赤澤内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和7年1月23日

(令和7年1月23日(木) 19:32~19:48  於:中央合同庁舎第8号館1階S108会見室)

1.発言要旨

 月例経済報告等に関する関係閣僚会議の概要を報告いたします。今月は、「景気は一部に足踏みが残るものの緩やかに回復している。」と、先月までの判断を維持しています。これは、企業部門は業況感の改善が続くなど引き続き堅調であること、家計部門についても賃上げの効果等により実質所得が増加に転じる中、個人消費の持ち直しの動きが続いていることなどを踏まえたものです。先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果もあって緩やかな回復が続くことが期待されます。ただし、中国経済など海外景気の下振れリスク、米国の政策動向による影響などに十分注意する必要があります。
 加えて、会議で私から説明した内容について申し上げます。
 フルタイム労働者とパートタイム労働者を平均した名目賃金の伸び率を見ると、ベアで3.56%という33年ぶりの高さとなりました。そういう昨年の春闘の効果もあって、2024年5月以降、7か月連続で2%以上の伸びが続いています。これは実に1992年以来のこととなっています。
 フルタイム労働者とパートタイム労働者、それぞれの実質賃金の動向を確認すると、まずフルタイム労働者の実質現金給与総額は6月以降プラス傾向が継続しています。ボーナスを除いた実質定期給与では前年比ゼロ近傍が継続していますが、11月は消費者物価上昇率が高まったため、若干のマイナスとなっています。そして、パートの実質時給は前年比2%程度の増加が続いています。
 年齢別にフルタイム労働者の名目賃金を見ますと、2021年からの3年間で名目賃金は7.4%増加しており、特に若年層では9%程度の増加となっています。また、2023年の賃金上昇は若年層が中心でしたが、2024年は賃金上昇が中年層にも広がっています。
 2025年度における中小企業の賃上げの意向を見ますと、現時点では賃金の引き上げを予定する中小企業は全体の半数程度となっており、まだ賃上げの有無を決めていない企業は4分の1ほどとなっています。そして、賃上げを予定している中小企業については、そのうち約半数が3%以上の賃上げを予定しています。
 「賃上げと投資が牽引する成長型経済」に移行するため、物価上昇を安定的に上回る賃金上昇の定着が重要です。このため、円滑かつ迅速な価格転嫁の更なる推進や、生産性向上のための省力化・デジタル化投資等の促進、経営基盤の強化に資する事業承継・M&Aの支援が引き続き重要です。この他、会議の詳細については後ほど事務方から説明をさせます。
 続きましてダボス会議です。1月20日から22日にかけて、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会、いわゆるダボス会議に出席するとともに、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)に関する会談を行ってまいりました。
 ダボス会議においては、不確実性が増す国際社会における日本の経済政策に関するセッション、「Japan Navigates Uncertainty」というタイトルのパネルディスカッションに登壇をいたしました。石破内閣が進める経済財政政策などを説明した後、世界で活躍されているパネリストの方々と意見交換を行った次第です。また、シンガポールのガン副首相兼貿易産業大臣と会談を行い、CPTPPの今後の課題や人材開発の取組などについて意見交換を行いました。この機会に、私から内外の要人に対し、本年開催される大阪・関西万博に多くの方々にご来場いただきたいと訴えてまいりました。
 今回の出張で得た知見を今後の政策運営に活かしてまいりたいというふうに考えてございます。

2.質疑応答

(問)月例報告では倒産件数が足元で横ばいになっていることが示されました。一方、金利ある世界で中小企業を中心に負担が増加することも懸念されています。近く行われる追加利上げが中小企業などにどのような影響を与えるとお考えでしょうか。
(答)倒産件数については、コロナ禍から経済活動が正常化することに伴い、ゼロゼロ融資など、コロナ禍の有事対応として講じた各種の支援措置がその役割を終える中で、小規模な事業者を中心に増加していたということが事実でございます。その後、倒産件数の増加はピークアウトし、昨年夏以降は月800件台の横ばい圏内で推移しているものと承知をしております。こうした状況を踏まえ、本日公表した月例経済報告では、倒産件数の判断は「おおむね横ばいとなっている」としたところでございます。
 企業の業況感を見ると、売上の約7割を占める非製造業において、中小企業を含め、バブル期以降で最も高い水準にあるなど改善が続いており、中小企業の資金繰り状況についても安定した状況にございます。今後とも、中小企業の資金繰りも含めた企業部門の動向を注視してまいりたいと思っております。
 その上で、現在、倒産の原因の7割以上は販売不振によるものであり、ということは中小企業の稼ぐ力を高め、より大きな付加価値を生み出せる構造に転換することが重要ということになってまいります。このため、中小企業の価格転嫁の更なる円滑化を促進することとあわせて、省力化・デジタル化投資の促進とか、人への投資の促進及び中小・中堅企業の経営基盤の強化、成長の支援、事業承継・M&Aの支援策等などに取り組んでまいります。
 その上で、金融政策については先ほど、今後の利上げでということをおっしゃったのですが、本日から明日にかけて日本銀行の金融政策決定会合が開催されておりまして、特にブラックアウトの時期でもあります。このタイミングで私から何かコメントすることは差し控えたいと思います。日本銀行には引き続き政府と緊密に連携し、十分な意思疎通を図りながら、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて、適切な金融政策運営を行っていただくことを期待しております。
(問)冒頭のダボス会議に関連してCPTPPについて伺います。新たに就任したアメリカのトランプ大統領はメキシコやカナダからの輸入品に25%の関税を課す考えなどを示していまして、今後、アメリカの保護主義的政策が強まるとの指摘が出ています。こうした国際情勢下で自由貿易の重要性を改めてどう認識されているかと、CPTPPを含めて今後、自由貿易の推進に向けて日本としてどう取り組むべきか、お考えをお願いします。
(答)トランプ米国大統領の就任後、貿易政策を含め様々な方針を打ち出しておられるものと承知をしております。我が国としては、まずは今後明らかになる措置の具体的な内容、関税なども含めて我が国への影響を十分に精査した上で、適切に対応していきたいと考えております。
 いずれにせよ、我が国としてはインド太平洋地域の国際秩序への米国の関与が引き続き重要であるというふうに考えておりまして、日米経済関係の更なる深化・発展を図るための協力を進めていくべく、米国の新しい政権と緊密に意思疎通をしていきたいと思っております。
(問)今の質問の続きなのですけれども、メキシコ・カナダ25%関税へのご所見を伺いたいのですけれども、歓迎されるのか、懸念されるのか。我が国の工業生産及び雇用に影響はないと見ていいのか。甚大な影響があるので精査するということなのか。
 公明党の斉藤代表に同じ質問を一昨日したところ、「非常に心配なので、石破総理に日米首脳会談の際には自由貿易主義の意義を話してほしい」という強いメッセージだったのですけれども、大臣のご所見をお願いします。
(答)まず、米国において1月20日にトランプ大統領が第47代アメリカ大統領に就任をされました。心からの祝意を表したいというふうに思います。20日に行われた就任演説では、トランプ大統領が大統領選中に語ってこられたいろいろな理想とか理念とか、そういうものを実現するための政策の方向性が改めて示されたものというふうに受け止めております。
 就任後、トランプ大統領は、移民政策やエネルギー政策、気候変動対策など、アメリカ内外の経済に影響を与え得る様々な分野についての大統領令に署名をしています。通商政策については各種の調査を閣僚に指示する大統領令に署名をしたと。これは直ちに何かが発効するわけではないのだけれども、調査を命じたというような大統領令もあります。その一方で、具体的な関税率の引き上げに係る決定はまだ行われていないと承知をしております。
 アメリカはもう世界のGDPの約4分の1を占めております。当然、カナダやメキシコにとっても非常に重要な貿易相手国であると思いますし、日本からの輸出シェアの約2割はアメリカが占めております。また、ご案内のとおり、日本の企業がメキシコに進出をして、その企業がアメリカに輸出をするというようなこともあるものと承知をしております。
 そういう意味で、我が国を含めた世界経済に対して直接的、間接的に与える影響は大きいので、関税の引き上げも含め、米国の政策動向やその影響については引き続き注視をしてまいりたいというふうに考えております。
(問)賃上げについてお伺いします。今週、今年の春闘がキックオフしました。特に今年は中小企業に賃上げが広がるかが大きな焦点となっています。労使交渉への期待感と、政府として中小企業の賃上げにどのような後押しをしたいか、お願いいたします。
(答)私も最近、知ったのですが、現行憲法下で賃金向上担当という閣僚は私が初めてらしいので、大変重要な役目を与えられたと改めて思ったということを冒頭に申し上げます。
 春季労使交渉に向けては、昨年11月26日に開催した政労使の意見交換で、総理からベースアップを念頭に、そして高水準の賃上げとなった今年の勢いで大幅な賃上げについてお願いするとともに、中小企業や地方に賃上げの流れが波及することは重要であるという3点セット、ベースアップ、今年の勢いで、去年の時点ですけれども、それから中小企業ということで、3点に力を入れて発言を総理がされたわけです。本年1月21日に経団連が公表した経済労働政策特別委員会報告、いわゆる経労委報告においては、これらの3点について受け止めて、しっかりと盛り込んでいただいたと考えています。大変心強いと思っています。
 中小企業の賃上げに関しては昨日、連合・芳野会長と経団連・十倉会長が面会をされ、春季労使交渉に関する懇談会が実施されたところですが、労使ともに賃上げの力強い流れを定着させると。キーワードは定着だということで、しかも、中小企業に波及させることが重要であるという方向性が共有されたものと承知をしております。
 政府としては、中小企業をはじめとした事業者の皆様が確かにもうかり、物価上昇に負けない賃上げをしていただけるように、1月16日に開催した総理と中小企業の車座でも総理にご発言いただいたとおり、円滑かつ迅速な価格転嫁を進めるとともに、生産性向上のための省力化・デジタル化投資等を促進していくということとしております。
 価格転嫁対策については、労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針に基づく取組を徹底するため、昨年末までに所管省庁が業界団体と連携し、指針の順守状況について実態調査を実施しております。この結果、分かったことは、指針の順守が不十分であり、価格転嫁が十分できていない事例が、依然として一定程度存在する状況が明らかになったということです。したがって、引き続き、指針の順守徹底に取り組んでまいります。
 また、下請Gメンに加えて新たに「下請かけこみ寺」の調査員と連携するなど、下請法の執行を強化してまいりますし、それだけでなくて、下請法については、コスト上昇局面における価格据え置きへの対応の在り方とか、あるいは荷主・物流事業者間の取引への対応の在り方等に関し改正を検討し、早期に国会に提出することを目指しております。
 そして、生産性向上対策については今般の補正予算において、持続的・構造的賃上げに向けた価格転嫁等の取引適正化の推進、省力化・デジタル化投資の促進、人への投資の促進及び中堅中小企業の経営基盤の強化、成長の支援、事業承継・M&Aの支援策等といった支援策を盛り込んでおり、これらの政策をできるだけ速やかに実施をしていきたいというふうに思っております。
 また、人手不足感が特に深刻な業種や、最低賃金の影響を大きく受けると考えられる業種、合わせて12業種ですけれども、各業所管省庁において今年春を目途に、実態把握の深掘り、優良事例の掘り起こし、支援策の拡充や対面・目視義務の見直し、サプライチェーン全体での標準化など、多面的な促進策の検討、そして全国的なサポート体制の整備などを盛り込んだ、省力化投資促進プランを策定をするということであります。
 我が国経済はコストカット型経済から脱却し、デフレに後戻りせず、賃上げと投資が牽引する成長型経済に移行できるかどうかのまさに分岐点にあります。あらゆる政策を総動員し、賃金上昇が物価上昇を安定的に上回る経済を実現し、豊かさを実感できる成長型経済への移行を確実なものにしてまいりたいというふうに考えております。

(以上)