第3回野口英世アフリカ賞受賞者の決定(医学研究分野) 報道発表平成31年4月25日 内閣府

日本国政府は,第3回野口英世アフリカ賞をジャン=ジャック・ムエンベ=タムフム博士(コンゴ民主共和国)とフランシス・ジャーバス・オマスワ博士(ウガンダ)に授与することを決定した。

医学研究分野
ジャン=ジャック・ムエンベ=タムフム(Jean-Jacques Muyembe-Tamfum)(コンゴ民主共和国)

ムエンベ=タムフム博士1942年コンゴ民主共和国(DRC)生まれ。
ロバニウム大学(現キンシャサ大学)で学士号(医学)、ルーバンカトリック大学(ベルギー)Rega医学研究所で博士号(医学/ウイルス学)取得。
現在、国立生物医学研究所(INRB)所長・キンシャサ大学医学部医学微生物学/ウイルス学正教授。

第3回野口英世アフリカ賞(医学研究分野)受賞者のムエンベ=タムフム博士は、エボラウイルス病等の研究及び疾病対策の人材育成において多大な貢献をした。

ジャン=ジャック・ムエンベ=タムフム博士は、コンゴ民主共和国において50年以上にわたり、研究及び人材育成に傑出した勇気と知性、科学的厳密さを発揮してきた。とりわけ1976年、博士は、自国に未知の病気が存在することを確認し、危険な状況下で血液と組織サンプルを採集しベルギーの熱帯医学研究所に送り、エボラウイルスが発見されるに至った。 この年以来、博士はエボラ研究の最前線に立ち、院内感染および埋葬習慣が感染の主要原因であることを明らかにし、ワクチンの研究に貢献し、抗血清療法を開発した。さらに、博士は、新しい世代の疾病対応の人材及びコンゴ人の実験科学者を育成してきた。

業績概要

ムエンベ=タムフム博士は、1976 年に最初のエボラウイルス病(EVD)(初期には エボラ出血熱と呼ばれた)が発生した DRC 北部のヤンブク村に派遣され、本病に対する警戒注意を喚起したアフリカ出身の科学者である。それ以来、彼は EVD の制圧対策を指揮する専門家として活動してきた。彼は 1995 年に EVD 対策国際科学 委員会の委員長に任命され、病院記録の点検や生存者との面談など、本病の発生と 流行に関する広範な調査研究を展開した。その結果、彼は DRC のキクウィトでのEVD 流行は院内感染が原因であることを突き止めた。彼の指導の下で、EVD 対策として隔離病棟への患者の隔離、医療従事者や患者の家族への個人用防護具の配付、衛生教育資料の配付、経験を積んだチームによる死亡者の適切な埋葬が実施され、これらの措置が有効であることが証明された。また、彼はエボラウイルスの伝播に ついて、社会文化的見地から解析した。その結果、従来の埋葬習慣が、コミュニティにおける本病伝播の主な原因であることを明らかにした。その後、彼は現地コミ ュニティのリーダーに、本病がどのように伝播するかを説明し、患者の家族に手袋 や防護具を提供した。彼のリーダーシップの下で導入された対策により、DRC における本病の流行は 3 ヵ月で封じ込められ、前述の対策が有効であることが証明された。この実績により、彼は世界保健機関(WHO)のコンサルタントに任命され、他国の EVD とマールブルグウイルス病の対策をも支援している。

ムエンベ=タムフム博士の科学的貢献は、EVD のみならず、幅広い感染症に及んでいる。DRC は長きにわたり政情不安とインフラ不足に悩まされてきた。このように特殊な状況下で、INRB に対する政府及び外部からの財政的支援は不十分であった。しかし、彼は INRB の所長として、さまざまな分野で INRB の活動の拡充に全力を尽くした。彼はポリオ、麻疹、黄熱病などのワクチンで予防可能な感染症、人獣共通感染症であるサル痘やウイルス性出血熱、急性呼吸器感染症であるインフルエンザ、並びに結核や腸内細菌の抗菌薬に対する耐性に関する研究調査基盤を築いた。彼は、アフリカにおける感染症研究分野での偉大な功績と貢献に対し、2015 年にフランス学士院から クリストフ・メリュー賞を授与された。

ムエンベ=タムフム博士は教育においても多大な貢献をしている。彼は 40 年以上にわたって DRC のキンシャサ大学医学部で教鞭をとり、また、1998 年からは生物医学研究者を育成する機関である INRB の所長として、若い研究者を 1000人以上育成してきた。彼が育成した研究者達は、現在世界中で感染症コントロールにおいて重要な役割を果たしている。また、彼は、DRC のキンサシャ大学公衆衛生学部(l’Ecole de santé publique de Kinshasa: ESPK)の設立にも貢献した。

ムエンベ=タムフム博士は、フランスビル国際医学研究センター(ガボン)、国立感染症研究所(南アフリカ)、ザンビア大学獣医学部(ザンビア)、野口記念医学研究所(ガーナ)、アントワープ熱帯医学研究所(ベルギー)、モンペリエ大学開発研究所(フランス)、ロベルト・コッホ研究所(ドイツ)、米国疾病管理予防センター(CDC)(米国)、国立衛生研究所(米国)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、カナダ公衆衛生庁(カナダ)、また国立感染症研究所、北海道大学、長崎大学、国立国際医療研究センターを含む日本の研究機関など、アフリカ以外の地域との国際的なネットワーク及びパートナーシップを構築・確立した。

キクウィトで1995年に発生したエボラの突発的流行を生き延びた生存者(女性)とムエンベ=タムフム博士
キクウィトで1995年に発生したエボラの突発的流行を生き延びた生存者(女性)とムエンベ=タムフム博士

研究室で働くムエンベ=タムフム博士
研究室で働くムエンベ=タムフム博士

現場で同僚と仕事をするムエンベ=タムフム博士
現場で同僚と仕事をするムエンベ=タムフム博士