第10回基礎問題小委員会 議事録

平成16年4月23日開催

石小委員長

時間になりました。第10回目の基礎問題小委員会を開催させていただきたいと思います。

審議に入る前に、一言皆さんにお伝えしなければいけないのは、当委員会のメンバーでございました飯塚専門委員が4月18日にご逝去されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

それでは、総務省に人事異動がございましたので、小室さん、ご紹介ください。

小室審議官

4月1日付で、政府税調担当の税務企画官・稲岡伸哉が石川県の企画開発部長として転出しましたので、その後任に、前の自治財政局地方債課理事官、河野俊嗣が新たな担当企画官として赴任しました。よろしくお願いいたします。

石小委員長

それでは、今日の審議に入ります。今日は、慶応義塾大学の津谷先生と、国立社会保障・人口問題研究所室長の加藤さんにおいでいただいておりまして、後ほどお話を伺うことになっております。

その前に、いつものように事務局が作成していただきましたベーシックなデータ、これにつきましてお話を聞きます。今日のメインテーマは「少子・高齢化」でございます。それをめぐりまして、お作りいただきました構造変化に関する基本データ、資料の厚いのが出ておりますが、これをまず15分程度ご説明いただきまして、これを受けてお二人の先生方からのお話を聞くという段取りにいたしたいと思います。

では、佐藤さん、よろしく。

佐藤調査課長

それでは、本日、「少子・高齢化(人口)」に関係いたしますご議論のイントロダクションといたしまして、資料をご説明いたします。資料の「基礎小10-1」という資料、横紙を使いたいと思います。真ん中に赤い紙が入ってございまして、その後ろに基礎データがございますので、そちらからまず見ていただきたいということでございます。

赤い紙の次に目次が書いてございます。ちょっとご覧いただきますと、最初に世界及び日本の人口動向、2つ目が高齢化の進行、次のページでございますが、その高齢化を分解いたしますと、少子化と長寿化に分解できますので、その少子化についてのデータ、それから次のページ、長寿化についてのデータ、最後に、それに関連いたします指標を若干つけているという構成になってございます。

それでは次のページ、算用数字の1ページから拾い上げながらご説明申し上げたいと思います。

まず1ページ、世界の人口を鳥瞰していただくという資料でございます。左側のボックスでございます。現在、2000年という段階で60億人の人口がございますが、今から50年前の1950年の段階では25億人ですので、35億人増えてまいりましたが、今後の50年で30億人増えまして、89億人ということに国連の推計等々でなっているということでございます。

中身を見ますと、発展途上国、インド、アフリカ、イスラム圏を中心として人口爆発ということで大きく増えますが、先進国につきましては、右側のボックスですが、アメリカだけが伸びてまいりますが、それ以外の国につきましては、共通して人口が横這いないし低下するという形になっているのが全体の鳥瞰図でございます。

その次、2ページは飛ばしていただきまして、3ページ。日本の人口動向ということでございます。歴史人口学の著書から若干引用させていただいております。現在、人口が1億2,000万人というのが日本の姿ですが、1万年さかのぼるとどういうことであったかというのを示したものでございます。シャドーを打った部分、4つございますが、4つの期間に波動があると言われているようでございます。このグラフの上に小さくIと書いた部分、ここは縄文時代の人口の波動でございます。

IIと書きましたのが、弥生時代から平安時代にかけての波動でございまして、水稲農耕の普及をベースとした波動でございます。ちなみに1150年、源頼朝のあたりですが、684万人という数字が推計でなされているようでございます。

それから、大きく目立ちますのが、IIIと書いたところの戦国時代から江戸時代に当たる部分でございます。1600年、関ガ原の戦いの頃ですが、1,200万人という数字でございますが、18世紀初めまでの約100年の間に急激に3,000万人台まで増える。それから、江戸の中期以降は横這いという形で出てまいります。それぞれの時期に増える要因、減る要因とございますが、気候の問題とか、災害、疫病とか、いろいろな問題があると見るのが分析のようでございます。

それから第IV番目の波といたしまして、明治以降の波動がございまして、現在に至っているわけです。あとで申し上げますとおり、21世紀に人口が減ってまいりますけれども、それは出生率の低下を主因としたということにつきまして、日本史上初めてではないかという分析がなされているところでございます。

次のページ、4ページです。明治以降の人口推移を示した数字でございます。ちょうど真ん中の2000年のところを頂点といたしまして、左右に分かれる形、富士山のような形をしているわけでございます。例えば1900年頃、今から100年前を見ていただきますと、人口約4,300万人というレベルでございますが、その後100年かけまして、約8,000数百万人、山をのぼって1億2,000万人というレベルに来ているわけですが、中位推計、出生率1.39を前提に推計いたしますと、2006年をピークに、ここからずっと坂を下っていくということでございまして、2100年の段階で約6,400万人ということになります。

もしも低位推計、出生率1.10ということになりますと、約4,600万人という数字になります。これは、左へ目を送っていただきますと、ちょうど1900年のレベルになるということですから、100年かかって登った山を100年かかって下りるという姿でございます。ちょっとキャッチフレーズ的に書いてございますが、「20世紀は『人口増加社会』、21世紀は『人口減少社会』」というのが大きなつかみ方ではないだろうかというふうに思われます。

次の5ページでございますが、今の人口の増減を見るために出生数と死亡数のグラフを描いたものです。この差がいわば人口の増減という形になるわけでございます。3つくらいポイントをご説明いたします。1950年あたりを見ていただきますと、出生数がそれまでずっと上がってまいりましたものが、第1次ベビーブームを境にして急激に下がってきております。それから、死亡数のところは1920年くらいまでは上がってまいりましたが、その後下がり、1950年代にかけまして急激に下がる。ここは、多産多死の時代から少産少死の時代になるということで、人口学の世界では「第1次人口転換」というふうに呼ばれているようでございます。まさに少産少死の世界に入ったということでございます。

そのあと、シャドウで打ちました期間、実はこれ、高度成長の期間ですけれども、その期間に子供の数が170万人レベルで推移いたしますが、その前のたくさん生まれた時代、200万人を超えるレベルの子供たちが、今度労働者という形で入ってまいります。この落差が「人口ボーナス」というふうに呼ばれるものでございまして、相対的に扶養力がアップする、余力ができるということで、高度成長の一因になったのではないかという指摘もあるところでございます。

その後、1970年代に第2次ベビーブームを経まして、そのあと出生数が急激に減っております。2006年でございますが、マルでシャドウをつけましたところ、ここで出生数と死亡数が逆転するということで、ここから人口の減少がトータルで始まるという姿でございます。

6ページでございますが、今の話を各時期ごとの人口の伸び率をグラフ化したものでございます。実線が全体の人口の伸び率、大きな破線が15~64歳の生産年齢人口ですが、左側の大きなマルをつけました部分、これは15~64歳の生産年齢人口の伸びのほうが大きい時代でございますので、ここが、先ほど申しました人口ボーナスという部分で、余力が出た時代でございます。現在、ないしそれ以降は、右側下のシャドウをつけた部分ということで、その姿が逆転するということでございます。

7ページを飛ばしまして、8ページ。ここからは高齢化という話に入っていきたいということで、年齢区分別人口の動態を見ていただきます。これも3つぐらいご説明いたします。

まず1つ目が、15~64歳の生産年齢人口の推移です。1995年、約8,700万人をピークにこれは減っていくということで、2050年の段階では5,389万人ということで、約3,300万人ほど落ちるということでございます。それから、0~14歳までの年少人口でございますが、これが1955年をピークといたしまして、なだらかに下がってきているということでございます。

65歳以上の老年人口でございますが、これは逆に上がってきていまして、ここで2つマルがございます。まず1つ目のマルでございますが、1990年代に年少人口と老年人口がクロスしてございます。ここが逆転しているというのが一つのポイント。もう一つ、1点波線を見ていただきますと、ちょっと見にくくて恐縮ですが、これが75歳以上の人口の比率でございます。後期老年人口といいますが、この線の形状をご覧いただきますと、2015年あたりで14歳以下の年少人口をも上回るとともに、前期老齢人口、すなわち65~74歳までの人口よりも増えるという形になります。そういう意味では、現在から先20年くらいの間にこの2つの逆転減少が生じるということが特徴でございます。老年人口の高齢化ともいうことができると思います。

ちなみに2050年の段階では、75歳人口が2,162万人という数字になりますが、中位推計では、全体が1億人という形になってございますので、約21%というウエートになることも見てとれるわけでございます。

次、10ページでございます。これは、従属人口指数というものでございまして、いわば現役100人に対して何人の人を支えるか。年少人口と老年人口を合わせて従属人口というふうに定義いたします。この太いグラフの形状でございますが、1990年代に43.5ということでボトムになってございます。社会的扶養負担が一番低くなったところということが言えようかと思いますが、その前は子供の数が減ることがその要因でしたが、それ以後は長寿化していくことが要因で上がっていく。この線が上がりまして2030年頃になりますと、70という指数になります。100人を分母にいたしまして70という従属人口のウエートになります。この水準は1930年、40年頃のラインになりますけれども、状況は、昔は子供が多くて従属人口が多かった、これからは高齢者が多くて従属人口が大きい、こういう姿になっているということで、ウエートが大きく変化しているのも特徴でございます。

11ページでございます。65歳以上の人口割合。これはよくご覧になるものでございますが、1980年頃、日本が9%くらいの老齢人口比率でございましたが、急激に伸びて、現在、17.3%、2050年では36%くらいのレベルになるということでございます。

次、12ページでございます。高齢化のスピードでございます。この図の見方は、左側に国の名前が書いてございますけれども、例えば日本について、1985年に10%の高齢化比率が2006年に20%になりましたということで、この10%上がるのに日本は21年でかかった。それ以外の国は、ここに書いていますように、それ以上長い期間がかかっていたということがわかります。枠の中、キャプションで、わが国の高齢化の特徴を4つ指摘してございます。まず、遅く始まったということ。それから、短期間に急速に進行したということ。現在は最も高齢化の進んだ国であること。21世紀前半には超高齢化のレベルになるということでございます。

14ページまで行っていただきたいと思います。少子化の進行でございます。今日は、プレゼンテーションではここを中心にお話しいただくということですので、基本的な説明は省略しますが、この表、ひと言だけ申し上げたいと思います。特徴をご覧いただきますと、合計特殊出生率が1947年の段階で4を超えていましたところ、57年の段階で2になりまして、2のレベルがずっと1974年くらいまで横這いでございます。この時期はいわゆる高度成長期に当たりまして、夫婦子2人という家族モデルができ上がった時期とパラレルであるということでございます。これまでの回で何度かそのようなご指摘がございましたが、人口面からも見てとれるということです。

それから1974年以降、2を割りまして、出生率が下がってまいります。2といいますのは人口置換水準ということで、人口水準を維持する数字だということですが、今現在(2002年)、1.32になっているということでございます。このように出生率が減るということが人口全体に相対的にどういう影響をするかというあたりのメカニズムは、またプレゼンテーションの中であるかと思いますので、ここでは省略いたします。

いずれにいたしましても、この辺、例えば結婚するのか、しないのか、子供を産むのか、産まないのかといったような要因がさまざまかかわって、このような子供の生まれ方になってきているということですので、後ほどご説明をお聞きいただければと思います。

それ以後はかなりのページは少子化でございますので、ここは飛ばさせていただきまして、随時プレゼンの中でお使いいただけるのではないかと思っております。

ずっと飛ばしまして、27ページ。長寿化というところを、2、3、ご説明いたします。高齢化という中の要因といたしまして少子化がございますが、もう一つは長寿化ということがございます。どの程度長寿化したかというのが左側のグラフでございます。現在(2004年)は男性が77.72 歳、女性が84.6歳でございますが、1947年の段階では男性50歳強、女性が54歳くらいということで、実はこの50年間に急激に上がってきているということが特徴です。右側にちなみに100歳以上人口ということで掲げてございます。2000年で1.3万人が2050年では52万人という数字が見てとれます。

次、28ページでございます。生存率というものを示したグラフでございます。それぞれの年齢で何%の人が生き残っているかということを示したグラフです。例えば男性の側を見ていただきますと、2000年の黒いグラフで、60%生き残っているという生存率のときには78歳くらいになっていますが、これが平均寿命ということです。平均寿命の段階で全員が死ぬわけではなくて、60%の人が生き残っている、こういう段階でございます。ちなみに90歳の段階では、男性17%くらいの生存率ということになります。ちょっと印はつけてございませんが、例えば65歳というところで線を上にあげていただきますと、約9割の方が生存しているという状況ですので、状況が非常に大きく変化したということは言えると思います。

もう一つ、1947年以前のグラフを見ていただきますと、0~10歳までの間、乳幼児のところですが、非常に死亡率が高かったために生存率が大きく下がっています。これが高度成長とともに、今、右上にシフトして膨らんだ形状になってきたということで、その辺が大きな変化になるということですから、そういう意味では安定したライフコースを思い描く時代になったことがあらわれているのではないだろうかということでございます。

飛ばしまして、32ページ、33ページだけご説明いたします。

32ページ。以上のようなデータからいろいろなインプリケーションが出てまいりますけれども、例えば家族の世帯類型はどうなったかという話です。これは家族のときにもすでにご覧いただきましたけれども、例えばシャドウをつけました部分ですが、単独世帯がかなり増えてきています。以前は、「その他の世帯」というどちらかというと三世代の数が大きかったわけですが、それが減りまして、核家族になり、核家族が分裂をして単独世帯になっていくということで、少子化や長寿化ということが関連して家族の構成に影響してきているということです。

それから、33ページ。これは家族のスタイルを研究したものでございまして、これも書物から引用させていただいたもので、家族のあり方のような議論をしていただくための参考ということです。これはモデルを作ったものですが、江戸時代と大正時代と現代、男女それぞれのステージにおける年齢をモデル化したものとして計上されたものですが、例えば信濃湯舟沢村というのは長野県と岐阜県の県境にある村ということですが、結婚年齢が26.4歳、現在は28歳ということですが、それが[2]、[3]、[4]、[5]、こういうふうにモデル的に数字がなっておりますが、下のシャドウをつけましたボックス、例えば出産期間というのがございます。これは[3]から[1]を引きましたところでして、要するに子供を産む期間ということになります。これが19.7歳というのが江戸時代でしたが、現在は4年ということでございまして、きわめて短くなっているということです。

それから一つ飛ばしまして、脱扶養期間、「[5]-[4]」となっていますが、これは子育て後というふうにご覧いただければいいと思います。子育て後は1.5 年ということですが、現在では25年ということになります。

それから結婚後期間、すなわち結婚してから死ぬまでのトータルの期間ですが、これは36年から49年ということになっています。これをどういうふうに読むかということですが、家族の機能というのはずいぶん変わったのかなと。昔は子供を産み育てるのが家族の主たる機能。おそらくこれからは、子供と過ごす期間とそれ以外の期間が半々だという形が一つモデルとして見えるというので、人口問題から見える家族へのインプリケーションというものもご議論の材料としては適当と思いまして、提示させていただきました。

お時間が来ましたが、最後、申し訳ございません、前に戻っていただきまして、赤い紙の前のほうのローマ数字のページからページにかけて、まとめをさせていただきたいと思います。

データに見られる現状ということです。アンダーラインを引いた点ですけれども、まず人口減少というのは、アメリカを除く先進国の共通の現象であるということ。2つ目のアンダーライン、20世紀の日本は「人口増加社会」、21世紀の日本は「人口減少社会」。次は高齢化が進行していくという話。

ページ目でございますが、少子化の進行。少子化の進行ということは、要するに出生率の著しい低下だというふうに読みかえていただくということでございます。

最後、ページでございます。本日、プレゼンテーションの中、あるいは、ご議論がもしもあればということで切り口を用意いたしました。お時間がございませんので駆け足でポイントのところだけ見ますが、まず1つ目です。今後、わが国においては、人口置換水準を下回る合計特殊出生率の継続的な低下により「人口減少のモメンタム」--この辺のお話はあとであると思いますが--が働き、人口が減少し続けることになると予想されているが、このような「人口減少社会」の趨勢に歯止めがかけられるのか。そういう趨勢に歯止めをかけるにはどの程度の出生率の上昇が必要なのか、あるいは、そうしたモメンタムに歯止めがかかるまでにはどの程度の期間を要するのか、こういった話でございます。

それから、2つ目。人口減少社会に関して、経済の停滞・縮小の見方と、ある程度プラスの影響もあるのではないかという見方、それぞれございますので、そのあたりのご議論もしていただければということです。

次のページでございますが、3行目ですが、わが国は、今後、少子化や長寿化の進行により、「壮年者中心の若い社会」からいわゆる「成熟した長寿社会」に移行するということですが、家族や価値観・ライフスタイルのあり方がどういうふうに変貌すると展望できるか、あるいは、豊かさというのをどう考えていったらいいだろうか。それから、「経済の右肩上がり」と「人口の増加」を前提としてきた既存の諸制度の持続可能性をどう考えたらいいのだろうか。最後でございますが、少子化には、「有配偶出生率」と「有配偶率」、言い換えれば、結婚するかどうか、子供を持つかどうかといった要因の変化、そうしたものの要因が影響してまいりますけれども、現在、わが国において急激に進行している少子化の要因は何か、諸外国と比較して独自の要因があるのか、あるいは、そういうものについて政策的関与を行うべきか否か等々の論点を掲げさせていただいております。

以上でございます。

石小委員長

ありがとうございました。それでは、この資料につきましてご質問もあろうかと思いますが、これは後ほどの質疑応答の中で、また何かございましたらつけ加えてください。

それでは、今日のメインのトピックスでございます。お二人の先生方からお話を聞くことにいたします。最後、佐藤調査課長がまとめていただいたような問題、論点、切り口等々にもお触れいただくと大変ありがたいと思います。

最初にご紹介いたしますのは、慶応義塾大学の津谷先生でございまして、人口学がご専門で、これまで日本のさまざまな少子化の問題も含めて、家族変動の問題も含めて、日本のみならずアジアとか欧米の人口のことについてご研究があると聞いております。国際機関でも長くさまざまなところでお勤めでございますので、その辺の視点からもまたいろいろ問題を提起いただけると思います。

では、40分ほどで時間が足りないかもしれませんが、よろしくお願いいたします。

津谷教授

津谷でございます。

本日は、日本を中心としまして、先ほどから話題になっております少子化、その今までのトレンド、その直接的及び間接的な要因、そして、これからどうなっていくのであろうかということについてお話しさせていただきたいと思います。私、経済学部の教員でございますけれども、専門は経済学ではございません。人口学でございまして、日本にいる数少ない、俗に言う形式人口学、人口統計学をやっている人間ですので、まず人口のことについて、人口学的に出生率の変動についてお話しさせていただきたいと思います。

(スライド2番)

まず、少子化という言葉が非常によく使われています。これは何なのかということをお話しさせていただきたいと思います。先ほど、「出生率の著しい低下」という言葉が出てまいりました。著しい低下というのはどれくらいの低下を言うのか。超低水準への低下です。具体的には何なのか、これは、置き換え水準以下(Below-Replacement)--Below-Replacement level と申しますが--への出生率の低下のことを指すというふうに考えられます。ここで言う置き換え水準の出生率(Replacement level fertility)は、母親世代の女性が等しい数の娘の世代の女性を生み残す水準です。つまり、人口の再生産が全うされる状態のことを指しています。

この水準を長期にわたって出生率が割り込みますと、人口は早晩減少を始めます。では、具体的にこの水準はどれくらいかと申しますと、純再生産率(Net Reproductive Rate)というものがございます。掛け算ですので、これが1.00ですと、増えもしませんし、減りもしません。合計特殊出生率に換算いたしますと、乳児死亡率、幼児死亡率、大人になるまでの死亡率、出産期における死亡率、いろいろありますが、2.1 弱、2.05~2.08くらいだと言われています。

この合計特殊出生率、舌を噛みそうな名前、申し訳ございません。英語でTotal Fertility Rateですので、TFRと呼んでおります。ですから、2.1 弱、2強を下回ってしまいますと、これは置き換え水準以下になります。

(スライド3番)

TFRについてお話しさせていただきたいと思います。なぜかというと、これは世間に流布しておりまして、それと同時に誤解がまかり通っているように思います。このTFRの意味です。計算の仕方は2通りあるのですが、通常私たちが耳にいたしますニュースなどでも、わが国の女性が生涯産む平均子供数がまた減りまして、2002年には平均1.32人になりました。こんなことを言っておりますけれども、これ、ちょっと違います。

実はこの意味は、ある架空の集団の女性が、ある国のある年次の年齢別の出生率のパターンで子供を産んでいったとすれば、15歳から49歳まで見ておりますが、その35年間、誰も死ななければ平均何人という指標です。もっと具体的に申しますと、2002年のわが国の--これ、期間TFRですが、女性1人当たりTFR1.32人ですけれども、これは、もしある架空の集団の女性が、2002年のわが国女性の年齢別の出産のパターンで子供を産んでいったとしたら、そして、その35年間、15歳から49歳までの間に誰も死ななければ平均1.32人の子供を産む水準の出生率だということであります。

これは女性が生涯に産む子供の平均ではございません。これの近似値になる場合もあります。どういう場合かといいますと、その水準でずっと推移していればたしかにそうです。ただ、あとでお話しいたしますし、先ほどもお話がございましたが、1970年代半ば以降、わが国の出生率は置き換え水準を下回りまして、ずっと低下が続いていますので、この平均ではないということです。もっと言いますと、生涯に産むといいますと、死ぬまで待つ必要はないのですが、その集団が30代の後半くらいにならなければ実はこの平均値というのは確定いたしません。そこから考えても、そういうことではないということはおわかりになっていただけるかと思います。

このTFRですが、出産可能年齢、通常15~49歳、35年間見ておりますが、その女性の人口の年齢構造、今、わが国は40代が非常に多いです。この出産可能年齢人口でも高齢化が起こっているわけですが、その変動とか国間の差異の影響を受けませんので、これは最もよく使われる出生力の指標となっています。計算の仕方ですが、15~49歳の35年間、各年齢別に出生率を出しまして、それを足し上げたものでございます。

(スライド4番)

もう一つ、すみません、断わりが多くて。ただ、あとに関係してきますものですから、このお話をちょっとさせていただきたいと思います。ピリオド率とコーホート率です。人口のいろいろな率には、おそらくほかの経済もそうだと思いますが、ピリオド率――期間率とも呼んでいます――とコーホート率、この2つがございます。通常私たちがよく耳にする率は前者のピリオド率です。これは何かと申しますと、ある特定の年次や期間を対象にした率です。ですから、2002年のTFRと申しましたら、これは、当然ですがピリオド率になります。失業率すべてそうであります。皆様がよく耳になさるクロスセクションというのは、これです。時間を横断的にとらえています。

それに対してコーホート率は、同年次及び同時期に、ここで「生まれた」と言いましたが、別に出生でなくてもよろしいのです。ある人口イベント、結婚でもよろしいですし、就職でもよろしいのですが、とにかく同年次もしくは同時期に生まれた――バース・コーホートですが――集団を、時間の流れに沿ってずっと追跡していったものです。

このことはまたあとで戻ってまいります。ちなみに出生率に置き換えますと、ピリオド率は2つの要因で動きます。1つは、最終的に女性の集団が産む子供数です。同時に、いつ産むかというタイミング、この2つで動きますので、ピリオド率は、場合にもよりますけれども、上下に相当大きく変動することがあります。それに対してコーホート率、これが出生率で下がってまいりますと、本当の変動です。低下です。最終的に産む子供の数ですので、これはタイミングの影響を--もちろん年次にもよりますけれども、最終的には受けません。

ということで、すみません、長くなりましたが、では、実際の出生率の変動について次に見ていきたいと思います。

(スライド6番)

今回は戦後に絞ってお話をさせていただきます。時間の関係もございます。先ほどご覧になりました図の一部です。もう一度ここで解説させていただきますと、戦後、1947年がデータがある最初の年ですが、47年、48年、49年、この間、TFRは4.5、4.4、4.3 。つまり、この水準で子供を産んでいけば平均4、5人産むくらいの高い水準であったということです。これが皆様ご存じのとおり、戦後の団塊の世代、第1次ベビーブームです。ただ、わが国はわずか3年で終わっています。アメリカとはこの点でも大変違います。そのあと、出生率は急激に下がっています。ノーズダイブです。1957年にはTFR2.04、2人ぐらいの水準。これ、ちょうど置き換え水準だということがおわかりになりますでしょうか。10年でわが国のTFRは半減以上の低下を見たわけです。

ちなみに、このような低下はほかの先進国でも、そしてアジアのNIESの国、ASEANの多くの国、起こっています。ただ、西欧の先進国と違います点、最も大きな点はこのスピードです。ドイツでも40~50年、TFRにして4.5 くらいから2への変動、低下、かかっておりますし、フランスですと100年以上かかっています。ゆっくり下がったわけです。わが国はこれを10年でやっております。ですから、今、日本は世界で最も人口の高齢化が急速に進んでいる国ですが、そのもともとの要因はここにあります。

ただ、そのあと大体置き換え水準になりまして、20年弱、横這いが続いています。TFRにして2.0~2.1 です。このままずっと推移してくれていたら、私は人口学者ですが、その立場から言いますと、問題はなかったわけですが、実は74年、2.05です。それを最後にして2を割り込みまして、その後、回復しておりません。あまりにも戦争直後の低下が大きいものですから目立たないのですが、この右側がTFRですけれども、横に2のところに真っ直ぐ線を引っ張っていただきますと、2からの乖離が非常に大きくなってきているのがわかります。そして、先ほどお話がちょっとございましたけれども、わが国の戦後の急激な経済発展にはこの置き換え水準がというお話があったのですが、実は急激な出生力の低下というのは急速な経済発展の前に起こっています。ですからある意味、この急速な経済発展の一つの大きな要因は、わが国が人口の面から--年齢構造もそうですし、子供もそうなのですけれども、身軽になって、非常に急速に人口ボーナスをここで得たことによるかと思います。

ただ、70年代半ば以降、置き換え水準以下への低下が続いています。これはちょっと語弊があるかもしれませんけれども、少なくとも人口学的に見れば、大変深刻な影響を持っております。ご存じのとおりあと2年くらいで人口の減少が始まります。人口のモメンタムと先ほどお話がございましたが、「惰性」です。置き換え水準を切ってすでに30年ぐらいたっているわけですが、やっとこれから減少が始まる。つまり、人口が再生産できない水準にまで出生率が落ち込んでいても急には減らないのですが、今度一旦減りますと、マイナスのモメンタムが働きまして、たとえ来年、TFRが2に回復しても--そんなことあり得ません。今、1.3 ですので、それより低いかもしれません。それでもしばらくは減り続けるということであります。おそらくここにいる我々が生きている間じゅう、わが国は継続して人口が減少、一旦始まりますと、していくであろうということです。ちなみに平時に継続して人口が減少したということは、わが国の歴史で今までに一度もございません。

(スライド7番)

簡単にまとめてみました。最初の急激な出生率低下、これは少なくとも経済的にはよいことであったということです。これは「第一の出生力転換」と呼んでおります。これは諸外国でも多く起こっています。そして70年代半ば以降の少子化、これもあとで詳しくお話しいたしますが、ほかの先進諸国でも起こっています。

(スライド8番)

先ほど、TFRは年齢別の出生率を足し上げたものだというお話をいたしました。なぜ下がったかというお話をする前に、ちょっとビジュアルに見ていただきますと、一番上のラインは1947年と25年。50年でも同じくらいですが、見ていただきますと、ほとんど変わらない。TFRにして1ぐらいのところで、若干の晩婚化ですが、60年と75年、ほぼかぶさっております。当然です、TFRは同じくらいなのですから。ですから、60年と47年を比べていただきますと、すごく差があると思います。ちなみにこのカーブの下の面積がTFRです。そうすると、年齢が上の30代から40代の落ち込みが大きいのがわかりますでしょうか。ここからわかることは、結婚している女性、つまり夫婦が出生力を抑制した。前は4人、5人産んでいたのを、もう2人産んでやめていたんだな、ということがわかるかと思います。もちろん晩婚化も若干ございます。

ところが、75年と2000年を見ていただくとおわかりのように、この差というのはどこかといいますと、ほとんどすべて若い部分です。シングル化でございます。

(スライド9番)

難しいことを言うのはやめたいなと思っていたのですが、あとで言う前に、これは伏線ですので言わせてください。今まで見ているのはすべてピリオド率です。ただ、コーホート率もございます。わが国の出生コーホート別のコーホートTFRです。それの累積率ですが、67年ですので、今30代の半ばから後半の方、ここくらいまではおそらく確定に近いと思いますが、見ていただくとおわかりのように、50年代生まれの女性に比べて60年代生まれの女性、コーホートTFRがザーッと下がってきているのがおわかりになりますでしょうか。これがこのあとボンッと上にあがることはありません。ですから、ピリオドのタイミングのブレだけではなくて、本当にこれは低下してきております。

(スライド10・11番)

すみません、2つだけ言わせてください。難しいことを申し上げるのは何なのですが、TFRを要因で分解していきますと、わが国のように、出生のほとんどが結婚している女性によって担われている、つまり結婚していない女の人はほとんど子供を産まない社会――アジアの国は多くそうなのですが――では、基本的に2つの要因で動きます。1つは、女性の結婚の年齢パターン、そしてもう一つは、結婚している女性の出生力です。ですから2つの関数なのですが、この関数、掛け算であります。ということは、結婚している女性は前と同じくらい産んでいても、結婚しなければ産まなくて、そして、結婚していない女性の割合が急激に増大しますと、全体としてTFRはガサッと落ち込みます。実はこの状態がわが国の少子化の主な理由です。

(スライド12番)

では、どれぐらい落ち込んだのか、要因分解をディコンポジョンでやってみました。50-75年と書いてありますが、これ、60年にしても同じです。変わりませんので。つまり戦後の急激な出生力の低下、女性1人当たりにして1.7人くらい低下したわけですが、その約9割が有配偶出生力、つまり結婚している女性の出生率が落ちたからです。4人、5人のかわりに2人です。残りの1割が晩婚化。それに対して第2の出生力転換、少子化は女性1人について0.56。ただ、この0.56の意味は非常に大きいのであります。2と1では全くインプリケーションが違います。つまり、TFR1.3 とか1.4 というのはどういう状態かといいますと、ずっとそれで推移していけば、50年くらいで人口は約3分の1は減るというものであります。2でしたら当然安定いたします。

(スライド13番)

ここを見ていただきますと、ほとんどすべて結婚の年齢パターン、つまりシングル化によって低下しています。マイナスとマイナスですので、有配偶出生率は、ピリオドですが、若干上がっております。ということは、少子化の要因はシングル化、未婚化ということです。

ここまで来ますと、置き換え水準がそれ以上くらいは確定した部分は産んでいるので、「じゃ結婚してもらえばいいじゃないか」ということがよく言われるのですけれども、そこは言えないのではないか。なぜかといいますと、この要因分解は統計的な処理であります。結婚しないと子供を産まない、では結婚をということになるのかというと、むしろ私が思いますのは、今の日本の女性はなぜ結婚するのか。一つの大きな理由が子供を欲しいということではないかと思うのです。では、どうして結婚しないか。一つの理由は、それほど子供が欲しくないということであるならば、むしろ結婚して子供を持つということが今の未婚化、シングル化に影響を与えている。つまり因果関係が逆になっている可能性もありまして、これは実際問題、大変難しいことであります。

ここまでお話をいたしました。もう一度おさらいをいたします。70年代半ば以降の少子化、この最大の要因はシングル化、未婚化です。では、これがどういうふうな要因で起こっているのかというお話を次にさせていただきたいと思います。

(スライド15番)

先ほど要因をと言いましたが、どれくらい未婚化しているかというお話で、線が引っ張ってあります。ちょうど75年くらいから少子化が始まっています。これは未婚者の割合ですけれども、ご注目いただきたいのは、25~29歳。ちなみにこれがわが国の出生力のピークです。産み盛りのピークです。そして30~34歳、20代から30代前半が出生率に一番大きな影響を与えます。見ていただきますと、25~29歳の未婚者割合、75年21%、それが2000年で54%です。半分も結婚しておりません。20代前半になりますと、もっとそうなのですが、30代の前半、約8%だったものが、今、27%です。3割です。これは全国平均でございます。すごいことです。ちなみに30代の後半も急激に上がってきています。そして50歳時の未婚者割合、実はこれをもって生涯未婚率と呼んでおります。あとでお話しいたしますが、2000年で約6%です。

このSMAMというのは人口静態によるところの平均初婚年齢です。皆さんがよくお聞きになる人口動態の平均初婚年齢というのは、結婚した人、婚姻届けを出した人の情報から直接計算されているもので、初婚年齢は結婚しないとないわけですが、では、ずっと結婚しない人はどうなるのかという問題が出てまいります。半分結婚しなかったらどうするのか。その人たちも未婚では生きているわけですよね。初婚年齢の平均値ということは、その集団が未婚で生きた平均の年数です。急激に進行している非婚化を考慮に入れたものが、最後に出ているSMAMと呼んでいるものです。ちなみに動態の平均初婚年齢との乖離が年々大きくなってきています、ここのところ。なぜか生涯未婚が増えているからです。当然、こちらのほうが高いです。

(スライド16番)

女性の話が出生率には直接問題なのですが、結婚はツー・セックス・プロブレム(男女の問題)ですので、男性のほうも見ていただきたいと思います。見ておわかりのように、実は30代前半のわが国の男性の未婚の割合、75年、14%でありましたものが、今、43%未婚です。30代の後半でも4人に1人強です。見ていただきますと凄まじい変化であります。わが国は伝統的に早婚ではありません、ほかのアジアの国のように。ただ、皆婚(ユニバーサル・マリッジ)です。みんな結婚していたのですが、その伝統パターンが急激に崩れています。

先ほどちょっと女性のところで言い忘れましたが、実は75年まで、わが国の女性の結婚の年齢パターンはほとんど変化していません。50年から55年はちょっと変わりましたが、75年を境に急激なシングル化が始まっていることはおわかりになりますでしょうか。ただ、男性のほうはシングル化がもっと急速であります。生涯未婚率、前は2%。ほぼ全員結婚していたのですが、今、13%であります。もちろん、50歳を過ぎて老いらくの恋を実らせて結婚なさる方もいらっしゃると思うのですが、この人たち、このまま高齢になっていきましたら、本当に高齢になると支える家族を持たない。女性もそうですが、特に男性。すみません(笑)。そうするとこれは、国家が何らかの形で扶養、お金だけではなくて、ケア、介護をしていかなくてはならない。今の状態でも7人に1人くらいです。ただ、これではおさまりません。

私の学生、大変男子が多いのですけれども、よく言っております。お婿に行くためには今から頑張っておけ、と。女性よりも状況は非常に厳しいです。少子化というのは何かというと、年々生まれてくる子供の数が減っていくことです。当然ですが。そして生まれてきたときに、性比というのがありまして、セックスレシオと呼んでおります。女の子100人に対して男の子は104 ~107人ぐらい通常生まれてまいります。昔は男の子のほうがたくさん赤ちゃんのときに死にましたので、結婚適齢期になると大体100・100でバランスをとっていたのですが、最近、死にませんので、そのままアンバランスが上に持ち上がります。そして、女性が全員同い年の人と結婚しても、男性は100人につき7人くらい余るわけですが、平均初婚年齢の差、男女で大体3歳です、ここのところ。ということは、男性は大体3、4歳下の女性を。出生率はずっと減っております。ということは、もっと少ない。非常に状況は不利であります(笑)。ですから、間口を大きくしまして……これ、冗談ではなく、平均寿命の差などを考えましても、男性は結婚したければ、少なくても6、7歳上の女性をねらうのがよろしいのではないかと思います。結婚しないということもあると思いますが、男性の場合は、できないということもあるということです。これは人口学用語でマリッジ・スクイーズと呼んでおります(笑)。すみません、脱線しました。次にいきたいと思います。

(スライド17番)

初婚率を出してみました。分子が初婚の数、分母がその年齢の未婚者の数です。ここで見ていただきますと、日本の女性の結婚の年齢パターンは20代の半ばくらいにピークがあります。おわかりになりますでしょうか。ただ問題は、そのピークがザーッと下がってきているということです。

(スライド18番)

日本の男性ですが、女性と違いまして、台形。2つ山があるのですが、それをそのままにして、非常に急激に下がって、そのうちにこの山はなくなってしまうのではないかと心配しております。そういうことはないとは思いますが、これくらい下がっているということです、ビジュアルに。

(スライド20番)

ここまで、どれくらい未婚化が進んでいるかというお話をいたしました。では、なぜ未婚化が進んでいるのかということについてお話をしたいと思います。未婚化というと、すぐ言うのは、「ああ、高学歴化」。だから、そこからいきたいと思います。これ、実は学歴別の男女の進学率です。上の点線は高校への進学です。ご覧になっておわかりのように、高校というのは事実上ほぼ義務教育化している。ただ、ご注目いただきたいのは下のほうです。特に四年制の大学への進学率であります。男女ともそれほど大きくパターンが違うわけではないのですが、75年から少子化は始まっていますが、70年くらいから女性の進学率が急激に上がっているのがおわかりになりますでしょうか。そして、80年代の後半からまた次に勢いをつけて上がっています。ここははっきりおわかりになりにくいかもしれませんが、近年、この男女差は縮まってきています。ちなみに短大と大学を足しますと、女性のほうが進学率はうんと高いです。

(スライド21番)

先ほどは、進学率というある意味アドバンスメント・レートです。動態ですが、今度は人口の静態、属性としてどれくらい……俗に言う高等教育です。ハイアー・エデュケーションと英語で申しますが、短大、大学、高等教育機関。在学というのはなぜかというと、20代前半の人はまだ学校に行ってますので、在学しているか、もしくは卒業した者、非常に高学歴の人と定義をいたしますと、どれくらいか。女性を出してみました。出生率のピークのこの3つの年齢層であります。凄まじい勢いでの高学歴化がおわかりになりますでしょうか。70年代の半ばから少子化が始まっているのですが、実は、60年もそうですが、70年から80年への変化、すごいものであります。

あとでお話ししますが、先進国でも女性の高学歴化は起こっています。水準としてはもちろんアメリカなどにはまだ及ばないわけですけれども、このスピードはすごいです。そして、不景気、その他、経済的な変動にもかかわらず、ずっとここのところ上がっているということであります。今やこの産み盛りの女性たち、非常に高学歴であります。

(スライド22番)

学校へ行くだけではなくて、卒業したあとの就職率です。最近、非常にフリーターが多くなっております。就職というのは、学校を卒業したあと1年以内に正規の雇用に就いた者ですので、フリーター、その他、入っておりません。

ただ、ここでご注目いただきたいのは大卒です。特に最近、90年代バブル崩壊以降、景気が悪くて就職氷河期などと言うわけですが、男女ともそんなに大きくパターンが違っているわけではないということです。そして、最近はむしろ女性のほうがよいくらいです。昔は--昔と言いましても60年代、70年代、80年代に入る頃までは非常に大きな就職率の男女差があったのがおわかりになりますでしょうか。

(スライド23番)

先ほどは就職率でした。今度は、年齢別に見た労働力率。つまり、実際就業している人と、就業していないけれども職を探している人、この割合です。年齢別に出してみましたが、70年代の半ば、71年、76年、70年代を底にしまして、20代の後半と30代の前半--30代後半もそうですが、すごく上がっているのがわかりますでしょうか。労働力率は、20代前半は昔からわが国は高いのですが、20代後半、30代前半、これだけ上がっております。一つはシングル化ですが、結婚している女性も、30代後半を見ていただくとおわかりのように、就業率、そして職を探している率、上がってきているということです。

(スライド24番)

働くというのはいろいろな理由があると思うのですが、一つ大切なのは、金銭的なリウォード(報酬)であります。ここは一応新規学卒者の初任給の男女比です。これは正規の雇用を得た人だけが対象になっているわけですけれども、パッと見ておわかりのように、全部、男性100としたときの女性の初任給です。90を超えています。これは先進国の中でもおそらく最高ではないかと思います。アメリカでも70から80くらいというふうにお考えください。

そしてもう一つの注目点は、学歴が高いほど男女差がないということがおわかりになりますでしょうか。特に技術系の大学を卒業した新規学卒者、ほとんど給料に差がありません。やめませんね、これだけいいと。すみません。次です。

(スライド25番)

これは学校を出て就職したところですけれども、そのあとの話です。これ、出し方は非常に難しいのですが、標準労働者。つまり、学校を出てすぐに正規の雇用を得て、同じ事業所にずっと勤めている人を標準労働者とここで呼んでおります。転職したり結婚で辞めたりした人は入っておりません。その場合の男100にしたときの平均給与額です。賞与とかその他は入っておりませんが、給与です。

これを見ていただくとおわかりのように、当然、男女差は開いてはくるわけですが、高学歴の女性、開き方が少ないのはおわかりになりますでしょうか。8割とか9割とか、これはかなりいいと思います。よく平均給与で、男性100としたとき女性は40。それは当然です。パートの方とかいろいろな方がいらっしゃいますので。ただ、ずっと勤め続ければこのようなものであります。

(スライド26番)

もう一つ、最後にまとめる前に、今まで、社会的、経済的--特に経済的なお話をいたしましたが、価値観のこともちょっとここで触れたいと思います。時間がないので簡単にいたします。94年と2000年しかなくて、すみません。同じ質問をしていないと比べられないので。「女は結婚しなくても充実した人生を送ることができる」という意見に賛成しているパーセンテージです。見ていただくとおわかりのように、別に結婚しなくても人生充実できるのではないかという人であります。やはり若いところで高い。そして男女差を見ていただきますと、女性のほうが高い。わずか6年ですけれども、かなりなものがあります。特に女性の変化が大きいです。全体を見ますと、20~49歳の女性ですけれども、半分くらいは……。結婚しなくていいと言っているのではないですよ。充実した人生を結婚しないと送れない、というふうには考えていないようであります。

(スライド27番)

次です。同じ質問を男の人について、「男は結婚しなくても充実した人生を送ることができる」と男女に聞いております。見ていただくとおわかりのように、全体として「女は…」よりもうんと低いのがおわかりになりますでしょうか。そして男女差が、回答者の性別によってほとんど差がありません。男女とも、「男は結婚したほうが充実するためにはいいんじゃないの」と、日本人は思っているようであります。

(スライド29番)

次に行きます。今までお話しした、わが国の少子化の最大の要因であるところの未婚化、その間接的な理由、要因、社会経済的なものですが、一つは高学歴化です。絶対値でもそうですけれども、男女を比較した相対でもそうです。女性は高学歴化しております。もう一つは雇用の長期化です。特にわが国の産業構造の変化から見て、これは雇用労働力化です。家の外に出てお金を稼ぐ。そしてその稼いだお金、earning power ですけれども、これも上昇しております。特に高学歴の女性ほどこのearning power の上昇度は高いです。目減りが少ないと言ってもいいと思います。

プラス、結婚をめぐる価値観、社会通念は変化しています。どのように変化しているか。非伝統的な部分、方向に変化していまして、特に女性の意識の変化が男性よりも急激です。男性も変わっております。でも、女性の変化のほうがはるかに急激であり、そして女性にとっての結婚、男性と比べて、それほど充実したハッピーな人生を送ることに必要なのかと、否定的な意見の割合は高いように思います。

(スライド31番)

では、次に行きます。もう一つの要因、簡単にさせていただきたいと思うのですが、結婚している女性の出生率です。あまり変わっていないと言いましたが、実はちょっと変わってきております。結婚持続期間別に見ています。これは結婚して5年未満の方です。だから、まだこれから子供を産む可能性があります。15~49歳までの結婚している女性ですが、ここを見ていただきますと、ちょっと減ってきていますけれども、あまり大きな変化はありません。

(スライド32番)

ただ、次です。5~9年(5年以上10年未満)。これを見ていただきますと、90年代の後半、低下してきているのがおわかりになりますでしょうか。0.2 ~0.3、これでも実は大きいのであります、この低下。最近です。1人っ子が増えてきまして、2人、3人、ちょっと減っております。もうここら辺で確定するかなと。ここら辺が一番大切だと私は思います。もっと経っている人たちを見ますと、それほどはっきりはしていません。ただ、この人たちはもうかなり前に子供を産んでいる人たちです。だから、これを見ると、減ってきているらしい……減ってきていると思います。

そうしますと、先ほどピリオドで見ましたが、これはある意味結婚コーホートで見ているわけです。急激なシングル化が進行していますし、要因はあとで申し上げますが、やむ気配はありません。プラス、今まで比較的頑張っておりました有配偶出生率もどうやら低下してきているようです。ダブルパンチです。

(スライド34番)

今までは実際に産んだ子供の数ですが、予定です。intended number of children です。これぐらいは産みたい。これをパッと見ると、「置き換え水準よりちょっと高い、優秀」という感じですけれども、最近、予定子供数も下がってきております。

(スライド35番)

理想子供数。理想というのは、何にとって理想なのかというので難しい指標なのですが、「自分たち夫婦にとっての理想」というふうにお考えいただければ、予定よりもかなり高いです。0.3 から0.5 ぐらい。これ、大きいと思います。この差は何なのか。おそらく子育てにまつわるさまざまなコストやプレッシャーだろうと思います。それがなければこれくらいは産みたいな、それが理想だな、ということでしょうか。その0.3 から0.5 くらい埋められれば、もう少し出生力も上向く。無理やり産んでいただくわけにはいかないわけですが、産んでもいい、できれば産みたいと思っている人たちの潜在的な需要をくみ取ることはできるのではないかなと思います。

(スライド36番)

先ほど、いろいろなコストと申しました。なかなかいい指標がないので、申し訳ありません。ただ、これを見つけましたので、ここでご披露いたします。「子供を育てる上で何が大変か」ということへの回答のパーセンテージ分布です。2つまでの複数回答が認められていますので、足し上げると100以上になってしまうのですが、見ていただくとおわかりのように、「教育にお金がかかる」。これは学校に納めるお金というよりも、塾、大学の進学、その他、いろいろなことだと思います。プラス、「しつけや進学にまつわる気苦労」。お母さんです、これ。そしてもう一つご注目いただきたいのは、「特に大変なことはない」、この割合、急激に低下しています。このあと同じ質問をしていないものですから比べられないのですが、最近のいろいろなデータを見ますと、おそらくこれはもっと減っているのではないかと思います。

(スライド37番)

まとめますと、有配偶出生率、最近減っていると思います。おおよそ置き換え水準ですけれども、特に最近結婚して5年から10年くらいの夫婦、確定しているとすれば、本当に減っていると思います。なぜなのか。いろいろな理由はあると思いますが、非常に大きな理由の一つが、先ほど予定子供数、理想子供数のお話を申し上げましたが、物心両面での子育ての負担感、特にお母さんが感じているところの負担感というものがあるのではないかと思います。

(スライド39番)

時間がないので、ちょっと飛ばしたいと思うのですが、外国との比較をしてほしいということでやらせていただきます。少子化は日本だけではないのです。60年代半ばから70年代にかけて、先進国と呼ばれる国で一斉に出生率は低下を始めました。そして70年代から80年代にかけて置き換え水準を割り込んでいます。

ただ、80年代半ば以降、先進国間で差が出ています。誤解を恐れずに申しますと、前者を勝ち組、後者を負け組。ちなみにわが国は疑うことなく負け組の一員でありますが、ここに出ているのは負け組の中の一部です、すみません。あまりやってしまいますと、ごしゃごしゃになって見えなくなるものですから。日本は70年代半ばですが、スペイン、イタリア、ドイツ語圏と呼ばれる国ですけれども、特に最近のところをご注目ください。90年代くらいのところからすべて1.5 を割り込んで、それもかなり低いところです。増加の兆しを見せておりません。

(スライド40番)

勝ち組です。北欧、北米、そしてイギリスとフランスです。アングロサクソン圏ですので、ほかにもオセアニアの国なども入ってくるのですが、下がったあと回復もしくは比較的高位で安定--高位というのは比較の問題ですので、TFRにして1.7 から1.8 ぐらいで安定しています。ですから、90年くらいのところを見ていただきますと、すべて1.5 の上にあるのがおわかりでしょうか。アメリカはずっと置き換え水準です。ですから人口が減らないのです。この差はなぜなのか、ちょっと考えてみたいと思うのですけれども……。

(スライド42番)

次、お願いします。先ほど、私がシングル化のところでわが国についてお話をしました、高学歴化、雇用労働力化、結婚・家族をめぐる伝統的価値観、女性の伝統的役割、すべてわが国と同じように変化しております。タイミングや度合いは違いますよ。ただ、平たく言えば、女性の社会的地位の上昇というのはすべての国で見られます。なのに、なぜこれだけの差が出てきているのかということです。

(スライド43番)

高学歴化、雇用労働力化、価値観の変化、これすべて、経済学的に考えれば、女性の結婚、出産、子育てをめぐる機会コスト(オポチュニティ・コスト)を押し上げるわけですね。ですから、そのままであるならば出生率は当然下がります。わが国も下がっております。これは70年の先進国のTFRと女性の労働力率をプロットしてみました。大体見ておわかりになると思うのですが、右肩下がりです。マイナスの相関があります。これは私たちが期待するものであります。出生率が高いほど労働力率は低い、労働力率が高いほど出生率は低いということです。

(スライド44番)

すみません、95年というのを直してください。2000年です。これは先ほどと同じ図ですが、右肩上がりです。女性の労働力率が高ければ高いほど出生率も高いのであります。何でだ? ということです。一言で申し上げるならば、女性の社会的地位の上昇によって上がる一方の出産、結婚、子育てをめぐる女性の機会コストの軽減に、成功したか否かであります。

(スライド45番)

コストの軽減と申しましたが、機会コストゼロには絶対になりません。やろうと思えば莫大な費用がかかりますし、女性も、ゼロにしてほしいなんてことを望んではいないと思います。ただ、非常に高いのか、それを社会が軽減してあげられるのかということが大きな意味を持ってきているのではないかと思います。わが国をはじめとして南欧、ドイツ語圏、社会的な地位の向上が出生率を低下・低迷させ続けている状況。その一方で、向上と、出生率の回復もしくは高位安定の両立に成功している国もあるわけです。ちなみに北欧の国を見てみますと、70年代、80年代の前半くらいまでは今の日本と同じような状況でした。女性の社会進出が進みまして出生率は下がってきていたのです。その転換に成功したということです。

(スライド46番)

では、少子化はいつまで続くのかというお話と、先ほどのお話のまとめを一遍にさせていただきたいと思うのですが、わが国の少子化、今後しばらくは続くと思います。しばらく、どれくらいだ? と言われると、私もちょっと弱ってしまうのですが、根拠をお話しいたします。

1つは、今、私たちが見ているシングル化、未婚化、急激ですが、やむ気配がありません。もう1つは、わが国の出産、子育て、すべて、依然結婚に規定されているということです。結婚しなければ子供を産まない。先ほど勝ち組と言いましたが、出生率が回復もしくは高位安定した国、それと同時に--というとちょっと語弊がありますけれども、急激に婚外出生率が増えています。北欧の国では4割から半分くらいが婚外出生です。ただ、わが国が考えるような私生児とか非嫡出子という概念はありません。親が法的に結婚していようが、していまいが、子供がそれによって不利益を被ることは全くと言っていいほどありません。ちなみにほかの負け組の国でも、イタリアで大体1割が婚外出生、ドイツで15%くらいが婚外出生、アメリカで3割です。

決して結婚しないで子供を産めとここで言うつもりはないのですが、ただ、出産、家族形成が、法的な結婚というものから解き放たれたことが、出生率の回復とかかわっていたというのは確かだと思います。ですから、結婚もいいのですが、いろいろな形でのパートナーシップがあり、そういう柔軟な多様なパートナーシップを社会が受け入れることができているということが言えるのではないかと思います。

最後に、根拠の3です。夫婦出生力も低下してきています。では、どうするのか。先ほど申しました、回復・高位安定組を見てみますと、一つ言えるのは、家庭内ジェンダー関係が日本に比べてうんと平等です。全く平等な国はこの地球には存在しませんし、今までも存在しておりません。男女全く平等。ただ、男性が家事の10分の1もしない国と、3分の1くらいはやってくれるのでは、全くこれは違うと私は思います。ちなみにアメリカなどは60年代半ば、今の日本と同じような感じでしたけれども、その後30年間で、男性の家事、家庭生活、育児への参加は急激に伸びています。一つは、より平等な家庭内ジェンダー関係を。そうすれば、結婚は特に女性にとって今よりもうんとアピーリングになるであろうと思います。これ、毎日毎日の生活であります。

もう一つは、いやがる男の人を、テレビ見てビールを飲んでいる旦那さんを無理やりキッチンに引っ張ってきて、「さあ、あんた、やりなさい」といきなり言っても、あまり効果はないであろうと思います。

もう一つは、社会が支援をする。特に政策的な支援。必ずしも政策とは言わなくてもいいのですが、政策的な支援をしていくことが大切であろうと思います。ちなみに北欧は両方あるわけですが、後者の政策的な支援、包括的に、コンシスタントにずっとやっております。この2つ、必要になってくるかと思います。

政策的支援についてちょっと申し上げますと、家族政策、例えば保育政策ですとか、児童手当て、それだけではだめで、労働政策、雇用政策をよりファミリー・フレンドリーにして総合的にやっていかないと、出生力は落ちる一方ですので、少なくともこの低下をくい止めることはできないであろうと思います。パイは小さくなってきておりますので、やはり効率よく、できれば省庁の垣根を取り払い考えていかなくてはならないと思います。

(スライド47番)

もうあまり時間はありません。最後に一つだけ言わせてください。コーホートのお話をいたしました。誤解がまかり通っているようですので、言わせてください。1.32、2002年のわが国のピリオドTFR。それをもって、この将来推計……先ほどからずいぶんとデータが出ております。一番新しい平成14年推計の中位仮定、目標コーホートのコーホートTFR1.39と混同しているように思います。これは何かといいますと、1985年に生まれた女性、つまり2000年で15歳だった女性が50歳になったとき、2035年ですね。そのときに平均1.39人になるだろうという将来の設定値、仮定値です。今ある実際の値を使えれば全く問題はないのですが、そう簡単には事は運びません。

もう一つ、ここでご注目いただきたいのは生涯未婚率です。先ほど申しましたが、6%弱だったのですが、中位仮定でも17%くらいに2035年にはなるであろうというふうに推計されています。ちなみに1.39というのは、ずっと推移していきますと、3割の人口減ですので、大変に低い値であります。まだこれでも高いという声をいっぱい聞くのですが、その根拠は2002年が1.32、違うものであります。

(スライド50番)

飛ばしまして、最後に一つだけ。ここは全部お話になりましたので、もうやめたいと思いますが、こうなってきますとよく聞かれる議論に、移民を連れてくればいいではないか、来ていただきましょうということですが、移民にはいろいろな理由があると思います。労働市場、グローバル化経済が進んでいますので、労働力の補完という形で優秀な人材が日本に来て働いていただく。そして、彼らにもいろいろな機会を与えるというのはいいのですが、今ここで議論されている少子化ですとか、人口高齢化を是正もしくは緩和するために人に来てもらおうという議論、一言で申し上げますと、無理だと思います。

これ、国連が試算をしています。補充移民と申します。つまり、人口の年齢構造の変化や規模を是正もしくは緩和するための移民、replacement migration です。ちょっと日本を見てください。2000年のわが国の人口規模を維持しようとすれば、2050年までの毎年約34万人の移民が必要です。これ、純移民です。出入りの差です。生産年齢人口、15~64歳のこの規模を維持するためには65万人、毎年です。ネットです。潜在扶養指数というのは何かといいますと、生産年齢人口と老年人口の比です。2000年の状態をこれから維持していこうと思いますと、毎年約1千万人のネットで移民が必要になります。ですから、人口高齢化及び少子化という意味からの移民はとても実現できないものであるということです。

以上で、お話を終わらせていただきます。長くなりました。申し訳ございませんでした。

石小委員長

どうもありがとうございました。大変詳細に、かつ明快にご説明いただきまして、ありがとうございました。

やはりこれは、男として聞いていますと、ため息が出ますなあ。いろいろご感想がほかの委員の方からも出ると思います。加藤先生の前に津谷先生に対して質問したいという方がいらっしゃると思いますから、若干時間をとりましょう。

どうぞ、ご質問。

出口特別委員

総会の席で一度申し上げたことがあるのですが、TFRはデモグラフィーを考える上ではすごく役に立つ数字だと思いますけれども、人口減少をより直観的にあらわすにはやはり純再生産率のほうがいいのではないか、政策を考えるときにはこれを出したほうがいいのではないかなというのが一点です。

質問は、セックスレシオが104 から107 という数字を聞いて、ある意味で非常にびっくりしました。107 とか106 の場合はいいのですが、104 という数字がもし本当だとすると、今、魚とかも実は環境ホルモンその他で雌化しておりまして……あまりこれ、変なふうに考えないほうがいいと思うのですけれども、その辺の生物学的な要因というのは考えられるものなのでしょうか。

津谷教授

ネットリプロダクションレートを使ったほうが……もちろんそれが出ておりましたら、掛け算ですので、NRRが0.7 でしたら3割減る。直観的にそのとおりなのですが、このNRRを計算する場合に、生まれてきた子供の性比だけではなくて、平均余命、生命表から計算されます死亡の年齢別の確率というものが必要になります。ですから、それを出してもよろしいのですが、それが必要になってまいりますので、同じことは同じことなのですが、ただ、なぜTFRでここで特にあらわしたかと申しますと、もうTFRが2とかいう社会では、死亡による生まれてから大人になるまでの目減りがほとんどないんですね。ですから、単純に2では割れません。もう少し大きいのです、なぜか男の子が余分に生まれるから。ただ、半分に割っていただいてちょっと引けば、大体NRRは出てきます。ただ、わが国は1920年以降、NRRはすべてありますので、それは見ていただけるかと思います。ご指摘ありがとうございます。

2番目の点の出生時の性比ですが、これ、通常の場合です。実際に今までのデータ、小さな地理的なエリアですとか、小さな数はだめですが、かなり大きな人口ですと、女の子が100人に対して男の子が104 ~107 。この差がそんなに大きな意味を持っていると私は実は思いませんで、大体平均をとると5、6人、100人に対して男の子が余分ということで、生物学的な根拠があるか、ちょっとこれはわかりません。神のみぞ知りたもう、何でちょっと余分なのか。

ただ、すみません、この性比ですが、これ、普通にした場合です。ですから、例えば一人っ子政策をやっております中国で、都市部、特に大変締めつけがきつかったりしたのですけれども、今、妊娠中に胎児の性別がある程度判別できますと、女の子だと中絶をする--ということなんかになりますと、性比120とか130とかになってまいります。そうなってくると、これは逆の意味で問題だと思います。ただ、男の子のほうがまだたくさん生まれているわけですので、107が104 になれば問題かということは、人口的にはそれほど私は問題ではないと思います。むしろ出生率の恒常的な低下というものが、先ほど申しましたマリッジスクイーズを生み出していることは問題であるというふうに考えます。お答えになりましたでしょうか。

石小委員長

ありがとうございました。ほかにございますか。

では、どうぞ。

岩専門委員

勝ち組、負け組の話がありましたけれども、勝ち組の中で、アメリカと北欧は、我々日本人というか、日本から考えてちょっと異質かなと思うわけですね。伝統社会が多少あるという意味では大陸欧州と比べたほうがいいかなと思うのですが、その中でドイツ、イタリアは負け組でしょう。フランスが勝ち組に入っていますね。政策なり社会的な環境なり、あまり変わらないのではないかと思うのだけど、なぜこんなに勝ち負けが出たのですか。

津谷教授

ありがとうございます。大変いい質問をしていただきました。私、言い忘れたというか、時間がなくて言わなかった。最大の大きな差は何なのか。もちろんドイツもイタリアもスペインもヨーロッパの国ですので、大まかに言いましたら、文化的な伝統はわが国とは違います。ただ、ほかのNIESのアジアの国もわが国と同じような状態で、それがイギリスやフランスや北欧や北米とどう違うのか。最大の差は、家族文化的な面から見た場合に、勝ち組のほうは、誤解を恐れずに言いますと、個人主義の国であります、インディビジュアリズムの伝統を持った。それに対してイタリアもスペインも日本も、そしてドイツも、内容は違いますし、その性質も違いますが、大まかに言って伝統的に家族主義の国なのです。ファミリズムと申します。ファミリズム、定義はいろいろあると思いますが、大まかに言いまして--すみません、大まかで--個人の利害よりも集団、家族の利害が優先するということだと思います。伝統的にですよ。今がそうと言うのではありません。当然、家制度というのはその最たるものであります。これは戦後、法制度としては解体いたしましたし、社会制度としてはないわけですが、我々の意識、この社会に非常に大きな根強い影響を持っていると思います、特に結婚や家族の面において。

そうすると、非常に家族主義の伝統があって、家族というものの持つ意味の縛りが強い社会で、女性が高学歴化して、雇用労働力化して、社会的な地位が上がっていくと、どうなるのか。結婚によるコストは非常に高くなるわけですね。もし、結婚がノーチョイス、「当然みんなするべきこと」ということであるならば別ですが、昔は経済的社会的必然であった女性にとっての結婚が、選択の対象になってきましたら、当然、これは結婚ということをしなくなってくる。インディビジュアリズムの国もそれほど美化するつもりはないのですが、個人主義--家族というものはその個人のウェルフェア、ウェルビーイングのためにあるということであるならば、一つ、比較的変化が容易。特に女性の伝統的な役割、ジェンダー役割をめぐる意識や実際の行動の変化が容易に起こる。

ただ、家族主義の伝統のある国、これは非常に縛りつけが強いです。ですから、一方で高学歴化し、雇用労働化し、経済力を持っていながら、家族は大変伝統的な色彩を色濃く残すという状態が今出てきていて、俗に言うところの社会進出が、もう一方の家族や結婚が変わらないものですから、この対比が非常に大きくなってきているということなのではないかと思います。ですから、先ほどの逆転した国と、しなかった国--私、文化決定論を採りたくないのですが、文化的な背景の違いというのは決してあだやおろそかにするわけではありません。では、変えられないのかという話になりますので、またそれは……。

石小委員長

まだおありかと思いますが、次にまだお1人いらっしゃいますので、そちらに移らせていただきます。もし時間ありましたら、また津谷先生のほうに質問を寄せてください。

次のスピーカー、加藤さんでありまして、国立社会保障・人口問題研究所で社会保障基礎理論研究部第1室長をされて、人口学のマクロ的な側面でのさまざまなご研究、そして、それを経済分析、財政分析にも応用されていると伺っております。

では、加藤さん、お待たせいたしました。よろしくお願いします。

加藤室長

加藤と申します。よろしくお願いいたします。私も、パワーポイントを使ってお話しさせていただきたいと思います。

(スライド2番)

報告の構成ですが、大きく分けて1番と2番とあります。1番は、人口減少社会がどういうような社会なのか。人口が経済社会にどう影響を与えていくのか、という観点からのものの見方です。2番目、少子化への対応ということで、これは、逆に経済や社会が人口にどういうふうに働きかけていけば少子化に対応できるのかという問題であります。

津谷先生が最初に言われたのですが、私は人口研にいるのですが、バックグラウンドは経済ですので、経済と社会の面から人口を考えていきたいと思います。

(スライド3番)

最初に「人口減少社会の萌芽」ということで、幾つかお話をさせていただきたいと思います。長い戦後の時期を見ていくと、構造変化というものを見ていく必要があるのではないか。その中で一番重要なのは、石油危機というのが1973年に起きたわけです。経済の場合ですと、そこら辺から構造変化が起きたというふうに考えているのですが、実はその時点、先ほど津谷先生からも話があったのですが、人口でも大きな変化がありました。ここら辺ちょっとだぶりますので、次のを見ていただきたいのですが、(スライド4番)

これは置換比率(Replacement Ratio )、先ほど津谷先生は「置き換え水準」というふうにおっしゃっていました。言葉が統一されなくて申し訳ないのですが、ちょうど1974年以降2.08を割り込みまして人口が減少してきた。この1974年をもって少子化が始まったというふうに考えることができるのではないだろうか。

その意味では、経済でここら辺で石油ショックがあり、人口でもこの段階で大きな今までと違う構造変化が起きている。あとでまたお話をさせていただきたいのですが、このあたり「福祉元年」というのがありまして、社会保障、あるいは財政の面から見ても大きく変わった時期でもあります。つまり70年代真ん中というのは、石油ショックだけではなくて、さまざまな構造変化の萌芽があったわけです。ただ、人口学者--私はまだ人口学者ではなかったのですけれども、その当時を見てみますと、人口が減少する、少子化が起きるなどということは考えてもいなくて、これ以上人口が増えたらどうするのだ? ということが一番大きな観点だったわけですが、実は足元では少子化が始まっていたというのが最初にあるのではないかと思います。

(スライド5番)

これも今の話を振り返るということで、石油危機とバブル経済というのがございます。経済危機というのは大きな構造変化でありまして、74年、73年あたりに石油危機があり、そこで人口も大きく構造変化が起きた。そして「プラザ合意」という85年のところ。面白いことに、プラザ合意の前後で、ちょっとわかりづらいのですが、一番上に書いている線が出生率であります。ここのときに一時的に出生率はちょっと上向きの状況を見せたのですが、それからまた下がっていく。バブル経済以降はある意味一貫して低下している。人口だけではなくて、経済にも社会にも何らかの節目があるときに何らかの構造変化が起きているというのは、やはり考えていくべきではないかと思います。

(スライド6番)

これは労働市場です。これも面白い。74年くらいから、石油危機によって女性の労働市場への進出というのは変わってきたわけですが、急激に労働力率、女性の働く割合というのは増えてきたわけです。ところが、92年くらい、バブル経済が崩壊したところから、急に伸びてきた労働力率というのも少し落ち着きつつあるという状態であります。こういった節目節目を見て経済と人口の流れを考えていかなければいけない、というのが趣旨であります。

(スライド7番)

これはあとで見ていただければよろしいかとは思うのですけれども、経済成長率が約10年おきに見たときに大きく変わってくるということ。また、TFRの水準、これは期間の平均値ですが、あるいは物価上昇率、労働力率を見ても、各10年ごとによってずいぶん違ってきている。そこら辺を見ながら、次の10年を見ていくときには、過去の10年ではなくて構造変化を見ながら先のことを考えていかなければいけないというのが、我々がこういった状況から見ていくべき一つの教訓なのかなという感じがしています。

(スライド8番)

そういうことを見ていきますと、人口増加といったものを今まで考えてきて、それを所与として経済社会を考えてきた。先ほど佐藤課長からもお話がありましたが、人口増加社会が終わったのだということですね。年齢ヒエラルキーがあって、それを我々は一つの考え方、あるいは方針として、年齢ヒエラルキーの中で物事を考えていたわけですが、実はそういったものはすでに終わってしまった。では、その年齢ヒエラルキーに代わるものは一体何なのだろうかということは、よくよく考えてみると、それはいわゆる業績主義であり市場主義でありというような新しい概念になっていくわけです。つまりミクロでいったときに、会社というものを考えたときに、今まであったヒエラルキーがなくなって年功序列制がなくなったときに何があるかというと、功績主義であるとか、あるいは業績といったものを中心にしてものを考えていく。そういった大きな考え方の転換点というのがある。それに対して人口が非常に大きな影響を与えている、というふうに考えることができるのではないかということです。

(スライド9番)

さて、先ほど津谷先生からも紹介があったのですが、2050年には日本の人口は1億人になります。これはよく知られているのですが、次をちょっと見ていただきたいのです。

(スライド10番)

例えば出生率がこれから上がったらもとに戻るのか、ということですが、実はなかなかそういうわけにはいかないですね。2002年の合計特殊出生率は1.32であります。先ほど申し上げましたように、2.07であれば現在の人口を維持できるわけですから、では2.07に回復したら今の人口はどうなるのかということを見たのがこの計算値です。

以下、いろいろな将来の推計値や何か出てくるのですが、これは全部私の個人的な試算ですので、そこら辺ご留意していただきたいのですが、例えば今は2.32ですが、2050年で2.07に戻るとします。つまり、これから約50年かけて置き換え水準まで戻ったとします。そうすると日本の人口はどうなるかというと、1億人には全く戻らないのです。2050年になったときには、例えばこの段階では8,450万人くらいの水準に落ち着いてしまいます。それから、もしもっと早く、2030年までに出生率が2.07まで戻ったとしても、安定するのは9,000万人くらいです。さらに安定するのには、例えば2050年で戻ったとしても、それから80年くらいかかってやっと安定するのです。

なぜかといえば、新しく生まれた子供たちが2.07の水準で生まれてきたとします。その子たちがすべての世代を埋めなければ安定した人口はできてきません。したがいまして、人生80年と単純に考えれば、80年かかってやっと人口は安定する。しかも、今から一生懸命少子化対策をやって2.07に戻したとしても、日本の人口は1億人を割ることは確実であるということになります。もちろんもっと早く、明日から戻ればまた話は別ですけれども、そのような状態であることもわかっていただきたい。つまり、少子化対策は即効性というのはなかなかないのだということであります。

(スライド11番)

さて、人口減少社会を考えていくときにこれに対していろいろな見方があります。私もいろいろな見方を見させていただいたのですが、大きく分けて3つあると思います。1つは、ウェルカムだ、人口減少はいいことだということを言う方。2番目に、課題はあるけれども問題にするほどではない。3番目には、これは大変なことだ、積極的に何かやらなければいけないのだというような主張。いろいろあると思います。大きく分けると、何らかの手を打てば何とかなるのではないかということが言われています。「生産性の上昇?」と書いてあります。これはあとで話をさせていただいて、何かすれば何とかなるのではないか。ただし、何かやらなければだめだというのが一つの見方。もう一つ、楽観論ですが、その中で例えば経済が低下したとしても、1人当たり成長率は維持できればいいのではないかというような議論が幾つかあります。

(スライド12番)

最初に1人当たり成長率を見てみたいのですが、これから人口減少で経済がどうなっていくかわからない。その中で1人当たりの経済成長率、これはマクロの成長率から人口の増加率を引いたものですけれども、社人研の人口推計ですと、これから大体2050年まで人口は年平均で0.5%ぐらいで減っていきます。ということは、マクロで見た経済成長率が今後どのくらいになるか、これも私個人の試算ですが、2050年まで1~1.5%くらいではないだろうか。ということは、1人当たりで見ると0.5 ~1%くらい。何とかなるのではないかなという見方も出てくるわけです。つまり1人当たり成長率のことを考えると、人口減少が0.5%ですから、逆に言えば、経済が0.5%ずつシュリンクしていっても今と同じレベルの1人当たり成長率を維持できる。これがいいことなのかどうなのか難しい問題でありますが、そういった点もあるということです。

(スライド13番)

さて、人口減少に関しては楽観論と悲観論があるのですが、特に楽観論についていろいろ考えていて面白い問題が幾つかあります。例えば人口減少ウェルカムだという中には、世界の人口がこれだけ増えているのだから、減ったっていいではないかという考え方。あるいは1人当たり所得、先ほどの成長率の話ですね。あるいは、経済成長低下というのは環境問題にいいのだからそれもいいのではないか。通勤地獄とか受験戦争が緩和するから、これはウェルカムだ。年金は税で負担すれば問題はないから大丈夫だ。いろいろな一般的な見方があります。実はこれ、一つひとつ考えてみるとなかなか根拠が難しいところがあります。

例えば人口増といっても、先進国が世界に占める人口の割合というのは今は2割弱になっています。さらに、もし先進国が経済成長してしまうと、これは途上国に対するODAを含めて途上国援助が減少して、途上国に対しても迷惑をかける可能性がある。あるいは、もうちょっと面白いところで言えば、受験地獄や受験戦争を緩和するというのですが、人口が減れば、通勤電車が今まで8両編成が6両編成になってしまうわけですし、大学も今まであった大学の数が減ってくるだろう。つまり、今ある供給量が一定だとすれば人口減少はいいかもしれませんが、必ずしもそうとは限らない。そういったことを考えていくと、楽観論というのはそう簡単には志向できないのかなという感じがしています。

(スライド14番)

さて、人口減少と、その中で高齢社会ということも考えていかなければいけないわけですが、我々、高齢社会というと何となく悪そうなイメージがあります。何かグルーミーな感じがして、活力がない。しかし、よくよく考えてみると、小説にもありますように、人類は昔から不老不死の薬を探すとか、要するに長寿というのは人類の長年の夢なんですね。日本では、長年の夢というものをある意味世界に先駆けて実現した国であるということです。ですから、高齢社会ということを考えたときに、大変なことは大変だ、経済の面から言うと大変なんだけれども、引退を楽しみに待てる社会、あるいは元気な高齢者がNPOなどを通じた社会貢献を含めてそういった社会づくりを進めていく必要があるので、楽観論、悲観論、あるいは高齢社会がどうだということもいろいろあるのですが、単純に考えるのではなくて、しっかり考えていかないと、あまり思い込みや何かがあったらまずいのではないか、そういうような感があります。

(スライド15番)

今までは前置きでして、時間の関係もありますのでパッとやりたいのですが、では、人口減少は具体的に経済にどう影響してくるのかなということです。考えていくときに、まず労働力人口に対してどう影響するのか、経済学では供給面から考えるとき、労働力人口と資本ストックと技術進歩、このようなものから考えていきます。

(スライド16番)

以下の試算は、先ほど言いました個人的なモデルから試算したものですから、決してパブリックな数字ではないので、そこら辺はご留意いただきたい。ちょっと次をお願いします。

(スライド17番)

では、労働力人口、これからどうなるかということです。

(スライド18番)

これが労働力人口ですけれども、今までずっと増えてきています。今後、どういうふうに推移していくのかということです。人口も減少していくのだから労働力人口も減少していくというのは明らかではあるわけです。今、社人研の将来の推計があります。2050年、2100年まで、いろいろ推計が出ているわけですが、上の2つの線……この2つの線ですが、この線は、単純に社人研の推計を利用したときに、今の労働力の割合が変わらないとすればこれだけ労働力人口が減ってきますよと、そういう数字です。

ところが、よくよく考えてみると、労働力人口の年齢構成も変わってきます、中身も変わってきます。そうすると、日本の人口全体の減少以上に、こちらを見ていただきたいのですが、これは私がつくったモデルですし、これはほかの方々がやった仕事なのですが、実は人口の減少以上に労働力人口というのはもっと大幅に減っていくという見通しがあります。つまり、人口が減っていく以上に労働力人口は減っていくのではないかという危惧があります。

(スライド19番)

こういった中で、では何を活用していけばいいのか。例えば一つは女性の労働力を活用していこうという議論があります。女性の労働力については細かい話は資料集にもありますので、幾つか言いたいことだけ話をさせていただきますと、これから労働力人口は減ってくるから女性に頑張ってもらおうと。でも、今の女性労働力を単純に活用する--育児と就業環境の両立が可能なそういった整備がなくて、ただ単に女性を活用していくのでは、あとで出てくるのですけれども、実はこれは一層将来の労働力人口の減少をもたらす可能性があります。つまり、単純に数が減ってきたからといって女性を使う。何らかの就業環境の整備なしにそういうことをやってしまうと、さらに自分の首を締めてしまう可能性があるということを考えて活用していかなければいけないということがあります。

(スライド20番)

例えば、これから女性の労働力率がこれから上がるとします……ちょっと省略して、次をお願いします。

(スライド21番)

よく言われているのは、日本の場合、M字型という労働力率です。労働力率というのは、ある年齢層の女性のうち何人が働いているか、働く意思があるかということです。ちょっと見づらくて申し訳ないのですが、日本の場合、M字型をしていまして、20代前半まで高いのですが、それ以下は労働力率が下がってきます。こういった形で20代後半から30代前半にかけて労働力率が低下しまして、その結果、M字のような形が出てくるという特徴があります。先ほど津谷先生から、イタリアの出生率は低いですよということでしたが、イタリアの労働力率はスウェーデンに比べてそれほど高くはないですが、M字型はしていません。つまり、日本の一つの特徴なのです。日本の特徴の一つ、そのM字の部分というのがどうなっていくのだろうか。ここに対して我々は何らかの仕掛けをしていかなければいけないし、何らかの政策的な取扱いをしていかなければいけないというのがあります。

(スライド22番)

もう一つ、誤解というのがありまして、よく言われるのは、女性の労働力率が高くなってきたから出生率が下がってきたという議論がありますが、実はそんな単純なものではない。先ほど津谷先生もご示唆されていましたけれども、この両者の間にもう一つ大事な媒介変数というのがあります。これは、子供に対するコストという問題があるのです。例えば子供に対するコストの一つとしては女子の賃金があります。育児と就業が両立できなければその賃金分だけ自分は所得を失うわけですから、それにまさに機会コストと言われるものです。つまり、女性の賃金がどんどん高くなってくると、それをあきらめて子供を持とうとするインセンティブは減ってきます。したがって出生率は下がります。と同時に賃金水準は高くなってきますから、当然、労働しよう、働きたいという人は増えてくるわけです。その結果がこの出生率と合計特殊出生率のバッテンといいますか、相反する負の相関関係に見えるわけですが、ただ、よくよく考えてみると、その間にあるコストをしっかり分析して、女性にとってそれが機会コストではなくなる、つまり、ある意味機会コストを低減すると、一見負の関係に見えるものを改善して女性の労働力率が上昇すると同時に、出生率を上げることも可能なのではないかという議論も出てきます。これは最後に、これも試算ということで見ていただこうと思うのですが、そんなことを使ってやると日本の場合どうなるかというのもちょっと考えてみました。

(スライド23番)

もう一つ、労働力人口が減っていくと高齢者の問題が出てきます。時間の関係もありますので簡単にしますが、日本の高齢者というのは非常に労働力率は高いです。

(スライド24番)

日本の場合、65歳以上の方、男性ですが、2000年で34.1%。3人に1人は65歳以上の方でも働いています。韓国は日本より高いのですが、40%くらい。アメリカ、イタリア、ドイツに比べると非常に高い割合になっています。日本の高齢者の労働力率が高いのは一つの特徴だというふうに言われているのですが、実はその背景には、自営業の比率が高いという状態もございました。

ところが、自営業の比率というのはどんどん下がってきていまして、これだけ高い日本の65歳以上労働力率も、実は年々下がってきています。つまり、これから高齢者が増えてくるから高齢者を単純に活用しようと思っても、働きたいと思う高齢労働力も同じように増えてくるわけではないのだということを考えていくと、これにも幾つか難点があるだろうということになるわけです。

(スライド25番)

先ほど津谷先生が言及されておりました、Replacement Migration の問題。外国人を使ったらいいのではないかという問題、これもなかなか難しい。

(スライド26番)

そういうことを考えていくと、どうも労働力人口はこのまま単純に考えていくとうまくいくことができない。つまり、労働力人口を単に量的に増やすだけではうまくいかない。もう一つ我々が考えているのは、供給面から考えていくと資本ストックだろうと。これは計算の仕方によっていろいろ変わってくるわけですが、これは私の計算ですが、資本ストックと労働力と技術進歩が、経済の供給面から見てどういうふうに成長にコントリビューションしてきたかということです。見ていただくとわかるように、技術進歩というのは90年代に入るとちょっとマイナスになる。つまり成長の足を引っ張っていて、成長の足を引っ張っているのは何かというと、資本ストックの高さなんですね。つまり失われた90年代ということですが、成長率だけもっていくと、その成長率自体を左右している大きな要因は実は資本ストックです。資本ストックというのはご存じのように投資の結果として生まれてくるものです。貯蓄がなければ投資は生まれません。

(スライド27番)

では、資本ストックを生み出している貯蓄率はどうなっていくのかということです。これは、高齢化と非常に密接な関係があるだろうというふうによく言われております。

(スライド28番)

次を見ていただきたいのですが、次は、日本の貯蓄率がどういうふうに動いてきたかということです。残念ながら日本の場合、最近の国民経済計算の基準が変わっているものですから、最近の基準は別の線で書いてあるのですけれども、90年代以降くらいしか取れないのですが、それでも長期的に見ると低下している傾向が見えるのではないかと思います。

では、これがどの程度まで落ちていくのかということです。これは一つの試算ですが、現在、家計の貯蓄率はマクロで見ると6.6%くらいです。ちなみに1990年、今から10数年前は13.2%ありました。これが2050年では2%から3%くらいまで落ちていくのではないか。つまり、日本の国内から投資をする源泉というものが失われつつあるのではないかという危惧も出てくるわけです。そうなった場合どうすればいいかということなのですが、そうすると、外国からどうやって投資を呼び込むかという話になる。これはまた、いろいろな話の続きということになりますので、私のところはここまでにしていただいて、次に移らせていただきます。

(スライド29番)

技術進歩。これから考えていくときには技術進歩も大事だということになります。さて、生産性という見方でいただいても構わないのですが、技術の進歩が経済を引っ張っていくときに人口はどういうふうに影響されていくのだろうかという議論で、古典的な議論として、クズネッツとかサイモンとかいう方々が言っているのですが、人口の数が多ければ多いほど中に優れたイノベーターが多いだろうと。つまり、多くの人口があればあるほど集団を引っ張れる人たちがたくさん出てくるのだから、それはいいはずだ、というような議論もあります。

あるいはわが国における議論では、これは、数年前に経済企画庁とか、八代先生がやられているのですが、労働力人口の増加が低下していくと、省力化投資をしようということで技術進歩が進むというような研究の成果もあります。私は若干それと逆でして、今までの日本の経験からすると、どうも労働力人口の増加率が増えていくと技術進歩が止まるのではないか、そういうような危惧を持っています。今後、技術進歩がどうなっていくかというのは実は大きな問題でして……次をお願いします。

(スライド30番)

生産性上昇が、労働力人口や資本ストックが低下する分、それを補うだけあれば何とか日本経済も成長していくことができる。1人当たりで考えたとしても、1人当たりの豊かさというものを維持するためにはどうしても技術進歩は大事になってくるだろう、生産性上昇が大事だろう。そのために何をするべきか。それは人的な資本、つまり、その人の教育であるとか、能力であるとか、そういったことを高めていくのがこれからの日本の一つの大きな戦略になるはずだろうというふうに考えていきます。

またもう一つ重要な問題として、これから人口減少で、1人当たりで維持できたとしても全体のパイが小さくなってくる。そのパイが小さくなってくるとき、今度パイの争奪戦というのが出てくるわけですから、逆に、みんな能力を高めたい、教育をよくしていかなければいけない。ということは、みんなの中でやれる人とやれない人がいて、そういった能力の格差も出てくる可能性があるわけです。能力の格差ということを考えたときに、限られたパイの中でその分配をどうするのかという問題も出てくる。つまり、技術進歩や生産性上昇というのはこれから日本経済にとってなくてはならないことなんだけれども、その後の分配をどういうふうにして考えていかなければいけないかという問題も出てくることになります。

(スライド31番)

まとめの[1]ですが、人口減少下の日本経済としては、人口減少は、先ほど見ていただいたように、これから出生率が上がったとしても不可避である。労働力人口の減少、貯蓄率低下を通じて供給面から日本経済の影響を及ぼす。ただし、それを何とかうまくやっていくためには生産性の上昇がキーポイントになるということです。

(スライド32番)

では、人口減少が社会経済にどう影響を与えるかということですが、次、お願いします。

(スライド33番)

まず一つ考えられるのは、社会保障制度への影響ということであります。ここら辺は細かくやっていると時間がございませんので、見ていただくだけですが、現在、公的年金制度の改正ということが話題になっております。さらに医療保険や介護保険というのがあります。先ほど申し上げましたように、社会保障システムというのはある年齢ヒエラルキー、人口増加社会を前提としたシステムです。これがある意味問題点を突きつけられているわけです。

(スライド34番)

年齢によらない制度にするためにはどういうことをするべきかということで、さまざまな提案があります。その提案について一つ一つ述べるとまた大変なのですが、一つ大きいのは、積立制を考えていくべきではないかという問題があるわけです。日本の場合、それが可能かどうかという問題があります。さらに、最近話題になっているスウェーデンの年金制度をまねたらどうかというような提案もございます。これも非常に魅力ある提案かとは思うのですが、一つ考えていかなければいけないのは、スウェーデンと日本の制度を比較して検討するとき、よく研究者の場合、スウェーデンの制度がいい、いいというふうに言います。実はスウェーデンと日本の国力というのは全く違っていて、日本の場合とスウェーデンの場合、GDPで言うと大体20対1、人口で言うと14対1くらいの差があるわけです。ですから、スウェーデンの制度を単純に取り入れるというのも難しい。そこは何とか知恵を出していかなければいけないのかなという感想はございます。

(スライド35番)

また、人口減少というのは年齢ヒエラルキーが崩れてきます。そういう意味では世代間の公平性にもいろいろと影響してきます。

(スライド36番)

よくあるのは、年金ですと給付と負担の格差の問題というのがあって、あまり下世話な話はいけないのかもしれませんが、何年生まれだといいとか、何年生まれだともらえるけど、何年生まれだと、もらえない。さまざまな計算がされています。これは私がやった計算例ですが、一つの区切りがある。ちょうど1958年生まれ。それより前の世代の方は給付のほうが多いし、あとの方は負担が多い。

(スライド37番)

次をちょっと見ていただきたいのですが、これは実は麻生先生がやられたものですが、この場合も大体60年代前半くらい、60年ちょっと手前ぐらいなんですね。世代間の公平性を考えていくと、1958年くらいの世代が一つの転換点になっている。これは面白い傾向で、いろいろな方の研究を見ても大体ここら辺が一つのポイントになって、計算の仕方や何かは違うのですけれども、この世代より前か後かでという話も出てきます。その世代間の公平性というのは考えてみると非常に難しい問題で、どの時代でも世代間にとって公平性というのはあったわけですが、それをどういうふうに考えていくのかという問題があります。

(スライド38番)

経済の活力と需要という問題についてもさまざまな問題があります。少子化によって、今後、教育関連産業はだめになるのではないかとか、いろいろなことが言われます。

(スライド39番)

次を見ていただきたいのですが、例えば塾の産業というのがあって、少子化で塾がだめになってしまうのではないかということです。これは、四谷大塚という中学受験専門の進学教室なのですが、首都圏の中学を受験する小学生の割合が年々増えています。現在14.7%で、中学受験の塾というのは今すごい盛んになっています。子供の数は減っているのですが、1人当たりにかけるお金の量というのはハンパではなくて、年間100万円くらいが相場でありまして、4年生くらいから塾にやらされますと、中学受験のために300~400万円かかるというのは当然の状態になっています。そんなことで、少子化が起きたからといって単純にどの産業がだめになるということでもないという問題もあります。

(スライド40番)

少子化がもたらす社会面への影響ということで幾つか述べています。これは津谷先生のところで幾つか示唆がありましたけれども、この中で重要なところだけ申し上げますと、一つは、地域の問題というのは出てくるわけです。日本全国一様に高齢化し人口減少していくわけではなくて、地域ごとに全く違ってきます。過疎地域とそうではない地域というのは分かれてくるわけですから、もちろん財政需要とかいろいろなことを考えてきたときに、地域ごとにどうなるかという視点も大事です。その地域の活力の問題ということを考えてくると、社会面への影響ですが、地域ごとをどういうふうに考えていくかということがこれからさらに重要になってくるのではないかと思います。

(スライド41番)

家族の問題は前回されたというふうに伺っているのですが、家族の問題も大変重要な問題です。先ほど申し上げましたけれども、結婚に対する魅力がなくなってきたのではないかということと同時に離婚も非常に増えています。これは、結婚に対する魅力がなくなったことの裏返しかもしれませんが、1980年では年間1,000人に大体1.2 組の夫婦が離婚していたのですが、2002年ではそれが2.3 組に増えています。つまり約2倍になっています。離婚はすごく増えています。ということは、家族そのものが変わっていく。そしてその中で高齢化していくときに、どういう家族構成、近代的な家族から新しい家族へどうなっていくのか、それが少子化・高齢化とどういうふうにかみ合っていくのかというのが大きな問題ではないかと思っています。

さらには、一人っ子が増えてきますと、幼児虐待とかドメスティックバイオレンスの問題、あるいは長男・長女の時代ということは、昔ながらの「家」の継承がどうなるのか。さまざまな問題が出てきます。

(スライド42番)

若干焦って「人口減少下の社会システム」ということでまとめていますが、若者を支える社会システムが限界に来ていることと、今後、生まれた時代でずいぶん環境が違ってくる、そして社会環境や家族も変化が起きてくるということです。

(スライド43番)

最後、少子化への対応ということで、あまり時間がないのですけれども、現在こんなことをやっているということです。細かく話しているとあれですが、今現在話題になっているのが、2003年に出ました「次世代育成支援対策推進法」というのがあります。これは、企業及び地方自治体に何ができるか考えましょうということで法律ができているわけです。この次世代育成支援対策推進法というのはその前提としてさまざまな考え方があります。つまり、育児や出産のための環境整備というのはどういうことがあって、それをやるためにどういう方法があるだろうか。それをみんなで一生懸命考えて、そして、やれることをやっていきましょうという法律です。

(スライド44番)

では、現在、具体的に日本の制度としてオールジャパンでどんなことがやられているかということですが、2つだけ。育児休業制度というのがあります。日本の場合にはさまざまな変遷があるのですが、現在、育児休業というのは1年間とれます。ただ、各国の比較を見ていくとわかるのですが、日本の場合は1年ですが、ドイツは3年、フランス3年。さらに所得補償という点から見ても、日本の場合、遜色がある、ないというのはまた難しい問題かもしれませんが、まだまだ考えられる余地があるかもしれません。

(スライド45番)

児童手当というのがあります。日本の場合ですと、今後小学校3年生くらいまでになるのでしょうか。現在は、小学生になるまで、第1子・第2子5,000円、第3子以降に月額1万円ということになっています。ほかの国を見ても大体同じくらいのレベルで児童手当を出しています。ただ、ここに大きな問題があります。日本の場合には実は所得制限というのがあるのです。なぜかというと、各国の場合には人口政策、あるいは家族政策という形で児童手当を出しています。ところが、日本の場合には児童福祉の一環としてやっていますので、所得制限があるのです。この所得制限があること自体が児童手当に対して若干の制約が起きているのではないか。さらによくよく考えてみる、1人目や2人目の子供に5,000円を出して子供を産むのか、というような問題もあるわけです。そこで考えていったときに、金額の問題はまた難しいところはあるのですが、所得制限というものを考えていかなければいけないのかなというふうに個人的には思っております。

(スライド46番)

そういったことを考えていくと、人口政策や家族政策といったものが日本の場合にない。少子化対策と言われているものは、実は保育所の問題にせよ、児童手当にせよ、すべて社会保障政策の一環としてやってきております。中には、そういったことを踏まえて、育児の社会化という問題で幅広くやっていかなければいけないのではないかというようなこともあります。

(スライド47番)

ところが、私もちょっとあまのじゃくなところがありまして、本当にそういった形でみんなで一斉に少子化対策をやる必要があるのだろうかという問題もあるわけです。ここが一番問題だと思うのですが、少子化の直接的な原因というのは未婚化・晩婚化・晩産化と言われている状況であります。この中で重要なのは、結婚の利益の低下であるとか、あるいは、結婚しても子供を産まなかった。その背景には、子供のコスト、オポチュニティーコストも含めてコストが上昇している。

では、子供のコストを下げたらいいのではないかという議論になっていくわけですね。最近では、子供の機会コストの上昇といったことを考えたとき、例えば社会保障政策やさまざまな政策があるのですが、そこで機会コストを低下させることが少子化対策にとっては重要だろう。そのためには就業と育児の両立が必要となり、そのために何をやらなければいけないか。例えば性別役割分業の是正であるとか、職場優先の企業風土の是正、保育サービスの整備、ロジカルに考えていくとこういうことになるわけです。実は、こういった諸施策をやろうとしているのが、最初にご説明申し上げました次世代育成支援対策法です。あるいは新エンゼルプランというものにあるわけです。つまり、これはそういった背景を持って出てきた政策でありまして、こういったことをやる必要があるのではないかというのが現状の考え方であります。

(スライド48番)

ところが、少子化ということを考えたときにまだまだ実は難しい問題がありまして、子供を産む産まないというのは個人の問題だから、それは手を入れるべきではないという問題もあります。もう一つは、今申し上げました、子供は私的な財である、政府が政策としてやるような対象ではない、という考え方。実は私もこれに近いのですけれども、経済学者の方は、議論するとこういうことをおっしゃる方が多いかと思います。ただし、そうであったとしても、もし機会コストを下げることによって少子化が少しでも改善できるのであれば、やることはやる必要があるのではないかというのが考えられると思います。

もう一つは、子供は外部性を持つのだと。例えば将来の年金制度の担い手だとか、次世代の労働力の担い手であるというふうに考えたとするならば、外部性を持つ。これは結構人口学者の方が多いのですが、そのためには積極的に少子化対策を行うべきだというような意見があります。たとえ、子供に対する、あるいは少子化対策を考える立場が違ったとしても、やらなければいけないことはいろいろあって、それはどんどんやっておくべきだと個人的に思っているわけです。

(スライド49番)

ところが、何かしらやっていかなければいけないし、こういうふうにしてやるべきだということがあるのですが、それがどれだけの効果があるかというのはなかなか難しい問題があります。育児休業制度については就業継続を維持しているという見方もありますが、それ以外、例えば保育サービスではなかなかうまい具合に出生率を向上させるという関係は見られないとか、児童手当もなかなか効果は期待できないという考え方があります。

(スライド50番)

これは私の最後の試算でして、未定稿ですが、先ほど申し上げましたように、もし女性が就業とか育児の両立ができて――仕事を失うことなく、そういうことで生涯の所得を落とすことなく両立することができる。逆に言えば、機会コストを下げることができる。機会コストを下げることによって、今以上に結婚しても女性が働けるようになった場合に、どれだけ出生率が上がるのだろうかというシミュレーションを幾つかやってみました。その結果、社人研の今後の推計ですと、2010年で出生率TFRは1.30くらいですが、そういった政策を打って、今よりも結婚している女性が5%くらい、より働けるような環境が整ったとすると、1.5 から1.56くらいまで出生率は上昇するという試算をやってみました。ここは考え方で、政策を打てば今よりも将来的に0.2 ~0.25ポイント出生率を上げられるというふうに考えるのか、一生懸命やったとしてもここまでくらいしか上げることができないのか、さまざまな考え方があると思います。

(スライド51番)

時間が超過してしまいましたが、最後、「少子化への対応」として、少子化対策についてはいろいろな議論があると思うのですが、やるべきことはやるべきではないだろうかというような問題がありますし、ただし、やるのであれば費用対効果をちゃんと検証するべきである。さらに少子化対策というのは、人口学や経済学だけではなくて、さまざまな学問を総動員して考える必要があるのではないかというのが私の報告でございます。

ちょっと早口で申し訳ございませんでしたが、以上であります。

石小委員長

ありがとうございました。大変示唆に富むお話をいただいたと思います。特に経済学的なところの細かい分析をいただきました。ありがとうございました。

予定した時間が数分過ぎていますが、せっかくの機会でございますから、5分か10分時間をとりまして、ご質問を受けたいと思いますが、いかがでしょうか。

遠藤さん、どうぞ。

遠藤特別委員

私も少子化対策は心配していまして、お話を伺ってなるほどと思ったのですが、たしかに分析をすればおっしゃられたような話だろうと思うのですが、お二人の指摘の中で、一つないと思われるのが、今から、産みやすい環境とか、そういうシステムとか、それはすべてやる必要があると思いますけれども、女性の自覚を促すとか、女性を教育するとか、それが日本では大切ではないかと私は思うのです。それはなぜかというと、日本と欧米とは女性の地位が全く違うのです。欧米の場合はキリスト教で、女性というのは男のあばら骨から生まれたあれですから、要するに男性優位社会なんですよ、根本的に。ところが、日本はもともと女性というのは男性より優れていたのです。天照大神は女性なのですから。そういう神話を持っている。そういう社会的な伝統とか文化というものが、ちょっと入ってなかったのではないかなと私は思います。そういう女性の意識、欧米と日本の女性というのはどこが違うのかということを一遍調べていただきたいというふうに思います。

今まで、日本は戦争をしてきたり何かして、要するに力の強い男性が優位の社会であったのですけれども、今ではもう戦争はしないわけですから、女性と男性は同じで、能力の高い女性が大学へ行って、今ここに役人はたくさんいます、男性が多いですが、もう20年もたつとこのうち半分以上は女性になると私は思っています。そういう社会になってきたときに、本来女性の地位が高い日本において、女性は何をどう考えなければいけないかということを、この際改めてきちっと教育する必要があって、そこが今、日本は抜けていて、それをすることによって、女性が子供を産むというのは我々の非常に大事な仕事なのだということを、欧米社会と違って、本質的に理解してくれるのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

津谷教授

お時間が来ていますので、簡単に。先生は、女性の地位は日本では本来高いと。もちろん天照大神の時代までさかのぼればですが、ただ、もう少し時間を絞りますと、女性の地位は決して高くない。もっと言うと、女性の自覚を促す、それももちろんそうですが、もっと男性の自覚も促さなくてはならないと私は思っております。結婚も夫婦関係も、すべてこれ男女の問題です。特に男性の場合、自分たちのためにも自覚はあったほうがいいと思います。不利です、男は余っております。

ただ一つ、先生がおっしゃったことで私も思うのですが、結婚というものは、法的にしても、しなくても、これ、パッケージであります。いいところもあれば悪いところもある。パッケージとして見たとき、いいとこ取りはできないんですね。その意味で今の若者、女性だけではなくて、いいとこ取りしたい。ただ、そこについてくるものがありますものですから、パッケージとして魅力がない、受け入れられないというところで、今、こういう問題が出ている、もっとミクロの議論をすれば。

そうなってきたときにやはり教育というのは大切で、女性に自覚ということではなくて、日本の男性は家庭内参加は非常に少ないです、データから見る限り。これ、急には変えられません。ただ、教育というのは、親御さんもそうですが、他人の子供だから放っとくというのではなしにやはり社会が啓蒙していかねばならない。なぜなら、これは私たちの問題であるからです。そして、いいとこ取りはできないということをやはり自覚しなくてはいけない。そこにあるのはこれでして、これは、放っておいてそのうち何とかは絶対にならないと私も思います。

石小委員長

何かヤブヘビになってしまったかもしれませんが(笑)。

では、どうぞ。

上野特別委員

私の質問も若干冗談めいたところがあるのではないかと思うのですけれども、今お話を聞いていますと、特に経済的な観点との関係でのお話から言いますと、日本一国の中の動きでご説明をしておられるように思うのです。ところが、FTAであるとか、ERA(エコノミック・リレーションシップ・アグリーメント)とか、こういうような話を、50年とか1世紀とかいうふうに長いタームで考えるのであるならば、考慮に入れなければいけないのではないか。そのときに、この中の資料に出ていたかと思うのですが、中国であるとか、韓国であるとかいうところも、日本と同じか、あるいはそれ以上に少子・高齢化の激しい動きがある。これと、例えば東アジア圏みたいな圏域で考えたときに、どういうような影響が、わが国の人口のトレンドにプラスするのか、マイナスするのか知りませんけれども、どういうようなことになるのか。そのときに経済的な交流が深まるということもあると、推計は考え方としては難しい話になると思うのですが、特にアジア圏での動きというのがちょっと気になる。

それから、もう少し広く言えば、グローバリゼーションということで、北米や何か、あるいはEUや何かを考えますと、先ほど幾つかの国、勝ち組と負け組の話がありましたが、あれはいずれも、我々の国や何かを除けば一つのEUという単位の中にあるわけですよね。経済政策や何かはだんだん統一されてくる。通貨は統一されています。その間の関係というのは今後変わるのか、変わらないのか。その辺の国際的な関係を取り上げた動きというのはどういうことになるのか、教えていただきたいと思います。

石小委員長

加藤さん、よろしくお願いします。

加藤室長

非常に難しいご質問なのですが、一つは、人の移動というのはこれから不可避だと思います。先ほどのリプレイスメント・マイグレーションではなくても、人が入ってきたときにどうやって開いていくか。それと同時に、日本はこれから貯蓄率が下がっていくと、社会的には経常収支も赤字になってきて外から投資を入れてこなければいけない。逆に言うと、人口減少というのは否応なくグローバリゼーションを促進していかなければいけない一つの契機になりつつあるのかなというふうに私も思っております。ただ、そこが具体的にどうなるかというのは非常に難しい。

あと、ご質問の中の東アジアの国は、例えば中国は一人っ子政策--今、実質的には終わっているのですけれども--日本以上に高齢化社会がこれから進むときに、逆に、日本以上に中国がどうなっていくかということも踏まえて考えていかなければいけないと思っています。私の場合、そこまでいろいろと広くモデルもやっていないものですから、その程度しかちょっとお答えできないのですが、申し訳ございません。

石小委員長

ありがとうございました。

では、翁さん、最後にどうぞ。

翁委員

津谷先生の先ほどのお話で、戦後を見てみるとトレンドとしては、最初は結婚してからの出生率が減って、最近では未婚率が増えて、その結果として出生率が低下しているというお話があったのですけれども、つい最近の動きでは、1960年代以降のコーホートで出生率がすごく落ちているという話があって、そういう意味で有配偶の出生率の低下というのが、出生率の低下の原因になりそうな可能性があると思うのですけれども、その辺の展望についてどうお考えですか。

津谷教授

先ほどのコーホート出生率でそのとおりです。60年代生まれ--先ほど加藤さんからも58年、60年というお話が出ておりますが、このコーホートというのは、実はちょうどバブルが華やかなりし頃に青春を謳歌した時代であります。ですから、経済的に言えば非常に消費性向が強いということが言えるわけで、これはシングル化だけではなくて、有配偶出生率も有意に低いのです。ただ、問題なのはこれをどう読むかということでして、これは私たちが言うピリオド効果です。このコーホートだけがちょうどそういう時代に青春を謳歌して、当然、大体が働きますと、物質と子供、子供も財であります。生活をエンジョイしたければ子供を減らすということが言えるわけですが、これが、このコーホート例外なのか、それとも、それに続くより若いコーホートがこれを前哨として同じようにまたシングル化を進めて、そして有配偶出生率が落ちていくと考えるのか。そうではなくて一時的で、またもとに戻っていくのか、これは非常に難しいと思います。

なぜかというと、若い部分というのはまだ30代の前半です。これだけ晩婚化が進んでいまして晩産がありますと、どこら辺に触れるかということを読むのは難しいですが、一つ言えるのは、60年代生まれコーホート以前のコーホートのパターンに戻ることはおそらくないであろうと思います。ただ、このままずっと有配偶出生率がコーホートで落ち込んでいくということになれば、もうこれは本当に大変なことです。

石小委員長

それでは、もうだいぶ時間も過ぎてしまいまして、ご予定の方もいらっしゃると思いますし、特にお二人の先生からは貴重な時間をたっぷりいただきまして、ありがとうございました。心から御礼申し上げます。

それでは、次回以降の予定を申し上げて散会にいたしたいと思いますが、次回は、すでにご案内のように、4月27日・火曜日、この日は1時半から、「グローバル化」についてヒアリングを受けます。ご三人のスピーカーがありますので、ちょっと早めます。それのあとに総会を予定しておりますので、かなり長時間になりますので、あらかじめご予定ください。

その次は5月14日・金曜日、今度は「環境」をテーマにやりたいと思っています。

この2つだけ決まっておりますので、ぜひノートに入れておいていただきたいと思います。

今日は、大変有意義なご報告をいただきまして議論ができたと思っています。心から御礼申し上げます。どうもありがとうございました。

〔閉会〕

(注)

本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。

内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。