第25回総会・第29回基礎問題小委員会合同会議 議事録

平成17年2月25日開催

石会長

それでは、時間になりました。総会と基礎問題小委員会合同の会議を開催いたしたいと思います。

今日は、2つ大きなテーマがあります。後段で、宮島さんが座長をしております、「社会保障の在り方に関する懇談会」の状況を踏まえつつ、社会保障全般の改革について宮島さんからご説明をいただいて、議論したいと思います。

その前に、年末以来、財政とか社会保障関係のことが、財制審も含めて議論されておりますので、まず、そこから事実を確認したほうがいいと思います。今日、お忙しいところを、主計局あるいは総務省からも出てきていただいておりますので、国・地方合わせての社会保障関係の議論をまず最初にしたいと考えております。

最初に、主計局から宮崎企画官と矢野企画官、お二人、直接にさまざまなケースをいじられたと思いますが、おいでいただいておりますので、国の財政及び社会保障関係予算の現状につきましてご説明いただきたいと思います。

では、宮崎さんから、どうぞお願いします。

宮崎主計局企画官

ただいまご紹介いただきました、財務省主計局で財政分析を担当しております宮崎でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

本日は、このように貴重な機会を与えていただきまして、ありがとうございました。お手元に、資料といたしまして、「平成17年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」というものをお入れしてあると思います。そちらに基づきまして、まずご説明させていただきます。

これは、我々、後年度試算と俗に呼んでいるものですが、毎年、予算を国会に提出するときに、提出した予算に盛り込まれました、今年であれば17年度予算に盛り込まれた制度とか、施策とか、こういったものを前提に機械的にその後の状況を推計してみたらどうなるだろうか、こういう試算でございます。毎年、国会に提出しております。

具体的に試算結果の数字を申し上げる前に、まず、試算の前提について軽く触れさせていただきます。

恐縮ですが、1枚おめくりいただきまして、2ページ目の上のほうをご覧ください。まず、経済前提です。17年度政府経済見通しでは、名目経済成長率が1.3%、CPI上昇率が0.1%と見込まれているところですが、18年度以降、この試算におきましては、名目成長率を2%ということで横ばいにしてございます。あるいはCPIについては0.5%ということで、横ばいにしてあります。

その根拠ですけれども、そこに「注」として付してありますが、「改革と展望」という文書がございます。この中に、2006年度、すなわち18年度以降は実質成長率は1.5%程度あるいはそれ以上、名目は2.0%あるいはそれ以上の成長経路になるだろう、こういう文章がございます。ここの名目については2.0%、CPIにつきましては、実質と名目の差、GDPデフレーターが0.5%ということですが、それをCPIと見なして置いているところでございます。

次に、その下の段に「算出要領」がございますが、一番上、国債費のところに金利が書いてございます。金利につきましては、年限に応じてイールド・カーブを想定しているわけですけれども、代表的な10年債であれば2%という金利です。この水準についてこの試算期間において、変化がない、横ばいであるというふうに見込んでございます。

その他の歳出・歳入それぞれにつきまして、最近の経費の動向によって、例えば社会保障関係費などは推計しましたし、それ以外のものについては、例えばCPIなどを用いるといった機械的な試算でございます。

なお、すでに足元において判明しております特殊要因については、極力、漏れのないように盛り込むこととしてございます。

歳入面では、税収につきましては、「名目成長率×弾性値1.1」という伝統的なやり方を使って計算をしております。

1枚目に戻っていただきます。17年度予算の数字が、18年度以降、どのように変化していくかということですが、歳出で国債費から順にご覧いただきますと、17年度、18.4兆円の国債費であるものが、毎年1兆円ずつくらい増えていくという姿が見てとれると思います。

地方交付税につきましては、18年度に大きく伸びます。これは後ほど申しますけれども、17年度に盛り込まれました定率減税の半分の見直し、これが18年度、平年度化した影響による地方交付税の増です。また19年度には、交付税特会の借入れの償還が始まるという計画もございますので、これを織り込んでまた大きく伸びているということでございます。

一般歳出の中の社会保障関係費につきましては、高齢化等の影響もありまして、毎年、やはり1兆円内外の自然増が見込まれる。公共事業関係費は、横ばい、変化なしということです。若干デコボコしておりますのは、住宅金融公庫の補給金の関係ですが、それを除きますと全くの同額でございます。

その他のところ、人件費、その他、入っておりますが、増やしたり、あるいは特殊要因を減らしたりということで、おしなべてみると、ほぼ横ばいで推移する見通しになっております。

その結果、歳出の計ですけれども、17年度予算におきましては、16年度とほぼ横ばい、一般会計につきましては、82.1兆円が17年度は82.2兆円ということで、きわめて抑制的な歳出予算を組むことができましたが、このまま何もしないで自然体、機械的に放置しますと、18年度以降、やはりこの歳出増圧力が18年度で3兆円ほど、18年度から19年度に対しては5兆円ほどという形で出てくる見込みとなっております。そういったことが示されています。

税収につきましては、先ほど申しましたような機械的な試算ですけれども、18年度の定率減税の平年度化分などがございまして、17年度から18年度に対しては2兆円ほどの伸びが見込めるのかなと思いますが、そのあとは、1兆円にようやく行くか行かないかということでございます。

したがいまして、差額、これは一般会計の赤字ということですが、17年度につきましては、4年ぶりに赤字が減少して、公債発行額も減らすことができたということですけれども、先ほど申しましたような歳出の大きな自然増圧力、これに税収の伸びがついていかないために、このままの状況ではやはり18年度以降、この赤字が拡大をしていってしまう、こういう姿になっております。

2ページ目をもう一度ご覧いただきます。こちらに参考として下のほうに、先ほど10年債で2%であるという前提を申しましたが、これが10年債で3%。すなわちイールド・カーブの全体につきまして、すべて1%ずつ上昇したという仮定で計算をしたものがございます。国債費につきましては、1%の金利上昇で約1.5兆円の影響が出てまいります。このようなことから、この差額、赤字の部分はその累積がございますので、20年度、先ほどの基本計算は40.6兆円という赤字でしたけれども、このケースでは45.4兆円ということで、金利上昇に対して少なくともこれくらいのセンシティビティといいましょうか、影響が想定されるということです。

なお、3枚目に、今申しました基本ケースの一般会計赤字が、すべて公債発行額であると仮定した場合の公債残高の見通しが付されております。20年までは今の試算のとおりでございます。21年以降、この20年の赤字額、公債発行額が、そのまま横ばいで変わらないとした場合という機械的な前提ですけれども、それに基づきますと、平成30年度、今から10数年後には、900兆円を超える年度末の公債残高が想定されるという大変厳しい姿となってございます。

後年度試算については以上でございますが、一言だけ、その下に、内閣府の作成いたしました内閣府試算、これもご参考で添付させていただいております。基本的には内閣府の行った試算ですので、私から申し上げるべきことはあまりないのですが、これの2ページをご覧ください。

内閣府の試算は、計量モデルを使いまして、幾つかの想定を置いた上で計算をしてございます。経済が非常に活性化する、あるいは、財政については歳出削減が一定の幅で毎年毎年進んでいく。こういう前提を置いて行った試算でございますが、それに基づきますと、2ページの下のほうの図、国と地方を合わせた財政の姿というところですけれども、2つ目の欄に、基礎的財政収支というのがございます。いわゆるプライマリーバランスでございます。これが、国と地方合わせて2012年度に0.1%の黒字になる、こういう試算結果となっております。しかしながら、この時点でも国はまだ1.4%程度の赤字であるということは、留意が必要かというふうに存じます。

なお、内閣府は今回、このような改革がうまくいかずに金利が非常に上昇してしまったケースについても試算をしてございます。その結果は、お手持ちの資料の後ろのほうについてございますが、もちろん非常に厳しい公債残高の発散の姿となっております。

この内閣府試算は、今申しましたように、一定のシナリオのもとで実現し得る、あるいは起こり得る姿というのを、改革の一番進んだケースと全く進まなかったケース2つについて示したものですので、私どもの後年度試算とは若干性格を異にいたしますけれども、これを合わせて眺めることで、今後の財政の姿についての一定の考え方が出てくるのではないかと思っております。

何かご質問等ございましたら、後ほどお伺いいたします。

石会長

ありがとうございました。

では、引き続きまして、社会保障関係、矢野さんからご説明ください。

矢野主計局企画官

主計局で厚生労働係の企画官をやっております、矢野と申します。よろしくお願いいたします。

「社会保障関係資料」という少々分厚い資料ですが、これをざっとご説明させていただきたいと存じます。

1ページ目を開けていただきますと、例のワニ口の絵でございます。上が、一般歳出総額82兆円へ連なる数列、下の折れ線グラフが税収の数列であります。バブル崩壊以降、発散気味に推移してきたという格好になっております。すみません、資料化されておりませんで、口頭で恐縮ですけれども、ワニ口が広がっている上顎のほうの歳出の増要因を分析してみますと、社会保障関係費の増によるものが、平成2年度以後の上顎の増のざっと7割を占めるということになっております。したがって歳出増の要因は、大きいのは社会保障関係費であるということが言えます。

ついでに申しますと、第2位の寄与度を占めますのは国債費でして、元利払いコストというものが約3割の寄与度を占めている。実はこの2つの要因で上顎の増長が説明できてしまう、こういうような構図になっております。

2ページ目は、一般会計歳出の中のいわゆる一般歳出、国債費と地方交付税交付金等を除いた一般歳出が白い棒グラフで書いてあります。14年度以降、小泉政権になってからの緊縮予算ということが言われておりますけれども、4年連続、白い棒グラフのところは、減あるいは横ばいが続いています。網かけの棒グラフのほう、これが社会保障関係費ですけれども、ご覧のように加速気味に推移してきている。直近では1兆円ずつくらい毎年増えるような格好になっています。

したがいまして、その2つを割った折れ線グラフの比率ですけれども、この数年、如実に上がってきておりまして、17年度予算では43%と、一般歳出の半分近くを社会保障が占める形になっています。だからといって、ただちに福祉を切りましょうというわけではないのですけれども、ほかを切ればいいではないかというご論議が当然出てくるわけです。

3ページ目をご覧いただきますと、表題の下に書いてありますけれども、平成13年度から17年度まで、14、15、16、17、小泉政権になってからの4年度ですが、この4年間の予算編成において、どの分野をプラスし、どの分野を減らしたか。面積は、その増やした額、減らした額が水平線の上下にあらわれております。一見しておわかりのとおり、公共事業あるいは文教、その他も、中小企業対策も含めて軒並み他の分野を切り詰めて、左側の年金、医療、介護等と社会保障の分野が少子高齢化の進展に伴って膨らんでいるという構図になっております。4年分の累計であります。

4ページ目をご覧いただきますと、左側の円グラフは82兆円の内訳です。先ほど、増要因として寄与度は7割を占めると申しましたけれども、17年度の1年間で見ますと、社会保障82兆円の中の、時計の針で言って12時から3時のところ、すなわち4分の1が社会保障であります。足元では4分の1ですけれども、増要因としては7割を占めているところにご注目をいただきたいと思います。

右側のところに、医療、年金、介護、福祉等とあります。8兆円、6兆円、2兆円、4兆円、ざっと上から4割、3割、1割、2割というボリュームであることを念頭に置いていただきたいと思います。

5ページ目は、17年度予算の社会保障関係費です。上の点線の中に書いてありますように、19兆7,000億円なにがしから20.4兆円ということで、初めて20兆円の大台に乗ったということで、対前年度増がその右側のカッコに5,838億円と書いてありますけれども、ご存じのとおり、三位一体改革で補助金を切るということが各分野で行われました。社会保障分野におきましても、国民健康保険の補助金を5,000数百億円切るといったことが行われておりますので、実力ベースで見ると1兆円以上膨らんでいるということになっております。

次の6ページ目です。すみません、駆け足で恐縮です。6ページ目はちょっと次元が違います。いままでは血税、しかも国庫としての血税がどう投じられているかということだけをご覧いただきました。本当は先にこの6ページ目をご覧いただくべきなのですが、社会保障は、医療にしろ年金にしろ介護にしろ、保険料と税金とのミックスチャーで賄われているわけです。

棒グラフの左側が給付ですけれども、いみじくも一般会計の歳出総額と同じぐらいの規模の給付が行われているわけです。すみません、17年度の数字がまだでき上がっておりませんで、昨年の数字で申し訳ありませんが、85兆円のうち、ボリューム感としては5割強が年金、3割強が医療という格好になっています。右側がファイナンスされる財源ですけれども、保険料が約3分の2、税が3分の1と、保険料対税は2対1という格好になっています。

高さが合っておりません。年金の積立金を数兆円取り崩してファイナンスされているということが示されています。さらに言えば、この国庫負担のところと他の公費負担--失礼ですが、これは地方の税負担という意味です。国庫負担と地方の税負担のところ、26兆円ほどになっていますけれども、ここもそれぞれ公債発行をしてファイナンスして、穴があいておりますので、国と地方の税のところを合わせると10兆円近く穴があいて、その上で5兆円ぐらい、資産、収入等のところに穴があいていますので、毎年、社会保障で10数兆円の穴があいているという構図になっております。

次のページ、7ページ目ですが、これは、年金、医療、介護、それぞれが過去からどんなふうに増えてきたか。パッと見でおわかりのとおり、昭和48年、福祉元年と言われた頃から軒並み著増しております。上の表の右下に23.45%という数字があります。これは、NI比、国民所得比で年金、医療、介護トータルのボリュームが幾らかという数字です。よく、潜在国民負担率45%という数字がございますが、あれはまさに国・地方合わせた政府の大きさがNI比で45%ということを言っているわけですが、そのちょうど半分強を社会保障が占めている。政府の大きさ、国・地方トータルとして半分強が社会保障になっているということです。

8ページ目が、例の国民負担率の国際比較表です。細かい説明は要しないと思いますが、社会保障に関してこれを申しますと、真ん中の3つ、イギリス、ドイツ、フランスといったところは、上の点線で囲ってありますように、5割弱、6割弱、7割弱という潜在国民負担率になっています。50%を超えないように、五公五民を超えないようにということが閣議決定で累次なされておりますけれども、ヨーロッパの先進国を見ればもう5割を超えているではないか、そういった国よりも日本は高齢化が進んでいるのだから、もっと高くてもしようがないではないか、ということをおっしゃられる方が非常に多くおられます。

一方、実際には、これは政府税調では釈迦に説法ですけれども、一番左の日本の国民負担率は、今、実負担率が35.9%。棒の右側に書いてありますが、36%ほどですので、これが例えば50%になるとしますと、NI比で15ポイントほど上がるわけです。保険料や税、税の中でも法人税や個人所得課税、いろいろあろうかと思いますが、何しろこの15%ポイントというのは、全部消費税に換算してしまいますと20数%という格好になります。したがって、50%を超えるのはしようがないんだということをおっしゃる方には、では、消費税を20数%上げることをしようがないと言うのですか、ということが当然問題になってこようと思います。その負担意識を持って給付について考えていかなければいけないと思っております。

9ページは、50%を超えないようにという累次の閣議決定等々を掲載させていただきました。省略させていただきます。

10ページも、ご案内のとおりコトリコフの世代会計の絵です。右側の高齢世代から左側の若い世代へ向けて、水面上の生涯受益と水面下に描いてある生涯負担との大小を比較して、折れ線グラフにありますように、40代を超えている人は生涯のもらいのほうが多いけれども、30代以下の人は生涯負担のほうが多いという推計。もちろん、お金にならない負担等々があるといったご論議はありますけれども、こういう計算もある。したがって、世代間の公平を考えていかなければいけないという試算になっております。

11ページ以降は、人口の高齢化、少子高齢化のデータです。かいつまんで申しますと、左上の寿命のところをちょっとご覧いただきますと、1960年というのは国民年金をつくった前の年です。このときの平均寿命よりも、2000年はちょっと古うございますが、14歳あるいは12歳と男も女も平均寿命が伸びております。年金制度をつくったときよりも、平均寿命がざっと15歳ぐらい伸びている。折しも、支給開始年齢を四半世紀かけて5歳上げようとしているわけですけれども、もっとスピードが早く長寿化が進んでいるということ。

その下の出生率、いろいろ論議を呼びましたけれども、2.08というのが人口を維持する分岐点ですけれども、2.08をかなり下回ったところで推移しているという状況にあります。

一方で、一つ飛ばして、健康寿命ですが、世界一健康寿命。単に生き長らえているだけではなくて、健康状態で生きているという日本の誇るべき状況もあります。

それから、右下の点線の枠ですけれども、これもご案内のとおり、高齢者は所得面において勤労世帯と、平均すればですけれども、遜色ない所得を持っており、また貯蓄面においては、当然といえば当然ですけれども、平均の2倍くらいの貯蓄を持っている。

こういったところから、健康寿命も高く、また、経済的な力も平均的にはあるといったことを考えますと、何歳以上を高齢者と見るのかとか、あるいは、高齢者を一律かわいそうと考えるといった考え方について見直す必要性がにじんでくるかと思います。

すみません、12ページも省略いたしますが、一つだけ申し上げます。上の折れ線グラフは、ご案内のとおり、平均寿命が伸びてきていることをあらわしておりますけれども、2025年のところで若干伸びが鈍化してピークアウトしそうに、一見、見えますが、下の人口ピラミッドの下に数字が書いてありますように、2025年のところで、65歳未満の人口1.9人につき高齢者1人という対応関係が、その右側のピラミッド、2050年では1.4 人に対して1人と、さらに少子高齢化が進んでいくという状況になっております。

13ページは、勤労者世帯はすでに90年代から減っておりますが、高齢者人口はどんどんずっと増え続けるということが描かれております。

そこで14ページ以降、これも去年の春の試算で申し訳ないのですけれども、昨年の春5月に、社会保障給付がこれから先どう伸びていくのかシミュレーションをしたものであります。

絵でご覧いただきたいと思いますが、15ページを開けていただきます。15ページは、給付がどう伸びていくかというところで国民所得比のパーセンテージが書いてあります。下の年金のところ、足元2004年から右側の2025年に向けて、国民所得比12%と大体横ばいになっています。これは、マクロ経済スライド--平均余命が伸びたり、担ぎ手が減ったりした分の給付をカットさせていただくというシステムを導入したことによって、一応伸びないという形になったものであります。その上の医療、7%が11%、介護は1.5%が3.5%という形で、医療で4%ポイント、介護で2%ポイント、合わせて6%ポイント給付が伸びていく、今の制度のままであればそういう社会保障になっていく構図になっています。

次のページは、それを負担すべき税と保険料です。先ほど私は、保険料対税は2対1と申しました。それが左側の棒グラフの比率になっておりますが、当然、いずれも膨らんでいくわけですけれども、比率がちょっと変わって、3対2という感じになっています。年金の国庫負担の引上げがあることと、それから、高齢者医療とか介護といった公費負担、国・地方合わせてですけれども、税負担の割合の高い分野がどんどん伸びていくと見込まれているために、税負担ウエートが相対的に上がっているわけです。

もっと大事なのは、17ページであります。では、その負担が増えていくのをどうするんだという話ですけれども、2004年と2025年の姿をNI比でパーセンテージで積んであります。水平線が真ん中に引いてあって、その下が点線の箱になっております。この点線の部分は、公共事業、防衛費、文教費、あるいは国債費といった社会保障以外の歳出分野、このNI比が20年余り横ばいであるという仮定を--といいますか、捨象しているわけです。そこがどうなるかというのは別途の議論が必要ですが、それはちょっと置いといて、水面上の網かけをした箱の部分ですけれども、税と保険料で賄うべき社会保障負担が増えていく。この増えていく分が、箱の上に21%強から29%強と。

さっき私が6%と言ったのは、足元に穴があいている分を埋めていかなければいけないものですから、負担の上がり方は2ポイントかさんで8ポイントほど上がっております。この8ポイントほど上がっていくものに対して、右側の真ん中あたりに、放っておくと国民負担率は56%ほどになる。「56%程度」というところにアンダーラインが引いてありますけれども、50%という閣議決定があるのに対して、6%ほど出べそになってしまうということを念頭に置きながら、2025年、これは1.7%成長で数字を置いてありますけれども、国民所得、右の箱の下に525兆円とあります。この525兆円に対して6%出べそになってしまう6%を掛けて、30兆円。30兆円切らなければいけないとすると、給付150数兆円の約2割のカット。社会保障分野だけでやろうとすれば、2割のカットが必要になるという算術計算上の形になります。

それを18ページで描いておりますが、保険料も税もパラレルに2割削るとすればですけれども、そこにもワンクッション議論がありますが、国・地方トータルで、公費負担、血税負担のところを2割カットすると、というのが右に描かれています。削減努力をいろいろやったとして、2割カットしてもなお21兆円増える。2025年、消費税3.4兆円と計算していますが、それでいくと、6%分ほどなお増えているという構図にあります。

なお、社会保障の給付を2割切ると申しましても、年金のところ、先ほど横ばいになっていると申しましたので、年金以外の社会保障だけでやろうとすると、3割ないし4割切るという計算になってまいりますし、ますます厳しい改革が必要であるということをこの絵は物語っております。

19ページですけれども、字面で恐縮です。谷垣大臣が財政制度等審議会、あるいは先ほどお話のありました社会保障の在り方に関する懇談会、あるいは経済財政諮問会議といったところで述べておられる3つのポイントです。第1、第2、第3とパラグラフが分かれておりますが、要するに社会保障給付、このままニョキニョキ伸ばしていったのでは回っていかないので、1行目ですけれども、持続可能なシステムをつくっていくためにどうすべきかということで、第1には、経済成長率を見据えた身の丈に合った給付にしていく必要があろうということ。

そのためには、「2番目には」ということですけれども、自助と公助。何でも公助ということでは回っていかないであろうから、自助でやるべき分野を見直していく必要があろう。

それから次のパラグラフ、第3ですけれども、意識改革をして、高齢者を一律にかわいそう論といったこととか、下から4行目あたり、子供を産み育てていく担い手を社会全体で育てていくことの大切さを再認識しましょうと。若干抽象的というご批判があるかもしれませんけれども、こういうことを大臣から述べておられます。

20ページは、昨年の6月の閣議決定でいわゆる「骨太4」ですけれども、社会保障の一体的な見直しをしなければいけないということがうたわれている部分です。ちょっと省略させていただきます。

22ページは、国会でも折しも論議されておりますけれども、いわゆる三党合意。この1ポツの[2]だけご覧いただきますと、与野党により、年金の一元化問題を含めた社会保障全体の一体的見直しのための協議会をつくるということが、去年の春に合意されておりますが、協議のテーブルには、両者、いろいろな思惑があって、まだついていないという状況にあります。

ちなみにこれは、公党間のお約束だけではなくて、次の23ページですが、昨年の年金改正法、これは強行採決されたものだという言い分はさておき、法律として現行法の規定によりまして、附則第三条の「社会保障全般について、税、保険料等の負担と給付の在り方を含め、一体的な見直しを行い」云々と、一体的見直しをすることは法律事項になっております。

24ページは、「社会保障の在り方に関する懇談会」を設置したときの規定、こういうことをやっていくんだということが書いてございます。これは後ほど宮島先生からもお話があると思いますので、私からは省略させていただきます。

26ページは、社会保障の分野を表にしたものです。左側から、年金、介護、医療、生活保護、次世代育成支援といったものが書いてあります。一体的見直しというのは何なのかということが言われますが、多少抽象的ですけれども申しますと、この全体の総枠をどうするか。特に支え手の負担能力との照らし合わせで総額をどうしていくのかという総額のボリュームの話。

あるいは縦の分野ごとに、先ほど私は、年金が5割強、医療が3割強と申しましたけれども、そういうシェアリングがこのままでいいのかどうか。あるいは、似て非なる生活保障である年金と生活保護をどうするかとか、あるいは、年金で生活費をもらっておきながら、介護で食費、ホテルコスト、今回直しますけれども、そういう重複給付があるではないかとか、ぜいたく給付があるのではないかというご批判もあります。そういったところ、マクロ、ミクロ、いろいろありますけれども、全体的に見直していく必要があろうと思います。

27ページ以降は、財政制度等審議会で建議をいただいておりまして、その中で全体をやはり押さえていく必要があるということと、それから、各分野ごとにこういった見直しをすべしということを注文をつけていただいているものが、35ページまで10ページほどあります。

36ページ以下は、介護から始まって、医療がちょっとボリュームが多いのですけれども、37ページ以降の医療ところをちょっとだけ。18年度に医療制度改革がございますし、また、社会保険料を押さえていく上では医療制度改革は非常に大きな問題でもありますし、また、総枠規制ときれいごとを言っても、命を削られるのかというご論議がありますので、医療のところをパラパラとご覧いただきたいと思います。

37ページですが、この棒グラフは、医療費全体、自己負担分も含めてですけれども、31兆円と、毎年ちょうど1兆円ずつくらい増えるような形で医療費が増えてきていることを表します。折れ線グラフにありますように、国民所得比はじわじわ上がっています。

39ページに飛んでいただいて、39ページは棒グラフが2つに分かれております。黒い網かけの棒グラフは、成長率並みに膨らんでいく金額。白い棒グラフは、それを超えて医療費が膨らんでいくであろうという推計値です。まさにこの白い部分が、ギャップとして、身の丈を越えるといいますか、成長率で保険料あるいは税収といった今の担税力を越えてかさんでいくであろう医療費分をあらわします。吹き出しで「25兆円のギャップ」と書いてありますが、2025年度価格で言ってNI比で5%くらいギャップが広がるであろうということが見て取れます。

40ページ以降は、そのギャップがあるがために、政管健保、組合健保、国民健康保険といったところが、おのずと収支が厳しくなりますというのが3ページほどあります。

やはりこれだけ見ても、命をそろばんで削るのかという疑問は残るわけですけれども、44ページをご覧いただきます。老人医療費がかさむといって、老人が多いのだからしようがないではないかということになるわけですけれども、老人1人当たりの医療費を若者との対比で見る。もちろん、若者よりも老人医療費がかさむことも、1を超えることはしようがないと思いますけれども、44ページ、国際比較をしますと、日本とアメリカは4.数倍、イギリス、ドイツ、フランスは3.数倍だったり2.数倍だったりします。なぜ日本だけがこのように若者よりも老人医療費が高いのかということは、単に人種の違いだけではなくて、あるいは生活環境の違いということではなくて、制度的な要因がいろいろあると思います。ちょっとその説明は省略しますが。

それから、次のページをご覧いただきますと、上が、都道府県別の1人当たり老人医療費。一番多くかさんでいるのは福岡県、2番目が北海道。一番少ないのは長野県、その次が新潟県ということになっています。

一方で平均寿命、都道府県別をご覧いただきますと、老人医療費が一番かさんでいる福岡県、男34位、女27位。北海道、老人医療費は2番目ですけれども、平均寿命は28位と18位。老人医療費が一番少ない長野県は寿命は1位と3位です。これは、どういう因果関係かということはいろいろ見方がありますけれども、少なくとも言えることは、老人医療費をかければ長生きできるわけではないということが見て取れます。

もっとあれなのは、46ページですが、これは、老人医療費の中で入院にかかる1人当たりの老人医療費を縦軸にとって、右側に人口に占める病床数をとっています。明らかに正の相関関係があって、これも見方によっては、病気がちな人が多いところにベッドが増えただけだと見る人もいるでしょう。要するに縦軸から横軸を説明したがる向きも、たしかにそう見られなくもないのですけれども、横軸から縦軸、ベッド数が多いと老人1人当たりの入院医療費が増えるようにも見えます。どっちなんだということは、この絵からはだけでは見えませんけれども、細かい説明で飛ばしますが、お医者さんたちも、担当する厚生労働省も、これは横軸から縦軸の説明をせざるを得ない。経済学用語で言う正の法則が成り立っている。供給が需要をつくり出しているという部分は医療の世界には否定できないわけです。先ほどの国際比較がそれを最も如実に語っているかと思います。

次のページ、47ページをご覧いただきますと、上から3つ欄があります。病床数の国際比較、人口当たりの病床数、そして平均在院日数、これは老人に限りません。日本とアメリカの病床数、アメリカは98万床、日本は人口がその2分の1弱ですけれども、病床は日本のほうが多い。何でだろう、という感じになっています。人口当たりで言いますと、ほかの国よりも日本の病床は抜きん出て多いことが見てとれると思います。そして、平均在院日数、これもまた日本は突出して多いということが言えます。

これも因果関係として言えば、病床が多いから在院日数が長いのか、在院日数が長くかかるような病気が流行っているから病床が多いのか。これは、この表だけではにわかには語れませんが、大事なことは、そのどちらでもいいのですが、どちらであるにしても、他の国に比べて日本の診療はかさんでいることは否定しようがないわけです。それが日本独自の風土によるものなのかどうなのかという議論は残るにしても、そういうことが見てとれます。

ちょっと細かい話をしてしまいました。医療費につきましても、今のようなことをご覧いただきますと、そろばん勘定で切るのかということが言われますけれども、見直すべき余地というのは、今ご覧いただいただけでも、なにがしか検討の余地はあるということがご覧いただけたかと思います。

ついでに、ちょっと資料に入れておりませんけれども、ほかの国、例えばドイツやフランス、あるいは、今のブッシュ大統領のお父さんのときのブッシュ政権などにおきましては、財政構造改革をものすごくやりましたが、それらの国においては、医療費もキャッピングをはめるというようなことをやっております。

そういう意味では、日本においてそういった発想も、将来世代の負担ということを考えますと、検討する必要はあるのではないかというふうに思っています。

ちょっとはしょり、はしょりでしたけれども、以上でございます。

石会長

ありがとうございました。盛り沢山の内容を手際よくご説明いただいたと思います。何かため息が出てきますな、こういう話を聞くと。

それでは次に、地方のほうはどうなっているか、株丹さんから、地方の社会保障関係をご説明ください。

株丹企画課長

資料の「25-4社会保障関係資料(地方)」の関係をご説明させていただきます。企画課長でございます。

1ページ、まず、下のほうの表をご覧いただきますと、国と地方との行政事務の分担を例示で出しています。市町村あるいは都道府県がどういう仕事をしているか、国が直接どんな仕事をしているかというものを掲げております。ただ、お金の面で見てまいりますと、上の図になりますが、最終の支出ベース、これで全体をご覧いただきますと、右端に合計が出ております。国が38に対して地方が62になっております。

社会保障関係費、これは国・地方トータルの最終支出ベースでは26%ですけれども、年金関係を除きまして、地方がおよそ6割程度、最終支出をしているというウエートです。

2ページをご覧いただきたいと思います。こちらは地方財政計画でございますので、1ページの決算ベースとは若干違うわけですが、もともとこの図は、国庫補助関連事業とか、国が法令で基準を設定しているというものについて色を濃くして、実施を義務づけているものは少し色が薄いというような趣旨での図でございます。特にご覧いただきたいのは、一般行政経費というのが真ん中辺にございます。字が小そうございますけれども、右のほうに、およそどういうことをやっているかという説明を入れてございますが、一般行政経費の中で補助の関連が10兆円ほどございます。8割、8兆円ほどは生活保護であったり、介護保険であったり、老人医療であったり、今日の社会保障関連の経費。さらに、その下のほう、社会福祉系統経費というのが4.5兆円ほどございますし、また、国保(国民健康保険)の関係も8,000億円強ある。こういうことで、非常にウエートが高くなっていることがご覧いただけるのではないかというものでございます。

3ページは、職員の数です。全体の中で福祉関係というのを取り出してございます。円グラフの右のほうに42万人ほど、全体の13.9%ですけれども、具体的には、ケースワーカーとか、保育士とか、地方団体のいろいろな福祉関係のところで働いている方々です。最近10年間の部門別で比較をしていますのが、中段です。福祉関係、10年前は47万4,000人ほど、今は42万8,000人ということで減っております。

ただ、1点、この図の分類として、途中で介護保険の制度が別な会計ということで出てきておりまして、その分が右端の公営企業のほうに2万6,000人ほど入ってございます。したがって正確に言えば、福祉関係プラスアルファということで、45万4,000人ぐらいということではありますけれども、以前よりも少なくなっている。それ以外の中で言うと、教育とか、警察関係とか、国の基準があるものがかなりウエートがあるわけです。

4ページは、地方財政計画の中で社会保障関係費、地財計画一般歳出というのを縦の長い棒グラフにしています。一般歳出の規模については、直近の17年とちょうど同じ程度の水準が平成5年ぐらいですが、その間に、社会保障関係費の経費が、2倍までにはなっていないが、相当伸びてきているという形になっております。

5ページをご覧いただきたいと思います。この図では、歳出の中で社会保障関係費、地方の場合には民生費という言葉を使っておりますが、ここでは民生費等ということで、介護保険を入れた形で折線グラフをつくっています。平成4年のときを100とした場合、最近までどんなふうに動いてきているのかということで、目的別の歳出の項目はあるのですが、全部を図に入れるとあまりごちゃごちゃしますので、幾つか抜いてございます。ちなみに、ここに入れてございませんが、全体としては、平成4年度を100とすると、平成15年度は103です。その中で民生費等については186 ということで、目的別歳出の中では非常に大きく伸びを示しているということでございます。

実額ベースで入れておりますのが、その次の6ページです。棒グラフの形で、なおかつ45年からということで、ずいぶん以前から入れておりますけれども、生活保護、児童福祉、介護保険、老人福祉――老人福祉費には老人医療関係も入っています――、社会福祉ということで分けています。特に最近は、介護保険とか老人福祉を足したあたりが比較的伸びているのではないかと思っております。

7ページです。当然のことではありますけれども、ここに、主な社会保障制度の費用負担というのを挙げさせていただいております。右端に、保険料あるいは拠出金を入れています。その左は、国、都道府県、市町村ということで、国に対して一定の割合で地方が社会保障関係の費用を分担しているということです。そういう意味で国も地方も、その金額については同じような動き方をするということになろうかと思います。

1点だけ、国民健康保険などにおきましては、例えば市町村についてはルール的には負担はないわけですが、実際には国保というのは老人の比率も高まっておりますし、国保の会計というのは非常に厳しいことなどもありまして、多額のルール外の繰入れを行っている。直近で3,800億円程度の負担もあるということです。

簡単ですが、以上で私からの説明とさせていただきます。

石会長

宮島さんのご説明を受ける前に、今、お3人の説明者から受けました、国あるいは地方関係のデータのご説明について、何かご質問があったら、今の段階でしておいたほうがいいと思われる方、お出しいただけますか。まとめてご意見等は、宮島さんのご説明を聞いたあとで社会保障関係全般について議論していきたいと思いますが、事実の確認について、先に行く前にという方はいらっしゃいますか。よろしゅうございますか。

では、一括で宮島さんのお話を聞いたあとで。お二人の企画官、残っていただけるのですよね。宮崎さんと矢野さんにはお残りいただくことになっていますので、では、宮島さん、次のプログラムに移りましょう。

よろしくお願いします。

宮島委員

今日、私は、社会保障の在り方に関する懇談会の雇われ座長としてお話をする面と、そこの委員の1人として発言する分と、むろん税制調査会の委員としての幾つかの立場を、やや使い分けながら、少しお話しさせていただきたいと思います。

お手元に資料として、「議論の整理」と、参考で各委員の発言を記録したものと、私が生のデータに近いものを用意したものがございまして、これらを使って30分程度をメドにお話をしていきたいと思います。

今回の「議論の整理」でございますけれども、いみじくもこれをしたときに、会長が「議論はこれからだ」とおっしゃられまして、まさにそういう点がございまして、これは、昨年の「骨太2004」で16年度中に議論の整理を求められておりました。しかし、月イチの会議でとてもそんな全部できませんで、介護、少子化ぐらいまで終わった段階で一応の整理をして示して、すでに今年度、医療の議論に入っております。このあと、雇用ですとか、そのあとに経済財政というようなことも一応考えております。ですからこれは、議論の整理の中間的な段階であるということです。

なお、もし「骨太2004」がこのとおりの字句で解釈すれば、重点強化期間内ですから、18年度までに結論を得るというのが我々に与えられた使命ということになります。この段階ではまだいろいろな議論で、方向性として比較的まとまったものは、書き方は簡単ですし、議論が大きく分かれたところはそれを併記するという状態になっています。

今日、私はこのうち、「社会保障の一体的見直しの考え方」と、その次の「公的年金一元化」という全体にかかわるところを主としてご紹介いたしまして、必要に応じて、介護、医療、生活保護、少子化についてはその中でできればお話をしていきたい。少し時間を節約したいと考えております。

そこで、ほぼこの順番に沿ってお話ししたいと思いますけれども、まず、基本的な考え方というところは、ある意味で当たり前の話が書いてありまして、要するに、日本のように国家行政組織法で一応所管が決まっていれば、各省庁がそれぞれ自らの所管事務についていわば積み上げ型のいろいろなことをやってくるのが、一種のミクロ的な積み上げ方という伝統的な手法が一つある。ただ、こういうやり方をすると、どうしても全体の横の見方とか、全体としての規模ということがどうしてもおろそかになりがちであるし、なお残っている縦割り行政のもとではその相互の調整が難しいという問題がある。

2番目は、負担、給付の一体的な議論をすべきだと。これもある意味では当たり前の話ですけれども、この中で、制度間の給付の重複とか、税と社会保険料の組み合わせといったことを当然検討することになります。

ただ、これを絶対的にするまで具体的アクションに入れないということになってしまいますと、今のように高齢化が進んだり、財政が悪化している中で、対応が非常に遅れてしまうことになりますので、ある程度全体を見ながら、当面とるべき措置については早めにとっていく。その上で再度、全体像を描き直すことを考えるべきだというのが、おそらく2番目の議論としては言えることだと思います。

3番目は、特に経済財政諮問会議あるいは財務省などから言われております、マクロ指標としての総枠規制の規模を抑制するなり、一定抑えるというケースでございまして、これは今、矢野さん、あるいは宮崎さんからお話しになったとおりでございます。

ただ、これについては、今、矢野さんは最後少しいろいろコメントをつけておられましたけれども、例えばマクロ的な財政ですとか、負担率で上限を設けた場合に、医療や介護の姿が一体どうなるのかということがはっきりしないのでは、判断しようもないという面がございます。ですから、私は座長として皆さんに注文をつけておりますことは、マクロでアプローチする人はできるだけミクロのイメージをはっきりさせてほしい。それから、ミクロの積み上げをする人はマクロ的な総枠的なところに翻訳してくれないと困る。その両方を突き合わせないとなかなか議論ができないわけですので、そういう点をお願いしているということでございます。

もう一つは、できれば複数ケース。つまり、「これしかない」という議論をお互いにされますとどうしようもないので、複数ケースを示して、その中で、例えばどういう姿になるのかということを示してもらう。それは最終的には国民が選ぶことになりますので、できるだけ複数ケースで示してほしいということもお願いしてありますが、これがなかなかうまくいかないという面もございます。

それから、自助・共助・公助という社会保障独特の使い方があります。これは、今日の私の「社会保障制度について」という資料の最後の図をご覧いただきたいと思います。これは、昨年、「実像を探る」で、北海道大学の宮本教授がここでプレゼンテーションをされました際に配付された資料です。これを使って説明するのが、比較的説明しやすいのではないかと思います。

今、社会保障といっても経済学者も参加していますし、社会学者も参加していますし、社会福祉のいろいろな方が参加していますけれども、どちらかというと社会学的な発想からいろいろな形で議論されている中に、最近、こういう議論が出てきております。ワークフェアとベーシックインカムという議論です。なぜ、今日、わざわざこの図をつけさせていただいたかと申しますと、自助・共助・公助というのは一体どういうふうに整理できるのかということでございます。

委員の中には、公助を最優先すべきだという考え方もあれば、自助を最優先すべきだとか、いろいろな意見があるわけです。しかし、それは言葉の使い方としてはどうもはっきりしない点もございますので、私なりに整理してこの図を説明いたしますと、ここに4つの象限が書いてあります。右にアクティベーションと書いてありますが、これがどちらかというと北欧・西欧型で、これからは日本などもこういう方向で考える方が比較的多いかと。この図の右側は、ワークフェアモデルといいまして、就業と社会保障の受給権を結びつける考え方です。それに対して左側のベーシックインカムというのは、就業と社会保障受給の間を切断してしまう考え方ということになります。上のほうは政府支出と書いてありますが、これは、社会保障給付も含めた支出が比較的大きい考え方。下は、政府支出が比較的小さい考え方ということになります。

両極端の話をいたしますと、一つは、左下の「負の所得税」。これは、田近委員がよくここで発言されたことがあると思います。フリードマンというアメリカの経済学者が前から言っていることですけれども、社会保障給付、特に現金給付は全部廃止して、所得税に統合する。そして、一定の所得の基準を下回った場合には、それを還付するという形で所得保障をしていくという発想であります。この発想は同時に、そうなりますと厚生労働省が要らなくなりますので、そういう意味で行政改革にもなる、こういう考え方と言っていいかと思います。

ただ、これはフリードマン自ら言っておりますように、基準所得をどこに定めるかによって実は性格は全く違ってしまう。高く定めれば何も働かなくていいわけですし、逆に、低ければ保障の意味がなくなるということもあって、どこに定めるかによって全く性格が変わってきてしまう。

もう一つは、社会保障行政は不必要になりますが、そのかわり税務行政が大変なことになりまして、全員が申告をする、そして所得把握をきちんとしないといけない、こういう問題を抱えることになりまして、実際、モデル的にこういうものを採用している国はないと言っていいかと思います。

右の上は、アクティベーションと言われているものです。ここは就業と社会保障受給を結びつけるという考え方ではありますけれども、ここの特徴というのは、政府によるマクロ的な雇用政策とミクロの雇用政策を条件にしているという点です。要するに、経済成長政策による完全雇用の追求、あるいは、就業訓練のようなミクロの労働政策を結びつけて、それと社会保障の受給とを結びつけようという考え方がこのアクティベーションという考え方にあたります。

その右の下のところのワークファースト・モデルというのは、就業を条件にいたしますけれども、政府が、例えば完全雇用政策とか、ミクロの職業訓練政策のようなものをやらない、完全に自助努力に委ねる、というような考え方と言っていいかと思います。

左上は、通常ベーシックインカムと言います。ここもなかなか解釈が難しいのですが、端的に言えば、居住条件のみで社会保障給付を行う。つまり就業等を全く条件に結びつけない。拠出を求めたりはしないで、居住とか年齢という条件だけで普遍的な給付をしていくという考え方であります。

ですから、誤解を恐れず申し上げれば、アクティベーションのところは社会保険を比較的重視する考え方。ベーシックインカムは、税、財政による所得制限なしの給付のようなものを重要視する考え方。そういうふうに言っていいかと思います。

もう少し誤解を恐れずに言うと、アクティベーションのところは、どちらかというと今の厚生労働省はこういう方向で考えている。ベーシックインカムのところは、差し障りがあるかもしれませんけれども、今の「連合」の発想などはベーシックインカムに近い。それから経済界は、ちょっと解釈は難しいのですが、ワークファーストに近い発想。自助努力を求める半面、ベーシックインカム的な発想も一部で、基礎年金部分の税方式化という発想がありまして、この辺は私の解釈では、社会保険料の賦課対象にならない、一種の賃金助成という観点で理解すればいいのかというふうに考えております。

公助、共助、自助という考え方は、ベーシックインカムのところが公助に近くて、アクティベーションのところが共助に近くて、ワークファースト・モデルのところが自助に近い、負の所得税のところは少し性格が違うと言っていいかと思います。ですから、こういう組み合わせをどういうふうに考えていくのかということが、実質的には、いろいろな人の議論を整理してみると、おそらくそういうことになるのかなという気がいたします。

もちろんこういうものを考えるときには、いくらワークフェアの就業と結びつけるといっても、就業形態が多様化してくる、あるいは、ボランティアのようなアンペイド・ワークのようなものが増えてくると、「一体就業とは何か」ということを定義しないといけないだろうという意見もございます。あるいは、就業とか不就業が繰り返される場合には、就業モデルというのは現実性を持って失われてくるというような意見もございます。

その辺は、一体就業ということをどういうふうに考えるのかというあたりについて、意見が分かれていくこともありますし、むろんこの背景には、特に国民年金保険料のような、保険料の徴収が非常に難しくなってきていることの裏返しとして、できるだけ税を財源にして普遍的な給付をするほうが望ましいんだという考え方もあります。あるいは被用者保険料のように、支払い給与に対して賦課されるものに対して、人件費を抑制するという観点から、むしろそれを消費に対する課税に回していくほうが経済的に望ましいという議論などもあって、一応整理してみても、それぞれいろいろな議論があるわけです。

ただ、ちょっと気になりますことは、ワークフェア、就業と結びつけるという考えを外してしまったときにどういう問題が起こるのだろうかということは、短期的には要るかもしれませんが、長期的には、就業誘因が弱体化することによって、むしろ経済的な意味での活性化が阻害される可能性がないかどうか。結果として財政もそれによって縮小してしまうことがないかどうかということも、やや気になっているところではあります。

このあとは私の私見が相当入ることになりますが、この資料の3枚目を開けていただきたいと思います。これから社会保障制度全体を考えていく上での幾つかの論点といいますか、それを、象徴的な数字を使いながら簡単に少しお話しさせていただきたいと思います。ここには必要最小限のものしか書いてありませんが、総人口、合計特殊出生率、平均寿命と健康寿命、その右には65歳以上ということで書いてあります。

例えば一番左は何を言いたいかというと、OECDの主要な23カ国が並べてありますが、人口規模で見ますと、アメリカの2億9,000万人を別にいたしますと、1億人を超えているのは日本だけなのです。アメリカは、ご存じかもしれませんが、皆年金でもないし皆保険でもありません。ところが、日本は、1億2,000万人のところで皆年金・皆保険を維持することがどういう意味を持つのかということが、私などは大変気になっていることであります。はっきり言えば、管理能力を越えるのではないかという気がいたします。

それと同時に、先ほど説明がございましたように、医療、介護などは地域差が非常に大きいということがあります。これから全体の費用をコントロールしていったり、運営上の実効性を維持する上では、一つは、政府管掌という考え方から、場合によっては地方の保険者、あるいは財政単位を地方に移すというようなことを通じて、より地域特性に即したコントロールの仕方を考えていく必要があるのではないかという気がしていまして、そのようなことも少し議論になっております。

ちなみに、よくモデルになりますスウェーデンは神奈川県と人口規模が同じですし、フィンランドは福岡県、ニュージーランドは静岡県、デンマークは兵庫県。そのくらいの規模ですので、日本のような1億2,000万人、こういう非常に大きな、一種の保険規模と言っていいかもしれませんが、それをどうやってうまくマネージするかということは、一つの議論、論点になるのではないかと考えております。

次の合計特殊出生率のところは、どちらかというと高齢化への影響を考えて、社会保障の持続可能性という点でもっぱら議論されていると思います。それで間違いではないのですが、むしろ最近は、総人口が減少することのインパクトについて非常に議論が高くなっている。例えば経済成長率が低下するとか、地域によってはコミュニティそのものが過疎化が進むとか、総人口の減少ということを考えなければいけませんので、社会保障の持続可能性という観点からだけ少子化対策を考えるというのではなくて、もっと広い意味で、人口減少社会に対してどう対応するのか、そういう議論が必要になっていくだろうというふうに思います。

そういう点で申しますと、少子化対策というのは、単に子育て支援だけではなくて、むしろ若年層の就業度を高める。ニートとかフリーターとか、言葉だけ山ほど出てきますが、特に若年層の就業とか自立をどう支援するかということが、ある意味では少子化対策の重要な役割を持つのではないか。そういう点からも社会保障のあり方を考える必要が出てくるだろうと思います。

それから、平均寿命と健康寿命。先ほどご説明がありましたように、日本の場合には、健康寿命、平均寿命もWHOの調べでは世界一でありますが、まだ7歳くらいの差があります。この7歳ぐらいの差というのが、後期高齢者に対する高齢者医療と介護の需要というところです。

ですから、一方で総量的な枠の考え方と、もう一つは、健康寿命をいかに延ばすか。これによって高齢者の医療、あるいは介護に対する需要をどうやって削減できるのかというところが、長い目で見た、社会保障にとって、あるいは全体の政策の大きな役割なのではないかと思います。それの決め手が、生活習慣病の予防と言われるものです。

先ほどご説明がありました、例えば、長野県がなぜ低いかというのは、私もそう細かいことを知っているわけではないけれども、あそこは厚生連という農協関係の病院があって、前から予防対策をずっとやってきていることの積み重ねだと言われております。真偽のほどは100%わかりませんが、とにかく予防医療という点がこれからの重要な点になってくる。それが、高齢者の終末医療費をいかに軽減するか、あるいは、重度の介護にかかる費用をどうやって削減するかということの手法としては、おそらく一番正統的な手法ではないかと思います。

最近、糖尿病に対して関心が非常に高まってきております。糖尿病というのは糖尿だけで済む話ではなくて、まず必ず腎臓がやられまして、それから血管がやられまして、目がやられるというふうになって、重篤な合併症を引き起こす。これをどうやって予防できるかということが、今後の医療費、あるいは要介護状態を回避できるかということの一つの大きな決め手になるので、たばこではなくて、砂糖と油脂に対する課税を強化するというのも、これは冗談突飛なことかどうかは別として、そういうことも場合によってあり得る考え方というふうにお考えになっていただいたらいいと思います。

それから右のところは、平均寿命から65歳を引いておりますが、ここは、退職年齢がメドとして65歳と書いてあるわけで、基礎年金の支給開始年齢にも当たりますし、今、定年延長とか再雇用が大体65歳くらいまで。結局、平均寿命と65歳の間が年金依存期間になるわけですから、これについても、いかに働く寿命を延ばすか。これによって年金に対する需要をいかに削減できるか、ということをむしろ考えたいということであって、それが、高齢者の就業促進策とか、具体的には定年の延長とか、場合によっては定年を廃止しろみたいな意見が出てくるわけであります。

ですから、社会保障サイドからの議論としてはやや長期的見方ではありますけれども、今の社会保険の考え方を、保険事故が起こったらそれに対して何らかの保障をするという発想から、保険事故が起こること自体をどうやって防止するかという方向に動いていく。社会保障もそうですし、ほかの政策も大体それに合わせて動かしていくことを、一般にこれからは考えていく必要があるのではないかと私自身は考えております。ただ、先ほど言いましたように、これが長期的にどういうマクロ的な数字になってあらわれてくるのかというところが示せないと、おそらく財務省を説得するのは難しいだろうというふうに思います。

こういうことを申し上げておりましたのは、ご存じのとおり、経済財政諮問会議の議論などを経まして、これも閣議決定で、潜在的国民負担率の抑制という一種の数量目標値が定められております。ただ、「例えば」とあそこには実は書いてございまして、「例えば」を一つつくるのに1カ月かかったのだそうですが、「例えば」という言葉を入れて、「一つの抑制の仕方として」という意味を持たせたのだというふうに聞いております。

こういう一つの総量規制的な発想に対して、どう言ったらいいのでしょうか……あまり細かいお話はできませんが、潜在的国民負担率という概念が情報量としてあまり多くないというのが、私の率直な印象であります。例えば先ほど言いましたように、非常にマクロの抑え方ですけれども、では、それはいったい具体的にはミクロでどういう姿になるのかというのが、あまりはっきりしない点があるということもございます。それから、ご存じのとおり、医療とか介護とか保育の自己負担というのは国民負担に入りませんので、そういうものとのバランスが一体どうなるのかということも、国民負担率の指標だけからは情報を得られないということもございます。

そういう点で、情報量として併せて増やしていく必要が当然あるだろうということと、それから、先ほど企画官からお話がありましたように、仮に50%の上限といいますと、先ほど見てもらいましたように、日本が今、2005年で65歳以上の高齢者の数が大体20%でございます。アメリカが12.5%くらい、ヨーロッパ諸国が16%とか17%前後ですから、それだけ見れば、日本は高齢化のわりには奇跡に近いぐらい抑制されている状況だという見方が当然できるわけです。

なぜそうかというと、無理して抑え込んでいるというよりも、私の解釈では、日本では、家族と企業が社会保障の代行をやっている部分が非常に大きいのではないかと考えております。特に育児とか介護の部分で家族が担っている部分、それから、雇用とか、職業訓練とか、住宅手当とか、そういう点で企業が担っている部分。あるいは、日本では今はだいぶ崩れてきていると言いますけれども、年功序列的賃金というのは一種の生活賃金の発想でして、日本で児童手当という考え方がなかなか入らなかったのは、年功序列的賃金という賃金制度をとってきたことが、児童手当の必要性をほとんど認識させなかった一番大きな原因だと言われております。

ですから私から見ると、家族や企業が担ってきた、いわば社会保障の代行機能というものが、今後、低下していく。主として若年層向けの社会保障を、今度は逆に政府が、家族や企業から肩代わりせざるを得ない面が出てくるだろうという気がいたします。その面で社会保障給付の支出が膨らむことは避けられないのですが、だからこそ、むしろ高齢者向けの医療とか介護とか年金をどうやって抑制できるかということが、大きな課題になってくるということであります。

昨年の「実像把握」のところで、加藤さんという方がここでプレゼンテーションをされたことを覚えていると思いますが、日本では今、財政規模なり社会保障規模が小さいというのは、理屈よりも、日本はもともとそういう国だと。西欧諸国はもともと高いので高いのだと説明せざるを得ないという説明をされました。ちょっとご説明できませんが、この資料の中で日本とOECD諸国の公的負担を見ていただきますと、社会保険料の負担率は、例えばGDP比を見ても日本と西欧はそれほど大きな差はないのですが、個人所得税と消費税に関してはきわめて低い。むしろ所得税の低さが目立っている。ですから、そういうものがある程度ビルトインされている租税構造だったり財政構造だとすると、これはたぶん財務省にしても危機感を持っていると思いますけれども、財政規模を膨らますことはなかなか難しい状況にならざるを得ないだろう。そうすると、社会保障に対する需要そのものをどうやって減らすかという発想に転換しておかないといけないだろう、という気が私はしております。

次に、公的年金一元化の話です。これは、政治的なイッシューとして議論されているわけですけれども、ただ我々から見ると、なぜ年金の一元化だけで、医療の一元化という話が全くないのはどういうことなのだろうということが、どうもよくわからない。それから、むしろこの話は税制面に振られてくる面が多いわけでございまして、例えば所得税に一本化しようとすれば、事業者の所得と、支払給与を取っているサラリーマンの場合の賦課基準とは全く違いますので、これを一本化するというのはどういうことなのか。あるいは申告納付と源泉徴収の徴収方法、これもどうするかとか、制度的に形式的に一元化することはそれほど難しいことではありませんけれども、実質的には一元化というのは相当難しそうな感じがしております。その辺のところは、今後、税制調査会としても、こういう議論があるときにきちんと議論をしておいたほうがいいのではないかという気がしております。

今、特に基礎年金の税方式と社会保険方式の選択の話が出ております。これも、まだまだ粗っぽい議論で、私から言わせれば、例えば、事務費だけ国庫負担なり公費負担で、給付財源は保険料で賄うという、やや純粋な社会保険の考え方と、給付財源に公費が一部投入されるような、やや修正された社会保険の考え方と、それから、今よく税方式という言葉が使われますが、それも今の予算総則のような、単に優先的に充てる、足りなかったらほかの財政収入を入れ込むというやり方もあるかもしれませんし、純粋に目的税化していくこともあるのかもしれません。その辺のところは、もう少しきちんと分けて議論をする必要があるのではないかと考えております。

社会保険か税かというのは、やや短期的な、保険料の徴収問題をどうするかとか、グローバル化の中での人件費の抑制をどうするかという面から起こってきた面がありますし、もちろん長期的にもそういう面が残るという面はありますけれども、そのほかにも、負担と給付の関係はどういうふうに透明性を維持するかという論点もおそらくあると思います。

私はよく冗談に申し上げますが、新聞とNHKは社会保険方式で、民放は税方式だと。要するに受信料とか講読料を取っている場合と、民放のように、スポンサーがその広告宣伝料を製品価格に上乗せして、消費者から徴収していく仕組み。そういう比喩がいいかどうかわかりませんが、考え方としてどういう考え方をとるか、あるいは、それをどう組み合わせるかということも、まだこれから議論しなければいけない面だと思います。

なお、税と保険料について、どこが違うのか、あるいは全然違うとか、いろいろな意見があると思いますけれども、これは、例えば社会保険税とか国民保険税であっても、名前がどうであるということは全く関係ありません。社会保険料の定義をするとすれば、被保険者ごとに拠出の実績の記録はちゃんとあるとか、それが給付の権利の根拠になるとか、保険料の拠出が特別会計とか信託基金のようなところに全額繰り入れられるといったような、そういうことを満たすものであります。

アメリカは、ご存じのとおり、社会保険税とか雇用税という形をとっておりますけれども、アメリカがそういたしましたのは、1935年に社会保障法をつくりましたときに、連邦憲法の制約で、社会保険という事業を連邦政府が行うことについて違憲判決が予想されましたために、アメリカでは、老齢年金を連邦財政の一部として法的に組み込むということを言い出しまして、それで名称を税としているわけで、税と保険料という名前で、同じだとか違うという議論をするのは、少しミスリーディングではないかと考えております。

いずれにいたしましても、これからの社会保険とか税を考えるときには、これまで以上に、税や保険料の設計と同時に徴収問題、これが場合によって死命を制することになりかねないということです。これは今回の国民年金にとっての典型的な例でして、保険料の徴収執行が適正に行われないこと自身が、制度そのものの存廃をもたらしかねないということであります。

その点で私は、税も保険料もそうなんですけれども、国と地方がこれをどういうふうにうまく分担して協力するかという、徴収事務あるいは税務行政事務について、よく議論してほしいというふうに考えております。国民年金の場合には国の直接執行事務とされて、基本的に市町村が、その徴収事務から、完全ではありませんけれども、撤退したわけです。もちろん、地方事務官制度という問題が絡んでいましたから、そういうことはあったと思いますけれども、そのことが、特に地域の保険料の徴収に対して及ぼした影響は非常に大きいわけであります。

他方、税のほうは地方税であっても、地方消費税のように、譲渡割は当面、貨物割はずっとこのままですが、国がほとんど全面的に税務行政や徴収体制をとっていることもありますし、住民税についても、国の所得税の申告を待ってから地方の税務行政が動き始めるということもあります。そういう点を考えると保険料徴収についても、地方と国の協力体制がもっと整わないと、やはりこれは大変難しいのではないかという気がしております。

最後に、これはやや私の私見に当たるのでございますが、消費税と社会保険料はそんなに違うものなんでしょうか。世の中では、非常に違う、全く違うものだという形で議論されております。井堀さんもその専門家ですからあれですけれども、少なくとも生涯をとってみたら、この2つの負担の仕方というのはあまり変わらない。

それから、違いはタイミングでありまして、消費税というのは、働いているときと引退したとき両方かかりますが、保険料は働いているときにかかるということ。このタイミングの違いというのがあります。しかし、例えば年金における物価スライドとか、年金課税というものを考慮したときに、それほど違うタイミングになるのかどうかということもあると思います。そのタイミングの違いから生ずる貯蓄への影響という点でも、果たしてそれほど大きな違いが出るのかどうか。

それから、転嫁と帰着についても、社会保険料は労働コスト、法定福利費の一部ですから、当然、人件費の一部を構成しますので、考え方としては、一つは生産物価格に転嫁する考え方。転嫁できないと、賃金や雇用のほうに逆に転嫁してしまう考え方。消費税についても、消費者物価の上昇がうまく転嫁できない場合には、どういうことが起こるのかということについても、そんなに大きな違いがあるのかなというのが私の率直な印象でございます。

特に昨年の経済白書などでは、労働生産性の上昇によって、こういう労働コストの吸収というものが、それ自身はそれほど難しいことではないという分析もございました。そういう点、社会保険料、所得税、消費税、そういう税との経済的な影響の違いについても、これは税調でないとなかなか議論していただけないという面がありますので、ぜひ、そういうことをしていただきたいと思います。

最後に、私、大変気になっていることがございます。それは、先ほどの資料の中に与党の税制大綱がたしか一部あったと思います。16年度の大綱にしても、17年度の大綱にしても、年金課税の強化にしても、定率減税の半減にしても、あるいは、19年度に予定されている消費税を含む税制改革にしても、そういったことはみんな、「社会保障財源の確保」と書いてあるんですよ。税調の議論でも、どちらかというと、安定的な社会保障財源の確保というイメージで一方の議論をしている面があると思います。井堀さんが、一昨日ですか、国会の参考人で証言されて、ちょっと聞かなければいけませんけれども、新聞報道によると、基礎的財政収支を均衡させるために消費税をどうしたらいいかということを発言されたように伺っております。

だから、これから税調が議論する所得税の問題にしても、消費税の問題にしても、一般には、それはみんな社会保障財源の確保だというふうに受けとめてしまっている可能性があって、基礎的財政収支の改善とか、そういうことに使われるというイメージでは受けとめられていないのではないかということが、どうも私は気になる。前からそのことは非常に気になっていて、その点は、むしろこれから税調の議論のやり方としては、やや難しい問題を抱えたかなという印象を持っております。

すみません。かなり私見をまじえて。

石会長

ありがとうございました。

大変重要な論点をまとめていただきまして、これからの議論に大変参考になると思います。今から三十数分、時間が残っております。財務省、総務省からお出しいただきました基礎的なデータを念頭に置いて、これから社会保障が増えて、今後の財政問題、社会保障とどう向き合うかという話だと思いますが、それに対して、今、宮島さんから、非常に多角的な視点から、税調がこれから議論しなければいけない論点をお出しいただきました。例えば、皆保険・皆年金というのは本当に持続可能なのか、共助・公助・自助をどうするか、あるいは、税でやるのか社会保険料でやるのか、これはどうしたらいいのか等、いっぱい出ております。

今日は、多数の方からご意見をいただけると思いますので、なるべくお一人の方、あまり論点を詰め込まないで、一番言いたいことをストレートに言っていただくというスタイルでやっていきたいと思います。どうぞ、今日は時間切れになる可能性がありますから、どんどん最初からご発言ください。

村上さん。

村上委員

今、宮島先生が最後に指摘された消費税と社会保障との関係については、政府税調の議論の仕方の一番重要なことになると思います。政府税調のスタンスとしては、社会保障財源を確保するために消費税の引上げを考えているわけではない。

それから、初めに消費税論議ありきではなくて、先ほど企画官から説明を聞きましたように、私は今、特に注目しているのですが、医療費が毎年1兆円ずつ増えていって、20年後に25兆円もギャップが生じるというようなことは放置できない。年金はとにかく去年、一応終結がなされたので、医療費に絞って少しその歳出を抑えることを考える方向に持っていっていただきたい。それがどのくらいできるかというのを見ながら消費税の議論もします、ということでないと、逆にするのはまずいなというふうに思います。

石会長

まさにそのとおりだと思います。

ほかにどうでしょうか。どうぞ、河野さん。

河野委員

今、後半のお話を聞いて、どうやったら解を導き出せるかということだと思うのです。問題点は先生からいつも教えてもらっているし、これをもう1回読みなおしてみたいと思っていますけれども、一体その答えを出すのに何年間時間があるのですか、根本的な改正をするのに。5年あるなら、ゆっくりやってくださいよ、そんなことは。主として歳出面でのことだったらば、しかるべき省庁があるわけで、ここは税金の話ですからね。こっちに振りかかってくるのは先の話だなというふうになるけれども、しかし、今の状況を見れば、おそらくは消費税の引上げとセットになって議論をやらなければ、いつまでたっても議論はだらだら延びるだけ。だから、人工的にはきっかけをそれでつくるしかないです。

第2に、この話は、労働組合もあるし、財界も学者もいろんなことがあって、政治マターなんですよ。政治マターを政治家に任せておいて、お宅は何ぼ、公明党は何ぼ、共産党は何ぼといったら、果てしもない論争をやっていると思うんですね。これはアメリカでやっているやり方で、日本では馴染まないんだけど、これこそまさに、先生の分類によれば、考え方に幾つか差があるわけで、こういうグループで考えてみればこういうことになるよと、典型例を出してもらいたいんだね。でなければ、各論で「老人医療費はそうね」なんて言われれば、僕なんか切実だから、そう思いますよ。だけど、全体像が全然わからないんだ、これ。各論ばかり入っていて。まとめてみて何ぼだ、それに対する財源論はどういうことなんだ、ということをなるべく早いタイミングで出す。

それで、国民の選択という言葉がありましたが、国民の選択というのは実にきれいな言葉で、それしかないんですよ、選択を決めるのは。だけど、国民の選択を待ったら、こんなの5年たっても10年たってもまとまりっこないんだから、国会でやっていれば。どこかで政治的に締め切りを設けて、いろいろなパターンを3つか4つ並べてもらって、これはこういう考え方、これはこういう考え方と、問題を整理してみれば、各論の答えもそれで一応出てくる、財源論も出てくるというふうにわかりやすくしてくれないと、国民も新聞記者もわからない、こんなことは。いろんな議論があるということはわかった。前からわかってるんだから。

石会長

税調として何をやるべきだとお考えですか。

河野委員

それは、それこそいつか石さんが言っていたみたいに、これは主として厚労省と財制審がやる仕事だと思うんです、中身をどうするかは。それに合わせて、それが出てくれば、それとの関連で税金のほうはどう考えるんだ、保険のほうはどう考えるんだということになるので、ドッキングしないとだめだね。ここだけでいろんな議論をやっても、こっちはしょせん守備範囲は税金だから、そこから先はわからないよ。そんな人いないよ、この中には。何人かいらっしゃるけれども、それは全体ではありませんからね。

この話は、よほどうまく連携プレーをやらなければどうにもならない。今までは思いつきで連携プレーをやってきましたよ、実は財制審と税調というのは。今度、きっちりした制度的なやつをつくって、そこで状況をどんどん詰めていくという作業をやってもらわないと、いつまでたっても小田原評定になるのではないかということ。

石会長

連携プレーについては、いずれまた明確にお話しする時期が来るかもしれませんが、主税局と主計局、問題意識を持っているようでありますから、財務省の中、あるいは総務省の中等々で新しい動きを期待したいと思っています。いずれまた、お話しできる機会を持ちたいと思います。

ほかにどうでしょうか。どうぞ、田近さん。

田近委員

いろいろお話を伺ったのですけれども、税調ですから、税制と社会保障がどう連動するのかという観点の議論が必要だと思います。宮島先生がお使いになった資料で、社会保障制度について、ここでの「実像」のときに使われた資料、6ページですけれども、前からも言っていることですが、ただ、多少言葉の使い方に誤解というか、イメージに関して非常に大きな誤解があるような感じで……。

つまり、今話したいのは、税制と社会保障がどう連動するかということで、その意味では税調も今後、社会保障とどう関係するかということで大きな問題だと思いますけれども、何かこのベーシックインカムという言葉と負の所得税が違うものである。負の所得税というとミルトン・フリードマンが出てきて、「あいつか」と。あいつが言っていることは、経済の効率化しか考えないで役に立たないのだ、そういうふうな切られ方をしてしまうのですけれども、そうではなくて、ベーシックインカムというのはアトキンソンという人が主張していて、ポイントは、ベーシックインカムにせよ、負の所得税にせよ、社会保障との関係で言えば、取った税の中で還付するというのが共に同じもので、そして、還付するというところをどこまでの範囲でやるのかと。単に所得だけに連動して、所得が低い人にはバッとあげて、そうでない人にはあげないというふうなイメージでとらえているのが、負の所得税だと思うのです。

ベーシックインカムのほうは、一番典型的なのは、例えば高齢者で65歳以上の人に対してはベーシックなインカムをあげますよと。それは税からあげますよといえば、それは税方式による基礎年金的なイメージになる。あるいは、失業している人が働いたときには、一定の所得に行くまでは税から還付しますよというような形もある。

だから我々の議論としては、ベーシックインカムの考え方で基礎年金を考えるのかということが一つの応用問題になるし、それから少子高齢化の問題だと、児童手当というのは福祉の制度であって税とは関係ない--ではなくて、児童手当というのは全部やめてしまって、ある所得要件を課して、税の中から還付でやるのか、とか。

だから、社会保障と税制のリンケージというのをどこまで踏み込むか。そこの決定的なリンケージになるのがベーシックインカムだし負の所得税。負の所得税というのは、言った人のイメージが悪いということもあるかもしれませんけれども、一発でやってしまうというようなイメージで、それはそうじゃないんだよという言い方でベーシックインカムが入ってきたというふうに思います。

石会長

ベーシックインカムの考え方を少しここで議論したらいいではないか、ということですか。

田近委員

非常に局限的な考え方で言えば、65歳以上を要件にして、あるインカム、月3万円か4万円かをあげます、と。それは所得のステイタスによって多少変わるかもしれないけれども、税からあげますと言ってしまえば、それはベーシックインカムによる基礎年金の代替だということだと思います。

石会長

ほかにどうでしょうか。

井堀さん、さっき名前が出たから、どうぞ。

井堀委員

社会保障の問題は、たぶん受益と負担のリンクが非常に弱くなっていて、結果として、歳出需要が本来拡大しつつあるような状況の中で、その対象になる人が高齢化でどんどん増えてきて、マクロ的にも拡大しているときに、どういう具合いに負担をきちんと取るかという話が財政的には大きな問題だろうと思います。そのときに一番まともなやり方は、本当に必要な人に限定して、きちんと歳出を効率化して出すということで、なるべく歳出の過大なところを抑えていく方向でやるのが筋で、それでも賄い切れないところは、何らかの形で負担で対応せざるを得ないと思います。

そのときに、歳出をどう切るかというときに、日本がとってきたやり方というのは、個別にその人がどれだけ社会保障の適格者であるかどうかというのを、いわゆる資産テストか何かでやるのは非常に難しいので、ある意味で客観的な外形的なものでやってきた。例えば医療で言えば、キャパシティの面で限界があるから、たくさん人が来ても入院できませんと、とにかく病院の数を限定することによって、待ち時間を長くすることで対応してきたわけです。そうすると、当然、受給者から見れば、入れば得なので、プレッシャーがかかってくるわけです。なかなかそれが政治的に抑え切れなくなって拡大する。高齢者の数が増えてくればそういう状況になってくるので、今までのやり方がなかなか通用しなくなってきてどうするかと、そういう問題があるのではないかと思います。

改革の一つの方法は、なるべく歳出面で効率化できるところをやってほしいと。これは税調の守備範囲を越えたところの問題だと思いますけれども、とにかく歳出をできるだけ何らかの方法で、制度改革も含めて効率化するというのが一つだろうと思います。

それで、ある一定の歳出がとにかく何らかの形で決まったときに、それを保険料で取るのか、税で取るのかという観点で言えば、先ほど宮島先生も指摘されましたように、消費税で取っても保険料で取っても、課税ベースは同じなので、それほど大きな違いはないという側面はあるわけです。保険料で取るか、税で取るか、違いはありますけれども、ある一定の財源をどうするかという観点で言えば、広く薄く課税するものであれば、何で取ってもそれほど大きな違いはないので、その面ではマクロ経済と本質的な違いはないと思います。むしろ徴税面でいろいろな問題が起きますし、一つは、保険料でやる場合と税でやる場合は、歳出面でのはね返りはあると思うんです。それをしようとすれば、そうだと思います。

もう一つは、最後に宮島先生が指摘された、財源を、社会保障の拡大のために取るのか、あるいは、基礎的財政収支も含めて財政赤字の解消のために充てるのかという点ですけれども、これは、今後の財政状況が、当然、社会保障の拡大を伴って悪化していくという側面を考えれば、基礎的財政収支を均衡させる方向に持っていくときに、社会保障の歳出を抑制しなければいけないための増税だという具合いに見なすこともできるので、その2つを完全に区別するのは難しいわけです。どちらにしても財政赤字もきちんと調達しなければいけないし、必要最小限の社会保障の拡大にも財源面で対応しなければいけないので、両方の面からある程度の負担はやむを得ないと思います。やはり一番重要な点は、いかに社会保障の歳出の拡大をきちんと抑制できるようになるか。それが抑制できれば、あとはどういう形であれ、財政赤字という形で将来に先送りするのではなくて、きちんと国民に、税方式であれ保険料方式であれ、お願いするべきところはちゃんとお願いするということをまず税調でやるべきではないかと思います。

石会長

ほかの論点等を含めて、あるいは事務局にご質問を含めて、何かほかにございませんか。

尾崎さん、どうですか。

尾崎委員

税制調査会としての取り組み方ということですが、私は、井堀先生が今おっしゃったことですけれども、相対として一体税で幾ら収入を上げるのかという話が税制調査会としては基本だと思います。あとは、社会保障に行くとか、公共事業に行くとか、環境対策に行くとかいう話はその配分の問題で、社会保障をどうするんだ、環境をどうするんだと目的税の話をしていて、その合計が税収だというのはおかしいと思うんですね。そこの姿勢は崩せない。今の財政状況、今の財政赤字ですと、やはり税収そのものを増やすことについての努力が基本としてある。しかし、それにも限界がありましょうから、できる限り賄える範囲を広げるために、歳出のほうをカットするというような姿勢で取り組むべきではないか。

自民党税調の報告を読むと、「社会保障のために」というふうになっているというお話が先ほどありましたけれども、たしかにそうなんですね。私が読んでもそのように思います。というのは、顔ぶれが、社会保障に大変関心をお持ちの方々が、今、自民党税調に大勢集まっているように思います。その方々の関心が非常に強く出て、議論がリードされているのではないかなと思いますけれども、やはり国家というのは、税収を相対として幾ら上げるのか、幾ら国民に負担してもらうのかというのは、総論が基本だと思います。政府税調としてはそこは外さないほうがいいと思います。

石会長

大賛成ですね。

どうぞ、井上さん。

井上委員

今、尾崎委員のおっしゃられたこと、本当にそうだと思います。やはり税収の枠というのは一つの決まりがあるだろうと。だから、入ってきたものをどういうふうに分配するかという問題で、医療の問題にしてもしかりだと思うけれども、先ほどもちょっと出ていましたが、生活習慣病なんていうのは予防はいくらでもできる。ところが、罹ったら全部負担をせいというのはおかしいのではないか。たばこにしてもそうでしょう。たばこを吸って肺癌になった。女性が1.9 倍も肺癌になるよというのがはっきりデータが出ていながら、どうして保険でそれを治療しなければいけないのか。出すほうを制限することも必要なのではないか。

介護にしてもしかり。福岡や何かは非常に高いというのは、ベッド数をどんどん増やしたからそうなるので、特養ホームなんていうのは予算がつけばどんどん増やす。そしたら、そこの費用は雪だるま式に増えるわけです。そういう馬鹿なことばっかりやっていて、足りないから税金を増やせというのは本末転倒だというふうに思いますので、ぜひともそういう点に突っ込んでいただきたいと思います。

石会長

要するに、供給サイドのほうの議論まで含めてですね。先ほど事務局から説明がありましたけれども、そうでしょうね。

草野さん、ございませんか。

草野委員

先ほどからお話が出ていますけれども、非常に議論は難しいと思うんですね。この政府税調というのはいろいろな立場の人が出ていますから、そこの中の意見調整という場であるというのが、政府税調の一つの意味づけだとも思うのですが、国民の皆さんが今、大変怒りを持っているのは、社会保障の給付と負担の関係と、将来にわたって、自分たちや自分たちの子供の生活がどこまでそこに頼れるのか、あるいは安心できるのか。そこが見えてこないというところが一番大きな問題なので、そこをどうしていくかということになると、今、社会保障の在り方に関する懇談会で宮島先生とか石先生がいろいろ頑張っていただいていますが、これは政府税調の役割かどうかというと、非常に難しい。今日は、負担と給付の関係もあるから少し勉強しようということで、スタートだったと思います。したがって、ここは税の話を中心にやるとすれば、社会保障の在り方に関する懇談会の進捗状況と、この政府税調の進め方との時間的な問題も、一定のところで整理をしなければいけないのかなという感じは持ちます。これがまず一つです。

それから、先ほどちょっと出ましたけれども、ここは税の問題ですが、プライマリーバランスの問題もありますけれども、勤労者の家計が6年連続、可処分所得が減っているということを考えますと、単に「入るを図って出るを制す」ではなくて、まず、出るほうをきちっとやって、そして、それに必要な税収とか保険料はどうかという論理の組み立てにしなければいけない。出るほうの話はまた別のところですよという話になりますと、自分が議論に参加しようと思っても頭の中が混乱するかなと、そんな感じを今持ちました。

石会長

税とおっしゃるのは、もっぱら社会保障給付のほうですか。介護とか年金とか。

草野委員

私が言っているのは制度全体の話です。

石会長

公共サービス全体ですね。わかりました。

ほかにいかがでしょうか。菊池さん、どうですか。

菊池委員

いろいろ勉強させてもらいまして、ありがとうございました。この話というのは、聞くともう嫌になってしゃべりたくなくなるのですが、その中でちょっとあれかなと思ったのは、宮島先生が言った、補完的である家族がずっと引いていくから、国で全部やらなければならないと。それはそうなのですが、もともとあっちが主で、国が後で出てきた。よけいなことをするからこういうことになるんだ、というふうに思わないでもないのですが、まあ、ここまで来てしまったらしようがないかなとは思いますけど。

もう一つ、非常に気になったのは、医療費の総枠規制をすると、「命を縮めるのか」と言われたときに困るということで、一生懸命数字をこんなにつくって大変だなあと思うけれども、基本認識として、予算を削ればどこかで誰か死ぬというのは当たり前の話でありまして。直接的か、直接的でないかというのはわからないのですが、そんなことなしに、医療費を削ったら命を縮めますって当たり前ですよ、それは。そこのところなしに金を使ってくるからこんなになってしまったんだなあ、というのをつくづく感じて聞いていた次第でございます。

石会長

菊池節が出たところですが、ほかにどうぞ。

河野委員

さっきちょっと申し上げたんだけど、例えば社民党的なというか、社会民主主義的な発想で行けばこうなりますよ、と。もうちょっと自由なアメリカ的な発想の学者のグループがあるけれども、そう発想すればこういうことになるんですよ、というのを……。つまりこれね、哲学がないとどうにもならないんだ。哲学が曖昧として、とにかく出るやつを削ろうではないかと言っているだけではだめなんです。根っこの発想はこうだ、だからこういうことをやるのよ、ということが複数並んでいくのが一番いいんですよ。今、それが足らないから、技術論とか個別論に走ってしまうから、最後になかなかまとまらないんですよね。

石会長

公助とか共助とか、本当に皆保険・皆年金でやれるのかね、という話ですよね、1億人を超えている世界で。そういうところは、おそらくみんな共通したところで議論しないとだめだということでしょうね。まあ、これは分かれると思いますよ。

遠藤さん、どうぞ。

遠藤委員

お話を聞いていて思ったのですけれども、社会保障というのは何のためにやるかというと、国民のためにやるわけですね。これだけ先進国になって、所得の高い国をつくって、国民が幸せな一生を送るためにはどうするのかという観点から、社会保障制度というのはぎりぎり詰めたとしても、お金が足りないから、滅多やたらに制度を切ってしまって、困る人をたくさんつくるというのは社会保障じゃないと思うんですよ。だけど、そういう議論はここではできないんですよね。宮島先生のところでやられるのかもしれませんけれども、今の水準で国民が幸せな一生を送るためには、どういう社会保障制度がぎりぎりのところでも必要なのかというところを決めてもらって、それで足りない部分は、税や保険制度でどうやってカバーしていくかということを考えるべきだと思います。

ただ、そこへ行くまでには、税の問題に入ってくると、国民が、何で税金を上げなければいけないのか、社会保障の話はわかるけれども、無駄なものをずいぶんやっているではないか、という議論が必ず出るんですよ。私は何べんも言って財務省の主税局の方に申し訳ないのですけれども、地方団体だったら完全な財政再建団体ですよ。財政再建団体として、足りないところは赤字国債を出せるからやっていけるのであって、地方団体だったら地方債の許可はしませんから、やっていけないわけです。

最初に影響試算というのが出ています。これは、私が現役のときから出ていると思いますが、ずいぶんギャップがあるけれども、何とかかんとか予算を組めるんですね、その年度になると。今はそういうときではなくて、あっちこっちでいびつが出て、ワーワー言うような予算査定というのが必要な時代で、その中から、国民が社会保障制度で幸せな一生が送れる制度をどうするか。それで足りない部分を税でどうやって補っていくかという議論をしていかないと、最終的にはまとまらないだろうなと。国民はいつも不満を持って、何か知らないけれども、税金を増やされる。そうすると、反対のところが必ず出てきて、税収をどうするかという話はつぶれていくというシナリオになるのではないか、そういう心配をしています。

石会長

要するに、社会保障というセーフティネットのレベルをどう決めて、それをどれだけ負担しなければいけないかというのも議論しなければだめだというのですね、負担から入ったのでは。そう思いますね。

翁さん、どうですか。

翁委員

税がどういう目的で社会保障を補完するのかということについて、やはり議論しておく必要があるかなと思います。例えば、年金の体系では2分の1ということになっていますけれども、それは、例えば皆年金実現のためのコストであるとか、そういう議論もある一方で、いろいろな議論の中では、さっき言われたベーシックインカムとしての位置づけであったり、または、最低保障年金みたいな考え方で税を入れるという考え方もある。

先ほど宮島先生がご紹介になったように、一体化の議論についてはいろいろな議論があります。そこでの税の関与のあり方というのは、いろいろな位置づけで議論されていて、そこについて1回きちんと議論して、財源のあり方とか、それと徴収の実際のところがどうなのか、というようなことを少し体系立てて議論しておく必要があると思います。

石会長

それは次回、翁さん、やってもらえるね。

翁委員

はい。

石会長

ぜひお願いします。

ほかにいかがですか。

菊池委員

ちょっと遠藤さんが言ったのが気になって。社会福祉のレベルを決めて、決めれば、どんどん高くなるに決まっているのであって、その分の金を集めなさいとこっちに回ってきても、それは全く話がおかしいと思います。現実的に税金をどのくらい取れるかというのは、おのずと世の中を眺めて、水準というのは決まってくるわけで、いくらこれだけ欲しいといっても、そんなもの集められないわけですから、それに合わせて使うほうを下げていくしか基本的にはないわけで、その間、40兆円の借金でいつまでもつないでいって、100年後もつないだら、誰ももう相手にしなくて意外といけるかもしれないと思っているわけですから、今。そこのところを、使うほうから先に決めるというのは、それは勝手ですけれども、その間を埋める埋めないというのは、税調としては知ったことではないというふうに私は思います。

石会長

そういうことを言っているわけではないですね、遠藤さん。

遠藤委員

私が言っているのは、社会保障というのは、今の国民が安心して老後を迎え、死期を迎えられるかということを考えるべきだと思うのです。そういう水準としてどういうものをセットするかというのは非常に難しいと思うけれども、そういう議論というのは必要だと思います。

それから、東京にいると、全国一律の平均値をとりたがるのですけれども、地域によってものすごく違うんですよ。1,000人当たりの病床でも、お医者さんがいない村はたくさんあるわけですから、そういうところをどうするのですかという話に必ずなるんですよね。ですから、制度設計というのは非常に難しいと思うけれども、そういう議論をやっていただかなければいけないだろうと思います。

石会長

最後、宮島さん、聞いた感想で総括してくれますか。学会じゃないけど。

宮島委員

私は、大きな枠的な発想、これはあるというか、当然出てくるでしょう。その中でどういう手法をとるかというときに、今いろいろご意見がありましたように、幾つかの手法があるわけで、そのときに、長期的な見方ができるような余裕があるかどうか、今、実は一番気になっているところです。つまり、5年後にはこうしなければいけないと。5年で全部やれというのは非常に難しいと思います。10年とか、ある程度目標を定めて、2015年くらいに「ここに落ち着く」というようなことでいろいろな仕組みを考えることは、私はそれほど難しくないような気がいたします。

ただ、その場合にポイントは、言い方はよくないかもしれないけれども、困っている人が金がないからだめというやり方と、困っている人をなるべく減らすことが……。それは言葉はきれいだけれども、そういうふうにできれば一番いいと思っていますので、さっき言った予防とか、自立支援とか、そういう点が重要になってくるだろう。そのときに初めて、税と保険料の選択のあり方とか、そういう問題がおそらく出てくるのではないかというふうに考えております。

ですから、一方で、財政面なり経済面からのマクロ的な枠、制約条件というのが入り、その中で、まさに一体的なプログラムの見直し方を考えるということで、いずれにしても何とかどこかで折り合いがつくのではないかと思っていますが。

石会長

最後で恐縮です。政治家の話も出ましたけれども、上田副大臣から、何かコメントなりご感想なりございますか。あれば、お話を聞きたいと思いますが。

上田財務副大臣

今日は、むしろ税調の先生方のいろいろなご意見を伺うという立場で出席させていただいておりますけれども、今、先生方から出た話というのは、いずれも、政党また政府・与党の中でも議論をしていて、どこから先に始めるのかというのは本当に難しい話であります。いろいろな財政の審議会、また、この税調も含めて、「出」と「入」のいろいろな議論が、総合的に落ち着いたところでという方向が出てくるのかなと思っております。

ただ、財務省の立場からすれば、すでに非常に財政が悪化している中で、出のほうは極力抑えていかなければいけないし、その上で「入」のほうをどうやって埋めていくのかということを考えていかなければいけないわけであります。その辺はまた、税調の先生方にもいろいろな観点からご議論をいただいて、ぜひ、ご建議をいただければというふうに思いますので、よろしくお願いいたします。

石会長

ありがとうございました。

ちょうど時間になりましたので、今日の議論はこれで終わりにしたいと思いますが、大変身の入った議論が行われたと思います。

次回以降の予定をアナウンスいたします。

次回は、3月8日(火曜日)2時-4時と考えておりまして、委員の中からお三方、出ていただきまして、ご説明、意見を表明してもらおうかと思っています。田近さんから「介護保険から見た社会保障」、翁さんから「年金制度」、林さんから「地方財政と社会保障」、それぞれプレゼンテーションをいただいて、今日みたいな活発な議論ができるように期待いたしております。

それから、次の次は、3月18日(金曜日)でございますが、2時-4時を考えております。これもまた、外部から専門家を呼んでくることになるかもしれませんが、同じように勉強会という趣旨に沿いまして、社会保障関係あるいは雇用関係、少子化の問題等を含めまして、同じような問題群をめぐって、いろいろご議論いただきたいと考えております。

以上でございます。日程等、あるいは、テーマの取り上げ方として、何かご要望があれば承っておきたいと思いますが、よろしゅうございますか。

それでは、ちょっと時間を越えましたけれども、今日はありがとうございました。

〔閉会〕

(注)

本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。

内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。