第27回総会・第31回基礎問題小委員会合同会議 議事録
平成17年3月18日開催
〇石会長
まだお見えになっていらっしゃらない委員の方もいらっしゃいますが、時間になりましたし、今日は盛り沢山に予定がございますので、始めたいと思います。
今日は、お二人の専門家をお招きいたしまして、医療の問題と少子化の問題をまず最初にプレゼンテーションをいただきます。パワーポイントを使うということで、いつもと席が変わっておりますが、たまに変わるのもいいでしょう。
もう一つは、例の「社会保障の在り方に関する懇談会」でも問題になっておりますし、国会でも問題になっておりますし、小泉さんも問題にしていますが、納番です。納税者番号の議論も少し整理しておかないといけないと思いますので、お二人のプレゼンテーションが終わって議論が終わったあと、3つ目のテーマとして、納税者番号を今の段階でまとまったところを事務局にご説明いただいてというふうに考えております。
最初に、「医療制度改革」につきまして、京都大学大学院の西村先生からお話をいただきたいと思っています。西村さんは、経済学者ですけれども、医療経済の専門家でありまして、両方おわかりになって、その辺のことでいろいろ業績を上げられておりますし、現在、社会保障審議会の医療保険部会の委員でもいらっしゃいます。『保険と年金の経済学』とか、『医療と福祉の経済システム』等々、多数著書がございます。
では、20分ほどで時間を限って申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。
〇西村教授
実は私、昨年の12月に脳梗塞になりまして、リハビリ中で、まだ言葉がちょっと不明瞭でございますが、どうかご容赦いただきたいと思います。
今日は、「医療制度改革」というテーマですが、どちらかというと、ここに書きましたように「経済との調和」という話に焦点を絞って議論させていただきたいと思います。現在、厚生労働省でも医療保険制度改革の議論がございますが、それについては、ご質問がございましたらお答えするということで、要点は省略させていただきたいと存じます。
(スライド1)
私のこれからお話し申し上げる基本的な考え方を先に申しますと、意外に気がつかれていないことですが、医療費というのは半分が人件費です。お医者さん、看護師さん等の給料です。したがってそこに着目すると、経済との連動というのはそんなに難しくないということを簡単にご説明申し上げたいと思います。
(スライド2)
それともう一つ、重大なポイントは、高齢化が大変進んでまいりますので、それに伴って上昇し得ると考えられる医療費を、どういうふうにしてコントロールしていくかということが課題となろうかと思いますので、それについて幾つか私なりの考え方を申し上げたいと思っております。
その関連で特に私が強調したいと思っておりますのは、今後、予防のあり方をどういうふうに考えていくか。実は、厚生労働省の医療保険制度改革についての議論もここが一つの焦点となっておりまして、これをどういうふうに考えるかということが大変大事だと思っております。
もう一つは、非常に込み入ったテクニカルな話でございますが、診療報酬制度にメスを入れないといけないのではないかという論点がございまして、大体以上のことをこれからお話しさせていただこうと思っております。
(スライド3)
最初に、このグラフをご覧いただきたいと思います。左のほうは、誰が払っているかということが書いてございますが、右のほうをご覧いただきますと、49.8%が医療従事者の人件費。このあと、ここらあたりを一つ一つチェックしたいと思いますので、数字を読ませていただきますが、薬代が20%くらい。これは実は平成13年のデータでつくったものでございますが、平成2年という11年前の同じ図がございまして、この構成比についてはほとんど変わっておりません。総額はもちろん上がっておりまして、今日、そういったグラフは省略しておりますが、最近時では、ほぼ30兆円ということで安定しています。
それ以外に、医療材料とか経費とか、そういったものがございますが、このあたりを一つ一つチェックして、そして結論を申しますと、私は、総額管理という言い方はちょっと刺激的過ぎはしないかと思っております。事実上、ある程度の総額、医療費全体の総額を管理していくことは決して不可能ではなくて、そのための政策手段を考えることができるのではないかと考えております。
(スライド4)
しかし、人件費以外がちょっと厄介でございます。人間のケア、あるいはお医者さんの知恵というものに対して一定の報酬を支払うことに関しては、人件費として処理することができるわけです。国民全体が決して豊かにならないような状況では、お医者さんも豊かになるべきではないし、国民がみんなどんどんこれから成長して豊かになれば、それに伴ってお医者さんの給料も看護師さんの給料も上がるべきではないかと考えますので、人件費についてはほぼ連動するという施策そのものにもそれほど無理がないというふうに考えます。
しかし、それ以外です。問題は、近い将来、遺伝子技術の進歩等によりまして、薬剤の価格が急騰する可能性もいろいろ議論されております。しかし同時に、それが命に直接かかわるような技術進歩であった場合、おそらく国民は、それが大部分の人たちに利用可能なものとなるように願うと考えますので、そこをコントロールしていくのはなかなか難しいと考えております。
あとで簡単に申しますが、先だってから「混合診療」という言葉が話題になりました。例えば抗癌剤が新しく出た場合に、保険適用が云々ということが議論になりましたが、これは実際問題、なかなかシビアなものでございます。もしその薬剤が効果的である場合ですが、一部のお金を払うことができる人だけが使うことができて、そうでない人は使うことができないというのは、ちょっと問題であるというふうに考えております。
しかしながら、ここに書きましたように、終末期とかそういったところに関しては、薬剤を含め医療の効果というのははっきり出てまいるわけですが、実は、意外にこれまで注目されていなかった分野が予防分野でございます。この分野は、ちょっとお考えいただければわかると思いますが、最近の一番わかりやすい例を申しますと、抗肥満薬という肥満に対する薬が出てきております。肥満というのは、ある一定程度以上ですが、非常に病気になりやすいということがはっきりしております。したがって、肥満でないほうが健康で、病気になりにくくて、医療費もかからないことはほぼ確実であります。
したがって、もし抗肥満薬というものが出てきて、これを保険に適用して、現在肥満と言われている人たち全部に適用すると、それだけで私の推計では1兆円ぐらいの医療費が余分にかかります。今言ったことは、肥満でわかりやすいと思って申し上げましたが、意外に国民が気がついていないのが高血圧症というものです。これも、病気と言われると、病気だと思って治療をするわけですが、非常に微妙な分野でございますから、高血圧症にも実はやはり1兆円ぐらいの医療費が現在使われておりまして、このあたりの効果を測定するのは非常に難しい分野でございます。
したがって、結論を先に申しますと、この予防分野の保険適用についてやはりきちっとした見直しをする。あるいは、これも意外にこれまであまり注目されてこなかった分野ですが、検診というものも、多くの国民は、検診で病気が見つかるといいから、これは税金か保険でカバーしてやるのが当然と思っている方が多いのですけれども、費用対効果という観点からこの分野を調べますと、意味のない検診がたくさんあることが明らかになっております。したがってこのあたりは、医療費の節減という観点から見直すものではないかというふうに思います。
(スライド5)
以上、抽象論でございますが、では具体的にどうするのかということで、やはり具体的には、先ほど申した診療報酬体系の見直しが問題になります。ここではデータをお示ししておりませんが、ここ10年ほどに関して申しますと、医療費というのは、皆さんがいろいろ心配なさることに反して比較的優等生です。つまり、そんなに激しく上がっておりません。したがって、これを無理やり抑える必要はないと考えております。唯一例外についてはあとで申したいと思いますが、しかし、上がり方が、国民にわからない形で上がっていくということを問題にすべきではないか。
一番簡単でわかりやすいのは、例えば、お医者さんが高い収入を得ているかどうかということです。これに関して言うと、病院の勤務医の給料はここ10年ほとんど上がっておりません。むしろサラリーマンの給与総額の伸びと軌を一にしておりまして、上がっておりません。それから、看護師等の人件費に関しても、高齢化に伴って従事者は若干増えていますが、1人当たりの給料は意外に増えておりません。
そういうことを実現するようなやり方として、人件費部分とそれ以外の部分を診療報酬体系の中で分離して考えていく。ドクターのフィーについても、日本の制度はモノと技術が未分離ということが言われておりまして、現在、次第次第に分離する方向にありますが、これをもっと進めてやると、人件費部分に関してはある程度明確なコントロールができる。ただ、残りますのは技術進歩ということになります。これについてはあとでもう一度触れますが、特定療養費制度というものを活用するのがいいのではないかと考えています。
それからもう一つ、重大な点で抜けていることがございます。これを話しすると時間が長くなるのですが、医療費の決まり方というのは、例えば、今年度は2%アップに抑えようという形で考えて、それに基づいて診療報酬改定というのを行います。そうすると2%アップにとどまるかというと、必ずしもそうでないということがこれまでの過去の経緯でございました。つまり出来高払制といいまして、いろいろな項目で上がるところと上がらないところがあるのですが、その上がるもの、上がらないものに対応させて、医療機関がいろいろ工夫して、上がった費目をたくさん用いるということをすれば予想以上に医療費が上がる、そういう仕組みになっております。
ちょっと時間の関係で簡単に飛ばしますが、これを、事後的な報酬払い制度、あるいは過去の経緯についてきちんとチェックしていくことが必要であろうかと思います。これは、先般、歯科医師会をめぐるスキャンダルを通して問題になった点でございます。つまり、これを悪用して報酬を上げていこうということが行い得る仕組みであったし、現在もまだそういう仕組みであろうと思います。
(スライド6)
大体ポイントは以上で尽きるのですが、残った非常に難しいテーマがございます。それは、高齢化をどう考慮するか。例えば、高齢者の1人当たりの医療費という観点から申しますと、ここ数年は比較的優等生に推移している。かつてはこれが非常な勢いで伸びましたので、これが問題視されたわけですが、現在の制度のままですと、今後、上がらないという保証はありませんので、1人当たり医療費については明確な目標を設定し、経済の動向とスライドさせることがやはり必要だと思います。
(スライド9)
しかし、問題は高齢者の増加です。ちょっと順序が逆ですが、現在、75歳以上に老人保険制度が適用されることになっております。2000年から2010年の10年間で、年率にして75歳以上人口は4.35%ずつ伸びることになりますので、これをご覧いただくと、あと5年くらい乗り切ると、もう少し鎮静化してくることが予想できるわけですが、ここ当分の高齢者人口増に伴う医療費増をどういうふうに考えていくかというのが、大きな課題になろうかと思います。今日は、これについては結論は用意しておりません。
(スライド6)
私の常識的な見解としては、ある程度は高齢者の人口の伸びに伴う医療費増は許容すべきであろう。しかし同時に、何らかの目標を設定して、人口増に伴う部分を少しマイナスに転ずることができる、「1人当たり医療費」の削減を考慮する必要があるのではないかというふうに考えております。この数値については今日は省略させていただきます。
では、今後どういう方向で若干下げていくかということです。ちょっとスライドにはございませんが、医療保険制度改革で、現在、本当に問題となるのは何かと申しますと、75歳以上の医療費の問題だけではないというか、むしろ今後非常に重要となってまいりますのは、60歳以上74歳までの医療費をどうするかということです。残念ながら、厚生労働省の医療保険改革案では、ここのところについて具体的な案が提示されておりません。75歳以上についてはいろいろな工夫をして、今、制度の素案が少しずつ明らかにされておりますが、60~74歳のところがはっきりしておりません。
例えば、20年ぐらい前の年齢別の医療費を比較しますと、まず一つはっきりしていることは、15~55歳までに関して言うと、昔よりも1人当たり医療費は、物価調整すると、下がっております。つまり、若い人はあまり病気にならなくなりました。しかし、55歳を超えると急速に上がってまいります。それで私も実は脳梗塞になったのですが、この55~70歳くらいをいかに過ごすかということが、今後、決定的に重要になってくる。
ちょっと語弊のある言い方ですが、75歳を超えた場合には、ある一定の医療費を使うことによって、大数法則が成り立ちますから、それなりの平均的な医療は大体決まったことをやるということが言えると思います。しかし、60~74歳のところが、さっきから申しておりますように、予防をどういうふうに行うか、あるいは、生活習慣の改善をどのように行うかということが、マスのデータでは非常に、先ほど申しましたように、肥満でBMIという指標がございますが、これが30を超すと病気になりやすくて、医療費も大変かさむことがはっきりしております。したがって、マスではそういうことが言えるのです。しかし、個々に、あなたはどれだけの運動をして、食べ物をどれだけ食べれば病気にならないということは、残念ながら、今の医療ではほとんどわかっていないと言っても言い過ぎではない。ここが意外に国民には、お医者さん以外には知られていないところです。お医者さんもわかっていないのですけれども、わかったような顔をしていろいろ言っているというのが現状です。
したがって、ここを今後どうするかということが非常に大事で、先ほどの繰り返しになりますが、(スライド7の図)この絵の上のほう--抗癌剤等で先だってから混合診療が大変話題になったのですが、私は、むしろこっちはある程度保険でカバーしていくという方向を堅持すべきではないかと考えております。むしろ今後、混合診療を認める、あるいは、民間企業との連携の推進等をやることによって、さまざまなビジネスモデルを開発し、そして健康をどのようにしてつくっていくかということを考える。つまり、民間に委ねるべき分野として、私は、この左のところに注目したいというふうに思っているわけです。このスライドについては先ほど申しました。
(スライド10)
日本のこれからの課題として、最後に2点だけ追加させていただきます。結論を非常にわかりやすく申しますと、一つは、このスライドからご覧いただけますように、そのこと自体は大変幸せなのですが、日本人はお医者さんに行き過ぎということがはっきりしています。行っていいことをもらって帰ってくるかというと、どうもちょっとクエスチョンマークと。もちろん、これの功罪の功というのはあるわけですが、ここをもうちょっと見直すことが大事です。
(スライド11)
もう一つ、医療費の決定的なファクターとしては、在院日数の長さということが、医療費面から見るとはっきりわかっている問題点と言えると思います。
(スライド12)
この2つについて、ちょっと時間の関係で省略しますが、これは厚生労働省も、今、懸命に対策を考えておりますが、さらに進めていくべきではないかと思います。
(スライド13)
最後に一点だけ、ちょっと余談ですが、先ほどから、ここ10年ぐらいの人件費の推移は非常に安定しているというふうに申しました。ただ、一般国民の常識からすると、開業医さんと言われるものの所得が高過ぎるのではないかという見解があって、私はそれは否定できないというふうに思っております。
(スライド13)
これは1カ月単位ですから、これを12倍していただく必要がありますが、いわゆる税込みの所得です。12倍しますと、2,500万円~3,000万円くらいということになっております。このことについて判断するつもりはございませんが、やはり一般常識から考えて高い。しかし、お医者さんの言い分をいろいろ聞いていますと、勤務医と比べた場合、生涯所得の安定性という観点で非常に不安がある。したがって、稼げる間に稼ぐという行動に出ることが容易に想像されますので、(スライド12)その他の課題としては、開業医の所得を抑えていく。しかし、それに伴って、開業医さんの将来の安定を確保するといった制度的な工夫も必要ではないかと思っています。
以上、ちょっと焦点を絞り過ぎた感じがありますが、ご報告とさせていただきます。
〇石会長
ありがとうございました。大変興味深いお話をいただきましたし、みんな我がことに合わせて考えると、思うことがいっぱいあるわけでして、限定的にお話をしていただいたということもあろうかと思います。少し質問の幅を広げても結構だと思いますので、しばらく、質疑応答あるいはコメントに時間を充てたいと思います。
どうぞ、河野さん。
〇河野委員
先ほど先生もおっしゃっていましたけれども、改めて、二点か三点に絞って、ここのところに注目してやれば、総額を持続的に抑制できるということを何かおっしゃってましたね。それをまとめてみると、どことどこを抑えればいいのですか。
〇西村教授
人件費を、現在の水準が高いか低いか、言い出したらきりがございませんが、人件費を現在の水準に設定して、一般サラリーマンの給料とスライドさせるということが1点。
それから技術進歩については、日本の経済力との関係で支払い能力が決まるわけですから、経済の成長に応じた許容技術進歩医療費とでも言いましょうか、そういう設定をして、その中でいろいろやりくりをしていくということではないか。
その後者でございますが、もちろん批判があると思います。薬剤にしろ材料費にしろ、すべて価格というものがついております。したがって、そういったことを国がある程度コントロールするという姿勢に出れば、おのずとある程度、それに伴って薬価やいろいろな材料の価格も安定化してくるというふうに予想しております。
〇河野委員
もう一つ、これは俗説なのかもしれませんけれども、老人医療の特に末期の1週間、10日くらい、めちゃめちゃ金とあれを病院はつぎ込む。これを、俺は死ぬときには全部はずしてくれというふうにみんな書けば、あんな金要らないのではないかという漫画みたいなこともあるけれども、これはどんなものですか。
〇西村教授
判断の問題と現実と分けてご説明しますが、現実、相当高いことは事実です。ただし、例えば老人の医療費に占める終末1カ月の医療費のパーセンテージというのは驚くほど高いですが、それでもアメリカのほうがより高うございます。私も、実はかつてお医者さんに批判されているのですが、日本の方がある程度さじ加減を医師がやっているということがほぼ確実ではないかと、私は、別に数字だけですから、想像しております。
むしろこの問題は、特に日本の場合の一番の難しさは家族です。人の命がご本人の命ではなく、ご家族の命であるということが非常に重要なファクターとなっておりますので、私から言わせると、やや国民運動的にならないと、これはなかなか難しいなあと思っております。
〇石会長
ほかによろしゅうございますか。
どうぞ、村上さん。
〇村上委員
ご指摘の出来高払いをやめるべきと。つまり、少なくとも患者が治療を受けたときに、幾ら払っているかということがわかっていないのはおかしい。おっしゃったとおりだと思います。もう一つは、60歳から74歳。私もそれに該当していますが、医者へ行かないんですよね。しかし、何のメリットもない。高額の健康保険料を毎月払っているわけですが、一回もそういうことで表彰状をもらったこともないし(笑)。
ですから、現実的にこういうことがあり得るのかということで、例えば60歳から74歳で、医者に行き過ぎた人と行かない人との差をつけるために、行かなかった人には還付金を出すとか、何かそういうことができるのか。あるいは、外国でそういう例があるかないか、その辺はいかがでございましょうか。
〇西村教授
大変難しいご質問で、まず最初に、行かなかったほうがいいかどうかというのもちょっと怪しいと思います。正確に言うと、一般論として、医師は予防に決して強くありません。つまり、保健活動や予防にもっと知識を持った医師でないとだめだということを前提にお話しします。そうだから行かないほうがいいというご意見があるのだと思いますが、本来は、行かないと怖い病気は見つかりませんから、やはり行かないといけないということがあろうかと思います。
したがって、今のご質問の、行ったほうがどうか、行かないほうがいいかということに関しては、残念ながらデータはほとんどございませんし、政策論としても、極端に行かさないほうがいいとも私は言い切れないという感じがします。ご質問にお答えしていないかもしれませんが。
〇村上委員
つまり、還付制度というようなものが現実にやってできるかどうか、そこのところですが。
〇西村教授
現実、どこの国もほとんどございません。アメリカでHMOといいまして、今のところ関係するのは、かかりつけ医というのを決めて、お医者さんが、「あなたはもう来なくていいですよ」と言ったほうが収入が増えるほうがいい、そういう考え方は結構ございます。
そこでやるのですが、やはり一たん病気になると、どうしても人間というのは悲しいもので、少しでも高い薬を使うほうが治るのではないかとか、いろいろなことを思って、還付してもらうよりも治療してもらうほうが好ましいと思って、来させないようにするお医者さんは評判がよくなくなります。
〇石会長
猪瀬さん、どうぞ。
〇猪瀬委員
今、自動車の保険か何かで、車に土日しか乗らない人とか、距離が短い人に対して、保険料の掛金がうんと安いですよね。そういうことと、今おっしゃっていることは近いと思いますけれども、一律ではなくて、何年間か病気にならなかった人の掛金は安いとか、そういうことにはならないのですか、インセンティブとしては。
〇西村教授
病気の種類によるわけです。例えば、癌の発見はやはり早期発見のほうがいいです。癌の検診を受けない人の保険料を安くすると、その人は発見が遅れて、医療費が上がって、そして……というようなことも起き得ますから、情けない話ですが、医学的知見がもう少しはっきりしたら、今のお話も現実味を帯びるという感じがしております。
〇石会長
なかなか難しいね、お話を聞いてみると。ほかにどうですか。
どうぞ、川北さん。
〇川北委員
医師の所得に関連して、これはむしろ主税局にお聞きしたいのですけれども、昔、よくやり玉に上がった医師優遇税制、あれは今はどうなっているのでしょうか。
〇石会長
どうぞ、加藤さん。
〇加藤審議官
今は、収入が一定金額を超えたらすべて実額の課税になります。収入一定以下の場合だけは定率の経費率を認めています。その境目は5,000万円で、5,000万円以上の人は全員が普通の実額の申告。5,000万円以下の人だけは、一定の率で、しかも、収入が多い人は経費率が低くなるようなシステムにして、5,000万円以下の人だけは認めています。
〇石会長
西村さん、5,000万円というとだいぶ高いよなあ。さっきの図だと、3,600万円……。
〇加藤審議官
収入ですから。
〇石会長
なるほど、収入ね。
〇西村教授
だんだんそれを越える人は減ってきていますから。
〇石会長
そうですね。
どうぞ、尾崎さん。
〇尾崎委員
在院日数の国際比較ですけれども、人口千人当たり病床数、平均在院日数というのがあるのですが、アメリカと日本を比較しますと、両方とも約4倍ですね。これは、平均在院日数が長いから病床が増えるのか、病床が多いから平均在院日数が長いのか、どうなんでしょうか。
〇西村教授
学者が論争しておりますが、結論を先に申しますと、日本の場合は、在院日数が延びて長くいられる。1972年に老人医療費の無料化をしました。そのあと、急速に在院日数が増え、同時に、そのときに病院が一気に増え、病床が一気に増えということがございました。したがって、反対を言う学者もいますが、7割から8割で今のほうが有力と。
〇石会長
菊池さん、どうぞ。
〇菊池委員
医療費の自己負担ですが、今、3割ですよね。健康な人の場合を考えると、もうこんなの入らないで全部実費でやったほうが得というのは、3割だと明らかですよね。その辺はどこまで行けそうなのですか。お金のある人は、5割になったらみんなやめてしまいますよね。3割も本当は限界を越えているのではないかと思うのですが、ただ事実がばれないだけなのですか。
〇西村教授
これは非常に難しゅうございまして、(スライド7「医療の本体部分と4つの周辺部分」を提示)今、お示ししているスライドがございます。例えば日本は、薬を諸外国に比べると相当広範囲にカバーしております。そういう関係で、2割、3割、5割の議論でなかなか済まない。むしろ欧米と比べると、日本は、率だけで言うと3割は高過ぎます。つまり、負担率が高過ぎます。しかし、カバーする範囲が日本は相当広うございます。例えば、ビタミン剤を保険でやっている国はあまりございません。
したがって、今のご質問は非常に答えが難しくて、しかも、こうおっしゃる。軽い病気は負担を高め、重くなると低めにしろ、と。現実、そういうふうな制度になっておりますが、さっき言った、軽い病気は本当に負担を高めていいかどうかという議論は、また医師会が反対するところで、日本の場合は早期発見がある程度功を奏してきたということも否定できないものですから……。
すみません。答えておりませんが、3割から5割でも、給付の範囲を広くとっている限りは別に大丈夫ということになると思います。
〇石会長
井戸さん、どうぞ。
〇井戸委員
不公平税制の代表選手は、今、事業税の医師報酬の非課税ということがありますので、その点、事務局のほうから説明していただいたほうがよかったのですが、私も整理させておいていただきます。
質問は、医療サービスと従事者の給与の割合が約半分で、これがほぼ横ばいだというお話をいただいたのですが、問題は、医師なのか看護師なのか。つまり、こういう考え方が成立するのかどうかよくわかりませんけれども、本体サービス部門なのか付属サービス部門なのか。同じ人的サービスの中で、質的な差をどの程度どう反映させたらいいのだろうか。
現在、基準看護などで、厚生労働省は統一的にニッパチ、サンパチとか決めていますけれども、この基準が金科玉条になっておりまして、私どもの県立病院の運営では、仮にすばらしい機械を入れて看護単位などを合理化したとしても、なかなかそれを直していくわけにいかない。そういう面もございます。結果として、はっきり言いまして、居心地のいい病院に看護師さん等が滞留しまして、給料がどんどん上がって、いくら努力をしてもなかなか黒字化しない、こういう現実があります。
そういうこともにらみましたときに、人的サービスの差というものをどう考えていったらいいのかというのは、私も非常に悩んでおりまして、そのような意味でお教えいただけますとありがたいと思っております。
〇西村教授
難しいご質問ばかりで、失礼ですが、今のことは1時間くらいいただかないと、ちょっと無理です。ただ、少し論点をそらして恐縮ですが、日本の場合、考えないといけないのは、医師過剰依存型医療ということが言える。1人当たりの医療の質を考えて、お医者さんが1時間と看護師さんが3時間くらいが大体同じ費用に相当します。したがって、看護師さんが3時間分働いてくれて、お医者さんの1時間分のことをやってくれるのであれば、むしろもっとコストは下がってサービスが上がるということが言えます。したがって、今申したことを看護師さんに関しても応用問題として申し上げたいのですが、それは1時間かかるのでお許しいただいて、そういう方向を考えていかないといけないというふうに私は思っています。
ただ、医療というのは、元気な間は皆さん医師を批判するのですが――私は病気になっても批判しますが――、病気になると、ほんと皆さん弱いです、お医者さんに対して。自分だけが医師を独占したいというふうに思いますので、これがなかなか進みません。ですから、これはある程度政策的にドラスティックにそういう方向を目指すほうが、長い目ではいいのではないかと思います。答えておりません。すみません。
〇猪瀬委員
今の関連で、居心地のいい病院というのは、公立病院とか国立病院のことではないのですか。つまり、この話の中に民営化の観点が全く入っていないわけで、人件費を一律に民間と国公立と分けて考えているかどうかということですよね。国公立だと、年配の看護師がたくさんたまっていて、給料が高くなって、そういうふうになっているのではないですか。今、井戸さんが言われたのはそういうことと関係するのではないかと思います。
〇西村教授
おっしゃるとおりです。今日はちょっとそこの論点を話しませんでした。1時間くらいかかります(笑)。おっしゃるように、驚くべき公的病院における看護師の給与の異常な高さ等々、さまざまな民営化しないといけない問題がたくさんございます。
〇石会長
では、井戸さん。
〇井戸委員
医療の将来方向を考えたときに、特に医師を中心にしながら、今、先生も医師過剰依存型になっているとおっしゃいましたが、例えばアメリカの「ER」などを見ていますと、完全にチームプレーですね。医師を中心とした看護師集団とか、診察グループ集団とか、そういうチームプレーでやられています。今後はああいうチームプレーの方向に行くだろうと思いますが、そうしたときに、人件費の医師と看護師とその他の人たちの割合というのは、どう変わっていくことになるのでしょうか。
〇西村教授
そういう方向に行くほうがいいのに変わらないのは、診療報酬の体系が医師中心型になっているからでございまして、そこを変えると、相当変わっていく。私が申したような方向へ変わっていくと思います。
〇石会長
どうぞ、竹内さん。短くお願いします。
〇竹内委員
先ほどの医療の本体と周辺部分ということと、滞在日数の関係についてです。おっしゃるように、ABCDを全部病院の中でやっているわけですが、本来、老人性の病気というのは回復時間が非常に長くかかる。それが、今おっしゃるように、医師と看護師のヒューマンサービスという形で賄われていて、そこが過剰な負担というか、そういう部分になってきていると思います。
私は、4つの中で、病院が中心とすべき部分というのは、医療、特に高度医療の関係で、あと、病院の中に滞在するとか、福祉関係というのは、いわゆるリアルコストに合わせるべきではないか。つまり、保険でカバーすべき範囲ではないのではないかというふうにそもそも考えていまして、例えばの案ですが、私がフランスで見た場合、ご本人は年金を受け取っていらっしゃる。それプラス、生活費の部分も含めて医療のほうからも払われている。極端に言えば二重に払われているというところがあるのではないかと考えると、実質のリアルな差、つまりヒューマンサービスの部分ですね、滞在したりというのを実費で請求することが将来可能であれば、そこは完全に削れるのではないかと思います。あるいは産業化するというか、言い方はちょっと難しいのですが、そういう方向はないのでしょうか。
〇西村教授
全く賛成です。介護保険の議論にあったかもしれませんが、そういう方向が望ましいと考えております。
〇石会長
介護保険もだいぶその辺を、施設と自宅のほうで調和しようと言ってますからね。
〇西村教授
はい。
〇石会長
水野さん、どうぞ。
〇水野委員
先ほど県立病院のお話も出たのですが、お伺いしたいのは、病院--病院でも、公共の大きい病院から個人病院までありますけれども、かつて消費税との兼ね合いで、患者が支払う診療費というのはほとんどの場合、非課税になります。逆に、病院のほうで仕入れなどにかかった税金が引けなくなる。それで個人病院の立場からすると、消費税を上げられると、倒産する病院がいっぱい出てくるという話を聞いたのですけれども、現実問題として、中小の病院のこういうものの収支というのは、大体はうまくいっているものなのでしょうか。それとも、真面目な医療をやるところほど赤字に落ち込んでいるとか、そのあたり、お教えいただければと思います。
〇西村教授
結論から申しますと、民間の病院は、一部、本当に失礼な言い方ですが、やる気のない病院は別として、一生懸命やっても赤字、売上高利益率1%いけばいいというぐらいの状況です。ですから、先ほど猪瀬さんがおっしゃったように、日本は、病院経営という観点から言うと国公立病院の問題が一番大きな問題です。
ただ、今回、30兆円のその話を取り上げなかったのは、日本は7割、8割が民間病院です。そのところに生じている医療費の無駄というのは金額的にはそんなに大きくないので、取り上げなかったということです。ですから、今、民間は非常に大変だと思います。
〇石会長
樋口さんのお話も聞かなければいけないので、まだ質問があるかもしれませんが、一たん打ち切って、時間があればまた西村さんへというふうに考えたいと思います。
西村さん、どうもありがとうございました。いろいろ教えていただきました。やはり医療の問題になりますと、皆さん関心がありまして、質問が殺到する(笑)。いろいろ考えていること、ないものねだりの質問もあったのではないとか思いますが、お許しください。
では、樋口さん、お待たせしました。樋口さんにつきましては、昨年の「実像」のときにもご出馬いただきまして、労働経済学のご専門で、いろいろなご著書がございます。現在、慶応大学で講義をされておりますし、今日は、特に少子化の問題を中心にご議論いただきたいと思います。今、財務省の財務総研で少子化に関する研究会の座長をされておりますので、全般的に見ていろいろなお話がいただけるかと思います。
では、樋口さん、20分ほどですが、よろしくお願いします。
〇樋口教授
慶応大学の樋口でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
私は、今ご紹介いただきましたように、労働経済学が主たる分野でありまして、人口学が本来ターゲットとしているような少子化問題については、ある意味では素人かもしれない。ただ、経済学の中でも、雇用、働き方の問題と少子化が無縁ではないというような視点から、こういった分野にアプローチするということで今までやってまいりました。
今日、西村先生はパワーポイントを使われたのですが、税調の伝統的なしきたりに従いまして、紙によって説明をさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。紙を使いながら、図で絵解きをしてみたい。通常言われていることが果たして本当なのかどうか。さらには、そこにおける少子化対策といった問題について絵解きをしてみたいと思っております。
今、石さんからお話しいただきましたように、福田局長が財務総研の所長だった時代に置き土産がありまして、それが、少子化問題でやれというようなことでスタートしたものであります。そこでは、「少子化の要因と少子化社会に関する研究会」が用意されていますが、今日お話しする内容は、すべて、私個人の見解に基づいて話をさせていただくということでございます。
タイトルとしまして、「少子化対策の予算拡充と女性の働きやすい環境の整備を」ということで、副題をつけさせていただきました。それは「国際比較に見る二つの神話」。通常こうなっているだろうというふうに思われている、特に日本で信仰されている神話があるわけですが、それが果たして本当なのかどうか。もう一つ、「一つの真実」ということで、そういった中から何が言えるのだろうかということについてお話をさせていただきます。
話の流れは大きく4点ほどになっているかと思います。
1番目は、今、少子化対策がいろいろなところで議論されていますが、何のために少子化対策といった問題を考えるのだろうかということです。
2番目は、国際比較で意味しているものが一体何であるか。特に女性の就業の問題との関連、あるいは国際競争、企業競争といった問題とこの問題を経済学的に考えてみたいということ。
3番目として、特に最近、少子化で1.29まで特殊出生率が下がってきているわけですが、その背景が、どうも80年代の要因と90年代の要因で大きく変わったのではないかと思っておりまして、そこに焦点を当てた話をさせていただきます。
その結果、今、何が求められているのかというのが、4番目の論点として提起したいと思っております。
まず最初の、何のために少子化対策をするのかということですが、これは日本では、戦前の嫌な思い出といいますか、不幸な体験から、国は家族形成に対して直接的介入をするべきではないという考え方が非常に強く、政府による介入といったものはタブー視されてきたということがあるかと思います。
私も、これについて国の立場で、例えば、このまま少子高齢化が進展していくと、もう財政を維持することができない。その結果、むしろ日本を背負っていくような子供を増やしていくべきだという視点から、この問題は考えるべきではないのではないかと思っております。あるいは将来を見通したときに、労働力人口が減少してくる。したがって人口を何とか増やさなくてはいけないのであって、少子化対策を考えるべきだとか、そういった視点から考えるべきではない。
むしろ個人の希望を実現できていない環境、そこに何らかのサポートのメスを入れるのだという視点から、少子化対策は考えるべきではないかと思っています。ですから、個人の自由を尊重するというのは申し上げるまでもないわけです。
その中で、一人の人が何人の子供を持ちたいと考えているのか。その希望子供数といったものがありますが、現在、40歳代の人たちは、大体希望の子供数と実際の子供数が一致していた。あるいは、多少乖離があっても、ほんのわずかであったと思いますが、今、30代以下についてはこの乖離が非常に大きくなってきている。実際に子供を持ちたいと思っているにもかかわらず、現実的には環境がそれを許さないということで、この乖離が大きくなっていますから、制約したものをどういうふうに弱めていくのかというところで、この問題を考えていったらいかがかというふうに思っております。
それが1番目の、少子化対策をなぜするのかといったことに対する私の考え方ですが、2番目として、国際比較で一体どういうことが今まで確認されていたのかということにつきまして、図を使いながらご説明したいと思います。
お手元に配付されています図1が、横軸に女性の労働力率。15歳以上人口に占める実際に働いている人、求職活動をしている人、これを足したもの、これが労働力率です。縦軸が合計特殊出生率でして、図1は1980年の数字。ここではOECD加盟国の数字をプロットしてありますが、80年においてはどうも右下がりの関係があった。すなわち、多くの女性が労働市場参加している国においては出生率が低いという、いうならばトレードオフの関係があったと言えるかと思います。
こういったトレードオフは、労働経済の視点から考えれば、今、女性が労働力が不足しているということで働いてしまいますと、その分だけ出生率が下がりますから、将来の労働力人口を減らしてしまう、こういった関係から問題視されていたと思います。すなわち、現在の労働力人口と将来の労働力人口の間にトレードオフの関係があって、この調和を図る必要があるということがだいぶ言われてきたかと思います。
この図1の印象が非常に強いために、女性の社会参加は出生率を下げてしまうんだという概念が植えつけられてきたわけですが、最近になりますと、この関係が大きく崩れてくる。それが図2であります。これは2000年ですが、こういった右上がりの傾向は、むしろ80年代の後半から90年代にかけてはっきりしてきたということで、2000年で見ますと、むしろ多くの女性が働いている国のほうが出生率が高いという傾向が生まれてきた。
これは、何も政府がやらなくても勝手にこうなったんですということではなく、各国とも、こういった問題に対して真剣な取り組みを行ってきた、その成果が少しずつあらわれるようになってきたというふうに考えられているかと思います。女性の就業に対する環境の整備、出生に対する整備、そういったものが達成されることによって初めて、こういった右上がりの関係が生まれてきたと言えるかと思います。
80年から2000年の間に、どういう対策が打たれてきたのかということについて、以下に見ていきたいと思います。
図3を見ますと、横軸は、家族政策に対する財政支出のGDPに占める比率です。具体的にここでとっている家族政策の財政支出というのは、例えば保育所に対する公的な負担、あるいは児童手当、こういったものを含んできます。ここでは、例えば扶養控除が増額されることによって税金が低くなる、そういった部分は実際的には補助と見ることもできるわけですが、そういったものはここでは含んでいない。直接的にかかっているものということになってきます。
これを見ますと、例えば日本の場合には0.6%といった比率で、それに対して、右のほうにあります、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、こういった北欧から北ヨーロッパの国々におきましては、かなりの額が出されている。そしてその関係を見ますと、多くのこういった支出をしている国においては、合計特殊出生率も高くなっていることがどうも言えそうだと。少なくともクロスセクションでは--時系列的にどうかという問題はあるのですが、クロスセクションで見る限りにおいては、こういった関係がありそうだということになるかと思います。
例えばドイツとかフランス、こういった国々においてもかなりの家族政策費が出されているわけです。2%、あるいは2%後半の数字をとっているわけで、実は、GDPに占める公共事業費割合、フランス、ドイツでは、これとほぼ似たような数字を家族政策費に充ててきたと言えるかと思います。
日本の場合、かつては公共事業費、政府の公的資本形成、GDPに占める比率が8%くらいになっていたわけですが、最近になって5%ぐらいまで落ちてきています。落ちてきていますが、依然として家族政策費に対しては約10倍の公共事業費割合でして、逆に言えば、10分の1しか少子化対策にお金が使われていないということがあるかと思います。
この事実は、やはり戦前の思いが残っておりまして、家族形成に対して、政府の介入になるかもしれないこういった対策的なものが、なかなか打ちにくいという国民的な意識があったということだろうと思います。
その上で、では、お金を使えば、財政支出を増やしていけば、これによって少子化対策は可能であるのか、出生率は上がってくるのかというと、これは必ずしもそうではない。例えば一定の額をとっても、ここに書いてある直線よりも下のほうにある国は、相対的に同じ家族政策費を使いながら、出生率が低いというような国になっているわけですが、どういった国が低いのか見てみますと、スペイン、イタリア、ギリシャ、これはいずれも地中海の国々でして、逆に男女の性別役割分担がはっきりしている国だということが通常言われているかと思います。男女の共同参画が進んでいない国、こういったところで低いのではないかということがあります。ドイツについても、同じようなことがヨーロッパの中では言われることがあったと思います。
その一方、日本とか、最近ですとアジアの国において、やはり出生率の低下が著しいわけですが、こういったところでも、どうも性別役割分担といった明確なものが現存している。ここに一つのヒントがあるのではないかと思います。
次のページを見ていただきますと、女性の働きやすさと合計特殊出生率がどのような関連をしているのだろうかということです。この横軸は、旧企画庁が出しておりました、各国における女性の働きやすさ指標です。
その内容は、例えば女性の労働力率を年齢別に見ますと、日本ではよく、M字型が残っているということが言われまして、20代の後半、女性はたくさん働いている。しかし、結婚したり出産すると、その働く人たちの比率が下がるということで、大文字のMのピークのところから下がってくる。そして子供が手が離れていくと、再び働くようになりますという、M字を描くということですが、ここではその指標の一つとして、例えば、20代後半に対して30代前半で働いている人たちの女性の比率がどうなっているか。これが高いほど、30代の女性が多く働いているところ、すなわちMのくぼみが小さいところほど働きやすいということが一つの指標。
さらには、管理職に占める女性の比率がどうかという指標。さらには、男女間の賃金格差が大きいのか小さいのかというようなことで、小さいほど働きやすいだろうと。こういった幾つかの指標を集計したデータになっている、合計指標になっているということです。これを見ましても、右側にある国--右側にあるというのは、働きやすい国ということですが、そのほうが合計特殊出生率は高い傾向があるのではないかというふうに見られます。
日本はどうかということで見ますと、韓国と並んで下から4番目くらいにあるわけです。女性の働きやすさというところでは、依然として低い状態が続いている。であるとするならば、女性の場合、仕事を続けるのか、それとも子供を産んで会社を辞めるのかという二者択一の選択に迫られているのではないか。両方を両立させるという選択肢がなかなか用意されていない。そういった中での少子化という現象が起こっているのではないかということです。
こういったことを話すときに必ず質問として出ますのが、女性の働きやすい環境を整えるということは、企業にとってコストがかかるのではないか。コストがかかるということは競争率を低下させてしまうのではないか、という問題が提起されます。果たしてそれが本当なのかどうか。それを国際比較といったところから見ましょう、というのが次の図5です。ここでは、横軸に女性の働きやすさ、縦軸につきましては、Global Competitivenwss Report で出されている国際競争のランキングを、2004年についてとったものです。
これを見ますと、通常言われていた、神話となっているような、女性の働きやすい環境を整えると国際競争力がダウンするということはどうも見られないらしい。これは右下がりで、下のほうが国際競争力のランキングが高い、強い国だというふうになっておりますので、むしろ女性の働きやすい国、働きやすい環境を整えているところのほうが国際競争力も高いよ、ということが見てとれそうだと言えると思います。
ここでは国際比較といった視点からこの図を用意しておりますが、最近の幾つかの労働経済学の日本国内における企業の分析におきましても、こういった関係が見られるようになってきた。例えば女性の育児支援、そういったことを熱心にやっている企業、あるいは女性の管理職の占める比率の高い企業、こういったところは、あと数年たちますと競争力が高まってくるという関係も見られるということで、従来言われていたのはやはり神話であったのか。むしろ企業の努力として、あるいは労働者の努力として、両方を両立させる工夫をどうしていくかというところが重要なポイントになってきているのではないだろうかと思います。
こうなってきた場合に国際比較からわかることは、女性が労働市場に参加しているところのほうが出生率が低いという神話は、崩されているのではないか。あるいは、女性を活用している、働きやすい環境を整えているほうが、コストが高まって競争力を失わせてしまうのではないかというのもまた、神話ではないかというふうに思います。
その一方で、財政支出をしている、少子化に対して支出をしている国においては、出生率が高いということは一つの事実として言えるのではないかということです。もちろん、これは必要条件でありまして、十分条件ではない。十分条件の場合には、働きやすさというものが整えられていかなければまずいのではないかと思っております。
3番目の項目として、わが国において、80年代と90年代で出生率を引き下げてきた要因に変化があるのではないかと申し上げましたが、その具体的なことについて考えてみようということです。
80年代も合計特殊出生率は大きく低下してまいりました。その中で通常言われていた仮説は、経済が豊かになった、その結果として、子供を持たないで済む、あるいは結婚しないでも済むような環境が整えられてきたのだ。従来のような所得が低い時代であれば、例えば、子供に面倒を見てもらう必要があるというようなことを考えれば、やはり子供を産んでいくということもありますし、更にさかのぼっていけば、子供は労働力として提供する。したがって、そこでお金を稼いでもらって仕送りをしてもらうんだ、と。ところが、逆にパラサイトシングルというようなことで、これも経済が豊かになったことの一つの象徴的な出来事であるというように言われてきたかと思います。
たしかにいろいろな分析をしてみますと、親の所得と結婚というものがかなり関連していたということも見てとられたかと思います。
もう一つ、出生率を下げている要因として言われましたのが、女性のキャリア志向が非常に強まってきている、外で働くということが強まってきている。そのことが出生率を下げているんだ、というようなことが言われました。
これについても80年代のデータから確認されるのですが、90年代に入ってくると、こういった関係がどうも不透明になってきます。むしろ経済が豊かになったがゆえの晩婚化ではなくて、逆に、収入が不安定で結婚することができない若者が増えてきているのではないか、というようなことが言われるようになってきました。
私ども、日本ではなかなかデータがなくて、こういったものを確認できないのですが、例えばフリーターであった人と正社員として働いていた人、その人たちが5年後、10年後、15年後に結婚状態がどうなっているのか、子供の数がどうなっているのか、そういった追跡調査をやってきました。追跡調査の結果わかってきていることが図6に示されています。
80年代は、今申し上げましたように、女性のキャリア志向が強まったことが晩婚化の原因であるということで、当時も、フリーター、就業していない人たち、パート、アルバイトの人たちがいらっしゃったわけで、25歳のときにキャリアであった女性とフリーターであった女性、その人たちが30歳、35歳になったときにどうなっているか、ということを比較してみました。図6に出ておりますのは、2005年、今年のペーパーですが、昨年、過去の履歴調査をやりまして、それに基づいて出しているものであります。学校卒業後1年目に、就業状態がフリーターであった人と正社員であった人について、そのあと35歳までどのように有配偶率が推移しているかというものであります。
これを見ますと、まず男性について。太い実線が正社員であった人で、長い点線がフリーターであった人ということですが、明らかに正社員のほうが結婚している人たちの比率が高い。女性につきましても、細い実線と細かい点線を比較してみますと、やはり正社員であった人のほうがフリーターであった人よりも結婚している人が多いという結果が出てきます。
80年代は、同じようなグラフを書いてもほとんどその間に差がなかったということですが、90年代に入ってくると、フリーターの人が、ある意味でフリーターという状態から脱出しにくくなってきている。所得も不安定である。その結果として、今、30代のフリーターが急速に増えている。従来フリーターといいますと、ティーンエージャーとか、20代前半くらいまでの話だったわけですが、現在は30代においてこういった雇用の不安定化が進んできていまして、そのことが、結婚にも、あるいは、出生率についてはグラフは書いておりませんが、同じようなことが確認されます。そこの要因が大きく変わってきているのではないかというのがまず1点。
ですから、フリーターは所得が不安定だ、所得制約から結婚できない、子供を持てないということがある一方において、では、正社員のほうは子供を産んでいるのかというと、必ずしもそうではない。そこでは逆に、所得についてはほどほどであっても、時間制約が強まっているのではないか。それを示しているのが次の図7であります。
図7は、例えば企業規模別に、500人以上の規模と小さいところと見ておりますが、週60時間以上働いている男性に占める比率を見ています。94年から、500人以上の中堅から大企業のところにおいて、こういった人たちの比率が高まっていくということで、週60時間といえば、所定内が40時間ですから、平均週20時間は残業している。5日間働くとして、平均で1日4時間以上残業している人たちがこれだけの比率になってきています。
そこでは、正社員と非正社員の二極化。片方は、所得が低くて結婚できない。片方は、時間がなくて結婚できない。結論は結婚できない、あるいは出産できないということについては共通ですが、そういった多様化に対する政策をいかにとっていくかということがポイントになってくるのではないかと思います。
今、求められているのは一体何かということですが、結論だけ申し上げますと、一つは、雇用不安の解消。若年雇用の不安を取り除くことが対策になるだろう。ここでは示しておりませんが、先進国どこでも出生率が下がってきているかというと、必ずしもそうではないわけでして、逆転している国が90年代において幾つか生まれてきています。
その一つがフランスですが、フランスは、一時、特殊出生率が1.6 まで下がりました。それが今、1.93まで回復する、ほぼ2に近づいているということで、その間に何があったのか。いろいろな対策が打たれた。私ども行ってヒアリングをやりまして、男女共同参画の促進もありましたが、やはり景気がよくなって若者の雇用が安定し、将来設計を立てることができるようになってきたことが主たる原因である、というふうに言っている研究者が多かったと思います。日本についても同じようなことが、90年代の先ほどの要因で見たことが言えるのではないか。
2番目の大きな項目として、家族政策費の増額をどう検討するかということで、具体的にここでは4つほど提言させていただいています。
1番目は、育児休業手当。これが現在、雇用保険からの給付ということになっています。ご存じのとおり有期雇用は、労働基準法が改正されまして、今まで1年の雇用契約が最大だったのが3年になりました。あるいは派遣法につきましても、1年の規制が今度は3年に拡大する中において、育児休業を認める改正法が出されたわけですが、そこで問題になるのは、有期雇用である以上、復職してもやはり期間が限定されている。そういったところに対して雇用保険で対応することができるのかどうか。むしろ一般財源で対応するべきではないかというところから、そういったところについての一般財源化が望まれるのではないかと思います。
2番目として、こちらの税調との関連で言えば、何らかの形での減税なり、そういった対策を考える必要があるのではないか。そうした場合に、扶養控除を増やしますというような形での対応ですと、もともと非課税限度額の人たちというのは、いろいろな減税を行ったとしても、税金を払っていないわけですから、何ら影響はない。何ら優遇されるわけがない。
ところが、出生率を世帯の所得階層別に見てみますと、これはまだ日本でやっていないのがわかりませんが、フランスあたりでは、明らかにUの字を描く。所得の低いところで出生率が高く、中間層で下がってきて、また高所得で上がるというUの字を描く。そうした場合に、「貧乏の子だくさん」というような言葉で低いほうは言われるわけですが、ここに対する対策をどうするのか。これについては、フランスでもそうですし、イギリスもそうだと聞いておりますが、タックスクレジットの考え方を導入したらどうか。
ですから、非課税限度額以下の人たちについて、例えば計算してみてマイナスの税金が発生する可能性があるとすれば、それに対して負の所得税、いうならば給付を行うというようなことも一つの対策かと思います。このためには、結局、主計と主税が一緒になってやらなければいけないことになるわけですが、そういった対策が、実はヨーロッパで多くとられるようになってきていると言えるのではないかと思います。
3番目は、児童手当ですが、特にこれの額についてはいろいろ言われておりますので、論議するつもりはありません。
もう一つは、日本で言うとシングルマザー、向こうで言えばローンペアレンツ。父親もシングルファーザーがいるわけで、そういった人たちに対する支援を強化するということで、モラルハザードの問題と併せてここは検討していかなければならない。偽装のシングルと実質的なメリットというようなこともあるわけで、このモラルハザードの問題をどう考えて、仕組みとして入れていくのか。
最後に、柔軟で多様な保育サービスの提供ということですが、フランスあたりでは、ベビーシッターに対する費用も控除額として認められるようになったと聞いております。これは、家政婦さんについても認めるということで、いろいろな目的でこれをやった。今まで地下経済に入ってしまうような部分を表に出してくるんだと。税制上も、そういった対策からこれを行うようになったと聞いております。
こう申し上げますと、子育てに対して今まで母親に全部かかっている負担を、父親、さらには社会としてどう共有していくかというポイントが出てくるわけでして、ここのところに対するコストを軽減していく必要があるだろう。ただ財源がないという問題であれば、高齢者に対する対策とのバランスを考えていく必要があるのではないか。今まで高齢者は、よく1対7とか、1対8と言われていますが、そちらにはいろいろな給付なり目配りがなされてきたのに対して、少子化に対してそれがおろそかになってきたのではないかということを考えますと、そういった改革が必要になってくるのではないかと思います。
以上です。
〇石会長
ありがとうございました。明快なご主張をいただきました。我々の今後の議論に大変参考になると思います。
それでは、しばらく時間をとりまして、樋口先生に対するご質問等々、お願いいたします。
どうぞ、出口さん。
〇出口委員
どうもありがとうございました。大変参考になる意見でした。ただ、図1からそのあとの図を見ますと、縦軸の数値がちょっとスケールが違うわけですよね。2ページ以降は全部、合計特殊出生率が2.1 を下回っている。つまり、ポテンシャルには全部、人口は減少するというものばかりが並んでいるわけです。そうしますと、結論部分で、子育てとか、何らかのいろいろな対策をとらなくてはいけないというのはわかりますけれども、それだけで果たしていいのだろうか。
特に、財政の支出を伴うと、いろいろな副作用もあります。なぜ、2.1 を下回るのかというところのほかの要因、つまり、昔あった共同体とか、みんなで子育てをするとか、地域社会が頑張って何かするとか、貧しくても優秀な人がいたら、篤農家がバックアップして野口英世のようにどこかへ行かせるとか、そういういろいろな要因を総合的にあれしないと、これだけを見る限り、どっちみち2.1を下回っていたら、人口減少というか、高齢化も含めてですけれども、そのスピードをどの程度変化させるかということにしかならないのかなと思うのですが、いかがでしょうか。
〇樋口教授
ご指摘のとおりでして、2.1を下回る。ですから時系列的に見ていますと、図の1は最大の目盛りが2.8だったわけです。ところが、図2になりますと2.2ということですから、これ自身、時系列で見ますと、下がっている国が多いということだろうと思います。
ただ、すべての国が下がっているかというと、これは方向性が重要で、2.1よりも低いかどうかという問題と同時に、下がり続けているかどうか、底を打ったかどうかということが一つのポイントになってくるわけですが、残念ながら、日本はまだ底を打っていない。下がりっ放しということになるかと思います。それに対して北欧の国々、あるいはフランスでは、底を打ったか、むしろ上がり出しているという方向転換があったことが、重要なポイントになってくるのではないかと思います。
おっしゃるように、2.1を下回ると人口の減少というのは覚悟せざるを得ないわけですが、では、何もやらないとどうなるか。こういった対策を打たないとどうなるかということを考えますと、さらに少子化のスピードは速まるだろう。そのスピードを遅らせるだけでも効果はここに期待できるのではないか、ということだろうと思います。
〇石会長
ほかにいかがでしょうか。
どうぞ、川北さん。
〇川北委員
図1と図2を比べますと、アメリカが80年で1.8、2000年で2.0を超えていて、ほとんど人口置換水準ですね。相当上がっていますけれども、これは、例えばヒスパニックみたいに出生率の高い分野が相当流入してきたのが一つの理由ではないかと思います。それ以外に、アメリカという国が何らの政策的な対応でやって増やしたという要素もあるのでしょうか。
〇樋口教授
これは、財務総研のほうでやっている研究で、私より別の方が説明したほうがいいかもしれませんが、たしかに人種がヒスパニックが多いことが出生率を高めているという要因もあると思います。ただ、人種別に見ても上がってきているということがあります。例えば、ヒスパニック以外の白人女性について見ても、出生率が上がってきている。
これが、少子化対策ということで何か手立てが打たれて上がってきているのかというと、アメリカはそれほど大きな対策は打っていない。むしろ打ったのは何かといいますと、男女差別に対する禁止の問題とか、あるいは、アファーマティブ・アクションです。これで女性の働きやすい環境をつくろう、というようなことが起こってきていると思います。
もう一つは、アメリカの場合、州と連邦の関係が非常に複雑なわけですが、連邦の対策として、例えば育児休業法とか、出産休暇を法的に与えろというものは、90年代の初頭まではなかったわけです。クリントン政権のもとでといいますか、ヒラリー政権のもとにおいてこういったものがつくられたということがありまして、その成果が少しずつ上がってきている。従来は法律がありませんでしたから、企業が個別契約のもとにおいて、この人にはどうしても企業に残ってほしいということであれば育児休業を提供するとか、有給にしますというような個別交渉だったわけですが、ともかく与えなくてはいけないというようなことが進んだ。
これは、同じようにアングロサクソンの中でも、イギリスにおいても90年代に適用の拡大が行われるようになってきた。これは最初のときは、女性の継続就業を可能にするという目的で行われるわけですが、同時に、出生率にも少なからず影響を及ぼしてきているということがどうも言えそうです。
〇石会長
予定した時間が過ぎていますが……。
遠藤さん、どうぞ。
〇遠藤委員
非常にいいお話を伺ってあれなんですけれども、おっしゃるとおりで、少子化は止めなければならないということはわかりますが、現実問題、人口構成がもう既に非常にいびつな形になってしまっています。だから、今から少子化を止めても、人口の減少というのは避けられないわけです。
片一方で、それでは今の若い人が大学や高等学校を出て全員就職できるかというと、そういう状況にもない。まあ、今年はだいぶ改善されたようですけれども、今、企業はリストラをやってどんどん働く人を削っているような状況なので、極端な言い方ですが、一気に若い人が増えてしまったときに、そういう若い人というのは、本当に社会で求められるような労働力になっていくのか。そういう若い人をどのくらい確保しておかないと、日本の経済がもっと大きくなったり、発展したりすることを阻害するのか。そういう観点からのお話というのは何かないのですか。
少子化というのは、人口が減って危ないのではないか、みんな漠然と少子化は止めなければならないということはあるけれども、日本全体の経済とか、ITが進んで労働力がそんなに要らなくなったときに、若い人をどの辺まで増やさなければいけないのか。そういう観点の研究というのはあるのでしょうか。
〇石会長
樋口さん、やってるんじゃない?(笑)
〇樋口教授
そういうのはやったことありません。昨年、こちらで報告したときに、「雇用形態の多様化と税のあり方」ということでお話をさせていただきました。そこでの少子高齢化社会における考え方として、申し上げるまでもなく、2007年以降、労働力人口が減少していく。私が懸念しておりますのは、労働力人口の減少という量的な問題以上に、労働力の質の問題というのが、非常に大きな問題として出てくるのではないかと思っています。
ご指摘の問題であれば、若年雇用の問題をどう考えていくかということですが、これについて話しますと、先ほどの話ではありませんが、あと2時間ほど(笑)時間が欲しくなるということでありまして、そういったことについても目配りしなければいけないということは間違いないと思います。
〇石会長
では、宮島さん。
〇宮島委員
少子化対策という言葉ですが、樋口さんは、対抗政策ということで話されたことは間違いないと思います。しかし、その対策という中には、順応政策--子供や人口が減っても耐え得る経済とか制度をつくれという議論があって、私は今聞いていて、日本の一番問題と思うのは、対策という言葉が両方区別されないで使っていて、子供が減っても大丈夫ですよというメッセージと、減ったら大変だというメッセージと、両方送ってしまっている。それが一番気になるところです。
〇樋口教授
財務総研のテーマが、「少子化の要因と少子化社会に関する研究会」と、2つになっています。少子化をどうするかという問題と、少子化の結果何が起こって、それに対する対策。おっしゃっている2つを識別して考えていこうということで、その中における税、社会保障の問題もあるでしょうし、労働市場の問題、定年制の問題、多々あると思います。
〇石会長
「大変だ」というほうにウエートがあるよね、みんな。
〇樋口教授
どちらかでいいということではないと思います。両方やっていかないといけない。
〇石会長
はい。ありがとうございました。
では、女性で最後1人、特枠をつくりますから、どうぞ。
〇辻山委員
2点お伺いしたいことがあります。ごく手短に言いますけれども、樋口先生にお伺いしたかったのは、女性の働きやすさと出生率の関係です。実は、働きやすいというところにプロットされている、女性自身の階層化の問題といいますか、保育の問題は、公的保育園が日本などは特に大きな役割を果たしていますけれども、家庭内にナースさんを雇えるような、そういう状況があと押ししている部分についての分析はどのようなことになっているのかというのが、樋口先生に対する質問です。
もう一つ、西村先生に対する質問です。かなり前に、病院の中からいわゆる付添い婦さんという制度が一掃されまして、病院からいなくなったわけです。したがって、今、医療を担っているのは医師と看護師さんということになりますけれども、一掃されたことによって、医療費がその前後でドラスティックに抑制されたのかどうかということです。
〇石会長
樋口さんのほうからお答えください。
〇樋口教授
ベビーシッターとか、保育ママという仕組みが、最近、ヨーロッパでは……。例えば、簡単な資格ですが、資格を取って、自分の子供と同時に周りにいる何人かの子供を面倒を見ましょうと。アメリカ、カリフォルニアですと、スモール・ファミリーというような仕組みができてきています。
私が申し上げた[4]の保育サービスというのは、保育所でやるサービスだけではなくて、ここに書いてある「柔軟で多様な」選択肢を用意していったらどうかということなのです。今の場合には、保育所に政府がお金を出して、そこで子供を預かってもらうという対策。これ以外に、例えば実際にベビーシッターを雇いますということに対しては、そういった補助金なり税額的な援助はないわけです。ここのところをどう考えていくのかというのは、大きな問題になってくるかと思います。要するに、今、画一的なサービスしか念頭に置かれていないのではないかという問題です。
〇石会長
では、西村先生。
〇西村教授
正確な年次は忘れました。15年ぐらい前だったと思います。当時、1,500億円ぐらいの医療費にカウントされない付添いさんの費用がありまして、それが全廃される一方で、700億円か800億円ぐらいだったと思いますが、医療費増が起きました。
それでお答えはいいかと思いますが、問題がたくさんあって、必要以上の規制がいろいろ問題を生んだということははっきりしていると思います。
〇石会長
よろしゅうございますか。すみません、少し議論を急かせまして。
実はもう一つ、第3のテーマとして納税者番号がありますので、そちらに移りたいと思います。お二人の先生も、時間があれば納番の話も聞いていただいて。あるいは、ご退室いただいても結構でございます。
それでは、羽深さんから、これまでいろいろな形で議論が進められました納税者番号について、整理していただきまして、今後の議論の参考にしたいと思います。
では、よろしく。
〇羽深調査課長
すみません、今の資料のことで一つだけ。樋口先生の資料の図3のところで、財政支出と出生率の関係の表です。たまたま主計局の矢野企画官に聞きましたら、これはアメリカが除かれていますけれども、アメリカの数字が、財政支出のGDP比が0.38で、出生率が2.01ということで、ちょうど左上に来るようになっています。先生、これがあるとないのとで、だいぶ印象が変わってきてしまうのですけれども、アメリカが除かれているというところがちょっと気になりまして。
〇樋口教授
そうですか、はい。
〇羽深調査課長
失礼いたしました。納税者番号に入らせていただきます。
それでは、1ページをお開きいただきたいと思います。納税者番号制度のしくみでございます。まず、ざっとおさらいをさせていただきますと、納税者に番号を付与しまして、各種の取引に際して、番号を告知して、納税申告書と情報申告書に番号を記載する。それを税務当局に両方出すことによって、その番号をキーとして集中的に整理、マッチングをするということで、具体的なイメージを持っていただくために、2ページをお開きいただきたいと思います。
これは、財務省と総務省で「財務総一郎」という名前の納税者にしてみたのですが、例えば学者の先生と思っていただいて、給料、いろんな講演会の報酬、あるいは株式もやっている、利子も入ってくるというようないろいろな所得がある。アメリカの場合、総合課税になっておりまして、下の大きな枠で囲ってありますけれども、所得税は総合課税で、原則としてすべての納税者が確定申告をすることになっております。
そういう状況の中で、その申告書について、給与、利子、配当、株式等の収入につきまして、まず、それぞれの勤務先とかいろんな会社のほうが情報申告書というのを、それぞれご覧のように出す。その一方で、財務総一郎さんがもらうときには番号の告知をすることになっていまして、その情報がこの情報申告書に記載されて税務署等に回っていく。一方で、この財務総一郎さんは納税申告をいたします。それが一番上に書いてあります。したがいまして、税務当局のほうでは納税申告書と情報申告書のマッチングをしまして、その数字が合っているかどうかをチェックする仕組みになっているわけです。
そのほか、配偶者とか扶養者の番号について、アメリカでは、子供が生まれますとすぐ社会保障番号を申請しまして、番号を取る。扶養控除なども、子供が2人、3人ということは、その番号をもってチェックするという仕組みになっています。
3ページは、これまで税制調査会でご議論いただきました流れを、大ざっぱに我々のほうで整理させていただきました。大体昭和50年代からご議論がございまして、当時は、利子・配当所得の課税のあり方について、総合課税にしていこうという流れがございました。総合課税が現実的に可能となる条件をできる限り早期に整備すべきだ、そのためにはやはり番号が要るだろうということで、納税者番号制度の導入を検討すべきということで進んできましたが、実際になかなか実現にまで至りませんで、それに代わるものとして、後ほどご説明しますが、グリーンカードができましたけれども、これは結局廃止されてしまいました。
これ以降は分離課税の流れが次第に進んできました。利子・配当の分離課税、あるいは株式譲渡益も原則非課税から課税にする中で、これは分離にしようということでだんだん進んできまして、平成に入りますと、むしろ総合課税を必ずしも前提としないで、幅広い観点から議論しようということで、税務行政の機械化、効率化による適正化とか、相続税など資産課税に利用できないかとか、いろいろ幅広い議論がございました。
最近になりますと、さらに、経済取引の国際化とか、番号利用が始まったとか、納税協力というようなことで、納税環境との関係でのご議論などもございました。直近は、金融番号についてやってみようということで、平成16年にそういう審議をいただきまして、今、それに取り組んできているという流れでございます。
4ページ、5ページは、検討にあたっての論点を我々のほうでまとめてみました。まず一つは、何のために入れるのかということで、これまでの議論は、今ご紹介しましたように、利子・配当所得の課税との関係、税務行政の機械化・高度化、あるいはタックス・コンプライアンスということでプラス面がある一方で、事業者の売上げとか、仕入れに関する所得をすべて把握するのが困難だ、というようなご指摘もありました。
(2)ですが、従来、課税の分野、特に個人所得課税の適正化の観点から議論されてきましたけれども、最近になりまして、社会保障、年金の一元化の議論に伴いまして、そういうものも含む所得一般--税金の分野に限らないで、もうちょっと幅広く、給付も含めて所得一般の把握の必要性という観点からのご議論がございまして、それとの関連をどう考えるかということがございます。そういうことが導入の目的との関係であるということです。
2つ目に、個人所得課税の課税方式との関係。税制につきましては、従来、外国の例を見ても、納番の活用というのは、個人所得課税の課税方式、総合課税か分離課税か、源泉徴収、年末調整の有無等と関連しているということです。これは後ほど、海外の例などもご説明させていただきます。
3つ目が、付番をどうするか。どの番号を使うかということで、年金番号、住民基本台帳方式、税務当局による番号と3つございまして、その次のページですが、政府税調では、税務番号は番号の定着性、費用対効果の観点から適当でないとしまして、前の2つ、社会保障番号か住民登録番号かということで検討が進められてきました。
4つ目の論点として、対象とする取引範囲とコスト。制度の対象となる資料情報の範囲をどうするか。どの範囲の資料を税務署に出してもらうことにするかということですが、一般的には、従来は個人の所得に係るもの。給与支払い、利子・配当等の金融取引ということで個人の所得について把握しようという流れでしたけれども、さらにこれを広げて、資産に係るもの。金融資産残高、不動産や貴金属などの資産の取得や保有についてまで広げるか。あるいは、さらにもっと広げると、事業に係るもの。売上げ、仕入れ、事業に要する費用等も理念的には考えられます。
納税者番号により生ずる具体的なコストは、対象となる資料情報の範囲をどのように設定するかによって大きく異なってまいります。したがって制度設計の際には、その効果と発生するコストを勘案して、民間及び行政のコスト負担が過大にならないための配慮が必要だと思います。
5つ目に、プライバシーの保護ということで、平成15年に個人情報保護法が成立しまして、これは17年4月から全面施行されます。法制度面でプライバシーの保護には進展が見られます。それから、民間における個人セキュリティを巡る動向等々について、引き続き注意深く見守る必要ということで整理をしております。
6ページは、主要国における納税者番号制度を整理しました。上の2つ、アメリカ、カナダが、社会保障番号を使っています。真ん中のグループが住民登録番号を使っています。一番下のイタリア、オーストラリアは税務番号ということで、大きく3つに分かれます。ただ、税金の関係とか、社会保険とか、統一番号としていずれも使っているということでございます。
7ページをご覧いただきますと、その番号を使って個人所得課税、課税方式との関係でございますが、日本のほかに、ドイツ、イギリス、フランスは納税者番号はございません。そこで、課税方式との関係に若干関係が見られまして、まず、所得税の給与の源泉徴収の欄をご覧いただきますと、日本、ドイツ、イギリスは年末調整をしている。給与所得について一般のサラリーマンは確定申告が要りませんで、年末調整までやってくれますので、申告しないで済んでしまう。あるいは金融所得についても、ドイツ、イギリスなどは総合課税ではありますが、カッコに30%とか20%とか書いてあるのは、源泉徴収をしております。源泉徴収ということがございますと、そこで一定の税金が確保されている。
しかも、こういう国は総合課税ですけれども、一定額までは申告しなくていいという免除等がございまして、そういう制度にしている関係で多くの人が申告しなくて済んでいるという状況がございます。したがって、番号がなくても処理が済んでしまうということになっております。したがって、課税方式なり、源泉徴収とか、年末調整とか、これをどうするかによって、番号の要る要らないということも変わってくるだろうと思います。
8ページが、主要国における納税者番号制度の推移です。アメリカが社会保障番号。これは、1936年にこの番号自体が入っておりまして、1962年から納税者番号制度が入った。スウェーデンは、住民登録、これは教会管理の個人識別番号というのが前身としてあるわけですが、1947年に番号が入りまして、税に使ったのは1967年。オーストラリアも1936年に番号が入って、納税者番号制度としたのが89年ということで、いずれも大体20年以上、先行する番号が--オーストラリアは税務番号だから例外ですけれども、アメリカにしても、スウェーデンにしても、社会保障番号なり住民登録番号というのが20年くらい使われてから納番が入っていることで、それなりのなれ親しんできた歴史があるということです。
9ページですが、どの番号を使うかということについて、政府税調の考え方をまとめたものです。例えば昭和63年の委員会の報告ですと、アメリカ方式、北欧方式、イタリア方式とあるけれども、真ん中あたりですが、アメリカ方式か北欧方式かいずれかにしようと。税金だけに番号を新たにわざわざつくるのは無駄ではないか、ということでございました。
平成12年の答申では、二重付番がないこと、全国一連の番号で生涯変わらない等々の条件が必要ではないか。そうしますと、結局、年金番号か住民番号かどちらかではないかということでございます。
10ページですが、そういうことで政府税調では従来この2つの番号について可能性が検討されてきたわけですけれども、ご覧いただきますと、それぞれどういうものかということが書いてあります。一番下の実施状況で、年金番号が平成9年から実施、住民票コードも平成14年から実施されてきています。
11ページをご覧いただきますと、この両者の番号のメリット、デメリットを比較した整理を平成12年の報告の中でしております。年金番号のほうは、メリットとしては、国民に受益を伴う行政分野に利用されているので、比較的円滑に受け入れられるのではないか。親しみやすいのではないか。それから、民間利用について規制がないというメリットがあり、一方、デメリットとしては、自主申請とならざるを得ないので、国民に自動的に付番することができず、二重付番、付番漏れが生じ得るということ。あるいは、法律上の根拠がないというようなデメリットが指摘されておりました。
一方、住民基本台帳方式は、居住者がすべて対象なので、住所異動を正確に把握できる。それから、法律上の根拠があるというメリットがある一方で、民間利用が禁止されている。あるいは、これはまだ実施されて間もないので、定着・活用の状況に十分留意する必要があるというような指摘がございました。
12ページが、対象範囲とコストについてです。先ほど申し上げたように、どの範囲にするかによってコストも異なってくるということで、金融取引につきましては、預金口座を管理するソフトウェアの更新、顧客への利子支払額の通知をしなければいけない。今、利子については銀行は個別に一々、あなたの利子は幾らですよということは通知しておりません。それから、税務署に対しても特に支払調書の義務はないのですけれども、こういうものは新たに生じてくるということです。
一般取引のうちで、広げればひろげるほど、いろいろなソフトウェアの更新とか事務負担が生じてくるということで、それは13ページに、イメージですけれども、付番行政機関のコスト、税務当局のコスト、民間のコストをそれぞれ、初期コスト、経常コストと書いてあります。ただ、それぞれどれくらいになるかというのは、具体的にやってみないとわからないのですけれども、頭の整理としてはこういうコストが考えられる。
14ページが、税務当局のコストとして、情報申告書がたくさんあがってきて、それを処理しなければいけないということがありますが、既に現在、法定資料ということで、ご覧のようないろいろな資料を税務当局に出していただくようにしています。まず、こういうものについて全部番号をつけて、新しいシステムにして入れかえる必要が生じるわけです。
15ページをお開きいただきますと、実はこれらの支払調書はすべて出してもらっているわけではなくて、法定資料という欄の右側を見ていただきますと、法定資料が提出不要である場合が書いてあります。例えば給与についての資料ですと、支払金額が年間500万円以下の場合は出さなくていいですよとか、利子については、個人の利子に対する資料は出てきていません。あるいは配当、株式譲渡益についても、ご覧のように少額のものについては出さなくていいよということになっていますけれども、納税者番号を入れてこういうものを全部把握しようということになりますと、かなり物理的な数が増えてくるという問題がございます。
16ページが、プライバシーの観点です。これは、平成12年の中期答申の中で、納税者と税務当局、税務当局と他の行政当局、納税者と資料情報の提出義務者、民間の人との3つの局面があるということで整理されております。今後とも十分な検討が必要だということですが、個人情報保護法制というのが現在できておりまして、17ページですけれども、平成15年からこの個人情報保護法の一部が施行されております。ご覧のように、非常に網羅的な民間部門も含めた法体系になっておりまして、民間の個人情報取扱事業者についても、主務大臣がそれぞれの分野ごとにガイドラインを定めてちゃんとやるということになっておりますので、従来よりは少し進展があります。
18ページに、そのスケジュールということで、17年4月から全面施行されますので、これがどういうふうになっていくかということもにらんでいく必要があるということです。
個人情報の資料は省略いたしまして、21ページに、グリーンカード制度につきまして簡単に触れております。先ほど申し上げましたように、昭和50年代に一度入れようとして、60年に廃止されたのですけれども、非課税貯蓄と課税貯蓄の双方を通ずる本人確認及び名寄せを的確に行うという目的で入れられました。併せて、当時は利子・配当の分離課税をやめて総合課税に移行しようと。ただ、総合課税に移行する場合に一番の問題は、いわゆるマル優について、あるいは利子所得、配当所得について、本人確認とか名寄せができないときちんとした課税ができないのではないかということで、最初、納税者番号も検討されたようですが、なかなか難しいということで、本人の申請によってカードを交付するというグリーンカード制にして、これを入れようとしたということでございます。
22ページに、その経緯があります。昭和55年2月にその法案が国会に出て可決成立して、59年1月から実施しようということになっておりましたが、57年頃から見直し論が出てきまして、58年の3月に3年延長の法案が通りまして、結局、昭和60年に廃止になったということでございます。
なぜ廃止されたかということですが、その経緯を調べますと、ちょっとここには書いてないのですけれども、一つは、付番されることに対する心理的な不安があるということ。それから、元本が当局に知られてしまうことに対する不安。これは納税者番号についても言えることで、個人の受取利子の額、預金の残高が、今は税務署が調査に行かないとわからないのですけれども、全部税務当局にわかってしまうということで、当時もだいぶ心配がありました。別にやましいことがなければ、それはそれで問題はないと思いますけれども、ただ、そういう心理的な不安があった。今後、きちんと所得を把握していこうということになると、そういうこともやっていかないとうまくいかないのではないかということが言えると思います。それから、当時は、国民や金融機関、特に金融機関の事務負担が重いということが問題として指摘されたようでございます。
23ページが、事業所得の把握についてです。これは、最近、年金との関係で多少議論がありますけれども、これについては税調でも昔議論がございまして、事業者の売上げや仕入れをすべて把握することはなかなか難しいということで、諸外国でも、個人の所得の把握ということで納税者番号が使われているケースが多いようでございます。たとえて言うと、電気工事が必要なのに水道屋を呼んでくるようなところがありまして、事業所得の把握ということはまた少し観点が違うのかなという感じがいたします。
24ページは、そのことを小売の例について書いた資料ですけれども、省略いたします。
以上です。
〇石会長
ありがとうございました。
これまでの論点を整理していただきましたので、それにつきましてのご質問なりご意見を賜りたいと思いますが、今日は、本格的な議論をするという時間も用意しておりません。いずれまたやりたいとは思っておりますが、大体ここまで来たということを、概略頭に入れていただけたら目的は達せられると思います。
まだ10分少々時間がございますので、この議論を踏まえて、どういうふうに議論をしたらいいかというところをやっていただきたいと思います。
では、河野さん、どうぞ。
〇河野委員
この説明の中にほとんどなくて、一番最後のグリーンカードのところでちょろっと出てきたけれども、これだけ長い歴史があるわけだ。私もそれに全部かかわってきた記憶があるんだけど、あるとき非常に盛り上がって、挫折して、別の細かい方法を講じて乗り越えたら、また議論が高まってくるということの繰り返しで、この議論が長きにわって行われながら、なぜ、今まで実現しないのかというのは、政治的、経済的、社会的にいろいろな理由があるんですよね。あるとき革新勢力が、プライバシーがどうでこうでと頭から全部けなしてだめにしたんだから。そのご本人が、今、大いに結構と言ってるわけだ。それぞれ立脚点が違うんですよ。そのときどきで都合のいい議論が全部あるわけだ。
だから、これは実にややこしい話なんだね。私は、これをやることはエネルギーの浪費じゃないかと、8割は今でも思ってる。今日ここでやってることに意味がないと思っているぐらいなんだけれども(笑)、しかし、過去の分析を見て、一体何が問題で、こんなに長々と議論を我々はやってきたのか。今、ここで仕切り直しをやるなら、どこをどう克服すればできるのかということを、あなた方専門でやってこられたのだから、教えてもらいたい。
〇石会長
これは難しいですね、事務局も。
〇河野委員
これは基本ですよ。
〇石会長
今の河野さんの問題提起、加藤さん、何かありますか。どうぞ。
〇加藤審議官
私も足掛け20年、主税局にいまして、まさにずっと見てきたわけです。大きな要因は2つだと思います。一つは、番号制度というものに対する国民的な感覚とか、政治的な感覚の振れの問題。もう一つは、むしろ我々税制当局の税制の課税方式というものが、この長い流れの中で相当変わってきた。総合課税というものから、金融を中心とする分離課税も真正面から受けとめると。この2つの流れが、相互に波動が行ったり来たりしたのではないかと思っています。
ですから、ここでもう一度きちっとした整理をしていくことが必要ではないか。特に、先ほどおっしゃったように、世の中の今の政治的、国民的な期待というのは、納税者番号に社会保障との関連で新たな期待が出ている。それについて、きちんとした税調としての見識を改めて整理しておく必要があるのではないか、というのが問題意識でございます。
〇石会長
私も全く同意見で、ポジティブなほう、ネガティブなほう、双方あると思います。今、さまざまな問いかけが、国会、あるいは小泉さん自身から出ておりまして、年金絡みの話がどっと出てきましたから、この際税調として、今の時点に立って、しかと論点を整理して、今後どうやるかということはやる必要があるので、それを初めからふたをする必要はない。これは、河野さんもご賛成いただけると思います。
では、田近さん。
〇田近委員
今の河野さんの質問に対して、加藤審議官も、税制も変わってきたということをおっしゃいましたけれども、歴史とともに古い問題ですけれども今なぜか、というのは私は十分あるような気がします。これだけ社会保障が重要な問題になってきて、高齢化の問題、今日は特に少子化の問題まで出てきて、樋口さんの話で、もしタックスクレジットという形でお金を配ろうとしたら、番号がなければほとんどできない。だから、社会保障と税とが関係してきたところで、所得捕捉は言うまでもなく、税から給付ということまで考えると、これは要る。
それから、金融所得課税のところで納税者番号についても議論が盛り上がったのは、やはり番号による利便性がある。利便性というのはうまい言い方で、利便性をこれで与えると。利便性自身が政策変数ではありますけれども、例えば損益通算をどうするか。損を出すというのは納税者の主体的な選択ですから、それは番号は要るかもしれない。それに関係して、すこぶるIT化が進んだということで、新しい状況がある。
あと、今日お触れにならなかったことでは、事業主の番号をどうするか。今日はもっぱら個人のことですよね。最後のほうに、小売り売上業者に対する遡及はないということおっしゃいました。それはそうなんでしょうけれども、事業主に対する番号というのもやはり考えなければいけないということで、かなり状況は変わってきたのだと思います。
〇石会長
ありがとうございました。そういう状況だということもまた、皆さん、認識いただけると思います。
では、井戸さん、どうぞ。
〇井戸委員
私も実を言うと、グリーンカードがつぶれるときをこの税調の傍らで見させてもらっていた一人ですが、納税者番号制度は、総合課税で稼得能力に応じた税負担を求めるという理念をあくまでも追求するのか。それとも、所得の種類によって、ある程度異なった取扱いをしてもいいと割り切るのかということの闘いの経過だったと思います。その中で、今の累進課税率が住民税を入れて50%に下がっています。そういう状況の中で、納税者番号制度を入れて調整するまでの必要があるのかどうかというふうに考えてみましたときに、諸外国はもっと低い。そういう中で納税者番号制度を入れているということだとすると、やはり課税の公平性に対する国民理解が必要なんだということを前提にされているのではないかと、私は相変わらず思います。それが一つ。
もう一つ、これは直接関連はないのですけれども、そのときに、消費税におけるインボイス制度の取扱いをどういうふうに考えるのかということを整理しておかないと、個人の事業所得の問題点も、ほとんど法人成りしていますので、納税者番号制度の議論とはちょっと違うと思うんですよ。そういう意味から考えたときに、消費税におけるインボイス制度が並列的に導入されるべきではないかと私は思いますが、しかし、その辺との関連づけをよく考えておく必要があるということだろうと思います。
最後にもう一つだけ。年金番号はもう機能していないということ、これは、もう皆さん全員承知だろうと思います。そうすると、頼りになるのは住民基本台帳番号しかない。それをどううまく活用するかということではないか。それが、制度としてコストを下げる一番の基本ではないか、こう思いますので、申し上げておきます。
〇石会長
一番言いたいことをおっしゃっているような感じもしますが。
どうぞ、猪瀬さん。
〇猪瀬委員
この納税者番号制度の問題と直接関係はないけれども、間接に関係はある……。新しいものをやる場合に、きちんと大きなめりはりをつける必要があって、それは、この間大きく騒がれた西武の問題です。あの西武の問題で、証券取引法違反で捕まっているわけですけれども、脱税で捕まえてないというのは、これは国税庁、大問題ですよ。
前もこの時間に、西武は税金を払ってないということを申し上げましたよね。証券取引法違反みたいな端っこのあれでやるのではなくて、例えば中小零細企業が――私も中小零細企業ですが、税理士さんに相談しながら税金を払ったりする。5年に1回、わざわざ税務署がチェックに来る。中小零細企業を代表して言いますけれども、そういうことに一々対応してやっているときに、こういう大企業を税金を払ってないまま放置してきた国税庁の責任は、これは大きいですよ。今回、まだ調べれば脱税になるでしょう、きちんとやれば。その気で動けば。そういうのをやった上で納税者番号制度という問題を出していかないと、国民は受け入れないということであります。以上です。
〇石会長
では、出口さん。
〇出口委員
素人であれなんですけれども、13ページの図で、20年くらい議論があれだというのですけれども、この20年の変化というのは、大量のデータ処理ができるコンピュータの発達というのは非常に大きいわけですよね。この13ページの図を見ると、何となく気持ちはよくわかるのですけれども、普通我々の感覚で言うと、こういう番号制をしいて電算処理していくと、最終的にはいろいろな経常コストは低下していって、人は減っていくだろうな、と。素人なのでそういうイメージがあるのですが、ここにそれが出てこないのはちょっと気になるなというところだけお伝えします。
〇石会長
コンプライアンスのコストが減るというのもたしかに一部あるけれども、改めて、集めるほうの番号管理とか、制度を定着させるとか、付番のためとかいうほうが、おそらく数百億円単位で出てくるんですよ。それをどう見るかですけれども、これもこれからの議論だと思います。おっしゃるとおりです。
では、水野さん、どうぞ。
〇水野委員
コンプライアンスの問題ですけれども、納税者の協力を得るためには、納税者番号を採用することによってどんな納税者の利便性があるか。その点を強調する必要がありますので、その中身を考える必要は出てくるのではないかと思います。それは電子申告と同じことで、単なるコンプライアンス、そのためにと言っても、納税者が協力するためには、やはり利便性というものを検討していく必要があると思います。
それから、先ほどご説明いただいた9ページの付番の方式です。ここにあります税制調査会の答申なり報告書を見てまいりましたら、平成14年あたりから、いわゆる付番の選択ですけれども、年金番号か、住民基本台帳のいわゆる住基ネットですけれども、この表現が消えているんですね。これはどういうことなのか。場合によっては、独自の税務番号というものの選択の余地があるのかどうか。先ほどご説明いただいたところでは、私の印象としては、一時代前の納税者番号の考え方ではないかと思うのですが、この付番方式について役所の方ではいかがお考えでしょうか。
〇石会長
どうぞ、加藤さん。
〇加藤審議官
一時、精力的に納番小委等でご議論いただいたあと、この問題について若干温度差が低かった時期もございますが、我々、途中で変化してきたというよりは、そこまで踏み込んで議論がなされてなかったというのが事実だと思います。ですから、改めてこの段階で、今ご指摘のあったような社会状況の変化とか、いろいろなことを踏まえて、もう一度きちんと議論していただくことが最も望ましいかと思っております。
〇石会長
どうぞ、遠藤さん。
〇遠藤委員
定性的な問題でしょうから、あまり議論にならないのかもしれませんけれども、定量的に、これをやるとどのくらい国税と地方税は増えるのですか。
〇石会長
税収ですか。
〇遠藤委員
税収。
〇石会長
それは推計をやったことないでしょう、私の経験上。それはわからないですよ。
〇遠藤委員
だけど、ある程度幅を持ってわかりませんか。5,000億から1兆円とか。
〇石会長
これを施行するためのコストがどれだけかかるかという推計はできるけれども、その結果、脱税とか租税回避をうまくチェックできたという話は、今までしたことないですね。ただ、これからそういう議論をしようというのは大いに結構です。
〇遠藤委員
ただ、私も申告していますけれども、所得の内容から資産の内容から全部、税務署に出すようになっているわけです。所得の多い人が問題なのでしょうから、それはやはり税務当局がつかんでいると私は思っているのですが。
〇石会長
そんなことないですよね。
〇加藤審議官
まさにこれ、どういう番号制度を入れるかとか、どういう対象にするかとか、いろいろあると思います。ただ、この問題は、どちらかというとマクロ的な税収というよりは、ミクロの税務執行の適正さを今までは中心にやってきておりますので、増税的な、マクロ的なネット増収がどのくらいという議論は、今まで、していることは全くございません。
〇石会長
そういう視点から改めて議論してもいいと思います。
では、田近さん。
〇田近委員
遠藤さんのおっしゃっているのは、歴史とともに古い問題に戻してしまうと、また歴史とともに古い話をして答えがなくなる。先ほど少し私の考えを言いましたけれども、やはり時代が変わってきて、「今、なぜなのか」というところで議論だと思います。
〇石会長
古いのも新しいのも入れてちょっと論点を整理しましょう、というのが今日の問題提起であります。今後の課題にしたいと思います。
まだあるかもしれませんが、この問題は今日で打切りではございませんので、また折に触れてやりたいと思います。
お二人の先生、お忙しいところをどうもありがとうございました。心より感謝いたします。
それでは、あと数分時間をいただきまして、今後のスケジュールを整理して、散会にいたしたいと思います。
勉強会をさんざんやってきまして、医療、介護、年金等々の社会保障関係の論点を整理したと思います。これは、改めてここで報告書をつくるという話ではございませんけれども、それなりに各々委員の方々の理解に資するところ大であったと思います。4月になりましてからいよいよ本格的な議論に入りたいと考えておりまして、その辺のスケジュール感につきまして、以下、ごくかいつまんでご説明したいと思います。
資料の最後に「スケジュール(仮置き)」という一枚紙があると思います。4月、5月、6月、かなり混んだスケジュールで議論をしたいと思っていますので、あらかじめテイクノートをお願いいたします。6月に入ってからは、時間未定と書いてございます。これは、14時から16時にやることは確実ですが、2つ、会議を考えていて、議題がいっぱいあるときには午前中まで含めてということになります。そういう意味で、午前中が入りますと、10時-12時、それから14時-16時という組み合わせになりますが、その辺のことは4月、5月の議論の結果を踏まえないとわかりませんので、時間未定としてあります。午後は必ず2時-4時をとっておいていただいて、これは間違いありません。
そこで、何をやるかですが、4月以降、2つ大きなテーマを考えております。
一つが、個人所得課税の抜本改革をどうするかという議論です。ご承知のように、18年度税制改正におきまして、定率減税の廃止とともに抜本改革が必要だというふうになっておりまして、税源移譲に伴って本格的にその議論を踏まえなければいけないので、おそらく秋以降、来年度税制改正にかけて個人所得課税が大きな論点になります。つまり、税源移譲の姿形もさることながら、所得税本来あるいは住民税本来のあるべき税制に向けて、控除の見直し、所得のカテゴライズの問題、税額控除の有無とか、いろいろございますので、そういう論点を夏前までには整理しておかないと、秋以降の本格的な個人所得課税議論ができないと思っています。そういう意味で、何が実現できるかというそちらの視点は先で結構ですが、今、現行個人所得課税で何を問題にして、何を改革の議論にするかということを、とりあえず6月まで一巡やっていきたいと考えております。
もう一つが、非営利法人と寄附金税制。この問題が、実は大きな問題として税調に投げかけられております。ご承知のように、昨年末、内閣官房から出されました新しい非営利法人の制度化につきまして、中間法人がどうだとか、民法34条法人がどうだとか、税を抜いた世界である種のスキームができました。それに対する税につきましては、税調の方にボールを投げてこられましたので、これを受けとめて、非営利法人課税の問題、それから寄附金の問題もやっていきたいと考えております。
ただ、昨年の「実像」把握のとき、レポートにも出ましたように、この領域に関しまして、民側が担う公共性、民間でも公益的なことをやっているよという視点で、いわば第三セクターの経済活動みたいな点で、この非営利法人なり寄附金というのが非常に重要な役割を演じます。単に非営利法人に狭く限定して課税がどうだこうだというよりは、もっと広い意味で、公共性を持つような民間の活動をどういう形で税で支援するか、あるいは、税と関連づけるか、少し枠を広げて議論していきたいと考えております。これができましたら、個人所得課税の抜本改革と並んで、18年度税制改正につなげていくことが一番いいのではないかと思います。
そこで、個人所得課税改革の方は基礎問題小委員会、この本体でやります。もう一つの非営利法人課税、新しい非営利法人の制度化をどう考えるかということにつきましては、前々からございます水野さんが座長でやっていただいている「非営利法人課税ワーキンググループ」というのがございまして、ここには多数の専門家もいらっしゃいました。そこで、問題が広がったということもあるのですが、本体で議論いただいた委員の方にも入っていただくのがいいと思いまして、基礎問題小委員会と非営利法人のWGと合同で会議をしたいと考えております。
そういう意味で、基礎小・WG合同会議というのがこのスケジュール表にもございます。非営利法人と寄附金税制等々のときにはこの合同会議で、個人所得課税本体の税源移譲を含めた議論のときは基礎問題小委員会。そして、その合間、合間に総会で整理していくという形で議論をしていきたい、こう考えておりますので、合同で基礎小とWGをやる会合も幾つか用意してございます。その進捗状態によって、あるときダブルヘッダーで出なければいけないこともあるのかもしれません。そういう形で、私と水野さんでコーチェアー(co-chair)という格好でこの会議のほうは動かさせていただきます。そういうことを考えております。
4月に入って早々というのも考えたのですが、事務局の準備等々もございますので、スケジュール表にございますが、最初は4月12日・14時から、基礎問題小委員会で、さまざまな基礎的なことから話を起こしていきたいと考えております。
日程的にはほぼこれで固めておりますので、どうか手帳に書き込んでこの時間を確保していただきたいと思います。基本的には火と金の午後でして、例外的に午前中に会議があるかもしれないと考えております。何か変更がありましたら、できるだけ早くご連絡いたしますが、たぶんこれで6月までは行くであろうというふうに考えております。
スケジュールとかテーマにつきまして、ご質問なりご意見はございますか。よろしゅうございますか。
それでは、長時間、どうもありがとうございました。これにて散会いたします。
〔閉会〕
(注)
本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。