サプリメント食品に係る消費者問題に関する意見

2024年7月16日
消費者委員会

我が国には、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)やその他のいわゆる「健康食品」1において、特定の保健上の機能が期待される旨を示した2(以下「ヘルスクレーム」という。)サプリメント食品3が多数みられる。今般の紅麹関連製品に係る事案を受け、機能性表示食品については、安全性の在り方に重点を置いた制度改正が行われる見込みとなっているが、それは、サプリメント食品が抱える問題という観点からみると、一側面への対応に留まっている。

当委員会は、サプリメント食品が惹起する可能性のある、様々な問題について懸念している。本来、ヘルスクレームを謳うことができないはずのその他のいわゆる「健康食品」において、不適切な表示・広告が多数みられる。また、同一の食品を、大量に、長期間摂取することの安全性は必ずしも実証されておらず、サプリメント食品については基原材料の中に微量に存在する有害物質が製造等の過程において濃縮されうること又は製造等の工程において新たに有害物質が生成されうることは政府が認めているとおりである4

また、我が国には、欧米主要国とは異なりサプリメント食品を定義しそれを包括的に規律する法律はなく、健康被害情報の収集・活用、有効性・安全性の観点からの実効性の確保、表示・広告規制等において、消費者保護の視点からの規律や監視・執行体制が不十分である。

以上のことから、当委員会は、サプリメント食品に係る消費者問題への対応が急務と考えており、政府に対し、以下のとおり意見を述べる。

なお、当委員会は、サプリメント食品に係る消費者問題は、重要事項であると認識しており、今後も調査審議を行っていく。

1 健康被害情報の収集・活用、有効性・安全性の実効性の確保

サプリメント食品を巡る現状は、①有効性・安全性について、国の審査を受けた個別許可制の特定保健用食品、②有効性・安全性の根拠に関する情報を、事業者が届け出ることで足りる機能性表示食品、③栄養成分の機能について一定の表示ができ、自己認証制度である栄養機能食品、④届出もないその他のいわゆる「健康食品」が存在するなど、多種多様なタイプのサプリメント食品が混在する状況となっている。

しかし、サプリメント食品は、基原材料の中に微量に存在する有害物質が製造等の過程において濃縮されうること又は製造等の工程において新たに有害物質が生成されうることから、有効性・安全性の実効的な確保に向けた取組が必要であり、特定保健用食品、機能性表示食品に限らず、その他のいわゆる「健康食品」を含めた全てのサプリメント食品に対する健康被害情報の収集、GMP(適正製造規範)5に基づく製造管理が必要と考えられる。

本来、保健機能食品として国の許可等を得た場合を除き、消費者に対して特定の保健上の機能が期待される食品であると表示することは原則として禁止されている。ヘルスクレームを謳うためには、少なくとも機能性表示食品として届け出てもらう必要があり、その移行がなされるような監視指導を行うための体制整備が必要である。

また、有効性・安全性の確認手段を強化するため、必要に応じ、科学的知見を有する専門家(医学や薬学等の専門家や食品安全委員会等)に意見を聴く仕組みを構築する必要がある。

並行してその監視も強化し、有効性・安全性が確認できないケースなども含め問題があると考えられる場合には、販売停止や製品回収等、消費者保護のためより踏み込んだ対応が必要である。なお、機能性表示食品を表示中心の届出制6としたまま、表示との関係性の必ずしも強くない事項についての事業者の義務を強化する方向性は、消費者にとっても事業者にとっても不透明なものとなっており、行政運営における公正の確保と透明性の向上(行政手続法第1条第1項7)を図る観点からも、法制上明確化が望まれる。

2 表示・広告規制の強化

サプリメント食品は、摂取方法によっては、リスクが高いものと考えられるが、巧みな表現や行き過ぎた広告と相まって、消費者は「(たくさん摂取しても)体によさそう」「病気の予防・治療に効果がある」等の認識に陥る可能性がある。そのため、表示・広告に対する厳しい規定が必要と考えられる。

現状、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)による優良誤認表示、有利誤認表示、不実証広告規制はあるものの、規制対象者は届出者(製造・販売事業者)に限られると考えられる。

健康増進法8(平成14年法律第103号)による誇大表示の禁止規定はあるものの、依然として、本来違法であるはずのヘルスクレームを謳うその他のいわゆる「健康食品」のサプリメント食品が氾濫していることや、「著しく」の解釈のレベルに幅があり、執行にばらつきが生じる可能性がある等により取締りが不十分となっている可能性がある。

機能性表示食品については、食品表示基準に義務的表示(第3条等)、表示禁止事項(第9条等)の規定はある9ものの、届出の撤回や機能性表示食品という表示を削除すれば規制の対象外となる。また、同基準には、広告その他の表示を規律する規定がおかれていない。従って、現行法による表示・広告規制は必ずしも十分とはいえない。

他方、薬機法の誇大広告等10に対する規制においては、規制対象が、「何人も」となっており、製造・販売事業者にとどまらず、広告代理店、アフィリエイター等も含まれる。また、違反した場合には、課徴金11が課される場合もある。サプリメント食品に対しては、消費者が、その形状と相まって、医薬品等に近い認知に陥る可能性があることに鑑み、薬機法に定めるような広告規制も参考に、表示・広告規制を強化することが必要である。

3 消費者への情報提供及び注意喚起

我が国では高齢化が進展しており、高齢者の消費生活における関心事項の1つに、健康の維持等がある。

国民生活センターが実施した調査12によれば、錠剤・カプセル状の健康食品の摂取の理由の上位5位は、「栄養補給」(24.7パーセント)、「体力、持続力の維持・向上」(12.9パーセント)、「ダイエット」(10.3パーセント)、「なんとなく体によさそう」(9.0パーセント)、「エイジングケア、老化予防」(7.9パーセント)となっており、サプリメント食品に対する消費者の期待が見て取れる。また、同調査によれば、錠剤・カプセル状の健康食品を、病気の治療・緩和のために摂取していると考えられる消費者が約20パーセントとなっており13、健康上の課題を抱えている消費者に誤った認識のもとに、摂取されている実態がある。

さらに、「おおむね摂取目安量より多めに飲む(飲んでいた)」「摂取目安量より多めに飲む(飲んでいた)ことがある」を合わせると約10パーセントとなっている。

こうした実態をも踏まえ、サプリメント食品について、①疾病の予防、治療を目的とする医薬品ではないこと、②特定の濃縮された成分を長期間摂取や過量摂取することにはリスクがある等のリスク及び懸念や、③消費者において食品の安全性の確保に関する知識と理解を深めることの重要性14等について、既に政府がホームページ等で実施している情報提供や注意喚起の取組を更に充実させると共に、消費者に確実に届き理解を深めることを念頭にした施策を講じる必要がある。

4 消費者保護の取組を規律する法制度や組織の明確化

サプリメント食品は、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、あるいは、その他のいわゆる「健康食品」等、多種多様な形で販売されている実態がある。それぞれを規定する法律に異なる部分15があることやヘルスクレームを謳う根拠規定が異なること等を背景に、有効性・安全性に疑義が生じた場合に、誰が、どのような手順で確認を行い、違反した場合にどのような行政措置があるのかがわかりにくい。

また、法令違反の可能性がある表示・広告の取り締まりについても、監視・執行体制は十分ではない。こうしたことは、消費者保護の不十分性のみならず、事業者の立場の不安定性や競争条件の不均質性を惹起する可能性がある。

我が国には、サプリメント食品に関する、健康被害情報の収集・活用、有効性・安全性の実効的な確保、表示・広告規制等についてサプリメント食品を包括的に規律するための法制度がなく、一定の監視は行われているものの、サプリメント全般への監視・執行(販売停止や製品回収等)を担う組織が明確でない。そのため、サプリメント食品を規律するための制度整備や、サプリメント食品に係る消費者保護の取組を担う組織の在り方について検討が必要である。

以上

  1. いわゆる「健康食品」のうち、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)を除いたもの。
  2. コーデックス(CODEX、食品の国際規格)では、ヘルスクレームを、食品あるいはその成分と健康の関わりを述べ、示唆し、暗示するすべての表現と定義しており、その定義も参考になる。
  3. 現行の機能性表示食品の届出等に関するガイドライン(平成27年3月30日付け消食表第141号消費者庁食品表示課長通知)において、サプリメント形状の加工食品とは、「本制度の運用上、天然由来の抽出物であって分画、精製、化学的反応等により本来天然に存在するものと成分割合が異なっているもの又は化学的合成品を原材料とする錠剤、カプセル剤、粉末剤、液剤等の形状である食品を指す」とされている。
  4. 「錠剤、カプセル剤等食品の原材料の安全性に関する自主点検及び製品設計に関する指針(ガイドライン)」及び「錠剤、カプセル剤等食品の製造管理及び品質管理(GMP)に関する指針(ガイドライン)」について(令和6年3月11日付け健生食基発0311第2号厚生労働省健康・生活衛生局食品基準審査課長通知)※本通知は、令和6年4月1日に厚生労働省から消費者庁へ移管された。
  5. Good Manufacturing Practiceの略で、原料の受け入れから最終製品の出荷に至るまでの全工程において、適正な製造管理と品質管理を求めるもの。
  6. 行政手続法(平成5年法律第88号)第37条では、届出について、「届出が届出書の記載事項に不備がないこと、届出書に必要な書類が添付されていることその他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は、当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。」と定められている。
  7. 行政手続法(目的等)
    第一条 この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。
    2(略)
  8. 健康増進法(誇大表示の禁止)
    第六十五条 何人も、食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他内閣府令で定める事項(次条第三項において「健康保持増進効果等」という。)について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。
    2(略)
  9. 食品表示法では、食品表示基準に定められた事項を表示されていない食品の販売等をした場合に、指示(第6条第1項)、命令(第6条第5項)、公表(第7条)、罰金(第20条)の規定がある。
  10. 薬機法(誇大広告等)
    第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
    2~3(略)
  11. 薬機法(課徴金納付命令)
    第七十五条の五の二 第六十六条第一項の規定に違反する行為(以下「課徴金対象行為」という。)をした者(以下「課徴金対象行為者」という。)があるときは、厚生労働大臣は、当該課徴金対象行為者に対し、課徴金対象期間に取引をした課徴金対象行為に係る医薬品等の対価の額の合計額(次条及び第七十五条の五の五第八項において「対価合計額」という。)に百分の四・五を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。
    2~4(略)
  12. 「錠剤・カプセル状の健康食品の品質等に関する実態調査」(令和元年8月1日)
    https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20190801_1.pdf
  13. 内訳は、「病院で治療していない諸症状を改善するため」(7.8パーセント)、「病院で治療中の諸症状を改善するため」(6.3パーセント)、「視力、聴力などの感覚機能、認知機能の改善のため」(6.0パーセント)。
  14. 食品安全基本法(平成15年法律第48号)
    (消費者の役割)
    第九条 消費者は、食品の安全性の確保に関する知識と理解を深めるとともに、食品の安全性の確保に関する施策について意見を表明するように努めることによって、食品の安全性の確保に積極的な役割を果たすものとする。
  15. サプリメント食品全てに食品衛生法及び食品表示法の規定がかかり、特定保健用食品はさらに健康増進法の規定が適用される。