平成19年度の税制改正に関する答申 -経済活性化を目指して-

平成18年12月
税制調査会

目次

税制調査会委員等名簿

本答申の審議に参加した委員及び特別委員は、次のとおりである。

委員 特別委員
伊藤 元重井伊 雅子
猪瀬 直樹井伊 雅子
井堀 利宏飯塚 哲哉
江上 節子井戸 敬三
江川 雅子井上 裕之
翁 百合岡田 ヒロミ
北村 敬子大橋 光夫
幸田 真音上月 英子
神野 直彦佐竹 敬久
田近 栄治高木 剛
長谷川 幸洋高山 憲之
林 宜嗣田中 稔三
本間 正明辻山 栄子
増渕 稔出口 正之
松田 英三中里 実
御船 美智子永瀬 伸子
山田 辰己原 丈人
横山 彰水野 忠恒
吉川 洋 
若林 清造

I 税制調査会の使命-総合的な税制改革に向けての視点と審議の進め方

(1)当調査会は、本年11月に安倍内閣総理大臣から以下の諮問を受けた。

「歳出・歳入の一体改革を進めていくにあたっては、「成長なくして財政再建なし」の理念の下、イノベーションの力とオープンな姿勢により日本経済に新たな活力を取り入れ、経済成長を維持していくことが重要である。こうした取組みの下、国民負担の最小化を第一の目標に、歳出削減を徹底する必要がある。

税制については、我が国の21世紀における社会経済構造の変化に対応して、各税目が果たすべき役割を見据えた税体系全体のあり方について検討を行い、中長期的視点からの総合的な税制改革を推進していくことが求められている。

こうした税制改革の中では、喫緊の課題として、我が国経済の国際競争力を強化し、その活性化に資するとともに、歳出削減を徹底して実施した上で、それでも対応しきれない社会保障や少子化などに伴う負担増に対する安定的な財源を確保し、将来世代への負担の先送りを行わないようにしなければならない。また、子育て支援策等の充実、地方分権の推進といった政策目的にも応えなければならない。

こうした税制改革の検討にあたっては、税制が経済や財政にどのように関わるかというマクロ的な視点、税制が企業や家計にどのように関わるかというミクロ的な視点に立った分析が必要である。

以上の基本的な考え方の下、あるべき税制のあり方について審議を求める。」

(2)当調査会は、この諮問を受けて、国民各層が豊かになる税制改革を目指し、次のような基本的な視点に立って議論を進めていく。

経済成長は財政健全化の牽引力になるという認識の下、少子高齢化、グローバル化がさらに進む21世紀半ばの我が国経済社会を見据えつつ、「成長力強化」、「財政健全化」、「健全で安心できる社会の実現」という相互に関連する目標の実現に向けた改革が、一体的に取り組まれるべきである。また、改革にあたっては、真の社会的弱者への配慮や格差を固定させない取組も必要である。

一方、極めて厳しい財政状況の中で、将来世代への負担の先送りを行わないよう、財政健全化にも正面から取り組まなければならない。こうした取組は、資金の流れを官から民へとシフトさせ、経済活性化につながるものである。このため、政府の掲げる歳出・歳入一体改革をしっかりと実行していかなければならない。自然増収がある場合にも財政規律を堅持する必要がある。平成19年度予算においては、今後5年間の歳出改革の初年度として、国・地方ともに聖域を設けることなく徹底した歳出削減を行うべきである。

税制については、中長期的な視点からの総合的な税制改革に向け、社会経済構造の変化に対応した各税目の在り方を検討していく。その中で、経済活性化、社会保障等の安定的な財源の確保、子育て支援策等の充実、地方分権の推進といった政策課題にも応えていかなければならない。

(3)当調査会は、まず経済活性化と税制について議論を行った。

経済活性化に向けた税制の検討にあたっては、財政健全化との両立という視点や公平・中立・簡素の租税原則を踏まえ、国際的な競争条件を揃え、イノベーションを加速し、オープンな姿勢をとることが重要である。

このような観点からの今後の検討課題の一つとして、法人実効税率引下げの問題が提起された。企業部門の活性化はその付加価値の分配を通じて家計部門に波及し、プラスの効果をもたらす。法人実効税率の問題の検討にあたっては、課税ベースも合わせた実質的な企業の税負担の国際比較、さらに企業部門の活性化が雇用や個人の所得環境に及ぼす影響等についての調査・分析を深める。また、税だけでなく社会保険料を含む企業の種々の負担の国際比較を行う。

イノベーションの加速という点からは、研究開発税制をはじめとする政策税制の評価を行うとともに、我が国の将来の基幹産業を生み育てるため、単なるマネーゲームにとどまらないリスクマネーの有効な活用方策の検討が課題である。また、企業の成長のための多様な資金調達の手段に税制がどのように影響を及ぼすのか、今後しっかりと検討していく。

オープンな姿勢という点からは、海外との経済交流を促進することが重要であり、投資や技術の受け入れ国における課税を相互に軽減する租税条約ネットワークのさらなる拡充等に取り組むべきである。

(4)今後の審議にあたっては、各委員の専門分野の研究蓄積も生かし、ミクロ・マクロの両面から、税制と経済、財政、企業、家計との関わりを調査・分析するとともに、個別税目だけではなく、税制全体、さらには社会保障制度をはじめとする諸制度とも関係付けた有機的な議論を行うことが重要である。そうした調査・分析、議論を基礎に、総合的な税制改革のグランドデザインを国民に分かりやすく示していく。また、政策論議の透明性を高め、国民に対する説明責任を果たす観点から、広報・広聴の果たす役割を重視し、情報発信の強化と合わせて広く国民各層・各分野の声を聴いていきたい。

II 総合的な税制改革の流れの中での平成19年度税制改正

平成19年度税制改正については、今後議論を深めていく総合的な税制改革の全体像との整合性を考慮しながら、早急な見直しを必要とする以下の主要な事項について検討を行った。

(1)経済活性化の観点からの減価償却制度留保金課税制度の在り方

(2)経済主体の選択肢を拡大する方向での会社法や信託法等における制度改革に対する税制面の対応

(3)国民に身近で関心の高い税制上の措置である金融所得課税の在り方や、納税者利便の向上や適正納税を確保するための施策

1.経済活性化に向けた速やかな対応

(1)減価償却制度

減価償却制度は、償却資産の使用期間にわたって費用と収益を対応させるものであるが、国際的な競争条件を揃え、競争上のハンディキャップをなくすことが重要である。このため、主要国では設けられておらず、合理的な説明が困難な償却可能限度額取得価額の95%)については、これを撤廃すべきである。

また、設備投資を促進し、生産手段の新陳代謝を加速する観点から、新規取得資産について法定耐用年数内に取得価額全額を償却できるよう制度を見直し、残存価額(10%)を廃止するとともに、償却率についても国際的に遜色のない水準に設定すべきである。

法定耐用年数・設備区分については、使用実態を十分把握した上で、簡素化等の見直しをしていく必要がある。特に、技術革新のスピードが早く、実態としても使用年数の短いものについては、早急に法定耐用年数を短縮すべきである。 なお、固定資産税における償却資産については、資産課税として、課税対象の資産価値を評価するために減価を行っているものであり、法人税の減価償却とは趣旨が異なる。今後、その評価方法については、税の性格を踏まえ、検討していく必要がある。

(2)同族会社留保金課税

同族会社には、税制上特別の措置が講じられている。これは、少数の株主の支配の下で、家族への報酬・給与の支払い等による所得分割や恣意的な配当の繰延べ等が行われるおそれがあることを考慮した仕組みである。留保金課税制度もこうした一環として位置付けられる。

平成18年度税制改正においては、それまでに行われた法人税率と所得税率の改正や企業の実態を踏まえて留保金課税制度の抜本的見直しが行われた。しかしながら、依然として、同制度に対しては企業の財務基盤の強化を阻害する面が残っているとの指摘がある。一方で、経済活性化の観点から、資金調達面での制約を受ける中小企業の資本蓄積を促進していくことが重要になっており、さらに、ベンチャー等の技術革新を支援し、競争力強化を図るといった政策的要請がある。以上を踏まえ、留保金課税制度のさらなる見直しを検討すべきである。

(3)エンジェル税制

我が国の将来を支える産業を生み育てるため、ベンチャー企業への資金供給を促進していくことが重要である。こうした観点から、エンジェル税制について、対象となるベンチャー企業の範囲を広げるなど、より使いやすくする方策を検討する必要がある。

(4)事業承継関連税制

中小事業者の事業承継に関する相続税の特例措置については、拡充すべきとの意見がある一方で、経済活力の維持への有効性といった観点から再検討する必要があるとの指摘もある。また、一般的に相続税の負担が低下している中で格差の拡大を招くおそれがあるとの指摘もある。

こうした議論を受け、今後、中小事業者における事業承継の実態を把握し、課税の公平性に留意して、経済活力の維持を図るとの観点も踏まえ、事業活動の継続に対する支援の基本的な在り方についてさらに検討していく。他方で、会社法の施行により発行が容易になった株主総会での議決権がない株式等の種類株式に係る評価の明確化といった当面講ずべき措置については適切に対応する。

(5)国際課税

海外との経済交流を促進するためのインフラとして、各国の税制の間を橋渡しする租税条約ネットワークの果たす役割は大きく、引き続きその拡充に努めるべきである。

移転価格税制は、国際的な取引が関連者間で行われる際に、取引相手国との協議を通じた調整を含め、両国における適切な課税を確保するための制度である。近年、企業活動の国際化の進展を背景に、課税件数・金額が増加しており、国際的な二重課税による企業負担の問題が指摘されている。本税制については、グローバルに活動する企業の予測可能性を一層高める環境を整備するため、適用基準の明確化を引き続き推進するとともに、手続の改善や相互協議体制の強化を進めて事前確認制度の迅速化を図るべきである。さらに、移転価格税制の特質にかんがみ、二国間の協議で合意が得られるまでの間、二重課税に伴う負担を軽減するため、納税を猶予する制度を導入すべきである。

また、常に変化するグローバルな経済環境の中での企業の活動実態を踏まえ、公平な経済活動の環境を提供する必要がある。このため、外国子会社合算税制について、合算対象子会社の範囲を見直すなどの適切な対応を講ずべきである。

(6)外形標準課税

法人事業税の外形標準課税は、税負担の公平性の確保、応益課税としての税の性格の明確化、地方分権を支える基幹税の安定化、経済の活性化等の観点から、平成15年度税制改正において導入されたところである。しかし、資本金を減少することで、外形標準課税の対象外となる事例が生じている。今後、減資の状況等を踏まえつつ、税負担の公平性を確保する観点から、対象法人の見直しが課題となる。

外形標準課税は、多数の法人が法人事業税を負担していないという状況の是正を図るとともに、法人所得に対する税負担を軽減する一方、付加価値等に対して課税するものであり、今後、応益性の観点から、その定着に努めていくべきである。

(7)政策税制の集中・重点化

政策税制については、PDCA(計画・実施・評価・改善)サイクルの確立が不可欠であり、経済活性化等にとって真に有効な分野への集中・重点化を一層徹底する必要がある。このような観点から、平成15年度に導入された研究開発税制は高く評価できる。一方で、役割を終えた既存の租税特別措置等については、引き続き整理合理化を進めることが重要である。

事業税における社会保険診療報酬の実質的非課税措置については、累次の答申でも指摘してきたところであり、税負担の公平を図る観点から、速やかに撤廃すべきである。また、自由診療に係る医療法人の所得に対する軽減税率についても、確実に見直しを行うべきである。

2.新しい制度改革に対する税制上の対応

(1)三角合併の解禁への対応

グローバル化が進み、経済環境の変化に迅速かつ柔軟に対応した企業経営を行うことが経済活性化の観点から必要との考え方の下、会社法の施行により来年5月から三角合併が可能となり企業組織再編のための選択肢が拡大される。これに伴い、税制においても、適切な対応が求められている。

我が国の組織再編税制は、企業グループ内の組織再編成や、共同事業を営むための組織再編成の場合に、同一の当事者が事業を継続する実態があると見て、譲渡損益の課税を繰り延べる考え方を取ってきており、三角合併についても、同様の考え方で対応すべきである。また、三角合併により新たにクロスボーダーの組織再編が可能となるが、これについては内外無差別を原則とすべきである。あわせて、事業譲渡類似等の我が国で課税できる非居住者・外国法人株主の得る譲渡益について、課税を繰り延べる結果、我が国の課税権が及ばなくなってしまう問題や、タックス・ヘイブンにある実体の無い会社を利用した三角合併により、租税回避を容易にする組織形態を作り出せるという問題への対応を検討すべきである。

(2)信託制度の抜本見直しへの対応

社会・経済活動の多様化に対応し、経済主体の選択肢を拡大する観点から、信託制度の抜本見直しを内容とする信託法の改正が行われる。これにより、信託に対する様々なニーズに対応して新たな信託が認められるなど、信託の利用形態が大幅に多様化することとなる。

例えば、事業を行うための1つのツールとしても信託を活用することが可能になることにより、我が国経済における事業形態の多様化がさらに進み、経済活性化にも資すると期待される。

この他にも、新たな信託法の下で、今後、様々な信託の利用ニーズが登場してくるものと考えられる。例えば、公益的な性格を持つ目的信託等については、今後、公益信託制度の見直しが予定されていることも踏まえ、信託のこうした利用実態に対応した税制上の検討を進めていくべきものと考えられる。

信託制度が多様なニーズに応えて発展し、適正な規律の下で有効に活用されることが重要である。一方で、新たな制度を利用した租税回避の懸念が指摘されている。こうしたことを踏まえれば、まずは、現行税制の考え方を基本とした上で、必要な場合に信託段階課税を行うなど、課税の中立性・公平性を確保するため適切な措置を講ずべきである。

(3)リース会計見直しへの対応

リース会計については、取引の経済的実態をより反映させる観点から会計基準の変更が予定されている。リースの税制上の取扱いについては、納税者の事務負担軽減にも配慮し、会計基準の変更を踏まえ、取引の経済的実態を適切に反映させるよう措置すべきである。

3.国民生活に関連する税制

(1)金融所得課税

[1] 金融所得課税の一体化

少子・高齢化の進展を背景として貯蓄率が低下する中、個人の金融資産の効率的な活用が、今後の経済活性化のための鍵となる。このため、近年、「貯蓄から投資へ」の政策的要請を受け、個人の金融商品選択における課税の中立性を確保し、簡素でわかりやすい税制となるよう、分離課税制度を基本として、金融所得課税の一体化に向けた様々な措置が講じられてきた。株式等の配当や譲渡益は、このような考え方から原則20%の税率による実質分離課税とされている。

今後とも、金融所得間の課税方式の均衡化、損益通算の範囲の拡大を柱とする金融所得課税の一体化を進めていくべきである。

[2] 上場株式等の配当や譲渡益の軽減税率

上場株式等の配当や譲渡益の軽減税率(10%)は、平成15年度税制改正において、当時の株式市場の低迷や金融機関の不良債権問題に対応するため、5年間の時限措置として導入されたものである。

現在の経済状況は、株式市場が活性化し、不良債権問題も正常化するなど、優遇措置導入当時と比べて大幅に改善している。また、金融技術の発達により金融商品からのキャッシュフローを様々な所得分類に加工することが可能となっている中で、課税の中立性確保のため、金融所得間の課税方式の均衡化が要請されている。さらに、株式等の保有状況を考慮しつつ、公平性の観点にも留意する必要がある。

これらを踏まえ、平成19年(度)末に期限切れとなる上場株式等の配当や譲渡益の優遇措置については、金融所得課税の一体化の方向に沿って、期限到来とともに廃止し、簡素でわかりやすい制度とすべきである。

なお、上場株式等の配当や譲渡益に係る時限的な優遇措置の見直しによって金融所得間の税率を揃えるとともに、今後、金融所得課税の一体化を進めていくにあたって、次の点に留意すべきである。

第一に、「貯蓄から投資へ」の流れを確かなものとするべく、資金の流れに引き続き十分注意を払い続ける必要がある。また、この優遇措置の廃止が株式市場の無用の変動要因とならないよう工夫する必要がある。

第二に、個人投資家の投資リスクを軽減し、リスク資産への投資促進を図るため、金融所得の損益通算の範囲を本格的に拡大していくべきである。その具体的な範囲や仕組みについて、今後、早急に検討を進める。

第三に、配当所得については、事業参加性のある所得としての性格も有することから、総合課税を選択した場合には法人税との調整措置が適用されているが、今後、法人段階と個人段階での課税の調整の在り方についてさらに議論を進めていく。

(2)円滑・適正な納税のための環境整備

税制に対する国民の信頼を確保するためには、制度の公平・公正性、中立性、簡素性、さらには予測可能性が重要である。税務執行面についても、納税者の利便性の向上、負担の軽減の観点から、その在り方を適時見直し、改善すべきである。同時に、脱税や租税回避を防止するため、必要に応じ、適切な資料の提出を求めるなど適正な納税を確保するための措置を講ずる必要がある。

前述の金融所得課税の一体化にあたっては、源泉徴収制度資料情報制度金融番号制度等、適正な執行と納税者利便の向上を図るための納税環境の整備について議論を深めるとともに、すでに多数の投資家が利用している特定口座を活用した損益通算の在り方についても検討すべきである。

納税者全体の利便性の向上の観点から、国税におけるコンビニ納付を可能とすべきである。また、電子申告について、手続の簡素化等、その普及のための方策を検討すべきである。税務当局が差し押さえた動産等を売却する公売については、売却手続の円滑化の観点から見直しを行うべきである。

適正な納税のための環境整備として、源泉徴収、支払調書の提出の対象となる報酬の範囲を見直すとともに、投資ファンドから分配される損益に関する資料情報制度を改善すべきである。

納税者番号制度は、各種資料の名寄せ・突合を効率化することにより、税務行政の効率化・高度化、ひいては適正・公平な課税に資するものである。今後、住民票コード基礎年金番号、いわゆる「社会保障番号」の活用可能性を検討しつつ、これまで以上に積極的な取組が必要である。

また、公的年金受給者の納税の利便性を向上させるとともに、市町村における徴収事務の効率化を図る観点から、所得税や介護保険料と同様に個人住民税についても、公的年金からの特別徴収(天引き)を速やかに実施すべきである。

なお、国・地方の三位一体改革の一環として、平成19年に所得税から個人住民税へ税源が移譲される。この税源移譲により、1年間の所得に対する所得税と個人住民税を合わせた税負担額は基本的に変わらない。しかし、所得税と個人住民税の課税・徴収方式の違いから、多くの納税者は、平成19年1月から所得税が減り、同年6月から減少相当分だけ個人住民税が増えることになる。そうした変動について負担増と誤解されないよう、国民の十分な理解を得るために国・地方が一体となって積極的な周知を図るべきである。

(3)個人住民税

個人住民税は、「地域社会の会費」として住民がその能力に応じ広く負担を分かちあうという性格を有している。3兆円の税源移譲の実現に伴い所得割10%比例税率化され、応益性がより明確になることを踏まえ、その在り方を考えていく必要がある。

現行の均等割の税率は、1人当たりの国民所得等の伸び等を勘案するとなお低い水準にとどまっている。個人の税負担の動向にも十分考慮を払いつつ、税率の引上げを検討すべきである。

また、所得割の諸控除については、「地域社会の会費」としての個人住民税の性格を踏まえて整理合理化を図り、課税ベースの拡大に努めていく必要がある。こうした観点から、特に政策誘導的な控除については、所得割が比例税率化されること等も勘案し、控除額の水準等その在り方について速やかに見直すべきである。

(4)道路特定財源

揮発油税、自動車重量税等の道路特定財源については、「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(平成18年法律第47号)において、その見直しの基本方針が定められているところであり、この方針に沿って、現行の税率水準を維持し、納税者の理解を得つつ、一般財源化を図るべく、年内に具体案を取りまとめるべきである。

(5)地球温暖化問題への対応

環境税については、国・地方の温暖化対策全体の中での環境税の具体的な位置付け、その効果、国民経済や国際競争力に与える影響、諸外国における取組状況、既存エネルギー関係諸税との関係等を十分に踏まえ、総合的に検討していく。


以上、当調査会は、11月7日の安倍内閣総理大臣からの諮問を踏まえ、「成長なくして財政再建なし」との理念の下、経済活性化と税制を中心に活発かつ精力的な審議を行い、平成19年度税制改正に関する答申を取りまとめた。今後、経済活性化の果実が広く国民各層に浸透し社会全体を豊かにしていく効果等について調査・分析するとともに、今回の年度答申において議論を尽くせなかった諸課題についても、国民に分かりやすい形で審議を進めていくこととする。政府においては、平成19年度税制改正にあたって、この答申に盛り込んだ意見を指針として確実に実施することを期待する。