第7回基礎問題小委員会 議事録

平成16年2月27日開催

石小委員長

それでは、時間になりました。第7回になりますが、基礎問題小委員会、開催いたします。今日はお忙しいところをありがとうございました。

今日は、例の社会経済の構造変化の実像把握の2回目でありまして、前回の「家族」に続きまして、今日は「就労」という形で、お二人の専門家をお招きしてあります。後ほどご紹介いたしますが、慶応大学の樋口先生と、リクルートワークス研究所所長の大久保さんでございます。

それはそれとして、これに先立ちまして、ちょっと事務局が資料を作ってくれましたので、お二人の話にも絡んでこようかと思いますので、まず最初に事務局のほうから、この資料につきまして、要するにバックグラウンドデータとしてご説明いただきたいと思います。

それでは、調査課長の佐藤さん、お願いします。

佐藤調査課長

それでは、ご説明申し上げます。基礎小7-1という「参考資料」をご覧いただきたいと思います。

まず、開けていただきまして、iページ目でございますが、ここは前回、実像把握を行うに当たりまして、全体としての基本的な視点ということでございますので、これはご説明は省略いたします。

iiページ目でございます。ここから本日のテーマでございます、就労に関する記述でございます。後ほどデータをかいつまんで見ていただきますけれども、ここではその特徴を5点ほどにまとめておりますので、簡単にまず見ていただきたいと思います。

まず就業構造が大きく変化してきていると。労働力人口は増加してきたが、97年をピークとして、その後、減少。今後一層減少していく見通しである。労働力人口に占める雇用者の数の比率、これが上昇。いわゆる雇用者化、サラリーマン化ということでございます。他方、農業を含む自営業者の比率が減少してきている。失業者数は増加傾向ということがございます。

2つ目のところでございます。雇用者の就労形態や職業観が大きく変わってきている。いわゆる日本型雇用慣行が流動化、就業形態が多様化しているということで、シンボリックに書いてございますけれども、「正社員中心・終身雇用制・年功序列賃金・フリンジベネフィット」という形から、「多様な人材活用・即戦力採用・成果主義・能力給賃金」というような形への大きなシフトがあるのではないかということでございます。

細目としまして、雇用形態が多様化・流動化する。特に正規の雇用者の割合が減る一方で、パートなどの非正規の雇用者の割合が上昇するという傾向が顕著でございます。

次の点ですが、「カイシャ」に対する帰属意識の希薄化、それから仕事に対する価値観が変化するということで、専門性を重視とか、余暇志向とか、労働条件の選択の自由を志向するとか、あるいは一方で安定志向だとか、さまざまな傾向が見られるということでございます。

3つ目でございます。これは若者に焦点を当てました記述でございます。フリーターなど非正規の雇用者数が増加していると。フリーターにはさまざまな類型ということで、モラトリアム型とか、夢追求型とか、やむを得ず型とか、こういうことで整理をさせていただいております。

次のページでございますが、若年者の離職率が上昇傾向、それから同じく失業率が上昇。新卒者については無業者――無業者といいますのは、仕事にも就かないという意味でございますが、その数が増えてきているということです。

4つ目、女性、高齢者の雇用ということで、15~64歳の労働力人口が97年をピークに減少する中で、労働力率は長期的に上昇傾向。15~64歳の女性については、その労働力率は、現在6割ぐらい、男性が85%。この辺は後でデータで見ていただきます。女性につきましては、その半数が非正規の雇用者であると。いわゆるM字カーブのくぼみについては、緩やかになりつつあるものの、依然として存在している。65歳以上の高齢者につきましては、その労働力率は長期的に低下傾向、外国人労働者の数は増えつつある。

5つ目、自営業者の動向でございますが、その数は減少傾向。廃業率が開業率を上回る傾向ということでございます。

ちょっと具体的に見ていただきたいと思います。赤い紙が入っている後ろにデータをずらっと並べてございますので、ポイントになるところだけデータで確認いただければということでございます。

1ページをあけていただきたいと思います。「労働力人口等の推移」ということでございます。いろいろ書いてございますが、見ていただくのは、1965年からとってございますが、棒グラフの高さが、1965年に4,787万人という数字がございますが、それが現在、2003年時点で6,666万人。途中、97年の段階、四角で囲っておりますが、6,787万人という数字でピークになりまして、今は減りつつあります。

今後の推計といたしまして、例えば2025年になりますと6,296万人という形に減ってくるという見通しでございまして、いわゆる活力の問題等々、どのようなインプリケーションがあるかということが一つの指標になると思います。

次の2ページ目でございます。これは今申し上げました労働力人口の中でどういう就業形態をとっているかということで、雇用者か、あるいは自営業者かと、大きく分けてそういう区分けでございます。これもかなり昔からとってございまして、1960年からとってございます。

1960年の段階、高度成長のいわば入り口の時点でございますが、その時点では、雇用者が全体の52.5%、自営業者、これは農業者を含みますけれども、それが45.8%ということで、半々程度という形でございましたが、その後ずうっと雇用者化、サラリーマン化が進みまして、現在、2003年のところ、80%が雇用者、それから自営業者が15%程度というようなことで、大きく口が開いた形に見えるということでございます。そういう意味でサラリーマン化が進んでいくということで、雇われるという形で、そういった社会の形成が見られるということでございます。

前回の「家族」のときの両先生のご指摘の中で、この辺については、家族の変容と非常にパラレルになっているというご説明がございました。いわゆる標準的な家族というものが変容する中で、雇用者中心の社会ができ上がっていくというようなご指摘が前回あったわけですが、そのあたり、この数字と相通ずるものがあると思われます。

それから完全失業率でございますけれども、1960年の段階では1.7%という数字でございます。それが現在5.3%ということで、景気状況、循環的な要素もございますが、構造的な要素もあるのではないだろうかということでございます。

飛ばしまして5ページ目でございます。「雇用形態別の雇用者数等の推移」。雇用者数、要するにサラリーマンの中でどのように雇用されているかということをあらわしたものでございます。1971年正規雇用が87.5%、非正規雇用が7.3%という数字でございます。それが現在のところは、2002年でございますが、正規雇用が63%、非正規雇用が30%弱ということで、これも非常に大きな変化を遂げておるということでございます。

高度成長期から見ての変化ということもございますが、もう一つ見ていただきたいのが、1997年から2002年への変化でございまして、正規雇用が70.1%から63.1%、非正規雇用が22.9%から29.6%ということで、ここもかなり短期間のうちに変化してきているということでございまして、前回のご説明の中でも、この1997年から1998年というのが、戦後の家族主義モデルがいろいろ変容しているというご説明がございましたけれども、そういうものともかなりオーバーラップしてくる傾向が見られるということです。

ちなみに、戦前は実は非正規雇用の方が正規雇用よりも多かったということがございます。この辺は後ほどのプレゼンテーションでお願いできるかもしれませんが、そういうふうなこともあったようでございます。

いずれにしましても、この時期に、1971年、象徴的にありますように、日本型雇用モデルというものが、いわば正社員中心の社会というものがあったのかなあということがうかがえるわけでございます。

6ページでございますが、これは企業サイドのニーズ、雇用の仕方でございます。最近の変化をとってございますが、正社員に対するニーズが減り、契約社員とかアルバイト・パートのニーズが高まっているということでございます。

次、7ページ、これは企業サイドにおける年功序列という考え方がかなり変化をし、成果主義的なものになってきているということを示したグラフでございます。ここはちょっと飛ばさせていただきます。

8ページ、これは福利厚生、いわゆるフリンジベネフィットという関係でございますが、これについても絞り込むという方針が確認できるかと思います。

10ページをお願いいたします。これは会社に対する帰属意識ということでございまして、1995年と2000年の間で、会社に対する意識が「薄れた」という数が増え、「今まで通りある」というのが減るということで、帰属意識の希薄化の傾向が見られるということでございます。

それから次、11ページでございます。仕事に対する価値観ということでございますが、右側の上、「仕事と余暇」と書いているところでございます。これは若者中心ですが、仕事志向という部分が減り、余暇、あるいは余暇と仕事の両立という部分がかなり増えてきているということでございます。

「仕事に対する価値観」という下のグラフでございます。左側、「仲間と楽しく働ける仕事」、あるいは「専門知識や特技が生かせる仕事」を理想とするという数がレベル的にも高いということがございます。この辺、画一的な職業観でなくなってきているということが読み取れるのではないかと思われます。

続きまして13ページでございますが、若者の雇用実態ということで、15~24歳の若者の労働の様子をグラフ化したものです。上が男性、下が女性でございます。薄いシャドウのものにつきましては正規の職員、それから黒っぽいシャドウにつきましてはパート、アルバイトということで、正規職員が減り、アルバイト、パートという非正規が増えるということが、男女ともその傾向が見て取れるわけでございます。

15ページでございます。「フリーター」ということで整理いたしました。「フリーター」というのは、私の知るところは、本日おいでいただいているリクルートにおかれまして作られた造語だと承っておりますけれども、定義はこの枠に書いているような定義でございます。

数といたしまして、1990年に183万人ということですが、2001年で417万人、若年人口に占めるフリーターの割合が10.4%から21.2%ということで、この数が急激に伸びてきている。特に1998年~1999年にわたりまして大きくジャンプしているのが特徴でございますが、これが先ほど申し上げたような、前回の「家族」の説明にあったような1998年の位置づけと相通ずるところがあるということでございます。

16ページ、フリーターの年収、それから就労時間などの資料をつけてございますので、後でご参考いただければということです。

それから18ページ、若年者の離職率というのをご覧いただきます。就職後3年以内にやめる人の割合の率でございます。中学卒の人は7割、高校卒の人は5割、大学卒の人は3割ということで、これは俗に「七五三現象」と言うようでございます。

19ページ、若者の失業者数でございます。これも特に黒丸のついた折れ線グラフでございますが、1970年から見まして大きく上昇しておりますけれども、特徴的なのは、やはり1998年のあたりのジャンプというのもご確認を賜ればということでございます。

21ページ、これは新卒者における無業者数ということで、フリーターでもない、働かない人、働く意思がない人ということになりますが、これも大きく増加してきているということでございます。

ちょっとお時間の関係でスピードを上げますが、23ページ、女性と高齢者の労働力率ということでございます。右側の折れ線グラフでございますが、男女計(15~64歳)における労働力率、その同じ年齢層において働く意思のある人ということで、それが現在、72%ぐらいの水準になってございますが、傾向的には上がってきておるわけですが、その要因は、女性(15~64歳)が、1975年をボトムとしまして、そこからずうっとせり上がってまいりまして、現在60%になっているということと対応してございます。1975年といいますのは、前回の「家族」のときもございましたが、いわゆる当たり前の家族から変容していったポイントになるのが1975年というポイントでございます。

男性につきましては85%というラインですから、60%との開きがあるということもご指摘しておきたいと思います。それから男女計の65歳以上、高齢者につきましては、労働力人口は増加しておりますが、その労働力率は長期的には低下傾向、現在21%という状況にあるということでございます。

27ページでございます。これは前回ございましたが、女性労働におきますM字カーブというものが特徴で、そのくぼみが次第に緩やかになりつつありますが、依然としてMの形をしておるということでございます。

28ページ、外国人労働力人口、現在74万人という数字をご確認いただければと思います。

29ページ、今度は自営業者の動向ということで、自営業者の総数というのを下に書いてございます。1974年に643万人、現在、535万人ということで減ってきておりますが、特徴的なのは、30歳代、40歳代の数が減っていることが顕著な特徴として読み取れるわけでございます。

最後に31ページ、開業率、廃業率につきまして、廃業率が開業率を上回っているということをご確認いただければということです。

それで最後、戻っていただきまして、ivというところでございます。論点、切り口を例示的に書いてございます。ざっとお目通しいただければよろしいのですが、1~2、ご説明させていただきます。

1つ目でございますが、いわゆる「日本型雇用慣行」というものが揺らいでいると言われるけれども、それがいつごろ、どのような背景のもとで形成されたか、実態はどうかといったようなことで、本日ご紹介があり、またご議論賜ればということでございます。

それから次のvページでございますが、若者を取り巻く雇用等々につきまして、フリーターのあたりのそういう状況がなぜ生じているかという話。それから急増しているフリーターが今後長期化していったらどういう問題があるだろうかという見通しのようなもの、その辺もお話を賜ればと思っております。

最後に、一番下でございます。働き方や就労に対する考え方が大きく変化し、就労形態の多様化が進む中で、税制を含みます経済諸制度がいわば「カイシャ」に依存しない制度に再設計する必要があるとの見方がありますが、これをどう考えるかといったような観点から、本日ご議論を賜ればと思います。

長くなりましたが、以上でございます。

石小委員長

ありがとうございました。我々の問題意識の一端を、今、佐藤さんのほうからお話しいただいたと思いますが、これをベースにいたしまして、今から具体的なお話をお二人の先生からお聞きしたいと思います。

最初に、慶応義塾大学商学部の教授で、労働経済、計量経済学がご専門の樋口先生をご紹介いたします。ご著書としては、「雇用と失業の経済学」とか「日本経済と就業構造」等々、レーバーを中心にして日本経済論で非常に高く評価されている――もう若手じゃないな(笑)。昔はそういう紹介をしたのだけれども、もうまさに、中高年層でもないだろうし、中堅のバリバリの先生であります。40分ほど時間を使いまして、まずお話しいただけますか。よろしくお願いします。

樋口教授

慶応大学の樋口です。どうぞよろしくお願いいたします。

今、佐藤さんのほうからバックデータ、いろいろご説明ありましたので、私のほうからは、そういったものの背景に一体何が起こっているのかというような、どちらかというと骨太といいますか、大きな話をさせていただきたいと思います。

先ほど、労働力人口が1997年がピークだったというようなお話がありました。政府の見通し、経済計画等々を見ますと、もっと遅いはずだったですね。2006年ぐらいがピークであるということであったわけですが、それが早まっている。早まっている背景というのは、構造的なこともあると思いますが、主に景気が後退することによって雇用機会が減少している。その結果、非労働力化といったものが、特に高齢層、あるいは従来ですと女性であったのですが、最近は、女性はむしろ労働市場で働き続けるということが増えてまして、若年のところで起こっているなという感じがします。

こういう現象面をとらえる上では、どうしても景気循環的な要素と構造変化的な要素と分けて議論しなければいけないかと思いますが、今の例に見ますように、景気による影響というのも多分に現象面にあらわれているわけでありまして、税制を議論するときに、どちらかというと、多分、構造的な変化ですね。トレンドとは言いかねますが、そういった定性的、構造的な変化にどう税制が対応していくのかというところが必要かなと思いますので、私の話は、主に構造的変化について話をさせていただくということにしたいと思います。

先ほど、これも佐藤さんのほうから、本日の論点とか切り口というようなところで示されたもの、これ全部答えることは私の能力でできませんので、幾つか、これに沿って議論させていただきたいと思いますが、まず、日本型雇用慣行の成立、そしてその背景に何があったのかというようなところから私見を述べさせていただきたいと思います。

日本型雇用慣行といいますと、これはもう皆さんご存じのとおり、よく言われるのは3つの特徴があった。三種の神器だというようなことが言われてまいりました。

お手元に資料が配付されていると思いますので、そのレジュメに沿って話をさせていただきたいと思いますが、三種の神器というのは、長期雇用、従来ですと、終身雇用ということで言われてきました。終身というと、生涯にわたって一つの企業ということでありますが、決して日本でもそういうことはかつてもなかったし、今もないと思いますが、最低限、定年までと。多くの場合、定年で再雇用ですとか、あるいはそこで転職して再就職するというようなことですから、終身雇用という言葉は適当ではないだろうということが大分前に言われるようになってきまして、そこから長期雇用というのが日本型雇用慣行の特徴ではないかと言われるようになってきました。

2番目は、処遇とか賃金の側面において、年齢とか勤続年数、これを重視したような給与体系がとられていて、例えば年齢の賃金カーブを描きますと、右肩上がりで上がっていくというような、そしてそのスロープがほかの国でも右肩上がりというのが見られるわけですが、ほかの国は、大体30代中ごろ、あるいは40前半において頭を打って、あとフラットになっているというようなことに対して、日本はその後も上昇し続けるという特徴がある。でありますから、若いところについては、これはどこの国でも年功的といいますか、カーブは急勾配を持っているということでありますが、その後が違うのではないかというようなことで議論されてきたかと思います。

3番目の特徴が企業別の労働組合ということで、ほかの連合等々も組合はあるわけでありますが、実質的な雇用条件の決定に関しましては企業単位で行われていくというような、これはヨーロッパのほうがセントラライズされている。集中的に決められて、それが全国に波及している。それに対して日本はディセントラライズしていて、それぞれの企業で、企業別に給与体系、給与が決められていくというような特徴があるのではないか。

言い方を変えれば、例えば職種別の賃金というのが成立してないといった特徴があって、個別企業の営業成績等々によって賃金が決まるというような特徴が、これまたあるのではないかということが言われてまいりました。

こういう三種の神器が、これまでも言われてきたわけでありますが、その背景には一体何があったのだろうかということでありまして、私がしばしば使う言葉に、この3つの特徴の背景、これを支えるものとして、企業と個人との間に「保障と拘束」の関係があったのではないかというような議論をさせていただいております。

保障というのは、今の給与体系のように、生活給的な側面というのがかなりあって、生活費を保障する。あるいは雇用についても、景気が悪化したとしても、なかなか解雇しませんという雇用保障というものがある。しかし、その反面、労働者に対して、その代償として、例えば拘束ということで、長い残業時間でありますとか、あるいは辞令一本での転勤というような、こういったものを課すといった関係があったのではないかと議論しております。

これをもう少し経済学的に考えたらどういうことがあったと言えるのだろうかということでありますが、例えば人を入り口の段階でかなり慎重にスクリーニングをする。そのスクリーニングによって選ばれた人材に教育訓練を行っていくということがある。教育訓練といった場合に、学校教育といったのも教育訓練の一つであるわけでありますが、むしろ企業特殊的、ほかの企業ではなかなか通用しないような技能まで含めて教育訓練をしていくということがあるかと思います。

そのことが、言いかえますと、従業員と企業との関係に、共同投資・共同回収という言葉で我々よく言いますが、そういったジョイントリーな関係があると。例えば一方的に労働者がコストを負担して、そしてその回収をするというのが学校教育であるのに対して、企業の中における企業特殊的な技能の教育というのは、むしろお金を会社のほうが出します。本人のほうがそういった努力を払うのだと。そしてそこで得られた、例えば生産性の向上ですとか、あるいは能力の向上、こういったものに伴う経済的便益というものを今度は企業と労働者で分け合うというような、そういう一種の一体化した関係というものがあったのではないかと議論されているかと思います。

それに伴いまして、企業の求心力、従来ですと忠誠心という言葉が使われておりましたが、それが高まり、そしてその一方で、一体化しておりますので、今度は景気が後退してもなかなか解雇することができない、雇用調整をすることができないというようなことで、人件費の固定費化というものが進んでいくというようなところがあります。

その一方、最初に申し上げましたように、入り口での選別というものが、かなり慎重にという言葉を使いましたが、慎重に行われることによって、そこで拘束に耐え得るだろうと思われる人材、あるいは能力があるだろうと思われる人材だけを採用することによって、結果的にかなり画一的な雇用管理を行うことができるようにということで、異質性の排除といったものがそこで行われていったのではないかと思います。

それによって、例えば、従来から言われている女性がなかなか採用面で正規の職員になりにくいとか、あるいは中高齢層で途中からの参入といったものを排除してしまうというようなことになってきたのかなあと。そういうことはメリット、デメリット両方あると思うのです。企業にとってもメリット、デメリットがありますし、労働者にとってもメリット、デメリットがある。

その大前提になったのは何かということを考えれば、やはり企業の成長というものが確実視されているということがあってこその、この一体化というもの、あるいは共同投資・共同回収といったものが可能になってきたのではないかと思っているということであります。

その点を少しデータで私も確認してみたいということでありまして、これも皆様に配付しておりますが、私のレジュメに図1というのがございます。これは日米の製造業の月間離職率の推移ということで、特に戦後については、アメリカと日本の間で、離職率、会社をやめる人たちの比率が、やはりアメリカのほうが高く、労働市場が流動的だと。それに対して日本のほうは低いですねということで言われるところでありますが、この戦前のデータというのがなかなかなかった。ちょうどコロンビア大学の図書館に潜り込んで見ていましたらこのデータが出てきたということで、どういうわけか、アメリカの戦前のデータが見つからなかったので苦労していたのですが、これが出てきたということで、ここで完全に概念的に一致しているわけではありませんが、比較できるだろうということで掲載させていただいてます。

これを見ると、戦前については、日米の間にそれほど大きな差がなかった。特に個別のケーススタディとして言われているのは、日本の大企業とアメリカの大企業を比較しますと、むしろアメリカのほうが定着的であったということが言われています。あるいは日本の企業においては、一生懸命人材育成をやっても、すぐに社員が会社をやめてしまう。そうなると、教育投資をやったにもかかわらず、それを回収できないまま終わってしまうということから、もう少し定着率を上げるためにはどうしたらいいのだろうかというようないろんな試行錯誤をやってます。

三井財閥にしろ、住友財閥にしろ、アメリカの当時のエクセレントカンパニーといったところにミッションを送って、その秘訣は一体何か、定着率を高めるのにはどういうことをやっているのかというような調査を行って、その調査結果を持ち帰って、日本でそれを導入したらということもまたやりました。そこでは、例えばボーナス制度であるとか、あるいは年功カーブというようなことも議論になっていたということでありますが、少なくとも戦前においては、日本の労働市場もアメリカと同じぐらい流動的であったと確認できるかと思います。

それが戦中、これは転職の禁止令が出るというようなことが政策的に行われたという、軍需的な面で行われたということもあり、また、戦後になって、これが高度成長期、それ以前の労使関係、労使紛争というものを契機として、その後、この労使における一体化というものを図っていく必要があるのだということから、政策転換が企業においてもなされたということ。そういうものを通じて日本型雇用慣行というものが形成されたのだろうということが言われていますが、いつの時代に形成されたかということにつきましては意見がさまざまであって、必ずしも見解が一致しているとは言えないのではないかと思います。

少なくともこういうような関係があったわけでありますが、このデータが出てきてます75年とか80年、85年、ここら辺を見ますと、定着率はむしろ上がっている、離職率が下がっているというような関係があり、これを見る限りにおいては、日本型雇用慣行、特に長期雇用が崩れたというふうには必ずしも言えないのではないかという議論があります。

最近の数字を見ますと、これも皆様にお配りした中であったかと思いますが、例えば図3、これは入職率・離職率、会社に入ってきた人たち、全従業員に占める比率がどうか、やめていった人たちの比率がどうかということを見ていますが、この離職率を見ると、若干上昇しているように最近のところは見えます。しかし、実はこれが正社員の離職率というふうに限定するとどうなのだろうか。

今上がってきた離職率というのが、もしかしたらフリーターの増加とか、あるいは有期雇用者、派遣労働者、こういった人たちのウェイト、シェアの増加によって全体の労働市場の流動化が起こっているように見えるというようなところも指摘されているわけでありまして、正社員についても、少なくとも若い層について見ますと、この離職率が上がり、労働市場が流動化しているように見えるわけでありますが、中年層においてはわりと安定しているということが今でも起こっているらしいということが指摘されているものであります。

こういう変化の中で、これを支えてきた関係というのは一体どういうことが前提になっていたのかといいますと、まず、企業の外部に優秀な人材を採りたいと思っても、なかなかそういう人材がいなかった。したがって、社内の中で育てるしかないということが1つあります。これは企業特殊的技能という性質もありますし、あるいは高度の専門的な技能を持った人を社外に求めても、なかなかそれを持っている人がいなかったというようなことがあります。あるいは経済成長、あるいは企業成長というのが右肩上がりであった。さらに、産業構造が製造業とか建設業が、やはりほかの国、ほかの先進国に比べてウェイトが高いというようなことがあり、こういったところでは、男性型の雇用といったものが一般的であったのではないか。重厚長大産業を見ても、あるいは建設業を見ても、男性の比率が圧倒的に高いということがあります。

このところが今雇用を削減するというような一方において、女性型、女性を多く採用しているところが雇用を増やしていく。例えば医療であるとか、介護であるとか、対個人サービスと言われているところが産業構成比を高めていくということから、全般的に産業全体で言えるのは、男性の雇用をどうも減らして、その一方で女性の雇用を増やしていくというような転換が起こりつつあるのかなと思っております。

例えば図6というのがあります。この図6は男性と女性の失業率を別個に書いたものでありますが、1997年、これは、先ほど97~98年というのが家族モデルの変容だというご紹介が前回あったと聞いておりますが、労働市場でも大きな転換がありまして、これまでは点線のほうの失業率のほうが実線の失業率を上回っていた。ということは、女性の失業率のほうが高かったということがあります。

ところが、それ以降は実線のほうは上に来ているということでありますから、女性も失業率は上昇していますが、それ以上に男性の失業率の上昇が著しいというようなこと。これは産業構造の転換からも起こっているのではないか。

例えばもう少し長期的にデータを見てみますと、オイルショックの直後にも同じように、女性の失業率が男性の失業率を下回るということがありましたが、そのときと現在起こっている理由が大きく違っている。当時は女性が職探し自身をあきらめてしまうというようなことで、家に入ってしまう、専業主婦になってしまうというような非労働力化が起こる。我々、これはディスカード・ワーカー・エフェクツと呼んでおりますが、そういったものが女性の失業率を低く抑えたのだろうと。決して男性のほうに比べて女性のほうの労働需要が活発になったと当時は言えなかったわけでありますが、今起こっているのはどうも、男性の雇用が減って、女性の雇用が増えていく。これは産業構造の転換もありますし、同時に起こっているのは、やはりそれぞれの家庭における役割分担の変化といったものがあって、夫だけが働いて、そしてその人が失業になってしまう、あるいは時には給与がダウンするというふうになると、今までのような、男が外で働いて稼得責任を背負って、そして女性のほうが家事、育児、家庭責任を背負っていくということは非常にリスクの高い暮らし、ライフスタイルになるということから、ここのところ女性の労働市場参加で見られるのは、やはり夫の所得が不安であるというところから起こっている面があるのではないだろうかと私は思っております。

同じことはアメリカでも、60年代、70年代に女性の社会参加が大分叫ばれたときにも言われまして、社会学の人はどちらかというと、フェミニズム、女性に対する意識の変化があったということを言っていますが、労働経済学の立場はむしろドライでありまして、むしろ経済の影響が強くあらわれたと。夫の所得が伸びなくなったことが女性を社会進出させたのだというような言い方をしております。その結果として、どうも意識が変わり、フェミニズムとかウーマンリブというふうになっていったのではないかという意見が強いわけでありますが、日本でもそういう状況になってきているかなあと。これが、景気が悪化しているという一過性の問題というふうに私は必ずしも思っておりませんで、そこに構造の転換が起こっているのではないだろうかと思います。

さらに、女性を多く採用するところというのは、臨時雇用、有期雇用という形で女性を活用するというようなことで、必ずしも女性の正社員が増えてきているわけではないということも言えそうだということであります。

そういう変化がある中で、今、企業の人事制度とか、企業と個人との関係、私はそういう表現を使っておりますが、それが大きくやはり変わってきている。変わってきているのですが、いつも言われますのは、どうも景気が悪くなると日本的雇用慣行というものに対する疑問符が打たれ、今度、景気がよくなっていくとそれが礼賛されるというようなことが繰り返し繰り返しこれまでもありました。

お手元に配付しております1ページの下のところに、これは日経連報告を載せておりますが、そこでも年功制というのはどうも時代おくれになっているのではないかと。その条件が今崩れ去ろうとしている以上は、今日新しい条件に対応した新しい能力主義が要請されるというようなメッセージが出ております。

これが何と35年前に出ていたメッセージでありまして、また同じことを繰り返しているのかというようなニュアンスで問われる向きもありますが、どうもやはりそこには、当時とは大きな変化が起こってきている。あるいは、終身雇用の面につきましても、当時のこの報告書の中で、日本の終身雇用というのは内部志向型だと。もっと外部に人材を求めていくような外部志向型の人事管理制度に切りかえていく必要があるのだということが言われておりまして、これは日付がないといつ書かれたのかと疑問に思うぐらいのことでありまして、繰り返し繰り返し言われてきたと。

評価のほうは繰り返されているのですが、実態のほうは少しずつ変わりつつある。変わりつつあるのは何かといいますと、1つは、正社員における、やはり仕事と個人と企業との関係、これが大きく変わりつつある。そしてもう一つは、その対象となる正社員の比率が大きく低下しまして、逆に自己責任を求められるという関係が強まっているのではないだろうかと思っております。

「実態の変化」としまして、次のページにいきますが、そこに期待成長率の低下がありまして、企業の人件費の固定化の回避とか、女性就業の促進というものが起こってきている。あるいは、先ほど言いましたような産業構造の転換で、サービス業の拡大が見られる。もう一つは、少子高齢化の、特に高齢化の進展というところで、今までのような年功賃金にしてしまえば――この年功賃金というのは後払い方式の給与体系だと言われますが、退職金についても同じように後払いという形で、後で払うことによって、企業としてはそれだけ、もし仕事をサボったりすると、その後払い方式の給与は払わないぞというような、ある意味では脅迫といいますか、ブラックメール的な役割を演じることによってインセンティブを高めることができたということが言われる。その点が、高齢化によって、どうも後払い方式の給与体系というものが人件費総額を増やしてしまうというようなことから、そこへの見直しというものを求めるということが起こっております。

同時に、保障の対象と保障するという約束はその企業がいつまでも存続し続けるということが前提になっているわけですが、そこについても疑問が起こり、企業の倒産が増えるとか、あるいはリストラが進展していくというようなことによって、保障自身が薄れてくるというようなことが起こっているらしいということだと思います。

今申し上げましたように、給与の面においては、そういった年功的な要素から、むしろ自己責任の追求といったものが起こっているのではないか。年功賃金といいますと、あたかも自動的に、長くその企業に勤めていれば給与が上がっていくというような受けとめ方をされることがあるわけでありますが、決してそんなことはない。もしそうであったとするならば、個々の労働者にとって最も得策は、長く健康で生き続けることというようなことになるわけでありまして、なぜサービス残業までして命を縮めているのかということについてはなかなか説明することができない。だとすれば、年功賃金の中にも、そういう一生懸命働くということを喚起するようなインセンティブのメカニズムがあったはずだと。

それは何かといいますと、やはり昇進の局面において、一生懸命やってきた人を高く評価するということ。そこについては、評価がやはり重要だったということが言えるかと思います。しかし、当時の評価というのは、入社してから、例えば大企業であれば課長職に昇進する時点まで、長い間の評価が累積していって、結果として15年とか20年の評価制度の結果が個人の昇進の年数を変えていくというようなことであったわけでありまして、査定は行われていたわけですが、その査定の期間が非常に長かったということがある。その結果、年々の給与の変化というものは相対的に小さかったのではないかということが考えられますということです。

ところが、今言っている考課主義というのは、今年の査定の結果が今年の給与にはね返るということでありますから、その評価が短期間に行われていくというような特徴が指摘できる。それが短か過ぎるのではないかという意見も最近は出てきておりまして、もう少し長く、3~4年に中期化したらどうか、なんていうようなことも言われるようになってきている。

少なくともそれだけ、今までは長い、15年とか20年での評価でありましたから、これは査定するほうも、あるいは査定する側も、ジョブローテーション、配置転換によって変わっていきます。その結果、大体2~3年で査定する側と査定される側の組み合わせが変わっていくというようなことになりますから、3年としまして、15年の間には5人の査定者、考課者の目を通して査定が行われたということが言えます。

そうしますと、そこで相性とか運不運といったものはあまり反映しないような、フィギュアスケートで言いますと、審判員が何人もいるというような、その両端を外して平均値をとるというような、それをならしをするということであったわけですが、単年度化していきますと、評価する人が1人になる。その結果、まさに相性とかいうようなもの、あるいはたまたま運のいいことが、ラッキーなことが起こって業績が上がったとかいうことが起こってくる。そうなってきますと、どうしても給与の変化といったものが大きくなってくるというようなことが、税金との関係では一つのポイントになってくるかなと思いますということです。

その一方、保障の対象となるような正社員が削減されて、対象にならないような有期雇用とかパートとか、派遣、請負といったものが増えていきます。そしてその結果として、自己啓発、能力開発につきましても、今までは会社のほうが全員参加型の底上げの研修をやるということをやってきたわけでありますが、それをやめて、今、リストラクチャリング、これは私は景気の影響だろうと思いますが、この能力開発費が大きく低下してきています。

ただ、将来どうするのだというアンケート調査では、もうこれ以上、教育訓練費を落とすということは企業はやらないと。ただし、その内容を、今までと違って、全員参加型から集中投資型に変えていくのだと。やはり企業の将来を背負っていく優秀な人材に集中的に投資を行っていくというようなことを言っているところが多いわけでありまして、その変化もまた起こってくるだろうなあと思います。全般的にはやはり自己啓発を求めるという流れが生まれてきている。

しかし、それは果たして本当に自己啓発、あるいは自己責任がとれる環境が企業の中で整ってきているのか、あるいは社会的にそういうような制度が用意されるようになってきているのかというところで問題でありまして、例えば週60時間以上働いている人たちの比率。週60時間といいますと、残業20時間以上、1週間にやっている。そうすると、5日間としまして、1日平均4時間以上残業しているというような人たちの比率がここのところ急上昇している。特に大企業で増えている。過剰雇用だと言いながら、仕事のほうが集中するというような流れがどうも生まれてきている。4時間働いて、せいぜい11時ぐらいからでしょうか、家で自己啓発といっても、これは高校を出て受験勉強する人よりも勉強しないと自己啓発できないかなあというのが現状として起こっているということでありまして、そこに自己責任を追求する以上は、自己の選択したものを可能にする必要性というのがあるのではないか。

企業の中でも、確かに仕事を選択するというような個々人の声を大切にしようということで、例えば内部公募制を設けるという企業も増えてきていますし、今まで新卒では一括採用といったものを職種別の採用ということで、どういうような仕事をしたいのか、そういう仕事に必要となるような語学の勉強ですとか、そういったジェネラルスキルと言われている一般的技能については、これはもう学生のうちから勉強しろと。とても即戦力というふうに期待しているわけではないわけでありますが、そういうところについて、学校と社会との間の連携、一体化をもたらせようと。今まではあまりにもそこが一括採用によって分断されてきたのではないかという、そのスクリーニングについての変化といったものも起こりつつあるということが言えるのではないかと思います。

その結果として、特に非正規社員が増えるということによって、格差の拡大といったものがどうもここでは起こっているのではないか。特に日本の場合、今まで入り口でスクリーニングを厳しくやるというような特徴があり、今でもそうだろうと思います。正社員については厳しくスクリーニングをますますやるというようなことによって、ある意味では敗者復活がしにくいような企業体質というものができつつあるのではないか。

例えばその段階でもう正社員として採用されないということになると、流動的な労働市場であれば、中途採用という形でどんどん企業に入っていくという、そのための自己啓発をするということも可能だろうと思いますが、そこのところがどうも厳しい状況が依然として続いている。その結果、格差の拡大というのが、1年で見たときの格差の拡大、これがそのままその後も継続してしまうという可能性はないだろうかということであります。

これも、この間、ミシガン大学のほうでコンファレンスが開かれて各国の議論があったのですが、これはまだはっきりした結果は出ておりませんが、例えばアメリカの社会を見たときに、単年度では所得格差が大きいと。しかし、どうも生涯で見ると必ずしも大きいとは言えないのではないか。それはかなり低所得の人が階段をかけ上っていくということも可能で、流動的になっている。その結果として、単年度の所得の格差がそのままずうっと続くということではなく、そこの間に敗者復活戦も行われていくというようなことがあるのではないか。

それに対して、例えばドイツあたりは、単年度で見ると所得格差が小さいかもしれませんが、それが固定化されてしまっているのではないかと。インサイダー、アウトサイダーという議論がありますが、会社の中に入っているインサイダーのほうは雇用がこれによって守られ、所得も守られていく。ところが、一度そこから抜けてしまいますと、アウトサイダー、外部にいる人というようなことで、なかなかインサイダーに入っていくことが難しいということから、一時の所得格差というものが生涯にわたって続いてしまうという可能性がないだろうかということが議論されています。

我々、財務省の財務総合政策研究所のほうで去年1年間研究を続けてきました。それまでも所得格差の拡大という議論がありまして、我々の分析でも、格差の拡大というのが見られます。同じ年齢で見ても、格差が少しどうも拡大しているらしい。それが特に1998年ぐらいから起こっているというデータが出ていますが、どうもその後見ても、この格差が拡大しているだけではなく、階層化というような危険性が出てきているのではないだろうか。これは研究、そこに参加していた人によって意見が違いますので、いろんな意見が出ておりますが、私どもの結果では、そういう危険性があるのではないだろうかということが危惧される状況になってきているということが言えます。

こういうようなことを踏まえまして、税制は一体どういうような課題があるだろうかということの私見を述べさせていただきますと、税制改革としては大きく2つ。1つは、社会が変わったがゆえに税制を変えていかなければいけないというような、そういう受動的な税制改革といったものと、もう一つは、社会をリードしていく、どちらの方向に導いていくかというようなことで、積極的な税制改革というような両面があるだろうと。いろいろな控除制度というのが、従来はこういったところが望ましいと。したがって、そこに多く時間を費やしてくれとか、もっと消費をしてくれとか、そういうような形での税制改革というか、税変更というようなことを時限立法的にやるなんていうこともあった。

私がこれから述べるのは、むしろ受動的な側面ですね。社会がこう変わったから、それに応じて税制をこういうふうに変えていく必要があるのではないでしょうかということについて、そちらのニュアンスを強く込めてお話をさせていただきたいと思います。

1番目は、企業による保障の時代から自己責任がとれるというような流れの中で、環境の整備を税制面でどうしていくか。もちろんこれは税制の問題以上に、ほかのところでいろんな施策の問題がありますが、ここでは税制にだけ触れたいと思います。特に年々の所得が大きく変化するようになったとき、考課主義とか、あるいは、今年の春闘でも見られますが、基本給は変えないと、ベアはもってのほかだと。その一方で、一時金、ボーナスのところは変更可能というようなスタイル。これを見ていきますと、どうも私は、今までの流れよりも、基本給を抑制して、一時金のところの比率を高めることによって、人件費、賃金をフレキシブルに変えていこうというような流れが、これは景気の影響だけではなくて、今後も続くのではないかと思ってます。

あるいは、失業を経験するといったときに、これもまた所得がゼロになる。さらには、個々人が今までのような会社に対して国が助成金を出して能力開発をやってくれというような、例えば雇用調整助成金制度がありましたが、これが個人の能力開発費を助成しますというような教育訓練助成金というふうに切りかえられました。

同じことがこの税制についても言えるのではないか。個人の能力開発をどういうふうに支援していくのか、サポートしていくのかというようなところで、日本の場合にはこれがあまりとられてこなかった。少なくとも能力開発のために、例えば1年休職しますとか、あるいは2年休職しますというようなことが出てきたときに、ある年、2,000万円稼いで、次の年はゼロで、平均1,000万円ですというようなことを考えると、1,000万ずつコンスタントに稼ぐほうが税制上は得になるということですよね。そういう変化が大きいということは、結果としてどうも税金が重くなることになるわけでありまして、片方で変動のところがありますが、それはあまり利用されてないということで、そういう単年度主義というものの限界があるのかなあと。

それと同時に、失業者からよく疑問に出されますのが、住民税を前年度の所得に対して支払うと。これも言われますのは、例えば失業保険をもらっても、そのうちの大部分は住民税でとられてしまうということが起こっているということでありまして、この1年のラグというものをどう考えていくのかというところ。これは失業だけではなく、退職金のところでもしばしば起こっているわけでありまして、退職金とか、退職した後、所得がゼロになったところでも、前の年の住民税を払わなくてはいかんという問題が出てくるということでありまして、ここをどう考えていくのかというのもポイントになるかなあと。

2番目として「社会階層の固定化の回避」というのがどうしても必要になり、これが自己啓発助成ということで実額控除の問題というのが起こってくるのではないかと思います。

同じことは、今度は子供、特に小さいときの保育費について、今までは一律こういった保育費というのは控除するとかいうことをやっているわけでありますが、そこについて実額の道を用意していくのかどうかということ。実額控除ということになれば問題になりますのが、源泉徴収のところを今後も続けるのか、それとも全員確定申告制度的な側面に税制を切りかえていくのかというところも議論しなくてはいけないのではないか、そういう時期になっているのではないかと思います。

特に今までのような企業と個人とが1:1の関係、一体化した関係といったものが距離を置いてというふうになったときに、この源泉徴収というものが果たして今後も継続することができるのか、あるいはこれができないような労働者層というものが広がってきているという問題はないのだろうか。

そのことは、3番目に書きました「画一的人材の画一的働き方」ということを前提にした制度から、「多様な人材の多様な働き方」、あるいは企業によっても働かせ方が多様化してきている。これは明らかに企業によってどちらの方向を人事制度上目指しているのかというのが最近大きく違ってきているということからも、そういう多様化、働き方だけではなく、企業のほうも多様化してきているということから、やはり標準世帯が失われ、それに伴ってグレーゾーン的な層というのが拡大しているように見えるということでございます。

グレーゾーンというのはどこを言っているのかということでありますが、それは労働者、仕事をする、働くということは共通なのですが、それが例えば雇用関係のもとで企業に雇われて働くというものなのか、同じ職場で働きながら、仕事を委託するという業務契約に基づいて働くのかというようなことによって、勤労所得になるのか、雑所得になるのかということが大きく違っているわけですが、かなりそこのところは意識して納税者はどうも選んでいるのではないか。

例えば、これは税制ではなくて、在職老齢年金のほうですが、在職老齢年金は勤労所得が一定額を超えると給付が受けられない。そして勤労所得において減額されますというようなことで、勤労所得ではなく、業務委託というような形で、雑所得をもらっている分には全額もらえるということがあったりすることによって、そこのところがかなりグレーゾーン的なところが広がりを見せているのではないか。

在宅就労の問題、あるいはSOHOと言われている従属的、あるいは独立的契約者の問題、そういうところでもそういったグレーゾーン的なところが起こっている。

そして、最後になりますが、兼業、あるいは副業を持つ人たちが増えてきているということ。その一方で、短時間雇用について、これは月当たりの給与が低くても、今は2カ月単位で引くのですか。この間指導を受けまして、学生の研究アシスタントについても、ちゃんと年間幾らということでなく、月々幾らの状態が2カ月以上続いたら天引きして、それで後で還付を受けるというような制度をとれと言われまして、そういうことが行われているのですが、そういうわりとグレーゾーン的なところが広がりを見せているのではないかということから、税制への対応というものが必要になっているのではないかと思います。

ちょうど時間が来ましたので、私の話は終わります。

石小委員長

ありがとうございました。大変興味ある問題点を指摘していただきました。特に最後のほう、税制についても論点を整理していただきまして、また、ご意見もいただきましたので、こういうのをベースにいたしまして、少し時間を割きまして、樋口先生にいろいろ問いかけたいと思いますが、15分ぐらい用意したいと思いますが、どうぞ、どなたでも結構ですから、質問でもいいし、ご意見でもいいし。

だれも質問しない前にちょっと事務局にお伺いしたいのは、今最後におっしゃった、2カ月以上払っていて、月収が云々で、要するにどうかというのはわかります? 今どういう形で、要するにパートタイマーみたいな短時間労働者に源泉徴収をかけているか。わからなければ、後でも結構です。

佐藤調査課長

ちょっと調べてみます。

石小委員長

では本間さん、どうぞ。

本間委員

まず、事実の点について質問させていただきたいと思いますが、労働経済学者の間には、日本のこの三種の神器という労働慣行に関して、わりと2つ対立する見解があると。つまり、この三種の神器というのは、製造業、大企業においては当てはまるけれども、非製造業等のところでは、あるいは中小企業のところでは必ずしも当てはまっていないのではないかと。したがって、スタイライズトしたファクトとして、これがどの程度、パーセンテージとして確立しているかどうかというのが、第1点、ご質問させていただきたいと思います。

基本的な認識は樋口さんと同じ見方もしているのですけれども、もう一つは、格差の拡大ということを強調されておられ、そしてそれと同時に、3のところでは「行動の変化に対応した税制の見直し(受動的税制改革)」、これはどちらかというと異同に対して中立的なメッセージというぐあいに受け取ることができるのだろうと思いますけれども、累進性という問題が実は中立性に関してかなり歪みをもたらす。例えば、今おっしゃった、2年間で2,000万稼得して、1,000万ずつ稼いだ場合と違うケースで、累進性で、実は2,000万を1年間で稼いだほうが税負担が大きくなると、こういう問題との絡みが出てくるわけで、そこはどう考えたらいいのかというのが第2番目のポイントであります。

それからもう一つ、これは税制の課題のところでありますけれども、退職金そのものをどう考えるかと。我々、長期雇用で、ご承知のとおり、退職金の扱いというのは、期間を限定して、累進的に控除を拡大するという措置をとっておるわけですが、ここら辺を一体どのように中立性との関係等で考えたらいいのか。

以上、3点ご質問させていただきたいと思います。

石小委員長

じゃ樋口さん、よろしくお願いします。

樋口教授

すこぶる難しいお話をいただきまして、まず1点目の事実関係として、製造業の大企業のみで日本型雇用慣行というのは成立しているのではないかというような、これは多くの方がご指摘になっているかと思います。確かに、日本国内を見ますと、製造業とほかの産業、あるいは大企業と中小企業の間に大きな違いが、離職率等々においてもあるし、あるいは雇用制度においてもあるということは間違いない。

ただ、ほかの企業、例えば中小企業について、日本とほかの国を比較したときにどういうような特徴があるかといいますと、離職率は、先ほど見た数字でも、日米比較のときにはほとんどの規模をカバーしている。大企業だけを比較しているものではないというようなことでありますから、その間に差があるということは間違いないのではないか。ただ、それが従来言われている日本型雇用慣行というような、三種の神器で示されるものがそのまま中小企業に当てはまるかというと、必ずしもそうではないということがあるのではないだろうかということだと思います。

同じことは、離職率以外にも給与体系、給与カーブ、年功カーブについても、やはり中小企業でも、ほかの国に比べれば賃金カーブがやはり突っ立っているというような特徴はあるのではないかと思ってます。ただ、大企業に比べればそのカーブは緩やかであるというようなことはあるだろうということだろうと思います。

2番目の格差の拡大で、このところ、累進税制をとる限りにおいては、例えば1年キャリアブレークして、2年間の総額では同じであっても、片方は1年だけ働いて2,000万円もらった、片方は1,000万円ずつ2年間コンスタントに働いたといった場合で差が出る。まさにそのとおりであるわけですが、それをどう考えるかといったときに、私は、所得税の限界がある意味では、これに頼ってやった場合の問題点というのがあるのではないかと。やはり消費税とかほかの税制のウェイト、間接税のウェイトも含めて考えていかないと、ここのところだけでこれを解決しようと思うと限界が出てきてしまうのではないかと思っています。

3番目の退職金につきましても、これはまさに企業によって、ここのところ、いろいろな制度変更が起こっていまして、ご存じのとおり、松下電器が退職金なしのコースといったものを用意しました。その退職金を月々の給与に上乗せして払うというようなことをやっているわけですが、税制上はこれは不利になってしまうというようなことがあります。

その点の問題と、それと退職金の控除額が、勤続年数に応じて比例的に上がっていくのではなくて、途中で急速に上がるという特徴がありますね。長期勤続も、20年ぐらいからですか、急速に、比例的に控除額が増えるのではなく、二次関数的にそこら辺から増えていくというようなことがあって、これは改正されたのでしたっけ。

石小委員長

いいえ。改正しなければいけないかなという問題意識を持ち出したと。

樋口教授

そういうことですか。ということは、ちょっとポータビリティ化を考えても問題かなあと思います。

石小委員長

ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。

じゃ宮島さん、どうぞ。

宮島特別委員

今日お話しいただいた労働経済学のほうではかなり厳格な定義があるのかもしれません。例えば正規、非正規とか、フルタイム、パートタイムとか、常用労働者とか。このことは、幾つか、いろいろな資格ですとかカテゴリーに当てはめるときに、社会制度的には使われることが多いのですけれども、逆にいうと、これは非常に流動化していて、グレーゾーンが大きくなるという意味が、正規、非正規というような、こういう考え方そのものが今後なくなると。いろいろなタイプのものが出てきて、そういうカテゴリーを設けて、何か社会制度としてそれを保護したり、逆にペナルティをかけるということがおかしくなるということなのか、あるいは、いろいろなものがグレーゾーン化しているけれども、ただ、やはり正規、非正規というのはきちんとして残るものだとお考えなのか、ちょっとその辺をお聞かせいただきたいと思います。

樋口教授

正規、非正規というのは、多くの場合は企業における呼称、あるいは企業における地位的な側面が、それを示すという側面があるわけですね。雇用契約とかそこでは、はっきりそれは正規と呼んでいるわけではありませんし、統計上も、企業においてどう呼んでますかというようなことに応じて分けているということがあります。

もう一つ出ました常用、これは期間の定めのない労働者、無期契約者ということで、有期雇用に対する対立用語として、これは契約上違いがある。常用に対する言葉は臨時とか日雇いということで、統計上は期間の定めのところで分けているというようなことがあります。

もう一つ大きな問題はパートという言葉ですね。パート労働者というのが何通りにも使われる場合がありまして、法律でいう、パート労働法でいうパートというのは短時間雇用者と限定されてます。ところが、そういった短時間雇用だけではなくて、労働時間の長いパートタイマーがいるという、よくわけのわからない言葉なのですが、これもまた会社における呼称で、正社員に対する対立用語としてパートという言葉が使われている場合があります。

今申し上げたところを要約しますと、やはり企業の中においてどうもこういった身分を示す言葉として使われている面があり、正社員については保障しますよと、そのかわり拘束をかけますというふうに、先ほど申し上げた日本的と言われていたもの、それが当てはまるような労働者と、片方は生活給もない、したがって生活保障はないというような労働者ですね。そこのところを分けて使うということで企業のほうが使い分けをやっているということが現状としてあるのではないか。

これが、多様化が進むと一体化になるのか、そこのところは合致してくるのかということでありますが、そこはならないのではないかなというようなことが私の、むしろ人件費を片方で削減する、例えば生活給をもうやめますと、例えば配偶者手当は廃止しますというようなことが起こってきて、そして一体化するということがありますね。

今度、去年の10月1日からパート労働法の指針の改正ということで、短時間雇用者とフルタイマー、一般労働者の間の給与の決め方について垣根を撤廃しろというような指針が出たのですね。もともと均衡要件を求めますというのはパート法には書いてあったのですが、均衡というのは一体何かというような明確なものがなかったために、今度、指針でそれを示した。そこでは給与の決め方を同じにしろということで、例えば正社員にだけ配偶者手当とか諸手当を出しますと、片方は時給で決めていきますというような、これは望ましくないというようなことで指針は出されたということがあります。

それが徹底されれば、まさに多様化で、はっきりとそこに線が引かれて、どっちというようなことではないだろうと思いますが、今のところは、やはりその間には大きな差があると考えるのではないでしょうか。

石小委員長

じゃお二人、遠藤さん、田近さんでいきましょう。

遠藤特別委員

感覚的でいいのですけれども、この三種の神器のウェイトの問題ですけれども、要するにこれまでどのぐらい、例えば全体の8割はこんなものだと、2割はそうでないところもあったというのが今5分5分になったのか、逆に4分6になったのか、その辺はどんな感じなのでしょうか。

というのは、まだ公務員の給与の決め方というのはまさにこれでいっているわけですよね。それで全体の、要するに100人以上の企業の平均給与実態を調べて勧告されているわけですから、公務員の給与の決め方というのはこれをベースにして決めているのではないかと思うのですね。そうすると、昔は8割と2割ぐらいのやつが今は7割と3割ぐらいになったのか、6割か4割ぐらいになったのか、そういうことで全体の税制度というものを変えなければいかんのかどうかということをちょっと知りたいので、大ざっぱでいいのですけれども、どのぐらいのウェイトになったか教えていただきたい。

樋口教授

すこぶる感覚的な話になってしまいますが、先ほどちょっと事務局が用意してくださった中に類似した統計があったと思いますが、そこですと、今、7割が正規ですか、3割が非正規という数字だったと思いますが、どうですかね。

遠藤特別委員

そうすると昔はどのぐらい?

樋口教授

昔は、戦後間もないころ、労働市場が緩んでいるときですね。まだ人手がたくさんあったというときには、期間工、あるいは季節労働者という形でやはりたくさんいたと思います。その後、人手不足の状況になるに従って正社員のほうを増やしていく、正社員でないと人が集まらないというようなことがあって、そこのところのウェイトが正社員のほうのウェイトが広がっていった。再び、今度は景気が悪化するに従ってこのウェイトが下がってくるというようなことが、少なくとも製造業では起こっている。

ただし、これが産業によって全然違うわけですね。例えば流通、スーパーを考えれば、スーパーの約7割はパート労働者、3割が正規労働者というようなことになっているわけで、業種によって全くこれは違うと考えたほうがよろしいのではないかなあと。

石小委員長

一言で言えないということだね、そうすると。

樋口教授

そういうことです。

石小委員長

時間が大分押してますので、じゃ田近さんで最後にします。どうぞ。短くやってください。

田近委員

一番最後の、直接的には雇用契約と請負契約のところで伺いたいのですけれども、雇用といっても、労働供給、あるいは今申し上げたように、雇用形態という意味で広くとらえて、雇用と税と社会保険、それから企業の手当、いろいろ雇用に影響を与えると思うのですけれども、質問は、税がどういう具体的な効果を持つのだろう。今日はお触れになりませんでしたけれども、専業主婦の問題とかさんざん、税の問題、103万円の議論をして、そこじゃないねと、手当の問題とか社会保険ですねということですよね。

そして、今日のポイント、請負契約のところを伺いたいのですけれども、これもやはり、在職老齢年金があるから、給与所得でもらうよりは事業所得にしたほうがいいと。そっちのサイドですよね。それからあと、お触れにならなかったのですけれども、請負契約にしてしまえば、会社は厚生年金を払わないで、個人は国民年金になりますよね。だから、それもかなり大きいと思うのです。そこの実態をご説明いただけばいいのですけれども、僕が申し上げたいのは、したがって、もちろん退職所得をどうするかとか、変動する大きな所得をどうするかというのは税プロパーの問題であると思うのですけれども、肝心な労働供給とか雇用形態に関して非常に複合的で、税がある意味で犯人というか、大きな影響を及ぼしているというよりは、むしろ社会保険のほうがそれより大きな影響を及ぼしていると考えてもいいのですかね。その点です。

樋口教授

どれが犯人かというのは非常に難しいところがありまして、例えば先ほどおっしゃった税制面について、配偶者控除の問題、これは配偶者特別控除の特に右側のところですね。103万超えたところ、あれが段階的に設けられることによって、収入の壁がなくなった。したがって、税が犯人ではないというご指摘だろうと思いますが、確かにそうなのですが、制度がそうなっているというのと労働者がそれを意識しているかどうかということですね。

いろいろパート調査を行ってみますと、年収調整をしている理由として挙げるのは、依然として税を理由に挙げる。税によって年収の壁ができていると挙げるところがありまして、理解されてないところもあります。あるいは、企業によって、この103万円とリンクして、配偶者手当を出すか出さないかというふうにやっているところがあって、そこのところのちゃんとした認識を国民のほうが持っているかどうか、あるいは働いているほうが持っているかどうかというようなことについては非常にアンビギュアスというのが私は現状ではないかと思います。

したがって、制度が変わったというのは事実なのですが、それをどこまで知っているか、認知しているかということについてはちょっとわからないということがある。

もう一つ、先ほどのディペンド・コントラクターの問題について考えますと、企業としてはそういう年金とか税制というものも考慮していると思いますが、それよりやはり大きいのは、仕事がなければ仕事を出す必要ないわけですね。ところが、雇用契約にしてしまいますと給与を払わなくてはいけない。その分だけ固定費化しているというような、そういう変動費化させたいという気持ちが基本的には大きいのではないか。それに追随して厚生年金の問題とか、あるいは税制上の問題というのが出てくるのではないかと思います。

石小委員長

どうもありがとうございました。まだ質問あるかと思いますが、もう一つ、お待ちになっていらっしゃる大久保さんのお話を聞かなければいけませんので、ここで一旦打ち切らせていただきます。

第二のスピーカー、大久保さんでございますが、現在、リクルートワークス研究所の所長で、労働政策、あるいは人材マネジメントの専門家でございまして、ご著書として、「能力を楽しむ社会」とか「新卒無業」等々のご著書がございますし、まさに今の我々が直面しているさまざまな新しい雇用形態のあり方等々についてのご研究もされておりますので、いろいろ教えていただくことがあろうかと思います。

じゃすみません、よろしくお願いします。お待たせしました。

大久保所長

リクルートワークス研究所の大久保でございます。

樋口さんのお話がありましたので、私はそれと重ならないところを選んでお話をしたいと思いますが、まず一番最初、日本の雇用慣行について1つだけお話をしておきたいと思いますが、私は、日本の雇用慣行の特徴をこう理解しておりまして、ホワイトカラーもブルーカラーも同じ制度によって、しかも業種を超えて、問わずに、一つの標準モデルで管理してきたというのが日本の特徴であると。

その一つの標準モデルは何かというと、新卒で一括で採用して、職能資格制度によって年次管理をして、よくも悪くも定年退職まで保障して追い出すという、この一つの仕組みによってやってきたのが日本の特徴ではないかと思っております。

これは大変すぐれた標準モデルでございますが、このモデルには環境上の一つの大きな制約がございまして、成長しないともたないというモデルなのです。極めて、業績が伸びなくてもコストは上がるという、高コスト構造なものですから、成長しているときにはいい仕組みなのだけれども、下り坂に入った瞬間にこれは大変欠陥だらけになってしまう、こういう仕組みでございます。

これは、少し歴史的なお話もさせていただくと、日本の中ではこのような仕組みが生まれたりつぶれたりということをかなり繰り返しております。そっくりな制度が江戸時代の中期にはありまして、いわゆる大店の奉公人というのは今のこの大企業の制度とそっくりなものを実は運用しておりました。中途採用を基本的にいたしませんので、新卒で、年期奉公として採ってきて、その中でローテーションさせながら、年次管理していって、最後、全体に新卒採用した中の5%ぐらいがいわゆる番頭職という役員相当のところに上り詰めていくという、こういう仕組みなのです。タイムカードもありましたし、退職金という制度もありましたし、ほとんどそっくりな仕組みができ上がっていたのです。

これもかなりすぐれたモデルでございまして、大変よかったのですが、江戸も末期になると経済が下り坂に入りまして、その途端に耐え切れなくなりまして、多くの大店がそのままつぶれてしまいました。

三井とか、一部、この仕組みを自ら壊して、中途採用比率を高めた大店がありまして、この中途採用者が明治の新しい世に対応する企業経営の仕組みを作って生き残ったところが出てきたと、こういう経緯がございます。

明治時代になりますと、大流動化社会になります。とにかくやめると。このときは技量賃金制度というのが大体とられていて、スキルの高い人は、どんどん一個当たり単価の高い給与をつけて、どんどんこっちに来い、こっちに来いと引き合いをずっとやり続けた。ですから、非正規労働が圧倒的に中心で、もともと雇われている人が3割ぐらいしかいなかったのです。しかも、雇われている3割も大変そういうような成果主義の、完全成果主義に近いような制度でありましたので、いわば安定しない労働社会であったということが言えると思います。

それが少しまた変わって、少し安定を見せ始めるのは大正に入ってからでございます。大正9年に「社員」という言葉が使われ始めました。これはカネボウの社長さんがもともと株主を指す言葉であった「社員」というのを従業員を呼びかけるときに使ったことが始まりであるとされてますが、それから会社というのは、従業員主権ということでしょうか、「社員」という言葉が一般的に使われるようになりました。

この「社員」というのは、戦前においてホワイトカラーを指していたのですが、戦争が終わると、これをいわゆる職人、つまり、ブルーカラーも含めて一つの「社員」という言葉で呼ぶようになりまして、先ほど申し上げたとおり、一本化されたわけであります。ですから、この「社員」というものが戦後ずっと比率を高めていって、先ほどご指摘のあったとおり、明治時代には3割ぐらいの雇い人だったものが非常に高い雇用者比率になっていった。正社員も雇用者比率の中で9割から八十数%という時代が続き、そしてそれが急速に六十数%まで落ちてきたというのがこの数年のことでございます。

実はもう一つ、正社員とは何かということですけれども、もともとは「正社員」という言葉はございませんで、普通に「社員」と呼ばれていたのですが、これは戦後、昭和20年代後半になりまして、出稼ぎで来ている人たちを「臨時社員」と呼んだのですね。この臨時社員の中で出稼ぎで帰るのではなくて、そのままその会社に働き続けたいという人たちを労働組合が非臨時社員の正規社員登用問題という形で組合運動を起こしたところから、そこで「正規社員」という言葉が生まれ、「正社員」となったと言われております。

過去の新聞の案内広告を戦後全部見たら、そういう暇なことをやったのですけれども、昭和29年に初めて「正社員」という言葉が新聞に登場いたしますが、まさしくそのあたりから言葉としては生まれてきたのではないか。

この正社員というものに付随する言葉として、身分としての「パートタイマー」というのが生まれてきたと思ってまして、これも実はちょうど50年前に、八重洲にあります大丸百貨店が「パートタイマー」という言葉を使い始めたと言われてますが、つまり、これで「正社員」「パートタイマー」ともに、ちょうど50年の歴史がたっているということになるわけですけれども、こういう正社員中心の仕組みというものによって、先ほど言った標準化モデルというのは、正社員という概念によって作られている標準的なモデルだと思うのですが、こういうものによって戦後ずっとやってきたのだろうと思うわけです。

どうもこの成長が鈍化して、将来先々、業績が伸びると思えなくなってきたので、また、いつか来た道で、これはどうもおかしいのではないかということになってきたわけです。

先ほど樋口さんのご指摘にもありましたけれども、ずっと一貫してこれは正当化されてきたわけではなくて、例えばオイルショックの直後なんかは、これはおかしいということが新聞で書かれたりした時期もありましたが、比較的短い時間にまた成長回復基調に入りましたので、その議論は消えてしまったということだろうと思っております。

ですから、そういうことで繰り返しをしている、極めて日本では出たり入ったりしているようなモデルで、いわば特徴は、標準化されている一つの働き方に相当多くのシェアを占めているということが日本の特徴だろうと私は思っています。

実はそれが揺らぎ始めているというのは、さっき言った高コスト構造だからなのですが、とりわけ入り口にある新卒一括採用というのが大分怪しくなってきております。何度かご指摘のあった、1997年から1998年に変化があったようだという話は、この新卒採用の話とも大変通じるところがございまして、実は1997年をもって就職協定が廃止になっているのですね。それまで新卒採用というのは本音と建前を使い分ける、企業側によっては都合いい採用制度でございまして、非常に効率的に大量の人材、優秀な人材を一括で採用できたのです。

ところが、就職協定が廃止になったことによって採用効率が極端に落ちたのですね。これは自ら早期化して採用効率を落としていったということもできるのですが、そういうことも含めて、どうも新卒というものの合理性が少し揺らいできている。現在でも、新卒採用はそこそこの数、行われておりますが、各企業の議論を聞いてみますと、それぞれの企業の経営、役員会の中では、すぐに戦力にならない、つまり、投資としての労働力である新卒をたくさん採る必要はないではないかという議論がどこの企業でも行われていると思います。

また、現場からは、成果主義が導入されて、今期の業績を求められているときに、今期の戦力にならない新卒を配属されても困ると、即戦力になる人間をくれという要望が人事部に大変寄せられておりまして、いわば経営者からも現場からも挟み撃ちに遭っている中で新卒採用をやり続けている、そのリーダーシップをとっているのが人事部門だということが現実だろうと思います。だから、この新卒一括採用というものが随分揺らぎが起こっている。

年次管理で職能資格制度で持っていくということなのですが、職能資格制度は、これは日経連の調査でもそうですが、一時期、八十数%の日本企業が採用しているという状態になっていたようですが、職能資格制度を最近は捨てる企業も出てきましたし、職能制度は維持するけれども、そこに成果要素の比率を高めていって変容させていくという行動をとっている企業も増えてまいりました。

それによってだんだん、年次とともに能力も高まっていくし、年次とともに給料も高くなっているという構造ではなくなってきている。さらに最近では30代前半で抜擢をして次のリーダーを育てるというような行動をとる企業が出てきましたので、だんだんこの年次構造というのが崩れてきている。つまり、三種の神器と言われる中で対応すると、年功序列という概念がとりあえず一番最初に崩れてきているということではないかと思います。

定年退職に関しても、もちろん、今、定年退職制度、法律で決められてあるわけですけれども、今、定年退職する人の4人に1人が早期定年退職と言われる制度による人たちでございます。前倒しで、退職金を割増しでもらうという辞め方をする人たちでありまして、平均的な勤続年数が10年弱であることも含めて考えると、実は満額勤めて定年退職する人の比率というのは結構低いということが現状でも言えるのではないかと思います。

さて、その中で、今言いました正社員という問題ですね。この正社員というのは、もともとあまり明確な定義があるものではございませんで、慣行として使われていた言葉でございます。行政的に使うのも随分後になってからで、例えば就業構造基本調査などで、正規社員、正規職員なんていう言葉を使って分類するようになったのはわりと最近の話でございまして、もともとは慣行的に、定義されずに使われてきた言葉でございます。

この正社員というのに対して、どうも正社員でない非正社員という人たちを多くの企業が比率を高めてくるようになった。なぜかと。理由は明確にあると思いますが、1つは、日本では正社員の解雇の問題が大変厳しく規制をされておりますので、状況変化に非常に対応しづらい、柔軟性が低いということで、先行きに見通しが立たなければ正社員の比率を高めておくことはできないというのが一つの理由だと思います。2つ目は、業種がサービス産業化、サービス経済化しておりまして、365日、24時間対応しなければいけないような、こういうビジネスになってきた。そうすると、その中には当然ながらオフもあればピークもある。これをすべて正社員で対応するということは現実的でないわけですね。そこでもう必然的に非正規というのを戦力化せざるを得なくなった。もう一つは、当然ながら、人件費の削減ということであります。こういう3つの要素が拍車をかけて、主に企業行動の変化によって非正規というものが増えてきたわけであります。

ところが、ちょっと図1というのを見ていただくとわかるのですが、非正規をたくさん使っている企業のほうが売上高の伸び率とか利益の伸び率が高いという相関関係がありまして、つまり、この非正規をうまく活用するということは企業にとっても正当化される、つまり、非常に合理的な行動であるということが、数字を見ていただくとわかると思うのですが、こういう形で非正規をどんどん使ってきている。

最近は正社員という言葉を使うのをやめようということを考えている企業が大分増えてまいりました。これはもう当然の話だと思いますね。なぜなら、非正規と呼ばれてうれしい人はあまりいないと思うのですけれども(笑)、非正規の人をうまく生かしたいと思ったら、そのときは非正規と呼ばないほうがいいに決まっているわけであって、当然、そこについては企業の中でも言葉が変化をしてきております。

例えば流通業なんかで最近非常に大きなトレンドになっているのは、正社員と非社員を同じモデルの職能体系に位置づけて、転勤ができる人か転勤ができない人かで分けてモデルを作るように、つまり、従来の正社員とパートはもう一緒にしてしまって分け直すという、こういったことも出てきているわけであります。

企業にとってその中で、正社員以外には、いわゆる有期雇用契約である契約社員、これも導入している企業が74%あります。そして、7割ぐらいの企業がパート、アルバイトの活用をしております。派遣、これは66%。そのほかに、これは後ほどもう少し詳しく述べたいと思いますが、個人に対して業務委託をして仕事をしてもらうという比率が大変増えてきている。ここは大変大きな特徴ではないかと思います。

もう一つ、企業の人材マネジメントの変化の特徴については、やはり教育の問題。先ほどから、底上げから選抜型に、あるいは企業責任から個人主導型にという変化がありましたが、企業が今熱心に育成にお金をかけてやっているのは、ターゲットは2つです。1つは新人、もう一つは、先ほど言った次のリーダーになる人たちですね。次世代リーダーの人たちを選抜して、そこに教育投資をする。この2つのところにかなり比重をかけて教育投資を行っている。かなり傾斜的に配分しているわけですね。

ここで気になることは、全体として非正規が増えてきています。そして正社員の比率が減ってきています。正社員の中で、新人とか、あるいは早期選抜されるような人材については教育投資されるけれども、そうでない人たちについては、企業は教育投資をあまりしていないということになるわけです。

つまり、社会全体で見れば、企業の中のごく一部のターゲットの人だけが要するに企業主導の教育の恩恵を受けている人たちであって、そうでない人が大変増えてきているということが、この企業人事の行動からは懸念材料として受け取れるかと思います。

続いて労働者の側の変化についてももう一つ申し上げておきたいと思いますが、実は典型的な正社員というものが概念的に揺らいでいくことに対応して、働く側の意識も随分と変わってきております。それは何かというと、特に若年の人たちに関してですが、まず、仕事をすることの目的、意味が変化してきておりまして、従来のように、仕事をすることによって生活の収入を得て安定させるという比率が目的の中から随分低くなってきてまして、自分の成長のために仕事をするのだという仕事観が大変大きくなってきております。これは統計をとると、収入に対しては低いこだわりで、自分のやりたくない仕事が幾ら給料が高いからといってやりたくないというような回答が、特に20代前半においては非常に大きな数字となって出てまいります。

そしてまた、先ほど正社員と申し上げましたが、サラリーマンというものに対するマイナスイメージが中・高校生を中心に大変広がっております。サラリーマンのイメージは何かというと、上司にペコペコしている。働き過ぎていつも疲れている。そして、最後はリストラされると(笑)、こういうイメージが大変強い。このようなイメージをマスコミとバイト先の正社員と父親から大体得ていると、こういうことになるわけですが、ですから、サラリーマンというものが将来のなりたい像の中に入ってこないのですね。

図8のところに子供たちが将来なりたいものが書いてあるわけですが、日本のものは第一生命さんが調査しているものですが、日本では将来なりたいものにサラリーマンというのが1991年をもってランキングから消えて、その後二度と出てきておりません(笑)。ところが、アメリカは2004年のものでも、1位にビジネスパーソンと来ているわけけですね。これは随分と職業に対するイメージの違いがあるのではないかと思います。

つまり、いい学校を卒業していい企業に就職するという典型的な成功モデルというのが全然成功モデルではなくなってきているということで、つまり、目標の持っていきどころを子供たちはどこにしたらいいのかということがわからなくなってきている。じゃサラリーマンでなければ自分で会社をやろうという起業家になろうという人たちが増えているかというと、実はそんなことはありません。志向としては、理想の職業は学者とか、あるいは公務員が増えてますね。ある調査会社の調査によりますと、日本の高校生の公務員志望率は中国の高校生よりも高いそうですが(笑)、そういうことが起こっている。

このあたり、やはり就業観の変化、つまり、旧来の標準的なモデルに対しての疑問というのが若い人たちの間に出てきているというのが一つのポイントかと思います。

そして、労働形態の多様化の中で1つ申し上げておきたいと思いますが、先ほども少し触れました、業務委託者が大変増えているという問題について申し上げておきたいと思います。これはもう正規雇用、非正規雇用の枠の外ですね。雇用されていないわけですから。業務委託契約によって仕事をしている。特に業務委託契約の中でも専属的に一つの企業と契約を結んで仕事をしている人というのが増えてきております。

図11に、これは経済産業省でやりました人材ニーズ調査の結果がありますが、平成11年と15年を比べた場合に、全産業平均で見ると、業務委託のニーズというのは、44万4,000人というニーズだったものが、15年には69万人に求人が増えております。56%増。とりわけ卸、小売とか、サービスにおいて、つまり、顧客設定にはサービスの現場を担う人たちを業務委託で活用していくという傾向が出てきているわけです。今後さらにサービス業化していくことを考えると、この業務委託という方法を採用して人材活用していくウェイトはさらに高くなっていくだろうと思うわけであります。

この人たちはサラリーマンの延長線上でたまたま業務委託という職を得ている人たちなので、企業志向とはちょっと違います。ですから、将来、法人化しようという志向も比較的低い人たちでありまして、一つの働き方としてそういうものを選んでいるということが言えようかと思います。

また、一つの仕事だけではなくて副業を持つという人たちも大変多いわけでありまして、副業を現在持っているというのは全体の6%ぐらいですが、今後持ちたいという人も、これは図12にありますが、18%程度おりまして、そういうような形で、一つの仕事でなく、2つ以上の仕事をやる、こういったような人たちが増えていくのではないかと思います。

これも引き金は、収入を補てんしたいということでありまして、収入源1つでは十分な収入が得れないのでということで、副業をする。最近は週末起業といったようなものも売れているようでありますが、そういったことですね。あるいは、昼間は会社に普通に勤務していて、夜は別のアルバイトをするという、ムーンライターと言うそうですが、こういう人たちも増えているわけでありまして、だんだん、一人の人が一つの雇用をされて勤務するという、一つの仕事をするという、この概念も随分変わり始めてきているのではないかと私は思っております。

そして、ちょっともう一回整理する形で、3ページ目になりますが、このような変化が生み出す課題とは何なのだろうかということを3つに整理しております。1つは、先ほどちょっと指摘いたしましたが、社会に出ると、教育とか人材育成というのはもっぱら企業に任せるというのがこれまでのものだったのですけれども、どうも企業に任せると全体の就業者のうちのごく一部しか対象にならなさそうだということが出てきたわけであります。そうすると、企業内人材育成だけではなかなか難しくて、もう少し社会的な人材育成をどうやるかということを考えざるを得なくなってくる。こういったことがあるのだと思います。

これは実は日本だけの悩みではございませんで、世界各国先進国、同じ問題にぶつかっております。そのために、ここに関する制度はかなり試行錯誤をどの国もしているようであります。

例えばイギリスでは、個人主導の学習を支援するために、学習口座という専門の口座を作って、この口座に対しては税制的な優遇措置をとるということをやっているようですが、なかなか悪用する人も多くてうまくいってないということも聞いております。

あるいはスウェーデンでは、個人が給与の一部を自己の学習投資用にストックしたものに対して、会社がそこに同じ金額を入れてプールしてあげるということに対して優遇する措置があるように聞いてますが、これもなかなか空回りしているところがあるようであります。

一方、税の中でこれを何とかしようという動きも出てきておりまして、アメリカの州税の中ですが、失業給付、失業保険の料率を少し下げて、その分だけ別途税として徴収して、雇用訓練税というようなものですけれども、そういうものでお金をプールして、企業の中では十分にやり切れない教育をやろうとか、あるいは熱心に教育をやる企業に対して助成をしようとか、こういったものがあるそうであります。これはカリフォルニア州が先頭を切って始めて、アメリカの10の州で今運用されているそうでありますが、これについても実は賛否両論が大分あるようであります。

また、今ホットなところでいくとドイツが大もめにもめておりまして、旧来のデュアルシステムというものが大分ガタガタになってきておりまして、デュアルシステムというのは、教育の最後の段階で企業に体験的に就業して並行的にやるわけですけれども、受け入れる企業が非常に少なくなってきてまして、デュアルで行ける場が用意されなくなってしまったのですね。それに対して、これは困ったと、じゃ場の用意できない企業は職業訓練賦課金という一種のペナルティのようなものを払ってくれと。それをファンドに積み上げて教育の場を用意しようではないかという議論がされているところですが、これは今の現政権と経済界の間で大もめにもめているそうでありますが、そのように、どこまで企業に任せておけばいいのか、どうも任せ切れないからどこかやらなければいけないのではないかと、その財源はどうするのだと、こういったことがかなりどこでもテーマになっているようであります。

また、イギリスで、これはEUの中で成功モデルと呼ばれているものがあって、ブレアさんの労働党政権が97年のマニフェストに書き込んで実現したもので、ラーン・ダイレクトというものがあります。これは公設民営のネット上の総合教育システムでございまして、民営化されてやっているのですが、これは全国に8,000カ所の学習センターを、フランチャイズ契約をして、イギリス中の企業と教育機関から集めた学習プログラムをそこを通じて提供している。それを受ける個人に対してファンドで支援するというのをやっているそうでありますが、それぞれの国がそれぞれのやり方でどうも工夫しているということのようであります。

2つ目のポイントは、全体に非正規労働というのは大変低所得のものでございまして、これが生活構造に与える影響、あるいは社会制度に与える影響は大変大きいということではないかと思います。

図15をちょっと見ていただきたいのですが、これは勤続を1年以上続けている人たちを対象に、雇用形態で平均の年収を見たものでございます。これを見ると、パートタイマーの平均は110万円、フリーターの平均は190万円、そして派遣の平均は289万円という数字が出ております。よくフリーターは将来どうなるのだという議論がされるわけでありますが、フルタイムで働いているフリーターの年収が190万円。190万円のフリーターと190万円のフリーターが結婚すると、そこに380万円の世帯が生まれるのですが、この380万円というのはなかなか微妙な数字でございまして、何とか生活できるという数字なわけです。

ところが、この380万円の家計というのは、もし子供を作りたいと思ったときには大変大きな問題に直面してしまうわけで、片方がその瞬間に仕事を続けられなくなってしまいますので、ここに大きな問題が存在する。つまり、フリーター社会というのは少子化を加速化してしまうのではないか、あるいは家庭そのものに対する課税の概念も、どうも今までの正社員で考えたときと随分違うものになるのではないかと、こんなことが懸念されるわけであります。

そしてまた、非正規というのは、一つの仕事について、やめて、また仕事を探して、また就くということになりますから、つまり、失業と就業というのを繰り返していくような傾向があるわけです。そうすると、先ほど樋口さんもご指摘になったように、住民税の問題も含めて、どうも継続的に働くということとは折り合わないような制度も世の中にはたくさんあるのではないかと、こういうことが言えるのではないかと思います。

それから3点目ですが、これは最後ですけれども、先ほど、個人の業務委託者が急拡大をしているというお話を申し上げたわけですが、長らく、日本ではサラリーマン化が進み、自営業の比率がずっと下がってきたわけです。自営業の比率が下がっていくというのは、農業をやる人や商店をやる人、町工場をやる人たちが減ってきたことによって下がってきたのですが、別の形で、個人業務委託という、個人事業主という、今までとは違う形の自営業といいますか、が出てき始めている、つまり、増え始めている。このことに関して見ておく必要があるだろうと思っております。つまり、雇われないという働き方ですね。これはこれまで、これは税制も含めてでしょうけれども、要するに企業というものを通じて見たものから、企業管理ではここのところがつかまえ切れなくなっていくと、こういう問題があるわけであります。

業務委託者、個人事業主の人たちというのは主に正社員の経験を経て独立している人が多いので、基本的に税のことについてほとんど知らないという状態でありまして、急遽、今、確定申告の時期ですが、このセミナーに皆さん、盛況で、参加していると、そんなような状況だと聞いておりますし、そもそも源泉徴収になじむものかどうかということも、大変この個人業務委託が多様化しておりますので、よくわからなくなってきて、つまり、現場の混乱はかなりあるのだと聞いております。

また、その周辺の話題ですけれども、委任と請負も大分混同しておりまして、これは印紙にかかわるものなのかどうかということも実ははっきりしない。しかも契約書を結ばないでやっているケースも相当多いということで、この辺が非常にグレーゾーンが広がってきていると言えると思います。

また、個人事業主の、これはサービス系個人事業主ですけれども、図17にあるとおり、平均的な年間の売上高が799万円しかないわけですね。かなり年間売り上げが低いわけですね。これは売り上げですから、ここから経費も当然とるということでしょうけれども、そうなってくると、益税問題なんかについても少しクローズアップされてくるところが出てくるだろうと思います。

また、先ほど言った副業の取り扱いみたいなものについても、2つ以上の仕事をしている人たちに対してどういうふうな形で全体カバレッジしていくのだろうか。今、サラリーマンをやりながら副業をやるときは、開業届けを出さない人も多いし、出そうと思ってもあまり受理しないケースが多いようですけれども、このあたりの問題をどうしていくのかということもあるかもしれません。

こういうような個人事業主としてやっていく人たちに対してどういう社会制度を当てはめていくのかということですね。これが拡大していけば、一つの大きな課題になってくるかもしれない。つまり、米国等にありますように、個人事業主が集まって一つの組織を作るようなものに対して、何か法人化の枠を作っておくとか、こういったことも出てくるのかもしれませんが、これは想定できないことも多々ありまして、いわばこういう問題に対してどうするのかと、このあたり、構造的にかなり議論が必要になってくるのではないかと感じております。

以上で一旦終わらせていただきます。

石小委員長

ありがとうございました。大変興味あるお話をいただきました。我々が検討しなければならないさまざまな問題があるように実感されたと思いますが、若干時間をとりまして、大久保さんのお話に対していろいろ質疑等々と思いますが、いかがでしょうか。

秋山さんなんか、どうですか、実際にやられた感覚から言うと。

秋山委員

今、大久保さんのお話を伺いまして、まさに就労を取り巻く構造変化の最前線にいる現場の者として、ご質問というより、少しサンプルケースのご紹介というようなことで、私自身が、ここに書かれてますように、正社員経験を経て独立をしたクチなのですけれども、今ハイテクの分野の、なおかつコテコテの製造業という会社をやっております。会社が伸びてくると、経済産業省あたりから、早くホンダとかソニーみたいになれなれというプレッシャーがなかなか厳しいのですけれども、じゃその現場で雇用という面で何が起きているかと。

私どものケースでは、当然、最初は人が集まりませんので、中途採用を中心に人を採用します。会社の成長に伴って人手がいつも足りない状態で困りますので、結局、外国人、優秀な中国人のソフトウエアエンジニア、それから子育て中の非常に優秀な女性の契約社員、果ては有名な製造業の工場を経験された、定年退職された方を私どものほうで正社員として改めて再雇用するというようなケース、あるいは、独立された方で、ぜひとも仕事を手伝ってもらいたいという方にやはり業務委託のような方をお願いしていたり、あるいは、私どもの工場で機械の組立作業にパートを募集すると、若い男性が意外と集まるのですね。いわゆるフリーターと呼ばれる人。

そういう意味ではまさにいろんなパターンのるつぼのような人たちを抱えてやっていると、やはり一件一件、一つ一つは非常に細かいものなのですけれども、例えばもう年金を受け取るような段階になっている方に対して、給料をどういう水準にしてどういうふうにするのがお互いに一番いいのか、あるいは中国人のソフトウエアエンジニアなんかは、どうせもらえないとわかっている年金をなぜ払わないといけないのだと、私は払いたくありませんなんてきっぱり言われたりしたときに何と説得したらいいのか。

そういうようなところを経験してますと、基本的には、今、変質というより、間違いなく多様化というものが起きていると。そうであれば、一つの大きな流れとしては、個人ベースで見ていかざるを得ないのだろうなというのが、まず1つ、現場の実感です。その個人ベースの意味は、一人一人の個人から見たときに、ライフサイクルの中でいろんなチョイスがあると。それから企業から見たときに、それぞれの人にチョイスがあることで、我々から見たときにもチョイスがあるということが、マクロで見ると失業率が上がったりとか、あるいは雇用のミスマッチの問題が言われている中で、個別では、実は解決策がそこにあると思われるケースも非常にあると実感しております。

石小委員長

ありがとうございました。コメントかサゼッションか、何かございますか。

大久保所長

サゼッションではないですけれども、先ほど、日本の雇用モデルが随分変化していると。つまり、標準的なものが崩れてきていると申し上げたのですが、多くの企業が今戦っているのは、新しい標準モデルに行き着くのか、それとも完全にもう個別人事管理の世界にいってしまうのかということをせめぎ合っている。どうも個別人事管理がよさそうなのだけれども、これはマネジメントコストがあまりにもかかり過ぎるので、できれば何か標準が欲しいと、こういう状況にあるのが今の実態ではないかなと思いますね。

石小委員長

どのぐらいかかりますか。決着するまでに。

大久保所長

わかりません(笑)。

石小委員長

どうぞほかに。

松永さん。

松永特別委員

フリーターがやはりここまで増えてきていて、先ほどのお話で、新入社員とかになれば企業から教育訓練を受けられるけれども、そういう教育訓練の機会がなくなってくると、本当に日本は人材が資本であって資源であったものがどんどんその資源価値というか、資源が少なくなっていく。これは大変ゆゆしきことではないかと思います。

でも、そのフリーターの中に多分いろいろなタイプがあると思っていまして、これも感覚値で結構なのですが、本当に教育訓練らしきものを受けられている層と、もう本当に使い走りみたいな形でという、その辺の割合はどういうふうに考えていらっしゃるのか。

それともう一つ、職業能力を高める仕組みというところで、ここは財務省で、決して労働経済ではないのですけれども、その辺でちょっとご示唆いただければと思います。

大久保所長

まず、1つ、フリーターと言ってもみんな同じではなくて、かなり多様なフリーターがいるわけです。正社員とほとんど同じ力量を持っていると思われるフリーターが全体のフリーターの中で1割弱ぐらいいると言われています。つまり、この人たちは好き好んで正社員にならずにフリーターというスタイルを選んでいる人たち。4割ぐらい、フルタイムで働いている。つまり、わりと継続的に働く、2年3年と継続に働くフリーターのイメージの人たちが4割方いる。残り5割の人たちは、あまりフルタイムではなく、パートタイム的であったりとか、時には日雇い労働的に働く人たちというふうに大きく、働き方で3層に分かれているのではないかと。

その1割の人たちについては、多くの企業ではそれなりの教育の恩恵を受けているのではないかと思うのですが、残りの4割5割の人たちはともに、さほどの教育システムが整ってなくて、恩恵を受けてないようです。逆に、そのところに関して教育システムを用意している会社が優秀なフリーターを採用できるということで、教育システムを持っている企業がフリーターを戦力化し、そうでないところがフリーターを使い捨てるという、そういう構造になっているのではないかと私は理解をしております。

それから能力を高める仕組みの問題については、実はこれは企業がそこに教育投資をするか否かという問題だけではなくて、企業がだんだんみずから教育ができなくなってきている、そういうことを打ち明ける企業が多いのです。つまり、どんどん知識が変化していったりするので、必ずしも先輩が教えられるという状態ではないのですね。つまり、自分で築いてもらうか、どこかに学びに行ってもらうかするしかない。しかも、外にアウトソーシングしてますから、企業だけでしか通用しない知識というのはあまり抱え込んでおくと効率が悪いわけですね。なるべく一般的な知識でやったほうがいい。

そういう意味でいくと、一個一個の会社で教育をするよりも、みんなで教育したほうが効率的ではないかという合理性が出てくるのですね。それを今どこかに共通するフレームが欲しいのだけれども、大学はどうもそれを受けとめる条件にはまだいっていないので……。

石小委員長

能力ないですなあ(笑)。

大久保所長

だから、そこが空洞化して試行錯誤しているという状態だろうと思います。一部の企業では、企業内に大学を作ってみたりとか、あるいは、先ほどのお話ではありませんが、高齢者の人たちでも十分に教えられる領域もありますので、本当に高齢者を先生にして現場で一緒に指導させたりとかいうことをやっている企業も出てきているわけですけれども、非常にここはもう試行錯誤している状態、どうしたらいいのだろうと本当にみんなが考えている状態ではないかと思いますね。

石小委員長

ほかにどうですか。

どうぞ、本間さん。

本間委員

非常に興味深いお話を伺いまして、新しい仕事をクリエイトしていくためにサゼッションが多かったのですけれども、これまで日本の長期雇用のメリットというのは幾つかあるのだと思うのです。長期的な雇用によってアキュムレーション、つまり、習熟とか習得のラ-ニング・バイ・ドゥーイングが働くという問題。それからもう一つは、仲よしクラブ的にきちんと仕事を一緒にしていくことによって、チームプロダクション的な形で生産性を上げていくという部分。それからもう一つは、一人の個人として総合職的な形で、部分部分だけで押さえるのではなく、全体をよくわかっているがゆえに、トータルなそのシステムとしてのコーディネーションに役立っていると。

おそらくこれが非常に大きな要因で、メリットとして挙げられるのだろうと思いますが、これが破壊されていく要因というのは一体何かということを考えると、1つは、これは製造業から非製造業へのウェイトが大きく変わって、その対象になる部分のところが小さくなってきつつある。したがって、ドミナントのところ、メインの部分のところは非常に流動化して、そういうような問題が起こっている、こういう理解の仕方。

それからもう一つは、おそらく、技術がデジタル化していく中でモジュール化ができるような形になって、そして技術がもたらす労働の質というものがかなり変わってきて、例えば事務能力1つとってみても、IT化によって若い人のほうが高い生産性を発揮し得るような状況というものが起こってきている。この技術能力破壊というのがおそらく今までのシステムに対して大きなインパクトをもたらしているのではないかと。

こういうようなことを考えていきますと、おそらく処方せんというのは、一方で最近は、例えばシャープのように、先端的な知財対策等において国内に温存すると。これはモジュール化できない総合力というものを日本国内で保持して、戦略的に国際的競争力というものを、価格転嫁力がある、あるいは技術の独自性があるという形で、そのメリットというものを維持していこうと、こういう部分が一部分では存在しているわけですね。したがって、労働を受容する側から見て、一体今のお話というのはどういうような方向性というものとして理解すればよいか、ちょっと教えていただきたいと思います。

大久保所長

今の3つのもともとお分けになったものがあって、1つは、習熟という問題に関しては、これは大変混乱しているわけで、習熟のメリットがないものが結構多くなってきたわけですね。ITが代表的なもので、むしろ習熟するとおくれていることになってしまうわけで。それに対して、例えば製造業の一部なんかはやはり習熟というものが非常に重要な要素の部分はあるわけです。この2つが両方あって、大変混乱している。つまり、本当にすべてが習熟ではないという状態をどう変えていって、習熟するものと習熟ないものに分けていくという作業を実は今しているのではないかと思います。

2つ目のチームプロダクションというのは大変重要な要素で、これが最も実は長期継続雇用のメリットであり、また強みであったと私は思うのですが、これを安易な成果主義の導入でかなり失ってしまったのではないかと。逆にいうと、今、成果主義が失敗している会社が大変多くて、そういう成果主義の失敗を見て、やはり日本的雇用がいいのだと言っている人もいるわけですけれども、ちょっとここは複雑な問題で、そういう単純な関係でもなさそうだというのが2点目。

それから総合的に統合してものを見ていくという力、大変これまた重要なことなのですが、ここでもちょっと誤解がありまして、いろんな組織をローテーションしていけば総合力がつくというわけではないということはもう一回考えなければいけないと。つまり、単純に専門性がない部長さんを作るということと、統合力ある人を作るということは別ものだということに最近みんな気がつき始めてきて、じゃ統合力を作るためにはどうしたらいいかということについて、先ほどの、比較的早期選抜でしっかりそれをサポートするようなことをやっていくという動きが出てきているということですね。そういうそれぞれの要素が大分試行錯誤したりとか、整理されき始めているということだと思います。

石小委員長

時間が過ぎたのですけれども、もう一つぐらい、もしかあれば。

じゃ奥野さんで最後にしたいと思います。どうぞ。

奥野委員

大分今まで議論されていたことに関連するのですが、一説によると、といいますか、私自身もそう思っているのですが、21世紀になって、企業が生み出す付加価値というのが、今までは物的資本が非常に生み出していたわけですが、それが今後は非常に人的資本に負うものが増えてくるだろうという話になっているわけですね。そうしますと、今までであれば、いわば物的な投資に資源を回すということが国力の上昇にもつながっていたわけだけれども、今後はそうでなくて人的な投資にお金を回すということが非常に重要になってくるだろうと。

他方で、しかし、その人的投資をいわば、今までだったら企業に任していたのだけれども、それがそうではどうもうまくいかなくて個人にいくのだろうと。個人に人的投資をさせるような仕組みをいかに、あるいはインセンティブをどうつけていくのか、そこが多分問われているのかなあと思うのですが、ただ、普通それを個人でやってしまうと、現状だと個人の所得税というものが非常に累進になっているので、成功した人から非常にたくさんお金をとってしまう。そうすると、何のために人的投資をしたのかということにも一方ではなりかねない。

他方では、ある種のチーム生産的なメリットとか、あるいは企業熟練とまでいくかどうかわかりませんが、関係熟練といいますか、まさにチームに一緒にいることによって生産性が上がるという面もあるでしょうから、それからさっき本間さんが言ったモジュール的な話みたいな、企業の再編なんか、いろいろ自由にできるような仕組みもできてくる。

そこまで考えて、そのあたり、よくわかっていないので教えていただきたいのですが、一つの可能性としては、個人がもう少し業務委託みたいな形になって、それが非常に小規模な企業みたいなもので、それが場合によったらモジュールみたいな形で、業務委託で大企業に使われる。そういう形で、いわば法人のほうにきちんと税制なんかを考えてインセンティブをつけていったらいいのか。やはりそうではなくて、個人にきちんとつけていったほうがいいのか。そうでしたら個人の税制できちんと対応すべきなのだろうと思いますが、あるいは両方必要なのか、そこら辺についてちょっと教えていただければと思います。

大久保所長

先ほどの議論とも少し重なるのですが、やはり流れとしては、ある程度個人にせざるを得ないのだと思いますね。ただ、個人にすることの難しさとか生産性の低さとかいう問題が常につきまとうので、結構これはハンドルを切るのに勇気の要る話だとまず思います。

特にまた人的資本、さっき投資の話があったのですけれども、例えば人的投資を促進するためにと言って個人を支援しようとすると、個人は自分自身に対して投資の失敗をしてしまうのですね。つまり、何の能力を高めたら売れるかということをわからない個人が自分に投資して回収できなくなってしまうという問題があって、この問題をどう解決するのかということがあります。

企業の側も、全体的には人的投資することが企業の長期的利益につながるとイメージとしては思っているのですが、どうも投資したものの成果が測られないので、心もとなくてしようがないわけですね。ですから、そういう能力を測る、能力を測定する基準がない中で言うと、この人的投資の論点は空論に終わってしまっているというのが現状だと思います。

石小委員長

さて、予定した時間を過ぎてしまいました。お二人の先生から大変貴重なお話を聞いたと思います。

佐藤調査課長

会長、1つだけ。宿題としていただいた点。

石小委員長

どうぞ。

佐藤調査課長

所得税に係る源泉徴収の話でございますが、給料のもらい方によりまして変わってございますが、いわゆる月給でもらう場合には、8万7,000円以上は源泉徴収がかかってくるということですが、例えば日雇いといいますか、日給でもらうというようなケースの場合には、9,300円未満であれば源泉徴収はかからないということなのですが、ただ、それが例えば2カ月を超えて継続的に日給でもらっているという場合には源泉徴収がかかってくるというような整理になっておりますので、先ほどの先生のお話はその最後のケースに当たるのかなあと思いますが。

石小委員長

ありがとうございました。そういうことですか。それをくぐり抜けて個人業務委託なんていうのをやるのでしょうな、きっと。

それでは、今日はお二人の先生、ありがとうございました。大変貴重なお話を聞いたと思います。

3月は、2回、同じようにヒアリングしたいと思いますが、3月16日、2時から、価値観とライフスタイルにつきまして、またしかるべき講師をお招きします。これが第1回目。それから3月30日火曜日ですが、今度は所得分配について、いろいろ問題ございますので、また有識者からヒアリングを行いたいと思っております。よろしゅうございますか。いずれも2時であります。

今日はお忙しいところをありがとうございました。じゃこれにて散会いたしたいと思います。

〔閉会〕

(注)

本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。

内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。