基礎問題小委員会(第37回)後の石会長記者会見の模様
日時:平成17年5月27日(金)16:30~16:55
〇石会長
それでは、お手元に幾つか資料が回っていると思いますけれども、今日は個人所得課税、特に所得税と住民税につきまして、最後の総括的な議論をいたしました。そこで、メインになりますのは、個人所得課税をめぐる諸問題と個人住民税をめぐる諸問題で、「主要論点メモ」で国税が3ページ、それから地方税が2ページに分けまして丸が打ってございまして、これが今日、主として議論した論点でございます。その他に、バックデータとして資料が2冊出ておりまして、この説明を兼ねて、いったりきたり議論したと、こういうことでございます。したがいまして、これまで議論してきたことで、今日初めて出たというのは少なくて、従来やっておりますことについて、ここに出ておることでございます。繰り返しになりますので中身については触れませんが、ただ、幾つかの点で新しい資料が入っておりますので、後ほどご覧いただけたらと思っております。
それで、各々の、所得税、住民税につきまして、どこでわれわれ関心を持ち、どういう議論をしてきたかということだけかいつまんでご説明をいたします。最後のまとめの段階に入りましたので、そもそもわれわれは、この個人所得課税の改革をどういう視点でやるかという点をもう一回共通の物差しで議論したほうがいいだろうということをいたしました。考えますと、税収確保のために、何か増収策になるようなそういったパーツをいじればいいじゃないかという議論も極論すればあるじゃないかという議論から、そうはいっても、しかとした構造的なひずみ、ゆがみ、あるいは不公平、あるいは複雑なわけの分かっていないところを直すのが筋じゃないかと。当然そっちのほうでいくべきだと。ここでも申し上げたことがございますが、どういうことかといいますと、過去に減税を積み重ねてきた結果、個人所得税は構造的にずいぶんゆがんできていると思います。このゆがみの意味は、昨年、実像把握という形で、就労とか年齢とか家族だとか雇用とか、様々な経済社会の構造を切って、そことのミスマッチを指摘いたしました。したがって、それを直すということは、とりもなおさず個人所得課税に入り込んでおります様々な欠陥を是正するということですね。従来、減税の時にこういう欠陥を増幅してきましたから、今度は逆の視点から、この欠陥を修復することによって税収に結び付くと、結果としてですね。そういう視点こそとるべきではないかと、こういうことで意見は一致したと思います。
と同時に、先を見通しますと、新しい政策課題も出てきている。端的にいえば、少子化対策としての子育て支援、これを今後どうやるか。それから、給与の体系、退職の体系もずいぶんかわってきたと。特に退職についてどういう形でみるか。それから、家族とか世帯とかいうものが今後税制で何か優遇すべきことはあるのか。つまり、これまで片稼ぎを前提にしてきた家族の形態、少し時代に合わない。少しどころか大いに合わない。共稼ぎということになれば、配偶者特別控除等々、要らなくなるのではないかというような話ですね。それが第1点、大きな仕組みとして議論いたしました。
これに絡めまして、この主要な論点メモにも書いてあるんですが、再度また出てきた問題としては、課税単位をどうするかという議論ですね。ご存じのように、戦前は家族単位できていたわけで、世帯単位できたわけでありますが、シャウプ使節団が来てから、戦後は一貫して、原則として個人単位できました。それで今、今後の家族の在り方という点も踏まえ、この課税単位を見直すべきではないかという問題提起もございました。つまり、夫婦合算でやるのか、あるいはN分N乗でやるのかという形であります。これは資料に細かく出ておりますので、その点も、例えばフランスのN分N乗というのがどういう仕組みでやられているかというのは資料にかなり細かく出ておりますので、ご覧いただきたい。5ページに出ておりますが、具体的なやり方等々につきましても、こういう格好でやっているというのがご覧いただければ分かるかと思います。
ただ、個人の単位でやるのとこういう複数の単位でやるのは、利害得失がいっぱいあるわけですね。そのほかに年金とか医療とか等々も全部個人ベースになってきていて、今後、これを変えるということについてはかなり大きな変動を含みますので、慎重に考えなければいけないと。私の感じでは、特に学者のほうは、従来やってきた個人ベースをベースにして議論すべきではないかという形で多数になってきているかなと思っております。
それから、これとの絡みで、少子化対策、子育て支援で第3点目の論点としては、税額控除にすべきではないか。これは私もここで繰り返し議論をいたしてまいりました。ただ、税額控除にした場合、問題は、今ある児童手当の関連をどうするか。つまり、ある10万円なら10万円という子育て支援の税額控除を決めても、自分の払っている所得税が5万円しかないということになりますと、10万円与えていいのか、あるいは税額控除として自分は5万円しかないけど、残り、10マイナス5の5万円も払ってもいいんじゃないか。アメリカとか何かはそうやっているらしいんですが、そういう手当として払ってもいいんじゃないかという議論ですね。したがって、既にわが国では白紙の状態で税額控除化はできません。そういう意味で、既存の歳出面からやっております児童手当の関連をどうするか。今日改めてこの点の説明もあり、この点について税額控除と児童手当の組み合わせを、わが国のこれまでやってきました行政システムに乗っけてどうするかと議論も新しい問題点として提起されてきたということであります。これが第3点になりますかね。
それから、国税としてもう1つ問題になるのは、税源移譲した後の税率をどうするかということで、これも何度も出ていることでございますが、移譲後の例の5、10、13という地方税をいうなれば5は10にし、13は10にすると。ただ、そうなりますと、国税のほうもそれに応じて直さないと、いうなればばらつきが出てしまいますね。そこで、個人のばらつきを極力なくしましょうという条件でやった時に、13を10にした時に、この3は一体国税のなかで、例えば20のところに減った分だけ乗っけて23%という税率構造をつくるのか、あるいは30%を33%にするのかと。本格的にやるなら、極力そこまでいかなきゃいけないんですが、果たしてそういうことができるかどうかについての議論もいたしました。恐らくこれは、ある程度限度があるんじゃないかという議論でありますが、極力個人的な段階のばらつきを少なくしようという視点からいいますと、それに合わせる視点があるかなということであります。
あと、税率、最高税率をどうするかという議論もあって、再分配機能をどうしようかという議論、この議論も踏まえて、最高税率について、今日、改めてまた議論が出たわけであります。どれにしようかということまでいっていませんが、再分配機能も所得税改革の軸足として一体どこまで中核にするのかどうかの議論がございました。
それから、地方税のほうは、新しく論点メモをまとめてもらいましたので、この地方税関係を見ていただきますと6つの論点が出ております。大体これを軸にして文章化した主要論点メモという報告書がまとめられるのかなと考えております。一番多く議論いたしましたのは、地方税固有の税の性格として、いうなれば、税源の偏在性が少なく、かつ税収の安定性を備えたという意味で、かつ、国と地方の役割分担という視点からみて、地方税のよって立つ基盤は応益原則ではないかという議論ですね。応益原則というのは何かということでまたずいぶん議論もいたしました。それから、10%のフラット税率にすること、イコール応益になるのかという議論、あるいは、課税最低限というのを国税と地方税とどう考えるか。つまり、一緒になったっていいじゃないかということと、極力地方の課税最低限は下げる。つまり、地方税に含まれております所得控除はなくてもいいものも出てくるのではないかと。今、2~3万円しか違わないような仕組みで、大半のものが、所得税にあると地方税にあるという関係になっていますが、そういう必要もないんじゃないかという議論も出ました。
特に、生損保控除に代表されます政策税制ですね、地方税では、これはいらないんじゃないかという議論も多々出てきたところでありまして、今日の議論をみると、所得控除については国と地方とそう歩調を合わせることはないじゃないかと議論が多かったように思います。それから、なにぶんにも、これ前から言っているんですが、税源移譲が行われた暁には、地方税である住民税をしっかり、税務行政も含めて税収確保してくれないと、本来の地方分権という視点からの税源移譲という意味がないということですね。これを今日、再確認したということであります。と同時に、均等割ですね。主要な論点にも書いてありますが、均等割を上げたいという点も1つ議論になっておりまして、これについての資料が、個人所得税のほうで16ページ、住民一人当たり清掃費、警察費、消防費かかっているということと比べてどうだという議論もあって、これじゃまだ資料がずさんであって、もうちょっと揃えなくちゃいけないんじゃないかという議論もございました。
最後に、今日新しく出てきた論点として、公的年金等控除から所得税と介護保険料というのは、これは実は特別徴収されているんですね、源泉徴収ですね。住民税はその対象になっていない。ただ、徴収率向上というだけでもなくて、高齢者の納付の便宜を考えて、やっぱり住民税も源徴の対象になっていいんじゃないかということを今日改めて出されまして、この住民税の6つ目の、2ページ目の最後のメモに載っておりますが、これにつきましても議論があり、これについては賛成の方が多かったような気がいたします。
というわけで、一応今日2時間半ほどにわたりまして、主要な論点につきましてはほぼ議論を終了いたしました。6月7日、ちょっとこれから文章化するので時間が必要なので、来週は休みで再来週になりますが、6月7日には文章化した主要論点メモの報告書の案を議論したいと考えております。1時から3時、3時から5時というふうに2回、つまり非営利法人のほうと個人所得課税のほうと分けて議論をして、まとめていきたいと考えております。予定につきましては、お手元にある予定表で、この間もお配りいたしましたが、大体見ていただければと、このように考えております。私の個人的感じでは、非営利法人のほうはそれほど大きな食い違いもなくて、かつ基本的なスキームがしっかりしてきたので、あとはすっきりした形でまとめられるだろうと。所得税・住民税のほうは、何といいましても問題領域が非常に多いし、今回、すべてこっちの方向でいくよというふうに決め打ち的にするよりは、今回は幅広い視点から、今後、所得税をどういう方向にもっていったらいいかという含みで論点を整理したほうがかえっていいと思いますので、これはできる限り広範囲に目配りをして、主要な論点を整理したいと思います。この間も申し上げましたが、このなかから年度末改正、あるいは数年後の税制改正、とりわけ消費税率アップとの絡みが出てきた時に所得税をどうするかという視点もきわめて重要になってくると思いますので、その議論をしたいと、このように考えています。以上です。
〇記者
配偶者控除は、基本的に廃止の方向で確認したということでよろしいんでしょうか。
〇石会長
僕、何も言ってないじゃない、今。配偶者控除のことは。
〇記者
論点メモを見ますと、否定的な意見が多く並んでいるように見えるんですが。
〇石会長
ああ、このあれですか、2ページの[3]からですか。これは、今日は取り立てて配偶者控除ということのみを取り上げて、その存廃をめぐって議論はしておりません。ただ、ご承知のように、片稼ぎから共稼ぎという形で家族形態も変わったし、それから、個人の課税単位をとるならば、配偶者はくっついていますよね。ここで特に、パートで書いてあるのは、103万円の壁のところで、103万円の積み上げ計算は、38万円の基礎控除と、それから給与所得控除65万円で103万円でしょう。そうすると、奥さんのほうに基礎控除38万円使ったやつを乗っけて、その結果として亭主のほうも引いちゃうわけでしょう。だから、基礎控除が2度使われているというのはいかがなものかという問題の指摘があって、そういう意味では、結果として何か配偶者がいる家庭において何やら厳しいトーンになるかもしれませんが、2度使うことはないだろうと。それも含めて、2分2乗はどうなるとか幾つか出まして、その辺は主要な論点整理になると思います。
〇記者
少子化対策の控除なんですけれども、手当の議論とリンクさせるということになりますと、中間取りまとめでは児童控除が必要であるだとか、そこまで書き込めないのではないでしょうか。
〇石会長
実は、子育て支援につきましては、税調のメンバー、きわめて意欲的です。それで、かなり思い切ったことをやれと。思い切ったことの具体策はまだまとまってないんですけどね。その1つが、かねがね出てきている税額控除にしようということなんですが、ただ、児童手当というのが既にかなり普及してきて、これを全く共存共栄させるのか、それとも税額控除という形で1本化していくのか、それとも、さっき申し上げたように、税額控除は少ない。満たないところまで児童手当であげるのかということ。それから、そもそもが非課税の人に対して、税額控除化した時には、児童手当が全廃になっちゃったら、これは大変な問題になるだろうということがあって、急に税額控除というものを来年度からやるというところまでいけるかどうか、これは少し制度的に議論したいと考えています。つまり、児童手当のほうにかなり思い入れがあるという歳出構造の面もありますからね。これはちょっと、そういう意味では、一目散にいこうということについて、慎重に周りを見渡さなきゃいけないなということになったということですね。
〇記者
税率調整は、基本的に10%フラットというのをベースに考えるのかというのと、あと、論点メモにありませんけれども、税源移譲した時の負担が変化しないようにするという配慮のことというのは、どういう…。
〇石会長
ですからね、もう一人一人が所得税で減税された分だけ住民税増税ということは、まず不可能ですね。「極力」その負担のばらつきをなくすということをいいますけれども、「極力」の定義ですね。だから、10、20、30、40というふうに国税をすっきり10%きざみにするんだったら、税率だけいくら調整しても、個人的なばらつきはとることは無理ですよ。さっき言ったように、13%から10%になった住民税の軽減分は国税に乗っけるといったら、その制度では絶えず3%乗っけていかなきゃいけないわけでしょう。それから、5%から10%に住民税を上げたところの5%分は、所得税で必ず個人的なベースで5%下げなきゃいけないと。これも今言った、法定税率表のなかで読み込むのはきわめて難しい。しかし、今の姿勢としては、できる限りその辺を修正したいと言いつつ、やっぱり税率もそんな1%きざみで細かくはできないでしょう。だから、この辺ちょっと悩んでいるところです。したがって、まだどういう格好で最終的な税率刻みをするか。地方税の10というのは、ほぼ合意に達しています。逆にいって、所得税のほうをどうやって調整するかというのは悩ましい問題だということだけはお分かりいただけると思う。それでまだ、具体的な案としては出そろっていません。
〇記者
今のお話の全体のイメージですと、中間取りまとめというのは、改正の方向性があまりはっきり出ないで、賛否が…。
〇石会長
そんなことないよ。両論併記というよりは、選択肢を幾つか整理するという視点が重要だと思いますよ。今言った税額控除、子育て支援で。これは方向性としてみんな合意に達しているんだよ。ただ、問題は、児童手当の絡みでどうするかというあたりで選択肢が2つも出てくる可能性がある。そういう視点ですよ、一例を挙げればね。税源移譲についても極力ばらつきをなくした時に、そこを具体的に、今言ったどこまで国税でやるか。これはまだ税源移譲の額が決まっていませんからはっきりしませんけどね、まあ、税率刻みを細かくやれというのか、それともある程度で見切りをつけるかというあたりの選択肢を出すぐらいのことはできますよ。方向は出せると思っています。それほど腰抜けてないよ。(笑)
〇記者
子育て支援の関係の税額控除ですか、これは、税額控除をするということではおおむねみんな意見が一致したけれども、オプションを幾つか示して今後議論していくということですね。その場合に、それは来年度改正というところを目指しているのか、まだ中長期的なイメージなのか、それはどちらですか。
〇石会長
それは、秋になってみないと分からないですね。つまり、今、内閣挙げて子育て対策、あるいは支援に取り組んでいるでしょう。税制もその一環として浮上してくる可能性は十分ありますよね。だから、税もやる、児童手当もやると。既存の児童手当の既得権益を侵さないなんていう話になれば、税だけのことを考えればいい。ところが、片や財源問題がありますからね、税で財源を使うんだったら、歳入面で少し調整してもいいんじゃないかという議論が当然出てきますね。これは僕は、秋の議論次第だと思っていますね。ただ、税源移譲ということを一応念頭に置いてありますので、その方向でできる限りの議論をしたいと、実現の方向でね。そう思っています。
〇記者
1つは、先程の税源移譲の話なんですけれども、ここに書いてある所得税の税率の刻みを減らしてきたと。論点メモの3ページですね、今、税率区分というのは4段階になっていますけれども、税調として簡素な所得税の税率区分が今後望ましいという方向性で税源移譲にあたっても臨むのか。それとも、先程おっしゃった、複雑なやつは難しいと先生おっしゃいましたけれども、そことの議論の整理というのはいかがですか。
〇石会長
僕は、個人的には、簡素というのが1つの大きな要請項目だと思ってますからね。まあ、せいぜい10%刻みぐらいで、ブラケットも出してね、そうなると、今言ったできるだけばらつきを云々というところについては若干の妥協、調整しなきゃいけないかと思いますけどね。やっぱり税体系、税率としてすっきりした形にするというのも一つの要請だと思いますよ。そっちの方向で議論がいくかどうか分かりませんけど、私は個人的にそう思っていますけどね。
〇記者
それに関連してなんですけれども、先生がこの会見でおっしゃったかどうか記憶にないんですが、10%の税率以外に新しい5%、つまり住民税を上げた分、所得税を下げる、5%という新しい税率区分についてはどうお考えですか。
〇石会長
結局、今回の税源移譲というものに伴って、恒久的な税源移譲というのは、事実そういううたい文句ですからね。ただ、どう考えたって、国税も地方税も、移した後、10年も20年も僕はもたないと思いますよ。なにぶんにも国の財政事情、地方の財政は悪いんでね。したがって、例えば2年とか3年とか、時限的に区切って、例えば10%の下限を今回の税源移譲に伴って5%にするといったようなことはあり得るし、そうしないとまた、今回の国税、地方税合わせての税負担のバランスはとれませんね。だって、5%の住民税を10%に上げたら、その見返りとして、10%の所得税を5%に下げない限り、そこに属している人というのはバランスが均衡されないでしょう。だから、どう考えたってそれは必要なんですよ。ただ、それがいつまで続くか等々は、今後の財政運営、あるいは税制改革の話だろうと思っていますが、私は個人的には、そんな長い間、5%をくつけたままの所得税体系で必要な税収が確保できるとは思わないし、あるいは、いろんな形のあるべき税制からの視点で、所得税の姿がいいとは思わない。と思いますけどね、分かりません、これは。ただ、ずっとエンドレスにそれが続くわけではないと考えています。
(以上)