必要だろう。つまり、様々な金融所得に関して基本的には課税方式が均等化している。例えば1つの金融商品が分離で比例で2割ですというのに対して、別のものに関しては、所得のうち課税ベースをまず半分に切って、それをまた例えば総合課税にしますとか、そういう異なる課税方式を入れれば入れるほど租税裁定というようなことが起こって、節税のやり方がどんどん出てきて、金融デリバティブみたいなものをつくってさや抜きをして儲けられるという仕組みになって、かえって金融市場が不活性化しますから、そこはできるだけ中立的な税制にすることが必要だろうと。

もう一つは、投資リスクというものをできるだけシェアして、全体で一遍に損と得をうまく埋め合わせすることができるようにすればするほど、より効率的な運用ができる。そういう意味では、ある資産で損が出て、ある資産で得が出た場合には、その損益を通算することによって、その損というものが、投資家の投資意欲を萎縮させることがないようにすることが大事ではないかというふうに思います。

石会長

ありがとうございました。事務局お二人、それから、奥野さんから少し詳しいご報告をいただきました。これもひとえに、過去3年間、我々が所得課税についていろいろ議論してきました、いうなれば総括をしていただきまして、今日これから、中期答申に向けてどういう形で持っていくかという議論を始めるわけです。

そこで、お手元に事前に送付された資料がございます。過去の答申で何を言ったかというものの一覧表です。事前にお読みいただくという前提で、いうなれば勉強をしていただいたわけでございますので、そういうものもベースにいたしまして、かつ、資料全体は時間の関係で詳しく説明いただいておりませんが、大体の流れを把握していただいたと思います。まだ50数分、時間もございます。いつもよりは時間をとってあるつもりでいますので、いろいろな角度からご議論をいただきたいと思います。今日は、議論を集約するということではございませんので、いかなる問題でも今日お出しいただいたことについてご発言いただきますと、それをベースにいたしまして今後の議論の集約等々に役立てるかと思います。

それでは、どこからでも結構でございますので、ご発言をいただきたいと思います。

どうぞ、猪瀬さん。

猪瀬委員

今、石会長から、これからの総括的な大きな流れを整理するというふうなことだったと思います。先ほど、個人所得課税の地方税のところを林市町村税課長が説明してくれたのですが、一番最後の29ページ、「現年所得課税方式について」というのは時間の関係で省略しています。これは、三位一体改革で税源移譲があって、そして、前の説明にもありましたが、所得税よりも住民税のほうが、大半の所得層というか、低い所得層ですが、多くなっているというふうな現状で、これは大きな状況変化なんですね。2年ぐらい前、現年課税はどうなっているのかという話が出ましたけれども、そのときはそのときとして、今回、3兆円移転して、現年課税は最後に1枚くっつけるというようなものでは本来ないのです。これは思想の問題ですから、一番前のページにつけて、きちんと出すべきであって、それをどういうふうにするのかということをもう少し説明していただきたいと思うわけです。

それから、総務省側の説明もそうですけれども、税調会長の石さんとしてもこの辺の表現をしていただきたいという感じがします。地方の自立とか自主性ということをこれから重視するわけですから、ここのところが弱いとおかしいと思うのです。

石会長

ページが最後になったから弱めているということではないと思いますけれども、事務局はそれなりに問題意識を持って、今、作業もぼつぼつ始められております。何分にも解決しなければならない問題が山積みしていますので、とりあえず事務局から、現状と今後の見通し等につきましてご説明いただけますか。

林市町村税課長

現年所得課税の件ですけれども、昨年も、その可能性について検討するというふうにご指摘をいただいておりまして、私どももここ数年来いろいろ勉強してきております。理論的な面はもちろんですけれども、特に実務上の問題についてもやはり明らかにしておかないといけないだろうということで、今年度は、各自治体の実務者を集めて問題点を洗い出すという作業をしております。

お手元の資料、先ほどご覧いただいたものの一番最後、29ページに「現年所得課税方式について」という紙をつけておりますけれども、課税・徴収方式、特に今、ご承知のような形で賦課課税しているものについて現年所得課税に切りかえていく際に、給与支払者、納税者、報酬等支払者といったものにそれぞれ新たな事務負担が生じ得るということで、そういったものについてどういう取扱いが可能か。

また、そういった場合に、先ほど申し上げたように、現状、市町村においては名寄せをして所得を総合的に把握して賦課課税をするということをしております。これが現年所得課税にした場合、同じように、かなり汗をかきながら情報収集をして賦課課税をしていくといったことが維持できるだろうかというようなことですとか、あるいは、2として「課税権の帰属」と書いてございますが、住所異動した場合につきましての課税団体の調整についてどう考えるか。あるいは、現年課税に移行していく場合には、所得について移行前後の2年分といったようなものをどう扱ったらいいのか、そういった問題もございまして、今、会長からお話がありましたけれども、一生懸命勉強しているという状況でございます。

石会長

勉強の成果はいつ頃上がって、いつ頃実務のほうに行くのですか。

林市町村税課長

今申し上げましたように、まず実務上の問題につきましては、今年度中には一生懸命洗い出したいというふうに思っております。

猪瀬委員

工程表みたいなものを出してもらったらいいのではないですか。

石会長

実はこの税調でも、皆さん、この問題につきましては関心がありまして、かなり強くご要望もあって、事務局も検討していると思います。いずれ、書きぶり等々のときには少しプッシュするような形で、私自身も、できたら現年課税をぜひやらなければいけないと思っていますので、皆さんのご賛同を得られたらその形で進めたいと思います。

どうぞ、河野さん。

河野委員

今日は所得税を復習しているんですよね。所得税は、去年6月に我々は論点を書いて、洗いざらい問題点を、5年か10年かかって直すべきことを全部あそこに網羅したのです。その復習ですよね。

石会長

そういうことです。

河野委員

ただ新しくは、去年末にやった三位一体改革での税源移譲に従って、またいろいろな問題があったということも書いてあります。今日の資料説明ではそれが新しいところです。今のところ、6月、あと1カ月ぐらいのところで、歳出・歳入一体改革の議論は政治的に集約するだろうと世の中で言われている。やるのでしょう。それまでの間、税調は持ち時間があるから、静かに、静かに、今日も勉強しているということなんですよね。それはそれでいいんです。当然のことだから別に不満も何もないです。

去年から、キーパーソン、いろいろな人がいろいろなことを言ったけれども、歳出削減とか抑制という項目で何ぼできるのか。そのしりを税調が受けるとすれば、税調はどのくらいのことをひねり出さなければいけないのかという議論、大まかに言えばそういうことですよね。たった一つの希望は、いろいろな論者がいていろいろなことをやっているのは全部わかっているけれども、とどのつまり、歳出抑制のほうに5割以上の相当のウエートがあって、税金をよけい取ってこいという話はなるべく小さいほうがいいと。これは個人的な願望ですよ、税調としては。

そこで、今度の全体の議論が決まったあとの議論の主役は、誰が考えても、国民全体は消費税だと思っているわけです。去年、我々が6月に出したときの不愉快な経験というのは、サラリーマン増税をおまえらは狙っているのかといってぶっ叩かれたわけだ、選挙を前にして。誤解もあるし、偏見もあったし、政治的な立場もあった。しかし、とにかく今日では、去年の6月に出したようなサラリーマン増税を今度の消費税等との絡みでもう一回やるのか。消費税の増税と所得税の増税ということ。そのくらいしか全くないんですよね。それほど政府税調は政治音痴ではないから、当たり前の話だ、そんなことは。とすれば、僕も所得税についてはやりたいと思うけれども、しかし、基本はどう考えたって消費税増税。所得税は脇役、ないしは主役になるのはだいぶ先の話。ここに書いてあることを全部実現するためには。それを割り切っていかないと、力の入れ方が違ってくると思うのです。

それで、消費税の増税をやることについては、程度問題は別にして、ほとんど国民は覚悟している。タイミングは政治的な問題。内容は、税調が真面目にやればここで責任を負うのだと思います。そのときに、我々は今日、所得税のことを勉強し直しているわけなので、消費税増税と所得税を並列して考えた場合、同時増税はあり得ない。消費税は増税、片一方はそんなことはあり得ないということなんだけれども、今、両省の説明ではっきり書いてあることが一つあります。子育ての話が書いてあるのです。これはおそらく所得税にも議論が回ってくるでしょう。歳出面でやることが中心だと思うけれども、税金知らないよと言うわけにいかないことは明らかです、政治的に見れば。これは所得税にかかる話なのです、年末。間違いなく。

それを相当大規模にやるか、場合によってはそれはそれで結構だと思うけれども、しかし、そのことによってまた、力の弱まった所得税の財源調達能力を抑えるとかになったのではいけない。最低限、消費税は増税。しかし所得税は出入りあっても構わないけれども、内部での入れかえ。子育てのための支援だったらば、財源を内部で求めても構わないと思う。しかし、頭の基本的な整理としては、それはその原則で行くべきだという気がするんですよ。

もう一つ、これは最近の政治論でもあるし、社会学者の間の半分くらい定説になっているのかな。格差論というのがあります。これもまた政治的には大きなテーマですね。実態がどうなっているかわからないです、正直言って。いろいろな意見があるから。総理はこんなことを言っている、いろいろな人がいろいろなことを言っている。

ただ、この議論に税調は全く知らないよと言うことができるかどうかは、やってみなければしようがない。そのときに瞬間的に頭に浮かぶのは、相続税と、今日、奥野先生から話があった金融課税の話です。相続税をいじくるというのは、極端な議論からそうでない議論まで山ほどあって、今日、ここであまり言う自信もないから言いませんけれども、金融のほうはどう考えても包括的に戻るとかはできないよ、よくないよと奥野先生はおっしゃったし、そのとおりだと思うのです。

ただ、最近の株価の状況と、それで儲けている人間の数とか実質を考えてみれば、今、緊急避難的に10%ということでやっているんですね。それでもずいぶん税収はあるけれども、あれは緊急事態での10%なのだから、こればかりは時期が来たら間違いなく本則の20%に戻す。そのときに株はどうなっているかわからないけれども、基本はそういうこと。というぐらいは、私は確認したいなという気がとりあえずあります。

石会長

大変重要な論点をお出しいただきました。今後の我々の議論の整理に役立つと思いますので、追々、深めていきたいと思います。

では、出口さん。

出口委員

「参考資料」と書いてある「総44-3」ですけれども、ここに大事な報告が一つ大きく抜けているわけです。昨年6月の寄附金税制にかかわることですが、歳出・歳入一体改革の中で、身動きとれない中で、寄附金控除というのはどういうことかというと、いいことをやっているから税金まけてあげるという話ではないのです。自分たちのことは今までは政府に頼っていたかもわからないけれども、歳出をカットしていくといろいろ困ることが各地で起こってくる。そのときに心ある人たちが、自分たちでやっていきましょうと。発想から言うと、歳入歳出の二次元平面と違う軸で考えている。いうなれば目玉になる話なわけですね。その点をここでごそっと落としていることについては、大変な違和感があります。

それからもう一つ申し上げたいのは、今の財政赤字、これはだめだというのはかなりの方はわかっていただいていると思うのです。実は公益信託という制度がございまして、これは信託法で大正時代にできたのですが、第1号の公益信託ができたのは50年たってからなのです。最初につくった方はもう亡くなられましたが、亡くなられる直前にお会いしたときに何を言ったかというと、一つやり残したことがあると。自分は、日本の財政赤字が大変心配だ、これを解消するような公益信託をぜひつくりたいのだ、というような方がいるわけです、数は少ないけれども。

さっきの寄附金のことについても、見方を変えればこれは自発的な国民負担なわけです。自発的な国民負担であるし、それからもう一つ、金融所得で大金持ちになった人たちはある種ノーブレス・オブリージュという考え方もあって、ある意味では自発的な納税というか、確定申告の欄に税額を計算しますけれども、最後の1項目、自分の税額はこれだけれども、今の財政赤字を考えたらちょっとでも納税しますよというような欄をつくるとか、財政赤字の問題を何とかしたいという人たちに訴えかけるようなものを、ぜひここで出していっていただけないかというのが一つ。

もう一つは、我々、去年学んだことはメッセージの重要性だと思うのですが、それは、また会長に怒られるかもわかりませんが、資料の「総44-2」、地方税と書いてあるところの3ページ目です。先ほどの話にもありましたが、地域社会の費用を分担するとか、地域社会の会費だとかいう説明があるのですけれども、この表現は納税者に易しくないんですね。どういうことかというと、市町村の境に住んでいらっしゃる方は国内にいっぱいいるわけです。彼らにしてみたら、市町村のぎりぎりのところにいるから遠い学校に行っているとか、ゴミの出し方が違うとか、そういう人たちにとっては地域社会の会費ではないのです。であればこれは、行政区域内の費用とか、行政区域内の会費とか、納税者が少なくともその部分では不満が出ないような表現に変えていただきたい。そういう目で全部洗いざらい見るということが、今回、極めて大事なことだと思います。

石会長

わかりました。二番目、三番目のお話はそのとおりだと思います。いずれ検討したいし、言葉の上で整理したいと思います。

一番目、寄附金税制をあえて外したようなご感触をお持ちでございますが、今日は個人所得税に特化しようという形で、実は我々は寄附税制は非営利法人でやっていたのです。いずれ6月の段階で法人課税をやります。どちらに入れるかといいますと、今日これだけ盛り沢山の個人所得課税の中に、さらに寄附税制や何かを全部突っ込んでとても議論できないと判断しました。ですから、出番はこれから十分ございますので、非営利法人も含め、また、非営利法人自体のことも国会で検討されているようですし、税制まで話がまだ及んでいないということもございます。

さはさりながら、我々としても寄附税制はずいぶん議論してきました。おっしゃる意味は、過去の答申の中に入っていないということだと思いますが、これと同じような資料を、ほかのパーツ、つまり法人課税、国際課税、消費課税、間接税等でも重要な点はまたつくってもらおうかと思っています。そのときに寄附税制、非営利法人の関係はしっかり書いてもらおうと思いますので、そのときにまたご議論いただきたいと思います。

では、丹羽さん、お待たせしました。

丹羽委員

もうかなり論点も整理されているのですが、私、税の原則は当然、簡素、公平、中立だと思います。個人所得税に関してこの分野を考えてみますと、一つは、サラリーマンは100 %所得捕捉されている、これはよく言われていますね。しかし、それ以外についてはきちっと捕捉されていないのではないかというサラリーマンの不満は依然として残っているわけであります。そういうことから言いますと、この分野についての議論がどこまで進んでいるかわかりませんし、その辺についてのアピールは非常に少ない。問題点として指摘されている部分が少ないように思うのです。その辺はどう考えておられるのかということ。

もう一つ、金融商品課税というものも、考えてみますと、勤労所得も資産所得も合算して総合課税というのは原則だと思うのです。原則としては、ですよ。しかし、現在のような高い税率でありますと、一元化するのは金融市場への影響が非常に大きいと思うのです。だから、まず簡素化の点から、勤労所得と金融所得の二元化はやむを得ないにしても、金融所得そのものは細分化しないで一元的に課税すべきではないか。その捕捉をするためにも、社会保障とどうするかは別として、納税者番号の導入は不可欠ではないか。だから、所得捕捉と、サラリーマンの不満と、金融の一元化ということから見て、番号制というものはどうしても必要になるのではないかと思うのですが、その辺をどう考えておられるか、ちょっとお聞きしたいと思います。

石会長

前段のほうは、俗に言われるクロヨンとかトーゴーサンの問題で、この税調でもずいぶん議論を取り上げました。過去のものにも書いてございますし、サラリーマン以外の視点からの問題もあるし、自営業者からの視点もありますし、いろいろございますので、所得捕捉の問題というのはいずれ重要なイッシューでございますから、それはそれでまとめて議論する機会をつくりたいと思います。

後段の金融所得の一体化というのは、さっきの奥野さんのお話の延長上で、いうなれば納番を入れて二元的にやっていくしかないだろうというお話だろうと思いますが。

丹羽委員

納税者番号を入れることによって、国際的な逃げとか、そういうものに対する対応もできるのではないかと思うのです。

石会長

次回、納番はばっちりやりますから、そのときにもう一回ご発言いただきたいと思います。

では、村上さん。

村上委員

先ほど説明を聞いた感想みたいなことを交えて、二、三、申し上げたいのですけれども、一つは、税源移譲をした後の姿はどうなるかという質問を前にした経緯があって、そのお答えをいただいたわけで、それでもはっきりしていますが、所得税の姿としてはフラット化がより目立ったのではないか。その上に、消費税がいつあがるか知りませんが、あがるということになれば、これはやはり逆進性の姿が相当強く出るので、その前に所得税の持っている所得再分配機能というもの、平たく言えば累進度を高めておくことが必要なのではないかということが一つです。

それからもう一つは、子育てとか家族とか、盛んに言われていまして、その関連で一つ説明があったN分N乗。これはフランスの例で、日本に適用すると金持ち優遇になってしまうということかと思いますけれども、これなどは、日本流の流れである個人単位課税と対立しない形で何か家族的なものを持ち込む方法はないのかなと。2分2乗やN分N乗でなくても、そういうものがあるのかないのか、検討する必要があるのではないかというふうに思いました。

もう一つ、地方の関係で、非常に徴税の努力をされているという説明がありまして、それはそれでいいのですけれども、この説明を聞いた限りでは、いわゆる給与所得者とか捕捉しやすいところ、それはいいと思いますが、問題は事業所得者の捕捉をどういうふうにされるのか、ちょっと説明がなかったように思います。これは検討されていると思いますけれども、それをお聞きしたいと思います。この3つです。

石会長

それでは、事務局からご説明いただきましょうか。税源移譲後、累進度が高まったというご説明を先ほど佐藤一課長はされたと思いますし、私もそう思っていますが、ちょっと確認。それから、N分N乗みたいなものを個人ベースでできないか。ちょっとこれは難しい気もしますけれども。あと、地方税で林市町村税課長から、自営業のほうの徴税努力をどうしているかという話です。

よろしく。

佐藤税制第一課長

まず1点目でございますが、18ページをもう一度ご覧賜りたいと思います。税源移譲によりまして、所得税と住民税の足し合わせたところは基本的には負担が変わらないということで、そのまま同じでございますが、内訳が変わったと申し上げたところでございます。繰り返しになりますけれども、所得税について、もともとが点線のようなグラフだったものが、破線のような形で、下からえぐれた形で上へ上がっていくという形になったわけでございます。

累進度が高いか低いかというのは、なかなか難しい議論でございますが、どのあたりの所得ベースを見て、平らか傾きがあるかというような見方になろうかと思います。今、村上委員からご指摘がございましたように、おそらく所得の非常に低いところの方々は10%から5%に下がったという印象であろうかと思います。その部分は、たしかにこのように寝たという意味においてはフラットになっていっているということだろうと思いますが、あるところから、すなわち1,500万円くらいを境に、今度は前のグラフよりもクロスしていくという形になってございます。例えばこのあたりに着目いたしますと、立ってくるということで累進的な形になっているということで、どこに焦点を当てながら行くかということでございますが、いずれにしてもフラットになっている部分は、たしかに3兆円の減税が裏にあるということでこのようになった、そういう構造でございます。

いずれにしましても、所得税と住民税の関係、税源移譲につきまして双方の役割分担を明確にせよということでございました。3兆円の税源移譲をやらなければならないという前提のもとで、5%という税率はある意味ではつくらざるを得ない面があったわけでございます。考え方の整理としては、住民税はフラット化をすることが大変重要なポイントとしてある一方、所得税については、住民税が持っておりました所得再分配機能を、所得税のほうにいわばさや寄せをするという形で整理をしていただいた部分でございますので、形ではこういう形になっておりますけれども、思想的なものはむしろそういう方向にシフトしてきたのかなという印象を持っております。それが1点目でございます。

2点目がN分N乗方式のところでございます。ちょっとご覧賜りたいと思います。34ページの表でございます。この説明のときに、フランスの例で夫婦の共有財産制であるということの中で、税負担を家族単位で考えるというお話を申し上げたわけでございます。フランスの特有の制度として夫婦で租税細目を計算するということでございますので、それは逆に言えば、夫と妻がそれぞれどういう形の働き方、どういう所得の稼ぎ方に対しても、いずれも中立的であるということを実現している面があるわけでございます。

フランスの場合は、民法的な世界とそういう思想を重ね合わせてつくり上げたということでございますが、日本の場合にそういう思想が応用できないかというご指摘でございます。民法のような社会制度そのものの一つとして税があるというふうに考えますと、木に竹を接ぐようなご議論は難しいだろうと思いますけれども、先ほどご指摘ありましたような、夫婦というものをどのように考えるかという視点も大変重要だろうと思います。海外の例などを参考に少し検討させていただきたいと思います。

林市町村税課長

地方税、住民税の関係で事業所得についての捕捉の関係でございますけれども、先ほどお示しいたしました資料の12ページをお開きいただきたいと思います。ご指摘のとおり、事業所得で手がかりが少ない中ではありますけれども、例えばここの中で言うと、3として、申告書が未提出のものにつきまして市町村自ら調査をしたり、あるいは、1の(3)の下のあたりの※書きに、その他の納税義務者からの申告書などの調査を通じて、その中に、例えば不動産の賃貸料が計上されている場合は、その賃貸料の支払い先である者を把握できるなどという例が書いてございますが、こういった工夫をやっているところでございます。

それから、もちろん税務署さんとは協力して情報交換させていただいております。そのあたりは10ページの表の中にも書かせていただいております。国税局、税務署で各種調査が行われておりますけれども、そういった情報につきましても市町村に提供いただいたりしているということでございます。

石会長

頑張っているということですね。

どうぞ、神野さん。

神野委員

ちょっと感想めいたものになりますが、個人所得課税を新しい状況の変化に合わせて変えていこうというときでも、簡単に言ってしまえば、所得税の原点、レーゾンデートルみたいなものを見失ってはならない。それを守りつつ状況に合わせていくことが重要だと思います。私の理解では、少なくとも現在の日本の租税体系の中では、極端に言えば唯一と言っていいほど、応能的な課税を体現している税金が所得税だというふうに考えられるのではないかと思います。所得再分配機能とかいろいろ表現はしても。

そういう観点から所得税を再生させていくときに、もともと応能的な課税の原則は何かというと、伝統的には2つ言われてきました。1つは累進性です。もう1つは差別性(definitization)です。つまり、不労所得に重く課税して、勤労所得に軽く課税する。これは、スカンジナビア諸国で二元的所得税をデザインするときでもこの2つの基準は意識されながら、どうやってそれを新しい状況のもとで再生させるかということを考えているわけです。今までの答申、その他、あるいは今のご説明などを聞いて、少し累進性を軽視し過ぎたきらいがあって、これからは実質的な意味で累進性を確保するという意味で、課税ベースや税率などを見直していこうというメッセージが全体に流れているというふうに感じます。

私はその流れが重要だと思いますし、もう一つの差別性のほうの、額に汗した所得を軽く課税して不労所得を重く課税するという視点は、課税ベース、それから、これは課税単位にもかかってくるはずです。勤労所得は個人単位で、しかし不労所得については世帯単位でというのがシャウプ勧告の原則だったわけですが、これを崩していますので、そういう課税単位まで含めて大きな一つの基準になるかと思うのですが、これは後退しているのではないか。

資産課税その他のご説明で、奥野先生のご意見、もっともなのですが、私の考えでは、それはほかの税目と組み合わせて、担税力というのは所得だけでつかまえられないことは事実だと思いますし、消費とかストックの資産とかと組み合わせる必要があるとは思いますが、所得のレベルでは少なくとも不労所得に重課するという原点を忘れないような形で、応能課税として再生しておくことは重要なのではないか。それは今後、仮に消費税を引き上げることを行う場合でも、この2つがバランスがとれていないと無理ではないかというふうに思います。

奥野委員

ちょっといいですか。

石会長

何かございますか。どうぞ。

奥野委員

一つだけ、神野さんのおっしゃることはもっともで、理想はおっしゃるとおりだと思います。不労所得は重課したほうがいいと思うのです。ただ、もう一つの税に関する経済学とか財政学の流れは、書いたとおりの税制が実行できないという面もあるわけです。不労所得の影の部分というのは、金融所得で足が速くて国際的にもいろいろあって、いろいろな形で租税回避もし易い。そういうところを、理想は重課だからといって重課してしまうと、かえっていろいろな歪みが出てくる面もある。おっしゃることはもちろん全く理想としては大賛成なのですが、現実は、もう少しバランスよく見たほうがいいのではないかというのが私が申し上げたかったことです。

石会長

神野さんだって、不労所得のほうをうんと高くして、レイバーインカムのほうをうんと下にしてしまうということではないのでしょう。

神野委員

というか、いつもこの2つのバランスを考えていかないと、それはいつも追いかけっこなところなので。つまり、足が速いから取りませんよといえば、みんな足速くなりたくなりますよね。足が速ければいいんだというふうになってしまう。そこのバランスは、公平と効率のバランスというふうに言いかえてもいいのかもしれませんが。

それからもう1点、ちょっと言っておかないとだめかと思いますので。出口委員と私と社会観はほとんど変わらないと思いますが、結論はちょっと反対で、コミュニティがお互いに負担し合う、つまりもともと寄附税制みたいなものから始まるわけですね、地方税。教会税が下敷きになりますから。そういう意味から言っても、むしろコミュニティの会費だという、お互いに負担し合うという側面は残したほうがいいのではないか。これは私の意見です。

石会長

いずれやりましょう、今日はいろいろ拡散するといけないから。

では、岩さん。

岩委員

ちょっと河野さんと丹羽さんとだぶるかもしれませんけれども、一つは、歳出・歳入一体改革の工程表の姿がどうなるかはわかりませんが、歳出削減にもう限界があると。これは明らかなんですよね。そうするとかなりの増税は避けられない。その場合にどう理解してもらうかということですが、去年の夏の所得税の、いわゆるサラリーマン増税批判みたいなものは常に頭に置いておかなければならないということなのです。その場合に、丹羽さんがちょっとおっしゃいましたけれども、これはサラリーマンから見て不公平だというものは、会長はクロヨンはかなり是正されたとおっしゃいますが、少しでもそういう不公平なものがあると、なかなか理解は得られないというふうに思うわけです。これはもちろん所得税だけではなくて、法人税にしろ何にしろ、ほかの税目も一緒です。したがって、これからの議論の中で不公平だというものを洗い出して、一つ一つつぶしていかないとなかなか難しいのではないかという感じがしています。

もう一つは、子育ての問題ですが、たしかにこれはかなりの政治イッシューになってくるのでしょう。佐藤一課長の説明を受けてなるほどなというふうに思いますが、あの説明を受けて、税額控除というのが一番わかりやすいし、効果もあるのではないかという感じがします。所得控除というのはちょっとわかりにくいというか、そういうところがありますね。手当は政治の道具になってしまう話ですよ。

N分N乗というのは、納税者の誰がこれを理解できるのかというふうな感じがしますね。こんな難しいやり方、何でフランスがこれでわかるのかどうか、よくわからないけれども、日本の納税者でわかる人がいるのかなというふうな感じがします。そうすると全体的に見ると、この税額控除というのは非常に分かり易いし、効果もあるのかなという気がするのだけれども、では、税額控除にシフトした場合にどんな姿になるのかというのがいまいちわかっていませんね。それをできれば議論の中で示していってほしいと思います。

石会長

事務局から税額控除を、一時、出してもらいましたけれども、再度、分かり易いものを出してもらいましょう。

菊池さん、お待たせしました。

菊池委員

奥野先生の緻密な話、ありがとうございました。大ざっぱなことを言いますが、消費税と所得税を考えた場合に、消費税を上げて所得税は下げるというのが普通ですよね、世の中。消費税を上げて所得税は据え置いて、しばらくして忘れた頃に上げると。それもなかなかできないかなというと、結局、消費税なんてできないから据え置き。結局、所得税で上げて何とか対応するしかないのではないか、という世の中があり得ると考えておいたほうがいいというのが一つ。

あとは、理想的には消費税も上げ所得税も上げるということですが、そんなことはちょっと考えられないということだとしますと、最悪の場合、消費税据え置きの所得税下げも、この政治情勢のもとであり得るなというのも何か考えなければいけないと思います。プライマリーバランスをゼロないしちょっとだけプラスにすべく政府が頑張って、周りも何となくそういうムードで一生懸命やっていきましょうとはなっているのですが、岩さんも今おっしゃいましたけれども、歳出削減には限界があると。あんなもの減らせばいいのだから、限界なんかないのですよ。減らすのは嫌だと抵抗しているだけの話であって。

もっと重要なのは、プライマリーバランスが改善されたあと、1,000兆でもいいし、700兆でも何でもいいのですが、巨額の借金は全然減らないわけですから、もしそれを減らす気があるのならば、それはどうやってやるかというと歳出削減ではできない。増税でやるしかないわけです。増税というのをもしやるなら、累積の借金を減らすという無謀なことに踏み込むとするならば、そこのところは税金でやるしかないわけですから、増税というのはひょっとしたらそこのところまでとっておかなければいけないのではないかという気が、この頃、非常にしてまいりました。だから、プライマリーバランスなどというものは歳出だけでやってもらう、税金のほうは見ていると。バランスがとれたあと、過去にたまってしまった700兆円を減らすために増税させてもらいますというのが、それもそうだねという理屈になるような気はするのですが、総論で言うだけ言わさせてもらいました。

石会長

かなり大ざっぱですけれども、一つ、突いていますね。

水野さん、どうぞ。

水野委員

N分N乗の問題は、ずいぶんいろいろな方からご意見が出たのでよろしいかと思うのですが、いわゆる中期答申に向けて、所得税の基本的な問題として課税単位というのはよく答申でも取り上げられまして、アメリカのように、ドイツもそうですけれども、夫婦の所得を合算して2分の1ずつ課税する。こういうのと、わが国のような個人単位の課税、どちらがいいかということで、特に公平の観点から、片稼ぎの大金持ちに得になってしまうのが従来の夫婦所得の合算分割制度というものであったわけです。

そういう指摘で今まで、わが国の個人単位主義を維持していくことが望ましい、こういう話であったのですが、最近、少子化社会に対してどういう取り組みができるだろうかということでこのN分N乗が出てきたと思います。たしかにいろいろ委員の先生おっしゃるように、これはわが国にはなかなかなじみにくいと思いますが、先ほどちょっと言われた累進税率の関係で、子供にかかわる世代といいますと、20代、30代。日本の場合、30代までの方がどのくらいの所得階層に入るだろうかというと、従来ですと、10%の中に収まるのが大体の方ではなかったのかと思います。そういうところでいくら所得を分割しても所得税が何にも減っていかないわけです。N分N乗を考える場合には、税率の構造なども考え直さなければいけないという問題はあると思いますけれども、どうも、思っているほどの少子化対策にはならないのではないかなというのが私の個人的な考えでございます。

それから、何か方法はないかということですけれども、いわゆる所得を分割して税負担を軽減させると。同じように税負担を軽減させればというアプローチを考えますと、この税制調査会で最近議論したのとはちょっと逆の方向になりますが、人的控除や所得控除というのは、最近は、課税対象を広げるために狭くしていく、廃止してもっと簡素化していくという考え方が強くなっていますけれども、従来、子供が増えるごとに扶養控除は1人ずつ増えてきたわけです。38万円ずつ増える。これは立派な子育て支援で、形が派手でないだけにあまり意識されませんでしたけれども、子供が増えるとそれだけ扶養控除が増える。38万円ですが、10%の税率だとしますと3.8万円。住民税を入れると5万円ぐらいでしょうか。そういう形ですけれども、課税対象を広くするために人的控除や所得控除を大幅に簡素化してしまうといったときに、少子化対策というのはやはり引っかかってくるなという気がいたします。人的控除の問題などを議論する機会があるかどうかですけれども、少子化の観点からもう一度議論し直してみる必要もあるかなと思っております。

石会長

どうぞ、上月さん。

上月委員

今、水野先生が全部おっしゃいましたのですが、私も、少子化対策としてN分N乗というのは、課税の単位を根本的に変える、所得税を根本的に変える問題ですので、これはちょっと導入というのはどうか。我々の答申のところでは、参考資料では「検討します」と書いてありますけれども、検討しても難しいのではないかと思います。むしろ少子化対策というのは、子育ての教育費の問題とか、保育所の確保とか、もっとほかの問題があるし、もし税金のほうで何とか考えなさいと言われるのであれば、今おっしゃっていましたように、所得控除とか税額控除のほうで考えるべきではないかと思っています。

石会長

では、宮島さん。

宮島委員

奥野さんの話で、要するにグローバル化とか、金融技術の革新であるとか、そういうものが非常に進む中で、所得税の実施とか把握そのものが非常に難しくなってきていると。私はそのとおりだと思っています。

ただ、私が最近ちょっと気になっているのは、もう一つ、就業の多様化というのがあります。実は労働所得のほうが、労働そのものはたしかにあまり足は速くないけれども、ストックオプションみたいに給与所得に転換したり、あるいは請負契約で事業所得に転換したり、所得の転換そのものは非常に速いんですよね。そういう点を考えると、実は労働所得のほうの課税もなかなか容易ならざる面があるので、そういう点で言うと、金融所得と労働所得とどのくらいの差を認めるべきなのかということが少し気になっています。

それと、さっきの重課、軽課といったときに、平均的な税率の重いか軽いかなのか、それとも限界税率をなるべくフラットにしておけばいいということなのか、その辺のところを、もう時間がないからお答えいただくことはないと思いますけれども、もう少し議論すべきかなと思っております。

それともう一つは、今言ったグローバル化とか金融技術の革新に加えて、実は税務行政コストに対して予算制約がどこの国も厳しくなっている。特にアメリカのIRSなどは非常に予算が削られて、そのことが、こういう所得税だけではないですが、税務行政を非常に難しくしているということが言われております。先ほどの金融所得一体化の場合でも、従来の源泉分離ではなくて、一体化して損益通算を認めるとするとどうしても納税者番号が必要になる。それから、おそらくコスト的なものもかなりかかってくる。そういうことに対して、これは地方税の現年課税もそうですし、それから事業所得をどう把握するかということもそうですが、税務行政をどうするかというのは、先ほどもご指摘がありましたけれども、どこで取り上げるかどうかは別として、これも私は税調で取り上げてほしいと思っています。

それから税額控除の話の焦点は、これよりも還付ができるかできないかの話が本来の話であって、今日は税額控除そのものの議論は残されたものだと思っています。

石会長

その還付の問題もやらなければいけませんね。

では、大宅さん。

大宅会長代理

私のは、単純、単細胞、算数的発想でしかないのですが、正しいのかどうかちょっと伺いたい。個人所得課税の11ページ、累進度が上がったか下がったかという話ですが、この絵を見ただけで、現行のほうが、500万円とか700万円のほうがずっと下がっているというのはわかるわけですね。例えば給与収入500万円の昭和61年度と、2,000万円の61年度と比べますと、22倍ぐらいです。それは現行が6万円と321万円ですから、50倍。両方やってみると、全部、倍率は現行のほうが高いです。それをもって累進度が上がったとは言えないのですか。そんな単純な話ではないのですか。質問です。

石会長

佐藤一課長、どうぞ。

佐藤税制第一課長

累進度というのは、概念上、学術的に結構難しい概念でございますが、どのレンジで見るかというのがあります。例えば500万円近傍の人たちを見るのか、500万円から2,000万円まで見るのかというその比べ方の問題はあるのですが、全体としては、今の倍率で見ていただくという意味においては500万円の方が……。

大宅会長代理

私、さっき皆さんの話を聞きながらごそごそやっていたのですけれども、全レベルで全部上がっていますよね。所得の多い人のほうが増えています。

石会長

だって、累進税率を上げたのだから。37から40に上がったから当然ですよ。

大宅会長代理

でも、それ以上に上がっていますよ、金額としては。

石会長

それは法定税率と実効税率の差ですからね。

佐藤税制第一課長

ちょっとそこは概念整理をさせていただきます。

石会長

では、翁さん。

翁委員

私、少子化対策として子育て支援を税でどういうふうに対応していくかということは、団塊ジュニアの今の人口構成から考えても、できるだけ早い段階で税としてどういう支援ができるかということを出していくことは重要ではないかと思っています。先ほどもいろいろご意見ありましたけれども、個人単位化を軸にして、税額控除などについて検討していくことをまず課題として挙げるべきではないかと思います。

2つ目は、税制全体で所得再分配機能をどういうふうに考えるかということを考えていく必要があって、ここも世代間、それから世代内の所得再分配という観点で、もう一度見直していくことが重要ではないかと思います。これから団塊の世代がどんどん給付を受ける世代になっていきますけれども、そういった中で公的年金控除をもう一回どう考えるのかということとか、先ほどもご指摘ありましたけれども、相続税の問題、これもやはり避けて通れないのではないかと思っています。

最後ですけれども、ほとんどの方が住民税のほうが多くなるという中で、現年課税制度というのは不可欠だと思っております。先ほど宮島先生のご指摘もあったのですけれども、いかに効率的に効果的な徴収ができるかということが重要になってきて、今まで国税でやっていた分とか、そういうのをどのように協力できるかということを考えて、効率的かつ本格的な徴収制度は最大の課題の一つではないかと思っていますので、よろしくお願いいたします。

石会長

では、井上さん、どうぞ。

井上委員

配偶者の問題ですけれども、労働市場はどんどん少子化でもって少なくなってくる。そうすると、配偶者を市場に何とか引っ張り出さなければいけないということになるわけです。今の税制の問題からいくと、一定額以下は基礎控除がなくなる。今度これがなくなるのかもしれませんけれども、やはりN分N乗は考えていく必要があるのではないか。それと同時に、配偶者が何で仕事をするのか。やはり教育費が足りない、子育てのために金を稼がなければいけない。ところが、それが税の控除にならない。これからするのかもしれないのですけれども、そういうものを税額ですべて控除できる仕組み、必要経費を必要経費として控除できる仕組みにするならば、N分N乗にしてそこから控除するというようなことはできないのだろうかと。

石会長

ちょっとわかりにくいですね。

井上委員

必要経費としてその控除ができるような仕組みにできないかと。

石会長

その必要経費というのは何ですか。

井上委員

子育て、学費。要するに教育費です。

石会長

それは扶養控除で見ていますよね。

井上委員

まだまだそれでは足りないということです。

石会長

そういうことをおっしゃっているわけですね。

井上委員

総額として足りないからということです。

それから金融所得の問題ですけれども、これについては、譲渡所得等も合わせて一体化して、それで現在10%になっているわけですけれども、それをもとへ早く戻すべきだろうと。同時に、損は繰越ができるという仕組みにしておくべきだというふうに思います。

石会長

では、河野さん、最後にまとめてください。

河野委員

ちょっと財務省に質問したいのです。今度、あるファンドが日本を出るということになっている。聞きたいのは、そのファンドの行ったシンガポールは安いでしょう。法人税も安い。大企業の中でも、シンガポールは安いのだから日本の法人税をまけろなんていう議論を平気で言う人がいるわけです、今でも。冗談じゃない。しかし、現実にあるから言い出すのはいると思うけれども、あれと同じように足が速く、逃げ出すようなファンドの動きというのはあるのですか。ちょっとそれを聞いておきたい。

石会長

どなたにお答えいただいたらいいですか。専門家は誰ですか。どうぞ。

加藤審議官

専門家ではないのですけれども、国際課税を担当していますので。率直に言って、個別のことはわかりません。ただ、そのファンドがどういう理由でそもそもそちらに移転したかというのは、新聞を見ると、規制の問題とかもあるようでございますので、必ずしも税だけの問題ではないと思います。タックスヘイブン的に租税回避のために形式的に移転しても、最終的には株式として保有している親会社がまた課税されるというケースもございますので、租税回避を目的とするだけではなかなかそういう行動はとりにくいのではないかと思いますが、いずれにしても、また何かわかりましたらご報告したいと思います。

石会長

関連ですか。では、簡単に。

遠藤委員

黙っていようと思ったのですが、会長にも聞きたいのだけれども、何で所得課税は50%が上限になっているのかということです。今、河野さんが指摘されたことは非常に重要なことだと思うけれども、どうも最近の状況を見ていると、若い人がドカッと稼いで、しかもモラルがない。そういうドカッと稼ぐような人を最高税率50%のままでいいのか。これは全然日本的ではないですよ。

石会長

ドカッと儲けている人は、50%のところの範囲ではなくて10%のところですよ。稼いだ人は例の金融所得の話です。そんな勤労所得で稼げませんよ。

遠藤委員

そうなんですか。所得税ではないわけですか。

石会長

いえ、所得税ですよ。利子・配当、キャピタルゲインの金融所得の世界でしょう、あそこに住んでいる方々の所得の大宗は。

遠藤委員

放っておいていいのですか。

石会長

累進税率50%はこれから議論しなければいけないし、上げろという方もいらっしゃいますし、やりたいと思いますが、ただ、世界的な国際比較をすると、日本は一番高いくらいです。それでいいかどうかですね。北欧も含めほかの国に比べて。これはまた資料を出してもらって議論しましょう。再分配、格差社会、この問題があると必ずそこに議論が行きますし、一回やりましょう。

時間が5分ほど過ぎまして、申し訳ございません。今日は初回でございましたけれども、個人所得課税、活発なご議論をいただきました。議論しなければならないことはまだまだ山ほどございますが、今日は、かなりキーのところにお触れいただいた点もあろうと思います。いずれ、ひと通り各個別の税に入りまして、まとめの段階で再度この議論に戻りたいと思います。今日は、必ずしも十分に議論されていない領域も多々ありましたし、まだ思いつかれることもあろうと思いますので、第二ラウンド、第三ラウンド、第三ラウンドまで行くかどうかわかりませんが、議論を繰り返していきたいと思います。

今後の日程を申し上げます。皆さんお忙しい方の日程確保をお願いしておりますので、できるだけ前広に税調の日程を申し上げますが、次回の会合は5月23日(火曜日)午後2時から、時間も30分延長で4時半を考えております。早めに終われたら終わりたいと思いますが、資産課税・納番等々ご議論いただこうかと思っております。

その後、6月2日(金曜日)、次々回は法人課税と国際課税等をやりたいと思っています。それから、6月16日(金曜日)は、消費税も含めて間接税をやりたいと思っています。6月30日(金曜日)、これはまだテーマを決めておりませんが、いずれ早急に決めていきたいと思います。

まとめて申しますと、5月23日、6月2日、6月16日、6月30日、いずれも午後2時からでございます。ノートにお書き留めいただけたらと思います。

日程的なことで何かご質問ございますか。よろしゅうございますか。今、早口で申し上げましたが、いずれまた、次回の会議案内あたりで書き込んでもらったらいいかと思っています。

それでは、ちょっと時間が過ぎましたが、どうもありがとうございました。

〔閉会〕

(注)

本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。

内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。