現地からの声:最後のスーダン国際平和協力隊員として

UNMIS6次司令部要員 兵站幕僚
3等陸佐 木村昌秀

1 はじめに

 私は、平成23年4月19日から同年9月28日まで、UNMIS(国連スーダン・ミッション)最後の司令部要員として勤務しました。この間、5月21日のスーダン軍(SAF)によるアビエの占拠に端を発し、アビエが隣接する南コルドファン州に衝突が拡大する等の混乱もありましたが、7月9日に予定どおり南スーダンがアフリカ54番目の国として独立しました。この独立に伴い、UNMISのミッションが終了し、7月11日からUNMISは撤収を開始しました。UNMISの司令部要員の大部分は、新規ミッションのUNMISS(国連南スーダン共和国ミッション)に移行するため南スーダンの首都であるジュバに移動しましたが、私はUNMIS撤収チームの一員として、9月28日までスーダンの首都ハルツームにて勤務しました。

 国家の独立に立ち会い、国連の撤収業務に携わるという貴重な経験をさせていただきましたので、以下、今後の国際平和協力活動の資としていただくため私の体験談を述べたいと思います。

2 体験談

(1)兵站幕僚として
 先述のとおり私の任務は、UNMIS軍事部門司令部の兵站幕僚として「UNMISの軍事ミッションに最良の兵站支援をするため、兵站の優先順位に基づき業務を推進するため全セクター及びISSと連絡調整をする」ことでした。

 「セクター」とはいわゆる部隊のことですが、「ISS」とは"Integrated Support Service"というミッションをサポートする文民主体の組織で、実際の物品の調達、管理はこの部署が実施しています。したがって、私の業務は部隊の兵站事項の要望をISSと連絡・調整することが主体でした。

 具体的には、南北包括和平合意(CPA)の履行状況を監視する国連軍事監視要員の車両の安定稼働に寄与する車両整備や、部隊自活のための食料・水等の補給活動、国連軍事監視要員の勤務、宿泊施設の整備等のため、軍事監視要員・部隊の現況把握及びISSとの連絡・調整を実施していました。このため、ISSの車両整備部門であるTransportセクション等と定期的にミーティングを開き、情報の共有、問題点解決のための調整を実施しました。

 派遣期間中特に問題となったのは、軍事監視要員車両の泥濘地用タイヤ(マッドタイヤ)の補給です。この件は、私が派遣される以前の今年1月頃から業務が推進されていましたが、部隊にマッドタイヤがなかなか届かないという状況が発生しました。物品の輸送については、民間業者が実施しますが、スーダン政府からの移動許可(セキュリティー・クリアランス)がないと検問所で停止させられてしまいます。先述の5月以降の治安の悪化に伴って移動許可が発行されない状況が続き、国外からの輸入は完了しているにもかかわらず、ポート・スーダンという港やエル・オベイドという兵站基地から2か月以上も運び出せないという状況が続きました。

 このため、ISSTransportセクションに対してはミーティング等で繰り返しマッドタイヤの早期配分を要望しましたが、結局、未解決のまま南スーダンの独立に伴いUNMIS自体が終了してしまいました。南スーダンは合計60km程しか舗装されておらず、6~9月の雨期を迎え道路が泥濘化するなか、軍事監視要員の活動に支障をきたしていましたが、未解決のままとなったのは心残りでした。

 その他、治安の悪化に伴い食料、水等の補給のための役務車両の移動も停止したため、部隊の自活にも影響が出ていましたが、緊急空輸(SFR:Special Flight Request)で対処していました。

 以上、教訓事項として兵站活動は、治安情勢に著しく影響を受けること、ISSと調整するためには部隊の現況を継続的、詳細に把握することが重要だと感じました。特に調整に当たっては、部隊の現況を具体的にISSに伝えると彼らも動いてくれました。軍事監視要員の車両の不稼働状況についても、不稼働期間や故障部位等の詳細について一覧を作成し調整に臨んだところうまくいったように感じます。これは、自衛隊における業務と同じだと思いますが、兵站業務はきめ細やさが必要だと感じました。

 また、着任してから1か月後くらいに部隊を訪問し、現地の状況を直接自分の目で確認したことは、現況把握に極めて重要で、「現場を知る」ことが何事にも重要だと改めて再確認できました。

未舗装、排水不十分なため泥濘化、冠水する道路1

未舗装、排水不十分なため泥濘化、冠水する道路2

未舗装、排水不十分なため泥濘化、冠水する道路

出張先のワウで中国軍工兵隊大尉との写真img

出張先のワウで中国軍工兵隊大尉との写真

出張先のジュバのセクター司令部兵站幕僚との写真img

出張先のジュバのセクター司令部兵站幕僚との写真

(2)UNMIS撤収チームの一員として
 冒頭で述べたとおり、UNMISのミッション終了後は、UNMISの撤収チームとして勤務しました。

 私が帰国した時点では、移動許可の取得困難に伴い、装備品の輸送が遅延していたためUNMISの撤収は完了していませんでしたが、私の担当業務は終了したため、帰国することができました。

 撤収業務においては、当初、兵站・総務として会議の準備や会議室の移動等総務的な業務を実施していましたが、その後他の要員の帰国に伴い、ハルツーム、エル・オベイド、カドグリに展開する直轄部隊の連絡に従事しました。

 撤収チームの編成は、UNMISの副軍事部門司令官を長とし、軍事部門司令部の要員10名から編成されていました。その他、文民部門の1,000名近くが撤収業務に携わりました。人員については、業務の進捗に伴い逐次縮小していました。

 教訓として、これも兵站幕僚としての業務と同様でしたが、撤収の現況について正しく把握するため、部隊だけでなくISSの担当部署にも確認しダブルチェックに留意しました。これは、撤収チームの軍事部門長であるザキール准将の指導に基づくことでしたが、正しい現況の把握はすべての業務の始まりであるため重要だと思いました。

(3)生活、雑感
 私が勤務していたハルツームは、周辺の都市も含めると700万人ほどの人口を擁する大都市でしたので、生活上不便を感じることはありませんでした。歩いて5分程度のところに小規模のスーパーもありましたし、レストランもあり食事には困ることはありませんでした。ただ、大抵の大都市には存在するマクドナルド、ケンタッキーはありませんでした。レストランは、歩いて15分ほどのところにマレーシア人が経営する中華料理屋がありましたので、週1回程度食べに行っていました。

 逆に、スーダンの地元料理を提供するレストランがなく、帰国日の昼食として日本のNGOの現地職員が作ってくれた料理を頂いたくらいでした。スーダン料理は、豆と羊の挽肉、野菜を主材料とし、あっさりしつつも豆のコクが効いており、とてもおいしく頂けました。もっと早く承知していたらもっと食べることができたと思い、若干残念に感じました。

 その他生活上では、暑さが体にこたえました。一日3リットルくらいは水分を補給していたと思います。クーラーをかけていても、日本製でないクーラーは音がうるさく、暑さのせいかのどが渇き目が覚めてしまい、夜は熟睡できない日々が大部分でした。日本に帰国した際は、秋になっていたので熟睡ができ、睡眠のありがたさを実感しました。

 職務上は、やはり英語で苦労しました。国連は様々な国から派遣されているため、それぞれのお国訛りがあり、また英連邦出身者が多くイギリス英語が主体であったため、アメリカ英語で教育を受けた私にとって、イギリス、オーストラリア、インド英語は最初ほとんど何を言っているかわかりませんでした。しかし、慣れるに従い理解できるようになり、しゃべることもできるようになったと思います。英語は、聞けるにようになれば話せるようになるという説は本当だと思いました。

 私が宿泊していたのは、UNMIS司令部から徒歩で10分程度の場所にある、奥さんが日本人のスーダン人が大家さんのアパートで、1~2kmの周辺にUNICEFNGOの職員の方が居住していたので、時折食事会等を開き交流を図っていました。ただ食事をしつつ、近況を話し合うだけの他愛ないものでしたが、今思えばこの交流がストレス解消に大いに役立っていたと思います。特に、私と一緒に派遣されていた情報幕僚の日下3佐が7月下旬に帰国したため、周辺に居住する日本人との交流は極めて良かったと思っています。

UNMIS司令部本部庁舎屋上から撮影したハルツームの景況img

UNMIS司令部本部庁舎屋上から撮影したハルツームの風景

食事会で作成したショウガ焼き(前防衛駐在官受領)、カレー、ズッキーニの天ぷら等img

食事会で作成したショウガ焼き(前防衛駐在官受領)、カレー、ズッキーニの天ぷら等

私が居住していたアパート周辺の光景、降雨後道路が冠水img

私が居住していたアパート周辺の光景、降雨後道路が冠水

貴重なビタミンC補給源ポメロ(グレープフルーツ)img

貴重なビタミンC補給源ポメロ(グレープフルーツ)

3 最後に

 UNMIS最後の国際平和協力隊員として無事帰国できたことは、内閣府PKO事務局をはじめ防衛省・外務省等関係省庁、そして家族のお陰と思っています。また、震災から1か月後、日本が全力を挙げて復興に取り組んでいる中での派遣であり、復興に尽力する仲間たちに負けないよう、日本の代表として勤務してきたつもりです。

 秋を迎え、美しい町並みが続く日本に帰国した際、日本人としてのありがたさを実感しましたが、その日本人の一員として国際平和協力活動に幾ばくか寄与できたことは、私にとって無上の喜びです。今後は、今回の経験を糧として自衛官としての職務に邁進していきたいと思います。

UNMIS撤収チーム軍事部門長ザキール准将との写真。無事、任務達成!!!img

UNMIS撤収チーム軍事部門長ザキール准将との写真。無事、任務達成!!!