第41回総会・第50回基礎問題小委員会合同会議 議事録
平成18年3月28日開催
〇石会長
それでは、時間になりました。おはようございます。ご多用のところをお集まりいただきまして、ありがとうございました。急遽、今日の開催日を変更いたしまして、申し訳ございませんでした。実は、今日ご報告いたしますような一連の資料の発表時期等々で、少し変更を余儀なくされたという形で、今日午後ではなくて午前中にいたしました。これまた申し訳ございません。
昨日、財政制度等審議会の「財政の長期試算」が公表されました。これは我々の議論にとっても非常に重要なものでありますので、今日は、主計局調査課長の岡本さんに来ていただきまして、直々にその内容をご説明いただきます。
後半のほうで、内閣府の経済社会総合研究所の林さんに来ていただきまして、諸外国でどのような形で財政再建を進めているか、つまり、財政政策のルールにつきましてご説明いただくことになっております。パワーポイントを使う関係上、今日はちょっと配席が違っておりますが、あとでまた、この辺もゆっくりお伺いしたいと思います。
それでは岡本さん、お忙しいところをどうもありがとうございました。ご説明をいただけますか。
〇岡本主計局調査課長
主計局調査課長の岡本でございます。よろしくお願いいたします。
それでは私から、お手元の資料「総41-1」と「総41-2」、この二つにつきましてご説明させていただきます。
こちらの資料は、財政審の「財政の長期試算」というもので、実は、本日ご出席の田近先生をはじめ財審の起草委員の皆様方に、「長期試算」というものを昨年、一昨年と出していただいております。
資料のまず1ページをお開きいただきたいと思いますが、昨年も出しておりました中期的な展望について、まず財務大臣から、本年2月の財政審において検討のご要請をいたしまして、その後、経済財政諮問会議におきまして二つの指示がございました。一つが、人件費改革、政府資産・債務改革、あるいは特別会計改革といった、小泉内閣においてこれまで行ってきている改革、また、既に決定をしてこれから実行していく改革、これは財政にどういった成果を目指しているのか、こういったものをきちんと織り込んでもらいたいと。
それと、仮に歳出削減のみで財政健全化を実現しようとした場合に、どのようなことを行う必要があるのか、あるいは、それが国民生活にどのような影響が生じるのかということについても示してもらいたいというご指示が、財務大臣に対してありましたので、財務大臣から、財政審において検討を行っておりました財政の中期展望、長期試算において、併せてこの検討をお願いしたというものでございます。それを受けて、先般、3月15日に起草委員から財政審の場に提示いたしまして、一度議論いただいた上で、昨日、公表をしたという資料でございます。
構成といたしましては、この1ページの下に書いておりますが、まず、国の一般会計に係る長期試算、それと、それを歳出削減のみで対応した場合の仮定計算、大きくこの二つに分かれております。
以下、ご説明をさせていただきます。
2ページでございますが、まず、長期試算を行うに際しての種々の前提です。なお、ここでは2010年代初頭ということで、2011年度の一般会計の姿、及び2015年度及び2025年度の国の一般会計の姿を示すということで、これは一定の前提を置いたマクロモデルを使った計算ではございませんで、機械的に試算したものでございます。
まず、経済前提でございます。これは現在、経済財政諮問会議で行われております議論を踏まえまして、成長率と金利につきまして、ここに書いておりますように複数の前提を置いて試算をするということでやっております。
また、歳出・歳入の前提でございますが、基本的には現行の制度がこのまま続いた場合を前提としております。社会保障につきましては、厚生労働省「見通し」、これを踏まえまして、上に掲げておりますように、名目経済成長率を幾つか前提で置いておりますので、その点を調整する。
ただ、今回の医療改革が今後どのような効果を及ぼすのかといった点につきましては、歳出削減効果を織り込む。介護についても2006年度の診療報酬改定の効果を織り込む。
また、基礎年金の国庫負担割合につきましては、法律にのっとりまして、2009年度までにということになっておりますので、2009年度に2分の1に引き上げるということで歳出にのせてございます。
その他の一般歳出につきましては、基本的には今のGDPに占める割合が変わらないということで、名目経済成長率で延伸をする。
人件費につきましては、人件費改革の効果を織り込んだ上でその圧縮効果を織り込むという形にしております。
地方交付税でございますが、これも国の歳出・歳入と同じ考え方で、経済成長率等の経済指標と弾性値を用いて歳出・歳入を出す。その足らず米で必要な交付税額がどれだけになっているのかということを示すことにしております。
なお、交付税特会の借入金の元本償還につきましては、これも法律にのっとった措置を前提としてここに入れているということでございます。
国債費につきましては、後ほど申し上げます、政府資産・債務改革、特別会計改革によりまして、これを普通国債残高の縮減に充てるという考え方をとっておりますので、それに伴いまして債務償還費や利払費が縮減されるという将来の効果を織り込むことにしております。
税収につきましては、経済成長率に弾性値1.1を用いて推計する。
なお、先ほど申し上げた基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引上げ、これは法律に書いてあるとおり、税制の抜本的な改革を行った上で実施するという法律の文言を踏まえまして、歳出にのせると同時に2009年度以降の税収にその必要額を加算するという形にしております。
その他収入につきましては、名目成長率で延伸いたしますが、今後、行うこととしています政府資産・債務改革等による税外収入の増加をのせているということでございます。
4ページに、具体的にどのような改革の成果を織り込んでいるかというものを整理してございます。
まず、郵政民営化でございます。民営化に伴いまして、19年度以降、法人税収等が入ってくることが見込まれておりまして、これは既に対外的に示されているものがございます。主に20年度以降、3,000億円程度の法人税収等が見込まれるとの試算が出されておりますので、それを税収にのせる。また郵政の株式の売却、これは5兆円程度でございますが、これを今の資産価値で評価した数字でのせて、これはいつ幾らで売れるかというのはもちろんこれからでございますけれども、一定の仮定のもとにその売却を見込んだ上で、それを国債残高の圧縮につなげるという形にしております。
歳出改革につきましては、先ほど申し上げた社会保障制度改革の効果を織り込むのと、あと、公務員の総人件費改革。これも、2006年度から5年間で定員を5%純減させることになっており、以降の予算の人件費の圧縮という形でその効果を織り込んでおります。
(3)の政府資産・債務改革でございます。もちろん、基本的には国の資産の売却・縮減をできる限りやって、財政健全化に少しでも寄与するというのが財政審においても基本的なスタンスでございます。
ただ、その中身といたしましては、例えば売却・縮減という対象となる国の資産について、例えば財政融資資金貸付金のように、これは売却をしたり縮減をした場合でも、見合いの負債の財投債が減少するだけでございます。これは通常の普通国債とは別でございますので、貸付金を縮減させてもいわゆる普通国債の圧縮にはなりません。ですから、利払費の軽減にもこれ自体はつながらないということになります。
また、証券化とかリースバック、こういったことも検討を進めることにしておりますが、これについても実際に行ったところでも後年度負担の問題がありますので、財源という形での資産にはならないという形で峻別しております。
そういった上で、では歳出・歳入一体改革に寄与するものは何かという関連から、財政再建の効果を具体化するということで、今回、理財局のほうから発表されましたのが、今後10年間で約11.5兆円の政府の資産売却を行うというものでございます。
具体的には、このうち民営化法人に対する出資の売却で8.4兆円がございます。このうちの5兆円が先ほどの郵政の民営化に伴うものでございます。
そのほかに、2.1兆円の今後の国有地の売却を見込んでおりまして、加えて、例えば一般庁舎ですとか公務員宿舎について、現在、非効率に使われているものについてはその効率化を図った上で売却していくものを、約1兆円見込むといったようなものも含まれております。
ただ、この11.5兆円は、今申し上げましたように大半が株式の売却でございます。これらは次の5ページですが、あくまで一時的な財源ということになりますので、こういったストックの売却による一時的な財源は、原則としてストックの縮減に活用するという考え方で、債務残高の縮減に充てるということで、それを通じて将来の国債費が縮減されるというフローの効果を見込んでいるということでございます。
なお、国有地の売却収入等につきましては、従来から税外収入に計上しておりますので、これらは、今後見込まれる税外収入の増という形で見込んでいるということでございます。
特別会計改革につきましても、既にこちらでもご報告させていただいていると思いますが、全体の改革を行う中で、今回の行政改革の中で約20兆円程度の財政健全化への貢献を目指すとされております。これについては2006年度予算におきまして、このうち13.8兆円を措置をする。なお、このうちの12兆円が、財政融資資金特別会計の金利変動準備金の縮減、これによりまして国債残高を縮減しております。
その他、1.8兆円といいますのは、各特別会計の剰余金を見直して、それを一般会計に戻してもらうとか、あるいは、できるだけ税外収入を確保するといった努力がこの2006年度予算に行われているわけであります。
残り6兆円強を今後やっていくということで、具体的に何をやるかというのは、今後、予算編成の段階で各特別会計をさらに洗い直しをしながら進めていくという形になりますが、同じくストックを減らせるものにはストックに充てる、フローを増やせるものにはフローに充てるということで、これも法律で決まっている数字でございますので、この効果も今回の試算には織り込むという形にしております。
以上、行いました結果が6ページに掲げてありますと同時に、もう一つ、資料「総41-2」の1ページ目をお開きいただきたいと思います。今申し上げました複数の前提でやった試算結果として、まず、プライマリーバランスの対GDP比と国債残高のGDP比の全体の姿、数字をここに示しております。
まずPBですが、ここでは、例えば成長率の違いによってPBに大きな違いが生じておりません。これは税収増がもちろんあるわけですけれども、一方で、成長率が上がることに伴いまして、例えば社会保障などはほぼ成長率に連動する、あるいは、それ以上の伸びをしているのが現状でございます。ほかの歳出も、先ほど申し上げました現在のGDPに占める規模、現行の制度を前提にしたベースラインを置いてみるという考え方で置いておりますので、歳出も増えるということで、ここでPBに大きな違いは生じない。
また、ご覧のとおり、金利につきましては利払費がPBに含まれませんので、これも大きな違いは生じないということで、ここでは2011年度のPB(GDP比)を示しておりますが、金利成長率の違いというのはここでは大きな違いはないということでございます。
一方で、右側の国債残高のGDP比でご覧いただきますと、当然のことながら、金利が上がれば利払費が増える、成長率が上がりますとGDPが大きくなりますので、分母のGDPが大きくなることによって債務残高対GDP比が小さくなるという形になっております。金利と成長率の議論というのは諮問会議でもずいぶん行われておりますけれども、これは、国債残高のGDP比をどう見るかというところで大きな影響があるということでございます。
資料2は、それをグラフで示しているものでございます。これは、すべて金利を4%というふうに置いた場合に、成長率が2%ないし3%、4%となった場合に、債務残高対GDP比の姿にこのような違いがあるということでございます。
3ページに、より詳細な試算の結果を掲げております。ここでは、成長率が3%、金利が4%のケースと、金利は同じく4%ですが、成長率が4%のケース、この二つのケースを3ページと4ページに掲げております。
3ページをご覧いただきますと、現在、一般会計のPBの赤字は11.2兆円あるわけですが、これが2011年には13.1兆円、2015年には16.9兆円、2025年には26.5兆円。歳出も税収も基本的にはGDPに連動して、むしろ税収は弾性値1.1の分、より増加があるわけですけれども、社会保障がそれを上回って伸びるということがここに反映してきて、現状のままで推移すると、このようにより悪化していく。それに伴いまして債務残高も、下に掲げてありますように発散していくという姿になっております。
なお、先ほど前提のところで申し上げましたように、2011年度以降の税収の中には、基礎年金国庫負担の引上げに伴う所要の財源を加えてございます。税収、2011年度でご覧いただきますと、62.4兆円の下のカギカッコ、うち2.8兆円というのがそれに当たります。それを加えたところで、まだこの税制改革は行われていないわけですから、歳出がのっかって、今後、それも含めた税の措置が必要ということで考えますと、13.1兆円のPBのところは、下のカッコに掲げています15.9兆円という姿になるわけでございます。
次のページは成長率4%のケースでございます。最初のマトリックスでもご覧いただきましたように、例えば2011年度、2015年度のPBの数字をご覧いただきますと、3ページの成長率3%のときと比べてほとんど違いがございません。もちろん成長率が上がっている分、GDP比は若干小さくなっておりますけれども、大きな影響がないというのは先ほど申し上げたとおりでございます。一方で、債務残高のGDP比は分母が大きくなる分、先ほどよりは大きく改善している、こういった姿になっているわけでございます。
次に資料8ページをお開きいただきたいと思います。今申し上げたことを踏まえて、今後の検討の方向性をまとめているのがこの8ページでございます。
まず、政府においては、2010年代初頭の国・地方を合わせたPBの均衡を目指す。これは確実に実現することが必要です。ただ、それにとどまらず、中長期的な財政の運営の信認をいかに維持するかということが重要で、3つ目のマルのところですけれども、下から2行目、国債残高のGDP比を安定的に低下させていくことが必要であろう、そのためには一定のPBの黒字幅の確保が必要。
また、4つ目のマルですけれども、現在、国・地方それぞれの財政状況を踏まえて、国・地方合わせた財政健全化の目標だけではなく、国においても国債残高のGDP比がきちんと下がっていく姿にならないと、財政健全化ということにはならないのではないか。そういったものをきちんと示すべきであるということがここで述べられております。
4つ目で、では、一定のPBの黒字幅というのはどのように考えるか。国債残高のGDP比は今、概ね100%でございますけれども、その場合、金利と成長率がイコールであれば、債務残高対GDP比の発散をさせないという必要な水準は、ここに掲げられているように0%。金利が1%上回れば1%の黒字が必要、2%上回れば2%の黒字が必要ということになるわけでございます。
ここで、金利と成長率の関係をどう考えるかということが大きな議論になっているわけでございます。
9ページでございます。財政審では、これまで行われた議論の中で金利と成長率の関係につきましては、金融市場の自由化が行われた以降、1980年代以降の関係で見ると、金利が成長率を概ね1%程度上回っていることを踏まえた堅実な見通しを前提とすべきではないか、という考え方に立っております。
そこで二つ目のマルでございますけれども、金利が成長率を1%程度上回ることを見込んだ上でも、国債残高対GDP比がきちんと下がっていく水準を目指すべきである。なおかつ90年代以降で見ますと、平均で1.5%程度上回っているわけですが、仮にこのような状態になったとしても、国債残高対GDP比が発散しない、そのままの水準で維持することを目指すべきではないか。
そういうことからすると、国においてGDP比1.5%程度のPBの黒字幅が必要という前提をここでは置いております。なお、言うまでもないことですが、PBが黒字といっても、国の財政収支は依然赤字であるのは当然のことでございます。
その関係をグラフで示したのが次の10ページでございます。ここで、先ほどの成長率3%と金利4%のケースと、同じく金利は4%ですが、成長率が4%のケースを示しております。
一番上はベースラインでございますけれども、以下におきましては、2011年度にPBの均衡は達成したとして、以降、PBの黒字をどの程度に置くかによって債務残高対GDP比がどのように推移するか。例えばこの点線の部分ですが、2011年度以降、PBが±0%を維持したとすれば、この前提のもとでは依然これが発散を続けていく。PBの黒字が1%程度であると、ほぼ横ばいで推移する。1.5%程度の黒字になってこれがようやく下がってくる。
なお、財政審における議論では、たしかにこの前提は一つの考え方だけれども、これで2025年度にやっと今の水準に戻るだけなのか、この程度の目標でいいのか、というご指摘もございましたが、今回の財政審の試算では1.5%の黒字を前提に置いております。
なお、下が成長率4%になったケースでございます。この場合は、PBが0%であれば横ばいで推移する。1%、1.5%と黒字幅が大きくなっていくと、これが安定的に下がっていくという形になっております。
ただ、ここではいずれにしましても財政を見る上での見通しとしては堅実な見通しを置いた上で、もちろん経済運営をしっかりしていく上で、金利と成長率の開差がその見通しよりも小さいということになれば、それはよりベターなわけでございます。その場合は、下の図のように、財政の健全化がよりスピードアップをするという考え方を置くのがここでの基本的な考え方でございます。
今の考え方を置きまして、11ページ以降に、最初に申し上げました歳出削減のみで対応した場合の仮定計算を載せてございます。資料の5ページとあわせてお開きいただきたいと思います。財政審におきましては、堅実な見通しということで、まずは成長率3%、金利4%という前提を用いた試算結果を行うことにしております。
ここでは二つの仮定計算を行っております。仮定計算[1]というのが11ページの下に書いておりますが、先ほど申し上げた2011年度のPBの赤字をまず解消する。加えて、2015年度に一定のPBの黒字、先ほど申し上げた1.5%程度の黒字を実現する。この二つのことを、仮に歳出削減だけでやればどうなるかということを仮定計算で行うわけですが、まず仮定計算[1]では、その必要な歳出削減を国債費を除くすべての歳出で、同じ削減率で一律に削減するということを仮定しております。
そういたしますと、資料5でご覧いただくとよろしいかと思いますが、2011年度のPBの赤字13.1兆円を解消するためには、社会保障を含むすべての歳出を一律18%削減するということを意味しております。右側の2015年度におきましては、PBの赤字がこの段階で16.9兆円ございます。加えて、GDP比1.5%の黒字がこのときのGDPにおきまして約10兆円となっておりますので、これをのせた26.9兆円、これを仮にすべて歳出削減でやってみるという機械計算を行ってみますと、32%の削減に相当する形になります。
真ん中の表に書いてありますのは、GDPがずっと伸びてきておりますので数字の母体が変わっております。これを2006年度予算でイメージしていただくために、2006年度の名目GDPベースで割り戻した表示を真ん中で行っております。具体的には、一番上に書いておりますのは、2006年度予算で国債費を除く歳出が60.9兆円あります。これがベースラインでは75.4兆円にまでなっている。これを13.1兆円削減しますと、62.4兆円の予算になる。これは18%カットということでありますが、これを2006年度の名目GDPベースで置いた数字が下のようになっているということでございます。例えば社会保障でいきますと、今、20.6兆円の予算が、2006年度の同じGDP換算で20.2兆円という姿になります。
ただ、この数字だけではなかなかイメージがわきにくいものですから、これをやったとすると、それぞれどのような姿になるかというのを示したのが下の表でございます。
例えば医療におきましては、現在、若い方3割、老人の方1割といった自己負担、これを機械的にやりますと、約2倍に引き上げるという姿になります。介護でいきますと、2.5倍に引き上げる、年金の支給開始年齢でいきますと、4歳引き上げる。また、児童手当の関係でいきますと、今回6年生以下に引き上げたものが、4年生までにまた引下げになるという形になります。
これが右側になりますと、より削減幅が大きくなりますので、その姿はより厳しいものになるというのはここにお示ししているとおりでございます。これが、すべての経費を一律にカットした場合でございます。
次に、仮定計算[2]というのを行っております。12ページの資料と資料6をお開きいただきたいと思います。
今申し上げましたように、社会保障、交付税といったものを含めまして、すべて一律というのも機械的すぎるわけですから、社会保障、地方交付税、人件費といったような、大きなかたまりで制度的な前提があるものにつきましては、一定の歳出削減の前提を置いてみようという形で置いたのが仮定計算[2]でございます。
具体的には、「歳出削減の仮定」というふうに字体がちょっと小さくなっているところに書いておりますけれども、社会保障につきましては、名目経済成長率並みの伸びまでに抑制する。もちろん、先ほどのカットよりは増えるわけですけれども、これを名目経済成長率並みに抑制する。
地方交付税は、例えば給与につきまして、これは国の人件費も同じような前提を置きますけれども、現在、5年間の人件費の改革が予定されていますけれども、それ以降も同程度の努力を続けていくという前提を置く。それ以外の歳出につきましては、これまでの5年間における平均の名目削減率が2.5%。ただ、この期間の成長率が0.9%ございますので、これを加味した実質的な削減、3.4%という努力を、今後、仮に続けていったという前提を置くということで見ております。
また、13ページでございます。以上の地方歳出を踏まえまして、現在、2006年度において地方のPBが対GDP比0.5%程度の黒字であることを踏まえまして、2011年度、要するに国が赤字から黒字化するまではそこで待っておいていただくというか、0.5%程度の黒字を確保・維持してもらう。そのあと2015年度に向けて、国も一定のPBの黒字化を目指していきますので、2015年度において0.5%程度さらに改善する。1%程度の黒字幅の確保を前提として、必要な交付税額を算定するという形で置いています。
人件費につきましては、国においてこれから5年間の取組みと同じような努力を行っていく。定員の純減は何%かどうかというのは別として、少なくとも人件費の削減効果として同程度の努力を行っていくことを前提に置いています。
それで置いてみたものが、資料6をご覧いただきたいと思います。それをいたしますと、社会保障につきましては、真ん中の箱に書いてありますが、先ほどの姿に比べるとだいぶ違いが出てきます。もちろん、経済成長率並みに抑制することにつきましては、これまでも大変大きな議論がありますが、仮にこれに置いてみる。また地方財政につきましても、先ほど申し上げた前提で置いてみますと、この箱のところに書いておりますが、必要な地方歳出の額がこのような姿になりまして、このときの一般会計歳出の地方交付税につきましては、現行の地方交付税の法定率で算出した額を若干下回る額になるというところまで、ここは削減した姿が上に掲げられております。
ただ、いずれも先ほどの18%カットよりは少し戻ります。そうしますと、残りの歳出カット部分を公共事業以下、ほかの歳出ですべてカットすることになりますと、それらの経費を一律で42%削減するということを意味いたします。
2015年度におきましても今と同じような前提を置いてやりますと、社会保障がさらに大きくなってきているということもございまして、その他歳出の削減が、約7割の削減が必要だという姿になるわけでございます。
ここの姿を個別にみたのが資料7でございます。その他歳出において約4割、あるいは2015年度でいきますと7割という削減になりますと、例えば公共事業で見ますと、2006年度の予算のベースで維持更新に必要な経費が約2.3兆円と見込まれております。そうしますと、2011年度においてはもちろんこれは賄えますが、その他の経費がかなり圧縮されてきて、いろいろな事業の中止が必要になる。2015年度になりますと、これはほぼ維持更新の経費のみになるということになります。
防衛につきましても、物件費等々が今より約6割あるいは3割の水準になるわけですから、いろいろな武器等がありましても、それを動かすための経費がないという姿になってしまうということでございます。
教育につきましては、例えば国立大学の運営費交付金を同じようにカットした場合に、それを仮に授業料という形で反映してみたというふうに置いてみますと、2011年度に2.7 倍、2015年度には3.8倍。私学助成も、当然、今より6割、3割の水準まで減額されるというものでございます。
科学技術につきましては、これまで重点的な予算配分によりまして、対GDP比がほぼ近年の諸外国の水準に近づいてきているわけですが、これが0.4%、0.2%程度にまで下落する。
ODAにつきましても、仮にこの程度の規模になりますと、二国間の支援を2015年度の段階ではゼロとする事態に相当する程度の予算の規模になる。
治安の面におきましては、例えば矯正施設に収容できない者が2011年度にはこのような数字にある、あるいは不法残留者数が増えてしまう。あるいは、警察車両の更新が仮にできなくなってしまった場合に、その老朽化も合わせまして、レスポンスタイムというもので見た場合に、これは大幅に増えてしまうといったような姿をあわせてここでお示ししてございます。
なお、これは4割、7割というふうになっておりますが、あくまでこれは歳出全体として2011年度には2割の削減、2015年度には3割の削減を機械的に行うと、このような姿になるというものを示しております。
14ページをお開きいただきたいと思います。財政審の長期試算におきましては、これまでも、歳出すべてでやった場合にどうなるか、それをすべて歳入増で行った場合どうなるかというのをあわせて提示しておりましたので、今回もそこを参考にここに掲げております。仮に今の要対応額をすべて歳入増で賄った場合には、2011年度には27%、2015年度には45%程度の税収の増加が必要。
ただ、それを消費税率に機械的に換算いたしますと、2011年度は6%程度の引上げ、2015年度は11%程度の税率の引上げに相当します。
なお、ここで一定の前提がございまして、消費税率の換算にあたりましては、消費税率の引上げに伴いまして国の歳出に転嫁されてくる分がございます。それを勘案した純税収ベースというものを用いております。これは2006年度・消費税率1%当たり2.6兆円のところが、ここの計算では2.2兆円と。
なおこの考え方は、以前、消費税率を3%から5%に引き上げるときに、この政府税調の議論においてもこのような考え方で検討されていたことを踏まえてのものでございます。
また、上の消費税率換算は、国・地方のそういった配分割合はここでは一たん捨象いたしまして、すべて国の一般会計に配分すると仮置きしております。もちろん、現在の国・地方の配分割合は56:44ですので、仮にこれを機械的に当てはめますと、今の引上げ幅が2011年度は10%程度、2015年度は17%程度の税率引上げに相当するということでございます。
最後のページでございます。これは「まとめ」でございますが、歳出削減だけでやった姿といいますのは、当然のことながら、機械的にとはいえ非常に厳しい姿になるわけでございます。こうしたことで、例えば国民生活に必要な行政サービスの水準とか、そもそも国家の機能が果たせなくなるのではないかということがあるわけでございまして、いずれにしても、歳出・歳入両面からの改革が必要であることは言うまでもないことでございます。
なお、財政審におきましては、今回、起草委員からこういった参考の資料を提示いただいたわけですけれども、4月以降の審議におきましては、引き続き、各歳出分野ごとにどこまで削減合理化が考えられるのかということを、さらに検討していただくこととしているところでございます。
すみません。時間がちょっと超えましたが、説明は以上でございます。
〇石会長
ありがとうございました。大変こみ入った内容を手際よくご説明いただいたと思います。岡本さんには、11時頃までお時間があるということですので、これから質疑に入りますが、その前に、昨日11時から財政審の委員と税調の委員が数名ずつ出揃いまして、合同でこの財政の長期試算について議論をいたしました。私のほかに、税調側から奥野さん、河野さん、水野さん、宮島さん。また、財政審の委員として向こう側から来られた、岩さん、田近さんも税調の委員なものですから、税調からは計7人ほど出てこの議論をいたしました。
専門家から見れば当然の結果だということでしょうが、これを国民にどういう形で伝えるかというあたりが一番大きな問題ではないか、このように我々の意見も一致いたしました。つまり、歳出カットも痛みは伴うということを、機械的計算ではありますが、具体的に示していただいたということにおいて一定の評価をしたわけであります。
ただ、これは単なる検討の段階でありますから、これをいかに実際の予算編成等に移していくかというあたりがポイントではないかということにつきまして、今、岡本さんからもご説明がございましたから、主計局もこれからしっかりやっていくということであります。
あと追加的には、こういう議論が出ても、結果的に高所得者層のほうが負担すればいいではないかということが出てきかねないので、受益・負担合わせた所得再分配上の姿が必要ではないかということにつきまして懸念も出ました。また、総じて昨日の専門家集団の意見は、これからがチャンスではないかと。つまり財政事情は厳しいが、景気がよくなってきたし、あるいは、金融システムもかなり補強された。そういう意味でこれから議論をどんどん進めていかなければいけないけれども、やはり国民に対してどう納得してもらうかというあたりが議論としては重要であるという形で話は終わりました。
それでは、今の岡本さんのご説明につきまして、ご質問なりご意見なり。我々としても歳出カット、歳出カットと言っていたのですが、具体的に、数字になってくるとこのくらいだという話が出てきたわけでございます。これにつきましてもいろいろなご感想をお持ちと思いますので、岡本さんがいる間に確かめておきたいことは直接ご質問ください。
どうぞ、川北さん。
〇川北委員
実はここ1、2年、この種の「資料5」のような仮定計算が幾つか出てきていると思います。それ以前にも出ていたと思いますが、例えば一昨年の秋に富田さんが出された試算だとか、あるいは去年の5月か6月頃でしたか、ちょっと忘れましたが、やはり財政審でこの種の資料が出てきたと思うのですが、それに出てきた数字と比べて、今回出たものはどの辺がどういうふうに違うのか。相違点を簡単に教えていただけますか。
〇石会長
では、お願いします。
〇岡本主計局調査課長
今ご指摘ありましたように、一昨年に同じような形で、2015年、2025年の一般会計の姿がどうなるかというものが示されております。昨年も同じでございますが、それに加えまして、社会保障の負担をどのように考えるのかというものをあわせて示したのが昨年の春の試算でございます。昨年、一昨年、基本的に手法を同じにやっているのですが、いずれも、そのときの足元の予算をスタート台にして機械的に成長率等を使って伸ばす。あるいは、社会保障につきましては厚労省の見通しを踏まえて伸ばすという形でやっているところの基本は同じでございます。
ただ今回、先ほど申し上げましたように、既に改革が決まっているものにつきましては、例えば足元の2006年度予算には必ずしもそこは出てきていないわけですけれども、2007年度以降、その効果が発現するものについてはきちんと織り込んだ。ですから、ただ足元から伸ばしていくよりも、例えば税収が増えている、税外収入が増えている、歳出が抑えられているといったことで、いわゆるプライマリーバランスの赤字幅はおそらく昨年やっていたよりも少し縮まっている。改革の効果によって縮まっているというところが一番大きな違いであると思います。
〇石会長
2006年段階で考え得る諸改革を全部盛り込んだということですね。
どうぞ、島田さん。
〇島田委員
質問が1つと、感想が1つです。消費税の配分割合、56:44というのは、結果としてそういうことになるのだと思いますけれども、どういうことでそういうことになるのか教えていただきたいと思います。
もう一つは感想ですけれども、一般歳出の中身の中で最大の項目領域は社会保障ですね。40何%。高齢化が進みますから、これは多分もっと増大していくだろうと思います、このままでいきますと。そこで仮定計算[1]のところは、思い切って数字だけでざくっとやってみたということなのだと思いますけれども、今の制度をぎりぎり前提としてもそれは不可能ですから、ぎりぎり前提として仮定計算[2]のような格好になるわけですね。そうすると、ほかの歳出をものすごく削らなければならなくて、いろいろな不都合が出てくると。
ここから滲み出てくる姿は、一般のほかの歳出も徹底的に削る中で、社会保障についての考え方を根底から組み直さないと、例えば年金にしてもそうですけれども、現状の年金ですと、月給30万円もらった人が年金をもらうようにすると20万近くもらう。それは、1人の老人を4人の若者が支えるというのが前提になっているわけで、人口構造がピラミッド型で高度成長が続いているという前提でつくられた仕組みです。それから医療費などもそうですけれども、今の出来高払いの診療報酬の制度もどうしたって積み上がっていってしまうわけで、包括標準払いのように、合理的に行動するとおのずから医療費が削減されることが可能だというような仕組みをしっかり組み込まないといけませんね。
そういうことで社会保障のところが非常に大きいので、何か根本的な変革をそこでやらないと、試算[2]のようなことになってくるという感じがします。一体改革の中で本当にこれは手をつけていかなければいけない。小泉内閣も頑張ってやってこられましたけれども、そこのところはまだ手が入っていないです。頑張ってやっていただきたいなと思います。
〇石会長
前段のほう、事務局からご説明ください。
〇永長総務課長
国・地方合わせました消費税率は5%でございますが、これは4%の消費税と地方消費税の1%でございます。それに加えまして、国の4%分から29.5%が交付税として地方に回るということでございます。そういう意味では全体の20%と、80%の29.5%、これを足しますと約44になるということでございます。
〇石会長
二つのチャンネルから一旦集めたものを地方に配っている、こういうことでございます。
ほかにいかがでしょうか。
どうぞ、菊池さん。
〇菊池委員
ずいぶん細かくて緻密な計算を見せてもらって、ああ、そういうものかとは思うのですが、横の資料7ページ(総41-2資料「財審長期試算」)で見ると、そういうふうにやった結果、いろいろな仕事ができなくなるということらしいのですが、にもかかわらず、仕事をすることになっている公務員の人はそのままもらうものをもらっているという計算では、ちょっとおかしいのではないかなと思います。例えば「防衛」で、物件費がなくなる前に普通は人件費を削るのではないだろうかと思います。その辺は法定を前提にしているからできないのでしょうけれども、こういう仮定のもとで物事が進んだ場合、途中で、やはりこれは月給払っていられないぞという話になるわけですし、人も、減らすか増やすか、単価を安くするか、その辺の工夫は出てくるわけで、こんなに思うほど何もできなくなってしまうという世の中は来ないと思うのですが、どうでしょうか。
〇石会長
人件費は削るんですよ。
岡本さん、どうぞ。
〇岡本主計局調査課長
今ご指摘ありました点、例えば仮定計算[1]でいきますと、人件費も合わせて18%カットしておりますので、いわば人員を含めて2割いなくなっているという姿になります。仮定計算[2]のほうは、いま行っております人件費改革と同程度の改革を行うということですので、委員のご指摘ありましたように、例えば防衛費の姿ですと、3割、7割、自衛隊員がカットされているか、そういう姿にはなっていないというところはたしかにございます。ですから、ここはあくまで一定の仮定計算としてご覧いただきたいと思うのですが、各経費を具体的に考える場合、例えば国立大学の授業料につきましても、運営費交付金の減をすべて授業料引上げで対応することとしておりますので、実際にはこういったことを考える場合には、独立行政法人の中でのいろいろな努力があって、そこで吸収してもらうものがあるということも当然あり得るわけでございます。その辺は財政審におきましてもそういったご意見が出されております。
ただ、ここはあくまで一定の仮定を置いた姿ということでご覧いただいた上で、先ほど申しましたように、具体的、またそれぞれどのように考えていくかというのは、引き続き財政審においても議論をしていきたいというふうに考えております。
〇石会長
ただ、菊池さんのお話の延長上からいくと、給与の削り方が足りないという議論はたぶん残るでしょうね。
ほかにいかがでしょうか。
〇猪瀬委員
今の説明のところ、一つ前ですけれども、消費税の5%のうち1%は地方に行っていて残り4%になる。残り4%の消費税分の29.5%が地方に行っているということですが、この意味がちょっとよくわからない。消費税の中から行っているわけですか。
〇石会長
つまり、所得税、法人税、酒税、消費税、たばこ税、5税のそれぞれ一定割合が行くのです。
〇猪瀬委員
5税の一定割合ですか。
〇石会長
5税が対象になっていて、そこに交付税率32%を掛けるか、29.5%を掛けるか等々あり、その掛けた分が地方に行くけれども、その中の一つとして国が集めた消費税が入っているという意味です。よろしゅうございますか。
〇猪瀬委員
はい、わかりました。
〇石会長
どうぞ。
〇島田委員
この表現なんですよね。注1のところに「消費税収の配分割合」というのがあります。まさに会長がおっしゃったように、交付税の財源というのは国の5税です。5税の中の1つが消費税ですから、国に納められた4%分の消費税のうちの29.5%がそこに行くからこういうことです、というのでしょうけれども、国民的理解からすると、4対1になっているではないか、80対20ではないかと。国はとにかく、5税ということになっているけれども、どこから出そうといいんだ、国は自由に出せるではないかと国民は思いますよ。それを消費税とつけて、実はこうなっているんだ、4対1だけど実は56対44だ、地方はそれだけ持っているんだというのは、説明としてはぶっきらぼうで丁寧さに欠ける。国にもっと自由度があるのかないのか、もうちょっと丁寧に説明したほうがいいですね。
〇石会長
ただ、国民に対するバージョンと、こういう専門的なのはちょっと違えてもいいのではないか。
〇島田委員
ちょっとぶっきらぼうな感じがします。
〇石会長
はい、島田さんのご忠告に従いましょう。
では、佐竹さん。
〇佐竹委員
基本的なことを教えていただきたいのですけれども、歳出削減の分野で社会保障関係がかなり抑えられる、その分自己負担が増えると。消費支出が減ってくる場合、GDPとの関連はどうなるのですか。こういう形でGDPはGDPで置いておくと、一般消費者の消費が減ってくると、ある部分だけGDPをダーッと伸ばさないと。この相関関係はどうなっているのでしょうか。そこは私、素人なのでわからないのですが。
〇石会長
マクロの関係ですね。岡本さん、どうぞ。
〇岡本主計局調査課長
財政審で行っておりますこの試算は、内閣府が行っておりますマクロ試算、あちらのマクロモデルを使った計算をやっておりますので、そういった相関関係も含めてやっているのですが、こちらは、実はそこは外生的に置いているというところがあります。もちろん、具体的にどういった政策手段をとるかによりまして、委員ご指摘のようにいろいろな影響というのは考えられるわけですが、ここではその点が捨象されているという点はご理解いただきたいと思います。
〇石会長
ほかにいかがでしょうか。
〇林委員
税収弾性値を1.1と置いておられるわけですけれども、これの算定の根拠、どういう形で1.1を決めたのか教えていただけますか。
〇石会長
田近さんがいれば田近さんに説明してもらうのですが、今日はお休みですので。
どうぞ。
〇永長総務課長
実は、バブル以後から弾性値が大ブレしております。例えば名目GDPが△1%というふうに税収が4ポイント落ちる。これはマイナス・マイナスで、弾性値で言うと4.0、こんな数字になったりするわけです。弾性値が大ブレする以前の、バブルの前の例えば10年平均とか20年平均をとりますと1.1となります。経済規模に応じて税収が伸びる、その姿を安定的に見るには、この安定していた時代の数字を使う必要がございます。
ただ、ご案内のように、例えば所得税の税率構造などが、もっと、より立っていた時代の数字でもございます。ありていに申しますと、ほかに置きようもないということで、ただ、成長率に単に1.0では、多少は累進度が入っていますので、そこは加味しよう。こういうことでございます。
〇石会長
従来、この値はそう変えていないですね、この種の話をするときに。かなり経験値として使っているのです。
〇林委員
税制改正の例えば減税だとか増税だとか、そういう実績ベースで計算しているわけですね。マクロの数字を使って対GDP比率で計算をする。ですから、現行の制度でどうなるのだろうという弾性値からすると、若干低いのかなという感じもするのです。法人税というのは、規模が大きければ比例税ですけれども、これは景気で変動します。例えば地方税の場合、クロスセクションで計算するとかなり弾性値が大きいわけです、今の制度のままでいくと。所得税も一応累進構造ですし、今度、税源移譲でまた少し税率構造が変わりますから、そういう現行税制で弾性値がどうかということは、一度計算をしてみたほうがいいのではないかという気がいたします。
〇石会長
ただ、2011年・2015年を考えているわけです。5年先、10年先です。現行制度がそのまま行くとは考えられないですよ。
〇林委員
ということは、そこへ税制改正も考慮した形で弾性値を、という具合に考えていいのですか。
〇石会長
林さんご提案のように、やってみる必要はあるけれども、それをすぐさま採用というわけにはなかなかいかないと思います、先々の話だから。過去の、ある安定した値でやるしかないのではないですか。
〇永長総務課長
基本的にはやってみようと、我々そのつもりはあるのですが、やってみると、かえって少なくなってしまう可能性もございます。例えば消費税のウエートが上がれば、消費税は経済成長率の関係で言うと弾性値は1.0でございます。それから、法人税も税率が下がっているということもございまして、これは過去の数字と比べると税率が4分の3になっております。そういったことを考えますと、これよりもどんどん上がるというのはやや楽観的過ぎるのではないかと思います。
〇石会長
どうぞ。
〇遠藤委員
今のご意見、もっともではないかと思いますけれども、要するにプライマリーバランスというのは、今までは小さくなってきたのではないかと私は記憶しているのですが、この計算でいくと、来年から大きくなりますという計算ですね。どうして今までプライマリーバランスの差が小さくなって、今まではこうなってきて、来年からこう拡大していくという計算になるのかというところは、ちょっと素人にわかりにくいのではないか。たしかに単純な計算をすればそのとおりだけれども、現実の財政当局の査定や税収の見通しというのは、こういう単純計算とは違った部分が作用してきて、プライマリーバランスというのは非常に低まってきていると思うので。
〇石会長
今年度はね。
〇遠藤委員
今年度というか、2006年度はですね。
〇石会長
でも、2011年と2015年の話ですから。
〇遠藤委員
だからそこは、こうなってきたものがこう拡大するんですよ、という説明が一つ要るのではないかという気がします。
〇石会長
岡本さん、説明してもらえますか。どうぞ。
〇岡本主計局調査課長
たしかに近年で見ますと、プライマリーバランスは徐々に縮小してきています。ただ、例えば小泉政権が発足する直前が、国の一般会計で見ますと、概ね12兆円程度のプライマリーバランスの赤字であったのが、その後、税収の悪化等がありまして、一たん税収は相当落ち込んだ。そういった中で歳出削減をやっても、プライマリーバランスがそのあとは2003年くらいまで悪化しました。そこからまた戻ってきている過程にございます。ですから、よくなったといっても、概ね2000年くらいの赤字の水準に戻ったというのが現状でございます。
もちろん、永長課長からご説明があると思いますけれども、近年の税制改正が影響してきているというのもございますし、そもそも先ほどお示しした資料というのは、例えば歳出構造を現状のままに置くと。既に決まった改革の効果は織り込んでおりますけれども、ここからさらに歳出削減の努力をどの程度やるかというのは、これからまた政策の努力として織り込まれてくる話ではございます。そうした意味で、近年の姿から見て、どんどん改善していっているのが同じように改善していくのかと見た場合、税制をめぐる動向から見ましても、必ずしも楽観できるものではないのではないかと考えております。
〇永長総務課長
税収のほう、一言だけ。
〇石会長
どうぞ。
〇永長総務課長
例えば今年で言うと2兆円ぐらい税収が貢献しております。そのうちの半分は実は税制改革。この税制改革は、例えば定率減税をやめる、こういったことが入っております。これは続けられないわけです。それから、ボトム税収からの回復というので約1兆円。こういうものが入っております。
〇遠藤委員
ですから、自然増収というのはこれにはカウントされていないわけですよね。
〇岡本主計局調査課長
それは、経済成長率4%で、1.1%の……。
〇遠藤委員
それはいいのですけれども、現実に2005年度の予算でも予算とぴったりの税収になるかどうかというのは、増収があるかもしれない。可能性はあると思うのです。それがベースになると、2006年度も計算上はこの予算よりも税収が余計入るというようなことになってくるわけです。それも少ない額ならいいですけれども、1兆円とか1兆5,000億という話になってくると、相当ベースが変わってきてしまうと思うのです。経済が少し安定するものを見ていかないと、この姿はこのとおりだと思うのですけれども、税収動向というのはもう少し見てみる必要があるのではないかという感じがします。
〇石会長
選択肢の中にもう少し再計算とか入れてみてもいいでしょう。
予定した時間は過ぎていますが、村上さん、井上さん。手短にお願いします。
〇村上委員
仮定の計算ですからこういうことになるのだと思うのですけれども、私が恐れるのは、具体的に国民生活に直結することがこういうことになりますという試算が一人歩きする。これを読む、あるいはテレビで見て国民一般が、ああ、そうか、それは大変だな、増税やむを得ないなと言うかというと、これは逆効果で、逆に反発してくる。つまり、やることをやっているのか、ということが先に来ると思います。ですから、自民党の幹部の方々が言って歩いているわけですから、まず、増税をしないで歳出でやる方法があるということの具体的なことをめぐって議論をしないと、こういうマクロ的な議論の仕方でいくと、私は期待を裏切ることになるおそれがあるというふうに思います。
〇石会長
昨日もその議論が出まして、今後、我々としてもどう説明するか、慎重にする必要があると思います。
どうぞ、井上さん。
〇井上委員
冒頭、島田委員からもお話が出ましたけれども、ともかく少子高齢化ということで、社会保障費の問題が一番なわけです。今の社会保障費を現行のままにするのかというのが一番の問題であって、やはり抜本的な改革を医療にしても年金にしてもしなければいけない。年金でも高額所得者に年金を払う必要はないのです。今、私どもはたくさんもらっていますよ。本当に何かなあと思いますよね。そうではなくて、高額所得者には何も払う必要はないという仕組みを考え直さなければいけないのではないか。医療の問題でもしかりだと思いますけれども、そういうことをもっと前に打ち出しながら。これをあまり表に打ち出すと問題が出るのかもしれないけれども、はっきりとそういう点を考えていかないと、それをするために増税なのだというのはまずいと思います。
あと、地方もどれだけ改善しているのか、合併しているのに。その辺も検討してください。
〇石会長
高木さん、どうぞ。
〇高木委員
いろいろな前提があって出されたものだろうと。だから増税なんだ、こんな目に遇うんだぞということを例示までされる。今、村上さんがおっしゃったような心配を、私もこういうものを見て感じるわけでございます。一つだけ聞きたいのは、例えば国内不法残留者数、2006年度・18万人、2015年度には52万人。これは、金がないからこうやって増えるという話ですか。
〇石会長
資料(総41-2)の最後の表ですね。
〇高木委員
「各経費の姿」。
〇岡本主計局調査課長
これは現在、それに必要な予算が計上されているわけですけれども、このような財源をすべて同じような割合で行った場合に、必要な予算が措置がされないといった形から、それを人数で換算するとこのような数字になるという形で示されたものでございます。
〇高木委員
不法残留者数にそんなことがあるのですか。
〇岡本主計局調査課長
これは特に強制退去を行うわけですけれども、それに必要な経費というのがございまして、その経費がなければ結局強制退去させられないという形で、不法残留者数が増加するという数字で計算しているというものでございます。
〇高木委員
「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな論理で、こういう数字をつくり出していろいろ言うのはどうかということを言いたいわけですが。
〇岡本主計局調査課長
あくまで、最初に申し上げましたように、一定の前提を置いた試算でございます。あと、一言だけ申し上げさせていただきたいと思います。今ご指摘ありましたように、このような姿を示すことについて、もちろん財政審におきましてもいろいろな議論がございましたし、一方で、先ほど石会長からご紹介がありましたように、今後の議論の中で一つこういった形のものも示していくべきだというご意見もございました。私ども、何もこんなに大変になるのだから増税だよということを言いたいがための資料だとは思っておりません。
ご案内のとおり、今後、歳出・歳入一体改革の選択肢の議論が行われていく中で、例えば歳出を2割カットしたらどうだ、1割カットしたらどうだ、3割カットしたらどうだというような議論が行われる場合に、数字だけで果たして本当に国民にその意味が伝わるのだろうかといった趣旨から考えますと、今後こういった議論が行われていく際に--もちろんこれで、だからすぐにどうのこうのではないと思います。例えば今日はここに、2割カット、3割カットという姿を示しているわけでございますけれども、そういったものが出されていることが、今後のそういった議論の中で一つの参考になるのではないかという趣旨で今回示したものというふうに考えております。できるだけそのようにご理解をいただければと思っております。
〇石会長
どうぞ。
〇河野委員
今日の議論で、自然増収をもうちょっと多めに見たらどうだという話がベースに一つありました。もう一つ、二つあるんですよ、この文章の中で吟味しなくてはいけないのは。特別会計というのは、役人は整理されるのは嫌だけど、これで相当もっと出るのではないかという制度が世の中に実はたくさんある。ここには、あまり大してないよと書いてある。
もう一つは、国有財産を処分すれば金がざくざく入るのではないかという話がある。どういう意味か知らないけれども、150兆か何かの数字を出したのだから。政府は11兆ぐらいのものです。しかも10年間です。この差はものすごく大きいですよ。これが本当に言うとおり100兆も金が浮いてくるのだったら、もうちょっとやり方があるのではないかという議論があるでしょう。どなたかが言ったように自然増収もあるし、特別会計をどう整理するかという話には、抵抗勢力が山ほどある。口で言うほど簡単ではない。もう一つ、国有財産の処分というのは、痛みがない。この話は全部そうだ。我々にとって。企業にとっても個人にとっても。そこのところを点検しないと、甘いことを言っていて、税収をこっちに持ってくるというのだったら、それは大問題が出るのですよ。
しかし、そのことをここで議論をやらないと、腹決めて税調はどうやってこの話を受けるのかと。さっき村上さんが言ったけれども、こういう数字が出れば反発買うのは当たり前なんです。反発を承知で出しているわけです。物事を具体的に示さないと国民はわからないから。それは腹の決め方ですよ。国民世論に迎合するのではなくて、リーダーシップが必要なのです、税金の話は。20年間の経験で言えば、それを含めて議論しなくてはだめなのです。
〇石会長
ただ、100兆円、財産を処分したとしても、これはストックとストックの関係ですから、プライマリーバランスとか、その延長上の現なまとして財源になるというわけではないのです。この報告書の一つのポイントは、今言った100兆円、何かしてストックを処分して増やしても、これはすぐさまプライマリーバランスの10何兆にそっくり移されるとか、あるいは、消費税アップをなくしていいとかいう話ではないのです。それはそれでストックの規模を減らす意味で国債の償却につながったらいいです。
そういう意味で誤解のないように言っておかなければいけないのは、特別会計を処分しても、現なまとして役に立つ部分もあるかもしれないけれども、ストックの償却に役に立つところもある。これは今後、大いに詰めてもらわないといけないのです。100兆円も出てくるなら何も増税の必要はないではないかという話は当然ありますけれども、今言ったように過去の債務規模を減らすほうに効果があっても、即、目の前にある税収を消費税でやるかどうかの議論には直接関係ないのです。この議論はこれから大いにやらなければいけないと思います。
最後のは、岡本さん、コメントありますか。
〇岡本主計局調査課長
1点、試算のところで、先ほど資料の4ページをご説明したときに申し上げたのですが、おそらく100兆云々の規模の議論をするときには、政府が持っております金融資産、これの圧縮・縮減といったことが議論される。それの大宗を占めるのがおそらく財政融資資金貸付金の縮減になると思います。ここにも書いておりますように、これを縮減しましても、資産が落ちても、見合いの負債の財投債が落ちるだけでございまして、いわゆる国債の減額にもこれはつながらないものでございます。
さはさりながら、政府全体の資産をGDP半減を目指してやっていくという意味において、これをスリムにしていくことは当然やっていかないといけないわけですけれども、歳出・歳入一体改革という意味におきましては、国債残高の減ともまた別の世界でございます。先ほど私が申し上げた11.5兆円のうちの、例えば郵政の株式とか、そういったものの売却収入は国債残高の減に充てられるというところでございますので、ぜひとも資産・債務改革の議論をされるときには、スリムにする部分で、国債残高の減少に結びつくものと結びつかないものを峻別してご議論をいただければと思います。
〇石会長
予定した時間をだいぶ超過しました。岡本さん、どうもお忙しいところをありがとうございました。
では、次の議論に移りたいと思います。林さん、どうもお待たせいたしました。
後半は、「財政政策ルールと海外の事例」という形で、先ほどご紹介いたしましたが、内閣府経済社会総合研究所の特別研究員でございます、林さんからご説明をいただきます。
林さんは、この種のところでいろいろ業績が多数ございまして、『マクロ経済政策の技術』等々、多数の著書がございます。
それでは、ちょっと延びてしまいましたが、よろしくお願いします。
〇林特別研究員
ただ今ご紹介いただきました林伴子でございます。よろしくどうぞお願いいたします。
(スライド使用/スライド1ページ~)実は私は、1990年代後半にOECDでマクロ経済政策の審査をしておりました。加盟国か30カ国ございますが、いろいろな国の財政政策、金融政策を、その国の政府の方や中央銀行の方と議論し、こういう方向に持っていくべきではないかという提言をする仕事をしておったわけでございます。
その90年代後半というのは、ちょうど各国、特にヨーロッパ諸国、アメリカ、カナダといった国々が財政再建をしていた時期で、私がちょうどおりましたときちょうどそういったことがあったものですから、財政再建のやり方、あるいは、その中で財政政策ルールというものが非常に重要な役割を果たしていることに注目いたしまして、その後も研究を続けてきたということでございます。
(スライド2ページ)今日お話し申し上げることは3つございまして、1つは、90年代に先進国、あるいは発展途上国でもそうなのですが、目標やルールを設定してマクロ経済政策運営をするという流れがございます。この背景には何があるのかというのが1つでございます。
二つ目として、そうした財政政策ルールについて、実際、先進国ではどんなものがあったのかというご紹介をいたします。
そのあと、「プルーデントな財政政策に向けて」。これは欧米先進国、財政再建をした国ではプルーデントな財政政策というのが一つのキーワードになっております。プルーデントというのは日本語にすると、「慎重な」「用心深い」、そういったことかと思いますが、こういうのはどういうものなのかという議論をさせていただければと思います。
(スライド3ページ)まず、目標・ルール設定型のマクロ経済政策の背景でございます。90年代、財政・金融とも目標を設定し、あるいはルールを設定して経済政策運営をするというやり方が主流になったことがございます。例えば財政政策では、ユーロ圏の安定成長協定(一般政府財政赤字対GDP比3%以内)というものでございますが、こういったルールを設けて、基本的にはこの枠の範囲内で財政運営をする。
あるいは金融政策ですと、典型的なものはインフレ・ターゲティングでございます。インフレ目標、例えばイギリスではCPI2%というふうになっておりますが、こういった目標をできるだけ達成するように金融政策を運営する。インフレ・ターゲティングなどは先進国だけでなく、エマージング・マーケットの国々、例えばタイや韓国などでも採用されております。
どうしてこういう目標・ルール設定型の政策運営が主流になったのかということを考えてみますと、3つ理由があるかと思います。
1つは、マクロ経済学の学問としての理論的な発展ということがございます。1970年代から民間経済主体、具体的には家計や企業の「予想(期待)」を明示的に取り入れた理論というのが発展しまして、それまでの裁量的な財政・金融政策が有効ではないかという考え方、この有効性に対して大きな疑問が呈されたということがございます。日本の経済学の教科書では「期待」と訳しております。“expectation ”というのが英語でございますが、語感としては期待よりは「予想」と言うほうがよろしいかと思います。
例えばどういうことかといいますと、財政拡大を裁量的な財政政策としてやる。そうすると家計は、将来増税があるのではないかと予想(expect) するわけです。そうすると、今のうちに貯金をしておいたほうがいいということで消費を手控える。結果として、財政拡大の効果が減退する、そういうことが見られるわけです。
それまでのマクロ経済学では「予想」を取り入れた議論というのはなかったのですが、70年代以降、そういった理論が発展しまして、予想というのを取り入れると実は違う結論が出てくるということがわかってきたということでございます。
さらに、こういった議論は発展いたしまして、政府や中央銀行が一定の目標にコミットして、約束をして、これを繰り返し実現することによって政府や中央銀行への信頼を高めて、企業や消費者のマクロ経済環境に対する予想を安定化させる。これが実は成長にとって非常に有効なのだ、そういう議論が展開されたということでございます。
ということで、理論的な発展というのが一つございました。
(スライド4ページ) 二つ目といたしまして、グローバリゼーションの深化ということがございます。特に90年代、国際的な大規模な資本移動が起こる中で、市場参加者がその国のマクロ経済政策をどう評価するかということが非常に重要な要素になりました。安定期に自分の国に資金が流入するようにするためには、やはり市場参加者の評価を得なければいけない。明確な目標とか一定の政策ルールのもとで財政・金融政策が秩序立って運営されている、少なくともそういうふうに見えることが、評価される上で重要になってきたということがございます。
したがいまして、場当たり的な政策運営をしているという評判が立ってしまうと、資金流入が順調に来ない、そういうことがあるわけで、そういうことが起こらないように明確な目標やルールを設けようという流れが強まったということでございます。
3つ目としましては、裁量的な政策による弊害ということがございます。裁量的な財政政策、金融政策による大きな政策変動--どうしても金融政策、財政政策の政策効果が発現するためにはタイムラグがございます。そのタイムラグと相まって景気変動をさらに大きくしてしまう、そういった弊害を生んできたということがございます。
例えば、財政の政治サイクル(Political Cycle)ということがよく言われます。これは多くの国で見られた現象でございます。例えば選挙が近づくと、どうしても大幅減税、あるいは歳出拡大ということになって、結局、それが安定的な経済運営を阻害することがあったわけでございます。しかも、こういった財政の政治サイクルは非対称的でございまして、選挙が近づくと大幅減税ですが、では選挙が終わると増税ができるのかというと、そういうことにはならないということで、常に財政赤字が拡大する方向にどうしても動いてきたということがございます。
そういうことから特に欧米では、1970年代、80年代、スタグフレーション、失業と高インフレが併存するという状況がございましたが、こういった経験から、このときに裁量的な政策をずいぶんとっているのですが、こういったことが実は有効ではないのではないか、むしろ弊害があるのではないか、という議論が政策担当者の間で一般的になってきたということがございます。
具体的には財政政策については、ルール、大枠をはめて政治的な撹乱が起きないようにする。もちろん、財政自体は民主主義で決めることでありますけれども、しかし、全体の枠はきちっとはめて、その財政の大きな変動が、民間経済活動の撹乱要因にならないようにすることがいいのではないかという考えが広がってきました。
また金融政策につきましても、中央銀行に独立性を付与いたしまして、物価安定を任務としまして、逆に、物価安定という任務をきちんと説明責任を果たしてもらう。そういう仕組みが一般的になったわけでございます。
また、説明責任を強化するときにインフレ・ターゲティングが有効ではないかということで、インフレ・ターゲティングを導入する国が先進国で非常に増えたということでございます。日本ではインフレ・ターゲティングというのは、デフレ特効薬という感じで、一時、誤解されていたところがございますが、本来の意義は、説明責任を許可する、明確化するというところにございます。金融政策に一定の枠をはめることによって、物価安定を保ってもらおうということでございます。
(スライド5ページ)こうした背景から、ルール・目標設定型の政策が進んできたわけでございます。特に財政政策ルールについて見てみますと、90年代、主要先進国ではどうであったかということをご紹介したいと思います。
まず、アメリカでございます。アメリカは1980年代、財政赤字、経常収支赤字の双子の赤字に悩まされていて、1985年には「グラム・ラドマン・ホリングス法」という財政再建のための法律ができました。毎年、財政赤字の削減、目標額を決めていたのですけれども、その前提となる経済見通しが甘かったこともあって、実績が乖離してしまい、結局、うまくいかなかったということがございました。その後、1990年にブッシュ政権で「包括財政調整法」というのができまして、その後、クリントン政権下でも、この法律に基づく財政再建が進められたということでございます。
この中身は二つポイントがございまして、1つは、キャップと言っておりますが、裁量的な経費について上限を設けるということ。
それから、ペイ・アズ・ユー・ゴー原則と申しまして、税収減や歳出増に結びつくような新たな政策を行う場合には、必ず他の歳出を切るか、あるいは増税をする。そういうことで必ず財源を確保しなければいけないという法律でございます。
(スライド6ページ)そういうことでございまして、アメリカの財政収支、プライマリーバランスを見たものでございます。92年、5.9%の財政収支赤字でございましたが、98年には0.3%の黒字に転じております。その後、2001年にITバブルが崩壊いたしまして、また、「9・11」によりまして軍事費が拡大したこともありまして、2001年、2002年以降は財政の規律が緩んでいるという状況にございます。また、2002年に包括財政調整法が失効しているということで、そこは規律が緩んでしまっているという状況にございます。
(スライド7ページ)それから、ユーロ圏でございます。ユーロ圏では、ユーロ参加のための条件でございました、マーストリヒト収斂基準、マーストリヒト条約に基づいた基準というのがございました。これは、財政、物価、金利、為替に関する基準をすべて満たしていれば、ユーロに参加できるというものでございました。
ユーロが発足したのは99年の1月からで、実際に紙幣やコインが流通したのは2002年からでございますが、この参加できるかどうかという判断は98年の春に行われまして、97年の実績を見て98年の春に判断するということになっておりました。
財政につきましては二つの基準を満たす必要がございまして、一つは、一般政府、これは国・地方、社会保障基金を合わせたものですが、一般政府ベースの財政赤字対GDP比が3%以内になること。それから、一般政府の債務残高対GDP比が60%以下になること、この二つでございました。
ただ、60%以下のほうの基準については例外規定がございまして、仮に60%を超えていても、十分減少しつつあり、かつ、満足できるスピードで60%に近づいているというふうに認められれば、満たしたということで見なすというふうにされていまして、このため、ベルギーやイタリアは当時130%くらいの債務残高対GDP比を持っていたのですが、参加できたということでございました。
(スライド8ページ)ちなみに、60%以下の例外規定を設けていたのは、ベルギーも対象なのですが、ブラッセルにEUの本部がございます。EUの本部がユーロ圏にならないのは考えにくいということがございますので、ベルギーを入れるためにこういった例外規定を設けたと言われております。
ユーロ発足後でございますが、やはりユーロ発足後も財政規律をきちんと保たなければいけない。特に通貨が同じでございますので、一つの国が財政赤字をたれ流したりして例えば金利が上がるということになれば、ほかの国も困るわけでございます。お互いに財政を縛り合う仕組みをつくらなければいけないということで、「安定成長協定」というものができました。
具体的には、ユーロ参加国は、財政赤字の対GDP比を3%以下に保たなければならないというふうになっております。違反した場合には一定額の罰金が義務づけられております。
ただ、例外的な状況として、GDP成長率が年率マイナス2%以下の場合には課されないというふうにされておりました。
(スライド9ページ)さらに、これだけでは十分ではないのではないかということで、「包括経済政策指針」というのもございました。つまり、GDP成長率がマイナス2%以下の場合には罰金が課されないということですが、そこまでいかない、ちょっとだけ景気後退した場合に、財政赤字がどうしても拡大するわけです。それで3%の赤字の枠を超えてしまっては困るということで、少しだけ景気後退して、財政赤字がちょっとだけ拡大したときに備えてゆとりを設けておいたほうがいいのではないかということで、中期的には「ほぼ均衡または財政黒字」を目指すべきではないかという指針ができました。
これはビルトイン・スタビライザーとの関係がございます。財政の理論でございますように、景気後退のときに、財政収支の赤字が拡大するわけですが、これが自動的な景気の調整メカニズムとして働くということでございます。ヨーロッパの場合には、普段財政的にはほぼ均衡または財政黒字にしておいて、景気後退のときにはビルトイン・スタビライザーを効かせて、そして景気の自動安定化を図る、そういう考え方になったということでございます。
(スライド10ページ)実はこの成長安定協定、最近、問題が生じておりまして、2002年のドイツ、フランスの赤字のGDP比が3%を超えたということがございました。それで見直しをするべきではないかと。罰金を課すか課さないかと、いろいろ議論はあったのですが、見直しをすることになりまして、具体的には「例外的状況」の定義を拡大するということが一つ。
それから、研究開発費、途上国援助、旧東独統合に係る歳出については特別に配慮すること。こういったことで修正はしております。ただ、安定成長協定自体はきちんとした規律として今も守られております。
(スライド11ページ)具体的に見てまいります。ドイツですが、1992年のマーストリヒト条約以降、財政再建が進んでおります。
(スライド12ページ)フランスも同様でございます。
(スライド13ページ)イタリアが特にドラマティックな財政再建をしておりまして、イタリアの場合、ユーロに入れないということになると、ヨーロッパで置いてきぼりになってしまうということで非常に危機感がございました。92年、93年あたり、大幅な赤字で、赤字がGDP比で10%となっていたわけですけれども、そこから一気に目標年次の97年(97年の数字を見て判断されますので)に3%にするべく、非常な勢いで財政再建をした。この間は増税をしたり、歳出削減をしたり、あるいは脱税の取締りを強化したり、こういったことで非常な努力をしております。
またイタリアの場合には、実は長期金利が非常に高かったのでございます。政府債務残高が120%を超えるという状況にあったわけで、当時、利払費も大変大きなものになっておりました。長期金利も11%から13%くらいという非常に高い水準でございました。ところが、財政再建の努力が着実に進んでいるというふうに市場に認知され、ユーロに入れそうであるという状況に市場の方が予想するようになってきたときに、だんだん金利が下がってくるという現象が見られました。97~98年には7%あるいは5%という水準に長期金利が下がってきておりまして、長期金利の低下によりまして、まず利払費という意味では財政収支が改善しておりますし、長期金利が低下することによって、企業の設備投資が増え、それがまた増収に結びつくということで、好循環が生まれたということが指摘されております。
(スライド14ページ)それからイギリスでございます。イギリスは二つのルールがございまして、一つは、ゴールデン・ルールというもので、公共投資以外の目的では借入をしないという、日本で言う建設国債の原則、赤字国債の禁止でございます。
もう一つは、サステイナビリティ・ルール。持続可能性を確保するためのルールというもので、公的部門のネットの債務残高対GDP比を40%以下にするというものでございます。
(スライド15ページ)イギリスも90年代半ばから2000年にかけて大幅な財政再建をしております。最近、教育・福祉予算を増額しておりまして、この関係から財政収支が若干赤字幅が拡大しております。ただ、ルール自体は守られているという状況でございます。
(スライド16ページ)カナダでございます。カナダは、連邦予算は収支均衡原則になっております。
そして各州政府につきましては、州法で自ら財政収支均衡などのルールを定めているところが非常に多くなっております。カナダの場合には連邦制で地方分権が徹底しておりますので、地方債の償還につきましては、連邦政府は一切責任を持たないという仕組みになっております。このため、州はそれぞれ自分の地方債の償還について責任を持たなければいけないわけで、逆に言いますと、州の財政をやっていく上で、自分のところの州債の格付けとか金利に大変関心を持っているわけでございます。
格付けを上げていく、あるいは金利を下げていくためには、自ら財政収支均衡のルールを定めてそれで縛っていったほうがいいのではないかということで、そういったルールを定めているわけでございます。アメリカでも同様の現象が見られまして、アメリカの研究では、ルールを持っている州のほうが地方債の金利が低い、そういう研究もございます。
(スライド17ページ)具体的には、各州こういった、財政政策ルールを定めているわけでございます。
(スライド18ページ)こういったことから、カナダの財政再建は特に93~94年あたりから非常に大きく行われまして、特に93年に政権交代がございました。94年からちょうど景気が回復局面に入ったこともありまして、大幅な財政再建をしております。93年当時の財政赤字、8.7%という水準でしたが、97年にはプラス0.2%という黒字まで持ってきております。その間、かなりの歳出削減をしておりまして、しかも、メリハリをつけた歳出削減をしております。
(スライド19ページ)こうしたことで各国とも財政政策ルールを設けることによって、財政再建をし、また、財政規律を保っているということがございます。こうした財政政策ルールでございますが、「よいルール」の条件というのがあるように思います。
一つは、目標が非常に透明であるということ。それから、景気変動に対する柔軟性があるということ。そして、実効性の確保ということだと思います。
目標の透明性につきましては、海外も含め幅広い方が日本経済を見ているわけですから、海外の人から見てもわかりやすい指標というのが望ましいと思います。具体的には、国ベースで見るのか、国・地方ベースか、一般政府ベースか、あるいはフローかストックか、グロスかネットか、いろいろな論点があるかと思いますが、全体として透明性の高い目標が重要かと思います。
(スライド20ページ)二つ目として、景気変動に関する柔軟性でございます。ルールの中に景気変動リスクへの配慮をあらかじめ盛り込んでおくことは、実は目標自体の信頼性を高める上でも重要ではないかと思います。
具体的には例外条項を設けるということで、景気後退のときには目標を先送りするとか、適用を停止する、こういう規定をおくということがあると思います。
もう一つのやり方としてよく言われるのが、構造的財政収支を目標とすることも、よくその提言としてはされます。ただ、実務的には非常に難しいという問題点がございます。構造的財政収支の推計は潜在成長率の推計を前提に行うのですが、推計によって非常に違いが出てきますので、財政再建の目標とするには実務的に困難が大きいと思います。
実効性の確保につきましては、ヨーロッパの場合にはマーストリヒト条約という一種の外圧があったわけですが、そういったものがない場合には、法のような形できちっと縛ることが有効かと思います。
(スライド21ページ)現在の日本政府の目標は、2010年代初頭に基礎的財政収支を黒字化するというものですが、では、それ以降どうするのか。特に財政の持続可能性を確保する、具体的には政府債務残高対GDP比が発散しないためには、どういうルールをつくっていくべきなのかということを次に考えてみたいと思います。
ここにデット・ダイナミクスという式を書いてございます。これは、政府債務残高とプライマリーバランスと金利と成長率の関係をあらわした式でございます。具体的には、今年のプライマリーバランスの赤字の対GDP比に、去年の債務残高対GDP比の分子分母にそれぞれ金利、成長率を掛けてやったもので、これらを足したものが今年の政府債務残高対GDP比になる、そういう関係をあらわした式でございます。
この式からわかりますように、基礎的財政収支が均衡したときに、成長率と金利が等しければ政府債務残高対GDP比は安定化します。金利のほうが高ければ、債務残高対GDP比が発散するということで、この場合には、発散しないようにプライマリーバランスの黒字が必要になってくるということでございます。
この関係式を使って、その後、いろいろ試算をしております。実は内閣府のほうでは、大規模な計量マクロモデルをつくって、方程式が2,500 本くらい入っているのですが、こういった方程式を使ったモデルでやっても結果はほとんど同じで、本質はこのデット・ダイナミクスという式に集約されていると言えると思います。
(スライド22ページ)金利と成長率の関係が非常に重要なポイントなわけですが、では最近、各国の金利と成長率の関係はどうかというのを見たのがこのグラフでございます。金利から成長率を引いた差をとったものでございますが、ゼロより大きい、つまり金利のほうが高い時期のほうが長かったということでございます。1970年代くらいまでは、成長率のほうが高かった時期もあるのですが、その後は金利のほうが高い時期のほうが長かったということでございます。
(スライド23ページ)これで試算いたしますと、先ほど岡本課長がご説明されたのは国債でやっておられましたが、これは国・地方ベースです。これで、基礎的財政収支が均衡した場合どうかというのを試算してみますと、長期金利が例えば成長率と等しくて、両方3%であるというふうにした場合は、公債等残高対GDP比は横ばいでございますが、長期金利が4%まで上昇しますと、どんどん発散していくという姿になります。
(スライド24ページ)では、成長率が3%で、長期金利が、各国これまでの状況を見て4%ということで想定してみるとどうかということでございます。2011年度に基礎的財政収支を黒字化するというのは大前提であって、その後どうなるかというのを試算したのがこれでございます。
2011年度に黒字化して、その後、1%のプライマリーバランスの黒字を維持した場合どうかということで、この場合はやはり債務残高対GDP比は増え続けて発散いたします。それから、2%の黒字ぐらいまで持っていった場合どうかというと、2030年に133%、2050年までいって118%。それでもやはり100%を超えているという水準でございます。かなり大きく減っていくためには、3%くらいの黒字が必要という状況でございます。
(スライド25ページ)仮にプライマリーバランスの対GDP比2%の黒字を継続した場合、未払費も含めた財政収支の赤字はどうかというのを試算したのがこれでございます。このグラフでご覧いただくとわかりますように、財政収支がユーロ圏並みの3%まで縮小するのは2030年代半ばになってからでございます。そのときの政府債務残高対GDP比を試算してみますと、大体130%でございまして、やっとユーロの参加が決まったときのイタリア並みになる、そういう状況でございます。
(スライド26ページ)こういった状況から考えますと、日本の財政は持続可能性という観点から見て非常に心配される状況でございまして、プライマリーバランスを均衡に持っていくだけでは心もとない状況かと思います。現在の財政目標を超えて、長期的な財政の持続可能性を確保するような、必要十分な財政目標が必要ではないかと思います。
また、国債発行残高が高くなりますと、リスク・プレミアムが上昇して長期金利が上がるということもございます。例えばカナダやイタリアでは、一時、長期金利と成長率の差が8%ポイントぐらいあったこともありました。長期金利が8%高かったということでございます。
ということで、やはり2010年代初頭を超えた、目標、そこに至る道筋、それから信頼性の高いクレディブルな枠組みを示すことは、市場の期待安定化、リスク・プレミアムの上昇回避という観点から非常に重要ではないかと思います。
(スライド27ページ)ちなみに長期金利の規定要因でございますが、長期金利は当然のことながら国債の需要・供給で決まります。マーケットで決まるものでございます。これを経済学の世界で分解いたしますと、一つは、将来の予想する物価上昇率、実質長期金利、そして、国債の発行残高などに影響されますリスク・プレミアム、この3つの要素があるわけでございます。
名目成長率を上げたらいいのではないかという議論がございますが、名目成長率を上げるには、二つ、手があるわけです。一つは物価上昇率が上がる、もう一つは実質成長率が上がるということですが、物価上昇率が上がって名目成長率が上がった場合は、やはりマーケットが予想する物価上昇率もいずれは上がりますので、結局、長期金利が上がります。それから、実質成長率が上がって名目成長率が上昇した場合は、将来の資金需要が増える、収益率が改善するということで、結局、実質的な長期が上がりますので、名目長期金利も上がる方向に向かいます。したがいまして、名目成長率が上昇する場合には、基本的には長期金利も上がっていく方向になるということでございます。
したがいまして両方同じ程度上昇しますと、将来の債務残高GDP比に与える影響は変わらないことになります。
そこを無理に、金融政策で長期金利を抑えればいいではないかという議論がございますが、基本的に長期金利はマーケットで決まるものですし、そういったことをした場合、金融政策に負担がかかり、場合によっては物価安定という任務に反する結果になることが心配されます。
(スライド28ページ)ちなみに、リスク・プレミアムの問題というのは非常に重要な問題でございまして、例えばカナダの利払費というのはピーク時にはGDP比で5%、イタリアでは12%にも達していました。例えばこれを日本でひき直して考えれば、日本でGDP比の10%といえば50兆円でございますから、それだけで税収が吹っ飛ぶということであります。日本の財政は、長期金利の上昇に脆弱な構造になっていると言えると思います。
(スライド29ページ)プルーデントな財政政策というのが、今、各国ではキーワードになっております。プルーデントというのはなかなか訳しにくい英語なのですが、注意深く先々を見て、よく考えて判断して、無理のない政策をする、ということなのだろうと思います。
特に“prudent fiscal policy ”というのは、「たとえ外的なショックがあったとしても持続可能であるような財政政策」というふうに定義されております。
プルーデントな財政政策では基本的に債務残高が減っていくことが必要で、仮に大地震が起きるということがあって、復興需要のために国債大量発行だということになった場合、市場から見れば国債は売りだということで金利が上昇するわけですが、もしプルーデントな財政政策が行われていれば、仮に大きな災害が起きても、基本的な方向性は債務残高を減らしていく方向だと市場が認知していれば、市場が大混乱に陥ることはないということが言えると思います。
こういうことでございますので、長期的な財政予測では、できるだけ長期的な見通しについて「注意深い仮定」を置くことが必要だと言われておりまして、例えばイギリスの長期予測、30年先ほど見ているのですが、政府の中立的な予測では労働生産性の上昇率は2%と。しかし財政予測の前提では、わざと中立的な予測よりも0.25%低い数字を使って予測をする。それで成長率を出すということをやっております。
財政再建計画についてマーケットや国際社会から信認を得ることは非常に重要なわけですが、その場合にはやはり堅実な経済前提による予測が必要でございます。構造改革によって成長率を高める、これ自体は非常に結構なことでございますが、その成長率目標とは区別して考えるべきではないかと思います。
(スライド30ページ)実際の各国の財政予測の前提を見ますと、1980年代以降については、金利のほうが高いという状況を見て、それを前提とした予測をしている国が多くなっております。
(スライド31ページ)欧州やカナダでは、ルールを設けて長期的な財政の持続可能性を確保しているわけですが、これと中期財政計画を併用しております。
日本については、実は中期的な財政計画もなく、「改革と展望」というのはございますが、あれはあくまでも試算という位置づけですし、財政政策ルールもございません。したがいまして、2010年代初頭を超えた、長期にわたる財政の規律づけは何もないという状況でございます。やはりプルーデントな財政政策運営を目指すのであれば、中期的な財政計画とともに、長期的な財政の持続可能性を維持するための何らかの財政政策ルールを併用することが必要ではないかと思います。
(スライド32ページ)これは各国の例をまとめたものでございますが、日本では両方ともないということでございます。
(スライド33ページ)今後を考えていく上では、高齢化は非常に重要なイッシューでございます。よく65歳以上人口という議論をしますが、75歳以上人口に今後は注目する必要があるかと思います。日本のお年寄りは元気だと言われていますが、やはり後期高齢者になると財政上のインプリケーションが大きいということがございます。
(スライド34ページ)最後に一言、まとめて申しますと、90年代を通じて、各国ともマーケットを意識した政策運営をされています。そういう中で財政政策ルールというのは、マーケットとのコミュニケーション・ツールとして有用だと思います。
また、今後のキーワードとしては「安定」。安定重視のマクロ政策が重要で、企業や家計が将来に対して安定的な期待を持てるような環境、それによって意思決定をしやすい環境にする。大きく金利や物価が変動しないような環境をつくるのが、第一ではないかというふうに考えております。
以上でございます。
〇石会長
大変貴重な資料と、ご意見、ありがとうございました。我々の議論にも大変参考になると思います。
それでは、だいぶ時間が押していますが、まだ若干時間は残っておりますので、林さんに対して、ご質問なりご意見なり伺いたいと思います。
どうぞ、丹羽さん。
〇丹羽委員
大変ありがとうございました。先ほどお話がありましたように、日本の財政状況は世界に例がないくらいバランスは崩れているわけでございましょうし、将来の予想は条件次第で相当変わると思います。これからその条件を詰めていくことになるのでありましょうけれども、過去の各国の歴史を相当勉強してこられまして、今、税調の委員にこういうアドバイスをしておきたいと思われることがあったら、大変難しい質問で申し訳ないのですが、お聞きしたいと思います。
〇石会長
私も聞きたかったです。みんなの意見を代弁されていますから、どうぞ。
〇林特別研究員
私から税調の先生方にアドバイスなどというのは僣越至極でございまして、なかなかいいアドバイスは難しいかと思うのですが、ただ、一つ言えることは、各国の財政再建の歴史を見ますと、二つのことが重要だと思います。
一つは、国民が危機感を共有するということでございます。カナダの場合、長期金利が非常に高くなったということがありました。イタリアの場合には、ユーロに入れないかもしれないという危機感がありました。日本の場合、たまたま今、長期金利が低いためにあまりそういった危機感が持たれにくくなっていますけれども、やはりそこはそうではないのだと。長期金利の上昇に対して脆弱な構造なのだということを国民的な理解を深めていく、そういったことが大事ではないかというのが一点あるかと思います。
もう一つは、政治的なリーダーシップかと思います。各国の財政再建を見ますと、政治的なリーダーシップが非常に強いときに、国民の危機感も背景に財政再建が行われてきました。財政再建をしていく中では大幅な歳出削減も必要ですし、それもプライオリティをつけてやっていく必要がありますし、そして増税をしていくということが必要かと思います。
日本では、歳出削減だけで何とかなるという議論もあるようでございますけれども、日本の政府の歳出規模というのは諸外国に比べるとかなり小そうございます。カナダが歳出削減でかなり財政再建しておりますけれども、そのときのカナダの歳出規模というのは非常に大きかったわけでございます。そこは状況が全く違うわけで、日本に合った歳出削減と、そして増税の姿を歳出・歳入一体改革の中でやっていただきたいというふうに思います。
〇石会長
では、島田さん。
〇島田委員
すばらしいご報告で本当に勉強になりました。ひと昔前は、マクロ経済政策というのはサプライズで政策効果を実現しようということだったわけで、今でもそういう考え方の人は多いですけれども、実は世界はそうではなくて、予想を取り入れながら、人々の理解をしっかり確保しながら行くのがいいんだということですね。だから、今の日銀のやり方もサプライズではない、トークをする、しかしルールを決めるところまではいかないという感じでだんだん進んでいます。そういうことでいくと、今、先生おっしゃったように、財政計画もない、財政政策のルールもないということですけれども、注意深く情報を提供して、国民の期待に応えながら、やがてそれを自己規律のあるルールに持っていくことが必要なのではないかということですね。本当にすごく勉強になりました。
ちょっとしつこくてものすごく申し訳ないのですけれども、さっきの地方税の配分、56:44というのはどうもおかしいのです、あの言い方は。
〇石会長
それは今の林さんの話とは関係ないから、また別途。
島田さんに対して、何かコメントございますか。賛成だというご意見ですけれども。
〇林特別研究員
先生、全くおっしゃるとおりかと思います。日銀の今回の決定も、確かにインフレ・ターゲティングまではいかないですけれども、しかし、中期的な物価安定の理解ということで目安を示したということで非常に評価できるものだと思っております。
〇石会長
島田さん。
〇島田委員
あとで地方税の配分について教えてください。
〇石会長
川北さん、どうぞ。
〇川北委員
今の林さんのご報告を聞いていますと、インフレ・ターゲティング、非常に高く評価されている。今の発言でもインフレ・ターゲティングについて非常に評価されているようですが、当然、日本でもこういうものを導入すべきだというふうにお考えなわけですね。
〇林特別研究員
将来的には導入の方向で考えるべきではないかと考えております。それはデフレ脱却のためとかそういうことではなくて、中央銀行が説明責任をきちんと果たす。しかも、安定的なマクロ経済環境をつくるということで非常に意味があるからではないか、そういう観点からでございます。
〇川北委員
これまたよく言われるのですが、諸外国でインフレ・ターゲティングを採用して成功したケースがかなりあると思うのですが、それは、全部というかほとんど、高いインフレを緩やかなインフレに抑え込んだケースばかりですね。日本で仮にインフレ・ターゲティングをやろうとすれば、今、若干ゼロから上に行ったわけですが、いずれにせよインフレ政策をやるということですね。諸外国はインフレ下でデフレ政策をやったわけです。ところが、日本はインフレ政策をやらなければいけないというわけです。それをやって本当にコントロールすることができるのかどうか、その辺はどうなのでしょうか。
〇林特別研究員
インフレ目標については政策手段との関係が非常に重要だと思います。どの国のインフレ・ターゲティングを見ましても、インフレ目標の設計がいいかどうかということが、成功するかどうかにかかわっていまして、その国が持っている政策手段、あるいは置かれている状況と目標との間にあまり乖離があると、市場に信認されないということがございます。やはり実現可能性ということを考えたインフレ目標の設計が大事だと思います。
日本に関して言えば、今の足元ですと、ゼロから2という目安が適当なところかと思いますが、将来、ゼロ金利を解除し、そして、コールレートの操作という金融政策手段が戻ってきたときにインフレ・ターゲティングを入れていく。そのときに、日本の現状から見て適切と考えられる水準でインフレ目標をつくるということが非常に大事だと思います。
〇石会長
菊池さん。
〇菊池委員
どうもありがとうございました。何かやるのには国民の危機感が絶対重要だというお話で、私もそう思うのですが、現実的に日本で危機感はないですよね。それは、危機ではないのか、危機の宣伝が下手なのか、日本じゅう政治家も含めて全員能天気なのか、その辺はどれですかね。
〇林特別研究員
これはなかなか難しいご質問ですが、一つ、危機感が弱いということの理由としては、やはり長期金利が今のところまだ低いということがあるとは思います。これは、3月まで量的緩和をしてきたということもありますし、それで時間軸効果で長期金利が低かったということもありますし、それから、90年代の停滞期の間に優良な貸出先がなくなっていて、銀行もわりあい国債を多く保有する傾向が強まっていた。貸出先がないので国債を持っていたということもございます。
それから、経済学では「ホーム・バイアス」と言っておりますが、日本の一般の家計は基本的には円で資産を持たれる方が多い。最近は、外貨預金をされたり外国の投資信託を買われたりする方は増えていますけれども、しかし、基本的には円で持っていらっしゃる方が多いということがございます。ただ、これも将来的には変わる可能性があると思います。特に諸外国で見ておりますと、国によっては、普通の家計の方がドル預金と自国の通貨の預金と両方持っていて、金利の状況とか為替の状況を見ていつも資産の管理をしている、スイッチをすることが一般的という国もあります。日本もそういう国になっていった場合、長期金利が上がっていく可能性は高いと思いますし、また、貯蓄率は今後下がっていくということもありますし、そこはやはり注意深く見る必要があると思います。たまたま長期金利が低いために、「ゆでガエル」という言葉がございますけれども、そういった状況で危機感を強く感じずに済んでいる。でも、これが実は非常に危機なのではないかと私は思います。
〇石会長
出口さん、どうぞ。
〇出口委員
大変刺激的なご発表だったと思います。プルーデントなポリシーとか、Evidenced Based Policyとか最近非常によく言われて、背景として、調達をグローバル化しているというところが大きなポイントだと思うのです。日本で違うのは、金融資産が今まで大きいし、ご指摘のとおり、貯蓄は減っていくだろうし、それに頼っていけないというと、最後の結論部分であるマーケットとのコミュニケーション・ツールということになろうかと思います。この場合、二つあって、実質的な中長期の政策をきっちり行うこととともに、今度は誰を相手にするかというと、グローバリゼーションですから、どういう言語で誰に対して日本の政策の正しさをアピールしていくかという、今までになかった問題が生じてくると思うのですが、その点についてはどのようにお考えでしょうか。
〇石会長
よろしくお願いします。
〇林特別研究員
おっしゃるとおりでございまして、グローバルなマーケットを相手に財政政策も金融政策もやっていかなければいけないということだと思います。その際に、プルーデントな財政政策をやっているのだということをきちっと発信していく必要があります。例えば財政再建計画の前提のことを考えてみますと、経済前提、成長率の前提などが、一般の市場で日本経済を見ているエコノミスト、あるいは国際機関のエコノミストから見て、大方の人が同意する経済成長率の前提でなければ、やはりマーケットの人はその財政再建自体も信じてくれないということが起こると思います。そういう意味で、手堅い見通しをきちんとするというのは大事だと思います。
私の個人的な経験ですが、OECDにおりますときに、国際会議でヨーロッパのある国が財政再建計画を説明いたしました。そのときに、前提となっている経済成長率、当然、各国の代表も事務局のエコノミストも見るわけですけれども、その国の最近の動向、この10年、20年ぐらいの動向から見てやや高めだったわけです。そういったことだったので、各国はどうしてなのかということで根拠を聞き批判をするわけですが、その根拠を聞いたところ、その国の代表の方は、これからわが国は構造改革で女性の就業率も上がります、ITで生産性が上がって、そしてアメリカ並みの生産性上昇率になります、というような話をされて各国の失笑を買っていたということがございました。
せっかく財政再建計画をつくるのであれば、閣僚の方や政府代表の方が堂々と国際社会やマーケットで説明できる、そういうものであってほしいというふうに思います。そうでなければ財政再建計画について信認を得られないのではないかと思います。そういう意味で、グローバリゼーションに対してどういうランゲージでということですが、まさに信認を得られるような、プルーデントな、見通しに基づく財政再建計画、これは非常に大事なことではないか。これがグローバルスタンダードではないかというふうに思います。
〇石会長
ありがとうございました。わが国にも非常に関係のあるお話でした。
では、宮島さん。
〇宮島委員
今日のルールはほとんど財政収支に関するルールだったと思いますが、財政規模とか租税負担率に関して何か目標なり、あるいは、ルールと言ったらおかしいですが、そういうことがOECD諸国全体で議論されているのかどうか、お聞きしたいと思います。
〇林特別研究員
各国、長期の財政政策を議論するときには、長期のサステイナビリティ、先ほどお示ししましたデット・ダイナミクスというのがございましたけれども、政府債務が破産しない、そのためにはどういう財政収支にしたらいいかということに非常に関心があります。もちろん歳出規模の話ですとか、国民負担率ということも大事だとは思うのですが、今申し上げたような財政ルールとしてそちらを優先する形でやっているところはないと思います。むしろ財政収支で縛る、あるいは、将来的な財政の持続可能性をきちっと縛っていくというルールが圧倒的に多いかと思います。
〇石会長
よろしゅうございますか。
では最後、短く。
〇猪瀬委員
先ほどの菊池さんの質問で、危機感の共有ということがありましたけれども、日本のメディアは何でも増税と言うとすべて反対ですよ。その場合に、大変だ、大変だ、大変だと言うことと、現状の認識によって理解を得ると。そういうメディアのレベルというのはどうなのだろうと、今のお話を聞いていて思ったのですが、いかがでしょうか。
〇林特別研究員
私からメディアのレベル云々についてコメントするのはなかなか難しいことでございますが、やはりメディアの方々も国民の理解と行ったり来たりなのだと思います。国民の理解が深まればメディアの理解も深まるし、メディアの理解が深まれば国民の理解も深まるというところはあると思います。
各国で見ておりますと、増税には基本的に反対という論調が強いのは事実でございます。他方で、例えば財政のサステイナビリティが確保されるかされないかということはマーケットでは大変な関心事でございまして、経済関係の新聞では、どちらかというときちっと増税すると言うことのほうを評価することもよく見られることでございます。きちんと、例えば財政安定成長協定を遵守しているかどうかとか、そういったことをきちっと見ている。そういうメディアもかなりあるように私は感じました。ですから、増税反対ばっかりということはないように感じておりました。
〇石会長
すみません。予定した時間が5~6分過ぎてしまいましたけれども、よろしゅうございますか。大変貴重なご意見をありがとうございました。議論がマスメディアの評価にまで入りましたが、今日はマスコミの方も傍聴されてますので、どういう反応があるのかなと思いますが。
林さん、どうもお忙しいところをありがとうございました。大変貴重なご意見をありがとうございました。
それでは、あとの予定をお伝えいたしまして、今日は散会にいたしたいと思います。
次回は、4月11日・火曜日でございますが、2時から考えております。それから、4月21日・金曜日、これも2時からでありますが、各々、外部の方からヒアリングを受けたり、あるいは諮問会議の歳出・歳入一体改革の中間報告が出るかもしれないということもございますので、もう少し勉強したい、このように考えております。
今日は長時間ありがとうございました。林さん、ありがとうございました。
〇福田主税局長
会長、一言だけよろしいですか。主税局長でございます。平成18年度の税制改正法案でございますが、昨日、予算と同時に可決成立いたしましたので、ご報告させていただきます。いろいろとご支援ありがとうございました。
〇小室自治税務局長
おかげさまで地方税法のほうも、昨日、税源移譲等無事成立しましたので、ご報告方々御礼申し上げます。
〇石会長
ありがとうございました。ホッとしたというところですね。
では、どうもありがとうございました。
〔閉会〕
(注)
本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。