第28回基礎問題小委員会 議事録
平成15年5月13日開催
〇委員
ただいまから、第28回基礎問題小委員会を開催します。
本日の進め方は、すでに「議事予定」でご案内のとおりでございます。海外報告と、年金関係、社会保障関係で厚労省の方々のご説明、それから環境税の話、そういう三つのテーマにつきましてこれから2時間ほど議事を進めたいと思います。
冒頭、海外視察報告の案件を二つほど報告させていただきます。
実はこの連休の前後にかけまして、奥野さんと中里さんが北欧、スウェーデンとデンマークへ、私と水野(忠)さんでカナダ、アメリカと2カ所を回ってまいりました。主としてテーマは、高齢社会と税制、あるいは金融・証券税制等々の話がございまして、今やっておりますことについて直接的にかなりいろいろな意味での情報が集まったと思います。
それでは、お手元に、「カナダ、アメリカ」という資料が配布されていると思いますが、最初に私のほうから15分ほど時間を使いまして、どういうことをし、どういう発見をしたかということをご説明したいと思います。
4月27日から5月4日まで、フルに使いましてカナダとアメリカを回ってまいりました。カナダのほうは、財務省、関税歳入庁、それから、人的資源開発庁というのは、日本で言うと厚労省です。全カナダ労働会議というのは、日本で言うと労働組合の連合に当たるところであります。アメリカは、財務省、歳入委員会、CATO、ブルッキングスのシンクタンク、IRSとIMF、社会保障庁といったところを回ってまいりまして、短期間でございましたけれども、かなりの成果が上がったと自負いたしております。
ただ、すべて書くわけにいきませんので、テーマを四つに区切りました。カナダとアメリカに共通するものとして、社会保障と税制についてと納番について。アメリカについては、ご案内のとおり配当二重課税の撤廃をめぐりましてブッシュ提案、これがどうかということ。カナダにつきましては、カナダのGSタックス、日本で言う消費税、これについて幾つか面白い論点がありましたので、個別のテーマとしておのおの取り上げました。
まず、社会保障と税制でございます。税制全般についての議論があったのですが、特に年金に絞りますと、次のような整理ができるかと思っております。
カナダは典型的な3階建ててでありまして、1階建てが老齢基礎年金と、補足給付年金と言われております、全部税で財源調達をし、保険とは名前がついておりますが、税による1階建てで、主として国民全般にいくという意味においてではございますが、高齢の低所得者層が大体恩恵に浴している。ただ、補足給付年金というのは、全部に来るわけではございません。
2階建てはCPP(Canada Pension Plan)で、これは所得比例年金でございまして、保険料で全額賄われている。
3階建ては、今度は税制の優遇措置を使いまして、いうなれば適格私的年金という世界で1階建て、2階建てを補うという格好になっております。
カナダの場合は、おのおのいろいろな仕組みがございまして、1階建てのところにつきましては、「クローバック・システム(claw-back-system)」というのがあって、ある一定額の所得を超える高額所得者にとっては給付されたものを戻さなければならないことになっております。
それから、CPPの2階建ては、やはりいろいろな改革があったのですが、保険料率を9.9%に固定しようという提案が最近ございまして、長い目で見て、これでいいという計画を立てたわけです。これは、人口推計に自信を持っているようでありますが、それを前提にいたしまして、運用面でもしっかり長期的に収益を上げるとか、積立金のために保険料を計画的に上げる等々があってこういう案になっているようであります。
年金税制は、2ページ目の上に書いてございますが、基本的には、日本みたいに入り口、出口、真ん中、その辺がはっきりしないままに緩くなったり等々していますが、カナダの場合は、1階建てのところは給付の段階で合算して課税される。これは拠出はありませんから、当然出口のところだけかける。
2階建てのところは、拠出のときにその額の16%が税額控除されたあとで、給付のときでは通常所得と合算される。
あとは、適格年金、私的年金の税制運用のときには給付時に原則課税される、こういう格好になっております。
いろいろな議論をした結果、非常に自信を持っているということがうらやましい限りでありまして、3階建ての思想、目的がはっきりしているwell-balancedな制度であるということをはっきり言っておりました。先ほどもちょっと申し上げましたように、1階建ては低所得者層、国民全体に及びますけれども、クローバックがあるように、低所得者を念頭に置いたシステムで、それにGISというやつがある。2階建ては、中産所得層が自分でちゃんと保険料で納めて、あと、退職時の7割くらいを代替する目安でその制度を運用しているし、3階建ては、余力のある人が自助努力で自分の私的年金の拡充に、税をタックス・アシステッドとか、タックス・アシスタントと言っていましたが、そういう制度であるという形であります。そういう意味で、どこかの国際機関がカナダの年金制度が一番いいと言っていたという議論も紹介いただきました。
アメリカはカナダと違ってはっきり3階建て云々の話ではなくて、広い意味の例のOASDIというものがあります。老齢遺族障害保険として広く一般被用者や自営業者をカバーした年金がございます。ただ、これは必ずしも所得代替率、つまり退職後の所得の保障が高くないので、さまざまな税を使って私的年金でやりましょうと。カナダの3階建てみたいなところがアメリカではかなり発達しているというふうに印象を受けました。
年金のほうは、ここにも書いてございますように、OASDIのほうは、年金給付の50%とその他の所得を合算して3万2,000ドルを超えると、当該給付を半分入れるとか等々の制度ができ、さらに、この入れ方がその後多くなったといったように、年金課税は強化されています。
ただし、長い目で見ると、これも赤字になるのではないかという心配をしておりまして、民営化しようかどうかという議論があり、CATOは民営化賛成で、ブルッキングスが反対だといったような話があって、意見は割れているようであります。
それから、2001年5月にブッシュ大統領が言った、個人勘定の創設を含めた部分民営化という話があり、この辺が一つの話題になっていると思います。
年金課税につきましては2ページから3ページに書いてございますが、入り口のほうの控除はなくて、出たところで半分かけるとか、運用しているときにはかけないとか、いろいろなことになっておりまして、一応整然としているという印象を受けました。
カナダもアメリカもうらやましいことには、日本ほど高齢化の心配がないですね。出生率も日本みたいに1.36とかいう話ではなくて、1.0 台のかなり上のほうだし、何といっても移民を受け入れているというので、拠出側のほうの人口が減る心配はあまりしていないようであります。
したがって日本に対するコメントは、人口政策等々、あるいは年金支給開始年齢を引き上げろとか、退職時期を引き上げろとか、そういった外から見てのコメント。それから、最終的には経済回復にのせたあと、給付カットをする、保険料を上げる、あるいは税を入れる等々で総合的にやらなければいけないのではないかというようなことを、月並みではございますが、そういう意見を聞いてまいりました。
納番は、15年前にカナダ、アメリカ両方行っておりまして、私もそのときに参加しておりました。そのときと比べますと、正直申し上げて、納番の守備範囲がすごい広がったという印象です。例えばアメリカで言うと、キャピタル・インカム、つまり利子・配当、キャピタル・ゲインだけをマッチングスするための納番というイメージでありましたが、今回は、賃金なり財産所得なりすべからくこっちにカバーしたという印象であります。
まず、カナダのほうです。制度の意義は、まさにいま申し上げたように、各種の所得を払い側と受け取り側で情報の申告書を出させてマッチングするというところにあって、おそらく番号がなければ、コンピュータ等の使い勝手が悪いので、ここに「マッチングが非常に困難」と書いておりますが、僕の感じではほとんど不可能なのではないかという印象を受けました。
カナダの場合は、ソーシャル・インシュアランス・ナンバーでありますから、「社会保険番号」のほうが訳語としてはいいかもしれません。ただ、アメリカが社会保障番号と言っていますので合わせましたが、訳語で、シン(SIN)と言っていますから、最終報告書では「社会保険番号」にしようかと思っています。これは、特定の25分野についてはっきり法律で縛っているという形であります。
それから、ここにちょっと書いてございますが、個人の同意があれば使ってもいいよというようなことはあるようでして、説明もちょっと聞きましたけれども、選挙のときにどうだとか何とか言ってましたけれども、中核はやはり特定分野の公の場が使う25分野だと思います。
それから、プライバシー・コミッショナーみたいなのがあって管理しているということ。
それから、何のかんの言っても、番号を入れるなら、給付側、社会保障給付の行政を一部代行するというリンケージが重要である、これがおそらく支持を得る、そういうもとになるという話。
アメリカの場合は、マッチングということの、やる、やらないにかかわらず、これがあることによってえらく牽制効果があるよというお話をいただきました。先ほど申し上げたように、マッチングの手続きでは、現在、27項目についてやっているという意味で決して利子・配当、キャピタル・ゲインだけではないということであります。
時間をだいぶ使いましたので少し先に飛ばしますが、アメリカの担当官から、もし日本で入れるならこういうことを考えろと言われたことについて、2点、関心を持った点は、広報活動をしっかりせいと。IRSは、年中と言っていいくらい納税教育集会を行って納番の意義について説いている。
それから、やはり最初から利用可能な民間の機関数を減らすとか、はっきりどこを使えるということを明確にしてから番号の導入を始めろと。つまり、アメリカみたいなのはソーシャル・セキュリティ・ナンバーから、タックス・フェーズ・ナンバーにだんだん移行しましたから、いうなればパッチワーク的に利用範囲を決めていって、ルーズになって、そこがプライバシーとか何とかという点にかなり触れたらしいんですね。そういう経験から言うと、最初からナンバーの先進国の状態を調べてぴしっと決めろというアドバイスをもらいました。
それから、アメリカのブッシュ提案でございます。アメリカはどこへ行っても、税制一般の議論をしようと思ってもすぐ配当の二重課税のほうにいってしまいまして、これについて議論が加熱しておりまして、ご存じのように下院と上院で違った案が出たり、減税の幅が違ったりして、まだ決着はついておりません。そういう意味でこれからどうなるかということですが、どうもまるまるブッシュ提案のオリジナルプランは通らない感じですね。
二重課税撤廃をなぜやるかということは、ひとえに資源配分の効率性、あるいは、歪みをとるという意味における中立性の原則を貫きたいと。ご存じのように、配当が二重にかかっているということは、配当は資金調達上利子に対して非常に不利である、そういう意味では株式市場を歪めている、これを直すのだと。そこでいろいろな方法を考えたけれども、要するに何通りもありますよね。その中で個人の段階の受取配当控除が一番シンプルですっきりしているだろう、こういう議論であります。
5ページ以降にその中身は書いてございます。詳しくはいずれ機会を設けて述べたいと思いますが、かなり細かいこともやっておりまして、キーワードは「執行方法」の[1]に書いておりますEDA(ExcludableDividends Amount)という概念です。ある上限を決めまして、そこまではやっていいと決めるのですが、そこに達しない、つまり一部内部留保に残るものもみなし配当という形で面倒を見てやろうということまで考えておりまして、税務行政は、金融機関のサポートを得ないとそういう面倒くさいことはできない。しかし、財務省当局のほうでは大いにできると言ってましたから、その点はやや楽観しているかもしれません。
それから、効果としては5%~10%ぐらい株価を上げるのではないかということを言っておりますが、基本としてはやはり赤字が拡大することによるさまざまな弊害が心配されるのが、この二重課税撤廃に賛成の派でも、財政歳入中立でやるべきだという意見が多かったという印象を持っております。
最後に数分で、カナダの付加価値税についてご説明いたします。カナダはご存じのように「Goodsand Services Tax」というのをやっておりまして、日本より遅れて入れました。そこでそこそこうまくやっているという印象を受けましたし、それからカナダの場合には、低所得者対応という形でいろいろな給付がある。その給付にさっきの番号制を使ってやっているという、その辺はきわめて考え方がしっかりしていると思いました。
それから、例のGSタックス・クレジットという、低所得者層にタックス・リファンドをするというシステムがあって、これについて私は関心を持ちました。ただこれは、直接税の世界で一旦払ったものを税額控除してやるというのではなくて、そもそも間接税でありますから、誰が払ったかわからないのですけれども、低所得者層にとって食料品にかかるGSタックスぐらいは返してやろうという意味で、いうなればキャッシュ・トランスファーをやるというだけで、クレジットとは言ってもある意味では歳出面での対応ですよね。そういう意味では、わが国ですでにこの税調でも議論していますように、消費税の逆進性を直すために歳出面で面倒を見るとか、あるいは、資産課税のところで累進性ということも踏まえて議論するといったような話の一環であるととらえることも可能と思っています。
最後、「Harmonized Sales Tax」、これは話題になったかと思いますが、一部の州、具体的にはノヴァスコシアとニューブランズウィックとニューファンドランドの3州が、連邦のレベルのGSタックスと州の小売売上税をドッキングしたという意味で、ハーモナイズ--統合と訳すのがいいかもしれませんが、連邦と州二つ別々に小売段階で、7%か8%かな、それを別々にかけるのは大変煩瑣なので、合わせて15%取るような格好がいいではないかという形のものであります。
ただ、日本の地方消費税と根本的に違うのは、おのおの個別にあったものを統合したという意味において、結果として同じ税率でありますが、持分がはっきりしているし、そもそもが税務上の簡素化のためにやっているということですね。ただ、これは、そこそこいろいろな面倒--小売売上税の欠陥もあるし、付加価値税の欠陥もそのまま抱き合わせでやったという形で、これがそのまま根づいていないのは、他の追従する州がないということだと思います。そういうわけで二つあること自体が問題なのかもしれません。
以上、簡単ながら、カナダの報告であります。
では、北欧の報告をお願いします。
〇委員
次の資料の「税制調査会海外視察報告(スウェーデン、デンマーク)」というものですが、ゴールデンウイークの少し前の4月23日・水曜日から30日・水曜日まで、2週間ほどかけまして、スウェーデンとデンマークに私と中里委員が参りました。スウェーデンでは、社会保険庁、それから、これはスウェーデンもデンマークもですが、国税庁と財務省、それぞれに対応する独立している庁になっているケースが、デンマークなどはそうですが、そういうところにも行きました。それから、ストックホルム大学のメルツ教授、これは法学部の税法の教授です。それから、デンマークのダンスケ銀行、プライベートバンクで一番大きな銀行、それから財務省、デンマーク産業連盟というのは日本経団連みたいなものです。それから、税務省は国税庁みたいな独立した省ですが、それから、コペンハーゲン大学のソレンセン教授、こちらは経済学の税の専門家でございます。
訪問先における聴取内容ということで、大ざっぱに所得課税の問題と年金、社会保障の問題及びその関連を中心として聞いてまいりました。
まず最初が、個人所得課税の控除制度と社会保障給付の課税関係についてということですが、ついでですが、両国とも所得税はかなり基幹的な税目になっています。しかも地方税というのは3割ぐらいあって、それに賦課的にむしろ国税がのっかっているという形になっております。
両国の所得税の控除制度ですが、一つ面白いのは、人的控除としては基礎控除のみという、基本的にはそれだけに近い。それ以外の控除はきわめて少ない。主なものとしては社会保険料控除が存在している程度だということです。歴史的には、ほかにも多くの人的控除等があったようですが、その後一貫して控除の整理・縮小を行ってきているということで、若干仕組みは違うのですけれども、基礎控除が中心的。
デンマークでは一律の基礎控除、スウェーデンでは、非常に変わった仕組みの基礎控除をやっていて、これが何なのかよくわからなくて、ずいぶん聞いたのですが、何であるかというと、基礎控除が所得が少ないときは少ないんですけれども、それが一時増えて、あるところからまた減り出す。そういう意味で言うと、限界税率はほぼ一定ですから、実効税率は最初むしろ逓減する。所得の少ない人のほうが逓減するという非常に奇妙な形の基礎控除をしているので、何だろうというのでいろいろ聞いたのですが、どうもこれは政治的な労働組合からの圧力の妥協の産物らしいということが、我々が一応理解したことでございます。
では、この基礎控除をどういうふうにとらえるかということですが、我々が聞いた限りでは、彼らが考えている基礎控除というのは、最低生活水準の保障とか、担税力の調整とか、そういうことを考えているわけではないということで、主として基礎控除を設定している趣旨は、一つは累進構造です。つまり限界税率が等しいので、基礎控除をある程度とることによって実効税率が逓増することを期待する。あとは、少額の徴税事務負担を回避するために、少額の所得者からは所得税を徴収しなくていいようにこういう仕組みがつくられているということのようでございます。
それから社会保障給付ですが、両国とも、社会保障給付は別に控除等を何もしないで、基本は課税所得になっているということのようです。課税所得の範囲は微妙に異なりますけれども、デンマークでは一切の収入が課税所得で、スウェーデンは一部、例えば生活保護手当て等は非課税給付ですけれども、基本は、給付のほうは課税だというのが両国のスタンスのようでございます。
これについても従来は非課税所得扱いしてきたけれども、それを課税所得扱いに変更してきている。これはなぜかというと、国民側に給付も収入であるという意識を高めようとした、納税者として社会に参画する意識を高めようとしたとか、それから執行から見れば、できるだけほかの収入と一緒にとれるようにして執行を容易化したという面もあるようです。
おそらく日本にとって関心のある事項は、こういう非課税所得扱いにしていた給付を課税所得扱いにしたときに政治的な反発は生まれないのか、ということだと思います。これについては両国の場合とも、課税扱いすると同時に給付水準を上げて手取りは変わらないようにしたので、実質的には問題が起きなかったということで、日本にはあまり参考にならないかもしれません、その限りではですが。
その他、少子高齢社会に向けた就労促進策をいろいろやっていて、例えば女性を就労させることで配偶者控除などは採用する気はありませんとか、就労のインセンティブを高めるために、失業手当てとかそういう手当てとは違って、勤労収入に関しては税額控除という優遇措置を講じて勤労のインセンティブを高めようと、そういうことを行っているということです。
年金の制度に移りますけれども、スウェーデンが1999年に抜本的な制度改革を行ったことをご存じの方はご存じだと思います。それについてまず簡単にご説明したいのですが、その前の制度は、基本的には日本によく似た制度であって、1階部分に一般財源をもとにした基礎年金の制度があって、2階部分が社会保険料をもとにした報酬比例年金という仕組みでした。
これが、日本も同じでしょうけれども、高齢化の進展と年金財政の悪化ということがあって、99年に抜本的なスウェーデン方式の社会保障制度をつくりました。考え方は、2階という考え方をやめて基本は報酬比例のみの1階建てとする。ただし低所得者層には、低所得者層に限った一般財源による補足的な最低保障年金というものをつくる。ですから年金としては、所得が増えると保険料率が増えて、それに伴って給付も増えると、全部比例的にいくわけです。ただ、低所得者層のところだけ少し穴埋め的に、最低保障年金というものがインセンティブを崩さない形で入ってきているというのが新しい仕組みです。
この新しい仕組みはいろいろとほかにも新しいところがあるので、これからお話ししますが、そのほかに、公的年金以外では、企業年金制度と個人年金制度があります。ついでですが、さっきの新しい仕組みは20年間かけて徐々に古い仕組みから新しい仕組みに移行していくという形になっています。
この新しい仕組みですが、まず第一に、報酬比例年金の保険料率、つまり所得のうち保険料に回る割合は18.5%ということで一応合意はできています。これは、16%が賦課部分で、2.5%は積立部分ですが、2.5%の部分は何か政治的な妥協であとからつけ加わったということのようで、基本は16%の賦課部分が目玉だということです。
この部分はちょっとわかりにくいかもしれませんが、賦課部分は「概念上の拠出建て」、ないしは、確定拠出という言い方をしたほうがいいかもしれません。そういう確定拠出ないしは拠出建てなんだけれども、それが普通のものとは違って、概念上の、あるいは仮想的なという形になっています。拠出建てにすることによって給付と負担の対応を明確にしている。拠出建てにしたために各被保険者に仮想勘定というものができて、幾ら積み立てたかという額が仮想的に出てくることになっていて、それがあたかも市場で運営されたかのように個人別に年金資産が管理されて給付がついてくる。その利回りがみなし運用利回りというものになっていて、これは、具体的には平均賃金上昇率が当てはまるということになっています。
その上で今度はマクロで見て、それをやっていると当然年金のシステム全体の財政状況が問題になるわけで、これに関しては年金財政のバランスシートというものをつくって、もし資産側が負債側に比べて少ない場合には、その負債をカットするために、給付を比例的にざっと切るというような自動財政均衡メカニズムというものをつくる。給付を切るというのはみなし運用利回りを修正するという形で調整するわけですが、そういう仕組みをとっています。
今回の目的はこれよりも二元的所得税なので、簡単にあと残った年金の問題を説明しますが、基本的に年金税制に関しては年金保険料が控除され--両国によって違いはありますが、いろいろな形で基本的には控除されて、給付時は課税になります。それから運用益というものが、公的年金部分はともかくとして、それ以外の私的年金とかそういう部分に関しては課税される形になっています。
それに加えて特にスウェーデンの場合には、国民が長く働くことで、年金生活入りをすることを繰り下げるインセンティブ、つまり長く働いて社会保険の給付を受けなければ受けないほど、より多額の月当たりの給付がもらえるというインセンティブの仕組みが入っているのももう一つ面白いところです。
デンマークはこれは全く別の制度で、国民年金というのは完全な税方式で、それに加えて労働市場貢献年金、特別年金、貯蓄という積立方式の年金がくっついている。それにあと、普通の労働市場年金、個人年金という私的な年金がくっついているという形式になっています。保険料は控除されて、積立金は特に私的な部分に関しては運用益に課税されて、給付のほうは課税されるという、先ほどから申し上げている形になっています。
もう一つ、我々が関心を持っている非常に重要な話の二元的所得税ですけれども、二元的所得税はたぶん導入の背景としては、一つは、80年代後半から90年代前半にかけての北欧での高インフレ、非常に高い率でのインフレが進行したこと。2番目が、キャピタルフライトの発生。3番目が、租税回避行為の発生ということが事情だと思います。
高いインフレがあって、しかも総合課税であり、しかも、例えばですけれども、帰属家賃課税が行われていた。そのほかにもいろいろなことはありましたけれども、そういうことのもとで支払利子控除が認められていたので、お金をたくさん借りてきて、例えば家を買う。そうすると、インフレで利子率が非常に上昇しているので、その支払利子控除が多額にわたって資本所得はむしろマイナスになるという傾向が非常にあって、タックスベースがイロージョンを起こした。
それから、高いインフレで利子率が上がったにもかかわらず、これは見かけだけ利子率が上がっているわけですが、それに対して高い税率がかかったということで、事実上、実質利子率がマイナスになってしまって、その結果、例えば海外に資本逃避が生じるということが起こった。あるいは租税回避行為というのは、さっきお話ししたのも一つの例ですが、例えばお金を借りてきて家を買う、建築して、それで税を逃れて儲けようという租税回避行為が多発した。こういうことを背景に二元的所得税ということが導入されました。
二元的所得税の理念形として、我々、少なくとも私なんかが日本で考えていた形というのは、ここに書いてあるa、b、c、dぐらいのもの。まず、勤労所得と資本所得を分離する。分離ということの意味ですが、私は、少なくとも損益通算をこの間ではしない。つまり、負の資本所得は勤労所得とは相殺できないというふうに考えていたのですが、そういう意味での分離をする。
bの勤労所得は累進税率、資本所得には低い比例税率ということで、資本所得間の税率を一定にして租税回避行為を避ける。それから、資本所得内での損益通算を可能にして、ここでもさまざまな中立性を保つ。それから、法人税と資本所得の比例税率、勤労所得の最低税率を均一する。
これが二元的所得税の理念形かなと思っていたのですが、行ってみると、ある意味でちょっとショックだったのですが、実はスウェーデンとかデンマークではそういった理念形は事実上実現していない。スウェーデンは一時それに近いところまでいったのかもしれないけれども、最近違うし、デンマークはかなり違うというのは、私どもの印象でした。
そういう意味で言うと、どうも彼らがやっていることは、我々が考えたような理念形というよりは、むしろ支払利子控除をどう効果的に制限するか。そうすることによって租税回避行為を制限したり、タックスベースのイロージョンを避けるという、実際的な(pragmaticな)税制であると考えたほうがいいのかなというのが今回の我々の印象です。
その上で、理念形との違い、どこが具体的に違うのかということを簡単に最後にスウェーデンとデンマークについてお話しします。
スウェーデンの場合には、資本所得がマイナスになった場合、とりわけ利子支払いが非常に多くなった場合には、例えば10万krまでは30%。クローネというのは、スウェーデンで15円、デンマークで17円ぐらいだったと思いますが、10万kr以上は21%という額を勤労所得から税額控除できる。相殺はできるけれども、所得控除ではなくて税額控除にしているということです。そういう意味で、先ほど申しましたような勤労所得と資本所得を分離することが必ずしも行われていない。
ただ、彼らの言い分としては、所得控除ではなくて税額控除をしているのだから、ある種の特別減税措置であって、一応二元的税制は保持しているのだというようなディフェンスを彼らはしていました。
それから、資本所得の中でも、キャピタル・ロスは70%までしかほかの資本所得と通算できないとか、キャピタル・ロスの中でも株式譲渡損はほかのキャピタル・ロスと70%しか通算が認められないとか、異なる資本所得間での損益通算にはかなり制限があります。これも基本的には、租税回避に利用しようとする誘因が常に働くためにこういう制限をしているのだということのようで、要するにプラクティカルという面と理念的な面とがあって、必ずしも彼らは純粋形である必要はないというふうに考えているようです。
デンマークの場合にはもっといろいろ違いまして、資本所得を二つに分けていまして、資本所得のうちの3年超保有の株式譲渡益とか配当は、株式所得として全く分離して課税しています。それ以外の例えば利子所得とか、そういう資本所得は勤労所得と合算してしまって、普通の意味での総合所得の形で累進課税している。株式所得についても2段階の累進ということで、税率の均一性はないということで、我々が思っている二元的所得とはずいぶん違う税制になっているというのが私どもの印象です。株式所得の中でも、スウェーデンと同じようないろいろな制限があるようです。あるいは、キャピタル・ロスの中でも同じような制限があるようです。
最後に、書いていないことですが、北米のほうから納番についてのお話がありましたので、一言だけ触れますと、スウェーデンもデンマークも納税者番号というものは使っております。私が個人的に面白いなと思ったのは、両国とも納税者番号を使って、勤労所得と金融所得、資本所得に関しては、国税庁といいますか、当局のほうに額があがってくる。それをもとにして各納税者に対して申告納税書類を当局の側が作る。作ったものを送って、これでいいかと聞くというような仕組みも行っているようです。もちろん、それではいやだと大幅に書き直す人もいますけれども、かなりの人はそのままでいい、あるいは若干の修正でいいという形で応じているようです。そういう意味では納税者番号を使うことによって、コンプライアンスコストがかなり軽減されているというメリットもあるのかなというのが私の印象でもありました。
以上です。
〇委員
ありがとうございました。
それでは、10分ほど時間をとりまして、北米と北欧の今の報告につきましてご質問なり問題提起がありましたら、ぜひ伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。
〇委員
簡単な質問ですけれども。
年金制度のところ、スウェーデンの方式、スウェーデンの改革、これは日本でも非常に注目されているわけですね。これは、現実問題として日本でも採用できるような印象を持たれたのかどうか。
それからもう1点は、二元的所得税のほうですけれども、理念形と実際と違っている。純粋形である必要はない、必ずしもそうある必要はない、そういう考え方をとっているというお話でしたけれども、これは、今はこういう姿なんですけど、いずれ理念形のほうに接近していくんだと、そういう意図はあるのかないのか。その2点をお聞かせ願いたいと思います。
〇委員
最初のほうは、これは最初の日に事務局の方にヒアリングしていただいたので、そこからの又聞きということになるのですが、そういうことと、あと書類で見た限りでは、私の印象では、まだ移行が始まったばかりであって、要するに古い仕組みを20年間かけて移行するのですが、まだ1年か2年たったばかりで、そういう意味で言うと、具体的にどういう問題が発生するのかというのがまだ完全には見えきれていないというのが実情ではないかと思います。
ただ、プランで見る限りは非常にきれいな仕組みなので、少なくともきちんと日本で受けとめて考える必要性は非常に高いことは事実だろうと思います。
二元的所得税に関しては、正直言って、いろいろ見てびっくりして、我々としても整理しかねていて、いろいろ事後的な疑問がたくさん出ていて、これから向こうに聞いてみようかなという部分も結構あるのですが、お答えのほうから言うと、我々が考えていた二元的な所得税、ここに「理念形として」と書いた二元的所得税に行こうということはなくて、むしろそこから離れてきている。それに対して特に違和感を彼らは感じてはいない。さまざまなポリティカルな妥協はあるにしても、それで特に大きな問題が発生しているとは考えていないように見受けました。
〇委員
1階建の新制度の報酬比例年金は、これは財源は保険方式ですね。
〇委員
そうです。デンマークは税方式ですが、スウェーデンはそうです。保険です。
〇委員
納税申告書を当局が作ってくれるというのは非常に楽でいいと思うのですけれども、これが可能なのは、捕捉がまず自信があるということ。それから、税制がシンプルであるということ、あるいは人の数が少ないとか、どこらが主な背景なのでしょうか。
〇委員
まず第一に、税制がシンプルだということでしょうね。ただ、控除とかそういうものがついたからといって、コンピュータにプログラムさえ入れておけばそんなに問題はないような気もするので。すみません、実はそこはそういう問題意識ではあまりちゃんと聞いていないので、お答えはちょっとしにくいかなという感じがします。
むしろこういうふうにお考えいただいてもいいのかもしれません。要するに日本では課税所得に関しては源泉徴収でやってしまっているわけですね。彼らはそれをやっていないので、逆に今言ったような形でやっている。それに、金融所得に関しては納税者番号がくっついているのでそれでできる。ただし、どこまで金融所得に関して彼らが捕捉しているのか、特に海外の部分などについて捕捉しているのかは実は聞く時間がなかったということです。
〇委員
よろしゅうございますか。厚労省の方がお待ちでございますので。
いずれにいたしましてもこの両方面の報告書は、もう少し精査致しますので、その段階でまた幾つか質問が出たら話題を提供していただきたい、このように考えております。
それでは次に、我々のメインのテーマでございます「少子高齢化と税制」につきまして、きょうは厚生労働省から、お三方おいでいただいております。
ご紹介いたします。政策統括官、参事官、年金局総務課長、お三方から、現に今、年金制度改革等々でご議論いただいている内容を、これからご紹介いただこうかと思っております。
言うまでもなく、経済財政諮問会議であるとか、財制審等々でもこの問題は既に議論が始まっております。我々としても、理論的な話はこれまでずいぶんやってきましたが、実際的なところで何が起こっているかということについての情報を受ける必要があろうかと思います。
30分ほどの時間しかございませんが、ご説明いただけますでしょうか。よろしくお願いします。
〇委員
厚生労働省の政策統括官でございます。
本日、ただ今ご紹介がありましたように、社会保障の現状等について説明せよというテーマが与えられているわけでございますけれども、社会保障をどう改革するかということにつきましては、少子高齢化を受けまして、これまで毎年のように、年金、医療、介護、そういった分野で改革を繰り返してきたわけでございます。当面は、来年の次期年金改正、財政再計算というのが一番大きな課題でございまして、これにつきまして、経済財政諮問会議の場を含めましてさまざまな角度から検討が行われているところでございます。
こうしたことを踏まえまして、私ども、社会保障審議会という議論の場がございまして、ここで実は昨年の12月から制度横断的な検討を審議していただいておりまして、この6月を目処にとりまとめを行っていただきたい、このように考えております。
本日は、お手元に資料ございますけれども、これに即しまして、社会保障審議会での議論も下敷きにしまして、現状と課題につきまして担当の参事官から説明させていただきたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。
〇委員
社会保障参事官でございます。引き続きまして、私のほうからご説明させていただきたいと存じます。
きょう、お手元に私のほうから準備させていただきました資料、3種類ございまして、縦長の「税制調査会ヒアリング資料」、これが言ってみれば社会保障の現状と課題につきまして粗筋を書いた資料になっております。
それから、横長の「参考資料」と大書いたしましたやや厚めの資料、これがデータ等についてつけさせていただきました資料でございます。
それから、特にこちらの調査会から年金制度について細かな基礎数字がご入り用というご要請がございましたので、「年金制度に関する参考資料」というのをつけさせていただきましたが、最後の資料につきましては、特にお尋ねがある中で補足させていただくということで、こちらからの説明は差し控えさせていただきたいと考えております。
本日ご説明申し上げようと思っております内容は、大きく分けて三つの部分がございまして、一つは、本来のご要請でございますところの社会保障の現状と課題についてでございます。
2点目が、ただ今統括官からも少しご紹介申し上げましたが、現在の社会保障改革、とりわけ社会保障審議会における検討状況をお伝えするということでございます。この点につきましては、5月20日には税調の委員の先生方と社会保障審議会の委員の先生方で意見交換も予定されていると承っておりますので、そのご参考に供していただけれはという趣旨でございます。
3点目は、「社会保障制度から見た税制について」ということで考えているのですが、これは税調のご検討と直接かかわる事項とは承知していますが、社会保障審議会におきましてはまさに5月20日の日にこれから取り上げる課題でもございますので、その点、やや私どもの勝手なご説明に終わるかもしれないということをあらかじめご留意いただきたいと存じます。
まず、社会保障の現状と課題。お手元の参考資料の横長のほうでございますけれども、こちらの1ページのほうをまずお開きいただきたいと思います。ここに、わが国の社会保障制度の概要を端的に示させていただいております。いわゆる「揺りかごから墓場まで」という意味で横軸が時間軸になっているわけでございまして、縦に、保健・医療、社会福祉、所得保障、労災・雇用、公衆衛生まで、社会保障の守備範囲を示すという形になっております。
これが現行の制度でございますが、これを歴史的にひもときますと、真ん中辺ぐらいにございます所得保障の下の生活保護、これに代表されます、いわゆる救貧施策というものが、言ってみれば日本における戦後の社会保障のスタートでございます。その原因になっている病気や障害、離・死別、あるいは高齢、こういった個別の事情ごとに即した個別施策を講じるという形で老人福祉法をはじめとする各種法律が整備されましたが、これと並行する形で、疾病の治療、あるいは所得の補てんにつきましては、あらかじめ保険料を拠出して、相互扶助の仕組みでこれに備える社会保険が整備された。これで防貧対策というものは整備されて、ここから社会保障制度がスタートしたと言えようかと存じます。
さらに、高度経済成長の過程で、田舎における過疎化と都市の過密化が並行して進みますとともに、人口の高齢化が急激に進んだことによりまして、家族による扶養機能の低下を補う形で社会保障制度がいわば普遍化していった。これが、この絵で申し上げれば、真ん中の障害福祉のところに端的に示しておりますが、在宅サービスの充実、これは老齢施策等についても同様でございます。それから、介護や保育サービスが普遍化すると同時に多様化していった流れということが言えようかと存じます。
また、先ほど、社会保険の仕組みで年金や医療の仕組みが講じられたと申し上げました。日本におきましては、農業者、自営業者の制度とサラリーマンの制度の2本立てということでスタートしたわけでございますが、就業構造の変化に伴いまして、医療保険や年金におきまして、高齢者を支えるための制度横断的な給付負担の仕組みが必要になってまいりました。この絵で申しますと、上のほうの右側にございますが、老人保健の仕組み、あるいは年金のところで言えば、基礎年金の仕組みといったものが必要になってきたという流れがございます。
社会保障の機能、近年、セーフティネットの機能であるというふうに私ども厚生労働白書等においても説明申し上げているところでございますが、セーフティネットは字義のもともとの意味からいたしますと、サーカスでの綱渡りのときに落ちて怪我したり亡くなったりしないように網を張る、このネットが語義であると承知しているわけでございますが、その意味では私どもがセーフティネットと申し上げる場合には、単に綱から落ちて死ななければいいということにとどまらず、ただ今申し上げましたような多様なニーズに広範に対応でき、生涯を通じて安心して生活できる仕組みという意味でセーフティネットという言葉を使っていることだけ、最後につけ加えさせていただきます。
このような社会保障を利用する側の国民のほうの給付と負担の仕組みを、お手元のこの資料の30ページの「参考17」で概観いただければと存じます。この資料は、ただ今申し上げました社会保障のうち、個人給付に還元できるようなもの、プラス、社会サービスという観点から教育関係の経費も含めて作ったものでございますけれども、教育のところを除いて社会保障のところを見ていただきますと、おわかりのように、医療、介護、あるいは年金といったような高齢期に手厚い給付の仕組みと、それを賄う負担を、税、保険料、自己負担という形で見た場合に、働き盛りに大変大きなものになっているということが言えようかと存じます。このような形で国民がサービスを享受し、負担を行っていることを念頭に置いて社会保障の問題を考えていくという認識を持っていることを、ご承知いただければと存じます。
わが国の社会保障制度の特徴としてよく挙げられますのが、国民皆年金、皆保険。この点は、例えばアメリカのように一般的な医療保障のない国と比べてみて、大変特徴的な仕掛けになっております。
また、それを財源の面で言えば、社会保険料中心に実施されているということで、例えば医療制度等が基本的に税財源で行われているイギリスなどの制度と比較してみると、その違いが特におわかりいただけるかと存じます。
この点、横長の参考資料の28ページをお開きいただきますと、ただ今申し上げました財源の国による特徴が対GDP比という形で示されております。わが国の場合、アメリカと並んで社会保障の対GDP比が低いこともさることながら、その構成を見てみますときに、社会保険の保険料のウエートの高い独、仏、それから公費負担のウエートの高いスウェーデン、英国に対してまして、どちらかというとアメリカと日本は社会保険が中心で、公費がこれを補完する形であることがこの図からお読み取りいただけようかと存じます。
続きまして、次の29ページをお開きいただきたいと存じます。ここでは、機能別社会保障給付の国際比較を行っております。日本の場合には、特にドイツ、スウェーデンといったヨーロッパの国と比較していただきますと、高齢関係の経費、これは年金、医療、介護といった経費でございますが、それと、老人を除くところの保健医療経費、医療保険の大宗を占めるものでございますが、この比重が大変に高くなっておりまして、家族、子供といった部分の経費が特にドイツ、スウェーデンなどと比べると大変小さい。先ほどライフサイクルのところで30ページでご覧いただきました図、それから、この図を合わせていただきますと、日本の社会保障の特徴がそういうことで給付控除の中にあらわれていることがお読み取りいただけようかと存じます。
個別の社会保障制度の概要につきましては、年金、医療保険、介護、生活保護、いわゆる次世代育成支援という形で行っております少子化対策、これは、縦長の資料の2ページから7ページにかけまして、それから、横長の参考資料5ページの「参考5」の資料から20ページの「参考11」にかけての資料でご説明させていただいておりますので、特にご関心のある部分につきましては、また説明終了後にお尋ねいただければ補足説明するということで割愛させていただきます。
続きまして、縦長資料の8ページから9ページにかけてでございます。ただ今申し上げました、社会保障の置かれております環境の変化についての簡単なご説明がここにございます。この問題につきましては、人口構造の問題、経済・雇用環境の問題、国・地方の財政状況の悪化により大きく変化しているということでございます。
特に日本の社会保障は、特徴的な面として、高度経済成長の過程におきまして制度の整備が順次進められた。いわゆる皆保険、皆年金の体制が整ったと言われておりますのは昭和36年でございます。日本の高度経済成長は、昭和35年から48年のオイルショックにかけて行われたというふうに承知しておりますけれども、この過程が、まさに年金、医療保険という制度が誕生し、その制度の整備が図られた時期と全く一致しているということでございます。
そして、日本の社会保障制度が、昭和48年の福祉元年によって一応欧米並みの水準になったと言われた途端に、オイルショックになり、経済状況が大変悪化した。併せて、人口構造が急激に高齢化するという状況に置かれているわけでございまして、実は、こういった特色はヨーロッパの諸国には見られない特色ではないかというふうに存じます。
人口構造の少子高齢化につきましては、すでにこの場におきまして、社会保障人口問題研究所の阿藤所長より専門的なご説明があったものと承知しておりますので、私ども、重ねてご説明は割愛させていただきます。
ただ、この8ページの資料の中で、特に2個目のマルにご留意いただきたいと存じます。高齢化のスピードの問題が、先ほども申し上げましたように、日本の場合、大変特徴的なものであるというふうにご理解いただきたいと存じます。特に高齢化のスピードが問題であるという点につきましては、よく世相、少子化という社会もまんざら悪いものではないではないか、1人当たりの国民所得はかえって人口が減れば伸びるではないだろうか、こういうご意見も耳にするところでございます。
負担の問題、その他からこの問題をどう論じるか、いろいろなお立場があろうかと存じますが、むしろ私どもは、このスピードというものが人々の意識に非常に大きな影響を与える。世代間の対立という議論が、最近、社会保障でもよく論じられるわけでございますが、その世代間の対立の大きな原因はまさにこの人口高齢化のスピードの違いに求めるべきではないか。
私の大変個人的な体験ではございますが、20年前にスウェーデンに初めて行きまして、社会保険料と税金を合わせると所得の50%以上持っていかれるそうですねと、スウェーデンの方に伺ったところ、どうも私の理解した限りでは、自分も大変な負担だということで大変苦しんでいる、しかし、この負担は自分のじいさんも自分の父親もしてきた負担である、自分の子供たちもしてくる負担である、したがって我々も負担をするのは当然である、こういうお答えが返ってきまして、そういう意味では、スウェーデンの8ページの資料をご覧いただきますように、85年をかけて、日本は24年かけたのと同じ高齢化の進捗状況、7%から14%という数字を達成したという点が、はからずも実感できたなというふうに今日思うわけでございます。
この社会保障の状況を数字で見ましたものがお手元の縦長の資料の10ページ、11ページ、社会保障の給付と負担の数字でございます。またデータ的には、参考資料の22ページをお開きいただきたいと存じますが、社会保障給付費の推移という形で述べたマクロの数字でございます。現在、2002年の予算ベースの数字で82兆円、社会保障給付ということでお預かりさせていただいておりまして、国民所得対比で22 1/2%程度というボリュームになっております。
内訳は、縦長資料の10ページにもございますように、半分超が年金、医療が大体3割、福祉が15%ぐらいということになっておりまして、従来、もうちょっと医療のウエートが高くなっておりました。1981年までは医療のほうが年金よりもウエートが高いということでずっと推移をしてきたわけでございますが、その後、年金の成熟化に伴って現在では年金が5割を超えている。また介護保険の導入によりまして、従来、医療でカウントしていた給付の分を介護保険の給付、福祉のほうでカウントすることになったために、医療のウエートが低下しているという傾向がございます。
財源につきましては、積立金からの運用収入を含む保険料財源が約7割、公費負担は3割弱ということでございます。先ほど諸外国の比較、GDP比でごらんいただきましたように、日本の場合には保険料中心で、公費がこれを補完する形になっているということでございます。
続きまして、23ページから27ページにかけまして、私どもが現在行っております、社会保障の給付と負担についての将来見通しの数字を載せさせていただいております。これらの数字の計算根拠は25ページにまとめて載せさせていただいております。将来見通しにつきましては、先ほど来申し上げておりますように、急速な少子高齢化の進展等に伴いまして社会保障の給付と負担が今後とも増大するということで、相対化するためにNI比で見た数字だけで比較いたしますと、2002年現在の22 1/2という給付費、NI比ベースが、2025年には31 1/2ということで概ね10%ポイント近く増大する。負担もこれに伴って増大するということが示されております。
ここでは、基礎年金の国庫負担1/3の場合と基礎年金国庫負担1/2の場合とを対比する形でお示ししておりますが、給付費のボリュームは、当然のことながら、国庫負担1/2、1/3にかかわらず変化するわけでございますが、保険料負担と公費負担の割合、バランスが変わるという形のデータでございます。
しかしながら、これは先生方もよくご存じのように、2025年まではこういった形でバランスが保てるわけでございますが、このあと特に2050年に向けて、超長期の議論ではございますが、年金にとってはそこまでの見通しが立たないと世代間にバランスのとれた設計図が描けないということで、当然、そういう超長期の見通しが必要になってくるわけでございます。年金の場合には、まさにこのあとにそういう意味で大変大きなピークがやってくるということで、先ほど統括官からもご説明申し上げましたように、年金改正については、現在、社会保障審議会の年金部会というところで、まさに2050年に向けた改正議論が行われている状況にございます。
続きまして、社会保障審議会におきます議論を、簡単にご紹介させていただきたいと存じます。社会保障審議会は、省庁再編に伴いまして、社会保障についての全体の政策審議会ということで行われたものでございまして、この中に、年金部会でございますとか、介護保険部会でございますとか、医療保険の検討をするところでありますとか、それぞれの個別部会が作られております。しかしながら、現在、本委員会でございます社会保障審議会、貝塚啓明先生が会長をしていただいておりますが、ここで制度横断的な議論ということで審議を行っております。
私ども厚生労働省におきましては、1980年代以降の社会保障の課題が、この改革をどうやっていくかということの歴史でございました。本日出席しております統括官、福祉元年の余波をまだご存じの世代でございます。私も、年金局総務課長も、役人として物心ついたときにはすでに臨調、行革の真っ只中でございました。
したがいまして私どもはそのただ中におきまして、単に公費負担を減らすことを目指すというよりは、高齢化の対応、あるいは、先ほど申し上げました就業構造の変化に対応して社会保障をどうやって転換していくかという問題意識のもとに、臨調、行革という一連の流れの中で、社会保障改革を進めさせていただいたというふうに考えております。その成果が、老人保険の制度、健保の1割負担、あるいは基礎年金などという1980年代の改革であったと認識しております。
その意味で社会保障改革を今後どう進めるかということにつきましては、お手元の横長参考資料の36ページをお開きいただきたいと思っております。36ページは、現在進めております社会保障改革のそれぞれについてのスケジュールをお示ししたものでございます。平成15年の2月より、社会保障の制度横断的な問題について社会保障審議会が検討を進めているというところでございます。
では、なぜ個別の改革、例えば医療保険が先行していて、そういう制度横断的な社会保障審議会の検討が遅れているのかということを、このスケジュールをご覧になると、先生方は当然不思議に思われると存じます。しかしながら、社会保障制度と申しますのは、年金や医療、介護といった個別の制度という実態抜きで空理空論の議論をしても意味がございません。他方、各制度が個別個別にそれぞれの議論をして走り出してしまいますと、全体像が結べず、給付や負担に関する国庫的合意の形成が不可能になるという二律背反の仕組みを持っていると私ども承知をしております。
とりわけ制度の充実が、一つの段階を設けまして、現在、少子高齢化を踏まえた負担増を国民に幅広くお願いしていかなければいけないという状況にある中で、今回、制度横断的に社会保障の給付と負担の姿をお示しすることによりまして、すでに一部先行している制度改革が全体として何を目指していくのか、そして、その負担の姿は全体としてどういう形になっていくのかということを国民にお示しし、国民的な合意形成を図っていくことが課題になっているという認識のもとに、社会保障審議会の議論をさせていただいているというふうにご理解いただければ、大変ありがたいと存じます。
では、具体的に何を議論しているのかということにつきまして、この横長資料の中にすでに審議会の中でご議論いただいた資料もとりまぜておりますので、簡単にかいつまんでご説明させていただきたいと存じます。また検討事項の概略は、横長参考資料の37ページから38ページに「参考20」の資料という形で、これは、本年の4月に経済財政諮問会議に私どもの大臣がご説明して提出させていただきました項目でございますので、この項目もながめながら少し耳をお貸しいただければと存じます。
まず、現在の社会保障についての基本的認識というところから審議会の議論は始めました。その点については、横長の参考資料の2ページ、3ページに、社会保障の所得再分配効果について簡単に資料がつけてございます。これは、現在の社会保障の果たしている機能をどう評価するかということでの関連資料でございますが、数量化されている資料ということで、あえて所得再分配の度合いをはかるジニ係数をとらえて議論をしていただきました。
所得格差の改善度という形で比較いたしますと、税がどちらかというと直接税から間接税のウエートを高めていく中で、いわば所得格差の改善度が低下していっている。これに対して社会保障は、どちらかというと年金の充実が非常に大きな意味を持っていると承知しておりますが、これによりましてその改善度を高めて、税と社会保障を合わせた総体としては、残念ながらジニ係数が高くなっている。ということは、所得分配の不平等度が高まっていることになるわけでございますが、その傾向の中で全体として改善度を何とか維持して所得格差の再分配の改善に努めているという状況が、経年的な変化としては見て取れるかと思います。
これを国際比較したものが、次の3ページのものでございます。3ページの資料の読み方は、言ってみれば当初の所得格差が非常に大きい、それに対して税、社会保障による再分配効果がきわめて大きくなっているがために、結果的に再分配後の格差が小さくなっているのが、例えばスウェーデンという国だというふうにご覧いただきたいと思います。結果が左側の絵でございますので、スウェーデンはこの先進国の中では最も小さいジニ係数になっている。すなわち所得再分配後の格差が小さくなっている、こういう絵でございます。また右側の絵を見ていただくと、逆に、再分配効果がきわめて大きいということでございますから、当初の格差が大きいものが、この大きな再分配効果によって再分配後は格差が縮んでいる、こういうふうにお読みいただければよろしいかと存じます。
一方、米国は当初の格差も大きいですが、再分配効果も小さいものですから、その結果として再分配後の格差も小さいということで、左側の絵で言えば、一番右に米国の数字が来ている、こういうふうにご覧いただきたいと思います。
しからば日本はということでご覧いただきますと、当初の格差が相対的には小さいであろう。そのために再分配効果は先進国の中では非常に小さな数字になっておりますが、再分配後の所得格差を見ると、真ん中辺のグループに来ているということであろうかと思います。したがいまして、現在、日本の社会保障が果たしております程度の再分配機能は引き続き維持することが必要ではなかろうか、という議論を社会保障審議会ではさせていただきました。
続きまして、社会保障の負担についてのマクロベースの現状は先ほどご説明したとおりでございますが、これが企業や家計として負担する状況がどうであろうかということを、横長参考資料の28ページでご議論いただきました。これは先ほどご説明した対GDP比の比較でございまして、現在の日本の企業や家計の保険料という形での負担、あるいは公費負担という形での負担が、GDP比で18.9%ということで、先進諸国に比べてまだ小さい。しかし、今後はこれが高齢化等によって増大することは避けられないであろう。しかしながら、現在の先進諸国と比較してまだ負担余力はあると考えても、そう大きな間違いではないのではないだろうかという趣旨のご議論をしていただきました。
一方、これを家計ベースに置きかえたものが、お手元の参考資料、横長の32ページの資料でございます。これは、勤労者世帯に今の負担の状況を経年的に家計調査のベースで70年から2000年にかけて見たものでございまして、当然のことながら、社会保険料、あるいは直接税のウエートは高くなってきている。しかしながら家計においては、この間の生活水準の向上を踏まえて、いわゆるエンゲル係数に代表されるような基礎的な消費のウエートが縮んでいって、その他の経費のウエートが高くなり、また、ここでは支出と収入の残差という形のものを預貯金等とまとめさせていただきましたが、おおむね10%からそれを若干下回る程度で基本的には推移していることが見て取れるわけでございます。
私どもは、こういったトレンドを将来に引き延ばしたらどうかということで、33ページに、かなり大胆な仮定を置きまして、先ほど申し上げましたマクロの将来推計をベースにいたしまして、ミクロの家計負担がどうなるかということを計算させていただきました。正直申し上げてこれについては、世の中に出たときに誤解されるのではないかということで懸念する声が内外ともにございましたけれども、あえて大胆な推計をしたものでございます。
これは2025年に向けて、計算の前提につきましては34ページにございますので、詳しくは省略させていただきますが、保険料についての推計は、先ほどのマクロの推計を保険料ベースに置き直してみたものというふうにご理解を賜りたいと存じます。また税につきましては、そこにもございますように、直接税は賃金上昇率と同率で伸びるという前提、それから消費税につきましては、消費支出の伸び率と同率で伸びるということで計算して、税の負担を見てみたわけでございます。
一方、先ほどマクロのところで、国庫負担の伸びについて一定のものが必要であるという前提で計算いたしましたが、そういたしますと、公費負担の伸びと、今申し上げましたような経済前提で計算した税の伸びの間に、当然、間差が生じてまいります。その部分は、ではどうやって負担するのかということにつきましては、あえて私ども財源について踏み込むことなく、公費負担増という形で、何らかの形で国民負担をお願いしなければいけないだろうという形で単純に機械的な計算をさせていただいた。この33ページの絵の公費負担増、これは何だろうなという部分は、今申し上げたような意味での公費負担で必要になってくるものと経済前提に基づいて計算した税の間差、こういうことでございます。
そういうことで計算いたしましたときに、一番右端にある潜在的国民負担をどう賄うかという問題はあるものの、単純に計算してみただけで言えば、預貯金等という形で示される収支残差というものが平均的な家計支出の中では期待できるのではないだろうかということが、私どものちょっと大胆な計算の一つの帰結でございます。
これを、基礎年金の国庫負担が1/2の場合、あるいは1/3の場合ということで計算したということで、35ページにも1/3の計算をさせていただきましたが、当然のことながら、税で持つか保険料で持つかという違いだけでございますので、例えば家庭における基本的な構造は、変化がそう大きくないことはお読み取りいただけようかと存じます。
社会保障審議会ではこういった仕組みを見た上で、先ほど横長参考資料29ページでご説明したような高齢化の状況、それから、30ページでご説明させていただきましたようなライフサイクルの状況ということから、やや高齢期に偏っている給付構造に現在の社会保障はなっているのではないか、これが一つの問題ではないだろうかという問題意識を共有させていただいたかと存じます。
そのような意味では給付の問題につきましては、こういった偏った給付構造のもとで、例えば阿藤所長からも前にご説明がありました少子化対策をどのように考えていくのか。それからもう一つ大事な、働き方の見直しを含む雇用・労働対策をどう考えていくのか。幸いにして厚生労働省という役所になったものですから、それは自分たちの課題にもなってきたわけでございますが、そういう三つの施策をどう関連づけてバランスをとって給付の問題を考えていくのかということが、給付についての一つの問題意識であったというふうに承知をしております。
最後に、あと2分だけお時間をいただきたいと存じます。社会保障制度から見た税制の問題をどう考えるかということは、これから20日の日に社会保障審議会でご議論いただく問題でございますので、私がこれから申し上げる問題は若干フライング気味の説明ということで、社会保障審議会の先生方からもお叱りを受けるかもしれないとは存じます。
しかしながら、若干の補足をさせていただきますと、社会保障にとりまして税は重要な財源でございます。お手元の参考資料の39ページ、一番最後のところに、財源という意味での税と社会保険料の関係の推移を示させていただきました。社会保障の給付が増大する中で、公費負担の割合が1980年代までは増大していった傾向を見ていただくことができるかと思います。その上、行財政改革を進める過程で、給付の削減と併せて公費負担の抑制が行われまして、今日に至っております。これが1点。
それから、2点目。税は財源があると同時に、なかんずく課税最低限の決め方というふうに申し上げたほうがいいのかもしれませんが、この問題は社会保障にとりましては、一つは、各種手当て等の給付の支給基準、所得制限の基準になっているという意味で非常に大きな意味合いを持っております。また、国民健康保険の保険料等の賦課基準として課税最低限の基準が用いられている点での影響。さらに、さまざまな福祉サービス--最近では医療保険などにつきましても実は使っているのですが、利用者の負担基準、つまり低所得者をどこで線を引くかということに対しまして、課税最低限をはじめとする課税の基準というものが用いられております。したがいまして、社会保障の給付と負担の非常に大きなキー概念が、課税最低限をはじめとする税の負担をどう決めるか、特に所得税というふうに申し上げても過言ではないと思いますが、問題になっておろうかというふうに存じております。
その意味で保険料というのは、あらかじめ徴収をしてその拠出実績に基づいて給付が行われるという点に特色があり、一方税は、課税対象をかなり広くとることができれば、逆に、世代間で公平な財源になるというメリットがあると私どもは認識しております。したがって、単純に企業や家計の負担が多いからという理由だけで、今後、増大する社会保障の財源を税に求めればよいという単純な発想をとるのは邪道ではないかと思っております。むしろ世代間の公平、あるいは、先ほど申し上げましたライフサイクルにおける負担の平準化という観点から、保険料と適切な組み合わせを目指すのが一つの考え方ではないかという問題意識を持っております。
その意味でも、国庫負担等、少なくとも社会保障の財源に充てるための税が必要であるということを国民に明示していくこと。そして、給付と負担の水準について国民の選択を仰ぐべきではないだろうかというふうに事務当局としては認識しております。社会保障の側からも、給付の一層の効率化を前提に、場合によっては増税のお願いをすべき時が来るのではないだろうかということ。若干これはフライング気味の発言かもしれませんが、私どもとしては認識もし、また、社会保障審議会でも大いに議論していただかなければならない問題というふうに認識しております。
最後に、社会保障審議会の問題意識としては、そうして税なり保険料の適正化なりの負担を国民にお願いしていく場合には、特に低所得者に着目した給付、負担の仕組みに十分な工夫をすべきではないかという問題意識は、すでに審議会の議論でも出ているということを最後につけ加えさせていただきたいと存じます。
ありがとうございました。
〇委員
どうもありがとうございました。
十分な時間がないのに、これだけの資料を使ってご説明いただいたので、我々としてちょっと理解できないところもあったかもしれませんが、少し時間をいただきまして、質疑あるいはご意見を賜りたいと思います。
どうぞ。
〇委員
質問です。それぞれの社会保険の年金なり医療なり介護なり、あるいは雇用保険、労災保険、いろいろあるでしょうけれども、それぞれの保険料収入をまとめた資料というのは、私は見つからなかったのですが、どこかにありますか。
〇委員
各制度ごとというのは用意をさせていただいていないのですが、年金、医療、福祉等ということで分けたものについては、先ほど説明を割愛いたしましたが、この横長の26ページから27ページにかけまして、今申し上げた年金、医療、福祉等という形で、保険料と公費負担の必要額、若干の内訳をつけさせていただいておりますので、大きくはこれをご覧いただければと存じます。雇用保険などは「福祉等」の中に含まれているというふうにご理解いただきたいと存じます。
〇委員
それぞれの保険の負担で、日本のこれは特徴かもしれませんが、個人と企業という負担主体がある。できれば、後ほどでも結構ですから、それぞれの負担、推移年次別の推移、企業、個人の主体別のデータ等々、ご用意できれば主税局を通じてお示しいただきたい。
それと、もう一つの質問です。26ページの今おっしゃった保険料負担、58兆円ということに相なるわけですが、国税が40兆円ちょっと、地方税合わせても75兆円。すでに社会保険料は60兆円になろうとしている。家計のほうから見た保険料と税金の負担の割合を見ると、保険料と税金が家計ベースで見るとほぼ同じになっている。家計支出ベースで見ると、今後、年を経るにしたがって保険料のほうが税の負担よりも大きい時代になってくることが、ここにお示しになっている32ページですか、何ページでしたか……。
〇委員
33ページが将来推計でございます。
〇委員
33ページですか。失礼しました。2005年で大体同じぐらい。今、2003年ですから、ほぼ同じになっている。これが2010年、あるいは2025年ということになってくると、逆転と言っていいかどうか知りませんが、税金よりも社会保険料のほうがはるかに重い負担になる。しかもこれは、おそらくあらゆる世帯--単身世帯は別にして、高齢者世帯なども入っているわけですか。そうすると、現役世代の社会保険料負担というのはもっと高まってくる。こういう状況を負担者の側、負担する側からながめた場合、厚生労働省としての基本的な認識はどうなのか。これはしようがないんだ、あるいは、いいことなんだ、困ったことなんだ、どのようにお考えか、お話しできる範囲で結構ですが。
〇委員
今、お尋ねになった中で、私が説明が不十分で、幾つかこの中にも示しているものがございますので、簡単にその補足だけいたします。まず、企業と個人の関係の推移については、比率という点では、さっき申し上げました39ページの項目別推移の中で、事業主の拠出、これは企業の拠出でございます。それから被保険者の拠出、公費の割合という形で内訳を示させていただいております。これは割合ということでございまして、大きさではございませんので、金額なりということで必要なものがあれば、後ほど精査してお届けさせていただきたいと思います。
33ページの資料については、そこにもございますように、これは一応勤労者世帯の平均ということでございますので、高齢者とかそういう方々は除外させていただいております。
それから、保険料と税の負担の大きさのところについては、これも私の説明が悪くて申し訳なかったのですが、33ページの2025年の欄をご覧いただきますと、社会保険料、税の隣に「公費負担増」というのがございます。この公費負担増は、どういう税目になるかということはわからないけれども、何らかの形で公費負担をしていただくものという意味でございますので、仮にこれが税で負担いただくということになりますと、この9.1%と4.9%を足したものでございますので、15%程度ということになります。社会保険料とのバランスがそれがいいかどうかは別として、社会保険料のほうが高くなるのではないかというご指摘については、実はそういう仕掛けになっているというふうにまずご認識をいただきたいと思います。
次のお尋ね、すなわち、負担する側からながめた場合の問題を厚生労働省としてはどう認識しているかということにつきましては、私どもは二つの問題意識を持っているというふうに端的には申し上げられるかと思います。
一つは、負担の水準そのものについて、いくら高くてもいいというふうには思っておりません。したがって、負担の水準そのものを効率化しながらどういうふうに抑えていくことができるかという問題意識、これは私ども従来から、例えば国民負担率50%という目標、これは第二次行革審のときの目標だったかと思いますが、これは、財政規律という観点からは必要な一つのメルクマールとして考えていくべきではないかということで努力をしてきた部分は、正直言ってあるだろうと思います。
ただ、それと同時に、社会保障は他の公的サービスと違いまして、どれだけの給付がもらえるかというものを、世代が違ったり、負担する方と受給する方が違うという問題はありますけれども、必ず目に見える形での年金、医療、介護、いずれも給付という形での反対給付がある。そうであるとするならば、給付と負担を並べてみて、負担を軽くするならば給付をどこまで削るのか、どれだけの給付が必要ならばどれだけの負担が要るのかということを、国民の前に見える形でお示しすることによってその大きさというものを考えていくべきではないか、従来からそのように考えております。
その点で申し上げれば、先ほどもちょっと簡単に申し上げましたけれども、今の給付の構造、負担の構造は、給付に関して言えば高齢期に偏りすぎている、負担に関して言えば、働き盛りのときにやや重すぎるのではないか。これをならすことは、世代間の公平と合わせて、一人の方のライフサイクルの中における平準化という観点からもうちょっと努力してみなければいけないのではないか、こういうふうに考えているとお答えさせていただきたいと思います。
〇委員
今のご説明の、機能別に見て高齢者割合が高いということ、まさに少子高齢化の急速な進展でそういうことだろうと思いますが、まず、現在の制度を仕組むときに、そうした少子高齢化の急速な展開、そのスピード、それを前提としているのか。その制度を決めてから予想を上回る高齢化少子化が進んだというのか、そのどちらにウエートがあるかというのが第一点でございます。
それから、高齢化、長寿化したら、セーフティネットで対処すべき年齢を変える、そういう発想はないのか。70歳までの平均寿命だったら、終わりの15年を見ればよかった。しかし、80歳、90歳になるなら、その対象とする高齢者の範囲を70歳とか75歳にしていけばその割合が保たれるわけですけれども、そういった意味での給付の見直しというのは、具体的に言えば支給年齢をずらすということだろうと思いますが、そういう発想はないのか。
先ほどお話のあったスウェーデンは、それを遅らせることによってメリットがある制度が考えられているというようなこと、ちょっとお話がありました。それから日本の現在の制度でも、自分で給付を遅らせると割増になる制度がありまして、あれは70歳でストップしてしまっているが、あれを75なり80まで延ばしてもいいのではないかという気がします。そういう方法での給付内容の見直しと、単なる既裁定年金の見直しにとどまらず、年齢の見直しも今後出てきてもいいのではないかという点。それが2点目でございます。
それから、先ほどからお話のございます33ページのこの表ですけれども、大胆な仮説であるというお話でしたが、公費負担増4.9%と。これは、社会保険制度としてはそれは増えるかもしれないけれども、国民の負担のその中で全体の歳出構造なりを見直せばそれは吸収される部分であるかもしれない。このように端的にこれが公費負担増につながると見るのはやはり大胆すぎるのではないかという気がしますが、その点はいかがなものでしょうか。
〇委員
1番目と3番目の点は私からお答えしまして、2番目は年金局の総務課長から、おそらく年金の問題を念頭に置いてのお話だろうと思いますので、お答えさせていただきたいと思います。
まず1点目の、現代の制度を仕組むときにどういう前提でいたのかということについては、おそらく二つの問題があるだろうと思います。一つは、人口推計というのが、よく当たらない、当たらないといってお叱りを受けるわけでございますが、はっきり申し上げまして、高齢化、ある程度寿命が延びていくだろうという推測については、そう大幅な違いは正直言って私はないものと認識しておりますが、少子化のほう、すなわち子供さんの数が減っていくことにつきましては、はっきり申し上げて、こんなに急激な少子化が進むことは当時も予測できませんでした。また、人口推計があるたびごとに、またこんなに進んでいるのかということで、驚きを隠せないことの繰り返しであるということが、それだけおまえたちの推計が下手くそだとお叱りを受けるところかもしれませんが、正直なところかと思います。
それからもう一つ、そういう形で仮に高齢化を見ることができたとしても、先ほど申し上げたように、日本の社会保障制度は高度経済成長とともに制度の整備が進んだわけでありまして、負担能力が企業も家計も一番増大していたときに、制度そのものとしては、例えば年金で言えば、年金を受ける人の数が少なかった。せいぜい老齢福祉年金か何かで、全額、年金をちょこちょこと受けていた人ぐらいしか大宗を占めていなかったということで、負担の増大を求めていくことについての合意形成がきわめて難しかった時代があったというふうに私は認識しております。
今日のように高齢者が増えて、年金というものの意味合いがわかり、その合意形成を図ることができるようになったときに、逆に言えば、高齢化は急激に進んでおったし、経済状況も苦しくなっている、この点ははっきり申し上げて、私どもの怠慢のみに責を帰せられると、ややつらいなと思っている点でございます。
3点目の、33ページの資料についての読み方でございます。これは、先ほども申し上げましたように、マクロでの社会保障給付の伸び及び負担の伸びというもの、先ほど23ページ以降でこういう伸びが必要になってくるということを申し上げまして、それを家計ベースに置き直したときにどのくらいの数字になるかということで計算をしたものでございます。
したがいまして、社会保険料はマクロの伸びそのものを家計ベースに置き直したものということでご理解いただけるわけですが、実は公費負担のところが大変計算しにくいということで、まず、外枠のところは全体としてこれだけの負担が必要だ。そのうち税については、これはいくら何でも経済前提に自動的に連動させて伸ばさざるを得ないだろう。先ほど申し上げましたように、直接税は賃金上昇率と同率で伸びる、消費税は消費支出の伸びと同率で伸びる、こういう前提で機械的に計算せざるを得ないだろう。そうすると、公費負担として必要になってくるもののうち、税以外の部分というのをここで公費負担増という形でこれも機械的に上げざるを得ないだろうと思います。
したがいまして、努力次第でこれが小さくなるだろうというお尋ねにつきましては、努力をすることによりまして、社会保険料も税も公費負担増も全体を縮めるという余地は残っておりますが、ここはそういうことについて恣意的にお示しするわけにいかないものですから、マクロでお示しした23ページ以降の数字とセットで、もしこのまま制度が推移するとすればこういう負担が必要になってくる、こういうふうにお読みいただきたいと存じます。
〇委員
社会保障制度としてはそういう給付と負担になるかもしれませんけれども、それが国全体の歳出構造の中で負担に結びつくというところまでは、飛躍することもないのではないか。それは国全体の歳出なり財政全体の話ではないか、そういう面もあるのではないか、そういうことでございます。
〇委員
では、簡単に何か補足がありましたら、どうぞ。
〇委員
あと、年金の支給開始年齢のお話が出ました。支給開始年齢、年金をもらう年齢を上げていくというのは、政策の中の選択肢としては当然あり得るわけですけれども、これまでの歴史を一つ申し上げますと、1980年(昭和55年)に私どものほうから60歳の支給開始年齢の引上げの提起をいたしました。このときは与党で否定されました。それから89年(平成元年)の改正で、与党をクリアして国会に提出いたしましたけれども、そのときは今度は国会でノーということで否決されまして、平成6年の改正で初めて、1階部分、基礎年金に相当する部分の支給開始年齢引上げを、男子の場合ですけれども、2013年までにやるというスケジュールで現在動いております。そこはようやく去年から動きまして、61歳の方が--60歳ではなくて61歳からもらうという方がようやく出始めたところであります。
それから、2階部分、報酬に比例する部分の支給開始年齢は、前回、平成12年の年金改正でやりまして、1階部分の引上げが終わる2013年から12年かけまして、2025年までにやるというスケジュールを組んでおります。そういうことで今動き出しておりますけれども、私どもこれまで年金を何度も改正している経験から言いますと、年金水準を将来に向けて抑制することよりも支給開始年齢を上げることが難しいという感じが、私どもとしては直感がございます。多少減ってもしようがないなということはかなり説得できるのですけれども、空白、つまり雇用がついてこないと空白が出てきますので、その空白がなかなか難しい感じがするわけであります。
特に前回の改正は、与野党がものすごく対立する中で強行採決という形になりましたけれども、雇用のほうの問題がむしろ今までと違いましてあとからついてくるという状態で、これから支給開始年齢の引上げが始まって、雇用のほうをどうするかという格好になってきますので、今、現実的にとり得る政策の中の選択肢としてはかなり難しい問題ではないのかなと私どもは認識しております。
〇委員
ありがとうございました。ずいぶんお手が挙がっていますので、1個ずつぐらいにしていただけますか。
どうぞ。
〇委員
いわゆる国庫負担の2分の1の話ですが、その緊急度というのはどのくらいのものなのか。つまり2分の1にして、年金の給付と負担の関係にいつごろから、どういうふうな効果をもたらすことになるのか教えていただきたい。
それから、今すでに決まっている年金の、国側から見て全体の債務は2,000兆円ぐらいと言われていますよね。ところが、保険料とか積立、国庫負担、そういうもので賄えるのがそのうちの4分の3ぐらいではないか。残り4分の1は財源的に手当ての見通しがついていない。その中で、先ほどから出ているような高齢者、私も入るのですけれども、年金が実際の納付額よりもかなり高い給付を受けているのが実態だと思いますけれども、その辺を2分の1に引き上げることによって解決しようとされているのか、それとは全く関係ないことなのか。その辺大変ベーシックな質問で恐縮ですが、教えていただきたいと思います。
〇委員
年金は非常に長期の制度でありますので、明日から2分の1にならないと途端に年金が倒れますということはないですけれども、ただ年金の場合には、いわゆる医療とか介護で、事故が今日発生したらそのときに手当てするということではなくて、現役の40年間の間に権利を形成していって、それから老後にもらうという格好になっていますので、どこかで急に制度を変えて、前の世代と急に俺たちは事情が違うではないかということでは国民は説得できないと思います。
そういう意味では、長期的に見て、2分の1と3分の1の国庫負担の場合ですと、現行の制度の保険料率が、今日お持ちした資料では、この横長の「参考資料」の9ページになりますけれども、現行制度のままということであれば、9ページの左側の真ん中あたりに、「方式I-1 保険料水準を見直しながら現行の給付水準を維持する(給付水準維持方式)」と書いてございます。現行の国民年金、厚生年金などの体系をそのまま維持した場合ですけれども、今のやり方でいきますと、2030年度以降で年収の23.1%の保険料をいただかないといけない。これは国庫負担2分の1の場合でございます。3分の1の場合には年収の26.2%ということでありまして、労使折半で考えればご本人の支払いが13.1%になるということで、これはかなりの差であろうと。そもそも23.1%そのものが非常にきついレベルですので、今のヨーロッパを見ていますと、20%ぐらいのところで保険料がうろうろしていますので、そういった意味では3分の1では制度がとてももたない。
それから国民年金の場合には、一番インパクトが大きうございますが、すぐその下で、2分の1のケースの場合ですと、2016年度以降2万500円でございます。3分の1の場合には2万9,300円ということで、ほぼ1.5 倍。国庫負担2分の1に対して3分の1の場合は1.5 倍ぐらいの数字になる。さすがに3万円の負担ということになりますと、かなりきついのではないか。保険料も見ていますと、アンケート調査を聞いても、2万円ぐらいが限界というお答えが非常に多いのですけれども、そういった意味ではこれが限界なので、制度を長期的に安定を保つ、それから、制度に対する国民の信頼を保っていくという意味では、早くお願いしたいということでございます。
それからもう一つ、世代によって払っているものともらっているものの率が違うではないかということで、その辺の回収に国庫負担を使うかどうかというお話がございました。私どもは現在、1階部分の基礎年金に対する国庫負担2分の1の引上げの話を申し上げております。過去分そのものについては、国庫負担をそこを急に上げてもそれほど大きい財源にならない。それから、ちょっとお話に出ました、全体では2,000何百兆円ぐらいの負債があって、これは大体過去分の不足ですけれども、前回の財政再計算、平成11年の推計では、一時金に換算しますと450兆円ぐらいのレベルになっています。ただ、ここは厚生年金のシェアが非常に大きいですから、そこは今までも国庫負担を入れていませんで、そこに本当に投入できるかどうか、もともと制度そのものの問題もあるということでございます。
〇委員
素人的な質問ですが、スウェーデンなんかだと、こういう社会保障をバランスシートで見ましょうという考え方があるわけですが、そういう発想ができるような仕組み、あるいはそもそもできないのかもしれませんけれども、そういうことはお考えになっていらっしゃらないのかということ。
それとの関連で、そういう形でバランスシートにして、それを各世代ごとに共通にある種中立的な平等な形で負担させる、あるいは付け回しをするという形で、給付を調整することは可能な仕組みにスウェーデンなんかはしているわけですが、日本の場合、改定してきて、既裁と新裁で給付がいろいろ違う可能性があるわけですが、それはどのくらい違っているのか。あるいは、今後また違う可能性があるのか、そこら辺についてもしデータ等がありましたら教えていただきたいと思います。
〇委員
バランスシートの発想で見ないかということでございますが、前回、平成11年の改正では、債務枠を当時の経済状況で一応予想して、これぐらいの債務額になっていますということは一応お示ししております。そういう意味ではバランスシート的な発想はないわけではないですけれども、ただ企業年金などと違いまして、制度そのものは、永続性の問題について、企業のように明日どうなるかわからないというものではございませんで、これは各国共通だと思いますけれども、バランスシートに大きく寄りかかってものを見ることはそれほど必要ないのではないかというふうに考えられる。もう一つは、利率が変わりますとしょっちゅう債務額は変わりますので、それはなかなか説明しづらいなというのが私ども感触としてはございます。
それから、世代間ごとに中立性を保てるかどうかですが、スウェーデンの場合には、先ほど参事官からも説明申し上げましたように、高齢化が進むのに80数年という年月がかかっています。日本の場合には高齢化のスピードが非常に短いのと、それから、制度の成熟化措置も戦後かなり早くやってきましたので、先ほどちょっとお話が出たように、世代間ごとに払ったものともらったものの比率ということになれば、今もらっている方は大変な比率になります。それが、年代が下がるごとにだんだん国庫負担分だけ上に乗るぐらいの数字になりますけれども、そういった意味で日本の場合に、おじいさんと孫を比べてどうこうという議論が果たして公平性という尺度でやれるのかどうか、そこは非常に難しいのではないかという気がします。
〇委員
今もらっている人たちの間で、改定によって、例えば退職時の所得との換算で給付率みたいなものがものすごく違うということはあるのでしょうか。違うとしたら、どのくらい違うのでしょうか。つまり、既裁と新裁との間での給付額は違うのかということですが。
〇委員
私ども、世帯で年金制度を設計しておりますけれども、ここ20年くらいは、新しくもらい始める方は現役で働いていらっしゃる方の賃金の6割ぐらいの水準で設定しております。そういう意味では、経年的に見て新しくもらい始める方が現役集団との賃金の対比で、急激に上がったり下がったりということは生じていないということでございます。
〇委員
今ご説明いただいた資料の中で社会保障の給付と負担の見通し、23~25ページですが、この辺注目しているのですけれども、推計の前提として、賃金上昇率が年率1.0%となっていますけれども、これ、今の厳しい経済情勢の中では見通しが甘いのではないかという気がするんですね。現実に即してないのではないのか。今の経済状況は非常に厳しい。現状のままで推移しても、社会保障全体の公費負担は毎年、相当増えていくわけですね。一般会計の社会保障関係、毎年、自然増1兆円くらいですか。
現実の問題として、こういう状況の中で国民に税負担の増加を求めることは非常に難しいということがありますよね。いずれ、今の社会保障制度を維持するのが難しくならざるを得ないということだと思います。この試算の前提でいきますと、今の社会保障制度を維持するのは難しくなってしまいやしないかということはあるわけです。
基礎年金の国庫負担の引上げ、3分の1から2分の1、これは既定路線かのように言われているのですけれども、税金を2分の1にした場合、一体税金をどこにどう使うのか。財政の機能があるわけですね。財政の機能との関連の議論が全く欠如しているという気がするわけです。国庫負担を仮に引き上げたとしても、早晩、その制度は破綻してしまうのではないかということを危惧するわけです。やはり問題は世代間の不公平だと思うわけです。
厚生労働省も政治との関係でいろいろご苦労なさっているのはよくわかるんですけれども、もうちょっと思い切って制度改革をやったらどうなのか。例えば既裁定年金というのがありますね。これは全然手つかずでしょう。手つかずでいいんですか。そこはやはり思い切ってやるべきではないですか。スウェーデン方式の場合、税金を入れる場合の位置づけがはっきりしていますけれども、そういうことを念頭に所得再分配ということをはっきりさせていくべきだと思うんですね。現状では、社会政策というよりもむしろ所得移転の部分がかなりある、そういう印象すらあるわけです。先ほどのお話では増税をお願いすることになるといいますけれども、足りないから税金で埋めると、そう簡単にはいかないのではないかというふうに思います。
〇委員
なんか難しい問題が出ましたけれども、お答えいただければ。
〇委員
参考資料、横長の11ページをご覧いただきたいのですが、今、委員からご指摘があった既裁定年金については、これまではたしかにほとんどさわっておりません。そこで私どもは、9ページでございますけれども、これは現在、私どもからこういうやり方があるということで提案をしているということでございますが、今までのやり方は、一回給付をお約束したらばその水準をずっと守っていく。年金改正をやるときに給付の抑制をやるとしても、それから先、将来は下げますということで今までやってきたわけです。
これですと、5年に一遍、人口推計が変わるたびに大幅な制度改正をやらなければいけないということになります。そうではなくて、これは先ほどちょっと話も出ましたが、スウェーデンのやり方を少し導入したようなやり方ですけれども、方式2ということで右側に書いてございますが、むしろ最終的な保険料水準を固定してしまって、負担はここまでにして、そのかわり負担の範囲内で、入ってくる収入の範囲内で給付を行うということで、給付水準を自動的に調整するやり方を考えようということを一つ提案しております。
そのやり方というのは、支える側の人口の減少を加味して、年金なり物価なり賃金が上がるときに、一緒に上がる率を少し抑制していこうということで考えておりますけれども、先ほどの説明の中で、今までの年金は、新しく年金をもらい始める方が現役の平均賃金に対して6割ぐらいの水準を保つようにしていきますと申し上げました。ですから、もらう方は大体同じなんです。払いは少なかったかもしれませんが、もらいは大体同じように推移しているのですけれども、この6割という水準を給付を自動調整することで少し下げていこうと。12ページ以下に載っておりますけれども、59%の水準を--これはいろいろなやり方がありまして、59%がどういうふうに下がっていくのかわかりませんけれども、今の人口の推計で、最終保険料は年収に対して20%、国庫負担2分の1の場合ですが、それであれば、2032年時点では現役に対して52%ぐらいのレベル。これは既にもらっている方も一緒に落としていきます。そういう格好でやる方法も提案いたしております。
ただ、国庫負担3分の1のケースの場合ですと、15ページにありますけれども、この52%が45%という数字になっていますし、現役に比べて半分以下ということになります。国民の選択になりますが、半分以下ですと、なかなかきついのではないかなと思っていますけれども、その辺はこれからの議論であるということでございます。
〇委員
参事官データに対しての質問ですけれども、説明の中でエピソード的におっしゃった、スウェーデンの負担はなかなか高いけれども、おじいさんもこういう負担をしておったし、孫もこういう負担をするだろうからと。それは大変いい姿で、だから、そういう姿になるためには人口構造が安定するしかない。ところが、それはずいぶん遠い先の話になるでしょうから、当面、ある程度逆ピラミッドを緩やかにしようと思えば、移民の受け入れしかたぶん人口構造面ではないだろう。
そこで質問ですけれども、移民問題は今は厳しい状況であり、ほかにもいろいろ問題はあります。ありますけれども、数字の問題として、どの程度の移民を受け入れれば社会保険料等の負担がどの程度になるのか。特に勤労者層の移民の受け入れですね。そういう数字のデータはあるのだろうか、それが質問です。そういうメッセージをぼつぼつ発しなければいけないのかなという気もするものですから、ご質問しました。
〇委員
そういう計算はもうやられてますか。
〇委員
結論として、厚生労働省としてはしておりません。ただ、学者のレベルではさまざまな計算があるものとは承知しておりますけれども、私どものほうで責任持ってお示しできるものはないという結論だろうと思います。
なぜそうかというと、私どもにとっては、移民労働者の話に一足飛びに行く前に、例えば高齢者、女性、あるいは障害者、こういう方々の働き方の問題にきちんと取り組むのがむしろ最優先課題ではないかという認識があるがためにそういうことになっている、こういうふうにご理解いただきたいと思います。
〇委員
今、この改革を進めるのにいろいろな困難があることはよくわかるんですよ。どこをやったってこんなことが起こるのは目に見えているわけで、そんなものはあなた方が一番よくわかっているわけだから。ただ、今まで、例えば高齢層に対して大変手厚い手当てをしてますよね。これはいろいろな見込み違いもあったというお話だったけれども、厚労省の伝統的な敬老精神というのが強くありすぎたのかなという気もするし、いや、そういうことではなかったんだ、人口、特に少子化の展望について我々は誤ったんだということだったら、それはそれでけりはつくけれども、問題は、これからこれを直すときに、いろいろな抵抗勢力があるから突破しなければならんでしょう。負担増を若干やらなければ、給付の水準は下げなければいかんということはよくわかるんだけど、皆さんから見て、今まで政治家との妥協を積み重ねてこられたわけで、今、その中で苦しんでいらっしゃると思うけれども、何も政治家が全部高齢者優遇の哲学にかたまっているとも思わないんだね。選挙の関係があるから、いろいろごますってるところもずいぶんある。
これからのことを考えても、今回だけは相当腹を決めてやらなければいけないとお互いに思っているわけだ。方法論について若干の異論はあるかもしれないけれども。皆さんはそれで大変苦労されてこられたので、何が最大の障害なのか。自民党なのか、公明党なのか、社民党なのか、民主党なのか知らないけれども、政治的にこの改革を大まかに進めようとするときにどこが抵抗勢力になっているのか。お役人の人がサボろうと思ってるとは思わないんだ、誰が考えたって。だけど、それをやるのは国会だから。そこにツケを回したときに、あの先生方が本当に真面目にこの問題に取り組んでくれるのかどうか。その点の判断をちょっとお聞きしたいんです。
〇委員
何かあれば。きわめて微妙ですけど、どうぞ。
〇委員
先ほどの委員からのご質問も含めて、お答えと申しますか、言えることは言いたいと思います。先ほど、負担がなかなか大変だ、これはもう維持不能ではないかというご指摘がありました。これは経済財政諮問会議でも厚生労働大臣は言われたのですが、2025年時点で、ただ今お示しした負担の姿、これが現在のヨーロッパの国の負担の姿なんですね。おそらく2025年には彼らはもう少し先に行っておりますので……。
何が言いたいかといいますと、それほど道に外れたものを求めているわけではないので、諮問会議で言われたのは、わが国産業社会、産業の生産性そのものが問われているのではないか。ヨーロッパでできてなぜ日本でできないのか、こういう問題提起をされたのですけれども、もちろん我々も効率化という努力はいたしますけれども、一方で、問題は根本的にはそういうところにもあるのだろうということは言えるのではないかと思います。
それからもう一つ、公費が不足しているので、増税は安易ではないかということでございましたけれども、この推計それ自体は、現在、制度的に約束されている税金で賄われる部分が将来どうなるか。それに対してそれを現実的な姿で所得税、消費税を伸ばしていったら、税の世界でこれだけ不足分が生じますよということでありまして、では、これを現実にどうするかというのは、先ほど先生からお話がありましたとおり、もちろんこれは政策課題として今後議論していく、そういう課題であろうというふうに思っております。
それから、今の委員のご質問は一番難しいことでございますけれども、いずれにせよ、これから年金受給者、将来の人にも厳しい案を具体的にまとめなければいけないわけでありまして、秋口以降、具体案を示す過程でどなたが一番反対されるかというのは見えてくると思いますので(笑)、それはしっかり私どもも示していきながら、きっちり議論させていただきたいと思っております。
〇委員
そこまでわからないですね。
では、最後、まとめてください。
〇委員
これは統括官に伺うのがいいと思うのですが、この税制調査会で「少子高齢化と税制」というフィールドの中で目下一番テーマになっているのが、公的年金等控除の見直し、廃止ないし圧縮ということですが、この公的年金等控除の見直しに関して厚生労働省としては、公的年金等控除の意義、あるいは見直すことの意味等々どうお考えなのか。現段階で結構ですから、手短にお答えいただければと思います。
〇委員
この問題につきましても、先ほど申し上げましたように、社会保障審議会で5月20日に議論をすることになっておりまして、そのときの大きなテーマだろうと思っております。要は現役の勤労者との相対的な比較であろうと思っておりまして、これは、議論した上ではありますけれども、かなり大きいものであって、今後、現役世代については社会保険料負担は増えていくわけですから、そういった現状も展望も併せて評価、考えていかなければいけない、こういうふうに思っております。
〇委員
「かなり大きい」というのは控除の額が大きいという意味ですね。議論が大きいという意味ではないですね。
〇委員
違います。実質的に非課税になる……。
〇委員
だから大いに考えるべきだと。
〇委員
そういうことです。
〇委員
まだ環境の問題が残っているのですが、今日はもう時間切れでありますから、環境の問題は次回以降に回そうということで、今、事務局と話がつきました。
それでは、今日は大変活発なご議論をいただきました。これは我々非常に関心のあるテーマでございますので、これだけ十分な資料をいただきまして、今後の審議の参考になること間違いなしであります。またいろいろなことでお尋ねすることがあるかもしれません。よろしくお願いします。
なお、お三方、お忙しいところをありがとうございました。
〔厚生労働省退室〕
それでは、次回以降の予定をお話しして、今日は散会にいたしたいと思っております。
まだ次回は、少子高齢化、各税制に関連して議論する時間を設けたいと思っています。そこで、5月16日の午前、午後と、金融小と基礎小、両方やることになっています。金融小に関係のない方がいらっしゃるかもしれませんが、基礎小は16日午後2時から2時間、少子高齢化のまとめの方向に入っていきたいと思っています。
さらに5月20日、また2時から4時でございますが、基礎問題小委員会を開催することにしております。先ほどからお話が出ていますが、5月20日の日に社保審の委員の方と税調の一部の委員の方で、今日のような話を少し社保審の方がまとめてくると思いますので、そこで意見を交換して、またこっちへ持ってきたいという感じ、今、詰めております。
そういう形で考えておりますので、少し開催の回数が多くなるかもしれません。16日、20日と二つ続けてやりますが、ぜひご出席のほどよろしくお願いいたしたいと思います。
それでは、今日はお忙しいところを長時間ありがとうございました。
〔閉会〕
(注)
本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。