第8回基礎問題小委員会 議事録
平成16年3月16日開催
〇石小委員長
それでは、第8回目の基礎問題小委員会、開催いたしたいと思います。
今日は、例の経済社会の構造変化の実像把握の3回目でございまして、前回の「就業」に続きまして、今日は「価値観・ライフスタイル」、これを取り扱いたいと思います。
今日はお三人の有識者の方にご出席いただいております。後ほどまた詳しくご紹介しますが、野村総合研究所の日戸さん、それから博報堂生活総合研究所の関沢さん、それから日経ウーマン編集長の野村さん、この三方に順次ご説明、意見を発表していただきまして、自由闊達に議論をしたいと思います。
今日は、そういうわけで、30分ほど延長いたしまして4時半ぐらいを考えておりますので、長丁場でありますが、よろしくお願いをいたします。
事務局もまた、例によってと言っては失礼ですが、大変いい資料、バックグラウンドのデータを用意してくれておりますので、まず最初に佐藤調査課長のほうから、そのバックグラウンドのデータを一通りご説明いただいて、本論に入りたいと思います。
では佐藤さん、お願いいたします。
〇佐藤調査課長
それでは、資料をご説明申し上げます。資料、「基礎小8-1」ということでご覧いただきたいと思います。
まず資料をめくっていただきますと、最初に、「全体を通じての『基本的視点』」と書いてございますが、これは共通の事項でございますので、省略をいたします。
2ページ目、データ等に見られる現状というところから入りたいと思います。価値観・ライフスタイルということになりますと、なかなかつかみどころがないテーマだということでございますが、後で見ますデータ等々から見られるおよその傾向というものをここで差し当たりまとめたものでございます。ざっと読みあげたいと思います。
まず、「個人の生活意識や価値観・ライフスタイルが大きく変化」。「『生活満足度』は趨勢的に上昇、近年低下傾向。『モノの豊かさ重視』から『心の豊かさ重視』(快適性重視)。『未来志向(将来に備える貯蓄志向)』から『現在志向(毎日の生活を楽しむ消費志向)』へ。『未来の結果や他への影響について熟慮する傾向(コントロール)』から『現在の感情や自分の利害本位で行動し、煩わしさを回避する傾向(自由)』へ。『仕事志向』から『余暇志向』へ。消費行動においては、『安心』『快適性』『利便性』を重視する傾向。『自己へのこだわり』と『他者を気にする意識』とが共存する傾向。消費のサービス化が一層進展(「HIERO」化)」。後で説明申し上げます。「『安心・安全』に対する関心。また、『規律』意識が高まる傾向」。
2つ目でございますが、「既存の組織や制度(家族等)との『関係性』が変容」ということで、これは前2回でお話が出ましたものをもう一度掲げておりますけれども、『家族』に対する帰属意識が希薄化する傾向。他方で、自分の『生息域』を大切にしつつ、知人・友人やコミュニティ等との間での緩やかなつながりを求める傾向。『カイシャ』に対する帰属意識が希薄化する中で、生きがいが分散化・多様化する傾向」。一番下でございますが、「親戚、職場や近隣とのつき合い方(人間関係に関する意識)が全体として希薄化」。
次のページでございますが、公共意識ということでとらえてみますと、「『社会』に対する貢献意識に比べて、『国』に対する意識や『自己犠牲』の意識は相対的に低い。また、若年層ほどそのギャップが広がる傾向。比較的身近な組織・制度に対する信頼や、身近な問題に対する社会意識のほうが相対的に高くなる傾向」。
これが一応要約でございますが、ざっとバックデータを見ていただきたいと思います。赤い紙の入った後ろのほうにバックデータがございますので、1というところのページから見ていただきたいと思います。
まず最初、現在の生活満足度というものを調べた意識調査でございます。このグラフを見ていただきますと、1958年からとってございますけれども、1970年代半ばまで、60%内外で満足というのが安定的に推移しておりますが、その後上昇いたしまして、1990年代半ばから、いわば屈折いたしまして、現在、低下しているということでございます。継続的に低下しておるというのがここ最近の特徴でございます。
それから1976年、後でちょっと出てまいりますが、この時点で、流行語大賞的に申し上げますと、「一億総中流」という言葉がこの時点で言われた言葉。それから1979年、この時期、例えば「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という言葉が出た時期でございまして、そういうものとの関係で、この生活満足度の推移をご覧いただければと思います。
それから1976年までの時点、高度成長期になりますけれども、前2回のかかわりで申し上げますと、当たり前の家族とか、日本型雇用モデルとか、そういったいわば右肩上がりの時代のイメージのもの、この時期の推移として、生活満足度が60%内外であったということもあわせ見ていただければと思います。
次の2ページでございます。この生活満足度というものを男女別・年齢別に見たものでございます。ざっと見ていただきますと、1990年から2003年に向けまして、この全体のグラフが下にシフトしておりますので、そういう意味では、満足度は全体として下がっております。
ただし、男性の20~29歳だけは上がっております。ここが特異な動きを示しています。
それから全体といたしましてお椀型をしておりまして、中年層では満足度が低く、高齢者、それから若年者、両サイドに高くなるという形になっております。このあたり、特に若者の意識構造等々につきましては、後のプレゼンテーションの中でお話があるかと思います。
次の3ページでございます。これは今後の生活において、「ものの豊かさ」「心の豊かさ」、どちらを重視いたしますかという問いに対する意識の変化でございます。1979年までは半々ぐらい、イーブンでございますが、それ以後、心の豊かさ、ゆとりというものが重視されて、現在は60%ぐらいですから、3人に2人ぐらいが「心の豊かさ」重視という傾向になっております。
1979年、先ほど申しましたが、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とか、あるいは「田園都市構想」ということで、豊かさの実感ということが随分言われた時期でございまして、その時期から、「心の豊かさ」のウェイトが上がってきているということでございます。
ただ、ものと心を対立軸でとらえるかどうかということについてはなかなかピンと来ないところがありまして、おそらく今は、ものというのが単純な所有欲と言うより、ものから得られる効用みたいなものになるのかもしれませんので、この心とものというものの対比が必ずしも適当かどうかという問題はあるかもしれませんが、いずれにしても、そういう効用、価値というものを重視する傾向になっているということでございます。
5ページをご覧いただきたいと思います。これは今後の生活において「未来志向」ですか、「現在志向」ですか。「未来志向」といいますのは、貯蓄、投資などによって将来に備える。「現在志向」というのは毎日の生活を楽しむということでございます。ちょうど1980年代を境にXの形をしておりまして、70年代までは「未来志向」、それから現在は「現在志向」ということで対照的な姿をしております。
それから、続きまして7ページ。同じような資料が並んでおりますけれども、傾向を見るために、このページはNHK放送文化研究所の資料でございます。基本的な生活目標ということを聞いたものでございまして、(備考)の欄をご覧いただければと思います。右下の表をご覧いただきますと、人々が生活していく上で基本的な目安を調査したものでございます。2つの軸、時間的な軸と社会的な軸というものを立てまして、時間的な軸については、現在の感情で行動する、現在中心。それから未来の結果を熟慮してコントロールする、未来中心という軸。それから縦でございますが、自己中心で、自分の利害で行動する。社会本位といいますか、他者意識ということで、他への影響を意識するということをマトリックスにいたしまして、それぞれ愛志向、快志向、利志向、正志向という言葉で整理したもので、これでアンケートをとったという結果が上の表でございます。
見方でございますけれども、2003年のところを見ていただきますと、マルを打ちました41という数字と、マルを打ちました24という数字、これは愛志向、快志向ですが、これは合わせまして65という数字になります。これは、下の表を見ていただきますと、現在中心志向ということになります。愛志向の意味は、「身近な人たちとなごやかな毎日を送る」。快志向は、「その日その日を自由に楽しく過ごす」。これが65でございますが、73年まで戻っていただきますと、マルのところ、31+21ということで52という数字でございますので、未来中心型から現在中心に移っていることから、こういう形になります。
それから下のほう、快志向と正志向と書いてございますが、マルの24と四角の7というものを対比していただくということですが、これは両者の数字が開いていく傾向にあるということで、「みんなと力を合わせて世の中をよくする」というような傾向から、「その日その日を楽しく過ごす」という傾向に移ってきていることが読み取れるということで、それを要約いたしましたのが上の丸枠のキャプションでございます。
ちょっと読み上げますと、「多くの人が志向している生活目標については、『未来中心』から『現在中心』を志向する傾向。『未来の結果や他への影響について熟慮』から『現在の感情や自分の利害本意で行動し、煩わしさを回避する』こういった傾向が読み取れるというのがNHK放送文化研究所の調査でございます。
9ページでございますが、仕事か余暇かということになりますと、73年の段階、高度成長真っ只中の段階では仕事中心の方が多かったわけですが、現在は余暇志向、あるいは余暇と仕事を両立するということで多様化しているということでございます。
次に12ページまで飛んでいただきます。消費か貯蓄か。これも時間の使い方という角度になろうかと思いますが、左側、この問いは、仮に1カ月分の臨時収入があった場合にどうしますかという問いです。貯金するという人が減り、計画的だが使うという人が増えるという傾向でございます。
そして13ページをご覧いただきたいと思います。次はその中の消費についてちょっと見ていただきますが、消費というのは、価値観・ライフスタイルが具体的にあらわれてくる局面だということで消費に着目したものでございます。どういう商品を買いますかという問いに対しまして、このシャドウをつけました3つが特徴的でございます。「安心して買える。」それから「環境に配慮。」それから「使い方が簡便でわかりやすい。」キーワード的に申し上げますと、安心、それから快適、利便、あるいは環境だと、ある意味では自分の哲学的な部分でこだわりというような部分がこういうところの消費行動にあらわれているのかなということでございます。
14ページでございますが、それを消費スタイルで見ていただいたものでございます。時間の関係がありますから細かくは説明できませんけれども、一番上のボックス、価格が品質に見合っているかよく検討して買うとか、安くて経済的なものを買うとか、値段が高くても品質のよいものを買うというようなことで、リーズナブルなものというのは当然、消費行動にございますが、その下の有名メーカーの商品を買うというようなことで、他者を意識して、無難な選択をするという傾向がある。
それから4つ目のブロックのところに自分のライフスタイルにこだわって商品を選ぶということもわりと高い数字になってまして、自分らしさにこだわっていくということ。あるいは下のほうに安全性配慮等々、このあたりに消費の行動が出ておるということでございます。
16ページ、消費を、具体的にそれではどういうところに特徴があらわれているかという具体的な数字でご覧いただくということですが、16ページは消費支出の構成を見たものでございます。少し黒めに書きました保健医療、交通・通信、教育。インターネットとか、英会話だとか、サプリメントとか、そういうふうな関係のものの消費が非常にここ30年間で急増しております。
一方、食料の部分につきましては、逆に34%から23%ということで減っておりますけれども、その中身をご覧いただきますと、下のグラフでございますが、食料品一般という、いわば野菜、魚というものよりも、むしろ調理食品、外食。調理食品というのは中食というものだと思います。コンビニ、デパ地下、そういったものの利便的な部分の消費というものが形態的に増えてきているということでございます。
17ページ、それをもう少しおもしろく分析したものを見つけたということでございます。全体として名目消費は減ってまいりますけれども、最近増えているものはどういうことかということで、健康、情報、教育、リフレッシュメント、アウトソーシングということで、この頭文字でHIEROと呼ぶわけですが、こういう部分が増えてきている。
下の表で、消費者の欲求という中にいろいろ言葉が書いてございますが、「快適」とか「技術」とか「能力」とか「趣味」とか「癒し」とか「自由」とか「解放」とか、こういう言葉がキーワードとしてあらわれているわけでございます。
ちょっとお時間の関係で、次は25ページまで飛んでいただきます。今度は、先ほど申しました既存組織とか制度との関係性ということです。家族意識につきまして、これは前々回の「家族」の回で見ていただきましたので、省略いたします。
それで27ページでございます。これはちょっと新しい資料でございますけれども、家計経済研究所の研究でございます。個々の人が自分のリスクに遭ったときにどういう対処をいたしますかということを聞いたときの1994年から2001年までの変化を分析したものでございます。
左側が経済的な対処法によるもの。右側が相談による対処ですので、精神的な対処と見ていただきますと、経済的には、リスクに直面したときは自助努力で対応するという人が多いわけでございますが、「相談により対処」というところ、家族のレベルそのものが高いわけですが、家族のウェイトは下がり、むしろ友人が増えてきておるという傾向でございまして、家族機能の変容というものもこういうデータからも読み取れるのかなと思われます。
28、29、30ページ、このあたりは会社に対する意識ということでまとめておりますけれども、ちょっとお時間ございますのでここは省略させていただきますけれども、生きがいのパターンが大きく変容しているということをあらわしたデータでございます。
それから31ページでございます。ここは人間関係に関する意識というデータでございます。つきあい方ということでございまして、親戚づきあい、職場の同僚とのつきあい、近所づきあいということです。四角で囲みました数字、これが全面的なつきあい方で、何かにつけてしっかり助け合うという数字でございますが、これがこの3つの種類のつきあいの局面におきましてもそれぞれ大きく下がってきているということで、全面的なつきあい方が減少して希薄化してくるという傾向も見て取れるわけでございます。
その影響ということで、32ページ以下、32ページは不登校者の数、少年の刑法犯の数等々が大きく伸びてきておると。
それから33ページ、インターネットが人間関係の大きなコミュニケーション手段に最近ではなっておるわけですが、それによりまして行動範囲とか人間関係が広がったという人もいれば、むしろ外出機会が減るとか、地域コミュニティの参加の機会が減るとかいうことで、広がる部分と引きこもる部分がバーチャルな世界の中で共存しているというような傾向も見られるということでございます。
最後のほうですが、34ページ、公共意識ということを調べたものでございます。社会に貢献したいということについて、貢献したいという人がこういうようなグラフを描いておりますが、国を誇りに思うとか、次世代の繁栄のために個人が犠牲になることはやむを得ないとかいうような質問につきましては、そこに大きな乖離があります。特に若い人ほどその乖離が大きいということをご覧いただきたいと思います。
それから35ページ、各種組織、制度に対する信頼度というものを調べたものでございます。[1]から[15]まで、こういうふうなものを信用しますかということでございます。医師から始まりまして、学校の先生、警官、市役所の公務員、大企業、労働組合、中央省庁の官僚、国会議員、宗教団体と、こういう順番でずうっと信頼が落ちてきておるということで、身近なもの、具体的な業務、そういったもので信頼性が高いということかなと読み取れるわけでございます。
最後、38ページをご覧いただきたいと思います。今まで価値観とかライフスタイルで申し上げましたが、それはいろいろな形のデータでございました。38ページでお示しいたしましたのは、特に流行語大賞とかそういうことも含めまして、さまざまな価値観が具体的にあらわれている局面のヒントということであらわしたものでございまして、例えば1975年から79年のあたりの世相のところをご覧いただきますと、76年、「中流」という言葉がございます。それから80年に入りますと、「くれない族」とか「おしんドローム」とか、85年になりますと「ブランド志向」「DINKS」とか、90年代に入りますと、「ちびまる子ちゃん現象」とか、「結婚しないかもしれない症候群」。95年に入りますと、ここがサリン事件云々いろいろございますが、「失楽園」とか「ポケモン」「キレル子ども達」とかいうような言葉がございます。99年、2000年代に入りますと、「学級崩壊」等々ございますが、一方で、「千と千尋の神隠し」とか、「COOL」という言葉、最近はやっておるわけですが、時代時代にあわせたものが局面としてあらわれてきておるということでございます。
あわせて参考で、経済成長率のグラフを入れております。そういうものとあわせてご覧いただければと思います。
最後に、時間が短いものですのではしょりますが、もう一度戻っていただきまして、最初のほうの[iv]ページというところでございます。論点・切り口ということを書き並べております。拾い読みだけさせていただきます。
個人の価値観・ライフスタイルにおける変化のトレンドに関して、全体として「快適志向」とか「現在志向」等々ございますが、それが均質化し、集中化しているのか、あるいはばらつきがあるのかという話。あるいは将来、近未来においてどのような方向に動いていくのだろうか。同じように、商品についてもどういうふうな動きになっていくのかということでございます。
それから3つ目のポツで、経済諸制度(税制を含む)の設計や合意形成の過程において、今後、個人の価値観・ライフスタイルの変化におけるどのような点に着目し、それを織り込んでいくべきか。例えば「コントロールや煩わしさを回避し、自由を志向する傾向」や、「自己へのこだわりを選択に反映しようとする傾向」を重視するのが適当か。この場合には「自立」や「自己責任」が問われることなどをどう考えるべきか云々といったあたりもご議論になろうかと思います。
次の[v]ページでございます。2つほど書いてございますけれども、下のほうを見ていただきたいと思います。「公的部門」に対する信頼感と、より身近な「社会」に対する信頼感のギャップというものについて、それがどういう背景要因によるものか、あるいはこうしたギャップを克服し、「公的部門」に対する信頼の確保や、それへの「参画」を図っていくためには、どのような対応が考えられるか。これに関連して、「人々の目に見える位置に身近な『公共空間』を創出することが重要」との見方があるが、これをどう考えるかなどなど、ご議論のための切り口の例示とさせていただきたいと思います。
ちょっと長くなりましたが、以上でございます。
〇石小委員長
ありがとうございました。
今のご説明にご質問あろうかと思いますが、もう大分時間が押しておりますので、今から早速、お三人の有識者の方からご説明を伺おうと思います。佐藤調査課長に対する質問は後の議論の中で、もしかあればお出しください。
最初にご紹介いたしますのは、野村総合研究所の上級コンサルタントをされております日戸浩之さんでございます。現在、生活者の意識とか行動分析、あるいは将来社会、生活面にわたる調査研究をなさっておられまして、膨大な資料も今日お出しいただいておりますし、パワーポイントもお使いになって今からご説明いただくことになってます。
では、よろしくお願いいたします。
〇日戸上級コンサルタント
野村総合研究所の日戸でございます。
お手元にパワーポイントと同じ資料を事務局のほうから配付させていただいていると思いますので、ちょっと遠い方はお手元の資料もあわせてご覧いただきながら、ご説明を進めたいと思います。
本日、「価値観・ライフスタイル」ということでお話をさせていただくに当たりまして、我々が行っております2つの研究プロジェクトの成果をベースにお話をさせていただきたいと思っております。
まず、最初が生命保険文化センターという、生命保険業界の業界団体と私どもの研究所で、70年代から、「日本人の価値観の研究」というプロジェクトを行っております。それをもとに、価値観の構造というところに焦点を当てたご紹介というのを最初にさせていただきます。それから続きまして、2つ目ですが、私どもの研究所で、最近、3年に1回行っております生活者1万人を対象にしたアンケート調査のプロジェクトがございまして、これはどちらかというと短期的な消費行動に少し焦点を当てたものでございます。それを少しご紹介したいと思います。それが真ん中の2番、3番のパートでございます。それらをもとに、最後、今回の論点に当たるところへの示唆ということで、これは少し私見も交えてお話ししたいと思います。
まず最初に「日本人の価値観の構造」ということですけれども、まず我々のフレームを最初にご紹介してございます。これは、当時、東京大学で社会学を教えていらっしゃった見田先生と一緒にこのフレームワークを作ったわけですが、価値観というのを3つのレイヤーでとらえてございます。
一番根底にあって、非常に安定していて、人々の態度に影響を与えているものを価値観と定義してございます。実はその上に2つのレイヤーがございまして、態度、それから意見という、上に行けば行くほど表層的なレイヤーの人々の意識ということになるわけですけれども、意見というのは先ほどの消費に当たるような、少し個々の事象に対する意見、評価というものをとらえております。
実は本日大きくかかわってまいります、例えば税制に対する意見ですとか、あるいはいろいろな公的な制度に対する意見というのは、我々の認識ですと、この態度というところにかかわってくる問題なのかなあととらえております。
生命保険文化センターがなぜこのプロジェクトをやったかというと、生命保険というものがなぜ日本の中で受容されたかというその態度の分析というところに実は大きな焦点があったわけですね。そういうことでいきますと、今日の話というのは、最初にお話しするのは、価値観の構造というのが一番基底にある部分から見たアプローチ。それから2番目に、先ほどの1万人アンケートというのは非常に表層的な意見からのアプローチというふうに、上と下から少し人々の税制とかいろんな社会的な制度に対する態度というものをある意味で透かして見るというようなアプローチになるのかなと思っております。
それでは、早速4ページで、価値観の構造ということで、直近の2001年の生活者の価値観というものをまとめたものをご紹介いたします。これはいわゆる因子分析という手法を使いまして、価値観の因子というものを抜き出しておるのですけれども、大きく言いますと、日本人の価値観の構造として、非常に伝統的な集団志向という価値観が1つございます。これは脈々と70年代からある価値観なのですけれども、非常に伝統的な家族意識、性別役割分業に基づいた家族意識と、それから社会にコミットしていきたいという、集団を重視するという意識によって成り立っている価値観でございます。
それに対して個人、自分というものをある程度前面に出す価値観というのがございまして、これが自立志向、それからもう一つ、自適志向、これは造語ですけれども、より快適性を求めるような価値観と2つに分かれて今出てまいっておるということでございます。
それから3番目に、非常にユニークな価値観として、これも脈々とある価値観ですけれども、安楽志向というのがございます。これは責任や努力を回避するという意識、あるいは現在における楽しみとか遊びを重視するという快楽というような要素と、それからもう一つ、他者に同調して依存するという意識、これを安直というふうに分けているのですが、この2つの意識に今分かれて出てきていると。今こういう価値観の構造になっているということでございます。
5ページはちょっと年齢別の分布で見たものでございます。ちょっとわかりづらいのですけれども、基本的に左の丸で囲んであります自立志向、快楽志向というのが非常に若い人に強い価値観でございます。これは実は相反するように少し見えるのですけれども、実は若い人の間に2つのベクトルがあると理解していただければと思います。
それに対して右の丸で囲んでいるところでございますが、集団志向、それからもう一つ、自適志向ですね。特に中高年層、女性を中心に見られると思いますが、気の合った仲間と自分のセンスで楽しく暮らしたいというものが実は中高年で強いという構造に今なっているということでございます。
これを70年代からずうっと追いかけてみたものが形になるのですけれども、70年代は、そこに3つの色分けで書いてございますが、圧倒的に集団的な価値観というのが日本人の主流でございました。それが80年代になって自分というものが出てまいりまして、集団と個人という2つの対比する価値観というのが併存する状況になってまいりました。
それから安楽志向というのがいろいろ形を変えながら、全体の分布でいくと実は2割ぐらいの人がそういう価値観を支持していると見られるのですが、そういった価値観というのはずうっと根底にございます。こういった流れで、10年単位で見ると価値観が変動しているということでございます。
この価値観の特徴、7ページ左側に書いてございますように、基本的には伝統的な集団重視の価値観と個人を重視する価値観ということでございますけれども、これは後で幾つか出てまいりますけれども、自立という意識はまだまだ弱い。自己責任というのは欧米の個人主義と比べるとまだ弱いと我々見ております。
ただ、集団と個人という一つの対立軸がございます。その中で、少し社会が成熟化する中で、自適という、少し豊かな時間を過ごすとか、そういった意味での価値観が出てまいりました。
それからもう一つ、安楽志向という非常にユニークな価値観がございます。ある意味で他者に依存するというこのマインドというのは、東京大学の見田先生によりますと、もともと日本人にある部分あった価値観であって、それがかつては共同体に身を委ねるということでしたし、現代的に言えば、マニュアルとか、ある種のシステムとか、それから、今で言うと、例えば携帯電話のネットワークみたいな、人間関係の中に自己を委ねて責任を回避したいというような価値観、そういう形である部分出ていると解釈されております。
なぜこういった価値観が出てきているかというその背景に、右側にちょっと書きましたけれども、基本的な認識として、いろんな方がおっしゃっておりますけれども、絶対的な価値ということと向き合う機会が日本人にはあまりないと。やはりこれは宗教という存在に非常に大きく影響していると思います。そういった機会が非常にないということ。それから非常に人間関係をやはり重視するということがあります。これは歴史学者の阿部先生がおっしゃっております、「世間」という言葉が非常にこれをよくあらわしていると思いますけれども、世間という、人と人との絆があって、世間が個人を拘束しているという社会構造が実はずうっとあって、それがいろんな意味で影響を及ぼしているということがあろうかと思います。
それから3点目でございますけれども、先ほどの年表にもありましたけれども、急速に近代化が進んで高度成長を経験してきたということで、まず1つは、非常に階層社会ではなかったということ。それから、ある意味で地域差とか人種とか宗教による差がない中で、世代による価値観の差というのが非常に大きい社会であるということが言えるかと思います。
それから最後ですけれども、先ほどもご説明にありましたように、現在志向か未来志向かということでいくと、やはり基本的には未来志向の非常に強い特徴があるのかなということで、ただ、これから、低成長の時代ですとか、あるいは少子高齢化が進む中で、将来よりも現在のほうを重視するという価値観は徐々に強まってくるだろうなと。ただ、意外とまだまだ、シフトし切れてない面もあるのかなととらえております。
このような背景があって、日本人の価値観の構造があるということでございます。
次に、では少し表層的なほうの生活者の意識ということで、ここはすでに事務局のほうでも幾つかデータを使っていただいておりますので、簡単に流して見ていただければと思います。
9ページで、大きくは4つの点をご紹介したいと思っております。1つが、まず右肩下がりを前提とする生活設計という時代に入ってきたということ。それから2点目が、非常に今、若者を中心に就業意識が保守化しているということ。それから3点目が、やはり少子・高齢化というのは確実に進んでおりまして、それに対する不安というのは強くなってきている。それから4番目に、先ほどもちょっとございましたけれども、弱まる規範意識という、この4点について、少しデータを見ながらご紹介していきたいと思います。
11ページでございますけれども、まず、これは将来の生活設計をどういう前提で考えているかということを尋ねた質問ですけれども、97年、2000年、2003年と見ていきますと、実は今よりも少ない収入を前提として考えるという人が、今以上の収入を前提としている人を抜いたというのが2003年のデータでございまして、右肩下がりで将来を考える人が増えてきたという、非常に社会が成熟化してきているという認識を国民も持っているということでございます。
次に就業意識ということで、実は直近で見ると結構逆行した動きがあるということですけれども、まず右側のグラフを見ていただくと、アントレプレナールのようなものを目指すという起業意識というのは、ここ3年、6年、ずっと下がり続けております。
逆に、左側のグラフ、「出世や昇進のためには多少つらいことでも我慢したい」という意識はむしろ若年層で強まっておりまして、非常にある意味で、経済情勢が厳しく、就職も厳しいということを受けて、かなり若年層が保守化しているのかなと見ております。
13ページも1つデータですが、「たとえ収入が少なくなっても、自分のやりたい仕事をしたい」という意識が、これは女性を中心に下がっておりまして、やりたい仕事をしたいという自分を出すということも、経済情勢の見合いの中で少し停滞しているという傾向が読み取れるかと思います。
次に不安でございますけれども、左下に時系列の幾つか特徴あるところを示したのですが、雇用・失業に対する不安ですとか、収入や資産価値の低下、あるいは税金、社会保険料の増加というあたりの不安というのは非常に高く、着実に強くなっているのかなと。
それから右側のグラフでいきますと、これはいろんな調査に出ておりますが、健康に対する不安というのは非常に強いということで、この辺はやはり少子高齢化というものの影響というのが着実にあるのかなと見ております。
次に最後の4番目のパートで、規範意識に関する質問でございます。これは先ほど事務局からも一部ご紹介いただいたと思いますが、積極的に社会のために貢献したいという意識が、これは3年間、6年間の推移で見るとほとんど実は変わらないのですけれども、かなり高い水準で社会に対する貢献意識は高いということになっております。
それに対して、国や国民を誇りに思うという意識はじりじりと実は下がっておりまして、しかも、グラフのカーブを見ていただくと、若年層ほど低いという傾向が男女ともに顕著になっているということでございます。
ただ一方で、これは「同じ機能・値段であるならば、外国製品よりも日本製品を買う」という質問なのですけれども、これは逆に高くなっておりまして、製品という意味では日本製品がいいのだという意識になっているということでございます。
ただ一方で、これは私も非常に意外なデータなのですけれども、「目上の人の言うことには、原則として従うべきである」と。いわゆる長幼の序を肯定するような意識というのが意外と高く、かつ、年齢による差がない、性別による差もないということで、非常にこれはある意味ですり込まれた意識なのかなあということでございます。
あとは少し家族観について触れておりますけれども、ここ10年間の一番大きく変わった意識ということで取り上げるならば、結婚観、家族観というのはやはり着実に変わっておりまして、かつ、男女差というのが保たれているのですね。すなわち、女性のほうがより精神的になり、かつ、男女ともにより自由な家族形態を望む意識が強くなっているということでございます。
20ページはいろいろな結婚に関する抵抗感というのを聞いてまして、例えば夫婦別姓に対して抵抗がある人は、男性で7割、女性で6割という形で、ただ、これを見ると、かなり結婚の形態に関しては自由な形態を望む意識が高まっているということでございます。
21ページはちょっと細かくて恐縮ですが、ちょっと変わった質問で、社会通念上大目に見られる行為というのはどういう行為でしょうかということで挙げていただいているのですけれども、この水準自体なかなかおもしろいのですが、ちょっと網をかけたところを見ていただくと、例えば、下の真ん中辺で、「駅などで具合が悪い人を見て見ぬふりをすること」というのが結構若い人で高いのですね。ある意味で非常に他者とのかかわりを避けるということのあらわれなのかなあとか、そういったことをちょっと感じさせるデータかなと思います。
全般的にやはり若い層のほうが、少しそういう意味でのモラルというのが低下しているのかなという結果でございます。
それから、このデータはなかなか読みづらい傾向になっているのですが、自己責任というのをどうとらえるかでいろいろ議論があるかと思いますが、22ページでは、少し自己責任的な行動というのを勝手に挙げて、それをどのぐらいの人がやっているかというのを見ております。
例えば防災に備えるということ、これは阪神淡路大震災の記憶が薄れる中で少し下がっているとか、それからちょっと意外なのは、例えば銀行からの自動引き落とし額を請求書とつき合わせるようにしていると。これはアメリカなどですと小切手で払うということで、必ず確認するという行為が入るわけですけれども、日本の場合はその辺チェックが甘いということで、その辺の行為の割合も下がっていると、そんな結果になっております。
以上、まとめということで、この4点、成熟化が進んでいる、それから保守化している就業意識、それから少子高齢化の影響、それから規範意識に関してはいろんな面で弱くなっているのかなということをご紹介いたしました。
次に消費意識ということで、幾つかデータを見てまいりたいと思います。ちょっと進みまして、1つ特徴的なデータ、27ページでございますが、やはり安いものを買うという、非常にデフレの影響というのが昨今あったわけですけれども、少しそれが頭打ちになっているのかなというのが生活者の意識にもあらわれております。
ちょうど2000年のころというのは、ユニクロがはやり、かつ、マクドナルドが半額のハンバーガーを売って非常に話題になった時期でございますけれども、そのころをピークに、実は2003年にはどの年齢層でも下がってきているということで、とにかく安いものを買うという意識が弱くなっているということでございます。
一方、先ほどもありましたけれども、「自分のライフスタイルにこだわって商品を選ぶ」とか、「周りの人と違う個性的なものを選ぶ」という意識は非常に高くなってございます。これはどの年齢層でも非常に高くなっているという結果でございます。
それで、今の2つの質問を使って消費者を4つの消費スタイルに分けたというのが29ページの図でございますが、縦軸が、高くてもよいのか、安さ重視なのか、それから横軸が、自分のお気に入りにこだわるのかどうかということで分けますと、この4つの消費スタイルが浮かび上がってくるわけでございます。
ここで注目されますのは、非常に伸びているところはどこかといいますと、右上のプレミアム消費ということで、お気に入りにこだわって高いものを買うというところに今シフトしております。
ここで1つちょっとご注目いただきたいのが左上です。利便性消費というものが結構日本人の多数を占めているということでございます。これは高くてもいいのだけれどもこだわりはないということで、結構、50代を中心にこの消費スタイルを支持しておりまして、これは我々の解釈ですと、非常に日本的なスタイルなのかなと。非常にコンビニエンスストアとかそういうものが発達している中で、やはり便利さを重視するというスタイルがここにあらわれているのかなと見ております。
あともう一つは、非常に情報に対する意識というのが高まっておりまして、商品を買う前にいろいろと情報を集めて買うという意識が非常にどの年齢層でも高くなっているというのが左側、あるいは右側のグラフでございます。
あと幾つかございますけれども省略させていただきまして、まとめ、36ページまで飛んでいただけますでしょうか。消費スタイルということで、少し直近のいろいろ動きを見ていただいたのですけれども、まず安さ重視というところが頭打ちになって、かつ、ライフスタイルにこだわるという意識が出てきております。その中で、プレミアム消費というものが大きく伸びているということと、それから利便性消費。この利便性というのが1つ日本的な特徴なのかなと思っております。あとは、ITの影響で、非常に情報を重視するという志向が高まってきているということが言えるかなと思います。
それでは、あと、これらを受けて、少し今日の論点に関連するような視点を出したいと思っているのですけれども、最後に3つの論点、富の分配をめぐる意識ですとか、未成熟な個人の意識、あるいは家族に注目するということでお話ししたいと思っておりますが、その前に幾つか、我々の考え方をお示ししたいと思っております。
まず39ページは、先ほど事務局のデータにもございましたけれども、ここで我々の読み方としては、非常に、既存のある意味でエスタブリッシュメントに対する信頼感というのがやはり低下しているのではないかということでございまして、このデータをちょっと時系列で見たものが40ページですけれども、医師ですとか、学校の先生ですとか、こういったところはじりじりと信頼感を下げております。警察の場合は2000年前後に非常に大きな不祥事があって、少し回復しておりますけれども、全体的に既存のいろいろな確立した制度とか機関に対する信頼感というのは低くなってきているということでございます。
それから2点目でございますが、今ある意味で既存の制度が信じられなくなっている、あるいは会社というものもかつての重みがなくなってきている中で、かなり家庭というものに今関心が向いているのかなということを幾つかのデータでご紹介したいと思います。
例えば41ページのデータでいきますと、「会社や仕事より自分や家庭のことを優先したい」という意識が、男女ともに少しずつ高くなってきております。生きがいのタイプというのを分けてみると、これもちょっと意外なデータですが、実は仕事派と言われる方は10%弱ぐらいでございまして、結構家庭に生きがいを求めるという方が多数派を占めるというような傾向になってございます。
そこで、家族の形態というものに着目したものが43ページでございます。ここでは自分の親とどのぐらいの距離感で住んでいるかということを分けているのですけれども、実は親との近居とか隣居、あるいはもう少し離れた、1時間以内ぐらいに住むという人の割合がここずうっと増えてございます。これを我々は「緩やかにつながる家族」という言い方をしているのですけれども、適度な距離感を保ちつつ、何か困ったことがあるときにはお互いに支え合う、相談し合うという家族形態が出てきているのかなと見ております。
一方、地域というところにちょっと着目しているのですけれども、結論から言うと、地域社会というのが徐々に少しずつつながりを示してきてはいるのですが、まだ大きく変化している状況にはないのかなと思っております。これはお互いに地域のつき合いを深めていこうという意識が少しずつ強まっているという一つのデータになるかと思いますけれども、大きく地域社会、あとボランティアみたいなものが成果を出しているかというと、まだちょっとこれからなのかなあと見ております。
その背景として、45ページにございますけれども、男性ですと30代以下、女性ですと20代以下で非常に地域とのつながりが弱いと。地域活動に参加している人の割合が少ないという結果が出ておりまして、逆に言うと、これから団塊の世代がリタイアしていく中で、地域というものが少しずつある種のポテンシャルを持ってくるのかなと見ているのですけれども、ちょっとまだいろんな意味で弱いのかなという見方をしております。
47ページは、1枚飛びましたが、ちょっとおもしろいデータですけれども、「周辺で空き巣に入られたときはどうしますか」ということで、警察に働きかけるのが「公助」と言っているのですが、地域の人と協力して防犯に努めるのが「共助」、それからセコムなどを利用するのが「自助」ということでいきますと、都市規模別に言っても、警察に働きかけるという公助というのは割合が実は変わってないのですけれども、共助というのはやはり都市部であればあるほど低いという結果になっておりまして、この辺が地域社会のつながりという面で考えると、1つおもしろいのかなと考えております。
あと、データのご紹介で最後ですが、3つの消費価値観ということで、今まで消費のことをいろいろお話ししてきたのですが、我々が消費価値観の構造というのを分析した結果、3つの特徴が析出されたということでございます。「寄らば大樹」、それから「流行追求」「こだわり消費」ということですけれども、いずれも結構周りの人を意識していることがベースにはなっているということでございます。
49ページは、実は複雑系の考え方の中に鳥の群れのモデルというのがございまして、それをちょっとアナロジーで適用してみたものですけれども、鳥の群れというのが集合で移動していくわけですが、実は3つの原則を入れることでこの鳥の群れのシミュレーションというのがきれいに再現できるという研究結果がございます。それがまさにこの3つでございまして、近くの鳥たちが数多くいる方向に向かって飛ぼうとするということ。それから2番目が、近くにいる鳥たちと飛ぶ速さと方向をあわせると。それぞれ群れる意識とか流行を追いかける意識というところにかなり近い傾向かなと。ただ、あまり近づき過ぎるとぶつからないように離れるという、ちょっとの差にこだわるというのがございまして、この3つの原則を実は一羽一羽の鳥にインプットして動かすときれいな滑らかなシミュレーションができるという研究結果がございます。
今の消費の流行現象というのは結構これで説明できるのではないかなと思うわけでございまして、例えばカリスマ消費者というのが出てきて、ある人が鳥の群れの先頭に立ってある方向にキュッと行くと、みんなサーッとついていくというような、ある種の、非常に他者を意識しながらもちょっとの差だけは示したいという、そういうのが非常に今の日本人の特徴的な傾向なのかなと見ております。
じゃここは省略いたしまして、最後、いろんな角度からデータをお示ししてきたのですけれども、今日の論点に関連することとして3つの点をお話しして終わりにしたいと思います。
まず1番目、これはなかなかデータでは取り切れない部分があって、少し私見を踏まえておるのですけれども、まず、いろんなデータを見ると、例えば富の分配ですとか世代間のいろいろ公平性みたいなことで、いろんな現象を見ていると、潜在的には実は不公平感というのは増している可能性があるのかなと。ただ、各種のいろんな調査結果を見ると、あまり実は表面化していないのですね。おそらく非常に避けている人が多いのではないかということがございます。
その理由として考えられることというのは、今いろんなデータを見てきておわかりになるかと思うのですが、やはりまだまだ実は生活が豊かであるということで、おそらく、非常に失業率が上がってきて、本当にいわゆる食えない状況になってくると、もうちょっと違う状況になると思うのですが、案外と将来は何とかなると思っている人が多いのではないかなと見ております。
それからもう一つ、よく我々が会社の中でのいろいろ働く人の意識というのを議論する中で、やはり日本人というのは将来を結構見据えている人が多いと。ですから、将来が悪くなるということに対して、結局自分を重ねてしまう人が多いのですね。そうしますと、なかなか大きな改革に踏み切れないということで、今の問題を回避しやすいのではないかなと考えております。
望むこととしては、やはり将来どうなるかということをもう少し情報として提示しなければなかなか判断できないのではないかなということですね。特に将来に対する見通しというものを示してあげることで、かなり安心する人が出てくるということだと思っております。
そのときに、もう少し前に一歩踏み出すということに対してインセンティブを与えるような制度設計というものが求められてくるのかなあと。そのときには、選択肢の提示とか、チャレンジする人へどう支援していくかとか、あるいはその成果をどう評価するかとか、セーフティネットをどう整備するか、そういったことをぜひご検討いただければと思います。
それから2点目でございますが、いろいろ見てまいりましたけれども、自分を重視するという価値観は強くなってはいるのですけれども、まだまだ非常に未成熟な部分というのがございます。かなり周りを意識しているということが非常に日本的な価値観の特徴かなあと思います。
個人的には、中長期で考えると、やはり国民が変わっていくためにはいろんな意味で参画するということが大事なのかなあと。司法制度の改革の話もありますし、ボランティアということも非常に大事だと思います。そういったことの機会を非常に豊富にしていくということと、それからいろいろ海外との対比でいくと、少し教育ということにコストをかけるべきではないのかなあと思います。
短期的には、実は先ほど利便性消費というのがございましたけれども、国民はかなり怠惰といいますか、怠惰と言うとちょっと違うのですが、利便性に慣れてしまっているところがあると思うのですね。高度に発達したサービスインフラを逆に利用するような形で、アクセスの容易性というのを提供していくということが国民にいろんなサービスを利用してもらう一つの近道なのかなあと。例えば選挙の投票でいろいろ利便性を高める施策を打って参加率が高まっているという例もございますので、そういった観点での検討というのが重要なのかなと。これは戦術レベルですけれども、そのように思います。
それから最後、ここでは「生活の基点」という言い方をしているのですが、「基点」というのはやや造語に近いのですけれども、何が個人から見ると生活、あるいは社会から見ると社会の基点になるのかなということで考えますと、やはり個人というものをベースにするにはまだちょっと日本の自立意識というのは弱いのかなあということで、今やはり家族というところに1つ着目してはどうなのかなということでございます。
もう少しすれば地域とかいろんなネットワークというものが機能を発揮してくると思いますので、ある意味で家族というのがベースになると。ただ、家族というのは今まであったような全人格的で情緒的な関係というものではもうなくなっていて、ある種インストルメンタルな関係にあるということでございますので、ただ逆に、インストルメンタルでも構わないと思うのですが、そういう家族を形成するための施策というのを少しとってもいいのではないかと。
一つの例でいきますと、やはり結婚して出産していただかなければならないとすると、そういったことにもう少しインセンティブを社会として制度設計してもいいのではないかなあということをちょっと考えております。
以上でございます。
〇石小委員長
ありがとうございました。大変興味のあるお話をいただきました。
若干時間をとりまして、今の日戸さんのお話しいただいたことに対しまして、ご意見なりご質問があれば、どうぞご自由にお出しください。どなたからでも結構ですから、どうぞ。
では村上さん。
〇村上委員
9ページに4つばかり書いてありますが、就業意識が保守化するということを指摘されましたけれども、一般には、今、フリーターとか、そういう価値観の多様化みたいなことが広まっていると思うのですけれども、その辺はどうなのでしょうか。若干違うような気がするのですが。
〇日戸上級コンサルタント
そうですね。ここで、データとしては、例えば12ページというのがございまして、1つは、自分で例えばリスクを負ってチャレンジしたいというようなことに対してはかなりネガティブになっているということがこれらのデータから言えるのかなと思います。
それからもう一つ、今ご指摘のあったように、フリーターでもいいのだということで、ただ、フリーターというのが完全に生き方を決めたフリーターというよりは、かなり、いわゆるモラトリアムといいますか、とりあえず保留して、今はフリーターでということで、意思決定を先延ばししているような状況なのかなあと思います。
それは、先ほど、価値観で言っても、自立と快楽というのが、実は2つのベクトルが若い人にあるという結果もあったように、結構実は入り混じっていたり、あるいは、少し、もしかしたら二極化しているかもしれないということで、2つの側面がちょっと相まっているところもあるように思っております。
〇石小委員長
いかがでしょう。
どうぞ、菊池さん。
〇菊池委員
一番最後の点、ちょっとお聞きしたいのですけれども、個人の自立、いまいちだから、やはり家族というのをあれしたほうがいいと。だけど、さっきの、地域社会というものに寄るようになってくると家族は要らなくなってくる、そういう関係にあるのですか。それとも、地域社会と個人が密接になると、かえってまた家族が大きい顔をし出すという、どういう関係にあると見通せるのでしょうか。
〇日戸上級コンサルタント
基本的に家族も地域も、かつてのような非常に、フルコミットといいますか、べったりという関係ではなくて、冒頭に事務局からご説明がありましたように、非常に距離感を置いたほどよい関係といいますか、そういったものを多分志向していると見ております。そうしますと、家族と地域というのが両方相反するような形でというよりは、むしろそれぞれのネットワークをうまく使い分けるようなことが十分可能なのではないかなあと思っております。
ただ、今どちらが近いといいますか、関係として強いのかといいますと、実は地域社会というのは、いろんなデータを見ても、まだまだちょっと弱いような特徴がありまして、そういう意味では、今とりあえず身を守るために家族というところにある程度関心が向いているのかなということで、必ずしも両者が矛盾するということではないと思っております。
〇石小委員長
ほかにいかがでしょうか。
どうぞ。
〇岩専門委員
先ほどの若年層の保守化のところにちょっと話戻るのですけれども、この保守化というのはいわゆる企業への帰属意識というものにつながっていくのですか。どうなのでしょう。
〇日戸上級コンサルタント
基本的には、これと別に帰属意識を聞いた質問があって、これはどんどん実は下がっているのですね。ですから、ここで実は出世や昇進のために多少つらいことでも我慢したいと言っているのですが、これは短期的な、隠れみの的な要素がかなりあるのかなと思っております。つまり、今自分のキャリアアップするためには会社にいてということで考えているようなところがございまして、そういう意味では必ずしも、保守化していると言っても、会社に帰属するという意識が強くなっているとはちょっと読み切れないのかなあと思っております。
〇石小委員長
よろしゅうございますか。
では河野さん。
〇河野特別委員
個々の現象ではなくて、いろいろな変化があることは我々日々実感しているし、今また見ていて、なるほどそういうものかと確認したところが随分あるのですけどね。しかし、変化ということは、進歩だか前進だか、より幸福になるとかいうことと必ずしも一致しないということがありますよね。変化するものを追っかけ回したってしようがないわけで、ある部分はそれは不可避で、歓迎すべき変化であるかもしれない。ある部分は歓迎すべからざる、できれば、もうちょっともとに戻したほうがいいかもしれないということかもしれない。
これは価値観が入りますから、人によって違うと思うのだけれども、実際フォローされていて、あなたは全体として、この変化というのは歓迎すべき変化、ないしは不可避な変化でどうにもならんものだと、ぶつぶつ言ってもしようがないというのが半分ぐらいあって、あとここから先は、ちょっとぐあい悪い、例えば少子化については対策とるべきだとおっしゃっているでしょう。これはあまりよろしくないと考えていらっしゃるわけですね。全体ひっくるめてどんな感じです?
〇日戸上級コンサルタント
なかなか難しいご質問ですけれども、1つ、基本的には、選択肢が多様になるということはチャンスが増えて、それは個人にとっては非常にいいことなのかなあと思っておりまして、この流れは多分、もう今の経済社会の構造から言って変えることもできないでしょうし、そういう意味では、選択肢の多様性というのは担保していくべきだし、それはいい方向に向かっているのかなあと思います。
あとは、チャレンジすることによって得られるベネフィットと、それからそれに伴うリスクとの関係というのは今バランスが非常に悪いのかなあと。皆さん、そこがバランスが悪いものだから、川の手前にとどまって、川を思い切って渡り切れないということにおいては、もう少し川を渡る方向にインセンティブを誘導できないかなあと思っております。
韓国では、実は劇薬が効き過ぎたのか、とにかく社会的な、多分いろいろな意味での厚みが足りなかったせいで、まさに経済危機によってもう川を渡らざるを得なかったということで渡ったわけですけれども、日本はまだそこまで追い込まれていないのが、それはいいのか悪いのかはなかなか難しいですけれども、ただ、もう少し新しい可能性にチャレンジすることをサポートしてもいいのではないのかなあということを思っております。
〇石小委員長
まだおありかと思いますが、あとお二人控えて……じゃ最後にどうぞ。
〇大宅委員
少子化というのは多分本当に大問題だと思うのですけれども、誘導するための施策というのは例えば具体的にどうなのですか。私は、もう前から持論なのです。男が魅力的にならなければ無理だという説なのですね(笑)。出産より以前に結婚しないわけですよ。しかも、できちゃった婚もオーケー、シングルマザーもオーケーと言ったら、何もそんな縛り合うことはないじゃないという中で、この人に一生かけましょうなんていうのはめったにいないとなると、それは難しいですよ。それはそれでいいのですけれども、具体的にどういうことをやったらこれがインセンティブになるとお思いですか。
〇日戸上級コンサルタント
これは私どもの経済研究部がいろいろ試算しているのですけれども、やはり結婚するとしないとでどっちが得かと考えると、いろいろな計算があると思うのですけれども、やはり税制的に考えても、結婚しないほうが有利だという試算結果がありまして、逆にいうと、やはりこれからいろいろなリスクに対応していくためには、家族で対処したほうが私はリスクが低くなると思うのですね。例えば男性が失業したら女性が働きに出てもいいし、その逆もあっていいわけで、そういう意味では、ある意味で、個人で生きていくよりは家族で対処していくほうが多分いいのではないかなあということで、そのときに、税制ですとか、あるいは保育ですね。
私もちょうど小さい子がいるのですけれども、なかなか保育サービスがなくて妻が働きに出にくいとか、そういった状況もありますので、その保育サービス的な要素もありますし、家族をめぐるいろいろな控除の問題とかその辺は、何か幾つか変数があるような気がしております。
〇石小委員長
それでは、いつもの大宅節が出たところで、これで最初の日戸さんの話は、何しろ結論が出たようでありますので、次に移りたいと思います。
第2番目のスピーカーは、博報堂生活総合研究所長と、それから東京経済大学教授でいらっしゃいます関沢さんにお話をいただくことにしております。やはり同じように生活ウォッチャーという視点から、いろいろな生活観の意識等々ご研究だと聞いております。
それでは、よろしくお願いいたします。
〇関沢所長
関沢でございます。
今のお話と重なる部分もあるかと思いますが、今日はあるべき未来を考えるというよりも、現状がどうなっているのかということをまず再認識しようということのようでございますので、最近の変化というのをまとめてみたいと思います。
私のレジュメの1ページを開いていただきたいのですが、最初に20分ほど細かくデータをご紹介します。その後、全体的な分析をお話しします。ご覧のように、経済環境が悪化して、生活者の意識は多様に変化しております。調査は私どもがやっている首都圏と阪神圏2,000人、有効回収数2,000人、20歳~69歳で隔年でやっております。
それで92年と2002年をここでは対比しておりますが、当然、「経済的余裕があるほうだ」が下がる。「貯蓄をしている」が下がる。ご覧のとおり、そうすると、(ホ)の「安定した職場に満足している」も下がってますが、(ト)の「安定した暮らしが欲しい」という人も増えているわけです。それで、(チ)の「値段が高くても、気に入れば買ってしまう方だ」というのが、当然経済的な変化で下がっています。しかし、これは読み方が難しくて、「値段が高くても、気に入れば買ってしまう」が下がったけれども、今でも45.4%の人はそうであるとも読めますし、次の「普及品より、多少値段が張ってもちょっといいものが欲しい」が下がったけれども、4割はいいよと言っているということで、これをどっちに読むかで消費の状況が随分変わるし、これは全体について聞いてますから、消費の分野によって当然態度も違うわけですね。
一方、不況の中で、「世の中はすべて金で決まることが多い」というのは、そう思いたくない人が増えたのでしょう、下がってますね。
次の2ページ目をお願いします。当然、否定的な感情、世の中に対する悪感情を持つ人が増えてます。「世の中で嫌なこと・腹の立つことが多い」。これは92年からの比較なので、バブル崩壊前のピーク時の90年は、こういう、腹が立つとか、不安とか、みんな3割ぐらいでしたから、それと比べれば3割が7割とか、非常に大きな変化です。92年時点ですでにもうバブルがはじけて、かなり腹を立てていたり悲しがったり不安を感じたりしているわけですね。それが非常に高くなっている。不安などは特に今7割の人が抱えている。自分の将来イメージは当然明るさが下がってまして、明るいと思っている人は、右にご覧のように、年齢別比較を見ると、男の人が大体低いです。こういう調査は全部、日本の場合は男のほうが低い結果で、女の人がハッピーですね。後でその話があると思います。
「世の行く末は悪くなる」と思うというのは、98年が非常に悪化しました。ご承知のとおり、97年の時代変化と98年にかけて、これは非常に変曲点で、ご承知のとおり、98年以降、自殺者数が3万人の大台に乗る。それから日銀の調査であれば、貯蓄があるないで、ない人が増えてますけれども、ある人の額が98年以降は増えているという、98年は一種の変曲点になっていると思います。
それから「日本は悪い方向に向かっている」と思っている人が非常に多くなっている。「年金に不安を感じる」人は変わりないというか、前から不安であるということですね。
それから3ページ目ですが、日本に対しての自信が大幅に下がっている。一番下がったのは「経済的繁栄」「社会の安定」「高い教育水準」。「治安が良いこと」も、非常に高かったのが5割台になった。「科学水準」も下がった。「勤勉さ」も下がった。「国民としてのまとまり」は、もとからあまり高くないですが、下がった。「歴史と伝統」はあまり下がらない感じですが、それも下がった。「人情味」も下がって、「文化・芸術」が下がった。「義理がたさ」、下がった。「質の高いサービス」も下がった。
次のページを見てください。「安全な暮らし」も下がった。「世界への貢献度」も下がった。「格差がないこと」も、もとからあまり高くはないですが、下がりました。「美しい自然」も下がりました。これは最後まで保っていたのです。つまり、「国敗れて山河あり」の状態を保っていたのですが、その山河もつぶれたというのが2002年の状況だったわけですね。非常にこういう形で国に対する自信は失われているということです。
次の5ページ目、4.ですね。こういうふうにマクロの環境が悪化している中で、マクロ環境に対して無関心だった人も含めて関心を持つようになっている。「日本の政治・経済に関心がある」「政治情報に関心がある」「経済動向・景気情報に関心がある」「海外の出来事に関心がある」、増えてます。「日本人は、国や社会のことにもっと目を向けるべきだと思う」も上がっているということで、ほうっておくとどうなるかわからないから、興味、関心を持たないといけないなという人は増えている。税制調査会の動向も関心を持とうと多分国民は思っていると思います(笑)。
次、6ページ、「マクロ環境への関心の高まり」で、「支持する政党がある」、これは変わっていませんね。2割程度であると。固定の党を持っている人はですね。
次のページ、こうした中で、自己防衛でしょうか。国際社会よりも日本の国益みたいな志向が強い。「世界の政治・経済に関心がある」。特にマクロ動向には横ばいで、「世界全体への貢献よりも、日本の利益を第一に考えるべきだ」というのが高い。年齢別を見ても、20代の男性も結構、60代と並んで高いということにお気づきだと思います。
それから「世界の基準より、日本の基準を優先すべきだと思う」というのが、もっと減るかと思いましたけれども、あまり減っていない、横ばいであるということですね。
次のページでございますが、一方では世の中がいろいろ変化する、社会のことも少し考えないといけないということは、社会性はある限度の中で高まっています。「社会全体のためには不便なこともガマンできると思う」。分別ごみを出すときなどでしょうね。それから「自分自身はやはり便利さを求めてしまうと思う」人は下がっている。しかし、じゃ積極的に何か役立つことをしますかと言いますと、それは下がっているということですね。だから、ちょっと受け身的なところがあります。
次のページを開いてください。かなり暗いデータをご紹介しましたが、じゃ個人生活は暗いのかといいますと、7番、「暗いばかりでない生活」。「幸せな方だ」は下がっていません。生活は「楽しい方だ」と言う人も下がっていません。
右のグラフを見てください。楽しいというのは女性のほうが圧倒的に高い。女性の60代は大体夫が70代だったりして、夫が病気だったりとかいろんな問題が発生して、女のほうが先に幸福とか楽しさとか下がりますが、全体的に非常に女性のほうが元気ですね。自殺者数の増加も男性の50代が一番多いわけで、女の人は泣き叫ぶけれども死なないというところがありますね(笑)。男は黙って。寂しい話ですけれども。
(ハ)を見てください。これはもしかすると日本に残された最後の資産かもしれないのですが、「人の善意を信じる」というのが、状況がこれだけ悪くなっても横ばいなのですね。この聞き方も随分抽象的ですけれども、これ、おもしろいのは、性差と年代差が全くないのです。この数値なのですね。だから、この結果、日本で今治安が悪くなってますけれども、その場合、防御的措置をとってない人がすごく多くて、そういうことでやられてしまうというのもあるのですが、どこかそういうところが残っているわけですね。
それから(ニ)、「趣味やスポーツなどを楽しめる生活に満足している」。それから「流行やトレンド情報に関心がある」。不況の中でやや不況疲れと言いましょうか、少し関心は高くなってきてますね。
次を見てください。8番は、先ほどもご案内があった話ですし、今日結構テーマになると思いますが、「人間関係の希薄化」ということです。つまり、集団に対する凝集性に対して個人性のほうが高まっていると。これは非常に多くのデータがあって、「人づき合いは面倒くさいと思う」「自分はいろいろなネットワークを持っている方だ」、下がっている。「多くの人が同じものを持つと興味がなくなってしまうほうだ」。なくなるが下がるということは、関係ないや、持っていてもいいやということですね。それから義理のお歳暮などは贈らなくなっている。それから「親切な店員がいることは非常に重要だと思う」が下がっている。つまり、話しかけられるとうるさいから黙っていてくれたほうがいい。「夫婦はどんなことがあっても離婚しない方がいい」、これは大幅に下がってます。ご承知のとおり、日本の離婚率は非常に高くなって、フランスを抜いて、世界水準にだんだんなってきているわけですね。
それから「円満な近所づきあいに満足している」、下がっている。「円満な家族関係に満足している」も下がっている。「家族の十分な話し合い」、これは横ばい。それから「転勤になったら、家族も一緒に行く方がよいと思う」、下がっている。「家族の十分な話し合いに満足している」、横ばいということです。
次のページも人間関係ですが、「自分はだれとでも友達になれる方だ」というのが下がっている。これは全年代でそうですね。他者とコミュニケーションとるのが非常に下手になってます。「友人は多ければ多いほどよいと思う」が下がっている。「親しい友人と過ごす時間を増やしたい」と思う人が下がっている。「1人で過ごす時間を増やしたい」が増えている。それから「友達でもその間柄によって連絡の方法(電話、携帯電話、電子メールなど、その中身も含めて)を意識して区別する方だ」、高まってます。
ちなみに、「メールをやりとりする友人がいる」は20歳~69歳の平均値で、2002年段階で57%です。今はもっと、8割ぐらいだと思いますね。右の(レ)にありますように、「メールだけで会ったことのない友人がいる」、20代は非常に高いですね。これは年配の人間には理解できないことですが、今はこういう状況もあるわけです。
それから「職場の人々とつきあいたい」とか、下段は大体変化ないですが、一番右の(ツ)と(ネ)、父親と母親のどちらを尊敬しているかを全男女に聞いたところ、母親が初めて、2002年に上回ってます。多分、男のほうが不況の続く中でおろおろしている部分があるのだろうという感じがします。
次の9番、そうした中で、個人の力というか、自分しか頼りにならないかなというのが高まっている。「学歴の力」というのは、92年から2002年の下落率の非常に高いものの一つです。学歴という肩書きではだめだと。それよりも実力である、あるいは日本の学歴全部が国際競争の中で負けてしまったのかもしれませんけれども、いずれにせよ、学歴を信じる人は下がった。
それから「個人の利益を第一に考えるべき」は横ばいです。これは年代別が出てます。それから「宗教を信じる」は下がった。これは変化点としては、2年おきですが、96年で極端に下がっている。95年のあの事件が非常に影響を与えてます。「来世を信じる」も下がっている。「運命を信じる」も下がってます。それから「基本的に仕事は好きな方である」。右の年齢別を見てください。後でもお話があるでしょうが、20歳~29歳は破線の女性のほうが、あるいは30代もそうですが、女性のほうが仕事が好きなのですね。やりたいと。これは調査上の問題もあります。女性の場合、大して好きでない場合は労働市場から退場してしまいますから、そういうのもありますが、しかし、基本的に今20代の女性ほとんど働いている中では、好きであると、男よりも女のほうがやる気はあるのですね。
それから次のページ、社会が多様化する中で異質なものに対して寛容になってます。「外国人と結婚することに抵抗はない」「外国人と一緒に働くことに抵抗はない」「女性の上司のもとで働くことに抵抗はない」。もしかすると、この質問自体がセクシャルハラスメントかもしれませんが、一応聞いているわけですね。そうすると上がってきました。それから「女性は子供ができても、仕事を続けた方がよいと思う」、これは男女ともですが、上がってます。これは男の側からすると、特に若年の男性は、続けてくれないと食べられないと、食べていけないという問題もあるようです。
それから次の職場秩序。これは先ほど職場環境において意識が保守化しているとおっしゃってましたが、まさにそうで、最初、この11番のタイトルは「職場へのすり寄り」と書いておいたのですが、ちょっとあれなので少し固くしましたが、明らかに職場秩序にすり寄っていって、寄っていかないとクビになるかもしれないというおそれを抱いている人が多い。ですから、「家庭生活よりも仕事第一に考える」、これは横ばいですが、「職場に早めに出社しなくても、始業時間に間に合えば構わないと思う」が下がった。つまり、早めに行ったほうがいいかなと。それから「終業後に予定があるときは、急な仕事でも残業はしない」が下がった。「ボランティア休暇をとることは社会人として必要なことだと思う」が下がった。社会性はこの部分は下がった。それから「勤務時間中に私用電話すること」は非常識と思ってますし、「デスクで一般新聞を読むこと」も非常識と思ってますし、「昼休みにビールを飲むことは非常識だと思う」も上がった。それから「同じ会社の異性を食事やお酒に誘うこと」も非常識と思う人は上がってます。
ちなみに、「パソコンで私的なものを送る」、「パソコンでホームページを見る」、これはこんなものだと思いますが、いずれにせよ、職場に対しては、働く以上は、つまり、それだけこの10年間、職場の環境が効率重視で厳しくなっているという背景もあるかと思います。
次のページの12番も非常に重要なデータですが、この10年間、右肩下がりと言われてましたが、ものすごく上がっているものがありまして、それは情報量の増加です。総情報量が社会にものすごく増えている。そうした中で、消費の意思決定の行為において、情報処理を高速にする手法というか、やり方のほうが伸びている。
ここに(イ)(ロ)(ハ)と書いてありますが、ものを買うときに、(ロ)を最初にご覧いただければといいと思いますが、一般的に考えて、その商品がよいか悪いかという理性的な部分を重視して判断する。それから(ハ)がもうちょっと感性的で、好き嫌いという自分の好みで判断する。その2つで成立しているように思いますが、(イ)というものを入れてみたのですが、もう少し直観的な、生理的な好きだ嫌いだも飛ばした、もっと感覚的な生理的判断、これを入れたのですが、これが非常に増えていて、右側にございますように、特に女性の若いほう、男性もそうですが、若いほうに増えているということですね。
2番目の理性的判断は変わりがないわけでありますが、男性のほうが高いですね。ほかの消費以外の態度においても、これは関係していると思います。それから漠然とした好き嫌い、これは一番メディアの影響を受ける部分だと思いますが、女性層、高いですが、これは下がってきて、20代は逆に50代に負けているのですね。
50代の女性なんかのほうが、今、「わあ素敵、好きだわ」というのが多くて、今、六本木ヒルズとかああいうところに群れている層はこの50代から60代の女性層のほうがミーハーですね。昔のアンノン族と言いましょうか。「還暦ギャル」と我々呼んでいるのですが(笑)、略して還ギャルと呼んでもいいのですが、あるいは還ボーイもいますが、彼らが一番ミーハーの消費部分で、逆に20代は非常に冷静になってきている。この真ん中の理性的判断はかつてはよい悪いを冷静にやるやり方ですが、最近変わってきたのは、インターネットの普及で、インターネットで全情報を比較サイトで調べて、スペックで調べるという消費行動ですね。これは全くメディアが効かないのですね。インターネットでデータの提供という形で、これはおそらく政治や経済における判断においてもそういう層、20代から30代の男性、40代にかけての男性にそういう層が出てます。
それからピンと来る来ないは、これはいろんな解釈ができますが、ある意味で、脳のだんだん奥に入っていって、爬虫類の脳みたいなところで決めているという感じもしますが、瞬間瞬間、わっと直観で動くというところがあって、ある意味で、これは好き嫌いや理性的判断を踏まえた上で直観的な部分が出ているのかもしれませんが、非常に意思決定を短期化、瞬間化してますね。そうしないといろいろ情報の処理ができないということだと思います。この部分も後で触れたいと思います。
次のページをご覧ください。情報処理が高速化していますが、(ホ)にあるように、「情報処理能力は高いほうだ」という人は、したがって増えております。
それからその次のページ、じゃそれをみんなが喜んでやっているのかというと、「高速変化への反動」と書いてありますが、今の世の中は変化が多過ぎると思っている。これは全年代、男女とも思ってます。疲れたなと。ですから、9時から5時までは高速の社会に追いつかなければいけない。5時以降はのんびりいきたいなと。9時から5時まではベンチャーやビル・ゲイツのように生きてみよう。5時以降は良寛さんの生き方もいいかなあみたいな、引き裂かれている。同じ一人の個人の中で引き裂かれているというのが現状です。ですから、そのどっちでアンケート調査結果を答えるかで、同じ人間から違う答えが返ってきてます。科学技術の進歩に対してはやや肯定が下がっている。そして、さっきもございましたが、「習慣やしきたりに従うのは当然だと思う」というか、保守化してます。この部分はですね。あえて反乱することはないのではないかと。でも、これは個性化や個人志向が減っているということは意味してなくて、一応損がなければそうしておくと。
それから、不況の中にもかかわらず、「高い給料よりも休みがたっぷりな方がいい」があまり下がっておりません。ある意味で、日本社会は今、空間に公共投資するよりも、時間を買える、例えばバカンス法を作るとか、そういうふうに社会の構成を変えたほうがいいのではないかと。これは私の判断です。
次、18ページですが、環境意識。環境意識は、一応見た目上は「地球環境の保護を考えて実行」。つまり、意識だけではなくて行動もしているという人が増えてまして、「考えているが不実行」という人は下がっております。しかし、(ホ)にございますように、そういう地球環境の破壊につながる商品が売れるのは、自分が悪いのか企業が悪いのか、売っている企業が悪いだろうという人は増えてますし、それから値段が高くても買うかというと買わないと言ってますし、ここら辺もやや矛盾した要素がございます。
次のページをご覧ください。15番、「今後の日本について」どうかということですが、2,000人のこの調査では、「今の税金は高過ぎると思う」人は下がっています。それから「多少税金が高くなっても福祉を充実させるべきだと思う」人はやや下がっている。それから「日本の危機管理をもっと進めるべき」はこういう結果です。
最後のページをご覧ください。これはサンプル数が違います。人数が少ないので全体数字だけですが、首都圏の400人近くに聞いたもので、これは2択で聞いて、どっちをあなたは支持するか、あなたがこんな未来のほうがいいなという、これのほうが無意識が結構出ていておもしろいのですが、企業より生活者が主役であってほしいし、一つのものを修理して長く使いたいし、「変化の少ない落ち着いた未来」であってほしい。これは世の中が激しいからでしょうね。これは男女差が大きくて、女性は90%対9%でしたね。1%はわからないという人がいましたが、それからアジアの国々のほうがアメリカよりも重視したい。それから「三世代家族が多い」。これは現実と違いますが、願望でしょう。それから「若者が元気」、これは現実と違う。「地方が元気」、これも違う。それから「家を買って住むことが常識の未来」、これは意外に、家に関してはなかなか賃貸のほうにいかない。
それから「分配する未来」と「競争する未来」では、6:4で「分配する未来」、再分配する未来ですね。これは女性のほうは7:3になります。7が「分配する未来」で、「競争する未来」は3。女性のほうがどちらかというとそういう安定した再分配がされて、階層差がない社会、競争的でない社会を望んでいます。「税金が高くても福祉が充実した未来」のほうが、この聞き方だと高い。女性だけですと7:3で、「税金が高くても福祉が充実した未来」を選びます。それから「誰もがそこそこの生活ができる未来」のほうが高い。これも女性になりますと6:4で、明確に差が出ます。
以上、駆け足でお話ししましたが、じゃ全体としてどうなのかということをまとめてお話ししたいと思いますが、いろいろばらばらのをご覧になったので頭が混乱されると思いますが、一言で言えば、社会は拡散しているのか、求心力を増しているのか、ご疑問があると思います。これは両面あるのでなかなか難しいですが、拡散の方向性というのは、多分、経済の問題とあまりかかわりなく……かかわりありますね。豊かさがある段階に達したからですが、それ以降の不況とはあまり関係ない。逆に不況は凝集力を高めるほうに働いてますから、拡散の方向に働いていて、自分の好き勝手に生きたい。一言で言えばわがままになってきた。あるいは自分志向が高くなっている。別な言い方をすると、さっきありましたように、快楽志向だし、楽しさ志向ということであります。
それからもう一つのほうは凝集力のほうですが、これは全体として古典的な、あるいは旧来の集団に対する凝集力は下がっているのですが、それでいいのかと。少しみんなでまとまらないとやばいのではないかという社会性が出てきている。それがすり寄りでもあるし、安心感であり、安らぎであり、安全欲求に基づいていると思います。先ほどがわがまま志向で拡散しているとすれば、これは我が身大切みたいな形で、ややすり寄りがある。
家族、会社、その他すべて、先ほど、会社へのすり寄りの行動があると申し上げましたが、じゃ会社への帰属とかロイヤリティが上がっているのかというと上がってないのです。だから、ロイヤリティとしてではなくて、守ってないと後ろ指指されるという意味ですり寄っているわけですが、全体としてはその拡散と凝集の両方があると。
拡散の方向性は、他者に対するかかわりの度合いが下がってきている。つまり、他者に対してコミュニケーション能力も下がっているし、自分1人でいたいというのもあって、先ほど、家族が次の担い手ということですけれども、不況の中で家族で何とか頑張ろうという意向は強いのですが、もっと深いところの意識を見ていくと、家族もどんどん拡散の方向にあります。個人化しています。家族の中であっても個人の時間を大事にしたいとか、意思決定は自分の思うようにしたいという人が増えています。
こうした中で、じゃ公とかパブリックなものは出てこないのかどうなのかというあたりがありますが、プライベートな欲求とかわがままとか、各人高くなってきている。そうなると、隣のわがままとぶつかり合って、こっちが生きていくのが難しくなったり、こちらの安穏な生活が難しくなるかもしれない。だから、そこで隣のわがまま、私の部分と自分の私の部分の間にある種の緩衝地帯、イギリスなんかにあるコモンですね。共有地みたいなものを求めたほうがいいだろうと。そういう形で公みたいなものが出てきているようです。そういう意味では、最終的には我が身を守るために公の部分、さっきの形でも、警察に頼むばかりでなくて、自分たちで何とかしようみたいなところも出てきております。
ここら辺のところ、なかなか微妙ですが、個人としての欲求とか、自立性とか、自分のしたいように生きたいとか、高まっていますが、個人自身でも、調査を見ていきますと、そのままでいいのかという疑問は当然抱いております。その場合に、そうした社会性の部分を自分たちで積極的に担おうというのは、さっきご覧いただいたように、やや低いのでありますが、ある種の公的サービス、あるいは民間サービスによって、それに寄りかかることによって、あるいはそれに頼ることによって、何とか問題点を解消してほしいという部分がございます。
自動車で言えば、エアバッグが標準装備されて安全性ということが守られるようになりましたけれども、社会としての標準装備として、この部分は社会性をここで担保してほしい。守ってほしい。しかし、自分が積極的に動いて自分だけでやるのは面倒くさい。そこは結構いいかげんでもあるのですけれども、それを民間サービス、あるいは公的サービスに委ねたいという気持ちがあるようです。
拡散の方向にあると申し上げましたが、集団が拡散の方向にあって、凝集性が下がっている、求心力が下がっているのですが、一人の個人の中の凝集力も下がってます。つまり、一人の人格の一貫性というのがだんだんなくなってきていて、本人も何考えているかよくわからないというのがあります。
さっきのピンと来る来ないで消費するというのはまさにそうですが、ピンと来るというのは、その商品の目の前に行った購買時点までわからないのですよ。本人も。商品を見た途端に、わっと驚いて、欲しいとなるのですが、その前に、幾ら説明されても心は動かないのです。この部分はなかなか難しい問題点ですけれども、個人の凝集性みたいなもの、これは話が今日の本題とはややずれますけれども、精神医学者の方などに伺いますと、最近はきれいな統合失調症の患者というのは減ってきたわけです。つまり、非常に明確にある一貫性を持って正常である、あるいは標準値からずれるという状態がなくて、どの人もややずれているというか、危ないと(笑)。よくわからないという状況になってきている。本人自身も、90年代に入ってから、多重人格、乖離性人格障害などが注目されてますけれども、一貫した人格とかものというのが見えにくくなっている。
松本清張の推理小説がヒットした50年代から60年代、殺人者の意図も明確でありました。それに対して明確な意思を持って刑事が頑張ったのですね。70年代に入ると赤川次郎になって、ある遊戯的な犯罪になってきました。90年代に入ると、桐野夏生さんの『OUT』などが典型ですが、普通の奥様が突然切れてしまったように、死体の処理工場を始めてしまうと。よくわからない。
実際の犯罪もそういうプロセスで動いていますけれども、ある種、一つの人格が統一しているというのはなかなかなくて、見えにくいという状況が出ている。もちろん、それでも社会生活を送らなければいけませんから、一つの一貫性はあるわけですが、全体として見るとそういう動向があるということです。
これは別な言い方をしますと、集団も個人も含めて、イメージの話ですが、昔は固まりがあって、大きな固まりが、すごく強固な固まりがあって、その固まり、家族という固まり、会社という固まり、いろんな固まり、国家という固まりに属して各個人いたわけですが、固まりが最初の段階は小さな固まりに変わるという段階でありました。
私どもの研究所が80年代初頭に『「分衆」の誕生』という本を出しましたけれども、まさにそういう固まっているものが壊れてきたということでしたが、今はその小さな固まり以下の点になってしまったという感じがします。
じゃ集団は成立しないのかというと、そのときそのとき、点が系を作る。何々系というときの系ですね。システムですね。系を作って、テンポラリーに集団を形成している。でも、ある時間がたつとその系は解消するという形で、家族もそうですね。すぐ離婚したりしますし、会社というのもそういう形になってきた。そういう形で社会のイメージをとらえる。これはいい悪いの問題ではなくて、そういう形に社会が変化してきたところがあるということであります。
ですから、系というのは何かに属した固まりに属しているというのに不安定ですから、非常に不安であり、将来に対して見通しがつきません。ですから、系の安定性ということに対してすごくみんな気にするということになります。
今申し上げたことを別な言い方をしますと、一人の人間の中、集団の中、すべて多重になってきた。一色ではないということですね。別な言い方をしますと、60年代までは、非常に単純な言い方をすれば、十人一色、ある年収があればこう考えるとか。55年体制がそうでした。体制、反体制、非常にクリアーでした。それが70年代ぐらいに入って十人十色、いろいろな小さい固まりがあるね、グループがあるねということのですね。小島の時代ですね。
それから90年代に入って、一人十色、一人の人間の中にいろんな要素を持っていて、向こうからのメッセージが来ても、でも動かない。よほど強いメッセージが来れば動く。ですから、赤、黄色、緑、すべての色に反応するレセプターは持っているのだけれども、強いメッセージが来ないとそのレセプターは動かないみたいな形が現在ですね。
ですから、一人十色であるということは、全色に反応する可能性は持ってますから、消費において、瞬間的に大きなメガマーケットができるというのはあります。ところが、次の瞬間にあっという間に個人に返るということで、メガヒットの音楽と非常にマイナーな音楽が共存するというのはそういう形で言えます。十人十色の時代は単に再分化されただけで、一番この時期は、オリコンなどを見ても音楽史上でミリオンセラーが出なかった時代ですが、それは変化してきておりますね。だから、一瞬のうちにマスができるけれども、一瞬のうちになくなってしまうというのが現状です。
その多重性が非常に増えてきたというところに話を戻しますと、一人の個人の中において、あるいは集団の中において、社会の見方において、非常に多重であるということは、多様な要素があるということは、ジャーナリズム、あるいはこうした意思決定の場においても、国民の側が白か黒かということを非常に判断しにくくなっている。あるいはグレーである。つまり、よくもあるけれども、このやり方だと、いい面はここにあって、悪い面はここにある。こっちのやり方だと、いい面はここで、悪い面はここにあるという、そういうグレーの部分で判断することができるようになってきたという言い方もできます。
つまり、多重的なものを多重的なまま受けとめることはできる。ある意味で、国民の側はそういう形になっているのですが、ジャーナリズムの側がまだ、白か黒かと非常に明快に出さないと、メディアはだめだという先入観がありますが、実際受け取り側は、今求めているのは、これはこの税の問題にもかかわりますが、今日本がとれる方向性としては、A、B、C3つあると。Aはメリットがこうでリスクはこう、Bはメリットがこうでリスクはこう、Cはメリットはこうでリスクはこう、あなたはどれを選ぶということをジャーナリズムも全部そのまま出してくれたほうがいい。それに対して、もちろん我が社はAを支持するとかBを支持する、社説であることは構わないのですが、その前にAだけデータが出るとかBだけ出るのは許せない、つまらないということになります。A、B、C全部出してほしい。それの情報処理能力は私はあるよと思っている人が増えている。それが現状だと思います。
そうした中で社会に対しての考え方ですが、税に関係して言えば、受益と負担の問題が一番大きいわけですが、この場合の受益の部分が、社会が変わる中で、プラス面でこんなものがあるとすばらしいね、そういう受益を期待し享受するという姿勢が非常に下がっています。それよりも逆にマイナスの起こる可能性を減らしてほしい。リスク回避ですね。ですから、受益と負担と言うよりも、リスクと負担と言いましょうか、受益の部分がマイナスを減らすという受益を欲しい。
その場合、リスク回避のためにはどのぐらいの負担をすればリスクが回避できるの。つまり、これは短期視点と長期視点になりますが、今それで負担しないと、長期的にこれだけのリスク負担が来るよ。どうする。短期でやるか、将来にやるか、個人の中のライフスパンと、それから子孫に対する中でどう考えるか。これを今までは判断は難しいと言われていたのですが、多くの人はできるようになってきたのではないかと私は、これは私の個人的見解ですが、いろいろデータを見ていると感じるわけですね。
以上です。
〇石小委員長
ありがとうございました。なんか身につまされる話題が多くて、男としてはやや心配なことが多かったですね。でも、大変興味のあるお話、ありがとうございました。
では早速、時間をちょっととって質疑応答の時間にしましょう。
どうぞ、本間さん。
〇本間特別委員
非常に興味深いお話を伺いまして、勉強になりました。少し技術的な問題になりますけれども、2点ばかりお伺いしたいと思います。
1つは、1992年と2002年、この時期というのが非常に両極端で、バブルがはじけた直後で、まだ自信を持っていた時期、前向きな時期と、2002年というのは、小泉内閣が発足して最悪の、構造改革の是非が問われて、非常に、「失われた十年」などということが組織的に言われて悲観をしていた、この部分の極端さが、我々のテイストであるとか価値観であるとか、そういうものにオーバーなバイアスを持っていないかどうかと、時系列的な安定性がどうだと、こういう問題が1つです。
それからもう一つの問題は、これはスポットで検証されておられるわけでありますけれども、スポットというのは、要するにこの時期に40歳、50歳という形でやっているわけですけれども、我々、10年前に、私の場合には50歳になるかならないかで、今60歳になっているわけですが、時系列的にコーホート的な分析がやり得るわけで、クロスかけられるような状況もあるのだろうと思います。そこら辺の違いが浮き彫りになるのかどうかですね。ここはやはり相当構造的な変化、価値観を見るときに重要な要素になるのではないかと思いますので、その2点、ご質問させていただきます。
〇関沢所長
お答えします。92年と2002年を持ってきたのは他意はないのですが、隔年ごとにやってますので、今年、調査年なのですね。ですから、2004年、多分、向上、改善されていると思います。それで、もっと前、80年代と比較しても構わないのですが、一応10年単位ということで2002と。
当然、隔年ですから、この中間が全部あります。今日は単純化のためにわざと途中を外してますが、それは浮き沈みというよりも趨勢的です。趨勢的に徐々に下がっている場合は徐々に徐々に下がっていったということで、途中で、98年のさっきのデータみたいなもの以外、特別に提示したもの以外は、その後趨勢的に変化してます。
それからコーホート分析は当然私どもやっております。コーホート的に分析しますと、特に40代の女性の、私どもやってあるのは、今年、将来を考える上で、時代効果と年代効果と世代効果を分けまして、それを将来の趨勢に延長して、時代効果は変わらないとして、時代は変わらないとして、団塊の世代どうなるのと、今のウルトラマン世代どうなるの、ベビーブームジュニアはどうなるのということで予測をしました。
問題点は、2012年、2002年からの10年後で比較しましたが、いろいろな層で、団塊の世代、それからもうちょっと下ですね。2012年段階で40代後半ぐらいの層の、一番現状では女性たちで環境意識の高い層がものすごく環境意識が落ちる。公共性も落ちる。この人たちはちょうどバブル期に入社した年代層。この層があまりそういう意識がないままにずっといくなという感じで、その人たち、当然、夫と一緒に子育てするのでしょうが、そういう中での家庭というのはどういう形かなというのはありました。
あとは消費に関連したことですけれども、高齢化社会がこれから来る、退職者も増える、和の志向が高まると予測されてますが、和の志向は大幅に下がる。今の団塊世代は、10年後、和ではないとか、いろいろそういう結果が出てます。
今申し上げたので多くの部分は、今日のお話に関係するのでは、社会性と公共性が落ちるという結果が出ております。したがって、さっき標準装備という考え方を申し上げたのですけれども、社会的にエアバッグのようにあらかじめ用意しておかないと、自分たちの自助でそこはやってくださいだと、多分うまくいかないと。驚くほど、多分、公共性は下がっているというおそれがございました。
〇石小委員長
ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
どうぞ、出口さん。
〇出口特別委員
ちょっとまたテクニカルな質問で申しわけないのですけれども、先ほどの日戸さんのところとも関係するかと思うのですが、これはやはり非常に変化の最先端のトレンドをとらえた調査ということで、大変刺激を受けましたし、特に関沢さんの調査について、『「分衆」の誕生』以来、非常にマーケティングの世界で注目されている変化だと思うのですけれども、両方とも回収率が提示してなくて、回収数という絶対数だけで調査をずっとしているわけですね。訪問調査ですから、回収率はそんな変化ないのかもわからないのですが、我々、制度を考える場合には当然、回答してない人たちも含めて制度を考えなくてはいけないというところがありまして、回収率がどういうふうに、何か変化があるのかどうかという質問が1つと、特に関沢さんの調査については阪神間と首都圏ということで、非常に最先端のトレンドを提示していったということから、日本全体のことについてはどのようにお考えかという、この2点を伺いたいのですが。
〇関沢所長
回収率でなく有効回収数でやっているやり方は、母集団反映をした上で、そのある地域の中で、その対象層がその規定数にいくまで一生懸命訪問するわけですね。そういう形で有効回収数にいくようにしている調査なのですけれども、回収率は、その調査会社の回答では、当然やや悪くなってきてますね。特にマンションにおいて、1階でかぎがかかっているので入れませんから、一戸建ての比率が母集団よりやや多くなるとか、そういう変化があります。
ただ、その回収率で、最初から回答拒否があることによってその意識が違うとかいうのは、私どもの場合、特別な意識調査とか答えにくいものとかではなくて、一般的な生活意識について伺う利害のない調査ですから、あまりそれは影響ないと思います。
それから地方の問題ですが、日戸さんのほうは地方ありますよね。私どものは2,000人なので、ないわけですね。地方は、時々地方でも調査しますが、当然ですが、首都圏、阪神圏よりも、大体これが先行指標で、変化の方向性は同じです。ただ、それが3年おくれぐらいで出ると考えていただければいいかと思います。
〇石小委員長
ありがとうございました。ほかに、あと1つ2つよろしゅうございますか。
それでは田近さん。
〇田近委員
非常に興味深く聞いたのですが、1つわかりにくかったのは、人間関係の希薄化ということでばらばらになると。「ネットワークを持っているほうだ」というのが減ったというのですけれども、でも、一方で、これだけみんな膨大にインターネット使ったり携帯使ったりしてますよね。だから、そういう現象からすると、「ネットワークを持っているほうだ」というのが減ったというのは、要らなくなったということなのですかね。
〇関沢所長
この場合、ここに書いてある調査票がちょっと省略してありますが、インターネット上のネットワークは省いてますから、人間的な関係における地縁とかクラブとか、そういうもののネットワークを意味してますので、それは下がっているのですね。ですから、それは電子上のネットに少し移行している部分もあるかもしれませんが、そういう部分は希薄になってます。
例えば、その場合、ネットワークの中に老人会みたいのも入ってますが、首都圏、阪神圏ですから、ほとんどもう機能してませんし、そういう意味では、人間関係のネットが前よりは少し弱くなっているということは言えるかと思います。
〇石小委員長
秋山さん、お手をお挙げでしたね。どうぞ。
〇秋山委員
じゃ簡潔に。興味深いお話、ありがとうございました。実感があることをデータの裏づけがとれたという感じなのですけれども、お話を伺って、集団においても個人においてもこれだけ多重化が進んでくるとなると、やはりこれからの基幹税はもう所得税ではなくて消費税にせざるを得ないのかなというようなことを考えながら伺っていたのですけれども、今後この多重化というのはさらに進むと思われますか。それとも、今のような状態が続くと思われますでしょうか。
〇関沢所長
最初の、多重化が進むイコール消費税かどうかはわからないと思いますね。多重化が進んでいろいろな要素を、逆にいえば、いろんな人がいろんな要素を持っているというのをみんなが認識している中で、最後にございましたように、願望としては、税が持っている所得の再分配の機能を期待している人が非常に多くて、ある意味で伝統的な所得税でいってほしいみたいなところも強いです。で、階層分化は起こしてほしくないというのが強いですから、それは直結はしないと思いますね。意識としては、多分その部分はかなり保守的な部分もあるかと思います。
それから多重性が進むかどうかというのは、例えば、これはちょっと抽象的過ぎるので具体的に考えないとわからないと思うのですが、今の10代後半の人に友人の調査をしますと、あなたは親友は何人いますかと聞くと、25人とか30人とか言うのです。ある時期からそうなったのです。親友だよ、知り合いじゃないよ、友人でもないよと。聞いていきますと親友だと言うのですね。
どういうことかと。スキーに行くときは、あいつはスキーが上手だから、まじめな話をするときはあいつが乗ってくれるから、ノートを写してもらうのは、あいつがちゃんと勉強しているから。つまり、ファンクションというか、部分の役割が違う。で、それぞれ忠実なのですよ。うそはついてない。本当にその人とつき合っていると本人は思っていて、でも、全トータルでつき合うとか、ほかに関心はあまり持ってないと。部分、パーツとパーツがつながっているという状態が多くなってますね。
さっき、ですから、インターネットとか電子メールとか電話とかで対人関係を変えると言ってましたが、それはそういうことで、ある意味で家族もそういう状態になってきているのですね。夫とはこの話通じないから、外の男性とこの話はするとか。別にそれは不義理をしているということは全く本人も意識がないという形にだんだん社会がなってきているのかなという感じですね。これはあまり税に関係ないかもしれませんが(笑)。
〇石小委員長
いやあ、だんだん複雑になってきましたね。次に行ってよろしゅうございますか。
それでは、どうも関沢さん、大変興味あるお話、ありがとうございました。
それでは、3人目ということでございますが、日経ウーマン編集長の野村さんからお話をお伺いしたいと思います。野村さんは若い世代のビジネスウーマン等々から大変いろいろな情報を集められて分析されていると聞いてますが、よろしくお願いいたします。
〇野村編集長
日経ウーマンの野村です。よろしくお願いします。
前のお二人の方とちょっと違いまして、私は社会全体を常に俯瞰すると言うよりも、日経ウーマンの読者の方に常に向いていろいろな意識調査などをしておりますので、そういう意味でちょっとバイアスのかかったところがあるかもしれませんが、それを前提にお聞きいただければと思っております。
まず、日経ウーマンというのはどういうものかといいますと、こんなに広い会場だと思わなくて、全く見えないと思うのですが、これが88年の創刊号でございます。86年に男女雇用機会均等法ができまして、その2年後に、これからは働く女性の時代だということで創刊いたしました。こちらが現在発売中のものでございます。
なぜ2冊持ってきたかといいますと、表紙の雰囲気を見ていただきますと、明らかに肩に力が入っていて、「頑張るぞ」という88年の働く女性の姿と、「ちょっと力抜け過ぎじゃない?」みたいな現在の働く女性の姿と、16年、17年の間に一体何があったのかと、そのあたりをちょっと今日は簡単にお話しさせていただきたいと思っています。
その前に、日経ウーマンの読者といいますのは20代、30代の働く女性でございまして、約半数が正社員で、職種としては一般事務職の方が半分ぐらいというようなことです。平均年収は大体300万円台の後半です。これは働く女性全体で見ますと、働く女性は300万円以下の方が64%ぐらいという男女共同参画白書の資料がありますので、そういう意味でいきますと、働く女性全体から見ると、やや年収は高いほうと言えるかもしれません。
300万円台といいますと、皆様、高収入でいらっしゃるのでイメージできないと思うのですけれども、大体経済的な自立が、そんなにぜいたくはできないけれどもできるかなというような水準だと思います。地方ですと十分一人暮らしができると。東京都内だと、一人暮らしするには400万円台半ばぐらいないとちょっとつらいかなと、そのあたりの経済レベルです。
意識的には読者は、先ほど女性のほうがハッピーだというような関沢さんのご意見もありましたが、日経ウーマンの読者が全員ハッピーであるかどうかは別として、かなり前向きに自分からハッピーであろうとするというような意識を持った、自分からちょっと行動しようとするというようなメンタリティを持ったグループということは言えると思います。
ということで、そういう女性たちの姿といいますか、変化を見ていくと、これからのちょっと変化の兆しが見えてくるのではないかということで今日は話をさせていただきたいと思います。
先ほどちょっとご覧いただきましたように、86年に機会均等法ができて、88年に創刊いたしまして、それから現在に至るまでを超高速1分早送りぐらいで申し上げますと、このころというのは、皆さんもご存じのように、男女平等の仕事をやらせてもらえるようになるのだ、私たちもやりがいのある仕事を会社でやりたいというふうに非常に期待に燃えて、女性たちが門戸を開かれて企業社会に入っていったという時期でございます。
ところが、早々、そんなに強固な男性社会というのは一気に変わるはずもなく、何だ、話が違うんじゃないという、ちょっとはしごを外されたような思いで多くの、特に総合職の女性たちが中心に企業社会を去っていくというようなことも一時期話題になりました。
それからバブルの時期に入りまして、90年、それからバブルはじけた後も、女性たちが仕事に求めていたのは、やりがいのある仕事をしたいと、仕事で自己実現したいというようなことをよく口にしました。やりがいのある仕事を任せてもらえないぐらいならば、だったらやめて家庭に入ってしまおうかというようなことで、自分が納得できない、それから自分の好きなこと、やりたいことを仕事にできないぐらいなら家庭に入ってしまおうかというような意識というのが、バブルのころから90年代半ばぐらいまで続いていたかと思います。
ここ最近、私たちが日経ウーマンをやっていて感じている変化というのが、そのあたりがかなり大きく変わってきておりまして、仕事というのは好きなことを仕事にするのだということから、仕事は自立のための基盤であるというような、非常に男性に近い仕事観を持つようになってきているということを強く感じております。
後ろのほうに日経ウーマンの読者データをまとめてつけておりますが、例えば4枚目の図3のあたりなどを見ていただきますと、「仕事は生活費を得る手段」だと思うと答えている人が約7割おります。このアンケート調査というのは、一番最初に申し上げるべきだったのですけれども、日経ウーマンが毎月大体このような意識調査を3本ほどとっておりまして、最後に、何年何月に何人から回収したというものを、資料、出典をまとめて記しております。大体今日お話しするお話は、この読者の少なくて数百人、多いときは3,000人を超える読者の声というものの分析をもとにお話をさせていただいております。
ということで、仕事というのは生活費を得る手段、自立の基盤であるという、非常にある意味では地に足のついた仕事観というものを女性は持ち始めているという変化を感じております。
それと当然のことながらパラレルな変化なのですけれども、働く女性が、簡単に言うと、短距離走から長距離走になってきたなと思っております。それは、結婚しても出産しても仕事を長く続けたいというようになってきております。これは育休の取得率なども徐々にアップしておりますし、日経ウーマンの読者でということで言いますと、数年前にこの大きな変化を感じたことがありまして、それ以前ですと、子供が産まれたら、一時期、仕事を中断して家庭に入って、一段落したら再就職をしたいという答えが読者でも一番多かったのですけれども、それが数年前に多数派が変わりまして、子供が産まれても途切れずに働き続けたいという人の割合が増えたという、その変化を感じたのが数年前のことでした。
ということで、もう一度繰り返しになりますが、変化の1つとしては、好きを仕事にというような仕事観から、仕事は自立のために基盤だと思うようになったということと、もう一つは、長くとにかく続けるようにしたいと考えるようになったと。その2つの変化というものを強く感じています。
それはなぜかといいますと、改めて言うまでもないですけれども、雇均法から18年たって、第1期生の人たちが、生き残った人たちが企業の中枢に入り始めまして、5年、10年、15年働けばあんなふうになれるのかなというようなロールモデルというものを若い人たちが思い描けるようになった、見出せるようになったということも大きいと思います。それから制度的なもので言えば、育児休業給付金制度で、育休中も月給の40%ぐらいは保証してもらえるのだったら、やめないで続けようかなというような制度の後押しというものもあったと思います。
もう一つは、いつ男性がというか、夫が、一流企業に入っていても、会社がつぶれたりリストラされるかわからないという中で、専業主婦になって夫の稼ぎだけを当てにして暮らすというのがいかにリスキーな選択かと、いかに危険な選択であるかということを重々働く女性は気づいておりまして、そんな危ないことはできないと思い始めたということも変化の要因になっていると思います。
では、そんなふうにしまして長く働き続けるようになって、じゃ自信満々かといいますとそういうことはなくて、非常にキャリアに不安ありと答えている方が8割ぐらいあります。最近の雑誌ですと、よく出てくる言葉が「自分ブランドを確立しよう」とか、「自己プロデュース力をつけよう」ですとか、また「稼ぎ力を身につけよう」という特集がたびたび組まれています。
それが出てくる背景は、会社に頼らなくて、個人の専門性やスキルを高めないと生き残っていけないぞという危機感というものをあらわしているということだと思います。
これは女性にとっても同じことでありまして、図2にアンケート調査を挙げたのですけれども、将来的にどんなキャリアコースを歩んでいきたいかと聞いたところ、「コツコツとスキルや専門性を身につけ、一生確実に収入を得ていきたい」と思う人が約4割で一番多かったという結果が出ています。
じゃこれからどうなるかといいますと、先ほどのお二人のお話にもございましたが、収入はできたら無理なく少しずつ上げていきたいけど現実的には横ばいかなとみんなが考えておりまして、リスクヘッジの意味もありまして、副業に対しては大変意欲が高いです。半数ぐらいの方が副業をやってみたいと。現実的にやっている方は1割ぐらいで、やっている方に聞きますと、結構、平均して月5万円ぐらいの副業収入を得ているということで、会社に万が一のことがあったときに、副業があれば何とかちょっと次の道を切り開けるかもというような、そういう心境もあるようです。
というような働く女性の今の現状なのですけれども、ではこれから皆さんはどんなようなワーキングスタイルをとりたいですかと聞きましたところ、理想のワークライフバランスは北欧型であるというようなデータが出ております。それが図6になるわけですけれども、この辺、やや乱暴なネーミングは雑誌なのでお許しいただきたいところなのですけれども、仕事と私生活そこそこ充実派を北欧タイプと私たちは勝手に名づけまして、仕事より私生活を充実させたいタイプがイタリアンタイプで、仕事と収入、ばりばり充実したいのはニューヨーカータイプ、収入が低くてもゆるゆるとハッピーに暮らしたいというのはポリネシアンタイプと(笑)、仮のネーミングですけれども、皆さんが憧れるというか、理想のライフスタイルはどれですかと聞きましたところ、77%の人が北欧タイプでいきたいわと。ということは、仕事と家庭を無理なく両立させて、仕事しつつ出産して子育てしながら、細く長く働いていきたいという希望が強いということがわかりました。
次に、そんな彼女たちが結婚、出産でどういうような意識を持っているかというのがレジュメの2枚目で、資料も後ろのほうにつけておりますが、晩婚化が進んで少子化も進んでいると言われてますが、決して皆さん結婚したくないわけではなくて、大体8割方の人が、独身の男性も独身の女性も結婚したいと言っているのですね。しかし、妥協してまで結婚したくはないし、自分の収入もあるからする必要もないと。いいパートナー、自分がいいと思うパートナーがいればとにかくぜひ結婚したいのだと、そういうふうに考えているということがわかりました。
夫に求めるのは何かと。これは日経ウーマンの読者だからということもあるのかもしれないですけれども、夫に求めるのは、「収入の安定」よりもどちらかというと「価値観の一致」だとみんな言ってまして、第1条件、「価値観の一致」と言った人が8割方、ちょっと複数回答ですが、一方の「収入の安定」を求めると言ったのは4割にとどまるということで、そういう意味では、まあまあの稼ぎ力はあるから、夫には稼ぐ力よりも価値観が一致というようなパートナーを求めるという傾向が見られます。
じゃ結婚した後にどんなような家庭にしたいかというところを見ますと、一言で言うと、家庭は「共同経営」型にしたいという結果が出ております。図15のあたりをご覧いただきたいのですけれども、独身の男性、独身の女性に、結婚したら仕事と生活費分担、家事分担はどうしたいですかと聞いてみました。そうすると、独身の男性も、妻に「今までどおり仕事を続けて欲しい」というのが一番多くて、「少しペースダウンしても続けてほしい」というのを合わせますと、5割以上は妻には仕事をやめないでほしい。さらには、家計費は収入に応じて分担したいし、そう言うからには家事だって僕やるよと、本当かどうかわからないのですけれども、独身男性は、結婚したら4割方の家事は僕が引き受けると今のところは言っております。
ということで、その数字は女性もそれほど大差ないのですけれども、やはり独身の男女ともに、大黒柱、男性が1本というのはちょっともう男性も自信がないし、女性もそれじゃ危ないと思っているし、2本でやっていこうよというような結婚生活を思い描いているということがわかりました。
実際に、では結婚した後どうなっているのかと。日経ウーマン、非常にしつこいので、そのあたりも調べてみましたところ、結婚して現在共働きですという女性に、あなたの夫はどんなタイプですかと聞いてみました。
ここにトラ男、ヤギ男、ハイブリッド男と、これまた雑誌的なやわらかなネーミングで大変恐縮ですけれども、日経ウーマンではそのようにネーミングしてみました。トラ男というのは非常に野心的で、仕事一筋で、家事、育児なんて女の仕事だろうというようなタイプをトラ男と名づけまして、ヤギ男というのは、一緒に仕事して、一緒に家事、子育てやっていこうよと言うタイプで、出世志向はあまり強くないと。ハイブリッド男というのはヤギ男とトラ男の両方の性質を持っておりまして、両者の混合比率、7:3であるか、6:4であるのか、5:5であるかというのはその方それぞれの混合比率というようなことで聞いてみましたところ、結婚していて共働きで今ハッピーですと言った女性の夫は、トラ男が6%、ヤギ男が57%、ハイブリッドが38%と。
これをご覧いただいてわかるように、圧倒的なヤギ男の圧勝という結果が出ております。ということで、そのような方向に向かっていっているのかなというところです。
ただ、そうは言いましても、すべての方がこういう本当に男女共同経営型の家庭がいいというのをスパッと割り切れているかというと、もちろんそうではないわけで、今は非常に過渡期で、いろいろな自分たちなりのスタイルというのを模索している時期ではあります。といいますのも、20代の方ですと団塊世代の母親を持っていたりするわけですが、その母親からダブルメッセージを受け取っているという状況があります。
というのは何かといいますと、1つは、あなたも自立して仕事を持って頑張りなさいというメッセージで、もう一つは、そうは言っても、やはり結婚して母親になるのが女の幸せよという、そういうダブルのメッセージを受け取っていて、それが無意識のうちにすり込まれていて、自分でももやもやしていて迷ってしまうというような方は、20代、30代の女性でも結構いらっしゃいます。ということで、過渡期ではあると思います。
ちょっと話が前後したのですけれども、結婚、出産をためらう人が増えているわけですけれども、一体そのためらう理由は何か、何が不安なのかというようなあたりを聞いていきますと、図12をご覧いただきますと、結婚するに当たって不安なことは何ですかというと、ナンバーワンが、どのように生活が変わるかが不安だと。じゃ出産することに対する不安感は何かというのを、図17、次のページをご覧いただきたいのですが、子供が欲しいのに子供を産んでいない理由は何ですかというのを既婚者に聞きましたら、これもまた非常に似通った回答で、自分のライフスタイルが変わることが不安だと。要するに、結婚して出産して自分の生活やライフスタイルが変わってしまうことが非常に不安だと今の女性たちは考えています。
これは一体どういうことかというのをもう少しヒアリングしてみますと、例えば自由がなくなってしまう。それから今の働き方のまま仕事を続けるのは難しそうだ。そうすると収入が下がって生活レベルが下がってしまうかもしれない。また家事負担が重くなりそうだ。今熱中している趣味を続けるのが難しそう。こういうようなことをひっくるめての生活が変わりそうだ、ライフスタイルが変わりそうだというようなことで、ためらうというような意識があるようです。
ということで、結婚にしてもそうですけれども、子供が欲しいか欲しくないかと聞きますと、8割方は欲しいと答えるのですね。でも、今申し上げたような理由でためらうと。「子供を産むことにためらいがありますか」と聞くと、7割ぐらいの人があると。この辺、図18、19になるのですけれども、「あなたは子供を産んだら犠牲にしなければならないものがあると思うか」ということに対して、8割近くの人があると思う。「子供を産んでも犠牲にしたくないものがある」というのが6割ぐらい。こういうことで、きっと今の社会状況、会社の状況等々からすると、失うものがすごく大きいと感じているということです。
仕事も、それから結婚するしないということも、ある意味、自分でかなり選択はできるのですけれども、今女性たちにとって自分でコントロールできない最後の壁というのが出産タイムリミットでして、出産限界年齢というのが非常に気になるというあたりが、図20、21、22のあたりからうかがえると思います。
決して産みたくないわけではないのだが、このままいくと、いいパートナーも現れないし、さまざまに失うものが多そうなので、どんどん遅くなりそうだと、果たしてこのままいって大丈夫なのだろうかというあたりを非常に不安に感じているという状況がうかがえます。
その次のレジュメのページにいきまして、「収入と仕事・私生活満足度の関係」、「マネー感覚」と書いてありますが、かなり時間が押しているようなので、後ほどお時間がある方はデータをご覧いただきたいと思いますが、ポイントだけ申し上げます。3,000人強の女性の方の収入と仕事の満足度、私生活の満足度、一体どういうような相関関係があるのだろうかというものを分析してみました。それが図AからEのあたりになります。
満足度の転換点というのが年収の500万円、600万円、そして1,000万円のあたりにあるということが、いろいろクロス集計をしてみたところ浮かんでまいりました。年収500万円超えると収入満足派が増えます。これは最低限の生活をした上で、プラスアルファ、ちょっと余裕の部分のお小遣いなり、海外旅行に行くなり、おけいこ事をするなりというものが500万円ぐらいあるとできるということのようです。
それから仕事の満足度、職場満足度、これは年収600万円ぐらいでピークになっておりまして、これはなぜかというのを実例やら経営コンサルタントの方の取材などで探っていきましたところ、企業の中で年収600万円というのはかなりやりがいのある仕事を任せてもらえるという年収レベルでして、そのポイントが600万円くらい。その後、実は900万円ぐらいまで、満足度は頭打ちになって伸びないのですね。600万円、700万円、800万円、900万円になっても。
なぜかといいますと、どうやら、600万円あたりで、非常に会社の中で必要とされる存在だと自他ともに認めるところになり、やりがいのある仕事も任せてもらえるのだが、その後はどんどん負荷が重くなるばかりで、こんなに大変な仕事をやっているのだったら、800万、900万いただいてもいいかなみたいなあたりで、どうやら満足度というのはそんなに伸びないらしいと。一たん、さらに次の突破口として1,000万円を超すと、再び、次のステージに移ってかなり大きな責任を任されて満足度が上がるというような結果がわかりました。
もう一つ、私生活満足度と年収というのの関係がどうかと見たところ、これは年収によって私生活の満足度というのはそんなに変わりがないということがわかりました。といいますのが、おそらく年収が低いうちは時間があっても遊ぶお金がない。年収が高くなると、お金はあっても遊ぶ時間がないと、そういうようにいろいろちょっと足を引っ張る要因が出てきたりとかして、そんなにきれいな相関関係というのは出てこないということのようです。
さらに、図Eになりますが、職種によって、仕事の内容によって、収入なり仕事なり私生活の満足度というのは、きれいに全部高くなるものもあれば、ばらける、収入は高いけれども満足度低いというような職種もあります。
トータルで、押しなべて満足度が高くなるものは一体何かと見ますと、例えば職種で言うと通訳であったり翻訳であったり、それからこのグラフには出てないのですけれども、イラストレーターという職種も、過去の調査でいくとトータルな満足度が高かった。
それはどういうことかといいますと、仕事の時間単価が高くて、拘束時間のわりに収入が得られて、比較的自由になるので、女性の場合、仕事と子育てなど、私生活を両立させやすい職種であると。そういうようなワーキングスタイルがとれる場合、トータルのハッピー度が高くなるということがわかりました。
次のマネー感覚というのは、これは図のFからMのあたりをご覧いただければと思うのですが、ポイントといいますか、公的年金に不安や不満ありというのが、この世代ですと93%が不安ありで、公的年金の保険料、積極的に支払いたいと思うのは2割ぐらいしかいないと。なぜかというと、「自分が払った分が戻ってこないと思う」が98%ほどもいると、そんなような大変シビアな結果が出ております。
ということで、大変時間が押してしまいましたので、最後に本当にアトランダムな箇条書きで、このような女性の変化から見えてきた課題というのはどういうことなのだろうというのを挙げてみました。
簡単に申し上げますと、まず、やはり男女ともに仕事も子育ても、それから生活も楽しめるというような、そういうワークライフバランスのとれるような社会づくり、それから職場環境づくりというものが必要とされるのではないかと思っています。
ここには書いていませんが、フルタイムとパートタイムの行き来がもっと自由にできるような柔軟な雇用というものも、そのワークライフバランスがとれる働き方というのは必要だと思います。
それからもう一つ、先ほどからちょっとフリーターのお話なども出ていまして、若い人がなかなかやりたいと思える仕事につけなかったり、仕事観を持てなかったりというような状況があるかと思いますので、やはり中学、高校ぐらいのうちから、もう少し、仕事というのはこういうものだと、仕事の喜びというものはこういうものだということを、頭でなくて肌で感じてもらえるような、最低1週間ぐらいの職業訓練みたいな、仕事体験の機会というものをどんどん設ける必要があるのではないかと思います。
それから、これだけ会社に頼らなくて、個人でキャリアプラン、それからマネープランを立てていかなければいけないという時代になってきていると思いますので、個人のキャリアプラン支援のためのカウンセリングですとか生涯教育のサポートというものが必要になっていくかと思います。
最後、◆の3点というのが私の今日一番言いたかったことでして、税制、社会保障制度というのは、今動きが進んでいますけれども、もう世帯単位ではなくて個人単位にしていただくというのが、その機が熟しているときは今ではないかと、このような意識の変化を見てみると感じています。
それからその次に、「あるべき社会像のイメージを共有する」とちょっと生意気に書かせていただいたのですが、これはどういうことかといいますと、私は一昨年、スウェーデンにちょっと取材に行きまして、そのときに若いカップルとシングルの男女にたくさん会いました。そのときに、日本でいう、同棲カップルのまま子供を産んだカップルですとか、産もうとしているカップルとかたくさん会ったのですけれども、非常に印象的だったのが、男女ともに子供を産んで育てて、それから仕事を続けるということに本当に不安を感じていない、安心して子供を産んで働きますというふうにみんなが言っているというのが非常に印象的で、例えばあるエアラインに勤めている人が、私は2年育休をとろうと思っていて、その後、復帰後は時短勤務をするつもりだと言ったカップルもいますし、また別のカップルは、彼女のほうがどうやら仕事が好きみたいだから、育休明けは僕が時短勤務にするのだと言っていて、彼は3カ月育休をとった後、復帰後は時短勤務で、子育ては自分が中心的に担いたいというカップルもいました。
そういう姿を見て、本当に、ああ、安心して仕事と子育てできる社会ってこういうことなのかと、初めてその声を聞いて納得したわけで、それまでは、そこまで社会保障費高いというのはいかがなものかというような、ちょっと本当にどうなのかなあというものも正直言ってあったのですけれども、ああなるほど、こういう社会が実現できるならばこれだけの税負担というものも納得できるかもしれないと思いました。
これは非常に私の私見ですので、そういうふうにスウェーデンが理想で、すぐにそう日本を持って行きましょうというのは非常に飛躍があるのですけれども、とかく年金、税金、上がったらとられてしまう、生活圧迫するというような思いばかりが先行して、マスコミもよくないのですが、そういうふうに書き立てるのですけれども、やはりこういう社会を私たち目指していこうよ、そうしたらこんな安心が得られるのだよ、こんな不安がなくなるのだよということをもうちょっと積極的に示していって、だからこのぐらいの負担というものはみんなで引き受けていこうよというようなコンセンサスというのが得られるようにしたほうがいいのではないかなと思っております。
それから最後の1点ですけれども、これもちょっと生意気な意見で恐縮ですが、税金や社会保険料を通して国を支えていくというのが一人前の大人としての責任であるみたいなことをもう少し教育を通して育むことはできないものかなと考えております。
といいますのが、40歳になって初めて自分の所得で所得税を払うことができたという喜びをるる手紙につづってきた友人がおりまして、彼女は10年間専業主婦をやっていて、その後離婚をして、親の庇護のもとに6~7年いて、その後独立して、ようやく一人前の職業人というか仕事を得ることができて、一人暮らしをして、自分の得た収入で所得税を払うことができたと。
そのときに彼女が、自分がこれだけ収入を得ることができた、自分がこれで一人暮らしができたという喜びではなくて、これで私は40歳にして生まれて初めて所得税をきちんと払うことができたのよという、その喜びをつづってきたということが私にとっては大変心を打たれることで、そういうような感覚というのを、ちょっときれい事の言い方かもしれないですけれども、もう少しみんなで共有していったらどうかと思っております。
以上です。
〇石小委員長
ありがとうございました。特に最後の点、我々、共感する者が多かったかもしれませんが(笑)、ただ、これがどうなるかは難しいのですよ。これからの議論でね。本当にありがとうございました。
時間がちょっと押しておりますが、せっかくの機会でございますから。じゃ遠藤さんと河野さん。
〇遠藤特別委員
大変示唆に富んだ報告をいただきまして、ありがとうございました。ちょっと2つほどお聞きしたいのですが、1つは結婚観のところで、夫に求めるのは収入の安定よりも価値観の一致ということなのですが、この求められる価値観というのは、女性側から男性に対してどういうものが多いのか、3つほど挙げていただければ(笑)。場合によっては、学校教育でそういうことを徹底してやらないと、これは大変なことになるなという感じが(笑)ちょっとしたのですが、それが1つ。
それから、この間の就労の話で、実は江戸時代と今とは女性の就労率が同じぐらいだという報告を聞いたわけですが、江戸時代はおそらく、就労した女性もたくさん子供を産んでいたと思うのですね。ところが、今はなかなか子供を産まないと。その違いというのは一体どこから来ているのかということを、もしおわかりになったら教えていただきたいと思うのです。
私どもは、私どもと言うと失礼ですが、私は、要するに女性も男性も将来のためにお金を貯蓄するということはありますよね。それと同じように、将来のために、やはり若い世代が子供を産むということも非常に重要なことで、それが少なくなってくると、将来自分たちも非常に大変になってくるということがあると思うのですけれども、そういう点の認識というのは若い世代はどのぐらい持っておられるのかなと。我々はそういう認識のないまま結婚して子供を産んだのですけれども(笑)、今の方々はそういう認識というのはどのぐらい持っているのかという、その3つぐらいのことをお聞きしたいと思います。
〇石小委員長
トラ男の代表的な質問ですね(笑)。
〇遠藤特別委員
いや、ヤギ男ですよ、私は(笑)。
〇野村編集長
価値観の一致というのは非常に答えにくいところがあるのですけれども、平凡な答えかもしれないですけれども、大切にしたいものですとか、お金を使いたいものですとか、それから、みんなに聞いていくと、笑えるツボが一緒というのも大事だというような、何をおもしろいと思えるかというあたりというのも。それで3つになりますでしょうか(笑)。
2つ目のご質問で、江戸時代にということなのですけれども、その辺は、この前いらっしゃった落合先生や山田先生のほうがお詳しくいらっしゃると思うのですけれども、やはりそのころは自営業的な働き方が多くて、男性が企業の中で朝から夜まで働き詰めでというふうに、職場と家庭が完全に切り離されたような今のような状況というのではなくて、子供を、極端な話、しょいながら仕事をして家事もしてみたいな、そういう働き方だったので、そういう意味ではワークライフバランスをとりやすいといいますか、両立できる環境だったということだと思います。
3つ目、子供を確かに産まないとといいますか、少子化は大変なことだという認識は女性も持っているわけですけれども、社会のために自分が、先ほど言いましたように、犠牲にしたくないものがあるのだけれども、それを犠牲にしてまで、社会のために私が、よっしゃ産みましょう、2人3人というふうにはちょっとならないというのがあります。
それは自分勝手だというようなご意見もきっとあるとは思うのですけれども、ただ、やはりもうちょっと今の働き方が柔軟になったりとか、パートタイムに一時なったとしても戻れる保証があるとかいうようなことがあれば、もっともっと、女性たちも怖がらずに、じゃ私産みましょうというふうになると思います。
〇石小委員長
じゃ河野さん、最後に簡単にお願いします。
〇河野特別委員
短い質問を1つとお願いが1つあるのですが、質問は、おたくの雑誌の読者というのは、おそらく半分以上大卒で、キャリアウーマン型の人ではないかと思うのだけれども、それ、違ったら否定してください。
お願いは、実力ある編集長らしくお見受けするので、これからチャンスがあったら、石さんが言っていたみたいに、この人たちは独身でしょう。扶養家族いないわけだから。税金を、それから社会保険料もいろいろ払っているわけだ。一人前に。重いと思っているのか軽いと思っているのか、意に介さないのか、そういう調査をしていただくとありがたいと。これは注文です。
〇野村編集長
わかりました。ぜひ今度のマネー特集のときに、そのアンケート票に盛り込みたいと思っております。
それで、1つ目ですが、大卒の方も多くていらっしゃいますが、短大卒、高卒の方もいらっしゃいまして、そういう意味では、そんなにばりばりキャリアウーマンの雑誌ということではありません。
〇石小委員長
まだまだあるかと思いますが、もう大分時間も過ぎまして、これ以上拘束時間が長くなるとよくないと思いますので、今日は2時間40分ほどかかりましたが、3人の先生方、お忙しいところ本当にありがとうございました。大変貴重なご意見をいただきました(拍手)。ちなみに、拍手が起きたのは初めてですよ(笑)。
それでは、我々の、あと日程を申し上げますので、どうぞ、お忙しいと思いますので。
あとの日程を簡単に申し上げます。このペースで、次は「分配」ということ。特に所得分配ですね。3月30日の火曜日2時からやりたいと思ってます。有識者ヒアリングの継続でございます。
それから4月に入りましてから2回ほど考えておりまして、講師の方の日程等々もございまして、後半に2つ押し寄せまして、4月23日金曜日、これは「少子・高齢化と経済・社会」、それから27日火曜日に「グローバル化と経済・社会」と、4月は後半に2回やりたいと思っています。いずれ正式に事務局からご案内を差し上げようかと思っています。
このペースで、あと5月に入りましてからもうワンラウンドやりたいと思っていますが、いずれにいたしましても、この種の実相を切りました後で、フリーディスカッションを交えて、我々としてどういうものを学び取って、税制、あるいは社会保障の改革につなげるかという議論に持っていきたいと思っていますので、ご協力をお願いいたしたいと思います。
本当に今日は長時間ありがとうございました。
〔閉会〕
(注)
本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。