総会(第38回)・基礎問題小委員会(第47回)後の石会長記者会見の模様

日時:平成18年2月17日(金)4:08~4:25

石会長

総会と基礎問題小委員会をあわせました合同会議をやりました。とりたてて申し上げることもないんですが、今日のテーマは後段のいろんな資料説明より前段のほうのアメリカの税制改革の出張報告のほうによりお関心があろうかと思いますので、あの席上では触れられなかった点を二、三、補足的に説明いたしたいと思います。

アメリカの税制というのは、まだ日本には多大な影響を与えているわけでありまして、シャウプ税制を持ち出すまでもなく、言うなれば日本の税制の基盤はアメリカの税制によっていた。それから、例の1980年代中頃以降のレーガン税制改正によって、例の課税ベースを広くして税率を低くするといった大きな指針が、日本の税制改革にも非常に大きな影響を与えてきているわけです。そういう意味で今回も、ブッシュはまあ減税一辺倒で来ておりますが、ブッシュの第二期目に、アメリカは一体どういう税制改革の構想を持っているのかということを調べる必要があると思いまして、今回は5日間でございますが、かなり精力的に回って、大体の全貌を見てきたということです。

そういう意味で、これが第1点の印象なんですが、第2点として、どうも日米は税制の方向として、将来、基本的には同じ方向を目指すようになっているんじゃないかなと、このような印象を受けました。一つは、コンサンプションタックスという形の提案があって、僕の個人的関心から言うと、コンサンプションタックスは何ぞやという形で追求したかったわけですが、彼らの言うコンサンプションタックスというのは、まさに資本所得課税、あるいは貯蓄優遇、これをはっきり取り込んだ形で、総合所得課税とは決別するということなんでしょう。つまり、アメリカは貯蓄率が低いし、それから経済成長も、あるいは投資というのも非常に関心がありますから、消費ベースのほうがいいと、消費ベースにしたいときには、いろいろやり方はあるんですけれども、直接税でダイレクトでやるんだったら、従来のカルドアタイプとかブループリントとかミード報告とかありますように、所得から貯蓄を引けばいいんですね。それで直接税型の消費課税をすればいいんだけど、これを学者は好きですね、そういう意味で、ポターバさん以下、学究的な方はそういう消費だけ直接税型でやっていくということが、はっきり言うと貯蓄あるいは資本所得関係のところは全部とっちゃおう。つまり利子配当とキャピタルゲインあたりは非課税にするといったようなところだったんでしょうけど、結局、日本でもそれを言うと必ず出てくるように、利子配当、キャピタルゲインは高額所得者の所得だから、これが非課税なのは不公平だという議論が結構あるわけですね。アメリカも全くそれで、ここに新しい分離課税を入れたという意味で、今ある日本の所得税と同じようなタイプの所得税を目指すというほうになるでしょう。別の言葉で言うと、総合課税というのはもう難しかろうというところで、この資本所得課税を別によけるという意味では、二元的所得税論という言葉は彼らは使っていませんけれども、そういうふうに話がいくんだろうというような感じがいたします。

そういう意味で日本も結果的には、いい悪いは別として、さまざまなせめぎ合いの中でそういう恰好になっているわけですよね。我々は金融所得の一体課税をやりたいと思っています。これは2008年か2009年になると思いますけれども、そういう意味から言うと、アメリカが今回出した提案というのは、これはどうしてもそれだけのみこみやすいという感じですね。

それとあわせて、付加価値税が本当に入るのか、入らないのか。これからの最大の問題だと思いますし、学者はそろそろという感じを持っていますけれども、まあブッシュ政権ではちょっと難しい。財務省、共和党関係ではやはりマネーマシンという心配を絶えず言っている手前、少し難しいかなという気はしています。ただ議論はこれから、昔以上に行われるだろうと思います。少なくともレーガン税制改革の時期に比べれば、大手を振って議論の中に入ってくるのかなという感じはいたしておりますが、あくまでやっぱりこれは政治的な摩擦の中で議論は展開していくんではないかなと、このように思います。これが第2点ですね。つまり、日米共同歩調のほうで税制改革は基本的に進むのじゃないかという感じを持ったというのが個人的な印象です。

第3点目は、レーガンのとき、レーガン税制改革を申し上げましたけれども、過去20年間ぐらい、世界の税制改正の大きな流れは課税ベースを広くして税率を下げる。これは所得税でも法人税でも言っているわけですね。この流れでずっと日本も来たし、アメリカも来たし、イギリスも来たし、みんなほかの国もそう来たんですが、そろそろこのスローガンはなかなか実施しにくい要素が出てきたなと。というのは、課税ベースを拡大する余地というのはまだいっぱいあるわけです。アメリカで言えば、たしか法人税で40種類ぐらいの租税特別措置があって、建前上これを全廃にすると言ってますけど、とてもできるとは思っていないでしょう。しかし、片や限界税率を下げるというほうの税率引き下げのほうは、所得税も法人税も、もうちょっと限度に来ているということだろうと思いますね。

そういう意味で日本もこれまで追っかけてきたんですが、その流れをどこまで追っかけるのかということは、これからの税調の大きな議論になるのかなと思ってまして、今回、アメリカも限界税率を下げることによって成長率を高めたいということをさらに言っておりましたが、これがどういうふうに出るのか。つまり、課税ベースを拡大するのは増税ですよね。限界税率を下げるのは減税ですよね。これがイーブンでニュートラルならいいけれど、限界税率を下げる幅が少なくなって、それでうまく政治的に課税ベースが広がっていくと、これは増税の幅が広くなりますから、それの組み合わせをこれから書くことは難しいのかなと、日本も難しいのかなと、このように思ってます。

我々の関心は、今日のベースを受けて、それから歳入歳出一体化という大きな流れのなかで税調、これからどう議論していくかということに尽きると思います。今日の税調の終わりにも話しましたように、財制審と共同歩調をとりまして、歳入歳出一体化の準備を始めていきたい。それで、財政審の長期試算について、歳入面について我々、それなりの発言をしなければいけないかなと思っています。28日に財制審とちょうど同じテーマで、それぞれ審議を行います。初めは同じ会場でと思いましたけれども、何分人数が多くなって、とても一会場で両審議会のメンバーが一堂に会することは難しいので、ちょっと時差を設けまして、同じテーマで同じスピーカーで問題提起をしてもらって議論を深めていきたい、このように考えております。いずれ議論が煮詰まってくると、おのおのの中から代表的なことを言う人を少しピックアップしてということも考えておりますが、これはまだ先の話であります。

その後で、我々としても社会保障の問題、それから国有財産処分の問題等々、税負担を考えるに当たっての外側のほうでいろいろやらなければいけないことがありますので、3月はそういうものに充てていきたいと考えております。

以上です。

記者

先ほどの米国の税制の話なんですけれども、この二元的所得論は前からずっと議論されていると思うんですけれども、日本でも総合課税を中心にやってきたと思いますが、実態で見ると、もう既にほとんどのところが分離課税になっていて、まあ二元的所得税と言うと主税局に怒られるんですけど、二元的所得にも近い状態に既になっていると。

石会長

なってますね。

記者

そうすると今度の、例えば中期答申なり今後の税調の議論だと、今の、つまり今ある税制と何を違え、どう違うようにすべきなのか。そこはどう整理したらよろしいでしょうか。

石会長

やっぱり金融所得課税の一元化というのが実現されてないわけですよ。おのおの利子もキャピタルゲインも別個に分離課税ですからね。本来やるんだったら、それを一くくりにして、損益通算を認めてなんていう話があり得るんでしょう。ただ、そこまでいくかどうかわかりません。アメリカの場合も、プランの2の成長投資案というのは15%分離課税、利子配当、キャピタルゲインです。これは全く分離課税ですから、今言った我々が目指しているような一元化じゃないようです。我々としてもその辺、どのぐらい書き込みたいかということですが、ただ、納番も含めて、やっぱり今いろんな意味でIT絡みで、所得捕捉あるいは課税の問題、あるいは不公平ということも出てきますんで、そこは我々として一つの問題提起ができるところかなとは思ってます。まあ従来以上に関心を強めたいという意味ですね。

記者

それから財制審との絡みですけれども、3月以降の財制審との共同、あるいは中期答申に向けての、まあ向こうも答申があると思うんですけれども、3月以降の話はどうされるんでしょうか。

石会長

3月以降はまだ決めてないんですけれども、さっき申し上げた、1回、同日に同じテーマでやるというのを28日にやります。ただ、恐らく財制審では長期試算等が3月いっぱいかけて出てくるかもしれません。ちょっとそれは聞いておりませんが、そういう具体的な数字が挙がった段階で、4月になるか、4月初めからになるか、4月いつからなのかわかりませんけれど、それは我々としても、歳入歳出一体化という形で議論ができるのかと思ってます。言うなれば、経済財政諮問会議が向こうで独自にやっているわけですけれども、それとの絡み方がどうなるのか、ちょっと今のところ、そこは定かではありませんけど、我々としてもその辺のことはちょっと詰めておかなければいけない思ってます。

記者

いわゆる格差問題ということについて3点ほど伺いたいんですが、まず、今その格差が拡大し、かつ固定化しつつあるという指摘に対しての先生の現状認識と、先ほど限界税率の話が出ましたけれども、これまでの累進構造を緩和してきたことが今の格差拡大の原因になっているんではないかという指摘があることに対してのご見解が2点目です。さらに今後、抜本的な税制改正を目指すに当たって、先ほど見直しの時期に来ているというお話もあったんですが、所得の再分配機能の面で大きな流れを、方向転換する時期に来ているのかどうかというご認識について伺いたいんですが。

石会長

今後の税調の議論でも再分配の問題、格差是正の問題が一つのテーマになり得ると思ってます。つまり、税収確保とか財政赤字解消とかギャップ解消以外に、税制改正をやるときには、恐らく所得税、法人税あるいは資産課税をどうするかというのは、これは必ず出てきますから。ただ、いつごろからどうするかということは議論できませんけど、我々の来るべき中期答申には、やはり書き込むべきテーマであろうと考えてます。

そこで今、国会で格差が拡大している、いないという議論が行われてますけれど、ジニ係数についてみると、1980年ぐらいから一応拡大してるんですよ。だから僕は、なにも小泉さんになったから急に拡大したというよりは、中長期的にはですね、それはいろんな要因があるんでしょう。なにも税制だけじゃないと思います。そこで問題は、これを税とか社会保障でどういうふうに是正あるいは緩和していくかということで、恐らくご質問の内容として、最高税率引き下げ、あるいは累進税率のフラット化によって、格差が拡大したんじゃないかというところをどう考えるかということだと思います。税調としては、今後37%、13%、所得税と住民税を合せて50というのを40対10に変えますけど、この50はですね、やっぱりトップレートとしては世界でまさに一番高いぐらいのレートであって、これを高めるということは難しかろうと思ってます。現にアメリカあたりも35を下げるとか、相変わらずまだ国際的な流れから言うと限界税率を高めてどうこうということではないと思ってます。それと同時に累進税率を昔のように高めれば高めるほど、資本所得課税が難しくなりますから、それを分離課税にしなければいけないという論理になりますよね。だから、私は個人的には格差是正云々かんぬん言うんだったら、やっぱり利子配当、キャピタルゲイン等々の資本所得課税を強化すべきだと思います。今、配当とキャピタルゲイン10%という異例の低さになっておりますが、これ、いずれまた継続要望もあるのかもしれませんけど、少なくとも元の2割に戻して云々という議論は当然あるわけです。だから最近のいろんな証券関係の不祥事もあってですね、そういうところの課税をしっかりしなければいけないということは、恐らく社会もそう思っているでしょう。我々も関心も持ってますので、それはこれからの議論だと思いますが、トップレートで是正するというのは難しかろうと思ってます。あとは、まあ社会保障との組み合わせでしょうね。そんな印象を持っておりまして、これから社会保障関係、あるいは人口減少社会との関係、あるいは格差社会との関係でいろいろヒアリングも、外から聞いて受けたいと思ってますので、税調の皆さんの意見もいろいろに分かれるかもしれませんが、問題意識を持っていると思いますので、それはこれから詰めたいと思ってます。

記者

今日の議論とちょっと外れるんですけれども、今日、GDPの発表があって、年率5.5%。

石会長

それは名目で…ああ実質で。

記者

実質ですね。前期比で1.4%という成長なんですけど、これから歳入歳出一体改革、まあ税を議論する立場から今の経済状況をどうご覧になってるのかというのをお伺いできますでしょうか。

石会長

まさに「いざなぎ景気」を超えるという話が大体一般化してきましたよね。それで例のエコノミストのエモットさんですか、日本の日はまたのぼると言われているように、私もやっぱり三つの債務問題解消を考えて、あと民間中心の景気回復が始まってますから、僕、これは非常に根強いんじゃないかと、底堅いと思います。そういう意味で定率減税、この秋に後半部分をどうするかこうするかという問題もですね、それはしなくてもいいのかなと思います。その時の状況によりますけどね。まだしばし続くし、調整局面というのはいずれは起こるのかもしれませんけれども、日本の経済の構造的な強さが発揮される時期を迎えたんじゃないかと思います。ただ、これでもって自然増収で財政赤字を消して、例の「上げ潮派」っていうんですか、ああいう風頼みのようにいくのもなかなか難しいだろうし、やっぱり構造的にしっかりしたものをつくらなければいけない。それと同時に名目所得と長期金利の兼ね合いがあって、あくまで成長率が高いからといって、将来の必要とされる税収確保のマグニチュードといいますか、規模がそれほど減らせるかどうかはわからない。そういう意味では、我々はやっぱり構造的にしっかりした税制なり制度の仕組みをつくらないとだめだろうと思ってます。でも、景気が落ち込むというのに比べれば、上向きになっていくというのは非常にウェルカムでありますから、それは我々の税制改正にとっても、プラスに作用すると思ってます。

(以上)