第7回基礎問題小委員会 議事録
平成14年3月5日開催
〇委員
まだお見えでない方がいますけれども、追っつけお見えになるでしょう。第7回目の基礎問題小委員会を始めたいと思います。
きょうも、財務省の尾辻副大臣がお見えでございます。どうぞよろしくお願いします。
それでは、きょうは、「議事予定」のように、最初に今井さんからお話をいただきます。その後、神野さんも踏まえて事務局からお話をいただくという格好で、後半はそういう段取りで行いたいと思います。
最初に、お手元に地方公聴会「税についての対話集会」の開催日程等のご案内がいっていると思いますが、これを若干、簡単にご説明いたします。
1回目から6回目、一応案ができておりまして、千葉、鹿児島、帯広、津、大阪、松山と、一応場所が決まりましたし、日程も決まりましたし、時間も決まりました。1回目、2回目には、ご参加いただく方、諮問会議の本間さんも入れて、このようになっております。お忙しいところをどうもありがとうございました。あと3回目から6回目はまだ固め切っておりません。
いずれにいたしましても、こういう形で6回やりますと、大体北から南まで、主要なところというか、拠点の街は回れますので、そこで忌憚のないご意見を伺って、今後の我々の参考にしたいと考えております。
時間帯は、午後を考えていたのですが、試みとして、第5回目に4時~6時半という夕方の時間で一応やってみようということになりました。ワーキングデーで、勤労者、あるいはサラリーマンが出てこられないという批判も記者レクの場で出ましたので、こういう試みをしてみたいと思いますし、いずれは夜とか、あるいは土日を使うといったようなこともできれば考えてみたいと思ってますが、当面6回はこういう形で、月曜、それから火曜でございますが、一応午後の時間帯を使ってやっていきたいと、このように考えております。
いずれまた6月以降もこの種のことを考えておりますので、また委員の皆さんには積極的に時間をやりくりしていただきまして、ご参加いただきたいと考えております。
では早速、きょうの議題に入りたいと思います。きょうはお忙しいところを今井さんにお越しいただきまして、財政制度等審議会の会長として、財政、あるいは日本の経済についてご意見をお聞かせいただくという形でございます。20分ほどしか時間がございませんが、ちょっと最初ご説明いただきまして、我々の質疑にお答えいただけたらと思います。
ではよろしくお願いいたします。
〇委員
ご紹介いただきました、財制審会長の今井でございます。きょうはそういう立場で、税のあり方との関連をお話し申し上げたいと思います。
資料を作っておりますので、資料を見ながらお聞きいただきたいと思いますが、まず、「財政の現状認識」ということで、歳出と歳入がどういう推移をしたかというのが1ページでございますが、結局、歳入のほうからいきますと、以前、ピークで60兆ありましたのが、その後、たび重なる政策減税、2~3回ございましたが、それとデフレの影響で、現在は15年前の昭和62年度の水準に税収がある。47兆円と。
一方、上のグラフは歳出でございますけれども、当時、15年前は57.7兆円がピーク、89兆円までいきまして、今年度の予算が成立しますと81兆円に下がるわけですが、税収は同じなのに、歳出のほうは40%ぐらい増えているというのが財政構造でございまして、税のことにつきましては、その次のページをちょっとご覧いただきますと、これは皆様ご専門ですから、振り返るわけですけれども、結局、この平成6年に1回、6兆円ほどの減税をやって、それから平成9年に、橋本内閣のときに消費税引上げがちょっとございましたが、その後2度ほど大きな減税がありまして、結局、今の47兆円レベルになっている。
12年度、13年度は郵便貯金の利子の課税で上がっておりますが、14年度はもとの本来の線に大体戻るということで、やはり減税を何回もやってきたことが今の財政構造に影響を与えているということをひとつご認識いただければと思います。
そして、その結果、長期債務残高でございますが、ご承知のように、13年度末では、国と地方合わせまして675兆円。今年度の予算が通って、年度末には690兆円ということになるわけでございます。
そういうことがございましたので、その次の4ページでございますけれども、財制審では去年の初めに、先生の、財制審の中の財政構造改革部会というところで、外国等に行ったりもして、中間報告というのを去年の6月8日に出してもらいまして、これを塩川大臣経由で経済財政諮問会議にも出してもらったということで、これをベースにして去年の6月の経済財政諮問会議の「骨太の方針」というのができ上がってきているわけでございます。
言っていることは、真ん中辺にございますように、とにかく財政のサステナビリティの回復・維持が非常に急務だということで、プライマリー・バランス均衡に向けた道筋をしっかりと示さなければいかんということと、右の下にありますように、この財政構造改革というのはやはり痛みを伴うけれども、経済社会の構造改革と一体的なもので進めなければいけないということになっておりまして、その各論が次のページにございますが、これはちょっと飛ばさせていただきます。後で戻りますが。
それで6ページをお開きいただきますと、財務省は、毎年、予算の編成のときに、それ以降、後年度の歳出がどうなるか、財政構造がどうなるかという機械的な試算を出しているわけでございます。これは2月に出たわけでございますけれども、一番下にその前提が(注)1.に書いておりますが、実質経済成長が0.5%、そして消費者物価上昇が0という前提で試算いたしますと、歳出規模が、14年度は81.2兆円ですが、15年度は85.5、そして17年度は92.4兆円になる。それから税収は当然、消費者物価が0でございますから、ほとんど横ばい、それから成長率も、ほとんどないということで横ばい。
結局、差額というところに公債の発行必要額が出ておりますが、14年度30兆円に押さえても、15年は35兆円ということで、17年度には42兆円にならざるを得ないと、こういう機械的試算が出ているわけでございます。
次に、内閣府のほうで、経済財政諮問会議でどういうのを出しているかと。これが7ページでございます。これは、内閣府のほうはある程度政策的に抑えなければいけないところは抑えると、増やさなければいけないところは増やすというインテンションが入っているわけですが、それにしても、真ん中辺にありますように、プライマリー・バランスが均衡するのは2010年以降だということで、非常に先のことになっております。
それから一番下にありますように、これを考えるときに、やはり持続的な社会保障制度、つまり、社会保険料との関係、それから地方の自立ということで、地方と国との税財源の考え方を整理する必要があるということを言っております。
次のページをお開きいただきますと、これはもう皆様ご承知の国民負担率の表でございます。一番左が日本で、税負担が22.9%、それから社会保障負担が15.5%。それで財政赤字を国民所得と比較しますと8.6%ということで、実質的な国民負担率は今46.9%、50%という線を一つの目安とすれば、もうそれにすでに近くなっているという分析をしておるわけでございます。
その次の9ページでございますが、先ほどのは財務省の機械的計算ですが、ここの経済財政諮問会議で1月25日に作りました数字はある程度の予測が入っております。一番上に【マクロ経済の姿】ということで、実質成長率がことしは0だけれども、来年が0.6、2004年度から1.5、それから物価の上昇率が4番目にございますが、ことしは0.9%のマイナスだけれども、来年、0になって、それからあとは大体1%ぐらいの物価上昇と、こういう前提を置いております。
そういう前提で計算をいたしますと、さっき、必要な歳出は削るという、後ほど申し上げますが、そういう前提でやると、プライマリー・バランスのところをご覧いただきますと、国と地方合わせたプライマリー・バランスの赤字は、2001年度がGDP比4.3%ですが、かなり政策的な努力をしても、ずっと右へいきますと、2006年度で半分になる。そしてプライマリー・バランスが2010年以降でないと均衡しないということになっております。
次のページをお開きいただきますと、経済財政諮問会議で考えている歳出の考え方が出ておりまして、大きな項目で見ますと、社会保障関係費というのが上から3番目にございますが、これが18.3兆、2002年度からずっと増えて20.9兆になっていくのですが、財務省のさっきご覧いただいた表では大体各年1兆円ぐらい増えていくわけですが、これはかなり抑制をして、各年の増を6,000~7,000億でとめるということで考えております。
それから公共事業費、さっきの財務省の案は横ばいで見ておりますが、これはパーセントで書いてありますが、大体3%ぐらい、各年減らしていく。それでバブルというか、政策的に公共投資に財政を使う前のレベルぐらいまで落とすという目標でやるということを言っております。
それから地方交付税でございますが、これはここで見るとかなり増えております。しかし、下のほうの【地方普通会計の姿】というところで見ますと、一般歳出が上から2番目、大体81兆円ぐらいで横ばいで見ておりまして、かなり地方の財政も抑える。したがって、地方交付税等という歳入の欄がございますが、これも増えてないという形にしております。上が増えているのはおそらく交付税の特会からの借金をやめるということでこうなっているのだと思います。
そういうことでありますと、地方は大体プライマリー・バランス、均衡しているという姿になっているわけですが、それを図で示したのが次の11ページでございまして、これはさっきの4.2%、GDP比の赤字が2006年には半分になって、2010年度に0.4%の赤字に、ほぼ均衡するまでにまだ10年ぐらいかかりますということを言っているわけです。
それからその次の12ページは、さっき地方はプライマリー・バランスが大体とれているということを申し上げたけれども、それは過去、交付税の特会からずうっと借り入れをしているという形で、いわゆる隠れ借金でやってきているということでございまして、ご承知のように、下の拡大する借入金残高、大体四十数兆円に現在なっておりまして、このうち約30兆円は地方が将来負担しなければいけないということになっているわけで、非常に大きな問題を抱えているということでございます。
以上がざっとした財政の状況でございますが、ちょっと5ページに戻っていただきたいと思います。これが去年の6月にまとめてもらった中間報告の、大きな歳出項目3項目にわたる「各論」でございます。例えば社会保障について言うと、医療、年金に分けまして、左が医療ですが、これは平成14年度に実施しなければいけないということで、医療費の効率化、適正化、それから負担のあり方、そして医療費の伸びと経済動向のバランス、この辺を中心に医療を抜本的に改革しなければいけない。
それから年金については、次は16年なのですけれども、それまでの間にいろいろなことを検討してやっていかなければいけないということで、この年金については特に基礎年金の国庫負担を3分の1にするか2分の1にするかというような問題があるわけでございまして、この辺はもし2分の1にすれば当然大きな穴があくわけですから、税と保険料とのバランスの問題になってくると思います。
その次の公共投資につきましては、ここにありますように、目標は「欧米先進国並みの水準に近づける」ということで、そのためには、今5カ年計画、長期計画でいろいろやっておりますが、そういうあり方の見直し、それから特に大規模プロジェクトについては事業の大幅な縮小・停止をやって、一層の重点化を図るといったことで減らしていく必要があるということを言っております。
それから地方財政につきましては、地方の行革との関係ですね。それから国から地方への交付税の、あるいは補助金等の移転をできるだけ縮小して、地方が独自に税財源を確保できるような、つまり、地方交付税制度の抜本的な改正を考えなければいけないと、こういうことを言ったわけでございます。
今までのところをとにかく総括して申し上げますと、結局、今の財政の危機は、1つには大幅減税の先行、それからもう一つには財政を経済対策として使ってきたことによる影響、この両面でございまして、両方から本当は攻めないと今の財政構造の改革はできないわけでございますけれども、小泉内閣がとった方法は、とにかく国民の納得を得るためには歳出の思い切った削減を先行させなければいけないということで、14年度の国債発行をかたくなに30兆円を守るというところからスタートしたわけでございまして、その後、今度、ことし税制の抜本的な見直しをやりたいということだと思います。
この税制の抜本的な見直しでございますけれども、私の考え方を簡単に申し上げますと、13ページ以降は経団連の考え方を書いておりますが、これにはとらわれないでお話しします。
数点だけ申し上げますと、1つは、やはり将来は、財政構造改革のためにはどうしても税収増を図らなければいけないということでございまして、今回の税制の抜本的な見直しが果たして増税になるのかどうかということは、税調の第1回のとき、私、総理に質問しましたが、それは結果次第だと、やってみなければわからんと、こういう総理のお話でございましたが、それが1つ。
もう一つはやはり、改正は何としても公平・中立・簡素ということを取り戻さなければいけない。余りにも複雑で、いろいろな控除等が多過ぎるということで、第1点はやはり課税ベース。これは個人、法人とも課税ベースの適正化を図って、みんなが負担するような税制をつくらなければいけない。
これもあるとき総理に質問したのですが、そうしたら彼が言うのは、今、所得税を例にとると、彼の言った数字ですから合っているかどうかわかりませんが、230兆の所得に対して130兆の控除があるから、実際、課税ベースは100兆だと。その100兆に平均13%で所得税が、彼は13兆と言ったのですが、どういう計算でそうなっているかわかりませんが、13兆、13%。しかし、控除をなくして、230兆の所得に全部かければ、平均すれば5%で済むではないかと。それは一番極端な例だけれども、そういったものの考え方で課税ベースの拡大を図るということだと、彼はそう言いました。
それからもう一つは、努力が報われる税制。これはおそらくできるだけフラット化に近いということを頭に入れて言っているのだと思いますが、そういうことだと思います。
それからもう一つは、我々経済の立場からいくと、やはり経済の活性化に資する税制でなければいかんということで、一番大事なことは、国際競争をやっているわけですから、大筋ではやはり国際的な整合性をとるということが非常に大事だと思います。
特に1点だけ申し上げるとすれば、研究開発ということが今後非常に大事なので、この研究開発については、かなり優遇措置があってしかるべきではないかと思っております。
それから、さっき申し上げましたように、社会保険料との兼ね合いで税を考えないとうまくいかないということで、国民負担率の観点から見るということ。
それから地方と国との関係を整理しなければいけないということで、この辺は税調と経済財政諮問会議との調整が必要になるところだろうと思っております。
最後に、最近のデフレ対策でいろいろ言っておりますが、今私どもが考えております一番有効な対策と思っているのを1つだけ申し上げますと、それは税収減にならないで、そして景気刺激ができないかということは、相続税の基礎控除の時限措置でいいから、それを拡大する。相続税というよりも、相続税の基礎控除を今持ってきて、贈与税として、今110万ですか、それを時限的に1,000万ぐらい、2年ぐらいに拡大してやると。これは先の控除を持ってくるのですから税収減にならないで済む。やはり年寄りがお金を使わない。若い人に所得を移せば、消費。それは住宅に限定するといえばそれはそれで一つの考え方でしょうけれども、そういうことをやるのがいいのではないかと思います。
それからもう一つ、言い忘れたのをつけ加えますと、やはり将来は少子・高齢化が進みますので、結局どうしても薄く広くという、つまり、勤労世代と企業の負担だけではなくて、やはり薄く広く、消費税ということが必要になると思います。
そうしますと、それに対する国民のアレルギーを消すためにぜひひとつ益税に対する修正、それからインボイス制度の導入といったようなことで、将来、消費税を上げられる基盤整備をしておく必要があるのではないかと思います。
私から申し上げたいのは以上でございます。ありがとうございました。
〇委員
ありがとうございました。大変貴重なご意見をいただきました。
それでは、今から30分ぐらい時間をとりまして、今井さんからお出しいただきました歳出面、あるいは税制面についての問題をめぐって、少し皆さんのご意見をお聞きしたい。あるいは今井さんに直接ご質問いただくのも結構だと思います。どうぞ、どなたからでも結構です。
〇委員
今井会長がおっしゃった相続贈与税の、これはデフレ対策として、65歳以上ですか、の人たちが持っている資産というのを若年層に移すという効果があると思うのですが、その場合に懸念されるといいますか、国民世論的にいいますと、最高税率を引き下げるというような話が先に出ますと、それでは金持ち優遇制度ではないかというようなことに議論がいってしまうわけですよね。ですから、実態としては、5%ぐらいの人しか相続税を払っていないわけですから、その辺をどういうふうにするかというのは1つ具体的に考えないといけない話なのではないかと思うのですけどね。
〇委員
結局、控除があるから5%ぐらいの人しか払わないわけですね。それは子供一人当たり1,000万円というのがあるわけですね。だから、それを今使ってしまえばいいわけです。今贈与として、2年なら2年という、3年なら3年でも、そういう時間限定でやれば、これは将来も税収減にならないし、今だって別に減税ではないわけです。それは贈与税という形でやればかかるものが、確かに税収減になるかもしれませんが、将来の基礎控除を今移すだけですから。だから、そういう意味では、私は税収減にならないで一番いいのではないかと思うのですけれども、そういうことで申し上げました。
〇委員
今の贈与税の基礎控除部分を先取りして贈与税というようなこと。税の仕組みの上で、事務局のほうから何か、そういうことは難しいのか、できるのか、もしくはあったら……。
〇事務局
贈与税と相続税の関係の話になるわけでございますが、現在、日本の贈与税というのは、ご承知のとおり、単年度課税をやっておりまして、毎年毎年、その年の贈与額に対しまして、110万の基礎控除を引いて税負担をお願いしているということでございます。
ただ、例えばアメリカでございますと、これは生涯累積課税という形をとっておりまして、贈与税というのと相続税一体として考える。まさに今井会長から話があった考え方に近いのかなという感じは受けております。したがいまして、こういった生涯累積課税的なものを考えるという一つのお考えだろうと思います。これはまさに現在の贈与税、相続税の関係のかなり基本的な見直しにつながる問題でございますので、この政府税制調査会の場でよくご議論いただきたいという問題とあわせまして、かなり執行の問題がやはり難しい問題があろうかと思います。
と申しますのは、この2年間で例えば贈与なされたと。基礎控除1,000万使われた方につきましては、将来、その方のお父様というか、その方が相続なさる場合ですね。その1,000万を使ったということをイヤーマークしておかなければいけないわけでございますから、執行上そういったことが担保できるのかどうか、そういった問題もあわせてご検討していただく必要があろうかと思っております。
〇委員
ありがとうございました。これはシャウプ勧告でも取得税としてアイデアが出されて、数年後につぶれてしまったという経緯もございますから、まさに生涯累積課税という意味で、少し我々としても勉強、検討する必要があろうかと思います。
どうぞ。
〇委員
まず前半の改正についてですけれども、公平にする、意味のない控除をどんどんやめていく、簡素化する、そういったことは今までも進めてきておるわけで、それ自体が今度特別な意味を持った……
〇委員
あまり進んでないですよ、それは。
〇委員
まあ進めようとしておられるわけで、今度の特別のこの改革が始まる以前から取り組んでおる、また取り組まなければいけないと考えておる。それは取り組まなければ当然いけないことだと思います。今特別に何をやるか、構造改革との関係で何か特別のことができるのか。大体、減税であるとか、景気刺激であるとか、いろんなそういう発想だと思うのですけれども、税制、あるいは財政を考えるときにやはり一番基本になるのは出るほう。出るほうがどうしても必要なら、こちらのほうも上げなければいけないし、出るほうがどうしても必要でないなら上げないと、こういう話になるわけで、ところが、出るほうについて、この委員会といいますか、こちらでいろいろ注文つけにくいといいますか、なかなか難しい面があって、そういう意味でトータルで考えにくい。
そういう中で、しかし、絶対に間違いないのは、1つは社会保障費が、これは高齢化がどんどん進むわけですから、増えていくことは目に見えておる。これにきちんと対応できるように、それだけの税収を図らなければいけない。これはもう人の問題ですから、政策以前の、どれだけ日本が人を大切にするかという基本にかかわってきておる。
もう一つは国債費といいますか、借金でありまして、こんな借金を抱えていて健全にやっていけるはずがないので、これはどんどん、さらにほうっておくと増えていく。これはもう破滅につながる道であろうと。そう考えると、借金を減らさなければいけない。そういうことも、これは政策以前にいわば選択肢のないことではなかろうか。そう考えると、歳入を図る面から考えても、社会保障費の増大と、国債費を返さなければいけないということは確実に言えることで、そのことは一般国民に対しても私は非常に説得力のあることではないかと思います。
ですから、少なくともその2つの理由をもってしても、税収を上げなければいけない。例えば消費税という形で上げるとか、そういったことをもっとはっきり打ち出して、社会保障費の増大の必然性、それから借金を返さなければいけない必然性をもっともっと説明していくということが必要であろうと基本的には私は考えております。
そういった前提に立って、今の相続税、贈与税の問題ですが、私は減税には反対で、むしろほとんど事業財産以外のものは全部とるぐらいのことをして、これを高齢者の社会保障費に充てていくということをはっきり宣言してやることが必要ではなかろうか。これは増大する社会保障費の負担を、特に若年層、中年層の負担を少しでもやわらげるという目的で必要であろうし、これが減税すると経済効果がある、景気の効果があるという議論がありますけれども、そういう証明が果たしてあるのだろうか。たった5%しか納めない。たくさんの費用をもらって、そういうものをどんどん使う、そういう子供というのはろくなことに使わないので(笑)、言ってみればモラルの退廃を招くのではなかろうか。
もともと人は同じベースから出て一生懸命頑張って財産をためていくというのが基本のルールでありまして、そこを景気刺激のために、親が財産持っているものについて特別な、さらにこれ以上特別な恩典を与えようということは基本的におかしいし、それが景気刺激につながるとは思えない。むしろモラルの退廃というマイナス効果のほうが大きいのではなかろうかと、私はそういうふうに思います。
〇委員
委員のご持論をお聞かせいただきまして、ありがとうございます。相続税100%にすると、残さないで生前に使うかもしれませんね(笑)。委員の理屈から言うと。
どうぞほかに。
〇委員
中長期的に効果のありそうなお話の中に、活性化という言葉を使って税制改正を考える場合に、今井さんがおっしゃったのは、国際競争力を強化するという観点で、研究開発費の優遇措置をさらに強化したらどうだというお話があったのですよね。これは今の経済の空洞化論からいろいろなことを加味した上で、総合的にここのところに焦点が絞られてきたと思うのですよ。経団連のお話もね、いつもの勝負と考えていると思うのです。
僕はよく通産省のお役人にも言うのだけれども、もしこれを本当に考えるのだったら、小さなスケールの租特の新書判みたいなことをやったって、格好だけついて、大した意味がないかもしれない。やるのなら、今井さんね、今まで租特で通産関係で随分並んでいるやつがあるのですよ。もう役目が終わったやつもかなりあるのですね。精査すれば。それをとにかく引っ込めるということ。その上にスケールのでかいやつを考える。
確かにこれをやれば日本の先端的な技術開発、IT関係も含めて相当の刺激になる。むだ金にならない。これは税制上の補助金ということですからね、ある意味では。というふうな大きなスケールの、みんなが、その話は納得できるというものを出してもらいたいのですけどね。
僕は経団連のあとのペーパーは読んでないからあれですけれども、今井さんなんかの頭の中にあるのは、どの程度を考えて、この研究開発の優遇ということを考えてらっしゃるのか。
〇委員
租特でいうと、もう今千何百億しか残ってないのではないですか。中小企業を入れてせいぜい4,000億ではないですか。残りは個人の生命保険とかね。だから、それを全部思い切ってやめていったって、せいぜい1,000億か2,000億の問題だと思いますね。だけど、私が言っているのはあまりちまちましたことではなくて、やはり研究開発費という、新たに研究開発用の資産を取得したようなときに、例えば即時償却するとか、ここに3つぐらい書いてありますが、そういったようなことを制度として、研究開発についてだけは入れていただいたほうがいいのではないかと。増税要求はほかはあまり言うつもりは全然ないのですけれども。
〇委員
まず、今井さんに財制審の会長としてご意見を申し上げたいのですが、6ページの一覧表、税収ですか、これもいつもいつも出てくるフォーマットでありまして、ただ、税収等という欄で、17年度、46兆1,000億、まあ46兆円ぐらいのペースで横ばいという試算があるのですが、企業家として見た場合、この表で果たしてご満足なのかどうか。
つまり、税収は確かに46兆円強という水準なわけですが、強制的に拠出されている負担というのは相当企業が抱えているという現実が一方にあるわけです。例えば医療保険の老人保健への拠出、あるいは健康保険組合だけで5兆円に何なんとする、これは強制的、いやも応もなくとられてしまう。しかも今度の医療保険改革なんか見ますと、被用者保険の、OBまで全部、組合健保等が面倒見ろという改正も入っている。そうなると、ますますそういった見えないといいますか、こういう表には見えない負担というのが出てくる。
もちろん個人のベースでいっても、社会保険料負担等々、これは無視できない額になるわけで、財制審会長として、税収等というものの隠れた、税収以外の強制的な負担、これがどうなっているのだというあたりを、事務方を叱咤激励して、もっと解明できるような一覧表ができないものかどうかということが第1の注文です。
それから2番目は、今度は経団連会長として伺いますが、経団連が2月に出された税制改革案、ここの資料にも配付されていますが、これを見ますと、言ってみると、工程表方式という手法が用いられているということであります。当面の措置と、それから中長期的、運資的な措置と2つ分かれている。これは限定しますと、当面はやはり経済の活性化、刺激ということに重点を置いた税制措置を施さざるを得ないと。その効果があらわれるとか、世の中が落ちついてくるとかなった場合に、より抜本的なという2つのステップをお考えのようであります。
私もこの考え方に実は理解を示すものでありますが、といいますのは、歳出面では実は経団連の表にあらわれたようなことがすでに第2次の、2月の補正予算でも動いているという現実がございます。例えば都市の再生あたりにはかなりの財源を割いている。2兆5,000億円、正確には2兆6,000ちょっとですが、ぐらいの追加支出。しかも全部公共事業ということでおやりになりました。本予算で1兆円削ったわけですが、補正予算で、その直後に2兆5,000億、追加歳出と。これ自体いろいろ議論があるところでありますが、中身を見ますと、かなり都市型、都市再生型に重点配分しているという一つの構造改革のねらいは一応うかがえる内容になっているわけであります。
一方、税制として同じようなことをやる必要があるのかないのかというのがこの税制調査会でも当面抱えている課題だと思うわけであります。住宅、あるいは投資、あるいは都市再生、ここいら辺をまず税制面からも、歳出ですでに動いているわけでありますから、税制で合わせ技で取り組んでいく必要があるのかないのか、そこら辺。
これは意見というよりも質問なので、お答えがあったら伺いたいと思います。
〇委員
今の社会保険料等については8ページにつけてありますね。さっき申し上げましたように、税負担が22.9%で、社会保障が15.5で、これはこのままほうっておきますと、社会保障の分だけがどんどん伸びていくという構造になっていくわけです。ですから、私どもとしては、小渕さんのときに官邸でやった社会保障を考える会でも、やはりある程度税のほうに社会保障を移していくと。さっきの基礎年金3分の1が2分の1なんていうのが三党合意で、これは実施されるかどうかわかりませんけれども、少し税のほうへ移していこうという動きがあるのですけれども、ただ、なかなか、やはり財務省は保険料は保険料でとって、税はあまりという考え方ですね。
これを見ても、しかし、諸外国に比べて税負担は日本は一番少ないのですよ。社会保障のほうがむしろ。ドイツ以外のヨーロッパは別として。ですから、ここら辺のバランスの問題は、会長が経済財政諮問会議にいらして、やはりこういう考え方をある程度どこでバランスさすのかということを決めないと進まないと思います。
私ども企業の立場、それから働く者の立場からいけば、社会保険料をあまり増やすということは困ると。だから一般の消費税のような、薄く広くで、税にもう少し負担をしてもらうほうがいいのではないかという考え方なのですけれども。今すぐそれは実行できませんから。それが1つ考え方です。
それから段階的にという工程表の考え方ですけれども、これはその次の9ページの基礎年金1/3の場合の、経済財政諮問会議が出した表をご覧いただくと、10ページのほうがいいのかな。黙っていても、かなり社会保障とか公共事業を抑えても、まだまだ公債金というのが大体34兆から36兆ぐらい出さないとやっていけないのですよ。ですから、私ども、工程表と言ったのも、今、景気刺激策をやれというのではないのです。
要するに、早くプライマリー・バランスをとにかく達成しないと、日本の国債の評価が下がってしまうとか、問題はあるけれども、それはやはり10年ぐらいかけてやらなければしようがありませんねと。それまではやはり歳出の抑えるべきところは抑えて、我慢しながら、使い方を効率よくやって、それで国債の依存度を少しずつ減らしていくという考え方が必要なのではないでしょうかということで、ここで大きな財政支出をしろとか、大きな減税をしろとかいうことを考えて申し上げているわけではございません。それは難しいだろうと思ってます。
〇委員
委員、よろしゅうございますか。
〇委員
はい。
〇委員
私は、財政再建のためには、やはり歳出削減と増税と、それからその他の構造政策と同時並行的にやっていかなければならない段階にすでに入っていると思うわけですね。それで、今、今井さんのお話を伺いますと、税制のほうではどうするのか。やはり財政構造改革のための税収増は必要である。これが第1点でしたね。それから第2点は課税ベースの適正化を図る。で、税制が経済活性化に資する必要があると今おっしゃいました。具体的には消費税のアップも必要であろうということをおっしゃったのですが、財政再建のための税制面から見た財源の中心、これはやはり消費税というふうにお考えなのかどうか、ちょっと伺いたいと思います。
〇委員
私はやはり、国際的な比較からいって消費税しかないのではないかと。今後の増税はですね。もちろん課税ベースを見直して、そしてフラット化しなければ、見直した分だけ増税になりますよね。だから、そういう直接税の増税もあるかもしれませんが、やはり将来の働く世代の負担の重さ、社会保険料を負担しなければいけないということを考えますと、やはり消費税しかないのではないか。そうでないと活力が失われてしまう。働く世代と企業だけにどんどん課税していく直接税だと経済の活力が失われてしまうと思いますから、やはり薄く広くという考え方が必要なのではないか。
だけど、今すぐ消費税といっても通りませんから、基盤整備だけしておいて、そして歳出削減で、国民がこれ以上はもうしようがないなという納得性が得られるところで、やはり消費税ということにせざるを得ないのではないかと思っておりますが。
〇委員
ありがとうございました。
ほかにいかがでしょう。
〇委員
現在の財政構造を次の世代に残すということは到底考えられないことでございますので、今の今井会長のようなお話の筋で、何とかプライマリー・バランス回復にと思いますが、私としては、税はやはり最後ではないか、その前に社会保障があり、そして歳出があるということではないかと思うわけでございます。やはり税か社会保障か。先ほどの話で、現時点では、国税の負担率と社会保障負担を比べるともう社会保障負担のほうが高くなっておりますが、ある意味ではこれはこれでいいのではないか。やはりぎりぎり受益者負担的な構造というものはそこで考えていっていいのではないかと基本的に思うわけであります。
おととしから介護保険が始まりましたけれども、これは所得250万を超える人はもう5万3,000円の年間負担になっておりますが、現時点でのサラリーマンの平均的な所得税負担というのは本当に10万に足りない水準でございますが、社会保障ということで、介護保険ということであれば、5万円、6万円でも何とか国民の皆さんに受け入れてもらっているような気がします。
それからまた、基礎年金、この年金を払ってない人が3分の1ぐらいいるというような話がありまして、どうしてこんなになっているのか。そういうことであればむしろ税でという議論もありますけれども、やはりそこは皆さんが負担して払ってもらうように、場合によっては歳入庁的な、社会保険料も税金も一緒に徴収できるような組織を考えてでも、ぎりぎり社会保障制度、社会保障負担というものは適切にいただくようにしたらどうかと思うわけでございます。
その次は歳出の点でございますけれども、これは小泉総理もよくおっしゃる、民間でできることは民間でと。極力やはり、国の手でなくて民間の手で処理してもらう。それが資源の効率的な使用につながるのではないかという気がいたします。最近のいろいろな世の中の風潮を見ましても、歳出があると、それによって利益を得る人たちがいろいろな形でそこにまとわりついてくる、それによっていろんな社会的な問題を起こすということもあるわけでございます。やはりぎりぎりの線で、歳出の節減・合理化と申しますか。
そういった意味では、この経済財政諮問会議の方向、例えば公共事業についても、先ほど3%ずつでございますか、全体の水準からすれば、欧米諸国のGDPの3%とか5%といった割合ぐらいに持っていける線が望ましいのではないかという気がするわけでございます。
しかし、そうはいっても、いろいろやってみてもなかなか足りないということであれば、最終的には税ということもあり得るわけでございますけれども、これはやはり基本的には社会保障制度、あるいは歳出の面の見直し、国と地方も合わせた問題でございますけれども、そういったものを徹底的に効率化する。合理化する。その姿を示した上でないと、なかなか国民の皆さんのご同意は得られないような気がするわけでございます。
〇委員
ありがとうございました。順序をつけていただきました。
それでは、もうお一人という形で、委員、簡単にお願いします。
〇委員
大局的にこの税制と構造改革というのをどういうふうに結びつけていくかという非常に、一種の経世的な考え方だと思うのです。事業意欲なり勤労意欲を増すというような意味では、所得税なり、要するに収益税系統のものから、消費税なり資産税のほうに税制としての軸足を移していくのではないかと。
それから所得税なり今の法人税なり、法人税割、法人事業税の問題、それの中におきましても、もう言われているとおり、税率構造をどの程度にするのか、これがやはり勤労意欲なり事業意欲という観点から1つ重要な要素であると思いますし、それから金融課税でも、利子課税と直接金融課税との間のバランス、要するに軸足は直接金融的なほうに持っていくべきではないか。
それから、この間も言いましたように、いわゆる勤労所得に対して年金等の課税があれでいいのだろうか。やはり年金等の課税というのは少し甘いのではないかというようなことを考えます。
それから法人関係のことでも、これは毎回私ども言っておるように、要するに黒字企業にだけかけておる法人事業税でなくて、赤字企業にも負担を分けて、結果的に黒字企業の税率、税負担を軽減するというような発想で考えていくべきではないか。
それから資産課税自由化といっても、これも固定資産と金融資産との間のバランスをどうとるのか。そこで変な選好が起こっても困りますので、バランスを考えつつも、全般的に収益課税的なものから消費税的なもの、あるいは資産課税的なものに軸足を移していくのが一つの大きな展開ではないか。
それから増減税をどうするか、いろいろご意見、個別的に言わないですけれども、今の経済……
〇委員
すみませんが、今井さんへのご質問ございます? ちょっと今井さん、ご予定があって、ご退室を予定されているのですが、ご意見は後でお聞きするという形でいいですけれども。
委員も今井さんにご質問ございますか。
〇委員
質問というか、意見ですが。
〇委員
でも、意見、直接言ったほうがいいのではないですか。
では、委員、ちょっと締めくくってください。
〇委員
1つ今井さんにお考えいただきたいのは、プライマリー・バランスの考え方です。国と地方との間でかなり差がある、こういうことですが、これは確かにそういうことかと思います。ただ、地方のほうは一種のキャッシュフロー的な考え方でやらないと、財政がまいってしまうのです。三千幾つの団体がありますし、今やペイオフで地方団体もまいっておるような状況でございます。ですから、単純な、構造的な意味のプライマリー・バランスというよりは、むしろキャッシュフロー的な発想がないと、これは地方団体としてはもたないのではないか。これは一つの意見でございます。あとはまた後ほど。
〇委員
では、委員、どうぞ。
〇委員
多くの国民は負担増に非常に反対というか、警戒感を持ってますけれども、心の中では将来やむを得ないと思っていると思うのです。その中で、何か逃げる理由として、税の不公平感。不公平かどうかは別として、とにかくフィーリングですね、不公平感というのが非常にある。
先ほど今井会長が例えば一つの例として挙げた贈与税の緩和ですけれども、結局、これは第一に、今まで長年、景気刺激の減税をやってきたけれども、これは効いてないし、今回のこれをしたとしても、おそらくさしたる効果はないのではないか。つまり、兵力の逐次投入の一種にすぎないのではないかという気がどうもします。
もしこれが本当に効果あるかどうかについては、一体どういう人がそういうお金を贈与できて、何に使う可能性があるか。既に110万円に1年前に上げてますけれども、これが一体どのぐらい実際使われているかというデータはおそらくないのではないかと思います。
結論としては、私はどうもこの贈与税の拡大には賛成できない。これを理由に将来増税するときにまた不公平の理由にされ、反対の一つの根拠のようになりかねないと思います。
それから今は、減税ということはあまり表面に出すような政策はいかがかという気が非常にしております。
〇委員
ちょっと。私、誤解されているのだろうと思いますけれども、先の委員のおっしゃったように、相続税の基礎控除を認めないで全部とってしまうというのだったら、それはわかるのですけれども、現行の相続税制度を前提としていると基礎控除はあるわけですから、その基礎控除を時限で先渡ししろと言っているわけです。ですから、減税にはならないのですよ、現実に。税収減にはならないのですよ。
〇委員
その場合、将来の相続税は……
〇委員
そこは非常に、課税上、徴収上、執行上問題あるかもしれないと言われました。そこは僕はわかりませんけれども、要するに将来の1,000万円の控除というのを今使っちゃえと、こういうことを言っているわけでございまして。
それから、減税してもみんな年寄りが使わないわけですから、若い人はもっと需要があるだろうと、こういう前提なのです。考え方は。だから、それは住宅にでも何でも使えるだろうと、こういうことで申し上げているので、一つの考え方として申し上げたわけですから
〇委員
ただ私は、そういう層は多分貯金でもして、預金でもして、使わないのではないかという気がするものですから。
〇委員
その辺いろいろ議論の分かれ目かと思いますので、我々、これからも問題として取り上げたいと思います。
今井さん、お忙しいところ貴重なご意見をいただきまして、どうもありがとうございました。
(今井委員退席)
〇委員
それでは、後半の議題に移らせていただきます。
後半は、まず最初に、事務局から資料のご説明をいただいた後、神野さんからサッチャー税制のお話を伺うという二本立てでいきたいと思います。
それでは、事務局、ご説明ください。
〇事務局
それでは、恐縮でございます。お手元にあります資料の基礎小7-2という資料と、前回積み残しになっておりました基礎小の6-3という資料でございます。
まず、基礎小の7-2のほうでございますが、これはこの前までの委員会でいろいろ宿題をちょうだいいたしました。すべてこの場でお答えするということはできませんが、引き続き調査中というものもあるということで、まとまりましたものをご報告させていただきます。
恐縮ですが、めくっていただきまして1ページ目。もうこれはおなじみになりました表でございますが、働いている方の4分の1の方が所得税を納めていないという私どもの推計でございます。
2枚めくっていただきまして3ページ目でございます。こちらがご要望ございました経年変化でございます。下のほうのラインが就業者全体に占めます所得税の納税者の割合。それから上のほうのラインでございますが、これは雇用されている方のうち所得税を納めている方の割合ということでございます。
下のほうの線でございますけれども、昭和60年から、見ていただきますと中長期的には、納税者の割合が、上がってくる。足元少し下がったということでございます-平成10年でございますが、これは定額減税がございましたので、ちょっと異常な年でございますので、そういった動向になっているということでございます。
下のほうに民間給与所得者の平均給与がございます。この納税者の割合でございますけれども、経済社会が成熟化いたしますと所得水準は伸びてくるということ。それから就業形態のほうも雇用化が進むということがございまして、中長期的にいえば納税者割合は必然的に増加するということでございますが、統計上いろいろな要因がございまして一概に申し上げることはできないのですが、累次の減税等もございまして、納税者割合の増加というのが、特に足元抑えられてきているということが申し上げられるかと思います。
それともう一つは、この非納税者のほうの中身の話でございますが、5ページ目でございます。黒いほうのラインが平成2年の民間給与をとられている方の非納税者の内訳でございますが、平成2年に443万人、これが平成12年は607万人と増えておるわけでございます。このうち、この前ご紹介いたしましたように、300万以下の収入の低い方、これが全体として、平成12年ベースで見ますと8割弱。ところが、平成2年で見てみますと、こちらが88%、9割弱ということでございます。
この要因は、申すまでもございませんが、右のほうを見ていただきまして、平成12年、これは住宅取得控除等が大きく効いているものと考えられるわけでございますけれども、全体といたしまして500万を超えるような収入のある方で、42万人の方、全体の割合としては7%でございますが、こういった方が所得税を納めてらっしゃらないということになっているわけでございます。
6ページ目でございますが、こちらもよくご存じのところかと思いますが、諸外国と比べましての我が国の実効税率でございますが、これは抜本改革前と比べますと、諸外国に比してかなり低いものとなっているということ。
それから7ページ目でございますが、これはマクロで見た数字でございます。G7、他の諸国につきましては、個人所得課税10%を超える、カナダにつきましては20%に達しているわけでございますが、我が国の場合、昭和61年度、抜本改革の前でございますが、ここの時点で8.9、これが現状6.8まで下がっているということでございます。
ちなみに国税で見ますと、6.2が4.3になっているということでございます。
その次の8ページ目でございますが、これは逐年の変化を見たものでございます。平成の初めあたりは、バブルの影響がございまして少し異常値を示しておりますけれども、全体として税制改正の影響等を受けまして下がってきているという姿でございます。
それから9ページ目でございますが、主要国におけます個人所得税の納税者割合がどうなっているかという話でございます。G7諸国について調べまして、実は課税の仕方が違うということで、日本、イギリス、カナダ、イタリア、これにつきましては同じような個人単位の課税をしているということでございます。ただ、残念ながら、イタリアにつきましては、確認をとりましたところ、統計上とれないということでございまして、そのほかのイギリス、カナダについてとってみましたところ、その真ん中にございますように、納税者数の割合は80%程度という結果でございます。
1枚めくっていただきまして、その他の諸国、アメリカ、フランス、ドイツの実情について申し上げます。
アメリカにつきましては、課税単位が個人単位と夫婦単位-二分二乗制度の選択制になっておりますので、なかなか単純に比較できないわけでございますが、ちなみにということで、ベースの違いを承知の上でということですが、提出申告書の数が、そこにございます1億3,000万弱。うち課税件数が9,500万程度ということで、割合は74%ということでございます。
それからフランスにつきましても、完全な世帯単位、N分N乗方式でございます。
それからドイツにつきましては、個人単位と夫婦単位の選択制と、アメリカと同様の制度でございまして、ここにつきましては依然調査中でございます。
それから11ページでございます。先ほどからお話も出ておりましたが、所得課税と社会保険の負担を、恐縮でございますが、例の夫婦子2人のモデル計算を各諸国についてしたものでございます。全体としてもちろん、社会保険料をとりますと上のほうにシフトしておりますけれども、形といたしましては平行移動したといったことで、やはり日本の負担が主要諸国に比べて低いということが言い得るかと思います。
その次のページ、生活実感ということでございまして、なかなか難しいのですが、先だって、委員からご指摘もいただきました。ここにございます小林至氏という、東大を出てプロ野球のロッテに入って、その後やめまして、コロンビア大学でMBAをとって、フロリダのほうのゴルフチャンネルという番組でコメンテーターをしてと、この方、フロリダですので地方税がないのですが、とりあえず、乱暴だが、総所得の5%前後を地方税と考えまして、一番最後の行でございますが、「仮に州税をこの5%とすると、総収入の27%が税金として持っていかれることになる。日本であれば、17%で済むところを」ということでございます。
ただし、この場合の税金は、アメリカの場合、社会保険料相当分が8%弱ほど含まれております。あと、日本につきましては、これはモデル計算で恐縮でございますけれども、17%より若干負担は高いというのがどうも我々の検証の結果でございます。
13ページ目、これもモデル計算したものでございますが、所得課税と社会保険料の負担、日本につきまして分けたものでございます。これもつとにご指摘いただいているところでございますが、例えば1,000万、かなり高い収入階層でございますが、ここで見ていただきましても、実は所得課税-所得税、住民税含めたものよりも社会保険料の負担が大きい。給与明細等をもらって負担感が強いのはやはり社会保険料というのがうかがわれるところでございます。
次の14ページ目でございますが、これはご指摘ございましたが、1つは間接税も含めた世帯の負担と、それから今の社会保険を含めた負担につきまして、実際の世帯について見たもので、IからXまで打ってございますが、下のほうから、収入階層を1割ずつ分けましたものでございます。
これを見ていただきますと、間接税と直接税合わせました負担でございますけれども、真ん中より少し下のあたりに欄がございますが、第1分位の7.1から第2分位の14.6という形で、比較的きれいに累進構造が描かれているという姿がうかがわれるところでございます。
それともう一つ、直接税と社会保険料を足しました、いわば手取り収入になる、名目収入から引かれる割合ということでございますが、これも、見ていただきますと、第1分位の10%程度から、第10分位の19.4%、20%弱という形でございますが、いずれにいたしましても、特に収入の低い層で見ていただきますと、直接税に比べて社会保険料負担は、手取りから引かれるベースで見ますと大きいということでございます。
それと、あと世帯別に負担がどうなっているか、納税、非納税どうなっているかわからないかということで実はやってみたものでございますが、正直申してあまりパッとした成果は出ておりません。そこにございます、B/Aというのが直接税の負担割合。それからC/Aというのが社会保険料の負担割合でございます。
これもまた最前からの話でございますが、下のほうのC/Aの欄、社会保険負担のほうが、平均世帯で見てみますと全般的に大きいということ。それから世帯類型で見まして顕著に違いがございますのは、左から2番目の欄、「片親と未婚の子供から成る世帯」を見ていただきますと、収入が低いということもございまして、直接税、社会保険料合わせました負担割合が少ないということでございます。あと「夫婦のみの世帯」につきましては、ほかの世帯に比べますと、控除の関係等あるかと思いますが、直接税の負担がやや高めに出ているというのが特徴的かと思います。全体として見ていただきますと、おしなべて16%ぐらい、平均的な家庭は引かれているというのがうかがえるところでございます。
16ページ目でございますが、課税最低限の議論をしているときに、そういったモデル計算する家庭があるかどうかということのある種の検証でございます。給与収入300~400万円の民間給与者の内訳でございまして、上下に分けております。配偶者控除の適用がある方とない方、それから左右に非納税者と納税者を分けております。
一番左のブロックでございますが、言ってみればここが課税最低限のモデル計算している方に近いイメージでございますけれども、配偶者控除を受けられて、かつ、1人~3人以上扶養されている家庭というのが、全体の非納税者54万いらっしゃる方のうちの7割、40万人弱。こういう方がここに属しているということでございます。
ちなみに納税者のほうでございますけれども、ここの階層で納税されている方が700万弱いらっしゃいますが、そのうちの4分の3、これは配偶者控除も扶養控除の適用もない方ということで、イメージというのがその右のほうに書いておりますが、これの場合、独身者、これは確実にここに入っております。それともう一つは共稼ぎ世帯の場合です。片側の扶養をとられてない方はここに属してくるということでございます。
それから17ページでございます。こちらは、アメリカ等、所得税負担が高いというお話に絡みまして、一体そういう源泉はどこから来ているのかということでございます。アメリカの場合、総合課税でございますので所得で見るしかないわけでございますけれども、調整総所得という概念がございます。これに対する割合を見たものでございますが、そこにございますように、給与・賃金で約7割。それから目立ちますのが、ちょっと下のほうでございますが、キャピタル資産の売却が1割弱ということで、実はイメージと違うのですが、事業・専門職業、こういったところは3.6%ということで占める割合が少ない。
アメリカの就業者全体に占めます雇用者の比率を調べてみましたら、92.6%、9割を超えるということでございまして、ビル・ゲイツ等も、考えてみれば給与所得ということになっているのかなあと思う次第でございます。
それから(参考)で「日本の所得税額の内訳」、こちらのほうは主だった所得源泉によりまして税額を分けたものでございます。見ていただきますと、(源泉分)のところに給与所得というのがございますが、これが61%程度ということで、アメリカより、税額ベースと所得で単純に比べられないのですが、少し小さいのかなと。
事業所得でございますが、これが(申告分)のところの一番上にございます。3.4%ということですが、(源泉分)の報酬・料金というところで、こちらのほうで10%の源泉を受けているということで、ここから少し含まれているものも考えれば、全体として事業・専門職業の割合は高いのかなという形でございますが、1つは、最前から申しておりますように、これは税額であるということと、(注)2.にございますように、源泉所得税の中には法人が負担いただく分も入っておりますので、それをちょっと割り引いてみなければいかんかと思っております。
それから18ページ目、北欧諸国の負担がどうなっているかということでございます。そこにございますように、ノルウェーからスウェーデンまで、社会保障まで含めました国民負担率で見ますと、60%から75%とかなり大きなものになっているわけでございます。
そのうち、この図で見ていただきますとわかりますように、租税負担のところで大分差がついているということで、中身といたしましても、個人所得課税、消費税、ここのところの割合が随分違っているということが見てとれるわけでございます。
それから19ページ目。これは、申しわけございませんが、随分前にご質問いただいた分でございます。実は貯蓄率が上がっているけれども、貯蓄動機、一体どういうものが増えているのか分析せよという話でございました。
その前に、実は貯蓄率の話でございますが、これはなかなか説明がつらいところでございますけれども、個別に家計について見ますと、確かに足元、貯蓄率が上がっているということでございますが、マクロの新SNA計算をしますと、実は貯蓄率は中長期的には下がりぎみできているということでございまして、これはいろいろな説が出ております。資産効果だとか社会保障の効果というのがございますけれども、実はマクロとミクロの間で整合性がとれない。
一番簡単な説明は、パッと見たところ、老人家庭が消費しているということのようにも読めるのですが、ミクロを見ますと実は老人家庭は貯蓄の積み増しに回っておりますので、これも説明がつかないということで、はなはだ恐縮でございますが、そういう事実の指摘だけさせていただきます。
20ページ目は「貯蓄目的の推移」。これは金融広報中央委員会がやったアンケート調査の結果でございますが、見ていただきますと、貯蓄動機といたしまして、子供の結婚資金、あるいは教育資金、あるいは住宅取得資金、こういったもののために貯蓄しているという層が少し少なくなりまして、病気や災害に備えるためというのが1番でございますが、ここが安定的に多いのと、もう一つ、老後の生活資金というところを貯蓄目的で挙げられる層が増えているというのが特徴かと思われます。
私のほうは以上でございまして、あと、基礎小6-3、これは積み残しでございますが、ここにつきましてはご参考ということで、GDP比率で見ておりますけれども、各国の財政事情、あるいは国民負担率等々の推移についての表でございます。
詳しい説明は時間がありませんので避けさせていただきますが、結論だけ申しますと、我が国を除きます諸外国につきましては、歳出、歳入両面の努力を通じまして、アメリカ、イギリスは単年度黒字を達成するということで、90年代通して、特に後半、著しく改善が見られるわけでございまして、アメリカのほうは、ご存じのように、クリントン政権下で、包括財政調整法(OBRA)、あるいは財政収支均衡法というのを出して努力を払ってきた。
それからEU諸国につきましては、マーストリヒト条約というものに基づきまして、EU統合を果たすために、それぞれ厳しい財政収斂基準を課したということで、歳出につきましては厳しい削減努力と、もう一つは、大きな要素といたしましては平和の配当ということで、国防費が随分切れたということが言われているところでございます。
歳入のほうでございますが、諸外国の租税負担率は、90年代通しましておおむね横ばいから若干増ということでございます。これは1つは経済が好調だったという影響、もう一つは、アメリカ等が典型的でございますけれども、制度努力を図った結果ということでございます。
簡単でございますが、以上でございます。
〇委員
貯蓄率が家計調査と国民経済計算、すごい乖離が出たのは、これはキャピタルゲインではないですか。つまり、国民所得統計というのはキャピタルゲインを入れないでしょう。家計調査というのは当然入れるのだよね。たしか、僕は昔、企画庁にいたときこういう計算をやって、そういう説明を納得したのだけど、もしかあれば。
事務局、どうだい、この辺。わからない? 何かあればどうぞ。後で調べておいていただいても結構だけど。
〇事務局
すみません。実はそこも調べたのですが、家計調査の別の欄に入っているのですけれども、これを出しているときに入ってないようなのです。
〇委員
そうですか。そうすると、いよいよもって、ワニの絵みたいな……また困るねえ(笑)。わかりました。
〇事務局
地方税のほうは今の資料の2ページと4ページ、所得税に準じた形で個人住民税ありますけれども、お時間もありますので、説明は省略いたします。ご覧いただければわかる資料でございます。
〇委員
でも、5分ぐらいいいですよ。せっかく資料つくってあるのに(笑)。よろしいですか。
それでは、今の事務局のご説明を聞いた上で、若干テーマが違うかもしれませんが、神野さんから、サッチャー税制のこれまでの来歴を、評価を交えてご説明いただきます。よろしく。
〇委員
それでは、サッチャー税制について発表させていただきますが、お手元に基礎小7-3-1というレジュメと、それから「参考資料」と書かれている7-3-2のほうをご準備いただければと思います。
最初にお断り申し上げておきますが、私、目が不自由なものですから、事務局に大変ご面倒をおかけしまして、きのう、7回か8回ぐらいやりとりしたのですが、まだつぶし切れておりませんので、間違いがまだありましたが、それは発表の段階でご説明させていただきたいと思います。
それと、私、イギリスの専門家でもありませんし、またアプローチが伝統的な歴史学派の財政学に立っておりますので、その点もちょっとご容赦いただければと思います。
最初に、1979年から90年、ほぼ10年間にわたって行われたサッチャー政権下のもとにおける税制改革を、「参考資料」の1ページ目をちょっとおあけいただいて、ざっとご覧いただければと思います。左側のほうに大きな改革が書かれておりますが、大きく4つに分けられるかと思います。1つは1979年から1983年ぐらいまでの時期で、この時期に行われた所得税のほうを減税しておいて付加価値税を増税するという、所得課税から消費課税へのシフトという改革が1つ。それから第2番目が1984年に行われた法人税の改革が1つ。それからもう一つは、1988年に行われた税制の簡素化と不公平の除去と書いてありますが、所得税をドラスティックに、2段階の税率構造にしてしまったという改革が1つ。それから1990年のいわゆるコミュニティ・チャージといいますか、人頭税の導入、この4つぐらいに分けられるかと思います。
この改革を行った結果で、租税負担率がまずどうなっているのかということですが、右側の図でご確認いただきますと、石油関係諸税を除いたので改革前が33.5だったのが33.9、それから、入れると35.2だったのが40.2ということで、サッチャーの税制改革では、結果として租税負担率を引き上げたということになるかと思います。
ただ、内部構造は租税の構造が変わっておりまして、所得税が14.4から13.4、それから付加価値税が3.7から7.5と上がっているわけですね。所得税は下がり付加価値税は上がる、それから法人税も3.0から5.2に増加すると、こういう構造になっているということですね。
次の参考資料をおめくりいただきまして、サッチャー政権下だけではなくて、前後大きく見てとっても、サッチャー期の税制構造の変化というのは、税負担率を上げて中身を変えたというのが大きな改革の内容だということがおわかりいただけるだろうと思います。
また1枚おめくりいただきまして、「イギリスの国民負担率の推移」というところを見ていただきましても、個人所得税が、サッチャーの前では14.7だったのが13.7に減少し、法人所得税、法人税が2.9から4.5に増え、付加価値税を中心とした消費課税が11.1から15.7に増加したというのが大きな全体としての中身だとお考えいただければいいかと思います。
そういたしますと租税負担構造はどうなるかということですが、4ページ目をおあけいただければと思います。サッチャーの税制改革が行われた前で租税負担率の階層別の構造を見ていただきますと、1979年、第4階層ぐらいまでが累進的になっていって、第4階層から最上階層までがやや減少するという負担構造になっていたのが、サッチャーの税制改革が行われた後ではないですが、末期の1988年でとりますと、最低の所得階層が急激に増加していって、第4階層までがほぼフラットで、最上の所得階層が急激に負担率を落とす。これは現金給付を差し引いておりますけれども、そういう負担構造のドラスティックな変化が行われたということになるだろうと思います。
最初のレジュメのほうに戻っていただきまして、1ページ目の「サッチャー税制改革の神話と現実」というところを見ていただきますと、依然としてサッチャーの税制改革、サッチャー政権のもとで行われた税制改革というのは、「沈滞した経済を活性化させた見習うべき税制改革として信仰を集めている」わけですけれども、もしもこれが経済の活性化に成功した税制改革とするならば、ここから引き出される教訓は2つありまして、1つは租税負担率を引き上げることが活性化につながるということですね。それからもう一つは租税負担構造のほうを低所得階層に重くシフトさせるという、この2つのことをやれば経済は活性化するということになるわけでございます。
(4)に書きましたけれども、私どもの伝統的な財政学の考え方でいきますと、財政というのは政治と経済の綱引き、経済から租税を多くとってしまえば経済は萎縮してしまいますし、また取り方を間違えれば萎縮してしまいますけれども、適切な税収で政治のほうに公共サービスをきちっと供給できていないと、政治のほうはむしろ混乱してしまうという綱引きが演じられる場なのですが、サッチャーの税制改革はどういう舞台でこれが行われ、その経験からどういうことが学べるかということを以下申し上げたいと思います。
2番目に「サッチャー税制改革の課題と理念」ですが、サッチャーは税制改革に当たってどういう課題と理念を持って当たったかということですが、おそらく3つにまとめられるだろうと思います。
第一に、最も重視したのが「インフレーションの抑制」。それから2ページ目をおめくりいただきまして、もう一つは、第二次世界大戦後定着していた戦後税制をいわば改革していくということ。それから(3)ですが、第二次世界大戦後に定着していった国家体制と申しますか、「ケインズ的福祉国家」とそれを名づけておきますと、そうした戦後の政治体制への対抗戦略をつくる。この3つにまとめられるのではないかと思います。
第一の「インフレーションの抑制」ということでございますけれども、確かにサッチャーはイギリスの経済を、イギリス病と言われているように、停滞させている主要な原因が租税負担率が高いことにあるということを認識していたのですけれども、第一の公約は、インフレーションを抑制して、イギリス経済を蘇生させることにあったということです。
インフレーションを抑制するには財政収支を均衡させるしかないわけですけれども、高い租税負担率を減税しながら財政収支を均衡させるということは事実上不可能でございますので、サッチャー政権は租税負担構造を変化させて、インフレーションを抑制させつつ経済の活性化を図ろうとしたと考えられるかと思います。
2番目の「戦後税制の改革」でございますけれども、これはイギリスに限らず先進諸国すべてに言えることでございますが、第二次世界大戦中に極めて租税負担率の高い租税制度ができ上がります。これは所得税と法人税を中心にした戦時税制ができ上がり、源泉徴収制度も入り、源泉徴収制度を伴う累進税率の高い所得税と法人税、それに一般消費税を加えている国もありますが、そういう租税負担率の高い税制ができ上がってくる。
この戦時税制をいかに戦後に定着させていくのかというのが、各国の戦後税制をつくる上での前提条件になったと思いますが、そういう戦時税制を平常化させるといいますか、恒常化させていくことを正当化した租税思想、これは制度学派が言っていることでありますが、それは経済政策と社会政策の手段として租税を活用すべきだという考え方にあったのではないかと思います。
もちろん、租税負担が高いということが経済にネガティブな影響を及ぼすということを認識しなかったわけではないのですけれども、社会正義、つまり、所得の平等な分配や、国民経済の適切な運営のほうを重視したと考えられると思います。
そして、第二次世界大戦後、先進資本主義国は「黄金の30年」と言われている高度成長を謳歌するわけですけれども、そのときには所得再分配と経済成長と生産性の向上という3つが両立するような、それに高い租税負担率が両立するような「幸福な結婚」の時代だったと言えるのではないかと思います。
ところが、第二次世界大戦後徐々に徐々にインフレーションが進展してまいりまして、所得税の課税網の中に低所得者層も巻き込まれていきます。一方で、経済政策の手段として活用していくために租税優遇措置が導入されていく。それから社会政策の手段としてさまざまな控除が導入されていって、結局、いずれの先進諸国でも抜け穴が非常に多くなって、抜け穴だらけの税制になっていたわけでございます。したがって、1980年代ぐらいでは、日本もそうでしたけれども、不公平税制の是正ということが先進諸国の各国の合言葉でございました。
そこに書きましたが、ハリントンが言いました有名な言葉で、税制は「金持ちのための福祉制度だ」という言葉は、その当時の一般大衆の心情を代弁していたと言っていいだろうと思います。
税率は高いけれども、課税ベースが抜け穴だらけになっている戦後税制、それは不公平だということが問われている時期に、サッチャーは税負担を低所得者層にシフトさせるということをやらなければならなかったわけで、これは極めて困難な改革だったわけですけれども、それを実現させていくにはそれなりの条件があったと考えられるわけであります。それが戦後のケインズ的な福祉国家に対する対抗戦略ではなかったかと思います。
サッチャーの福祉国家への対抗戦略というのは、単に労働党に対する対抗戦略ではなくて、3枚目をおあけいただきますと、保守党のヒース、つまり、保守党の主流派が持っていた「バツケリズム」、つまり、事実上ケインズ的な福祉国家を容認するという保守党の政策に対する挑戦でもあったわけで、極めてイデオロギッシュに「最小限国家」を掲げて、「ケインズ的福祉国家」に挑戦していく。もちろんマネタリスト的な思想に彩られていたのですけれども、サッチャーがいつも言っているように、「ビクトリアの美徳に戻れ」という合言葉のもとに、強力なイデオロギーに包まれて政策を推進していったわけでございます。
これが受け入れられていった要因というのは、いわばビクトリア時代というのは、イギリスが産業革命をやり自由経済をやって、それが栄光をもたらしたというのは小学校から中学校までイギリスでは何回も何回も教わっていることでありますので、おそらくそれが受け入れられていったといことだろうと思いますが、それだけではなくて、この1980年代から経済がグローバル化し、ボーダーレス化いたします。そして所得税や法人税という資本所得に重課している租税を増税すると、たちまち資本は海外へとキャピタル・フライトしてしまう、租税逃避が起こる。それがあの大きな推進していく力になったと。
それからもう一つは、サッチャーは税率を引き下げますけれども、課税ベースを拡大して、抜け穴をふさぐことによって公平性を追求した。これがサッチャーの税制改革を可能にしていることではないかと思います。
3番目の「サッチャー税制改革の概要」は先ほど述べましたので省略させていただきまして、中の改革についても説明をしている余裕はございませんが、イギリスの所得税というのはやや特殊でございまして、イギリスは所得税を生んだ母国で、1799年から課税しておりますが、その特色は分類所得税と比例税率と源泉徴収、この3つなのですね。
それで、イギリスの所得税というのは基本税率があって、資産所得に重い税率をかけるという差別税率を設定することと、累進税率も、ロイド=ジョージのときに、所得税とは別にスーパータックスという付加税を入れる。そこの図に書いてございますが、塗りつぶすような形で所得税率を入れるというやり方をとっております。
そこで、先ほど申し上げましたサッチャーの1979年の所得税改革では、5ページをちょっとご覧いただきたいと思いますけれども、まず基本税率というのが1本、ボンとあります。そのほかに1978年につくられた軽減税率というのが1本あって、そして、先ほど言った超過所得税というのを入れているわけですが、その超過所得税が9段階の超過所得税からなっておりますので、事実上11のブラケットから成り立っている。それをサッチャーは、軽減税率と基本税率と、超過税率を5段階にしましたので、事実上7段階にしたということなのですね。
そしてもう一つの法人税の重要な改革であります1988年の改革では、超過所得税のほうを1本にしてしまった。基本税率が1本、それから超過所得税を1本にしてしまいましたので、事実上2段階になってしまったということであります。
お手元の資料で確認していただきますと、6ページをご覧いただきたいと思いますが、サッチャー前は、今言ったような複雑な構成になっておりますけれども、11段階。それが1979年の改革で7段階、そして1988年の改革で2段階、こういう構成になっております。
今度は消費税のほうの改革でございますけれども、イギリスの場合には、卸売売上税と言うべき仕入税が戦争中に入っておりました。それに、5ページ目にサッチャー改革前の消費税を書きましたが、1966年に選択的雇用税という賃金の支払いに係る税金を入れるのですが、これは仕入税が財だけにしかかけられないでサービスにかけられないために、選択的雇用税を入れて、製造業は戻しますので、いわばサービス産業に課税するという税金である選択的雇用税と仕入税からなっていた。これを1973年に付加価値税を入れることによってこの2つの税金を廃止したということになるわけです。これも、1974年には付加価値税は標準税率8%と割増税率25%でしたが、サッチャーの、先ほどの1979年のときに、所得税の減税をすると同時に付加価値税の税率を15%に上げるということを行ったということです。
そして、6ページ目で今度は法人税の改革を見ていただきますと、1984年の法人税の改革は、先ほども見ていただきましたように、税率は引き下げておりますが、特別償却制度の廃止やストック・レリーフ、これはインフレ対策と言っていいかもしれませんが、それを廃止することによって、事実上、増税になる改革であったということですね。
そして、そこに英語で書いてあるところはSteinmoの文章ですが、この法人税改革というのは驚くべきことだと。なぜならば、結局は法人の負担を引き上げる改革だったからだと書いてありますように、増税サイドの改革であったということであります。
そのほかいろいろ改革が行われておりますが、6ページ目の7.の(2)「相続税」の1975年で、資本移転税の導入のときに、「累積は遺産税」は「累積的遺産税」に直していただきたいと思いますが、累積的遺産税、日本のような相続税、もらった人が払うのではなくて、遺産を残した人が払うわけですが、しかし、累積的に払う。この累積的、つまり贈与に累積していったわけですが、これを徐々に制限していきます。
7ページ目をおあけいただければと思いますが、84年には生前贈与に対する優遇を入れていきますし、1986年には生前贈与はやめまして、もとの遺産税だけに復活するという改革を行ってしまい、1988年には税率も40%の単一税率にしてしまって、急速に税率の低下を行っております。
こういう1988年の税制改革というのは、ドラマティック・ゲインズ・フォー・ザ・リッチズ、つまり富裕者のために劇的な利益だとフィナンシャルタイムズが言っているぐらいに大幅な減税を行ったために、おそらく私の想像では、サッチャーは最早、国税において大幅な減税をやるということは不可能な段階になっていったと考えられるだろうと思います。
そこで、1990年にコミュニティ・チャージという地方税に手をつけていきます。ところが、コミュニティ・チャージという人頭税を作ることは、サッチャーが、私の教師はアダム・スミスだと言っているわけですが、アダム・スミスの『諸国民の富』を読んでいただければわかりますが、アダム・スミスは人頭税というのは最悪の租税だと言っているわけですね。しかも、それは1381年のワットタイラーの乱をお考えいただければわかりますが、人頭税を投入すればどういうことになるか。
ワットタイラーの反乱で、ついにカンタベリー大司教は斬首されているわけですが、サッチャーは斬首はされませんでしたけれども、自分の首は吹っ飛んでしまったということだろうと思います。その後の、レイフォールド委員会というのは、有名なレイフィールド委員会ですので、ォをィにお直しいただければと思います。
結果としてでございますが、この光と影で、インフレーションの抑制にはまず成功したと言っていいと思いますし、特に第一次サッチャー内閣にはインフレの抑制に成功したという栄誉は与えていいだろうと思います。どこで確認していただいても構いませんが、「参考資料」の1ページ目の消費者物価の上昇率を見ていただいても、1979年まで上がっていったものが80年以降急速に落ち込んでおりますので、インフレ抑制には成功した。ただし、それは、失業率がずうっと上がっておりますが、失業率の増加という代償を払ってのことであるということだろうと思います。
そして何よりも、ローソン蔵相が「イギリス経済の奇跡」と呼んだ製造業の生産性が上がっています。ただ、7ページ目の下の図表に書きましたように、1960~73年が3.6で、サッチャー政権時の79~95年ぐらいまでは、一人当たりの製造業の産出は3.6から4.0に上がってますから、一人当たりの労働生産性は上昇しているのですが、製造業の産出の成長率を見ていただきますと、これは3.1から0.7、それから0.3と下降傾向でございます。
したがって、製造業の産出の成長率は下降していて、経済全体の生産性と産出の成長率も下降しているわけですね。したがって、イギリスの製造業の生産性の上昇というのは、サッチャー政権によって、非効率的な経営がドラスティックに整理が進んでしまったという結果であって、それは投資の抑制と低い生産水準で実現している。つまり、技術革新を基軸とする積極的な設備投資の拡大ではなくて、消極的な減量経営の成果である。つまり、果敢にチャレンジした企業が勝利したのではなくて、その当時言われていた有名な言葉ですが、「用心深さ」と「無慈悲な」企業が勝利したと言われています。
それから不平等は拡大いたしました。1977年までは不平等度は低下傾向にあったのですが、その後は明らかに上昇傾向にあり、いずれの先進諸国よりも上回っております。
お手元の資料の11ページをご覧いただきたいと思いますが、サッチャー政権下で不平等度がますます、下位の階層が増加していると いうことがおわかりいただけるだろうと思いますし、1枚おめくりいただいて12ページを見ても、貧困階層が増加しているということがおわかりいただけるだろうと思います。
それから改革の痛みとして、失業と倒産が増大している。失業はさっき見ていただきましたけれども、倒産も6倍になったと言われておりますが、資料では確認がなかなか困難なのですが、お手元の10ページ目をご覧いただければと思います。6倍というのは、歴史書でいつも6倍と書いているのですが、どこで6倍なのかというのはよくわからないところがありますけれども、10ページ目の1979年のサッチャーの倒産件数が4,537件ですので、それが多分、メージャーの1992年で見ると2万4,000になってますので、ここで言うと4×6=24で6倍かなということですので、かなり倒産も増加したということだろうと思います。
それからもう一つは、生活の安心と安全が破壊された。犯罪の防止のための政府支出は2倍近く増加いたしましたけれども、犯罪率は記録的な上昇をして、ECと書いてありますが、これはEUに直していただきたいと思いますが、EUにおける収監比率で言いますと、イギリスが最も高くなっております。これはJohn Grayの言葉でございますが、「特定の方向性を持たない市場の力によって共同体が荒廃し、その結果、経済的不安感が広範に行き渡ったが、これこそは、19世紀初頭以来の国民の生活において、おそらく比較にならない ほどに犯罪が蔓延した決定的要因である」、こういうふうに述べております。
その後(6)に、公共分野におけるモラール、士気、やる気と、モラル、倫理が低下した。で、機能不全に陥った。しかも決定的なことは、物的投資と人的投資を合わせてソーシャル・キャピタルと言いますが、人的投資への決定的な整備の立ちおくれです。したがって、次の次ぐらいになってくるブレアは、あなたの重視する政策を3つ挙げなさいと言ったら、1番、教育、2番、教育、3番、教育と、こういうふうに言うぐらいに、教育の立ちおくれが非常に激しくなってきて、モラルが失墜し賄賂が横行するようになった。これはなかなか挙証はできませんけれども、こういうことが言われているわけであります。
こうした教訓から学びますと、9番目、「教訓から学ぶ」ことは、私たちがサッチャーのいいところを学び悪いところを捨てるという場合に考えなければならないことは、状況が明らかに違っているということを認識すべきだということだと思います。インフレーションとデフレーションという、状況が全く違う状況にある。そして現在日本は既に失業や倒産や改革の痛みに苦しんでいるということですね。
それから制度的な相違を認識するということではないかと思います。イギリスは、先ほどもご説明がありましたけれども、個人所得税の負担率は14.7%なのですね。日本はこれから個人所得税を減税するといっても、6.8%で、間接税の国と言われているフランスの11.7やイタリアの15.7の半分にしかなっていないという、制度的、つまり、私たちが改革の対象にしている制度が全く違っているということを認識しておく必要があるのではないかと思います。
10ページ目をおめくりいただきまして、むしろ学ぶことは、サッチャーのこの経験を見ても、強いファイナンス、有効に機能する財政ということですね。先ほどもちょっとご意見ございましたけれども、的確に公共サービスと結びつけて税金というのは議論すべきでありまして、そういう有効な公共サービスを供給できる強い租税制度をつくっておかないとだめだということだろうと思います。
つまり、富者や法人の租税負担を軽課するのであれば、福祉サービスで貧者、貧困階級にも受益を配分するというようなことをやらないと無理でしょうし、日本に必要なことは、最後に書きましたが、技術革新を進めて、生活を安定化させる有効な公共サービスを「推進できる」と書いてありますが、これは「供給できる」の間違いですのでお改めいただきたいと思いますが、供給できる強い財政を進める。
ただ学ぶことは、(4)「広い課税ベースで租税の公平を」図るということ。高い税率による抜け穴だらけの課税ベースで課税するのではなくて、低い税率で広い課税ベースで課税したほうが、より公平と効率性というのは両立できるというのは当たり前の話で、これはサッチャーに学ぶべきではないかと思います。
それから(5)「自らの判断で」というのは、私の余計なことかもしれませんが、自分たちの国の税金は自分たちの特色を生かして考えるべきで、イギリス国民のよさというのはプラグマティックなところにあったので、状況に柔軟に対応していくべきだったのに、サッチャーは非常にイデオロギッシュに、自らの国民のよさを忘れて、かたくななイデオロギーに固執したのが挫折の原因なのではないかということを言っているだけでありまして、これは無視していただいていい意見です(笑)。
以上でございます。ちょっと長くなりまして申しわけありません。
〇委員
名講義に聞きほれているうちに時間がなくなってきましたが、あと7~8分残ってますから、少し、神野さん、あるいは事務局のほうからの資料に対して、コメントなりご意見、あるいはご質問ください。どうぞ。
〇委員
制度学派によるサッチャー税制改革の評価、非常に興味深くお聞かせいただきました。ただ、サッチャー税制改革に対してはエキストリームな一つの解釈であろうと私は理解をいたしております。そのことの意味は、最後におっしゃった点にも関係するわけですけれども、プラグマティックな重要性というものを非常に考慮に入れるイギリスが、なぜイデオロギー的にならざるを得なかったのかということが非常に重要なポイントだろうと思います。つまり、国民の意識改革というものがまさにサッチャーのメジャーな役割、あるいは歴史に評価されるべきところであって、そこが今の、これですとイギリスが今現在、非常に悲惨な状況にあるというようなイメージでくくられておるわけですけれども、決してイギリスの今の状況はそのような状況ではないわけであって、この20年間にパフォーマンスの上でも極めて改善、改良され、そして第三の道というブレアの基礎をつくったという意味では、これは私はやはり大きな貢献であっただろうと思います。
そういう意味でこれはスタティックな解釈であって、ダイナミックな解釈という点では非常に私は問題があるのではないかと。我々が学ぶべきことは、余りにもプラグマティックにこの10年余りやってきた日本が、ここでイデオロギーも含めて日本の再生というものに対してどの程度意識改革できるか、それに対するメッセージを与えられるかどうかということが、豊かさぼけした日本の再生にとって極めて重要なのだろうと。
先ほどおっしゃいましたけれども、インフレとデフレの違いはもちろんあるわけでありますけれども、その問題点というのは、これは財政赤字が極めて資金の資源配分上大きな問題点があるという意味で、公的部門から民間部門への資金のシフトというものを意味したということであって、決してこういう社会的な破壊をもたらすような状況というものは、一時的にはありましたけれども、その後、メージャー、あるいはブレアの状況の中で、この問題というものが収束の状況になってまいりましたし、改革の痛みと言っておりますけれども、あの当時、イギリスの状況というのは、失業率とインフレの率というものが、今の日本と比べてどのような状況であったかと。
今の日本の状況が痛みと言っておりますけれども、あの当時のサッチャーの時代に比べると、痛みなんていうことではなく、極めて恵まれた状況にあったというのが今の日本の状況であって、その点での評価の違いというのはやはりもう一度フェアな形でやっていかないと、おそらくイギリスにおける評価の問題とも大分ずれがあるのではないかという感想を持っております。
〇委員
お答えいただく前に、あと二三ちょっと質問をとってからまとめて、学会方式でいきましょう。
〇委員
神野先生の出だしが、レジュメの1ページですけれども、信仰を集めていると。仮にサッチャー税制の評価が神話でないとすれば、教訓は2つだと。1つは、租税負担率を引き上げることが沈滞した経済の活性化に結びつく。税を上げたことがよかったのだと。第2は、租税負担率を貧困層に重くシフトさせることだと。だから貧困の人に負担をしわ寄せすればよかったのだと。ものすごいステートメントなわけですけれども、我々としてはだから、こういう解釈が、正直、正しいのかどうかという議論だと思うのですよね。
委員との議論の関係では、最初のこの図を、資料の1ページをご覧になっていただきたいのですけれども、78年と90年では状況が違うわけですよね。この間に法人税率がかなり差があったと。そして法人税の国民所得に対する割合が3から5.2%に上がったというのは、基本的には景気がよくなったからだと私は思います。それは間違いないと思います。したがって、負担率が上がったというのは、所得税が入っている限り、景気がよくなれば上がるに決まっているわけですよね。むしろこの程度の上がり方で済ましたところがイギリスの税制改革だったのかもしれない。
僕が同じ図を読むならば、基本的にはイギリスでは付加価値税を増やした。そして、所得絡みの税金というのはできるだけフラットにしていった。その結果、税収は、租税負担率は増えたけれども、それは政策の目的ではなくて、結果に起きたことなのだと。政策としては所得税の負担率を、限界的な負担率を下げて、付加価値税を上げて、その結果、それが直接景気に結びついたかどうかわからないけれども、結果的に景気がよくなってこういう現象が生まれた。とすれば、それは決して、負担率を上げることが活性化に結びついたとは私は言えないと思います。
第2点のしわ寄せの問題も、神野先生、一番最後に、広い課税ベースで租税の公平をと。これをやれば必ず下のほうの負担が上がるのは、私は当然だと思う。だけど、イギリスで、おっしゃらなかったのですけれども、その間にやったということは、クレディットというか、税額控除を上げたり、いろいろなことをしてきた。だから、ファクトの解釈というのは重要だと思うのですけれども、租税負担率を上げたから経済がよくなったのだ、貧困層に負担をしわ寄せしたからよくなったのだというのがステートメントならば、それは我々は相当注意深く解釈しないと、それはタックスポリシーに関する基本的な認識の問題だろうなと思います。
〇委員
じゃ、委員で終わりにして、神野さんに総括的に答えていただきたいと思います。まだいろいろあろうかと思いますが。
〇委員
今のと全く同じです。租税負担率が上がったのは結果ではないかということ。だから、私は省略します。
〇委員
いろんな面から見ているわけだから、いろんな言い分はあるわけだ。どうぞ。
〇委員
まず第一に、最初の先生の前に先生の、私のメッセージというのは、ちょっとすみません。不まじめに書いたかもしれませんが、皮肉を言ったので……
〇委員
そうだよ(笑)。
〇委員
もしも仮にこれが成功だと解釈するのであれば、こういうふうに政策を打つべきだということでございますので、現在、先生の解釈では、光輝いているということで、極端に言ってしまえば、であればこういうふうにやるべきだし、私のように、いや、光輝いてないと言えばこういうふうにやるべきではなくて、どこをどういじったらいいかということだろうと思います。
私のメッセージはある意味で先生と似ているわけで、状況が明らかに変わっているので、改革はしなければならない、こういうことは認めております。したがって、先生がおっしゃったのは、今非常にイデオロギー的な改革が必要なのではないかということで、その点では改革が必要だということは全く同じ考え方で、果断なくやるべきだと思いますけれども、第三の道が出てくる過程で、ほかのイギリスだけではなくて、さまざまな国々がさまざまな試みをやっているわけですけれども、それぞれの国々が状況が変わったので、自分たちの制度をあわせながら、その大きな状況の変化にどうやってドラスティックに改革をしていけばいいのかということを模索しているというのが現状だろうと思います。私もおそらくそういう認識に立っているわけですけれども、その中で日本の現状と日本の現在の制度をきちっと認識した上で変えていくべきだと。
したがって、サッチャーのイデオロギーで武装していいかということについて言うと、そこはちょっと先生と違って、武装してはまずいのではないかということをメッセージとして言っているということであります。それでよろしいでしょうか。それはちょっと事実の評価とかいろいろかかってくるかと思いますので。
〇委員
ちょっと誤解があるといけませので。私はサッチャーのイデオロギーを日本に適用すべきだということを申し上げているわけではなくて、オーソドックスな税制改革の議論というものを日本の中でどのように適用していくかということを申し上げておるわけでして、それはやはり、社会状況の大きな変化というものが今までのシェアード・エコノミー的な税制改革ではもたなくなってきていると。そういう意味では市場経済、グローバル化の中でどのように我々自身が経済の再生に向かっていくかという点で言っているわけで、サッチャーをそのままコピーしろというようなことは全然申し上げているつもりはないのです。
ただサッチャーの評価としては、神野先生の評価というのは余りにも厳し過ぎる。若干短期的な状況にとらわれ過ぎているのではないかというのが私のコメントです。
〇委員
私のちょっと読んでいる歴史書などでは、サッチャーの評価は年がたつにつれて悪くなるのですね。ご存じだと思いますが。当初は非常にいい評価が出ていたのですが……
〇委員
逆だと思いますよ。私が読んでいるのは……
〇委員
それは読んでいる本が多分違うのではないかと思いますので、そこはちょっと……。
〇委員
つまり、やっているときのサッチャーに対する風当たり、私、80年代の前半にイギリスにおりましたけれども、とんでもないことをやるというのが大方の見方でありました。80年代全部、ほとんど、サッチャーのいい評判を聞いたことがありません。しかし、90年代になって、サッチャーのイデオロギーを含めた問題提起については評価すべきであると。経済的に見ると、製造業、モノのほうからサービス化の方向に移っていくということが一つの大きな転換期をつくったという意味では、サッチャーの大きな冒険だったというのがおそらくスタンダードな経済学者の評価だと私は思います。
〇委員
委員、スタンダードじゃないわけではないのだけど(笑)。
〇委員
いずれにしても、私のちょっと読んでいる本では徐々に悪くなっているのでということですが。もう一つ、最後に、先生がおっしゃった、広い課税ベースとそれから低い税率というのは、貧しい人に負担が重くなるというのはちょっと私の理解と違っていて、私の理解は、むしろそれは実質的な累進性を確保するという意味ですので、形式的な累進性よりも実質的な累進性ということでございますので、決して低所得者層に重くなるということは意味しないと考えております。
それから最後に、法人税が、増税が意図された結果ではないのではないかと。つまり、意図せざる結果として、結果として増税になったのではないかというお話でございますが、景気が非常によくなって税収が増えるということは、分母が大きくなりますから、どういうふうに解釈するかということがまず重要になるということと、ここの政策過程はもう完全に、私の友人でありますSven Steinmoが明確に分析していて、大蔵省のローソンが演説する前まで知らなかったと。これはここで申し上げていいのかどうだかわかりませんが、イギリスの大蔵官僚がいかに巧みであったのかというその政策決定過程が書いてあって、結果として、読まされたときはこんなはずではなかったというものが出てきて、明らかに負担を変えるだけなのだと。それによって増税なのだということは明らかに意識されていた。そのときの国会の議論を見ていただいても、こんなことやったらものすごい、これはミクロといいますか、それぞれの企業が文句を言うわけですけれども、マクロとしても増税は意図していなかったということは明らかだろうと思います。
多分、またこれも、読んでいる本が違うじゃないかと怒られちゃうのですが(笑)、制度学派といいますか、Steinmoとか、そういう政治学者たちがイギリスの租税政策の決定過程というのを分析しておりますので、そこをちょっと議論いただけるといいかと思います。
〇委員
エンドレスですけれども、そろそろ終わりにしましょう。何か、日本財政学会であるセッションのエンドレスのスピーカー同士のやりとりみたいになって困りますけれども、ただ、大変おもしろく拝聴しました。神野さんは神野さん特有の言い回し方がありますから、よーく聞いてないと、皮肉っぽく言っているのを真に受けてしまうこともありますので、その辺はご注意いただきたいと思います。どうも本当にいろいろありがとうございました。
そこで、あと今後の予定だけお話しして散会にいたしたいと思いますが、次回は3月19日火曜日2時から開催いたします。そのときは水野忠恒さんからITと税制の関係、それから中里さんから国際課税につきましてそれぞれ、きょうみたいな形でプレゼンテーション行う予定でありますので、どうかこの場を活性化するように努力してください。その次は4月になると思います。まだ日程が固まっておりませんから、固まり次第、またお伝えいたします。
ちょっと時間が過ぎまして、不手際で申しわけございませんが、どうもありがとうございました。これにて終わりにしましょう。
〔閉会〕
(注)
本議事録は毎回の審議後、速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため速記録から、財務省主税局及び総務省自治税務局の文責において作成した資料です。
内容には正確を期していますが、税制調査会議事規則に基づき、事後の修正の可能性があることをご承知置きください。