大田内閣府特命担当大臣記者会見要旨 平成18年11月22日

(平成18年11月22日(水) 18:33~19:20  於:記者会見室)

1.発言要旨

 月例経済報告に関する関係閣僚会議が開かれましたので、私からその概要をご報告いたします。
 今月の基調判断は、「景気は、消費に弱さが見られるものの、回復している」としております。前月に比べまして、消費に弱さが見られると指摘しておりますが、大局的には景気の基調に大きな変化はないと判断しております。
 個人消費は、今年半ば以降、天候要因などにより伸びが鈍化いたしましたが、そうした要因が剥落した8月以降も元の状態には戻っていないと見ております。このような実感を反映して、消費について若干下方に修正いたしました。
 この消費の伸びの鈍化の背景には、所得の伸びが鈍化していることがあると考えられます。ただ、その理由や、この状態がいつまで続くのかという持続性については、今の時点でははっきりいたしません。今後、消費、雇用者数、賃金などの動向を注視していきたいと思っております。
 先行きにつきましては、企業部門の好調は続いておりますが、これが家計へ波及する経路がこのところ少し弱まっている点に注意が必要ですけれども、今の時点では景気が腰折れする懸念は極めて小さいと見ております。
 政策の基本的態度につきましては、先月と同じ内容になっております。
 今日の閣僚会議でのやりとりを、後ほど詳しく事務方から説明いたしますが、幾つかご紹介したいと思います。
 今日は福井総裁ではなく岩田副総裁が御出席になりました。展望レポートの概要の紹介がありまして、これはもう皆さん御存じの内容ですけれども、消費者物価は、需給ギャップが需要超過幅を緩やかに拡大し、ユニット・レーバー・コストからの下押し圧力が減じていくもとで、2007年度にかけて前年比プラス幅が次第に拡大していくという予想がございます。これについて、柳澤厚生労働大臣から、展望レポートでは、ユニット・レーバー・コストからの下押し圧力が減じていくとされているが、一方で内閣府から説明した閣僚会議資料の10ページにあるとおり、ユニット・レーバー・コストは足元でややマイナスになってきている。全産業活動指数ベースでも少しは上がっているが、依然としてマイナスにある。この違いをどう見るのかという御質問がありました。
 これに対して、岩田副総裁からはユニット・レーバー・コストの背景を見ると、賃金がどうも伸びておらず、その背景としては、一つには人口構造要因がある。つまり団塊の世代がリタイアして、若い人の就職が増えている。あるいは、高齢化要因、すなわち高齢者が増えているという人口構造の要因が考えられると。
 ただ、今、雇用情勢は決して悪くありませんので、この好調さが続いていけば、次第にこれが賃金に波及していくだろうという話がありました。
 もう1つ質問をご紹介いたしますと、冬柴国土交通大臣から、最近企業から家計への波及が弱い要因として、今年に入ってから中小企業の経常利益がマイナスに転じていることが背景にあるのではないかという御質問がありました。
 これにつきまして、高橋政策統括官から確かに素原材料が上がっていて、この価格転嫁が遅れており、特にこれが中小企業の収益を圧迫しているという構図がある。ただ賃金への転嫁が遅いのは大企業も同じであるという回答がありました。
 その他の質問については、後で事務方から詳しくご紹介したいと思います。
 私からは以上です。

2.質疑応答

(問)先程、大局的には基調に大きな変化はないというお話ですが、今月で景気が回復局面に入ってから58カ月連続になりますけれども、いざなぎ景気を超えたと理解してもよろいしのでしょうか。
(答)正確な判定をするには時間の経過を待たなくてはいけません。後から景気の山谷は判断されるわけですけれども、月例の基調判断ベースではいざなぎ景気を超えました。
(問)それともう1点、個人消費の各論の部分で、「所得の伸びが改善すれば個人消費は増加していくものと期待される」と書いてあり、「伸びが改善すれば」という期待込みの話ですが、このことについてはどう見通されていますか。
(答)所得の伸びが鈍化して、横這いとなっていることの理由がもう一つ把握しきれないところがございます。雇用情勢はそれほど悪くありません。有効求人倍率も高い状態にあります。それから、新卒採用の動向も良い。にもかかわらず、所得は今年に入ってやや伸びが鈍化して横這いになってきています。
 この背景は、1つには人口構造で、団塊世代がリタイアして若い人の就職が進んでいるといった要因もあるかと思いますが、それ以外の要因もあるかと思いますので、もう少しここは時間をかけて見てみたいと思っております。
 つまり、所得の伸びが鈍化している背景、そしてその状態が持続するのかがいま一つ判断できませんので、もう少し様子を見て、この消費の弱さがどこまで続くのか、しばらく注意して見ていきたいと考えています。
(問)既に足元でいろいろな弱めの経済指標が出ていて、それを受けて民間の経済アナリストの中には、既に踊り場的な局面に入っているとか、年末に入ってしまうのではないかと懸念する声が出ているのですけれども、そういう認識と大臣のお考えとはかなり違うと取ってよろしいでしょうか。
(答)踊り場に入る可能性が全くないとは言い切れませんけれども、今の時点でまだその兆候ははっきりとしていないと見ています。
 例えば、IT関連財の在庫がやや積み上がるという点はありますけれども、受注と出荷を示すB/Bレシオは1を超えており、悪くありません。これもそれほど大きな調整にはならないと見ております。消費の伸びの鈍化にしましても、まだ一時的なものに止まる可能性は十分にありますので、今の時点で踊り場が近い、あるいは踊り場に入りつつあるという兆候はないと判断しています。
(問)所得が伸びない理由はいろいろあるのではないかと言われましたけれども、一般的に考えられているのは企業のリストラ姿勢といいますか、人件費の抑制姿勢が非常に強くて、なかなか賃金を上げていこうというマインドになっていない面があるのかなという気がしているのですけれども、そのあたりの大臣の御所見はいかがでしょうか。
(答)今回の景気回復は、企業のリストラの中で現れておりますけれども、昨年の6月あたりには確かに雇用の潮目が変わった感じがあり、賃金への波及経路がやや見えてきた感じがあったのですけれども、今年になって伸びが鈍化しております。
 ただ、これも1人当たり現金給与総額を見ますと、下落しているわけではなくて横這いなのですね。ですから、一言でリストラと言えないのではないかと。例えば、成果主義の影響も出ていると思います。あるいは、先行きへの慎重さから、なかなか定期給与を上げずに一時金で対応しているという企業の姿勢も表れているのだろうと思います。
(問)今日、議論があったかどうかわかりませんが、この資料の中にも中小企業の景況感に非常に格差があるということですが、いざなぎ超えの景気がこれからずっと続くことによって、中小企業の景況感も自動的に上がってくるという見通しを持っているかどうか教えてください。
(答)中小企業の景況判断、売上DIをご紹介していますが、これも徐々に上がってきていますので、今回の景気回復は大企業から中小企業へ、製造業から非製造業へと少しずつ波及する過程にあり、このまま続くことによって景況感が改善していく可能性は高いと見ております。
 ただ、一方で素原材料の価格が上がっていますので、そう簡単ではないと見ておりますが、じわりじわりと上がっていくと思います。
(問)いざなぎ景気を月例ベースでは超えたという根拠をかいつまんで説明していただけますか。
(答)大きな基調判断としては回復過程が続いているといます。足元の消費に弱さは見られますけれども、基調としては依然として息の長い回復が続いているという判断から、月例の基調判断ベースではいざなぎ景気の期間を超えていると申し上げました。
(問)消費の基調に大局的な大きな変化はないと冒頭で仰いましたけれども、それは消費だけではなくて景気全体からも大局的な変化はないということですか。
(答)消費に弱さが見られるけれども、大局的には変化がないということです。
(問)ユニット・レーバー・コストをめぐる日銀との見方の違いの部分について、結局のところどこでその違いが出ているのか。つまり、ユニット・レーバー・コストの算出で使っている統計や計算方法が違うというような話なのか、それとも日銀は今のことではなくて先のことを言っているのか、違いは結局どこにあったのでしょうか。
(答)今仰った後者の点です。足元のユニット・レーバー・コストについての認識は一致しております。ただ、日銀のレポートや先程の資料でも「ユニット・レーバー・コストからの下押し圧力が減じていく」という表現ですので、現在は下押し圧力であるという認識に違いはありません。それが減じていくという先行きの話です。
(問)賃金の伸びが遅れた場合に、政策的対応の遅れといったことで景気に冷や水を差す可能性はあるのでしょうか。
(答)賃金についてですか。それは例えば政策的対応というとどういう......。
(問)賃金の頭打ちがこの足元で続いている中で、政策的に何かこれで解決できることがあるのかどうかということと、民間企業にどういったことを期待したらいいのかを分けて教えていただきたいのですが。
(答)賃金につきましては、明確に下がっているというよりも、足元は横這いという状態です。むしろ政策的対応としては、正規と非正規の格差がなるべくないようにしていくということになろうかと思います。つまり1人当たりの賃金で見た時に、非正規の比率が高いことは全体の平均を押し下げますので、政策的対応としてはそのようなことが考えられるかなと思います。
(問)同じくユニット・レーバー・コストに関連して、デフレ脱却の判断をお伺いしたい。コアコアCPIはまだ依然としてマイナス、ゼロ近傍にあり、需給ギャップは多少プラスの方にはなっていますけれども、デフレーターは依然マイナスだと。そこに加えてユニット・レーバー・コストは7-9月期で大きくマイナスの方向に振れていますが、これはデフレ脱却判断が足踏みといいましょうか、一時に比べると後退しているという考え方ができるのでしょうか。
(答)デフレ脱却については視野に入ってきていると思っていますので、格別それを後退させたということはありません。GDPデフレーターは依然としてマイナス圏内にありますけれども、トレンドとしては確実に上方を向いております。それから需給ギャップも今0.4%と推計しており、これも上がってきております。
 ユニット・レーバー・コストについては、賃金の背景を今申し上げたように、少し分析してみないといけませんけれども、全体としてデフレ脱却への見通しが後退したとは見ておりません。
(問)正規と非正規の雇用の問題で、何らかの政策的対応について、どういうものを想定されますか。
(答)例えば社会保険の適用ですとか、既に話題に上っているものは幾つかあると考えられます。いずれ経済財政諮問会議で、労働ビックバンという議題で労働市場の問題を広範に取り上げますので、例えば今の制度が非正規が増えてくるような状態に即しているのかといったことを、包括的に検討したいと考えています。
(問)賃金が伸び悩んでいて、いつ上がるのか、なぜ上がらないかということを皆が言っているわけですが、月例で「企業部門の好調さが持続しており、これが家計部門に波及して国内民間需要に支えられた景気回復が続くと見込まれる」としているのは、どういう根拠なのですか。
(答)まさに企業部門から家計部門への波及というのは、じわりじわり起こっているわけですが、足元で少しその経路が弱まっているという判断です。
 ただ、これが一時的なものであるのかという点については、まだ見極めがつかないと考えています。大きい流れとして、企業から家計へという波及は確実に続いていると見ています。ただ、足元でややその経路が弱まっているという判断をしているということです。
(問)今回の景気の名前について御自身でアイデアがあるか、あるいは付けられるとしたらどういった方法があるか教えてください。
(答)ノーアイデアです。マスコミの方がいい名前をご提案くださるのを楽しみにしています。
(問)先程も質問がありましたけれども、民間シンクタンクの中には踊り場局面入りかという声さえも出ている中にあって、更に景気回復を持続させるために必要な政策的対応を、どのように考えられますか。
(答)まだ全体として景気は回復過程にあると思いますし、消費の弱さというのも一時的なものである可能性もありますので、今の時点で格別な政策対応は考えておりません。むしろ日銀・政府がまさに一体となって注意深くこの景気回復を更に持続させていくことが必要であろうと考えています。
(問)消費の弱さが一時的なものである可能性もあることを何度か言われていましたが、今後前向きに捉えられることも予測されていると。そのあたりはどういう見通しを持っているのでしょうか。
(答)消費が落ちている原因がいま一つはっきりしないのですね。一時的要因として天候要因等が考えられる。それから、所得の伸びが鈍化していることは恐らく背景にあると思いますが、その所得の伸びもマイナスになって減少しているわけではなく、伸びが明らかに減じているわけではなく横這いという状態ですね。
 とすると、消費の弱さがどこからもたらされているのか、今までの時点でうまく把握できないわけです。したがって、これが一時的なものである可能性はあると考えていますがもうしばらく見てみないとわかりません。
 ただ、これまで少し暖かさが続いていますので、若干消費の弱さは今後も続くかもしれません。
 ただ、消費の中でも、物は売れていませんけれども、例えば外食はかなり好調なのですね。したがって、物が売れていない部分が一部サービスに出てきていることも考えられます。なかなかサービスに関する消費の統計が十分ではありませんので、全体像を把握できない点があるのですけれども、もうしばらく供給側の統計も多面的に見ながら考えないと判断できないというのが実感です。
(問)政府と日銀の景気判断について、日銀では消費もまだ増加基調で、輸出も増えていると言っています。企業部門から家計部門への流れが弱くなっているのは共通認識かもしれませんが、細かいところを見ると結構違うと思います。景気認識が違えば政策対応も変わってくるかと思うのですけれども、その辺はどうお感じでしょうか。
(答)大きい景気の判断は一緒だと思っています。基調判断は一緒だと思っております。
 足元の動きについてやや政府側が下振れリスクを懸念しているという点はあります。足元の動きについて日銀の判断が出たのはQEの少し前でした。今回のQEで消費が落ちております。この消費も先程来申し上げているように一時的なものである可能性はありますし、理由をまだうまく把握できないこともありますが、私どもとしては、そういう状況もきめ細かく表現した方がいいという判断で今回のような表現を採っております。
 したがって、足元の状況把握もそれほど大きくは違っていないと見ています。輸出も9月単月では落ちておりますけれども、QEベースで7-9月期はプラスです。したがって、足元の状況をどういうデータでどう判断するか、あるいはそれをどれぐらいのきめ細かさで伝えていくかという点で少し違いはあるかもしれませんが、大きな認識は一緒だと思っています。

(以上)