第2回基礎問題小委員会 議事録

平成15年11月17日開催

委員

まだ、一、二、お見えになっていませんが、まもなくお見えになると思いますから、始めましょうか。

本来、起草会合からと思っていたのですが、基礎問題小委員会を開いて、国際課税の問題につきまして少し検討する必要が出てまいりましたので、30分ほど時間をとります。

前回、日米の新しい租税条約のご説明をいただきました。その中で、国内法との関係を議論しておく必要があるだろうという示唆も受けたのですが、今日、その辺のことを含めまして、若干専門的あるいは技術的な問題が出てまいりましたので、議論いたしたいと思います。

前回同様、事務局から簡単にまずご説明を受けまして、いろいろご審議をいただきたいと考えております。

ではお願いします。

事務局

今お話があったとおり、前回、金曜日の総会で、日米租税条約のポイントに関しては概観をご説明申し上げました。今日は、その中で特に国内法改正に結びつく事項に絞って3点ほどご説明したいと思います。資料で申し上げますと、「総3-1」と「総3-3」、これは総会にお出ししました資料と同じでございますけれども、その中から該当部分に絞ってご説明させていただきたいと思います。

まず、「総3-1」のポイント紙の中で、第1点目ですが、2ページ目の(2)、一番上の移転価格課税の期間制限という話でございます。これに関しましては、総会のときにご説明しましたとおり、移転価格課税に関してアメリカでは、どの事案の調査をいつするといったような期間制限が特にないところを、「課税年度終了時から7年以内に調査を開始しない場合には、その処分を行えないこととする」ということで、ある意味ではアメリカの国内法を縛った、限定したことで、より納税者の予見可能性を高めたという措置を条約上とらせていただきましたが、実はもう一つポイントがございます。

これに関しましては、恐縮ですが、資料「総3-3」の22ページをお開けいただけますでしょうか。22ページに「移転価格課税」という1枚紙がございます。移転価格課税自体は、どこにでもある通常のグローバルスタンダードとなっている課税方式でございまして、上の箱の中にございますように、親子間、国外の関連企業との間の取引を通じる所得の国外移転を防止するために、親子間であるならばこういう価格設定がなされたのだけれども、そうではなくて、第三者の独立企業間価格というものを別に持ってきまして、それに基づいて課税処分を行うという課税方式でございます。

日米新租税条約では、これに関しまして2つポイントがございます。

1つは、今申し上げました期間制限。2つ、黒マルがそこに入っていると思いますが、最初の黒マルが期間制限で、アメリカの国内法を7年に限定したということでございます。

もう一つ、この前、総会ではご説明申し上げなかったのですが、一番下の黒マル、「二重課税排除のため、両国はOECD移転価格ガイドラインに従って、調査を行い及び事前価格取決めの審査を行う」ということが交換公文に入ってございます。この移転価格ガイドラインとは何かということが、その次の23ページに簡単に記載してございます。「参考」というところで、「移転価格ガイドライン」。この上の囲みにございますように、そもそも移転価格に関する細かいガイドラインが、OECDを中心に先進国でいろいろ議論が深まっているところでございますが、実は、1995年に移転価格ガイドラインを各国が合意して公表されております。

その趣旨は、上の囲みの2行目からですが、「移転価格の算定方法及び移転価格課税問題の解決方法を示し、税務当局間又は税務当局と多国籍企業との間の紛争を最小化し、企業活動の円滑化に資することを意図している」と書いてございます。要は、移転価格税制で、一番難しいのは、独立した第三者であるならばこういう価格設定がなされたであろうという独立企業間価格をどう算定するかという、ちょっと技術的な話になって恐縮ですが、それが一番の肝でございます。

それに関しましてガイドラインでは、その下の1にございます。ガイドライン上こういう方法を認めましょうということで、全部で5つ列挙してございます。認められている独立企業間価格の算定方法としまして、伝統的な取引基準法--独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法といった極めてテクニカルな言葉が並んでおりますが、この3つを伝統的な原則としよう、こういうことでございます。その他の方法として、場合によっては利益分割法といったもの、もしくは取引単位営業利益法といったもの、こういう方式も認めてもいいだろうというふうにガイドラインに書いてございます。

ところが、日本の国内法上、現時点で認められていますのは、上から4つまででございまして、一番下の取引単位営業利益法というのは、いろいろな経緯がございまして、日本の国内法上はまだこれが入っていないのです。移転価格課税というのは、例えばアメリカで処分がありますと、アメリカの子会社の利益が増額更正されるわけですね。それを放っておきますと、企業グループ全体としてそういうものが二重課税になってしまいますので、それに応じて日本の親会社の利益を減額更正する。向こうで増やされた分だけこちらで減らしてやる。これは「対応的調整」と言っていますけれども、こうした方法が必要になってくるのです。

対応的調整に関しましては、2.の[3]にございますが、「対応的調整とは、相互協議の合意に基づき減額更正を行うこと」とございます。アメリカで増額更正されたら、基本的には同額、日本で減額更正をしてやる、あるいはその逆のことをしないと、企業グループ全体にとってはその分がちょうど二重課税になってしまうんですね。

アメリカと日本の国税当局がいろいろな算定方式を突き合わせながら、お宅が幾ら増額したから、うちは幾ら減額しようというようなかなり詰めた話をするのですが、そのときに、独立企業間価格の算定方法が日本とアメリカで異なっていますと、なかなか話し合いがうまくいかない。結果的に非常に長期間かかったり、金額でうまく折り合わなかったりして、納税者の迷惑になるということが以前から指摘されておりました。

こういう観点から、アメリカは5つ全部あるのですが、日本の場合は上から4つまでしか、国内法上手当てされておりませんので、最後に残った取引単位営業利益法を国内法上も手当てしてやれば、日米双方の相互協議に基づく対応的調整も今よりはスムーズになるのではないか。それにより、一層納税者の予見可能性が高まることになるのではないかという問題意識がございます。それが第1点目でございます。

第2点目でございますが、ポイント紙、「総3-1」に戻っていただきまして、同じ2ページ目の(6)でございます。「両国間で課税上の取扱いが異なる事業体への条約適用の明確化」ということで、総会の場ではこれを簡単にご紹介させていただきましたが、基礎小でございますので、資料の30ページを使ってこの中身についてご説明申し上げたいと思います。

資料の30ページに、「両国間で課税上の取扱いが異なる事業体(イメージ)」というポンチ絵が1枚入ってございます。これも、多少技術的になろうかと思いますが、真ん中がアメリカ、左側が日本、右側が第三国でございます。真ん中に、米国にLLCというものがある。LLCというのはリミテッド・ライアビリティー・カンパニーと申しまして、直訳すると、有限責任会社、日本でいうところの有限会社に当たります。日本の有限会社というのは会社ですから、それ自体法人格があるのでございますが、アメリカのLLC、有限責任会社と申しますのは、いろいろな経緯を経て、納税をLLCという団体が行うのか、あるいは、その下にぶら下がっている有限責任社員が行うのか、これを選択できる、納税者の選択に任す、こういうことになってございます。

今ここにございますのは、例えば、米国のLLCが「構成員課税を選択した場合」と書いてございます。これは実はよくあるケースなのでございますが、この場合、条約上の適用がどうなるのかという話です。国内法上LLCというのは有限会社、法人格がある団体でございますので、日本から見ると、あくまでもLLC自体が納税義務者、すなわち条約上の便益を受けるべき居住者である、こういうことになります。逆にアメリカから見ると、今、アメリカの納税者が構成員課税を選択してございますので、納税義務者はLLCという団体ではなくて、その下にぶら下がっている各構成員になるわけでございます。この図で言いますと、構成員がアメリカにもおりますし、日本にもおりますし、第三国にもおります、こういう形になってございます。

アメリカから見ますと、あくまでも納税義務者は各構成員でありまして、したがって、条約の便益を受けるべき居住者も各構成員だということになります。日本から見ますと、条約上の便益はあくまでもLLCという団体が受けるべきである。アメリカから見ますと、構成員が受けるべきであるということで、そこで居住者の定義が食い違ってしまうわけです。こういうことが現条約のもとで起きておりまして、せっかくアメリカのLLCが日本にいろいろな投資活動を行っても、例えばLLCが日本から受け取る利子や配当等に関しまして必ずしも条約上の恩典が与えられていないという問題が、以前からクロスボーダー取引の関連で指摘されてございました。

今回、日本で存在しないようなアメリカの団体から投資が行われた場合、条約上の便益が適正に与えられるようきれいに整理したということでございます。具体的に申し上げますと、このような例の場合には、アメリカのLLCは、日本の国内法から見ますと、先ほど申し上げたように団体課税ということですので、構成員は見えないことになっておりますが、条約上の適用はその先まで見てあげようと。見てあげた上で、今、この構成員は日本とアメリカと第三国の3人いるという仮定ですが、その日本の構成員と第三国の構成員はだめなのでございますが、この構成員がアメリカにいる限度において、つまりアメリカにいる構成員が所得を受け取る限度において日米条約上の特典を与えようと。

例えばアメリカの構成員が100のうち60、日本の構成員が30、第三国の構成員が10という所得を、それぞれ米国のLLCを通じて日本から稼得したとするならば、その100のうち米国の構成員が受け取る60に限って、日米条約上の、例えば利子でしたら軽減税率、配当でしたら軽減税率を与えようということで、こういうクロスボーダー上の適用関係を、今回、条約できれいに整理したということでございます。

これは一例でございますが、実はこの逆の場合もございます。例えば米国のパートナーシップというものが団体課税を選択した場合は、この逆になるのですが、例えばパートナーシップというのは日本では全然法人格が認められていない団体ですので、そのような団体がアメリカで団体課税を選んだ場合には、日米で居住者の定義が違ってきますので、やはり同じような問題が起こります。そうした、両国間で課税上取扱いが異なる事業体に関する条約の適用関係を、今回、条約上整理したということでございます。

これに関しましては、多少技術的な規定ぶりになろうかと思いますけれども、国内法から見て納税義務のない者の所得として取り扱われる部分についても、条約の特典が適正に及ぶような国内法の整備が必要だというふうに考えております。これが2点目でございます。

最後、3点目でございます。ポイント紙に戻っていただきまして、3ページの2、「条約濫用による租税回避を防止するための措置」の第1番目、「特典制限条項の導入」。これも総会のときにごく簡単にご紹介させていただきましたが、これに関しましては、同じく資料の36ページをお開けいただけますでしょうか。特典制限条項のイメージということです。この図自体は総会でもご覧いただきましたが、右側が現行の租税条約、左側が日米の新しい租税条約の話でございます。右側を見ていただきますと、現行の租税条約上は条約の特典は、居住者であるならば基本的には対象者としよう、こういうことで居住者イコール対象者というマルになってございます。

これを、今回の新租税条約では、形式的には居住者であっても、対象者をもう少し厳格に見てやろうと。すなわち、その次のページ、37ページをお開けいただきますと、例えば米国に居住者がいて日本に投資をしてきました。日本から投資収益、利子、配当を稼得しました。ただし、よくよく見てみたら、米国の居住者、形式的には居住者であっても、ペーパーカンパニーでありました。日本から得た稼得の相当部分が実は第三国に流出していましたという場合には、実質的な所有者は、米国の居住者の裏にいる第三国の居住者であろうということで、このように判定される場合には、米国の居住者が日本から稼得する所得には、当初から日米条約上の特典を与えないこととしよう、特典を制限することにしよう、こういう規定でございます。

これが一番大きな柱なのですが、では、どういうことをもって認定条件とすべきかということが条約にかなり細かく書いてございます。それが39ページでございます。39ページに「特典制限条項の仕組み」ということで、これは条約の中身を簡単にあらわしたものですが、3つ基準がございまして、1に適格者基準、2に能動的事業活動基準、3に権限のある当局の認定でございます。1の適格者基準と申しますのは、こういう者であるならば濫用の恐れがないので、特典の制限をすることをしないようにしようという基準がいろいろ書かれてございます。適格者基準の一番上、個人、国、公開会社、公益法人、年金基金、こういう者であるならば基本的にはオーケーだ、条約の適用を与えようということが一つ。

一定の公開会社であっても--「一定の」とございますのは、ある程度定期的に株が売買されていなくてはいけないということが書いてありまして、これに外れる法人の場合には、その下の黒マル、「その他の法人または団体」ということで、2つ基準がございます。居住地国の適格者、上に書いてございますような、個人とか国とか公開会社等によって支配されている法人であり、かつ、第三国居住者に対して一定以上の所得が抜けていないこと、所得移転が行われていないこと。「一定以上」と書いてございますのは、当該課税年度の所得の50%以上が、第三国居住者に対して支払われていないという基準が条約上書いてございますが、こうした基準を設けて、この基準を満たせば、者としては基本的には適格者であろう、こういうのが一番上の基準でございます。

2番目の能動的事業活動基準と申しますのは、者としては上の基準から漏れてしまった。その場合にも、所得ごとに、こういう所得であるならば濫用の恐れがないので特典を認めてやろうというふうに条約に書いてございまして、その条件が3つございます。次の3つの要件を満たす者でございまして、居住地国、これはアメリカならアメリカですね。アメリカで営業、事業の活動に能動的に従事していること。2つ目に、その取得する所得が--取得するというのは、日本から取得するという意味ですが--日本から取得する所得が、上記の、アメリカで行っている営業または事業の活動に関連、付随しているものであること、こういうことでございます。

これは、アメリカで能動的な活動を行っていると認められない法人が日本から所得を得ている場合には、おそらくその能動的な活動を行っているのはアメリカの法人ではなくて、その裏の誰かだろう。裏に誰かがいて、その裏の誰か、第三国居住者がアメリカ法人をコントロールしているのだろうというふうに推定できる、こういうわけですね。その場合には、先ほど申し上げたように特典制限を与えないのですが、そうではない場合には、その取引に関しては濫用の恐れがないということで特典を与えよう、こういうのが2つ目の能動的活動基準でございます。

3つ目に、1の適格者基準、2の能動的事業活動基準、いずれも漏れてしまった場合でも、最終的に権限ある当局が個別に認定をしまして、この者、この取引であるならば濫用の恐れがないであろうというお墨付きを与えた場合には条約の特典を与えようと、バスケットクローズ的な条項が最後に3番目として入ってございます。

これに関しましても、いろいろな手続規定、確認書類の添付等を要請するための手続規定、当局の認定制度にかかわる国内法整備が必要になると考えておりますので、今日、ご紹介させていただきました。

私のほうから、とりあえず以上でございます。

委員

ありがとうございました。

では国税庁お願いします。

事務局

よろしくお願いいたします。

本日は、国税庁におきます国際的租税回避スキームへの対応につきまして、租税条約に関連する具体的な調査事例を使ってご説明させていただきたいと思います。

国際的租税回避スキームの多くは、ただ今の事務局の説明にもありましたとおり、米国のLLCですとかパートナーシップなどのさまざまな事業体や、あるいは金融手法を駆使しまして複雑に仕組まれたものでございます。税務執行当局としましては、これらに対して税務調査等により事実関係を的確に把握し、適用法令を精査して、課税の適否を判定しております。その上で適正な課税に努めているところでございます。

ところで、租税条約漁り、いわゆるトリーティー・ショッピングなどの、国際的租税回避スキームに対する具体的な課税方法について申し上げます。国税庁としましては、実質的所得者課税、あるいは恒久的施設(パーマネント・エスタブリッシュメント)の認定による課税、いわゆるPE認定課税などにより対応してきたところでございます。ここで、その一例として、匿名組合を利用して行っていたトリーティー・ショッピングに対して課税を行った事例を、お手元の資料に基づいてご紹介させていただきたいと思います。

お手元の「総3-2」の2枚目の絵をご覧いただきたいと思います。総会での説明とも重複いたしますので、簡単に申し上げますが、製造業を営むX国の法人A社が、Y国に販売子会社B社を設立いたします。またA社は、Y国の関連会社を通じまして、日本に販売子会社C社を設立し、B社とC社は匿名組合契約を締結いたします。この匿名組合契約は、C社が日本で行うA社製品の販売事業を対象としておりまして、B社を組合員(出資者)、C社を営業者とするものでございます。そしてB社は、C社が行う販売事業から生ずる利益の大部分を、匿名組合の分配金として受け取ることになるわけでございます。

日本とY国との租税条約では、条約上、明文規定のないその他所得は居住地国のみで課税できるとされております。そのため、このような匿名組合契約の分配金に対しては日本で課税するのは難しいところでございますが、この事例におきましては、匿名組合契約の条項や組合事業の実態を検討した結果、この匿名組合契約に強い共同事業性が認められましたので、C社の事業拠点はB社も共同して使用しているB社の恒久的施設、PEであると認定して課税を行いました。

その他の事例も紹介したいのですが、ほとんどこの絵と同じ形になるということに気がつきました。本日、同じ絵を出させていただいて恐縮でございますが、もう一つ紹介しますと、海外の投資ファンドがY国のような国にペーパーカンパニーを設立しまして、同様の匿名組合スキームを使いまして、わが国日本で不良債権ビジネスで得た利益に対する課税を免れていた事例などもございます。スキームとしては、B社の組合員というところがペーパーカンパニーになっているということでございます。この事例に関しては実質所得者課税を適用して、X国の海外ファンドに課税をいたしております。

今般の日米新租税条約におきましては、匿名組合契約を利用した租税条約漁りを防止する趣旨で、匿名組合契約の分配金につきましては国内法で課税されるという旨を明記していただいております。Y国との租税条約にも同様の規定があれば、Y国を利用した租税条約漁りはより確実に防止できるものと思っております。このことは、海外の投資家にとっても、投資の意思決定において予測可能性が高まるという点でメリットがあるのではないかと考えております。

ところで、匿名組合契約は、不良債権買取事業や製造販売業、金融業など幅広く利用されておますが、今申し上げましたPE認定課税や実質所得者課税は、証拠資料の収集など非常に困難でございます。この種の税務調査につきまして、一部の関係者から、国税局の調査が長過ぎるというご指摘を受けることもございます。

日本におきましては、立証責任が国側にあるとされていることもあり、調査法人が税務調査に非協力的で、取引実態の解明に必要な資料が迅速に提出されない場合には、税務調査が長引くこともございます。納税者の受忍義務の最小化、行政効率の観点から、税務調査は可能な限り短期間で行うよう努力しているところでございますが、一般的には外資系法人に対する税務調査は、3つの理由から、結果として長期化せざるを得ない場合もございます。1つは、資料が国外に所在するために、事実確認等に時間を要するということでございます。2つ目は、意思決定権者が日本にいないために、本社の責任者の了解を得る必要があること。3つ目の理由としましては、各国国内法の違い等もありまして、十分納税者と議論を尽くす必要がある、ということかと考えております。

納税者の負担に配慮しまして、また執行当局の効率性の観点からも、今後とも税務調査は可能な限り短期間で終了させるよう努力してまいりたいと考えておりますが、そのためにも、どのような資料を提出していただかなければならないのかということを、わかりやすい形で納税者に示していく努力が必要であると考えているところでございます。

以上で、説明を終わらせていただきます。

委員

ありがとうございました。

あと5分ほど時間が残っておりますので、ご意見、ご質問があれば、お受けしたいと思いますが、かなり専門的・技術的な話でありますから、ここで審議がどれだけ深まるかわかりません。いかがでしょうか。どうぞ、唯一の専門家だね。

委員

この間も伺ったのですが、また教えていただきたいのですけれども、今の、事業会社が匿名組合を利用したケースですけれども、国税庁の資料「総3-2」。これで、例えばY国が真ん中に入っておりますが、通常はこれ、オランダなどを使ったりしていますけれども、日米租税条約ですから、もしY国がアメリカの場合には、匿名組合は、アメリカの歳入庁の取扱いに従った課税をわが国では認めて、課税関係を考える、そういうことでよろしいのでしょうか。ちょっとお教えいただきたいのですが。

事務局

例えば実質所得者課税の場合には、X国がアメリカであるとすればIRSのルールに従って米国では課税され、日本ではわが国のルールに従って課税される。それぞれの国内法において課税するというふうに、日米新租税条約の議定書には書いていただいていると理解しております。

委員

今のは、事業体課税のところの規定の関係でちょっとお伺いしたいと思ったのですけれども、それに実質所得者課税が全部絡んでくると、事業体課税そのものも何かおかしいことになるのではないでしょうか。この点、いかがですか。

事務局

「実質所得者課税」と、今、国税庁が申し上げましたのは、現行日米条約上、必ずしも匿名組合に関する日米の取扱いがはっきりしておりませんでしたので、現行は実質所得者課税原則のもと、認定で、こうした匿名組合、オランダ等を通じたアメリカからの匿名組合の投資に対する租税回避行動に対応しているということかと思います。

それを踏まえまして、今、国税庁から申し上げましたように、日米新租税条約では、むしろ実質課税原則ということはそのままにしておきながら、条約上、特に匿名組合に関する課税関係を日米双方の国内法に基づいて行う、というふうに明記したということでございます。主税局といたしましては、日米新租税条約のもとにおいては、今、国税庁がそのような個別の認定で苦労しておられます、この匿名組合のPE認定のようなお話は、むしろ条約上の文言のほうできれいに整理されることによって、国税庁の負担も軽減されるのかなということを期待しているところでございます。

委員

どうぞ。

委員

技術的なことを質問する能力は全くゼロだから、結果だけ教えてもらいたいのだけど、現在のやり方だと、一体この手の租税回避行動を日本の当局はどの程度つかまえ、かつ実効を上げているのか。

2番目に、今、あなたが縷縷説明したようなことをやったらば、1年か2年たてば、今逃れている連中を相当程度捕まえることができるのか。

その2つを教えてください。実効の問題について。

事務局

何%かという統計は持っておりませんが、資料の3ページ目につけておりますが、14年度に匿名組合契約の分配金について、源泉徴収するという制度も入れていただいております。以前であれば、Y国等にこういったスキームを置いた企業からは何も出てこなかったわけですが、現在は条約上の届出書が出てまいりますので、調査のきっかけはいただいていると考えております。

その中で、先ほども申し上げましたけれども、PEが認定できる場合には課税いたしますが、もちろんPEがない場合もございます。それで、米国を経由してこういうことをするということは、もうこの日米条約ではなくなる、あるいは、ないということでございますが、Y国経由につきましては今後とも可能性はあるわけでございまして、それで、Y国の条約とも日米条約と同様の規定があれば、確実に穴が防げるのではないかと申し上げたところでございます。

事務局

補足して一言だけ申し上げます。先ほど、いろいろとご説明申し上げました特典制限条項、これはお聞きしていただいたとおり、かなりややこしい規定でございますが、わが方が、今回、日米租税条約でこのようなややこしい規定を入れたのは、まさに今、委員がおっしゃった、アメリカを通じてタックスヘイブンにそもそも所得が流出するような事案に、適切にその条約の恩典を制限することで対応しようということでございます。今後どの程度防げるかというところは、執行に頑張っていただくということでございましょうけれども、とりあえず制度上は少なくとも日米の間では、このようにきちっとした、条約漁りと言っていますけれども、そういう行為には対応してきたということでございます。

ただ、一つだけ、今、国税庁からも申し上げましたように、日米ではこうなっていますけれども、例えばY国がヨーロッパの国でしたら、そこは引き続き、Y国との条約で穴がもしあるようなことでしたら、アメリカの居住者がY国を通じて日本に投資をしてきたような場合の事案には対応できないことには変わりございませんので、今後は、こうした特典制限条項のような条項をヨーロッパのY国との租税条約にも、ぜひ均霑していきたい、こういうふうに思っているところでございます。

委員

ありがとうございました。

これはいずれにしても、国内法に移す過程において様々な問題があったときには、事務局でご検討いただいて、必要あらば、税調のほうでいろいろご紹介いただいて議論する、こういう格好でございますね。

事務局

そのように考えております。

委員

わかりました。

それでは、時間も来ておりますので、これで、第2回目になります基礎小を終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

あと、基礎小の3回目は年明けになると思います。そこで本格的議論を始めたいと思っていますが、皆さんに宿題として出しました、「何を検討すべきか」というその案件がだいぶたまってきていると思いますので、冒頭、俗に言う「基礎固め」をするときの問題点を論点として整理してもらおうと思っていますから、第3回目はそういう形でアジェンダを整理するという順序でやっていきたい、このように思います。

〔閉会〕

(注)

本議事録は毎回の総会後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。

内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。