基礎問題小委員会(第27回)後の石会長記者会見の模様
日時:平成15年4月18日(金)12:02~12:19
〇石会長
今日は、お手元に2種類の資料、つまり個人所得課税、そして相続税・贈与税と出ておりますが、3分の2以上、この個人所得課税を少子高齢化とそれから税制という観点から一応精査、議論をいたしました。
そこで、膨大な資料になっておりますが、今、個人所得課税の中で何が問題かと。特にこれからの高齢化社会を念頭に置いた時には、やはりその対応の仕方として幾つか問題があるだろう。前半のほうは、これ、所得税の基本的な構造でありますからご覧いただくとして、やはり問題になるのは、ここに書いてございますように、高齢者に関する控除という意味においては、公的年金等控除なり老年者控除がある。それからもう一つは、年金控除との兼ね合いで給与所得控除もある。給与所得控除というのは、言うならばクロヨンであるとか、捕捉率から出てきた話でありますが、それを見直そうという意味で給与所得控除も議論いたしました。それから、やはり年金課税ということの意味、あるいは年金課税についての日本の独特な地位ですね、国際比較において。これもその資料にいっぱい出ておりますので、順次ご覧いただけたらと考えています。
そこで、今日は即、この方向で進めようというところまでは議論いたしておりませんが、問題意識としては、先程申し上げた給与所得控除、退職所得控除が過大過ぎるんじゃないかという問題意識は皆持っております。それから、年金課税については、入り口でかけるか、真ん中はどうするか、出口でかけるかという議論、これも国際比較をいたしますと、入口、出口ともに非常に課税が甘い。ほとんど課税が行われていないのは日本だけでありまして、これについて大方の意見は出口のところで、つまり公的年金等控除のあたり、それから老年者控除のあたりで見たらいいのではないかという議論でございます。
資料について2~3ご注目いただくことがあるとすればどこかということでありますが、28ページに公的年金等の課税のあり方がございますが、これは、最近でこそ雑所得として扱っておりますが、昔は給与所得という形でこの年金等も扱われた。したがって、その控除の扱い方も、公的年金等控除として独立する以前は給与所得控除を使ったということでございます。それから、やはり年金ももらい、給与所得もまだ稼ぐ65歳以上の方は両方使えるわけですね。過去の経緯から見ると片一方だけだったのが、今は両方使えるという点においてどう考えるかという、そういう資料もございました。
それから、50ページに非課税の項目が全部一覧として出ておりますし、要するに税法以外で規定されるというのが50ページの右下のほうに書いてございますが、そこに書いてあります幾つかの項目ですね、今日はいろいろな意見が、ある一部の新聞紙上で報道されておりますが、これをどうするかといった点。非課税という形で、はなから課税ベースから落としちゃうものについて、どういうふうな扱いをこれからするという点もわれわれとしては問題意識は持っているつもりであります。その一例が、遺族基礎年金でありましょうし、それから失業給付等でありましょうし、あるいは生活保護等々はどうなのかというのはこれから議論になりますが、前回か前々回、宮島さんの報告をご紹介した時に、外国では税込みの社会保障給付という概念がある。日本は全て税引きで考えている。だから、一旦渡してそこから税を負担してもらうという考えも十分あるだろうという意味において、これからこの辺の非課税というものの範囲を少し議論する必要があるだろうという問題意識を持ちました。
それに対してどういう議論が今日行われたかということでございますが、幾つか大きな議論が出たのでありますが、やはり一番われわれとして共有したのは、これからは社会の構成員全員が負担するような社会にしていかざるを得ないだろう。ということになりますと、恐らく資産性所得課税あるいは資産課税、このあたりはやはり重要になってくるだろう。特に消費税というのが将来引き上げの問題が出てきた時には、その前提として、資産課税、資産性所得課税、これはしっかりしないといけないのではないか。それから、その意味合いで言うならば、所得控除というものを使って社会保障政策をするというこれまでの考え方、これはもう見直しの時期ではないか。つまり、社会保障をやるならば、税ではなくて歳出の面でやるほうが、言うなれば対象者を限定し、もっと効率的ではないかという議論がその背後にあるわけでありますが、そういう意味でスウェーデンの事例をご紹介いただいた委員からは、スウェーデンあたりは老齢者、あるいは勤労学生というものを弱者として扱い、特別な控除を設けるというよりは、本来そこにもちゃんと負担してもらうという考え方が徹底しているという形のご議論もあり、個々の所得のカテゴリー別に特定の控除を与えるという議論は、そろそろ曲がり角ではないかというような意識を持っております。そういう意味では、給与所得控除もその一環ですよね。あるいは公的年金等控除もその一環ですね。そういう意味で考えてみたいということであります。
さはさりながら、やはり高齢者という方々の既得権益を侵すというような恰好で議論を進めることについては、自ずからその縮小論のスピードなり幅なりには十分配慮する必要があるだろうという議論も当然片や出てきているわけでありまして、そういう意味で、例えば年
金課税で言うと出口の給付段階でかけるというのが大層でございますが、いやいや、若い頃のほうが担税力はあるんだから、入り口でかけてもいいじゃないかという議論も当然あります。ただ、全体の流れから言うと、税調としては入り口ではなくて出口ということになるのではないかというふうに考えております。
それから、政治的な要因によって、特に小泉さんの個人的なご発言もございますが、消費税をやらないという結果として今、所得税の課税ベース拡大、それで所得控除見直しというふうに来ているけど、これもまた所得税と同じように国民各層にかなり負担を強いる方向に行く。とりわけ高齢者というところに話が行くに当たって、税調としてはしっかり腰を据えて議論しなきゃいけないという問題提起もございました。ただ、われわれとしては、消費税がすぐできない、できるということに関わりなく、やはり所得税を本来の姿に戻そうという強い姿勢があるわけですね。つまり、基幹税として再生したいという形です。そういう意味で所得控除を見直す。その一環として、過度にと言っては言い過ぎかもしれないけど、高齢者世帯というのが、いろいろな意味で、年金も通じていろんな意味で優遇されていると。過去にこれまで優遇されてきたと、様々な面で。それに対して若い世代はかなり不満もあると。そういう意味で、既得権益には十分配慮するにしても、高齢者の世帯にはある程度の負担というのをしてもらうという方向、つまり世代間の公平を確保するという意味でですね。それは避けて通れないんじゃないかという議論が大きかったと思います。
それから、1つ重要な点と思われますのは、住民税にも国税の所得税とほとんど同じような形で控除が入り組まれて、レベルは違うんだけど、非常に複雑怪奇になっているんですね、住民税もね。それはもう基礎控除ぐらいだけにして、あとは地方に委ねるという形で、国税の所得税とはまた別の住民税という姿を模索する、これがいいのではないかと。私、個人的にはこれは前から言っておりまして賛成でありまして、そういう議論もあったということをご紹介しておきたいと思います。
それから、資産課税の一環として、相続・贈与の議論が出ました。これはご承知のように、今年度の税制改正でかなり大きな相続時精算課税制度というのを導入いたしましたから、これで大きなことをやったという意味において、新しくまた次なるステップをというのはまだ時間がかかると思いますので、今日は過去の例をひと渡り、これまでやったことをおさらいいたしました。ただ、1つ残るのは、やはり課税ベースの拡大が相続税でやられてないのではないかと。先程来申し上げております資産課税を強化するという方向は、今後消費税の導入あるいは所得課税を高めていくなどという一連の流れの中で重要であるという認識を持っておりますので、相続税の課税ベースを広げると。今、100人に5人という恰好で、わずかな対応しかできておりませんけれども、それは1つ大きな問題として出されました。
元来、相続税には幾つか課税の根拠があるんですけど、巨大な富の集中を排除するとか、あるいは、ある意味では一世代…一生涯と言ってもいいんですが、そこで社会から様々な形で受けてきた恩恵を精算する。あるいは受ける側から言えば、ウィンドホールですよね、一種のね。言うなれば思いがけない資産としてもらうわけですから、それについては応分の負担をして社会に還元してもらう。あるいは、一生涯様々な形で福祉、あるいは給付のほうで面倒を見てもらっている。高齢者程それは強くなっているから、それを世代を経て次に渡す時には応分の負担があってもいいじゃないかと。いろいろ筋は立とうかと思っております。そういう議論を今日はいたしました。
それについて、この資料の後ろのほうに高齢者の資産状況を書いてございます。年齢別の実物資産、あるいは金融資産の保有高であるとか、最近若者と年寄りの間でどうも保有のギャップが開いてきたんじゃないかということもございまして、こういうのを少し精査しながら、これから世代間の担税力を資産面から見てどうなのかという議論もやっていきたいと、このように考えております。
それぞれひと渡り今日は資産課税、個人所得課税を少子高齢化という世界から眺めました。これから中期答申の方針のほうに次第に移行していくわけですが、やはり厚生労働省が何をやっているか、どういう考えでいるかというようなことも聞きたいと思っていますので、5月13日、連休明けでございますが、基礎問題小委員会でそういう話をしたいと思っていますし、その後、5月16、あるいは20日ぐらいにまたそれを一層深める形で議論したいと思います。それから、来週になりますが、火曜日、4月22日に総会を開きまして、これまでの基礎小、あるいは金融小でやりましたことを総会にご報告して、総会ベースでの議論を再開したいと、このように思っています。それから、来週後半から連休にかけて、北米と北欧に2チーム出しまして、社会保障と税制関係、それから証券税制を含めた資産性所得の課税等々を少し調査してきて、われわれとしてどういうことが学べるかということをしかと議論をしてきたいと考えています。
以上ですね。
〇記者
中期答申までの今後の、今ちょっとスケジュール的にはおっしゃっていただいたんですが、今日、ある程度論点は、例えば公的年金等控除の出口のところにという大方の意見というか、ある程度の目標というか見どころが出てきたと思うんですけど、これをどういう形で深めて、イメージの問題なんですが、中期答申…この前の「あるべき」をよりバージョンアップというか、どういう形で念頭に置いて中期答申に向けていくのか、先生のお考えをお願いします。
〇石会長
今日も議論が出ましたけれども、一応、質的な意味では昨年6月に「あるべき姿論」で課税ベースを広げるという中で、今日議論いたしました高齢者の控除をどうする等々を議論してあります。ただ、それを今、ご指摘のように深めるとなると、少し数量的なことまで踏み
込むのか。あるいはもっと具体的に、さっき言った出口・入口論の年金課税みたいなのをはっきり書くか。そういうところをどう書き込めるかということが、これからの大きな議論になるんじゃないかと思いますので、まだ2カ月ぐらいありますので、そこはそれなりにもう少し努力をしてみたい。また、海外調査の結果等々もいろいろ参考にできるかもしれませんから、言うなれば、昨年の6月よりは少し踏み込んだ形で何か具体的に書けないかということを考えています。
〇記者
2点お伺いしたいんですけど、先程もちょっと説明ありましたが、遺族年金ですね、今非課税となっている。これを課税対象にするかどうかという考え方についてもう少し詳しくということと、その下にあるもう1つ非課税で障害年金もありますが、これは高齢者とは関係ない分野かもしれませんが、これについてはどう考えるのかという点。もう1つが、税負担のほうを上げて世代間の公平を図るということですが、一方で坂口大臣が今日、年金の高額所得に対しては給付を減らすと。向こうのほうは給付段階での削減をこれから進めていこうと考えています。激変緩和措置も必要というご指摘がございましたけれども、その両方からの、ダブルで同時期にそれが実施されてしまうと、高齢者の優遇というより逆に今度は負担がかなりきつくなってしまう。そのあたりのお互いの調整ですね、しっかりと合わせてスケ
ジュールというんですか、工程表というのを揃えていく必要があるのかなと思うんですが、そのあたりをどう考えているか。
〇石会長
39ページ、たまたま今指定されましたように、これを見ますと、日本は他の主要先進国5カ国に比べますと、やっぱり非課税の部分が多いし、様々な点で違っていますよね。特に遺族年金のところは、ドイツが一部課税でございますが、一般的に課税ですよね。ですから、障害年金のほうは、これは担税力の点で問題を抱えています。ただ、他の国は課税してますけどね。したがって、遺族年金のほうから手を付けるとすると、この非課税について議論の余地はある。つまり、非課税を見直すという議論はある、他の年金との比較におきましてもね。ただ、今日たしか日経だったかな、1兆何千億円という増税になるという話、あれは、トータルに税率を掛けただけだと思いますが、年金をもらっていても様々な基礎控除その他を使えるわけですから、そうすると、もっともっとトータルの税収の上がりとしては非常に減ってくるんではないかと、そういう積算の誤りがありました。
それから、社会保障審議会との合同の議論をしようと思っているんですが、これは5月かな、一応日程は決めました。そこで、要するにこれから保険方式でやるか税方式でやるかということもさることながら、今おっしゃったような歳出面との絡みで一体この年金も含めて、給付・負担をどう考えるかということはやはり議論して、双方、何をやっているかという情報交換、もう少しできれば立ち入った形で議論したいと思っています。ただ、これまでの慣行から言いますと縦割りですから、うちの税調、向こうの社保審、これをてんでんばらばらにやってきた中でどこまでそこら辺を整合的にまとめることができるか、これからの努力だと思いますが、やはり時の機運として歳入歳出両面で考えないと高齢社会への対応というのは不十分だと思います。そこで、やることはとりあえずやってみて、坂口大臣のおっしゃっているようなことがもしか本格的な政策論議になるならば、税制でもそれなりの対応は必要かと思いますが、基本的には、われわれは税制は税制として考えていこうと考えております。ただ、先程来申し上げているように、様々な所得控除を社会保障制度として使うのは限界がもう来ているというのは認識として一致していますから、それはそれで見直す過程で、歳出面でもう少しというか、今度は手当の方で考慮するという政策ポリシー、あるいはわれわれとしては、そういうポリシーを提言するということはあり得ると思います。
今の点との関係でもう一回確認なんですけど、そうすると、老齢年金は当然のことですけれども、遺族年金と障害年金の部分ですよね、こちらのほうとしても見直しの対象として税調として今後取り組んでいくということで理解していいんですか。
〇石会長
障害年金まで一足飛びに行くのは、ちょっと行き過ぎではないかと個人的に思っています。だから、遺族年金のほうは、他の国から見てもほとんど課税の対象になっていますし、50ページのほうで一覧表が出てますけどね、この中で幾つかもう当然の如くとして非課税になっているところですね、これは余談だけど、ノーベル賞もあるし文化功労者の年金等々ありますけど、それは別として、社会保障関係の中でもですね。ただ、生活保護みたいなのは、それなりに理由はあるでしょうが、われわれとしては、税込みの社会保障給付という概念、これは諸外国でこっちをとっているほうが多いので、この視点から非課税の項目を洗うということは必要かと思っています。その一例として、たまたま今日報道されたような遺族年金というようなことが浮上してくることは十分にあり得ます。
〇記者
その理由のところなんですけど、先程は、諸外国と比べて、諸外国は課税になっているということがその1つの理由だと。もう1つの理由としては、今おっしゃった社会保障というのを…。
〇石会長
給付全体ね。全体を税引きで考えるか税込みで考えるかという議論が残るんですよ、やっぱり。端的に言えば、生活保護費だって一旦渡して課税ベースにしたっていんですよ。所得が高くなればね。だから、地方の住民税というのは絶えずそこを念頭に置いて課税最低限を調整していますけど、外国ではあまりやってませんよ、そういうことは。その辺のことを新しい視点から整理する、あるいは議論することはあり得べしということです。分かりましたか。何か煙にまいたつもりはないけど。(笑)よろしゅうございますか。
(以上)