基礎問題小委員会(第20回)後の石会長記者会見の模様

日時:平成16年10月1日(金)16:08~16:27

石会長

今日は再開いたしまして2回目の基礎問題小委員会を開催いたしました。大きなテーマが二つと、その間に若干の小さな報告事項があったということです。一つは、みずほ証券の高田さんから国債市場の動向につきまして、今後の見通し、国債値崩れ、あるいは長期金利上げ等々も含めてどういうことが問題になるかを整理いただきました。2番目のトピックスといたしまして、田近委員の方から社会保障と財政という形で、特にコストの方の面からの議論を整理してもらいました。そのほかに、今、「社会保障の在り方に関する懇談会」というのがございまして、私と宮島さんの2人が出席しておりますので、その状況をご説明しました。まだ2回しかやっておりませんので、資料が出ておりますが、これに沿ってざっと説明したという形であります。

資料が3部出ておりますが、主要な論点は国債の資料と社会保障の話だという形で、その論点を少し整理させていただきます。

みずほ証券の高田さんは、この資料に即しまして、今どういう状態に日本の国債市場は置かれているかと。そこで、非常におもしろい問題提起として、3ページ目、しばしば外国に行くと、なぜ日本の国債金利は低いのか、国債が大量に発行されてもなぜ金利が下がるのか、あるいは日本の銀行はなぜ国債に投資するのか、そしてまた日本の投資家はなぜ外国に投資しないのか、この4点が絶えず問われると。それについてご説明したいという形で、この資料全般を使ってご説明いただきました。そう言ってはなんですけれども、大体一般的な論点を整理し、裏付けのデータをいただいたという形で、考えております範囲内での議論であったと思います。流れについては、あとはこの資料を、興味ある問題が出ておりますので、見ていただけたらと思いますけれども、議論としては、今後の長期金利は一体どうなるのかねと、誰しも議論としては疑問を持ちますよね。それに対して、いろいろな議論というのがあり得るけれども、4~5年というスパンで見れば、70年代、80年代みたいな高成長は期待されないという中で、せいぜい1%プラスアルファぐらいかなと。上がっても2%ちょっと行くぐらいで、昔みたいに、ここに出ておりますが、6%、7%などという高い水準の長期金利の再来はまずなかろうという形のことをおっしゃっていました。これで国債に対する信頼が著しく衰えて、キャピタルフライトみたいなことが起こって、高金利がドカッと来るという可能性を全面的に否定はできないけれども、昔みたいな回帰はないだろうと。ただ、個人貯蓄が大分減るだろう。つまり、少子高齢化ですから、ディスセービングが高齢化社会に起こっていますから減ってくる。組織面でのショート等々から言えば、貯蓄減少という形でリスクプレミアムを長期金利の中に織り込まれてくるかもしれないから、そういう意味では上がりの方には行くだろうけれども、そんな極端な上がり方は4~5年のタイムスパンではなかろうというのが大体、市場の見た形のご判断でした。

2番目は、当然これから景気はよくなるだろうという前提に立てば、よい金利上昇と悪い金利上昇がありますよね。景気回復に即して上がるならば、当然のこと、よい金利上昇で、これは構わない。問題は、財政赤字、財の不健全がもたらすであろう、言うなれば悪い金利上昇に対して、財政健全化とか、はたまた増税とかというようなシグナルを市場がどう受けとめるかという形ですね。言うなれば、財政が健全化して、国債がこれ以上出てこない、出るのが少なくなるということになれば、それに対して好感を持って、そう何でもかんでも金利を上げて、国債を引き下げるというふうにはいかないのではないかと。これを綱引きでやろうと。ただ、この綱引きは、どっちがどうかというのは、その状況ごとで判断するので何とも言えないという形ですが、財政健全化というのも市場はある程度評価する、そういう局面もあろうかなという議論をいたしました。

もう一つ、おもしろい質問があったんですが、大量に公債発行が出て、言うなれば、今の低金利をベースにしまして発行されているわけですが、因果関係はどちらかわからないんですけれども、低金利が、続いているから国債がどんどん出ていたのか。国債を発行しなかったら一体どういう状況になったかというような議論もこれまたあり得るわけですよね。それには、一般的に恐慌というものを回避したというごく常識なお答えが帰ってきたという形で話は終わりましたけれども、いずれにいたしましても、国債というものを抱えていて、これまで何度か日本経済は大量の国債発行によってしのいで来たけれども、いよいよ今度は国債をどう処理するかという形に市場が反応しだした時期であるから、これからはその成長と財政再建の度合いと、それから国債管理政策といったものを踏まえて、かなりナロウパスを与えざるを得ないだろうというのが結局我々の得た結論で、ある意味ではごく常識的な話だったかもしれません。

田近さんの問題提起は、かなり刺激的でありました。ここにずっと書いてあることを一言で言えば、今の年金、医療、介護、これを仮に保険制度という視点で見つめると、国庫負担というものが極めて大らかに、あるいは原則的に入ったがゆえに、今の年金財政破綻というものを招く一つの大きな原因になっているというのが視点であります。結局、国庫負担というものの割合が増えれば増えるほど、負担感がなくなるわけです。年金にしても、医療にしても、介護にしても。したがって、負担がなくなると、政治的要因もあって受益の幅がどんどん膨らむと。したがって、受益と負担のバランスが乖離することによって、言うなれば、保険機能が次第に失われてきて、それが過去ずっと積み重なってきた、年金が典型的でありますけれども。過剰な給付で、不人気なことをしたくないという事情もあって、負担が抑えられたと。そのギャップを国庫支出、国庫負担金で埋める。したがって、保険者の側から言うと、国庫負担の割合というのは単なる収入なんです。単なる収入として見ているところが、言うなれば受益と負担の関係を極めていびつなものにする。これが最大の問題であると。したがって、保険というのが言うなれば、保険料をちゃんと払って給付を受け取るということが明確な人のみが保険に入ってきて、それ以来、保険が払えないような人に対して、恐らく最終的には政府が出てきて、代わりに払ってやるとか、免除するとか、税金でその人を救ってやるということでしょうけれども、給付の一定額を国庫割合で国費で面倒見てやるというところにどうも現在の年金のずさんさと、あるいは年金財政の持続不可能性の元凶があるということを彼は言っておりまして、それについては、おおむね税調のメンバーにそれなりの賛同を得たのではないかと、このように思います。

給付の中の何割を国庫で面倒見るということが残りのところの問題を極めてコストが少ないように見せかけてしまう。税金で当然払っているわけですけれども。しかし、狭い意味で年金なり、医療なり、介護なりの保険だけ抜きますと、そこが極めて一種の収入と見てしまって負担感がなくなるから、過大な要求が出てくる。典型的なのは、介護が見直しの時期が来ておりますけれども、最近、施設サービスと在宅サービスと分けて見ますと、在宅の方がやたらと増えてきて、これ以上持ちこたえられないんじゃないかという議論も出てきておりまして、今後どうするかと。つまり、保険料を払えない人まで保険の中で面倒見て、言うなれば肩代わりするという発想をとっているから、そうじゃなくて、彼の主張は、そういう人は保険の外に出して、いわゆる保険機能を汚さないという点が重要ではないか。これも一つの意見ではないかと、このように思い、それなりの支持というか、賛同を得たのではないかと、このように思います。

この辺の一連の議論は、彼の資料では2ページあたりに書いてありますけれども、要するに日本の社会保険という形で運営されている、言うなれば介護、医療、年金、すべからく過大給付を起こして、負担を少なくしているのは、結果的には保険財政を破綻状況にしますけれども、この原因はやはり国庫負担だというところですね。したがって、自己負担を高め、コスト意識を持たせるのも結構だろうと。ただ、彼のためにあえて弁護しておきますと、では保険料を払えないような低所得者はどうするかといったら、それは保険の外で政府が面倒見る。その段階で政府が出てくるのが順序としていいのであって、初めから誰でも彼でも面倒見る、給付の段階で何割払ってしまうというところがどうもずさんな保険の運営になるだろう。

典型的なのは、今 430兆円という形で出てくる年金債務の問題ですよね。この数字は6ページに出ておりますけれども、年金債務の問題もひとえに過去数十年課されてきたいわゆる受益と負担のリンクを要するにぼやかしてしまった国庫負担のことで、みんな嫌なことは国庫負担に逃げ込むと、それが問題ではないかと。これからその辺を直さない限り、今言った社会保険という制度は復活しないというのが彼の主張であり、それについては今申し上げたような形で支持が非常にあった。議論を固める中で、今言った保険の中、保険の外で問題の解決の仕方があるべきなのに、保険の外で処分すべきことまで中に入れ込んでしまう、つまり保険料も払えない人まで保険の中に入れて内部補助的にやるというところが問題ではないかと。この辺が今日の得た結論であります。

2回トータルな議論をいたしました。前回は井堀さんの財政再建のプログラムの問題、それから今日は国債と社会保険の財政的な基盤の問題ですね。一応トータルの面で議論を整理いたしましたので、来週以降というか、次回以降、次回は総会をやります。これまで2回やりました基礎小の報告を今度の火曜日、5日にやって、その中で総会の方々からもいろいろな、例えば今問題になっているようなことをすべて含めて議論をしたいと思います。例えば、定率減税の話も消費税の話も随分中に出てきていますから、そういう点について、それなりのお考えをお持ちの方もいらっしゃると思いますので、それを今度フィードバックして行うような形で基礎小に持ち帰って、また詳細な議論は積み上げていきたいと思います。

それから、今のところ、基礎問題小委員会、来週2回やりますけれども、8日に個別の税にそろそろ入ろうかと思いますので、個人所得課税の問題を全面的に取り上げたいと。そこでは、定率減税の問題も出るかもしれないし、三位一体の税源移譲の問題も出るかもしれないし、あるいは金融小の一体化等々、そういうところに絡むすべての、言うなれば改正、構造改革の問題を取り上げて、今後の方向を少し探っていきたいと思っておりますので、より税制改革の中身に入った議論ができるのではないかというふうに考えております。

以上です。

記者

本日までの議論、基礎的な話ということでしたが、今日の保険と給付の関係に絡んで、例えば定率減税を廃止した場合に、基礎年金の国庫負担率の引き上げに充てるという方針もありますけれども、そういったところまで踏み込んだ話……。

石会長

いや、それは今回一切話に出てきておりませんでした。ただ、その問題意識は絶えずありますから、いずれそういう話題が出てくるし、特に総会あたりでその辺の話が出てこようかと思いますので、そのときには議論したいと思います。今日は、そういう話は時間の制約もございますが、出てきておりません。

記者

昨日、ロシアが……。

石会長

環境税ね。

記者

議定書を批准するということで、それで環境税というのをクローズアップされていますけれども、それについての取り扱いというのは税調……。

石会長

税調としては、かねがね基礎問題小委員会で環境税というものを取り上げる予定にしておりました。この間の実像把握のところの6月の報告書の中にも環境を1項目挙げておりますように、我々としても非常な関心を持っております。そういう意味では、ロシアが批准しない限り京都議定書は発効しませんから、議論が本格化する土俵は満たないと思っていましたので、今回の方向は歓迎すべきことではないかと思っています。ただ、さはさりながら、一気呵成に環境税の問題に突入するだけの大変化になるかといえば、そうでもなかろうと。ハードルは確かに超えましたけれども、別に京都議定書が発効されなかったら、この環境税の話はやめろという話をしていたわけではありませんから、基礎問題小委員会の12日、火曜日になりますが、今言った一般的な状況、賛否両論を踏まえて事務局にとりあえず整理してもらおうと思います。ご存じのように、今、環境省から税制改革要望として出てしまっています。税制改改正要望として具体的に出た案件については、これまでの慣行で公平不公平も出てきますので、税調では当事者から話を聞いていません。それで環境省の人を直接呼んできて話を聞くとか、経産省の人から反対論を聞くとかということは税制改正要望ということが絡んでいますので、間接的に極力情報を集めて、それをベースにして議論したいと思います。そういう意味で、環境税の問題も我々としてはしかと受けとめて、今後の議論はやっていきたいと考えています。

記者

今の環境税ですけれども、要望と言っても一言だけしかないところなんですが、そういう状況で、どこまで検討というか……。

石会長

おっしゃるとおり、環境税の具体的な設計なくして要望といっても、それは要望になり得ないわけだと思います。まず京都議定書が仮に発効するとすると、これは来春ぐらいの感じでしょうけれども、日本としては国際的責任が出るわけです。1990年比で6%ということは、既に7%強が出ていますから、10数%、2008年から2012年かな、カットしろということは、やはり考えなきゃいけないと思いますよ。税調としても。それは当然のこと、環境税ということを議論する恐らく一番の担い手とは思いつつも、削減に当たっての具体的な手段としてはほかにあるわけですね。例の排出権売買の問題もあるし、後進国のてこ入れをした後でグリーン何とかというもの等々ありますから、その中で環境税というのはどのぐらいの役割を果たすかということをとりあえず決めてもらってというか、要望側がしっかりしてもらって、大きなフレームをつくってもらって、その中での環境税の位置づけをしっかりしてもらわないと議論ができない。したがって、それをした後ですよ、環境税の中身の詳細設計は。だから、まだ本格的な議論に突入する前には、かなり議論を、準備的な議論が必要だという印象をうけますよ。ただ、今言った国際的責務というのが発生してしまいますから、そういう意味では、政府全体としての責任であるだろうし、日本としての責任もありましょう。そういう関心を持ちつつ、税調としても議論は与えられた中で、与えられた現状でやっていきたいと思いますが、我々が率先してそういったフレーム等々全部かなぐり捨てて、環境税だけやるかというと、これをゴールにしてはまずいと思うんです。大きなフレーム、スキームの中で環境税をしかと位置づけて、その中でどういう環境税にするかというのが手順だと思いますから、順を追って議論したい、このように思っています。

(以上)