第40回総会・第49回基礎問題小委員会合同会議 議事録
平成18年3月10日開催
〇石会長
時間になりましたので、今日の総会と基礎問題小委員会の合同会議を行いたいと思います。
今日は、社会保障に関しまして、おふた方、一つは厚労省ですが、ご説明を受けることになっております。最初に厚生労働省から、社会保障制度改革全般についてお話しいただきまして、そのあとで神戸大学の小塩先生に、パワーポイントが用意されていますが、「人口減少時代の社会保障改革」という形でお話を伺うことになっております。
最初に、厚生労働省から、お三方お見えでございますので、ご紹介申し上げます。清水政策統括官付社会保障担当参事官、年金局の総務課長の貝谷さん、それから、雇用均等・児童家庭局総務課長の香取さん、お三方にお願いいたします。お忙しいところをどうもありがとうございました。
それでは、25分ぐらいしかございませんけれども、現在直面しております改革の問題を整理していただきたいと思います。よろしく。
〇清水政策統括官付社会保障担当参事官
ただいまご紹介にあずかりました、厚生労働省社会保障担当参事官の清水でございます。私から、本日配布されております資料に基づきまして、この間の社会保障制度改革などについて手短にご説明申し上げます。
1ページをご覧いただきたいと思います。現在の社会保障制度の概要でございまして、くどくは申し上げませんけれども、右側欄外にございますように、80兆円を超える給付費で、そのうち大宗が社会保険であるということでございます。
2ページをご覧いただきたいと思います。わが国の社会保障制度は、国民皆保険・皆年金体制をとっておりまして、大宗が社会保険です。その社会保険においては、保険料と税を組み合わせてやっているということでございます。社会保険は、サラリーマングループのものと自営業者などのグループのもの二本立てというのが基本的な考え方になっております。
3ページをご覧いただきたいと思います。社会保障給付費はこのような形で伸びてまいっております。もちろん名目でございますから、昔の1兆円と今の1兆円は同じ価値でないことはご留意賜りたいと思いますけれども、このような形で伸びてきているということでございます。年金の伸びがやや大きいのかなということでございます。
4ページ目は参考でございますが、一人の人間が生まれてから高齢期になるまで、どのような形で給付を受け(Y軸のゼロより上)、あるいは、どのような負担をしているか(ゼロより下)ということにつきまして、所管外でございますけれども、教育の関係、税の関係、一般的なものを2つ含めて、社会保障と合わせてどのような給付を受け、どのような負担をしているかというもののいわば一つのモデル図でございます。幼少期は、やはり教育の関係や出産の関係で給付が多く、青・壮年期は負担し、高齢期は給付を受けるといった形でございます。
5ページでございます。最近、いろいろなところで話題になっていますジニ係数、これは所得再分配調査のジニ係数でございます。よく、A欄、B欄の当初所得、再分配所得のことが話題になりますが、C欄の税による再分配所得は、その改善度を見ますと、近年、低下傾向かなと。一方、D欄の横の改善度を見ますと、社会保障による再分配所得の改善度は増加傾向ということが読み取れるかと思います。
6ページ以降は人口の関係の資料がついてございます。ご承知のとおり、14年1月、もう4年前になりますが、人口推計を出しております。それによって今後人口減少社会が、ということでございますが、実態は9ページにございます。9ページを見ていただきますと、右側のグラフですが、国勢調査による総人口は、一昨年が1億2,770万6,000人ということでピークでございまして、17年から人口減少が始まったということでございます。これが早まった一つの理由は、この前の冬の風邪がございましたけれども、かといって人口減少の傾向は変わらないということでございます。
あと、実績と中位推計との比較が7ページ、あるいは8ページは、どのあたりの年齢層が予測と食い違っているかといった資料がございますが、説明は省略させていただきたいと思います。
10ページでございます。駆け足ですが、今ご覧いただいたような少子高齢化とか、産業構造の変化、都市化、あるいは世帯が小規模化していくといったようなこと、それから厳しい国家財政状況がある中で、私どもが個別の制度の運営という観点からもいろいろと考えましたし、財政審とか経済財政諮問会議、あるいは規制改革推進会議等々から様々なご指摘もいただきました。あるいは、官邸に設けられております「社会保障の在り方に関する懇談会」でもいろいろと議論があったところでございます。そのような議論もいただきながら、様々な改革を進めてきたところでございます。ご承知のとおり平成16年(一昨年)は、年金制度改革、相当大きな改革を行いました。国際的にも大きな改革だというふうに評価されていると承知しておりますけれども、大きな改革を行い、また昨年は、介護保険制度の改革、予防重視型への転換などを行ったわけでございます。
それから、今年(平成18年)は医療制度改革ということで今の国会に改正法案を出し、また、診療報酬改定のマイナス改定も行っているということでございます。それらにつきまして、11ページ以降、ご説明を申し上げたいと思います。
16年の年金改正、国会論議では、未納問題とか、不祥事とか、そういうものに相当多く論議がとられたわけでございますが、大変大きな改正であったわけでございます。11ページの真ん中の欄ですけれども、矢印の下のほうに、「平成29年度以降 厚生年金18.30%」と書いているところですが、このような形で保険料の上限を設定するという改正を行ったわけでございます。改正前は、2038年まで25.9%、厚生年金の保険料率を上げていくということであったわけですけれども、この前の改正によりまして、18.3%で頭打ちにする。定額の国民年金保険料は、16年度価格で16,900円という方で上限にするということでございます。
一方、給付水準につきましては、左側ですけれども、2023年以降の新規裁定で、所得代替率50.2%を確保ということにするということでございます。
また、税の関係も非常に絡んでまいりますけれども、基礎年金国庫負担割合につきまして、3分の1であったものを、段階的に平成21年度まで財源を確保して2分の1にしていくという形の改正も盛り込まれたところでございます。それに向けて、平成17年度、18年度と、少しずつ国庫負担割合を引き上げていただいているところでございます。
12ページは、その中の大きな改正点でございました、マクロ経済スライドについてのペーパーです。賃金の伸び率ないし物価伸び率にリンクして年金額が決まってくるわけでございますけれども、スライド調整率を差し引くということで、真ん中の※印のところに書いてございますけれども、公的年金全体の被保険者数の減少率+平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)、合わせて大体0.9%。マクロ経済スライドがなければ上がるところを、0.9%下げるといったような形での措置でございます。
13ページは、先ほど申し上げました、保険料率の階段がどのようになっていくかということでございます。最終保険料率を18.30%、あるいは国年ですと、16,900円(16年度価格)で頭打ちにするということでございます。
これらの改革の効果ですが、14ページをご覧いただきたいと思います。上のグラフで、これは2004年度ということで若干古くて恐縮ですけれども、年金給付総額46兆円。これは恩給、共済等もすべて入ったものでございますけれども、対国民所得12 カ 1/2%という規模でございます。右側を見ていただくと、2025年度、額は名目でございますから上がっていくわけですが、対国民所得比は12%で微減でございます。年金受給者とは同一でないわけですが、この間の65歳以上人口を見てみますと、2004年度では2,472万人、約2,500万人が、2025年度には、65歳以上人口は3,473万人と約1,000万人増えるわけですけれども、年金の経済に占める規模は横ばいにする、そういう効果があるというのが16年改正の効果でございまして、大変大きなものであるというふうに考えております。
なお、医療・福祉などは、去年の介護保険制度改正あるいは今年の医療制度改革案を反映してございません。これにつきましては新しい試算をやるべく、今、検討を重ねているところですので、上の見通しは現時点では古いということでございます。年金のものについてご覧いただきたいということでございます。
次に、介護保険制度でございます。15ページをご覧いただきたいと思います。介護保険制度は若い制度で、平成12年に創設したわけでございまして、市町村を保険者として、在宅サービスと施設サービスを要介護の高齢者に行う制度です。被保険者とか利用者の数は16ページにあるとおりでございます。この制度発足以来、大変利用が増えておりまして、年率10%を超える形での給付費の増があったこともございます。
そういうこともございまして、17ページですが、介護保険制度につきまして、左側の欄にありますように、「制度の持続可能生を高める」「明るく活力ある超高齢化社会の構築を目指す」「社会保障の総合化」といった観点から介護保険制度の大きな改正をしたわけでございます。
その内容はここに1~6まで書いてございますように、1つ目は、予防重視のシステムに転換するということでございます。2つ目は、施設給付の見直しということで、箱の中の最後に書いてございます、居住費用・食費、ホテルコストを、低所得者には配慮しつつ給付の外にするといった形の改正でございます。
3つ目は、現在の特別養護老人ホームなどの介護の施設は、50人規模とか100人規模とか、相当大きな規模でございます。今後はそういうものではなくて、地域密着型で、地域の中で、比較的小規模で、家庭と似たような形で暮らし介護を受けられる、そういう施設体系に転換していこうということで、ここに書いてあるような措置を講ずるということでございます。
その他、4つ目に書いてございますような様々な情報開示とか、5つ目に書いてありますように、第1号保険料の見直し、保険者機能の強化、あるいは6つ目に書いてあるような措置を講じまして、これは昨年の改正では継続検討ということになりましたので、被保険者・受給者の範囲について検討をこれから開始ということにしているわけでございます。
これらの措置によりまして、2014年度には、本来伸びるであろう介護給付費をの割程度の適正化効果があるのではないかというふうに見込んでいるところでございます。
19ページをご覧いただきたいと思います。医療でございます。国民医療費、国民が医療に使ったお金ということですけれども、この間、絶対額としてはそう急激には伸びておりませんけれども、NI比をとりますと、やはりNIの伸びが低いものですので、上の折れ線ですが、NI比は伸びるということになっております。こういう中で私ども、各年次の下に小さい字で書いてございますような様々な改革、制度改正を行ってまいりました。
ただ、自己負担割合の引上げ等の効果は長続きしないということでございます。14年のあたりを見ても、効果があることはあったのですが、その後の伸びがずっと減少するかといったら、必ずしもそうではないということでございます。やはり自己負担割合の引上げ等の短期的対策だけでは限界があるということで、現在、国会提出中の医療制度改革の考え方が21ページにございます。
1つは、21ページの左側の箱の中に、安心・信頼の医療の確保云々と書いてございますが、それの(2)にございますように、生活習慣病対策をしっかりやらなければいけない。メタボリックシンドローム対策で、それに関連する健診とか禁煙対策、そういうことをしっかりやらなければいけないということと、その上の(1)ですけれども、医療供給体制に踏み込んで、急性期病院からリハビリテーション医療、在宅の介護施設、自宅、そこで介護なり医療を受けられるといった、切れ目のない医療の提供とか、そういうものをやらなければいけない。
それから2番目に、医療費適正化の総合的な推進とございますけれども、「医療費適正化計画」というものを都道府県につくっていただいて(国も当然指針はつくりますけれども)、全体として医療供給体制に絡む医療計画、あるいは介護保険事業支援計画、健診等に関する健康増進計画と調和を持って医療費適正化計画を策定していく。それから、公的保険給付の内容範囲の見直しもやる。医療保険制度のシステム自身を変えて、新たな医療保険制度の創設。それから、都道府県単位の保険者の再編・統合。具体的には右側に書いてございますが、国保はできる限り都道府県単位の方向に財政調整等をしていこう。あるいは、政管健保は全国一本ですが、逆にこれは、都道府県単位でお金勘定をしていこうといったような形での改正を考えているわけでございます。
22ページも医療費適正化計画の具体的中身が書いてありますが、細かいことは省略いたします。
23ページは、公的医療保険の見直し等ですけれども、(1)の[1]にございますように、高齢者の患者負担。かつては昭和48年頃、老人医療費無料化をやったわけですが、今は、このような形で高齢者にも自己負担をしていただく、あるいは、現役並み所得のある方は、より多く負担をしていただくという形で高齢者の患者負担の見直しをする。それから、医療保険の療養病床に入院している方々のホテルコストにつきましては負担を引き上げる。高額医療費の自己負担限度額の見直し、現金給付の見直し、一方、少子化対策ということもございますので、乳幼児に係る自己負担割合、病院の窓口負担の軽減もやるということでございます。また、昨年暮れの予算編成で、診療報酬3.16%ということで大変大きなマイナス改定も定められまして、この4月から実施するということでございます。
なお、あっち行ったりこっち行ったりで恐縮でございますが、20ページをご覧いただきたいと思います。このようにさまざまな医療費の適正化に取り組んでおりますが、国際的に見ますと、為替レートで比較した場合には日本は9位ですけれども、経済、GDPとの比較では7.9%で、OECD諸国20数カ国の中で17位ということで、比較的低いポジションにいることも合わせてご留意賜ればと思っております。
24ページ、診療報酬の内容ですが、細かい点は省略いたします。
25ページをご覧いただきたいと思いますが、医療費は地域差がございます。一言で言いますと、75万円プラスマイナス15万円くらい、上は90万円から下は長野県の60万円までという形で非常に地域差がございます。いい取り組みをやっているところをよく見ながら、地域に応じたきめ細かい対策を講じていく必要がございますので、都道府県の力もさまざま借りたいというのが今回の一つのポイントでございます。
それから、生活習慣病対策の26ページ、27ページの療養型病床群の再編成については説明を省略いたしまして、医療についてはあと1点だけ、28ページをご覧いただきたいと思います。日本の平均在院日数が長いことがございまして、療養病床の再編など相当大きな措置を講ずることにしているわけでございます。日本の病床100床当たりの医師の数、左から3つ目の欄ですが、これは諸外国に比べると低い。あるいは100床当たりの看護職員の数、右から2つ目の欄ですけれども、これも少ないという形でございます。日本は、ある意味では手薄な医療を長期間にわたってやっているという形かと思います。
そういう中で小児科医や産婦人科医の勤務が厳しいこと、あるいは、医療安全を高める高度医療の要請がございますので、平均在院日数は下げ、一方で、ベッド当たりのスタッフの数は上げていくのが方向かなと考えております。そうしませんと、国民に対して適切な医療は提供できないのではないかと思っております。
なお、29ページ、これらの医療制度改革の効果でございますが、相当程度適正化ができるのではないかと見込んでおります。詳しくはご説明いたしませんけれども、29ページ、一番右側、2025年のところを見ていただいて、上のほうの改革案のところで48兆円、改革しなかった場合が、それより3つ下の欄ですが、56兆円になるべきところを48兆円にとどめる。あるいは、改革案の2010年度のGDP比のところを見ていただきますと、2006年度5.4%のところ、2010年度5.4~5.6%、対GDP比横ばい程度にするといったような形で効果を見込んでいるところです。そのような形で、相当程度、当面大きな効果が出る改革をするということでございます。
駆け足で恐縮でございます、医療を離れまして、30ページでございます。各制度間の重複の排除等の調整が必要ではないかという指摘もございまして、この間、様々な重複の整理等々を行ってきたわけでございます。年金の中に、いわば観念的にはホテルコスト、居住費用とか食費が含まれていると考えられますので、医療保険との間では療養病床の食費・居住費等を給付対象外にする。介護との間でも同じような考え方でそのような形にする。あるいは療養病床、必ずしも適当な言葉ではないかもしれませんけれども、昔の言葉では老人病院でございます。今は医療保険と介護保険双方におのおの療養病床があるわけですが、その関係を、先ほどのペーパーにありましたような形で整理していくといったような調整も様々行っているということでございます。
31ページからまたちょっと変わりまして、少子化対策でございます。少子化対策につきましては「少子化対策基本法」、あるいは「次世代育成支援対策推進法」によりまして、事業体に次世代育成の計画をつくっていただくということもしております。もちろん、それ以外にも様々な保育サービスとか、やっているわけですけれども、そういういろいろなサービス、働き方の見直し、合わせて対策を講じております。
それの細かいものが32ページにあります。若者の自立、働き方の見直し、さまざまな地域サービスの拡充、あるいは経済的支援も行うといったようなことで、各般の角度から少子化対策に取り組んでいるところでございます。
最後の35ページ以降は、社会保障給付費の大きさの国際比較、あるいは潜在的国民負担率の国際比較、37ページは、この間の改革を時系列に並べたものでございますので、ご参考にしていただければと思います。
若干時間が超過して恐縮でございます。また、駆け足で大変恐縮でございましたけれども、私から、最近の社会保障制度の改革の動向についてご説明を申し上げました。
〇石会長
ありがとうございました。盛り沢山の改革の論点を整理いただいたと思います。我々として、年金、医療、介護、非常に問題があるとかねがね思っております。今日、まさに当事者であります皆さんにおいでいただいていますので、忌憚のないご意見、ご質問をこれからしていただきたいと思います。今日は比較的時間を用意してございますので、どなたからでも結構ですから、ご発言ください。
どうぞ、田近さん。
〇田近委員
説明、ありがとうございました。19ページの「医療費の動向」というところで、NI比で見て結果的には伸びているというご説明ですけれども、伺いたいのは、下のほうが医療費です。そして、直近15年の老人医療費が11.7兆円と読んでいいわけですね。質問は、平成12年に介護保険が施行されて、そのときの老人医療費11.2兆円。介護保険が入ったことで全体的に考えたときに、医療・介護の費用、給付で言ってもいいのですが、それがどういうふうに変わっていったのか。老人医療費のある程度の削減が望まれて予定されたと思ったのですけれども、そういうことがあったのかなかったのか、今後はどうなるのか、その点ちょっとお話をお聞きしたいと思います。
〇清水政策統括官付社会保障担当参事官
11年から12年にかけて、11.8兆円から11.2兆円になってございますので、この分と若干プラスアルファは、介護保険のほうに移ったということでございます。医療保険は基本的に出来高ですが、介護保険は包括払いということになっております。そういうことで個々のものの適正化などあるわけでございますが、ただ、この間の高齢者の介護需要といったものがございますから、介護保険は先ほど申し上げたような形で伸びてきたというのが実情でございます。
そういう中で私ども、先ほど説明を十分いたしませんでしたけれども、27ページにございますような、療養病床の再編を進めることによって適正化を進めることができるのではないかということで、今国会に法案を提案しているというところでございます。
〇田近委員
ということは、厚労省としては介護保険の導入で老人医療費は下がったというふうにお考えなのですか。
〇香取雇用均等・児童家庭局総務課長
介護保険の改革を前のポストで担当しておりましたので、ご説明申し上げます。介護保険ができましたときに、今ご説明しましたように、これで言うと△6,000億、これは主として老人の入院の医療費が介護保険に移ったということになります。介護保険は定額給付ですので、基本的には医療保険のときよりは給付の伸びが抑制されておりますので、仮にそのまま医療保険制度に移行した老人医療費があったと想定することから比べれば、かなりの適正化がなされたというふうに考えております。
他方、介護保険の給付は、先ほど清水参事官からご説明申し上げましたように、年率10%で伸びているわけですが、介護保険の伸びは主として在宅サービスの伸びでございます。施設給付に関しては、特別養護老人ホームを含め基本的には定額給付ですので、かなり給付の抑制をしている。また、施設の定員も、介護保険の場合にはそれぞれ市町村が保険料負担があるということもあって、かなり抑制的に整備しています。基本的には施設給付の伸びは抑えられているということですので、全体としては介護保険に移行したことで、老人医療費、なかんずく施設入所の給付費はかなり抑制されているというふうに考えております。
〇石会長
どうぞ、村上さん。
〇村上委員
同じ19ページの説明をいただいたときに、被用者本人3割負担に上げたけれども、こういうものの効果は短期的であるというご説明だったと思いますが、それはどうしてかということをお聞きしたいということです。私、さる有名な病院の院長と話をする機会があったのですけれども、その方の意見ですと、これをむしろ5割くらいまで引き上げて、逆に保険料をその分下げるというような思い切ったことをすれば、お医者さんも助かるし、医療費全体の伸びもかなり抑制効果があるのではないかというようなことを言っておりました。その辺、私は素人でわかりませんが、どういうふうに考えたらいいか、お教えいただければと思います。
〇清水政策統括官付社会保障担当参事官
3割負担なり様々な制度改革の効果が、それほど長期的に続かないというのは実態でございまして、その改正をやった1年とか、しばらくの間は医療費の伸びは鈍化するわけでございますが、その後はまた前と同じような伸びに近くなってくるということでございます。
それから、患者の自己負担割合を高めたほうがいいと言う病院長さんがいるというお話です。どういう所得階層等の方がいる地域の、どういう病院長さんかわからないのですが、これは当然のことながら国会で様々シビアな議論があったわけでございまして、自己負担割合については3割にすることが法律に明記されております。実際、被用者、通常働いていればそれほど時間もないわけでございますので、この負担割合で受診がどうのこうのということはないのかなというふうに思います。それより高齢者の自己負担割合のこと、今回の改正に盛り込んでございますけれども、そこはいろいろとあるのかなということで、今回、高齢者の自己負担割合につきましては引上げの方向で見直させていただいたということでございます。
〇石会長
3割はおそらく上限ということでしょうね。今の院長さんのお話、5割にしろなんていうのもちょっと難しい。その辺どうですか。
〇清水政策統括官付社会保障担当参事官
なかなか珍しい病院長さんのご意見かと思います。
〇村上委員
そのかわり保険料を下げるのですよ。例えば私の実感からすれば、私はお医者さんに行かないのですけれども、保険料はかなり払っています。年額で60万円や70万円は払っているわけでしょう。サラリーマンですから、長年60万払っているわけではないけれども、これは差し引き計算でいけば、保険料というのは一体何のために払っているのかというのが、言ってみれば庶民的な素朴な感想ですよ。その場合に何かいい方法があって保険料が下がって、あるときお医者さんに行った、そのときに仮に全額払ってもまだお釣りが来るわけです。私は病気のことについては知らないわけですけれども、高額医療とか技術を要するものは別ですよ。そうではなくて、風邪をひいたとか、お医者さんにちょっと行く程度のものは5割なり10割なり負担してもらえば、それも掛けるNで相当の金額になるのではないかなと、素人考えですが、そういうふうに思うわけです。そういう意味で今お聞きしたわけです。
〇石会長
今の追加質問についてお答えがあれば。なければ結構ですけれども。
〇香取雇用均等・児童家庭局総務課長
恐縮ですが、4ページの先ほどの絵を見ていただきたいのですが、これはライフサイクルで給付と負担の関係を書いたものでございます。センターラインのちょっと上のところに医療と書いてございますけれども、実は医療費というのは、一生涯で使う医療費のうちおそらく6割~7割は65歳以上ないしは70歳以上の高齢期にかかるということになります。そういう意味で言いますと、1人の人で見れば、若い間にずっと保険料をためて、年を取って医療費をいっぱい使う、こういう構造になっているということでございます。
もう一つは、これは平均で書いてございますけれども、人によって医療費の多寡というのはかなり格差がございます。大きい病気をしますと、今どき500万円、1,000万円と医療費がかかりますので、その負担をリスク分散するために医療保険制度があるということになってございます。
一部負担のお話ですが、10万円の医療費を例えば一部負担1割で買えるということになれば、1万円で10万円のサービスを買っていることになりますので、財政錯覚がございますので、基本的にニーズが上ブレをするということがあります。その意味では適正な一部負担をかけることによって、受診抑制といいますか、受診の適正なコントロールをする。その意味で一定の一部負担を課すということで課してございます。
一部負担の効果がなかなか長続きしないという意味は、一部負担をつけますと、その瞬間、全体の給付の割合、医療費の中で保険で給付する部分が減りますので、そのときは下がるわけですけれども、トータルの医療費のトレンドは高齢化なり何なりで伸びていきますので、その効果というのはいわば発射台が下がるという効果になるということでございます。加えて、もちろん一部負担を入れますので、入れれば受診抑制がかかりまして受診率その他が下がりますので、効果は上がりますが、その効果というのはなかなか持続しませんので、また受診率が戻ってしまうということになります。
ご指摘のように、高額の医療費は10割給付とか9割給付にして、例えば風邪引きとかそういうものは保険から外して10割自己負担にするという考え方はもちろんございます。そういった考え方で言いますと、一部負担を上げていきまして、高額医療費という形で別途の償還をするという形で、今の制度はある程度その形になっておりますし、医療給付の範囲ということである部分については保険の範囲から外していく。特に薬剤などについてはいろいろ議論はありまして、例えば風邪引きの薬とかビタミン剤は保険から外してはどうかという議論がございまして、そういった意味での見直しも一部しているところでございます。
〇石会長
岩崎さん、どうぞ。
〇岩崎委員
29ページの医療給付のところです。改革案ベースで出した場合の給付の見通しが出ていまして、制度的な改革であれば数字的に読めると思うのですが、かなり予防医療にシフトしていくということですね。我々素人ですからよくわかりませんが、果たして効果がどの程度あるのかというのはなかなか読みにくいのではないかなと思うわけです。効果がない場合は、2015年・37兆円、25年・48兆円、これはどの程度影響してくるというふうに見ておられるのでしょうか。
〇清水政策統括官付社会保障担当参事官
この場で細かい積算基礎までの資料がないわけで、ちょっとうろ覚えで恐縮なのですが、生活習慣病対策などの効果は当然のことながらすぐには出ないということで試算してございますから、2010年とか、そのあたりの近い時期に向けての効果は、診療報酬の引下げとか、患者の自己負担割合を増やすといったようなことの効果がメインでございます。生活習慣病対策等につきましては、20年先でございますが、そちらのほうに効いてくるという考え方で数字が組み立てられているというふうに承知してございます。
〇石会長
井堀さん。
〇井堀委員
28ページの医療提供体制の国際比較の表です。先ほどのご説明だと、病床当たりの医師数とか、看護職員数が国際的に日本は少ないから増やさなければいけないという話だったと思いますが、人口当たりの医師数とか看護職員数を見ると、ほぼ他の国と同じで、日本でなぜ病床当たりの医師数とか看護職員数が少ないのかというのは、この表で見ると、要するに病床数自体が多いわけですね。なぜ日本で病床数が多いのか。これを下げる努力はどのように考えておられるのか。この辺を前提にすれば、医師数と看護職員数は増やさなければいけないわけですけれども、ほかの国と比べて人口当たりでほとんど差がないにもかかわらず、もっと増やさなければいけないと。日本の患者さんが特に病気になりやすい、そういう特性があるのかどうか、そのあたりをお伺いしたいのですけれども。
〇清水政策統括官付社会保障担当参事官
日本はベッド数が多いということでこのようなことになっているわけであります。先ほどご説明しましたように、したがって療養病床の再編成といったことで医療保険の適用病床を減らす、あるいは、介護保険の中の療養病床も特別養護老人ホームなり老人保健施設なりに転換していただくということもやっているわけでございます。日本の病床が増えたのは昭和48年のときでございますが、老人医療費の自己負担割合、ほぼゼロにしたようなときに増えた。諸外国ですと、老人ホームでございますとか、福祉系統で受けているものがみんな医療で受けている。ちょっと体が弱くなった高齢者の方を病院に入れるということでやってきている。それが医療費の無駄遣いにもなり、高齢者の方のQOLにも、決して病院は住みやすいところではございませんから、よくない。そういうのをいかに改善してきたかというのがこの30年近くの医療保険の歴史であり、そういう脈絡の中から介護保険制度もつくってきたということでございます。その中で、先ほど申し上げましたような療養病床の再編成もしていくということでございます。
ベッド数当たりの医療スタッフの数でございますが、すべて増やすということではなくて、必要な急性期医療がしっかりできるように増やすべきところは増やす、ベッドを減らすべきものは減らす。様々な形での改革が必要だという趣旨で申し上げたわけでございます。
〇井上委員
関連して。平均の在院日数が36といって、海外と比較すると3倍も4倍にもなっている。これは医師の生産性が悪いということも一つあるのではないのか。と同時に今の仕組み。例えば混合診療にしてもしかりだけれども、薬をいいものを使えないどうのこうのという、いろいろな問題が絡んでいることもあるのではないか。
それから、延命の措置の問題にしてもしかりだと思いますけれども、要するに甘やかして延命だけをさせるということもあるのではないかということで、そういう点をもっと考えて取り組んでいかれる必要があるのではないかというふうに思いますが、いかがでしょうか。
〇清水政策統括官付社会保障担当参事官
ご指摘のとおりでございます。ただ、ドクターは少ない人数が多くの患者を診ているわけですから、多分病院のドクターは大変激務であると思っております。したがって医療の必要度の低い方は、介護保険の中の特別養護老人ホームとか、あるいは在宅、居宅、そういうものに移っていただく。そしてまた、必ずしも医療だけではなくて、介護などのケアサービス、在宅で看取りができる基盤整備というものもつくり上げていかなければいけないと思っているところでございます。今は病院勤務医が非常に激務であるということも問題になっておりますので、様々な効率化、この法律改正自身、今提案しているものもそうでございますが、引き続き様々なことをやっていかなければならない。それは、法律ができたあとの医療費適正化計画とか、そういうものの中でやっていかなければならないと考えております。
〇石会長
出口さん、どうぞ。そのあと、河野さん。
〇出口委員
全般的にかなり楽観的な印象を受けたのですが、ちょっと8ページを見ていただきたいのですけれども、人口の維持水準を合計特殊出生率が割り込んだのは1970年代後半で、その当時からずっと、晩婚化しているとか、出生率は回復するとか、そういったことを前提にいろいろ推計がなされてきました。ここでもまた、晩産化という傾向が見られるということでさらりと書いていらっしゃいますけれども、今日の発表は、このあとのご発表ともかかわることになるかもわかりませんが、平成16年の中位推計をもとにしたということで考えてよろしいのでしょうか。つまり、この推計そのものが大きな影響を与えるとしたら、いろいろな政策もそうでありますけれども、出生率というものがかなり効いてくると。例えば税を考えるときにあらゆる可能性を考えて制度設計していく中で、今日のお話はあくまで中位推計に基づいた一つのシナリオであって、ここが狂うと抜本的に狂ってくるというふうに考えてよろしいのでしょうか。
〇貝谷年金局総務課長
今、少子化のお話がございました。人口推計が楽観的過ぎないかというお話がございましたので、年金のお話を少し申し上げます。年金は今お話のように、従来中位推計をベースに財政再計算し、世の中に出してきたということで、それがあまりにも楽観的過ぎる、結果的にはなかなかそのとおりいかなかったという歴史の繰り返しだったわけでございます。ご案内のとおり今回の16年財政再計算では、中位推計を基準ケースといたしまして、少子化の改善したケース、懸念される悪化ケース、幾つか基準をとって幅を持ちまして試算を行っております。今言われております少子化がさらに進んだというケース、私ども少子化進行ケースでは、出生率を1.10、足元では1.29ということでございますけれど、日本の人口が将来相当の状況になるということも含めて、かなり厳しい推計を出しております。いろいろな幅の中で今は推移しておりますけれども、そういう形で、楽観的な一本やりということではない形で我々はこれから政策提言をしていかなければいけないというのは、そのとおりだと思っております。
〇河野委員
あまり情報量が膨大で、つまみ食い的に自分の趣味だけで質問するのは失礼だと思うのですが、2つだけ、年金で1つと老人医療の問題で1つ。
1つは、馬鹿馬鹿しい質問かもしれないけれども、平成21年(2009年)までに公的負担を増やして、消費税を上げればそれに充当するということでしょう。問題は、これで一段落すると思うけれども、そこから先、税金による負担分というのを、5、6年たったらまたひとつお願いしますというふうに、考えていることはないと思うけれども、その点はどうですか。
2つ目は、25ページ、1人当たり老人医療費のこれは、いつも出てくる話題の一つなのです。それで、どうしてこんなに差があるかということも、講釈を何べん聞いたかわからないくらい聞いている。それにしても是正されないのは、地方の知事なり何なりが悪いのか、厚労省の指導が足りないのか、それに政治家が介入するのか、何だかわからないけれども、こんなものはひどすぎる、いつまでもっていくのか。その点、いろいろな理由があって、おたくの責任だけではないと思うけれども、とにかくこの格差を平然と認めているなんてことは長続きするわけないですよ。それについてどうお考えなのかということをお尋ねしたい。
〇石会長
その2点ですね。どうぞ。
〇貝谷年金局総務課長
まず1点目、年金のお話がございました。今お話のとおり、基礎年金に対する国庫負担の割合を、前回の法律改正の中で、平成21年までに段階的に2分の1に段階的に引き上げていくことの道筋が決められております。ただ、財源はそれまでの間の議論ということで、そこはこれからの検討ということになったのはご指摘のとおりでございます。法律上の規定を申し上げますと、所要の安定した財源を確保しながら2分の1に引き上げるというのが法律上の規定になっております。したがいまして、いわばその宿題を解きながらその道筋をたどっていく必要がございます。私ども、2分の1ということを年金の世界では基本として今後とも考えていきたい。社会保険制度の仕組みとしての国庫負担2分の1という点は、基本として今後とも押さえていきたいというふうに考えております。
〇清水政策統括官付社会保障担当参事官
医療費の地域差でございます。その原因は、親世代と老人世代と子どもの同居率がどうかとか、雪深いかどうかとか、患者の受療行動等々あるわけでございます。私ども、これを是認しているというわけではなくて、逆に、長野県等、低いところもあるわけですので、そういうところを大きな参考にして、平均在院日数等を下げていきたいということでございます。21ページの右下に書いてございますような形で、医療費適正化計画をつくり、医療供給体制に関連する医療計画、あるいは在宅で体の弱ったお年寄りをどう支えるかという観点から介護保険事業支援計画との関係、それから生活習慣病対策で健康増進計画、そういうものが一体となって、かつ、都道府県の方々にもいろいろとお考えいただいて、そこで取り組みを進めていこうということでございます。
また、中小企業対象の政府管掌健康保険も今は全国一本の料率です。これは、法人格で一本であるものの、都道府県ごとに保険料率を設定するという形で、都道府県ごとの様々な取組みもできるようにしていきたい。そのような形で総合的に医療費適正化を進めていきたい。低い県を見習って医療費適正化を進めていきたいというような総合的対策を進めていきたいと考えております。
〇石会長
第1点は十分にお答えになっていないと思うのですが、年金2分の1にしたとして、そのあと絶対額で増えるではないかというお話です、トータルのパイは増えるわけだから。その辺はお考えかということですが。
〇貝谷年金局総務課長
まさに年金制度としては2分の1ということが基本だろうと思っています。今、会長からお話がありましたように、さはさりながら年金給付は膨れていく、絶対的な額は膨れていくわけで、そこのところの財源をどうしていくのかということをきちっと考えるべきではないかというご指摘だと思います。そこは先ほど申しました、これからの宿題になっております、2分の1の負担率を前提に置いて、将来とも所要財源が確保される、そういう方策をこれから2分の1の実現に向けて考えていきなさいと。そういうことが我々政府に課せられている大きな宿題だと思っておりますので、今、会長がおっしゃったことも含めて十分議論していきたいというふうに考えております。
〇清水政策統括官付社会保障担当参事官
補足ですみません。年金給付の適正化については、先ほど14ページでご説明しましたように、国民所得費では概ね横ばいという形です。支給開始年齢の引上げがございますれば、マクロ経済スライドもございますれば、様々なことでやっているわけでございます。もちろん、今後の年の事業運営には様々神経を使わなければいけないわけでございますけれども、16年改正で、そしてまた、財源を確保して基礎年金の国庫負担を2分の1にすることで、相当程度の財政的安定が図れるのではないだろうかと思っております。
〇石会長
では、神津さん。
〇神津委員
すみません、ちょっと細かいことで。療養病床の再編成のことでお伺いしたいのですけれども、現段階で、例えば介護保険を適用するほうがよいと思われる人たちが療養型病床群にどのくらいいらっしゃるのか。もし再編が行われた場合に、医療保険費というのがどのくらい削減されるのかということ。
それから、受け皿となるのは老健施設とかケアハウスとか、自宅、居宅ということになるわけですけれども、そこの受け皿が準備できるために経過措置の23年度末までというふうなことを考えていらっしゃるのか。つまり、23年度末までには受け皿のほうもかなりきちっとでき上がるのかどうかというあたりを教えていただきたいと思います。
〇石会長
お願いします。
〇清水政策統括官付社会保障担当参事官
27ページでございますけれども、現在、医療保険適用の病床が25万床ありますから、病床利用率100%ではないと思いますけれども、介護保険適用の療養病床にはそのくらいの方がいらっしゃるということです。ただ、これは全く別なところに移っていただくかどうかということよりも、人の入れ替わりはあるかもしれませんが、右側のほうを見ていただきますと、医療保険適用病床15万床、それから老健施設、ケアハウス、在宅療養支援拠点等に転換していただいて、改装等していただいて23万床という形でございます。ただ、中の方の出入りでございますとか、改装あるいはスタッフの入れ替わり等、時間はかかるでしょうから、24年度施行ということで6年間の猶予措置、そんな考え方でございます。
〇石会長
もう一つ議題が後半に控えておりますので、あとお三方、手が挙がっていますが、一つずつくらいに論点を絞ってご質問ください。
では、川北さんからどうぞ。
〇川北委員
私、分野を少し変えてフリーターのことでちょっとお聞きしたいのですが、これは、おそらく税とか社会保険料と関係するから挙げられているのだろうと思うのですが、これを見ると、03年度をピークに減っています。定義の問題もあると思うのですが、「15~34歳で、アルバイトまたはパート」となっていますが、別の定義だと、これに派遣を加えるような定義もあると思うのです。そうするとおそらく200万人ぐらい増えるだろうと思うのですが、その場合でも、やはり03年度をピークに、あるいはどこでもいいのですが、減りつつある傾向にあるのでしょうか。
それともう一つは、次のページにある常用雇用化プランです。これも、派遣の人たちはこれの対象になっているのか、なっていないのか。
〇香取雇用均等・児童家庭局総務課長
手短にお話ししますと、フリーターの定義はこのとおりですけれども、ご質問の趣旨で言うと、フリーター、派遣、それからパートも含めていわゆる非典型雇用、あるいは非正規雇用と言われている人ですが、こういった人たちの数は、今ちょっと手元に数字がございませんけれども、90年代以降、非常に増えております。これは、規制緩和をいたしましたので、派遣その他、そういうものが増えているということもありますし、企業経営が非常に厳しいということで、人件費の削減を行ってきたということがございます。近年、総理も国会で答弁しておりますが、昨年ぐらいから少し景気が回復してきておりますので、正規雇用は少し増え始めて、全体としての非典型は減少傾向にあるということでございます。その意味で言うと、このフリーターの数字の中には派遣とか請負は入っておりません。
フリーターの問題は、非正規全体の処遇改善なり、非正規の問題をどう考えるかということとは別に、特に若年労働力がこういった形で不安定な雇用のもとに置かれている、あるいは非常に所得が低いということで、将来的な労働力の質の問題とか、フリーターは所得が低く、平均200万ぐらいしか所得がないので、ほとんど結婚できなかったり、子供が事実上つくれない。そういったさまざまな観点から、若年については、人生の頭ですから、ずっと40~50歳までフリーターのままでいると非常に困るので、ここについては重点的に雇用の安定化を図ろうということで、20万人、今年は25万人にいたしましたが、「フリーター常用雇用化プラン」というのをつくっているところでございます。したがいまして、ここで言う25万人の対象はまさに25~35歳のいわゆるフリーターの人ということで、派遣なりパートも含めた全体の非正規対策は、別途のスキームで考えなければならないというふうに考えております。
〇石会長
では菊池さん、手短に。
〇菊池委員
16ページですけれども、介護の認定者の増え方というのが異常に多いですね、全体の被保険者数に比べると。これは、このままの割合で行けば大変なことになると思うのですが、その辺はどういうふうに読んでいるのか。政策的に認定しにくくしていく考えはあるのか、ないのか。そんなことでなくて、自然体でいくらでも認定していくのかというのを聞きたいと思います。
〇香取雇用均等・児童家庭局総務課長
真ん中に要介護認定を受けられた方、2005年9月末で425万人。これは高齢者人口の大体15%で、7人に1人くらいが認定を受けているということなのですが、実はこのうち半分くらいの方は、要介護度認定で言うと、要支援ないしは要介護1という軽度の方になります。どの程度の要介護度のレベルの方から保険の給付の対象にするかというのは、実は議論があったところで、日本の制度はわりと軽度の方から対象にしているわけですけれども、今回の改正はまさに要支援とか要介護1とかいう、半分くらいいらっしゃる軽い方については、むしろこういった介護の給付ではなくて、予防の給付を重点的にするということで給付の体系も変えようと。
それから、要介護度ごとに定額給付の限度額が決まっているわけですが、これも大幅に見直しをするということで、軽度の方については、給付額、給付内容とも大幅な適正化を図ることで別のトラックに載せましょうというのが今回の制度改正です。これで、軽度者については全体的に大幅な給付の適正化、それから要介護度の悪化の防止をすることで、先ほどご説明しましたように、今のままで放置すると、次の次の改定で月額6,000円くらいになる保険料を4,800円くらいまで抑制するということで、昨年、制度改正をいたしたところでございます。
〇石会長
では、上野さんを最後に次に移りたいと思います。
〇上野委員
5ページの所得再分配効果の表です。税による再分配所得というのがずっと数字が小さくなっていますね。これは、減税や何かをやって租税負担率が下がったことを裏に持っているということですか。それと、右の欄のこの2つの数字の比較で、おそらく税よりも効果があるということを言いたいのだと思いますが、税務当局のこの点についてのコメントを聞かせてほしいと思います。
〇清水政策統括官付社会保障担当参事官
先にちょっとDの欄の改善度の横のところを申し上げますと、日本国民の中で年金を受ける高齢者が増えれば、当然、この数値は大きくなるわけでございますので、そこは一言申し上げておきたいと思います。
〇石会長
税のほうもよろしく。
〇永長総務課長
5ページの表で申しますと、平成2年から足元の14年まで、こうなっているわけですが、平成2年というのは税収的には一番ピークの年でございます。所得再分配機能が一番大きかった、所得税が今の倍あったときでもあります。もちろん、累進構造等とも関係があるのですが、大きくは、税収の規模がこの間半分になったというのが結構効いているのだろうなと、このように思います。
〇石会長
それでは丹羽さん、最後に。
〇丹羽委員
10年とか20年先のことはほとんどわからないと思うのですが、結構まことしやかな予測が出ているわけですけれども、そういう予測をベースにしてこれからの税制とか何かを考えていくということになるわけですね。私が今日ご質問したいのは、過去20年前の予測と実績はどれくらい乖離しているのか、15年前の予測とどれくらい乖離しているのか。一定の何か方策的なものが、日本の官庁の予測は大体いつも間違っているとか、どの程度間違っているとか、条件によっても様々で、とてもこれが悪いからこうだということは言えないでしょうけれども、過去の傾向というのはどうなのかと一度はレビューしてみる必要があるのではないか。
例えば1985年に予測した実績は今一体どうなのか、あるいは、90年に予測したときはどうだったのか、95年の予測はどうなのか、直近5年ぐらいのものは結構な確率で当たってくると思うのです。ところが、10年、15年後になると、NIが一体どうなっているか誰もわからない。経済財政諮問会議の吉川さんに私は言ったことがあるけれども、「結構いい加減なこと言ってますね。これから1.6%とか1.2%でずっと成長しますと、そんなことわかるんですか」と。それをベースにして経済予測や何かをやるけれども、大体ああいうものは全部外れますよね。
だけど、今回の税制を見る上において、予測と現実の乖離というものは一体どの程度かということはレビューをする必要がある。法則は出ないにしても、どの程度の間違いをずっと繰り返してきているのか。ぴったりすることは絶対ないですし、間違いとも言えないけれども、一度はレビューして、どの程度の乖離があったのかということは、当然出しておられると思うので、次回にでも教えていただきたいと思います。
〇石会長
今の段階でお答えいただくことがあれば、どうぞ。
〇清水政策統括官付社会保障担当参事官
大事な視点でございます。大ざっぱに言いますと、NI比はまあまあいいところに行っているのかと。もちろん額は、誰も20年前ではバブルを予測せず、バブルで崩壊も予測せず、5%の普通預金の金利も決して高くないと思っていた時期でございますから、そのとき将来を見渡すのは、4%とか、5%とか、6%とか、それくらいでも不思議でないという予測ですから、金額としては大きくなっても、NI比あるいはGDP比を見ると、そうは外れていないのではないかという感触を持っていますが、いずれにしても大事なご指摘だと思います。
〇石会長
社会保障関係以外にも絡む話でありますからね。
〇丹羽委員
大事なご指摘とほめてもらうのは筋ではなくて、実績を出しておられたら、一回お見せくださいということです。
〇石会長
もしくは内部的に資料があれば、特に人口統計などいろいろ間違っていますから、折を見て。今日はちょっと無理と思いますが、ただ、丹羽さんのご指摘はそのとおりだと思います。
では、ちょっと時間が過ぎてしまいましたが、ここで厚労省のお三方、お忙しいと思いますので、ご退室いただきたいと思います。
今日は、お忙しいところをありがとうございました。またお願いすることもあろうかと思います。よろしくお願いいたします。
〔厚生労働省 退室〕
〇石会長
それでは次のプログラム、神戸大学の小塩先生に、「人口減少時代の社会保障改革」についてご説明いただくというのが残っております。
小塩先生は、社会保障論の専門家でありまして、今日のテーマと同じようなご本もございますし、『社会保障の経済学』という本もございます、この辺、全般的にご研究を重ねておられます。
では、ちょっと短くて申し訳ありませんが、25分ぐらいでおまとめいただけますか。よろしく。
〇小塩教授
神戸大学の小塩です。よろしくお願いいたします。
(パワーポイント使用・スライド1ページ)前半のお話は、高齢者向けの社会保障が中心でした。私は、高齢者の話もさせていただきますけれども、前半は少子化対策について話をさせていただきたいと思います。
(スライド2ページ)まず、少子化対策の意義と限界をお話した上で、2番目は、どちらかというと高齢者向けの社会保障改革の話をさせていただきます。それから、私は財政の専門ではないのですけれども、社会保障サイドから税制改革についてどういうふうなことが言えるかということをごく簡単に申し上げます。
(スライド3・4ページ)まず、少子化対策です。最近ではいろいろなところで子育て支援の話が盛り上がっているわけですけれども、結論を言いますと、あまり効果を期待しないほうがいいのではないかということであります。と申しますのは、果たして、「産みたくても産めない」夫婦が増えているから子供の数が減っているのかと言われると、そうでもないのではないか。あるいは、子育てにお金がかかりすぎるから子供がなかなか増えないのではないかというのも、ちょっと怪しいなというふうな気がするからであります。
それから、諸外国の経験がそのまま日本の改革に通用するかという議論もしなければならないと思います。
(スライド5ページ)まず、具体的な事実から申し上げます。合計特殊出生率はご存じのとおりどんどん低下しているわけですけれども、その一方で、結婚して15~19年離婚しないで生活を共にしている夫婦の子供数は、たしかに70年代までは急速に低下しておりますけれども、それ以降は2.2人程度で非常に安定的に推移しております。
(スライド6ページ)こういう絵をお見せしますと、若い層はそうではないのではないかというご質問があると思いますけれども、それを調べてみたのが次の絵です。ちょっと見にくいグラフで申し訳ないのですが、これは、結婚してから年がたつにつれてどれだけ子供が増えていくかというのを、一種のコーホートとでも申しますか、年齢階層ごとに見たものです。
例えば1987年時点で、結婚してから0~4年経った人たちはどれくらい子供を生んでいるかというと、1人ぐらいです。次の調査、5年後の調査ですけれども、その夫婦は2人とも5歳、年を取るわけですけれども、そうすると1.何人子供を生んでいる。10~14年たつと2人ぐらいになります。最終的に2.2人になりますという構図ですけれども、この絵を見ていただきますと、結婚してから5~9年の人たちの子供数というのは最近たしかに減少傾向にあります。ということで、既婚カップルの出生力も落ちているのではないかという議論があるわけですけれども、果たしてそういうことなのかということです。
(スライド7ページ)次のグラフを見ていただきますと、その背後には、いわゆる晩婚化が大きな影響を及ぼしているのではないかと思います。ここで下のほう、赤い棒グラフが奥さんの初婚平均年齢を示したものですけれども、2002年で27.4歳です。最近、厚生労働省から新しい数字が出まして、2004年で女性の場合、初婚が27.8歳です。第1子が生まれる年齢が平均で28.9歳と、かなり高齢出産になっているわけです。こういうふうな形で晩婚化が進みますと、いくら子供を生もうと思ってもせいぜい2人がいいところだというふうな状況になっております。
(スライド8ページ)そういうようなことを考えますと、問題は、もちろん結婚したカップルが抱えるいろいろな問題はあると思いますけれども、結婚後よりも結婚前のほうが重要ではないかという気がいたします。
ところが、現在いろいろなところで議論されている少子化対策というのは既婚カップルを想定した政策ですので、仮にその効果があったとしても間接的ではないかというふうに思います。とにかく若い人に結婚してもらわないと話は進まないということであります。
さらにもう一つ問題がございまして、財政的に困っているカップルがいるから出生率が落ちている。ヨーロッパ並みに家族支援を充実したら子供が増えるのではないか、という議論がありますけれども、果たしてそうかということで簡単なグラフをお見せいたします。
(スライド9ページ)このグラフは、横軸に、家族政策として財政から出ているお金のGDP比をとったものです。ここにはいわゆる家族手当とか託児所のサービスが入っております。扶養控除は入っておりません。税制上の政策はここには反映されておりません。縦軸に合計特殊出生率をとっているわけですが、これを見ていただきますと、プラスの相関があるような、ないような、非常に微妙な状況であります。アメリカがちょっと異常値だということで、これを外しますと、統計的に有意なプラスの相関が確認できるのですけれども、その相関もそれほど目立ったものではないということです。
そういうことを考えますと、児童手当を拡充したからすぐに子供が順調に増えるということは言えないのではないかと思います。我々はフランスの話をよくするのですけれども、たしかに日本がフランスになればいいのですが、横滑りでドイツになってしまうかもしれないですね。家族手当をドイツ並みに充実するというのは、一つの目安だろうと私は思うのですけれども、そうしてもあまり出生率は回復しない可能性もあります。ですから、経済的支援というのはたしかに重要だと思いますけれども、大きな効果はすぐには期待できないと思います。
(スライド10ページ)では、全く少子化対策というのは意味がないのかということですけれども、私は、むしろ違う角度から重要だと思っております。いわゆる生めよ増やせよ的な政策では効果はないと思いますけれども、これは「骨太方針」でも明記されているのですが、「国民が安心して、子供を生み、育てることができる社会」を目指そうと。そのためには少子化対策というのは非常に重要な役割を果たします。
もう少し具体的に申しますと、現在のいろいろな社会制度、経済制度というのは、特に女性の場合、出産・育児と就業が二者選択的になっているわけです。こういう状況はぜひ改める必要があると思います。そういうことを考えると、出生率の回復を目指すことよりも、すべての人が安心して子供を生み、育てる社会そのものを目指しましょうという立場から少子化対策を考えるべきだと思います。
(スライド11ページ)経済的に申しますと、少子化対策というのは非常に重要な面があります。人的資本というふうに我々は子供のことを言いますけれども、将来、社会保障の財源も賄ってくれるわけですし、経済成長も担ってくれるわけですから、そういう子供たちを育ててくれている世帯に、そうでもない世帯が支援をするという形で、ただ乗りをなくすというメリットもあります。それから少子化対策というのは、国債でその財源を調達すると問題が多いのですけれども、そうでないとすれば、基本的には現役世代内の所得再分配ですから、次の世代に大きな負担の先送りがないというメリットもございますので、ぜひ進めておく必要があるだろうということです。繰り返しますけれども、それで子供の数が増えるかどうかはわかりませんし、それを必ずしも期待する必要はないというふうに思います。
(スライド12ページ)そういう少子化対策ですけれども、具体的には2つのタイプがあります。1つは、両立支援策です。もう1つは、経済的に支援をするという政策ですけれども、どちらに重きを置くかというと、私は前者です。具体的な根拠はなかなか見つからずに困っていたのですけれども、最近、厚生労働省で調査の結果が発表されまして、育児休業制度がある会社に勤めている女性ほど、子供を生む割合が3倍くらい大きいというふうな調査結果もあります。そういうことを考えると、子供の数を増やすという政策目標について私はちょっと首を傾げるところがあるのですけれども、仮に子供の数はやはり増やさなければいけないという政策目標があったとすれば、まず両立支援に力を入れていただきたいというふうに思います。
それから、児童手当等々経済的支援ですけれども、これはあまり効果がないというふうに私は思いますけれども、ただ、低所得層のカップルには非常に重要な役割を果たすであろうと思います。特に非正規の労働が増えているわけですので、現行の税制上の優遇措置が十分効かない層が子育てに困っているという可能性もあります。そういう場合は、児童手当を引き上げる政策は必要になると思います。
以上が、子育て支援に対する私の考え方であります。
(スライド13・14ページ)要するに何が言いたいかというと、子育て支援というのは重要ですけれども、あまり子供の数の回復にはつながりませんということなのです。それを考えますと、人口減少というのもある程度与えられたものとして、その上で制度の持続可能性を高める、そういう政策努力が必要だというふうに思います。
どうしたらいいか。簡単に言ってしまえば、高齢層向けの給付を削減するとか、高齢層の負担を引き上げるというふうな非常に冷たい政策が出てくるわけですね。そうなると、どこまでそういう政策を追求するかという問題がどうしても出てくるわけです。世代間の公平性をどこまで追求するかということです。
(スライド15ページ)そこでよく登場するのがこういう絵なのですけれども、年金の場合、40歳代前半層を境にして、それより昔に生まれた人は得をして、後は損をするという構図が描けるのですが、この絵はその構図を社会保障全体について示したものです。これは私の研究成果ではございませんで、東京学芸大学の鈴木亘先生のご研究の成果ですけれども、社会保障全体で見ても、1960年生まれ前後を境にして損得勘定ははっきりするということです。私はちょうど1960年生まれですので、別に制度改革をしていただいてもいただかなくてもいいという、無責任なことを言うと怒られるのですけれども、要するに、こういう世代間の格差をどういうふうに考えるのかということです。
こういうグラフを見せるから若い人が年金の保険料を払わないのだというふうなお叱りを、私、直接受けたことがありますけれども、たしかに我々より上の世代の人たちが日本経済に果たしてきた役割とか、社会保障の沿革等々を考えますと、このグラフを全部水平にして全員平等にするというふうなことはやはりナンセンスだろうと思います。
その一方で、若い人は現行制度のもとでは明らかに損になってしまうという制度を、そのまま放っておくというのも問題があるでしょうということです。この議論は価値判断が入ります。世代間の対立が非常にはっきりとするテーマですので、具体的な解決策を導き出すことは極めて難しいと思います。
(スライド16ページ)そこで、価値判断抜きで解決ができないかというふうに思うのですけれども、一つ考えられるのは、とりあえず現役層があまり無理をしない形で支えられる範囲でお年寄りに向かうお金の規模は止めましょう、そういうことであります。いくら充実した社会保障給付を約束したとしても、それを現役層が支えきれないとなると絵に描いた餅ですから、それはやめましょう。とにかく入ってくるお金で何とか制度を運用しましょうということです。
これは財政の言葉で言うと、いわゆるプライマリーバランスを均衡化するという政策にほぼ一致するわけですけれども、あまり無理のない形にしましょうと。でも、それだけでは足りませんよという場合は、その足りない部分は、高齢層でしたら高齢層の内部でやり繰りしていただきましょうというふうなことではないかと思います。
(スライド17ページ)実は、そういうふうな方針で既に制度改革が進んでおります。先ほど厚生労働省の方々から年金改革と医療改革についてのご説明がありましたけれども、公的年金の2004年改正のマクロ経済スライドというのは、まさしく入ってくるお金で給付をやりくりしましょうと、そういう構図になっているわけです。
問題は、2004年改正でも保険料率はこれから引き上げられてきますし、基礎年金の国庫負担率も引き上げられてきます。これは明示的には税率を引き上げることを意味するわけですけれども、やはり若い人に今以上に負担を強いる構図になっているわけです。
(スライド18ページ)では、そのままでいいかという議論になるわけですが、私はここで極めて極端な試算をやってみました。どういうふうなことをやったかというと、保険料率を一切上げません、それから国庫負担も1/3のままにいたします。つまり、暗黙のうちに消費税率を上げないと想定した上で、どこまで給付をカットする必要があるかという計算をしてみたわけです。
そういたしますと、既に厚労省が厚生年金の加入者に約束している分を全体で15%カットしなければならないということになります。既に年金生活に入っている人たちの年金は1割強カットになります。その一方で、現役世代・将来世代のネットで見た持ち出し分は20%弱削減されるという形になります。
ここまでやりましょうというふうなことを言うつもりはございませんけれども、現役世代・将来世代の負担をなるべく低い水準にとどめるという選択肢は、もっと検討してよろしいのではないかというふうに思います。
(スライド19ページ)医療についてはどうかということですけれども、これも先ほどのご説明がありました、今回の「大綱」では、高齢者の自己負担の引上げ、ホテルコストの引上げ等々がございました。それも、若い人になるべく負担をかけない仕組みにしましょうという発想で出てきたアイデアだろうと思うのですが、問題は、先ほどご質問があったようですけれども、この削減の効果が具体的にどういうふうに説明できるのかということになりますと、不透明なところがあるということです。
(スライド20ページ)我々が一番注目するのは、高齢者医療の自己負担の引上げの効果ですけれども、これで改革がうまくいくのではないかというふうに錯覚をしばしば覚えるのですけれども、その効果は、全体の削減効果8兆円のうち1兆円プラスアルファにとどまるということですので、大したことはないわけです。ですから、医療改革についてはこれから議論しなければいけないところがあります。
具体的に申しますと、高齢者の自己負担の引上げ以外のところ、若い頃からの健康増進をどういうふうに図るかといった医療サービスの効率化等の問題は、効果がどういうふうに出てくるかというのは非常に不透明な状況になっています。
どうしたらいいかということですけれども、今日はあまりお話がありませんでしたが、保険者機能を高めるとか、個人レベルで健康増進に努めるというふうなインセンティブをつけるといった政策がこれから必要になると思います。
(スライド21ページ)以上が社会保障改革についての私の基本的な考え方です。基本的には、繰り返しになりますけれども、若い人があまり無理なく支えられるような制度にいたしましょうということであります。
そういうふうに社会保障を考えていきますと、税制についてどういうことが言えるかということですが、その前に、4つほど、状況を示すグラフをスライドでお見せいたします。
(スライド22ページ)1つ目は、高齢層の所得水準を平均的に見たものであります。赤い線で書いたのが、年金も含めた再分配されたあとの所得の水準です。それが年齢階層ごとに一体どういうパターンを見せているかということですけれども、年金を含めますと、高齢層の所得水準は、少なくとも平均的に見れば現役層と互角の水準にあるということが言えます。
(スライド23ページ)その一方で、格差がかなり広がっているということであります。これは、年齢階層別に格差を示す指標の代表的なものであります、ジニ係数というものですが、これを見ますと、若い層に比べて高齢層の所得格差が非常に大きな形になっているということです。
(スライド24ページ)3番目は、税と社会保険料をどういう形で負担しているかということですが、このグラフは、分母が、税金や保険料の受け払い、あるいは年金を受け取る前の当初所得に年金を加えたものです。それを分母にとりまして、それに対して社会保険料や税がどれだけ払われているかというのを見たものですけれども、これを見てみますと、59歳までと60歳以降、もう少し明確に言いますと65歳以降ですけれども、大きな格差があるということです。これだけ大きいと、高齢層と若い層の間で、税あるいは社会保障の負担のあり方で不公平な部分が出てくるだろうということは予想されるわけです。
(スライド25ページ)4番目の事実ですけれども、これは文章でお見せしております。2つのことが追加的に言えます。先ほど、税の所得再分配効果のご議論がありましたけれども、日本の所得再分配のかなりの部分は、若い人からお年寄りにという年齢階層間の所得再分配で説明できます。それが年金制度の成熟化に伴ってウエートを高めていけば、社会保障が所得再分配をしているという構図は描けるのですけれども、それを除いた部分はどうかということを考える必要があると思います。
と申しますのは、すべての人々は若いときと高齢時をともに経験するわけですから、年齢階層間の所得再分配は、個人ベースで見ると、かなりの部分、相殺されてしまうからです。つまり、現役層からの所得移転の分を除いた上でいろいろな所得再分配の効果を見ると、高齢層の場合、若干ですけれども、むしろ逆進的になっている面があります。
それから、慶応大学の清家先生、山田先生のお二人のご研究を見ますと、日本の高齢層は、中・高所得層は非常に恵まれた生活をしているのですけれども、所得の低い層のパフォーマンスは、相対的に見てほかの国よりも悪いということが言えるわけです。
(スライド26ページ)そのようなことを考えますと、公平性という観点をもう一度見直す必要があるのではないかと思います。これまでの税制改革は、どちらかといいますと効率性を重視する、税率もフラットにする、そういう方向で向かってきたと思いますし、私はそれは非常に重要なことだろうと思うのですけれども、こういうふうな特に高齢層内部の格差の大きさを考えると、公平性というのも、いま以上に注意して見ていく必要があるのではないかという気がいたします。
その公平性も、年齢階層間の公平性、年齢階層内の公平性の2つに分けられるのですけれども、高齢層にも所得に応じてお金をいただくところからいただくという形で、現役層への過度の依存を軽減するという仕組みがあっていいかもしれません。あるいは、ここでは税の話に限っていますけれども、保険料の負担のあり方についてもそういうことが言えるかもしれません。
それから、高齢層内部の公平性を高める作業も必要ですけれども、残念ながら、社会保障の分野ではなかなかこれは対処しきれないわけです。あなたは所得が高いから年金は削りますというふうなことは、社会保険の仕組みではなかなか無理ですので、これは税の中で処理していただく必要があると思います。
(スライド27ページ)ということで、どういうふうに制度を進めていけばいいのかということですけれども、とりあえず一里塚と申しますか、目指すべきなのは、年齢にあまり関係なく課税していただく、「年齢中立的」な税制というのが一つの目安になると思います。年齢が高くても所得の低い人、高い人、いろいろいるわけですから、担税力の代理変数としては、年齢に注目することはもう意味がなくなってきて、所得や資産に応じて負担をお願いすることが必要になると思いますし、所得の捕捉の問題等々ありましたら、消費税の話も出てくるでしょうということであります。と書いたのですけれども、なかなかこれは難しいテーマではないかと思います。
と申しますのは、現在の所得税の仕組みは、税率の低い層、低いブラケットにかなり多くの人が入っている、そういう構図になっています。そこで例えば累進性を高めるというのはどこまでできるのか、ちょっと難しいなと。私の能力を超えるテーマではないかということですので、ぜひご意見を伺えればというふうに思います。
私の考えですと、中所得層の税率、税負担を上げる必要があるのではないかという気がしてならないのです。そういうことをお願いした上で、かなり貧困で日々の生活に困っている人たちの生活を、集中的に救済する仕組みが必要になるのではないかという気がしてなりませんけれども、これは私の個人的な考え方ですので、ぜひご議論いただければと思います。
(スライド28ページ)以上で話は終わりますけれども、全体のメッセージを簡単にまとめますと、少子化対策は、子供の数を増やすというよりも、「国民が安心して、子供を生み、育てることができる社会」の実現を目指すべきであると思います。
社会保障改革については、子供の数はあまり増えませんので、給付は現役層が無理なく支えられる範囲に制御すべきでしょうということになります。
税につきましては、世代間・世代内の公平性追求という問題も、効率性の追求とともに考える必要があるでしょうということが言えると思います。
以上、簡単ですけれども、私の話を終わらせていただきます。ありがとうございました。
〇石会長
どうもありがとうございました。大変興味ある、示唆に富むお話をいただいたと思います。
25分ほど時間が残っていますから、これからみんなでディスカッションしたいと思います。どうぞ、発言したい人は最初からどんどん手を上げてください。そうしませんと、時間が来たら打ち切りますから。よろしいですか。
どなたからでも結構です、どうぞ。
〇井堀委員
非常に有益なお話だと思いますけれども、まず少子化対策の点です。私も、少子化対策で子供の数を増やすのが政策目標かどうかというのは疑問だと思いますし、効果があるかどうかもわからないのですけれども、11ページの「少子化対策の意義」のところで、社会資本に経済外部性があるから、「社会の宝」だから、フリーライダー問題を解決するために少子化対策だというそのロジックですけれども、本当に子供、教育が人的資本として外部性を生み出しているのか。物理的な資本、社会資本も当然将来から見ればメリットはあるわけですけれども、基本的には人的資本は教育投資ですから、その人が回収できるものも多いわけです。それを越えた外部性があるから少子化対策をやるんだという具合に言われると、本当にそうなのかなという気がするのです。
むしろ私は少子化対策というのは、あとで低所得者の人についても少し触れられていますけれども、流動性制約があって、所得の低い人は子育ての時期にあまりお金がないからそれを支援すると。子育てが終わった時期には所得が増えるので、その所得をライフサイクルで見て再分配すればいいけれども、それができないと。そういう効果のほうが大きいのではないかと思いますけれども、この11ページの経済外部性がどの程度重要なのかということをもう少しお伺いしたいと思います。
〇石会長
またかなり刺激的な発言ですが、どうぞ。
〇小塩教授
教育にはやはり外部性があるのではないかというのが一つの私の考えなのですが、もう一つここで書いていますのは、社会保障の財源を調達してくれるその担い手、そういうイメージなのです。自分の老後を養ってくれる。自分を養ってくれるだけではなくて、ほかの親の老後も養ってくれる、そういう外部効果もあるのではないか。しかもそれが、教育等々、賃金が高ければ高いほどそういう効果が発揮されるだろう、そういうイメージでここで経済外部効果というのをお示ししたわけです。
ただ、そういうふうなことを言いますと、例えば年金を積立方式に変えることによって外部効果を発揮させない仕組みにすれば、子供の数は別に増やさなくていいではないかという反論が出てくると思うのですけれども、ご存じのように、積立方式への移行等々難しいので、こういうふうな形で外部効果を働かせた上で子供の数を増やすという次善の策が重要ではないかという気がいたします。
〇石会長
ほかにいかがでしょうか。
尾崎さん、どうぞ。
〇尾崎委員
15ページの表です。いつもこの種の表を見ると思うのですが、年寄りは年金をたくさんもらえて幸せということですけれども、年を取った世代というのは、自分の親を介護したり、自分の親に生計費を仕送りしたり、そういう仕組みの時代を生きてきた人たちではないかと思うのです。今、年金などに頼る、それぞれ所帯も別々、仕送りもしていないというような世の中に変わって、その新しい現在の仕組みのもとで見ると非常に不公平に見えるけれども、実は年を取っている人というのは、子供と一緒に住んで、子供に介護してもらってこの世を終わりたいとか、貧しくてもいいから同じ所帯で子供と一緒に同じものを食べて暮らしたいとか、自分はそうやってきたから、本来だったらそう思うと思うのです。だけど、世の中が変わってしまった。そこの仕組みの変わり目にいる人たちがまだいるような気がするのです。
だから、この表だけで見て不公平と言いますけれども、旧仕組みの中で貢献してきて、新しい仕組みのもとでは取り過ぎだよというのもちょっとどうかなという気が、いつもこの表を見るとするのですが、ちょっと感想をお聞きしたいと思います。
〇石会長
ここは旧仕組みの人が多いからね。
〇尾崎委員
もう一つ、すみません、簡単に言います。一番最後のページの少子化対策ですが、「国民が安心して、子供を生み、育てることができる社会」というわけですけれども、子沢山の時代というのはそうではなかったような気がするのです。そうすると、これは一体どう考えるのか、そこについてのご意見をお伺いしたい。
〇石会長
どうぞ。
〇小塩教授
1つ目の質問は常にある質問でして、反論できません。ただ、逆に言うと、これから生まれてくる人たちがどれほどいるか。たしかにおじいちゃん、おばあちゃんが頑張ってくれたけれども、我々は、おじいちゃんおばあちゃんが設計した制度、そういう制度ができたときにいなかったではないかと。おじいちゃん、おばあちゃんの意思決定のもとで今の制度が動いているわけですけれども、我々は意思決定に参加していない。だから、いくらいい制度だと言っても、我々も異議申し立てをする権利があるだろうと、そういう反論が来ると思います。ここは当然、世代によって考え方が違ってくるだろうと思います。だから、これが最適な答えですよということは提示できません。
ですから、そういう価値判断はやめにしてしまって、現役世代があまり無理なく支えられる範囲に、若い人から高齢者に向かうお金は限定しましょうというふうに申し上げたわけです。もちろん、それに対しても反論はあると思うのです。少数ではないかもしれないけれども、多くの人が何とか納得できるのではないかなと、そういう線を考えているわけです。
後半は、非常に抽象的な形で「安心して、子供を生み、育てることができる社会」というふうに考えたのですけれども、もうちょっと具体的に言いますと、子供を生み育てることによって、例えば就業を続けるとか、そういう形でライフスタイルの選択に制約がかかる、そういうのをやめましょうということなのです。子供を生み育てるというのは人間的な営為ですので、これが人々の幸せを引き下げるようなことはやめましょう、子供を生み育てることをみんなが喜んでできるような世の中にしましょう、そういうふうなことを考えているわけであります。
〇石会長
どうぞ、出口さん。
〇出口委員
27ページに大変示唆的なご提案がありまして、一つ伺いたいのですけれども、ここのメンバーは皆さんそうだと思いますが、私の知る限り、高齢者の方はずいぶんお元気になっています。年齢というのは前からしか数えられませんから、65歳の人は、10年前の65歳と今の65歳も65歳ということになるのですけれども、社会保障がある意味で社会的な弱者をみんなで支えるということだとすると、その社会的弱者の代理変数として年齢というものを使っていたのではないだろうか。上のほうで、税制については担税力の代理変数として有効でなくなったということをおっしゃられているのですけれども、コンセンサスが得られるかどうかわからないのですが、 年金その他に対して、ひょっとしたら今の70歳というのは非常に元気で、若くて、ぴちぴちしていて現役世代。ただ、社会がレッテルを張っているだけではないだろうか。そこにもっと現役世代としてのイメージを与えて、一緒に社会に活力を与えるような様々な仕組み、そういったものをつくるという、年齢中立的な社会保障改革はあり得ないのかなということをお聞きしたいと思います。
〇石会長
どうぞ。
〇小塩教授
私も大賛成のご指摘だと思います。ここでは税制のみ年齢中立的な話をさせていただいていますけれども、同じような話は社会保障についても言えるかと思います。ただ、注意しなければいけないのは、年齢が担税力の代理変数として有効でなくなったというのは2つの意味があります。平均的にお年寄りが元気になった、むしろ弱者でなくなったという面と、もう一つは、分散が大きいというか、散らばりが大きいという面もあるかと思います。先ほども格差のお話をさせていただきましたけれども、若い人以上に高齢層の中で所得格差がある。あるいは健康の格差もあるかもしれませんけれども、そういうものを細かく見ていく必要があるだろうと思います。
ただ、それは結構面倒なことなのです。年齢で見ても、あまり細かい個人差を見るのはやめにしましょうというのは一つの行政的な知恵かもしれないのです。ところが、その知恵のメリットが、個人を見ることのデメリットをだんだん下回りつつあるというふうな状況だと思いますので、委員がご指摘のような見直しというのは社会保障の分野でも必要になるかと思います。
〇石会長
佐竹さん、どうぞ。
〇佐竹委員
私ども、現場で少子化対策ということで、国の制度プラス自治体、いろいろ苦悩しています。経済面のアプローチというのはいろいろあるのですけれども、実際現場で見ていまして、アンケートなどを取りますと、育児休業でも、いろいろな手当でも、できるだけお金を出せば子供を生むと、そういうアンケートの結果は出るのですけれども、実態を見ますと、我々の周りで秋田市あたりでも、市内でも一番所得がありそうな適齢期の人たちが結構結婚していない。どうも所得政策だけではなくて、本音の教育とか、なかなか難しいのですが、あるいはそこまでいかなくても、実際に結婚している人、あるいは結婚していない人の所得と結婚と子供の数、それの相関関係が出ている統計みたいなものはあるものですか。なかなか見たことがないんですよ。
秋田は、例えば市役所の職員なんていうのは給料が高いといわれるのですけれども、最も独身が多いのです。私が仲人するからとわいわい言っても、わりと所得の低い方が結構結婚して子供を生んでいるのです。どうも所得と関係ないみたいな感じでするのですけれども、そういうのを見たことないので、そういう統計があれば。
〇石会長
小塩さん、何かそういう情報はありますか。
〇小塩教授
特にございませんけれども、一つ指摘できますのは、たぶん所得の高い女性というのは学歴も高いと思います。そうすると、なかなか釣り合いの合う相手も少ないのではないかということです。これは日本の場合、特徴的なのですけれども、自分の学歴以上、あるいは少なくとも同じ男性しか相手に選ばないという傾向がかなりあります。そうなると女性も、男性はそれ以上に学歴が高くて給料も高くなるということになりますと、今までの規範ですとなかなか結婚するのは大変だということになるのではないでしょうか。
〇石会長
どうぞ、河野さん。
〇河野委員
2つほどお尋ねしたいのですけれども、学者の理論と現実というのはいつもある話なんですよ。去年6月、政府税調は所得税問題で提言をしたのですが、批判されたのです、都議会議員選挙があったから。しかし、そういうことだった。明らかに我々は政治的に負けたわけ。それで今のお話は、私、理にかなっていると思ってね。尾崎さんの心境と全く同じです。しかし、しようがない、ある程度負担するかという気持ちも実はあるんですよ。
問題は、選挙民の中における高齢者の数。しかも投票率は高いという状況下で、この政策を担ぐ政党がいるかどうか。それを実現する問題で、だから理論と現実と言ったんです。明らかにこういうメッセージを明確に出せばですよ。もっとオブラートに包んで、何を言っているかわからないけれども、とにかく気がついてみたら俺たち負担が増えた、というのではやはり具合が悪いんです。今の世の中、透明性が重要だから。これをクリアカットに出せば出すほど、これを担ぐ政党はおそらくいないだろうと私は思います。そんな良心的な政党、いるかどうか。
もう一つお尋ねしたいのは、最近、少子化をめぐる論壇が仮にあるとするでしょう。政治家から学者から研究者からたくさん意見を発表されています。本もたくさん出ている。先生もその論壇の流れを全部ご覧になっていると思う。私の印象は間違っているかもしれないけれども、いろいろ言っているけれども、先生おっしゃったみたいにろくな効果もないかもしれないし、そこそこのところで止まってもしようがないという容認論みたいな話ね。積極的に支持とは言わないけれども、まあ、しようがないなと。考えてみると金がかかってしようがない。しかも、できるかどうかわからないというふうな議論の人が、かなり出つつあるのではないかという印象なのです。ただ、これは印象論であって、調査をやってくれないからわからないのです。先生はずっとこの議論をやっていらっしゃるから、この間の潮流の変化みたいなものをお感じになっていたら、教えてもらいたい。
〇石会長
また難しいご質問ですが、どうですか。
〇小塩教授
論壇の変化からお話しさせていただきますけれども、私もちゃんとフォローしているわけではありません。ただ、ひと昔前、そんなに昔ではないのですけれども、政府は、子供を増やすということ、そういう個人の生活に介入しないという議論は結構あったと思いますけれども、最近どういうわけか、どんどん生めよ増やせよというような形で議論が高まっているような印象を私は受けます。
ヨーロッパはどうかということですけれども、フランスは生めよ増やせよというのを全面的に出している国ですが、それ以外の国は、やせ我慢もあるかもしれないですけれども、子供の数を増やすということで家族政策を展開しておりません。先ほど申しましたように、日本版で言いますと、「国民が安心して、子供を生み、育てることができる社会」を目指しましょうと。ファミリーポリシーといいますか、家族政策という形で子育て支援を展開している傾向があると思います。
前半は何でしたか。
〇石会長
政党が支持しないということ。
〇小塩教授
それは私も非常に悩ましい。学者ということもあって、高齢者に負担を強いたほうがいいというふうなことを言うわけですけれども、現実には極めて難しいということです。ただ、一つ言えるのは、若い人にあまり無理をさせると後で足元をすくわれますよ、なるべく無理のないような形で制度を運用しないと後々皆さん困りますよ、というふうな書き方は、こういう場ではよくないかもしれないですが、できるかもしれません。
あるいはもう一つは、高齢化の話をしていると暗いことばかりが中心になるのですけれども、長期的にはそうなのですが、ここ数年は景気もよくなると思うのです。なぜかというと、消費性向の高い団塊の世代の人たちが引退生活に入って、むしろ景気の下支え役をしてくれる可能性があります。今まで予想してこなかったような消費が出てくるということがあります。逆に言うと、長期の制度改革をするにおいて非常にいいチャンスだと思います。高齢層がまだ元気なうちに、このままですと若い人がフウフウ言って耐えられませんよというようなことを、政府が明示的に数字を出して、議論して改革を進めていくことは重要だろうと思います。そういうことを考えますと、2007年問題というのは大体深刻な話が多いのですけれども、団塊の世代の人たちが引退して守旧派にならない前に改革の議論を進める必要があるだろうと思います。
〇石会長
では、上月さん。
〇上月委員
晩婚化で少子化が進んでいるという先生のお話、全くそうだと思います。ただ、「子育てにお金がかかりすぎるから?」というふうにクエスチョンマークが出ていますけれども、結婚した夫婦は、子供は2人までと皆さん初めから決めてかかっています。その一因が、教育費が非常に高くつく。今や、いい学校に行こうと思えば塾に行かないと絶対に行けない。いい大学に行こうと思ったら親が金持ちでなければ絶対に行けないというような風潮で、現実に私が見聞きしているのもそういうふうな感じです。少子化対策で教育問題というのは一つ考えられるのではないかというのが、1点、先生にお伺いしたい点です。
それから、24ページに65歳以上の老年者の社会保険と税負担のグラフが出ています。今ちょうど確定申告の時期でして、皆さんの申告を見ていますと、65歳以上の方の税金負担が非常に増えています、実感として。財務省の方にお聞きして分かれば教えていただきたいのですが、年金の税制と老年者控除がなくなったことで、このグラフがどのくらいまで高くなるのか。こんなに極端には下がらないのではないかと実は思っているのですが、分かれば教えていただきたいと思います。
〇石会長
では、前段のほうをひとつお答えください。
〇小塩教授
教育費については、先生ご指摘のとおりです。今日お話ししたのは、児童手当と扶養控除、そういう狭い範囲のお話ですけれども、その一方で教育費という形で子育て支援というのは必要だと思います。それは子供の数を増やすということだけではなくて、先ほどちょっとご議論になったかもしれませんけれども、人的資本を蓄積するために政策的にサポートするという意味でも私は重要だろうと思います。
後半はご専門の方からのご回答があるかと思いますけれども、私がお示ししておりますのは2001年の数字ですので、今回の制度改革の効果は盛り込んでおりません。おそらく、これくらい大きな下方屈折は、今、こういうグラフを書いたら出てこないのではないかという気がいたします。
〇石会長
何か出ますか。
〇永長総務課長
今、ちょっと手元に試算ございません。しかし、年金課税の見直し、基本的には普通の年金の方々にはヒットしないように、そういう意味では大多数の年金受給者の皆様には関係のない制度設計でございまして、こういうふうに平均をとった姿ですと、そんなに目に見えて影響があるかどうかは分かりません。上月委員の関与されておられる方々が私はよくわからないので、何とも申し上げられないのですが、マクロで見ますと、年金課税の見直しでびっくりするような納税負担の差は出てこないということでございます。
〇石会長
何かあったら、また出してください。
では、どうぞ菊池さん。
〇菊池委員
18ページの1割削減すれば済むというのは、時間的には、10年とか20年とか、どのくらいまで見通した話なのかというのが一つと、あと少子化で、私は、婚外子というのはすごく気に入っているのですが、あれは日本ではあまり効果はないのでしょうか。
〇石会長
どうぞ、そういう質問が出ました。
〇小塩教授
前半は、1年とか2年という話ではございませんで、10年とか20年とか、そういう長期の平均的な話です。例えば、真ん中辺に「受給者分△11%」と書いてありますけれども、平均で11%でして、もちろん世代によって違うということです。
2番目の婚外子ですけれども、たしかに婚外子の比率と出生率のグラフを書きますと、きれいな正の相関が確認できます。左下のほうにあるのは日本、ドイツ、イタリア、南欧の国で、右上にあるのが北欧、フランス等々ですけれども、だからといって婚外子をぜひ勧めましょうというふうなことは、なかなか政策的に難しいと思うのです。それは逆に何かというと、ヨーロッパの家族政策というのは結婚を前提にしていないのです。正規、非正規関係なく、同性でも子供がいれば支援しましょうという仕組みなのです。だから子育て支援が直接出生率の回復につながるメカニズムがあるのだろうと思いますけれども、日本の場合は、先ほど申し上げたように、ます結婚していただかないと効果が出てこないという構図になっているのではないかと思います。
〇秋山委員
先ほど佐竹委員などからご質問がありました、実態についてです。データはないのですが、私自身が、所得はあって結婚していて子供は持っていないという者ですから、私から見た現状といいますか、感覚ですけれども、実は私は1987年に学校を卒業しまして、いわゆる男女雇用機会均等法ができて、総合職一期生と呼ばれる世代です。我々が社会に出たときには、仕事と家庭と子育てをすべて当たり前にやっていらっしゃる女性の先輩が非常に少なかった。そのことで、まずは仕事に対して自分たちのエネルギーを一生懸命やっていた。そこである程度仕事のキャリアを積んだ人たちが、家庭を持つ人もたくさんおります。私の周りで見ると、たぶん皆さんが想像していらっしゃる以上に、仕事も持っていて、家庭も持っていて、ある程度の所得を持っている女性が、その次に強く望むのはやはり子供を持つこと。むしろある程度の経済的な力がある女性に限って子供を適齢期のうちに生みたがるということが、少なくとも私の周りにはたくさんございます。一方で、子供の数がなかなか増えないというようなことも、私の周りで見たときに、一つは晩婚化というのが非常に大きい要素ではないかというふうに思います。
そういうふうに考えたときに、では、税制で何か影響を与えられるのかというふうになりますと、家庭を持つこと、あるいは子供を持つことに対して、何か優遇といいますか、メリットがあれば。ただしそれは、ある程度の所得がある人についてはあまり効果がないようなものですので、例えば所得制限付きの税制優遇策を何か考えるといったようなことであれば、そのことで状況が変わるということがあるのではないのかなというのが、すみません、これはデータではなくて実体験から感じていることでございます。
〇石会長
何かコメントがあれば。
〇小塩教授
ご指摘のとおりだと思います。経済的な支援は、所得の高い人にかけてもあまり意味がないのではないかという気がいたします。かけても塾の月謝の足しになっておしまいという可能性が多いです。かけるのだったら、低所得層に集中的にかけるということです。むしろ経済的な支援よりも、両立支援といいますか、子供を生み育てることと仕事を続けることが、二者択一的にならない仕組みを整備する。具体的に言いますと、託児所の整備を特に大都市圏を中心に行うこととか、あるいは、育児休暇・出産休暇を拡充する。これは法的に強制力を持っていいのではないかと思うのです。男女雇用機会均等法と同時に進めるべき政策だったと思いますけれども、均等法が先に進んでしまって、働く女性に一方的に育児の負担がかかっている状況になっていますので、それは改める必要があるだろうと思います。ただ、それは税制のお話とはちょっとずれるかもしれません。
〇石会長
時間が過ぎてしまいましたけれども、もう1問、林さんから手が挙がっていますから、どうぞ。簡単にお願いします。
〇林委員
「給付は現役層が無理なく支えられる水準に制御すべき」ということですが、例えば介護とか保育とか、こういうのを社会化すれば当然負担も増えます。ところが、社会化しないで、自己責任とか家族介護でやろうとしたときには、公的負担は減っても個人的な負担は増えます。無駄なところは減らさなければいけないけれども、いわゆる社会化するべきなのか自己責任でやるべきなのかというところも考えた上での、無理のない負担、あるいは水準ということを考えていかないといけないのではないか。高負担でも、社会化することによって比較優位で働きに出るということが可能であれば、場合によっては、そんなに負担するのだったらお金を出したほうがいい、社会化したほうがいいというような考えもありますね。そのあたりをどう考えればいいのか、ちょっとお教えいただければと思います。
〇石会長
お願いします。社会化の問題ですね。
〇小塩教授
私の先ほどの説明、ちょっと説明不足でありました。私が、「現役層が無理なく支えられる水準に制御すべき」と言った場合に念頭に置いていたのは、若い人がお年寄りを支える、そういう世代間の所得移転を伴う社会保障についてなのです。先生ご指摘のように、社会保障の中でも、今まで民間で行っていたもの、家族で行っていたものを社会化しましょうというニーズは必ずあると思います。それこそ国民の意思決定に委ねられるものだろうと思うのです。仮に人々が今までよりも社会化しましょうということで合意ができて、しかもその財源が、次の世代に先送りされるのではなくて、同世代間で完結するようなものであれば、大きな政府になればなるほど効率性の面で問題があるということは指摘できると思うのですけれども、それは国民の判断に委ねるべき問題だろうと思います。
〇石会長
ありがとうございました。まだまだ話題は尽きないのですが、エンドレスな議論にもなりそうでありますし、小塩先生、どうもありがとうございました。大変有意義なお話をいただきました。
あと、我々の身内だけの情報提供で終わりますが、次回以降の予定をお話しします。
次回は3月24日午後2時からまた今日と同じように合同会合を予定しております。歳出歳入一体改革に向けての「長期試算」というのが、財政審から出てまいりますので、これを議論いたしたいと考えております。
また、せっかく税調と財政審と2つの審議会があるので、歳出歳入一体改革の議論をするにあたっては両審議会から意見を持ち寄ったらいいと思っています。同時に、年末に小泉さんから、両方でやったらということを言われたこともございますので、やりたいとは思っているのですが、人数的に2つの審議会をコンバインするわけにはとてもいきません。恐れ入りますが、代表者数人を、選抜というわけではないけれども、ご足労いただいて、財政審と税調それぞれ5~6人になりますか、もっとなるかわかりませんが、10数人のメンバーでこの長期試算の議論をしてみたいと思っています。その人選にあたりましては、申し訳ございませんが、私にご一任いただきたいと思っています。その許可をいただきたいということです。開催日程等、目下検討中であります。
(異議なしの声)
それから、この会議は4月以降は、4月11日(火曜日)と21日(金曜日)、おのおの2時からを考えておりますので、ぜひ手帳に書き込んでおいてください。
それでは、長時間ありがとうございました。小塩先生、ありがとうございました。
では、これにて散会いたしましょう。
〔閉会〕
(注)
本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。