「NTT東西の加入電話、公衆電話、ISDNの料金に係る基準料金指数の算出方法の変更案」に関する消費者委員会意見

2024年6月18日
消費者委員会

消費者委員会は、本日、公共料金等専門調査会から、本件に関する意見の報告を受けた。

消費者庁において、本意見を踏まえ、総務省とともに適切に対応することを求める。

「NTT東西の加入電話、公衆電話、ISDNの料金に係る基準料金指数の算出方法の変更案」に関する公共料金等専門調査会意見

令和6年6月10日
消費者委員会公共料金等専門調査会

消費者委員会公共料金等専門調査会は、令和6年5月22日付で、消費者庁より消費者委員会に付議を受けた「NTT東西の加入電話、公衆電話、ISDNの料金に係る基準料金指数1の算出方法の変更案」について検討した。変更案の概要は、基準料金指数の算定に必要な生産性向上見込率(以下「X値2」という。)に「0%」を採用するというものである。

なお、これを踏まえて算定された基準料金指数の設定案3は以下のとおり。

特定電気通信役務4を提供する東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社(以下「NTT東西」という。)に対して令和6年10月から適用する基準料金指数を以下のとおり設定する。

特定電気通信役務の種別

R5.10~R6.9

R6.10~R7.9

音声伝送役務5

98.0

101.1

公共料金等専門調査会では、本年5月27日に総務省からのヒアリングを実施する等、2回にわたって調査審議を行った。その結果を踏まえた当専門調査会の意見は以下のとおり。

1.結論

  • 変更案については妥当であると認められる。

2.理由

  • 基準料金指数については、NTT東西の①収入予測、②費用予測、③適正報酬額の予測及び④消費者物価指数変動率の予測等に基づき、X値を算定することにより設定される。当専門調査会では、収入面に関しては回線契約数の減少を反映した使用料等収入減、費用面に関しては人件費減・回線数減を織り込んだ費用減及び経営効率分析に則った非効率性の解消を勘案した費用減に加えて、適正報酬額の水準などについても確認を行い、その予測にはいずれも一定の合理性があると判断した。
  • X値の算定に際しては、物価上昇局面や既存の公衆交換電話網(PSTN)からIP網への移行の過渡期にあるという期間限定の特殊事情を考慮し、次期に限って、①物価上昇に伴う価格転嫁は許容しつつ、②IP網への移行に伴うコスト増については予測が難しいことから事業者負担とすること、すなわちマイナスの値が得られた場合にはX値を「ゼロ」として扱う旨の措置が採用されている。当専門調査会では、この取扱いにも一定の合理性があると判断した。
  • 以上の審議結果により、1.の結論とする。

3.留意事項

総務省及びNTT東西は、以下について留意すべきである。

(1)プライスキャップ制度について

  • 昨今の物価上昇局面に鑑みれば、国民生活に不可欠である電気通信分野において利用者料金の上昇を抑制する仕組みは引き続き必要と考えられる一方、平成17年10月以降、基準料金指数を大きく下回る形で実際の料金指数は推移している。この点、プライスキャップ規制の対象となる特定電気通信役務については、電気通信役務全体の中で、契約数、音声トラヒックの減少が続いていることに加えて、IP網への移行という大きな環境変化が進行していることを踏まえれば、今後の本制度の在り方に関して、抜本的に検討することが必要と考えられる。
  • 今回、総務省の「上限価格方式の運用に関する研究会」(以下「研究会」という。)においてX値を算定した結果、マイナスの値が算出されたものの、値上げ容認となるマイナスのX値を適用することは、経営効率化努力等による増加した利益を自己の取り分とするインセンティブ規制であるプライスキャップ制度として望ましいものではないとされている。今般、物価上昇分を除き基準料金指数の上昇は避けられたが、事業者の経営効率化を促進し、料金の低廉化を図るというインセンティブ機能を十分に果たすことも重要であるとの指摘があった。

(2)X値の算定方法について

  • X値について、過去の研究会においても採用されているミックス生産性準拠方式に基づき算定されているが、他の生産性の算定方式による検証も並行して実施する等の創意工夫を重ねて、その結果を示していくことも重要であるとの指摘があった。
  • 経営効率化分析について、従前から用いられているDEA分析を適用して支店間の相対的効率性の計測を行い費用効率化の余地を提示しているが、NTT東西の支店統合により費用データサンプル数が減少する中での計測となっていることから、結果の妥当性や解釈には注意が必要であり、複数年のデータを採取してサンプル数を増やしたり、複数のDEA手法を用いて結果の確認をするなど、支店の統合によるデータ数の減少を補う工夫によって、非効率の更なる検証を行うことも重要であるとの指摘があった。
  • X値の算定式の項目である適正報酬額について、算定方法が複雑になっているため、可能な範囲で算定根拠となるデータの開示範囲を拡大する等、算定プロセスの透明性を高め、より多くの消費者の理解促進につながる取組を行うことも重要であるとの指摘があった。

(3)消費者へのわかりやすい説明について

  • 電気通信役務の利用者料金規制の基本的枠組みについて、①基礎的電気通信役務・指定電気通信役務・特定電気通信役務の区分、②役務毎の具体的な料金規制内容、③競争事業者が提供するサービスとNTT東西が独占的に提供するサービスの区分、④プライスキャップ規制対象役務がどのようなサービスかを理解することは、消費者にとって困難と考えられる6。そのため、電気通信役務制度について、消費者へのわかりやすい説明資料を作成し、情報提供を行うべきである。
  • 今般の基準料金指数の算定方法の変更が、実際の電話料金や消費者の生活に及ぼす具体的な影響に関して、適時・適切な広報が行われているとは言い難い。そのため、電気通信技術の変化が料金に及ぼす影響などについて、消費者が理解できる情報提供を行うべきである。

以上

  1. 基準料金指数の算定方法は、電気通信事業法施行規則(昭和60年郵政省令第25号。以下「規則」という。)第19条の5第1項において、以下のとおり定められている。
    基準料金指数=前適用期間の基準料金指数×(1+消費者物価指数変動率-生産性向上見込率+外生的要因)
  2. X値=1+消費者物価指数変動率-3√(費用+適正報酬額+利益対応税額)÷収入
  3. 平成12年4月の料金水準を100とし、「消費者物価指数変動率:3.2%、生産性向上見込率(X値):0%、外生的要因:なし」として算定された。
  4. ボトルネック設備を設置する電気通信事業者(NTT東西)が、それらの設備を用いて提供するサービスであって、他の電気通信事業者による代替的なサービスが十分に提供されない電気通信役務(指定電気通信役務)のうち、利用者の利益に及ぼす影響が大きい電気通信役務。NTT東西の音声伝送役務は、電気通信事業法上、「特定電気通信役務」と位置付けられ、プライスキャップ制度による料金規制の対象となっている。上限価格は、役務種別のバスケットで基準料金指数として設定され、実際の料金指数がこれを下回る場合には個々の料金設定は届出で可能な一方、これを超える場合には総務大臣の認可が必要とされている。
  5. 規則第19条の4に定められる電気通信役務の種別。具体的にはNTT東西が提供する加入電話・ISDN(基本料、施設設置負担金、通話・通信料)、公衆電話(通話・通信料)、番号案内料。
  6. 総務省で実施された本件に関するパブリックコメントの提出件数が1件のみであったことがその証左の1つともいえる。