第4回野口英世アフリカ賞受賞者の決定(医学研究分野) 報道発表令和4年8月3日 内閣府

日本国政府は、第4回野口英世アフリカ賞を、医学研究分野についてはサリム・S・アブドゥル・カリム博士及びカライシャ・アブドゥル・カリム博士(南アフリカ共和国)に対し、医療活動分野についてはギニア虫症撲滅プログラム(カーターセンターとアフリカ関係者のパートナーシップ)に対し、それぞれ授与することを決定した。

医学研究分野
サリム・S・アブドゥル・カリム博士及びカライシャ・アブドゥル・カリム博士(南アフリカ共和国)

カリム博士夫妻サリム・S・アブドゥル・カリム博士(Dr. Salim S. Abdool Karim)
1960年南アフリカ共和国生まれ。ナタール大学(現クワズル・ナタール大学)で医学士号、修士号(医学)及び博士号(医学)を取得。現在、南アフリカ・エイズ研究プログラム・センター(CAPRISA)所長、米コロンビア大学メールマン公衆衛生大学院CAPRISA教授(国際保健)及びクワズル・ナタール大学副学長代理(研究)。
(写真提供:Matthew Henning)

カライシャ・アブドゥル・カリム博士(Dr. Quarraisha Abdool Karim)
1960年南アフリカ共和国生まれ。コロンビア大学で修士号、ナタール大学(現クワズル・ナタール大学)で博士号(医学)を取得。現在、南アフリカ・エイズ研究プログラム・センター(CAPRISA)次長、米コロンビア大学メールマン公衆衛生大学院教授(疫学)及びクワズル・ナタール大学副学長代理(アフリカ保健)。
(写真提供:Rajesh Jantilal)

第4回野口英世アフリカ賞(医学研究分野)は、科学的に厳密な研究を通じたHIV/エイズ予防・治療への世界的貢献、アフリカ人研究者の育成において果たした役割、及び新型コロナウイルス感染症対策における確固たる科学的リーダーシップの功績により、サリム・S・アブドゥル・カリム博士及びカライシャ・アブドゥル・カリム博士に授与される。

CAPRISA、米コロンビア大学及びクワズル・ナタール大学(南アフリカ共和国)に所属するサリム・S・アブドゥル・カリム博士及びカライシャ・アブドゥル・カリム博士は、30年以上にわたるアフリカでの画期的な研究と科学的リーダーシップの功績により、第4回野口英世アフリカ賞(医学研究分野)を受賞するに相応しい人物である。この期間、カリム博士夫妻は科学者夫婦として二人三脚で研究に従事し、科学的にも政治的にも厳しい障害を克服しながら、深刻な疾病の研究に取り組んできた。野口英世の精神を体現したカリム博士夫妻の功績は数多い。同夫妻は相当な職業的リスクを冒しながらも、エイズの否定に立ち向かい、政府の政策に反して救命のための抗ウイルス治療を行い、女性たちが自分自身を守れるようなHIV予防アプローチを開発したのである。同夫妻は、共同研究機関のHIV研究センターを設立し、国際的な協力パートナーたちと、ワクチン、免疫病原性研究、消毒薬、抗ウイルス治療の研究に取り組んできた。

彼らは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の大流行について科学的に厳密な研究を続け、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する早期警戒を始めるとともに、証拠に基づく予防の促進や新型コロナ・ワクチンに関する誤情報との闘いに取り組んできた。また、両博士は、コロナウイルスの疫学的追跡を行いながら、新型コロナウイルス感染症拡大の波の周期性を解読し、将来起こり得る感染拡大の波について正確な予測を提供するとともに、アフリカが保健管理体制や経済・社会体制に対するパンデミック圧力にしっかりと準備できるよう支援を行ってきた。サリム博士は南アフリカ共和国の新型コロナウイルス感染症大臣諮問委員会における共同議長を務め、また、カライシャ博士も同諮問委員会の委員を務めるなど、カリム博士夫妻は同国政府の新型コロナウイルス感染症対策における中心的な役割を果たしてきた。

業績概要

サリム・S・アブドゥル・カリムとカライシャ・アブドゥル・カリム両博士は、1990年にアフリカで最初のコミュニティ・ベースのHIV研究の1つに着手し、南アフリカ感染症疫学者としての旅を歩み始めたが、この研究では若い女性におけるHIVの不均衡な負担を明らかにした。アフリカ農村部で行われたこの研究は、数十年にわたる研究の基盤を築くとともに、この脆弱な人々へ救いの手を差し伸べるため続けられることとなる。

2002 年、両博士はエイズ専門の非営利研究機関であるCAPRISAを設立し、その本部を南アフリカのダーバンにあるネルソン・マンデラ医科大学に置いた。最初は目立たなかったが、今ではCAPRISAはアフリカで最も著名な研究機関の1つになり、世界中で政府の政策に影響を与える科学的アドバイスを提供する上で重要な役割を果たしている。同人らは以下のような特に優れた3つの貢献を行った。

1. アフリカにおけるHIV予防の改善

アブドゥル・カリム博士夫妻が行った疫学及び系統学的研究により、アフリカにおけるHIV感染サイクルが明らかとなり、約10 歳以上年長の男性から感染する若年アフリカ女性のHIV 感染率が最も高いことがわかった。これらの調査結果を基に、UNAIDS レポート「HIVへのライフサイクル・アプローチ(Life Cycle approach to HIV)」が作られ、アフリカ諸国の中には、国のHIV予防計画の指針として同レポートを採用したところもある。両博士の最も重要な功績は、2010年に、若年アフリカ女性へのHIV 感染リスクを低下させる方法として、抗ウイルス薬添加膣用ジェルが有効であることをCAPRISA の厳格な臨床治験から実証したことである。この研究成果は、UNAIDS及びWHOから、エイズとの闘いにおける最も重要な科学的進展の一つと評され、サイエンス(Science)誌により、2010 年の科学的進展トップ10に選出された。

2. HIV/結核の重複感染者への治療改善を通じた命の救済

結核は、アフリカのエイズ患者に最も多くみられる日和見感染症であり、アフリカにおける死因のトップである。カリム博士夫妻は、CAPRISAでの臨床治験を主導して、抗レトロウイルス療法(ART)の早期導入がHIV/結核重複患者の死亡率を劇的に減少させることを証明した。これらの治験結果はWHO治療ガイドラインで採用され、ほとんどの国で実施されている。

3. 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)対策における科学的リーダーシップの発揮

カリム博士夫妻は、アフリカでの新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の対策を定義する上で、科学の重要性を辛抱強く訴えてきた。サリム・S・アブドゥル・カリム博士は南アフリカ政府の新型コロナウイルス感染症(Covid-19)大臣諮問委員会の初代議長を務め、カライシャ・アブドゥル・カリム博士は同諮問委員会の委員を務めた。また、サリム・S・アブドゥル・カリム博士は、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に関するランセット(Lancet)委員会の委員や、アフリカ連合の新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に関する委員会の委員でもある。また、カライシャ・アブドゥル・カリム博士は、世界保健機関(WHO)の新型コロナウイルス感染症(Covid-19)治療及びワクチン連帯治験の執行グループのメンバーである。

上記の3つの功績に加えて、両博士はフォガティ国際センターのコロンビア大学HIV研修・研究プログラムを主導し、過去20 年以上にわたり600 人以上のアフリカの研究者に研修を提供してきた。

カリム博士夫妻は、全米医学アカデミー、世界科学アカデミー、アフリカ科学アカデミー、南アフリカ科学アカデミー及び南アフリカ王立協会のメンバーである。さらに、サリム・S・アブドゥル・カリム博士は英国王立協会の会員であり、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンの編集委員会に任命された最初のアフリカの科学者である。また、カリム博士夫妻は、WHO、UNAIDS、PEPFAR、エイズ・結核・マラリア対策世界基金及びビル&メリンダ・ゲイツ財団の科学顧問を務めてきた。

要するに、サリム・S・アブドゥル・カリム博士とカライシャ・アブドゥル・カリム博士は、地球規模で、そして特にアフリカにおいて、HIVの予防・治療や新型コロナウイルス感染症(Covid-19)対策に著しい影響を与えた世界的に有名なアフリカの科学者である。

CAPRISA本部のサリム・S・アブドゥル・カリム教授とカライシャ・アブドゥル・カリム教授
ネルソン・マンデラ医科大学のキャンパスにあるCAPRISA本部の
サリム・S・アブドゥル・カリム教授とカライシャ・アブドゥル・カリム教授
(写真提供 : Matthew Henning)

CAPRISAメインラボのサリム・S・アブドゥル・カリム教授とカライシャ・アブドゥル・カリム教授
CAPRISAメインラボのサリム・S・アブドゥル・カリム教授と
カライシャ・アブドゥル・カリム教授
(写真提供 : Matthew Henning)

CAPRISA eThekwinin リサーチ・クリニックでサリム・S・アブドゥル・カリム教授とカライシャ・アブドゥル・カリム教授
CAPRISA eThekwinin リサーチ・クリニックで研究参加者に話しかける
サリム・S・アブドゥル・カリム教授とカライシャ・アブドゥル・カリム教授
(写真提供 : Dean Demos)