赤澤内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和7年10月21日

(令和7年10月21日(火) 10:15~10:40  於:中央合同庁舎8号館1階S108会見室)

1.発言要旨

 先ほどの閣議で内閣総辞職が決定されました。昨年10月1日の就任以来386日間にわたって、日米関税協議を含む経済再生担当、新しい資本主義担当、賃金向上担当、スタートアップ担当、全世代型社会保障改革担当、感染症危機管理担当、防災庁設置準備担当の大臣、閣僚として、経済財政政策の内閣府特命担当大臣として、様々な重要課題に全力で取り組んでまいりました。
 まず、マクロ経済政策について、我が国経済は、名目GDPが昨年度初めて600兆円を超え、賃上げ率は2年連続で5%を上回るなど、成長と分配の好循環が回り始めています。
 「骨太方針2025」では、経済全体のパイを拡大する中で、物価上昇を上回る賃上げを普及・定着させ、現在及び将来の賃金・所得が継続的に増加する「賃上げを起点とした成長型経済」を実現する方針を明らかにしました。
 こうした経済財政運営の中で、私が特に注力して取り組んだのが賃上げでございます。現行憲法下初の賃金向上担当大臣として、「賃上げこそが成長戦略の要」という基本的な考え方の下、働けば暮らしていける国づくりと、そして、働けない人もしっかり支える国づくりを実現するため、最低賃金を含む賃金の引上げに全力を傾注してきたところでございます。
 具体的には、2029年度までの5年間で、実質賃金で年1%程度の上昇を賃上げのノルムとして定着させるため、価格転嫁・取引適正化、生産性向上、事業承継・M&Aによる経営基盤の強化等の施策を盛り込んだ「賃金向上推進5か年計画」として取りまとめたところでございます。
 最低賃金については、「2020年代に全国平均1,500円」という目標の達成に向け、継続する物価高や人手不足で苦労されている中小企業・小規模事業者に対し、政策を総動員した支援を行いながら、その引上げに取り組んだところでございます。中小企業を代表する経済団体の皆様から様々なご指摘をいただく困難な目標でございますが、断固たる決意で取り組み、成果を上げてきたと考えているところでございます。
 次の内閣でも最低賃金について、「2020年代に全国平均を1,500円」という目標の達成に向けてたゆまぬ努力を継続するとともに、2029年度までの5年間で、物価上昇を年1%程度上回る賃金上昇を賃上げのノルムとして定着させるなど、賃上げを起点とした成長型経済への移行を確実にし、働けば安心して暮らしていける国づくりを成し遂げるとともに劇的な経済成長を実現することで、日本の将来を切り開いていっていただきたいというふうに考えております。
 スタートアップについては、本年、企業数が過去最大の2万5,000社になるなど、成果が上がりつつあります。AIを地域の社会課題の解決のためにカスタマイズする高専発スタートアップの取組が全国に広がりつつあるなど、大きな希望が持てる状況にあります。このような地域で活躍するスタートアップ企業が広がることは、「地方創生2.0基本構想」の5本柱の一つである「地方イノベーション創生構想」の実現につながると考えております。
 今後、「スタートアップ育成5か年計画」に沿って、この流れを止めることなく必要な取組を進めていくことが重要であるというふうに考えております。
 CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)については、コスタリカの加入交渉開始の決定や協定の見直しの議論等、ハイレベルを維持した拡大及びルールの深化に向けて取り組んだところであります。ルールに基づく自由貿易体制の維持・強化に貢献するCPTPPにおいて、我が国が引き続きリーダーシップを取れるよう、関係国の閣僚らとの連携にも注力してまいりました。
 覇権国である米国が国際経済秩序、あるいは世界秩序と言っていいかもしれませんが、変えようとしている中で、自由貿易と法の支配は我が国経済のよって立つ基盤であるとの考えの下、CPTPPについても積極的に取り組んだところでございます。
 米国への対応と併せて、自由貿易と法の支配という我が国のよって立つ基盤をしっかり発展させていくという意味で、ハイブリッドの外交を展開していくという上でも、CPTPPは重要な枠組みであります。引き続き大事にしてほしいというふうに考えております。
 全世代型社会保障については、給付は高齢者、負担は現役世代を中心とする従来の社会保障の構造を見直し、能力に応じて全世代で支え合う持続可能な社会保障を構築するため、必要な改革に取り組んでまいりました。
 この全世代型社会保障構築は、経済財政諮問会議においても日本社会の喫緊の課題であると再三ご指摘を受けているところでありまして、また、自民党、公明党、日本維新の会など公党間においても議論が進められているというふうに承知しておりまして、その結果にも期待してまいりたいというふうに思っております。
 感染症危機管理については、危機発生時に様々な関係者の動きが鳥瞰的に把握できるように準備しておくことが重要であり、関係省庁や都道府県等のご協力の下で、新型インフルエンザ発生時において関係者が共通の時間軸で対応を確認し、確実な実施を確保するためのタイムラインを作成いたしました。
 今後ともタイムラインも活用した実践的な訓練の実施や、全面改定した「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」に基づき、各省庁が取組をしっかり進めていくことを期待しております。
 防災庁設置準備を中心に、防災について私が内閣副大臣を務めていた2021年、4年前に、「防災・減災、国土強靭化WG(ワーキンググループ)・チーム」において5つの提言を心血を注いでまとめるなど、これまで防災をはじめとする危機管理をライフワークとして取り組んでまいりました。
 日本は災害大国でありますが、仮に災害に見舞われても何度でも立ち上がれる国でありたい。そのためには、徹底した事前防災、発災時から復旧・復興までの一貫した災害対応の司令塔となる組織として、防災庁が必要でございます。防災庁の設置に向け、防災関係各分野の専門家である20名の防災庁設置準備アドバイザーとの議論を重ね、防災立国推進閣僚会議を経て、防災庁に関する基本的な方針や組織体制の方向性を打ち出し、道筋をつけることができたと考えております。
 また、能登半島地震の教訓等を踏まえ、地域経済活性化支援機構(REVIC)による被災事業者支援など、災害対策の強化を図るREVIC法改正を行いました。
 次の内閣でも令和8年度中の防災庁設置に向けて引き続き検討を進め、事前防災の徹底など、災害対応力の強化に万全を期していただきたいというふうに考えております。
 最後に、総理から特命で担当を命じられました米国の関税措置に関する日米協議については、2月に石破総理がトランプ大統領に提案した「関税より投資」という考えを一貫して主張し働きかけを強力に続けてきた結果、日本側の関税を引き下げることなく、まさに守るべきものは守った上で、米側との合意を実現することができました。
 9月上旬には米側の求めに応じ、日米間で2つの文書、すなわち投資イニシアチブに関する了解覚書(MOU)と共同声明(joint statement)を作成し、これと同時に関税引下げの措置に関する大統領令が署名されたところでございます。
 一方で、関税はまだ残っておりますので、資金繰り支援等に万全を期していく必要がございます。また、医薬品や半導体の分野別関税を含め、米国政府の動向を引き続き注視していく必要がございます。
 今後とも、他国・地域と比べ不利でない交易条件を確保しつつ、経済主体の予見可能性を最大限高めていく観点から、米国と緊密に連携を図りつつ、日米双方で合意の誠実かつ速やかな実施に努めていただきたいというふうに考えております。
 次の内閣では、これらの取組について引き続き関係省庁と連携し、しっかり進めてもらうことを期待しております。
 昨年10月2日の大臣就任会見時、私は「政治家の仕事というのは勇気と真心を持って真実を語ることだ」という渡辺美智雄先生の教え、これを胸に刻み、国民の皆様から信頼いただける納得と共感の政治、これを実現したいと申し上げ、それ以来1年間、自らの担務に全身全霊をかけて取り組んでまいりました。
 関税協議をはじめ多くの分野で一定の成果を得られたのは、国民の皆様、内閣官房、内閣府をはじめとする霞が関の職員、さらには今日も勢ぞろいしていますが、本当に献身的に働いてくれた秘書官の皆様をはじめ、多くの支援者の方々の支えによるものだというふうに考えております。
 記者の皆様にも日々の報道を通じ、多くの有益なご発信をいただきました。この場を借りて、ご支援を賜った全ての皆様に厚くお礼を申し上げる次第でございます。誠に1年間ありがとうございました。

2.質疑応答

(問)2問お伺いします。後任の方には今後の日米関税交渉、こちらについて、産業界や農業界とどのように向き合ってもらいたいか、大臣の考えをお聞かせください。
 もう一問は、今年度の最低賃金の引上げを巡り、大臣の言動について政治介入ではないかとの指摘がありました。審議会の役割が形骸化するとの批判の一方で、国民のためにプラスになったとの評価もあります。改めて最低賃金引上げを巡る大臣の考えについて、賛否に対する受け止めも含めてお聞かせください。
(答)まず、日米関税交渉の関係ですが、合意が成立しております。
 世界最大の経済大国、覇権国という言い方をしてもいいと思います。英語で言うと“hegemon”である米国が世界秩序を変えようとする中、過去の相場感が通用しない激流が生じているわけであります。溺れずに泳ぎ切って、日本経済が力強く成長できるように、他国と比べて不利でない交易上の条件を確保し、経済主体の予見可能性を最大限高めることが求められる状況にあります。
 その点、今般の日米間の合意は、「関税より投資」という我が国の考え方を米側に一貫して主張し、粘り強く協議を重ねた結果、石破総理とトランプ大統領、私と米側3閣僚との間で個人的な信頼関係を築き上げ、世界でも本当にまれな例ですけれども、日本側の関税は一切引き下げることなく、日米両国の国益に資する形での合意を実現することができたというふうに考えております。
 一方で、今般の日米間の合意により、自動車・自動車部品等の関税引下げは実現してもなお、依然として関税は残っておりますし、今後あり得るべき医薬品や半導体に関する大統領令において、我が国の最恵国待遇が、日米間の合意にきちんと基づいて確保される必要があります。
 こうした点も踏まえつつ、まず米側との間で今般の合意の誠実かつ速やかな実施に努めていくということが重要であります。これにより、両国の相互利益の促進、すなわち日米同盟の更なる強化、経済安全保障の確保、我が国の経済成長の大幅な促進につなげていくということが重要であると考えています。
 また、我が国の産業界や農業界に対しては、政府対策本部で4月に取りまとめた「米国関税措置を受けた緊急対応パッケージ」に基づきまして、政府として引き続き、米国関税の影響に起因する不安や疑問を払拭するための丁寧な説明・対話を実施するとともに、特別相談窓口における丁寧な対応や、中小企業・小規模事業者の方々への資金繰り支援等に着実に取り組んできております。
 今後も日米間の合意や各国の動向による我が国の影響を引き続き十分に把握・分析し、産業や雇用に与える影響の緩和に万全を期してまいりたいというふうに考えております。
 引き続きまして、最低賃金についてもご質問いただきましたが、私は現行憲法下初の賃金向上担当大臣であります。これまでそういう大臣は現行憲法の下で置かれたことがないです。初の賃金向上担当大臣として、最低賃金を含む賃上げ、そして、実質賃金のプラス化の実現・定着に向け、全力で取り組んできたところでございます。
 最低賃金の引上げに向けては、厚生労働省との連携の下、中小企業団体等との意見交換を行ったほか、複数の知事など地方の関係者に対する働きかけを行いました。
 最低賃金法自体は厚生労働省、厚生労働大臣の所管でありますが、そうした一連の対応は、「賃上げこそが成長戦略の要」という石破内閣の基本的な考え方に沿った賃金向上担当大臣が行うべき必要な取組であって、いわゆる介入には当たらないというふうに考えております。
 今年度、中央最低賃金審議会が答申した目安は、前年度比プラス6.0%、プラス63円であったところ、中央最低賃金審議会での議論を経た最終結果は同プラス6.3%、プラス66円、全国加重平均は1,121円、全ての都道府県で1,000円を超えることとなりました。
 昨年度と比べると、昨年度は中央の目安プラス5.0%に対し、最終結果は0.1%上乗せのプラス5.1%となったところ、今年度は今申し上げたとおり、中央の目安プラス6.0%に対し、最終結果は0.3%上乗せのプラス6.3%となりました。
 このことは地方の関係者において、地方経済の持続可能性を確保する観点から、最低賃金を引き上げたら大変なことになるのではなくて、最低賃金を引き上げないと大変なことになる、最低賃金を引き上げていくことの重要性について広く共有されたことの表れである、地方のほうが中央以上に最低賃金を上げていかないとまずいという危機感が強いということが明らかになったところだと思っています。
 その一方で、最低賃金近傍の労働者は全国に660万人程度存在します。また、EU指令では、賃金の中央値の60%又は平均値の50%が最低賃金設定に当たっての参照指標として加盟国に示されているところ、我が国の直近の水準は、EUの基準が中央値の60%に対し、我が国は47%、平均値の50%がEU基準であるときに、我が国の平均値は41%。端的に言えば、2割方低いということであります。
 こうした現状に鑑みると、全ての働く皆様に対し、明日の心配のない暮らしをお届けできるよう、この先の政府の体制のいかんにかかわらず、最低賃金を2020年代に全国平均1,500円にすると。目標の達成に向けて、関連する施策を総動員した中小企業・小規模事業者への支援を含め、引き続きたゆまぬ努力を継続していくことが必要であるというふうに考えてございます。
(問)高市総裁が、経産大臣に赤澤大臣を起用されるとの一部報道があります。打診があったか、お受けになったか、お伺いできればと思います。
 併せて、赤澤大臣はこれまで日米関税交渉について、後任に引き継ぐとの考えを繰り返し述べておられましたが、経産大臣として引き続き携わられるお考えかどうか、お伺いできれば幸いです。
(答)本当に恐縮でありますが、今のご質問についてはお答えできることはございません。
(問)初入閣から1年間、大臣は注目度の高い一連の内政・外交課題に取り組まれ、世論やネット上でも賛否両論ではありますけれども、石破内閣の閣僚の中で最も知名度の高いお一人だと言っても過言ではないかと感じております。大臣は以前の会見で関税交渉の成果について、その評価はメディアや国民の皆様に委ねたいというふうにおっしゃっていましたが、経済再生担当大臣として退任を控える今、赤澤大臣として、また、政治家と交渉人としての赤澤亮正さんとして、どのような評価を国民からいただけたらうれしいとお考えでしょうか。
(答)まず、割と私が好きな言葉で、勝海舟の言葉で、「行蔵は我に存す、毀誉は他人の主張、我に与からず我に関せずと存候」というものがございます。実は「行蔵」というのは身体を含めているので、その言葉をそのまま援用してしまうとちょっと大げさなのですが、私なりの理解は、自分の行動には責任を持つと。引き受けた仕事ではベストを尽くして、最大限の成果を上げてみせると。ただ、それをどう評価するかは他人が勝手にやることであり、私はあずかりもしないし関係ないという意味であります。
 そういう覚悟でずっと仕事はしているわけでありますが、ただ、国民への説明責任という大変重大な責務も閣僚として負っているわけで、国会で同僚議員からのご質問等があれば、それに真摯にお答えしながら、事実関係を説明することになります。なかなか評価について触れるのは難しいですが、そういう中でご理解いただける努力を最大限していきたいと思っています。
 先ほど申し上げた「行蔵は我に存す、毀誉は他人の主張、我に与からず我に関せずと存候」という思いなんですけれども、この1年間、自らの担務に全身全霊をかけて取り組み、期間内に上げられる成果は全て上げたつもりで、私個人への評価については、私自身から申し上げることは差し控えたいというふうに思います。
 その上で、総理がいろいろな会見でおっしゃっていたとおり、私の担務の中でいえば、断固として最低賃金を暮らしていける水準まで引き上げる覚悟を決めて取り組んできた賃金向上でありますとか、日本の国を未曾有の大災害から守り抜くための防災庁の設置でありますとか、恐れずに「関税より投資」と大統領に申し上げたとおり、それを貫いて、結果につながった日米関税交渉など、我が国の将来にとって意味のある政策の道筋をつくることができたし、一定の成果を上げることができた。それを次の政権にもぜひ引き継いでいただきたいという思いは総理と全く共鳴しており共通するものであるので、申し上げておきたいと思います。
 結論において、こうした取組への評価は今後、歴史の中で確立されていくものであるというふうに考えております。
(問)先ほどのお答えに関連して、賃金向上担当大臣というものであったがゆえに、最低賃金でもリーダーシップを発揮できたと思うんですけれども、現行の最低賃金の決め方、あるいはその他も含めた賃上げの支援に当たって、賃金向上担当大臣というのは引き続きあったほうがいいかどうか、そのことについてどうお考えか、お聞かせください。
 それともう一点、最近「劇的な経済成長」というワーディングを使われているかと思うんですが、劇的というのはどういうイメージなのかをかみくだいていただければと思います。
(答)一語一語をよく聞いていただいてありがとうございます。
 それでまず、賃金向上について申し上げると、今日、最後の会見ということだと思うので、思うところを申し上げれば、私は、日本国民は本当に勤勉で、諸外国と比べて教育水準も高いと。製造業という意味でいえば、航空機の部品とか自動車部品とか、命に関わる物をつくるということにかけては、我が日本国民の右に出る人は世界中を探してもいないということを確信しております。
 そういう国でありますので、当然ながら、ぐんと経済成長してもおかしくないのに、なかなかそれが難しい過去30年、40年であったということを思っています。
 なので、2つのご質問に今のことを申し上げた上で、さらっと結論だけ申し上げると、日本国民は、今しておられる仕事でもっと高い賃金・給料を受け取られる資格があるというのが私の確信であり、ベースにある考えです。それをいろいろな意味で、制度とかいろいろなこともある中で、低過ぎる最低賃金とかそういったものは、有意に最低賃金より高い賃金で働いている非正規やパートの方の賃金にも影響し、賃金全体にも影響いたします。
 政治がそこのところをうまく解決し、賃金向上をしっかり実現していくことで、個々人も不安なく、今日より明日はよくなると信じて暮らしていける日本というものをつくれると思っていますし、GDPという意味でも、今600兆円を超えたところである意味一段落みたいな感じの受け止め方もあるかもしれませんが、私からすると、その辺の問題を全部解決していけば、総理が2040年に名目GDP1,000兆円とおっしゃった目標をはるかに上回る、そういう実績を我が国には上げる力があるということを私自身は確信しているということが、先ほどおっしゃった2つの質問は関連しておりますので、裏表ということでお答えをさせていただいた次第でございます。

(以上)