練馬区選挙管理委員会主催講演会「国際平和協力と選挙―平和な国づくりを目指して」

平成25年3月
国際平和協力研究員
とやま せいこ
外山 聖子

 練馬区選挙管理委員会から「練馬区中学生啓発講座」の講師としてのお招きを請け、3月11日、練馬区立石神井東中学校の卒業を間近に控えた元気な中学3年生190名の皆さんに、講演を行ってきました。

講演の様子のimg

講演の様子
(写真提供:練馬区選挙管理委員会事務局)

  はじめに、「国際協力」と「国際平和協力」の違いをわかりやすく説明しました。干ばつ、大洪水、紛争地での市街戦、そして2年前の本日、日本で起こった東日本大震災などを振り返りながら、災害の起こる原因の違いについて考え、災害を「自然災害」と「人為災害」に大別しました。そして「国際協力」とは、自然災害と人為災害の両方の災害に対応する広義な言葉であり、「国際平和協力」は、その中でも特に「紛争」が原因で困っている国や人々を助ける活動であることを説明しました。

  国際平和協力の活動は、我が国の「国際平和協力法(通称:PKO法)」においては、「国連平和維持活動」「人道な国際救援活動」及び「選挙監視活動」の3つの柱で成り立っています。そして、なぜ平和な社会作りのために「選挙」が重要なのか、さらになぜ国際平和協力活動の中で「選挙監視活動」が不可欠なのかについて、私が2006年に東ティモールで携わった「緊急人道援助活動」と、その活動中の「東ティモールの選挙活動」の様子を紹介しながら説明しました。

  私はいつも対話形式で講義を行います。これは、講師が一方的に話すのではなく、聴講者の皆さんも質問や発言をしながら、一緒に考え一緒に学びながら、講義を行うというものです。そうすることによって、私自身、受講生の皆さんから学ぶことができますし、皆さんの理解度を確認しながら講義を進めることが出来るからです。この日は初対面ということもあり、最初は最前列の生徒の皆さんが小声で反応する程度でしたが、徐々に反応する生徒が増え、「世界の人々が困っている原因には、どんなものがありますか?」という質問には「地震」「津波」などの答えが、さらに「さて、この世界地図上で、東ティモールはどこにあるでしょう?」という問いに対しては、ステージの前に出て、果敢に地図上を指して答える勇気ある生徒もいました。

 紛争地に行ったことのない中学生の皆さんに、少しでもわかりやすく当時の東ティモールの人々の心情や生活を理解してもらうため、多くの写真を見せつつ、「もし石神井東中学校に、新しい校長先生がやってきて、突然、個人の勉強や努力に関係なく、富士見台地区から通っている生徒だけが、いい成績がもらえ、豪華な給食を食べることが出来て、さらに掃除当番を免除できるようになったら、皆さんどう思いますか?」という問いに、東ティモール国防軍内の東部出身者への優遇問題を想像してもらったり、さらに東ティモールの首都であるディリを東京都に例え、当時の人々の生活や問題、また難民生活がどのようなものだったかについて、一緒に考えました。

  その後、私が現地で行っていた緊急人道支援の活動の様子、さらにその間に行われていた大統領選挙の様子を紹介しました。2007年当時の東ティモールの選挙は、国連や他国の人たちに支えられながら行われていましたが、投票率は80%以上と高く、人々の「この国を良くしていきたい!」という気持ちが溢れていました。その思いを無にしないように、またその熱意を暴力ではなく民主的な選挙に向けるための手伝いをしているのが、選挙支援活動です。東ティモールだけでなく、多くの開発途上国及び紛争後諸国では、「これから平和なよい国を作って行こう!」という熱意に満ち溢れています。

焼けた数学のノートのimg

焼けた数学のノート(コモロ小学校近くで)

 日本にいると気付かないものですが、私は海外から帰ってくる度に、日本は素晴らしい国だと感じています。サービスや整備されたインフラなどはもちろんですが、選挙制度もその一つで、またそれを持続・向上させるために、各地で様々な取り組みがされています。ただ、この完成度の高い日本の選挙制度も、初めから今のように確立されていたわけではなく、男子や高い国税を払っている人しか選挙権がなかった時代を経て、ようやく国税や性別に関係なく選挙に参加できるようになったのです。そして、このような選挙制度があるにも関わらず、紛争直後の東ティモールやチュニジア、また義務投票制のあるオーストラリア等に比べて、日本の投票率は低く、これは非常にもったいないということも伝えました。

難民キャンプでの人道支援のimg

難民キャンプでの人道支援

ディリ市での選挙開票のimg

ディリ市での選挙開票の様子

投票後の開票のimg

投票後の開票の様子

  中学3年生のみなさんが、未来の選挙に備えて今からできることはたくさんあります。独裁政治や人権侵害、また戦争を起こさないようにするために、どんな社会を築いていきたいか、どうしたら平和な生活を維持し続けることができるかなどを、しっかりと考えておくことが大切です。そのために、学校できちんと勉強することはもちろんですが、普段から家族と選挙の話をしたり、選挙に関するニュースを見たり、本を読んだり、さらに街頭演説をしている候補者の話をよく聴き、当選後に約束したことを果たす努力をしているかどうか確認することも重要です。

  最後の質疑応答では、「どうして緊急支援のお仕事に就こうと思ったのですか?」「外国で働けるようになるには何をしなければなりませんか?」など、海外での仕事に関する熱心な質問をいくつも受けました。

  そして講演終了後、これから卒業し、それぞれの道に飛翔していく石神井東中学校3年生の皆さんが、国際的にまた国際平和協力の分野で活躍される頼もしい姿を思い浮かべながら、学校を後にしました。

  おわりに、今回の講演にお招き下さりました練馬区選挙管理委員会事務局及び関係者の皆さま、特に事前に綿密に計画・調整して下さりました新郷洋子様と菊池理恵様及び、石神井東中学校の堀井安伸校長、社会科担当の大野雄輝先生、そして事前・当日の準備にご協力頂きました石神井東中学校の教職員の皆様に、心より感謝申し上げます。