第12回基礎問題小委員会 議事録

平成16年5月14日開催

石小委員長

それでは、まだお見えでない委員の方がいらっしゃいますが、追っつけお見えになると思いますので、12回目の基礎問題小委員会を開催いたします。

審議に入る前に、新しく専門委員に就任予定の方をご紹介いたしたいと思います。東京新聞論説委員の川北隆雄さんであります。どうぞよろしくお願いいたします。

川北氏

今、ご紹介にあずかりました川北でございます。全く初めてなものですから、今日は、ただひたすら皆さん方のご意見を拝聴しようと思っています。よろしくお願いします。

石小委員長

いえいえ、ご遠慮なさらずにどんどん発言をしてください。

それでは、本日の予定を最初に申し上げますが、「実像」把握を続けておりまして、今日は「環境」という問題を取り上げたいと考えております。お二人の先生にご報告いただけるということでございまして、お一人が、後ほど詳しくご紹介しますが、千葉大学の倉阪先生、もうお一人が東大の安岡先生でございます。

環境というのは社会システムの根っこにあるわけでして、環境とどうつき合っていくかというのが我々の大きなテーマでございます。あまり環境税云々というような税と引っかけなくても、環境というものは非常に重要だと思いますので、大きな視野から今日は見ていただきたいと思います。

それでは、恒例によりまして、事務局からまた資料を作っていただいておりますので、まず、この資料の説明をバックグラウンドデータとして我々いただくわけでございまして、佐藤調査課長からご説明いただきたいと思います。

では、佐藤さん、お願いします。

佐藤調査課長

それでは、資料の「基礎小12-1」に沿いまして、本日のテーマ、「環境」についてのイントロをさせていただきたいと思います。

資料の間に赤い紙が入ってございまして、その後ろにデータが並んでございますので、その赤い紙の後半部分に目を通していただきたいと思います。

まず、目次でございます。資料構成としましては、まず、「環境問題とは何か」ということがございまして、2以下、地球環境、公害、廃棄物・リサイクル、自然環境、資源・エネルギーという、いわば環境問題の根っこにあります環境への負荷という部分についてのデータを並べてございますが、本日、地球環境につきましてはプレゼンテーションをいただけるということでございますので、そういうことになってございます。それから、7番で「環境に関する国民の意識」という部分がございます。このあたり、私から説明させていただこうと思っております。

それでは、ページを送っていただきまして、算用数字の1ページ、「環境問題とは何か」というところからご説明いたします。

ざっと見ていただきまして、環境問題と一言で言いましても非常に広うございまして、おそらくこれで入り切らないと思いますが、一応並べてみました。いわば環境ということと環境問題とは実は異なるわけで、環境負荷が高まっていって何らかの形で臨界点を越えるという状況になってはじめて問題化していくわけですが、環境問題化する対応というのは、問題によりまして多様な広がりがあるということが直観的にわかるだろうと思います。

例えば地球温暖化とか、オゾン層破壊というふうな、地球環境問題として括れる部分といいますのは問題化するまでに非常に時間がかかります。時間軸が非常に長いという話。それから、影響する範囲が非常に空間として広い。そういう意味ではグローバルというふうな部分であるとか、あるいは、その原因といいますか、関わり方がライフスタイルにかかわってくる問題であるとか、そういうふうなかたまりではないかと思います。一方、真ん中の公害、あるいはリサイクルというあたりになりますと、その時間軸がわりと短くなったり、影響する空間が狭くなったり、あるいは、そのもととなる影響が、例えば特定の者の行動であったりというようなことで、おそらく問題によりましてかなり質が異なるものが環境ということでひと括りになっているという理解をしておく必要があるだろうと思います。

そういう意味では典型的に地球環境問題と一言で言いましても、ここに書いたような地球温暖化から始まるさまざまな問題がございます。ここは、どちらかといえば、人間にたとえると慢性疾患みたいなもので、気がついたら相当傷んでいたという部分だろうと思いますし、公害の部分は急性疾患というようなものかなというふうに思います。そういうふうな目で全体をまず鳥瞰していただくということでございます。

次の2ページでございます。それでは、環境問題、あるいは、その背景にございます環境の劣化について時系列で追ってみましょうということで、差し当たり、未定稿でございますが、年表を作らせていただきました。上の段をご覧いただきますと、環境の出発点というのは、1962年のレイチェル・カーソン女史の『沈黙の春』という本が古典としてスタートラインだろうと思います。DDTなどの科学物質の環境への影響ということを警鐘を鳴らしたものとして大変有名な書物でございます。これからスタートいたしまして、1972年のストックホルムにおきます「人間環境宣言」等々が大きなポイント。

80年代になりますと、87年にブルントラント報告と書いてございますが、ここに「持続可能」という言葉が出てまいります。サステイナビリティーという概念が出てきたところでございます。ただ、80年代までは、ちょっと目を追っていただきますと、フロンによるオゾン層の破壊とかそういうような話で、いわば個別対応という形で問題意識が高まってきた時期でございます。「緑の党」というふうな動きがヨーロッパであったのもこの時期でございます。

そうした中で90年代に入りまして、問題がかなり進んでくるという時期がございます。それが92年の「地球サミット」というところでございまして、ここでカッコの中に書いてございますけれども、「環境と開発に関するリオ宣言」採択、以下、さまざまな条約が国際的な取組みという形でスタートし、その後、例えば砂漠化の関係の条約であるとか、CO2の関係でいきますと、京都議定書、あるいは2001年になりますと、残留性有機汚染物質に関する条約というふうな形で、国際的な取組みが、先進国、途上国の間のさまざまな議論を経ながらも少しずつ進んできているという形だろうと思います。奇しくもこの時期、冷戦が終局したあと、国際論の協議の焦点が「核」から「環境」にシフトしたということを論ずる論者もいるぐらいでございます。世界の流れはおよそそういうふうな流れでございます。

それでは日本はどうかということで、次の「わが国の動き」のところをご覧いただきますと、一つは、イタイイタイ病、水俣病等々ございますが、67年に「公害対策基本法」というのがございます。それから、1970年に第64回国会が「公害国会」と呼ばれたということで、この時期の環境問題、環境対策というのはいわば公害問題であったということでございますので、産業型公害という時期でございます。高度成長期の大量生産・大量廃棄という時期に対応した問題だということでございます。ちなみに流行語大賞というのがございまして、その中で75年に有吉佐和子さんの「複合汚染」という言葉が出ている時期でございます。それも一つのトピックスでございます。

その後、93年、「環境基本法」ができます。これは地球サミットの流れででき上がってくるということで、公害対策基本法の衣替えということで基本法ができるというふうに承知しております。問題の設定がかなり広角になってくるということで、その後、自動車のNOX法とか、リサイクル法とか、ダイオキシンとか、CO2関係とか、そういったようなものが目白押しに出てくる時期でございます。大気汚染、廃棄物、CO2問題、化学物質問題等々が提起される状況になってきたということで、問題が多様化してきているという流れでございます。ちなみに91年、これも流行語でございますが、「地球にやさしい」という言葉が出ておりまして、時代の一つの象徴かなというふうに思います。

いずれにしましても本日のテーマは、我々の社会システムを考えていく上でこの環境という問題、非常に多角的ですが、それをどう位置づけるかということでございますので、考えるための枠組みのような話につきまして、本日、プレゼンテーションでご提起をいただく形になっております。

3ページです。環境に関してかなり重要な概念を幾つか紹介してございますが、一つだけ、「持続可能性」ということがよく言われます。サステイナビリティーということですが、最初に指摘がございましたのが「ブルントラント報告」というものでございまして、この枠の中に、「将来の世代の欲求を充たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」ということで、将来世代に対する現世代が責任を負うというような意味だろうと思いますけれども、それがキーコンセプトということで、今、全体的に動いているということをご紹介させていただきます。

5ページ以降につきましては、先ほど見ていただきました環境に対する負荷に関連するデータをそれぞれ並べてございますけれども、本日は特に地球環境についてプレゼンをいただくということですので、このあたりは割愛させていただきます。

ざっと飛ばしまして、19ページまで飛んでいただきたいと思います。環境をどうとらえるかということの一つの準備というか、バックデータとして、2つ、ここでご説明いたします。

1つは「物質収支」という話、もう1つは「国民の意識」という2点でございますが、1つ、物質収支(マテリアル・フロー)というものでございます。真ん中あたりに総物質投入量とございまして、日本の場合、21億トン物質が投入されます。そのもとは輸入が7億5000万トン、約4割、国内の資源が11億トンで約6割ということで投入されまして、それが何らかの形で加工等々されまして、蓄積されますのが11億トン、蓄積純増が11億トン、約5割強。それからエネルギー消費、これは熱とかCO2で放出されますが、これが4億トンで約2割。廃棄物の発生というのが真ん中下にございますが、6億トン弱ということで、約3割。若干それぞれにおいて循環してまいりますけれども、そういう全体の物質収支になっているということを、まず、全体のマクロのピクチャーということでお示しさせていただきます。

次、20ページでございます。国民の意識ということも押さえておいたらどうかということで、幾つかのアンケート調査などをつけてございます。これは環境省における調査でございまして、環境保全行動の傾向をアンケートでとったものですが、まず、一番上の分別関係。すなわち古紙回収とか、ビン、ペットボトルなどの分別について、そこは非常に高く実施されている。それに対して下のほうですが、美化運動とか、リサイクルとか、そういったものが非常に低いということでございます。これは、ルール化されているものについてはかなり実施されているようですが、そうでないものについては消極的な感じというのが読み取れるのではないか。

実は、第3回目に「価値観・ライフスタイル」というのをさせていただきましたときに、消費行動に関してたしか「鳥の群れ的消費行動」という話がございました。その中に、無名ブランドよりも有名ブランドを買う消費者行動があるというご紹介があって、それに対して「寄らば大樹的行動」であるというご説明がたしかありましたが、要は、いろいろなこだわりを持っていても有名ブランドを買うほうが無難だという行動だということでございますが、実は環境にもそういう部分がありまして、ルール化されている部分に沿っていると、それはそれで無難だというような行動かなということになりますし、ルール化されていない部分については寄らないほうがかえって無難ということかなと。何か一つの価値観のような構造が透けて見えるという感じがしていますが、そのあたり、いかがお考えになるかということを問題提起をさせていただきます。

次のページ、21ページでございますが、これは青少年の意識ですけれども、内閣府の調査でございます。環境保護意識調査ということでございまして、3つの説明がございます。「環境に配慮した商品が製造された結果、商品の価格が高くなってもそれを買う」。真ん中は、「環境を守るために、今より税金が高くなっても仕方がない」、それから右側で、「生活が不便になっても、環境に悪影響を及ぼすようなものは使わない」、こういう3つの問いですが、日本は他国と比べまして特徴的なポイントは、いずれも「はい」と答えた割合が非常に低いということと、もっと特徴的なことは、「どちらともいえない」というのがいずれも3分の1ほどいるということでございまして、おそらく実感がわかないということが主にある。実感がわかないから消極的対応になっているという問題かなということで、問題と個人の環境とのその距離感がここに出ているのかなというふうに思います。これも一つの意識のあらわれかと思います。

22ページ、また同じような調査ですけれども、これは、環境保護か、経済成長か、こういう選択を迫った問いかけでございます。黒いバーが「環境優先」、右側の斜め線が「経済優先」、白抜きが「わからない」ということでございまして、日本の場合は「わからない」というのが多うございまして、同じような傾向で大体3分の1、「わからない」という人がいる。今日は全部お示ししておりませんが、どのアンケートを見ましても、3分の1は「わからない」。まあ、実感がわかないということなのかもしれません。「わからない」以外の中で見ますと、若干環境優先という形も多いですが、世界とのバランスを見るとこういうふうな状況になっているということをご確認賜ればということです。

それから、24ページ、今日プレゼンをいただきます地球環境に限りましてアンケートをとったものです。「あなたは現在の地球環境の悪化にともなう人類存続の危機の程度をどのように認識していますか?」という大仰な質問ですが、時計の針にたとえて、0時~12時というふうに置いたらどうかということでございます。「極めて不安」という感じが増えていますけれども、そのとき、「どのような状況を頭に置きましたか?」というのが右側に書いてございまして、日本、先進国いずれも「温暖化」と書いております。それに対しまして途上国は、森林の破壊・砂漠化・生物多様性の減少というように、同じ地球環境問題といいましてもとらえ方がそれぞれ違っているということもございます。これも一つの情報でございます。

なお、環境の取組みに関して、ちょっと飛ばしまして、26ページでございます。企業の取組みというのが、実はかなり考え方が変わってきていることも間々指摘されますので、参考につけております。左側の、企業における環境の考え方につきまして、それまでは、環境への取組みは社会貢献の一つだ、ワン・オブ・ゼムだったものが、それはかなり重要な問題というふうに認識が変わってきている動きがあるということですし、右側のISOの審査につきましての数が急増するということで、そういう意識の反映が見られる部分も同時的に進んでいることも事実でございます。

以上がデータの紹介でございますが、戻っていただきまして、ページ、「環境に関する論点・切り口(例)」というところでございます。お時間がございませんので、アンダーラインのところだけ若干ご紹介させていただきます。環境問題とは何か。歴史的にみてそれはどのような広がりを見せているのか、なぜ起こるのか、なぜ対応しなければならないのか、持続可能性というのは真にどういう意味だろうか、というのがそもそも論でございます。

それから、地球規模の環境問題。今日プレゼンいただきますので、掲げてございますが、その全体像とか、気候変動のメカニズム、あるいは、それが科学的にどの程度解明されているのだろうか、それが我々の生活、社会システムにどういう影響を与えているのだろうか、そういったことについてプレゼンをいただくということでございます。

次のページ、ページでございますけれども、半分より下でございます。人口減少など構造的に変化しつつあるわが国の経済・社会について、今後のあり方を展望する場合に、経済の活性化を図りつつ、環境への負荷の少ない「持続可能な社会」を実現するという視点が重要であると指摘されるわけですが、これに関して、我々にとっての持続可能な社会とはどうイメージしたらいいかとか、環境と経済の関係をどう考えるべきか、あるいは、そうした問題に対して社会を構成する主体がどのような対応をなすべきか、というふうに一応思いつく限りの問題提起をさせていただいているということでございます。

以上でございます。

石小委員長

ありがとうございました。

それでは、今のご説明にご質問もあろうかと思いますが、早速、お二人の専門家のお話を聞いて、その中でまた調査課長に質問がありましたら、取り込んでください。

最初のスピーカーが、千葉大学法経学部の助教授でいらっしゃいます、倉阪先生であります。たしか倉阪先生は、環境庁にご勤務の経験がおありと思いますが、私も一時、そのときお目にかかったことを覚えております。今、特に経済と環境の関係を追求されておりまして、ご著書としては、『環境を守るほど経済は発展する』とか、『エコロジカルな経済学』等々ございます。「環境問題とは何か」と。今日も標題に「環境に関する論点」ということでご整理いただきますので、40分ほどでございますが、最初によろしくご説明いただいて、ご質問に答えていただきたいと思います。

では、よろしくお願いします。

倉阪助教授

今日は、こういう貴重な時間をいただきまして、ありがとうございます。千葉大学の倉阪でございます。

私、今ご紹介いただきましたように、経済系のバックグラウンドを持っておりまして、特に経済学の中でもエコロジカル・エコノミクスというか、そういう新しい分野をベースにしています。それから、もう一つのバックグラウンドとしては政策の経験ということでございまして、環境政策の現場で11年やらせていただきました。その中で、93年の環境基本法づくり、97年の環境影響評価法づくり、そういったことで基本的な法制度に携わることができまして、その中でいろいろなことを身につけていったという背景でございます。

それでは、今日は40分いただきましたので、若干駆け足になるかもわかりませんが、私の考える環境像、あるいは、環境問題とは何か、その中で経済活動と環境との関係はどういうふうに整理していくべきか、ということについてお話を進めてまいりたいと思います。

(スライド2番)

まず、「環境とは何か」ということでございまして、ここからが、一番根本的なことでありながらあまり明確にされていないところです。93年の環境基本法のときにも、環境という定義を置くか置かないかということで大変な議論を政府部内で行いました。結果的には環境の定義は置かなかったわけですけれども、環境基本法の中には「第3条」という基本理念がございます。その中で、環境というのは限りある環境である、生態系の微妙な均衡のもとに成り立っている環境である、あるいは、そういう環境が人間の環境への負荷によって脅かされつつある、そういう現状認識を書いたところがございます。その現状認識から説き起こしていきますと、人をとりまく物理的自然的な存在が広い意味での環境であるというふうに言えるかと思います。しかしながら、まだこれでは整理がし尽くされておりませんで、人をとりまく物理的自然的存在を分けて考えようということで、これからの話を進めてまいりたいと思います。

人は原始時代から、さまざまな人工物を人体の身体外的器官として身につけることによって人間にとっての利便性を高めてまいりました。そういったものは人工物でございます。人工物というのは人間が設計していることが一つのポイントです。それに対して人間が設計していない存在、これが環境でございます。環境の別の言い方として「自然」という言い方がございます。「自ずから然る」ということでして、人間が設計していない存在というのは、それぞれ、人間の意図にかかわらず、人間の意図から独立して機能をするという特徴を備えております。

ここはちょっとつけ加えでございますが、人間の経済というものを動かすソフト面。ハード面が人工物だとすると、そのソフト面が制度でございます。その制度を検討するのが社会科学であり、一方、人間が設計していない環境の挙動を解き明かしていくというのが、広い意味での自然科学ではないかというふうに考えております。

(スライド3番)

こういう概念整理をしてもう一度文章で整理いたしますと、環境というのは、人を取り巻く物理的自然的存在であって、人間が設計していないものである。これは、人の意図にかかわらず自律的に動く「自然」である。人間の経済、これは人と人工物から成り立つわけですが、その「外部」に存在する。こういったものが環境でございます。

人間は、環境から3つの機能をもらいながら活動しております。環境が人間の活動にとって欠くことができないというのはこの3つの機能ゆえでございます。

第1に、sinkとしての機能です。資源・エネルギーの供給源として環境というものは欠かすことができないということです。

第2に、不要物・廃熱の吸収源としての機能、これも欠かすことができません。sourceとしての機能ということです。地球の温暖化という問題は、このsourceとしての機能が若干機能不全を起こしつつあるという問題でございます。

第3の機能としては、affordanceを与えるものとしての機能です。快適な生活の場を提供する。人間が生活しようと思うと、陸上に適度の広さの土地があって、そこに快適に生活しようと思ったら、鳥がいて、自然があって、緑があってと、そういった環境が必要なわけでございます。

(スライド4番)

「環境問題とは何か」ということですけれども、参考資料(「基礎小12-1」)におきましてさまざまな環境問題を挙げていただいておりました。この参考資料では1ページ、「環境問題とは何か」ということですが、それに共通するものは何かということで挙げたものです。

第1に、人の活動に起因するということです。例えば地震であるとか、あるいは台風であるとか、そういったものは通常、環境問題から切り離して自然災害の分野に当たるということになります。

第2に、人の活動に悪影響を及ぼすということです。これは近年、自然の権利とか、自然自体に権利、あるいは価値を見出す人も一部おりますけれども、自然と人間は制度を共有しておりません。したがいましてそういう自然の価値を言う人は、人に悪影響を及ぼすといって把握せざるを得ないということでございます。

第3でございますが、「環境」。先ほど定義した意味での環境は介在するということです。介在の程度が、先ほどご説明があったように、地球温暖化から近隣騒音までさまざまな程度があるということでございます。

環境問題が起こる理由ですけれども、3つの理由を挙げています。

第1に、人の活動が環境から切り離せないということです。

第2に、環境は人の活動と独立した原理で自律的に動くということでございます。

第3に、環境の挙動をすべてあらかじめ把握して、それを織り込んで意思決定することができないということです。これは認識の限界、計算の限界、それぞれあるかと思いますけれども、人は自らが、その生活の基盤、生命の基盤としている環境に対して負荷を与えつつ行動せざるを得ない、そういう状況に置かれているわけです。

(スライド5番)

環境問題につきまして最近の傾向でございます。これは、参考資料で、国内の環境問題のほうで若干出ていますが、例えば10ページの3の「公害」というところで苦情件数などが出ています。それから次にNO2の濃度が出ています。

ただ、我々の日本におきましては1970年代に環境行政というのが始まりまして、環境行政によってずいぶん対応されてきた問題というのがございます。今、スライドに出しておりますのが70年代の環境問題の一つの特徴でございます。発生源が特定の発生源である。被害が比較的短期間で顕在化する。それから、被害が局地的に発生する。こういう問題でございます。70年代の日本におきましてはこういう環境問題がさまざまな形で顕在化し、対症療法的に、問題が起こったらその問題がどういう汚染物質によって引き起こされているのかということを突きとめ、それに対して排出口において規制をかけていた。そういう政策をやってきたわけでございます。それによりまして例えばSO2(二酸化硫黄)の濃度、ちょっとグラフにはありませんけれども、そういったものは格段に減少しております。あるいは水質汚濁におきましては、水銀等々の重金属の汚染、これも格段に減少しているということでございます。

最近の環境問題ですが、それぞれ対比する形で挙げたところでございます。多数の発生源からの環境負荷が集積する。次の世代になって初めて被害が顕在化する。国境を越えて被害が広がる。こういう問題でございます。構造的な環境問題--先ほど調査課長からは慢性病に比することができるという話がございましたが、構造的な環境問題に対して対症療法的な環境政策が機能しなくなってきているというのが現状です。したがいまして、構造的な環境問題に対して戦略的に長期的な視野を持って対応をしていこう、そういう新しい政策群が求められている状況でございます。

(スライド6番)

こういった中で環境を守る目的でございますが、「持続可能性」というキーワードに引き寄せて考えますと、「ふたつの持続可能性」を我々は達成することを求められているのだろうということで整理をしております。実はこの2つの整理といいますのは、先ほど申し上げました環境基本法の第3条の基本理念で整理をしたものと対応しております。

第1に、個人の持続可能性の確保ということです。環境基本法の用語で言いますと、「健康で文化的な生活を確保する」、そういった言い方になっています。個人の持続可能性といいますのは、環境問題によって、普通に何も悪いことをしていない人が公害病などでお亡くなりになる、あるいは健康を取り返しがつかないほど損なってしまう、こういったことが起こったわけでございまして、その反省のもとに1970年代にすでに認知をしているわけです。また、持続可能性という言葉でこの分野を言い表したことは当時はなかったわけでございます。

もう一つの持続可能性が、地球環境問題の顕在化に伴いまして徐々に認知されてきたということです。「徐々に認知されてきた」といいますのも、まだ十分わからずにやっているところが大きいわけです。先ほど、91年の流行語で「地球にやさしい」という流行語があったということですが、地球はなくならないわけでございます。ですから、地球にやさしいというのは偽善である、あるいは、わからないというような人が出て当然でございます。

(スライド7番)

しかしながら、社会の持続可能性というものにつきましては、次にグラフを挙げますが、これは生態学の知識でございますけれども、有限な環境の中で個体数が増えていった場合、どういう個体数がどういう経路をたどるのかということで2つの経路を指摘しています。この出典は栗原康さんですが、2つの経路はオダムという有名な生態学者の教科書に出ております。

今挙げておりますのが、S字曲線です。これは、密閉されたフラスコの中でミジンコなどを育てた場合、ミジンコの生物体量がどうなるのかということでございまして、初めは親の数も少ないので繁殖率が小さい。どんどん親の数が増えるにつれて繁殖率が上がってきて、最終的には老廃物が増え、あるいは栄養分が少なくなり、繁殖率が下がっていく。こういう形でS字を描くということでございます。ゼミ生などに人口の過去の状況を示して、このあとを伸ばしてほしいと言ったら、大体こういう形、S字を書くのですが、実はもう一つの曲線がございます。

(スライド8番)

これがJ字曲線でございます。これは、カナダのある入植地に、トナカイ29頭とともに、これは離島でございますが、入植した例でございます。20数年で6,000頭にまでトナカイが個体数を増やし、そのあと数年で42頭にまで激減しているということです。これは、オダムによると、J字曲線。Japan のJです。そういうような曲線でございます。

なぜこういうことになったかといいますと、天敵がなくて、指数級数的にトナカイの個体数が増えたわけですが、そのあと、島の新芽まで食い荒らしてしまって生態系が破壊されてしまったということでございます。

これは、人間でもそういった例があったのではないかということで、イースター島がその例ではないかと言われています。モアイ像で有名な南太平洋の孤島ですけれども、イースター島におきましては、再発見されたときには森林のない島でありまして、原住民は、文字は伝わっているけれども、文字が読めない。モアイ像があるけれども、なぜそこにモアイが建っているのか、どのようにしてモアイをそこに建てたのかわからない、そういう状況でした。ボーリング調査をやっていきますと、過去、モアイ像が建った頃には森林がちゃんとイースター島にもあったことが判明しております。何らかの理由で森林を失って人口を激減させたのではないか。人口が激減したわけですが、イースター島では原住民が死に絶えているわけではございません。何が伝わっていないかというと、制度が伝わっていないということです。モアイを作った頃の技術、言語、その頃の社会を構成するさまざまな取り決め、そういったものがすべて失われているということでございます。

(スライド6番)

若干戻りまして、先ほどの「社会の持続可能性の確保」ということを考えた場合、何が持続すべきかということでございますが、冒頭に申し上げました図において「制度」というものがありました。ソフト面というふうにお話をしていたところですが、そのソフト面としての制度。制度には言語も入りますし、さまざまな取決め、法律以外のものも入ります。大変広い概念ですが、そういったものが今の制度を絶やすことなく、今の制度の上に次の制度が花開くような形で伝えることができるかどうかということ、これが社会の持続可能性の確保ということではなかろうかと思います。

これが2つの持続可能性の確保でありまして、それぞれ人間にとって、あるいは人類にとって大変大きな問題であるということです。こういう2つの持続可能性が確保されるように、環境の3つのサービスが将来にわたって確保されるようにすることが、環境政策の大変大きな課題、明確な課題ということになるかと思います。

(スライド9番)

3つのサービスのうち、アフォーダンスの部分は、陸地がなくなるかどうか。温暖化すれば若干減るという話もございますけれども、問題なのはリソース、ソースとシンクのほうでございます。ソース、シンクについて限界が見えてきているかどうかということですが、まさに地球の温暖化というのは地球規模の環境の限界のあらわれというふうに考えております。特に、地域的な限界は昔からあったわけですが、交易や貿易によって回避が図られてきたわけでございます。あるいは文明が移動することによって、その文明自体は花開くことができた。メソポタミアのあたりは昔は森林があったわけですけれども、あのあたりを食いつぶしながら文明が移動していっているわけです。そういう移動、あるいは交易、貿易、そういったものができたわけですが、地球規模になると、それはできない。これが大変大きな問題でございます。

では、無限のエネルギー源が今現実に手元にあるかというと、そうではございません。今、核融合について実験炉段階のものをやっておりますけれども、実際のタイムスケジュールに乗ってきているわけではございません。したがいまして、「地球規模の環境の限界が現実的な問題として立ちあらわれている、現状において無限のエネルギー供給が期待できない以上、経済の物的な規模を抑えつつ、より多くの経済的な付加価値が得られるように政策を講ずることが合理的である」という結論が導かれると思います。

(スライド10番)

具体的には、京都議定書はCO2発生量についての枠組みであり、廃棄物発生量につきましても循環基本計画などで、資源生産性、あるいは廃棄物の埋立処分量の目標とか、そういったものがすでにできているわけです。こういう政策が実務的にはすでに起こっている。

ただし、人気はありません。特に経済の物的な規模を抑えようという政策は人気がないわけです。それは今の経済学に責任の一端があるのではないかということで、若干経済学の話を織り込みますけれども、経済学は昔々は自然を認識しておりました。アダム・スミスにおいては、3大生産要素は土地、労働、資本ということで、土地が入っています。土地というのは環境の自律的な働きによって供給される資源であります。したがいまして、最初の人々というのは、土地、自然、そういったものをほかの労働資本と並ぶ生産要素と考えたわけですが、今の教科書ではそういったものは忘れられているということでございます。

(スライド11番)

もう一つ、忘れたものがございます。それは何かといいますと、「物」でございます。経済学において、「限界革命」というのが1870年代に起こったわけです。効用に価値を見出す一群の人々が経済学の中の市民権を得ていったということですけれども、そういった中で、効用があって希少なものは、物質的なものであっても、非物質的なものであっても、富を形成するのだ、そういう考え方が一般的になりました。したがいまして、今の教科書を見ても、消費されたあとゴミが出るというような経済学は教えられておりませんし、生産過程でゴミが出るというような経済学でもございません。経済活動を支える物的な側面を忘れてしまったのではないかというふうに考えるわけです。

(スライド12番)

そこで、発想の転換をしていけば、新しい環境と経済の関連が見えてくるのではないかということをお話ししたいと思います。発想の転換というのは、人工物をどういうふうにとらえるかということです。いろいろな人工物があります。非耐久財から社会資本まで、すべて設計して作ったもの、生産したものです。これが人工物です。この人工物というのは、最終的には、廃棄物、使っていくにつれて磨耗し壊れて、また環境に戻っていくわけでございます。廃棄物の量というのは、質量保存の法則で投入された量以上の廃棄物は出ないということでございます。

では、何のために人工物を作るのかということを考えた場合、ゴミを生み出すため、量を生産するためではございません。そこから何らかのサービスを人間に与えるためです。したがいまして、人工物というのはサービスを生み出す媒体にすぎないと考えるべきだ。これを「サービスの缶詰」というふうに平たく申し上げております。人工物は、輸送可能または利用可能な形態にサービスを保存する「サービスの缶詰」でございます。生産というのは、人工物のもとになる物質的資源にサービスを詰め込む働き、消費というのは、そこからサービスを取り出す働きということでございます。

(スライド13番)

こういう形で生産を考えた場合、次のようなことが見えてくるわけです。まず、この図を説明いたしますと、物的資源投入と同じ量だけ不要物と人工物を構成する物的資源が出る。ここは物理法則が支配する世界です。したがいまして、物的資源投入の量と、廃棄物の量と、人工物を構成する物的資源の量は同じです。ただし、エントロピーの法則、熱力学の第2法則が働きますので、何らかの劣化する部分が出ざるを得ない。これは不要物ということです。ここについては、人間の役に立たないものとして環境資源に戻ってきます。

こういう生産基盤を考えた場合、人的な資源、これは知恵でございますが、2つの観点で使われるということでございます。

第1に、付加価値を増加させるために使う。鉄を1トン投入した場合、歩留率8割で、800キログラム何かに使える。それを重石として市場に出すのか、鍋として出すのか、機械として出すのか。機械でも見栄えがするようにデザインをして出すのか。そういったところの知恵、これが付加価値増加型の人的資源です。デザイナーの知恵でございます。

この方向と、独立したものとして不要物低減型の人的資源というのがあるはずだと。これが、今、実世界では流行りの「ESCO(Energy Service Company )」と言われているものです。省エネ診断か何かをやって光熱費を削減するという契約をし、その光熱費の削減分でコンサルタント・フィーをもらう、そういうものでございますけれども、これが一つの不要物低減型の人的資源の例でございます。

(スライド14番)

これは何をするかというと、ここの下をカットするわけです。不要物の発生量をカットし、その分だけ物的資源投入の量をカットする。ここの裾をカットすることによって、資源投入と不要物を減らしながら生産費用を節減するという方向が明示的に把握できるということです。これが共益状態。英語で言うと、"win-win situation"というものです。環境負荷を減らしながら利潤を増やすという可能性が見えてくるわけです。ですから、先ほど経済成長か環境保護かと二者択一のアンケートがありましたけれども、私もたぶん「わからない」につけると思います。こういうような一つの方向が見えてくるのではないかと思います。

(スライド15番)

過去、産業というのは実はそういう共益状態を使って発展してきております。いろいろな例がありますが、時間の制約でこの真ん中の例だけ言いますと、初めに原油の中で使われた始めたのは灯油の部分なのです。したがいまして灯油の部分を主に使って、引火性の高いガソリンの部分、燃えにくい重油の部分は捨てていたということでございます。それは大変な環境破壊を引き起こしたと言われています。その部分、従来は捨てていた部分をどういうふうに使おうかと知恵を働かせて、ガソリンエンジン、ダイムラーエンジン、そういったものがつくられてきたということで、ガソリン・重油が利用されるようになりました。そうすると灯油の部分が余ってきます。その部分を使うように何が勃興してきたかというと、プラスチック産業が勃興してきたということになります。ですから、過去、物として、あるいは液体として捨てられるようなものについては共益状態が働いてきているわけでございます。

(スライド16番)

しかしながら、今、共益状態が十分起こっているかというと、そうではございません。4つの理由がございます。第1に、認識の遅れ、情報の欠如。それぞれの企業でどれだけの廃棄物量を出しているのか、CO2を出しているのか。そういったものをそもそも経営者が知らない、そういったものがございます。経営者が知らない以上、投資家も知らないわけです。取引先も知らないわけです。そういった中で経済活動をやっている。これが第1点。

第2点ですが、無償あるいは安価で処理される不要物がございます。これが大気中に出される不要物です。不要物といった場合に、固体、液体だけではございませんで、気体としての不要物がございます。二酸化炭素は人類社会の一番大きな不要物です。量としては最大のものでございます。そういったものを大気中に出した段階では誰にもとがめられずに、気流に乗ってどこかにやることができるわけです。これが2つ目の理由でございます。

3つ目の理由は、家計で削減努力を行うことが困難な不要物がございます。例えば冷蔵庫を買った場合、そもそもの冷蔵庫の設計段階で省エネ設計にしていないと、いくらこまめに開け閉めをするということをやっていても、なかなか限界があるわけです。したがいまして、こういう製品に内在されたようなエネルギー消費、あるいは製品に内在されたような廃棄物量、そういったものは家計では削減努力を行おうと思っても限界があるということでございます。

4つ目に、将来時点で排出される不要物がございます。これは家計など、将来の不要物の排出のことを考えて購買行動をちゃんとやるかというと、そうではなかろうというような例もございます。ある研究によると、2年先のことは考えないよというような話もございます。建物において、省エネ、光熱費がゼロの建物というのは今ありますけれども、若干高くなるわけです。そういったものをなかなか消費者は買わないという例もございます。

こういう阻害要因を取り除いてできる限り"win-win situation"を起こして、経済を支える資源・エネルギーの投入量、廃棄物の量を下げていく、裾切りを行うことが必要であると考えます。

(スライド17番)

そのための政策でございますが、従来とちょっと発想を変えなければいけないということでございます。政策のスタンスですけれども、「環境と経済は相反するか」ということですが、これは相反しない。なぜ相反しないと言えるかというと、十分に不要物の処理費が課せられていた場合には、共益状態(win-win situation)が十分に起こるわけです。問題は、十分に廃棄物の処理費がかけられていない、不要物の処理費がかけられていない、そういう問題でございます。したがって利潤追求の市場経済は放棄しなくても構わない。利潤追求をやりながら十分に不要物処理費がかけられれば、あるいは、十分に資源の価格が上がっていれば、不要物を削減する知恵が働くということです。それが十分に働いていないのが問題でございます。過去に戻るべきでもないし、戻れないですし、欲望の総量を抑えようと思ってもそれは難しい。そんな政策はございません。

したがいまして、民間企業の競争・創意工夫を原動力として、利潤追求を原動力としながら持続可能性目標を達成していく工夫が必要です。ここで、環境負荷総量の抑制と民間企業の健全な競争をどういうふうに両立させていくのかというのが大きな課題になります。

(スライド18番)

そのための一番大きなステップが、物量情報の開示責任を確保するということでございます。企業が活動に際してどの程度の資源・エネルギーを消費し、どの程度の不要物を出しているのか、そういったものを記録する、そういったものをステークホルダー(利害関係者)に開示する。これまではファイナンシャル・バランスシートは出す義務がありました。特に株式市場からお金を調達する場合には義務がございます。そういうファイナンシャル・バランスシートと対になるものとして、マテリアル・バランスシート、そういったものを記録して出すということがすべての政策の基本となるはずです。それができれば、そもそも事業者が自分の問題として環境に取り組もうというふうに考えることができます。

それから、さまざまな選択の場面で環境が考慮される。取引先--ISOがこれだけ広がったというのも取引先からの圧力が大きいわけです。投資家としては、エコファンドというようなものも日本でもありますし、銀行の融資基準にこういう物量関係のものが入ることもあろうかと思います。企業にとってはこれがビジネスチャンスにもなるということです。

(スライド19番)

こういう環境情報の物量責任が確保されれば、新しい競争の基準というのができます。これが環境効率です。同じ量の環境負荷から、どれだけ利益を生み出したのかというレベルで競争をしていくことになります。付加価値を環境負荷で割るということです。ですから、こういう物量情報が開示されたような新しい未来の取締役会では、どの程度利潤が上がったかだけではなくて、それを上げるのにどのくらい負荷を出したのかということも問題になる。最近、トリプル・ボトムラインということが言われております。環境と経済と社会の3つのボトムライン、その3つをクリアした企業がよい企業であるというふうに言われています。社会というのは、これは別途問題になっておりますけれども、嘘をつかないとか、プライバシーを確保するとか、そういったものでございますが、それに加えて、より少ない環境への負荷でより多くの付加価値を上げている企業がいい企業である、というふうに評価されるルール作りが必要となるということです。

(スライド20番)

こういうような形になると新しい産業が発展する可能性があります。「ものを売る時代」というところで、PR戦略十訓と書いてあります。これは、高度成長期に某広告代理店が出して消費者団体から叩かれたものと聞いております。「もっと消費させろ、捨てさせろ、むだ使いさせろ」と。これで儲けられるような経済のルール自体が未熟なルールなのです。こういうルールを変えていくと、新しい業態が興ってくる可能性があります。

これがサービサイズ(servicize)ということですが、農薬を販売する企業が、これはヨーロッパにすでに例があるのですが、害虫駆除サービスの販売企業に業態を転換しました。農薬を販売する企業だった場合には、農薬をむだ使いしてもらえれば儲かったわけです。農家にじゃぶじゃぶ農薬を使ってもらえれば儲かったわけです。一方、害虫駆除サービスを販売するという形にすると、より少ない農薬で効率的に害虫駆除したほうが儲かることになります。したがいまして、サービスを提供するに当たっても資源消費のコストをどっちのほうに持ってくるのかということでして、そこを転換するだけで、与える付加価値、与えるサービスの質を維持したままで資源・エネルギーの消費量を下げることができるわけです。これは従来のサービス化ではありません。第二次産業が自ら製品を作りながら、その製品の所有権を売り渡さないでサービスを売る、そういう業態でございます。

(スライド21番)

ただし、サービサイズが進展するといっても、完全に物を介在させずにサービスを提供する経済にはならないと思います。技術的な問題があります。缶詰のようなもの、それは残るわけです。それがないと流通できない。それから、車のようなものは個人の所有欲というものもありますから、車はレンタカーでいいといっても、やはり最後までそれは残るのではないかと思います。

そういった場合は、先ほどのサービスの缶詰の考え方を援用すると、消費後のサービスの空き缶のところを引き取らせる、あるいは、空き缶の処理費用を生産者に負わせるというようにルールを変えることで、結果的に消費者にはサービスだけ提供させるようなビジネスになるということでございます。これが最近出てきています、「拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility)」という考え方のエッセンスです。なかなか日本では、こういうエッセンスのレベルで理解されて日本の政策に入っていないのが残念でございます。

(スライド22番)

こういうことを進めていく際に、環境効率という政策というか、各企業の競争の基準ができ、そういった方向で自発的な競争が高まったとしても持続可能な規模が確保できるかどうかの保証はございません。そういった場合には、より強いインセンティブが生まれるように政策を実施する必要があろうかと思います。

(スライド23番)

これは簡単に、今日は政策論ではないということでございますので、ご覧いただければと思いますけれども、新しい税金ということではなくて、より多く負荷を出した人がより多く負担するという形で環境税制改革というようなものを導入し、いわゆるバッズ(bads)課税というのを導入すると、環境負荷総量に関するビルトイン・スタビライザーができるということです。ルールとしてこういうインセンティブ作りをするというのは大変重要です。補助金などをやると役人に裁量が生まれます。私も役人をやっておりましたけれども、役人に裁量を持たせて世の中がよくなったかというと、そうではないかと思いますので、公平に誰もにかかるようなルールづくりが必要で、税金というのはそれの場としては望ましいのかなということでございます。

(スライド24番)

今までお話ししておりましたようなことで、政府の新しい機能ということで理解していただければと思います。社会と個人の持続可能性を確保するために、経済の物的な規模を適正な状態に抑えよう、これが政府の新しい機能でございます。そのための税財政のあり方も必要になってくるということです。

それから、論点の中で挙がってきたものとして2つコメントをしたいと思います。

まず第1に、こういう形でお話をしたわけですけれども、実際の政策の場ではいろいろな合意形成を図っていく必要があるということでございます。その合意形成の手段としてはどういう手段があるのか。私が挙げた個人と社会の持続可能性というのは、全くのコアの部分なのです。人が死なないとか、社会全体の制度が持続する、これはコアの部分でありまして、人が死なないというコアの周辺部分には何があるかというと、快適な環境を確保したいであるとか、あるいは、自然を守りたいであるとか、そういう、人によっては考え方が違うような問題が残ります。あるいは制度においても、社会全体、地球全体ということであると了解できるかと思いますが、例えばコミュニティを持続させるかどうか。あるいは、一部の人にしか伝わっていない、例えば方言のような制度、そういったものを残していくかどうかとか、さまざまなレベルがございます。そういう周辺のレベルになるにつれて合意形成が重要になってまいります。

合意形成の手法としては、これは資料もありませんし、今、私自身がそれを勉強し始めているところですが、最近の岩波新書におきましては、篠原一先生が、『市民の政治学』というものを書かれておりまして、「討議デモクラシー」という言葉も出されています。関係者にできる限り幅広く、前の段階、早い段階でオープンにして、利害関係者の意見を聞いていくというのがベースになろうかと思います。ただ、それでうまくまとまるかどうか。私も三番瀬の円卓会議で2年間、140回にわたる会議をやったという経験がございますけれども、なかなか難しいところはあろうかと思います。

もう一つのコメントとしては、意識の問題です。日本は意識が低いかというと、私は、必ずしもそうではないのではないかなというふうに思います。アメリカのほうでカッコいいことを言っていても、移動しようと思ったら車でないと移動できない。もうエネルギー多消費型のインフラが備わっていて、それを前提としてライフスタイルができている。そういった国と日本を比較すると、日本のほうがよほどポテンシャルがある。ですから、意識の改革というのはなかなか難しいわけですが、ルールをつくることによって意識の変革というのは必ずや伴ってくるのではないかというふうに私は考えております。

以上でございます。どうもご清聴ありがとうございました。

石小委員長

どうもありがとうございました。

若干時間をとりまして、今の先生の論点整理につきましてご質問あろうと思いますので、議論したいと思います。

どうぞ、河野さん。

河野特別委員

たくさんお聞きしたいのですけれども、時間がありませんので、二つ、三つに絞って先生の見解を聞きたいのですが、私がお話を聞いて一番感銘したのは、18ページにある「環境経済政策の展望」ということで、企業間の競争をベースとした変革というものについて何点か触れていらっしゃいますよね。これは通常、昔、左翼で、今、環境の学者とかジャーナリストというのは、単純に先生が言われた政策スタンスのことについて違った考え方を持っているんですね。だから、環境論者の議論は純粋であればあるほど非常に経済の実体と遊離したことになって、そこでいつも相克を起こすということが起こるんですよ。私はたくさん知っているんです、そういう人たち。いい人たちばかりですよ。しかし、とにかくそこに問題がある。先生の紹介されたこの問題のつかみ方というのは、私は、大変現実的で、しかも、わかりやすくて救いがある--救いがあるというのはおかしいけど--と、思うのです。税金の話は、冒頭会長もおっしゃったみたいに、今日はその話はまだやりたくないので、その前の段階のことでお尋ねしたいのだけど、2つ聞きたい。1つは、今もっぱら環境論というとみんなの頭にあるのは、今日もそうだけども、地球環境問題という設定の仕方があるんですね。実は環境問題は山ほどいろいろなところからたくさんあるんだけど、百年か五十年経ってみたら相当影響あるかもしれないなという学説に基づく「いかにあるべきか」という政策論が、今、日本国内では非常にポピュラーなんですよね。

それはそれでいいんだけれども、そうは言っても2つあって、1つは、京都議定書ということに我々は縛られているわけだ。間もなくプーチンが批准するかもしれないと言われている。27日あたりに結論を出すと言う説もある。それはわからないのだけれども、そうすると、あの京都議定書が発効して日本はマイナス6%を実現するという義務を国際的に正式に負うことになる。日本政府はとっくに先んじて批准してますからね。そうすると、あの京都議定書については2つの考え方があって、それは先生がまだ環境庁にいた頃の話かもしれないと思うけれども、あの環境外交において、京都議定書でマイナス6%をなぜ飲んだのか、と。このバランスの取れない不公平なという意見が根っこにある人と、いや、あれはとにかくそんなこと言ったって始まらない、何が何でもマイナス6%を実現するんだ。税金であろうが何を使っても構わない、成長を抑えても構わないと。極論ですよ。そういう2つの意見がある。

私は、税制をやる人の中には、類推したら、あとのほうに結構いると思うんですわ。しかし、現実的に見れば、マイナス6%なんかできっこないんです、今、どう計算しても。それから、あの日本が与えられているマイナス6%という課題がまことに不公平なことであることを実はみんなが知っているわけだ、多少勉強すれば。みんなが知ってる話ですよ、この話は。口には言わないだけの話ですね。そうすると先生は、仮に税制問題を考えられるときには、マイナス6%をどうしても実現するための手段として考えるのか、いや、そちらに向かって、いろいろ先々のこともあるから努力を始めてみましょうよ、というくらいのアプローチなのか。これが1つ。

それからもう1つ、これを質問すると答えがなくなるかもしれないけれども、中国という国がある、隣に。大暴走を始めているわけだ。あの国が近代化して所得が増えるのは結構だと思うけれども、明らかに最近の石油価格の上昇なんかを見ても、どう考えたって資源をバキュームみたいに全部吸い込んでいるわけだから。あの国があのテンポで行ったときに、バブルで崩壊だなんていう議論はそれはそれで結構だと思うし、その可能性はあると思うけれども、その前に、ないしその前後に、エネルギーの確保という点において蹉跌をきたすのではないかということは目に見えていると思うのです。後進国で急速に今伸びている国なんだけど、あの国の政治のパターンと環境問題、特に地球環境問題との兼ね合いはものすごい脅威だと私は思うんですよ。先生はどういうふうに考えていらっしゃるか。

倉阪助教授

京都議定書については、私は、新しい次世代の自動車産業を育成するいいチャンスであるというふうに思っています。というのは、これは超長期的に考えれば、炭素を燃やしてエネルギーを得るというエネルギー基盤から水素を燃やしてエネルギーを得るという形に、技術開発も進めなければいけませんし、それに向けていろいろなビジネスも立ち上がっていかなければいけないわけです。今、燃料電池というので一つ立ち上がりつつありますけれども、将来的には化石燃料は石炭などまだ残ることは残るわけですね。でも、それを燃やして炭素をCO2に変えてしまうと、やはり問題があるだろうというのが私のスタンスです。

したがって、化石燃料中の水素分を取り出す。炭素分は燃やさない形でプラスチックみたいな形で使うことができれば、それは二酸化炭素は出ないわけですね。水素分だけ取り出すような技術、それを効率的に取り出して、それをちゃんと効率的に使えるような触媒も使いながら、そうやってガソリンのようなものに代替するようなものを作っていくと、そこが世界のエネルギーのビジネスの根幹部分になるわけですね。それは次世代の重要な産業なわけです。世界を席巻するわけです。日本はそれに近いところにいるわけですね。自然エネルギーで言うと太陽電池の生産量は世界一でございますし、日本の技術というのがまさに生かせる部分であります。

そういうようなものを売り込むいいチャンスが京都議定書のルールなわけですね。京都議定書をちゃんと日本もやりますよ、と。そういった中でまさに中国のようなところにそういう技術をどんどん持っていって、それを日本の手柄にして、日本の枠をそこで果たしていくようなことをどんどんやっていけば、日本の産業もこれから新しい根幹の基幹産業ができますし、それで中国にも貢献できますし、一石二鳥ではないか。せっかくこれだけの枠組みができているわけですから、ポジティブに考えてポジティブに使っていく必要があるというのが私のスタンスです。

石小委員長

展望が開けてきますね。

時間がだいぶ押していますので、もう一つぐらいにしたいのですが、どうぞ、どなたかご質問ありませんか。

村上委員

23ページですか、先生が提案していらっしゃるグッズ課税からバッズ課税、グッズからバッズに移行させるべきだということですけれども、これは、環境に対してどのくらい省エネをやったかとか、そういう努力が、世上言われているのは、メーカーは結構努力していると。あまりやっていないのが流通関係であるとか、あるいは一般市民だというような分類がなされていると思うのですが、これでいきますと、バッズ課税は、単純に考えれば市民とか流通とかにいってしまうと思うのですけれども、その辺はどういうふうに想定なさっていらっしゃるのですか。

倉阪助教授

バッズはやはりCO2の発生量でいきますので、市民、運輸だけではありません。やはり企業のほうもかかってくる。ただし、頑張ったところはちゃんと戻していくという形で、増税ではない形で仕組んだほうが--私は環境の立場ですから、税制の立場の人はまた違うと思いますけれども、環境の立場で言うと、歳入を増やすということではなくて、やはり出てきた歳入については頑張ったところに戻していくというような形で、先ほど申し上げましたような新しい技術開発に使っていったり、そういう戦略のもとに使っていけばいいのかなというふうには思っております。

石小委員長

よろしゅうございますか。まだおありと思いますが、安岡先生のお話も聞かなければいけませんので、とりあえず次に行きまして、また時間がありましたら戻っていただいて結構でございます。

安岡先生は、現在、東京大学の生産技術研究所で、地球環境の計測・評価を技術的にご専門にご研究でございます。最近では、地球環境サミットの会合にご出席いただく等々で、国際的にもさまざまな形でご研究、あるいは貢献をいただいております。ご専門の「地球観測」につきまして、今日は自然科学的な観点からご説明いただきたいと思います。

よろしくお願いします。

安岡教授

石先生、どうもありがとうございます。私、座ってやると力が入らないものですから、立ってやらせていただきます。

私の専門は、科学とか技術の分野でして、ここにおられる皆さん方とはだいぶ違うものですから、今日は、ファクトデータを中心にして、特に地球環境がどういうふうに動いていっているのかということをご紹介したいと思います。まず初めに数枚で、地球がどう変わっているかという一つの典型的な例をご紹介します。

(スライド2番)

これは、地球環境問題を喚起する一番の原データになったと言われるデータですけれども、キーリング博士という方がハワイのマウナロア島の上で二酸化炭素を測った、これがどんどん上がっているよということを示した図です。これは皆さんよくご存じだと思います。

(スライド3番)

一方で、ではどういうふうになっているかというと、これはアジアを中心としたデータで、私どもがまとめたものですけれども、気温はたしかにこの17年間で上がっている。下のほうに「春」と書いてありますが、これは、アジア地域で植生の芽吹きが1月1日からして何日目に起きているかということをあらわしたものでして、150日というのは、1月1日から150日目に芽が吹いたよと、そういう話です。これはアジア地域の全平均です。そうしますと、この17年間で大体5日くらい早まっているということが言えます。実際にはエルニーニョとかラニーニャとかいろいろな条件はありますので、変動はもちろんいたしますが、全体に早まっている。

(スライド4番)

これは、北緯のかなり上のほうで、同じように雪解けがどのくらい早まってきているかということを示したもので、雪の量と雪解けの時期が早まっているというのを示したものです。これは約30年間。やはりカーブが下がっています。雪解けが早まっている、こういうデータです。

(スライド5番)

これもファクトデータです。ある日、1998年の1日の人工衛星のデータでして、これだけの火災が起きている。赤いところが実際に燃えているところです。赤いところの近くにある黒いところは燃えたあとですけれども、これは全く1日のデータです。これだけ大変な火災が起きているということになります。

(スライド6番)

では、その火災が、雨の量とか気温とどういうふうに関係あるかということを示したものでして、これはあとでもう一回出てまいりますが、たしかに雨が少なければ火災(森林火災)は多くなる。今の図はシベリアの地域の森林火災ですが、気温が高くなれば火災は増える。これはファクトです。これがどういう影響を持つかというのもまた後ほどご紹介したいと思います。

(スライド7番)

こういうような背景があって、今からちょうど2週間前、「地球観測サミット」というのが東京のホテルオークラで開かれました。この背景は、昨年6月のエビアン・サミットで、日本の小泉首相もそうですが、主立った国の大統領が地球観測の重要性というのを指摘しました。それを受けて昨年の7月に、ワシントンで第1回の地球観測サミットが開催されまして、今後10年間でどういうふうに地球観測をやるかという国際戦略を練ろうではないかということが決まりました。それで、2週間前に東京で閣僚級会議。実際には小泉首相も参加されましたけれども、今後10年間の国際戦略を立てようということが合意されました。現在、文部科学省、総合科学技術会議等で国際戦略策定の検討が進められています。

(スライド8番)

なぜ、こういう時期に国際戦略を立てることがみんなで合意されたかということが、なかなか面白い。なぜ5年前でなくて、なぜ5年後でないのかということになりますけれども、一つには、リオのサミット、それからヨハネスブルグのサミット、こういう環境に関するトップ会議が行われてきていろいろな枠組みが決まったのですが、実際にどうなっているのだろうか、実際に何をして何をモニターしなければいけないのかという具体策は全く決まっていないのです。これがまず1点です。

それからもう一つ、今、議論が出ましたけれども、京都議定書、これはかなり重いものです。しかし、その第1約束期間(第1バジェット期)というのが2008年から始まります。今から4年後です。ではそこで、例えば植林をするとか、木を切る、こういうことによって吸収源がどういうふうに増えたか減ったかというのを決める。これは、ある意味で一つの国のパーセントの計算の仕方を支配するわけです。このやり方は決まっていません。ここのやり方の決め方によっては、日本は大損をする可能性もありますし、得をする可能性もある。これは非常に重要な問題だと思います。これが2つ目です。

それからもう一つ、先ほど3枚、4枚見ていただきましたように、地球環境がどうも動いているようだということが顕在化しつつあることがだんだんわかってきた。ところが、実際にはデータの空白域というのは時間的にも空間的にも非常に多くて、まだ完全にそれを説得できるところまで行っていないのではないかという背景があります。こういうことがあって昨年のエビアン・サミットで提案され、そして2週間前に、これを世界でやっていこうということが決まった、合意されたということになります。

(スライド9番)

今、地球観測はいろいろな問題点があるわけですが、ここに、サミットで2週間前に出たものの抜粋を持ってきました。まず、途上国データへのアクセスが非常に難しい。排出源のデータにしてもそうですし、地表面のデータにしてもそうですが、先進国はかなりそろっているのですが、地球の上でかなりの面積を占める発展途上国のデータというのはあまりないのです。これで正確に地球の変動がわかるかということになります。それ以外にも、ここにありますように空間的・時間的なギャップがある、それから、観測の継続性がないということもあります。これは、観測は今までほとんど大学とか研究機関が中心になって手弁当でやってきたという背景があります。当然のことながら、長期的な保障がありません。日本の気象庁、アメリカのNOAAというような国の機関がやっているということはあるのですけれども、それだけで全球をカバーすることはもちろんできません。そういういろいろな問題点がある。

特に下の2つ、これはなかなか重要でして、データはたくさん集まっているけれども、そこから必要な情報が出ているのか。私はこれは学生にもいつも言うのですけれども、データと情報は違う。同じデータを持っていても、持っている知識が違えば情報は違う。だから、情報を如何にきっちり取るかということ。つまりそれは、モデルをどれだけ持っているか、知識をどれだけ持っているかということにかかります。これがまだ十分でないということがあります。

こういうふうなことがあって、これからはやっていこうということになったわけです。

(スライド10番)

では、どういう問題を対象にするか、これも非常に興味深いものです。9つのテーマが挙がりました。"societal benefit"という言葉が使われます。「社会経済的利益の増大に資する」ということがありまして、例えば、災害というキーワードが一番上にあります。それから、人間の健康と福祉、エネルギー、4番目に気候変動。上から順番に重きがあるということでは決してないのですが、やや、そこは裏に何かあるというのは我々もいろいろな交渉の段階で感じております。生態系ですとか、気象情報。

(スライド・資料なし)

これを見ていただきますと、非常に人間に近いところでテーマが挙げられています。これは、国連環境計画(UNEP)が初めの頃に挙げた、地球レベルでの環境問題ということです--これはお手元の資料に載ってないかもしれません。先ほど加えました--例えば温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、森林減少、砂漠化、こういうのが地球環境問題だというふうに言われているのですが、前に見ていただいたこれ(スライド10番)は、もっとずっと人間に近いのです。一つの理由は、タックスペイヤーに対して説得できる観測システムを作らなければいけない。特に発展途上国の人たちが自分たちの利益になるということで動いてもらわないとしようがない。こういう非常に大きな命題があったわけです。

こういうことがあって、これからやらなければいけないという項目については、先ほどのUNEPが挙げたような、いわゆる我々が考えている地球環境問題ということではなくて、こういうテーマを挙げた、そういう背景があります。

(スライド11番)

最終的にはこの地球観測サミットは合意が得られました。全球地球観測システムを策定するということが決まったわけです。そこでは「包括的、調整された、継続的な観測を計画」。ここもいろいろな議論がありました。「調整された」ということは一つ意味があります。これは"coordinated"という言葉が使われています。アメリカは初め、"integrated"という言葉を使おうとしたのですが、ヨーロッパが反対して"coordinated"になった。今まであるような観測システムをコーディネートすることが重要で、一本化してインテグレートするというのはよくない、と。かなり厳しい議論があったというふうに伺っています。ここに挙げます既存システムを重要視するのだとか、最終的に誰がどう使うということを明確にした上でやらなければいけない。ニーズ主導の観測というのも非常に重要な点です。

最後に4番目の点、能力開発(キャパシティビルディング)というのが重要である。これはいろいろなところで明記されています。これはなぜかといいますと、やはり発展途上国に参加してもらうことが非常に重要である、空白域を埋めることは非常に重要であるということからこういうのが挙げられています。

(スライド12番)

この地球観測サミットで日本の文部科学大臣が、もちろん全部のテーマに対して協力はするけれども、日本としてはここに焦点を合わせたいということを発言されました。それは、地球の温暖化、水資源・水循環、災害という3分野で、科学技術を利用します、と。日本が持っている科学技術をどんどん活用します。それから、情報を取得して積極的に提供します。能力開発に協力します。特にアジア地域においてそれをやります、ということを言われたわけです。

(スライド13番)

今のが観測サミットでこういう結論が出たということでして、これに呼応するわけではないのですけれども、ここ数年、日本ではいろいろな地球観測の動きが進んでおります。例えば観測衛星。どちらかというと私の専門分野はこちらのほうですが、ALOS(Advanced Land Observing Satellite)といいますけれども、地表面を精度よく観測しようという衛星が打ち上がります。これは来年打ち上げます。それから、GPMというのはGlobal Precipitation Measurement といいまして、全球の降雨を観測しましょう、そういう人工衛星です。それから、ごく最近キックオフされましたのが、GOSAT(Greenhouse Gases Observing Satellite) というものでして、これも後ほどご紹介します。私がチーフサイエンティストを務めることになります。これは衛星圏。

真ん中に挙げましたのは、地上でいろいろな観測システムを構築しなければいけない。AsiaFlux、AmeriFlux、EuroFluxというふうに、いろいろな大陸で大気のガス、特にCO2がありますが、CO2に限りません、いろいろなガスを測りましょうということが進められています。

それと、先ほどお話ししましたモデルを作らなければいけない。データを集めるだけではなくて、モデルで予測につなげるということが非常に重要になります。そのために日本は地球シミュレーターを開発しました。地球シミュレーターというのは要するにスーパーコンピューターです。日本は今から十数年前は、世界のスーパーコンピューターのランクづけをしますと、トップハンドレッドと言われているところに10種類ぐらいのスーパーコンピューターが入っていました。今はトップにこの地球シミュレーターというのが入っていて、あとは何もありません。ベストハンドレッドに入っていないのです。一点豪華主義になってしまっています。これは若干問題もあるのですけれども、ともかくこれはかなり世界に対して脅威を与えたことは事実です。

(スライド14番)

こういうふうに観測したデータと、それからモデルを使って、最終的に地球がどう変わっていくかということを予測し、そして対策を立てましょう、これが今の大きな流れであります。

(スライド15番)

ここから先、約11のポイントにまとめました。今どうなっているのかということで、まずポイント1。温暖化はやはり進んでいる。これはIPCCの第3次レポートに明確に書かれています。今、4次レポートが用意されていますが、ここでもたぶん確実に記述されると思います。

それから、環境変動の主たる原因は人間活動である。先ほどの話にも出ました。人間活動による変動、これは環境変動です。例えば火山の爆発とか、地震とか、いろいろな変動の要因はありますけれども、これは自然科学的変動と呼びます。環境というのは人間が起こしたものということで定義します。

ただ問題は、環境の変動、つまり人間活動に由来するものが、自然の循環サイクルを壊す可能性があるということが最近指摘されています。これは明確にはなっていません。例えば深層大循環という、2000年というスケールで大西洋の北から水がずっと潜って太平洋の上側で出るような、こういう大循環がありますけれども、これが気温が上がることによって変わる可能性があるということも言われています。

またポイント3としては、現象が非常に複雑である、そう簡単ではないということがあります。この3つのポイントをデータを使って説明させていただきます。

(スライド16番)

先ほど、マウナロア島のデータをお見せしました。先ほどのは1点だったわけですけれども、これは全球の平均、北半球の平均、南半球の平均、二酸化炭素の濃度をあらわしています。右肩上がりで上がっているのは、皆さん、簡単にご理解いただけると思います。ただ、ここで指摘したいのは、毎年のように変動がのっています。この変動が一体何に起因するのかということ。それから、この右肩上がりは人間活動に由来するのか、自然の変動では起きないのか、この2点をちょっと見てみたいと思います。

(スライド18番・19番)

なぜ年々変動するか。結論だけ申し上げますと、これは人工衛星のデータで観測した植生の活性度でして、12月から1月の全球の植生の活性度を色であらわしています。この辺ですね、こういう赤い色、白い色……すみません、手を指してもわからないかもしれませんが、南米の北のほうとか、アフリカの真ん中あたり、これが色がついています。それ以外は黄色い色になっていますが、黄色い色のところは活性がないところ。つまり冬ですから、北半球の冬は凍ったり、雪に閉ざされていて、植生は活性しません。これが、例えば6月、7月になりますと、北半球がずーっと植物の活性度が上がります。活性が上がるということは光合成をするということでして、この光合成が二酸化炭素を吸収して、先ほどの年々変動の落ち込みを誘因しているわけです。したがいまして、このデータ(16番のデータ)の例えば北半球にある落ち込んでいる部分、これは夏です。高いところは冬です。そういうことをあらわしています。南半球はなぜ変動がないかといいますと、南半球は陸地が少ない、ほとんど海であるということで変動が少ないわけです。

これは、大気の変動が地表面、陸域の環境によって大きく左右されているということで、二酸化炭素を見るには陸域も見なければいけないという、つまり現象の複雑さ。もちろん人間が排出する量の変動というのは非常に大きいわけですけれども、それ以外に大気も海洋も陸も関係しているという意味で非常に難しい関係になっています。

(スライド17番)

これは、それをグラフであらわしたものでして、真ん中の赤い線が赤道の二酸化炭素の濃度の変動、その下側が南半球の変動、北側が北半球の変動ということで、北半球で変動が大きいことがおわかりいただけると思います。先ほどのものを空間的に示したものです。高いところは冬。下がっているところ、谷になっているところは夏ということになります。

(スライド・資料なし)

もう一つ。先ほどの変動が、人間の活動によって起きているものかどうかということの完全な証ではありませんが、「そうでない」ということよりははるかに確かであるということのファクトデータです。これは、南極の「ドームふじ」というところでとらえましたアイスコア、「氷床コア」と言っていますが、氷山というんですかね、ボーリングをいたします。そこで氷の柱を取り上げまして、そこの氷の中に詰まっている気泡から、そのときの二酸化炭素、メタン、それから同位体から温度を出しますが、35万年前から現在に至るまでの二酸化炭素の濃度とメタンの濃度、気温を出したものです。

見ていただきますと、非常に相関があるのはおわかりいただけると思います。高いところは間氷期、低いところは氷期ということで、これがちゃんと周期的に来ている。地球の上では、自然変動というのが非常に大きく今まで効いてきているということがわかります。

ただし、では、今の濃度はどうかといいますと、このグラフでは、左の上のほうに300と書いてありますが、これは二酸化炭素の濃度で300ppmということです。今の濃度はどうかといいますと、380ppmということで完全に範囲を超えます。では、これは自然変動というふうに説明ができるかということになります。今まで4回やった間氷期のデータに比べると、はるかに高い値になるということが言えます。

(スライド・資料なし)

これは過去400年ですが、左側は人口の変動でして、地球上で5億人くらいからスタートしまして、今、60億人ということになります。それと非常に似たようなカーブがCO2の濃度で、これを見ますと、やはり今のCO2の上昇は人間活動に起因するものと結論するほうが、そうでないということを言うよりは簡単であろうということが言えると思います。

(スライド3番)

これは、先ほど見ていただいたデータと同じです。その結果として気温がやはり上昇している。それから陸域では春が早まっている。これはアジアだけのデータですが、そういうことです。

(スライド・資料なし)

春が早まっているというデータは、これは私どもの研究室で作っています。これは日本を中心にして出していますが、解析している範囲はもっと広い範囲でして、左上のほうに数字があります。2001年、2002年、2003年の1月、2月、12月までの、ひと月間でその地域がどれだけ緑で覆われているかというのを出したものです。人工衛星の毎日のデータを集めて合成したものです。当然、この地域は雲が多いですから、今日雲があれば、明日のデータを使う、明日も雲があれば、あさってのデータを使う。それを全部重ね合わせて、ひと月間のデータを使って緑の量を出しています。緑が多くなるのは夏の時期ということです。これは実は涙ぐましい努力がありまして、簡単にビデオで出しておりますが、裏では学生が泣いております。

(スライド20番・21番)

雪解けも早くなっています。これも先ほどご紹介しました。雪解けに対応して、この下の図は緑が増えている。上のほうは、融雪の時期が早まっているというのを示していまして、下のほうは緑が増えている、緑化が早く進んでいるということが言えます。森林減少、砂漠化ということで緑は減っていますが、温暖化という視点からしますと緑の量は減っています。ただ、緑の質は全く違います。森林伐採、砂漠化というのは樹木を切るということでして、これは成長した木を切るわけですけれども、緑化というのは、草とかそういうものを全部含みますので、だいぶ状況は違います。緑の質が違うということは覚えてください。

(スライド22番)

これは上のほうがシベリア、下のほうが中国ですが、ある1日の人工衛星のデータです。こういうデータを毎日我々は受信しております。私どもの研究所では、東大の屋上、それから、バンコクにありますアジア工科大学院というところの屋上に人工衛星の受信局を置きまして、毎日データを収集してきまして、夜中にバンコクからデータを送って、その日に私どもの研究室で処理して、それを世界に発信するということを行っています。

(スライド23番)

これは、そのデータに基づいて出した、約20年間の森林火災の面積です。横軸は行政区毎、アムールですとか、ハバロフスク、プリモリア、ジリン--これはロシアと中国の行政区毎です。そこでどれだけの火災が起きたか。これは、人工衛星のデータでなければこういうデータは到底出すことはできません。

(スライド24番)

この20年間で、火災が降雨量とか気温とどう関係しているかというのを出したものです。この図はちょっとわかりにくいのですか、例えば左側の降水量で100というところが平均と見てください。そうしますと、80というのは雨が少ないということになります。右側の図で言いますと、気温で、例えば16が真ん中としますと、12や10は気温が高いことをあらわしているというふうに見ていただければと思います。

(スライド25番)

この図がそれをまとめたものでして、この20年間で、赤い色、緑色、青い色がありますが、これは森林火災の頻度をあらわしています。縦軸は気温の偏差。上に行くほど気温が高い、下に行くほど気温が低いという状態をあらわしていまして、横軸は降雨量で、右に行くほど雨が多い、左に行くほど雨が少ないということです。これは20年間、全部をまとめたものですが、雨が少ない、真ん中の線よりも右側には火災はないということを出しています。人為的な火災は多少の頻度でもちろん起きますけれども、マクロに見ますと、ほとんどありません。ただ、下のほうに薄い青いところがありまして、気温が低くても森林火災が起きるときはあります。

ですから、完全に気温と相関があるかというと難しいですけれども、マクロに見れば、やはり気温が高くて雨が少なければ火災が起きるということになります。これは、温暖化したときにポジティブ・フィードバック(正のフィードバック)がかかる非常に大きな原因の一つになるのではないかと思います。

(スライド26番)

今、現状を見ていただきました。この問題が抱えるものは一体何かというのを社会的側面からまとめたものがこれです。ポイントを4から6までまとめましたけれども、まず大きなことは、環境変動は社会・経済に大きな影響を与える。これはもう間違いないと思います。災害、森林火災は今見ていただきましたとおりです。疫病も増えるのではないかと言われています。

当然、地球規模で起きていますから、国際的な関心事となっており、国際的な連携が必要である。これも当然です。ただ一方で、環境変動は一国の安全保障にもなりつつあるということが言えます。これは、先ほどお話ししましたように、二酸化炭素を減らすために森林を植えるということがあったときに、それをどういうふうにカウントするかというカウントの仕方、これによってもパーセントが変わります。それから、災害が起きるということは、これは一国の安全保障の問題ですけれども、温暖化したときにあるところに集中的に雨が降る可能性もあります。したがいまして、地球、地球とは言いますが、実際に最後に影響を受けるところは国のポイントである可能性が高いということで、ローカルなところからグローバルなところまで見ないといけないということになります。

(スライド27番)

「京都会議で決まったこと」。これは今さら釈迦に説法ですけれども、ここでちょっと強調しておきたいのは下の2つでして、生態系ということが着目を浴びたのが京都会議の一つの特徴と言えます。これは、先ほど見ていただきました、年々変動が陸域の植生によるということから来たものでして、ともかく樹木を植えれば二酸化炭素は減るのだということが背景にあります。これはアメリカが非常に強く主張して入ったわけです。アメリカは京都議定書は批准しておりませんけれども、裏ではものすごい研究をしています。研究費が、京都会議の10数年前から相当の額が生態系の評価のところに投下されていまして、その成果が出はじめた直後にこういうことが出てきたというのは一つの証ではないかという気がいたします。

(スライド28番)

こういうふうなことがありまして、ここで見ていただきたいのは、これは一番初めに見ていただいたのと同じですが、年々変動が約10ppmあります。これは大体3%に相当する。日本は6%。先ほど議論がありましたけれども、6%というのは大変な量です。これは、地球上の緑があるときと緑のないとき(夏と冬)を比較していますから、花咲爺さんがいて全部を緑で植えても3%しか減りませんよということを、ある意味で逆に言っているわけです。ですから、6%減らすというのは、地球を全部緑で植えてもできないということを言っているわけです。

(スライド29番)

これは温暖化ガスの種類ですけれども、CO2だけではありません。6つが規定されましたけれども、温暖化指数というものは、メタンとか酸化窒素、これが圧倒的に高い。フロンの類も非常に高い。ただし、総量からすると、地球上全体で見る影響指数というのは二酸化炭素とメタンと言われています。この2つを抑えれば、まあまあ何とか解決するだろう。特に二酸化炭素が非常に大きな問題になる。

(スライド30番)

陸域生態系の関連で言えば、「京都Forest」というふうに呼ばれていますが、新規植林、再植林、森林伐採ということで、それによって吸収される二酸化炭素はカウントしてよいということになりました。それに伴う土壌ももちろん入っています。それを1990年の時点と比較しなければいけない。ただ、どうやって評価するかというほうは決まっておりません。

(スライド32番)

これを解決するのは、科学技術、我々の役割だろうというふうに思います。環境変動に関しては情報が不足していることは事実で、そのために地球観測サミットが開かれたわけです。今まで、大気、海洋というのはかなり観測が進みました。NOAA、気象庁、いろいろなところが大気のデータ、海洋のデータを集めています。ところが、生態系というのは--もちろん、これは人間も含めた生態系と考えていただいて結構ですけれども--ローカリティーが高い、不均一であるということがあって、情報が集めにくい。特に発展途上国で集められていないということが、このポイントにあらわれています。

(スライド34番)

どういうふうに測らなければいけないかといいますと、環境とか災害の観測というのは非常に狭い範囲から広い範囲まで測る。ここに植林しましたと、これは局所的な現象です。それも測らなければいけない、地球全体も測らなければいけない。短期的な現象から長期的なものも測らなければいけない。先ほどからお話ししていますように、陸域の話も、大気の話も、海洋の話も同時に測らなければいけないということになります。

(スライド33番)

このためには、地上の観測システムだけでは非常に難しいので、宇宙からの観測をやはり強化しましょうということになります。これは手前みそですが、私が実はこの分野の人間なものですから、この1枚を加えさせていただきました。科学とか技術というポイントからしますと、新たな衛星とか、航空機センサーを開発する必要がある。地上で観測されたものと空から観測するものを一緒に合わせることが必要。さらに、それをモデルにつなげなければいけない。こういうポイントが挙げられます。

(スライド35番)

リモートセンシング。これはあとで出てきますので、ごく簡単に。

リモートセンシングというのは、皆さんが飛行機に乗って、地上を写真で撮っていただくというふうに考えていただければ結構です。太陽の光が当たって反射したものを上で見る。ただし、人間の目というのは、飛行機に乗っていただけばわかりますけれども、夜は見えませんし、現象も非常に限られたものしか見えませんけれども、リモートセンシングという技術は夜も見ることができます。それから、人間の目に見えない範囲、例えばマイクロ波、これは電子レンジの中で飛び交っている電磁波ですけれども、あれを使いますと、地表面の全く見えない情報が見えてくるということがあります。

(スライド36番)

今、例えばどういうものが世界中で衛星から出されているかといいますと、これは、葉っぱがどれくらい繁っているかということを出している、葉面積指数と言われるものです。これは先ほどの二酸化炭素の吸収には非常に大きなデータです。

(スライド37番)

オゾン。北極、南極、極域でオゾンが減っていることは、TOMSという人工衛星で測ってはじめて継続的に広域的なものが測られたということでよくご存じだと思います。

(スライド38番)

これは、海水の二酸化炭素の分圧と呼ばれています。海中の二酸化炭素そのものを直接測るのは非常に難しいのですけれども、これは人工衛星のデータを使って、海水がどれだけ二酸化炭素を吸っているか、放出しているかというのを出したものです。1997年4月のデータですが、ちょうど日本から帯に出ているようなところは吸収です。上と下は放出。冬になりますと、全体が大体北太平洋は吸収にまわります。

(スライド39番)

温暖化ガスをどうやって測るかということで、これから、進んでいるプロジェクトをご紹介いたします。温暖化ガスを測ることは、トップダウンアプローチとボトムアップアプローチという2つの方向で今考えられています。

(スライド40番)

ボトムアップアプローチといいますのは、先ほどからお話ししていますように、植生が二酸化炭素を吸収するということから、植生の情報を精度よく出しましょう。それを、生態系のモデルを通じてどれだけのガスが吸収されているか放出されているか、出しましょう。ただ、それだけでは片手落ちですので、これは上空から二酸化炭素の濃度を測りましょう、こういうトップダウンアプローチも、今、施行されております。

ボトムアップアプローチというのはこういうアプローチです。例えば、A種の樹木をB本植えました。A種の樹木はC樹齢のときに、年平均気温Dという環境条件で、降雨量がE、土壌条件がFというときに、Gの二酸化炭素を吸収したり放出したりします。したがって、A種の樹木をB本植えれば1%の温暖化ガスが減りました、増えました。このA、Bは地上のデータでわかりますけれども、CとかDとかE、F、Gを出すのは非常に大変なんですね。これを1%の精度で出すというのは非常に難しい。したがって今は、2008年の第1バジェット期に向けては統計データを使ってやりましょう、ということが大体言われています。先進国が持っている統計データはかなり精度が高いものですから、どのくらいの木があって、どのくらいの樹齢でというのはわかっていますから、そういうものをやりましょう。

(スライド41番)

ただし、どういう環境で、それが吸っているのか吐いているのかというのはなかなか難しいものですから、世界中でこういうフラックスタワーというのが建てられています。これはシベリアの例ですけれども、大体木の上に出るような、非常に高い、熱帯林ですと40メーターくらいのタワーを建てて、そこでいろいろなガスを測る、気温を測るというようなことをやります。

(スライド42番)

これは1例ですけれども、一番上の赤いやつは太陽の輝度(照度)です。それから降雨量。真ん中のところは気温。一番下は、二酸化炭素をどれだけ吸収しているか、そういうグラフになります。これは私どもがやっているプロジェクトで出されたものでして、こういうデータを世界中で測っています。こういうデータと、どういう樹木がどこに植わっているかというのを合わせてやるということです。

(スライド43番)

そのために、どこに何が植わっているかはこういう人工衛星のデータを使います。右側はチリの植林地でして、ユーカリの植林を日本の製紙会社がやっています。私どももそこへ行って、何歳ぐらいのときにどういうものをどれだけの量を吸収するかというのを測っているわけです。これは非常にローカルで、木1本1本を観測するようなことですから、地上の分解能で80センチと言われるような分解能の人工衛星を使います。左側は私どもか受信している人工衛星でして、これは1キロと非常に粗いのですけれども、毎日受信することができる、こういうものです。

こういうのを合わせて、例えば人工衛星のデータとモデルを使って、純一次生産力というのはどれだけの植生が育っているか、したがってどれだけの二酸化炭素を吸収しているかというのを出したものです。ごく最近出した結果です。

(スライド44番)

地上の観測データからこういうことをやるというのはもちろん非常に重要でして、みんなやろうとしているわけですけれども、それでも、地上観測データだけからですとどうしても不十分になります。

(スライド45番)

そこで、トップダウンアプローチということで、衛星に二酸化炭素の計測センサーを積みましょうということが計画されています。日本は、先ほどお話ししました、GOSATという人工衛星を2008年に打ち上げる予定です。アメリカが、OCO(Orbiting Carbon Observatory)といいますけれども、軌道上から二酸化炭素を……非常によく似たセンサーですけれども、なぜ両方が打ち上げるかというのは、先ほどの「国のデータは国でとる」という、協調と競争という両方をやるという意味からこれが計画されています。

(スライド46番)

GOSATというのはどういうものかといいますと、温暖化ガスを測りましょう、しかも1%の精度で低いところの濃度を測りましょう。高いところの濃度を測っても、植林したところはわかりませんから、できるだけ地表面に近いところを1%の精度で測りましょうということを言っております。ただ、面積はまだ広くて、植林地の単位ではまだちょっと難しいので2号機が打ち上がるのを待たなければいけません。

(スライド47番)

これは、当然、京都議定書を意識しておりますが、その精度、つまりパーセントの精度で測る。しかも、人間活動圏を測るということが役割になります。

(スライド48番)

一体そんなことが測れるのかということで、この1枚だけ出しましたけれども、これは、大気を光がどうやって透過するかというのをあらわしたもので、いろいろなところに落ち込みがあります。これが、例えば二酸化炭素が吸収する光の量、酸素が吸収する、メタンが吸収する、スペクトルと呼びますが、そういうものがあります。この非常に細かいやつを計測してやって、二酸化炭素がどれだけあるかというのを宇宙から測りましょうと。非常に技術的には難しいものです。これは技術開発衛星の一つです。

(スライド49番)

それを太陽の光が当たって反射したものを人工衛星で受ける、もしくは、大気から放射される熱エネルギーをとることで二酸化炭素を測るということを行うわけです。

(スライド50・51番)

こういうトップダウンとボトムアップという両方を合わせてはじめて、二酸化炭素の全球レベルでの濃度がわかることになります。これから数年でその技術開発が進んでいくと思います。

(スライド52番)

「今後に向けて」ということで2点挙げさせていただきました。環境の観測というのは、国際協力、国際連携からも非常に重要ですが、一国の立場からも非常に重要だということが言えると思います。特に日本が抱えるアジア・太平洋地域は空白域が多いということがありまして--発展途上国が多いということもあるのですけれども、データはやはり日本が先導を切って集めなければいけない責務があるだろうと思います。

それから、観測したデータを最終的にどう使うのかということのエンド・トゥー・エンドのフローを作る必要がある。これはやはり我々がやらなければいけないと思います。

(スライド53番)

地球観測のお話をいたしましたけれども、最終的に地球観測というのは地球に関する情報を得る。先ほどもお話ししましたけれども、情報はデータとは違うということで、情報というのは「データ+知識(もしくはモデル)」というふうに私は定義しています。学生にもこういうふうに教えています。先ほどお話ししましたように、同じデータがあっても、持っている知識が違ったら全く違った情報が得られます。ですから、我々はいいデータを集めて、いい知識を持って、いい情報を得ることが役割だということになります。それが科学技術の役割ということになるだろうと思います。

(スライド54番)

これは釈迦に説法です。我々は体が悪くなったら体温計で測ります。悪くなれば薬を飲みますし、病院にも行きます。ただ、最終的には節制しなければいけない。

(スライド55番)

地球はどうするかというと、地球は残念ながら体温計を持っていません。人間は、体温計で脇の下で測って37度を超えると危ないというのは、非常に長い歴史をかけてモデルを作ってきたわけです。一つのモデルを作ってきた。残念ながら、今はまだ地球の体温計というモデルを我々は持っていません。最終的に節制が重要であることは間違いないのですけれども、我々はこれをやっていかなければいけないだろう。今、我々がやろうとしていることは、地球の体温計を作ることである。

そういうことで話を閉じさせていただきます。どうもありがとうございました。

石小委員長

大変貴重なお話をありがとうございました。まさに今の科学技術の最先端を行くところの、ほんの一端だと思いますが、ご説明いただきました。

それでは、時間も若干残っておりますので、さまざまなご質問なりあろうと思いますから、どうぞ。

河野さん。

河野特別委員

一つだけ教えていただきたいのですが、先生のお話を聞いて、森林の効果というものを大変重視されていてデータを蓄積されていることが、私にとっては非常に印象的だったんですよ。それで、先生が最後に言われた節制ということは、CO2を出すのを少なくしようね、ないしは増えるのをなるべく抑えながら……どうせ出るんですけどね、しましょうねという話ですね。

もう一つの森林の話は、海水、海でまたそれを吸収することもそうだと思うけれども、これは出たものはしようがないからどこかで吸収しようという話ですね。そういう2つに分けた議論を立てることが単純すぎるとわかっていますけれども、先生のお話を聞いていると、森林というのは大変ありがたいことをやってくれるのかなと。人間がうまく管理すればの話ですよ、これは。そういうことになるのかなあという気もするし、いずれにしてももう一つの解は、技術開発という側面があって、これはたくさんのところに関連する話ですけれども、これをどういうふうなウエートでものを考えたらいいのか。つまり、それをどう考えるかということは、これからどういうふうに予算を配分するかという話なんですね。そういうことについて大まかなお話を。

安岡教授

私の理解は、一番初めに、なぜ今、地球観測サミットが開かれたのかということの一つの理由にもなりますが、いろいろな技術的な発展が行われてきた。だけど、それが最終目的につながってないではないかということがあるわけですね。今まで持っている技術、もしくはこれから近い将来開発される技術を、地球環境もしくは地球規模での災害を防ぐためにどうやって我々が作り上げていったらいいのか、くみ上げていったらいいのか。観測するだけではないのです。観測して何に使うかが非常に重要でして、一気通貫、最初から最後までの川上から川下までの流れを作る。それを今やらないとだめだよというのが地球観測サミットだったのです。あそこでは、技術的なものをともかく集約化しましょう、最新の技術を集約化しましょうというのがちゃんと盛り込まれております。日本もそこのところを協調していただきました。

ですから、やはり技術開発は非常に重要ですし、例えば海中貯蔵とか、そういうものも全部技術ですよね。その影響評価も含めて技術ですけれども、それを地球を持続可能にするという方向にまとめていくというのが、今、我々がやらなければいけないことだというふうに思います。

石小委員長

ほかにいかがでしょうか。

どうぞ、佐竹さん。

佐竹委員

私などは、田んぼが見える山の中といいますか、山があるところで、今、先生のお話を聞きますと、特に森林の関係である意味では意を強くしたわけです。現実に秋田なんていうのは林がたくさんある。ただ、私ども大変なエネルギーを投じて毎年相当の植林をしている。植林をするというのはある意味では公共事業という形もあるのですが、やや委員の皆さんにもご理解をいただきたいのですけれども、山というのはだまっていては荒れるわけでございます。日本の山林で自然の山林というのはほとんどない。昔から秋田の場合も相当山の奥まで手をかけながら伐採したり、あるいは、いろいろな冬の対策も必要ですし、急斜面であれば、植えたときは必ずきっちりした処理をしないと新しい木は2、3年でもう流されてしまいます。

ただ現実の問題として、今、管理をする人が秋田ですらほとんどいないという現実。実際に管理をするというのは莫大な労力がかかる。しかも、技術そのものがだいぶ機械化されていますけれども、技術そのものの伝承もないということで、我々は声を高くして、山を守る、植林しながら守ることは大変大切なことだと言っておりますけれども、今、むしろ大変意を強くしたわけでございます。

それともう一つ、春が早くなっている。あるいは温暖化というのは、むしろ私どものように、秋田のようなところにいると全くよくわかります。私が小学生の頃は大体4月の末から5月の連休のあたりに桜が開花しました。今はへたすれば4月の10日前後に開花します。またスキー場は、毎年、スキー人口ばかりではなくて、スキー場に雪がないという現状で、里山のスキー場はどんどん廃止しているという状況で、たしかにここ30~40年で、全く温暖化というのは、我々、ああいう地域にいるとわかる。まあ、別に意見ではなくて、そういう現実にあるということです。

石小委員長

サポートしていただいたわけですね、現場から。

どなたかほかにいらっしゃいますか。どうぞ、宮島さん。

宮島特別委員

今のお話の中で26ページのポイント6のところ、聞いていて大変気になりました。つまり発生源にしても、地球温暖化問題というのは地球規模の問題だという認識で国際的な枠組みの話が進んでいるわけですが、影響は場合によってはピンポイントで、地球規模ではなくて、ある特定の地域に集中する可能性があるというお話がございましたね。もし、その予測がかなり立ってきますと、逆に地球規模という認識は薄らいでしまうことはないのか。つまりピンポイントというのは非常にモバイルですね。起こるけれども、しかし、どこかわからないという意味でも地域性とおっしゃっているのか、そこを教えてほしいと思います。

安岡教授

ここの私が言いたかったところは、地球環境の問題といって、漠として、我々と違うところで起きているのでは決してないですよ、と。影響は本当に隣りで起きる可能性があって、特に災害になってあらわれるときはほとんどそうですね。ですから、地球環境の観測と言ったからといって、全球を測っていれば決していいわけではなくて、非常にローカルなものまでも気を配ってやらなければいけないという意味で言っているのです。一国の安全保障というのは、別にそれを強調して、だから日本でエゴイスティックにやれということで申し上げているのでは決してありません。

宮島特別委員

よく、氷山がとけて海水面が上がるとフィジーが何とかと、そういう話が一方であって、その温度差が多様に大きいという話を一方でよく聞くものですから……。わかりました。

石小委員長

よろしゅうございますか。

それでは、予定した時間ももう来ております。お二人の先生には、大変貴重なご意見、お話をいただきまして、ありがとうございました。我々の今後のいろいろな議論に大変役に立つと思います。お忙しいところをどうもありがとうございました。心から御礼申し上げます。

あとは我々の内部の話でございますから、どうぞ、ご退室いただきまして。

あとの予定でございますが、予定しておりますテーマとしては「公共部門等」というのが残っています。これは、ある意味では我々の実像把握の中の総括的なところでございますので、二度くらいに分けまして、さまざまな問題の総括という意味でやっていきたいと思います。

一応予定といたしましては、5月25日火曜日と6月1日、いずれも午後でございますが、考えております。それ以降、まとめに入りたい。よろしゅうございますか。5月25日と6月1日でございます。

それでは、長時間になりましたが、今日はありがとうございました。

〔閉会〕

(注)

本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。

内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。