基礎問題小委員会(第8回)後の石会長記者会見の模様
日時:平成16年3月16日(火)16:45~17:01
〇石会長
第8回になります基礎問題小委員会、今終わりましたので、ご報告いたします。
お手元に、大分大部な資料があると思いますが、この資料自体、非常におもしろい内容を含んでいると思いますので、後でゆっくりご覧いただけたらと思います。今日は、野村総研の日戸さんと博報堂生活総合研究所の関沢さんと日経ウーマン編集長の野村さんのお三方からご報告をいただきました。前のお二人は、価値観とかライフスタイル、そのアンケートをもとにいたしましてご説明いただきまして、大体似たようなトーンでお話しいただいて、われわれも予想していたことをデータの裏付けで確認したという点が多かったと思います。日経ウーマンの野村さんのほうは、男にとっては非常にショックだったという人もいましたけど、さまざまな女性の視点からした価値観なりライフスタイルなりという形で議論いただいたと思います。感想を二、三申し上げます。
前回の就業、それから前々回の家族とか結婚とかというものに比べますと、価値観とかライフスタイルというのは、なんかほんわかいたしまして捕捉が非常に難しい。したがって、アンケート調査というのが非常に武器になるわけでありますが、そういう中で全体として眺めると、やっぱりグルーミーですよね、今の日本社会は。特にバブル崩壊後、まあ収入が落ちる、経済が落ちる、それからリストラされる、それで共稼ぎしないとやっていけないというような方からみまして、どうもライフスタイルも価値観も縮こまりつつあるのではないかと。特に、社会的にみてその動向がやや、私が予想した以上にダメージとして浸透しているのじゃないかなと、社会的にですね。そういう意味で、今後これをどういうふうな形でもっていくのか。ただ、この傾向は続くであろうというような、そういうようなインプリケーションがございましたので、これをベースにしてこれからの政策立案等々を考えなければいけないかなと考えております。
それから第2点は、やはり「個と社会」あるいは「個とマクロ」ですかねえ、この乖離が一段と進んできたなと。別な言葉で言えば、個人主義ですよね。ミーイズムと、昔、アメリカが言ったことがございますけれども、その個人的なことで大体社会の動きをという、そういう視点が非常に重要でなかったかなと思います。つまり、社会全体を眺めるといったより、やはり自分の身の回りのこと、家族の絆のこと等々のほうがより重要であると。そういう意味で人間関係、自分から求めて積極的に形成し、地域社会に貢献しようとか、社会あるいは会社にとって重要な役割をしようとかという発想よりは、なんか小さく、自分の身の回りの話でいこうと。そういう意味では公共性とか社会性といった視点が、どうも日本社会は薄れてきたんじゃないかと。ある意味では、右肩上がりの経済が右肩下がりになったということが一番根っこにあるのかなとは思っております。そういう意味で、今日は直接税制に引っかけた議論はいたしておりませんけれども、個々の納税者の立場から言うと、やはり随分違った環境、「違った」という意味は、一昔前に比べて違った環境が出てきたんじゃないかと、このように考えられます。
それから第3点は、それをベースにして、今日は直截的に直接にご説明はなかったんですが、政府が果たす役割というのはやっぱり大きいだろうと。つまり、個人はそういう社会に対して働きかけというのがない。したがって、やはり社会の構成員である個人が、あまり自ら積極的に動かないとなれば、それなりに政府は一働きしなければいけないだろう。さっき申し上げた公共性、社会性を一段と高めるために、やはりその仕掛けが必要であろうと。なによりも今日の一つのキーワードは「多重化」とか「多重性」ということですよね。社会のさまざまな価値観が多重化したし、個人も多重化してきた。そのなかで、これをどうやって、この複雑になった思考過程あるいは価値観、これをどういうふうにもっていくかということは大変であるということがいろいろあったんではないかと思っております。
そこで、個人がやるに当たっては、最後の日経ウーマンの野村さんもおっしゃってたんですが、社会保障制度をしっかりする、あるいは税制をしっかりするというのが一つのやり方だと思いますし、言うなれば、子育てなり老後の介護等々、やっぱりもう個人でやれないということになれば、社会的に面倒を見るとなれば、社会保障制度をスウェーデン並みにしっかり整備する、完備する。そのかわり負担が重くなるよというあたりで、どうバランスをとるかというあたりの議論が今後起きてくるんではないかと、このような議論がございましたし、これについては同意をした人が随分あろうかと思います。
個々のアンケート結果につきましては、大部なものでありますから、とてもご説明いただけませんが、税制の議論を離れても、最近の価値観あるいはライフスタイル観の変遷がよく分かるのではないかと思いまして、ご参考までにぜひお目通しいただきたいと思います。
それから、申しおくれましたが、冒頭に事務局がまとめてくれたバックグラウンドデータの説明がございまして、これがいろんな形で最近の変化を総括いたしまして示してくれていると思われます。貯蓄率が落っこったなんていうのは、かなり心配事でございますが、これからどうしていくかというのは、舵取りが難しくなるかなと思っています。
それが今後の予定でございますが、あとは、3月にもう1回、30日(火)に所得分配、分配というのを中心にやっていきたいと考えております。今の話にあえて引っかけるならば、多重化し、個々ばらばらであると言いつつも、社会全体の所得再分配機能は高めてくれと。つまり、リッチな人とプアな人があれば、リッチな人は応分の負担をしてもいいじゃないかという、そういう世相もあるということを今日お聞きしました。そういう意味で所得再分配機能というのをどのぐらいにするか、あるいは現在、所得が公平なのか不公平なのかも含めまして、次回それをやっていきたいと思います。
4月は講師の方のご都合もあって後半にしわ寄せしましたが、2回、23日と27日に少子高齢化、それからグローバル化、この各々をトピックにいたしまして議論をしていきたいと、このように考えております。5月にもう1回、公共部門の話とか、あとは環境ですね、残ったものを整理いたしまして、できましたら、それを一通り整理する形で、われわれはどういうことを学んだかという形で、特に税制改革の視点からそういうものを整理するという作業を5月末か6月にして、いずれ報告書をまとめてというようなことも考えております。やっていきますと、結構奥行きが深いものですから、事務局にも大分作業量が増えたということもありまして、とりあえずこれと、あと金融小のほうの金融課税の一元化というほうに、ちょっと主力を向けたいと考えています。
以上、まとめましたことはこういうことです。
〇記者
今、大体中身とスケジュール的なご説明があったんですけれども、以前から方針を出していました所得税改革のワーキンググループ、あの進捗状況といいますか、見通しはどうなっていますか。
〇石会長
予定よりちょっとおくれているんですね。それで、実は今のところ少し先送りしてまして目処がたっていないんですが、理由は二つあります。一つは、実相の経済社会の変化、それがかなり奥行きが深くて、これとの最後、税制との接点も少し突き詰めていこうということになります。このままでも事務局の事務負担が大きい。やはり所得税改革と一体化してこの議論を進めておりますから、まあ間接的に所得税改革のほうに迫っていけると考えてます。それからもう一つの金融課税の一元化、これもかなりいろいろな作業量を要求しておりまして、こっちも所得税改革の骨格でありますから、所得税から住民税という、移転ということがあることはあるんですが、その前にこの辺の基礎的なことをかためてからと考えております。そういう意味で、ワーキンググループを作るというのは少し先送りになって、夏ごろになるかなというふうな感じで今考えてます。あまり事務局にああせい、こうせいということで作業を押しつけるというわけにもなかなかいきませんので、順を追って、ステップ・バイ・ステップで行こうかと考えてます。
〇記者
今、先生も指摘された貯蓄率の低下の問題ですが、今日のこの中にもいろいろと出てますけれども、そういった貯蓄率が低下しているなかで、今度、与党の大綱では定率減税の廃止だとか、消費税の増税だとか検討しなければいけない。おそらく財政再建のためには増税はせざるを得ないかと思いますが、税負担を国民に広く求めれば、貯蓄率に関しては一層マイナスの要因として働きかねない。そのあたり、社会全体のバランスですかね、こういったところも今後議論されるのかなと思いますが…。
〇石会長
と思いますねえ。
〇記者
その点、どのようにお考えでしょうか。
〇石会長
マクロ経済の全体としては景気は上向きになっているというのは、間違いのない事実でございますから、これをいかに持続させるかという基盤作りをすると。ただ、長期的に見て、今言った貯蓄の問題、就業構造の問題等々ありますから、今日も国会でいろいろ、例の定率減税廃止をめぐって議論してましたけどね、これは大変難しいと思いますよ。ただ、定率減税については、いつまでも放置しておくことはできないというのが税調の基本的スタンスでありまして、それと、貯蓄率がすぐ結びつくかどうかなんですけれども、先進国というのは大体貯蓄率が落ちてくるのが常態であります。少子高齢化も加わって、ダブルパンチになってきいてくるというのはしようがないんで、これをどうやっていくかというのが一つポイントになると思いますが、一応、審議会あたりでも大分、例えば財政制度等審議会でも議論になると思いますが、やっていきたいと思っています。ただ、今これをすぐさま税制改革のなかの中心に据えて、貯蓄増強とかそういう話にもっていけるかどうかは考えていません。ただ、金融小で例の一元化を考えるなかで「貯蓄から投資へ」というその発想は、別に変更する必要はないと思いますから。その辺の新しいファクターを十分に考えてみたいと思いますが、さていい知恵があるかどうかですね。
〇記者
金融小ですけれども、今後の金融課税の一元化に当たって、証券特定口座、今やっていますけれども、これをもう少し広げる形の金融所得課税の一元化について、そういう考え方について先生はどうお考えでしょうか。
〇石会長
今、理論的に、例えば損益通算の範囲であるとかさまざまな仕組みを考えておりますが、最後行き着くところは、私は納税方法の問題に行き着くと思ってるんですよ。つまり、源泉でやるか申告でやるか、それから特定口座を広げるのか、縮小の方向でいくのか、納番とどう絡ませるのか。これが、実はまだ議論の途上でありまして、方向性はまだ攻めあぐっております。そういう意味で今申し上げたいことは、そういう実行可能な納税協力を得られる、あるいは納税方法をうまくいくということまで視野に入れた形で議論は進めなければ、この議論はうまくいかないと考えておりますので、問題意識はおっしゃる方向にあります。ただ、今、特定口座の縮小か拡張か、ちょっとこれも、先程申し上げた申告か源泉かとの絡みもありますので、ちょっと今のところ、まだ軽々に方向性は見いだせないという状況ですね。ただ、非常に関心は持ってます。つまり、日本型納税方式というのが可能かどうかですね。
〇記者
最近の話題ということでお聞きしたいのですが、民主党が年金改革の対案のなかで、使途を年金に限る年金目的消費税の創設みたいなのを示しておりますが、専門家の立場からちょっと感想なりを。
〇石会長
税調では、福祉目的税にするかどうかということは過去から議論いたしておりまして、一応過去に出しました答申には、はっきり福祉目的税は望ましくないということを書き込んであります。どういう言葉で書いたかは、今、正確に言えませんが。
理由は幾つかありまして、結局、ちょっと個人的見解を踏まえて言うならば、税収と公共サービスの間のリンク、専門用語でリンケージといいますけど、つまりガソリン税と道路みたいに明確じゃないんですよ。だって、福祉というのと消費税って関係してませんからね。したがって、世界中どこにもないですよ、そういう目的税は。そういう意味で日本独自のものだと強弁すれば通るのかもしれませんが、専門家としては、そのリンケージが薄いということについて、福祉目的税あるいは年金目的税にするには躊躇がありますね。それが一つ。
それから、目的税というのは特別会計まで公共サービスのほうの支出をくくった後で税収を突っ込まないと、一般会計のなかの税収に入れたんじゃあ意味ないんですよ。そこまでやれるかどうかですね、消費税を。なぜかといえば、消費税というのは第2番目の基幹税ですからね。法人税を抜きましたからね。だから、基幹税を目的税にするという国はどこにもないし、基幹税というのはそもそも一般的な財源で、なにも年金に限らず、まさに教育であれ、公共事業であれ、ODAであれ、等々で使うのが筋ですからね。そういう基幹税の立場になってしまったものを、全部を年金目的税にするのか一部するのか分かりませんけど、ちょっとそれぞれ好ましくないだろうと。
それから、まあよくいわれる3番目は、資源の硬直性を生みますよね。収入があるがゆえに、無駄な支出を精査しないでどんどん続ける。まあ福祉はこれから増える、年金も増えるということでその心配はないのかもしれませんが、ただ、無駄とか不効率な部分をきろうというインセンティブはなくなりますよ、どんどん収入が入ってくるとね。そういう意味でわれわれ税調としては、今言った年金、消費税等々については理論的におかしいということは書き込んであります。
ただ、消費税率アップのときに、昔みたいに所得税減税とか法人税減税と抱き合わせできないんですよ、財源がないから。過去に消費税を入れたとき、あるいは3%から5%に引き上げたときに、ネットの税収の中立で、大体トントンにしたんですね、増減税。それはもうできませんから、そのときに消費税なら国民の方々から納得いただける余地があるかなということで、政治的な配慮があるのかもしれません。ただ、税調はそこまでコミットできるかどうかですね。それが一般的な、教科書的な説明ですね。
(以上)