第23回 消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会 議事録
日時
2025年5月16日(金)10:00~12:49
場所
消費者委員会会議室・テレビ会議
出席者
- (委員)
- 【会議室】
沖野座長、山本隆司座長代理、河島委員、小塚委員、二之宮委員、野村委員 - 【テレビ会議】
石井委員、大屋委員、加毛委員、室岡委員 - (消費者庁)
- 黒木審議官、古川消費者制度課長、原田消費者制度課企画官、消費者制度課担当者
- (事務局)
- 小林事務局長、後藤審議官、友行参事官
議事次第
- 開会
- 議事
取りまとめに向けた検討 - 閉会
配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)
《1. 開会》
○友行参事官 それでは、定刻になりましたので、消費者委員会第23回消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会を開催いたします。
本日は、沖野座長、山本隆司座長代理、河島委員、小塚委員、二之宮委員、野村委員には会議室で、石井委員、大屋委員、加毛委員、室岡委員はテレビ会議システムにて御出席いただいております。
配付資料は、議事次第に記載のとおりでございます。
一般傍聴者にはオンラインにて傍聴いただき、報道関係者のみ会議室で傍聴いただいております。議事録については、後日公開いたします。
それでは、ここからは沖野座長に議事進行をよろしくお願いいたします。
《2.取りまとめに向けた検討 》
○沖野座長 ありがとうございました。本日もどうかよろしくお願いいたします。
では、本日の議事に入らせていただきます。
本専門調査会では、令和5年12月より検討を始しまして、この間に22回にわたって会合を開催し、様々な分野についてのヒアリング・プレゼンテーションあるいはそれに基づく議論を重ねてまいりました。
前回の専門調査会におきまして、予定していたヒアリング・プレゼンテーションを一通り終えましたことから、今後は委員間で具体的な取りまとめに向けての議論を進めていくということを御確認いただきました。
そこで、本日より専門調査会としての報告書の取りまとめに向けた検討を進めたいと思います。
事務局におかれまして、たたき台として報告書の素案を作成いただきましたので、この素案を基に専門調査会として取りまとめ内容について御議論をいただきたいと考えております。
まずは、消費者庁より素案について御説明をお願いいたします。
○原田企画官 消費者制度課の企画官の原田です。よろしくお願いいたします。
これから取りまとめに向けた検討をいただくためのたたき台として、これまでの御議論に基づいた報告書の素案を御用意しました。委員の皆様には資料を事前にお送りしており、時間の関係もございますので詳細を紹介することは差し控えさせていただき、概略のみ御説明します。
1ページ目から、報告書全体の趣旨を分かりやすく端的に示すものとして前文をつけております。初めに背景となる問題状況を示し、15行目以下で格差是正に加え、消費者ならば誰しもが多様な脆弱性を有するという認識を消費者法制度の基礎に置くことで、消費者が安心して安全に取引に関わることができる環境を整備し、そのことが強い個人をモデルとし、強い個人が他者からの干渉を受けることなく、自由に意思決定をし行動していくことで幸福な社会状態になるという近代法的な考え方からのパラダイムシフトであるとして、ここでいうパラダイムシフトとは何かということを示しております。その上で、22行目以下でパラダイムシフトを進めていく上での観点などにつきまして、その要点をまとめております。
次に素案の全体像を、4ページ目以下の目次を使って御説明します。構成につきまして、大項目は諮問内容に沿う形で第1、第2、第3と三つに分けております。中間整理の内容をどのように扱うかも御検討事項になるかとは思いますが、諮問内容への対応の観点や、前文にもあるようにパラダイムシフトとは何かを示す上で中間整理で御整理いただいた内容が重要になるという観点、さらには中間整理の内容を最終的な報告書にも含めることで一体的に分かりやすくするという観点から、この素案では第1と第2において中間整理の内容も含めてまとめる形としております。
また、大項目を諮問内容に対応させたことによりまして、見出しだけを一見すると全体的なストーリーが分かりにくいかもしれません。その点については、先ほどお示しした前文で全体像を分かりやすく示しており、また、報告書本体の第1から第3の各冒頭に前提となる課題、問題意識などを含めた導入文を記載するということで対応しております。
次に本文に入りまして、6ページで検討経緯としまして、専門調査会の設置経緯ですとか議論の経過、報告書の構成などについて記載しております。
その上で、7ページの19行目以下で、専門調査会の直接の検討対象である消費者法制度以外のものとして、市場の機能や消費者教育の重要性、これらと消費者法制度が、総合的に効果を発揮していくべきことなどを記載しております。
また、8ページの12行目以下で、報告書の内容を十分に踏まえながら具体的な制度設計が進められることへの期待、その際に関連する法制度・施策と消費者庁が所管する制度・施策との関連性にも目配りすることの重要性を記載しております。
さらに、報告書の内容としてどこまで具体的な内容に言及いただくかということに関し、本文では一部具体的な規律手法に踏み込んだ記載をしておりますが、これはせっかく専門調査会の場で皆様に御議論していただいたことをなるべく残さず報告書に含められればという趣旨です。ただし、同じ8ページの15行目からなお書きで記載しておりますとおり、議論から得られた知見を今後の制度設計の参考として活用されることを期待し、一案として記載したもので、全てを具体的な法制度として結実できるかは未確定です。その実現可能性も含めて検討されるべきものということになります。
9ページからの第1、20ページからの第2ですが、中間整理の内容をベースにしつつ、昨年秋以降の後半での御議論も踏まえて加筆、整理などを行いました。また、標題にもなっているもののうち、中間整理では「客観的価値実現」という用語を使っておりましたが、各方面から特にこの言葉は理解が難しいという御指摘もありましたので、より分かりやすく「消費者取引の安心・安全」といったように用語を変更しております。
次に、26ページの第3からは新しい部分ですので少し細かめに説明をしてまいりますが、26ページの4行目以下の導入文は前半とのつながりが分かるようにという趣旨で記載しています。同じ26ページの7行目以下で、従来の二項対立的な捉え方ではなく、多様な脆弱性を有する消費者が安心して安全に取引に関わることができる環境を整備することは、優良な事業活動が選ばれる健全な市場を実現していくことと表裏一体であるという認識が広く共有される必要があり、取引当事者である消費者、事業者をはじめ、様々な関係主体が共創主体としての意識を高め、それぞれの役割を果たすことによって、自己実現(多様性)と他者への配慮(調和)が図られる環境が実現されることが重要であるといった内容を記載しております。
また、19行目以下で、グラデーションや消費者にとってのリスク・影響の程度に応じて規律するという観点で解像度を上げ、様々な規律手法を広く視野に入れて活用し、組み合わせることで、過少・過剰となることなく最適な規律を及ぼすことが目指される必要があるといいう趣旨を記載しております。
29行目以下からは具体的な内容となっていきます。構成としては、まず総論的な観点や各規律手法の活用の在り方をまとめるものとして、1として既存の枠組みにとらわれず、消費者取引を幅広く捉える規律の在り方を記載しております。
次に、39ページ以下で2として、消費者法制度における実効性のある様々な規律のコーディネートの在り方を記載しております。これは1を踏まえて規律手法の組合せ等の考え方を示しているものです。
最後に、41ページ以下で3として、消費者法制度の担い手の在り方について記載しております。3の冒頭で、消費者取引の当事者である消費者と事業者の役割について記載した上で、それ以外の関係主体について項目立てをし、求められる役割や、各関係主体の視点から見た担い手のベストミックスの在り方に関する考え方を示しております。42ページ目から、大きなくくりとしまして(1)が民間主体、(2)は行政という形で整理をしております。
ポイントのみかいつまんでの御説明で恐縮です。私からは以上です。
○沖野座長 御説明ありがとうございました。
それでは、資料についての御説明をいただきましたので、委員間での検討を進めてまいりたいと思います。
素案につきましては、第1、第2の部分が中間整理の内容を元にブラッシュアップしたということで、これに対して第3が完全に新規の内容となっております。
全体の構造として、中間整理については分かりにくいのではないかという御指摘もありましたところで、先ほど表現について御指摘いただきましたけれども、構成としてどうかということを考えたときに、これをそのまま維持するかという問題もございますけれども、他方で、御説明いただきましたように諮問との対応ということも考えざるをえません。それから、中間整理の内容をできましたら報告書の中に統合していきたいということもございますので、そこで、このような第1、第2という中間整理の中身を構成としては維持した上で新たに第3を組むという形になっております。
それに対しまして、例えばパラダイムシフトというのは結局は何かといったことに対しての分かりにくさというものについては前文をつける。また、経緯の説明をさらにつける。あるいはさらにそれぞれのところに導入の文章を置くといった工夫をしていただいているということでございます。
そこで、素案のうち、前文ですとか、あるいは本体の検討経緯、6ページ以下というのは、本体を一通り第1、第2、第3まで見てから改めて考えるということがよいと思います。そして、第1、第2は中間整理の内容を基にブラッシュアップしたということであり、第3が最も新しいといいますか、また、御議論としてずっと展開してきていただいたところですので、そこで、本日はこの資料の構成を前提といたしまして、第3から検討を進めてまいりたいと思います。
その際に、第3を全てというとなかなか議論が難しいところがございますので、検討の対象を分かりやすくするために、適宜項目ごとに区切って進めてまいりたいと思います。
項目ごとということですので、26ページの第3から順番に行くわけですが、本日の目安としましては、かなうならば1と2を検討いただくということを考えておりますが、一つの想定ですので、全く御議論を制約するものではありません。いずれにせよ、項目の順番に従って進めていきたいと考えております。
このようなことで入らせていただきたいと思いますけれども、よろしいでしょうか。
ありがとうございます。
それで、御議論いただくのですが、本日、石井委員におかれましては、御都合により11時頃までの御参加となる上、現在調整している次回以降の当面の候補日程につきましても御出席が難しいと伺っておりますことから、初めに石井委員からまとめて御発言をいただく時間をお取りしたいと思います。先ほど申し上げましたように、本日の議論は第3からということにしておりますけれども、石井委員におかれましては、それに限らず、第1、第2の部分も含めて、全体にわたり御意見等がございましたら、御発言をいただきたいと思います。
それでは、石井委員、よろしくお願いいたします。
○石井委員 ありがとうございます。いろいろ御配慮いただき、恐縮しております。
では、全体を拝見して、細かい点も含めてできるだけスピーディーにコメントさせていただきたいと思います。
2ページ目の5行目のところです。細かい点から入りますが、「ソフトローや官民協働の手法を大胆に活用すべき」という表現がある部分です。性質上、ソフトローや官民協働の手法は大胆に使うようなものなのかというところが少し気になりましたので、表現の点、もしよろしければ御検討いただければと思いました。
次が10ページ目になります。一番下の行で「障害者」という表現が登場します。こちらは障害者が自ら取引に参画する機会が増える一方で、対処することが困難だと。これは意思表示が難しいというような趣旨であるのか、物理的に体に障害がある場合も含めて障害者と表現されているのか、対象範囲や表現ぶりがこれで良いのかということも含めて、御検討いただく余地はあるのかなとは思いました。
18ページ目になりますが、イのところで2行目から消費や消費者取引の捉え方の御説明がある部分です。情報、時間、関心・アテンションを提供する場合も消費、消費者取引ということで、これまで議論に参加させていただいた内容をこのようにまとめていただいていると思いますが、個人情報保護法の本人にもある意味消費者のように捉えられるのか。経済取引を行うことが当然の前提になっているのか、情報を提供する主体としても消費者として捉えるのか。情報が取引の対象、やり取りの対象になる場合も広く含むのかというところが気になりました。経済的な被害が直接的に生じる場合に限らないということだと思いますが、消費者という概念の中に個人情報の主体が含まれるのかどうかの確認です。
19ページ目ですけれども、9行目あたりに情報法分野といった表現が出てきて、ほかの箇所にも見られるわけですが、情報法と言ったときにはかなり範囲が広くなります。ここではプライバシーや個人情報保護を想定した議論をしてきたという認識ですが、「情報法」というと、情報に関わる法令全般を意味することとなり、非常に分野が広いものですから、もし具体的に書くのであれば、プライバシーや個人情報保護という表現を使うという方法もあるのかと思った次第です。
同じページの16行目あたりから「自律的な意思決定の確保との関係で」と書いていただいている文章は、いわゆるConsent or Payの問題だと思います。これは広告を収入源としてきたプラットフォーム事業者に対して、プライバシーを犠牲にしてでも個人に関する情報を差し出すのか、あるいはお金を払ってプライバシーを守るか。取引といえば取引の一側面だと思います。この文章の中で、同意としての実質があるのかを述べる際に、自分の情報を提供することに対する同意、という意味合いが入ったほうが良いと思いましたので、コメントさせていただきます。
20ページ目になりますが、一番下のパラグラフのところで複数の要素が含まれる文章が入っているような気がしています。客体・取引対象についてと書いてあるところは、無体の情報が取引対象になるということと、アテンションエコノミーが広がっているということと、フリーミアムも展開されているということで、一つの文章、パラグラフの中に幾つも要素が入っているように読めます。読んで分かるのであればそのままでもいいかもしれませんが、読むときに複数の観点が入っていると一瞬止まってしまうところがありましたので、それも気になった点になります。
21ページ目の4行目、「多様かつ膨大な情報、商品・サービスの提供が」という文章のところで、最近話題になっていますいわゆるスマートフォンの新法が関係する消費者にとっての選択肢が増えることは競争法的には望ましいことになると思いますが、他方で、消費者にとって選択の機会が増え過ぎると適正な判断が難しくなるということが問題となり得ますので、競争法的な観点と個人情報保護も含めて三位一体で考えていかないといけない面があると思います。可能であれば最近のスマホ新法などにも触れていただくのも一案かと思った次第です。
23ページ目になります。真ん中あたりにパーソナライズド・プライシングやターゲティング広告の説明がありまして、一般的に不健全なわけではなく、というようにお書きいただいているところについてです。この文章自体はそのとおりではあるものの、個人情報やプライバシーの分野ではターゲティング広告がずっと問題になってきていまして、そういう議論にも関わってきている立場からすると、不健全ではないと言われると少し違和感があります。FTC法5条などでも欺瞞的な実務で執行をかけているケースがありますので、可能な範囲で表現を御検討いただけると助かります。
23ページ目の一番下の行のAIと書いてある文章は、これは、パーソナライズ化、行動ターゲティング広告での個別化のことを述べているのかどうかが読み取りにくかったような気がしました。可能であれば少し言葉を足していただけると良いかと思いました。
28ページ目の第3のところで、全体にはいずれも仰る通りで、私も全く異存ありませんが、他方、法目的の刷新による変化が規制手法にどう表れてくるのかという観点で見てみたときに、具体的に書いてあるのが33ページ目あたりからの消費者契約法の部分になるのだろうかと思いながら拝読しました。消費者契約法の話が33ページ目の後半あたりから34ページ目の真ん中あたりまで出てきて、その後、消費者契約法に限らない話が出てきているのですが、どこからどこまでが具体的な法令の話をしていて、どこから先がほかの民事法分野の法令あるいは行政法分野の法令のことを述べているのか、切り分けが分かりにくいのではないかという印象がありましたので、その辺も含めて書きぶりを御検討いただくといいかなと思いました。
少し戻りますが、28ページ目の真ん中あたりで、官民協働や民間との協力、取組が大原則に反しないかのチェックなど、そういった辺りをイの少し上のところに記載しておられると思います。これは共同規制のことのようですので、共同規制であれば共同規制と書いていただいた方が意味は明確化すると思いました。
次は39ページ目です。2の消費者法制度における“実効性のある様々な規律のコーディネート”の在り方の中で、(1)の法規範の尊重が期待できる場合のア、イ、ウと記載されているのですが、事業者の遵法意識が高く、法規範が求める要求水準を超えているのか、というところは、どの時点で遵法意識が高いとか、遵法意識があって消費者の反応性が期待できるとか、無関心かとか、どのように判断するのかが気になりました。
最後に全体的な観点として、消費者法、競争法、そして、プライバシー、個人情報を中心とする情報法の三つの分野の全体に関わり合いを持つ論点が幾つか出てきているかと思います。ターゲティング広告、プロファイリング、なかでもパーソナライズド・プライシング、ダークパターンなど、3分野の関わり合いのある論点が幾つかありますの。19ページ目に少し書いていただいていますが、執行当局の協力関係といったものも必要になってくるか思いますので、特段の記載がないようでしたら、御追記いただくことを検討していただければと思っております。
長くなりましたが、私からは以上になります。
○沖野座長 ありがとうございました。大変多岐にわたって御指摘をいただきました。表現ぶりに関わる部分もかなりあったと思いますし、それから、表現にも関わるものだけれども、内容をもう少し明確にした上で表現に反映させてはどうかという御指摘もございました。第1、第2のところについてかなりの御指摘をいただいたほか、第3の点につきましても4項目、5項目ぐらい御指摘をいただいたと思います。
もしこの時点で事務局のほうから何らかの補足説明をいただくものがあればしていただいて、ただ、むしろこの後同じところについて御指摘がある可能性もありますし、第1、第2は次回以降ということですし、かなり表現のところがございましたので、特になければ、石井委員からいただいたことを含めて第3の検討に入らせていただきたいと思います。
この時点で何か事務局から補足いただくことはございますでしょうか。お願いします。
○消費者制度課担当者 説明の補足はないのですけれども、大変恐縮なのですが、音声の関係もあって少し聞き取りにくかったところがございまして、委員がおっしゃっていただいたうち、23ページのところで、恐らく一般的に不健全なということの関係で御指摘をいただいた直後にもう一か所御指摘をいただいていたかと思うのですけれども、もし可能であればもう一度御発言いただけますと幸いです。
○沖野座長 36行目のAIという辺りのことですね。申し訳ございません。石井委員、もう一度繰り返していただいていいでしょうか。
○石井委員 すみません。大したコメントではないのですが、こちらのページにプロファイリング関係のことが記載されていて、最後に3行だけいきなりAIというのが出てきます。AIを使って個別化する、ターゲティングするためのデータの処理を行うという趣旨なのだろうと思いますが、唐突感がありますので説明の補足が要るのではないかというコメントになります。
○沖野座長 ありがとうございます。
よろしいでしょうか。やや唐突に出ているのでそれまでとのつながりだとか中身を明確にしていただくという必要があるのではないかという御指摘だと思いました。
○消費者制度課担当者 ありがとうございます。
○沖野座長 事務局のほうからそのほかの点はよろしいでしょうか。
それでは、御指摘を踏まえて、さらに検討を進めるということにしたいと思います。
石井委員、まだお時間はありますので、御発言を制約する趣旨ではありませんから、この後、委員の方々の御発言を踏まえてさらに御指摘がありましたら、よろしくお願いいたします。
○石井委員 はい。ありがとうございます。
○沖野座長 ありがとうございました。
それでは、第3の1から入りたいと思います。26ページということになりますけれども、これの導入は全体についての説明ということになりますが、そのうち、1の(1)消費者法制度の目的設定の刷新と(2)規律の対象場面、27ページですが、この部分についてまず御発言をいただきたいと思います。
御発言のある方は、会場におかれましては挙手で、オンラインの方はチャットでお知らせいただきたいと存じます。
26ページからの1の(1)、(2)という部分、27ページ全体ということになるかと思いますが、この部分について御指摘をいただくことはございますでしょうか。
二之宮委員、お願いします。
○二之宮委員 二之宮です。
まず最初に、大部にわたる取りまとめ素案をお作りいただきまして、ありがとうございました。
今の該当箇所、その他も含めて、形式面は後でまとめてやって、中身のことで今の該当箇所で言うと、28ページのイ要件と効果のベストミックスというところが、タイトル、表題を付した上で文章自体は4行しかないので、もう少しここは中身を含めたほうがほかとのバランスの点からもよろしいのではないですかと感じました。中身をどうするのか。多分後で出てくるところと重複感があるからこうなっているのだろうと思いますけれども、見出ししかないなという気がちょっとしましたので、工夫を検討されていかがでしょうか。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございます。
28ページの23行目のイのところということになりますでしょうか。ありがとうございます。
今のところ、まずはその前の(1)、(2)の27ページの34行目までで差し当たり御意見をいただきたいと思いますので、もちろんベストミックスのところも御指摘はいただきたいと思うのですが、まず(1)、(2)に関してさらにいかがでしょうか。
加毛委員からお手が挙がっておりますので、お願いいたします。
○加毛委員 ありがとうございます。
最初に確認なのですが、26ページの1に入る前の部分のところは、検討対象ではないのでしょうか。
○沖野座長 これは導入部分ではございますけれども、ただ、御指摘いただくことがありましたら、まずは御指摘いただきたいと思います。ですので、お願いします。
○加毛委員 それでは、導入部分について発言させていただきます。報告書の1ページから3ページの前文にも関わるところですが、三つのことを申し上げたいと思います。
一つ目が、26ページ4行目の「消費者の脆弱性」についてです。この言葉は、報告書全体のキーワードであるわけですが、その定義が1ページの9行目から10行目に書かれています。そこでは「消費者の力を弱めたり危害にさらされやすくする状態」が「消費者の脆弱性」を意味するとされています。これは、第15回の西内教授の御報告でいいますと、状況的な脆弱性に対応するものであると理解できるのですが、消費者の脆弱性には、その他にも、高齢者や未成年者であるという属性的な脆弱性も含まれますし、行動経済学の観点からはより一般的な消費者の脆弱性もあると思います。以上のような消費者の脆弱性の多様性については、第1のところで書かれているのですけれども、前文では、消費者の弱さにつけ込むようなところにフォーカスして消費者の脆弱性を定義しているように読めるのではないかという印象を受けました。消費者の脆弱性という概念の内実について注意すべきように思います。
二つ目は、26ページ5行目の「消費者法制度のパラダイムシフト」についてです。何についてパラダイムシフトが生じているのかという点について、この報告書では全体を通じて、消費者の脆弱性、状況的な脆弱性への対策を消費者法制度の基軸とすることがパラダイムシフトをもたらすと書かれているのですが、パラダイムシフトの対象はそれだけなのだろうかということが、専門調査会の審議を踏まえて、疑問に思われるところです。
例えば、26ページの7行目から18行目では、消費者法制度の設計に当たり、ともすると「消費者側と事業者側の二項対立的な構造」となるといった事態があることが指摘され、そうではなく、消費者が安心して安全に取引に関わることができる環境を整備することは、優良な事業活動が選ばれる健全な市場を実現していくことと表裏一体であるという認識が広く共有される必要があると書かれています。このことも、消費者契約法の改正の実情を踏まえれば、考え方のパラダイムシフトをもたらすものなのではないかと思われます。
また、27ページの29行目からアテンションエコノミーとの関係で、消費者が何を事業者に対して提供するのかが問題とされています。この点は消費者という概念や消費という概念にかかわる大きな問題の指摘であり、それもまた消費者法制度を考える上での一つのパラダイムシフトといえるかもしれません。
このように、パラダイムシフトの意味するところについて、もう少し検討が必要なのではないかと思います。報告書全体を通じての問題ですが、その一端が26ページの導入部分にも表れているのではないでしょうか。
三つ目は、細かい話なのですが、26ページ19行目から20行目において「消費者法制度を実効なものとするためには、悪質・不当な行為を排し、健全な事業活動を普及・促進するというグラデーション」という記述がありますが、「グラデーション」という表現が、ここで述べられている内容を適切に捉えているのかに疑問を感じました。悪質・不当な行為と健全な事業活動という理念型を想定して、その中間に様々な活動があることを「グラデーション」という言葉で表現されようとしているのではないか思ったのですが、そうだとすると、今の表現では十分にその意図が伝わらないのではないかという疑問を持った次第です。
以上が導入部分に関する指摘です。
続きまして、1についても、二点意見を申し上げたいと思います。まず、27ページの(1)「消費者法制度の目的設定の刷新」についてですが、このような記述が冒頭にあると、報告書が読みにくい、分かりにくいという印象を与えるのではないかと危惧します。ここでの記述は相当に抽象的な内容であり、読み手には何を言っているのかよく分からないのではないでしょうか。ここで書かれている内容は、例えば消費者契約法について34ページで書かれていることを併せて読むと理解できるのですけれども、いきなり法目的とは何かという話をしても、読み手には理解が難しいのではないかという危惧を覚えました。
次に(2)「規律の対象場面」について、ここでは第1段落において、有償の取引が主として念頭に置かれていたということと、とりわけ消費者契約法について契約締結過程と契約内容を中心に規律が設けられてきたことという二つの点が問題として指摘され、それらの問題について、取引の過程全体を規律対象とすることと、消費者が金銭を支払わない場合に法制度の対象として捉えるべきものがあることが指摘されているのだと思います。
ただ、今申し上げたような注釈を加えないと、記述の趣旨が読み手には伝わらないのではないかと思われます。そして、そのような分かりにくさの原因の一端が「規律の対象場面」という表題にも表れているような気がします。「場面」という表現は、取引の履行過程などを想起させやすいように思われ、有償取引から対象を拡張するというもう一つの重要な問題には結び付きにくいようにも思われます。(2)については、表題も含めて表現ぶりに検討が必要なのではないかと思いました。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございました。
最初の26ページの導入部分については、御指摘のとおり、前文の記載にも関わります。それから、内容的には消費者の脆弱性です。脆弱性は多様な脆弱性があって、加毛委員から改めてまとめていただいて、少なくとも3種の脆弱性があるということは共通理解になっていると思いますので、そのような多様な脆弱性ということを考えているということは前提となっていると思いますけれども、その位置づけといいますか、それを踏まえてというのが、今回は消費者の脆弱性というのを基軸としてパラダイムシフトを進めるということになっているのですが、パラダイムシフトをもたらすのが脆弱性だけなのかという問題の指摘もございまして、この辺りは全体としてまとめていただくに当たって改めて御検討いただきたいと思っております。
前文のほうの記載につきましては、記載の仕方といいますか、表現が誤解を生んでいるようなところもあるように思われまして、改めてここは別途御検討いただきますけれども、御指摘のあった1ページの9行目から10行目というのは、力を弱めたり危害にさらされやすくなる状態が急速に拡大しているというのが、状況による脆弱性だけを想定しているというよりは、属性があるゆえにこのような弱めたり危害にさらされやすいという状態を消費者自身が持っているというところを捉えているのだと思います。一般的な、いわゆる限定合理性と言われるようなものもそのような状態を消費者が持っているということだと思いますけれども、状況という言葉、状態と状況との関係ですとか、弱めたり危害にさらされやすくというようなところが少し誤解を招くことかなと思いました。
ただ、いずれにいたしましても、前文の中で書かれている内容、それから、何が脆弱性であり、また、何が脆弱性というよりは、脆弱性というものをそれぞれのところでどう捉えているのか、それを適切に書いているのかというのは、記載ぶりも含めて、それから、内容もそうですが、それぞれのところで何を書いているかということですので、確認していただく必要があることかと思います。
それから、パラダイムシフトについては全く御指摘のとおりだと考えておりまして、今回は脆弱性ということを出発点として考えていき、それの周りにというか、構築しているわけですけれども、言っていただいた捉え方あるいは事業者の位置づけ、あるいはアテンションエコノミーと言われる消費者が何を出しているのか。これは具体的にさらに石井委員からもより詳細な御指摘があったところでありますけれども、そういった様々なところでパラダイムシフトをこれまで考えてきたのではないかということがありますので、その部分は前文の書き方として改めて御検討いただきたい、内容面でも御検討いただきたいと考えております。
それから、26ページのプロパーなことといたしまして、特に第3のところでグラデーションを語っているというのは第3にとりわけ特有ですけれども、今まで一番グラデーションを言っていたのは、事業者に多様な事業者があって、その多様性を考えた上で規律の在り方を考えていく必要があるということを諸種の規律とともに規律のグラデーションと言っていたのではないかと思いますけれども、確かにここだと目的二つでグラデーションと書かれていますので、これでは表現として分かりにくいのではないかというのは御指摘のとおりだと思いますので、またさらに検討していくということになるかと思います。
それで、今度は(1)、(2)につきましては、(1)は、結局このパラグラフは要るのかということですかね。では目的がどう刷新されているかというのは、話も分からない形になっているということではあるのですが、それから、(2)については、何を問題としているかはある程度読めば分かるけれども、やや分かりにくいということと、その分かりにくさは対象場面という表現の仕方ゆえに分かりにくさが来ているのではないかと。ではどういう形で表現したらいいかというのは、またよりよい案がありましたら御指摘いただきたいと思いますけれども、そういった点を御指摘いただいたと思います。
(1)、(2)につきましていただいた御指摘を含めて、そのとおりであるとか、そういう点も含めてさらに(1)、(2)につきまして御意見をいただきたいと思います。
室岡委員からお手が挙がっておりますので、まず室岡委員からお願いします。
○室岡委員 ありがとうございます。
私のコメントは、今まさに加毛委員の御発言で議論された点ですので、まさに屋上屋を重ねるようなコメントになり大変恐縮です。まず、前文における消費者の脆弱性というのは読んでいてかなり意味が取りづらい形になっていますので、ここで消費者の脆弱性という言葉は定義せずあくまで一般用語として用いるか、あるいは前文においては消費者の脆弱性という言葉をあえて用いず、本文の方で消費者の脆弱性について定義および詳しく議論するという形を取る方法があるかと思います。ただ、この点はまさに沖野座長にまとめていただいたとおりですし、私もそれに賛同するものでありますので、この点に関するコメントは以上です。
○沖野座長 ありがとうございました。
消費者の脆弱性の概念とその使い方というのですかね。それから、この報告書全体でどこでどのように記載するかという点について御指摘をいただいたと思いますので、加毛委員、室岡委員の御指摘を踏まえて、前文については改めて考える。あるいはそれを含めて報告書全体において使い方として適切かということを考えていくことになると思います。
では、山本座長代理、お願いします。
○山本隆司座長代理 27ページ(1)の目的設定のところが分かりにくいというのは私もそう思いました。と申しますのは、第1段落にある法目的から具体の規定を演繹的に導くという場合、法目的としては法律の1条などにある目的規定を想定していると思いますけれども、このような考え方が果たしてあるのだろうかという感じがいたします。法目的は言わば一番抽象的な、後で使われている言葉で申しますとプリンシプルだと思いますので、ここで何を言わんとしているのかが分かりにくいという感じがいたしました。先ほど(1)は要るのかという御指摘もありましたので、もしここを削るのだとすれば今のような議論は不要かと思いますけれども、一言申し上げました。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございます。
恐らく法目的自体をどう捉えるかというのがまたここでは「他方で」という形である捉え方、別の捉え方という形で記されていますけれども、それ自体も果たして適切なのかということがありますし、第1段落での法目的というのが1条に書かれるようなものを想定して本当にここに書いているのかという問題もありますし、「他方で」とされる第2段落との対比が適切なのかということもあろうかと思います。さらに言うと、いずれも結構抽象的なので、この一般論を展開する意味があるのかということであれば、これはおよそ要らないのではないかということにもなるかと思いますが、引き続き(1)、(2)につきまして、また、26ページのほうも含めまして御指摘いただければと思いますが、いかがでしょうか。
小塚委員、お願いします。
○小塚委員 ありがとうございます。
私は後ろから遡って意見を言いたいのですけれども、まず(2)のほうです。ここは加毛委員がおっしゃったことも分かるのですが、私は別の点で気になりまして、要するに時間とかアテンションというものを消費者法制度の対象としていくのだということをここで宣言しています。そういう議論は確かにこの専門調査会でしたと思いますが、もし書くのであれば、具体的な話をするのではないとしても、何らかの対応ができるという見通しぐらいはないと、非常に無責任な取りまとめになってしまうと思うのです。やはり時間とかアテンションというものは、使ったからといって、例えば慰謝料とか考え方はあるかもしれませんけれども、金銭的価値に換算できるのかとか、原状回復とはどうするのかとかというような問題もあり得ますし、あるいはそういうことは不可能なのだけれども、行政的な行為規制とか、後で出てくるソフトローによる行為規範設定とか、そういう意味での行為の規律はやっていくのだという趣旨なのか、その辺りはある程度見通しがあってのことでないと書けないのではないかと。あまり言いっ放しということはどうかなと感じたということです。(2)についてはそういうことです。
次に(1)についてですが、先生方がおっしゃるとおりなのですが、恐らくここをお書きになった意図は、パラダイムシフトをするというのであれば既存の法律、とりわけ消費者契約法の目的規定自体を改正する必要があるのかという話をなさりたかったのではないかと。そうすると、実は演繹的とか想定する思想かどうかということよりも、立法に際して目的規定がどれぐらい拘束的かということなのではないかなと思いましたけれども、沖野座長が言われるように、それを書く必要があるかと。実際に立法するときには非常に問題になることですが、今ここで書く必要があるかというと、必ずしもなくてもよいという気はいたしますし、後のほうで目的の話が少し出てきますね。先ほどどなたか、御指摘になっているときに、そこに例えば脚注をつけるとか、その程度の話かなと感じました。
それで、一番気になったのは実は26ページの導入部分でして、7行目から8行目の従来は消費者側と事業者が二項対立的な構造となってきた。本当かなという気がするのです。その後に書いてある断片的・謙抑的な制度になってきたというのは、確かにそういう議論はしました。ですが、それが消費者と事業者の二項対立的な構造だったからなのかというのはよく分からないですし、それから、それをそうではなくて、消費者法というのは事業者にとっても有益なものだからと急にここで考えを変えるというのも、それはそれで非常に楽天的な考え方ではないかなと思うので、こういう変化なのかという気が私はします。
私の理解は、これは共有されているのかどうか自信がないのですが、この専門調査会で議論しているパラダイムシフトというのは、要するに、あるべき姿としては自律的、自由な取引に戻したいと。戻すためにどういう消費者制度をつくるのかという話であったのが、戻るべき自律的、自由な取引というもの自体が言わば幻想なのだと言ってしまって、そういう意味で言うと、従来よりもやや介入主義的な方向を目指しているという意味ではないかと。いわゆる経済学的あるいは情報経済学的な考え方で言っても、情報不完全の問題を解決すれば事業者側にも商品提供者側にもメリットになるという意味では、そこの利益は、本来は消費者法制度というのは事業者にとっての利益にもなるという前提はあったのではないかと私は思うので、そこを議論しているわけではなくて、むしろ脆弱性という概念を入れてきたことによって独立して自律的に判断ができて、最終的には自由な取引によって経済活動が進んでいく。それが実は理論的可能性にすぎず、現実には難しくなってきたということを正面から認めようという話ではないか。そういうことをやはり書いたほうがよいのではないかと思いましたので、ここの書き方が非常に気になったところですし、7行目から9行目も削除してもいいのかなと感じました。
以上でございます。
○沖野座長 ありがとうございました。
種々御指摘をいただいたところですけれども、先に後のほうから行きますと、26ページの7行目から9行目は、先ほど加毛委員からパラダイムシフトの一環として御指摘いただいたのですが、小塚委員からはそもそもこの10行目を挟んでの対比自体が果たして適切なのかという御指摘をいただいたかと思います。7行目から9行目については「ともすると」と書かれているのですが、ただ、結果として本当にこういう原因に対して結果ということに断片的・謙抑的な形がここからつながっているのかとか、この論理構造は本当にそうかという御指摘があったかと思いますし、二項対立の内容にも関わるかと思います。
二之宮委員、この点についてですか。お願いします。
○二之宮委員 二之宮です。
26ページの7行目からの二項対立というところは、これまでの消費者契約法の改正過程においては、事業者側の委員と消費者側の委員との間で明確性をどこまで求めるのか、包括性をどこまで認めるのか、そこは必ずと言っていいぐらい争点になっていた。そこを捉えて「ともすれば」というところを書いているのだと思います。なので、消費者法制度設計に当たりというところはそうだと思いますし、そういったところがこれまで問題となって行き詰まってきたというのは私も前半戦の最初の頃に発言した覚えがあります。そこの話とこの後本文に出てくる健全な市場を消費者と事業者が一緒になってというところはまたちょっと違う話なので、そこが混在しているのかなと思うので、整理すれば済む話かなと思います。
○沖野座長 ありがとうございます。
7行目から9行目というのは、今言っていただいたように、それ以外にもあると思うのですけれども、とりわけこれまでの消費者契約法をめぐる見解の対立が消費者契約法などが壁に当たっているという状況につながってきたというところを踏まえて書かれているけれども、しかし、そういうやや対立的な姿勢で臨むのではなくということから10行目以下につながっているのですけれども、ここの中身が必ずしもそのようなことではないというか、望まれる姿ということとこれまでの立法過程における現象の把握というのがダイレクトにつながっていないのではないかという御指摘だと思いますので、改めて検討するということにさせていただければと思います。
それから、27ページの(1)について種々御指摘をいただいているところで、非常に一般論となっており、このようなものについては必要あるのかということですけれども、ただ、ここを書いてあるのは、恐らく12行目から16行目辺りのところで、以前から例えば消費者の脆弱性というのを捉えるべきだというときに、脆弱性を要件として何らかの効果を導くというようなことになると、脆弱性とは何かということを具体的に定義をして要件化しなければいけないけれども、それは非常に難しいし、適切な立法も期待し難い。しかしながら、目的規定に現在の消費者契約法や消費者契約法から想を得たと思われる消費者基本法等についても書かれている、言わば消費者法制度における一般的な考え方として事業者と消費者の間の情報交渉力の格差というのが出ていて、そこは格差を是正すれば対等になれるというような発想があり得るようだけれども、例えば目的規定の中に消費者の脆弱性を考慮してというようなことを入れることにより、ここのまさに12行目から16行目あるいは裁判所の解釈の指針ともなり得ると。恐らくそういう作業を想定してここに書かれていると思うのですが、そのために2行目以降のかなりの一般論を立てているということがかえって分かりにくさを生んで、しかも、そこから始まっているためにどういうところに連れられていくのだろうかという印象も持つということかと思いましたので、今のような目的規定に関わる部分というのはこれまでかなり御議論もいただいてきましたし、それから、具体的な中身としても御示唆はいただいていたところですので、それをどの部分で捉えられるかということを含めて検討するということになるのかなと思いました。
それから、(2)の特に最後の33行目から34行目あたりのいわゆるアテンションエコノミーの話に関しまして、こういうものも視野に入れていくことが必要だとしたときに、ただ、具体的にどういうような話があり得るのかということは少し想定しておく必要がある。でも、これは具体的な在り方のところで、例えば損害賠償だとかにしても損害は何かとかという話があるし、行為規制という話がある。他方で、石井委員からも御指摘のあった競争法、消費者法、それから、個人情報保護法あるいは個人情報に関わる法の三者の競合や交錯、あるいは一体的に出てくるという辺りでは、このような把握が非常に重要になってくるのだろうと思いますし、あるいは意図せずしていろいろなものを出させられているという現在の状況というのを正確に捉えていく、あるいは問題視していくという点からすると、こういったことも必要になってくるということですので、背景や土台としてもあるし、ただ、それでではどうするのかということが全く道筋がないと、本当に言いっ放しになってしまうという御指摘だったかと思います。
それでは、加毛委員から御発言をいただきたいと思います。
○加毛委員 2回目の発言で恐縮なのですが、直前の先生方のお話に関連して、「パラダイムシフト」に関連して、二つの点を申し上げたいと思います。
この専門調査会の名称に「パラダイムシフト」が含まれているため、調査会の外部の方から、この専門調査会の審議内容について尋ねられる際、必ずと言って良いほど、「パラダイムシフト」の内容や対象について質問を受けます。そのため、やはり「パラダイムシフト」の内容や対象を報告書においてどのように記述するのかが気になるところです。
小塚委員が指摘されたように、優良な事業者が選ばれる健全な市場を実現していくことは、そもそも消費者法制度を含む取引に関する法制度全般が目的としているところであり、それをパラダイムシフトとして表現すべきではないということは、確かにそのとおりだと思うところがあります。他方、それもまたパラダイムシフトであるというのだとすると、やはり消費者法制度の消費者庁を含む監督官庁の側のマインドセットのパラダイムシフトのようなものも含まれているのではないかという気がします。この点は、後に議論するところに関わると思いますけれども、優良な事業者にポジティブなインセンティブを与えるための制度としてどのようなものが考えられるのかについて、もう少ししっかりと考えていく必要があるのではないかと思われます。事業者を規制することによって問題を解決しようという発想ばかりに重きを置くのではなくて、そうではない形で消費者取引の在り方というものをより良いものに変えていくという発想をもっと強調してよいのではないでしょうか。そのような発想の転換もある種のパラダイムシフトと言えるのではないかと思います。
もっとも、そうだとすると、報告書の第3では、この点に関する指摘が乏しいのではないかと思われます。その理由は、専門調査会で十分検討できなかったことに求められるのかもしれませんが、26ページの10行目から始まる段落との関係では気になるところです。以上が一つ目に申し上げたいことです。
二つ目は「消費者の脆弱性」について、やはり先ほどの小塚委員のお話に関わるのですが、自律的な決定を行うという状況の回復を目指すだけでは問題への対処が難しいので、より介入的な法制度の在り方を考える必要があるということは、一つの考え方の変化、パラダイムシフトなのだろうと思います。
ただ、その際に気になるのが、これも専門調査会の外部の方からよく指摘されるのですが、そのような考え方の変化は、結局のところ、先祖返りなのではないかということです。専門調査会でも第18回の田口理事長の御報告の中で、1990年代には「保護から自立」をある種のスローガンとして、それまでの消費者保護という消費者法制の発想から、消費者の自立の支援へと発想の転換があったというお話がありました。しかし、当時から、「自立」だけで大丈夫なのか、「保護」を重視しなくてよいのかといった批判があったことも、併せてご紹介があったところです。そのようなコンテクストを前提とすると、「自立」を目指したのだけれども、やはり「保護」が重要であるということが、「消費者の脆弱性」への着目として語られているのではないか、それは先祖返りではないか、というリアクションが報告書に対して向けられることも想定されるように思います。
そのようなリアクションに対して、先祖返りではなく、「保護から自立」ということが語られていた時代に消費者保護として想定されていたところと、現在において我々が議論している内容は異なるのだということを明確にする必要があるのではないかと思いました。
このことは、報告書全体を通じての話なので、次回以降の審議内容になるのだろうと思いますけれども、例えば13ページでは、近代法というものが自立的な決定を保障してきたという前提だけが述べられているのですけれども、そのような近代法の在り方を前提として、消費者法制が初期においていかなる発想のもとにあったのかということを検討すべきように思います。報告書の記述には、図式化がやや単純過ぎるという印象を受けるところがあり、そうすると、読み手に対して、「消費者の脆弱性」への着目が本当にパラダイムシフトと呼ぶに値することなのかという疑問を抱かせるような気がいたします。そのことをもう一点として申し上げておきたいと思います。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございます。
大屋委員から御発言の希望を伺っておりまして、関連するものと思っておりますので、大屋委員、お願いします。
○大屋委員 加毛委員がおっしゃった今のところについての説明の仕方の話だと思うのですが、おっしゃったとおり、過去にやはり保護から自立へという議論があっただろうと。そうすると、もう一回先祖返りするのではないかというのはある程度そのとおりだと思うのですが、一方で、そこで言われる保護というのが非常にパターナリスティックな、当事者の意思とか利益を必ずしも重視しないような形での保護であったと。その後をやってきた自立というのはある種逆に自由放任主義的になってしまい、当事者の選択に任せるのだということは言ったけれども、その選択が本当に実効性のあるものだったかということについてやや鈍感な面があったのではないかと。
そこで、第3の方向性としてこの両者を折衷すると言うとなんなのだけれども、自立への保護という要するに当事者にとっての利益とか当事者の望ましい選択が実現するような形に決定過程を整えるみたいな形の介入の仕方を考えていくのだよというのがこの専門調査会の議論の方向性だったという気がするので、こういう展開とか違いとかが分かりやすいように報告書の内容を整えていくといいのかなと思いましたということです。
差し当たり以上です。
○沖野座長 ありがとうございました。御指摘というか、共通したところと思います。
それから、パラダイムシフトのほうについても、一種監督官庁のマインドシフトというお話もございましたけれども、様々なところでパラダイムシフトというのが捉えられるということではあったと思います。
それから、優良な事業者に対して積極的なインセンティブ与えられるような法制度設計をというのは、恐らくこれ自体は一般的に金融関係でも随分やっていることだと思いますけれども、その意味では、むしろそういう形で法制度は全般に動いているというような感じもしておりますが、ただ、その点について、グラデーションのところでも書いてあるし、目的のところでも書いてあるとは思いますけれども、この報告書で十分に指摘しているかということは注意をしていただいたほうがいいのかと思います。
それから、これまで議論してきたかどうかということについて、御議論はそれぞれいただいていたと思いますけれども、これまでのところはヒアリングやプレゼンテーションを中心に、それに対する質疑や意見ということで御指摘をいただいていたので、むしろ例えばこれまでの御議論からするとやや手薄であるということであっても、むしろ、だからこそこの中で指摘をし、報告書には入れていただきたいと思います。これまでのヒアリングやプレゼンテーションであったことをただ取りまとめるという報告書ではないので、それを受けて消費者法制度のパラダイムシフトというのを考えるということですので、むしろ手薄であったけれども、重要な点であればぜひ御指摘をいただきたいと思います。
それでは、野村委員、お願いします。
○野村委員 読みやすさという点での気がついたことなのですけれども、項目がずっと並ぶ形になっています。例えば第3の後の1で規律の在り方となった後の(1)、(2)、(3)のタイトルは消費者法制度の目的設定の刷新の必要性とか、(2)は規律対象の変革とか、ベストミックスでの実現の可能性とか、何をここで言っていくのかという目的も含めて記載されたほうが分かりやすいのではないかと思います。先ほどから皆さんの疑問や御意見なども聞いていると、(1)、(2)、(3)はそういうスタンスで書かれてはどうなのかと思いました。
○沖野座長 御指摘ありがとうございます。目次を見ればある程度の流れが想定されるというような形に少し変えたほうがいいのではないかということで、うまく表現できれば検討するということでいきたいと思います。
(1)、(2)、それから、それに先立っての26ページがそうですが、以上の箇所でさらに御指摘をいただくことはございますでしょうか。よろしいですか。この話は結局また元に戻ってくるものがかなりあるということも分かりましたので、それでは、一旦先に進めさせていただきたいと思います。
それで、これまでの(1)、(2)についてですけれども、様々に御指摘をいただきました。また、特に26ページの最初の部分については、これは前文との関係でも、また、それぞれの導入のところで報告書全体との関係でも検討すべきことがかなりあることを御指摘いただいた。この部分については、改めて前文や報告書全体についての検討のところで再度確認させていただきたいと思います。
次に、(1)の目的設定の刷新については、表題についてももう少し工夫ができるのではないかという御指摘をいただいたところですけれども、とりわけかなり一般論が最初に展開されているので、ここから入ることが果たしていいのかということと、それから、特に考えているところが、例えば消費者契約法の目的規定に一定のものを入れるということであれば、それを想定した上での記載にするか、あるいはもっと別のところに持ってくるかということも考えられるということであったように思います。目的の刷新を図るというのはまさに具体的にも言われていたところではあります。
それから、(2)の規律の対象場面ということについては、対象場面という表現、それから、対象場面で切っているが、何を書いているのかというまさに対象だけをこの後項目で出しているのですが、そこを書いてどうしようとしているのかというところまで表題に現れれば、もっと流れが分かりやすいのではないかということでありました。
それから、ここでの話というのは複数のことが書かれておりますので、それを分かりやすい形にできないか、それが場面という書き方にしているために分かりにくいのではないかという御指摘もありましたので、よりよい表現があるかというのを検討していくということにしたいと思います。
それから、最後のアテンションエコノミーについて、また、それ以外のところも実はそうですけれども、一定のその後具体的な規律としてどういうことが想定されるのかということについては、少し見通しなり考え方を持っておく必要があるということと思いましたので、具体的にここの記載にはね返ってくるかどうかというのはまだ分からないように思いましたけれども、小塚委員から具体的にこの記載にはね返ってくるという御指摘でしたでしょうか。
○小塚委員 といいますか、率直に申し上げると、一応消費者委員会の会議なので、消費者庁に聞くのが適切かどうか分かりませんが、端的に言うとこういうことを今後対応していく覚悟があるのですかということです。そうでなければもっとやわらかい書き方をしたほうがよいと思いますし、実行するのだというのであればぜひ書いてくださいということです。
○沖野座長 いろいろなところに関わる問題であり、この部分はしっかり見据える必要があるというのは情報のほうなどでもありますので、ただ、その後の具体的な規律の在り方などを考えたときに、どこまで本当に反映させられるのかと。それが本当にできないのであれば、問題はあるけれども、できないのだけれども取りあえず書いたみたいなことになるのは問題であるという御指摘かと思います。ただ、行為規制の話ですとか同意の問題ですとか、そういう辺りはあるかなとは思いました。
○小塚委員 要するに、例えば問題を指摘してみたけれども、後で省庁間で協議した結果、消費者庁の問題ではないと言われましたというようなことになるとすると、これは浮いてしまいますよね。ですから、そういうことがまだ調整仕切れていないのであれば、非常に抽象的にこういうことも現在問題となっているというような書き方にとどめたほうがよいのだろうと思いますし、これは消費者法の規律対象に入ってくるということであれば、そこまで実はし切れていますということであればきちんと書いたほうがよい。まさにこれは規律対象の拡大なのだと思いますけれども、先程変革と野村委員はおっしゃって、そのまま変革でもよいですか、拡大を実際は意図していると思いますが、そういうことをはっきり書いたほうがよいのではないかなと思います。
この報告書自体は消費者委員会とか消費者庁の権限とは関係なくおよそ消費者一般に関する問題を書いたものだという整理もできますが、やはり学者の論文と霞ヶ関の文章は若干違うので、他省庁に関わるようなところも含めて、それとも消費者委員会だからよいのか、私が分かっていないのかもしれませんけれども、一般論としてこういう問題があることは分かりますが、制度的に今後どう対処していくのかという点を踏まえて、やはり書くか書かないかの選択が必要だと思います。
○沖野座長 ありがとうございます。
小塚委員の御指摘の内容はよりよく分かったと思います。消費者委員会の諮問に対する回答というか答申というものがどういう意味を持つのかということにもよるかとは思いますが、御指摘は一旦検討させていただいて、書き方についてさらに工夫が必要であれば検討したいということですし、もう少し抽象化して言いますと、ここで書かれている対象の拡大と言われたものが幾つかあって、有償、無償の話ですとか、規律の局面というのですかね。あるいは項目と言ったほうがいいかもしれません。それの拡大という話と、それから、アテンションエコノミーと言われることによる拡大というのが全く同レベルで次の規律に関わってくるような話なのか、あるいはどういうところに対象を求めていくという、その想定なども同じなのかといった、実はここにもグラデーションがあるのかもしれませんけれども、そういった問題の御指摘もあったかと思います。いずれにせよ、一旦御指摘の内容は理解できたと思いますので、次に進めていきたいと思います。
二之宮委員、お願いします。
○二之宮委員 今の小塚委員のところ、覚悟の問題、おっしゃるとおりの側面もあると思うのですけれども、具体的な法制度に向けた検討の前段階、そちらへ向けてやるべきだというところだとすると、役所のほうの覚悟の問題というよりも、この専門調査会あるいは消費者委員会の段階では、委員として参加している我々がよりどちらを向いてやるべきなのかというところであり、むしろ役所のほうにこれは進めるべきだと言う立場だと思います。ただ、できないことをあれをやれ、これをやれと言ったってしようがない話なので、そこの調整だと思います。
そういう意味で言うと、私は個人的な意見としたら、ここはもう少し強く書いていただきたい、むしろ役所に進めていただきたいという考えです。それは役所間の調整だとかというのは今後の話でしょうけれども、書かないと、それで答申として返さないと、自発的にやるかというところのほうが不安がありますので、そういう意味で言うと、もう少し強めに書いていただいてもいいのかなと思います。
○沖野座長 ありがとうございます。
この報告書自身は専門調査会が設置されまして、今回の専門調査会自身は諮問をいただいておりますので、その諮問に答えて一定の報告書の形で御回答を示すということです。それから、これは消費者委員会からいただいておりますので、消費者庁に向けても一定のことをやっていただきたいということは含意としてあると思いますが、消費者庁に限らずということにはなると思っております。
それから、最初の説明のところで言っていただいたように、本文の経緯のところだと思いますけれども、今回は具体的にこういうことまでやってほしいという話ではなくて、そういうものがあるかもしれないけれども、それは具体的にどこで何をできるかというのはこのような考え方を含めて御検討いただきたいというものではあると思いますので、むしろ土台づくりといいますか、まさにパラダイムシフトです。パラダイムシフトはなかなか便利な用語なところもありますけれども、これからの消費者法制度を考えるに当たっての基本的な部分を整理するというところがございますので、そういう意味ではむしろ強調したほうがいいし、このために何が必要かというのを次の段階で、あるいは次の次の段階かもしれませんが、考えていただくためのものであるということであれば強調したほうがいいというのが二之宮委員の御指摘ですし、より具体的な今後の設計を考えたときにどこまでを変えていくのがいいのかというのは一方で小塚委員の御指摘の話かと思います。
加毛委員から関連のコメントがあるということですので、お願いいたします。
○加毛委員 今の点につきまして、私も二之宮委員と同じで、より積極的にアテンションエコノミーに関わる記述を書くべきであると思います。
消費者契約法は必ずしも金銭の支払いという形で適用対象を画していませんが、他の法律まで目を向ければ、有償取引についてのみ適用されるものも存在します。また、狭義の消費者法制度ではないのかもしれませんが、例えば決済分野では、我が国で広く使われている前払式支払手段について、対価を得て発行したことが要件とされていることから、金銭の支払いがなければ規制対象にならないと理解されています。
しかし、昨今の金融機関と資金移動業者の業務提携などでも関心を集めている企業ポイントについては、それが決済手段として広く利用されるようになったときに、消費者が金銭的出捐をしていないからといって、一切の規制を及ぼさず、完全に事業者の自由に委ねてよいのかが問題となります。企業ポイントの急速な利用拡大という社会状況に鑑みると、この点は喫緊の問題として認識されるべきとも思われます。
そのような議論に対しても、消費者が何を事業者に提供しているのかという視点は非常に重要であると思いますので、報告書のここの記述も維持ないし強化する方向で取り扱うのがよいのではないかと思います。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございます。
それでは、この点についてはかなり御指摘をいただきましたので、御指摘いただいたところを踏まえて再度整理をするということにさせていただきたいと思います。
その上で、また全体として改めて見るときも出てくるかと思いますが、一旦先に進めたいと思います。
そこで、次に(3)ベストミックスが27ページの最終行あたりから31ページの31行目までということになります。この部分につきましては、既に石井委員から御指摘いただいている部分がありますし、それから、二之宮委員からは28ページのイの部分は中身としてもう少し充実させることが考えられるのではないかという御指摘をいただいたところです。ほかの部分につきましても、あるいは今御指摘いただいている点についてでも結構ですので、お願いしたいと思います。
では、二之宮委員、お願いします。
○二之宮委員 二之宮です。
すみません。先ほど先走ってしまいましたけれども、担い手のベストミックス、31ページの16行目以下で、規律の運用主体のベストミックスとしては禁止行為規範を行政規制として執行・運用する主体として行政機関、それと、民事ルールとしての実効性を図る特定適格団体、適格消費者団体が連携することと記載されているのですが、ここに事業者団体が入っていないところが気になります。
行政規制だとか差止請求訴権だとかという直接の主体そのものは確かに事業者団体というのは入っていないのですけれども、その後にも出てきますハードローとソフトローを結合させて、要は補完型のソフトローを使って、極悪層と言われているところは官民の総力を挙げて市場から撤退いただくと書かれています。
そうした中で、中間層だとか事業者団体に属さない、自主ルールを守らないというところに対しては、事業者団体が促して自主規制を遵守してもらう。あるいは健全層へ寄せていくということによって、健全な市場というものを熟成させていく。そこでは事業者団体というのは重要な役割を果たしている。自主規制を守らない、あるいは抜けがけをするというところに対してハードローを適用すべき状況を言わば直接見ているという立場になりますから、事業者団体が啓蒙を促して、ソフトローを使わない、ハードローを守らないというのであれば、その情報を集めて、行政機関へ情報提供をする。あるいは適格消費者団体へ情報提供をする。そして、ハードローを執行してもらうという意味では、間接的な主体としての役割があると思いますし、それこそが事業者団体、消費者団体が連携して健全な市場というものをつくり上げていくことになる。同じ市場のプレーヤーとして、言ってみればこの場合では仲間に等しい。一緒だと思う。一緒につくっていくのだと言ったところがあると思います。
ですので、そういう意味で、間接的な担い手という意味でいうと、ここには事業者団体というのも入れるべきだし、一緒になってやっていきたいという立場からすると入れていただきたいなと思います。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございます。
まずは一通り御指摘をいただきたいと思いますが、今のところですと、担い手としての事業者や事業者団体が非常に重要であるということは疑いがないところで、18行目のところで関係主体が適切に役割を果たすということと、連携ということでこの後は比較的連携の話が出ているということかと思います。例えば事業者団体による自主規制の策定・改廃に当たって消費者団体等がという形になっておりますし、その次が行政機関等の認定ということですけれども、さらに事業者団体がするに当たっては行政機関等がとか、あるいは三者間なりあるいは四者間の官民協議会などという話で、運用主体のほうについては行政機関、適格消費者団体等の連携となっているわけですが、ここがやはり行政と消費者団体だけではなくて、事業者団体も含めた、ここにこそ。
○二之宮委員 ここに入れて、一緒になって官民を挙げてという中に除外すべきではないのではないかと。一緒になってというところで市場というまさに先ほど加毛委員が言われた二項対立の問題ではなくてそちらへというところには、みんなが一緒になってというのを出したほうがいいのではないかなと思います。
○沖野座長 ありがとうございます。
前の部分がソフトローの活用になっていて、この後が禁止行為規範の執行等の話になっていたり、民事ルールの今度は特定適格消費者団体等とかなり特定の場面を想定して書かれている、また、この連携に事業者団体が全く言及されないということは問題ではないかという御指摘かと思いましたので、どういう形で入れられるかということもさらに考えていきたいと思います。
では、加毛委員、お願いします。
○加毛委員 ありがとうございます。
30ページの18行目からの段落において「業者の健全な事業活動を普及・促進する上では、個々の事業者のモチベーションを高め、業界・市場全体としての機運を醸成することも重要であり、消費者法制度において健全な事業活動に対するインセンティブを付与する手法を取り入れることも検討されるべきである」と書かれています。この指摘は、私は非常に重要だと思います。そして、ここでいうインセンティブというのは、ネガティブなインセンティブではなく、ポジティブなインセンティブを事業者に付与することが意図されているのだと理解しました。
ただ、それではどのような手法があるのかということについて、この報告書では十分に説明されていないのではないかという印象を受けました。23行目から具体例が挙がっているのですけれども、事業者にネガティブなインセンティブを与えて、それを回避するような形で事業活動を行わせるという例が多いのではないかと思います。
この点については、第20回の野村委員の御報告の中で、経団連の加盟企業からの御意見として、「法令遵守体制を整備している事業者に対してポイントの加算、善良な事業者の公表、過失により違反が生じた事業者への罰則の軽減など、企業の法令遵守のインセンティブを強化する施策が必要」であるとの御意見が紹介されました。消費者志向経営を促進するポジティブなインセンティブを与える制度として、具体的にどのようなものが考えられるのかということをもう少し検討できるとよいのではないかと思います。
野村委員の御報告の際にも、どのような制度を設ければ事業者は積極的に取り組んでくれるのかという質問をさしあげたのですけれども、事業者の側においてどのような制度が望ましいと考えられているのかについてのインプットを、野村委員を通じてなのか分かりませんけれども、いただけるのであれば、より報告書の記述に厚みを増すことができるのではないかと思います。先ほど申し上げた、事業者に対する規制ばかりを重視する発想からの転換を示すことにもつながるかもしれません。それが1点目に申し上げたいことです。
続いて31ページに移りまして、4行目に「信頼のおける情報開示(ディスクロージャ)を確保するという観点も重要である」という指摘があります。この指摘との関係で、この専門調査会ではいわゆるサステナビリティ開示に関する御報告をいただき、検討したところです。その内容については、前のほうに戻ってしまうのですが、中間整理から新たに書き加えられた「検討経緯」の7ページ23行目あたりから記述されています。ただ、その記述で気になるのが19行目からの段落なのですが、20行目の最後のところで「消費者取引の安心・安全は、消費者法制度だけでなく、市場や消費者教育を始めとする種々の制度や施策が総合的に効果を発揮することで実現されるものである」と書かれており、消費者法制度の外側にある「制度や施策」の具体例として、サステナブル開示が取り上げられています。しかし、27ページから始まる規制手法のベストミックスとの関係では、サステナブル開示も重要な規制手法の一つであるように思われます。そのことは、最初に申し上げた31ページの3行目からの段落において記述があっても良いのではないかと思います。あわせて、7ページの記述についても、もう少し表現ぶりを工夫する必要があるのではないかと感じました。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございました。
それでは、そのほかいかがでしょう。
河島委員、お願いします。
○河島委員
取りまとめ,誠にありがとうございました。
これまで重点的に議論されなかったことについても指摘すべきであると座長から御指示がありましたので発言させていただきますと、リスクについてもっと大きく扱わなくてよいのでしょうか。リスクについては川村教授や水野弁護士の報告でもいくらか見られ、そして、中出教授の報告でもリスクによって保険のタイプが違うという話がありました。一般的に高リスク領域は規律を強め、低リスク領域では規律を弱めますが、リスクと規律の強弱との関係をこのベストミックスの箇所で大きく扱わなくともよいのでしょうか。ここで触れなくても、別のところで扱わなくともよいのかと思いました。ご検討いただければ幸いです。
○沖野座長 ありがとうございます。
今までのヒアリングの中でも御議論としてあったところですので、対応する説明なり捉え方なりを入れたほうがいいのではないかという御指摘だと伺いました。
山本座長代理、お願いします。
○山本隆司座長代理 28ページの10行目にリスクガバナンスの観点を参考にと書かれています。今の御指摘はその点を指すのではないかと思いました。
私もこのリスクの観点は非常に重要だと思います。今の位置ですとアの規律手法のベストミックスの中に入っているのですが、もう少し総論的な話になるのではないかという気がしました。
それから、ここに書かれているのがどのようなリスクかという点が読んでいて若干分かりにくいところがあります。消費者にとってのリスクの話、それから、事業活動を行う上でのリスクの話もあると思いますし、もっと一般的・抽象的に、法制度をつくる際のリスクの話もあると思うのですけれども、そこがはっきりしないという感じがしました。それは規律手法のベストミックスというところにやや無理やり入れ込んでいるところに由来するという気もしました。ここはもう少し総論的に書くほうがよいのではないかと思います。
○沖野座長 ありがとうございます。
河島委員、今の御指摘は共通した理解ということでよろしいでしょうか。
○河島委員 はい。
○沖野座長 ありがとうございます。
そのほか、この部分について、小塚委員、お願いします。
○小塚委員 今さらと言われそうなのですが、私はそもそもこのベストミックスという題名というか項目の立て方が非常に気になりまして、これも便利な言葉なのですよね。便利な言葉で、いろいろなものを使い分けていきましょうということを書いているわけですけれども、まずそれは当たり前ですね。それから、今までも各政策の分野で当然行ってきたことで、ベストミックスすること自体は何ら目新しくないと思います。
ここで何を言っているかというと、要するに政策手段で、規律手法という言葉はまた狭い意味で使われているかもしれません。要するに、取り得る手段、いろいろなものをどう組み合わせていくかということを言っているので、それをベストミックスと言うのでよいのか、例えば規範の内容を抽象的なものと具体的なものを組み合わせるという話と、先ほどの行政だけではなくて事業者団体や消費者団体と協力していきましょうという話とはレベル感がかなり違いますね。それをベストミックスという便利な言葉でまとめているのですけれども、このまとめ方でいいのかというのが根本的に私が引っかかったところです。
次に、今日の最初のほうで二之宮委員が飛び出しでおっしゃったことなのですが、とりわけイの要件と効果のベストミックスというのがまた分からなくて、要件と効果はミックスするものではないのではないか。要件があって、要件に基づいて効果が生ずるということで、効果を見据えながら要件というか要件を発生させる規範にいろいろなものを考えましょうということなのだと思いますが、それはベストミックスではないだろうという気がするのです。そういう意味で言うと、このイはなくてもよいのではないかと二之宮委員がおっしゃったので、私もそうかなという気がしています。
言わんとするところをもう少しはっきり言うと、従来も努力してきたのだと思うのですが、従来以上に規律手段、政策手段を多様化して、広くいろいろなものを考えていきましょうということを言っているということなので、それならそれと書いたほうがよいのではないですか。取り得る手段の多様化とか、あるいは先程のパラダイムシフトというか、制度目的の変化に応じた新しい手段の採用、検討ということなのではないかと思いますし、今のアからオまでを一つの括弧にしなくてもいいかなと感じました。
○沖野座長 この部分についてまずは一通り御指摘をいただきたいと思いますので、そのほかについていかがでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは、(3)のベストミックス、この表題がいいのかというのは、ベストミックスは今までさんざん語られてきたということもございますけれども、表題なり、あるいはその捉え方、あるいは整理の仕方の問題かもしれません。最後に小塚委員が御指摘くださったように、ここでのベストミックスというのは、むしろ一定の目的なり、あるいはパラダイムシフトの中、言い換えたほうがいいですね。第1、第2で示されてきた考え方の転換であるとか、脆弱性を見据えた姿勢であるとか、あるいはアテンションエコノミーなどが出てきたり、そういったことを踏まえて、各種の政策を実現するための手法あるいは規律の手法がもっと多様化して考えられるべきだと。これは野村委員が言われたベストミックスというよりは、それが多様化というふうに出せば、多様化させていくべきだというようなニュアンスも伝わるということで、むしろそういうような表現のほうがより望ましいのではないかという御指摘がまずございました。
中身については、一つはリスクについてということで、現在28ページのアの規制手法のところでリスクガバナンスの観点を参考にすることが考えられるのだというので、そこでどういうリスクを対象とするかなどが書かれているのですけれども、これ自体は規律手法のベストミックス以前に、考え方の整理というか、視点というか、そういうものとしてもう少し総論的な位置づけをするべきではないかと。それから、リスクについてはこれまでのプレゼンテーションの中でも言われていたことであるし、あるいはリスクに対応した規律の相関関係といいますか、そういうことも出されるのではないかという御指摘をいただいたと思います。項目として少し独立させたほうがいいか、どの位置に位置づけたらいいかというのは要検討ということかと思います。
それから、28ページのイにつきましては、要件効果といっても、これは行為規範等にするのかという話と、それから、それを実効性ある手段としてどういうものがいいのかということなのだけれども、ここもまずどういう想定なのかが少し分かりにくいということと、ここも結構一般的な話で、ここから何か具体的に出てくる問題ではないというので、小塚委員からはこれだけだとないほうがいいぐらいではないかと。あるいは、二之宮委員からは書くならもう少し手厚くと言われました。両極端ではあるのだけれども、問題意識は共通しているということなのですが、二之宮委員からもし手厚くするとするとどういう方向がありますか。
○二之宮委員 ここは、私が第21回でプレゼンしたときに発言したことなのですけれども、要件に抽象化、包括性を持たせて、違反の程度や対応によって効果を変えるとか、あるいは行政処分に結びつける、さらに民事効に結びつける、刑事ルールに結びつける。そこも組合せが考えられるのではないかと。対応や程度によってということを一言触れた上で、具体的には詳細は別のところでというのもあり得る。その辺のことを想定していたのですけれども、タイトルしかないに均しいなと思いました。
○沖野座長 ありがとうございます。
今おっしゃってくださった中身を24行目から27行目で読み取るのはなかなか難しいと感じました。今おっしゃったことは、例えば行為規範というのを置いたときにも、その行為規範のレベルがいろいろある、あるいは抽象度がいろいろある中で、さらにより具体化した上で、そこに様々な効果を対応させる可能性がある。そこの対応関係はいろいろな組合せがあり得るということかと思いました。
具体的には、二之宮委員、お願いします。
○二之宮委員 おっしゃるとおりで、むしろ逆を言ったほうが分かりやすくて、今まではこういう要件のときはこういう効果しかないし、この規範はその中で閉じられて硬直化してしまっているというところに問題があったと。ここをどう打開するのかというところの課題、問題提起として、それに対してはこういうふうに考えるということを言わんとしている項目だと思います。
○沖野座長 ありがとうございます。
大元の問題意識を含めて書いたほうが方向が分かりやすいということかと思いますので、今言っていただいた中身をもう少し明確に出すような形でこの項目を書けないかというのを検討させていただきたいと思います。
山本座長代理、お願いします。
○山本隆司座長代理 私もこのイのところは何を言わんとしているのか、一読してよく分からなかったのです。一つには、今、二之宮委員が言われたように、法定されたある義務が実効的に実現できるようにするために、行政的な手法なり民事的な手法なりといういろいろな手法を組み合わせる、併存させていく可能性をもっと考えるべきではないか。既存の制度でいうと、例えばある義務を行政の措置命令の対象にすると同時に適格消費者団体の差止め、訴訟の対象にするといった話が、一つあります。もう一つは、義務に違反した場合のリアクションの仕方、効果として、比較的善良な事業者が不注意でやってしまった場合と、本当に悪質な事業者で、あるいは行為が悪質で厳しいリアクションを取らなくてはいけないという場合とを分けられるように、制度設計していくことが考えられます。例えば、確約と措置命令は悪質かどうかということと厳密には対応しないですけれども、事業者の反応によって措置命令と確約のようなものを使い分けるとか、そういう話が入っているという気がしました。
いずれにしても、具体的に何を言おうとしているのか、明確にしないと、この一言だけですと伝わらないのではないかと思いました。
○沖野座長 ありがとうございます。
二つの可能性があるということで、むしろそういったことを明確にというか、より打ち出していく項目かと思います。
それから、例えばグラデーションと言われるような話はほかのところでも出てきますけれども、いろいろな形で光を当てていくということなので、必ずしも重複しないほうがいいとかということではなくて、いろいろなことがいろいろな観点から捉えられるということでよろしいかと思いますので、事業者の反応性を加味した上での様々な効果の在り方とか、あるいは実効性確保措置の在り方とか、そういったものがここでも入ってくるということかと思います。
では、イについては、二之宮委員、お願いします。
○二之宮委員 何度も申し訳ございません。
31ページの4行目の情報開示のところは私もちょっと気になっていまして、要はどういう情報を誰が開示するのか、その主体が事業者が消費者に向けての開示、でも、そうかなと読めるというか、読んだのですけれども、それだけなのか。行政からの情報、事業者からの情報、消費者団体からの情報、あるいは情報共有、要は情報の主体と対象というのがよく分からない。恐らくそれは開示して正確な情報が市場にきちんと出てくる、どこから出てもいいと思うのですけれども、誰が必要とするときにどんな情報をどこから取ってきてどう判断するのかということがちゃんと市場の中で機能しているということが大切なのだということを言おうとしているのかと最終的には考えたのですけれども、この書き方からはやはりよく分からないなというところがありました。
○沖野座長 ありがとうございます。
それでは、ちょうど今言っていただいたところについて申し上げますと、31ページの3行目、4行目あたりの信頼のおける情報開示ということについて、これは恐らく事業者が消費者にというだけではなくて、例えば行政機関の下でそういった情報を集めて信頼のできる開示になるので、それを見ることでさらに消費者が選択できるとか、そういうことも含めているのだとは思いますけれども、その話と、それから、加毛委員から御指摘のあったサステナブルファイナンスの話などは、そもそもサステナブルファイナンスあるいはサステナブル開示というものがどのように位置づけられるか。さらには、前文のところを見ると、消費者法制度の外に位置づけられているようだけれども、果たしてそういう位置づけでよいのかということを含めて考える必要があるという御指摘をいただきましたので、情報開示というのがどういう主体の誰に対する情報開示を想定しているのかということについての補足と、それによって何をもたらそうとしているのかという部分についてより明確にできるといい。それから、サステナブルファイナンスやその開示との関係は改めて整理をさせていただくといいのかなと思いました。
一つ戻りまして、もう一つ御指摘がありましたのはインセンティブの付与のところで、30ページの18行目以下ですね。ここでの21行目にインセンティブ付与というのがあって、もちろんここは健全な事業活動に対するインセンティブ付与ということからすると、ポジティブインセンティブということが言葉の流れとしては一番分かりやすいと思いますけれども、他方で、具体的に書かれているところの中にはアウトローや悪質事業者への対処を図るですとか、不当・違法な行為や消費者被害のリスクの未然回避を図るということも書かれておりまして、ポジティブインセンティブだけなのかどうかというのは分からないところがあるのですけれども、善良な、あるいはそういう反応性を示すところはもっと伸ばしていくようにしたいということだと思うのですが、インセンティブというのがどれについての話かと。ポジティブインセンティブであれば、そのことを明確にしたほうがいいということと、それから、具体的な手法としてはかなりいろいろなものが書かれているということと、より端的な善良な事業者にはそのまま伸ばしていただきたいというためのインセンティブの付与の手法が必ずしも書かれていないのではないかと。具体的には野村委員から御報告のあったものがありますし、あるいはさらにもし補充していただけるものがあれば、さらにこの後補充していただいて、こういったものがありますということをアイデアとしても教えていただければと思いますので、そこは整理しつつ、追加をするということになろうかと思います。
それから、担い手のところは先ほど最初の二之宮委員の御指摘のところで改めて確認させていただいて、特に事業者団体等の位置づけをもっと打ち出すべきであると。特に連携の中にその主体としても非常に期待されるということを書くべきだということだったと思います。
今まで(3)について御指摘をいただいたのは以上かと思います。
それから、並べ方がこれでいいかということと、全てベストミックスで書いていくのがいいのかということはまた改めての検討事項だと考えますが、二之宮委員、お願いします。
○二之宮委員 何度もすみません。
先ほどの30ページのインセンティブのところは、私がヒアリングの中で印象的だったのは、12回、13回のサステナブルファイナンスと佐藤先生のところの、ともすれば消費者行政の中では消費者志向経営表彰とかということはやっていたのですけれども、あるいはナッジとかというのはいろいろ言われたのですけれども、やはり金融との結びつきというのはインパクトが大きいということを非常に感じました。あのときも少し話が出ていたのですけれども、もう少し金融庁との連携で何かインセンティブを探っていく。さっきできないことを書くなということを言って申し訳ないのですけれども、アプローチしていくことによってそこを探っていくというところは、それこそさっきの文言で言うと視野に入れてもいいのではないかなと思いました。
○沖野座長 ありがとうございます。金融との関係では、有価証券報告書などで書いていただくかとかそういうような話もあったかと思いますが、それに対しては難しいという御指摘もまた別途いただいたところで、どういうことが具体的に実現できるのかというのについてはかなり評価が分かれたような印象も持っておりますけれども、しかし、可能性としてその方向を探っていく可能性もないかという点からはより取り上げたほうがいいのではないかと。それから、それが先ほど加毛委員からも御指摘のあったサステナブルファイナンスあるいはサステナビリティ開示のほうにもつながっていきますので、消費者法制度の外というよりは、それとうまくつなげていけるような可能性も模索することが考えられるというような形で言及できないかということでしょうか。そういうことでよろしいですか。
ありがとうございます。
小塚委員、お願いします。
○小塚委員 先ほどはベストミックスの話ばかり申し上げたので、細かい話を二つ申し上げます。
一つは情報開示のところで、31ページの4行目にディスクロージャという言葉が出てきまして、その下に適時・適切に情報提供がなされることで正しい評価が可能になると。つまり、ここで言っているディスクロージャというのは、まず、ここの正しい評価は多分インセンティブ、ディスインセンティブを与える上での正しい評価なのですね。その次が消費者の判断の基礎につながるということなので、取引のための情報であると。そのために情報の真実性・正確性、提供内容の明確性、提供時期の適切性というのですが、これらを全部ワンセットにしてしまってよいのか。さらに、そこでこのディスクロージャの中にサステナブル開示みたいなものを読み込んで大丈夫なのかという辺りがやや気になるところでして、サステナブルディスクロージャなどは、いわゆる非財務情報ということもありまして、嘘偽を書いてよいということを言っているわけではないのですが、厳密な意味で財務情報を開示するときと同じような意味での正確性が担保できるかというと、そこは性質が違うというようなことは金融庁でも議論になっていたはずです。なので、いっそ広い意味でのディスクロージャを言うのだとすると、この6行目から8行目までをワンセットで全部書いてよいのだろうかということがやや疑問になります。恐らく広い意味での情報開示としては、まずはそれによって市場における信頼を築く基礎になるのだということを書いて、その中で、例えば取引の基礎になるとか、インセンティブを与えるとかということの事柄の性質に応じて、こういう真実性・正確性の担保の仕方とか、提供内容の明解性のレベルとか、そういうことが恐らく変わってくる。ベストミックスになるか、グラデーションになるか分かりませんけれども、そこは恐らくバラエティが出てくるのだと思うのです。というようなことを書いたほうがよいのではないかと。一方では書かれていることが非常にかっちりしていて、もう一方ではここに何か広いものを入れたいと。それが今混在しているように感じたということです。
それが情報開示に関することです。
それから、これは入れ方が分からないので、また困った発言になってしまうかもしれないのですが、半分はこのインセンティブのところに関わり、半分は事業者団体のところに関わる話で、何度も申し上げているグローバル企業との関係というのがここで視野から落ちているような気がするのです。ここでは、インセンティブが効かない主体というのは極悪層、さすがに極悪という言葉は今回消えているのですけれども、この専門調査会で何度も言ってきた極悪層の話と、それから、そうでないとしても、法遵守にあまり関心がない層だけが想定されています。
ただ、例えばグローバル企業などで、もちろん法律、コンプライアンスは守ります。ただ、コンプライアンス以上にインセンティブが欲しいかというと、別にそんなことをしなくても我々は十分力があって、放っておいても消費者が来てくれて、だから、ハードローで何か言われない限り対応しませんというのは結構グローバル企業にはあるような気がするのです。さらに言うと、そういうところは日本の事業者団体にも入ってこない。そうすると、経団連のプレゼン資料などを見ますと、むしろ海外企業と日本企業の負担感の差が拡大してしまうのではないかということを日本企業は非常に気にしているところがあるのだと思うのです。ですから、そのことはここで触れていただきたいと思いますし、事業者団体に入らない企業にも望ましい行動を取っていただく仕掛けというものが必要になる。
一つの方法として、例えばハードローに根拠を持つソフトローみたいな方法とか、そういうような対処が必要になる。だから、インセンティブ、ディスインセンティブにしても、インセンティブのスキームに入ることがむしろハンディになるようなことは避けたほうがよいということで、インセンティブのスキームが事業者に関係する全ての事業者に公平に適用されるような状況が望ましい。そういうことをどこかに入れていただきたいと思うのです。具体的な対処法は何となくまだ固まっていないのですけれども、これは私は繰り返し申し上げているつもりですので、お願いできればと思います。
○沖野座長 ありがとうございます。
グローバル企業との関係あるいは国際的な展開との関係というのは、DPFのところでも出てきましたし、いろいろなところで出てきているので、様々な事業者を考えたときに、さらにグラデーションになるのかもしれませんけれども、あるいはその中で語るということも考えられるのかもしれないと思いました。
現在ですと、インセンティブ関係について言えば、31ページの9行目以下にインセンティブの設計ではうまくいかない層があるというのは、これまでの非常に悪質な意図的なところとあまり関心がないというところだけですが、海外の非常に大きな事業者であるとすると、それなりに対応するけれどもそこまでは対応しないというか、そういうようなものもあるということだとすると、こういった部分に加えていくのか、全体として様々な事業者の中に、事業者団体がうまくいかないのはそういう団体がないところもありますけれども、そもそもそれに加わらない、しかし、悪質では必ずしもないというものをどう捉えるか。こういうところにも光を当てなければいけないというのは、現在のそれこそデジタル化の進展ですとかアテンションエコノミーの進展とともに非常に重要になっていることと思いますので、ここにも入れる、あるいは事業者のところで入れられるかということは要検討かと思いました。
それから、一つ前に言っていただいた情報開示の関係では、サステナブルファイナンスあるいはサステナブルディスクロージャということについて、消費者法制度との関係あるいはその外なのかという疑問が出されたのとともに、特に7行目、8行目にわたる情報の真実性・正確性、提供内容の明解性、時期の適切性はまた違うのかもしれませんけれども、これは逆の真実でないとか不正確であるとかそういうことは排除されるべきなのだけれども、真実性・正確性といったときに、財務情報と比べたときのサステナブル情報が持つ特殊性というようなことも考えると、先ほど事柄の性質に応じたというような表現の御示唆をいただきましたので、そういったことが分かるような形に、それから、同じくサステナブル表示、ディスクロージャに当たり得るものと少し事柄の性質に応じて考えなければいけない事項というのがあるので、そこは注意したほうがいいという御指摘ですので、表現の形を考えていくのが適切ではないかと思いました。
山本座長代理、お願いします。
○山本隆司座長代理 29ページの28行目から30ページの7行目あたりにかけて、直接法的な効果を伴わない原理原則や理念を法律上規定するということですが、いま一つ具体的なイメージが湧かないところもあります。現在の法律ですと、例えば基本法などに責務規定があったり、あるいは努力義務規定があったりしますが、これをもっと細かく書くというイメージでしょうか。あるいは、行動原則をむしろ事業者団体が策定することを促進するような法制度をつくるという意味も含まれている気もしますが、ただ、ここには法律上規定するとあります。もう少し具体的にどういったものをイメージされているかがはっきりするとよいかと思いました。
○沖野座長 ありがとうございます。
この部分は法律上規定するという法律上というのはどこまでかということもあるかもしれませんけれども、例えば努力義務などについて言われていることとして、基本精神や目的をより具体的に努めなければならないという形で示しているということもあれば、事業者としてはこれに即した行動をしてくださいと示すというのが第2のところかと思いますけれども、例えばそういうことかと。これが第3には行政規制の運用に当たってのというほうになるので、努力義務が行政規制のほうに行くのかというのは分からないのかもしれませんけれども、どうでしょうか。第1、第2、第3の中身をもう少し分かりやすくできないかということであるのか、あるいは、具体的には例えば責務であるとか努力義務であるといったことが一例であると書くと、ここは分かるようになるものなのでしょうか。
○山本隆司座長代理 それが一つの案かと思います。そもそも具体的にどういう規定をイメージしているかということ自体、私自身よく分からなかったので申し上げました。もし努力義務をもっと具体的に書くという趣旨であれば、そういうことになるかと思います。ただ、行政規制の運用に当たっての悪質性の把握・評価、あるいは不法行為等の認定に当たっての考慮につながるかと言われると、微妙なところもあります。
○沖野座長 ありがとうございます。
ここで想定されているものをよりイメージしやすいように、例えばこういうものと具体例を幾つか挙げてもいいのかもしれません。第1、第2、第3が全て共通かどうかということもありますし、一方で、第1、第2、第3は比較的ソフトローと言われた中の努力義務のようなものを想定しているとすると、法律上規定するという話となかなか合わなかったりして、例えば努力義務というのは今までの議論の中でもソフトローに入れられたり、法律上の規定ですということで、言わば法律に書いているのだからとハードロー的に言われたり、位置づけが難しいところがあって、あるいはそういうものを想定しているのかなとは思いましたけれども、ここは今までの御議論があったところをまとめたものかと思いますので、しかし、何を指しているかというのを具体例を1例ずつでも上げていけばより分かりやすくなるのかなとは思いました。それがいいのかどうかはともかく、どういうことを考えればいいのかというそこの明確化が読んだ人に分かるようにということでしょうか。
○山本隆司座長代理 あまりうまくいかないということであれば、削ることになるかと思いますけれども。
○沖野座長 工夫してみるということで、報告書を読む方だけではなく、委員でも分かりにくいということがありましたので、検討するということでお願いしたいと思います。
既に12時を過ぎておりまして、今日は最大だと13時までとお願いしておりますので、もう少し続けさせていただきたいと存じます。
タイトル自体の問題も御指摘いただいた(3)のベストミックスのところですけれども、一通り御指摘をいただいたと思います。そこで、もう少し先に進めたいと思います。
そうしますと、31ページからの様々な規律手法の活用ということになります。ここは結構な分量がございますので、まずはアの刑事規制、31ページから32ページまで。そして、イの行政規制、33ページまで。民事ルールの前までのところで御指摘をいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。刑事規制、行政規制の記載の部分です。
山本座長代理、お願いします。
○山本隆司座長代理 一つは、刑事規制と来て行政規制と来ると、課徴金の話が出てくると思います。ただ、今回はそれをあまりターゲットにはしないため、一切出てこないと思うのですけれども、そういう理解でよいかということが一つです。
もう一つ、細かい表現の問題ですけれども、33ページの15行目の対話的手法に「行政指導等の」とあります。行政指導は確かに対話的に行われるものもあるのですけれども、ただ、行政指導を対話的手法と並べるとやや違和感を持たれる可能性があるという気がしました。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございます。
課徴金を除外するという趣旨ではないと思いますが、入れるとすると行政規制のほうでよろしいでしょうか。
○山本隆司座長代理 刑事罰ではないですので、行政的な手法の一つかと思います。ただ、あまりそれが主な論点になっていないとすると、具体的に書き始めると結構大変ですので、触れなくてもよいかという気もいたします。
○沖野座長 ありがとうございます。
恐らく主要なものではないのだと思うのですが、しかし、排除する趣旨でもないので、さらっと触れるができればいいのだと思いますがそれが可能かどうかということで検討したいと思います。
それから、行政指導についてのところは、例えばですけれども、33ページの15行目は、対話的手法に当たるものは、事前相談やノーアクションレター制度はよろしいですか。
○山本隆司座長代理 これは一種対話的と言ってよいかと思います。
○沖野座長 そうすると、行政指導を削除するのがいいのではないかという御趣旨になりますか。
○山本隆司座長代理 行政指導と入れてしまうと、言わんとすることがよく分からなくなる可能性もあるので、単純に削除し、ただ、行政指導の中にも対話が行われるものもあるということを含意させるのが一つの案かと思います。
○沖野座長 ありがとうございます。
単純に削除するか、あるいは行政指導の中にも対話的なものもあるが、そのほかとかと入れられたら入れるということかもしれませんし、よろしいですか。「あるが」とか言ってしまうと、そうですかという認識をいろいろ突き詰めていくのもどうかと。
○山本隆司座長代理 いろいろ書き始めると、結構大変なので、単純に対話的手法でよいのではないかという気がします。
○沖野座長 今のは表現についての御示唆をいただいたということにしたいと思います。概念整理の問題でもあるかと思います。
では、加毛委員からお願いします。
○加毛委員 ありがとうございます。
一つ目は、表現の仕方だけなのですが、31ページの35行目に「欲得がらみの消費者被害」という表現があるのですけれども、「欲得がらみ」という言葉遣いについては再考してもらいたいと思いました。
もう一つは、山本座長代理が指摘されたところに関連して、33ページの9行目からのところで、ディスインセンティブとインセンティブを対比する形で記載がなされているのですけれども、今話題になった対話的手法の活用がポジティブなインセンティブを付与するものなのかがよく分かりませんでした。規制というディスインセンティブの存在を前提として、それを回避するために行政庁に事前に相談をするのだとすると、それはインセンティブという言葉でこの報告書が捉えているものと一致しないのではないかと思われるところです。
もっともこの点は、先ほどの発言とも関わるのですが、私が報告書における「インセンティブ」、「ディスインセンティブ」という言葉の使い方を理解していないための誤解かもしれず、そうであれば検討していただく必要はありません。ただ、気になったので、一応申し上げておきます。
○沖野座長 ありがとうございます。
そのほかにこの部分についての御指摘としていかがでしょうか。よろしいでしょうか。
今までのところでは、刑事規制については、内容そのものについては御指摘はなく、しかし、31ページの35行目の「欲得がらみの消費者被害」というのが表現としては不適切ではないかという御指摘がありまして、これは恐らくこういうような現象なり考え方なりが見受けられるというところに対して警鐘を鳴らしているということだと思いますので、その現象なりを捉えるより適切な表現に変更する必要があると思います。
それから、行政規制につきましては、課徴金の位置づけあるいは言及の仕方の問題についてそれほど中心的に取り上げるものではないという前提で、今のような形がいいのか、少し言及したほうがいいのかというのを検討するということと思います。
それから、行政指導については御指摘いただいたところで、あくまで例示ですので、対話的手法からは除くということでよろしいのではないかと。
それから、もう少しより基本的なことに関わるものとして、インセンティブの付与というのが、特に13行目以下でしょうか。ソフトローの活用のほか、事前相談、ノーアクションレター制度などの対話的手法がインセンティブ付与にダイレクトに結びつくのかということで、インセンティブ付与自体の考え方を確認する必要もあるのかもしれないという御指摘をいただきましたので、それは検討させていただきたいと思いますけれども、ここではインセンティブ付与は行動をより違反のないようにしていただくためのいろいろな制度設計だと思いますが、小塚委員、お願いします。
○小塚委員 恐らくここのインセンティブというのはテクニカルな意味ではなくて、日常用語として、事前に先に相談してもらって適切な行動を取るという誘導するという意味で使われていますよね。それで、加毛委員がおっしゃったのは、前のほうに出てきたこととの関係で、よい行動を取っている事業者にメリットが出るような制度という話なので、報告書でいう非常にテクニカルな意味でのインセンティブという意味で使うのであれば、ここはそういう書き方をしないほうがよいのかもしれませんし、あるいはあちらのインセンティブ設計という言い方は何か別の言葉を選んだほうがよいのかもしれません。それに起因する混乱だと思います。
○沖野座長 ありがとうございます。
明確にしていただいたので、インセンティブという言葉の使い方をどちらでいくかということを改めて全体にわたって検討する必要があるとの御指摘と思いました。ここではまさに何が問題の行動かということを明らかにすることによって、違反のない行動へと自発的に行っていくというためにはそこを明確化するということだとは思うのですが、それが今までのインセンティブと合っているのかということがあるかと思います。
ア、イにつきまして御指摘いただいたのは以上でございますが、では、残りの時間を使ってウの民事ルールについて御議論をいただきたいと思います。ここが33ページから36ページまであります。この部分についていかがでしょうか。
なお、石井委員から33ページ以下の記載については初めのところで御指摘をいただいたところなので、消費者契約法に関するものであるのか、それ以外であるのかという辺りが、どこがどこかという対応が少し分かりにくいので明確にしたほうがいいのではないかという御指摘であったように思います。
では、小塚委員、次に二之宮委員でお願いします。
○小塚委員 後でまた思いつくかもしれませんが、細かいところで気になったことを二つ申し上げます。
一つは、33ページの35行目から36行目で消費者契約法は20世紀の制定経緯に起因する消費者契約法の基底から見直す。「消費者契約法を」なのかな。「消費者契約法の基底を見直し」なのかな。そこも分からないですが、20世紀の制定経緯というのが、確かに消費者契約法は平成12年、2000年なので、2000年は20世紀なのですけれども、20世紀的というときにはもう少し前のことを言いますよね。なので、この書き方はどうなのかなということはあります。先程のパラダイムシフトにも関わることです。
もう一つ気になったのが、35ページの9行目からですが、損害賠償制度の活用で、それはよいのですが、12行目で「債務不履行により契約の履行過程を捉えることが可能になる」と一文書いてあって、この一文が何を言いたいのかということも分かりませんし、13行目以下の「不法行為は」というのは、不法行為の損害賠償を債務不履行の損害賠償と対比してこういう特徴があると言っているのですが、これは民事法的に言えばこうだという話で、何でこう書いてあるのかというのも分からないところで、ここに書くのであれば、こういう基本的なことよりも、損害賠償制度を使うことによって、消費者契約法の取消に比べてもっとこういうアドバンテージがあるというようなことを書いたほうがよいのではないかなと思いました。
○沖野座長 ありがとうございます。
では、二之宮委員、お願いします。
○二之宮委員 二之宮です。
34ページの27行目以下に多様な規律手法の在り方というのが書かれています。その上で9行目に規律の対象場面として消費者取引の全過程(契約締結・履行・継続・終了)・契約内容の規定を整備するとあります。その下にいろいろ目的、規律の在り方と書かれていて、契約からの解放手段、離脱の場面とか、あとは損害賠償でその調整を図るということが書かれています、確かに議論しているときはそうだったなと思って読み返していました。こうやって文章の形で契約の締結・履行・継続・終了の全過程を捉えるのだとしたときに、離脱以外のことについて全く触れていないというのがちょっと気になります。契約は続いているのだけれども、その間に問題が生じたときにそういうのも拾っていくのだと。例えばというのを何か入れておいたほうが、有効、無効、取消しだとか、離脱、解除するだとかという以外のところも対象に置いているのですよということが伝わると思います。
何かいい例がないかと思っていろいろ見返しておったときに、平成30年の消費者契約法改正のときの附帯決議で、複数契約があったときにどちらかで問題があったときに関連する一つの契約の履行を拒絶できるとという抗弁権の接続というのも検討すべきというのが入っています。これはまさに履行過程に起こった問題ですから、例えばそういうのも一つ例として入れておくことは可能かということを御検討いただければと思います。これは具体的に書くのか、抽象的に書くのか、そこの問題だと思いますので、強くこだわるものではありません。
もう一つ、36ページの12行目から消費者被害の事後救済における手続遂行に関する規定ということが書かれています。ここでは、消費者の脆弱性を補うための規律の活用可能性ということが書かれています。ここもこういう例も一つ入れられないだろうかということで、これは私がプレゼンのときにお話しした内容なのですけれども、消費者の有する脆弱性ということを考えると、消費者が証拠を保全しておくということがなかなか難しい。事後に客観的に自分が契約したときの状況というのを説明するのもなかなか難しいということを考えると、行政処分の情報を共有できる、あるいは基礎づける事実関係について、制度、損害賠償とかとリンクさせる。これは脆弱性を補うための一つの在り方だと思いますので、これも先ほどと一緒で、具体的にどこまで入れるのか、抽象度をどうするのかというところの関係だと思いますので、ひとつ御検討いただければと思います。
もう一点、ここは言葉の問題で、むしろ民法の先生の座長とか加毛委員にお聞きしたいのが、35ページの22行以下に「法律行為法的には」と書かれていまして、ここは確かに民法の原田教授とかのときに不法行為との対比で出てきたのですが、法律行為法というのは我々弁護士からしても何だろうとちょっと引っかかる言葉ですので、置き換えられるのか、あるいは補足が脚注で要るのか、何か必要ではないかと思うのですけれども、民法の世界からすると当たり前ですよ、そんなの知らないのですかと言わると、はいと言うしかないのですけれども、いかがでしょうか。
○沖野座長 ありがとうございます。
二之宮委員の御指摘としては以上でよろしいですか。
○二之宮委員 はい。
○沖野座長 ちょうど加毛委員からお手が挙がっておりますので、まず加毛委員に御発言いただきたいと思います。
○加毛委員 二之宮委員の質問に答えられるのかは自信がないのですが、関連するところで、私も発言したいと考えていたところがありますので、その点に関連して、後で私の認識を申し上げようと思います。
まず、34ページの9行目から「法目的」という項目がありますけれども、これはここに置いておくのが良いのか、それとも33ページの18行目からの「役割・機能」において丁寧な説明があるので、そちらに取り込むのが良いのかが問題となります。先ほどの沖野座長のお話との関係では、34ページの23行目から26行目が重要なポイントであると思いますので、そこの記述を前のところに移すということでも良いのではないかと思われます。
その上で、33ページの18行目からの「役割・機能」の記述については、石井委員から、消費者契約法を念頭に置いている部分があるという御指摘がありましたが、先ほどの「保護から自立」へという標語に関する私の発言との関係では、小塚委員が表現の適切性について疑義を提起された「20世紀の制定経緯」という表現にも関わるところですが、「自立」を強調しない考え方も以前には存在していたことも含めて書く必要があるのではないかと思いました。
次に35ページに移りまして、まず、12行目の一文の意味が分からないというのは、私もそのように思いました。もう少し説明を加える必要があると思います。
その上で、22行目からの段落なのですが、二之宮委員の御発言について、私自身は「法律行為法」という言葉遣いには違和感を覚えませんでした。しかし、それは二之宮委員が不勉強であるということでは全くなくて、ある文脈では割と使われる表現なのではないかということであり、その文脈というのが、いわゆる評価矛盾論ということになります。そして、評価矛盾論の説明として、ここに書かれている内容が適切であるのかには、疑問を感じるところがあります。ここの部分の記述は、恐らく大塚直教授の御報告の内容に依拠したものであるのだろうと思うのですが、評価矛盾論の問題意識としては、法律行為法ないし契約法の問題としては、契約を有効であると認めつつ、しかし、その有効な契約が不法行為責任を基礎づけるところに、当該契約に対する評価の矛盾があるのではないかということなのだろうと思います。そのような指摘は、民法学では一時期それなりに有力であったように思いますけれども、それに対して、ここで書かれているように、法律行為法として有効性が認められる取引であったとしても、なお不法行為の責任を基礎づける余地があるという考え方が主張されたのだと思います。そのような評価矛盾論をめぐる説明の仕方として、報告書の記述を見直す必要がないだろうかという質問を、民法の大家である沖野座長にお尋ねしたいと思います。
○沖野座長 ありがとうございました。
今御指摘いただきました35ページの22行目以下の法律行為法における救済というのは、法律行為や意思表示としてそのまま効力を認めて、その内容どおりの実現に法が助力するということでいいのかということを考えたときに、詐欺錯誤ですとか、あるいは消費者契約法の様々な取り消しというのがあって、そして、これは二之宮委員の最初のほうの御指摘にも関わりますが、むしろ契約から解放する方向の規律がかなりのところ考えられてきた。これは望まない契約をしたとか、そういうようなところがあったということだと思いますけれども、そうすると、法律行為として、あるいは契約としてはそのまま効力を維持するということだけれども、しかし、それを今度は不法行為で調整を図るというのが言われており、原状回復的損害賠償ですとか、それに対して、しかし、契約としては有効であるとしているものを結局不法行為で原状回復をするというのは矛盾しているのではないかというような問題が指摘されたりというのが議論としてはあったと思いますけれども、しかし、あえてここで法律行為法と不法行為法と対置した上でそれぞれを書く必要は必ずしもないように思いました。これまでは意思表示についての瑕疵というか、十全さに問題があるとか、あるいは意思決定の環境のところを捉えて、契約からの解放ということに規律がかなり割かれていた。あるいは不当条項規制もある意味そうかもしれませんけれども。そういったところに対して、しかし、それで全く万全だというわけではないので、真っ当というか、瑕疵のない合意がされているわけではないのだということを捉えて、不法行為による対応の余地があるということを書ければ十分ではないかと思いました。
それでは、そのほか民事ルール関係の部分についていかがでしょうか。よろしいでしょうか。
小塚委員、お願いします。
○小塚委員 ここで提起すべき問題なのかどうかもよく分からないのですが、契約全体から離脱させるというのでもなく、また、損害賠償でもなくという場合、例えばいわゆるサブスクリプションの解除が難しいとか、離脱と言えば離脱なのですけれども、どちらかというと元の契約はそれはそれでよいのだけれども、将来に向かって解除したいときにその仕方が分からないとか、それが隠されてしまっているというようなときに、むしろ解除の手段のような、契約、サブスクリプションを止めるというような手段を積極的に与える必要があるといいますか、変な言い方ですけれども、そういうようなことというのはここには入ってこないのでしょうか。先ほど座長が言われた今まであまり有識者ヒアリングで出てこなかった問題かもしれませんけれども、社会的には非常に問題になっていることではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○沖野座長 ありがとうございます。
先ほど二之宮委員から離脱以外の手法についてももう少し記述してはどうかということで、複数契約の抗弁の接続あるいは抗弁の対抗の話を一例ということで挙げていただきました。
それから、小塚委員から今いただいたものは、先ほど望まない契約と申し上げましたけれども、契約したところ、思っていたのと違うというようなことで離脱をするけれども、解除がしにくいというようなものは、むしろ実は十分に理解した上での契約締結ではなかったとか、そもそも契約締結段階で十分に評価できるようなタイプの契約ではなかったというのもありますけれども、しかし、かなり長期にわたるようなもので状況の変化があって、もはや役務の提供を受けられないのだけれどもやめられないとかというような場合ですと、締結過程とかの問題ではないけれども、そのような内容や拘束がいいのかという問題になり、そのこと自体は今までに御指摘もあった点ですし、そういった問題も含めて全過程ということになってくるのではないかと思いますので、少しこれがそういう部分も含んでいるのだということで、一例でも出せば分かりやすいかと思いますので、先ほどの二之宮委員の御指摘と併せて検討ということかと思います。
それ以外についてよろしいでしょうか。
それでは、ウのところにつきまして、33ページに関しましては、これまでの経緯的な面もあり、「20世紀の制定経緯に起因する」というような表現が果たして客観的な消費者契約法の制定の時点から言ってもいいのかということはありますけれども、それから、やはり歴史的ないろいろな揺り戻しというか、そういう中で概念がもっと精緻化されていくというところがあるかと思いますので、その部分についてもこの役割・機能のところでは意識してはどうかと。それから、消費者契約法だけにとどまらない部分があるので、何が消費者契約法で何がそれ以外なのかということは意識して書いたほうがよくはないかという御指摘をいただいたところです。
それから、34ページ以下につきましては、対象についてはここで書かれている以外のものも具体例として挙げて、もう少しイメージが湧くようにしてはどうかという御指摘をいただきました。
それから、19行目以下の法目的についての記載は、ここがいいのかという部分も御指摘いただいたところで、むしろより総論的なというか、あるいは役割・機能のほうの話かもしれないので、ここに位置づけるのがいいのかも含めて要検討ということと思います。
それから、35ページの12行目の債務不履行による契約の履行過程を捉えることが可能になるという部分がいささか意味が捉えられないということで、損害賠償として債務不履行による損害賠償というのを、損害賠償の原因としてそういうものを広げて損害賠償を持ってくるというのはあると思うのですが、他方で、契約の履行過程を捉えるならば、履行過程を捉えるというのはそれとして一つ前のところでも出てくることだと思いますので、ここはどういう趣旨かを明確にするということで、場合によってはこの部分は削除ということもあり得るかと思いますので、趣旨を明確化という形で行きたいと思います。
それから、13行目以下の不法行為については確かにこういう性格があるのだけれども、ここだと不法行為というのはこういうものですという記述にとどまっているので、それが取消の今の規律に対してこういうものを入れることによってどういうようなことが出てくるかという形での説明ぶりのほうがいいのではないかという御指摘だったと思います。
22ページ以下は、法律行為法における救済というのは、そういう概念があることは確かなのですけれども、ここでこういう形で出していくのがいいのかという点については御指摘をいただいたので、この表現を使わなくても十分説明はできるのかと思いまして、むしろその形で説明したほうがいいということかと思います。
それから、36ページに行きまして、12行目以下については、消費者の脆弱性を補うための規律の活用可能性という中には、ここに幾つか例えばということで挙げていただいているのですけれども、事業者の保存義務や消費者による保存をサポートする取組を促す取組ということですが、例えば行政処分で行政庁が持っておられる情報を共有というか、活用というか、そういうこともあるのではないかというさらなる具体例を出していただきましたので、支障のない範囲でかもしれませんが、その部分についても追加をして、より様々なやり方があるということを示唆するということでどうかということであります。
御指摘をいただいたところは以上かと思いますけれども、そのほか、このウの民事ルールのところについていかがでしょうか。
山本座長代理、お願いします。
○山本隆司座長代理 35ページの28行目、29行目あたりでしょうか。努力義務・配慮責任の活用可能性が出てきます。ここで先ほど29ページの28行目以下に出てきた話と同じことが言われているかと思います。その上で申し上げると、本来であればハードローといいますか、はっきりした義務等を規定すべきところが、努力義務になってしまうという現象にはやはり気をつける必要があると思います。例えば、どういう場合に特にこういった手法が有効かということを一言書いておいたほうがよいかと思いました。例えば、技術等の発展のスピードが非常に速く、なかなかハードロー、通常の義務規定等が設けられない場合とか、あるいは非常にビジネスの態様が多様でルールを設けるのが難しい場合とか、何かそういうふうに一言書いておくと、努力義務に逃げるといった現象を防ぐことが重要であり、過剰にとにかく努力義務にするという趣旨で書いているわけではないということが分かるかと思いました。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございます。
今の35ページの28行目以下の③の項目については、先ほどの29ページの28行目以下との対応関係について意識していただきまして、こちらのことを書いているのだということであれば、29ページのほうにもそちらを分かりやすく書いていただくのがいいということと、努力義務・配慮責任は、今御指摘いただいた点は非常に重要だと思いまして、やはりこれまでの立法の評価にもやや努力義務に逃げているという評価もややでなくあるかもしれませんし、これは何を努力義務と持ってくるかということを考えることは非常に重要だという点はまさにそうだと思いますので、具体的な基準なども今お示しいただいたので、例えばそういう場合にはというようなことで、そもそも入り口というのでしょうか、設定の基準ということを追加するというのはぜひやりたいというか、お願いしたいと思います。
以上のところで、ウの民事ルールについては種々御指摘をいただいたというので、これを踏まえて次に向けてさらに検討するということですが、残りの時間が10分ちょっととなっており、次の項目はエ ソフトローということになります。ソフトローと、それから、その他とありますので、この二つと思うのですが、残り10分でこの項目を、しかも、ソフトローだけでも扱うのは分断してしまって、また忘れてしまうこともありますので、残りの時間は少しあることはあるのですが、ここから次回回しとさせていただきたいと思います。したがいまして、次回は36ページの35行目のソフトローからまた項目を区切って御指摘をいただきたいと思います。
冒頭で今日行けたらいいなというのはここまでだとお示しをし、決して議論を制約するものではないということも申し上げて、決して議論を制約しない発言であったということがよく分かったわけですけれども、非常に御指摘をいただいて大変ありがたいと思います。当専門調査会の報告書としてよりよいというか、まさに発信したいものを内容として含めていくに当たって非常に有益な御議論をいただきました。
それでは、本日は時間の関係もございますので、以上ということにさせていただきたいと思います。
今回の議論は以上とさせていただきまして、次回も引き続きこの続きから資料1の素案をたたき台として検討を進めてまいりたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。
では、事務局から最後に事務連絡をお願いいたします。
《3.閉会》
○事務局 本日は長時間にわたりありがとうございました。
次回の会合につきましては、確定次第、御連絡させていただきます。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございました。
本日も長時間にわたって、かつ非常に活発な御議論をいただきまして、ありがとうございました。次回もどうかよろしくお願いいたします。
それでは、これで完全に閉会といたします。
(以上)