基礎問題小委員会(第9回)後の石会長記者会見の模様

日時:平成16年3月30日(火)16:19~16:42

石会長

今日は第9回になります基礎問題小委員会、開催いたしました。お手元に、事務局のまとめていただいた分配に関する「実像」把握と、それからお二人のスピーカーの簡単な資料と大量な資料、二つありますが、と同時に、今日はそれに先立ちまして、例の日米租税条約が今日批准されたということで、そのご報告を簡単に国際租税課長から話を承りました。内容につきましては、もう既に先刻報道してあるとおりであります。

今日は、社会学者と経済学者、お二人、分配とか平等とか社会階層とかいうことを研究している方をお呼びいたしまして議論いたしました。お一人が、阪大の大竹文雄さん、労働経済学がご専攻でございます。それから東大の佐藤俊樹さん、専攻は社会学でありまして、いずれにいたしましても、社会階層の問題とか所得分配の問題とか、資産格差の問題とかということをおやりになっている専門家でございます。事務局は大変よい資料を作ってくれましたので、この全貌をみていただきますと、大体何が起こっていて、これを今後、われわれの税制論議にどうもっていこうかという形が垣間見えるかと思います。ただ、まだ方向が定まらない問題も幾つかございまして、今日は問題提起と、それを将来どうつなげるかという形のつなげる問題の問題提起に終わったということでございます。

大竹さんは、膨大なさまざまな統計データを駆使してくれまして、現在、所得の分配あるいは資産の分配が平等か不平等か、どっちの方向に動いていくかということを調査してくれました。まあ言うなれば、やっぱり所得階層分布は、マクロにみれば不平等の方向に行ってるよということが出てきておるようでありまして、近年これが拡大した方向にあると。特に、年齢でみると高齢者のなかでそれが顕著であり、若年層の場合は必ずしもそうでないといったあたりの議論が、やはり最初に押さえるところかなあと思っています。これはある意味では、高度成長が終わり、バブルがつぶれ崩壊したなかで、そういう格差を是正する、あるいは格差を増大する、そういう動きがあったということだろうと思われます。

それから佐藤さんは、そういう社会のさまざまな動きから、一体所得階層がどうなっているかと、二つの視点から特にご議論いただきました。一つは、機会の不平等の動向という形で直近まで大体ずうっと機会の、言うなれば右肩上がりで経済が上がるようにしたけれども、だんだんと、言うなれば機会の平等というのが起こってきた、低下を推移したと。ところが、この一つの指標として、オッズ比というのを使っているんですね。つまり、父親の職業を子どもたちがどう受け継ぐかという、言うなれば職制の連続性があるかどうか、これを一種の機会の平等か流動的かというあたりに使っておりますけれども、これが高度成長期、ずっと落ちてるんですね。例えば事務局の用意していただいた資料の20ページにもこれが出ていると思いますが、父親がどこかのホワイトカラーの管理職であって息子はどうかとか、大学の教授の親父は息子がどうなっているかというのがオッズ比と言われてるんですが、そういう形でずっと壊れてきたと、戦後ですね、高度成長期のなかでどんどん社会の分化が起こって。ところが、最近はそれが低下して、特に今後上昇の気配があるんではないかといったような問題。それから、もう一つ一億総中流階級意識というのがあったんですが、それもなにやら分化してきたねというような話をご議論いただきまして、それにつきまして、非常に大きな視点を提起していただいたわけであります。

それにつきまして委員のほうからは、大分時間も押してたんですが、幾つか重要な視点がございまして、例えば共通していく問題として、税制の所得再分配機能が落っこちているというのが事実なんですね。これは社会保障のほうがまだ再分配機能を、まあ高めているという面があるんですが、税制はなにぶんにも空洞化もしておりますし、フラット化ということが起こり、言うなれば所得税の本来持つ累進税率による再分配機能を落としているのは明々白々であります。そういう意味で税制というものの機能がだんだん落ちてきたということなのですが、これについて今後、再度これを元へ復活させるか、そのときの問題は、勤労意欲にどれだけ影響があるかという問題ですね。これにつきまして二、三の人から大竹さんに質問があり、ただ、これはなかなか測定、難しいんですよね。逆にいって、フラット化をずっとしてきて、これで勤労者の元気が出てきたかどうか。これで実は実証研究もまだやっておりませんので、まあこの辺どうかという問題がある。ただ、今後、社会の不平等感が高まり、言うなればそれが特に30代あたりの若年層に大きくなってきたということを踏まえますとね、税制の所得再分配機能というのは、まあこれから恐らく強める方向でいくという議論が多分出てくるだろうというあたりの議論は大分いたしました。そのときに、今言った勤労意欲の阻害効果をどれだけみるかというのはこれからの研究課題ではないかなと、このように考えております。そういう意味で、再分配機能の政策というのは有効性を担保しなきゃいけないんですが、その辺の問題が幾つかあるだろうという形の問題ですね。

それから、例のオッズ比率が落っこちてきたと。つまり、親の職業は子が受け継がなくなってきて、社会の階層の流動化が進み、言うなれば平等化が進んだよという感じの議論に対しては、昔はやはり農家の息子は農家を受け継いだし、商業の自営業は自営業を受け継いだということと比較すれば、一体そういう職業の…産業構造の変化というのがそのオッズ比にどれだけ影響があるのかねというような、そういう問題ですね。それをどういうふうに理解したらいいかというあたり。それから最近の傾向としては、特にこれが反転して、また親の職業を、特にホワイトカラーの高所得者層あたりが反転させて、親の職業をそのまま受け継ぐといったようなこともある。そういう点をどうみるかというあたりで議論がございましたが、何分にもベースになっている、佐藤さんが使っているSSMという調査が10年おきだというので、今後その結果を待つとすると2005年までの結果を待たなければいけないというような、そういうことであって、まあオッズ比につきましては、いろんな国際比較もあるようであります。例えば今日の話でおもしろかったのは、イギリスは非常に親の職業を継いで、ハイソサイエティはそのまま固定し、まあそう言っちゃああれなんだけど、パン屋や肉屋の子弟はそのまま親を継ぐというイメージで固定化した社会であり、日本は非常に流動的で、必ずしも親は子どもの、特に低学歴の親は、言うなれば子どもに高学歴を与えて、より社会的に上昇させようというのがあって、非常に流動的だというイメージを持ってます。1980年の日本と英国のオッズ比率は、同じだって言ったんですね。同じパーセントだっていうようなことを言ってまして、そういう意味で、国際比較からみてもこの点についてはおもしろい結果が出ているということをおっしゃってました。そういう意味で、こういった親の職業を継いでどうするという議論もこれから大きな議論になっていくんではないかなと、こういう印象を持ちました。

それから、いわゆる階層帰属意識ですよね。これも、これは事務局の作った資料の22ページに出ておりますが、要するに皆さん、自分が上流社会に帰属しているという人はまずいないらしくて、「中の上」と言えば自分が一番高みにたっているという意識を持つらしいのでありますが、本来1975年はあらゆる階層の人が自分は「中の下」であると言っていたのが、最近1995年では、高所得者のほうが左のほうに寄ってきて「中の上」ではないかと言いだしたという当たりで、少数の勝ち組と多数の負け組というような形で階層帰属意識が分化してしきたんじゃないかと。これをどうするかという形の問題ですね。

それから、随分議論になったのは、機会の平等という発想が日米で大分意識が違うよという形で議論がおのおのありました。そのデータもあるんですが、それをめぐって、今日は実は議論にならなかったんですが、将来的には恐らく、これは25ページに出ていますが、相続税というのを現状のまま据え置くのか、将来的に高めるのかといったあたりの、実は機会の平等というものを社会的に支持するのか支持しないのか、この辺の議論はこういった調査に随分絡んでくるんではないかと思っています。アメリカあたりだと、全階層というのは全所得階層、全年齢で、すべてが機会の平等は大いに結構だと言ってるんですが、日本はやっぱり低階層とか、言うなれば、30歳以下ぐらいになりますと、必ずしも機会の平等をよいとは言っていない、逆転する現象が起きてますよね。まあそういう意味で、将来を見据えて現在の自分のある階層帰属意識を持ちますから、あるいは機会の平等に関する感覚を持ちますから、そこで議論が分かれてくるのは当然なんです。恐らく60歳代以降の人は、まあずっと戦後の右肩上がりできて、まあ年功序列・終身雇用でそれなりの恩恵を被ってきましたから、それほどあまり不満はないんでしょう。しかし、今30歳代ぐらいの人は将来不透明ですから、したがってそれに対する不満・不平が鬱積して、一体社会の分化とか、分化していく過程のなかで自分がどう置かれているか、あるいは将来の所得再分配機能をどこまで持たせるか云々については、かなり意見が分かれているなという印象であります。

まあそういう形で、今日は具体的に税制あるいは社会保障の問題はあまり出なかったんですが、所得税や相続税の今後の改革について根っこになるところの再分配をベースにした資産所得の、言うなれば分布状態についての情報を幾つかいただいて、今後われわれの議論に大いに役立てたいと考えております。

この「実像」分析は今後も引き続きやりたいと思ってますが、来月は後半のほうに、来ていただく有識者のご都合に合わせたものですから、23日に少子高齢化、27日にグローバル化という形で、経済社会との関係を議論したいと思います。残る大きな点は、公共部門をどう扱うかというあたりの議論で、いずれにいたしましても、まとまった段階で5月の末に総括的な討論をして、ベースとなります経済社会の構造変化、これが実態面がどうなっているかということと、現行税制がどう乖離しているか、あるいはミスギャップがあるか。ミスマッチがあるならあるで、それをどうするかというような本論の議論に移っていきたいと思います。

概略は以上であります。

記者

所得再分配機能のお話に触れられましたけれども、これからも所得税の抜本改革、まあ税源移譲もあるし、定率減税をどうするかという話も絡んできますが、それとあわせて、累進課税あるいは税率のあり方をどうするかというのを、あわせて議論していくことになるんでしょうか。

石会長

所得税の構造改革のポイントですよね。税調のなかにも、もうフラット化は行き過ぎてるから、元来やっぱり高所得者はしかるべき負担をしていいじゃないかという再分配機能を強化する声というのは、やっぱり強い声もあるんですよね。まあそういう意味で、一つはフラット化が一体どういう現象を起こしたか。結果的にみれば、ジニ係数のマクロ的な指標は落っこちてるのは事実でありますから、そういうことも踏まえて今後どうするかという議論には役立ってくると思います。そこで恐らく、私の個人的な考えだけど、もうこれ以上、再分配効果を阻害するような方向での改革はまあ一服じゃないかと。これからまさに右肩上がりの成長経済は終わり、これからみんなで公平に平等に負担してもらおうというときには、自ずから、その公平という視点からみれば、再分配機能は強化するという方向にいかざるを得ないかもしれない。ただ、一挙に累進税率を強化するという昔の先祖返りみたいなことは難しいので、まあ当面、フラット化の流れのなかで、国税と地方税あわせて、小幅な、なんか改革の方向ではないか。つまり、税率についてはわれわれ、それほど大きな問題意識を持っていないんですよ。課税ベースと所得控除のところに非常に関心を持ってますんでね。そこで、税率のほうの修正なり変更は、課税ベースの拡大云々の議論に比べればウエイトは低いんじゃないかと思ってます。

記者

今の点なんですけれど、先生がおっしゃる所得の再分配機能を高める方向の議論もこれからあり得べしだということは、その分配機能を高めようとすれば、今おっしゃった税率、これまでの累次の減税で、国と地方合わせて、今最高税率で50%ぐらいでしたよね。これを高めていくのか、あるいはそこの控除を見直していくのかということになると思うんですけれど、それは今までずっと続いてきた税率を引き下げてフラット化していくという税制のあり方の、まあ一つの転換点であると、もうそれ以上、そこから大きく考え方を変えていくんだということになるんでしょうか。

石会長

アメリカでもフラット化した後、2段階にフラット化した後、また揺り戻しがきました。ほかの国もそうなんですが、そういうふうに日本がなるのかどうかですよね。で、まあ少なくとも、国税と地方税を合体した意味でのトップレートの、37%なら13%みたいな、そういう組み換えはあるのかもしれません。ただ、今後、金融所得の一元化等々を踏まえて、やっぱり所得税の累進構造、累進論の議論というのはいろんな意味で歪みを生まないようにという議論も、やはりこれ無視出来ませんから、ある意味で再分配機能を高めるというのは、歪みを拡大する方向にも動くんだよね。だから、その辺のトレードオフ、あるいはその辺の調和をどうするかという議論はこれから大きくなると思います。したがって、一生懸命今まで下げてきたものを、これ以上下げない。また、これを一挙に戻すということはしないで、ほどほど現状のレベルの議論ではないかなというふうには、個人的に税制改正はそう思ってます。課税ベースを拡大するということは、要するに高額所得者にとっても税負担が高まるわけですからね、累進税制のもとでね。そういう意味で間接的に累進を高めるような機能もしますんで、そこはそこで十分に、理論的には整合性はとれると思ってます。

記者

2問あります。1問は再分配のことなんですけれども、所得税による再分配が落ちてくると、社会保障による再分配の比重が高まると思うんですが、この現状についてはどういうふうに…。

石会長

当初所得という、今言った何もしない前の所得というのは、実は格差が開いてるんですよね。その辺が社会保障でどれだけ平等度を増すか、あるいは税制でどれだけ平等度を増すかという資料にも出てますけれども、これはジニ係数というやつを使って計算すればすぐ出てくるんですけどね。確かに今は税制のほうは著しく低下してます。社会保障のほうがまだそこそこもってます。そういう意味で、社会保障というのはだって低額所得者に生活保護費を含めて、かなり移転、支払いをしているわけですから、だから本来的には社会保障というのはそこに使命があるんでしょうからね、税制より高くなって一向に構わないと思います。ただ、税制のほうにもやっぱり垂直的公平というのがあって、高額所得者がより多く負担していいだろう、低額所得者はより低い負担か非課税でいいだろうという発想があります。それが過度に行き過ぎますとね、見直しというそういうことになり得るんだろうと思いますが、現在は空洞化も踏まえて所得の実績が大幅に減っているなかで、その反省がでてきて、将来、所得税改革、あるは所得税負担を高めようというときには、再分配機能を高めるということも十分に加味してやるということになってこようかと思ってます。つまり、機能を高めるということが税負担、つまり税収確保につながるという面もありますからね。それが一つですね、あともう一つは何だっけ、これから言うんだよね。

記者

また別な話になるかもしれませんが、そういう意味で公的年金の一元化という話をさせていただければと思うんですが、その時所得捕捉の問題というのがすぐ言われるんですけれども、これは税制の立場からみますと、どういうふうにみてるんでしょうか。

石会長

民主党の自営業がどのような形で年金一元化ということでしょう。おっしゃるとおり、自営業の方々が所得のほうからどれだけ引くかというクロヨンとかトウゴウサンの議論に結びつくわけですよね。といって、あれは納番を入れたからってすぐさま改善する話じゃないんですよ。それは恐らく所得調査の率を高めるとか、いろいろな形で税務行政を高めるという形で解決しなきゃいけないかと思いますが、それはどこにもあるんで、日本だけが極端に低いというわけではないと思いますよ。というよりは、日本というのは源泉徴収制度がやたらと発達してますから、その比較において、申告をする人が相対的に一旦懐に入れてしまったものを表に出す割合が低くなるというのは、ある意味で当然なんです。そういう意味で、おっしゃるとおり、民主党の議論のなかの一つは、今言った所得捕捉をどうするかという形でこれから議論がいくと思いますので、その所得捕捉の問題が年金一元化に重要な要素になっているのは否定出来ないと思いますね。ただ、それがあるから年金一元化は無理だというふうに議論がいくのかどうか。それを克服しても年金一元化にメリットがあれば、そっちにいけばいんじゃないですか…と思います。

記者

公益法人改革が新しい非営利法人を再現するような形で改革論議が進んでいますが、恐らく新年度に新しい法人の形と税制の関連が、政府税調の主要なテーマになってくるかと思うんですが、今、公益法人のなかで事業所得がかなりあるものに対して、それでも税制上の優遇を与えるということについては批判もあるんですが、会長は今の公益法人の優遇税制についてはどういうご認識でしょうか。

石会長

実は昨年、今頃、もう公益法人課税につきまして議論いたしました。ところが、本体であります公益法人の仕組み全体をどうしようかというのが、行革本部でもう一回議論してもらってまして、その行革本部の中間まとめなり、なんかがぼつぼつでる頃であろうという予測で今スケジュールをたてております。聞くところによりますと、必ずしも議論が進んでいない。すべからく今後検討するといった形で先送りのまとめのようでありまして、そういう状態ですと、公益法人の仕組みそのものを、今おっしゃったような件も踏まえて、はっきりしていないなかで、税が先行して、税の視点からだけ、公益法人そのものをいじくるというのは難しかろうということです。今言った行革本部の議論の進捗状態が遅れているということにあわせまして、われわれの議論も遅れざるを得ないと考えております。多分、連休明けか、あるいは6月にずれ込むんじゃないかと考えてます。まあなにぶんにも面倒くさい、公益とは何とかという点も含め、それから私などは絶えず思ってるけど、宗教法人と学校法人とか、ああいうところがどこまで入れこむのか、いろんな問題ありますからね、その点も踏まえて、ちょっと本体がしっかりしてもらった後で税の問題は議論しなきゃいけないという制約がありますので、しばらく先送りということにならざるを得ないと思います。これも、ある意味では主体性がないんだけどしようがないと思ってます。

(以上)