現地からの声:初の派遣を終えて

UNMISS司令部要員(航空運用幕僚)
3等陸佐 塩 崇


1.はじめに

私は平成27年1月3日に出国し、同年12月23日までの約1年間、UNMISS(国連南スーダン共和国ミッション)第1次航空運用幕僚として南スーダン共和国の首都ジュバにおいて勤務させていただきました。派遣前、1年間という派遣期間は、長い気がしていましたが、帰国した今、振り返ってみますと、充実した1年であり本当にあっという間でした。

今回は投稿の機会をいただきましたので、南スーダンの当時の状況やUNMISS航空運用幕僚の業務などについて、紹介させていただきます。

2.現地の全般状況等

(1)ジュバ市内の状況

ジュバ市内においては、窃盗などの軽犯罪はあるものの治安は安定しています。実際、日中出歩いたりアパート周辺でランニングや散歩をしても、身の危険を感じるようなことはありませんでした。

市内のマーケットには、そのほとんどがウガンダ等からの輸入品ですが、食料品から電気製品に至るまで多くの商品が並んでおり、大抵の生活用品は現地調達が可能です。また市内には、中華料理やインド料理などのレストランが多数あり、味もなかなかのものでした。外食はジュバでの生活における楽しみの一つでした。「タスカー」や「ナイルスペシャル」と呼ばれるアフリカ産の地ビールも予想外においしかったです。

市内の道路で走っている車のほとんどが日本車でした。少し誇らしく思う反面、かなりの割合を高級SUVが占めており、日本では高級で手が届かない車がこれほど出回っていることを少し不思議に思いました。ここにも貧富の差が表れているのかと思いました。その一方で、携帯電話、エアコン、テレビ等の電化製品のほとんどが中国製又は韓国製であり、「高性能で高価な物」より「安価な物を大量に」というアフリカの市場の特性を垣間見ることができました。

(2)司令部要員の居住環境

日本から派遣されている4名の司令部要員は、ジュバ市内のケニア人が経営するアパートにて生活しています。シャワー(水)、テレビ、エアコン完備で、質素ではあるものの生活に不自由を感じたことはありません。真ん中が大きく凹んだ(古い)ベッドのマットレスも当初は不満でしたが、だんだん体に馴染んできて快適です。まさに「住めば都」です。ただ、私の場合は、現地の水や食品が合わず2カ月程度腹痛で苦しみました。ペットボトルの水が、日本では軟質であるのに対し、硬質という成分の違いが原因だそうです。派遣間、特に役立ったのは電子書籍です。アフリカにいながら日本の雑誌や書籍を閲覧することができるので大変重宝しました。

アパート外観

3.UNMISSにおける航空機の運航状況

UNMISSはカナダ、スペイン、ブルガリア、南アフリカ、ウクライナ、ロシア等の様々な民間航空会社と契約した輸送機並びにUNMISSに派遣されていたルワンダ及びスリランカ航空隊(当時)の輸送機を日々運航しています。

これらの輸送機は首都に位置するジュバ空港をはじめ、マラカル、ベンティウ、ボルといった各州都に所在する飛行場に展開され、日々、各都市間を結ぶための人員・貨物輸送の定期便やその都度のニーズに応じた便として運航されています。

4.航空運用幕僚の業務

(1)全般

航空運用幕僚は、UNMISSミッション支援部の航空課に配置されています。航空課は文民のガーナ人をトップとして組織されており、輸送機の飛行計画を作成する部署や、飛行場を維持・管理する部署等から成り、非常にアットホームな部署です。事実、私は日本人として初めてのポストのため不安で一杯でしたが、職場の上司や同僚が親切にフォローして下さり、すぐに職場の雰囲気に馴染むことができました。派遣間、航空運用幕僚の業務として、日々の飛行計画の作成、着陸地点の調査及び駐機場の統制といった多岐にわたる業務を経験させていただきました。そして、日本人らしく誠実に勤務していればおのずと認めてもらえることも実感しました。

航空課の上司・同僚と航空課の宴会にて

(2)日々の飛行計画の作成

私が着任して当初の業務は、担当日の輸送機の飛行任務、飛行経路、飛行時間、制限事項等に関する計画を作成するとともに、作成した計画に対して、飛行当直として安全かつ確実な飛行が実施されているかを監督するものでした。特に苦労したのは、飛行当直に就いた時の電話での調整です。関係部署や地方のオフィスから五月雨式に問い合わせの電話が殺到し、そもそも英語だというのはもちろんのこと、名前を名乗ってくれない同僚がいたり、訛っている英語だったりと調整に手を焼きました。上司からは「声で相手を覚えなさい」とアドバイスを頂きましたが、中々慣れることができず、飛行当直に就くたびに冷や汗をかいていました。

飛行計画は10名程度で、交代で作成していました。日々変化する状況や調整相手等に関する情報共有が上手くなされていないと感じていたことから日本での業務要領を活用し、調整先一覧表の作成、掲示板を活用した情報共有等を試してみました。こういったところに、日本人的なシステマティックな業務要領を少しは反映できたと思っています。


勤務デスク(右側女性は直属の上司のケニア人)

飛行当直上番中

(3)着陸地点の調査

航空運用幕僚として、着陸地点を調査するためにベンティウとパリヤングという北部の地方に出張する機会を頂きました。国連定期便を活用して、地方の飛行場等の滑走路の状況、障害物、消防施設等の現状を調査するという任務でした。地方の飛行場は、航空機の運航間は歩兵部隊による警備が行われているものの、滑走路は未舗装で、フェンスもなく、地域住民はもとより、犬や山羊等の野生動物が縦横無尽に横断している様子を目の当たりにして衝撃を受けました。日本の安全基準では、およそ考えられない状況です。

私はこの出張の際、ベンティウに展開するモンゴル大隊に所属している防大時代のモンゴル人留学生の友人に、約10数年ぶりに再会することができました。熱烈な歓迎をしていただき、世界の狭さを実感するとともに、各国軍との交流の重要性についても再認識しました。

ベンティウ着陸場


(4)駐機場の統制

駐機場の統制業務は、ジュバに所在するUNMISSの駐機場において、航空機の誘導はもとより、車両、貨物、搭乗者等を統制するというものでした。無線を片手に駐機場での全ての行動を統制するため、非常にやりがいがありました。車中での業務とはいえ、40度を超える炎天下での業務のため、1日が終わると、もうくたくたでした。驚愕だったのは、ジュバ空港には誘導路が1本しかなく、また誘導路を現地人の車両、バイクが縦横無尽に横切るため、しばしば誘導路で航空機の渋滞が発生していました。また、空港の管制周波数も限られています。航空機の運航の管理は南スーダン政府による責任で実施されていますが、管制官等の人材育成や飛行場等の航空機運航のためのインフラ整備などの課題が数多くあることを垣間見ました。

UNMISS駐機場で航空機の誘導中

5.おわりに

今回の南スーダンでの勤務は私にとって初めての国際平和協力業務への参加でしたが、何十カ国もの国の同僚、上司と一緒に仕事する機会を得て、その多様性を受け入れることの重要性と相手を尊敬することの重要性を学びました。また、日本人の緻密さ、誠実さ等の強みを再認識しました。

今回、大変有意義な機会を与えていただいたことに改めて感謝したいと思います。

現地スタッフと司令部要員一同(右から情報幕僚、兵站幕僚、筆者、施設幕僚)