赤澤内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和7年2月19日

(令和7年2月19日(水) 18:42~19:05  於:中央合同庁舎8号館1階S108会見室)

1.発言要旨

 冒頭、月例経済報告等に関する関係閣僚会議の概要を報告します。
 今月は「景気は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復している」と、先月までの判断を維持しています。これは、企業部門は業況感の改善が続き、設備投資も持ち直しの動きが見られるなど、引き続き堅調であること、また家計部門については、身近な品目の物価上昇もあって消費者マインドは横ばいとなっているものの、賃上げの効果等による実質所得が増加に転じる中で、個人消費の持ち直しの動きが続いていることなどを踏まえたものであります。
 先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待をされます。ただし、通商政策など米国の政策動向による影響等に十分注意する必要があります。
 加えて、会議で私から説明した内容のうち、賃金等の動向について申し上げます。
 フルタイム労働者とパートタイム労働者を加重平均した名目賃金は、2024暦年は前年比プラス2.9%と、1991年以来33年ぶりの高い伸びとなりました。月ごとの動きを見ると、24年5月以降8か月連続でプラス2%以上の伸びが続いています。
 事業所規模別に見ると、相対的に規模の小さい事業所は所定内給与の伸びが低くなっていますが、逆に冬のボーナスの伸びは高くなっています。就業形態別に実質賃金を見ると、フルタイム労働者の現金給与総額・パートの時給ともに2024年は3年ぶりのプラスとなっています。フルタイム労働者の定期給与もマイナス幅が縮小していますが、24年12月にかけて物価上昇率の高まりにより、マイナス幅が拡大している点に注意が必要です。賃上げと投資が牽引する成長型経済に移行するため、2%程度の安定的な物価上昇と、これを持続的に上回る賃金上昇の実現が極めて重要です。
 就業希望者数については、労働参加の進展等もあって、長期的に減少しています。このように、潜在的な労働供給の余地が縮小する中にあって、企業が労働力を確保するためには、賃金の引上げがより重要になっているということが言えます。
 この他、会議の詳細については後ほど事務方から説明させます。

2.質疑応答

(問)輸出入の判断が変更になったと思うのですけれども、こちらに対する受け止めと。あと、トランプ大統領が18日に、自動車、半導体、医薬品への25%前後の関税を4月2日に発表すると発言しました。日本企業や経済への影響等、今後どのように対応するか、大臣のお考えをお聞かせください。
(答)まず、今月の月例経済報告では、輸出については、韓国や台湾、ASEAN向けの半導体製造装置の輸出や、中国向けの金属加工機械の輸出が増加傾向にあるなど、輸出全体の過半を占めるアジア向け輸出が増加をしていることを踏まえ、「このところ持ち直しの動きが見られる」と、判断を上方修正したところであります。他方、輸入については、昨年秋頃まで新製品発売の効果もあって増加傾向にあった中国からの携帯電話機など、様々な品目の輸入が減少し、輸入全体の約5割を占めるアジアからの輸入が横ばいとなっていることを踏まえ、「おおむね横ばいとなっている」と、判断を下方修正いたしました。
 輸出については海外経済の回復が続く中で、持ち直していくことが期待されると考えています。ただし、中国における不動産市場の停滞に伴う影響など海外景気の下振れリスク、更には通商政策など米国の政策動向の影響には十分注意する必要があると思います。輸入については、雇用・所得環境の改善が続き、内需が緩やかに回復する下で、持ち直していくことが期待されます。ただし、食料品など身近な品目の物価上昇の継続が消費者マインドの下押しを通じて、個人消費に及ぼす影響には十分注意する必要があると思います。
 政府としては、今月の閣僚懇談会において総理から指示がございましたとおり、足元の物価高に対する万全の対応を行うとともに、賃上げこそが成長戦略の要という認識の下で、賃上げを起点とする所得の向上と経済全体の生産性向上を図り、成長型経済への移行を確実なものにしていきたいというふうに考えております。
 その上で、米国時間2月18日、トランプ大統領が記者団に対して自動車や半導体、医薬品に関する関税率の引き上げについて発言されたことは承知をしております。
 自動車関税については、米国政府に対し、我が国の自動車産業の重要性を踏まえ、問題提起をしているところであると承知をしております。ご案内のとおり、自動車産業は我が国の雇用の1割、米国への輸出の3割を占めていますので、影響が大きいことは間違いありません。こうした米国の関税措置について、まずはこれらの措置の具体的な内容及び我が国への影響を十分に精査した上で、適切に対応していきたいというふうに考えております。
(問)この週末でウクライナへのロシアの侵略から3年になります。見方によっては30年間、動かなかった物価と賃金が動いたとする見方もありますが、一方で、足元でもまだ物価高に苦しんでいる国民がいます。この3年間、日本経済に与えたウクライナ侵略の影響について、どうお考えになるかということと、何か今後、対策など必要なものがあるとお感じでしたら教えてください。
(答)2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵略開始から間もなく3年を迎えますが、経済への影響ということを申し上げる前に、ウクライナ侵略は国際社会が本当に長きにわたる懸命な努力と多くの犠牲の上に築き上げてきた国際秩序の根幹を揺るがすものであり、法の支配に基づく国際秩序を守るべく、国際社会が結束して断固たる決意で対応していく必要があるという考えには、何ら変わりはありません。
 その上で、我が国経済に与えた影響に関して申し上げれば、今回の物価上昇局面が、そもそもコロナ禍を経た世界的な需要回復に加えて、ロシアのウクライナ侵略による資源あるいは食糧価格の高騰を契機に始まっています。これに円安の進行も相まって輸入物価が上昇したことを起点として、国内物価への転嫁が進み、2023年1月のピーク時には、消費者物価の総合指数の前年比上昇率が4.3%まで達しているのです。
 その後、資源あるいは食糧価格の落ち着きや、電気・ガス代の激変緩和措置等の政策効果に加えて、食料品等の値上げの動きが一服したことで、輸入物価を起点としたコストプッシュ型の財価格上昇が一旦落ち着きを見せて、2023年11月以降はおおむね2%台で推移していました。しかし、また2024年秋以降、食料品など身近なものの価格が上昇し、国民や事業者の方々は厳しい状況に置かれています。
 この背景にはウクライナというより、夏の天候不順による我が国の野菜の生育不良、需給の逼迫・生産コスト増加などによる米価格の上昇、更には物流費や人件費の転嫁といった要因があります。この間の名目賃金については官民の賃上げ促進に向けた取組もあり、2024年の春闘では33年ぶりの高水準となる賃上げが実現し、2024年5月以降2%以上の賃金上昇が8か月続いています。しかし、賃金の伸びが物価上昇を安定的に上回る状況には至っておらず、物価上昇の継続による消費者マインドの下押しもあって、我が国のGDPの過半を占める個人消費は、力強さを欠いた状況がずっと続いております。
 政府としては、今月の閣僚懇談会における総理の指示に沿って、足元の物価高に対する万全の対応を行うとともに、賃上げこそが成長戦略の要との認識の下、賃上げを起点とする所得の向上と経済全体の生産性向上を図り、成長型経済への移行を確実なものにしていきたいと考えています。ご質問について言えば、とにかくウクライナ侵略で始まった、そこが起点となった物価高。その後もいろいろな理由があって、それが続いている状態の下で、しっかりとした経済運営を行い、成長型経済への移行を確実なものにしていきたいというふうに考えております。
(問)デフレ脱却に向けた方策についてお伺いしたいと思います。大臣はこれまでも、アメリカと違い、日本では物価高でも消費が伸び悩んで、長引く低成長・低賃金などによりデフレマインドが払拭できていないという認識を示されています。一方で、インフレの状態ということにも言及されています。国民の実感としては、食料品の価格など物価高が続いて、インフレというような非常に厳しい認識があると思うのですけれども、長引くデフレマインドの脱却に向けて、あえて逆にデフレ脱却宣言をすることによって、国民にデフレマインドからの脱却を促すというお考えはありますでしょうか。ご認識をお聞かせください。
(答)まず、景気は気からという言い方もあるので、おっしゃることも分からないではないのですが、少なくとも当面、私が考えていることは、経済が現在インフレの状態にあるということと、それでもやはりデフレに逆戻りする可能性があるということは、もう完全に矛盾なく両立するものだと思っているのです。
 そういう前提で少しお話をしますが、1990年代のバブル崩壊以降、企業は短期的な収益確保のために賃金や成長の源泉である投資、人への投資も含めて抑制をしてまいりました。その結果、消費の停滞や物価の低迷、更には経済成長の抑制がもたらされ、我が国経済は「低物価・低賃金・低成長」という悪循環に陥っていて、それがもう30年も続くと、国民の中で日本経済はそういうものなのだと思われている。
 逆に言えば、物価・賃金が上がり、成長がもたらされるということを全く経験しない国民も、かなりの数でいるということです。こうした悪循環の中、家計にはデフレマインド、企業にはコストカット型の経済、縮み志向が広く深く染み付いてきているということです。ご指摘のとおり、家計や企業のこういうデフレマインドとかコストカットの縮み志向を払拭することが極めて重要であって、それが我々のメインテーマではあります。
 ただ、私の原点の考えは、単にデフレ脱却を宣言することにより、これが達成されるというほど単純なものではなくて、我が国経済の構造が賃上げと投資が牽引する成長型経済にしっかり転換していく中で、ある意味、結果として実現していくものだというふうに認識をしています。政府としては安定的な物価上昇の下で、それを上回る賃金上昇が安定的に実現する経済、もう少し敷衍すれば、賃金が上がり、家計の購買力が上がることで消費が増え、その結果、物価が適度に上昇すると、また企業収益が上がることで賃上げが起きる、その間に新たな投資を呼び込み、企業が次の成長段階に入り、企業も安心して働いている方の賃金を上げていくという、そういう好循環が起きるということが必要です。これを実現するためにも、石破内閣においては一人一人の国民の皆さんに豊かさを実感してもらうために、今日より明日が良くなる、ある意味「楽しい日本」を実感してもらうために、2020年代に最低賃金1,500円を実現するという高い目標を掲げており、本年春までに最低賃金を引き上げていくための対応策を取りまとめます。
 ここに思いを込めているのは、私自身がまず現行憲法下で初の賃金向上担当大臣なのです。賃上げというのは、少なくともかなり前の時代であれば、これは労働組合の方たちもおっしゃるけれども、なかなか政府与党がそういうことを前面に出して言うことはなくて、どちらかといえば、やはり企業の経営を良くする、収益を良くするという方向に力を入れるものであったものを、現行憲法下初の賃金向上担当大臣をきちっと置いているということです。
 総理が繰り返し申し上げているように、賃上げが成長戦略の要だということも宣言をし、そして、2020年代に最低賃金1,500円に上げていくまでの高い目標を少なくとも5年間は継続すると。ありとあらゆるところで、国民の皆様の間に根強く染み付いたデフレマインドを払拭するための政府の決意、コミットメントを発信しまくっているわけです。
 要は賃金向上担当大臣を決め、賃上げが成長戦略の要と言い、そして2020年代に1,500円という最低賃金の目標を掲げ、とにかく中期的に政府は決意と覚悟を持って臨んでいますということを発信し続けていることが、ある意味で国民のデフレマインドを払拭するための大きな力になると、我々は信じてやっているということです。私の言葉で言えば、政府のコミットメント、決意と覚悟を示すことで国民にじわじわと納得してもらう。デフレマインドが溶けていく。最後は解消する、払拭するということを目指したいということです。
 加えて、地域の中堅・中小企業を含め、物価上昇を上回る賃上げを普及・定着させるために、人への投資、価格転嫁等の取引適正化、DX等の省力化投資等を通じた生産性向上、経営基盤の強化に資する事業承継・M&Aの支援に全力で取り組んでいるところです。デフレ脱却したよと呼びかけるだけで実現するというよりは、こういうことを地道に徹底的にやって、しかも政府の決意と覚悟を示すことで、国民の中に染み付いたデフレマインドが溶けていくというのが本来のプロセスだと、我々は思ってやっているということを改めてご説明をいたしました。
(問)最初の方の質問と少し重なるのですけれども、トランプ関税についてです。今回、日本が対象国になるかは分からないのですけれども、仮に日本の自動車に25%の関税が課された場合、影響は計り知れないと思うのですが、民間のエコノミストは2年間で実質GDPが0.2%押し下げられるという試算を出しています。大臣として、先ほど影響は大きいとおっしゃっていましたけれども、具体的にその影響をどう見積もっているか、その辺りの認識をお願いします。
(答)具体的にどれぐらいの関税を課されるのかというのが分からないと、お答えしようがないです。それから、これは総理もおっしゃっていたと思いますけれども、やはり5年続けて世界で一番の投資を米国に対して日本が行い、その結果、多くの工場がオープンし、何万人という雇用を生み出したということや、1991年当時はアメリカの貿易赤字のうち3分の2が日本だったものが、今は5%台まで落ちてきているということを丁寧に説明する。それがまさに総理の訪米の大きな効果の一つですけれども、それで大変Win-Winだと、お互い補強関係であり、お互いを補完できるのだというようなことを、ものすごく強く意識した共同声明にまで結実しています。他の国に関税をどんっと米国が課したとしても、必ずしも我々の国がそうなるとは限らないという思いは持ってはいます。
 もちろん、そういう楽観的な見通しの上にあぐらをかいていてはいけませんので、岩屋大臣からは当然のように具体的な動きが出るたびにしっかり米国に申し入れて、日本は除外してくださいとか、日本についてこれだけの米国経済への貢献は理解しておられますよねみたいな話を丁寧にしながら、極力、課される関税が少ないように、できればないように努力を最大限しているということであり、その上で、繰り返しになりますけれども、楽観的な見通しであぐらをかいていて、何か起きた時にびっくりするようでは仕事になりませんので、しっかり状況を分析しながら適切な対応を取っていきたいというふうに思っています。
(問)関連して自動車への関税について伺います。賃上げの点でいいますと、政府は今年の春闘に向けて、政労使の場も活用して労使に対して賃上げを求めています。日本の自動車産業は、自動車メーカーだけではなくて部品メーカーも裾野が広いですけれども、この賃上げに対する影響というのは現時点でどうお考えでしょうか。
(答)要するに自動車へ及ぶ影響という意味ですね。これはなかなか確定的に申し上げることは難しいですし、やはり仮定の話になるので答え方は難しいのですが、前の例でいうと、第1次トランプ政権で米中が貿易戦争、関税の撃ち合いみたいなものを始めて3か月後に、結果的に見ると日本経済がどうもピークを打っていたみたいなのです。
 ということなので、日本に直接関税を課されるようなことがなくても、それだけやはり影響というのはあり得るということなのです。直接、しかも25%などという関税というものが、もし本当に問題になってくれば、これは相当影響についてはきちっと注視しておかなければいけないと思います。その上で、景気にそれだけの影響が出てくると、賃上げについて直接的にどうかということを今は申し上げられませんけれども、相当注意深く見ていかなければならないし、影響が決してないとはとても言えないものだろうというふうには思います。
(問)冒頭の月例経済のことで一点、関連で伺いたいのですが、足元のGDPは非常に強い数字が出ていて、市場予想をはるかに上回る数字だったのですけれども、それでもあえて今回、景気の判断を据え置いている。なぜ慎重に見ているのかというのを一言いただければと思います。
(答)そこについてはいろいろと、その辺の先行きに向けての言い方については難しいところがありますが、やはり外的な要因もあります。いろいろ見ていただくと、中国経済についてもご案内のとおりで、不動産の問題もあれば、いろいろと物価についても問題があります。加えて、通商政策を含む米国の動向などもありますし、現時点で大変力強い状況があることはいいことだと評価をしていますけれども、いろいろな意味でもう少し時間をかけて見ていかないといけないという思いがあります。

(以上)