現地からの声: 身近なPKO派遣

UNMISS司令部要員(航空運用幕僚)
1等陸尉 森 一樹


私は、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)の司令部において、航空運用幕僚として勤務しています。今回はPKOに派遣されるってどんなものなの?という観点から私の南スーダンでの活動を紹介します。

初めて派遣のお話を頂いた時、「南スーダンってアフリカだったかな」「国連に派遣?!壮大だな」と思いましたが、「英語の勉強もできるし、やってみるか」と思い、希望しました。事前の研修等で知識は得ましたが、具体的なイメージは出来ませんでした。私の経験を紹介することで「凄そう」という感覚から、より身近に感じていただけたらと思います。

南スーダン概況と国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)

南スーダンとは?日本はなぜ派遣しているのか?司令部要員とは?といった質問は、当HPの該当箇所[1]を参照して頂くとして、本稿では南スーダンの身近な概況を説明後、具体的に今、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)が何をしているのかを紹介します。

・南スーダンの概況(南スーダンポンド価値暴落とインフレ)

2011年に独立したものの、様々な課題を抱える南スーダン。身近に感じる課題の一つとして、南スーダンポンド(SSP)価値暴落とインフレがあります。派遣当初(2015年12月)は100USDが2000SSP位だったのが、現在(2016年9月)は約7,000SSPです。それに伴い現地の食費が3倍近くになっています。南スーダン情勢が食事の値段で実感できます。


南スーダンポンドとUSドルの為替レート推移[2]

現地食堂の食事。2015年12月当時の価格は30~40SSP。2016年9月現在80~120SSP。

・UNMISSの主たる任務(マンデート)『文民保護(2016年5月現在)』

物価が上昇し、働く場所が無く、生活が苦しくなり、周囲が危険になり、自分の家に住めなくなる。そうすると人道上、保護される必要があります。それが「文民保護」の要素の一つです。「文民保護」は様々な定義があり、それらの中には対話や法律の制定等の環境構築も含むため、単純にこれだけとは言い切れません。南スーダンには約230万人(国民の約5分の1)の難民や国内避難民が存在しているといわれており、その解決には国際社会の支援なくして成り立ちません。

UNMISSに派遣されている各国の歩兵部隊や警察部隊は、パトロールを行うとともに、国内避難民を一時的に受け入れている文民保護サイトの防護、サイト内の治安維持等をしています。日本の施設隊を含む施設部隊は、文民保護のための施設を作ったり、道路を整備したりしています。

航空運用幕僚の仕事

続いて、航空運用幕僚が何をやっているのか、UNMISSに航空機が必要な理由とともにご説明します。

・南スーダン道路状況等と航空機の必要性

下の図は雨季の道路状況を示した写真です。南スーダンでは一部を除きほとんどの道路が舗装されておりません。この状況では、文民保護のための部隊やその部隊を支援するための兵站を陸路で送ることは困難になります。そういったわけでUNMISSでは固定翼機やヘリが重要な役割を担っているわけです。

雨季時の道路状況[3]                                                                                           © United Nations 2016


・航空運用幕僚の仕事

“航空運用幕僚”という名前がついておりますが、実際にはいわゆる「現場」の仕事です。

UNMISSでの私の役職はランプコントローラーというもので、UNMISSの航空機が駐機されているエプロン(滑走路及び周囲の移動エリア等)管理をしています。具体的には航空機運航に伴いエプロン内で行われる、航空機誘導、パイロットとの調整、人員・貨物の移動の統制等をしております。 最高40度半ばになることもある暑いエプロンに、左ハンドルマニュアル車で出て行き、直接又は無線機で英語のやり取りをしながらの勤務です。熱中症になりかけたり、運転に慣れずエンストしたり、英語の回りくどい表現(例:「Please be kindly advised that~~」等)に翻弄されたりしております。英語は未だに不慣れですが、聞き返したり、直接出向いたりして何とか業務を実施しています。

UNMISSランプ

職場の尊敬できる同僚たちとの国際交流

私の職場には、国連ミッションならではの様々な国の人達がいます。南スーダンのローカルスタッフをはじめ、ギリシャ、中国、パキスタン、ウガンダ、マラウィ、ジンバブエ・・・等、様々です。

日本人は勤勉だと言いますが、少なくとも私の職場の同僚たちは日本人と同様勤勉です。仕事にプライドを持っている。それでいて社交的でユーモアもある。尊敬できる人達です。

一つエピソードを紹介したいと思います。2016年3月11日、東日本大震災から5年目となる日でした。現地時間8時46分(日本時間14時46分)私も一時仕事を中断して黙祷しておりました。黙祷を終えると、隣にいた南スーダンの同僚が神妙な面持ちで「5 years after Japan disaster? Sorry for Japan」と話しかけてきました。

何も話していないのに知っていたことに驚くとともに、世界で一番新しい国である南スーダンの人が日本に対して気持ちを示してくれたことをとても嬉しく思いました。派遣前は「日本代表だからしっかりしないと」と身の程知らずな事を考えていましたが、国際交流などと肩肘張らなくても、人と人との関係、相互に理解し思いやる気持ち・行動が重要なのだと、南スーダンの同僚から教わりました。


スリランカ航空隊のパイロットと

同僚のフェアウェルパーティにて

終わりに 身近なPKOと国際平和

派遣前は、「国連PKOって凄い」と漠然とした想いをもっておりましたが、ご覧頂いたとおり、実際には人種の壁を越えた一人一人の仲間との関係の中で、南スーダンの平和と安定のための業務を実施しております。

2011年に独立し、2016年4月に暫定政府が樹立したものの、人道、経済、治安改善といった大きな課題を引き続き抱えている南スーダン。国際社会、そして日本として、どのように支えていくべきかといった大きなことを考えながら、航空運用幕僚としての具体的で小さな日々の活動の積み重ねが、南スーダンの発展、さらには国際平和に繋がることを願っております。

ジュバを流れるホワイトナイル(ナイル川源流)

[1] よくある質問(南スーダン編)

[2] 南スーダンポンドとUSドルの為替レート推移
WFP SOUTH SUDAN MARKET PRICE MONITORING BULLETIN 1-30 April 2016

[3] UNMISSホームページ
UN police manoeuver roads in rainy season