基礎問題小委員会(第6回)後の石会長記者会見の模様
日時:平成16年2月10日(火)16:15~16:38
〇石会長
それでは、基礎問題小委員会、第6回目でありますが、今年最初の会合を開きました。今日はヒアリングということでマスコミの方にも、通常は基礎問題小委員会はオープンにしておりませんが、ご希望の方はどうぞという形でご案内差し上げました。
私の今日の会合の取りまとめなり印象を述べた後で、事務局から本日お出しいたしました家族に関するバックデータ等々についてご説明いただくということになっております。私が第1弾の整理をいたして質疑応答し、その後、時間を別途作って事務局にという形でやりたいと思います。
我々の問題意識は、今日も家族という点に関してのみ申し上げたこととも関連するんですが、やはり経済社会構造が極めて変化のスピードが激しく、かつ、税制がそれに追いついていけない、僕らの言葉を使うとミスマッチと言っております。そういう現象をしかと、経済社会構造の「実像」と括弧つきで申しておりますが、「実像」という形で把握していきたいということで、テーマを幾つか設定いたしました。家族というのが議論の第1弾であります。ご存じのように、家族というのは何といいましても課税するときの基礎的な単位、タックスユニットでございます。家族というのが経済力、担税力、その他もろもろの力を表す母体になっておりますから、それが一体どういうふうに現状をとらえたらいいかと。薄々、家族の崩壊であるとか、家族に対するさまざまな問題提起が行われております。そういう意味で、今日はこの領域でさまざまな研究をされ、第一人者とされております二人の先生においでいただいたという形でございます。
短絡的に今日の結果を課税の問題にくっつけるということは軽々にすべきでないかもしれませんが、私個人的に感じておりますことは、次のような点であります。一つは、シャウプ税制以降、所得税がさまざまな形で発展してきましたが、やはり原型は、今日のお二人の先生の言う1950年代から70年代、つまりオイルショックの間までに形成された当たり前の標準的な家族がどうも前提になっているような気がいたします。つまり、夫が働き、奥さんが家庭にいて、子供が2人、3人いると。言うなれば、経済力を持つ夫がその一家を支えていると。経済もそれなりに非常に安定し、右肩上がりで、十分に年功賃金は将来保証されていると。こういう形で来た、言うなれば標準世帯型モデルを前提に所得税ができている。それが何より証拠には、配偶者控除があり、扶養者控除があり、それ以外にさまざまな形のぶら下がった控除が残っているということだろうと思っております。
それをこれからどういう形で我々の議論の中に取り込むかということですが、やはり一つは、家族から個人単位にさまざまな経済力が移ってきたということだろうと思いますの。恐らく最低のタックスユニットというのは、世帯ではなくて個人であるということだろうと思いますが、幸か不幸か、シャウプ税制以降、日本は個人が基本的なタックスユニットになっておりますので、そういう意味では先取りしているかなと考えております。
ただ、個人は個人なんですが、そこに家族のさまざまな要因が入り込んでいますから、そういう意味では、個人がタックスユニットでありますけれども、亭主なら亭主の、代表的な稼得者の所得をいろいろな形で調整するという意味で所得控除というのがいっぱい入り込んでいます。そういう意味で、今、代表的、標準的な家族をモデルにした所得控除の体系でいいかどうか、これはこれから大いに議論しなければいけない問題だなというふうには考えております。
会場でちらっと申し上げましたが、要するに専業主婦というような形は歴史的にある一時の現象であると専門家が今日おっしゃっていました。まさに1950年代以降、バブルが崩壊するまでの間、亭主の給料が社会的に保証され、コンスタントに上がっていくという過程において初めて専業主婦というのがあるのであって、バブル崩壊以降、リストラされ、亭主の給料がどんどんカットされ、言うなれば就業の危機に直面しますと、恐らく専業主婦というのはなくなって、パートタイマーになったり等々するわけであるという意味において、恐らく配偶者控除というのも随分質的に変わってきたなと思います。
山田先生の説明によれば、夫の収入が上昇しない、そういう専業主婦はあり得ないということでありますから、専業主婦にも十分担税力があるのかなというふうな感じを私は持って聞いておりました。
最後に、もう一つ考え得るのは、家族が二極分解してきたと。ダブルインカムも含め、リッチな、高い学歴の夫婦同士の家庭であるのと、フリーター同士が一緒になるような形の、言うなれば経済的には困窮の高い、そういう家庭とあったときに、恐らく税制に限らず、政策はどこまでどういう形で支えるかという問題が恐らく残っているんだと思います。山田先生の話で、微修正でこれまで家族の崩壊、あるいは家族の形態に対していろいろなことをやってきた。その典型というのは、私はパートタイマー、パート主婦の 103万円、あるいは130万円の年金の所得の壁をつくったということですが、これはやはり微修正ですよね。これをいつまで続けられるかということになりますと、これは大きな問題ではないかと。問題意識として急にということではございませんが、二極分解と言われる中で政策がどう対応すべきか。政策出動がこの辺において必要かどうかという問題はどうしても残るのではないかと、このように考えています。
今日、たまたま家族だけ取り上げても、いろいろな意味で示唆に富む点をいただきました。今月27日に第2弾として、就業というテーマで専門家の方にご意見を聞こうと思いますが、就業というのも現行税制に極めて密接に絡んでくるところでございますので、またいろいろな資料を集め、情報を集め、勉強したいと思っています。端的に言えば、給与所得控除はどうなるのかというのも就業構造でありましょうし、それから退職金というのも終身雇用と年功序列を前提にした制度、退職金課税もそれを前提としていますから、果してそれでいいのかどうかですね。それから、そもそもパートタイマーが出てきたときに、源泉徴収制度なるものが崩壊の危機にさらされかねないということもあって、今週も実像把握においていろいろな問題を見つけましたが、次回はそんな意味でさらにいろいろな問題が展開されると思っています。
そういう今後の日程も含めまして、後から事務局にその問題意識をさらに深めてもらうよう説明いただきたいと思いますが、私が申し上げた今日の段取りと、今後の基礎問題小委員会の考えておりますことについて、何かご質問ございますか。
とりあえず、私はこれで発言を終わることにします。
〇記者
確認ですけれども、全9回のヒアリングの結果をどういう形で、何かまとめたりとか。
〇石会長
9回か10回、どれぐらいになるかわかりませんが、6月ぐらい、7月に入るかもしれませんが、ヒアリングの発言、質疑応答、提出いただいた資料、大分手元にたまると思いますので、それを別に中間報告とか、そういうおどろおどろしいネーミングではなくて、我々の研究した成果として冊子にまとめて、「経済社会構造の実像と税制」等というふうなタイトルで、整理しておきたいと思います。これが将来の税制改革論議に大きな威力を発揮するというふうに期待しています。6月か7月ですね。
〇記者
今のスケジュールに関してなんですが、6月か7月にヒアリングをまとめた後の基礎小はどういう議論を想定されているのかという点と、前にも先生おっしゃっていた税源移譲とか所得税の改革に絡んで、ワーキンググループを作って、いろいろと専門的な議論をしていきたいと。それとのリンクというんですか、どういう形で。
〇石会長
前段の問題は、私が個人的に思っていることは、やはり参議院選挙ということがかなり響いてくるのかなという気はいたしております。つまり、年金等々でも大分先送りになってしまっていますよね。そこで、今の政府税調というのは首相の諮問機関でありますし、政治的な動きということを全く遮断した中でできると思っていませんので、そういう意味で、終わった後、参議院選が7月初めと思いますが、それとの絡みを含めて、今言った国から地方の、地方移譲の税源であるとか、恐らくそういった税源移譲で住民税の成り立ち等と、できたら基礎的な勉強という形で、ワーキングでも作って、今月末か来月初めから学者グループでそういうワーキングの基礎研究を始めたいと考えています。
それから、私は個人的に、その他いろいろ芽を出していく必要があると思いますので、環境税みたいな話もいずれ、春以降、つまり京都議定書の問題も含めていろいろ出てくる話でありますので、ステップ2にもいずれ入ってくると。環境省の例のステップ1・ステップ2、ステップ3の話からいって、ステップ1が終わる時期になってきますので、そのような問題もあるでしょう。それから、基礎小としてはいずれ消費税という問題もありますので、それを絡ませた議論というのは当然しなければいけない。これはこの間申し上げたように、海外調査も含めてというお話であります。
そういう意味で、あとどういう問題が出てくるかということでありますけれども、そんなことを考えつつ、それから所得税をさらにどういう形であるべき税制に近づけるかという意味で、この家族の問題とか就業問題とか、例の実像の調査、ヒアリングをした後、これを受けて、具体的に日本の税制に対してどういう議論を展開するかということは、この夏以降やらなければ意味がないと思っていますので、そっちにも精力を注ぎたいと思っています。
そういう意味で、いつまでにどうだこうだと言うことはできませんが、そのうち、恐らく年末なり、また年度改正等々の話が絡んでくれば、そこで自ずから短期的な、直近の重要性を加味した形での年度改正の議論に突入すると、こういう段取りを考えています。
〇記者
今、会長から多少話があったいろいろな控除の見直しですけれども、これも、手をつけるものは今年の年末から手をつけるのか、それとも与党大綱が言っている平成19年度、2007年度の抜本改正に合わせてこういう控除の見直しを考えているのか。
〇石会長
一応、与党税調がある工程表を作ってくれましたよね。2005年、2006年で定率減税かな。2007年以降、消費税ですか。あれについては、余り違和感はないんですよ。そんなことかなと私個人的に思っていましたので。そういう意味で、例えば定率減税一つ、どういう形で議論の中に取り入れるか等々も、実は所得税改革の中では結構というか、非常に重要な問題ですよね。つまり、あれを一挙になくすのか、あるいは数段刻みでやるのか、それは恐らく将来の消費税の件と絡むでしょう。そういうことは、2005年、2006年と言っても、もう2004年度が始まるわけですから、そんな時間的にのんびりするわけにもいきませんから、あの工程表は念頭に置きつつ、所得税改革、消費税改革をまずやって、いずれ時間があれば資産課税までいくかどうかという話だと思いますが、それと並行して、金融所得の一元化というのも夏までに出てきますから、それが一つ大きなイシューになるとは思っています。
〇記者
政府税調としては、昨年夏に中期答申という形で所得税も消費税も今後数年間を見据えた姿を出しているわけですけれども、それは1回リセットして、今からまたどうあるべきかというのをやるのか、それともあれが前提になるのか。
〇石会長
従来、政府税調というのは3年ごとに中期答申を出しておりまして、その中間で「あるべき税制」みたいな形で出したことは、僕の記憶する限り、余りないですよ。そういう意味で、本当を言えば、3年後の中期答申を目がけて今から議論して、ちゃんと3年後に中期答申という名のもとにおける答申をまとめればいいと思いますが、これはこれからの議論の成り立ちであります。ただ、今年は初年度でありますから、何もそう慌てて、何かその辺の材料を集めて、いろいろな形でさらにアピールするようなものを作る必要があるかどうかというふうになると、今年は、僕は基礎作業で、その予備的な資料として使った、さっき申し上げた実像分析のいわゆる資料みたいなもので十分だと思っています。いずれにいたしましても、もう少し内容的にしっかり固めて、何分にも「あるべき税制」という姿を描きましたから、10年、15年先まで見通しをつけたつもりでおりますので、それを先ほどの工程に沿った形で、いかに移し替えていくかという作業の中で、所得税、消費税の中身の議論をしていきたいと思っていますから、これは来年6月、再来年6月になるどうかわかりませんが、それを一つのペーパーにまとめるほどのウエートが出てくるかどうかですね。これは、これからの議論次第だと思います。
〇記者
今日の議論の内容なんかを見ると、世の中の人もおっしゃるとおりだなというか、家族の形態が変わってきているというのは異論がないと思うんですけれども、それを政府税調がやって、要するに税制に落としたときにどうかというのは、なかなか普通の人は想像できないというか、イメージしにくいと思うんですけれども、会長は今どんなイメージ、どういうところに問題があって、どういうふうに改善できる可能性があるのか。
〇石会長
現行所得税ですね。当たり前の家族が崩壊したと言っても、一種のカオスですよね。個人の方に人々のライフ構成が移ったと言いつつも、税制にすぐさま結び付けるというのは、まず難しかろうと。急にはね。しかし、個人単位で課税というものが今後進むのは明らかでありますから、その意味において、従来型のいっぱい扶養家族を抱え、専業主婦を抱えてでき上がった代表的な亭主をイメージしたような所得税というものの変更は、恐らく必要なんでしょうね。これは恐らく3年後ぐらいの所得税、しかし、あるべき税制の中で、それをどれだけ取り込むかというのは時間との争いもありますから、急にある方向を出しにくいとは思います。問題意識としては、家族、就業、価値観、ライフサイクル等々の変化において、自ずから現行所得税のパーツ・パーツにおいて問題点が見つかれば、それについて、こういう方向でやったらいいんじゃないかぐらいの議論はできると思うし、やらなきゃいけないと思います。
〇記者
2005年とか2006年度に地方への税源移譲と併せて抜本的な改革をやるというふうになっていますけれども、それと控除などを見直していくというのは、必ずしも一致しなくてもいいということですか。
〇石会長
一致しなくてもいいと思っています、それは。その中で議論するのは、税源というある固まりの移し方で、構造全体がどれだけ影響を受けるかというのもあるかもしれませんが、それは切り離して、理屈の世界で議論できると思っています、そこは。ただ、やってみなければわからない面もありますけれどもね。
〇記者
中期答申のときは、控除についてもかなり温度差があって、例えば扶養控除とかそういう基本的なものについては、むしろ厚くするとか、そういう概念もあった気がするんですが、どの辺の部分の控除を逆に個人単位にする中で減らしていって、どこを残していこうという、そういうものはあるんですか。
〇石会長
これは、既に中期答申の中に一部書き込んであると思いますし、ここで説明いたしたと思います。基礎的な人的控除というのは、やはり個人単位になっても重視して、家族というものをベースにしてぶら下がってるところ、この家族が変わってきたら、そこは大分変わってくると思いますので、そこは自ずから、これからの仕分けにおいて線引きは可能と考えています、そこはね。現に、配偶者特別控除を今度見直すわけでしょう。それから、年齢だけでという老年者控除とか公的年金等控除にもある方向性が出てきたということですよね。そういう意味で、そういう視点から見ると、扶養関係であるとか特殊な職業とか特殊な属性に属しているような控除とか、まだいろいろあるので、これはこれから整理しつつ、余りにも急激に行くなら基礎控除、扶養者控除等で面倒を見るというか、そっちの方に集約していくといったようなステップは十分とれると思いますので。ただ、それもあくまで税源の問題だと思いますけれどもね。方向性としては、「あるべき税制」というのはそういう格好でやるべきだと思っています。
〇記者
そこは、中期答申のときから変わっては。
〇石会長
変わっていませんよ。そんな出した後すぐ変わるんじゃ、何のための中期答申かわからない。変えるべきところは今のところございません。清々粛々とやっているつもりです。
(以上)