現地からの声:各国工兵部隊等の活動に触れて

国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)施設幕僚
3等陸佐 渡邉 貴博

1 はじめに

 私は、今年(2012年)4月から、MINUSTAHの司令部において、施設幕僚として勤務しています。国連組織の職員の一部として様々な業務を行っていますが、私が日本から派遣され、内外ともに最も期待されていることは、「日本隊(自衛隊の施設部隊)が実施する案件(施設活動)に関する調整を行って、ハイチの安定化に貢献する」ことであると認識しています。
 私の職場は、MINUSTAH軍事部門司令部(Force Headquarters)の第8部(工兵部)内にある工兵運用課(U8 Operation Section)というところですが、エクアドル人の課長のもと、ブラジル人、インドネシア人、日本人、ペルー人及び韓国人の計6名の将校が勤務しており、課長を除く5名がそれぞれ、ブラジル隊、インドネシア隊、日本隊、チリ・エクアドル隊及びパラグアイ隊、韓国隊との調整を担当する職務編成が採られています。このことからも「工兵部隊を派遣している国々が、それぞれ自国部隊の活動を円滑に行うために要員を派遣し、幕僚として勤務させている」ことが確認できると思います。(ペルー人がチリ・エクアドル隊及びパラグアイ隊を担当している、という一部不整合もありますが・・・。)
 このような各国の意向がある一方、MINUSTAHでは同僚が休暇等で不在の場合には、勤務する者で全ての業務を代行することが当然となっており、私は日本隊の他に、数週間単位でブラジル隊、チリ・エクアドル隊及び韓国隊の3個部隊を担当する機会を頂きました。
 実際に各国部隊を担当してみると、一層その活動が如何なるものかを窺い知ることができますが、中でも日本隊の行う活動は確かに高い評価を獲得できていることを感じることができます。
 この「現地からの声」においては、日本隊の活動が高い評価を得ている理由について、現場で感じていることを述べてみたいと思います。

私の職場(U8 Operation Section)。一番奥から時計回りに、エクアドル陸軍中佐(課長)、韓国陸軍少佐、ペルー陸軍中佐、ブラジル陸軍少佐、インドネシア陸軍少佐、そして私img

私の職場(U8 Operation Section)
一番奥から時計回りに、エクアドル陸軍中佐(課長)、韓国陸軍少佐、ペルー陸軍中佐、ブラジル陸軍少佐、インドネシア陸軍少佐、そして私

2 日本への信頼

  この勤務は、私にとって初めての海外での勤務ですが、驚いたことの1つに「初対面にもかかわらず好意的に接してくれる人々の多さ」があります。
 プレハブを建てる調整で、ある警察署を訪れた時に、ハイチの警察官から「ジャポン(日本)?」「グッド・カントリー(良い国)!」と話し掛けられたこともありましたし、ハリケーン対処のため、緊急司令部で24時間態勢の勤務をした際に、仮眠所で休息を取ろうとしていたところ、その部屋に待機していた面識のないボリビア部隊の軍人たちが、夕食を分けてくれ(暴風雨への警戒から食堂や売店が閉鎖されていたため)、興味をもって話し掛けてくれたこともありました。
 これらは、ほんの一例に過ぎず、総じて、私が日本人という理由だけで(迷彩服に日本国旗を装着しているので識別できる)、初対面でも笑顔で挨拶してくれたり、話し掛けてくれたりするハイチ人・他国軍人が沢山います。
 即ちこれは、日本の持つ良いイメージに他ならず、これまで日本が世界に対して築き上げてきた信頼が、確かなものであることを感じずにはいられません。
 そして、この日本への信頼から、同様に、日本を代表する施設部隊(日本隊)を信頼し、期待し、この期待に応えた時に、より一層、高い評価を得られているように感じています。

3 技術の高さ

  私は、職務上、MINUSTAHの案件調整課(Mission Project Cell)という文民部門の職員から新規の案件について、「日本隊に担当してもらえないか?」という調整を受けますが、ここで多いのが重要案件についての調整です。
 例えば、首相官邸前の国連広場にある大理石の彫像が、地震によって上・下部構造にずれが生じた状態のままになっていたところ、ハイチ大統領からMINUSTAHの国連事務総長特別代表(SRSG)に対して作業の依頼があった時に、現場を偵察し、解決策の提示を求められたのは日本隊でしたし、2ヶ国部隊の隣接する宿営地の間にある側溝の改修において、他国部隊が偵察しその結果を報告しても作業の承認がおりない中、最終的にこの案件を任され、作業を遂行したのは日本隊でした。
 他にも多々例はありますが、総じて言えば、技術レベルにおいて、文民部門(MPC)の最大の信頼を獲得している部隊は日本隊であり、「できるか、できないか?」又は「どのような作業の方法があるか?」の最終的な判断材料は、日本隊による偵察結果であることが通例となっている雰囲気を十分に感じます。
 これは、これまでの日本隊が現場において示してきた作業の完成度の高さから来る「信頼」に他ならないと感じています。

自衛隊の施設部隊、第6次要員が構築した「シティ・ソレイユ警察署プレハブ」【Before】img

Before

自衛隊の施設部隊、第6次要員が構築した「シティ・ソレイユ警察署プレハブ」【After】img

After

自衛隊の施設部隊、第6次要員が構築した「シティ・ソレイユ警察署プレハブ」(地面はコンクリート傾斜地)

4 リクエスターの期待に応える

  日本隊は、リクエスター(案件の要求元)から大変感謝される仕事をしていることを実感しています。
 日本隊は、作業完了時に、日本隊の隊長による「完成点検」と「引渡式」を行っていますが、その際のリクエスターの笑顔や「パーフェクト(完璧)!」という言葉に触れると、現場で作業をしていない私でさえも、感謝される仕事をしている実感を共有できます。
 これは、日本隊が調整の段階から「何をどうして欲しいのか?」を細かく聴き取り、また、「このようなやり方もあるがどうか?」ということを主体的に調整し、作業の中間段階においても、リクエスターに来てもらいイメージに合っているかどうかを確認し、最後にしっかりと引渡しを行っているからであると思っています。
 他国部隊の中には、プレハブの完成後、引渡しを行う前に部隊を撤収し、その間に盗難事件が発生して引き渡せなくなり、問題となった例もありましたし、敷地造成において、相互の現地調整が不十分であったために、作業完了後も当初の要望と実際の設計が違うことを理由に、追加作業を要望され続けている例も見ています。
 日本隊は、このような問題を未然に防止するために調整や儀式を行っているのではなく、「そもそも誰のための仕事か?」に立ち返り、これに最大限貢献しようとする誠実な姿勢を示しているが故に、リクエスターからの感謝を呼び起こしているのだと認識しています。

自衛隊の施設部隊、第6次要員が即効性事業(Quick-impact projects)によって再建した「トゥルベ小学校」の引渡式img

自衛隊の施設部隊、第6次要員が即効性事業(Quick-impact projects)によって再建した「トゥルベ小学校」の引渡式

5 結びに

  これまで、日本隊の活動が高い評価を得ている理由として、私が現場で感じていることを述べてきましたので、「そんなに日本隊が素晴らしく、他国の部隊は劣っているのか?」との誤解の無いように付言したいと思いますが、6個部隊にはそれぞれに特徴があり、それぞれに優れているところがあります。
 具体的には、極めてスリムな意思決定機能を持ち、レスポンスが早いことや、完成度を追求せずに、取りあえずアクションを起こすこと、また、部隊の動きが軽快なこと等です。そして、これらは、「任務遂行の確実性」や「隊員の安全確保」を重視する日本隊の活動とは相反する要素となっています。
 発災から2年半が経過し、最近は「質」を期待される案件が数多く見られますが、本来、MINUSTAHのような緊急の復旧・安定化努力を支えるための活動では、「質」よりも「スピード」と「量」を求められる場が多いことは自明であり、このような時は、「夕方に依頼を受けても翌朝にはダンプトラックを差し出してくれる部隊」や、「遠く離れた場所にトレーラーを単独で差し出してくれる部隊」、「地形上当面の処置にしかならないまでも取りあえず要望された作業を遂行してくれる部隊」が必要であり、感謝されることもまた然りです。
 このように、それぞれの国々の部隊に優れている点があり、それぞれの長所を活用することによりMINUSTAH全体の活動が成り立っていることを感じます。
 私が最も強く実感していることは、地球の裏側で行われている日本隊の活動が、日本の国家・国民性を代表し、ハイチの安定化に確実に貢献していることです。
 私は、日本隊の主要な施設活動が終了するのとおよそ同じ時期に任期を満了し帰国しますが、「残りの勤務期間で、ハイチの安定化に如何に貢献すべきか?」との「問い」を日々心掛けて勤務しています。

職場(U8 Operation Section)の同僚等と共に 左からフィリピン海軍軍曹(庶務)、ブラジル陸軍少佐、ペルー陸軍中佐、エクアドル陸軍中佐(課長)、私、韓国陸軍少佐、インドネシア陸軍少佐img

職場(U8 Operation Section)の同僚等と共に 左からフィリピン海軍軍曹(庶務)、ブラジル陸軍少佐、ペルー陸軍中佐、エクアドル陸軍中佐(課長)、私、韓国陸軍少佐、インドネシア陸軍少佐

 平成24年9月