「定形郵便物(25グラム以下のものに限る。)及び料金上限規制の対象となる25グラム以下の信書便物の料金の上限の改定案」に関する消費者委員会意見

2024年5月7日
消費者委員会

消費者委員会は、本日、公共料金等専門調査会から、本件に関する意見の報告を受けた。

消費者庁において、本意見を踏まえ、総務省とともに適切に対応することを求める。

「定形郵便物(25グラム以下のものに限る。)及び料金上限規制の対象となる25グラム以下の信書便物の料金の上限の改定案」に関する公共料金等専門調査会意見

2024年4月22日
消費者委員会公共料金等専門調査会

消費者委員会は、2024年3月12日付で、消費者庁より「定形郵便物(25グラム以下のものに限る。)及び料金上限規制の対象となる25グラム以下の信書便物の料金の上限の改定案について」の付議を受けた。公共料金等専門調査会では、同改定案について、2024年3月15日及び4月15日に総務省及び日本郵便株式会社(以下「日本郵便」という。)へのヒアリングを実施するなど、3回にわたり調査審議を行った。これらの結果を踏まえ、上記付議についての公共料金等専門調査会の意見は以下のとおりである。

1.結論

〇定形郵便物(25グラム以下のものに限る。)(以下「定形郵便物」という。)及び料金上限規制の対象となる25グラム以下の信書便物の料金の上限料金の改定案については、利用者に小さくない負担を生じさせるものであるが、郵便法(昭和22年法律第165号)第3条及び第67条第2項第1号において定められている「郵便事業の能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むもの」であるかを確認するに当たっての基本的な考え方を踏まえると、妥当性を欠くとまでは認められない。

〇定形郵便物の料金の上限の実質的な改定は、1994年以来であり、料金上限規制の対象となる25グラム以下の信書便物の料金の上限の実質的な改定は、2003年の制度開始以降初めてである(いずれも2014年及び2019年の消費税率引上げに伴う改定を除く)。

〇なお、今回の定形郵便物の上限料金の改定幅は31パーセントと非常に大きい。そのため、総務省及び日本郵便は、消費者の理解が得られるよう丁寧な説明を行うことを求める。さらに、郵便料金に係る制度の見直し、業務効率化、サービスの向上及びユニバーサルサービス維持に向けた取組についても消費者に丁寧に説明し、値上げについての理解を得ていくよう求める。

〇また、公共料金である郵便料金の改定にあたっては、料金の適正性の確保が必要であり、法令等に基づいた適切な料金の算出を行い、料金の算定要領等は公表される必要があるが、現時点、郵便料金の設定の水準となる算定要領は存在しない。総務省は、透明性・適正性確保の観点から、郵便料金に関する算定要領について可能な限り早期に作成・公表すべきである。

〇なお、2003年の民間事業者による信書の送達に関する法律(平成14年法律第99号)施行以来、定形郵便物と同じ大きさ及び形状の信書便物の料金は、軽量の信書の送達の役務が国民生活において果たしている役割の重要性、国民の負担能力、物価その他の事情を勘案して、定形郵便物の料金と同額を上限とされてきたところであり、本改定については妥当性を欠くとまでは認められない。

〇改定案については上記の結論とするが、公共料金等専門調査会は、後記3.で指摘する留意事項の対応状況について、今後必要に応じ総務省等へのヒアリングを含めた調査審議を行っていく。

2.理由

(1)本改定案に至る経緯について

〇総務省及び日本郵便の説明によれば、定形郵便物の料金については、消費税増税に伴う改定を除き、1994年から約30年間にわたって据え置いてきたところであるが、2022年度の郵便事業の収支は、2007年の民営化以降、初めて赤字(マイナス211億円)となった。また、値上げを行わない場合、今後も赤字が継続し、2028年度にはマイナス3,439億円となる見込みである。

〇定形郵便物を含む郵便物の総数は、インターネットやSNSの普及、各種請求書等のWEB化の進展、事業者の通信費や販売促進費の削減の動き、個人間通信の減少等を背景に、内国郵便は、2001年度をピークに減少しており、2022年度までの21年間で約45パーセントの減少となっている(年平均2.8パーセント減)。

〇他方、区分作業の効率化や適正な要員配置の徹底等により人件費等の費用を削減してきたが、適正な賃金の引上げや燃料費等物価の高騰を背景に営業費用全体は増加している。

〇今後も、適正な賃上げや委託事業者への適切な価格転嫁を継続しつつ、更なるDXの推進や利便性・付加価値の高いサービスの開発・提供及びユニバーサルサービスの維持のためには、早期の郵便料金の見直しが必要な状況である。

(2)本改定案について

〇「郵便に関する料金は、郵便事業の能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むものでなければならない。」(郵便法第3条)とされ、郵便事業の中で収支のバランスを図ることが求められている。

〇また、「軽量の信書の送達の役務が国民生活において果たしている役割の重要性、国民の負担能力、物価その他の事情を勘案して総務省令で定める額を超えないものでなければならない」(郵便法第67条第2項第3号)とされている。

〇今回、定形郵便物の上限料金の改定については、総務省において、上記の考え方に沿い、適正な原価及び適正な利潤について確認を行い、また軽量の信書の送達の役務が国民生活において果たしている役割の重要性、国民の負担能力、物価その他の事情も勘案したとの説明がなされた。

〇定形郵便物の上限料金の改定については、84円から110円と26円(31.0パーセント増)の大幅な値上げ案となっている。

〇郵便事業の営業費用の内訳は75パーセントが人件費であり、労働集約的な事業形態である。2022年度の内国郵便の郵便物数は、2001年度比で約45パーセントの減少となり、他方、2022年度の郵便・物流事業従業員数は、2001年度比で約30パーセントの減少となっている。従業員は郵便と物流のいずれの事業にも従事しており、郵便と荷物の物数比率をみると、郵便の割合は2001年度の98.5パーセントから2022年度は77.9パーセントに減少し、物流事業のウエイトが上昇していることが確認された。また、人件費単価の推移は、大企業平均賃金と比較して低い水準であり、中小企業を含めた企業全体の平均賃金と概ね同水準である。

〇郵便料金見直し後の営業収益について、値上げした場合の物数への影響を確認したところ、1994年の消費税増税以外の料金改定時の影響も分析したものの、近年のデジタル化の進展により社会経済状況が当時から大きく変化していることから、2019年の消費税増税時等直近で参考となる価格弾性値を使用するに至ったとの説明がなされた。

〇また、上限料金の値上げ幅については、可能な限り抑えることとし、改定後3年間の郵便事業の黒字維持という従来の考え方を見直し、経営状況に応じて短期間に再度見直すことも念頭に、最小限の値上げ幅とするとの説明がなされた。

〇国民の負担能力や物価への影響については、家計全体でみると郵便料1が世帯全体の消費支出に占める割合は年間0.1パーセントであり、その影響は小さいとみる向きもある。ただし、これは世帯全体の平均値であり、高齢者等郵便への依存度が高い利用者もいることを鑑みれば、割合の低さのみをもって論ずるべきではないことに留意する必要がある。なお、本値上げが事業者のコスト増となり、ひいては物価全体や国民の負担にも関わってくることが考えられる点にも留意が必要である。

〇今回、定形郵便物の上限料金の改定に当たっての算定要領は作成されていないが、総務省から、①現行の方法で郵便事業を維持していくことが可能かどうか、郵便料金制度についてどのような制度改正を行っていく必要があるか考えなければならないと同時に、日本郵便においては収益力の強化を図らなければならない、②その上で、料金改定の算定方法については、制度改正の検討の行方をも前提に策定する必要があるとの説明がなされた。以上を踏まえて、郵便料金に関する算定要領については、次回の改定までに作成・公表する方向で検討するとの見解が示された。

〇以上の調査審議を踏まえ、1.の結論とする。

3.留意事項

総務省及び日本郵便は以下について留意すべきである。

(1)改定に関する消費者への丁寧な周知・説明

〇消費税増税に伴う改定を除き30年ぶりの改定となること、31パーセントの大幅な値上げとなることから、消費者が気づかないうちに料金改定になっていたということがないように、広く周知を行うべきである2。また、改定案に寄せられたパブリックコメントにも配慮した上で、料金改定の理由について丁寧な説明を行うべきである。

〇上限料金の値上げの背景のうち、特に業務効率化の取組による削減と営業費用の増加要因については、その分析結果を具体的に示す等、消費者に分かりやすく説明すべきである。

〇これまで、第一種定形郵便物(25グラム以内)と同(50グラム以内)の料金に差異があったものを今回同一料金とする理由と、いわゆる封書(第一種定形郵便物)に加え通常葉書(第二種郵便物)も値上げをする理由を含む料金改定の全体像について、消費者に丁寧に説明すべきである。

〇値上げに当たっては、郵便物の種類等ごとの収支に基づく議論等も必要と考えられる。もっとも、郵便法第67条第7項及び同項に基づく総務省令により郵便事業の収支状況の公表が義務付けられており3、毎年度公表がなされているが、消費者の理解促進の観点から、各年度間の比較や分析を行い公表することも検討すべきである。

(2)消費者の今後の負担に対する対応

〇今回の上限料金の値上げ幅は、可能な限り抑えることとしつつ、従来の考え方(料金改定後3年間の郵便事業の黒字維持)を見直し、経営状況に応じて短期間に再度見直すことも念頭に置かれていることから、今後の値上げの見通しについて、消費者に対し丁寧な説明を行うべきである。

〇国民の負担能力という観点からも、消費者が許容できる郵便料金水準はどの程度かという視点は重要である。消費者へのヒアリングを幅広く行うとともに国民のコンセンサス形成に努める等、今後の検討において十分、配慮すべきである。

(3)サービスの利便性の確保・向上

〇効率化につながるデジタル化やキャッシュレス化を進め、利便性の向上に努めるとともに、書留など窓口に出向く必要のあるサービスの在り方や、デジタル化に伴う個人情報の取扱い等セキュリティ対策に係る取組の周知も含め、消費者の利便性向上につながるサービス提供の改善について検討を行うべきである。

(4)効率化に向けた更なる取組

〇効率化に向けて、ドライバー不足に対応するため事業者間連携等既に行っていることも含め、更なる取組を行うべきである。

〇2021年10月以降土曜日配達の休止、到着までの日数の増加等サービスの低下があり、他方で、今回値上げがなされる見込みであることから消費者にとって理解が得にくい。コスト削減は営業費用の抑制に寄与するものであるが、今後、サービス水準の低下につながるような取組を行う場合は、国民生活において果たしている役割の重要性の観点から、消費者の納得感の得られる形で実施すべきである。

(5)ユニバーサルサービスの維持

〇郵便事業については、「会社は、その業務の運営に当たっては、郵便の役務、簡易な貯蓄、送金及び債権債務の決済の役務並びに簡易に利用できる生命保険の役務を利用者本位の簡便な方法により郵便局で一体的にかつあまねく全国において公平に利用できるようにする」(日本郵便株式会社法(平成17年法律第100号)第5条)という、いわゆるユニバーサルサービスの責務が課されている。

〇ユニバーサルサービスの維持に向けては、人口減少やデジタル化の進展等社会経済環境の変化や、郵便事業の中でその収支のバランスを図ることの持続可能性、消費者利益の擁護・増進の観点を踏まえ、諸外国の事例も参考にしつつ検討を行うべきである。その際、全ての消費者がデジタル機器を容易に活用できる状況に至っていないことには留意が必要である。また、特に地方において、郵便事業及び郵便局は、郵便物の配達だけではなく、地域のコミュニティの場であり地域をつなぐ可視化しにくい価値も有する重要な存在となっているという観点も十分に踏まえるべきである。

(6)その他

〇定形郵便物の料金の上限について、「経営状況に応じて短期間に再度見直すことも念頭に」との説明があったが、郵便料金制度に係る制度改正を理由とした算定要領作成の遅延によって、算定要領に基づかない再度の値上げはあってはならないことである。本来は算定要領に基づいた、より丁寧な分析が望まれるところであり、透明性・適正性を確保することに加え、消費者からの理解を得るためにも可能な限り算定要領の作成を急ぐべきである。

〇今後の上限料金の改定に係る検討に向けては、郵便料金に係る制度の見直し等と併せて、ユニバーサルサービスの維持の観点から日本郵政グループ全体の状況4についても消費者に分かりやすく説明すべきである。

以上

  1. 第80回公共料金等専門調査会(2024年3月15日開催)総務省説明資料。総務省統計局家計調査の「郵便料」。「郵便料」には、ゆうパック、ゆうメール等の郵便局で取り扱う荷物も含む。
  2. 値上げ時期等の十分な周知に加え、可能な範囲で国民生活に混乱を与えない時期における値上げの実施(例えば、教育機関の受験時期を避ける等)も重要な観点である。
  3. ○郵便法(昭和22年法律第165号)
    (料金)
    第六十七条 (略)
    2~6 (略)
    7 会社は、総務省令で定めるところにより、郵便事業の収支の状況を総務大臣に報告するとともに、公表しなければならない。
    ○郵便法施行規則(平成15年総務省令第5号)
    (収支状況の報告及び公表)
    第二十七条 (略)
    2 前項の規定により報告する営業収益及び営業費用は、別記様式第五に掲げる方法によるほか、適正な方法によりそれぞれの郵便物の種類等(内国郵便業務(国内のみにおいて引受け及び配達を行う郵便物に係る郵便の役務を提供する業務をいう。別記様式第五において同じ。)にあっては法第十四条に規定する郵便物の種類並びに法第四十四条第一項及び第二項に規定する特殊取扱をいい、国際郵便業務(外国に宛て、又は外国から発する郵便物に係る郵便の役務を提供する業務をいう。別記様式第五において同じ。)にあっては万国郵便条約第一条に規定する通常郵便物、小包郵便物及びEMS郵便物をいう。別記様式第五において同じ。)に整理しなければならない。この場合において、当該方法によって整理することが著しく困難なときは、その全部を主たる関連を有する郵便物の種類等に整理することができる。 3~4(略)
    5 法第六十七条第七項の規定による郵便事業の収支の状況の公表は、第一項の報告をした後、遅滞なく、当該報告の内容を記載した書類を会社の主たる営業所及び事務所に備え、又は当該報告の内容を会社の主たる営業所及び事務所に備え置く電子計算機その他の機器の映像面に必要に応じ直ちに表示させて一般の閲覧に供する方法により行うほか、官報への掲載、インターネットの利用その他の適切な方法により行うものとする。
    6 前項の規定による公表の期間は、当該公表に係る事業年度の翌事業年度の公表を行うまでの間とする。
  4. 例えば、郵政事業のユニバーサルサービスの提供者が郵便局ネットワークを支える観点から、郵便局ネットワーク維持の支援のための交付金・拠出金制度が2019年に創設されている。