基礎問題小委員会(第14回)・総会(第12回)後の石会長記者会見の模様

日時:平成16年6月1日(火)16:29~16:50

石会長

14回目の基礎問題小委員会、終了いたしましたのでご報告をいたします。今日は、公共部門の第2回目なんですが、もうそろそろまとめに入ったということもありまして、そういう視点から今日の審議を進めました。たしか2月の初めからこの研究会に類する一種の、まあ勉強会みたいのをやってきたわけでありますが、8回さまざまな形で議論があったのを、冒頭、事務局からまとめてもらいました。そこで、どこに問題、核心部があって、どういう形でまとめるかというあらあらの資料をここに、過去の8回分をまとめたとりまとめの方向にいく主要な、言うなれば図表と、コアな論点を整理したというものを冒頭30分ぐらいやって、もらいまして、それを受けて今日はお二方からご意見をちょうだいいたしました。お一人が東京大学の武川先生でありまして、福祉とか社会政策とかというものの社会学的なアプローチからのご研究を重ねている方でございます。もう一人が千葉大学の広井先生、特に医療のほうでいろんなご著書がありますけれども、やはり社会保障あるいは福祉国家等々のご議論をされている方でございまして、そのお二方の議論を聞いた後で一括議論をするという形でございます。

資料が出回っていると思いますが、今日の二、三共通点があるんですが、一つは、個人化という視点で福祉国家を眺めたということが、武川さんと広井さんお2人の共通の点だと思います。ご存じのように、福祉国家というのはある意味で社会連携を深めつつ高めていくわけでありまして、どちらかというと集団主義的な色彩があるんですが、ただ、今日的な意味での福祉国家というのは、だんだん個人個人のさまざまな特性を入れ込んだ形で福祉をやるという形で、それが重要である。まあ言うなれば個人主義化のなかで一体社会保障というのをどうやっていくか。例えば子育てのときにどういう形で、社会保険料をどう免除して、それをつなげるとか、まあいろんなことが個人的にやられていますし、税制も個人単位で税をかけるという形で議論していこうという形になり、社会保障というのもそういう視点からみていこう。まあそういう意味では、年金の給付を受ける側もおそらく個人主義になっていくのがこれからのいき方だと思います。いずれにいたしましても、従来からございます大きな政府、小さな政府といった単純な切り方じゃなくて、おそらく第三の探る道があって、それが個人化という視点から福祉国家を眺めるということだと思いますね。そういう意味で、ただ政府が大きくなればいいということではなくて、つまり財政的にね。そうではなくて、規制といったような面まで入れて、規制の強さが大きな政府につながるという点もあってですね、もちろん内容をしっかり検討せいというところが、お2人のご主張であったと思います。レジュメが出ておりますので、それは逐次見ていただけたらと思っておりますが、広井先生は特に定常型の社会という点を強調されておりました。言うなれば持続可能な福祉社会というのをどうやって構築するかというときに、これまでは高い成長という形で福祉の財源を稼ぎ出し、それで福祉を充実しようという視点でいったけど、今後はそうはいかんだろう。まあ定常型という意味は、富をどんどん増やすというよりは、あるフラットのレベルに置く。少なくともマイナス成長では困るけれども、まあ一定のスピードでいく成長のほうが今後いいのではないか。端的に言えば、労働のワークシェアリングという形でですね、1人1人合わせて2人というよりは、1.5というような形の時間配分もあっていいのではないかといったような、言うなれば分かち合うという視点をかなり強調されております。と同時に、環境というものが成長とは逆の座標軸に置かれておりまして、やっぱり成長を続ける限り環境というものはかなり汚染される。マイナスを受けますから、これからは環境という視点からこの定常型の志向というのは当然ある。したがって、これは広井さんから中心的なご提案があったと思いますが、環境税をとって福祉財源にせいという主張をされてますね。これは、北欧では環境税は当然のこと一般財源であって、一般財源の行き先の大宗は福祉でありますから、結果としては一般財源化すれば福祉に回ると。おそらく日本もそうだと思いますけれども、環境税というものを財源にしてこれからやっていくべきではないかといったようなご主張のようでございました。
それに関しまして幾つか質問も出たわけであります。今日はかなり概念的な質問があって、政策的に直接結びつくといったようなことにはなかなかなりにくい面があったので、双方入り乱れて中身に入り込むということは難しかったんですが、二、三ご紹介いたします。今後、少子・高齢化があってですね、どんどん労働への参加は減ってくるし、労働生産性も高まらないだろう。そういう形で定常型社会というのを目指した…どんどん、どんどんディクライニング、いわゆる停滞の方向にいくんじゃないかと。やはり成長というのがあって、若者に所得をうんと与えて、そこから社会保障財源などを給付してもらったほうがいいんじゃないかというような、そういう質問が当然出ました。まあそれは、先程申し上げたような形で質的な面も考慮しつつ、何が何でも成長というのはもう無理だろうというそういう全体のことから、まあ規制まで含まれた意味で個々の受益者の特性まで生かした形で福祉国家を作っていけというようなご主張ですね。これは2人ほどから出ましたから、皆さん共通の関心事だと思いますね。定常型社会を目指した途端に、言うなれば成長を目指してある程度鈍化した定常型にいくのはいいけど、定常を目指したらもっと下に行ってしまうのではないかという下方のシフトに対する危惧に対して、おそらく福祉国家というものの基盤を作り得ないんじゃないかというような、そういう議論もございました。それからあと、財源の問題として税なのか社会保険料か、あるいは社会保障負担というべきかな…そういうものの資金をどうするかという共通の議論があって、今日の社会学者お2人に尋ねても、ちょっとこれは難しかろうということですが、まあお2人からいきますと、そもそも社会保障料と税と分けておくのはおかしいんじゃないのと。渾然一体として、一体化して徴収してもいいんじゃないかというような議論が出てきまして、今後の一つの中心になるかなとは考えております。

そういうわけで、大きな政府、小さな政府か、あるいはこの背後にあります自助か公助か共助かという、前回のアンデルセン型のモデルの類型化につきまして少し議論を深めたかったんですが、ちょっと時間がなくて議論が煮詰め難かったんですが、まあ広井さんがいみじくも言っていたようにヨーロッパ型…これはどちらかといいますと社会民主党型のスウェーデン型と言うべきか、北欧型と言うべきですが、ヨーロッパ型というのを少し日本は、もうちょっと重きをおいていいんじゃないかというような形のことをおっしゃってました。まあこれがある種の今日のスピーカーの一つのご意見かなというふうには拝聴しておりました。広井さんの最後の…レジュメに載っておりますが、ヨーロッパ型社会モデルというものが一つの、もうちょっと、何でもかんでも小さくすればいいというような方向ではなくて、議論をしてもいいじゃないかというあたりが一つの核が出てきたかなと思ってます。これはあくまで広井さんのご意見でありますから、これからこういう意見を受け継ぎつつ、我々、議論を深めていきたいと思います。

そこで、9回さまざまなテーマの切り口で議論いたしまして、今日の資料にも出ておりますように、重ねてきました議論をどうとりまとめるかというのは今後の一つの課題になります。そこで以下の予定でありますが、6月11日にとりあえず粗々の骨子というか項目ごとの整理をしたような議論のたたき台を作ってもらって、それをベースにして文章化をする過程を少したどりたいと思ってます。今日、事務局から説明をしてもらったのはそういう方向での資料、どれを選んで、どういう格好でやるかというある程度の方向を示したもので、今日はそれは回収してしまいました。というのは、まだ未定稿なものが多々あるからです。それで、15日に一応文章化したものを、まあできれば最終的にそこで固めて、22日の総会にかけたいと考えてます。22日の総会に、基礎小のこれまでやりました経済・社会の構造変化の「実像」分析といった、言うなれば経済・社会構造と税制のミスマッチの議論を積み重ねてきたものをまとめて公表したいと、こういう段取りを考えています。

今日行いましたのは以上でございます。

記者

基礎小のこれまでの議論のまとめなんですが、今後の税制改正論議への参考にするものとして、どんなイメージのまとめを先生はお考えになっていらっしゃいますか。

石会長

具体的に税制改正の個々の中身にまで、すぐさまそこに飛び込んだ形でできるかどうか分かりません。9回やりましたなかで、家族であるとか、高齢化であるとか、グローバル化だとか、価値観の変化であるかというのは、ある意味ですべからく課税の客体、あるいは課税の主体、課税のベースですね、これを形作っている根っこに当たるところに、ある意味では直撃してるんですね。今日も個人化という形で大分議論になりましたけれども、やっぱり税制は従来、どちらかといいますと家族というような…世帯と言うべきかな、そういう形で、僕がここで何度も申し上げますように戦後の所得税の前提は、亭主が働いて奥さんが家にいて、子どもが2人か3人いてというような構造でやってきた。そういう前提が大きく崩れたというのは今回のことでより鮮明になったわけですよね。あるいはフリーターが増えて、正規の社員がいて、年功序列で定年まで勤めあげて退職金をもらってというようなこともつぶれたというような形で、今回やりましたことは、私は所得税構造改革の議論にかなり有効に機能する議論ができたと思ってます。で、グローバル化等々になりますと法人税でありますし、それから所得分配の面で申しますと、まあ機会の平等化、それから結果の平等化等々のいろんな調査も出てきまして、アメリカほどではないですが、かなり機会の平等を強く言ってるという視点から言いますと、資産課税の強化なんていう話もあるわけであります。なんかその辺は、ファクトとそれから税制改革の方向ということが、両者、なんか一体化…両者の方向で議論できるような格好にはまとめたいと思ってますが、まあこれらか皆さんの議論を待ってと思ってます。

記者

金融小委員会もとりまとめの具体的な審議に入るということなんですが、一つ焦点は、一体課税での預貯金利子の取扱いということがあるかと思いますけれども、これ、なお議論するというようなご説明、奥野先生からもあったんですが。

石会長

はい、まさにそのとおりです。

記者

石会長のご意見を賜れば…。

石会長

総会のほうで、ちょっと奥野さんのご説明に対して補足するような格好で申し上げました。つまり時間的にね、時間軸でいって何年ごろに実際にどうするかというのがまだ決まってないから、その着陸点までのステップ・バイ・ステップのやり方がいろいろ変わり得ることはあります。ご存じのように今、配当とキャピタルゲインについては特例があってですね、これがあと何だろう…3年ぐらい続くのかな。だから、いずれにいたしましても、来年、再来年、今やってることがすぐ実現するといういったような、そういうようなスパンじゃないんですね。それの先に、今、特例が外れたなかで証券・金融税制はどうあるべきかというところの、言うなればベースを作ってるわけですからね。まあそういう意味で、当然のことできるだけ、今ありますばらばらになってる金融商品、そこから出てくる金融所得を一つの網のなかで処理したいと思いますね、でき上がりは。そのなかになれば当然のこと、難しいと言われております利子も入らざるを得ないだろうし。利子というのはご存じのように、さまざまないろんな難しい問題を含んでるんです。なにしろ一番ロットが大きいから、利子所得を個人にみんな還元してどのぐらいの利子所得があるかなんていう報告も出してもらわなきゃいけないということになりますと、金融機関にとって大変コストがかかるかと思います。まあそういうことは各国でやってますんで、そういう意味で大きな網をかけて金融所得の一元化という実をとりたい…実際にそういうことをしたい、その一つの政策目標が、やっぱり「貯蓄から投資へ」という、これまでほとんど投資物件で個人が一般的に参加できなかったようなものを、税によって少し動かすといったような要素も加味していいんじゃないか。まあ政策的に税制が少し絡むといったようなのもあり得ていいんじゃないかというのがねらいでありますから、極力大きな網を張って、損益通算とかですね、そういう面での配慮をしたいとは思ってます。いつになるかはちょっと今の段階では議論しにくい。それから納番も含めての…まあ納番という言葉がよくなければ番号制度でいいんですが、それの実施もかなり時間を見ないとですね。急に来年、再来年というわけにはいかないんじゃないかと思ってます。

記者

納番についてなんですが、やっぱり時間軸の具体的なところまで踏み込んでやるという中間報告になるんですか、それとも段階的にできるところから順番にやって、最終形が…。

石会長

今回の6月の報告は、私は、議論がいろいろ分かれてる、そういう主要な論点を整理することに主眼があってですね、俗にあれはインプリメンテーションといいますね、遂行とか実施過程の実務的な話は9月以降、あるいはそれから先の議論のなかで処理されるべきだと思ってます。まあそういう意味でどこまで線引いて、金融所得なり入れて、ここから先、外に出すか等々はかなり実務的な話もあり、それから、我々の論点整理を受けた後での実際の金融界なり証券界からのリアクションも当然ありますよね。これは、この税はこっちが勝手にやるよと言って、それで済むわけでも多分ないので、かなり実務的な面での協力依頼なり、そのコストを負担してもらうという点ではある程度納得してもらわなきゃいけない面もあります。それまでは今回の基本的な方向のなかで細かく書くのは難しいと思ってますし、やるべきでもないと思ってます。そういう意味では、一回出た後それをいろんな関係者の、いわゆるパブリック・ヒアリングみたいな話も聞きつつ、それで9月以降、秋以降、それでまた何年にこういうことをするかということもまだ分かりませんから、それが決まった段階で具体的に議論すると思いますが。

ただ、番号制につきましては何らかの方向でやっていきたいと考えております。イメージとしては、まあ俗に言われます納税者番号、すべて国民に全部番号をふってですね、それでそれをつなげていこうというのに一挙にいくのは難しかろうと思ってます。実際に金融所得課税の網のなかに入って、損益通算等々のことに関係した人が使いやすい、つまり税務当局からいってもそれを使わなきゃできない、それから使う側からいってもそこそこのメリットがあるといったような形にしたいと思ってますから、いずれにしても番号というものについてはなんか適当なニックネームが必要かなとは思ってます。納税者番号という一般的なストレートな問題より、もっと愛着を持ってとはなかなかいかないと思うけど、なんかもう少し簡便にイメージが伝わるような、なんかニックネーム的な名称をちょっと、急に決めるわけにいきませんけど、考えてみたいとは思ってます。

記者

冒頭、社会保険料と徴税を分ける必要はないんじゃないかという議論が…。

石会長

それは今日の社会学者からあったんで、ありました。

記者

会長ご自身はどういうふうにお考えでしょうか。

石会長

まさにこれはこれからの大きな論点でしょうねえ。つまり、基礎年金3分の1を2分の1にするということは、言うなれば税が少しウエイトが増すということになる。いずれにいたしましても、これまで減税減税でやってきて、増税すべきところまで増税できない格好できた税収の細り方はですね、やや僕は、世界に冠たる日本の国家財政を支える税として異常だと思ってるんですよ。で、それを減税で税収が集まらなかった分だけ社会保険料を、まあ密かにというか、そろっというか、あっという間に上がってきたんですよね。だから、はっきり言ってドイツは社会保険料、イギリスは税でやってるし、まあ北欧はどっちかというと両方上げてますけどね。その辺の類型化のなかで、ある解が出てくるかと思いますが、私は個人的には、税調としてはですね、やっぱり日本の税制をしっかりするという意味においては、これだけ細ってしまった…これを税の空洞化と言いますけどね、これを復権させるという意味も含めてですね、税というものの役割はより重視してもいいんじゃないかと思いますし、それから基礎年金を税金でやれっていう声も、僕は、次第に高まってくる気配もありますよね、例の未納化の問題も含めて。だから、もっと幅広にいろいろ考えたときに、少なくとも今ある相対的な関係はですね、税寄りで考えるということはあり得ると思いますね、社会保険を増やすというよりは税のほうで少しいろいろ、今後の福祉国家を支えるという意味においてはね。ただ、これもまだ分かりません。分かりませんが、個人的にはそう思ってます。

よろしゅうございますか。じゃあ、三つグッドポイントが出たからここで終わりにしましょう。

(以上)