第4回野口英世アフリカ賞授賞式 [挨拶]医学研究分野受賞者 アブドゥル・カリム博士夫妻

医学研究分野受賞者
サリム・S・アブドゥル・カリム博士及びカライシャ・アブドゥル・カリム博士(南アフリカ共和国)

カリム博士夫妻

カライシャ・アブドゥル・カリム博士
各国首脳の皆様、代表団団長の皆様、そしてご来賓の皆様、
サリムと私はともに謹んで、この栄誉ある第4回野口英世アフリカ賞をお受けしたいと思います。私たちの率いる、300人以上からなる研究機関であるCAPRISA、世界中の私たちのパートナーや協力者の皆様、研究資金提供者の皆様、そして何よりも、南アフリカで私たちの研究に参加していただいた何千人ものボランティアの方々に代わってこの賞を受賞したものと受け止めています。何十年にもわたって私たちを指導し、支えてくださった家族たちや指導者の方々に感謝申し上げます。

COVID-19の感染拡大は、国際社会に暮らす私たちの相互関連性、共有する責任、そして共有する脆弱性について改めて思い起こさせるきっかけとなりました。私たちは誰もが相互に依存しながら生きています。パンデミックを通じて私たちは、人類の向上のための科学と科学への投資の重要性について再確認をしました。

COVID-19への対応に取り組むにあたり、混乱と恐怖と不安が渦巻く中で何よりも求められていた希望をもたらしてくれたワクチンは、科学的な研究と開発によって生まれたものです。私たちはアフリカで、HIV、結核、マラリア、エボラ出血熱などに関する研究へのこれまでの投資によって、COVID-19への迅速な対応を可能とする臨床及び研究能力が培われていたことを実感しました。しかしまた、アフリカ諸国はCOVID-19のワクチンや治療のために国際的な列の最後尾に並んで待たなくてはならず、改めてこの大陸で科学とイノベーションへの投資が必要であることも痛感いたしました。

科学的能力開発は、長期的な視野による研究機関の構築が必要な、時間のかかるプロセスです。新たなテクノロジーや、エビデンスに基づく政策・計画への第一歩となる科学的発見をもたらすのはこういった研究機関です。

しかしながら、研究上の発見を製品化するまでには乗り越えなくてはならない壁があり、私たちは、科学的ソリューションの恩恵を最も必要とする人々が受けられるように、その壁を乗り越える取り組みを続けています。最も弱い立場にある人々の生活が私たちの研究によって改善されたときに、私たちは初めて、自分たちの研究がなんらかの役に立ったと知ることができるからです。科学は私たちに、すべての人々によりよい未来をもたらすアフリカの潜在力を最大限に発揮する一つのチャンスを与えてくれるものです。

サリム・S・アブドゥル・カリム博士
33年前、私たちは自分たちの研究の大きな部分を定義づける重要な発見をしました。それは、アフリカではHIVの蔓延の矢面に立たされているのが若い女性たちだという事実でした。若い女性は、男性と比較して感染例が4倍も多かったのです。この事実を知ったことをきっかけに、私たちは若い女性のHIV感染リスクを減らすための新技術の開発と試験に向けた道のりを歩み始めました。失敗に次ぐ失敗を18年続けた結果、私たちは「失敗のエキスパート」として知られるようになりました。しかし、科学に近道は存在しません。偉大なネルソン・マンデラによる「自由への長い道」という有名な言葉がありますが、私たちも、影響力のある科学的なブレイクスルーを達成するのにも「長い道」を辿らなくてはならないことを知りました。成功へと一歩近づくためには、ごくたまに成功を挟みながらそのような失敗を繰り返していくしかないのです。

しかし、ときにはたった一度の成功が脚光を浴びることもあります。2010年にはウィーンで開催された国際エイズ会議において、私たちは話題の熱帯性テノフォビルが女性のHIVリスクを低減させるということを示して喝采を浴びました。これは最終的に、女性が自分たち自身のために使用しコントロールすることのできる女性のためのHIV技術につながり、暴露前予防、またはPrEPとも略される、HIVの性感染を防ぐ新たな方法の基盤となりました。しかし、これはまだほんの始まりにすぎません。私たちはたゆまぬ努力を続け、アフリカにおけるHIVの感染拡大経路を変えることのできるPrEPの改善に向けて、さらにいくつかの発見(と失敗)をしました。ですから、アフリカでは科学の力は今も有効に生き続けているのです!

この機会をお借りして、我々の研究を科学技術大臣だった当時から長年支援し続けてくださっている南アフリカのナレディ・パンドール大臣に感謝を申し上げたいと思います。また、日本からの継続的な科学技術への貢献にも深く感謝をしております。アフリカの科学者として、私たちは日本における多くの素晴らしい科学研究機関のいくつかを訪問する機会に恵まれました。互いに多くの学びを得ましたし、また、これからも互いに知見を与え合うことができると信じています。

最後に、日本政府、アフリカ連合、アフリカCDC、南アフリカ政府、そして多くのアフリカ諸国の政府に、我々が愛するこの大陸に科学の基盤を築くにあたってご助力をいただいたことへの感謝を申し上げたいと思います。この野口英世アフリカ賞が若者たちに、アフリカの、そして世界の人々の暮らしをよくするための科学の道を志すきっかけとなることを願ってやみません。

ありがとうございました。