基礎問題小委員会(第10回)後の石会長記者会見の模様

日時:平成16年4月23日(金)16:20~16:33

石会長

それでは、第10回目の基礎問題小委員会をやりましたので、ご報告を申し上げます。例の「実像」把握ということでずっと続けているテーマで、実は少子高齢化が今日のメインテーマでございました。事務局から、お作りいただきました参考資料、「基礎小10-1」というものと、それから今日はお二人のスピーカーをお招きいたしまして、慶応大学の津谷典子先生と、それから社会保障・人口問題研究所の加藤久和さん、お二人からさまざまなお話を聞きました。今日は、皆さんの印象は、まことに有益な情報をいただいたと。今日ご出席の記者の方は、いろんな意味でこの感化というか印象を受けたと思います。特に、独身の方にはだんだん厳しいような話になるというような話は身につまされる人もいたかもしれませんが、今後、日本の人口減少社会に入ったときのいろんな形での波及効果、これが分かったと思います。ぜひ、今日3種類、データが出ておりまして、膨大な量のデータであると同時に、非常に質の高いデータであると思いますので、折にふれてご参照いただきたいと思います。そこで、非常にスピーカーの方々が、ハッスルいたしまして時間をほとんど使いきってしまいましたので、質疑応答をするその余裕がなくて時間を15分延ばしたんですが、それでも、なかなか時間の配分の点から不満が残ったかもしれません。

二、三感想を申し上げます。これまで、右肩上がりの経済で、かつ人口増加社会というのを前提に、すべての仕組みができていたわけですね。ところが、ここにもさまざまなデータがございますように、実は日本はこれから人口減少社会になり、2050年には1億人を切るだろうという推計はほぼ確実なんですね。そういう社会で一体どういうことを考えるかということを議論しなきゃいけない。その最大の原因は、例の特殊出生比率の低下に伴う少子化であり、かつ、寿命が長引く意味での長寿化ですね。今日はお二人の先生とも、どちらかといいますと少子化の現象を取り上げていただきました。従来、高齢化のほうにウエイトがあって少子・高齢化の現象が分析されましたが、今日はあんまり従来深く掘り下げてなかった少子化の原因とか将来予測とか、そういう点でお話しいただきましたので、たいへん参考になりました。そこでもう一つ重要な点は、人口の要するにモメンタム、つまり人口は増える、減る、ある方向にいったときの弾みですね、この力というのはそう容易に復元しないということなんですね。どういうことかといいますと、今、特殊出生率が1.32とか1.39という予想 がありますけど、これが、例えば20~30年後に2.07。2.07というのは、人口を減らさない数値ということが常識化されておりますが、それに戻ったとしても、今世紀中に人口が1億を超えて今のようになるということはあり得ない。おそらく、このモメンタムが一旦落ちだしちゃったら、まあ坂道を転げるような格好で、そこの人口減少は続くだろうという形で、これは大変なことであるというお話をいただいたわけです。そういう意味で、人口問題というのは非常に長い目でみなければいけないと同時に、一旦ある方向に行ったら、なかなか復元はできないだろうと。

もう一つ感想としては、だったら移民を入れたらいいじゃないかという、例の補完移民という概念があります。これは津谷先生の資料のどこかに書いてございましたが、補完移民を入れると、まあ生産年齢人口をカバーするために移民が必要だとか、等々の数字が出ておりますが、とてもじゃありませんが、外部から移民を招いて、日本の今抱えております人口減少社会の諸現象をカバーしきれるような状態ではないということで、まあ結局、国内で地道に努力をして、少子化現象をどれだけくい止めるかというあたりが最大の問題になるだろうと。つまり、少子・高齢化で高齢化のストップということは、長寿化のストップということは当然あり得ない話でありますから、少子化をどうやって是正するかというあたりに政策の問題はいくであろうということですね。まあご存じのように、少子化が進めば進むほど、年金であるとか、それから職場の問題であるとか、まあさまざまな点でいろんな問題が起きてくるよということだろうと思っております。そういう意味で、人口の問題はとりわけ年金、そして世代間の公平感の問題あたりが一番のポイントになると思いますが、当然のことながら、それに絡んで税負担の問題も出てくるし、まあ言うなれば、将来の納税者の数がどうなるというのも、この人口の構成にえらくかかってくるわけでありますので、その点につきまして、われわれも基礎的な知識として、今日、しかといろいろ受けとめました。したがって、こういう少子・高齢化の政策としては、単に政府が、例えば児童手当を増やすとか等々のような問題だけでケリがつかないだろうと。もっと家族の問題等々にも深く入り込んでという形の議論を今日、だいぶいたしました。

そこで二、三、フロアからでた質問のなかで、特に重要な、あるいは皆さんが関心を持った問題としては二、三あるんですが、一つは、結婚がだんだん行われてなくて、1980年代になって急激に各年齢別の未婚率が高まっているわけですよね。こういうものを結局どうやって防ぐかというときには、やっぱり男女のトータルのパッケージとしての、結婚が非常に有利、魅力があるとかの議論か重要になる。ある委員から、女性の自覚を促す…つまり子どもを産んで、言うなれば社会的に貢献するというような、そういう教育をしてはどうかといったような質問が出ました。あるいは、戦後一貫してずっとながめてきたときに、ちょうど少子・高齢化が顕在化してきた頃に日本のグローバル化が進み、国際的な意味での影響がやはり及んでくるのではないかといったような、対外的な要因というのは関係ないのかねといったような質問もでたということであります。

そういう意味で今日は幅広く基礎研究、基礎的な勉強をしたという形で、直接ポリシーに、政策決定に関しての議論にまで及びませんでしたが、今後、今申し上げたようなストーリーで、来るべき税制改革の根っこになる人口のさまざま抱えている問題が分かったという形で、われわれ皆、満足したと思います。

この「実像」把握の問題は、あと残っているのがグローバル化をテーマにしたもの、それから環境の問題、それから公共部門の問題等と、あと三つぐらいかな。で、まとめに入りたいと考えております。4月27日にはグローバル化をテーマにした話で、3人ほどのスピーカーを今考えておりますし、5月14日には環境をテーマにして、この「実像」把握の最後のほうの主要なテーマにしたいと考えております。というわけで基礎問題小委員会、もっぱら5月の末を目指して、この「実像」把握のほうで論点を整理しつつまとめていきたいと考えております。

以上です。

記者

まず、先程、先生、少子化対策は児童手当みたいなものではカタがつかない、期待はできないというふうなことをおっしゃったんですけれども、例えばこれから所得税対策を進めていくなかで、扶養控除のあり方というとか、位置づけについてはどのようなご所見をおもちでしょうか。

石会長

そうですねえ、今日の話が、即扶養控除を増やすのか減らすのかという議論に結びつけるのは非常に難しいと思います。配偶者控除についてはいろいろ問題が出されていますが、扶養控除というものについては、おそらく所得控除を見直すというなかでも、扶養控除というものは、特に子どもの扶養控除についてはやはり重要な控除として残ると思いますよ、それは。そういう意味で扶養控除と、あるいは、逆にいって歳出面の児童手当、それとの絡みがどうかなんていうあたりの議論になると思いますが、今日の問題から、少子化から即扶養控除の額がどうだこうだという話にはちょっといきにくいと思いますが、例の共稼ぎ、片稼ぎの問題から配偶者控除がどうかなんていう話の次元ではなくて、やっぱり基礎的な控除としては残すような方向としての議論に使えるとは思ってます。

記者

残すといいますか、拡充の方向なんていうのは考えられませんか。

石会長

拡充の方向もあるかもしれません。というのは、さまざまな控除がだんだん整理していくということをやったときに、やっぱり基礎控除というのはきわめて重要な控除であって、第二の重要な控除は扶養控除でしょうね。つまり家庭の、あるいは世帯の担税力を維持するという意味においてですね。だから、それを今日みたいに、育児の社会化とか、子どもを増やすのが社会的に価値が高いという意味で扶養控除を使ってはなんていう議論にいくのかどうか、ちょっとこれは議論したいとは思いますが、そういう視点も出てくることは出てくると思いますね。

記者

例えば扶養控除なんですけれども、お年寄り向けの控除については縮小というか、子どもに限るとか、そんなことは・・・。

石会長

おそらく、今、同居老親がどうだこうだと、かなり付随的にくっついてる一種の扶養控除みたいのがありますけどね、あれは基本的にすっきりさせておく方向ならば、そっちのほうは見直しの方向になるでしょうね。ただ、そういうことをだんだんやったときにやっぱり、今言った少子化というような問題で言うなら、やっぱり児童なり子どもなりのほうにウエイトはいかざるを得ないと思います。まあこれも今日のような話を踏まえて、もう少しみんなで議論したいと思ってます。

これだけ膨大な資料を、私はあえて要約もしなかったからお分かりにくいと思いますが、雰囲気は分かっていただけると思いますが。

記者

今日の話題はほとんど少子化対策というか、どう少子化がなっていくかという話だったと思うんですけども、これは増やしていかなくちゃということは、税の面でもそういうスタンスで・・・。

石会長

ただ、従来から税調で、少子化対策で税をという直接のリンケージはとれない…とりにくいというのがわれわれ、大体そういうスタンスで議論してるんですよ。つまり、例えば扶養控除、38万円ありますよね。それから児童手当が5,000円かな。それで今、これだけ高学歴になり、雇用で恵まれハイサラリーになった女性が、生涯のコストを大いに払ってまで、そういう育児に励むかねという、あるいは子育てに励むかねという議論があるわけですよね。だから、税でやるのはほとんどマイナーではないかと私は考えてます。それより、やっぱり子育てがより便利になるような、あるいは女性の生涯所得の喪失が社会的に見て防げるようにするとか、あるいは男性の、亭主ですな、家事参加が増えるとか、こういうことを今日は津谷先生はおっしゃっていましたし、それから、女性の社会進出が進むほど特殊出生比率は高まっているんですね、統計的には。だから、そこは正の相関になってるんですよ。だから、女性が社会にいけばいくほど子育てが増えるということは、逆にいって、女性は社会に出ない、進出しないといって出生率が増えるわけでもない。ということは世界的な傾向のようでありまして、それは今後ひとつ検討すべきことかもしれませんね。ただ、今おっしゃったように、人口政策、労働政策としてやるという話と税でやるという話はだいぶ距離があると思いますね。

(以上)