第43回総会・第52回基礎問題小委員会合同会議 議事録
平成18年5月9日開催
〇石会長
お忙しいところをどうもありがとうございました。まだお見えになってない方もいますが、追っつけご参加いただけると思います。日程変更いたしまして、特にスピーカーの先生方には大変ご迷惑をおかけしました。
お手元に、国会でいろんな審議をされております主要討議事項というのと、それから法律関係の要綱をまとめたものが出ておりますので、これはご説明いたしませんが、参考資料としてお手元に配付してございます。後ほどお目通しをいただきたいと思います。
今日は、お三方、外部から先生方にお越しいただきまして、最初、地方財政につきまして、東京大学の持田先生、それから慶應大学の土居先生にお越しいただいて、まずお二人のご説明を聞いた後で議論したいと思います。後半、一橋大学の渡辺先生にお越しいただきまして、ちょっと違った視点からの財政問題、つまり、1990年代以降の財政政策運営につきましてご説明いただくということで、テーマが違いますので、今日は2つに分けまして議論を展開したいと考えております。
それでは、最初に東京大学の持田さんからご説明いただきますが、持田先生は、現在、東大の経済学研究科で特に地方財政をご専門にされておりまして、『地方分権の財政学』等々のご著書が多数ございます。
では、最初、25分ぐらいの時間しかございませんが、持田先生、よろしくお願いいたします。
〇持田教授
持田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。今日は報告の機会を与えていただきまして、感謝いたします。
(パワーポイント使用・スライド1ページ)現在、地方分権を推進しながら、国・地方一体となった財政健全化を目指していくストーリー、これをいかに描いていくかということがイシューになっております。内閣府でも、歳出・歳入一体改革で地方財政のワーキンググループが設置されておりまして、私もその議論に参加した経緯がございますので、その観点から、今日は地方分権化とマクロ経済目標との関連づけをめぐる論点を整理して、個人的な見解を述べさせていただきたいと思います。
現在の選択肢というのは2つあるのではないか。1つは、ご存じのように、地方の基礎的な財政収支というのは現在黒字で、国は赤字であります。そこで、これは過大な地方交付税を配賦しているからではないかという意見が一方であるわけであります。それで、それに対して国の債務残高の対GDP比、これも地方より大きいと。したがって、国の債務残高比を対GDP比でピークアウトさせるためには、基礎的財政収支の黒字もその割合で黒字化しなければいけないのではないか、こういう意見がある。ここで仮にマクロの数値目標論と述べさせていただきます。
それからもう一方は、さはさりながら、これから交付税を縮小するというときに地方団体に説明できるのは、地方財政計画の中の歳出をミクロレベルで抑制していって、必要な交付税総額を縮めていくという手法が一番望ましいのではないかという意見もあるわけであります。これはここでは仮にミクロの役割分担論と述べさせていただきます。そのために、国と地方の役割分担を見直しながら、財源保障の世界と地域選択の世界の線引きをしていくべきではないか。こういうアプローチになるわけであります。
今日は、この2つの選択肢の争点になっている幾つかの点について、これから私の考えを述べたいと思います。
(スライド2・5ページ)まず一つの争点は、地方財政の現状をどのように見るかということであります。ご存じのように、地方のプライマリーバランス、これが黒字化しているという理解は現在一般化しつつあるわけでありますけれども、この表現には幾つかの注釈を加える必要があると思われます。
1つは、地方財政の硬直性の高まりということであります。通常、経常収支比率70~80%というのが健全ラインと言われているわけですけれども、現在、Box2に見られますように、それは90%を超えている。この水準はオイルショック直後の水準に比べますと約20%超えておりまして、非常に硬直性が高まっているということをまず見るべきではないかということが1つであります。
それからもう一つは、地方財政の基礎的財政収支という場合には、マクロの観点だけではなくて、ミクロの観点からも見るべきではないかという論点であります。ご存じのように、内閣府のSNAベースで見ますと、2003年度のプライマリーバランスは地方では黒字になっております。しかし、これをミクロレベルに落としていきますとかなり違った様子が見えてくる。例えば都道府県で言いますと、25の府県ではマイナスでありますし、市町村で言いますと、大体800ぐらいがプライマリーバランスが赤字になっている。このように地方団体の財政状況というのが二極化しておりますので、こういう競争条件の違いというのを考慮しないで、一律に歳出カットを強制するということは必ずしも私は説得的ではないと考えております。
それからもう一つの論点は、プライマリーバランスの解釈上の問題でありまして、現在公表されているプライマリーバランスの歳入には隠れ借金というものが含まれております。これは交付税特会の借り入れでありますけれども、これは財源保障の先送り分でありますので、プライマリーバランスを計算する場合には、この隠れ借金分を歳入から控除して、実質的なバランスをやはり公表すべきであると考えます。
(スライド6ページ)これがBox3で経常収支のシミュレーションを見たものでありますが、仮に交付税総額をマクロの数値目標論によって頭から削減した場合どうなるかということを見た場合です。ご覧のように、大半の地方自治体、市町村もそうですけれども、都道府県の経常収支比率はほとんどが100%を超えるということになります。これは破産ということがかなり現実的なものになると考えられます。教員が集められないとか、ごみを出しても収集に来てくれない、あるいは廃校になった小学校からアスベストが除去できない、こういう自治体が大量に発生することになると思います。
(スライド7ページ)それと2番目の論点は、これまでのプライマリーバランスの改善要因と今後の国・地方の協力関係をどのように構築するかということであります。従来、地方財政制度では、財源不足が発生したときには、半分は国の責任だと。そして残りの半分は地方だと。そして、将来、好転したときにそれを償還していくのだという、いわゆる折半ルールというものがございました。財源不足が長く続きましたので、そういうルールを続けますと、当然国の負担すべき赤字額が増えてきてしまったということがあるかと思います。しかし一方で、そういう折半ルールを守ることによってある程度の行政水準を守ってきたということも言えるわけであります。
問題は、現在、地方のプライマリーがたまたま少し黒字化しているということで、国のプライマリーバランスを黒字に近づけるために、ちょっと地方から黒字を引っ張ってくるというバランス論でいいのかどうかということであります。このバランス論というのは非常にある意味で切れ味があるわけでありますけれども、制度論的な、あるいは歴史的な点からしますと、やはり幾つか注釈すべき点があろうかと思います。
(スライド6・7ページ)まず第1は、先ほどの折半ルールに関するものです。このBox3を見ますと、2002年から2006年の間に、日本の国・地方を合わせたプライマリーバランスというのは約13.5兆円改善したわけでありますが、国のほうは主として歳入増加で半分貢献して、地方のほうは主に歳出カットでやはり半分ぐらい貢献してきたわけであります。このように歳出のカットという点ではむしろ地方のほうが貢献してきたという点を踏まえて、今後、財政再建にお互いに協力していく場合には、国と地方が大体同じペースで努力するのが当然ではないかと私は考えるわけです。そうなりますと、ここでルールを変えていいのだろうか。時間に対する整合性を失うことにならないだろうかということが一つの論点であります。
それからもう一つ考えるべき点というのは、現在特に問題になっているのは、国の債務償還残高の対GDP比を2010年代の半ばごろにピークアウトするということが問題になっています。このピークアウトするには、内閣府の試算でも、国のプライマリーを、GDP比で言いますと1.5%の黒字にしなければいけない。これが果たしてできるのかどうかということであります。
たしか小泉内閣が発足したときの国・地方を合わせたプライマリーはマイナス5%だったと思いますが、これを毎年0.5%ずつ改善するということでこれまでやってきたように思います。それは0.5であれば何とかできそうであるという判断材料があったように思うわけですけれども、現在問題になっているのは、今まで国・地方を合わせてのプライマリーの目標が国だけで1.5%ということですけれども、果たしてそういうことができるだろうかと。そうなりますと、本当に大規模な増税を行うか、もしくは地方の黒字をかなり強引に引っ張ってくる、そういうかなり難しいことをやらないと、国だけで1.5%のプライマリー黒字を達成するということはかなり難しいように思うということが2番目であります。
それから3番目に考慮しなければいけないことは、実は地方の債務の中にいわば自治体としては選択の余地がないのを強制的に負わされたものがある。これは特会借り入れと臨時財政対策債ということになるわけですけれども、これがいよいよ平成23年度から毎年4兆円ぐらいのオーダーで償還が始まるわけであります。これはおそらく制度増税でも自然増収でもどちらでもいいですけれども、とにかくこれを返せる形にしなければいけないということはかなりこれから重要な問題になってくるように思います。
(スライド9・10ページ)さて次の論点ですけれども、義務づけと財源の関係をどのように見るかということであります。内閣府のワーキンググループでの共通認識として、現在の制度には大分問題がある。というのは、公共サービスの企画、ファイナンス、執行、これが国と地方でオーバーラップしている。このためにかなり責任が不明確になっているのではないかという点であります。ですから、なるべく特定のレベルに企画と財源と執行の責任を一元化するのが望ましいのではないか。こういう共通認識がある。
ただ問題は、どこで意見が分かれるかといいますと、国の地方への縛りを維持したままトランスファーを削減して、財政責任だけを地方に譲るのがいいのかどうかという点であります。この点、この表を見てわかりますように、実は地方でやっている事務というのは、ミクロのレベルで見ますと、国の関与にかなりの濃淡がございます。つまり、実施を法令で義務づけているだけのものもありますし、それに加えてサービス水準まで法令で義務づけているものもあります。それから国が誘導しているだけですとか、あるいは関与が特にないものもあります。一方、財源面で見ますと、一般財源で見ているものと、それから一般財源に補助金をつけているもの、こういう組み合わせがございまして、3×2の6パターンがあるわけであります。
(スライド11ページ)この6パターンを分析してみますと、次のBox5になるわけでありますが、これはあくまでも試算として見ていただきたいと思いますが、確かに国の義務づけが厳しくて、しかも補助金でファイナンスをしているという行政体がかなり地方財政計画にあることは確かであります。ですから、この面での歳出の抑制の余地というのはあまり多くはないと言えるかもしれません。
ただ、よくこのBox5を見てもらえばわかりますように、右下のセル、これは国が関与しないで、しかも財源も一般財源で供給しているものであります。おそらくここの部分というのはナショナルスタンダードがないと。いわば自治体選択でやっている領域であります。地域住民の選択の結果として、サービス水準が違うとか、あるいは非常に効率の悪いことをやったために歳出にむだがあると。私は、これは財源保障の世界ではなくて、地域選択と住民負担の世界であると思います。この領域というのは意外と、小さいわけではなくて、28兆円ぐらいあるということであります。ですから、少なくともこの財源のコントロールがなく、しかも国の関与がかなり弱いものについては見直しが必要だろうと。例えば単独事業については可能なものから、例えば補助金が3分の1程度の奨励的な公共事業についてはもう外していく。それから単独の福祉、こういうものについてもやはり地域選択の世界に移ってもらえないかどうかということを検討する必要があると思います。
それから、そのときに問題になるのはその財源をどうするかということですけれども、通常、地域選択の財源として考えられるのは、超過課税と留保財源ということでありますけれども、これは必ずしも現在十分ではない。しかし、大都市ではそういう余裕というものがあると思いますので、少なくとも大都市分については、超過課税や留保財源でナショナルスタンダードを上回る部分については負担するような、そういう制度につくっていく必要があるように私は思います。
(スライド12ページ)それから3番目の論点は「地方交付税の意義」ということであります。特に現在問題になっているのは、歳出項目か、役割分担の接点かという点であるかと思います。つまり、一般歳出の各項目と同じような形で交付税を考えるのか、それとも国と地方の役割分担の接点として交付税を考えるのかという点であります。この点、現在、議論が非常に錯綜しているわけでありますけれども、錯綜している理由というのははっきりしていまして、交付税自体が法定の国税5税の一定率ということでは足りなくて、大幅な財源不足が出ていると。この財源不足を毎年事務折衝でいわば予算措置的に埋めている。これが歳出項目としての交付税という問題意識が出てくる理由かと思います。
私は、やはり地財対策からの脱却ということを視野に入れて、私の意見では、国税の一定割合が自動的に法律によって原資に組み込まれるという交付税の原点にやはり戻るべきではないかと考えます。この点については、昭和44年に福田大蔵大臣もそのような答弁をされていますし、また平成5年に、衆議院の地方行政委員会で林義郎大蔵大臣も、地方の権利のある金であると。特定の国税の収入の一定割合が国から地方に交付されることが決まっていることから、そういう意味において、固有の財源と言って差し支えないという解釈を述べられてますので、やはりここは役割分担の接点としての交付税を出発点にすべきではないかと私は思います。
それと財政調整機能については時間ないので飛ばしまして、財源保障機能についてでございます。確かに地域単位で給付水準に応じて応益的な負担をする。例えば均等割で調整するとか使用料で調整するということであれば、これは地域選択の結果でありますので、交付税による財源保障とは相いれないと思います。しかし、国民が真に必要と判断するような公共サービス、例えば介護保険のようなものについては、ナショナルスタンダードを実現するために国が一定の財源を保障するという考え方は私は正しいと思います。
(スライド13ページ)そこで、次に各国の財政調整のタイプを見ますと、オーストラリア、日本、イギリス、中国、それからかつてのアメリカ、それからスウェーデン、スイス、これらの国について見ますと、やはり配分ルールとしては需要と財政力の混合ベースで見ているということと、それから基本的には垂直的調整でやっている。こういう点から言って、日本の交付税は非常に特異なものでは必ずしもなくて、こういう世界の一般型の中の一つの類型としてやはり把握すべきではないかと思います。
(スライド14ページ)次に交付税の問題ということですけれども、一番の問題はやはり持続可能性が今非常に毀損しているということでありまして、いわゆる32%ルールというものは完全に形骸化している。つまり、地方団体が受け取る出口ベースの交付税というのは入口ベースの国税5税で決定される金額を大幅に上回っている。そういう意味で、税というよりも平衡交付金的な運用がなされているということが1つです。
それから何よりも問題なのは、交付税の運用の中で、地方団体が償還義務を認識できない債務が非常に増大しているということであります。ここの表に書いてありますように、これは私の試算ですが、ただ、これはOECDの2005年の対日審査報告にも引用されました表ですけれども、これを見るとわかりますように、地方団体の債務のうち個別の団体がその償還義務を認識できるのは47%しかないという問題。これをいつ解決するかということはかなり深刻な問題であると思います。
(スライド15ページ)ではどうしてこのような状態に、つまり、交付税が肥大化してしまったのかということですけれども、これはやはり日本特有の制度抜きには考えられないというのが私の意見であります。というのは、まず地方に歳出が集中化している。政府資本形成の70%以上は地方で行っておりますので、景気拡大でケインジアン的な政策を打つ場合には地方を動員しないと有効性が発揮できないという問題が1つあります。それから政治的に言いますと、80年代以降財政再建ということがありますので、国庫支出金を抑制せざるを得ないということがもう一つの制約としてあります。
それからもう一つは地方交付税の特別会計というのがあって、これが非常に見えづらい。一般会計への影響がはっきり見えないということがあって、ここで金を借りるというような慣行があったと思います。そして事業費補正を多用したということでありまして、要するに、一般会計に直接反映する国庫支出金を用いた歳出拡大が抑制される傾向にあったわけですけれども、特別会計の借り入れを通じて、一般会計に直接影響を与えることなく増額可能である。かつ、特別会計は一般会計よりも見えにくい。こういう日本にかなり特有の地方財政制度というものが景気拡大政策の手段として交付税を使ってしまったということの背景ではないかと思います。
それと、ここで事業費補正の多用について触れたいと思いますが、景気対策の手段として交付税が使われたといった場合に、その手段になったのは、ご存じのように、事業費補正でありまして、公債費の元利償還を交付税で阻止するということであります。これは非常に問題の多い手段であったかと思います。
ただ、歴史的に見ますと、事業費補正の理解についてやや混乱があると思いますので私の意見を述べさせてもらいますと、もともと投資的経費というのは交付税の基準財政需要に算入していたものでありまして、これがある時期から交付税の外に出していった。そうしますと、見合いで発行される地方債の償還を交付税で行うことによって、いわば年度間調整をやるというのがもともとの出発だったように思います。ですから、これはたとえて言うと、父親の会社が業績不振で給与がカットになった。そのときに、子供の仕送りを減らして、そのかわり子供が借りてくれという話かと思います。つまり、これは放蕩息子が勝手に借りた借金を親が肩代わりして甘やかしているというのとちょっとわけが違うのでありまして、父親の会社の業績はじきに回復するという希望的な観測に基づいて、繰り返し立て替え払いを子供に強いてきたという面もあるわけでありまして、この事業費補正の理解についてはやや混乱があるのではないかと思います。
(スライド16ページ)それと、交付税について、歳入努力を払った地方団体では交付税が減るので、モラルハザード的な行動を誘発しているのではないか。よくこういう批判があります。確かにこれはうなずける面があるわけですけれども、ただ、制度論的、あるいは歴史的な視点からしますと、このモラルハザード論については私自身は難点があると考えておりまして、幾つかの疑問があります。
1つは、果たして日本のようなガチガチの地方税制度でモラルハザードが可能かどうかということであります。モラルハザードが可能になるためには、地方公共団体が課税ベースに裁量性を持っているということと、それからその裁量性が交付税の算定と因果関係を持っていると。この両方を同時に満たす必要があります。ところが、日本の地方税制というのはほとんど国が決めておりまして、裁量性と因果関係の両方の要素を満たす税目というのは皆無であります。したがって、制度上、地方団体が意図的に実効税率を下げて交付税の増額を図るということはできないことになっているということが1つ。
それからもう一つ、モラルハザードというのは果たして本当に実証されているのかということであります。そこのデータにありますように、例えば固定資産税を見てみますと、交付税が地方税よりも大きい、いわゆる依存度の高い団体はむしろ固定資産税の評価をかなりしっかりやっているというデータも出ているわけでありまして、モラルハザードについてはかなり定性的な議論で、必ずしも学問的に立証されたという感じは、少なくとも私の周辺ではありません。
(スライド17ページ)そこで、最後になりましたけれども、それでは、安定的で透明な交付税制度に向けて何が必要かという点ですが、1つは、少なくとも大都市圏の地方団体では、例えば名古屋市が交付税に依存しているというのはやはりおかしいように思います。少なくとも大都市圏の地方団体では交付税に依存しないというような財政運営を目指す。そのために制度のフレームをつくり直すということが1つかと思います。
それから2番目には、財源保障機能については、これは健全化については国と地方が協力する必要がありますので、国と地方の双方が納得する形で見直しをするということ。
それから3番目は地財対策ですね。これは法的な根拠はありません。したがって、目標年度を決めて、この地方財政対策からの脱却を目指すということが必要だと思います。
それから最後にインセンティブ・メカニズムですね。歳出を効率化したり、あるいは歳入確保努力を行った場合に交付税が増えるというようなインセンティブ・メカニズムを導入する必要があるかと思います。
以上、簡単ですが、私からの報告にかえさせていただきます。
〇石会長
大変的確な問題提起をいただいたと思います。
それでは、同じテーマで慶應大学の土居さんにお願いいたしたいと思います。土居さんは財政学をご専門にしていらっしゃいます。最近は地方分権等々の地方財政関係でいろいろ業績を上げられております。
では、土居先生、よろしく。
〇土居助教授
慶應義塾大学の土居でございます。今日はこのような機会をいただきまして、まことにありがとうございます。
今日はお手元の提出資料、「今後の地方税・地方交付税の方向性」に基づきましてお話をさせていただきたいと思います。
(パワーポイント使用・スライド2ページ)まず、私がこの税制調査会という名誉ある調査会の場でお話をさせていただくに当たり、地方税のあり方ということでどのように考えているかということを申し上げさせていただきたいと思いますが、今の地方税制、これから地方分権を進めていくという観点からすると、いろいろ克服しなければならない問題点、課題があるのではないかと思っております。現行の地方税制というのは基本的に従来からポジティブリストであったと。つまり、こういう税目にしか課税してはならないと。当然、今は随分規制が緩和されて、事前協議を経て法定外税をかけるということは許されるようにはなりましたけれども、必ずしも各自治体独自の課税がいかにも地方分権の時代にふさわしい形でなされているというような印象がなかなか見えてこないという印象を持っております。
(スライド4ページ)私が思うには、やはり税源移譲という言葉にとらわれ過ぎたところがあったのではないかと。確かに、国から地方に権限移譲を行うに伴って税源移譲するということは、ファーストステップとしてはよかったわけですけれども、今後も引き続きこういう税源移譲という国税の減収と地方税の増収とをパッケージにして行うという税収のゼロサムゲームを続けていていいのかと思うわけです。むしろ地方が権限を拡大させて、それは地方分権の観点からは望ましい部分があるわけですけれども、それに伴って税源を強化するということは当然行わなければならないわけですが、それを単に国税の収入を減らす形で地方税の収入を増やすということでは心もとないわけであります。やはりここは地方が独自に課税を強化していくということをもって、まさに地方分権の時代を担っていくということが必要なのではないかと思います。
(スライド5ページ)そういう意味では、独自課税というものは今後進められてしかるべきですが、残念ながら、今行われている独自課税というのは、例えば東京都のいわゆる宿泊税ですか、ホテル税と言われているものだとか、遊漁税だとか、どちらかというと他の自治体の住民に転嫁するような形の課税が横行しているような気がします。もちろん真っ当な独自課税も中にはありますが、どうも超過課税という言葉に引きずられてか、なかなか地方議会で税率を引き上げるということについて同意が得られない。基幹税できちんとした対応ができないというようなところがまだ残されているのではないかと思います。
もちろん、制限税率などは大半が撤廃されていて、そういう意味では自由度が高まっているということではあるのですが、なかなか地方が独自に税源を強化するという雰囲気ができ上がっていない。そういうところをいかに解きほぐしていくかということが地方税においては重要だろうと思います。
(スライド6ページ)特に地方税では住民税、それから固定資産税というものに自治体の裁量を発揮してもらうような方向をきちんと打ち出していくということが必要なのだろうと思います。
それから都道府県税において地方には法人事業税があるわけですけれども、それから住民税にも法人住民税があるわけですけれども、どうも地方の法人課税というものが他の先進国に比べて重いのではないか。これは後ほど最後のほうで触れたいと思いますけれども、国際的な日本企業の競争力という観点からしても、地方が法人課税に依存する状態というのは必ずしも望ましいわけではないと思うわけです。
そういう意味では、今後の地方税ということで方向性として私が考えるところは、まず地方税法はポジティブリストからネガティブリストに、つまり、こういう税はかけてはならないけれども、あとはそれなりに自由を与えてよいという形に変えるだとか、そのかわりどういうものをネガティブリストに書くかというと、国が課税するのが望ましいというもので、地方は必ずしも課税しないほうがいいと。例えば法人課税は私は基本的にはそういう性質があると思いますけれども、法人の均等割を除いてですね。それからあとは他の住民に転嫁するような、租税輸出をもたらすような税というのをネガティブリストに書くというような形で、できるだけ自治体が独自に税源を強化できるような方向を打ち出していくことが必要ではないかと思います。
(スライド7・8ページ)さて、少し地方交付税の話に移りたいと思いますが、地方交付税は、先ほど持田先生からのお話もありましたけれども、国と地方を税源でつなぐ接点であります。これをどのぐらいの規模にしていくかということは、今小泉内閣で取り組まれている歳出・歳入一体改革の中で非常に重要なテーマであります。問題は、我が国の財政健全化のために何が必要かということで、プライマリーバランスを黒字化するということは当然念頭に置かれているわけですけれども、これは随分有名な数字になりましたが、国は赤字で地方は黒字であるという状況、これをどう見るかということであります。債務残高の対GDP比ということで見ると、最早、地方はその債務残高、対GDP比が低下傾向に入っている。それに対して、特殊要因を除けば、依然として国は増加がとまっていないという状況、これをどう考えるかということであります。
当然ながら、国として、歳出削減や税収の増加という努力をさらに積極的に行っていかなければならないということではありますけれども、地方交付税というのは確かに国と地方をつなぐ財政移転ではあるけれども、国にとっての支出項目であるということにも変わりない。そうすると、歳出削減というものを地方交付税とにらみ合わせたときにどう考えるべきかということを少しお話しさせていただきたいと思います。
(スライド9ページ)地方交付税の規模というものは数字として出てくるわけですけれども、プライマリーバランスの金額、規模と地方交付税の規模とを、ないしは地方交付税以外の財政移転も合わせた規模で見ると、財政移転前は、プライマリーバランスという観点から見れば、むしろ国は黒字で地方は赤字なわけですが、それを埋め合わせて余りあるだけの財政移転を地方にしていると。その結果、地方が黒字で国が赤字という姿になるというのが我が国の財政構造であります。
(スライド10ページ)地方交付税にまつわる問題点ということで、これはすでにいろんなところで指摘されていることではありますけれども、私が重要だと思う点について挙げさせていただいております。
順不同で申しますと、地方交付税の特別会計借入金が今年度末で53兆円になるというほどの巨額の債務を負っているということ。あとは地方財政計画における仮想性、バーチャルリアリティと申しましょうか、実態とかけ離れたような計画額が計上されているという問題点、これをどう修正していくのかということ。それから基準財政需要額の積算においても、必ずしも実態と合ってないような手厚い財源保障が行われている部分があるのではないかというところを問題として挙げております。
(スライド13ページ)時間がありませんので飛ばさせていただきまして、少し後の議論に使いますので13ページです。持田先生も少し触れられましたが、交付税特会の借入金、これは地方負担分だけですが、今後元利償還がどのぐらい必要であるかということ、すでにこれは総務省と財務省との間で取り決められているやに聞いておりますけれども、元本償還だけで、2010年代初頭には3兆円、毎年支払っていかなければならない。さらに、もし金利が2%だと、それに加えて5,000億円、さらには、4%だともう5,000億円追加して1兆円という元利償還の費用負担をしていかなければならないという償還スケジュールがすでに打ち出されているわけであります。この負担は、当然、税を基礎として賄っていかなければならないというところで、国と地方の税源配分をどう考えていくのかということが重要なポイントであると思います。
(スライド29ページ)ピンク色の紙をはさんで29ページに飛びまして、より具体的な数字でそれについて議論させていただきたいと思っております。国と地方の税源配分は、すでにご承知のように、今年度に税源移譲を行いました。実態としては所得譲与税でありますけれども、これが恒久化するということをにらみながら、それを地方税としてカウントするならば、国と地方の税源配分というのは55:45になるという状況であります。
(スライド30ページ)昨今の議論の中で、国と地方の税源配分の比率をもう少し地方側に高めることが必要なのではないかという議論だとか、ないしは地方交付税率を引き上げることが必要なのではないかという議論があるわけです。当然ながら、この背景にある認識というのは、地方は財源不足に陥っている状況で、たとえプライマリーバランスが黒字であると言ってもお金が足らないのだから、きちんと地方には税源を割り当てていくべきだという議論があるわけです。
ところが、私が思うには、その議論は、定性的にはそういうことが言えなくはないのかもしれませんけれども、金額として、果たして今後の地方の財政収支見通しをにらみあわせたときにそういう措置が必要なのかどうかということはきちんと考えるべきだろう。さらには、たとえマクロで、ないしは地方財政計画ベースでプライマリーバランスが黒字であったとしても、各自治体個別にはプライマリーバランスが赤字の自治体が結構あるのだという議論がもちろんあるわけですけれども、これについては、むしろ財政移転の配分の仕方を工夫することによって、例えば先ほど持田先生もおっしゃったように、交付団体を減らす、不交付団体を増やすということだとか、そういう配分の問題であって、地方全体でプライマリーバランスがどのぐらいになるのかということは、それはそれとしてきちんと議論すべきだろうと思います。
(スライド31ページ)そこで、私が簡単な試算をいたしました。これはいずれ論文として公開する予定のものですけれども、地方税収は、通常、中期的な予測をするときに用いられる税収弾性値1で、これは増税をしないということ、それから税源移譲の影響を織り込むということで計算しようと。
地方交付税も従来の中期見通しでよく使われる税収弾性値1.2、地方交付税率は据え置きにして、交付税特会の借入金の償還を交付税の国税法定分から捻出するということを前提にします。
それから国庫支出金は国の歳出削減と連動すると。ここでは地方の一般歳出と同じ比率で国庫支出金を削減するということで、国も地方も歳出削減に努力をする。そういう形にしております。
(スライド32ページ)それから地方の財政収支を考えるときに、自治体がどのぐらい一般歳出を削減するのかということが重要なポイントになるわけですけれども、私がここで提起させていただく一般歳出というのは地方財政計画ベースの一般歳出。これをここで仮定して、例えば後でお見せするスライドでは2%だとか3%だとか5%という仮置きの数字を機械的に当てはめまして、それを削減する。
公債費は削減できませんので、これはすでに総務省から提示されている償還状況を踏まえて推計する。
そして国税収入は、これもよく使われる税収弾性値1.1で将来の税収を予測する。
そして問題になってくるのは経済成長率ですが、これはいわゆる「改革と展望」の基本ケースというもので出されている成長率をここでは用いることにいたします。
(スライド33ページ)そういたしますと、地方交付税、ご承知のように、所得税の32%、酒税の32%云々ということで、国税法定分が今すでに取り決められているわけですけれども、この緑色の部分が国税法定分で、2006年度はもうすでに議決された数字であります。この数字から、先ほどの想定を用いまして、今後10年間でどのぐらい交付税に充当すべき国税法定分の収入が上がってくるかというのを計算しました。
その他の収入というのは、通常、決算時に当初予算よりも自然増収が出てくるということになるとそれを繰り越すという形で、翌年度の交付税の財源に充てるということなどを織り込んだものであります。
そこで問題になるのは、先ほど触れました交付税特会の借金の元利返済、これが加わってくる。もちろんこう決まったわけではありませんが、ここは機械的に、もしその元利償還分をこの国税法定分などの収入から賄ったとすると、折れ線グラフのような金額しか自治体には交付税を配れないということであります。ですから、棒グラフと折れ線グラフの差額分というのは、先ほどお示しした交付税特会の元利償還を加味して、その分だけ減らしたというものであります。そうすると、折れ線グラフで示している分が将来配れるとおぼしき地方交付税の総額ということになると思います。
(スライド34ページ)そこで、まず自治体の一般歳出を2%毎年削減するというプランが仮にあったとして、そうすると地方の財政収支はどうなるかというのを見たのが34ページであります。これをご覧いただきますと、実は2011年度には、もう地方税収が増えていく分で歳出カットを賄って余りあるだけの収入が得られる。つまり、地方債を発行しなくても済むというような段階まで収入が増えていく。先ほどご紹介したように、税収弾性値1で地方税収が増えていくということがここに織り込まれているわけであります。そしてさらに2015年には、ほとんど交付税を配らなくても地方の歳出は十分賄えるというほどの、別に配らなくていいと言っているわけではありませんけれども、それぐらいの金額にならんとする財政収支の状況になるということが見てとれます。
もちろん、ここでは、社会保障は今後高齢化に伴って増えるではないかという話があるわけですが、社会保障というのは、地方財政の中で扶助費が一般歳出の中の大体1割ぐらいであります。それから勘案しますと、それが厚生労働省が言っているような数字で増えていくということだとしても、残りの社会保障以外の一般歳出を2%にプラス1%弱の削減率を加えた額で減らしていけばいい。ですから、ここで言えば3%弱という削減率で、社会保障以外の歳出を削ればいいというプランであります。そういう状況であると、地方交付税を温存すると、2%も削減しなくて済むということになる。そういう財政状況になっているというわけであります。
(スライド35ページ)同様に、歳出削減率を3%にすると、最早、交付税をもらっても、その分だけお金が余るというくらいの歳出規模になるというわけであります。
(スライド36ページ)さらには、5%だと、国庫支出金をもらっても余るというぐらいの歳出規模になる。
(スライド37ページ)そういたしますと、機械的に計算すると、単純に将来、2011年度は国と地方合わせてプライマリーバランスを黒字化する年次となっているわけでありますけれども、ここでもし、先ほどご紹介した数字で言いますと、一般歳出の削減を年3%行っていくということになりますと、2011年度には、地方のプライマリーバランスは、今4.4兆円なのが15.1兆円、さらには2015年には25.3兆円という数値が出されるということであります。
当然ながら、ここでは税制は何もいじっておりませんので、そのまま推移しますと、国税収入と地方税収入との比率というのが基本的にそれほど大きく変わらない中で、これだけの財政収支の黒字が地方で出てくるということであります。
問題は、一般歳出を地方で何%削減するかということも問題ですけれども、削減を全くしないということであったとしても、先ほどの試算で言いますと、プライマリーバランスは2015年には11.5兆円になるというぐらいであります。ですから、そういう意味では地方の税収というのは、確かに目下の状況はかなり厳しい状況。実際、プライマリーバランスの今の規模を維持するのに必要な地方税源というのは本当はもっと国から出してもらいたいというぐらいだと。だけれども、後に2010年代初頭にはその状況が一変いたしまして、むしろ逆にお金が余って黒字になる状況だということが見てとれるわけです。
(スライド38ページ)この38ページのスライドは、今の4.4兆円から逆算した対GDP比0.85%の黒字を今後もずうっとその水準で維持するために必要な地方の税収を税収総額から割り出して、何%分を地方に割り当てるべきかということで見た数字であります。
2006年、足元は、当然ながら、地方交付税は特会借入金や特例加算をしているという分だけ本当はもっと税源を割り当てるべきだったのにということで、65%という数字が出ているのかもしれません。しばらくはそういう状況が続くのですが、2009年ごろからは、交付税の借入金の返済をその財源から捻出するということも加味したとしても、実は今ほどの財源比率を割り当てる必要はないというほどに、地方の財政収支は非常によい状態になるというわけであります。
(スライド39ページ)ここで私が申し上げたいところを要約いたしますと、基本的には地方の税収というのは、今はバブル崩壊後の景気低迷があって、非常に低迷していた状況が続いていたわけでありますけれども、今後、景気が回復するということで、しかもそれは別に劇的に税収が回復するという予測をしているわけでなく、税収弾性値1ということで予測しているわけでありますけれども、その政府が見通している経済成長を実現できたならば、地方の税収というのは地方の歳出を十分に賄うに足る税収が上がってくるという、それぐらいの足腰の強さがあるということであります。そういう意味では、さらに交付税率を引き上げるということになりますと、さらに地方に黒字を持たせることになるわけでありますから、私が思うには、むしろ引き下げるということすらあっていいのではないかと考えるわけであります。
(スライド2ページ)そこで再び前のページに戻っていただきまして、私、地方交付税を目のかたきにしたような言い方をしたわけですが、別に地方交付税を全くなくしてしまえと言っているわけではなくて、金額規模が、今後、地方税の税収が回復すれば、それほど多く振る舞う必要はないということを申し上げたいというわけでありまして、地方交付税を抑制するということは、国と地方が協力して歳出削減するということに非常に重要なテコになる。交付税の規模を抑制するということが、先ほどご紹介したような年2%や3%という地方の歳出削減とちょうど歩調をあわせる形になるということを申し上げたいわけであります。
さらには、交付税を削減するということは、自治体に対する赤字のつけ回しではないかというような話もあるわけですが、私は基本的にそういう認識には立っておりません。もちろん、個別の自治体を見ますと、いろいろな自治体があって、プライマリーバランスの赤字という自治体もあるわけですけれども、そこは財政調整の機能をもう少しきちんと働かせるべきであると。つまり、財政黒字が出ている自治体に対しては交付税を抑制し、プライマリーバランスが赤字の自治体に対してはきちんと財政健全化努力を促すということを担保しながら、足らないところは、少なくとも一時的にはある程度財政調整するということできちんと対応していくことが必要だろう。
それでいて、地方を総じたときにプライマリーバランスが黒字が出ているということであるならば、過度にプライマリーバランスの黒字を地方で上げるという必要も必ずしもないわけですから、国と地方が協力してプライマリーバランスの改善をきちんと協力して取り組んでいく。そのためには、ある程度国から地方への財政移転を抑制していくことが必要だろうと思います。
(スライド23ページ)それから最後に、スライドの順番でちょっと後ろ回しになったのですが、地方の法人課税について少し申し上げたいところがあります。対GDP比で見ますと、先進諸国と比べても、ドイツという相当強い連邦国家を除けば、基本的に地方の法人課税が例外的に多いということで知られているわけであります。こういうドイツやアメリカと比較しても地方税収に占める法人課税の割合というのは高いということであります。しかも税源の偏在があるということもよく知られている話であります。
もう一つ最後に、地方が法人に対して行政サービスを提供しているのだから、その対価としてきちんと税金を払ってもらわなければいけないではないかという話があるわけですが、実際のところ、その対価に見合うだけの負担と言えるほどの抑制の効いた負担であるかというと、私が思うには、必ずしも法人の負担というのは受益に見合う負担というよりかは、それよりももっと多く負担させられているという状態があります。ですから、そういう意味では、できるだけ法人課税は抑制していくことが必要なのではないかと考えます。
以上いろいろなこと、雑駁な議論で申し上げましたけれども、基本的に地方税は個人の住民税と固定資産税をベースにしながらきちんと税収を上げていくと。しかもそれが、今後の見通しとしてはしかるべき税収が上がっていく経済状況であるということからすると、私が思うには、地方交付税を抑制する形で、国も地方も財政健全化に取り組んでいくということができるのではないかと思っております。
どうもありがとうございました。
〇石会長
どうもありがとうございました。大変興味ある、かつ、積極的なご提案をいただいたと思います。
それでは、お二人のプレゼンテーションを受けまして、これから自由にご議論いただきたいと思います。大体20分から25分ぐらいの時間を予定しております。少し視点が違いますから議論も当然違ってくるかと思いますが、その辺も踏まえまして、今日は自由な討論でございますから、どっちがどうだという話ではなく、いろいろご議論いただけたらと思います。どうぞ。
やはり佐竹さんでしょうね、出番は。どうぞ。いろいろご感想あると思いますから。
〇佐竹委員
はい。それぞれ、ある意味では、見方によってはごもっとも。ただ、数字というのは魔術でございますので、どう見るかは、数字のいじくり方でどんなふうにも結論は出ますけれども、実態論としてちょっとお尋ねしたいわけですけれども、特に土居先生に、今の独自課税の問題でございますね。当然、独自課税をさらに自治体は強化すべきだと、そういうご主張の前提にはある程度具体的なイメージもおありではなかろうかと思います。まず、例えばという具体的なイメージ。ただ、最近の独自課税というのは非常に小さい。部分的に小さい。やはりこれは、全体の財政論だとしますと相当大きくなると。我々、内部でも、相当詰めても実際そのすき間があるのかどうか。これは今後も非常に難しい我々の議論ではないのかなと。
もう一つは国と地方のプライマリーバランス。確かに表面的に見ますとそうですけれども、元々、我々、予算組むときに赤字予算組めないのですね。歳入をある程度見込んで、それには歳出を圧縮して今組んでいるわけですから、最初から、国と違って、国債を大量に発行できるわけではないわけですから、そこのところは、国のプライマリーバランスと地方のプライマリーバランスは、細かい学術論を言うとまた別ですが、実態の経済的な側面からしますとやや違うのではないのか。
それと法人課税。これはなかなか……。我々、確かに数字から見ると、商工費、土木費、あれだからということですけれども、市長の立場からすると、個人の住民税の方の事務的な、いろんな個人の方々の相談だとかいろんな要求あるのですけれども、一番地方ででかい要求、あるいは要望で政策的に対応しなければならないのは、実際には法人に対する問題。しかも、それは単に商工費、土木費、27%で結構大きいのですよね。要するに土木費ですので、法人のために何をやっているというのではないけれども、大半は、産業政策上というのは今一番の、自治体で最も大きな政策課題のときにそこのところを、ヨーロッパでは消費税が最初の基幹税としてあるものだからそういうことでしょうけれども、果たして今、消費税となったときに、それとこの法人課税を、全体として議論する必要あるでしょうけれども、その法人課税が地方税の分はなくていいという議論にはなかなか我々としてはストンと落ちないのです。
この3点、ひとつお願いします。
〇石会長
土居先生にお尋ねすればよろしいですね。
〇佐竹委員
はい。
〇石会長
では土居さん、お願いします。
〇土居助教授
ご質問どうもありがとうございます。
まず独自課税ですけれども、やはり新たな税をつくって、それにどういう形でかけるかということを考えるのは、私もそれほど余地があるとは思ってません。ですから、従来の言葉で言えば超過課税ということになるのですが、超過課税をするということは、この超過課税という言葉からかもし出されるネガティブなイメージが非常に強いということなので、むしろ私は超過課税という言葉を廃止してしまったほうがいいのではないかと思ったり、ジョークでですね、するぐらいであります。もちろんこれは交付税の基準財政収入との関係があるのでそういう名前もあるのでしょうけれども、少なくとも超過課税をもう少し弾力的にするということが重要だろう。例えば個人住民税の均等割をもう少し上げるだとか、そういうようなことはあってしかるべきだろうと。もちろん低所得者に対する配慮とかいうのは別途すればいいわけですけれども、少なくともしっかりとした所得を持っている人に対して、きちんと地方自治体に対する納税をしていただくということは重要だと思います。ですから、そういったところに独自性を発揮するということがもっとあっていいのではないかと思います。
プライマリーバランスの問題は、確かに、地方全体で見たときの数字と個々の自治体の数字というのは随分いろいろ様子が違うというご意見はよくわかります。ただ、それは極端に言えば、たんまりとプライマリーバランスの黒字が上がっている自治体の首長さんとかは、黙ってにんまりとしておられるというところがあるのではないかと思うわけでありまして、赤字だと、もう赤字だ赤字だ大変だと、こういうふうに。もちろん、大変だから何とかしようという努力はとても大切ですけれども、しかも地方の財政運営は、私もよく存じておりますけれども、そもそもそんな赤字たれ流しなんていうようなことはできない。実質収支赤字になったら、大変だということはよく存じておりますけれども、ただ、プライマリーバランスの赤字ということは、地方が全体でどうであるかということいかんにかかわらず、個別自治体においてもきちんとこれを改善していくということが必要だろうと。それが制度的にきちんと促されるような仕組みをこれから少しずつでもいいので埋め込んでいくということが必要だろうと思います。
最後に法人課税ですけれども、法人課税は、私は、これは中長期的な課題なのだろうなとは個人的には思っております。つまり、今すぐ法人課税をなくせというのは暴論だと思います。やはり何らかのきちんと見合いとなる裏づけをもって法人課税をどう変えていくのかということが必要だろう。今後、法人課税を強化するというような方向で地方財政を立て直していくということだけは少なくとも避けていただきたいなという思いで、地方の法人課税ということを申し上げたということです。
〇石会長
ありがとうございました。
どうぞ、林さん。
〇林委員
まず持田先生は、ナショナルスタンダードという概念をお使いになられてますが、これをもう少し具体的に、どのように考えればいいのか。つまり、義務づけているものをナショナルスタンダードと言うのか、あるいは義務づけはしていないけれども、全国あまねく普及しているようなサービスをナショナルスタンダードと言うのか、このあたりをもう少しご説明いただきたいと思います。
もう一点、土居さんにですが、私は、マクロで見たときにはこういう機械的な試算という形になるのだろうと思いますけれども、やはりミクロで見た地方団体ごとで随分状況が変わってまいりますね。そのときはおそらく、土居さんのお話では、それは交付税の配分を変えればいいのだという話で、ここの配分を変えるというところが、どう変えるのだということですね。プライマリーバランスが黒字で、良好なところは交付税を減らせばいいではないかという話になってまいりますと、特に土居さんが、要するにインセンティブといったようなことをよく言われて、持田先生も、どちらかというと、効率化を図っているとか努力しているところには交付税を多めに与えたらどうかということを言われて、土居さんのお話でいくと、そういう、税源を涵養するとか、あるいは民間委託を進めて効率化するとかといったようなことによってプライマリーバランスが黒になった場合に交付税が減らされるということは、インセンティブとして働かないので、常日ごろ、インセンティブということを非常に重要視されておられるので、そのあたりを一体どのように考えればいいのか。
それからもう一点は、やはり法人住民税と法人事業税の関係ですね。これをどのようにお考えなのか。つまり、法人事業税というのは外形標準課税を進めようというぐあいに考えている中で、外形標準課税ということについては土居さんはどのようにお考えなのかということをちょっとお伺いしたいのです。
〇石会長
では持田さんに1つと、土居さんに2つ質問が出てますから、お願いします。
〇持田教授
どうもありがとうございました。
ナショナルスタンダードをどういうふうに定義するかということですけれども、日本国民としてこれは最低限必要だろうという水準をナショナルスタンダードという呼び方で呼んでも、これはあまり意味がないと思うのですね。ナショナルスタンダードかナショナルミニマムかということを、セマンテックといいますか、言語学上の争いをやっても、これはもう神学論争でありまして、ほとんど意味がない。ただ、強いてやるとすれば、私は、留保財源と独自財源で賄うのか、それとも交付税と地方税で賄うのか、この区分が一番クリアではないかと。つまり、ナショナルスタンダードを超えたものについては留保財源と独自財源、場合によっては法定外目的税で賄うと。これがオペレーショナルな議論をするときには非常に有効ではないかと思います。
それからもう一つは、ナショナルスタンダードについては、地域の住民の判断は聞かないのかという問題ですけれども、例えば介護保険をとってみますと、原則は保険料で賄うということが基本になってますが、しかし、他の部分は地方団体が一般財源から負担しているわけですよね。そうなると、保険料の部分でマージナルなアカウンタビリティがとれてますから、そのマージナルなアカウンタビリティによってナショナルスタンダードとしての介護保険についてもある程度財政責任が果たせるのではないかと、そのように私は考えてます。ですから、ナショナルスタンダードについては、ナショナルスタンダードかミニマムかというのはあまりセマンテックな議論をしてもちょっとらちが明かないというのが私の感想です。
〇石会長
ありがとうございました。
では土居さん、どうぞ。
〇土居助教授
ご質問、どうもありがとうございます。
まず、交付団体がプライマリーバランスを改善したときに不交付団体になるということになったらインセンティブはなくなるではないかというお話ですけれども、確かに、私が思うには、不交付団体を増やすということをするのに、交付税を振る舞う形でインセンティブをつけるというのはどだい無理な話だと。なぜならば、もらえなくなるようにするのにもらえる額を増やすようなインセンティブというのは定義矛盾なわけですね。ですから、私が思うのは、結局、インセンティブというのは、ちょっと遠回しというか、アメとムチで言えばムチしかないのではないかと思っているわけですけれども、結局、地方交付税をもらわなくなる団体を増やすためには、残念ながら財政移転を増やすというような形のインセンティブのつけ方は困難で、むしろ交付税総額が抑制されるという、ジリ貧感と言ったら変ですけれども、その中で、結局その交付税財源が抑制されているということであるならば、それはできるだけ交付税がないと困るという団体により多く配らないといけない、それだけ交付税がなくてもやっていけるという団体には配らないようにいくのですよという、そういう方向性を打ち出すことによって、我が自治体はどうやら、これはこのままいくと不交付団体になるらしいという見通しをアナウンスして、それならば、不交付団体になってもちゃんと耐えられるような財政運営を自ら進んでしなければならないだろうと感づいていただくというような形で、インセンティブと言ってもかなり弱いというか、婉曲的なものかもしれませんが、少なくともそういう形で不交付団体を増やしていくと。
さもなくば、本当に機械的に一刀両断でずばっとやってしまうかどっちかだと思いますが、一刀両断でできればいいのですけれども難しいということであるならば、自然にそういう、交付税総額が減っている中で、どうやら配り方が、税収がより豊かな自治体に対しては配られなくなるらしいという見通しを示しながら導いていくというようなことではないかと思っています。
それから外形標準ですけれども、むしろ田近先生のほうがご専門だと思いますが、基本的には加算型といいましょうか、そういう形で付加価値をはかるだとか赤字法人に対して課税するというようなことは芳しくないのではないかと。むしろ地方消費税があるということであるならば、私はそっちのほうが洗練された課税の仕方なのではないかと考えております。
ただ、今、消費税の引上げをするのかしないのかというようなご時世で、法人課税をやめて地方消費税に振りかえるということを言い出すというのはちょっと場違いというか、ちょっと時期尚早なのではないか。やはりまずは国と地方の消費税のあり方を云々するという以前の問題として、消費税率をどうするのかという問題があるということであるならば、まずそこにきちんと焦点を当てて、その問題を克服しつつ、国と地方の配分をどうするかということを考える。その後で、中長期的な課題として、では、法人課税を地方でやめるかわりに地方消費税をどうするのかということを考えるという意味では、2段階のストレッチといいましょうか、私は、二正面作戦をやるべきではなくて、むしろ時期を変えて2段階でやるのがいいのではないかと個人的には思っております。
〇石会長
遠藤さんと村上さん、どうぞ。
〇遠藤委員
持田先生のお話は大変よくわかりました。ただ、地方財政計画の考え方ですけれども、法律にもあるとおり、これは国会へ提出して国会の承認を得なければならないものだと思います。それはなぜかというと、結局、国の仕事の大半は地方でやっているわけで、地方が財政的に大丈夫なのかということを国会でやはり議論するためにそういうことが義務づけられているのだと私は思っているのです。
問題は、地方財政計画をつくるときに何が問題かというと、要するに、法令で決められた事業の経費だとか、国庫補助金の裏負担だとか、そういったものは非常に簡単ですけれども、地方というのはそれぞれ文化的、地理的に違うわけですから、いろんな面で、それぞれそういうもの以外の単独分というものをどうやって、どの程度見てやらなくてはいけないか。それはむだな経費まで見る必要はないですけれども、いわゆる標準的なあるべき行政水準としての単独経費というのをどうやって見ればいいのかというのは実は非常に難しいのです。それは決算統計その他から拾って、この程度はやはり見てやらなくてはいけないのではないかということが1つと、投資単独については、かなり国の経済政策との関連で、投資単独を余計見てみるという財政当局の強い要望があったりして見てきた点もあるわけです。ですから、単独事業の見方が非常に難しいので、そこのところをひとつ理解してもらいたいということだと思います。
ナショナルスタンダード論の話が出ましたけれども、留保財源で見るというのはやはり財政計画に乗せるという意味ですから、留保財源というのはおそらく、ご説明の趣旨は、交付税の基準財政収入額に算入されたもの以外の部分という意味だと思いますから、それがあって、留保財源で見るべき部分はやはりナショナルスタンダードで財政計画に乗せるべきものだと思うので、超過課税で見るべきものとはちょっと違うと思うので、そこのところをご質問しておきたいと思います。
それから土居先生のお話は、機械的な計算が随分示されましたけれども、国の財政でも機械的な計算どおりにはならないので、地方財政の場合にはもっとならないので、あまりそういう機械的な計算というのは我々やってこなかったのですが、どうも、お考えを聞いていると、交付税というのを平衡交付金と間違えておられるのではないかという感じがしてしようがないのです。
交付税というのが、持田先生も言われましたけれども、要するに地方共有の税財源ですよね。だから、交付税交付金という、交付金というのがついているから、それは国から地方へ渡す財源であるという、これは自治省と大蔵省の長年のあれですけれども、それはやはり違うのです。基本的には、やはり大蔵大臣や総理大臣が言っているように、これは地方共有の財源なのですよ。税財源なのですよ。ですから、それを、余裕ができれば交付税率を下げてもいいだとか、そういう発想ではなくて、むしろ、もし余裕ができるのであれば地方分権をもっと進めて、そして国の奨励的な補助金だとかそういったものを全部、国の経費を削って地方にやってもらうというほうに組み直すべきだと私は思いますが、それはどうですかということ。
それから法人課税については、個人住民税と固定資産税を増税するということを言われましたけれども、ちょっとよくわからないのですが、個人住民税については所得税を個人住民税に移すということなのでしょうか。それから固定資産税は増税するということなのでしょうか。そこのところを聞いておきたいと思います。
〇石会長
幾つかありましたけれども、時間が押してますが、簡単に。持田さんのパーツと土居さんのパーツがあると思います。あと、村上さんを最後にして終わりにしたいと思います。どうぞ。
〇持田教授
まず地財計画の理解ということですが、それは遠藤委員がおっしゃったとおりだと思います。ただ私が言いたかったのは、地財対策ですね。これが法律的な根拠はないということでして、石原信雄氏の書かれた本は財政調整の問題についての辞書と言ってもいいと思いますけれども、あの本の中でも地財対策については独自の項目を挙げて説明をしておりません。ですから、地方財政計画は交付税法に法律的な根拠がありますけれども、特例加算と特会借り入れをやる地財対策は法律上の根拠はない。ですから、早期に脱却すべきであるというのが私が言いたかったところです。
それから2番目の、単独の見方は難しいということは、これは全くおっしゃるとおりでして、高齢者にものすごい一律に配っているところもあれば、本当に一生懸命頑張って少子化対策をやっているところもありますので、また、投資単独でもいわゆるつぎ足し単独ですよね。学校のプールを単独で見なければはいけないとか、幼稚園つくった場合に柵とか門塀が入ってないとかいう問題がありますので、この投資単独についても実はかなりコントロールが効いた部分があります。そういう意味で、私が言いたいのは、そういうことについて関係部局が一覧性のある形で早く統計をつくってほしいということで、これは私は何度も要望出しているのですけれども一向につくってくれないということが言いたかったことです。
それから3番目に、留保財源はナショナルスタンダードにむしろ入れるべきではないかということですが、これはちょっと私が多分誤解していたと思いますので、検討したいと思います。
以上です。
〇石会長
それでは、土居さん。
〇土居助教授
まず1点目のご質問ですけれども、基本的に私は、国から地方に対してもっと権限移譲して、奨励的補助金とか、なくすべきものはなくしていくことは当然やるべき、地方分権を進めるべきと思ってます。ただ問題は、医療制度改革のときと同じような問題で、現場の声を聞かなければ総額は決められないのだと言って、果たしてどれぐらい抑制が効いた話になるのか。というのは、総額で縛るとそれは乱暴だという話があるので、それはよくわかるけれども、ではミクロからの積み上げで果たしてどこまで抑制効いた議論ができるのですかというと、いや、これも要る、あれも要る、これは必要だ、あれも必要だと言って、結局は全然減らないということになってはいけないので、やはりきちんとマクロからもプレッシャーをかけて抑制してくださいよということをお願いするというような意味で、機械的な試算ということをいたしたというわけです。
2点目の点は、私は別に、所得税から個人住民税に税源移譲するということだけがすべてではないと思っておりまして、別に国は国で税率を決めながら、それとは全く独立して、個別自治体が独自に個人の均等割を上げるとか、そういうことはあっていいのではないかと思います。それは当然、固定資産税についても同様だと思います。
〇石会長
ありがとうございます。
それでは、次の渡辺先生、もうお見えになっておりますので、最後に村上さんのご質問で打ち切りたいと思います。どうぞ、簡単にお願いします。
〇村上委員
若干、遠藤さんのご質問の最後のところと重複する面はあるのですけれども、伺いたいのは、土居先生にです。土居先生がおっしゃったのは、歳出を2~3%ずつ削減しながら、個人住民税と固定資産税の引上げでバランスがとれると、こういうご趣旨だと思うのですけれども、その場合の個人住民税は、超過課税があるといっても、いわゆる国税の所得税とのバランスを考えていかなければいけないと。したがって、税源移譲、そういうことになったのだと思うのですけどね。その辺の、国税との関係からいくと、そんなにできる話ではないのではないのかと直観的に思う立場からしますと、これはかなり過大な期待になるのではないのかなと。
それからもう一つは、固定資産税についても、先ほどおっしゃったように、法人は盛んに文句を言っているわけですよね。すでに高いと。それに対して文句言ってないのは、小規模住宅を持っている、つまり、かかってないところだと思うのですが、そこへかけるということになると、これはかなり負担感といいますか、相当の違和感があるのではないのかなと思うのですね。そうかといって、消費税は軽々にやるなとおっしゃっているから、それで財政再建というのがうまくいくのかなと。直観的ですが、先生はきちっと計算されていますけれども、ちょっとその辺疑問に思うのですが、いかがでしょうか。
〇石会長
では説明をお願いします。
〇土居助教授
私が先ほどお示しした数字は、地方税については増税を全くしないということで、まず地方財政計画ベースで見るとあれぐらいの税収が上がってくるということですね。そういうわけであります。それでいて、個別自治体で財政収支はプライマリーバランスが黒字だったり赤字だったりするということですから、別に増税がすべての手段ではないわけですけれども、場合によっては、個人の均等割を引き上げるというようなことはあっていいと。
確かに、おっしゃったように、税率そのものですね。課税所得に対する税率そのものを個別に上げるということがどこまでうまくワークするのかというのは、私自身も、やろうと思ったらできるとは思うのですが、なかなか困難も現場では多いだろうと思いますから、むしろ均等割ですね。これは非常に機械的にパッと上げようと思ったら上げられる。もちろん住民は重い負担だと思うかもしれませんが、それぐらい行政経費のためにお金がかかっているのだということについては、やはり身近な住民とフェース・トゥ・フェースで向き合って、それぐらいの負担だったらきちんと行政サービスすべきだとか、いや、それぐらい負担するのだったらもうやめろとか、そういうことを議論していただきたいと思います。
〇石会長
ありがとうございました。地方財政関係、お二人の先生方からご説明いただき、議論を交わしました。各自いろんなご意見があろうかと思いますので、よくご自分でお考えいただきたいと思います。
それでは、ちょっと今度はテーマが変わりまして、次のテーマは、ここにも出ておりますが、1990年代以降の財政政策運営につきまして、一橋大学の渡辺先生からご説明いただくことになっております。渡辺先生は、経済研究所で、マクロ経済学、国際金融をご専門にしておられ、業績も上げられている先生です。
では、渡辺さん、お願いします。
〇渡辺教授
一橋大学経済研究所の渡辺でございます。私は税の専門家ではありませんで、あるいは財政の専門家でもございませんで、若干場違いで居心地が悪いのですけれども、お話をさせていただきたいと思います。
私が研究している内容というのは、政府とか、あるいは中央銀行が様々な政策をしていくわけですけれども、そういうものが人々の期待にどのように影響を与えるのかということを中心に研究しているものであります。そういう分野は、政策ルールという名前がついておりますけれども、そういうことについて、若干、財政に関係する点もありますので、ご報告したいと思っております。
(パワーポイント使用・スライド2ページ)本日ご報告したい内容は2点でございまして、1つは、財政政策の効果というのが90年代以降低下しているのではないかという点であります。それから2点目は、財政がある種の発散経路にあるのではないかということでございます。どちらも事務局の方からご示唆をいただいて、私なりに何がしかお答えができるようなテーマということで選ばせていただきました。
ちなみにもう一つ、橋本改革以降の景気の低迷について、その原因が財政にあるのか、それ以外の要因にあるのかということも考えられないかというご示唆をいただいたのですけれども、それについては答える自信がありませんでしたので、今日はご勘弁いただきたいと思います。
最初のほうの質問、財政の効果の低下という点につきましては、ちょっと専門的になりますけれども、財政政策の非ケインジアン効果という概念がありまして、それを中心に私自身が検討したことがございますので、それを中心にご説明したいと思います。
2番目の、財政は発散経路にあるのではないかという点につきましては、これも財政政策ルールというものを推計したことがございまして、そこを中心にご説明したいと思います。いずれも、伊藤さん、あるいは藪さんという方との共同の研究の成果に基づくものであります。
(スライド3ページ)まず最初に非ケインジアン効果ということについてお話をさせていただきたいと思います。財政支出が増加するような状況というのを考えてみますと、普通の教科書に出ているような議論で言いますと、ケインジアン効果、ケインジアンエフェクトというものが働くということになっているわけです。財政が公共事業を増やすとかいうことをしますと、乗数過程を通じて個人の消費支出が増加していって、それが回り回ってGDPを増加させるのだということがよく言われているわけであります。こういうケインジアン効果がどのぐらい強いのかということももちろん重要な論点でありますけれども、今日のポイントは、それではない、非ケインジアン効果という部分であります。
これはどういうものかといいますと、財政の支出を例えば公共事業の増加によって実行したとしますと、それは当然、国債の増発ということになるわけですので、政府債務のようなものを増加させることになるわけです。政府債務というのは、普通に考えますと、どこかのタイミングで税の負担増を行いたいとか、あるいは歳出の削減を行いたいとかするわけでしょうから、そうすると家計は、政府債務が増加したのを見て、将来自分が払う税の負担が増加するのではないかということを予想するわけであります。あるいはさらに進んで、その税の負担に伴う超過負担というのが増加するのではないかということを予想するというふうに考えられます。
その結果として、家計は、将来の自分が払う税が増えるわけですので、あるいは超過負担が増えるわけですので、現在時点での消費支出を減少させることをするだろうというわけです。そうしますと、出発点は財政支出の増加だったわけですけれども、その財政支出の増加分と差し引きで見ましてもまだマイナスが残ってしまって、GDPが減少することが起こり得るというのがノンケインジアン効果であります。
もちろん、現実の経済では、ケインジアン効果も、それからノンケインジアン効果も両方とも働いているであろうと考えられますので、GDPが増加するのか、それとも減少するのかというのは、どっちの効果が強いのかということに依存するわけでありますけれども、忘れてはいけないことは、普通言われているケインジアン効果以外にもう一つルートがありそうだというところであります。
2つほど、このケインジアン効果ということにコメントしておきたいのですけれども、1つは、ノンケインジアン効果というのが働くか働かないか、どのぐらい強く働くかということについては、経済の状態に非常に強く依存しているということであります。一方で、ケインジアン効果のほうは大体いつでも同じように働くと考えられますけれども、ノンケインジアン効果のほうではそうではないと。どういう状態に依存するのかといいますと、債務の残高が現時点で非常にすでに大きくて、そこでさらに追加的に財政支出を行うということを考えたときに、そのときにノンケインジアン効果が非常に強く働くということであります。
これは直感的に何となく明らかだと思いますけれども、財政の状態が非常に好調で、債務もそれほどないというときであれば、少々財政支出が増加して債務が増加としたとしても、それでその家計が将来の税負担が大変だと騒ぐということはあまり考えにくいわけでありまして、そのように心配する状況があり得るとすれば、それは現時点ですでに債務が非常に高い水準であって、そこに追加してさらに政府支出を行うという状況に限られると考えられるわけです。その意味で、経済の状態、あるいは財政の状態に非常に効き方が強く依存しているというのが第1のポイントであります。
第2のポイントは、財政再建に関する含意であります。この例では財政支出が増加したらどうなりますかということをお話しいたしましたけれども、反対の議論を考えればいいわけでして、財政支出を減らすということを、それを仮に財政再建と呼ぶことにしますと、そういうことをした場合というのは、ケインジアン効果で言えば、当然、GDPを減らす方向に景気の回復の腰を折るかもしれないというような心配をする方もいらっしゃるかもしれませんけれども、そういう方向に普通であれば働くと考えられるわけです。
それに対してノンケインジアンエフェクトのほうは、現時点での歳出を削減することによって、それは将来の税負担が少しだけでも減るのではないかという人々の期待を通じて人々が個人消費支出をむしろ増加させて、それによってGDPの減少幅を小さくする、あるいはさらに進んでGDPを増加させることもあり得るというのが財政再建に関する含意としては重要なポイントであります。
そうしますと、これらのものがどのぐらい強く働いているのか、あるいは過去のデータはどうなっているのかということが非常に重要な関心事項だろうと思います。
(スライド5ページ)お手元に表5というのがあるかと思いますが、英語で大変恐縮ですけれども、イタリアの経済学者の人たちがヨーロッパの経済を前提にして分析した例がございまして、そこでの数字を1つ挙げてございます。これはデンマークとアイルランドの80年代後半の財政再建の事例を挙げているわけです。数字の細かいことは分かりませんが、この時期は政府の支出、とりわけ政府の投資的な支出が削減されていったわけですけれども、そうした中にあって、民間の消費支出というのはむしろ増加したということが観察されています。
もちろん、消費支出というのは金利でありますとか可処分所得とかいろんな要因によりますので、それらの要因がどうなっているかということを上手にコントロールしないといけないわけですけれども、そうしたものをコントロールしても、なお説明できない消費の増加があると。これはやはりノンケインジアン効果が働いたと考えざるを得ないということを、90年、もう15~16年前の論文になりますが、そこで報告したわけであります。それ以降、OECDの諸国における様々な財政再建の事例を題材にいたしまして、こうした効果が本当に働いているのかどうか、様々な観点から研究がなされてきたわけであります。
(スライド4ページ)1つだけここでお示ししたいのは日本の例でありまして、これは私と伊藤さんが共同で研究した結果を一つのグラフにまとめたものでありますけれども、ここに書いてある絵は何かといいますと、横軸には時間をとってまして、1958年から2000年までのデータをとってます。縦軸にはある種の数字をとっているのですけれども、どんな数字かといいますと、現在時点で政府債務が増加するような、あるいはそうさせるような政策をとった場合に、それが人々の予想というのを通じてどれだけ現在の消費に影響を与えるかということを計測したものであります。
よく見ていただきますと、ゼロのところに線がありまして、その数字がマイナスになってございますので、効果はすべてマイナスでして、政府債務が増えると、それによって、結局それが期待を変化させて消費を抑えるという効果が観測されているわけでして、ノンケインジアン効果の部分、それだけを取り出して計測したものであります。
赤で示したところは70年代の後半の時期でありまして、ここは財政の事情があまりよくなかった時期だと聞いておりますけれども、その時期というのは、このマイナスの幅が、ゼロから乖離している幅がそれ以前の時期に比べて大きかったことがおわかりいただけると思います。つまり、もしこの時点で追加的に政府債務を増加させるような措置をとった場合には、それがその時点における消費を抑える効果が非常に大きかったということを言っているわけであります。
それ以降、バブルの時期、80年代の後半から90年代の初めぐらいの時期というのは、若干このマイナス幅がゼロに近づいて小さくなっているわけでありますけれども、その後、90年代の後半に至りまして再びマイナス幅が大きくなっておりまして、ノンケインジアン効果の効き具合いをどうやら強めてきたと推計上は見えるわけであります。この時期も、当然のことながら政府債務が非常に累増していた時期でありまして、人々が将来の税負担というものを心配し始めた時期だろうと考えられますので、その時期にこのようにノンケインジアン効果が強くなったということはある程度財政の事情と符合する結果だろうと思います。
ヨーロッパの事情、それから日本の事情等を考えますと、理屈上はノンケインジアン効果と言われているものがヨーロッパや日本でもそれなりに存在しそうだと確認できたというのがまず最初のご報告であります。
(スライド6ページ)2番目の点は、発散経路に入っているものはどうかという点についてのお話でございます。少しデータを見ていただきたいと思いますけれども、これも横軸に時間をとってございます。時間が少し長めにとってございまして、1885年ですから、明治17年ぐらいですか、明治維新の直後ぐらいの時期からごく最近までの時期の政府債務の名目GDPに対する比率をとったものであります。いろいろ上がったり下がったりとか動いているわけですけれども、大きく見まして、上がる局面というのは3つないし4つあるとご確認いただけると思います。
1つは、言わずと知れた第二次世界大戦の時期でありまして、1930年代、あるいは20年代の半ばぐらいから1945年にかけて政府債務が上がっているということがおわかりいただけると思います。それからそのもう少し前の時期を見ていただきますと、1905年というところにシャドウをかけてありますけれども、これは日露戦争の時期でございまして、そのときに、当然、戦争ですので、戦費の調達のために政府債務が発行されたということが確認できます。
それからもっと最近の時代になってまいりますと、70年代の半ば以降の時期ですか、バブルの初期のころまでにいったん増加する局面がありまして、その後、80年代の後半の時期は、財政再建等もありまして若干減少する時期があるわけですけれども、その後再び、バブル崩壊に伴って増加するという局面が見えております。
3つないし4つほど上昇する局面があるというのはおわかりいただけるかと思いますが、ここで申し上げたいのは、上昇する局面も大事ですけれども、減っているところはどうやって減っているかというところをまず最初に見ていただきたいと思いますが、もう一つ指摘しておきたいことは、減らなかったことはないということがまず第1であります。
例えば戦争は非常に大きな政府債務を残したわけですけれども、1945年から50年ぐらいにかけまして急速にこの数字が減っているということがおわかりいただけると思います。これは政府債務の名目GDP比率がこうやって継続的に減っているわけであります。この一部はもちろん、戦後の時期に増税をしたりとかいうことによって減っている部分もあるわけですけれども、それはごくごく一部でありまして、大部分は名目GDPの中に入ってます物価の部分が上昇することによって、要するに国債が紙っぺらになることによってこのような数字の動きになるということでありまして、典型的な財政危機というのは、こうやって政府債務がだんだん増えていって、最後は返し切れなくて、しようがないからインフレになって紙っぺらにするというので一応返した形、返してはいないのですけれども、国債の名目上、デフォルトしてしまうというような意味での返さなかったという事態は避けることができたということになるわけですが、これが財政危機の典型的な例でありまして、その意味では、この1945年の事例というのは財政危機の典型的な事例だと言っていいだろうと思います。
それに対して日露戦争の時期につきましては、1905年からぐぐっと上がっていった後でまた徐々に戻っていって、1920年ぐらいまでのところにかけて徐々に徐々に低下しているという様子が見てとれるかと思います。後でもうちょっと詳しく申し上げますが、ここが実は、若干のインフレはありますけれども、インフレではありませんで、当時の議論などを見ますと、大変苦労しながら財政の余剰を出していって戦争の出費を返していったということが行われたということのようでございます。
問題は、昔の話はどうでもいいわけでして、ごくごく最近の話でありまして、90年代の半ば以降の増加の様子がどうなるかということだろうと思います。ここは先が残ってますので、減るのか減らないのか、おそらく減るだろうと思いますけれども、減るのは、では増税で減るのか、それとも歳出カットで減るのか、それともインフレで減るのかというその3つなのだろうと思います。
(スライド7ページ)それで、さっきの日露戦争のところを確認していただくためにもう一つ、今度はプライマリーバランスのGDP比率を同じ時期について見たものであります。1905年のところで大きく下のほうにスパイクしてますけれども、ここは戦争をして出費が出ましたと。先ほど、政府債務が増えましたと申し上げましたけれども、その裏側に存在していた財政収支の動きです。
注目したいのは、1906年以降の1925年ぐらいにかけての黒字でありまして、ここで財政収支の黒字を出すことによって戦争中の債務を返していったということがここで行われているわけであります。その意味では、1905年のときの、あるいはそれ以降の政府の対応というのは、非常にしっかりした財政規律を持っていて、戦争という一時的な理由で増えてしまった国債を地道に返していったというわけですので、規律のしっかりした政府だったと言えるでしょうし、反対に1945年のときの政府というのは、積み上げに積み上げた国債を、若干は増税によって返す努力はしてますけれども、その後、もっぱら、インフレによって返した形にしているというわけですので、規律に欠けた政府だったと言えるだろうと思います。
以下では、その意味での規律がしっかりしているのかどうか、特に最近のところはしっかりしていると言っていいのかどうかということを考えていきたいと思います。それによって財政が発散しているのかどうかということについての一定の評価をしたいというのが私の考え方であります。
(スライド8ページ)何をやっているかおわかりいただけたほうがよろしいかと思いますので、数式を使って少しだけお話しさせていただきますと、この政策ルール1というところで推計しているわけですけれども、非説明変数という等号の左側に来ているものは基礎的なプライマリーバランスの数字でありまして、それの1885年からの120年ほどの長いデータを見ているというわけであります。右に幾つかいろんな変数がありますが、それらは飛ばしていただいて、一番右端のところに前期末の政府債務残高というのがございます。
これがポイントでありまして、つまり、前期末の政府債務残高が大きいときには、当然、基礎的財政収支の黒字幅を大きくするということが必要なわけです。それが規律のしっかりした政府のやるべきことなわけでありまして、日露戦争のときというのはその政府債務残高が一時的には積み上がったわけですけれども、それを前提にして、それに反応して基礎的な財政収支を黒字に持っていくということを行ったわけであります。
それに対して第二次大戦はそういうことにならなかったわけですので、そうすると、ここの前期末の政府債務残高、ここではDEBTと書いてありますが、そのDEBTという変数の前にかかっているもの、β3というこの係数がちゃんとプラスになっていれば規律がしっかりしているということになりますし、ゼロとか、あるいはマイナスだと規律がちゃんとしてないいうことになるわけですので、そこを推計すれば、規律がしっかりしているかどうか、あるいは発散経路に入ってないかどうかという評価ができるということになるわけであります。
ルール2と書いたその下にあるものは、基本的には同じような式なわけですけれども、左側の変数とかは同じようなものなわけですが、1つだけ重要な違いは、一番最後のところにありますのが、先ほどは政府債務残高でしたけれども、今回は当期の政府の利払いをINTERESTという変数で表現しています。これはどういうことかといいますと、政府債務残高が仮に2倍になったとしても、金利が2分の1になっていれば、当然その利払いは変わらないわけですので、その場合は別に慌ててサープラスを、財政余剰を増やす必要はないという一応の理屈が成り立つわけです。そうすると、政府債務残高そのものよりもむしろ利払いのGDP比率のほうが変数として適当なのではないかと、それが規律の有無を評価するときに適当なのではないかということで、当期の利払いという変数を入れてます。ここも同じように、γ3と書いた変数がございますけれども、これがプラスかマイナスかによって、財政規律がしっりしているかそうではないかを評価できるということを考えております。
(スライド9ページ)細かいことはさておきまして、その推計した結果をご紹介しておきたいと思います。まず最初にルール1というのを推計した結果を左側に書いてあります。ここに書いてある数字は、先ほど申し上げたDEBTという前期末の政府債務残高にかかっている係数を示したものでありまして、この係数は時期に応じて変化しているということが推計の結果としてわかっております。
我々、フィスカルポリシーレジームとか言いますけれども、4つほどのレジームがこの120年の期間中あったと考えるべきだというのが推計から出てきている一つのメッセージであります。4つの時期というのは、1つは、大ざっぱに言うと1920年ぐらいよりも前の時代。私たちのデータは1885年からですので、それ以降の1920年ぐらいまでのところ、それから第二次世界大戦中のところが第2番目のレジーム、それから戦後の時期については、80年代ぐらいまでのところを一つの区切りとしまして、その時期とそれからそれ以降の時期と分けたほうがいいということを、推計結果は示唆しているわけであります。
それぞれの時期についてDEBTの係数というふうに見てまいりますと、非常に特徴的なことは、Regime1という戦前の時期については0.12と書いてございますけれども、係数がすごく大きくて、しかも統計的にも有意だということが確認できます。いろんな工夫をして本当にそうかどうかということを確認したわけですけれども、どんなふうにしてもこの事実というのは変わらないということは確認できます。つまり、戦争の前、とりわけ1917年というのが金本位制を停止した時期なのですけれども、金本位制の停止をする前の時期というのは、金本位制に支えられている面もあって、政府が非常に強い財政規律を持っていて、政府債務が増えることはもちろんあるわけですけれども、地震や戦争、いろんなことがあるわけですので突発的な事情で債務が増えることがあるわけですけれども、それを地道に返すということをやっていたということが確認できます。
それに対して第二次世界大戦の時期というのは、これも明らかですけれども、そういう規律が非常に強く失われて、ゼロないしはマイナスになってしまう。DEBTの係数がマイナス0.08というのが掲げてありますけれども、それ以外の様々な同じような推計をしてみてもマイナスになってしまうということであります。
戦後の時期について見ますと、Regime3についても、Regime4についても、一応プラスになるということが確認できます。ただし、どちらの時期についても係数は非常に小さくて、統計的には、有意にゼロではないという検定をしますと棄却されてしまうということですので、マイナスとは言わないまでも、ゼロか、あるいはちょぼちょぼのプラスしかついてないというのがここからの結論だろうと思います。
同じ推計をルール2について、見方は同じですけれども、同じようなことをしたものが右側に書いてございます。ルール1との違いは、DEBTではなくてINTERESTという利払いを変数に入れているところですけれども、特に大きな違いは、Regime3とRegime4の戦後の時期でございまして、ここは、先ほどとは違いまして、係数は有意にプラス、大きな数字になっていて、しかもそれは統計的にも意味のある数字だということになっています。つまり、金利の変動に対してきちんと財政バランスを調整するという意味での規律は持ってましたかと聞かれれば、それは戦後の時期であったとしても持っていたと言っていいだろうと思います。それに対して、もう少し厳しい意味で、債務が増えたらそれに対してきちんと財政余剰を増やすという意味で対応してましたかという、その意味での規律がしっかりしていましたかという問いに対しては、残念ながら、戦後の時期を通じて、とりわけバブル崩壊以降の時期については、そうした規律が十分に機能してないということがデータから読み取れるということであります。
(スライド10ページ)最後に簡単にまとめを申し上げたいと思います。ちょっと順番を反対にして、今説明したこともありますので2番目のほうから申し上げますけれども、90年代以降、債務残高が増加しているわけですけれども、それに対してプライマリーサープラス、プライマリーバランスを改善させるという意味での財政規律は弱まっているというのは今申し上げたとおりでございます。
ただし、利払い相当額の財政余剰というものを生み出すという意味での、かなり弱い意味での財政規律というのは辛うじて保たれているというのがここでの計測の結果であります。
ここからは少しその結果の解釈といいますか、私の意見に入るわけですけれども、国債の価格というのは90年代以降一貫して価格が高い水準になって、金利が低い水準にあるわけで、これはもちろん金融政策との関係等もあるわけですけれども、ただ、財政サイドから見ますと、投資家が政府の行動について、足元がどうなっているかはともかくとして、将来は財政の規律を取り戻すだろうと予想している結果だろうと解釈できます。その意味で、財政に対する信認というのは少なくとも今までのところでは崩れていないし、あるいは典型的な財政危機のような状況は起きていないと言っていいだろうと思います。
大事なことは、辛うじて保たれているこの信認というものを崩さないようにするにはどうしたらいいのか、そのように財政運営することが最も重要なのだろうと思います。
それから、ちょっと順番が反対になりましたけれども、ノンケインジアン効果につきましては、90年代の後半以降、そういうノンケインジアン効果によって消費を下押す効果が強くなっているということがわかりましたということであります。2つほどここでは含意を書いてございます。
1つは、財政を発動して内需を喚起しようというような方法が最早有効ではないということを示唆しているのだろうと思います。これはもうあまりこれ以上のことは費やす必要はないと思います。
それから2番目のポイントは財政再建に関するインプリケーションでありまして、財政再建はケインジアンエフェクトの観点からは間違いなく内需に対して負の影響を及ぼすだろうと思います。これは何とも仕方がない部分だろうと思います。ですが、そうした負の影響を最小限にとどめるという工夫を何とかしなければいけないとすれば、それは財政再建をできるだけ歳出の削減によって行う、あるいは、同じ歳出の削減を行うのであれば、きちんとした歳出の削減を将来に向けて行うのだということを積極的に国民に対してアピールをして、あるいはアナウンスをして、それに明確にコミットメントしていくということが重要だろうと思います。そうすることによって、逆方向の非ケインジアン効果が働いて、それによって個人消費が下支えされて、ケインジアンエフェクトで消費が落ちる部分を何がしかは補うことができるだろうということであります。
過去のヨーロッパの経験などを引用すれば、上手にやった場合にはそうしたコミットメントが非常に強く伝わって、人々の期待をうまく反転させるようなことができれば、個人消費はむしろ増大することすらあり得るというのがヨーロッパの経験のようでありますので、そうしたことも、上手なコミットメントをすれば期待できるのではないかというのが第1番の点から得られるインプリケーションであろうと思います。
少し舌足らずな点があったかと思いますけれども、ご質問も含めましてご意見をいただければと思います。
〇石会長
どうもありがとうございました。大変興味ある、長い目から見た分析も踏まえてのご発表をいただいたと思います。
それでは、まだ時間が若干残っておりますので、今のご説明に対しまして、ご質問等ございましたらどうぞ。では丹羽さん、どうぞ。
〇丹羽委員
どうもありがとうございました。
1つだけご質問したいのですが、資料のページ6と7を見ますと、第二次大戦後、1970年代の初めまで、例えば政府債務が対名目GDP比でかなり安定して低いところにあるわけですよね。ほかの部分もそうですけれども、第二次大戦後、朝鮮戦争以降、この期間が日本の第二次大戦後の中で最も名目成長率の高い時期なのですね。これは大体17~18%の名目成長率、実質が9%ぐらいだと私は記憶してますが、そういうことを見ますと、政府債務を名目GDP比で下げる、あるいは安定させるというのは経済成長率がある程度大きな効果を及ぼしているのではないかと。これから我々が税の問題を考える上においても、経済成長率をある程度高めていかないと、政府債務の名目GDP比は減らないし、安定もしないだろうと。
そういう意味で、今、渡辺先生のおっしゃったことはわかるのですけれども、この経済成長率という視点をもう少しご説明いただくともっとわかりがいいと。どうもノンケインジアンに結構ウェイトがかかり過ぎたご説明ではないかと思うのですが、いかがでございましょう。
〇渡辺教授
ありがとうございます。
まず、こういうふうに質問を分けたらいいと思いますけれども、当然、実質のGDPの成長率が高い時期のほうが、例えば増税をするとか、財政の運営をするとか、様々な意味でフレキシビリティは高まるだろうと思いますので、財政を再建するということ、あるいは政府債務のGDP比率を安定させるというような努力がやりやすい環境だというのは間違いないだろうと思います。
反対に、成長率が低いときにはそういうことができないのかということがその裏返しの問題になるわけですけれども、先ほど、戦前の時期、あるいは、特に戦前の時期でも日露戦争後の時期の話を申し上げましたけれども、この時期は、この結果を得てから若干にわか勉強した限りでは、先ほどもちょっと申し上げましたように、金本位制のようなものに支えられて、非常にその比率が強くて、それによって財政の運営というのが事後的に見ても円滑に行われていたということであります。
この時期は必ずしも経済がすごく安定していた時期ではないわけでして、あるいは1960年代のように高度成長期だったわけでもありませんので、そうしますと、成長率が高いほうがもちろんやりやすいというのは事実ですけれども、そうでなければいけないかと言われると必ずしもそうでなくて、きちんとしている財政当局はどのような状況でもきちんとしているということだろうと思います。
〇石会長
どうぞ、川北さん。
〇川北委員
この4枚目の黒枠ですが、これは将来の増税要素が現在の消費に与える影響。これは確かにわかるのですが、一方で、財政出動した場合に消費を刺激する効果もないわけではないと思うのですね。これはそれを差し引きした数字なのですか。それとも増税要素が消費に与える影響だけを取り出した数字、どちらなのでしょうか。
〇渡辺教授
あまり細かいことは触れなかったのですけれども、ケインジアンエフェクトとノンケインジアンエフェクトというのを区別するような仕組みを考えまして、ここで示しているのは後者のほうだけを取り出したものです。ですから、ネットしたものではございません。
〇川北委員
ネットしたものの数字というのはお持ちではないのですか。
〇渡辺教授
結果からは得られます。ネットしたものは明らかにケインジアン効果のほうが強いですので、例えばケインジアン効果の一部は相殺されますけれども、ノンケインジアン効果によって全部消えてしまうかというと、そんなことにはなっておりません。
〇石会長
でも、非ケインジアン効果というのは最後の考え方だよね。こうならないほうがいいぐらいだよね。要するに債務がたまってこなければ起きてこない。感想ですけれども、僕も非常にそれはおもしろい視点だと思いますけれども、まあ、窮余の一策でこういうところに目がついたというふうに理解しちゃまずいのかな。
〇渡辺教授
先ほど幾つかの欧州の経験をと言ったのは、ですから、イタリアの経済学者が非常にこの現象に関心を持っているわけですけれども、それはどういうことかというと、事情はともあれ、とにかく債務残高が増えちゃっているというところを出発点に議論を組み立てようといたしますと、増えちゃったものを何とかしなければいけないという、そういうゲームを考えたとして、それのコストをできるだけ小さくしたいという発想で考えるとこういうアイデアが出てくるのだろうと思います。最善はもちろん、こんなことにならないところで止めておくということだと思います。
〇石会長
では田近さん、どうぞ。
〇田近委員
1点ですけれども、最後のところで、債務残高が増えていったところで消費が増えるか減るかと。そこで、最後おっしゃったように、政府が政策に対してどれだけコミットしているかしてないか。それで消費に対する影響も違うだろう。とすると、政府がどれだけ、将来、デット対GDPに対しての政策的コミットメントをしているかしてないかというような要素は、渡辺さんの仕事では何らかの形で反映させているのですか。
〇渡辺教授
最後のところをもう一度お願いします。
〇田近委員
政府が債務管理に関して政策的なコミットメントをしているかしてないかというところは、渡辺さんの仕事で何らかの形で反映しようとしているのか、されているのかどうかということです。
〇渡辺教授
先ほどの、推計しましたという例の中ではそういうことは考えておりません。具体的に、実際にもあまりコミットした事例というのは日本についてはないわけですので、無視してもいいだろうと思ったわけです。
それで、もう一つ、ではコミットしたほうがいいのかどうかということを考えるためにシミュレーションのようなこともするわけですけれども、そういうのを見ますと、やはり明らかにコミットをして、それを信用してもらっている状況のほうがずうっと効果は、コストが発生するにしてもそのコストは小さくとどめることができるという結果が得られてます。
〇田近委員
だから、政策的にはこういう財政のところで、そうすると我々としては、これだけデットGDPの比率が大きくなってきて、そして政策的な、もし消費に対するポジティブな効果を期待したいとするならば、どういう形で政府がコミットメントすれば、それがマクロのメカニズムを通じて消費にトランスレートされるのか。個別のことはいろいろあると思います。年金改革で2004年の改革をしたので、もうこれで、要するに一定の保険料で見合いしか払わないのだと。それでスタビライズしたのだという言い方もあるし、個別の話はいろいろあるのですけれども、マクロの次元でどういう形のポリシーコミットメントがあればそれがポジティブに消費に働き得るのかという、そういうアイデアですけれども、そういうチャネルを聞きたい。
〇渡辺教授
財政の専門家ではないということを最初に申し上げた上で申し上げますけれども、非常に抽象的に言うとこういうことであります。政府が歳出の削減をするか、あるいは歳出削減をすることができるというアビリティがまずなければ、どんな話をしたってだれも信用しないわけで、できないことを言ったって信用しないわけであります。
それからもう一つ、アビリティと同時に実はもっと大事なのはウィルであります。つまり、そうすることを必ずやるのだという意思の強さでありまして、だから、可能であるということと、それからやるつもりが十分あるということを伝えるというのがここでのコミットメントということの意味でありまして、そういうものをしっかり伝えるケースと伝えないケースで考えたときに、伝えないケース、例えば歳出だけはするのだと。だけど、静かにやって、だれにもわからないように内緒でやるというのと、そうではなくて、今申し上げたアビリティとウィルをきちんと国民に対して説明して、それでコミットするというのを比べると、明らかに後者のほうが消費に与えるいい影響が大きくなるというのがここでのメッセージです。
〇石会長
ありがとうございました。時間になりましたので、よろしゅうございますか。
今日は大変いろいろお教えいただきました。持田さんはお帰りのようでございますが、お二人の先生、どうもありがとうございました。我々、これから勉強させていただきます。それでは、どうぞお引き取りください。あと身内の連絡事項ですから。お忙しいところを大変ありがとうございました。
年明けから今日の会合まではいわゆる一種の勉強会でありますが、これで社会保障改革をはじめとする諸改革や、財政全般についての一通りのヒアリングを終えまして、主要な事項につきまして論点が明確になってきたと思います。これをまとめるとか評価するとかいう話ではございませんので、各自で十分にそしゃくしていただきたいと思います。
あとの今後の予定でございますが、5月に入りまして、これから少し個別の税につきまして、過去の答申等々も含めて再度議論を広げまして、どこに問題あるかということを議論していきたいと思います。そういう意味では、一種のまた勉強会的な二ュアンスがあるかもしれませんが、いずれにいたしましても、長い目で見て中期答申まとめなければいけませんので、それに対する準備を始めていきたいと思いますし、それから6月末に歳出・歳入一体改革のいわゆる選択肢も出てこようかと思いますので、大きな視点からの議論も必要になってくるかと思います。
そういう意味で、5月、6月、個別の税につきまして議論いたしますが、まずは、5月12日、金曜日、2時から4時まで、個人所得課税につきまして議論をいたしたいと思ってます。場所が合同庁舎の四号館になりますので、お間違えなきよう。この財務省の建物の裏側にございます、高速道路に面しているほうの建物でございます。そこで2時から4時まで開催いたします。ぜひご出席をいただきたいと思います。
では、今日はどうもありがとうございました。これにて散会いたしたいと思います。
〔閉会〕
(注)
本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。