現地からの声: 第7次情報幕僚として勤務して

UNMISS司令部要員(情報幕僚)
3等陸佐 諸冨 隆一


はじめに

以下は、朝、職場に到着して自分の席に到着するまでの挨拶です。

「モーニン、ナマステ、ウーリシャニ、アッサラーム、ケフ、シュボシャカール、ザオシャンハオ、ワスゼオテャ、マーレ・・・」

もはや、どこの国に来たのかわからなくなりますが、私は現在アフリカの南スーダン共和国で勤務しています。 今回[1]、貴重な投稿の機会をいただきましたので、「国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)司令部」勤務の様子や南スーダンの状況等について、紹介させていただきます。

[1]  本稿は平成28年6月10日に現地で執筆したもの。

1.言葉の壁

「ミッション支援部に勤務しています。」自衛官がこう書くと、何か物々しい雰囲気が伝わるかもしれませんが、そんなことはありません。なぜなら、私の勤務先は「軍事部門司令部」ではなく「ミッション支援部」であり、多くが文民(軍人ではない人)で構成されているからです。その中でも、私の勤務先であるJMAC(Joint Mission Analysis Centre)は7割近くが文民で構成されており、日本での勤務とは全く違う環境、文化、業務要領等の中で、毎日充実した日々を過ごしています。「全く違う環境」と書きましたが、特に代表的なものは、やはり言語でしょう。冒頭で挨拶の場面を紹介しましたが、当然ながら挨拶以外は英語でやりとりします。しかし、英語も各国それぞれ発音に違いがあって、元々英語が得意でない私は混乱の毎日。一例を挙げるとバングラデシュ人の「Wednesday」、ザンビア人の「Girl」、インド人の「dangerous」等、ごくごく簡単な単語が聞き取れないわけです。ましてや会話となると恥ずかしながら、毎日「sorry?(聞き返し)」と数十回言うような状況です。さすがに10ヶ月近く経過したので、わかっていない場合、周囲が勝手に言い直したり言い換えたりしてくれます(英語力が向上して、理解できるようになったと書けないところが残念です)。

英語といえば、アメリカ英語とイギリス英語の違いもあるようです(南スーダンは元々イギリスの植民地)。例えばお店で持ち帰りをしようと思って「to go」と言うと「?」という顔をされ、「take out」と言うと「take away?」と聞き返されたりします。茄子が欲しくて「エッグプラント」なんて言っても通じません。

さらに細かい話をさせて頂くと、業務においても、世界中から人が集まっているので、例えばセンターという言葉を「center」と書く人と「centre」と書く人に分かれます。そうすると何が起こるか。データ数をカウントするのに必要が有る場合等において、エクセルやワードで検索漏れが発生して二度手間になるのです。小さなことですが、多国籍の環境、外国の環境を実感する一例です。

JMAC集合写真(文民が多い)

2.ジュバとは

「ジュバ(首都)の生活環境はどうなの?苦労しているんじゃないの?」とよく聞かれますが、正直、あまり苦労は感じていません。もちろん、日本の生活と比較すれば不便なところは多々ありますが、住めば都とはよく言ったものです。国連機関、国際機関、さらに国際NGO等が集まっており、外国人向けのスーパーやレストランも増えているため、快適な生活を送っています。治安についても、地方では武装勢力等が活動しており、その状況の一部は日本のメディアにおいても稀に報道がなされているところですが、ジュバ市内は比較的安全です。市内には外国人が多く存在するため、日本人が歩いていても珍しがられることはありませんし、夜間の出歩きや国連が指定している危険スポットに近寄らなければ、そこまで危なくはないというのが個人的な印象です。

さて、ここで私が独断で選定したジュバ市内の名物について幾つか紹介します。

・ガソリンスタンド前の大行列

産油国ですが常時燃料不足のため(産油国ですが)、スタンドにガソリンが入荷された日は市内中で大行列が発生。道路上には車とバイク、給油機周りにはポリタンクを持った人々が集まり、ある種のお祭り状態になります。

・牛の大行列

市内では牛、ヤギ、鶏、犬、豚等をよくみかけますが、びっくりするのは牛飼いと遭遇したときです。50頭以上の角付き牛(角がとても大きい)が道路を渡る姿は圧巻です。車も諦めて止まるしかない。しかし止まると、後ろからクラクションが鳴り響きます。

・エコシステム

ゴミ収集システムが整っていないため、そこら中にゴミが山のように放置されていまます。そこに動物が群がって処理します。ここまではエコな感じがしますが、動物では処理できなかった余り物は、近所の人が火をつけて処理します。残念ながらペットボトルやビニールが混じっているので、毎日、黒い煙が町中で立ち上っています。

・数メートル先が見えない土煙

舗装道路が少ないので、車がもうもうと砂塵を巻き上げながら走ります。交通量の多い所では、前の車が見えなくなることもありますが、多くの道はスピードが出せないガタガタ道なので、そこまで土煙は立ちません。

・真っ黒な肉

市場では、その場で動物を捌いているのですが、炎天下で朝から放置されており、遠目には黒い肉なのかなと思うほどの大量のハエが集っています。そして、誰もそれを気にしないのです。

・某レストランの日本料理

かつて日本人シェフがいたと言うレストランでは「SAKANA-NO-NITUKE(魚の煮付け)」や「SYOGA-YAKI(しょうが焼き)」等のメニューがあり、少し嬉しくなります。ちなみに、魚の煮付けを注文すると、焼き魚とトマトソースが出てきました。

ジュバ名物 アフリカハゲコウ


3.仕事の紹介

次に私の仕事を紹介したいと思います。前述のとおり、私はミッション支援部のJMACという部署で勤務しているわけですが、JMACとはUNMISS全体の情報を司る組織で、以下が主な業務です。

①情報(政治、経済、軍事、犯罪等、多様な情報)を各媒体から収集・整理・分類

②それらの情報を各専門分析官が分析・評価・判定

③UNMISSのシニアオフィサーに情報提供し、状況判断に資する

上記の中で、私は主に①の業務を「Information Database Officer」という役職で実施しています。実業務は、各レポートを集める、新聞やニュースサイトをチェックする、データベースや統計グラフを作成する等、日々淡々とルーティンをこなすという感じで、現地の人と話したり、人道支援の方向性について議論を交わすといった事はなく、若干の寂しさを感じもしますが、レポートやニュースを通じてこの国を客観的、俯瞰的に観察できることはある種の充実感を与えてくれます。また、勤務を通じて、牛歩ながらも少しずつ前に進む(時には後退)この国の状況を見ているうちに、派遣前は全く関心のなかった南スーダンという国の平和と発展を願ってやまなくなっている自分に気付き、少し驚いています。

JMACの軍人たち(左から2番目が作者)

最後に

1年の任期も残りわずかとなりました。国際平和協力業務への参加という貴重な機会を得ることが出来たこと、多くの人に支えられて大過なく任務を遂行することができたことに大変感謝しています。残りの期間も全力で業務に取り組み、少しでも南スーダンのため、ひいては日本のためになれるよう頑張ります。