現地からの声:第6次兵站幕僚として勤務して

UNMISS司令部要員(兵站幕僚)
野呂 浩一

南スーダンは、世界でもっとも新しい国です。2011年にスーダンから独立して以降、国連ミッションが活動している国です。私は2015年1月10日に日本を出国し、12月23日に帰国するまでの約1年間、南スーダンにおいて、兵站幕僚として国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)軍事部門司令部で勤務しました。本稿では、現地での勤務を通じて学んだ、あるいは感じたことを書きたいと思います。

1.南スーダンの第一印象

2015年1月10日に日本を出国し、翌日、ウガンダに到着。ウガンダにおいて約1週間の教育を受けた後、ウガンダから南スーダンに向け国連の所有する飛行機で出発しました。上空から見た南スーダンの首都ジュバの様子は事前に想像していたとおり未発展の都市であり、前途の任務の多難さを感じました。

飛行機から降り立ったジュバは、サバナ気候の乾季特有の乾燥した暑さがあり、入国手続きの遅さと相俟って現地の時間の流れの緩やかさを感じさせられました。早速、出迎えてくれた日本人司令部幕僚とともに勤務場所へ行くと、UNMISSの勤務地域は多数のコンテナとコンクリート建屋で構成され、日本での勤務環境とはまったく異なることをすぐに理解しました。勤務する各国の軍人や文民達は、出身国も母国語も異なり、国連という組織で働くことを、到着初日から実感することができました。

2.軍事部門司令部での勤務

私はUNMISS軍事部門司令部の兵站担当部署において勤務しました。この部署は、オーストラリア人チーフ、副チーフ、バングラデシュ人、モンゴル人及び私の5名で編制され、私は南スーダンで活動するUNMISS歩兵部隊及び軍事連絡要員の日々の兵站支援の調整を担当していました。

日々の基本的な業務は、部隊等の補給や輸送を調整することでした。南スーダンは世界地図で見るとそんなに大きく見えませんが、実際には日本よりも大きく、人やモノを輸送するには手間と時間が掛かります。UNMISSでは、輸送のために道路輸送、河川輸送及び航空輸送の3手段を用います。最も基本的な輸送手段である道路輸送は、乾季は良いのですが、国内のほとんどの道路が未舗装であるため、雨季は地域によっては使用できません。また、南スーダンを南北に走る白ナイル川による河川輸送は、船による輸送が可能ですが、乾季には水深が浅くなるため重量物の運搬が困難になり、輸送効率が下がります。航空輸送は、航空機の数上の制約と輸送効率の問題があります。

このように上記の制約事項を踏まえて兵站的観点から優先順位を付け、日々の輸送及び補給を調整することが私自身の職務には求められました。ここでは、それまで自衛官として培ってきた経験を生かすことができ、我々自衛官が日々教育訓練等していることが実際に役立つことを理解することができました。

同じ部署の同僚たちと

同じ部署の同僚たちと

3.各国の軍人たち

着任してすぐに南スーダン国内各地に展開する歩兵部隊等の勤務環境の調査・報告のため、南スーダン各地を出張する機会に恵まれました。ジュバは南スーダンの首都であり、UNMISS司令部も所在していることから、街自体が他の国内都市に比べれば発展しており、物資も地方に比べればまだ潤沢でしたが、地方ではそもそも国全体として不足している物資が行き渡らず、UNMISSの組織でさえ様々な物資が不足していました。

2013年12月の国連決議に基づき軍事要員の上限が5,500名増大し、各国の新規部隊等が南スーダンに逐次展開する中、生活するための基盤である居住施設の整備が追いついていませんでした。部隊の中には灼熱のなか数ヶ月にわたりテントで暮らすことを余儀なくされる等、長期にわたる忍耐を強いられている場合もありました。しかし、そうした環境下においても、各国部隊の軍人たちはパトロール等の日々与えられる任務をひたむきに完遂していました。

国連ミッションで勤務する軍人たちは国の代表として過酷な環境下においてもプロ意識を持って勤務しています。国際平和協力業務の海外勤務経験を通じて改めて、自衛官としてのプロ意識の重要さを再確認することができました。

ケニア歩兵大隊訪問時

ケニア歩兵大隊訪問時

4.南スーダンの人々の日本に対する印象

日々の通勤の際に、商店に立ち寄り買い物をすることが時々ありますが、その際には仕事着である迷彩服を着用しています。我々自衛官の迷彩服には日本国旗が装着されており、現地の人々はそれを見付けると親しげに「ジャパン、ジャパン」と声を掛けてきます。もちろん、気をつけなければならない場合もあるかもしれませんが、多くの人々は日本を先進国の一つとして認識し、好意的な印象を持っている様子でした。それもそのはずで、街中を走る車のほとんどは日本車です。中には、走っているだけで感心するようなおんぼろの車もありますが、ピカピカの日本の高級SUVを見かけることもよくあります。そういった一つ一つの製品の印象が日本に対する好印象に結びついているようでした。また、南スーダンでは私のような司令部幕僚のほかに自衛隊の施設部隊が活動しています。施設部隊の丁寧な仕事ぶりは、UNMISSからの高評価のみならず、現地の人々の日本への好印象に繋がっていると私の立場からも実感できました。

普段、日本にいると気付かない、日本では当たり前のものが、海外では日本の高評価に繋がっていることを改めて認識することができました。

5.おわりに

私にとっては司令部要員として国際平和協力業務に参加するのは初めての経験でしたが、国際平和協力本部事務局、外務省及び防衛省の関係者並びに家族の支えがあって、なんとか任務を終えることができました。

国家レベルでの南スーダンの将来は、予見が難しいのは事実でしょうが、私が暮らした周囲を思い返せば、徐々に道路は整備され、新しい建物が次々と完成する等、少しずつでもそこに暮らす人々は前進していたように思えます。今後、南スーダンの諸課題が解決された暁には、豊かな資源を活用した発展が期待されるのではないでしょうか。日本国大使館主催のレセプションに参加した際に、出席していた南スーダン人が私に言った「わが国は教育を重視している。」という言葉は、街中で見かける制服を着て登校する子供たちを見ると、まんざら言葉だけでは無いようにも思えます。

南スーダンの平和と安定の定着を祈るとともに、私自身の職務が少しでもこの国の発展に貢献したことを信じて本稿を終わります。

現地で他の司令部幕僚たちと

現地で他の司令部幕僚たちと