いわゆる「販売預託商法」に関する消費者問題についての建議

2019年8月30日
消費者委員会

 

我が国では、物品・権利(以下「物品等」という。)を販売すると同時に、当該物品等を預かり、自ら運用する、又は第三者(ユーザー)に貸し出す等の事業を行うなどして、配当等により消費者に利益を還元したり、契約期間の満了時に物品等を一定の価格で買い取る取引が行われているが、こうしたいわゆる「販売預託商法」を悪用し、多数の消費者に深刻な被害をもたらす事案が繰り返し発生している。

悪質な「販売預託商法」は、高い利率による利益還元や物品等の販売価格相当額での買取り(実質的な元本保証)をうたい、高齢者をはじめとする消費者から多額の金銭の拠出を募るが、実際には物品等やそれを運用する事業は存在せず、消費者から拠出された金銭を別の消費者の配当に充て、最終的には破綻するという詐欺的な商法である。

悪質な「販売預託商法」から消費者を適切に保護する仕組みが必要であるが、現行の特定商品等の預託等取引契約に関する法律(昭和61年法律第62号。以下「預託法」という。)では、必ずしも被害の発生を防ぐことができておらず、むしろ法制定当時から一部で指摘されていた懸念(預託法の限界)が表面化しているとも見られる。また、悪質な「販売預託商法」は、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)における、いわゆる「集団投資スキーム」(金融商品取引法第2条第2項第5号)に係る規制の潜脱行為であるとの見方があり得るほか、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(昭和29年法律第195号。以下「出資法」という。)における「出資金」(出資法第1条)や「預り金」(同法第2条)、刑法(明治40年法律第45号)の詐欺罪(刑法第246条)に該当する可能性もあるが、甚大な被害が繰り返し発生していることからすれば、これら現行の法律による対処には限界があるとも見られる。

こうした悪質な「販売預託商法」による消費者被害の発生・拡大防止及び被害回復を図るべく、当委員会は、消費者庁及び消費者委員会設置法(平成21年法律第48号)に基づき、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)、国家公安委員会委員長に対し、次のとおり建議する。また、本建議への対応について、大臣及び委員長に対し、令和2年2月までにその実施状況の報告を求める。

第1 いわゆる「販売預託商法」に係る法制度・法執行の在り方についての検討

(建議事項1)

消費者庁は、物品等の販売から始まる預託取引において深刻な消費者被害が生じていることに鑑み、物品等の販売から始まる預託取引、及びこれと類似の商法に係る法制度の在り方や、体制強化を含む法執行の在り方について検討を行うこと。

(理由)

  1.  預託法で規定する預託等取引契約は、
    マル1 3か月以上の期間、対象の物品を預かること、又は対象の施設利用権を管理すること
    マル2 a 当該預託もしくは施設管理に関し財産上の利益を供与すること、又は、
      b 3か月以上の期間経過後一定の価格で買い取ること
    を約する取引である(預託法第2条第1項。以下「預託取引」という)。
  2.  すなわち、預託取引は、事業者が消費者から物品等を預かり、消費者にその対価を支払う、又は将来その物品等を一定の価格で買い取るというものであり、この取引形態自体は何ら反社会的なものではない。
  3.  もっとも、我が国では、物品等の販売と、こうした預託取引を組み合わせて、事業者が消費者に物品等を販売すると同時に、当該物品等を預かり、自ら運用する、又は第三者(ユーザー)に貸し出す事業を行うなどして、配当等により消費者に利益を還元したり、契約期間の満了時に物品等を一定の価格で買い取る取引が行われている。
  4.  過去、こうしたいわゆる「販売預託商法」を悪用し、多数の消費者に深刻な被害をもたらす事案が繰り返し発生している。
  5.  豊田商事事件、安愚楽牧場事件、ジャパンライフ事件に代表される悪質な「販売預託商法」は、高い利率による利益還元や物品等の販売価格相当額での買取り(実質的な元本保証)をうたい、高齢者をはじめとする消費者から多額の金銭の拠出を募るが、実際には物品等やそれを運用する事業は存在せず、消費者から拠出された金銭を別の消費者の配当に充て、最終的には破綻するというものである。
  6.  こうした悪質な「販売預託商法」は、マル1物品等を販売すると同時に預かると説明しつつ、実際には物品等が存在しない、マル2当該物品等を運用する事業の実態がなく、早晩破綻することが明らかであるにもかかわらず、高い利率による利益還元が受けられる、あるいは販売価格と同額での買取りにより元本を保証すると説明して取引に誘引する点で、消費者を二重に欺いており、極めて悪質である。
  7.  それにもかかわらず、契約締結時には、高い利率による利益還元や、物品等の販売価格相当額での買取り(実質的な元本保証)が約束されるため、消費者は、小さいリスクで高い利益還元を確実に受けることができるものと誤信し、取引に引き込まれやすい。
  8.  また、出資者には、他の出資者が拠出した金銭を原資に配当が支払われ、表面上はスキームが正常に機能しているように見えるため、被害に気付きにくい。しかし、実際には、消費者から拠出された金銭を別の消費者の配当に充てており、消費者から拠出される金銭が途絶えること等により、最終的には破綻する仕組みである。こうした仕組みが最終的に破綻することは、過去の事案から経験的にも明らかであり、最終的な破綻を念頭に置く仕組みは、無限連鎖講の防止に関する法律(昭和53年法律第101号)で禁止されている無限連鎖講と同種のものである。
  9.  「販売預託商法」を規制するために、通商産業省産業構造審議会(流通部会・消費経済部会)における審議を経て、昭和61年に預託法が制定された。
  10.  しかしながら、現在の預託法は、結果的に預託取引一般を規律する法律として制定されたため、「販売預託商法」では物品等を販売することから取引が始まる観点は考慮されていない。また、当時は産業の発展や、「賢い消費者」を育成する観点が優先され、担当部局の人員の制約等の行政コストにも配慮したことなどから、参入規制は設けず、契約内容をできる限り明らかにするディスクローズを中心とした行為規制が置かれている。さらに、預託法では、適用の対象となる物品等を限定する、いわゆる「指定商品制」が導入されており(預託法第2条第1項第1号、第2号)、政令で指定されていない物品等については、法律の適用がない。
     こうした規制では、悪質な「販売預託商法」による被害を防ぐことは困難であるとの懸念が制定当初から一部で指摘されていたが、預託法の制定後も同様の手口による大規模な消費者被害が繰り返し発生しており、現時点で、預託法の限界が表面化している状況にあるとも見られる。
  11.  悪質な「販売預託商法」では、物品等が存在しないため、実質的には事業者が「金銭」の「出資」を受け、配当を行っているに過ぎない。そのため、金融商品取引法における、いわゆる「集団投資スキーム」(金融商品取引法第2条第2項第5号)に係る規制の潜脱行為であるとの見方があり得るほか、出資法における「出資金」(出資法第1条)、「預り金」(同法第2条)に該当する可能性があるともいえる。
  12.  金融商品取引法は、国民経済の健全な発展、投資者の保護等を目的として、「金銭」の「出資」を一定のルールに基づき規制するものである。他方で、悪質な「販売預託商法」では、物品等を販売すると同時に預かり、自ら運用する、又は第三者に貸し出すなどとしながら、実際には物品等が存在せず、実質的には事業者が「金銭」の「出資」を受け、配当を行っているに過ぎないような場合においても、形式的には物品等が介在していることから、金融商品取引法の集団投資スキームに係る規制には必ずしも馴染まない。
     出資法は、金融秩序の維持、一般国民の財産の保護等を目的として、元本を保証して行われる金銭の出資等を一定のルールに基づき規制するものである。そして、個別事案では、「販売預託商法」において、形式的には物品等が介在していても、事業者が元本を保証して金銭の出資を受け入れている場合に、実際に出資法が適用されている事案も見られる状況である。他方、同様の事案でも、元本保証をしていないこと等により、出資法の要件に当たらない場合もあると考えられる。
  13.  悪質な「販売預託商法」は、刑法の詐欺罪(刑法第246条)に該当する可能性もあり、実際に詐欺罪が適用されている事案も見られる。
  14.  もっとも、詐欺罪の成立には、欺罔行為やそれに基づく被害者個人の錯誤、事業者の故意といった構成要件を充足する必要があるが、特に初期の段階では、その立証が必ずしも容易ではない。過去の事案においても、事業者の経営が破綻し、新たに顧客から金銭を受け入れても約定どおりの物品等の償還及び配当の支払ができる見込みがないにもかかわらず、そのことを秘匿したうえ、儲かるなどと勧誘を行ったことをもって詐欺罪の構成要件該当性を認める例が多く、詐欺罪による対処にも限界があるとの見方もある。
  15.  こうした悪質な「販売預託商法」については、消費者庁が、現行の預託法や特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)に基づく行政処分を繰り返し行うことで対処してきたが、同種の被害が発生している状況に鑑みれば、当委員会としては、悪質な「販売預託商法」による被害を根絶するために、物品等の販売から始まる預託取引、及びこれと類似の商法に係る法制度の在り方や、体制強化を含む法執行の在り方について検討を行うことが急務であると考える。

以上を踏まえ、消費者庁は、上記建議事項1に基づく措置を講ずべきである。

第2 悪質な「販売預託商法」事犯に対する執行強化

(建議事項2)

警察庁は、悪質な「販売預託商法」事犯に対し、建議事項1に基づく措置状況も踏まえつつ、引き続き、積極的な取締りを推進すること。その際、警察庁及び消費者庁は、相互に連携の強化を図るとともに、各都道府県警察と各都道府県における消費者行政部局との一層の連携の強化を推奨すること。

(理由)

  1.  悪質な「販売預託商法」事犯に係る被害総額は、豊田商事事件で約2,000億円、安愚楽牧場事件で約4,200億円、ジャパンライフ事件で約2,000 億円に上るといわれる。近時、振り込め詐欺等の特殊詐欺による被害が数多く発生し、捜査当局により積極的な取締りが行われているが、悪質な「販売預託商法」事犯による被害は、特殊詐欺による被害にも比肩し得るほどの規模である。
  2.  警察庁では、豊田商事事件を契機として生活経済課が発足し、これに伴い、都道府県警察本部においても、大規模なところでは、生活経済課が設置されるなどして、悪質な「販売預託商法」事犯を含む生活経済事犯に対する取締りを行っている。
  3.  こうした悪質な「販売預託商法」事犯に対し、警察庁及び各都道府県警察において、引き続き積極的な取締りを推進するとともに、警察庁と消費者庁、及び各都道府県警察と各都道府県における消費者行政部局が一層の連携強化を図ることが重要である。

以上を踏まえ、警察庁及び消費者庁は、上記建議事項2に基づく措置を講ずべきである。

第3 消費者への情報提供及び消費者教育

(建議事項3)

消費者庁は、警察庁、国民生活センターその他の関係団体の協力を得て、「販売預託商法」の仕組みや内在するリスク、悪質な「販売預託商法」を行う事業者の勧誘の手口等に関する情報を提供すること、消費者教育を実施すること等により、消費者への注意喚起を積極的に推進すること。

(理由)

  1.  「販売預託商法」は投資性のある取引であるが、物品等を念頭に置いて説明されるため、消費者が安全性の高い取引であると思い込みやすい。また、悪質な「販売預託商法」では、契約上、高い利率での利益還元や、最終的に物品等の販売価格相当額での買取り(実質的な元本保証)が約束されるため、消費者は小さいリスクで高い利益還元を確実に受けることができるものと誤信しやすい。
  2.  そのため、悪質な「販売預託商法」による消費者被害の発生・拡大を防止するためには、消費者に対し、当該取引の仕組みや内在するリスク1を適正に評価し、判断するために十分な情報が提供されなければならない。
  3.  とりわけ高齢者は、一般的に、若年者に比べて判断能力が低下していくものであり、特にこうした高齢者等の社会的弱者における被害の発生・拡大防止に向けて、適切な情報提供、消費者教育を行うことが求められる。
  4.  こうした観点からも、消費者庁は、「販売預託商法」の仕組みや内在するリスク、さらには悪質な「販売預託商法」を行う事業者の勧誘の手口等に関する情報提供、消費者教育を実施すること等により、消費者への注意喚起を積極的に推進すべきである。
  5.  その際、消費者庁は、警察庁、国民生活センターに加え、地方公共団体や高齢者の見守りを行う関係団体、さらには報道機関等から適切な協力を得て、効果的・継続的な情報提供、消費者教育の実施に努めるべきである。

以上を踏まえ、消費者庁は、上記建議事項3に基づく措置を講ずべきである。

以上

  1. 例えば、「販売預託商法」は投資性のある取引であること、どのような場合でも元本の返還が保証されるものではないこと、事業者の債務不履行や倒産により損をするリスクがあること等が挙げられる。