第14回基礎問題小委員会 議事録
平成14年5月14日開催
〇委員
それでは、時間になりました。第14回目になりますが、基礎問題小委員会を開催したいと思います。どうも御多忙中のところ、ありがとうございました。
今日も財務省から尾辻副大臣、谷口副大臣御出席でございます。適宜御発言をいただけたらと思います。
今日も議題は山積みでございまして、個人所得税関係で金融の二元的所得税と言われるものの是非を議論したい。それから、資産課税で相続税・贈与税につきまして、民法の観点からヒアリングを受けたい。それから、相続税・贈与税の現状についての説明を聞いて、時間があれば、取り残した租特をやりたいと、盛りだくさんでございます。
一応また3時間予定しておりますが、おそらく取りこぼす議題もあるかもしれません。途中で一回休憩を考えております。
では、さっそく最初に、個人所得税関係で残っております大きなテーマとしての金融課税関係をやりたいと考えております。後ほどになりますが、神田さんと水野(忠)さんから各々プレゼンテーションをいただきたいと思います。
その前に、簡単に概況の説明という意味で、事務局のほうからまず最初に説明いただけますか。
〇事務局
お手許に『金融・資産所得課税について(メモ)』という1枚紙と、『説明資料』『参考資料』という説明のための資料がございます。資料のほうは、後ほど、神田委員、水野(忠)委員の御説明のあとに私のほうからさせていただきたいと思いますが、『金融・資産所得課税について(メモ)』というのが1枚ございますので、今日の両委員の御説明の前段といたしまして、どういう項目があるのかというために、私のほうでつくったものでございますので、ちょっとお手許にお願いいたします。
あえて「金融・資産所得課税について」というふうにいたしましたのは、金融の個別の問題にいきます前に、大きな枠組みとしての資産所得の課税ということがあろうかと思いましたので、そのような題にいたしまして、あえて1番で資産性所得への課税全般の問題が一塊あるのかなということで、1に掲げております。例えば、足元の資産市場の動向は別といたしまして、中長期的に見ますと、2つ目のポツにありますように、経済がストック化して、少子高齢化が進みますと、そういう構造変化の中で、勤労性所得が相対的に減少して、資産性所得の割合というものが相対的に高まる、課税も重要になってくるといったような視点とか、そのような議論も資産性所得というような目で見ますと、勤労所得との関係で考え得るのかなというような問題意識もございます。
2番が金融商品の収益課税の問題でございますが、これは昨年の秋、あるいは年度改正で、株式譲渡益と高齢者マル優制度につきましての改正をさせていただきまして、これが今後また実施にいくわけでございますけれども、そこの改正に至る経緯でいろいろ論じられたものも含めまして、事項的にはここにあるような項目かなという感じで並べてございます。
3に関連事項ということで、北欧の二元的所得税の経緯、あるいは留意点のこと、あるいは金融所得という範疇の議論がございますので、巷間、そのような議論がなされておりますので、一応関連事項というふうに並べてございます。
全体につきまして、両委員の御説明のあと、関係の資料の説明をさせていただきたいと思っております。よろしくお願いします。
〇委員
後ほど資料の説明をいただくとして、では、最初に神田さんのほうから、「金融商品に関する所得課税のあり方」につきまして、10分ほどまず御説明いただきたい。よろしくお願いします。
〇委員
本日は意見を申し述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
私がこれから申し上げますことは、実は数年前から私がいろいろなところで、この税調でいえば旧金融課税小委員会というのがございましたけれども、その場でも断片的に申し上げてきたことでございまして、簡単に言えば、この数年間、私自身、進歩はありません。基本的には申し上げてきたことを多少まとめて申し上げたいと思います。
また、最近議論があると伺っております二元的所得課税というのは、私は税の専門家ではありませんので、難しくてよくわかりません。私はそういうところへ立ち入るつもりはありませんで、むしろ個人の金融商品に関する所得課税があまりにばらばら、めちゃくちゃである、これはちょっとひどいのではないかと、ちょっと言いすぎですけれども、そういう観点から横断的な整理をすることが望ましいというふうに考えておりますので、そのことを申し上げます。
お手許に資料の「14-1-1」として1枚紙のレジメ、それから、「14-1-2」、これは参考資料にしていただければと思います。
「14-1-2」は、前に日経新聞の「経済教室」というところに簡単に書かせていただきましたものを、一部修正したものでございます。
それでは、簡単にお話をさせていただきます。
金融商品に関する現在の所得課税、本日は国レベルの個人の所得税法及び租税特別措置法がベースですけれども、これについて中心的に考えたいと思います。こういったものは極めて複雑怪奇だと思います。複雑なことは、それ自体は別に変ではありませんで、金融取引が複雑になりつつあるということの反映であるとも言えるかと思います。また、複雑であるということは、逆にいえば、様々なタックス・プランニングの機会を認めるということですので、納税者にとっても別に損だというわけではないという見方もあるかもしれません。しかしながら、現在の税制は、法人と個人との間であまりに違いが大きすぎ、特に個人を大事にしていない税制と言わざるを得ないように思います。このような現状は、国民の金融・資本市場への信頼回復といういま置かれている状況のもとでも、是正される必要があると思います。
御承知のように、現在の税制では、法人につきましては、法人税法により各種の金融商品からの所得というものは、他の所得と合算し、期間損益を計算することになっております。
これに対して個人レベルでの所得課税はどうかといいますと、所得税法、租税特別措置法も含めてここでは考えますが、そのもとで商品ごと、所得分類ごとに応じて異なっています。例えば預貯金の利子は利子所得、そして源泉分離課税であります。株式への配当は配当所得、一時払い養老保険というのがありますが、その保険金は一部は源泉分離課税、その他は一時所得、為替差益あるいは割引債の償還差益というのは雑所得、そしてその一部は源泉分離課税、そうでないものは総合課税といったぐあいであります。
しかも、それぞれの金融商品について複雑な特例があります。特に過去の税制改正の歴史を振り返りますと、御存じのように、土地と株式についての税制は、その時々の政治状況を反映して、「めちゃくちゃ」と言いたいところですけれども、頻繁に変遷し、一貫した理屈が見い出せないのみならず、異常に複雑であります。
また、頻繁に変化いたしますために、個人投資家にとっては、税が頻繁に変わるという不確実性が高く、長期的な投資を阻害しかねない状況にあります。また、これは金融商品を開発する側にとりましても、税が変わるという不確実性が高いために、商品開発ができないという状況にあります。一言で申しますと、個人に関する金融商品の所得課税は、混乱しており、個人を大事にしていないと言っていいのではないかと思います。
もちろん、ちょっと表現がきつすぎるかと思いましたが、現在の税制がこのような複雑怪奇な状態であることは、それなりの歴史的な理由があります。個々の複雑な税制は、いずれも過去の歴史的な経緯から説明することが可能であります。それは一言で言えば、個々の問題が議論されるたびごとに、減税を主張する側と、税収確保を主張する側が局地戦を繰り返し、所得税の体系的、整合的な整備という視点が欠落していたからであります。
このような金融商品課税についての所得税のいわば対症療法的な歴史と現状というものは、金融技術革新等の結果、今日ではとてももたない状況になっているようにも思えます。すなわち、IT革命を背景とする金融技術革新によって、今日では様々な複雑な、場合によっては複雑すぎるような金融商品を提供することがいとも簡単に可能であります。その結果、金融商品そのものの性格を変更したり、その所得税法上の所得分類を変更したりすることが、極めて容易であります。例えばデリバティブを使えば、同じ経済実体の取引を課税が異なるいろいろな取引に組み立てることは、いとも簡単であります。その結果、課税逃れも生じやすいですし、また、課税当局から見ますと、金融分野は他の分野と比較して、海外取引にするということが簡単である等の点で、逃げ足が速いため、よく言われていることですけれども、所得の捕捉や税の執行が一般に困難であるという問題もあります。
以上のようなばらばらの金融商品の所得課税制度の現状のもとで、唯一それなりに横断的に対応しておりますのは、源泉分離所得課税と言っていいかと思います。ただ、これは次に述べますように、預貯金商品にはふさわしいと思われますが、1996年から積み重ねてまいりました日本版金融ビッグバン、その後の主力商品となるべき、いわばミドルリスク商品にはふさわしくないという欠点があるように思います。
以上のような状況を改善するためには、従来の対症療法型の対応はやめて、思い切った税のつくり直しをすることが必要と考えます。その際の基本的な視点ですけれども、それは商品ごと、所得分類ごとに異なる所得課税をするという考え方を180度変更し、できる限り横断的に課税をするということであります。課税の公平性と中立性を確保するという見地からも、このことは当然であると思います。そのためには、例えば金融所得とでも呼ぶべきくくりで整理をするということが望ましいように思います。
そうは申しましても、いろいろ具体的に考えてみますと、いろいろ難しい問題があろうかと思います。そこで、見直しをする際のポイントと考えられる点を、私の意見として簡単に列挙させていただきます。
まず第一に、現在の預貯金の利子所得の源泉分離課税、これは若干の整理をした上で維持することが望ましいと思われます。ただ、現在ここに一部の一時払い養老保険の保険金、あるいは抵当証券からの所得等を取り入れて、これらを金融類似商品というふうに呼んでおりますが、こういうやり方は適切とは思われません。現在存在する源泉分離課税は、預貯金と同じ程度のリスクの金融商品だけに限定されるべきでありまして、したがって、そこに含めるべきものは、金融類似商品ではなくて、預貯金類似商品に限定すべきであり、金融類似商品と広く呼ぶことは、ミスリーディングであり、やめるべきであります。
なお、一般に源泉分離課税が望ましいか、申告分離が望ましいか、総合課税がいいか、どれを原則とすべきかといった難問があることは言うまでもありませんが、この点につきましては、現在の所得税の体系を大幅に変えなくても、これを維持しながらも、金融商品に関する横断的な課税体系の構築をすることが可能と思います。
第2に、金融ビッグバン後のメイン商品となるべきものは、預貯金ではありませんで、預貯金よりは高いリスクを伴うけれども、高いリターンも期待できるという、いわばミドルリスクを伴う金融商品であります。
そこで、見直しに当たって一番重要なことは、預貯金及び預貯金類似商品ではなく、そのようなミドルリスク商品についての課税、言ってみれば、預貯金よりは高いリスクを伴う金融商品についての所得課税、これを統一的、横断的に取り扱うようにするということかと思います。このことこそが金融商品課税整備を議論する際の中心部分であると考えます。最初に申し上げましたように、こういった金融商品についての所得課税は、現在の制度のもとでは整理がついておりませんで、ばらばらであるのみならず、株式に関する税制のみ過去転々と変遷しており、あまりに異常であります。
そこで、ミドルリスク商品についての横断的かつ統一的な課税を構想する場合には、ミドルリスク商品への投資がリスクを取る投資である以上は、損失が生じた場合には、一定の範囲でそれをカウントし、例えば少なくとも金融所得というカテゴリーの範囲内での損益通算は認められるべきものだと考えます。
なお、譲渡損益について特別のルールを設けるべきかどうかという点は、法人の場合も含めて一般論として難問であります。この点は詰めた検討が必要と思われますが、少なくとも個人の所得課税につきましては、例えばですが、金融所得の中にサブカテゴリーを設けて、譲渡損益の通算は金融商品の譲渡損益の範囲内に限定するといった形が考えられようかと思います。
なお、ここでもまた総合課税かどうかということがありますけれども、総合課税を原則としつつ、申告分離をも認めるということで、両者を併存させるということにするのが、現行制度からの乖離が少なく、比較的つくりやすい体系であるように思います。
第3に、信託とかデリバティブですとか各種のファンド等でありますけれども、この所得課税は現在、原資産の分類に応じて考え、その結果、ばらばらの課税ということになっております。しかし、そういった原資産の分類に応じたばらばらの課税はやめにしまして、仕組みの経済実態に応じた課税につくりかえるという機能的なアプローチをとることが適切と思います。
なお、第4に、現在の所得税法の所得分類の仕方まで変更する必要はなく、いわば金融がそこまで所得税の基本体系に迷惑をかける必要はないと私は考えております。私が申し上げております金融所得といった考え方も、例えば雑所得の中にサブ概念として位置づけるといったようなことで足りるように思います。
具体的には、例えば預貯金等の利子は利子所得、株式からの配当は配当所得、こういった現在の体制はそのまま維持しながらも、それ以外のすべての金融商品について、金融所得というくくりを設けるということでも、現在よりははるかに改善が期待されると思います。
なお、譲渡損益については、社債・株式の場合も含めて金融所得のほうに整理するほうが望ましいと思います。
最後に、第5点といたしまして、税の適正な執行を確保するという見地からは源泉徴収制度、それから法定調書制度、これは拡充する方向で検討することが望ましいように思います。
以上申し上げましたような方向感は、極めて粗い素案にすぎません。その方向で実際に所得税法の仕組みの組み換えを実現しようといたしますと、いろいろと詰めなければならない点は多々あります。しかし、これまでのように対症療法的な対応を繰り返し、横断的かつ統一的な所得課税制度の構築へ向けた検討を怠っているという状況を今後も続けていくということになりますと、私のような金融の分野をやっている者からしますと、これまで数年にわたって努力し、実行してまいりました金融ビッグバンという大改革の後の日本の金融・資本市場の発展と整合的な税制というものが、いつまでたっても実現しない。いつまでたっても、毎年毎年、減税を主張する側と税収確保を主張する側が局地戦を続けるという混乱した状態が続くだけであると思います。このことは個人投資家に混乱を与え、個人投資家に対する金融・資本市場の信頼を失わせることになりかねないだけではなく、世界に対しても、今後日本の新しい金融・資本市場の魅力というものを示すことができないということかと思います。
こういったことは結局、税収確保を主張する側にとっても何ら益することはありませんで、そのツケは最終的には国民が負担することになるということかと思います。
以上です。
〇委員
ありがとうございました。
では、引き続きまして水野(忠)さんの御説明を受けて、事務局の説明を受けて、議論に入りたいと思います。では、お願いします。
〇委員
皆さまにお配りしていただいたレジメ、「基礎小14-2」です。『金融課税の方向と二元的所得税の是非』となっております。もともとは、神田さんが金融所得といった類型を考えたらどうだろうというようなお話をされるということで、そういう考え方に対して、どういう論点があるだろうかというようなお話をする予定でしたのですが、ちょうど北欧で二元的所得税というものがありまして、いま日本でもポピュラーになりつつあるというので、これを含めて検討させていただくことにいたしました。
ただ、残念ながら、スカンジナビア諸国は進んでいるから英語のテキストぐらいあるかと思ったのですが、法律が英訳になっておりませんで、Dual Income Taxという言葉だけが英訳になりましたが、そこで、何が資本所得に入り、何が勤労所得の分類になるのか、具体的なところまでつかみ切れませんでした。その点が残念でございますが、また機会を見て探したいと思います。
簡単にお話しいたします。いわゆる金融所得、これをどうとらえるかというお話ですが、1ページ目です。いわゆる総合所得税、包括的な所得概念ということ、これに対しては昔からジョン・スチワート・ミルの時代から、すでにいわゆる貯蓄の二重課税だというような批判がございまして、それが1970年代でしょうか、消費支出税といったものの人気となってあらわれたわけで、これには、次のb)のところですけれども、法律家でも、包括的所得概念と言いながら、包括的に所得が課税されていないのではないかという指摘などもなされて、盛んに議論されたわけです。
それがそうであったわけですけれども、あとでお話しいたしますが、いわゆる二元的所得税につながってくるところには、どうも消費支出税、b)の考え方、これが経過措置が非常に大変である。いわゆる貯蓄、投資を除いて消費支出された所得だけに課税するというのは、現実に仕組めない。そういうような背景があって二元的所得税というものを選んだというような立法趣旨が説明なされております。ただ、理論的な流れからすると、c)に最適課税論が来て、d)二元的所得税、これは具体的な制度ですけれども、最適課税論の影響を 受けたものであるということは間違いないようでございます。
ただ、この二元的所得税というのは、資本所得と勤労所得に分けて、それで資本所得には比例税率で、勤労所得には累進税率でと。これをそのまま我が国ではどうだろうと考える前に、やはり制定の背景などを考えておかなければいけない。これは法律的な発想ですけれども。
そこで、2ページを見ていただきますと、いまお話ししましたとおりですけれども、ロ)のところにそのことを書いてございます。個人の勤労所得と資本所得、それから、法人は資本所得と同じにかける。さらに、問題になります法人でも小規模の閉鎖的な法人、それから個人事業者、いわゆる勤労と資産が合体しているような所得はどうするかというと、勤労部分と資本所得に分けて課税する。こういう仕組みだということであります。当然、二重丸で囲っておりますが、資本所得と勤労所得の税率、この違いをつくりますと、必ず資本所得に転換するような租税回避が現実に出てまいります。これは先ほど一番最初に言われたことですけれども、税率が低ければ低いだけの操作が行われるということです。
なお、ちょっとこの場所を借りまして、イタリアでもデュアル・インカム・タックスがございます。これは法人税でありまして、いわゆる通貨統合のために企業の自己資本比率を高めなければいけないということのために採用されたもので、全く同じ言葉が使ってありますが、中身は同じではないということで、この点留意いただきたいと思います。
そこで、二元的所得税の議論ですけれども、先ほどいろいろ言ってくださったので、2ページは省略しまして、いろいろな所得類型に分かれているということであります。
そこで、3ページの(2)のところへまいりまして、北欧ではどういう背景でこうなったのであろうかということですが、(1)で従来の所得課税、これは総合課税である。ニールセン、ソレンセンといった学者の方の説明ですと、かつてはやはり北欧諸国も包括的な所得概念、総合課税というのを目指して、実際、1986年のレーガン税制改革、この影響を受けて改正を行おうとしていたと。しかしながら、やはり資本所得の課税が難しく非常に問題がある。
具体的に挙げておりますのが3ページの一番下からですが、これも例えばa)で、資本所得というのは、非常に様々の形態をとるということであります。4ページにずらっと並びましたが。それから、いろいろな組織形態から生ずる。最近我が国で問題になっている事業体ですとか事業媒体と言われるビークル、これが様々であるために、そこから出てくる所得もいろいろであるというような問題です。
あと、それぞれ資本所得は国際的に移動しやすい。あるいは法人と所得の二本立てで課税しますと、留保すれば租税が回避されるといういろいろな問題が出てまいります。
矢印がありますが、)を見ていただきますと、そういう状況でスウェーデン政府は、まず包括的所得概念の理念と現実の税制が遊離していると。消費支出税を考えてみようとした。しかしながら、これを検討したのですが、実際には経過措置が非常に難しい。それから、OECD諸国の他の諸国は採用していないということがありまして、これは実際的な選択肢にはなり得ないということです。
ただ、言えることは、(2)に1つ戻っていただきますが、所得または消費しか考慮しない、いわゆる包括的所得概念にしましても、支出税の考え方、どちらも所得の中の投資部分と消費部分、この2つしか考えていませんので、これを分けるという考え方は、全く別のものであるということになってございます。
ただ、4ページの一番下の丸ポツを見ていただきますと、包括的な所得概念が問題になるとすると、先ほどお話しした貯蓄の二重課税、そういったことに伴う非効率的な状態、それから、ライフサイクルから見た場合には、早くお金をもらった人は早く課税されるし、年とってから稼いだ人は年とってからということで、バランスが崩れているということですね。
結論としまして、北欧4国では、歴史的な分類所得税を維持しつつも、より効率的ではなく、かつ、不公平も少ない税制として、二元的所得税を採用したということであります。これが4ページの最後です。
5ページにまいりまして、いろいろ並んでおりますが、その背景となりましたのが、1つロ)では貯蓄率の低さ。国民負担率が75%ですから、すでに税金の段階で強制貯蓄させられておりますので、ある意味で当然ですが、貯蓄率は低い。
それから、ハ)にありますけれども、課税の仕方次第で優遇された所得に逃げてしまうという危険性があるということ。
それから、ニ)はライフサイクルと消費のずれですね。先ほどお話ししました。いつ稼いだかで課税しますと、ずれが出てくる。
これが背景にありましたが、(3)にまいりまして、批判と反論とありますが、どういった欠点・長所があるかというお話です。いわゆる勤労所得、従来非常に担税力が低いのは軽課すべきであると。具体的には、体が資本であるし、時間も犠牲にするし、居住地も制限を受ける。これに対して資本所得というのは、全く電話一本でいい所得ではないかというようなことが言われております。ただ、これに対しては、資本所得にもリスクがやはりあるというようなお話。
それから、勤労所得者に対しては、これが重要な点だと思いますが、いわゆる所得の再分配としての社会保障支出が大幅になされている。それは資本所得によっても負担されているのである。こういうようなことが言われるわけです。
それから、垂直的公平から見た場合に、何で勤労所得だけ累進税率が適用されてという話になりますが、資本所得は高額所得者に集中しているという問題がやはりございます。それは再分配の役割は、相続税、富裕税でやったらどうだというようなことです。あと、キャピタルゲインの凍結効果がありますので、あまり高い税率をかけるなという話が出ております。
このぐらいにいたしまして、次に6ページにいっていただきますと、結局のところ、ちょっと中途半端なところですが、)を見ていただきますと、先ほどから1つの大きな柱は、資本所得に対する課税が非効率的であるという話でありますけれども、それに基づいた部分があります。これはソレンセンの論文に書かれておりましたが、結局のところ、資本所得と勤労所得は分けるけれども、では、それぞれにとってどれが一番最適な課税を実現する税率なのかということについては、提供できなかったと。これは自己批判ですけれども、そういうようなことがなされております。
あと、資本所得について、支払利子の控除がありますので、場合によってはマイナスの状態が出てきてしまうといったこと。そういったような問題点も指摘されております。
最後に、資本所得につきましては、この問題ですが、いわゆる資本の流出、それから貯蓄・投資を損ねる。そういうような政策的な配慮から課税を軽くするという考え方も出てきているということですね。
そこで、我が国ではどう考えるかというのが6ページでございますが、「(1)北欧の二元的所得税とその示唆ないしは反省」、これはいまお話ししたので省略させていただきまして、7ページのニ)のところだけ見ていただきますと、最後ですが、結局、この考え方というのは、恒久的な税制であるとは考えるべきではないのではないか。なぜかといいますと、各国の所得税、法人税率に依存しているということです。それによって移動が進んだりするという話ですので。
国際的な取り組みとして、有害な税の競争のフォーラムを設置して、あまりにもひどい税の引下げ競争では、ストップをかけるようにしている。それから、タックス・ヘイブンリストが公表されて、ケイマン諸島はタックス・ヘイブンから外れるとか、かなりの動きを見せている。
あと、これはニュースで耳にしましたのですけれども、NGO活動の中でいわゆるグルーバル化に反対すると。グルーバル化というのは、投機的な金持ちのためになされているようなものであるという批判も出てきているというような国際的な側面でとらえた場合に、いまの状態を前提にした恒久的な税制を考えるというのは、難しいであろうというお話でございます。
簡単につけ加えさせていただきますが、我が国では金融所得というのはどうなのだろうという話です。当てはめてみますと、先ほどからございましたが、また)を見ていただきますと、さて、所得の性質によって違いはないであろうかということですね。)の[1]ですけれども、法律的、実質的となっておりますが、所得の性質としての違いは、やはりあるのではないか。預貯金の利子のように元本保証、これは法律上保障されて、元本は返す。それから一定の利子。そのかわりあとの運用益は全部借主に属しますというのがあれば、株式投資信託のように、元本保障はないけれども、うまく儲かった場合にはたくさんあげますという考え方がありますけれども、こういう所得の違いというのを無視していいのだろうかということです。
9ページを見ていただきますと、ここを最後にいたしますが、[2]に事業媒体、いわゆるビークルの問題ですけれども、これは配当の議論をするときにでも出てきますけれども、いわゆる配当二重課税、法人における負担をどうするのだということで、それはほかの金融所得でも同じことになるわけですね。特に投資法人、特定信託、ここは課税を受けるようになりましたけれども、こういう事業体レベルの課税ということを全く度外視して、投資家が受け取るリターンだけに課税を着目するというのはおかしい。やはりそうなると、事業体課税そのものとあわせて検討しなければいけないということであります。
結論は出ておりませんけれども、ということで検討の方向として、1つには法律的な、あるいは実質的な所得の違いが金融所得間にないだろうかということ。それから、2つ目は、どういった事業媒体を使っているかということ。これを無視できないのではないかというこの2 点でございます。
ということで失礼いたします。
〇委員
ありがとうございました。
それでは、いまお二人の先生の報告をベースにいたしまして、事務局から、より実際的な観点からの資料の提供を受けたいと思います。
〇事務局
それでは、両委員の御説明、御発言がございましたが、若干補足、あるいは重複もあるかもしれませんが、説明資料のほうで現行制度その他を見ていただきたいと思っております。
「14-3」でございます。『説明資料』の目次をめくっていただきまして、1ページ目に北欧諸国の国民負担率の比較というもので、このあと、北欧諸国の所得税制を見ていただきますが、その前の段階としまして、所得税の位置づけでございます。御案内のとおり、北欧諸国は国民負担率が60から70%ということで、非常に高い水準でございます。
それから、一番下のところに線がございますけれども、財政赤字・黒字を見ますと、日本は御案内のように大変大きな財政赤字、国民所得比-8.6でございますけれども、昨今、北欧諸国のほうは財政黒字を達成いたしまして、そういう意味で、非常に財政状況も違いがございます。
黒く塗ってあるところが個人所得課税の国民負担率の国民所得比でございます。何回か見ていただきましたが、日本の場合、国民所得におきます個人所得課税、国税・地方税を合わせまして6.8%という数字にとどまっておりますが、ノルウェー、フィンランド、あるいはスウェーデンが20%前後、デンマーク、これは社会保障負担との関係がございますが、高いということで、そもそも国民負担率なり所得税の負担率というものが、決定的に我が国と違う状況でございますので、財政状況から見ましても、日本の所得税の建て直しというものも必要性を痛感するというような感じもいたすところでございます。
2ページ目に、御説明がございました二元的所得税の理論的仕組みということで、単純な概念図で御説明したいと思います。右上に、繰り返しになりますけれども、端的に書いてございます。資本所得と勤労所得を分離して課税をする。勤労所得は累進税率、資本所得は比例税率で課税をする。資本所得の税率は勤労所得の最低税率と法人税率と、三者を等しく設定するというのが基本構造でございます。
この箱の絵の下のところに、資本所得、勤労所得と分けてございます。ここで御説明いたしたいのは、資本所得ということでございまして、金融ということではございません。資本所得の下のほうを見ていただきますと、利子、配当、株といったいわゆる金融的なもののほかに、土地のキャピタルゲインですとか家賃、あるいは事業所得のうちの事業収益、投資収益的な部分を資本所得と考えるということでございますので、この事業収益を2つに区分するというのは、この考え方の最大の難点の1つと言われているところでもございますが、いずれにしましても、すべての所得を2つに分けるということでございます。
税率の三者の関係は、3ページでございますが、一番左のスウェーデンを見ていただきますと、勤労所得の最低税率が31%、資本所得30%、法人税率28%ということでございますので、大体30%前後でこの3つがそろっているという状況でございます。
日本は、御案内のとおり、金融につきましては、利子課税の20%ということが1つのメルクマールかと思いますが、そういう意味で、勤労所得のほうは住民税、所得税、5%、10%ということでございます。したがいまして、30%で全体がそろっているということに比べまして、この税率構造にも日本とは大分差がございます。
それから、右にデンマークが二重線でございますが、デンマークの一番下のところに、導入が一番早く1987年だったわけですが、94年に資本所得の比例税率を使ったほうをやめまして、現在はここにありますように、累進の形になってございます。
4ページは、スウェーデンがこの二元的所得税を理論的に導入いたしましたときの税制改革の内容でございます。特に、3つ目の丸の2つ目のポツですが、あわせて資本所得課税の課税ベースの拡大をいたしまして、最後の丸にございますように、全体としては、資本所得課税の課税強化で勤労所得のほうの減税をしたというような、税制改革パッケージとしてはそういうような形でございます。
それから、5ページ、デンマークの二元的所得税の出入りにつきましての説明でございます。デンマークは1987年に二元的所得税の形にいたしました。このときの背景は、ソレンセンの本によりますと、ここにございますように、インフレが高かった、あるいは貯蓄率が低かった、この参考にございますように、貯蓄率がネットでマイナスの時期があるそうでございますが、それも踏まえてのものだったということでございます。これは参考資料P.5と書いてありますが、P.4の間違いでございます。恐縮ですが、もう一冊のほうに入ってございます。
それから、利子控除で持ち家の所有者に税を通じた補助をするということで、総合課税のために、かえって利子控除で課税ベースが落ちていたというような状況にあったということでございます。
94年に二元的所得税から乖離をするということになりますが、これは理由の[1]にございますように、勤労所得よりもかなり低い税率で資本所得にかけるということでは、なかなか国民の支持を得ることは困難だったといったような事情が挙げられているようでございます。
以上申し上げましたように、北欧との関係では、全体の国民負担率、あるいは税率構造の違い、あるいは経済情勢の違いというものもあるのかなという感じがいたしております。
それから、6ページ以降が金融所得の概念と申しますか、類型の整理ということの関係で、2、3表を見ていただきたいと思います。
6ページは日本の所得税の所得分類の表でございます。一番左側に利子所得以下並んでございますが、10個の所得分類でございます。一番上の箱の黒丸にございますように、所得分類というのは、所得の計算方法が異なることを前提に計算しておりまして、所得の計算方法はその金融商品の種類により自ずから異なるということで、この表の真ん中にございますように、所得の金額の計算方法ということで、それぞれの所得分類に応じまして、これは必要経費を引けるとか、給与所得控除を引くとか、そういうような計算方式になっております。
一番右のほうに、付けたしのように「金融関連(例)」となっておりますけれども、いわゆる金融関連の機能を持つようなものは、そういう意味では、あちこちの所得分類の中に混在しているという状況がございます。
ここで申し上げたいのは、いずれにしても現在の所得分類というのは、所得金額の計算方法に即して構成されておりますので、一番左の所得分類の10番目の次の11番目に何か金融所得という概念が並ぶということではなくて、いまの所得分類の計算の上で、それを金融という視点からどのように課税するかという、次の縦横の関係でございます。したがいまして、先ほどのお話の中でも、金融所得という整理が出てまいりますが、現在の所得分類とは全く同じ概念ではないのだという御説明がございましたが、若干世間で混乱している面がございますので、あえて御説明させていただきました。
その上で、この金融関連ということでいろいろな例がございますけれども、中身をいろいろ見ますと、例えばストックオプションですと、給与と株式との間を行き来するようなことですとか、あるいは年金というのは、金融と見るか、資本と見るか、勤労と見るかといったようなこともございますので、金融関連というのは、範囲というものも1つの議論の対象ではあろうかと思います。
7ページで、フィンランドの所得税計算の仕組みを見ていただきますが、一番左に収入の種類ということで、給与・賃金、年金等と並んでございます。それから、必要経費のところで、何かいろいろなものを経費として引く、あるいは年金控除で引くというような計算がございますので、そういう意味では、ここまでは日本の仕組みと同じで、日本はここの1つ1つを所得分類の名前をつけているという関係かと思います。フィンランドのほうは、そのあとで所得分類というところで、稼得所得と投資所得ということを2つに分けている。ここで二元的ということでございますが、必要経費を何を引くといったようなところまでは、日本と同じような意味で多数の分類がございます。
それから、一番下に預金の利子という欄がございます。これは投資所得、資本所得のほうに分類されておりますが、フィンランドでは源泉分離課税ということでございますので、それは別途の課税になっております。
それから、1つ上の譲渡益も、取得費を引くところまでは同じでございますけれども、いわゆる損益通算からは外れておりますので、そういう意味では、残りました損益通算のところは、株の譲渡益とか利子とか以外のものが1つのくくりになっているような感じでございます。
それから、損益通算の関係で8ページでございますが、これは株式の譲渡損失とその他の所得の損益通算の制約ということで、国際比較で見たものでございます。二元的所得税の、あるいは金融所得という関係で、株の譲渡損の扱いにつきまして若干の議論がございますし、先ほどのお話にもございましたが、諸外国との比較で見ますと、日本は、御案内のように、株式の譲渡損は、申告分離課税のもとで株式の譲渡益と損益通算できるということで「〇」になっておりますが、利子以下給与まで、そのほかの所得との関係では、損益通算にならないということでございます。
アメリカ、イギリスは総合課税の国ではありますが、株式譲渡損は株式譲渡益とは損益通算がございますが、それ以外の所得は、総合課税ではございますけれども、アメリカはかなりの制約つきの「△」、イギリスあるいはドイツ、フランスは認めていないということで、「×」でございます。
右に移っていただいて、スウェーデン、フィンランド、これはいわゆる二元的所得税の国でございます。したがって、線の下のほう、給与とは、二元的ということでございますので、損益通算はそもそも認めないということでございますけれども、利子・配当といった金融あるいは資本というところでも、フィンランドは、先ほど申し上げましたように、源泉分離課税になっておりますので、損益通算はないというような関係でございます。
9ページが現在の我が国の金融収益課税の主だったものだけ並べたものでございます。結局、特別の控除、あるいは課税方式・税率というものが主だったものが並びますと、こういうふうになってまいりますが、それぞれ控除をどうするか、あるいは株式については、昨今の優遇措置というものをどうするのか。あるいは保険につきましては、若干別の体系の形になっておりますが、ここらのところを一くくり、似たような課税をするというふうにした場合に、これらの扱いをどういうふうに考えていくのかというところが、なかなか難しい問題かなというふうにも思われるところでございます。
10ページ、11ページは、中期答申でこの問題につきまして整理をいただきましたものでございます。
それから、最後に12ページ、金融資産の残高の推移の表でございます。
それから、13ページはちょっと別の視点でございますけれども、1点だけ追加させていただきますと、アメリカのキャピタルゲインの税収と株価指数の推移というものでございます。このキャピタルゲイン税収というのは、個人、法人、あるいは土地・株式、全部合計のものでございますけれども、御案内のように、株価の好調のもとでキャピタルゲインの税収も上昇いたしまして、1999年には約1,200億ドル、14、5兆円というオーダーに上っております。
一番下のところに連邦の財政収支の推移がございますが、98年、99年が例の財政黒字達成ということでございますけれども、そこに寄与するという意味では、非常にキャピタルゲイン税収が大きく、ほとんどそれで黒字になっているというようなところもあろうかということでございまして、そういう意味で、キャピタルゲイン税収の税収の上からも、重要な構成要素となっているということが、アメリカの場合の経験として指摘されるところがございます。
以上でございます。
〇委員
ありがとうございました。
3時から岩志先生の民法に関する相続・贈与の話をお聞きすることになっておりまして、講師の先生がお待ちであろうと思いますので、できれば3時までいまの議論を少し続けたいと思います。金融課税あるいは二元的所得税につきまして、どうぞ自由な角度から御議論いただければと思います。なかなかいろいろ大変な問題があるということはおわかりかと思いますが、どうでしょうか。時間もございませんから。
〇委員
結局、これはビッグバンの話から続いているのですけれども、金融そのものが、仕切り発想から全然まだ抜けていないという、銀行・証券だとか、例えば証信取引はいま経産省とか農水省でやっているとか、リースは経産省で。その個々の証信の所属官庁が違って、税金というのもそこで決めていられたような経緯があって、依然その仕切り発想から抜けていないところに、こういう複雑怪奇になった理由の1つがあると思うのです。
それと、もう1つは、総合課税化とずっと言われているのですが、それがだいぶん情勢があやしくなってきまして、それも問題だなという気がしているのです。だから、いま二元的所得税という話もありましたが、証券も源泉分離課税で、しかも比例税率だとすると、その方向を進めていくと、その二元的所得税というのは、私は不勉強で申しわけないのですが、どう違ってくるのかなというのがやはりよくわからないのです。だから、これを全く否定しないで、やはりある程度検討というか、研究の余地ありではないかなと私自身は気がしているのです。すぐにやるという話ではないのですが、その点は専門家の方はいかがお考えなのでしょうか。
〇委員
いまおっしゃったのは、総合課税の旗をおろすなということでおっしゃっているのですか。
〇委員
そうなんです。実際は申告分離になったり、だんだん抜け殻みたいな話になってきてしまったんです。納番をやろうとしても、反対運動も起こるし、全然実現しないではないかということなのです。
〇委員
わかります。それはもう年来言っている話ですから。
〇委員
いまのお話と同じ話でございますけれども、戦後ほとんど半世紀にわたって、金融所得・資産所得というのは、実質的に非課税だったと言えるのではないか。預貯金利子についていえば、マル優があって、しかし老人マル優になった。老人マル優もいよいよ廃止されて、やっとここへ来て預貯金利子は正常な課税対象になってきたという段階。
それから、株式についていえば、昭和63年までほとんど実質非課税であったわけです。その後、原則課税になっても、相変わらず源泉分離課税というのが残っていた。これがいよいよ2年後でございますか、なくなる。ここへ来て初めて、正面から金融・資産所得課税がまだ始まった段階ではないか。そういう中においては、まだまだ不完全な混乱、これは先生のおっしゃるとおりだと思いますけれども、これを今後先生のおっしゃるように合理化し整除していくということが、いまの仕事ではないかと思うわけでございまして、これをこの段階ですぐに二元的所得税で独立のものに持っていく、いままで一生懸命やってきた総合課税の旗印をおろす、というのはいかがか。やはり究極的には総合課税を目指しつつ、これを整除する。また、IT化が進めば、いろいろな障害とされていた把握や資産の所得の総合もできるようになるかもしれない。そういうまだ展望があるとすれば、ここは現行の混乱をとにかくきれいにする。しかし、一遍に二元的所得課税までいくというのは、時期尚早というか、早すぎるのではないか。もう少し現行を整理するのが先ではないかと思うわけでございます。
その途中の段階で、先生のお話の金融・所得分野というものをつくるというのも1つのお考えかと思いますが、その点で1つ、例えばアルゼンチン国債を持っていたらゼロになってしまったという、ここらはどちらに入るのか、どういうふうに考えるか、という点が1つあるわけでございます。
それから、仮に二本立て的な金融所得になるとしても、二元的所得税はいかがかと思いますけれども、その前の段階でも、何か簡便なものをつくるというときに、それはやはり10%とか低いものではなくて、原則は事業所得的に事業法人がやる法人税と同じ水準がやはりいいのではないか。しかし、ここは先生のおっしゃる二重課税論があるかもしれない。しかし、その場合は、90%分配するのなら損金に算入するとか、いろいろ対処の方法はありますけれども、もし二本立て的に考えるのであれば、法人税率と同じ水準といったものがいいのではないか。そんな感じがいたします。
それから、どうも二元的所得課税の背景には、貯蓄は二重課税だという議論があるのではないか。支出税的な発想ですけれども。しかし、ある意味では勤労所得であっても、課税所得の中から自分の体を再生産して働いているわけですから、金融所得だけが二重課税というのは、どうも釈然としないのですが、そこらは学問的に見ると、やはりそういう議論はあり得るのかどうか。教えていただければと思いますけれども。
〇委員
確かにジョン・スチワート・ミルの昔の文献には、「貯蓄の二重課税」という言葉を使ってありますが、「貯蓄の二重課税」という言葉、いわゆる一度かかった所得にもう一回税金がかかっている。それでいうと、次のは違う所得ではないかという発想になります。確かに、いわゆる稼いだ段階で課税しますのと、消費をした段階で課税するのを比較すると、明らかに消費の段階で課税するというのは、いつ使っても最終的には同じ負担になってくるのですが、所得の稼いだ段階で課税しますと、明らかにこれは稼ぎ方によって負担が違うのです。そういう意味で、やはり効率性を損ねるという、私は経済学者ではありませんけれども、一言で言ってしまうと、貯蓄の二重課税ということに象徴されますけれども、やはり所得の段階、稼いだ段階で課税するということには、理論的には無理が生じるということは間違いないのではないかと思っております。
〇委員
アルゼンチン国債がなくなったら、金融所得はゼロになるのでしょう。問題ないね。かえってそれは認めるわけでしょう。
いま委員から振られたけど、二重課税の問題も含め、総所得、勤労所得の話、これは学会でエンドレスに続いていますので、まさに今後も続くのではないですかね。ある意味で価値判断が入っていますので、好みの問題にまでなってきているのではないかと思いますので、どっちを取るかというのは、その人の信念に基づいてやるしかないのかなとは思っています。ただ、委員の場合は、二元的所得税論というのは、総合課税の先にあるというような御説明があったけど、普通は総合課税が難しいから、二元的所得税で第一段階でやろうという議論が多いですよね。
〇委員
今後、IT化がどのぐらい進むか。そういったものを見きわめた上で考えたらいかがということでございます。
〇委員
わかりました。ほかにいかがですか。
〇委員
いまのお二人のプレゼンテーションと事務局の御説明を伺うと、やはりすべての所得を資本所得と勤労所得に分けるというのは、非常に難しいということがわかります。退職金とか一時所得に分けるとすれば、勤労所得に入るのでしょうけれども、それに累進税をかけるというのは、これは事実上難しいのではないかと思いますし、資本所得もレポートにありますように、やはり公平に課税することはほとんど無理なのであろうと私も思います。
ただ、金融所得という点についていえば、やはり一律に課税したほうが、国際化が進んでいる現在、税を捕捉して歳入を確保できるという点はあると思うのです。この点については、北欧が二元的所得税論を入れた場合に、そういう視点はなかったのかどうなのか、この点を教えていただけますか。
〇委員
なかなか厳しい御質問なのですが、例えば、北欧に限らず、オランダ、ベルギーといったところ、ああいうところは、金融関係のといいますか、税率を下げたりして、できるだけ自分の国の市場に呼び込もうとするわけですが、実際問題として、ベルギーの先生が言われていたことは、いくら所得税の負担を下げても、お金はやってこないと言うのです。ですから、何が原因かはわかりませんが、少なくとも税金だけが要素になっているのではないということですので、北欧にもやはり同じ問題が存在しているのではないかなと私は思っておりますが。
〇委員
いまの説明を伺っていて、非常に勉強になりました。私は二元的所得というのは、この説明を聞いて、所得を二分するものだという意味だと、しかも一次所得、二次所得というような分け方で課税するのだと、そこら辺がポイントだなということがよく理解できました。私は二元的所得税というのは、どうも金融所得と同じに考えていて、もっと幅広いというか、もっと構造的なものだということが理解できました。
質問なのですが、背景ですね。非常に興味があるところでありまして、つまり、そういう理念的な論争だけだったのか、あるいは、いまの日本と同じで、例えば金融所得あるいは資産性所得の課税がばらばらであって、ともすれば中立性・公平性、あるいは簡素性を損なうぐらいに乱れ切っていたのかどうか。そこら辺、導入時の実際の環境はどうだったのか。2番目には、どのくらいの論争がここにあったのか。3番目には、決定から導入に至るまでの周知期間、準備期間等々はどうだったのか。4番目には、これによって伴うリアクションはどうだったのか。そこら辺をまとめてお答えいただきたいのですが。
〇委員
私が御紹介したのはデンマークの例でしたでしょうか。あとで事務局の御説明を伺うと、国によって明らかにテンポが違っていますね。デンマークでは二元的所得税をやめて次へというときに、ほかに出てきたのはスウェーデンでしたでしょうか。国によってばらばらですので、これを4つ一遍にまとめて議論することは、かえって誤解を生じてしまうみたいですが、少なくとも1980年代までは、総合課税ということで考えてきたけれども、やはり大きな原因は、1つには資本所得、ここでいうと金融所得になるのでしょうか、利子を控除したらマイナスになってしまった、資本所得からは税金を取れない、これが1つの大きな理由ではないかと思います。
あと、いわゆる課税によってどういう動きをしたかというところは、ちょっと確認はできておりませんけれども、私の印象では、かなり金融にかける税率としては高いところに設定されてあります。ですから、ちょっと事務局から補足していただきたいと思いますけれども、いくつかの要因があって、こういう動きを見せている。
ただ、最終的には、レジメの一番最初に出てきているのですけれども、いくらでも所得の分類が可能であると。ここを認識すると、最終的には総合所得課税に帰着するしかないんですね。分類してもいくらでも変わるわけですから。そうすると、全部まとめるのだったら、総合所得税ということ。
だから、これからまた興味深いと思いますが、いわゆる北欧の4国がどういう方向へ進んでいくのかということで、先ほどの、私ではなくて事務局の説明の中にも、すでに二元的所得税からは離脱していくような動きが見られているということですから、これはちょっとずっと追いかけてみることに興味があると思っております。
〇委員
先ほどの委員の関心に対して、私の個人的な見解を申し上げるならば、やはりキャピタルゲインを初めとして、資本投資に課税しなければいけないという課税の公平論があるんですよ。しかし、総合課税をやると、ああいう国はキャピタルフライトが起きるわけです。したがって、片一方は累進でもいいけれども、片一方を比例にしましょうと。僕はそこが一番強いのだと思いますね。あえて言えば、総合課税論者から言えば、そこは堕落だと言われますが、多分、妥協の産物なのでしょうね。
事務局から何か補足がありますか。あれば簡単に。
〇事務局
御参考までに『参考資料』の2ページに、OECDでいろいろなペーパーの中に二元的所得税の功罪といいますか、やや好意的にも見れるわけでございますけれども、整理したものがございまして、3つパラグラフがございます。
例えば、一番下に北欧のことについて簡単にまとめてございますが、この線の一番初めのところを見ますと、結局、「所得再分配と比較的大規模な公共部門を特に選好する小規模開放経済として、これらの諸国は、比較的高い限界税率の環境下で、流動的な源泉から歳入を上げるという問題に直面している」というようなくだりもありますので、やはり北欧という小さな開放経済というところと、国民負担率の高さというようなこと、いろいろなことから起きたということかと思います。
それから、先ほどの説明のほうで、4ページにスウェーデンの改革のところで、私、簡単に御説明いたしましたけれども、やはり貯蓄が低かったとか、あるいは借入金の利子控除で、勤労所得のほうの課税ベースが縮減されていたので、その課税ベースを拡大することによって、むしろ勤労所得の税率の引下げに使ったとか、そういう全体の税制改革のパッケージが進んでいたというようなことが言えるのではないかと思いますが、いずれにしても、いろいろな観点からの評価、分析をやるのだろうというふうには思います。
〇委員
議題を変えたいのですが、講師の岩志先生はお見えですよね。あまりお待たせするのも失礼でございますから、とりあえず次の話題に変えて、終わった後でまたこれに戻りたいと思います。
(岩志教授着席)
それでは、きょうのスピーカーの岩志先生を御紹介いたします。早稲田大学の教授でいらっしゃいまして、本日は、「被相続人による財産の処分・相続人の貢献と相続法」ということに関しまして、我々の一番関心の深い相続・贈与の世界において、民法がどうなっているかという法律的な側面を御説明いただくことになっています。
時間が短くて恐縮ですが、20分ほどで御説明いただきまして、あとは質問にお答えいただけますか。よろしくお願いします。
〇委員
初めまして。岩志でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
本日、私が承りました御依頼は、被相続人が自らの意思で相続人に対して何らかの財産処分を行った場合に、相続法の仕組みがそれに対してどのような対応をとることになるのか、こういうことでございます。とりわけ、それを被相続人に対する相続人の扶養や面倒見という関係で見ると、これがどうなるかということでありました。
この点につきましては、実は相続法研究の場でも非常に議論がございまして、これであるというふうに確言するのはなかなか難しいところがあるのですけれども、ただ、本日は時間的な制約もございますので、むしろ支配的な考え方に従って、最初簡単に、相続法では、先ほど申しました被相続人による処分とその限界をどのように予定しているかということ、これをお示しした上で、扶養や面倒見との関係でそれがどうなるかというほうに焦点を当ててお話し申し上げるということにしたいと存じます。
すでに諸先生のお手許にはレジュメが配られていると思いますが、ほぼそれに沿ってお話を申し上げます。
まず最初に、被相続人による処分とその限界、相続法上の対応ということでございます。相続との関係で問題となる被相続人による財産処分、これはもちろん相続との関係でございますので、相続は無償でございますので、処分もこれは当然無償の処分のみになるということであります。
これにつきましては、生前処分として生前贈与、それから、死後処分であり、かつ、遺言で行う遺贈、さらに第3番目には、ここのところはちょっとわかりづらいところがあるかもしれませんが、遺言による遺贈とは別に、やはりこれも遺言によることになりますけれども、相続に関する処分というのがございます。この相続に関する処分というのは、遺言によって法定相続分と異なる相続分を指定する、あるいは遺産分割の方法を被相続人自身があらかじめ指定する、こういったような処分であります。
このうち贈与のみは、贈与者と受贈者の間の契約でございます。これは意思表示によって成立するということになります。これに対しまして他のものは、遺言によって行われますので、遺言者の一方的意思表示に基づく単独の法律行為ということになります。
また、先ほども申しました贈与につきましては、生前の贈与と、それから贈与者の死亡を停止条件として効力を生ずる死因贈与というものがございます。この死因贈与につきましては、これは贈与ではございますけれども、民法上の取扱いとしましては、遺贈の規定が適用されるということになっております。したがって、後ほどお話しします遺留分とか、そういうところの関係では、死因贈与は遺贈に準じて取り扱われると、こういうふうに御了解いただければと思います。
以上がざっとのところでございますけれども、まず、贈与との関係ということであります。これにつきましては、すでに御承知の方も多かろうかと思いますけれども、民法903条というところで、婚姻や縁組のために生前に被相続人から贈与があった。あるいは生計の資本として贈与があった。この生計の資本と申しますのは、例えば家を建てるとか、場合によっては高等教育を受ける費用とか、こういったものも含まれる可能性がございます。細々とした小さな贈与、一般にお小遣いとかそういったものはこの中には含まれない。ただ、一般に多額のものは、その目的がはっきりしなくても、生計の資本として評価される可能性は高いということになります。
これらの贈与は、特別受益という名称で呼ばれまして、特別受益となって、現実に相続が開始したときに、現実の遺産の額の上に、これは計算上のみでありますけれども、贈与の価額を加算いたします。戻して加算いたします。その計算上の遺産をもとに、各相続人の相続分を法定相続分等に沿って割り出す。これが具体的な相続分ということになります。
この場合に、持戻し対象贈与の時期につきまして、これは制限はございません。したがって、何年前のものであろうと、これは持戻しの対象になるということになります。
その際問題になりますのは、贈与の価額をいつを基準に計算するのか、例えば20年前の贈与といまでは価額が違うということがあろうと思いますが、民法の仕組みからは、基本的には、相続開始時を基準にして評価するというのが多数説であります。
また、このような持戻しを行って計算しますと、特別受益の額のほうが相続分よりも多くなるという場合が出てまいります。この場合には、超過分を返還する必要はありません。現実に返還する必要はございませんが、その超過特別受益者の相続分はその段階でゼロということになります。当然、他の共同相続人にとっては、遺産全体の取り分が少ないということになりますが、そのマイナス分は他の共同相続人が分担せざるを得ないということになります。
また、この特別受益の持戻しについては、被相続人がこの持戻しを免除することができるという条文がございます。ただ、この持戻しの免除につきましても、これは後ほど申しますが、遺留分を超えて免除することはできない。遺留分の範囲で免除することができるのみであるということであります。
これが贈与の場合に、まず特別受益となるということで問題になるわけですが、この贈与があった場合に、その贈与の結果、他の共同相続人の遺留分が侵害された場合には、今度は遺留分の減殺請求の対象になる可能性が出てまいります。この遺留分の減殺請求につきましては、レジュメの「[2]遺留分との関係」というところでございますが、贈与は、まずその価額、金銭的に換算した価額を、遺産の価額に計算上算入いたします。もし債務があれば、その債務を控除するわけですけれども、そのようにして算定した財産、これが遺留分算定の基礎財産ということになります。
遺留分の算定はこれに従って算定するということになります。例えば配偶者があって、子どもが2人いたというような場合、遺留分は相続分の半分でありますから、配偶者であれば、法定相続分が2分の1ですから、4分の1が遺留分になるということです。それをいまの算定基礎額に掛けて、遺留分額を算定するということになります。
この場合に、基礎額に算入される贈与でありますけれども、民法には、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行ったものでない限りは、これは相続開始前1年のものに限ると、こういう規定がございます。相続開始前1年について贈与は戻すと。ただし、他の遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合はこの限りでないと、正確にいえばそういう条文でありますが、戻すということになります。
ただ、この規定は、相続人に対する贈与には適用がないわけであります。実は1,044条というところで、903条という先ほどの持戻しの規定が準用されておりまして、相続人に対する贈与については、その時期や持戻し免除の有無にかかわりなく算入されるということになっておりまして、これが通説であり、最高裁判所の判断であります。
このようにして算入をするということに無限定であるとともに、遺留分減殺についてもそういうことが言えることになります。遺留分権利者の遺留分を侵害するような贈与につきましては、侵害部分について、その遺留分権利者のほうから減殺を請求することができる。減殺の対象になります。財産の取戻しということになります。
この場合も、先ほど申しましたように、基礎財産に算入した贈与は全部基本的には減殺の対象になるというふうに考えられますので、相続人に対する贈与、これが生前、20年前になされたものであっても、死亡して、もし遺留分侵害だということになれば、その段階で常にこれは減殺可能ということになるわけであります。これがまず贈与との関係であります。
続きまして遺贈でありますけれども、この遺贈も先ほどの903条という条文の規定で、これは持戻しの対象となるということであります。この点は少し難しいところがありますけれども、基本的には、ただ、被相続人死亡時に遺贈分というのは、まだ遺産の中にとどまっているというふうに考えられますので、この場合には、贈与のように計算上、現実の遺産の価額の上に加算するという作業をする必要はないということになります。ただ、あとでその遺贈分というのは先取りであるということで引かれてしまって、現実の手取りの相続分が少なくなる。こういうことになります。
あとは大体ほぼ贈与の場合と同じでありますけれども、当然、これは遺留分減殺の対象になるということであります。この遺留分減殺につきましては、贈与よりも遺贈が優先いたします。遺贈あるいは贈与、これが数個あるときでございますけれども、まず遺贈が数個あるときには、これは割合による減殺ということになります。贈与が数個あるときには、後のものから前のものに上がっていく。こういう形になっております。これが遺贈でございます。基本的には贈与と極めて近い取扱いを受けるということでありましょう。
第3番目、これが特定の遺産を特定の相続人に相続させる遺言ということであります。これはあまりお耳慣れない方もあろうかと存じますけれども、近年、最高裁判所の判例を初め、判例実務及び学説の中で非常に大きな問題を提起している事柄であります。例えば、この土地を相続人のうちの誰それに相続させると、こういう文言をもって行う遺言のことであります。相続させるわけでありますから、これは相続でありまして、相手方は当然相続人に限られる。相続人以外の者に相続させるということはあり得ません。
この遺言につきましては、先ほども言いましたように、最高裁の判決が出ています。最高裁判決では、このような遺言は、被相続人自らが遺産分割の方法を指定したものであって、被相続人があらかじめ遺産分割を行ったものである。自らが行ったものである。したがって、相続人は改めて遺産分割をする必要はなく、指定された相続人は、指定された遺産を相続開始と同時に取得する。すなわち、被相続人の死亡と同時に権利が即時的に被相続人から相続人に移転する。そのものについての権利がです。こういう効力を認められるのだと、このようにしております。
このような効果は、効果だけ見れば遺贈と同じような、いわば物権的効果と申しますけれども、があるわけでありますけれども、ただ、これはあくまでも相続でありまして、遺贈とは違うということでありますので、例えば不動産の登記について、登録免許税が遺贈であれば1,000分の25のところが1,000分の6で済むというような点、それから、不動産の登記の場合に、これは相続人が単独で行って登記申請できるとか、そういう面で非常に相続人にとっては有利なものということになります。
最高裁はこのような形で遺言があった場合にも、これは遺留分を否定するものではないと、このようにはっきり申しておりますので、遺留分減殺の対象になるというふうには考えられます。ただ、そのように言っているにとどまっておって、現実に遺留分減殺手続はどうなるのか、例えば減殺の順序、遺贈と贈与があった場合に、その間に入るのか、それとも何かと同列になるのか、こういったところについて、あるいは特別受益との関係で、これを持戻しにするのかどうなのか。こういった点については、まだ議論の途中といいますか、問題がたくさん残っているところであります。
以上、被相続人の処分と相続法のスタンスといったようなものについて概観いたしましたけれども、これが第2番目の親の扶養や面倒見との関係でどうなるか。もっとはっきり言ってしまえば、親の扶養や面倒見の見返りとして、そういうものがあった場合にどうなるかということについて、お話ししたいと存じます。
まず最初に重要なのは、扶養と面倒見の区別であります。扶養は877条に規定された一定の親族に課された法的義務でありますけれども、面倒見、この中には介護も含まれると存じますけれども、これは事実行為でありまして、道徳的にはともかく、法的な親族の義務ではないと見るのが学会でのほぼ一致した見解であります。扶養は金銭扶養が前提であります。例外的に引取り扶養というようなことも、これは扶養の方法ということで認められるということにすぎません。
では、まず最初に扶養のほうから見たいと思いますが、親の扶養と相続をどう考えるかということでありますが、扶養は、扶養される側に自らの能力や財産で自らの生存を支えることができない、これは「要扶養状態」と申しますけれども、これがあることが要件となります。したがって、論理的には、親が働けなくなっても、そこに財産がある限り、自分を支える財産がある限り、これは扶養は問題にならないということなのです。したがって、真の意味で扶養を受けていた親が、死んだときに大きな財産を残しているということは、考えられないということであります。
ただ、現実には親の財産が不動産などであって、処分しづらいということはございます。そのときには、これは子が何らかの金銭を親に寄附しているという場合があるだろうと思います。これを多くの場合、扶養と言っているのだろうと思います。この場合、子が行った財産給付によって、親の財産は減少しないということになります。維持されたということになりますから、これはこれを評価する必要がある意味では出てくる。こういうことになります。ただ、この場合の評価を相続法でやるのか、扶養法でやるのかという問題は当然出てくる。共同相続人のうちの一部の者だけがこのような金銭給付を行った場合に、これを一種の扶養の先取りのようなものであるということで、やむを得ずやった扶養であるということで、他の扶養をしていない者に対して、扶養の立替えであると言って、立替え扶養料を請求するという考え方、これは当然出てまいります。それと同時に、親が死亡したのだから、遺産もあるので、その財産の維持という側面から、これは民法には904条の2という規定で寄与分という制度がございますので、この寄与分の中で一括して相続の問題として処理するほうが妥当であるという考え方がございます。
論理的には扶養と相続というのは、基本的には連動するものではないのですけれども、ただ、家庭裁判所の実務の中などでは、これは一体的解決ということから、寄与分として、相続の問題として処理したほうがいいという考え方は強いようであります。ただ、これは理論的に確定したというものではありません。両方考え方はあり得るということであります。
それから、次に2番目の面倒見との関係がございますけれども、これは扶養に比べてやっかいであります。といいますのも、扶養は扶養義務者の義務でありまして、その多くが親族の者であり、相続人であります。ところが、面倒見は誰との関係においても問題となる可能性が出てくるわけであります。面倒見は一種の労務提供であって、法律上はその義務が規定されているわけではありませんので、これを法律関係として位置づけようとすれば、ある意味では労務提供契約と。多くは黙って行われるわけですから、黙示の契約とでも位置づけざるを得ないところがあります。
ただ、もしそうだとすると、逆にいえばこれはヘルパーと同様に、報酬の設定も当事者間でできるわけであります。親族であろうが何であろうが、そういう契約をしようと思えばできる。ただ、生前、その報酬等につきまして、それを一括して例えば生前贈与や遺贈ということで行おうとする場合には、相続法では贈与や遺贈の目的に細かい限定をつけているわけではございませんので、そうなると、一般の贈与や遺贈と区別して扱うということは困難だということになります。その結果、一種の報酬的な遺贈であっても、これは特別受益の持戻しになったり、遺留分の減殺の対象になったりするということはございます。
ただ、可能性として考えられるのは、あと、遺贈や贈与とは離れて、相続との関係で見れば、寄与分的な構成ということは当然できるだろうと思います。ただ、寄与分として見る場合には、特別の寄与に該当することが必要ですので、家族内の一般的な協力程度では済みませんし、また、同居して介護に当たっているというような場合には、同居している者が、例えば自分がそこに住んでいますから、家賃であるとか、生活費であるとか、こういうものが免除されているような部分というのがあることになります。そういったものを総合して寄与分というものを算定しなければなりません。この寄与分は共同相続人の協議で定まる。こういうことになっておりまして、この協議で定まらないときには家庭裁判所ということになりますので、自分の労務の提供、これこれをヘルパーに換算していくらいくらという形で簡単に寄与分が出てくるものではないと考えられます。
以上、本当に駆け足でお話し申し上げましたけれども、最後に少しまとめをさせていただきます。すでにこれも御承知のとおりですが、相続法の体系におきましては、被相続人の財産に関する決定権の尊重ということと、相続人間の公平性の調整という要素が常にバランスをとって考えられているわけです。いずれが重視されているのかということについては、一概には申し上げることはできないのだろうと思います。相続人保護のために、最終的には最後の取り分として遺留分制度が機能しておりますので、その意味では相続人重視ということが言えるかもしれません。
ただ、同時にこの遺留分減殺請求権と申しますものは、相続開始した、あるいは遺留分が侵害されたということを知ってから、1年という短期で消滅時効にかかってしまいます。たった1年しか取り戻せない。その意味では、遺言者の意思というものがかなり強く意識されているというふうに考えることもできます。
ただ、最近、先ほど申しましたように、相続させる遺言が登場し、遺言に対する意識が高まってきている中で、やはり被相続人の意思の重視という傾向はある意味ではあらわれているようにも思われます。ただし、最後の砦として、先ほどから申しますように、遺留分制度があるということは変わらない。こういうことになります。
一方、現時の高齢社会の進行というものは、自らの財産で自らの生活を維持するという必要性を高めておりますし、また、その方法も親族による面倒見だけではなくて、ヘルパー等、他者による面倒見というものを選択する道、これが非常に増えてまいりました。また、財産所有者が死亡した後の問題としては、子どもにやるというよりは、むしろ自分の配偶者、夫が死亡したけれども妻がいるという場合に、その妻も高齢でありますので、高齢配偶者の生活保障の必要性が深刻になっております。子の生活保障という要請は、これに反して子はすでにその段階で成熟しておりますので、むしろ後退しているというのが現状かとは思います。
このような中で、先ほどの繰り返しになりますけれども、面倒見や扶養と相続というものの関係につきましては、特にこれを民法が個々に挙げて相続法の中で評価するというような形をとっているわけではありません。贈与や遺贈という形で行われた以上、その報酬の引渡しあるいはお礼といったようなものであっても、一般的な贈与と遺贈とこれを区別することはまず困難であります。したがって、相続法上の制限というものが、目的の如何に関わらずそこにかかってくるということは、少なくとも最低でも遺留分がかかってくるということは、やむを得ないことである。ただ、相続レベルでそのような問題があるとしても、実は扶養については扶養法の範囲で解決は可能であります。過去の扶養料の求償というような形で。
それから、面倒見につきましても、これは契約を擬制するとか、不当利得であるとか、例えば子どもの配偶者が行ったというような場合に、ただで労務を提供している。その労務の提供は他の人たちが不当利得しているのだと、こういうような法律構成による救済も可能であろうと思います。相続法による解決だけでなくて、そういった解決法を探るということが、やはり真のそういった面倒見や扶養といった側面での総合的な解決のためには必要だと、こういうことになるだろうと思います。
相続との関係だけに注目して、そこに何らかの優遇策、相続分を多くするとか、こういうような話をもしやるのだとすれば、これはそういった正当な労務提供関係だとか、対価関係というものを一挙に飛ばして、ある意味では相続分という抽象的な価値、つまりどんぶり勘定のようなもので解決をするということになってしまうし、また、そのことは、優遇を受けられるのだから面倒を見ろといったような、逆にそういうプレッシャーが出てくる可能性はあるのではないかと考えております。
私は税務のほうには疎いものですから、一般に相続法というものの関係だけで御下問にお答えするということでございます。
以上です。
〇委員
貴重な御説明ありがとうございました。
それでは、質問に入る前に、事務局から現状の制度的な背景をごく簡単に御説明いただいて、それからオープンな議論にしたいと思います。
〇事務局
それでは、御議論をいただく際の御参考として、ただいまのプレゼンテーションに関係いたしますデータをいくつか御紹介したいと存じます。右肩に「基礎小14-6」と書いてあります『説明資料(相続税・贈与税関係)』の冒頭を使いましてデータを御紹介したいと思います。ポイントを絞らせていただきます。
まず、資料の2ページをご覧いただきたいと存じます。これは高齢者の世帯の状況ですけれども、子と同居しているという方が80年で69%いらっしゃったのが、2000年で49%。他方、ひとり暮らし、夫婦のみという形での形態が増えておる。こういう子と同居しない形態が相当増えてきておるというのがまず1つの現状でございます。
6ページをご覧いただきたいと存じます。左側の薄い棒が望ましい介護の担い手と考えられている方、右側の濃いところは実際に介護を担っている方ということで、例えば一番左側の棒ですけれども、配偶者を介護の担い手として最も望ましいと考える方が65.8%いる一方で、実際に主たる介護の担い手が配偶者であるというのは、54.2%であるというので、望ましいというものと実際がちょっと違っておるというのが1つございます。その右側ですけれども、息子の妻というのが望ましい担い手としては27%の方が回答しておるのですが、実際には49%というような高率になっておるということがございます。
もう1点だけ御紹介いたします。9ページにまいりまして、遺産の分配に関する考え方ということで、なるべく子ども全員均等にとお考えの方が62%いる一方で、同居介護をしてくれた子どものみに、あるいは同居介護をしてくれた子どもに優先的に、あるいは重点的にと、そういったものを合わせた方が26.5%、というような形で遺産の分配というものを考えておるというようなデータも紹介されております。
私からは以上です。
〇委員
いろいろ身につまされるデータの御報告いただきました。
あと20分から25分、4時までになりますか、先生にいろいろ御質問があろうかと思いますので、時間を取りたいと思います。
僕から最初に、生前贈与というのは、いま盛んに我々要求されているんですよ。ということは、贈与税がいま110万円の非課税なのです が、それを1,000万円とか2,000万円とか3,000万円にせよという声が、例の消費を拡張するためにという議論があるのですが、これは法律的に問題がありますか。つまり、遺留分減殺とか何とかという議論に引っかかりますか。
〇委員
贈与税を軽減したからといって、贈与がそれによって増えるということになれば、これは当然、特別受益の持戻しの率が高まるということになると思いますが、直ちに贈与の税金が軽減されたからといって、相続法に直接……
〇委員
軽減でなくて無税にしても、生前贈与をやるような仕組みをつくれといま言っているわけです。
〇委員
税金だけでですか。
〇委員
110万円までなら無税で自由に配れますね。その110万円を1,000万円とか2,000万円にせよという話があるわけです。生前贈与を拡張するために。全く税の世界から離れた世界で贈与が生前に行くという話なんです。その場合の話です。
〇委員
もちろん、そうなった場合には、これは特別受益がそれだけ増えるということになると思うのですが、ただ、現実に1,000万円、2,000万円の贈与を受ける人たちがどれぐらいいるかというのはまた別ですけれども、そういうことにはなると思います。
〇委員
いたとしてです。遺留分減殺が減るわけでしょう。
〇委員
はい。
〇委員
そうすると、法律的に問題が起きませんか。
〇委員
いや、遺留分減殺が減るかというと、遺留分減殺は減るわけではない。これは戻して計算しますから。
〇委員
相続税が変わってくるんです。
〇委員
相続税だけが変わりまして、遺留分そのものは……。
〇委員
そうそう、所得税の問題です。
〇委員
はい。
〇委員
そうすると、あまり気にすることはない話ですか。
〇委員
そうですね。ただ、実務は大変になろうと思います。
〇委員
わかりました。
〇委員
岩志先生のほうにお聞きするのか、事務局のほうにお聞きするのかわかりませんが、この超過特別受益者の相続分であっても、遺留分を侵害しなければ返さなくていいわけですね。しかし、今度は相続税を実際に払うときには、相続分に応じてその税額を計算するというときに、超過しているかは別といたしましても、その特別受益分というのは、やはり相続分として計算をするのか。そうすると、10年、20年、30年前のでも、それは相続の前取りだということで、そこで相続税を計算することになるのか。いまの相続税法では、3年以内の贈与しか入っていないけれども、そこはどんなふうに調整をされるのか。
〇委員
まず、相続法の立場からでは、903条というのは、これは特別受益者の相続分と、こういうことになっておりまして、要するに、特別受益者で持ち戻して、そして、そこで計算された相続分、これは相続分として取り扱われるということになりますので、そうすると、20年前、30年前のものも、これは相続分の中に入っている。こういうことになりますね。
〇委員
そうすると、いまでも10年、20年ぐらい前から子どもに家を建てさせるために贈与しても、それは相続として処理は可能なのですね。
〇委員
相続分の中に入ってくるということです。
〇委員
しかし、税法上はそれは贈与として贈与税がかかるのでしょうか。
〇事務局
いまので申し上げますと、いまの現行法では、例えば、死んだ時点でいわゆる生前贈与が30あったと。死んだ時点でそれを足して100の相続財産があったと。それは生前贈与の30も足したところで、現行の相続のいわゆる民法はできあがっている。そういうことになります。100でですね。しかし、相続税法上は、30はすでに贈与税で決着がついていますから、70が相続財産として相続税額は計算をする。
ただし、御存じのとおり、あくまでも70をいまの税法上は均分相続で税額を計算して割り振るわけで、受取額に応じてそれぞれが負担するわけです。したがって、70を均分に分けたとすると、先に30をもらっている方は、はっきり言えばもう前に贈与税を払ってしまっており、また、もらう相続財産は少ないわけでしょうから、それに見合って相続税額が少ない。こういう整理になっているというのが、今の相続税と民法上の相続の扱いの違い、こういうことだと思います。
〇委員
もともと、特別受益者の相続分の算定というのは、むしろ特別受益をもらっていない相続人に対して、公平性を図る制度なんですね。超過特別受益者に厚くしようという制度ではございませんので。
〇事務局
ちょっと補足させていただきますと、わかりにくいかもしれませんが、要は、民法上は、先ほど来、先生がお話しになられているように、永久に過去にさかのぼるわけでございます。明らかに相続人の場合には、利害があるとか、ないとか、そういうことは関係なく、生前にもらったものについては、特に生計の資本に当たるようなものは、相続財産に合算して均分相続するという前提に成り立っているということでございます。
それに対して今の相続税は、シャウプ勧告のときには、過去にさかのぼれと全部やられたのですけれども、現実は過去30年、40年前のいわゆる贈与というのを確認できませんので、相続税法上は3年間で仕切って、それでいわば計算をする。こういう整理になっているということでございます。したがって、30年前に贈与税を払ったかどうかというのは、実は払っていなくても、そこは税法上はもう看過しているということでございまして、あくまでも残った財産、3年以内の贈与税及び相続税をもとに相続税額は計算している。こういうことでございます。
したがって、1つ誤解があるといけないので、念のために補足しておきますと、よく農地の生前贈与というのが行われて、これで元の小倉税調会長がよく言っておられた、「田分け者」を防いで生前贈与するというので、完結したように思っていますが、これは実は相続法上は生計の資本ですから、死んだ時点でもう一度均分相続になり得るわけでございまして、ここは税法上は贈与税の納税猶予となっていますけれども、実は民法上は何の完結もしていない。これが実は現在の体系であるということであります。ですから、親御さんが全部生きているうちに贈与したとしても、これは税法上のみ完結するのであって、民法上は何の完結もしていないというのが今の実態である。こういうことでございます。
先生も御承知のように、いま会長もちょっと質問していましたけれども、数年来、わりあいと金を持っている老人から息子・娘に早く金を渡して、しかもそれは景気政策論として出ているんですよね。景気政策で年寄りの金を当てにするような、貧すれば鈍するのか、いや、便宜的に結構なアイデアだと言うのか、様々だと思うんですよ。ごく最近出た話であって、こういうことをもっと大規模にやったらどうだという話があって、景気政策が必要なくなればまた戻すのかもしれないけれども、よくわかりませんけれども、とにかく便宜的な議論が出ているんです。これを幅広くやると、どの程度行えるかわからないけれども、相続その他について、相続人の間でややこしい話が起こる可能性があるのか、現実に起こっているのかどうか。
もう1つ、所得税の理論体系から見て、こういうことは邪道なのか、いや、まあいいだろうというお考えなのか、その辺はどんなふうにお考えですか。
〇委員
いまの御質問で、実は先ほどちょっと申しましたように、最近、傾向として、被相続人の意思というものを少し重視するような傾向が何か全体に見られるのではないかというふうにはお話し申しました。ただ、私自身は、この現行の相続法で、要するに最後に残るのは、これは相続分でも何でもない、遺留分だけなんですね。遺留分というのは、現実にそれほど実際大きいものなのだろうか、どうなのだろうか、という点がかなり問題です。
例えば、本当に単純に言ってしまえば、4,000万円の財産があったとして、それで配偶者は2分の1ですから、2分の1の2分の1ですから、そうなると遺留分というのは1,000万円ですよね。例えば、その遺留分を無視してでもそういった贈与をして、子供や何かに保護するのだというようなことが本当に意味があるのだろうか。遺留分という額は、それほど贈与や何かを圧迫しているのだろうかということが1つあります。
それから、もう1つは、日本の現在の相続法がつくってきた公平の理念というものを、そう簡単に歪めるべきではないと考えております。
実は先ほど申しました相続させる趣旨の遺言というのがございます。相続させる趣旨の遺言というのは、実は裁判所の判例が形成した理論ではありますけれども、それに先行しているのは公証実務です。公証人が公正証書遺言等をつくる際に指導するわけですね。要するに、遺贈だと書けば、先ほども言いましたように、登録免許税が重くかかるとか、それから、登記が面倒くさくなるとか、こういうことがあります。したがって、相続でいけば全部相続でいけるから、税法上も相続でいけるのだ、こっちのほうが有利ですよという形で指導してきたものなのです。
確かに遺言をする側からしてみれば、なるべく有利にそういうものをやったほうがいいので、そうなるだろうと思うのですが、これについては、先ほどの委員もはっきり言ってらっしゃった。やはりこれは一種のシャドーワークみたいな形で、そこでこういう遺言を認めておいて、そして、要するに全部被相続人が、場合によっては、この農地は長男に、このところは誰にという形で振り分けるわけですね。振り分けたものは、これは本人がやった遺産分割の方法の指定だから、相続人は文句を言えないのだと、こういう構成になっています。そうしますと、例えば長男に対して、遺留分を除いた部分について、全部長男だけにという形で振り分ける。もちろん、遺留分とか何かで調整は最後にはできるだろうと思いますけれども、確定してしまって、そして、他の共同相続人には実質的には遺留分以外何も行かないというようなそういう配分を、いとも簡単に行うことが、例えばこの相続させる遺言ではできてしまうわけですね。
本当にこれがいいのだろうか。もともと我々の相続法というのは、一子相続のようなもの、これが戦前にあった。これを反省して、配偶者の立場も考え、子どものことも考えるという形でこれはでき上がったものだったのです。それをいまのような一片の遺言の解釈で簡単に切り換えていくというようなことが本当にいいのかというのは、いま、ここは深刻に相続法が悩まなければならないところだろうと思うのです。最高裁はそれでいいと言っているわけですけれども、この判決については、やはりかなり学説の間からは批判が多いだろうと思いますね。
その意味では、いまお話がありましたように、公平をそう簡単に捨て去るべきではない。実は去年、私どもドイツの学者と、高齢社会における相続法の話をやりました。その中で、やはり日本の側からは、高齢社会が到来して、それで、自分たちの財産を自分たちで使う、こういうことを考えて、その延長として、相続人の誰にやってもいいではないか、遺留分なんか要らないではないかと、こういう議論が出たのですけれども、ただ、相続法の最終的な仕組みというのですか、これを守るのは、ある意味では相続人というものを準備して、そして、相続法という仕組みを守るのは、最後はそこに何らかの形で財産が行くという、その帰結を無視してしまうと、これは日本はある意味では相続法はなくなって、全部遺言法でやることになるのではないかという話も出てくるのです。それでいいということになれば、法定相続法というよりも、遺言で全部やれという話に最終的にはなりかねないのではないかなと思います。
〇委員
ちょっと確認の意味で質問をさせていただきます。要するに、相続税法というか、民法における贈与というのは、あくまでも相続の一環という法的な位置づけなわけですか。
〇委員
相続分の前渡しというふうに読み替えるということになります。
〇委員
税の議論で、生前贈与というものをもっと拡充すべきだということが議論されているわけですが、つまり、その場合、贈与したものを相続税に近い形で課税するのか、贈与税的な性格で課税するのかというのは、いずれ議論になると思うのですが、法律的にはあくまでも相続ということなわけですね。
〇委員
民法は、死亡したときにしか問題になりませんので、これは相続というふうに考えるということになります。
〇委員
それから、もう1つ伺います。贈与と遺贈の関係なのですが、生前贈与をした場合、贈与税を贈与者が払う。つまり親が払うということがあり得るわけですが、その際、払った税金というのは、これは相続財産となるわけですか。それとも、それは除外されるわけですか。
〇委員
そこのところは、私はいま初めてでしたが、親が税金を払うわけですか。
〇委員
贈与税の場合は、親の連帯納税責任があるわけで、子供が払えないという場合は親が払うということは大いにある得るわけです。そうすると、例えば1億円のものに対して、また何千万か親もそれを払う。これは全くその税金分は別なのか、それとも、贈与分というか、法律的には相続分にカウントされるのか、そこら辺はどうですか。
〇委員
民法的には、要するに贈与の価額ですので、基本的には贈与の価額が問題になると思いますが、税額まで入れてなければ贈与がなかったのだとすれば、そこまで入れて勘案するということはあり得ると思います。
〇委員
もう一回聞いていいですか。先生が2枚目に書かれた、高齢化社会で、これからの1つの考え方として、自らの財産による自らの生活維持の必要性と方法の多様化ということで、一般的に言われているのは、あまり息子や娘に早く金を渡すことはよくないと。シェイクスピアの「リア王物語」じゃないけれども、3人の娘に生前に分けてしまったら、王様はだめになるんですよね、気の毒にね。生涯をまっとうしないわけだ。余計に金を持っている人が1,000万、2,000万円を息子や娘にやるのは、いとも簡単なことだと僕は思うけれども、そうではない人が実はほとんど日本国民大多数なんです。私もそうなんですけれども。その連中が、多少持っているから死ぬまでに全部使ってしまえと、それも1つの人生哲学でしょう。そういうときに、この生前贈与をやれば世の中明るくなるということを言われると、こちらは、なけなしの金でもやらなくちゃ具合悪いかと。そういう風潮が出ると、困る親父も出てくると思うんだね。どんなもんですかね。
〇委員
ですから、先ほど申しましたように、いまの高齢化社会では、自分のライフプランというものをきちっと立てるのが一番だと思いますね。ですから、その財産について、少なくとも自分の生活費とか、こういったものについては、例えば自分の生活費を削ってまで子どもにやるとか、こういう必要は全然ないのであって、自分が文化的で教養もあるような、そういう生活をしたいものだったら、自分のお金はそこで使っていいのではないか。それで残ればこれはいいだろうと思いますけれども、そこまで節約してやるというようなことを第一に考える必要はない。
というのも、例えば80歳の方が亡くなったときに、実はもうそのときには子供がいなくて、孫ばっかりだったとか、こういうようなこともしょっちゅうあるわけですよね。民法には代襲相続というのはもちろんあるわけですけれども、子どもから既にその子どもたちにはもういっているわけでして、おじいさんが死んだときにお父さんはもう死んでいるわけです。お父さんのほうから子どものほうにはもう財産はいっていて、それでなおかつ、またおじいさんのほうからいく。民法の仕組み上はそうなっているわけです。でも、そういう時代なのかなということはあるのではないか。子どもが小さいというときには、子どもの生活維持という相続のかなり大きな面はありますけれども、それ以外のところで、そう相続を意識する必要はないのではないかなと思っておりますけれども。
〇委員
贈与税の非課税額を高くして景気対策をということなのですが、結局、遺留分が高く抑えられていると、あまり意味がないというのはあると思うのです。財産の処分権というのは資本主義で最も大切なもので、岩志先生がおっしゃったのは、かなりアメリカでは民主党的な、弱者保護、公平の理念という発想だと思うのです。それがいいか悪いかというのは人によって違うと思うのですけれども、こと政策の面だけ考えるならば、相続税の非課税枠だけ抑えても、遺留分のほうが固定されて、かなり高いところ、法定相続分の半分というのは結構いってしまいますから、低いという考えもあると思いますが、逆に高いと考える方もいらっしゃると思うので、そうするとあまり意味がない場合もあって、一番消費を拡大するためには、少ない額をみんなに配っていてはだめで、大きな額がボンと来るのが一番いいわけですから、遺留分を下げて、そうすれば税金を安くしなくても、一挙に何億円か入った人はパーっとやってしまうという話なので、どっちがいいかを言っているわけではなくて、遺留分の話を抜きにして贈与税の非課税枠だけ議論するというのは、ナンセンスであるという気はするのです。10万や20万、あるいは100万や200万入っても、私にとっては高額ですが、あまり消費には回らない。それが1,000万、2,000万入ると、消費するということはあるのではないでしょうかね。遺留分をどうするかというのは、かなり大きな……。
ただ、それは家族の日本の文化とか理念に入る話なので、たかが消費拡大のために戦後改革を否定したりしてしまうところまでいってしまうというのは、どうなのかなというのもありますけれども、贈与税だけで議論してはいけないのではないかという気がします。
〇委員
いまの話で、その部分は生前贈与の分、例えば推定被相続人が何歳以上のときには、その分も遺留分に加えるというふうにすればどうでしょうか。
〇委員
いえいえ、ほかの人のが害されますから。
〇委員
その人の分については出してやるとか。
〇委員
遺留分が高いということは、なるべく平等に分けろということですから、そのこと自体がもうすでに消費を抑圧しているという考えはあり得る。わかりませんけれども、額にもよりますが。
〇委員
何か身内の議論になってしまった。
〇委員
ちょっとよろしいですか。
〇委員
あまり先生をお引きとめしては悪いから、最後ね。
〇委員
岩志先生の話で、特別受益とか贈与の問題ですけれども、大体必ずそういう家族の問題で利益を受けたのは誰かという話ですが、逆に、面倒見のお話が出ましたけれども、相続の関係で権利を持つ者というのは出ないのでしょうか。当然、遺留分の減殺請求なんてありますけれども、私はこれだけのことをしたと、寄与分などは典型的ですけど、非常に弱い形でしか出てきませんけれども、例えば夫婦でしたら、財産分与の権利を持ちますけれども、同じように父親と一緒に仕事をしてきたのだから、その財産の半分は自分の権利であると。あるいは、家内が義理の父親の面倒を見てきたから、それは寄与分というより、もっと強い権利を持っている。労務提供契約の対価であると。そういうような形で相続法制の中で、非常に労務を提供したり共同事業をやったことによる対価、権利者というものは、財産法の世界みたいになかなか存在し得ないのでしょうか。
〇委員
相続法の場合は、要するに相続人というのが身分関係で決まっていきますから、相続人というレベルではそういうふうには決まらないわけです。ただ、その歪みは出てくるので、やはり寄与分とか、こういったものでそこは是正しているのだと思うのですが、先ほど申しましたように、ある意味では、もっと先にいって、家庭内労働だって、例えば会社組織みたいにしてしまえば、子どもは親が社長をやっているところに雇われるわけですよね。こういう場合には、給与としてちゃんと出るわけで、相続のときに寄与だ何だという必要は全然ないわけですよね。
これに対して、そういうこともやらないで、要するに家族労働みたいな、家内工業みたいなことをやっていると、当然そういう形になってしまう。だから、ここのところも、潜在的にはそこで雇われてやっている、家内工業でやっているのだ、そこではいくらいくらの労務提供があるのだというような、黙示の契約でも財産法的な契約のほうに構成を移して論じたほうがいいという場合はたくさんあるのではないかなとは思いますが。
〇委員
よろしゅうございますか。
どうもお引きとめいたしまして申しわけございません。予定した時間も過ぎておりますので、今日は大変お忙しいところ、ありがとうございました。大変勉強させていただきました。今後、税制にどう生かせるかということですが、我々の審議に大いに役立たせていただきます。どうもありがとうございました。
(岩志教授退席)
では、5分ほど休憩しましょう。4時10分ちょっと前ぐらいから再開したいと思います。
(休憩)
〇委員
それでは、再開しましょうか。残り1時間、まだ議題がいっぱいございますので、少し迅速に進みたいと思いますが、取り残した問題で、例の二元的所得税のところを、事務局のほうからもいろいろ説明いただけると思います。
いままでのところ、総合課税のほうがいいではないかというやや二元的所得税の慎重論の御意見が大分続きましたけれども、この際、二元的をやってもいいではないかという御意見もあろうかと思います。その辺も含めて御意見があればどうぞ。
〇委員
二元的所得税について、けさ授業をしてきたのですけれども、学生に聞いたら、なぜ2つなのかわからないという、要するに根拠がないのではないかと。何で2つなんだ、税法をどうして分けるのだと。理論的根拠はないとしか授業では言えないので、キャピタルフライトとかそういうことしか、それはそれで重要だとは思いますけれども、だから、二元という言葉をひとり歩きさせるというのは、どうもわかりづらいだけではなくて、誤りとは申しませんけれども、わかりづらいような気がします。
結局、両先生もおっしゃいましたけれども、個別の問題、つまり同じようなものなのに課税上扱いが異なっているという、その個別のケースというのを、どのぐらいあるのか洗い出して、この場合にはこうする、この場合にはこうするというふうに再点検しながら、その中で必要があれば、所得類型も増やすなり、減らすなり、個別具体的に再点検していくということがポイントなのではないかと思いまして、最初に2とか1とか、そういうふうに目標を言ってしまうことが問題の解決になるとは思わないわけです。個別を無視して抽象的に2と言ってしまうことによって、問題が覆い隠されてしまう。だから、この考え方でいっても、総合課税の対象となる、リスクある金融商品からの所得というところは、所得類型としては1つであっても、様々な商品ごとに課税の扱いはきっと違ってくるはずなんですね。
何より証拠に、アメリカは、キャピタルゲインと通常所得と所得類型が2つ、所得類型と言うのかどうか知りませんけれども、2つです。日本の10種類の所得類型のもとよりも、アメリカの個人所得の計算のほうがよほど複雑だと思いますね。例えば、アキュミレーション、アモチゼーションで、OID、オリジナル・イシュー・ディスカウントの制度が入っていますが、これ1つでも頭がどうにかなってしまうぐらい複雑でして、所得類型を2つにしたから単純になるとか、わかりやすくなるとか、そういう問題では全然なくて、複雑さというのは公平性と表裏一体ですから、この商品の場合にはこうであり、この商品の場合にはこうであり、という個別具体的に詰めていく。その過程で複雑になっても、公平性をそれにも増して担保したいのであれば、そういくべきだということで。
あと、あらかじめ課税上の効果がわからないのではないかということに関しては、これは執行上の対応ができるわけで、こういう場合にはどうなるのでしょうかと、例えば金融機関が新しい商品を出す場合に、国税なりに問い合わせる。そのときに責任のある回答が早い時期になされる。そういう通達も出ていますから、それをうまく活用することによってやっていくということで、あらかじめわかるようにすれば、複雑であることが問題なのではなくて、あらかじめわからないことが、予測可能性が低いことが問題なのでしょうから、そういうふうにしたほうがいいのではないか。だから、あらかじめ前もって、2とか1とか、1はシャウプ勧告からの歴史ですから、一元的に総合所得税というのは1つの目標としてあるでしょうけど、2という目標をあらかじめ立てる必要は全くないと思います。
むしろ問題なのは、これは御指摘の中であった、ファンドとかパートナーシップとか、信託とか、そちらの話で、主税局とか国税庁では多様な組織体ということで呼んでいらっしゃるようですが、個人だか法人だかわからないものが出てきていて、それを無理やり、これこそ二元的ですが、これは個人で、これは法人でというふうに二元的に分けられないようになってきています。その場合には、多少制度が複雑になっても、これは、この部分では個人的に、この部分では法人的にとか、内部留保が少ない限りでは、実質、支払配当を損金算入しようとか、個別に組織体に応じてやっていくということしかないと思うのです。
それも、いままで立法で対応できているものは、まだまだごく一部でして、これから外国法に基づくリミテッド・パートナーシップとか、いろいろなものがいっぱい出てきていまして、そのそれぞれに対して経済実態に合わせたように対応していくという、ため息が出るような作業というのをやらないと、これは課税逃れのためのビークルであることが非常に多いですから、重要なポイントになってくると思うのです。
その際に、できれば、これはやり方は難しいでしょうけど、立証責任の問題なども考えませんと、執行がとても追いつかない。中身が何だかわからないのに、立証責任を負って、おまえが課税しろと言われても、そういうことは無茶ですし、そういうところも、個人か法人かというところも考えていって、あまり所得類型のことだけに意見を集中させないで、金融商品というのは多様なストラクチャーというのですか、仕組み組織との関係で出てくる話なので、所得、法人を全体として見て、バランスを考えながら、個別の商品ごとにこれはこうだということで、一定程度制度が複雑になるのは、むしろこれは世の中の流れで、シンプルな租税制度をこの金融商品の発展した中でやろうといっても、それは無理だろうと思います。
〇委員
北欧でなくても、仮に総合所得をいま入れるといったことなると、キャピタルフライトの問題が当然出てくるのだろうと思うわけでございます。いま委員のほうも若干言及されておりましたが、どうしてこの2つでなければいけないのかというようなことはあるのだろうと。しかし、二元的所得税が総合課税の一里塚なのか、それが目指す姿なのか、といったような観点での議論があるのだろうと思うわけであります。
私自身は総合課税を従来から言っておったのですが、一里塚というような考え方であるとすると、それも1つなのかなというようにも思うわけです。
それで、先の委員の原稿の中に、2ページでございますが、「総合課税を原則とすべきかという基本問題があるが、総合課税を原則としつつ、申告分離をも認めることとして、両者を併存させることとするのが、現行制度からの乖離が少なく、比較的作りやすい体系であるように思われる」ということが、ちょっとはっきり理解できないのです。要するに総合課税というのは、例外を認めないということでございますから、例外を認めた上での総合課税というのは、どういうことなのかということに若干の疑問があるわけでございます。
私は先ほど申し上げましたように、二元的所得税というのは、総合課税に至る一里塚であるというような観点では、いま総合課税に一挙にやるといったことになりますと、実態的にキャピタルフライトの問題が出てくるだろうと。そういう意味においては、収束された形で2つのグループということは、1つの方法ではないかと、このようにも思っております。
〇委員
やはり所得税の分野は非常に複雑で、2つに分けるのかどうかというのは、非常に問題があると思うのです。ただ、実態面でいって、分けるメリットも多少あるのかなという感じもしないでもないし、金融所得というくくりでいえば、お書きになっているように、そういうくくりを設けることは、意味がある面もあるわけですね。やはり金融商品は急速に複雑化しているし、そこで、税のイロージョンが発生している。一番発生しているところだと思うのです。だから、そういうのを補足するために、一律に金融所得というふうにくくって課税するということは、プラス面もあるかなという感じもするわけです。
そこで、この問題はいろいろ技術的にも複雑な点がありますから、一概に排除しなくてもいいと思いますし、金融小委で専門的に細かく掘り下げて検討してみる価値はあるのではないかと思います。
〇委員
いずれと思っております。
それでは、残った時間が大分押してきましたので、後半のあと2つ、3つあるのですが、極力できるところからやっていきましょう。
まず、相続税・贈与税の取り残した分の御説明を大急ぎでいただいて、それについてちょっと質疑を考えましょう。お願いします。
〇事務局
それでは、先ほどの右肩の番号「基礎小14-6」『説明資料(相続税・贈与税関係)』というものを使いまして、残された3つの論点、具体的には執行面の課題、相続・贈与と信託、延納・物納という3点ですが、それについて簡潔に御説明させていただきます。
いま申し上げました資料の10ページをお開きいただきたいと存じます。10ページは、主要国につきまして、立証責任の所在と、相続税の課税方式が申告納税が賦課課税かというものをあわせて整理した資料になっております。
立証責任、左から御紹介しますと、日本は一般的に税務当局にあるということになっております。アメリカは行政庁の処分との関係で、税についての立証責任は納税者にあるとされており、イギリスも一般的に納税者にあると。ドイツは、相続税については賦課課税方式をとっておりますが、一般的に納税者の収入面については税務当局、経費や税務上の特典については納税者の側に立証責任があるとされております。フランスも相続税は賦課課税方式をとっておりますが、こちらは一般的に税務当局にあるというような状況になっております。
11ページにまいりまして、執行面との関連でもう1つの論点、資料情報に関係して、これは法定調書について整理した資料でございます。このように所得課税に関するものは、これだけたくさんございますが、実は相続税法に規定されている法定調書というものは、右下のほうにあります資産課税に関するもの4件というのが現状になっております。
12ページにまいりまして、もう1点執行面の課題に関連いたしまして、賦課権の除斥期間、一定の権利について、法律の予定する行使期間でございますが、この除斥期間に関して、主要国の比較を行ったものがこの12ページでございます。
まず(注)でございますが、無申告に係るもので、さらに相続税に相当する税に関するものということで整理いたしました。国によりましては、除斥期間が税目によって異なるケースもございます。我が国の場合は、全税目に関しまして、無申告については法定申告期限から5年、脱税の場合には7年というような期間になっております。
他方、アメリカ、イギリスは、相続税に相当する税については無制限、ドイツは遺産取得者が取得の事実を知った年の翌年から7年ですが、脱税の場合には13年。フランスは、被相続人の死亡の日から10年ですが、脱税を理由に税務当局が当該詐欺行為に対して告訴した場合、この場合は12年というような期間を持っております。
13ページにまいりまして、ちょっと論点が変わりまして、こちらは相続・贈与と信託に関連いたしまして、現行の信託財産に対します相続税・贈与税の課税関係を整理したものでございます。
まず、信託の場合、ここにありますように、信託の設定者、委託者と、下になりますが、信託財産の管理者、受託者、さらには元本収益の享受者、受益者と、三者が出てまいります。こういった三者の中でどういった課税関係が行われているかというものを整理したものがこれでございます。
まず信託の設定者、委託者が受託者と信託契約を行いまして、信託財産を受託者に移転するというところからまず始まります。こういった受託者に財産を移転いたしますが、この財産から生じます収益あるいは元本の享受というものは、御案内のように受益者になります。そういったことから、この信託が行われた場合には、その段階で委託者から受益者に対して、贈与または遺贈があったものとみなすというような取扱いをしております。これは実は相続税・贈与税に限らず、(注)に記述しておりますが、信託財産は受益者に帰属しているものとして、その収益については、受益者に帰属して所得税が課税されるというように、この信託に対する課税というのは、実際に誰の所有にあるのかというところではなくて、誰が受益を受けるのかというところに基づいて課税がなされているというふうに整理されております。
また、この信託の受益権に関しましては、例えば長期間にわたります収益の部分、いわゆる信託財産からの果実の部分ですが、そういったものについて、市場金利等が大きく変動するようになった現在、適切な評価というのをどのように担保していくのかというような難しさも存在するかと思います。
14ページにまいりまして、最後の論点でありますが、延納・物納について、その制度の概要と現状を御説明させていただきます。
まず、延納制度でございます。1.概要ですが、相続税・贈与税については、金銭で納付困難な金額を限度として、担保を提供し、税金を年賦で納めることができるというふうにされております。納付すべき税額が10万円を超えるなどの要件がございます。また、3番目、延納期間と利子税につきましては、相続財産のうち不動産の占める割合によって、その内容が相当異なっております。具体的には次のページに記述しております。
もう1つ担保でございますが、担保も国債、地方債、あるいは社債その他の有価証券、土地、あるいは保証人の保証といったものでも担保として提供を受けるという内容になっております。
15ページが先ほど申し上げました不動産の割合等によりまして、一番長い延納の期間がどれぐらいか、あるいは適用される利子税の割合がどれぐらいかというものを整理したものでございます。時間の関係もありますので、詳細は省略させていただきます。
16ページがその延納の現在の申請の状況でございます。一番下に12年度の速報値が出ておりますが、件数ベースでいきまして、課税された相続人の方の大体8.7%、金額的には21.8%というような割合の方々がこの延納を申請しておるという状況になっております。
右側の吹き出しのようなところに12年度の延納の処理状況について、ちょっと細かな数字を挙げております。前年度までに許可が終わらなかったものが3,700件余、さらにこの12年度に新たな申請が行われたのが1万1,000件余、それらを合わせたところで、実際に税務署側からの更正等で税額がなくなったりいたしまして、延納が不要となったものが100件余、さらに実際に取下げ、却下、あるいは許可という形で処理が行われたのが1万1,000件余、最終的に12年度で許可未済になっておりますのが3,500件余というような状況になっております。
17ページへまいりまして、これは物納制度の概要でございます。1でございますが、納付すべき相続税額のうち、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があるときは、その困難とする金額を限度として、物納を申請することができるというふうにされております。
この物納に充てることができる財産というものにつきましては、相続財産であることという1つのまず要件がございます。その次に、順位がございまして、まず第1順位として国債、地方債、不動産、船舶、次に第2順位として社債、株式、証券投資信託または貸付信託の受益証券、第3順位として動産ということで、この順位の高いものから順番に物納に充てられるというような状況になっております。
他方、(注)の最初にありますが、税務署長が特別の事情があると認める場合には、こういった順位についても弾力的に取り扱うということになっております。その特別な事情とは何かと申しますと、その財産を物納すれば、居住あるいは営業を継続して通常の生活を維持するのに支障が生ずるような場合、というような取扱いをしております。
18ページにまいりまして、これは物納の現在の申請状況等の計数でございます。一番下、12年度の速報値で、先ほどの延納と同様に、件数ベースで4.7%の方、金額ベースで23.1%というような方が申請をしております。こちらは延納に比べまして、実際の手続、例えば土地の物納を行う際には、測量等の手続を行う必要があるというもの、あるいはその権利関係を整理しなければいけないというようなことがありまして、ちょっと時間もかかることから、ここにありますように、右下の吹き出しのところですが、前年度の許可未済というものが1万1,000件余になっております。ここに12年度に新たな申請が6,000件余ありまして、先ほどと同様、更正減が100件余り、実際に処理がこの年行われたのが6,000件余ということで、本年度の申請を上回る処理を行ってはいるのですが、まだ許可未済が1万1,000件余り残っておるというような状況になっております。
19ページでございますが、この物納財産の取扱いについて、範囲の弾力化というものを当局のほうでも行ってきております。平成4年の6月には、取引相場のない株式、あるいは相続人が居住等の用に供している土地、いわゆる底地の部分、平成5年6月には、現に公共の用に供する財産、これは例えば公園に提供している土地ですとか、そういったものです。あるいは現況が駐車場である土地、あるいは超過物納、相続税額を超える物納等も物納できることを明らかにして、便宜を図っておるというような状況になっております。
あと、備考ですが、物納申請土地内の樹木についても、倒木の危険がある場合等を除き、伐採を求めないというような形で、こういった物納の弾力化というものにも取り組んでいるところでございます。
私からは以上でございます。
〇委員
相続・贈与・土地を一括して審議したほうが早いと思いますので、引き続いて土地税制を御説明ください。
〇事務局
承知しました。
それでは、右肩に「基礎小14-8」という『資料(土地税制関係)』というものがございます。こちらで、先日会長からも御指示いただきました、バブル期の前後を通じての土地税制、制度がどのように移り変わったかというものを簡単に整理いたしましたので、御紹介したいと思います。
まず、私のほうから国税に関連して簡単に御紹介したいと思います。当該資料のまず1ページでございますが、1ページに土地基本法について、参考までに掲げさせていただいております。平成3年度改正を中心に土地税制改革が行われておりますが、これは平成元年に制定されましたこの土地基本法の理念に基づいております。ここでは、第2条の「土地についての公共の福祉優先」から始まりまして、「適正な利用及び計画に従った利用」「投機的取引の抑制」「価値の増加に伴う利益に応じた適切な負担」、こういったことを土地についての基本理念と規定しまして、国及び地方公共団体はこういった基本理念にのっとっての施策を行う責務を有するというような構成になっております。
税との関連では、15条で「税制上の措置」という項目、さらには16条のところで、「公的土地評価の適正化等」ということで、制度、評価の両面についての規定が置かれております。
資料の2ページにまいりまして、土地税制の推移、国税につきまして、「バブル期前」「土地税制改革」、さらに「現在」ということで、税目ごとに整理したものでございます。これは実はそれぞれの税ごとに細かなバックデータのようなものを4ページ以降に添付してありますけれども、今日はこの2ページを中心に御説明させていただきます。
まず、譲渡益の関係ですが、所得税につきましては、バブル期前4,000万円というところで線を引き、所得税は20%の税率で課税するという形になっておりました。4,000万円超のところは2分の1総合課税という制度でございました。それが土地税制改革で、4,000万円という区分をなくしまして、所得税だけですと、30%の税率に引上げを行っております。それが現在は、金額区分なしで20%という税率に引き下げられております。
法人につきましては、譲渡益について、バブル期前、これは昭和48年に創設されましたが、所有期間10年以下の土地については20%の追加課税という制度を持っておりました。それが土地税制改革によりまして、5年超のところを10%追加課税、5年以下については20%の追加課税、2年以下のところは30%の分離課税というような形で、いわゆる土地に対する重課がなされております。これが現在では、それぞれ課税停止あるいは廃止ということで、これは行われておりません。
3つ目のカラムですが、登録免許税、土地の売買についての税率、これはバブル期前、土地税制改革、現在と、5%で変わっておりません。しかしながら、登録免許税は御案内のように固定資産税の評価額を課税標準としておりますので、平成6年度に固定資産税の評価替えが行われております。具体的には、公示地価に対して7割評価という措置を行っておりますが、それを受けまして、登録免許税については、課税標準を軽減するという特例措置を設けております。そういう課税標準のほうでの特例を設けることによって負担の調整を行うということを行っておりまして、11年度以降現在は、この特例で課税標準が3分の1というふうにされております。その結果、マクロの経済指標から登録免許税の実効税率のようなものをはじきますと、現在、バブル期前の平均水準の4分の3程度という低い水準になっております。登録免許税についての細かな数字は6ページに整理してございます。
さらに地価税。これは土地税制改革の際に創設されましたが、平成10年から課税停止という形になっております。
また、ここにはちょっと掲げておりませんが、平成4年度に土地について、相続税評価を公示地価に対して8割水準への引上げという措置も行っております。ただ、これも負担増については、課税ベースの拡大ですとか、税率の適用区分幅の拡大ということによって、全体として調整を行っておるというような状況になっております。これは11ページのほうにその辺の詳しい資料を掲げさせていただいております。
国税については以上でございます。
〇事務局
地方税でございますが、ただいまの資料、同じ資料でございますが、3ページをご覧をいただきたいと存じます。地方税につきまして、やはり1枚の紙でまとめてございます。個別の税目につきましては、8ページ以下でございます。
まず、上のほうからまいりますと、個人住民税につきましては、ただいま御説明ありました所得税と基本的に構造は同じでございます。譲渡所得について、ここでは個人住民税としての税率を「バブル期前」「平成3年度改正」「現在」というふうに掲げさせていただいております。
それから、特別土地保有税につきましては、取得分と保有分を分けて掲げさせていただいておりますが、平成3年度の改正で、課税対象の土地を拡大しております。課税強化をしてございます。しかしながら、これらにつきましては、平成10年度にすべて廃止をしておるということになってございます。
それから、土地税制ということでございますので、下半分に不動産取得税、固定資産税につきまして、土地についての制度を掲げさせていただいておりますが、先ほどもお話がありましたけれども、平成6年度の評価替え以降、固定資産税につきまして7割評価を実施しております。この7割評価につきましては、公的評価、相互の均衡化、適正化を図るということが目的でございますので、上の段の特別土地保有税などとは分けて掲げさせていただいております。6年度以降につきましては、それぞれ課税標準の特例ですとか、あるいは標準額の上限を設定するというふうに、不動産取得税、固定資産税等、対応をさせていただいております。
簡単ですが、以上でございます。
〇委員
では、残り20分ほど時間がございます。今日も租税特別措置のほうはどうもいけそうもないので、残った時間でいまの2つのテーマ、どうぞ御質問あるいは御意見をいただければと思います。いかがでしょうか。
確認ですが、個人のキャピタルゲイン、土地の場合、4,000万円を超えたとき2分の1総合課税と、現在の20%というやつ、これは簡単にいうとやはり軽減になっているのですね。4,000万円以上2分の1総合課税というのと、20%の分離課税というのは、どっちが計算上重くなるかな。当然、20%の分離課税。資料の2ですね。「14-8」の2ページです。場所はわかりましたか。質問の意味もいいですね。
要するに、1億円の人は半分にしてくれるわけでしょう。5,000万円が2分の1総合課税というから、持っているあれによりますけれども、どうなんだろう、20%よりは、総合課税だからほかの所得とも絡めるのでしょう。
〇事務局
57年当時ですが、当時の累進課税の税率の最高が75%なり70%なりの時期でございました。ですから、単純で2分の1総合ですと、したがいましてその半分の税率ということになりまして、それが63年以降の32.5%あたりに引き継がれてきているのかなという感じはいたしますけれども、総合課税全体としていたしましたときと、分離いたしましたときの税負担の水準は、もうちょっとほかの所得との関係がありますので。
〇委員
簡単に軽くなったと言っていいのかな、どうかな。つまり、バブル期のがさっと乗せた重税感、これをこれで解消したと言えるのかどうかというのが僕の質問。どうですか、専門家の方。いま、累進税がずいぶん減っていますよね。だからどこと比較すればいいのかな。
〇事務局
バブルの時期、そのときに議論されましたのは、平成3年の改正でございますけれども、このときに地価税その他土地税制改革が行われたわけです。それは63年12月改正との変化で見ておりますけれども、そのときは、4,000万円以上が32.5%でありましたものを39%にしておりますので、分離比例税率の税率を上げたというのがこの平成3年の改正でございます。バブル期以降下がってきているというのは、この平成3年の39%をいわばピークにして、その後の改正でずっと下げてきたという経緯にあるということを御説明しているわけでございますが、57年以降平成3年にかけての水準は、ここは基本的には課税強化の流れの中にあるというふうに理解をしております。
ただ、さかのぼれば、51年から54年は4分の3総合課税だった時期もございますので、そういう意味では、土地の税制というのは、昭和44年以降、いろいろ繰り返されて増減がございますので、過去をさかのぼりますと、またいろいろ特別控除などもかかわってまいります。
〇委員
比較できそうもないですね。わかりました。
ほかにいかがでしょうか。
〇委員
質問なのですが、土地税制の資料の2、登録免許税のところで「現在」というこの欄ですが、課税標準の特例3分の1というのは、どういう意味ですか。ちょっと教えてください。
〇事務局
まず、6ページのほうをご覧いただいたほうがいいかと思うのですが、登録免許税についての資料を準備しております。ここのところで、(注)の1のところですが、右のほうに目を追っていただきますと、負担調整割合というのが出てまいります。これは6年度固定資産税の評価替えが行われたときに、いうなればそれまで低かった固定資産税の評価が適正化されるということで、その7割評価のままこの5%というものを税率をかけてやりますと、これは相当負担の増になったというようなことがございます。
そういった中で、この6年度では、そこを40%にする、100分の40にするというような改正を行って、課税標準の特例を設けることによって負担の急激な増加を抑えるというようなことをやっております。それが11年度の改正で、当時の土地取引の状況等も勘案いたしまして、3分の1ということで、40%のものが33.3%ということで、ちょっとそこもまた引き下げられたというようなことで現在に至っております。
こういったことで、負担の調整というものを、税率ではなく課税標準の側で行っているというのが、この課税標準の3分の1の特例というものでございます。
〇委員
ついでにもう1つ登録免許税で質問なのですが、税率5%というのは、取引高が1,000万円でも1億円でも10億円でも、それ以上でも、みんな5%なんですか。
〇事務局
土地の売買、所有権の移転の場合には、1,000分の50という統一の税率で取り扱っております。
〇委員
そこは少し考えてもいいかなという気がしますね。相当大きな額になる場合も5%取ると、それは負担としては相当重いという感じがします。
もう1つ、これは税には関係ないのだけれども、税率5%といっても、実際にこれに仲介手数料が3%入るわけですね。どういう法律か知らないけれども、3%以内か以下になっていて、上限に張り付いてみんな取ると。これはいわゆる税と同じような流通コストの一環なので、税には関係ないかもしれないけれども、3%全部どこも取ってしまうというのは、少し競争が働かないのかなと。少しそこにも触れていいのかなという感じがします。
〇委員
結構高いわけですよね、手数料というのは税率に比べて。売り手、買い手、きっと両方取るでしょう。そういう意味では、かなりこれも大きな問題でしょうね。
ほかにいかがでしょうか。
〇委員
相続税・贈与税のところですが、税法上は過去30年、40年前の贈与を確認できないということで、3年以内の贈与ごとに相続税を計算しているということですけれども、今後、相続税・贈与税を合算して調整するとした場合に、やはり3年以内というわけにもいかないと思うのですが、例えば10年以内ぐらいだったら、納番なしに、あるいは立証責任をいじらないでできるのかどうか、この点はちょっと事務当局に伺いたいと思うのですが。
〇委員
私、同じような点で。
〇委員
そうですか。では関連して。
〇委員
10年というあれもあると思いますし、あるいは推定の被相続人が65歳だとか70歳だとか、そうすると、その人が非常に長く生きると、20年、30年になってしまうかもしれないけれども、わりあい早いかもしれないし、そういうあれもあるかもしれないなというので、10年というのと、年齢でという考え方もあります。それが実行可能かどうか、まさにおっしゃるとおりだと思います。
それから、もう1つ、先ほど農地の生前贈与がありましたけれども、あの場合でもそうだと思いますが、遺留分との関係は大丈夫かなという心配がちょっとあるのですが、それは相続のときに調整されるのか、その点もあわせて。
〇委員
テクニカルな話ですが、もしお答えいただければ。
〇事務局
まず、合算する際の期間のお話ですが、いま現在、まず贈与税は年間40万件という申告がなされております。また、被相続人ベースで相続税については5万件の方が課税されておる。さらに、これは相続人のベースで、納税者の方のほうでいきますと、13万件というのが年間の数字になっております。ですから、こういった多数の方々の諸々の申告のデータ、あるいはそれに関連するデータ、そういったものを長期間にわたっていうなれば保管管理し、あるいは場合によっては、それを遡及していろいろ確認をする。そういったことがまず執行当局でどれだけ対応可能かということは、いろいろと慎重に検討すべき問題だとは思っております。
他方、もう1つ現実的な問題といたしまして、例えば、いまたしか帳簿の保存義務のようなものが、税法上7年ですけれども、たしか商法上の保存期間は10年だったと思いますので、仮に10年ということになりますと、まさに10年、さらに相続税の場合には、実際に相続の開始から10か月という間の申告期限がありますので、そういったところで10年の一般的な商法の帳簿保存義務の中で、10年間のいろいろなデータの確認等をどれだけできるかというようなことも、1つ課題としてあろうかと思います。
もう1点、先ほどの委員からありましたように、いま私が申し上げたいろいろな数字や全体の数字ですが、何らかのところで線を引くことによって、こういった申告の件数ですとか対象となる方を減らすことによって、いろいろな管理等をしやすくならないかというような御示唆だと思いますけれども、まさしくそういった面も含めて、いろいろと検討しなければいけない課題がまだちょっと残されておるのかなと考えております。
〇委員
先ほどおっしゃった年齢でくくるのを、もうちょっと説明していただけますか。50歳、60歳になったときに、何をされたいのですか。
〇委員
例えば70歳以上になったら、その人からの贈与は、もう全部相続時にそれと統合されるということなんですね。一応は贈与税を払っていただきますけれども、相続税のときにその分は調整してあげますという……。
〇委員
その年齢をいつから区切るかというのは難しいけど、おっしゃったのはそういうことですね。
〇委員
その資料管理なり課税管理がもつかなと。この間、国税庁の次長さんがお見えになったときも、ちょっとそういうことを聞きましたら、制度の中身によるのだというようなお答えでございました。
〇委員
ただ、5万人とか13万人とかというあたりは、聞くと大した数ではないですね、やる気なら。コンピュータもあるし、そんな感じがしますけどね。いま、できないという趣旨で御発言があったわけではないのでしょう。少し可能性を探ってみようという御発言でしょう、多分。
〇事務局
まさしく実現に向けて越えなければいけないハードルというのがいくつかあるという認識をしております。そのハードルをどのよう越えていくのか、あるいは、そのハードルの高さをどの程度にするのかというのを、まさしく制度面あるいは執行面の努力でどんなふうにやっていくのかという御趣旨で申し上げたものでございます。
わかりました。
どうぞ、補足してください。
〇事務局
いま最後に言われた遺留分との関係、それから、先ほどの先生のほうの御説明でもお気づきになられた方が多いと思うのですが、民法上の相続は、いわゆる生前贈与の場合には贈与した時点の評価ではなくて、死んだ時点で評価しろと実は言っているわけです。10年前に贈与して完結したものを、死んだところでもう一回評価し直してといっても、そのものなんていうのは、課税上、担保されているかどうかさえわからない。現行の相続税もそうですけれども、一応評価なりは贈与した時点でもう完結させてしまわないといけない。税額の調整というのは後でできるとしても、少なくとも評価はその時点で完結する形にしないと、とても執行上はもたない。その意味では、相続税法は、完全な意味での民法上の相続法とはどこかで切り離して考えざるを得ない側面を持っているということは、1つ執務面の話として理解いただきたいということが1つ。
それから、今日のいわゆる農地の相続税の納税猶予、あるいは贈与税の納税猶予でもそうであるように、実は民法の均分相続をどこまで意識して上限を求めるか。例えば、子どもさんが3人いる。長男に全部くれてやるという生前贈与を認めてしまうのか、認めてしまわないのかという問題が実はあって、これを全部認めると、農地と同じで、全部死んだ時点でまた遺留分減殺請求で1から計算をしなければならないという問題を実は抱えております。
ですから、このあたりは、どういう仕組みを設計するかは、実務上は財産管理の問題と、執行した後の、いわば相続段階での現実の遺留分減殺請求民事訴訟の中に巻き込まれた税法上の扱いをいったいどうしていくかということなど、いろいろな執行上の制約がありまして、必ずしも単なる帳簿管理の話ではない。それ全体をどうやって過渡期的にやっていくかというような、いわば扱いの問題があるということは御理解いただきたい。総合的に検討せざるを得ない。そういう趣旨でございます。
〇委員
いまの相続税の体系から言いますと、贈与税を払った人は、相続のときに返せというのが多いのではないの。相続税を払う人がこれだけ少ないのだから、恐らく9割方は、みんな贈与税を払いすぎている。
〇委員
ということは、一元化すると危ないということですか。
〇委員
贈与税がおかしくなってしまうのではないの。
〇事務局
実はいまの贈与は、そういう意味では、もう贈与した時点で完結しているわけでして、死んだ時点で精算というのは、3年以内だけ精算をしています。それ以外はもうそこで完結で終わってしまっているわけです。評価ももちろん贈与の時点で終わっています。しかも、先ほど説明したように、40万件という贈与があるということは、実は相続税は、相続段階まで贈与しなければ、相続税を払わない人が贈与しているというのが実は実態としてあるということです。
そういう意味で、我々もむしろこういう実態を考えると、もうちょっと相続と贈与はニュートラルにすべきだと。中立的にして、もう少し、贈与段階での今のような高税率と非常に低い基礎控除というのが、明らかに民法上の相続法とは違う扱いになっているのではないか。何も政策税制の話ではありません。住宅とか何とかとそういう話ではなくて、まさに先ほどの委員が言われたとおり、そもそも相続・贈与の関係をもう少しニュートラルにする必要が、あるのではないか。それは、まさに現実は、贈与税を払いながら贈与している方は、実は相続段階まで贈与しなければ、相続税がかからなくても済んだ人であり、そうした人が贈与税を払って、ちょびちょびと子どもさんに贈与している。実際上贈与している額というのは数百万円のオーダーで、今はそんなに多額ではないわけでして、非常に少額の贈与が少しずつされているというのが多分実態としてあるのではないか。こういうふうに思う次第であります。
〇委員
一元化したら、まとめて相続税と言うのではないですか、そうなったら。
〇事務局
ただ、実はそこは、精算するかどうかというのは、極めて難しい執行上の問題を持っています。なぜかというと、10年前に例えば贈与したものが、もう残っているかどうかというのはわからないわけです。ですから、実は非常に難しいのは、贈与段階である程度払っておいていただかないと、土地のように物が残っている、農地のようなものはともかくとして、現金は雲散霧消してしまうという、執行上の、これはむしろ課税の側ではなくて、賦課徴収の側が実は全く機能しなくなる可能性がある。
〇委員
これは他の委員がこの間指摘されていましたね。
もうそろそろ時間になりますから。
〇委員
はい、簡単に。
先ほど相続税の「14-6」の資料で御説明いただいた13ページです。信託、これは見ながら非常におもしろいものだと思っていたのですが、いま議論になっているのは、相続税と贈与税の関係、一番簡単なのは、贈与税の場合に基礎控除を大幅に引き上げて、家族に分散させる。
それに比べると、13ページの信託というのは非常に技術性が高くて、間に信託銀行というのが入りますので、そういう観点からすると、広告次第で大分人気も出るかとは思うのですけれども、これを使って何かできないものなのか。例えば、元本は長男が受け継ぎますけれども、その収益はそれ以外の相続人といいますか、兄弟が受ける。収益の何%ずつ払いなさいというような形にしまして、あと、そうすると、先ほどの委員の「リア王」の話ではないのですが、やはり所有権は父親が押さえておかないと、息子たちは信用できませんので、委託者のところに置いておく。これが非常に見事な信託の形で、そうすると、誰のものでもない財産ができ上がるんですね。ノーバディズ・プロパティと言っておりますが。そこで、大きな矢印でみなし贈与となると、本当にほかの贈与と同じように、2,000万円で70%持っていきますと。事実上こういう仕組みが使えないし、使わせないようになっているのですけれども、この長い矢印のところを、何か分割で払っていくとか、とにかく、まだ財産が動いて収益が少しずつある状態のときに分納していくような形、こういうのはとれないのかなとずっと思っていたのですが、役所ではどうでしょうか。難しいでしょう、これは。
〇事務局
まず、信託に対する課税につきましては、先ほど、相続税・贈与税のこういったみなし贈与または遺贈の部分と、あと、実際に受益を受けたときの所得税のお話と両方させていただきましたように、財産の所有と、さらに誰が受益を受けるのかというところで、実は税制全体としての整理がいまのような形でなされております。というので、まずそういったところから信託というものに対する課税というものを考える必要があるのかなという気がいたします。
もう1つ、これは瑣末的な議論になるかもしれませんが、まだ我が国の場合、個人の方の信託、特定の信託財産の管理を例えば銀行が行うというようなことは、あまりまだ一般的に行われてはいないということもありますし、また、聞くところによりますと、一部にはまさしく課税逃れのような形でのこういう信託商品の設計をして、それをも販売しておるようなところもあるやに聞いております。そういった現状等も踏まえて、ちょっと考えなければいけない問題なのかなと考えております。
〇委員
いまの「リア王」ですが、これは「リア王」ではなくて、さっき御説明があった相続税と贈与税との中立性ですね。そこの観点なら、世の中の見方もまた違うと思います。
〇委員
わかりました。よろしゅうございますか。では、長時間ありがとうございました。
また租特のほうを残してしまいましたけれども、今日は問題提起された委員もいらっしゃっておりませんから、次回に回してもいいかと思いますが、資料を用意していただいた事務局の方には申しわけございませんでした。事務の不手際であります。
以下の予定を申し上げますと、次回は5月21日、火曜日になりますか。次週ですね。今回も1時から4時まで、国・地方の関係、酒・たばこ、エネルギー等、個別間接税の世界等、残ったものを一応全部整理いたしたいと思います。これを受けて次の総会に備えるということでございます。だんだん大詰めに来ましたので、残った問題は全部総ざらいできるようにしておかなければいけないという意味で、また御協力をいただきます。
では、今日は長時間ありがとうございました。
〔閉会〕
(注)
本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。