ハイチ連絡調整要員

平成23年5月
ハイチ国際平和協力隊連絡調整要員
1等陸尉 武石  智
1等陸尉 簀戸 俊一

1 はじめに
 私達は、ハイチ国際平和協力隊連絡調整要員としてハイチの安定化に寄与できる貴重な機会に恵まれ、平成22年12月から約5ヶ月間の予定で、国際平和協力隊業務に従事しています。本稿においては、ハイチ共和国の紹介、MINUSTAHの概要及び連絡調整事務所での勤務の一端について述べたいと思います。

2 ハイチ共和国の紹介
(1) ハイチ国の概要  
 ハイチ共和国は、カリブ海に浮かぶイスパニオラ島の西側に位置し、国土は、東側はドミニカ共和国と国境を接するとともに、北側では大西洋、西側及び南側ではカリブ海に面しています。その面積は、約27,750km2で北海道の約3分の1の広さに相当します。年間平均気温は27.2℃、年較差は3.4℃、年平均降水量は1,256mmで平均湿度は約70%であり熱帯性の気候を有しています。(図1参照)ハイチはアメリカ大陸で2番目に独立した国家であり、世界で最初の黒人共和国です。かつては西半球で最も豊かな植民地でしたが、現在では西半球で最も貧しい国と言われております。実際に、国民の約80%は劣悪な貧困状態であり、恒常的に食糧不足で、食料需要の大半を海外からの輸入と援助に依存し、人口の約半数に相当する380万人は慢性的に栄養失調状態にあります。特に2010年1月12日の震災以降は、多くの住民が住居及び職を失う中、ハイチ政府は機能停止状態となり、UNNGO及び周辺各国の援助が重要な役割を占めています。大半の人が1日1ドル以下で生活すると言われている現実がそこにありました。国民の構成としては、ハイチ人の約95%がアフリカ系黒人であり、残りのほとんどはムラート(白人とアフリカ人の混血)です。富裕層であるムラートとその他の黒人エリートとの間の経済的、文化的、社会的格差が著しい状況です。ほとんどのハイチ人はクレオール語を日常的に使用しますが、公的機関やビジネス、教育では標準フランス語が使用されます。多くのハイチ人はカトリックの信仰と並行して、アフリカ系のベナンにルーツを持つ宗教であるブードゥー教を信仰しています。

ハイチ共和国の位置img

図1「ハイチ共和国の位置」

(2) 勤務間の主要な出来事
 勤務間の主要な出来事としては、コレラの感染拡大及び大統領選挙が行われたことです。コレラの発生については2010年10月下旬、南アルティボニート県サン・マルクを中心とした地域でコレラの感染が確認されました。ハイチの元来の衛生状態の悪さ、衛生関連の職員が十分な知識を有していない等も影響し感染は急激に拡大、ハイチ全土へと広がりました。 2011年4月末時点でのコレラ感染者数は285,931人、死者は4,870人までになりました。
 MINUSTAHNGO等はCTC(コレラトリートメントセンタ-)を設立するなどしてコレラの拡大の抑制を実施しています。また、大統領選挙に関しては、2010年11月28日、大統領選挙の1回目の投票が実施され、同年12月7日に第1回目の投票の暫定結果発表が行われました。投票当日は一部で投票箱が略奪され、また投票場が襲撃されるなど混乱した選挙となりました。また、大統領選挙結果に納得できない国民は各地でバリケードを構築したり、大規模なデモを起こすなど抗議しました。
 その後、外部機関である暫定選挙委員会が選挙に関して検証を実施し、2011年3月末に決選投票が行われ、同年4月には、新大統領が決定されました。選挙結果により、治安状況が左右され、MINUSTAH司令部から国内における移動制限が発せられるなど、我々の活動も自制を余儀なくされる事態も発生しました。(図2、図3参照)

選挙結果発表後荒れる市内(1)

図2「選挙結果発表後荒れる市内(1)」

選挙結果発表後荒れる市内(2)

図3「選挙結果発表後荒れる市内(2)」

3 MINUSTAHの概要
(1) MINUSTAHの編成
 首都ポルトープランスに司令部を配置し、ミュレ特別代表を組織の長として、2011年3月末現在、約1.4万名(部隊要員約8,700名、警察要員約3,600名、文民約2,000名)で構成されており、要員派遣国については、54ヶ国で編成されています。防衛省自衛隊からは、施設科職種を基幹とする330名及び司令部に2名が派遣されています。(図4参照)

MINUSTAHの組織

図4「MINUSTAHの組織」

(2) MINUSTAHの変遷及び任務
 国際連合ハイチ安定化ミッション(Unaited Nations Stabiliz ation Mission in Haiti)はハイチに展開している国際連合平和維持活動であり、ハイチの治安の回復等を目的とし、2年4月30日の国際連合安全保障理事会決議1542号を受けて設立されました。ハイチ国家警察及びMINUSTAHによる活動が功を奏し、治安情勢も安定化の兆しが見えていた矢先に、2010年1月12日に発生した大地震によりハイチ共和国だけでなく、MINUSTAHについても前国連事務総長特別代表のヘディ・アナビ氏を失うなど、大打撃を受けました。これに対し、現地を視察した潘基文国連事務総長は、「国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)」の任務遂行を強化するため、軍事要員2,000人及び警察要員1,500人の増員を決定しました。これを受け、国連は、加盟国に対し新たな要員の派遣を要請し、我が国は、国連の要請に応じ、MINUSTAHに陸上自衛隊の施設部隊を中心とする隊員を派遣し、瓦礫の除去、道路補修、軽易な施設建設等の業務を実施することとなりました。MINUSTAHの任務は、安全かつ安定的な環境の確保、政治プロセスの支援及び人権擁護活動の大きく分けて3点です。

4 ハイチ派遣国際救援隊
 現在、ハイチでは陸上自衛隊の隊員330名が、ハイチ派遣国際救援隊(以下日本隊)として復興支援に当たっています。
 部隊の編制は、施設科部隊 ※ を中心とした編制になっており、主に油圧ショベルやドーザーといった重機を使って、孤児院の建設や、倒壊した建物の解体、道路の補修、瓦礫の運搬等の施設活動を実施しています。
 また、一方で孤児院に対して机や椅子などの資材を提供する等、施設活動以外の分野においても、ハイチ復興のための様々な支援を実施しています。
 ※ 施設科部隊
   陸上自衛隊の職種の1つで、主に施設の建設等を任務としている部隊です。

施設活動に当たる隊員たち1 施設活動に当たる隊員たち2

施設活動に当たる隊員たち

5 PKO事務局ハイチ連絡調整事務所での勤務
(1) 連絡調整事務所の概要
 私達が勤務しているハイチ連絡調整事務所は、国際平和協力法(以下PKO法)に基づいた内閣府からの出先機関で、所長以下5名で勤務しています。  勤務の内容は非常に幅広く、日本隊の活動に関する調整業務(日本隊の活動状況等を、本国の国際平和協力本部事務局へ報告したり、日本隊が計画している支援活動の法的判断(PKO法に基づき閣議決定された実施計画に照らし合わせて実施することができるか)についての調整を実施します。)を主体とし、ハイチ政府や在ハイチ日本大使館との連絡調整の他、ハイチ国内の治安情報の収集等、様々な内容の業務を実施しています。

(2) 勤務の特性
 また、連絡調整事務所は幅広い分野で活動することができるため、日本隊や政府関係者以外の人々との交流を持つ機会が多いのも特徴です。
 事務所で雇用している現地人スタッフを始めとするハイチの人々や、国内で活動する日本のNGO団体のスタッフ等、多くの人々との出会い、交流を通じて、国際貢献には様々な形があることを知り、また、多様な面からの物の見方、考え方を学ぶことができました。
 特に、日々の勤務を共にする現地人スタッフは、非常に信頼できる仲間であるとともに、彼らとの毎日のコミニュケーションを通じて、私達はハイチの人々の考え方や目線を知ることができました。

連絡調整事務所の現地人スタッフimg

連絡調整事務所の現地人スタッフ