現地からの声:「世界で最も新しい国」南スーダン共和国での勤務を通じて

南スーダン国際平和協力隊
尾野 弘

1 はじめに

 首都とは思えないほど簡素なのに、人々の熱気と活気にあふれる都市。それが今、私が赴任している「世界で最も新しい国」南スーダン共和国の首都ジュバです。
 私は国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)担当の連絡調整要員として2012年4月より、ここジュバにて、UNMISS司令部要員・自衛隊施設部隊への支援、現地関係機関との連絡調整、本邦への日々の活動報告等を行っています。本稿では、日本の皆さんにとってあまり馴染みのない南スーダン共和国とこの国を支援する自衛隊施設部隊の活動について紹介したいと思います。

勤務する事務所前の筆者img

勤務する事務所前の筆者

2 南スーダンについて

  南スーダンに入国してまず驚いたのが、ジュバ国際空港です。国際空港と言えば、立派なターミナル等を想像すると思いますが、ジュバ国際空港にはそのような立派な設備は一つもありません。飛行機から直接降りてイミグレーションまで歩いて行きます。荷物は人力で運ばれます。また、空港を出てさらに驚いたことは、首都にもかかわらず高層ビル等が全くないということです。私が見た中で一番高い建物でも5階建程度です。
 ですが、世界で最も新しい国家の首都だけあって、建設中の建物が多く目につきます。そして何より活気にあふれています。ジュバ市内には隣国から多くの物資が入ってきており、市場に行けば物と人が溢れています。

ジュバ最大の市場、コニョコニョ市場img

ジュバ最大の市場、コニョコニョ市場

  ところで、南スーダンと聞くと危険なところというイメージをお持ちの方もおられるのではないでしょうか。正直なところ、私もこの国に来る前はそう思っていました。ですが、この国に来てから、私の印象はがらりと変わりました。街中を歩いていると、住民は気さくに声をかけてくれますし、とても友好的です。

南スーダンの人々とimg

南スーダンの人々と

  ただ、私が着任した頃から南北スーダン間で緊張が高まったこともあり、日本でも南スーダンが報道等で大きく取り上げられたようです。私も友人や両親から「ジュバは大丈夫なのか」といった連絡を受けました。ただ、私の回答は決まって「平和で落ち着いている」というものでした。確かに、南北スーダンの国境付近では、国境線が画定していないことに起因して南北スーダン軍の限定的な衝突がありました。しかし、軍事的衝突のあった国境付近は首都ジュバからかなり離れており、ジュバへの影響は見られませんでした。そういうわけで、日本から深刻なメールが来たときは、逆にびっくりしたものです。
 一方で、南北スーダン間の緊張や石油生産の停止によって、ドル不足によるガソリン供給の減少、ジュバの物価の高騰が起きており、この国の将来のためにも南北スーダン間の緊張緩和と石油生産の早期再開は必要不可欠だと思います。

ガソリンスタンドに並ぶ長蛇の列img

ガソリンスタンドに並ぶ長蛇の列

3 自衛隊施設部隊の活動について

  南スーダンは昨年7月に誕生したばかりの国家であり、長期にわたる内戦の影響からあらゆるインフラが整っていない現状があります。そのため、国連は南スーダンの国造り支援等を任務とする国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)を立ち上げました。日本としても南スーダンの国造りに協力するため、UNMISSに自衛隊施設部隊を派遣し、ジュバの道路等のインフラ整備を実施することとなりました。
 自衛隊施設部隊は1次隊が今年1月より段階的にジュバ入りして道路整備等の作業を行っています。ジュバの気候は厳しく、ときに50度を超える日もあります。また5月からは徐々に雨期に入ったこともあり、多量の雨が降る日もあります。このような厳しい気候条件の中、1次隊は4か月にわたってテント生活を続けたのですから、ただただ驚嘆するばかりです。

宿営地のテントimg

宿営地のテント

  テント生活ではありますが、隊員の食事はしっかりしています。3月まではレトルト食品だったようですが、4月頃から自炊できる体制が整い、今では南スーダンで唯一日本食を食べることのできる場所になりました。私も食事をしてみましたが、普段、アフリカ料理ばかり食べているので、久方ぶりの日本食に心躍りました。

施設部隊の食事の例img

施設部隊の食事の例

  隊員は非常に厳しい環境の下、日々の業務に臨んでいるのですが、その隊員を支えるための医療班もあります。医療班には普段は自衛隊病院等で働いている医官の方々が派遣されており、隊員を診察しています。実は私も体調を崩して、医療班にお世話になったことがありますが、日本人のお医者さんがいると安心感が違います。

医務室もテントですimg

医務室もテントです

  2012年6月現在、施設部隊は給水点連絡道整備、国連エプロンの整備、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の帰還民一時収容施設の敷地造成等を行っていますので、その活動を一部紹介させて頂きます。
 まず、施設部隊の国連施設外での最初の仕事となったのが、給水点連絡道整備です。給水点とは給水車が水を汲む場所であり、ここで取水された水がジュバ市民やUNMISSの生活水になります。その給水点までの道路がほとんど未整備になっていたことから、施設部隊により整備されることとなりました。施設部隊が整備していない箇所では、写真のようにタイヤが泥土に埋もれて走行不可能な個所もあります。施設部隊の整備により、地元住民からも大変感謝されています。

施設部隊が整備していない道路img

 

施設部隊が整備した道路img

施設部隊が整備した道路

  UNHCRのウェイステーション(帰還民一時収容施設)の敷地造成は6月から始まった案件です。スーダンには今でも多くの南スーダン人が生活しており、多くが南スーダンへの帰還を願っています。そういう人たちのことを帰還民と呼んでいるのですが、彼らは容易に南スーダンに帰還できるわけではありません。UNHCRは大変な困難を伴いながら南スーダンに帰還した人たちに、仮屋を提供しています。その仮屋の増設を施設部隊が担っているわけです。帰還民の数はまだまだ増加する可能性もあり、自衛隊の活動は国際機関からも大いに期待されています。

ウェイステーションimg

ウェイステーション

  このような普段の業務以外に、土日の休日に孤児院にてボランティア活動を行う隊員もいます。隊員は孤児院の修繕、清掃、そして子供たちとの交流を行っています。子供たちから「アンクル、アンクル(おじさん)」と慕われている隊員たちを見ると、同じ日本人としてとても嬉しいです。

子供たちと交流する隊員たちimg

子供たちと交流する隊員たち

孤児院で作業する隊員たちimg

孤児院で作業する隊員たち

  なお、UNMISSTVが自衛隊の孤児院の活動をJapanese Peacekeepers Win Hearts At An Orphanage In Jubaで放映していますのでぜひご視聴ください。

UNMISSTV - Japanese Peacekeepers Win Hearts At An Orphanage In Juba (YouTube)別ウインドウで開きます
http://www.youtube.com/watch?v=HtPd3v2H_D4

※無料で視聴可能です。
※リンク先のウェブサイトは、内閣府のウェブサイトではなく、内閣府の管理下にはないものです。
※この告知で掲載しているウェブサイトのアドレスについては、平成24年7月時点のものです。ウェブサイトのアドレスについては廃止や変更されることがあります。最新のアドレスについては、ご自身でご確認ください。

4 最後に

  私の赴任期間も残り1か月を切りました。南スーダンの生活は、日本の当たり前が当たり前ではない現実があります。日々の停電、断水は当然のようにありますし、不便を感じることは多々ありますが、日本では味わえない独立したばかりの熱気を感じることができる経験は得がたいものだと思います。
 自衛隊の活動を含め、国際機関、NGO等のパートナーシップにより、この国は少しずつ成長しています。しかし、今後もこの世界で最も若い国が発展を続け、独り立ちするためにはオーナーシップが不可欠です。南スーダンの人と話すと、「この国には何もない。だからこれから造っていくのだ。」という発言をよく聞きます。彼らのオーナーシップを尊重しつつ、支援していくことが必要です。それは地道な支援になりますが、自衛隊の活動はこの国のオーナーシップの醸成に資するものだと思います。次にこの国を再訪する際には、大きく飛躍した姿を見せてほしいと思います。

 平成24年6月